理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ポスター
  • 大嶺 俊充, 愛洲 純, 西上 智彦
    セッションID: 0551
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】当院では腰椎椎間板ヘルニア(以下LDH)に対して,MicroEndoscopic Discectomy(以下MED)を施行している。MED術後において,原因部位の処置は適切に行われているにも関わらず疼痛が残存し慢性疼痛へ移行する症例が存在する。様々な疾患の術後においても,慢性疼痛の発生と術前の不安や抑うつが関係しているとされる報告が散見される。今後,術前での患者教育を行うことで,不安や抑うつが軽減し,術後の慢性疼痛への移行を予防できないかと考えた。しかし,不安や抑うつは生活障害と関連している報告されているが,どのような日常生活動作が不安や抑うつに関与しているかは明らかでない。不安や抑うつと特定の生活障害の関係が明らかになれば,術前においてアプローチする問題が明確になる。そこで,本研究の目的は,LDH術前患者においてどの生活障害が不安や抑うつと関連があるか検討することである。【方法】対象はLDHによりMED施行予定の患者54名(男性42名 女性12名 平均年齢46.4±18.6歳)であった。なお重篤な合併症,同部位の再発や他部位で腰椎の手術歴のある症例は除外した。また,全症例手術前日に調査を実施し,全症例翌日に手術を施行されている。調査項目は,術前の安静時,運動時の疼痛の強さをNumeric Rating Scale(以下安静時-NRS,運動時-NRS),不安と抑うつをHospital Anxiety and Depression scale(以下HADS),腰痛における生活障害をOswestry disability index(以下ODI)で評価した。安静時-NRS,運動時-NRS,ODIの総合スコアとHADSの関連性をスピアマンの相関係数で検討した。その後,ODIの各項目(疼痛の強さ,性生活を抜いた8項目)を用いて主成分分析を行った。なおスピアマンの相関係数については危険率5%未満とした。主成分分析は累積寄与率が70%を超えるまでの成分,また固有値1以上のものを抽出した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の目的等に関しては,当院倫理委員会の承認を得た。その後,対象者に研究目的・方法,個人情報の保護,調査結果による加療への不利益がないことを十分に説明し,同意を得て実施した。【結果】安静時-NRS,運動時-NRSとHADSとの優位な相関はなかった。ODIとHADSとは優位な正の相関(r=0.43)が認められた。主成分分析において,第1主成分は寄与率67.4%,第2主成分は寄与率9.1%であった。第1主成分はODIの総得点に対する影響度である。第2主成分から,主成分負荷量の高いものとして,睡眠(0.58),座ること(-0.38),乗り物での移動(-0.33)であった。【考察】先行文献においても,痛みの強さと不安と抑うつの関連性は低いと指摘されており,本研究でも同様の結果であった。一方,ODIで示される生活障害と不安と抑うつに関連性があることが示された。主成分分析の結果,LDH術前患者は,睡眠に障害が強いパターンと,座位姿勢に障害が強いパターンに分類された。つまり,LDH術前においては生活障害の中でも特に睡眠困難,座位姿勢保持困難の2つが,不安と抑うつとの関連性が高いことが示唆された。座位姿勢保持については,LDH患者にとっては椎間板内圧上昇に伴い,髄核の後方突出による下肢痛増強姿勢であることは一般的である。睡眠に関しては,抑うつ状態から起こる睡眠障害の可能性がある一方,臥位姿勢や寝返り動作によって下肢痛が増強することが,睡眠困難を引き起こす要因となることが予測される。患者は,上記2動作が術前で困難であること,更には術後に疼痛なく行うことができるのかということに不安を抱いていると考えられる。今回の研究結果よりLDH術前では,上記2つの日常生活動作に対して術前,術後の患者教育を実施することで,不安や抑うつを軽減できる可能性があると考える。【理学療法研究としての意義】LDH術前患者の不安と抑うつには,座位姿勢保持と睡眠の障害が関連していることが示唆された点。
  • ―ハンドヘルドダイナモメーターとトルクマシンを使用して―
    坂東 峰鳴, 太田 恵介, 瓜谷 大輔, 福本 貴彦
    セッションID: 0552
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】股関節内外旋筋力に関しては臨床上有用な評価指標は確立されておらず,簡便な評価方法の確立が必要である。筋力評価の機器としてはトルクマシンの信頼性・妥当性が報告されているが,臨床においてはハンドヘルドダイナモメータ(以下,HHD)が実用的である。しかし股関節内外旋筋力に関して両者の関係については検討されていない。そこで本研究の目的は,トルクマシンとHHDで測定した股関節内外旋トルクの関係を明らかにすることとした。【方法】対象は下肢に重篤な整形外科的疾患の既往のない健常者38名(男性20名,女性18名,平均年齢22.3±1.5歳)とした。測定項目は最大等尺性収縮での股関節内外旋トルクとした。測定にはトルクマシン(system3 BIODEX社)とハンドヘルドダイナモメーター(以下,HHD)(μ-tas F-100 アニマ社)を使用した。測定肢位はトルクマシンのバックレストを最大に倒した背臥位で,股関節屈伸・内外旋中間位,膝関節90°屈曲位とした。HHDでの測定もトルクマシンのシート上で行った。測定時は体幹,骨盤,大腿部をベルトで固定し,両上肢は座面両端の手すりを把持させた。測定は5秒間行い,測定間には1分間の休息を行った。HHDでの測定はベルト固定法で行い,下腿と固定柱は平行に,それらと固定ベルトは垂直になるよう設定した。パッドの高さは,いずれの機器も内外旋ともに内果の直上とした。トルクマシンとHHDの計測は別日とし,測定順序はランダムとした。測定は左右それぞれ3回ずつ測定し,予備的解析で男女ともすべての項目で左右差がないことが確認されたため,右側での測定値を解析対象とした。統計解析は内外旋トルクを体重で除した値(以下,トルク体重比)に換算し,男女別,運動方向別でt検定,ピアソンの相関係数によって測定方法間の比較検討を行った。統計ソフトはIBM SPSS statistics version20を使用した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】測定にあたり被験者本人に対して本研究の主旨を説明し,同意を得た上で実施した。【結果】測定方法ごとの男女別のトルク体重比の平均値(標準誤差)は,男性の外旋でトルクマシン0.83(0.04)Nm/kg,HHD0.71(0.04)Nm/kg,内旋でトルクマシン0.52(0.04)Nm/kg,HHD0.45(0.04)Nm/kgであった。女性は外旋でトルクマシン0.55(0.03)Nm/kg,HHD0.49(0.03)Nm/kg,内旋でトルクマシン0.52(0.03)Nm/kg,HHD0.42(0.02)Nm/kgであった。トルク体重比の値は全ての項目で測定方法間での有意差を認めた。測定方法間の相関係数は,男性の外旋はr=0.90,内旋はr=0.85であり,女性の背臥位での外旋はr=0.79,内旋はr=0.75であり,全て有意に強い相関が見られた。【考察】HHDとトルクマシンで測定し,算出したトルク体重比は,標準誤差が低く,値を比較すると全ての値でトルクマシンがHHDを上回り,有意差が見られた。また男女とも,内外旋どちらも有意に強い相関が見られた。一般的にベルト固定法におけるHHDとトルクマシンの値の比較では信頼性・妥当性は高いとされている。しかし本研究では,測定方法間のトルク値に強い関係性はみられるが,同時に相違も認められた。奈良らは,膝関節における研究でHHDとトルクマシンの値の間に生じる誤差は,機器の精度,入力部の押し付け方,測定単位換算などの影響によるものであると報告している。本研究での測定方法間の相違が認められた理由として,これらに加え,測定方法による入力部の大きさの違い,測定方法間のモーメントアーム値の誤差が考えられる。また本研究での股関節内外旋力測定方法は膝関節を介すため,膝関節の屈伸による代償運動が起こりやすくその影響も考えられる。今後は,より信頼性・妥当性の高いデータを得られるよう,測定前のオリエンテーションを徹底することはもとより,代償運動を生じないような方法論の確立が必要である。以上のことより,今後さらに精度を高めることで,臨床的に有用なHHDにおける内外旋筋力の測定を確立させることが出来る可能性があると考えた。また今回は20歳代のみを対象被験者としているため,年齢を考慮した基準値の確立も必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】股関節の内外旋筋力を臨床で簡易に測定できる方法によって確立することは,股関節疾患患者の機能評価や治療の効果判定などにおいて臨床上非常に有用なものとなると考える。しかし現在そのような評価指標は存在しないため,臨床で簡便に使用できるHHDで股関節の内外旋筋力の測定を行えるようになれば,股関節疾患患者の理学療法評価や治療効果判定に有用な指標を提供できるものと考える。
  • 久場 美鈴, 諸見里 恵一, 下里 綱, 新里 光
    セッションID: 0553
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】大腿骨近位部骨折に対する理学療法の実践において,全身状態の管理は重要であり,血液データは全身状態を把握するうえでの指標となる。血液データは栄養状態の指標となり栄養状態が不良な場合,歩行能力に影響を及ぼす報告も散見されている。本研究の目的は,大腿骨近位部骨折術後の歩行能力低下は術前情報から予測可能であるか否かについて,併存疾患などを含む術前情報と術前血液データに着目し,退院時の歩行能力低下に与える因子について検討することである。【方法】2009年4月から2012年3月に大腿骨近位部骨折に対し手術を施行された103名(女性78例,男性25例),在宅生活中に受傷し,受傷前に室内・外歩行自立していた症例を対象とした。退院時に受傷前歩行を維持した群(以下,維持群:61例,在院日数43±15日)と歩行が低下した群(以下,低下群:42例,在院日数54±20日)に分け比較検討した。維持群と低下群の分類方法は,退院時に室内・外歩行自立していた群を維持群とし,退院時に室内歩行介助を要した群や車椅子移動となった群を低下群とした。診療記録から術前情報として年齢,併存疾患の数(糖尿病,高血圧,脳血管疾患,骨関節疾患,心疾患,呼吸器疾患,腎疾患,肝疾患),Body Mass Index(以下,BMI),術前血液データ(Hb,Alb,CRP,eGFR),認知症の有無を調査した。統計学的処理には二群間(維持群/低下群)の比較でstudent-t検定を行い,歩行能力項目(維持群/低下群)を従属変数として,2群間で統計的な有意差を認めた年齢,認知症,併存疾患,Hb,eGFR,BMI,CRPを独立変数としたロジスティック回帰分析を実施,年齢,併存疾患とeGFRの関係についてSpearmanの順位相関係数の検定を実施し,有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究を行うにあたり,個人情報の取り扱いは当院の規定に従った。【結果】2群間の比較では(維持群vs低下群),年齢(維持群78±7歳vs低下群87±7歳 P<0.01),併存疾患(維持群1±1vs低下群3±1P<0.01),BMI(維持群23±5kg/m2vs低下群21±4 kg/m2 P<0.05),Hb(維持群男性13±1g/dl・女性12±1g/dlvs低下群男性11±2 g/dl・女性11±2g/dl P<0.05),CRP(維持群1±2mg/dlvs低下群3±3 mg/dl P<0.05),eGFR(維持群64±17mL/分/1.73m2vs低下群55±20 mL/分/1.73m2 P<0.05),認知症(有/無)は(維持群13/48人vs低下群29/13人 P<0.01)と有意差を認めた。Alb(維持群4±0.3g/dlvs低下群4±0.3g/dl P=0.064)は有意差を認めなかった。ロジステック回帰分析の結果,併存疾患(OR=2.041 P<0.01),年齢(OR=1.144 P<0.01),認知症(OR=0.277  P<0.05)が歩行維持に有意な因子として検出された。半別的中率は79%であった。Spearmanの順位相関係数の結果,年齢とeGFR(相関係数-0.26 P<0.01),併存疾患とeGFR(相関係数-0.33  P<0.01)では有意に負の相関関係を認めた。【考察】術前の情報収集において併存疾患数増加,高年齢,認知症有無,BMI低値,Hb低値,eGFR低値,CRP上昇が存在すれば歩行能力低下する可能性が高いということが示唆された。BMI・Hb・eGFR低下は受傷前より食生活の歪みや運動習慣がなかった可能性があることから,歩行獲得に影響を及ぼしたと考えられる。腎機能は加齢に伴い低下し貧血などの合併によって酸素運搬能力の低下に加え,運動耐容能低下,骨格筋変性,身体不活動に起因する筋力低下などに影響があることが報告されている。今回の調査からロジスティック回帰分析で有意な関連を認めた年齢,併存疾患はeGFRと有意な単相関を示しており,併存疾患,年齢,eGFRの関連因子は歩行の予後予測ができることが示唆された。歩行低下した群に対して運動の効果を効率良いものとするためには,他職種との連携による栄養状態の管理,身体活動量の維持・向上を図り,廃用を予防していく必要があると考える。今後の展望として理学療法士として予防医療に目をむけ,疾病を予防していく活動を行っていく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】大腿骨近位部骨折術後において,歩行低下した群では併存疾患,年齢,認知症が関係しており,さらに,BMI,Hb,eGFR低下,CRP上昇が関与していることが示唆された。術後のリハビリテーションを進めていく中で,併存疾患,年齢,認知症の情報や血液データが予後予測の1つの指標となり得ることが考えられる。効果的な理学療法を実践していく上では,医師や看護師,管理栄養士と連携し術後の血液データの経過を追いながら,栄養状態の評価,介入などの取り組みが必要であると考える。大腿骨近位部骨折における歩行予後の検討は理学療法を進めていくうえで意義深いものと考える。
  • ―術後1週,2週歩行能力からの予測とその要因についての検討―
    白井 智裕, 清水 菜穂, 加藤木 丈英, 竹内 幸子, 久保 絵理, 加藤 宗規
    セッションID: 0554
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】大腿骨近位部骨折手術後患者の歩行予後に影響を与える因子については多くの研究がされており,年齢,認知症,受傷前歩行能力,疼痛など様々な因子が報告されている。その因子の1つとして術後早期の歩行能力があり,早期の歩行獲得は予後が良好と一般にいわれている。しかしその方法は,歩行可否やカットオフ値を基準としたもの,また対象を限定したものが多く,術後理学療法を行った全症例を能力別に分け予後を検討したものは少ない。そこで本研究は,当院の大腿骨近位部骨折手術後患者の早期歩行能力と予後との関係を術後1週,2週で能力別に分けて検討し,術後1週歩行能力ではその要因を検討することを目的とした。【方法】対象は2011年4月から2013年1月に当院で大腿骨近位部骨折の手術後,理学療法を行った患者117名とした。平均年齢は79.9歳(39-98歳),男性23名,女性94名,術後在院日数は平均42.6日であった。術式はPFNA44名,PFNA Long1名,人工骨頭置換術34名,ハンソンピン25名,DHS12名,THA1名であった。除外基準は何らかの理由で手術後免荷期間が生じた者,理学療法が中止になった者とした。方法は,歩行能力を平行棒以下,歩行器,杖歩行以上(杖以上)の3群に分け,術後1週,2週の歩行能力から,退院時に杖以上の歩行獲得者の到達確率を人数より算出した。さらに退院時に杖以上の到達確率が高い術後1週において,1週時歩行能力が平行棒以下であった62名(男性13名,女性49名,平均年齢83.8歳)と,歩行器以上であった55名(男性10名,女性45名,平均年齢75.6歳)の2群に分け,性別,年齢,BMI,血清アルブミン値(Alb),骨折型,認知症,手術までの日数,術後在院日数,受傷前Barthel Index(BI)を比較検討した。そして有意差を認めた因子を独立変数,術後1週歩行能力が歩行器以上,平行棒以下を従属変数としたロジスティック回帰分析を行った。統計学的検討として,2群の比較にはt検定,Mann-WhitneyのU検定,χ2検定を行い,有意水準は5%とした。【説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき対象者全員に本研究の主旨を説明し,同意を得た。【結果】到達確率は,1週時平行棒以下の方は退院時杖以上獲得者が24%であったが,1週時歩行器の方は退院時に87%,杖以上では100%杖以上を獲得した。一方,2週時杖以上では退院時杖以上獲得者が100%であったが,2週時平行棒以下では退院時杖以上獲得者が17%,歩行器の方は退院時杖以上が59%と高い確率の群はなかった。そして1週時歩行能力を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,有意な因子として認知症(p=0.004,オッズ比4.401)が採択された。【考察】今回,術後早期の歩行能力を因子として歩行予後を検討した結果,術後1週に歩行器以上の能力があると,退院時(約40日後)に87%が杖以上を獲得した。これは除外対象以外全症例を対象にした点,術後2週の検討では高い確率の群がないことから,術後1週の歩行能力を総合的なパフォーマンス能力として指標にすることにより,臨床において高い精度の予後予測が可能と考えられる。一方,術後1週の歩行能力に影響を与える要因として認知症が選択された。認知症は多くの研究にて歩行の再獲得を阻害する,とされており,今回も術後1週で歩行器を獲得する際に影響し,予後予測をする上で考慮する必要性が考えられた。よって,大腿骨近位部骨折手術後患者の歩行予後予測は,術後1週の歩行能力が歩行器以上であると高い確率で杖以上を獲得され,その歩行能力には認知症が影響することが示された。しかしながら,術後1週の歩行能力が平行棒以下の群では高い確率の群はなく,この能力群では今後さらに他因子も考慮した検討が必要と考えられる。以上より,大腿骨近位部骨折手術後患者の歩行予後予測について術後早期歩行能力を用い検討した結果,術後1週歩行能力が有用な指標となることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究では,大腿骨近位部骨折手術後患者の歩行予後予測を術後早期の歩行能力に着目し,一定の見解を得た。今後他因子にも着目し研究を継続する事で,臨床での有効な指標の1つになると考える。
  • 深谷 大輔
    セッションID: 0555
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】当院は急性期病院であり,2011年度より大腿骨頸部骨折地域連携パス(以下パス)を導入し現在まで運用しているが,パス導入が及ぼす影響については明確ではない。そこで,パス導入前の1年間と導入後の2年間を比較し,パス導入による転帰・在院日数・Functional Independence Measure(以下FIM)の変化を検討した。【方法】対象は大腿骨頸部骨折にて当院に入院した患者で,2010年度38名(男性11名,女性27名),2011年度43名(同10名,33名),2012年度56名(同14名,42名)である。転帰,年齢,在院日数,退院時FIM,退院時FIMからリハビリテーション(以下リハ)開始時FIMを減じリハ実施期間で除した値(以下FIM改善効率)を各年度間で比較した。次に,転帰別に年齢,在院日数,退院時FIM,FIM改善効率を各年度間で比較した。転帰の比較にはχ2独立性の検定を,それ以外の比較にはSheffe法を用いた。統計ソフトはStatcelを使用し,有意水準を5%とした。【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に従い,データは匿名化しプライバシーの保護に留意した。【結果】各項目について2010年度/2011年度/2012年度の順に示す。転帰は自宅退院13/12/19人,回復期病院への転院16/21/19人,療養型病院へ転院および施設入所8/6/16人,死亡退院1/4/2人であり,年度間で有意差は認められなかった。年齢は79.9±11.0/78.9±13.0/82.5±9.6歳,在院日数は31.3±11.8/40.7±31.0/37.8±15.2日,退院時FIMは83.1±29.9/75.1±31.7/70.0±32.8点,FIM改善効率は0.8±0.8/0.6±0.9/0.6±0.6点/日であり,いずれも年度間で有意差は認められなかった。次に転帰別での比較である。自宅退院では,年齢は74.1±13.2/69.9±14.8/78.4±11.0歳,在院日数は28.4±14.1/30.3±15.8/34.8±13.5日,退院時FIMは92.4±33.9/106.6±14.6/96.6±26.3点,FIM改善効率は1.5±1.4/1.5±0.8/1.2±0.9点/日であり,いずれも年度間で有意差は認められなかった。回復期病院への転院では,年齢は80.7±5.4/81.8±11.0/82.8±7.8歳,在院日数は37.1±8.1/39.4±11.1/45.6±10.1日であり,いずれも年度間で有意差は認められなかった。退院時FIMは94.9±11.7/77.8±16.9/70.4±22.4点であり,2010年度と2011年度(p=0.021)および2010年度と2012年度(p<0.001)の間でいずれも後者が有意に低下していた。FIM改善効率は0.9±0.4/0.7±0.4/0.5±0.3点/日であり,2010年度と2012年度の間で後者が有意に低下していた(p=0.023)。療養型病院への転院および施設入所では,年齢は88.6±8.7/83.0±12.2/87.1±8.0歳,在院日数は25.6±10.3/29.3±8.3/27.7±10.1日,退院時FIMは53.4±20.4/52.0±33.7/44.3±23.4点,FIM改善効率は0.3±0.3/0.4±0.5/0.5±0.8点/日であり,いずれも年度間で有意差は認められなかった。【考察】在院日数は全体および転帰別でも長期化の傾向にあり,パス導入によって診療の効率化が図られているとは言い難いことが明らかとなった。退院時FIMをみると年度を追うごとに低下の傾向にあり,転帰においても療養型病院へ転院および施設入所の患者数が増加していることから患者の重度化が推測され,これが在院日数の長期化の一因になっていると考える。また,パス導入前の2010年度では,自宅退院患者よりも回復期病院へ転院となった患者の退院時FIMが高得点であるという逆転現象が生じていたが,パス導入後には見られなくなった。特に回復期病院へ転院となった患者では,パス導入前と比較しパス導入後の退院時FIMおよびFIM改善効率が統計学的にも有意に低下しているとともに,自宅退院患者においてはパス導入前と比較しパス導入後の退院時FIMが向上している傾向にあることから,パス導入によって日常生活活動レベルに応じた患者の転帰の選別が適切に行われるようになったことが示唆された。しかし転帰の選別は経験的に行われているのが実状であり,急性期を担う当院としては,可及的早期に転帰を予測する手法を確立することが急務であるとともに,院内の診療体制・目標設定を明確にし,後方病院・施設との連携をより密にすることで,在院日数の短縮やそれぞれの病院・施設機能に特化した地域診療体制とパスの運用を確立していく必要性があると考える。【理学療法学研究としての意義】パス運用の現状を把握し,より有効なパスの運用や多施設間の円滑な連携,転帰の予測などを今後考慮していく際の一資料となりうる点で,本研究は意義があると考える。
  • 櫻井 進一, 荻原 大樹, 飯嶋 啓壽, 萩原 阿富, 市川 彰
    セッションID: 0556
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】男女ともに都道府県別の平均寿命が第一位となった長野県に位置する当院において,高齢者に多い大腿骨近位部骨折患者の理学療法に携わる機会は多く,近年の在院日数短縮化の中でより早期から転帰先を適切に判断する必要性を感じる。大腿骨近位部骨折患者の予後予測因子として様々な因子が報告されているが,85歳以上の超高齢者では医学的視点や社会的視点から見て前期高齢者と異なる点も多く,超高齢者の自宅退院が早期に可能となるかという視点で関連する因子を検討した報告は乏しい。そこで本研究は,超高齢者の大腿骨近位部骨折患者の早期自宅退院の可否に関連する因子について検討することを目的とした。【方法】対象は2012年1月から2013年10月までに大腿骨近位部骨折で入院し理学療法を行った85歳以上の患者のうち,自宅への退院及び他施設へリハビリ目的で転院された27名とした。対象を当院から直接自宅へ退院となった自宅退院例15名(以下自宅群:男性1名,女性14名,平均年齢91.4±3.7歳,術後在院日数18.5±3.6日)と,リハビリテーション継続目的で他施設へ転院となった12名(以下非自宅群:男性5名,女性7名,平均年齢91.7±5.7歳,術後在院日数17.8±6.8日)に分類し,下記の項目を比較検討した。早期の自宅退院可否への関連性を検討する因子として年齢,性別(男/女),骨折型(頚部骨折/転子部骨折),術式(人工関節置換術/内固定術),受傷前生活場所(自宅/自宅以外),受傷前介護保険利用(有/無)認知症及び既往症(有/無),同居家族(有/無),受傷前移動方法(車いす/歩行)及びADL(自立/自立未満)及び退院時ADL(Barthel Index:以下BI),術後1週時点の病棟トイレまでの移動方法(車いす/歩行器),術後1週時点での理学療法進捗状況(ベッド上~平行棒内歩行/歩行器~杖),退院時移動手段(車いす/歩行器~杖)等を診療情報録から後方視的に調査した。入院前のADLとして移乗,排泄について本人または家族から口頭で聴取した内容からBIに則り自立と自立未満を判定した。また,術後1週時点での病棟でのトイレ移動の方法については見守りや自立を問わず実際の活動量として歩行を行っているかどうかで判定した。統計学的検討として,2群の比較には対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定とFisherの正確確率検定を用いた。統計解析にはSPSS ver11を使用し,有水準はそれぞれ5%未満とした。【倫理的配慮】本研究は当院の臨床倫理審査委員会の定める規定に則り行い,ヘルシンキ宣言に沿って実施し,調査において対象とする個人の人権擁護と倫理配慮のうえでデータを取り扱った。【結果】自宅群,非自宅群の比較で有意差を認めた項目は,受傷前の生活場所,介護保険利用,同居家族有無,(p<0.01),性別,受傷前移動能力,術後1週時点での病棟内トイレ移動方法,理学療法進捗状況,退院時の移動手段,移乗能力,排泄能力(p<0.05),で有意差を認めた。他の項目では有意差を認めなかった。自宅群では女性が多く,受傷前因子では生活場所が自宅,介護保険利用が無い,移動能力が歩行(歩行補助具利用含む),同居家族が有りのものが有意に多かった。また術後1週時点での病棟トイレまでの移動が歩行,術後1週時点での理学療法時に歩行補助具を用いての歩行,退院時の移動手段が歩行のものが有意に多く,退院時ADLとして移乗と排泄動作のBI点数が有意に高かった。【考察】これまで,大腿骨頚部骨折の機能的予後や転帰先の予測因子の報告は高齢者全般を対象としており,超高齢者に限定した中での予後予測因子の検討については乏しい現状である。また,在院日数が短縮化傾向の中で術後早期から転帰先を予測する意義を強く感じ,平均術後在院日数18日前後で自宅復帰が可能な群と継続してリハビリテーションを実施し自宅復帰を目指した群での関連因子の比較検討を行った。今回の結果からは,早期自宅退院の受傷前因子として女性,生活場所が自宅,家族と同居,介護保険利用が無い,歩行での移動等の項目があげられ,入院時点で該当項目についての情報収集を適切に行い,転帰先を予測した中でプログラムの立案を行うことが重要であると考えられる。さらに入院中の経過として,術後1週間の時点で病棟トイレ移動及び理学療法場面で歩行補助具を利用した歩行を行っているかを加味する事で,さらに転帰先についての再検討を適切に行える可能性が示唆されたと考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究では,高齢化及び在院日数短縮化迎える医療情勢の中で超高齢者を対象に早期に自宅復復帰に関連する因子を検討した点において理学療法学研究としての意義があると考える。
  • 嶋村 剛史, 今村 健二
    セッションID: 0557
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年では長期療養型病院への入院の主因は転倒であり,高齢者が社会復帰できない一つの要因と考えられている。当院回復期病棟においても全体の約28%が転倒起因による受傷入院であり,運動器疾患の約7割を占めており,その中でも大腿骨近位部骨折が約64%を占めている。そこで今回,転倒により大腿骨近位部骨折を受傷した患者の転帰に関連する因子を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は2010年4月から2013年3月の36カ月間に当院入院し,回復期病棟に転棟されリハビリテーション(以下リハビリとする)を受けた受傷機転が転倒の大腿骨近位部骨折受傷患者86名(内訳は大腿骨頚部骨折32名,大腿骨転子部骨折32名,大腿骨頚基部骨折1名)を対象とした。適格基準として全対象者は入院前の状態として居宅で自立歩行可能であったこと,重篤な合併症がないこととした。内容はカルテより後方視的調査を実施,86名を自宅退院群65名,転院もしくは施設入所群(以下転院群とする)21名の2群に分類し,年齢(82.0±9.6歳:86,3±7.9歳),在院日数,入院前Functional Independence Measure(以下FIMとする),リハビリ開始時FIM,退院時FIM,FIM改善度(退院時FIM-リハビリ開始時FIM),一日あたりのFIM改善度(FIM改善度÷在院日数),家族との同居の有無,退院時における歩行自立の有無,退院時における排泄動作の自立の有無について比較した。自宅復帰の要因を抽出するため,転帰(自宅退院または転院)を従属変数,その他全ての変数を独立変数として,多重ロジスティック回帰分析(総当たり法)を適用した。AIC(赤池情報量規準)によるモデル選択結果で得られた項目に対して,cutoff,特異度,感度など統計指標を求めた。統計学的解析はR2.8.1を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の項目は通常診療で必要な情報であり,観察研究ゆえに実験的介入はないが,ヘルシンキ宣言に基づいて調査を行った。【結果】自宅復帰の可否に影響する項目は,退院時FIM,退院時における歩行自立の有無,同居の有無,入院前FIM,退院時における排泄動作の自立の有無であった。cutoff,特異度,感度,の値は順に退院時FIM88,76.2%,92.3%,退院時における歩行自立の有無1.0,85.7%,81.5%,同居の有無1.0,52.4%,73.8%,入院前FIM117,61.9%,72.3%,退院時における排泄動作の自立の有無1,81%,87.7%であった。これらのロジスティック回帰式の誤判別率は0.093で,誤判別された患者8名についてみてみると,自宅退院可能と判別されて転院の方が5名,転院と判別されて自宅退院された方が3名であった。【考察】今回,86名の転倒により大腿骨近位部骨折受傷患者の転帰を追跡した。もともと居宅で自立生活を送っていた方が,転倒することで24.4%が自宅退院できない状況であった。転院となった患者は大腿骨頚部骨折患者15名(人工骨頭置換術12名,骨接合術2名,保存1名),大腿骨転子部骨折患者6名(骨接合4名,保存2名)であった。大腿骨頚部骨折を転倒受傷した患者の転院は約32%(15/47),大腿骨転子部骨折を転倒受傷した患者の転院は16%(6/38)であった。その中でも大腿骨頚部骨折に対して人工骨頭置換術を施行された患者は40%(12/30)自宅退院できない状況であった。自宅退院可能と判別されて転院と誤判別された5名のうち1名は歩行,排泄自立していたが,独居で本人の希望を兼ねて転院となっていた。他の内3名は同居者がいたが社会的理由で転院となっていた。転院と判別されて自宅退院と誤判別された3名のうち,2名はADL能力低く,介助を要するが家族の支援にて自宅退院されていた。もう1名はFIM等cutoffラインで同居人無しであったが,自宅復帰への意欲が高く,退院前訪問指導後住宅改修等行い自宅退院されていた。同居の有無は大きな影響を与える項目として特定されたが,日常生活指導を含めた居住環境の整備など外的因子を強化することで,自立歩行に向けての運動機能向上など内的因子の改善が転帰に対してさらに大きな影響を与えるのではないかと考える。加えて,早期から予測を立て,本人,家族への指導を行うことで介護保険等を利用しての生活を提案でき,自宅復帰を促せるのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】様々な因子を考慮した理学療法の展開を進めると同時に,今後も引き続き調査が必要であると考える。加えて,高齢者が転倒受傷することで,住み慣れた自宅へ復帰できない可能性がある現状を直視し,高齢者の転倒・骨折予防に取り組むことが理学療法士の課題であると考える。その現状を患者,家族,スタッフに提示できる意味でこういった手続きが必要であり,介護保険申請,退院前訪問指導等にもつなげていきたい。
  • 安部 陽子, 塚本 健太, 高橋 明, 米増 保之, 恩田 敏之, 本田 修, 大坊 雅彦, 野中 雅
    セッションID: 0558
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】当院は2009年に脳血管内治療センター(以下センター)を立ち上げ,くも膜下出血(以下SAH)の治療においてクリッピング術からコイル塞栓術を第一選択とし,これに伴い早期リハビリテーション(以下早期リハ)を実施している。昨年の同学術大会にて高齢SAH症例におけるコイル塞栓術の有用性と早期リハの効果が明らかになったが,2つのバイアスにより転帰改善の要因が不明確であった。そこで今回はセンター開設後のクリッピング例を加え,コイル塞栓術の有用性と早期リハの効果を再分析することを目的とする。【方法】対象は2006年1月~2013年8月までにSAHと診断され手術が行われた163例(死亡例,保存症例は除外)とした。センター開設前の1群:クリップ安静(n=53)は,術後1~7日で介入しspasm期はベッド上のリハビリ中心でその後段階的に離床を拡大した。一方センター開設後を2群:クリップ早期リハ(n=15),3群:コイル早期リハ(n=95)に分類し,これらは術式に関わらず術後早期にドレーン挿入下であっても離床を促し,装具療法も取り入れ立位・歩行を実施した。また,ドレーン管理においてはマニュアルを作成し,看護師との協力体制を敷いている。1群と2+3群,つまり血管内治療導入前後で転帰(肺炎発生率・退院時mRS・自宅復帰率)を比較検討した。次に3群間での転帰を比較検討した。統計学的検定にはt検定,カイ2乗検定,Mann-Whitney検定,Kruskal-Wallis検定を用い有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の内容は当院倫理委員会にて承認され,対象症例には研究の説明と同意を得て行った。【結果】1,2,3群における年齢,重症度(H&K grade)に差はなかった。肺炎発生率は1群:26%,2群:13%,3群:9%であり,自宅復帰率は1群:58%,2群:53%,3群:73%であった。血管内治療導入前後の比較では,2+3群で肺炎発生率(p=0.006),mRS(p=0.008)は有意に良好であり,自宅復帰率は有意差を認めないものの良好であった(p=0.15)。1vs2群では肺炎発生率(p=0.29),mRS(p=0.72),自宅復帰率(p=0.72)いずれも有意差を認めなかった。また2vs 3群でも肺炎発生率(p=0.64),mRS(p=0.20),自宅復帰率(p=0.13)いずれも有意差を認めなかった。一方1vs 3群において,肺炎発生率(p=0.006),mRS(p=0.004)は有意に3群が良好であり,自宅復帰率も有意差はないが3群が良好であった(p=0.08)。【考察】SAHの転帰において救命はなされても機能予後の低下が問題視されている。脳卒中データバンクによると,SAHの予後に関する因子は重症度と年齢と動脈瘤の大きさである。転帰不良とされている重症例や高齢者をどう救うかが今後のSAH治療の課題と言える。近藤らは80歳以上のSAHに対して適切な治療選択と早期リハの重要性を述べている。また嶋田らはSAH独歩退院のための治療戦略の1つに術翌日からの離床を挙げている。当院においても低侵襲である血管内治療導入後に早期にリハベースに乗せることが可能となった。この方針転換によりSAH患者の転帰は肺炎発生率と退院時mRSが有意に改善し,機能予後の改善につながったものと考えられる。そこで,コイル塞栓術と早期リハのどちらの要因が転帰改善に影響を及ぼしているのかを明らかにするため,1から3群の比較検討を行った。その結果,1vs2群にて有意差が認められなかったことから早期リハだけが転帰改善の要因ではなく,2vs 3群にて有意差が認められなかったことからコイル塞栓術だけが転帰改善の要因ではないことが明らかになった。そして1vs 3群において有意差を認めたことから,コイル塞栓術と早期リハ双方の相乗効果によりSAH患者の転帰向上に結びついたと考えられる。しかしながら自宅復帰率に有意差が認められなかった。この理由として,特に高齢者では機能改善を図っても病前の生活背景が影響し,自宅復帰を困難にしている場合があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】脳卒中ガイドライン2009においても早期リハはグレードAで推奨されているが,SAH術後の離床開始時期は明確な方針が確立されていない。SAH患者の転帰向上には,医師による手術手技の選択や技術向上に加え,私たちによる術後の確かなリスク管理下,廃用症候群を可能な限り排除した早期リハビリテーションが重要と考えられる。
  • 脇田 正徳, 森 公彦, 金 光浩, 長谷 公隆
    セッションID: 0559
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】くも膜下出血の急性期リハビリテーションは,発症4~14日目のスパズム期における脳血管攣縮による脳虚血や,その後の水頭症などの術後合併症に対して,厳重なリスク管理のもとで介入する必要がある。近年,くも膜下出血に対する早期離床の効果に関する報告が散見されるが,早期離床と術後合併症との関連については十分に検証されていない。当院ではリスク管理に基づく主科の安静度指示に従い,ドレーン抜去後より血圧などのvitalが安定していれば積極的な離床開始を試みている。本研究の目的は,くも膜下出血後の早期離床が入院期間や転帰,合併症に及ぼす影響について明らかにすることである。【方法】対象は,2011年1月~2013年4月に動脈瘤破裂により当院に入院したくも膜下出血患者31例(男性8例・女性23例,60.6±14.0歳,クリッピング術21例・コイル塞栓術8例・トラッピング術2例・外減圧併用7例)とした。死亡症例や重症のため一度も離床できなかった症例は除外した。カルテより来院時の重症度,入院期間,転帰,ドレーン抜去日,座位開始日,歩行開始日,術後合併症の有無を調査した。ベッドサイドでの能動的な離床時点として,端座位練習の開始を座位開始と定義した。重症度の評価はGlasgow Coma ScaleによるWFNS分類を指標とし,自宅退院あるいは転院かを転帰として抽出した。術後に施行されたCT・MRI・MRA・血管造影によって,脳血管攣縮,水頭症,遅発性脳虚血,無症候性脳梗塞のいずれかを術後合併症として同定した。来院時の重症度が離床開始日,入院期間,転帰,術後合併症に及ぼす影響を検討することを目的とし,WFNS分類でgrade I・IIを軽症群,III~Vを重症群に分類し,両群における術後経過の違いを比較検討した。また,離床開始の時期が入院期間,転帰,合併症に及ぼす影響を検討するために,スパズム期が終了となる発症14日目以内に端座位練習を開始した群を座位開始早期群,15日目以降に開始した群を座位開始遅延群に分類し,両群における術後経過の違いを比較検討した。歩行の開始時期についても同様に,歩行開始早期群と歩行開始遅延群に分類し,両群における術後経過の違いを比較検討した。統計解析にはMann-WhitneyのU検定,Pearsonのカイ2乗検定,Fisherの正確確率検定を使用し,有意水準5%未満を統計学的有意とした。【倫理的配慮】本研究は後方視的調査であり,個人情報は匿名化して管理し,データの扱いに十分配慮を払いヘルシンキ宣言に沿って実施した。【結果】WFNS分類で軽症群は16例,重症群は15例であり,外減圧併用は7例のうち6例が重症群であった。両群で年齢の差は認めず,ドレーン抜去(8.0 vs. 9.0日),座位開始(6.0 vs. 11.0日),歩行開始(9.5 vs. 17.0日)はいずれも軽症群の方が有意に早く,入院期間(28.0 vs. 58.0日)も有意に短かった(p<0.05)。水頭症の有無は重症度と有意に関連し,重症群での発症頻度が高かった(p<0.05)。転帰,脳血管攣縮の有無,遅発性脳虚血あるいは無症候性脳梗塞の有無については重症度との関連は認めなかった。座位開始早期群は25例(6.0日,軽症群15例,重症群10例),座位開始遅延群は6例(20.0日,軽症群1例,重症群5例)であった。歩行開始早期群は9例(9.0日,軽症群7例,重症群2例),歩行開始遅延群は10例(18.5日,軽症群3例,重症群7例)であった。座位および歩行開始早期群では,入院期間が有意に短く(p<0.05),特に座位開始時期と転帰には有意な関連があり,座位開始早期群における退院の割合が高かった(p<0.05)。座位および歩行開始時期と水頭症の発症頻度には有意な関連があり,早期群での発症頻度が少なかった(p<0.05)。一方,座位および歩行開始時期と脳血管攣縮,遅発性脳虚血,無症候性脳梗塞の有無との関連は認めなかった。【考察】軽症群では早期離床が可能であり入院期間が短縮していたが,重症群では離床開始時期の遅延が認められ,これには水頭症による覚醒・動作レベルの低下が関係している可能性が推察された。重症度や離床開始時期は脳血管攣縮や遅発性脳虚血,無症候性脳梗塞と関連しなかったことから,早期離床により入院期間の短縮を図り,シャント術や外減圧後の骨形成術により入院の長期化が予想される症例に対しても,リスク管理を行いながら離床を進め,廃用症候群を予防し,動作能力を向上させることが重要と考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究はくも膜下出血の急性期リハビリテーションにおける早期離床の重要性と術後合併症との関連を明確にし,臨床での治療介入の指針となる有益な知見を与えるものである。
  • 小林 美寿季, 南 隼人, 鈴木 寛之, 松浦 慶太, 江西 一成
    セッションID: 0560
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳卒中治療ガイドライン2009では,脳卒中の病型別に各々の循環器病に対する治療方針が詳述されている。また,その急性期リハビリテーションについては,できるだけ早期から積極的な座位・立位・歩行訓練を行うことが「グレードA」と強く推奨されている。当院は急性期病院であり,ガイドラインの推奨に基づいて発症直後よりリハビリテーション処方があり,積極的に早期離床を行っている。その際のリスク管理は医師の監督下に行われているが,理学療法士の判断に委ねられる即時の対応では苦慮する場面も少なくない。脳卒中患者における離床時の循環動態は,全身状態の安定した回復期・慢性期にける報告や症例報告などを散見するものの,急性期における報告は極めて少ない。そこで,本研究では,急性期病院入院中の脳卒中患者の離床に関する実態調査を行い,さらに早期離床が可能であった脳卒中患者への起立負荷試験を行い,急性期脳卒中患者の離床時循環動態を調査することを目的とした。【方法】対象は平成24年2月から平成25年2月までの1年間に当院へ入院した脳卒中患者158名とした。このうち,離床の状況から早期よりの離床が困難であった離床困難群,離床が可能であった離床群に分類した。さらに離床困難群では後方視的にカルテより病型や合併症などを調査し,離床が困難であった理由の実態を明らかにした。離床群に対しては,起立負荷試験(以下HUT)をリハビリ処方が出た数日内に実施した。HUTはティルトテーブルにて10分間の安静臥位後,60度起立負荷を5分間実施し,テルモ社製電子血圧計を用い,この間の収縮期血圧(SBP)・拡張期血圧(DBP)・脈拍(PR)を1分毎測定した。なお起立後,SBPが20mmHg以上変動した場合,意識レベルが低下した場合は起立を中止した。統計処理は各群内を一元配置分散分析,及びScheffeの多重比較検定を用い,危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】書面にて説明し,同意を得られた患者のみを対象とし,星城大学研究倫理専門委員会,鈴鹿回生病院倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】離床困難群は35名でその全例に重度意識障害を認め,さらに循環器・心疾患(8名),イレウス(1名),肺炎・脱水・糖尿病・腎不全など(10名),尿路感染(4名),細菌などの感染(2名),水頭症(2名)の合併,および人工呼吸器管理(3名),重度脳幹症状(5名)などが離床困難の理由であった。次に,離床群123名のうち30名においてHUTを実施した。そのうち5分間の起立負荷が継続できたもの(継続群)が20名,中断したもの(中止群)が10名であった。HUTの結果,継続群のSBPはHUT(129.0±17.6→117.4±24.7,124.2±24.1,121.4±26.8,120.0±23.3,120.0±22.4mmHg)の際,初期時に低下傾向にあった。DBPはHUT(72.2±14.8→68.9±15.7,72.1±15.7,68.7±15.6,66.5±17.0,70.8±16.9 mmHg)による有意な変化を認めなかった。PRは,HUT(78.9±14.9→82.0±18.0,82.3±18.9,81.9±18.8,81.3±17.8,80.2±19.0 bpm)の際,初期時に上昇傾向を示した。中止群のSBPはHUT(144.8±21.0→117.2±21.0,109.1±27.6 mmHg)の際,初期時に有意な低下を示した(P<0.05)。DBPはHUT(78.4±11.9→67.7±20.8,70.0±14.5mmHg)の際,初期時に低下傾向にあった。PRはHUT(72.1±16.9→71.7±20.7,80.2±21.5bpm)の際,初期時に大きな変化は認めなかった。【考察】急性期脳卒中患者158名のうち35名(22%)は離床困難群であり,その理由は早期リハビリテーション開始基準(意識障害の程度,神経症状の進行停止,全身状態の安定)を満たしていなかった。離床群におけるHUTの結果から,30名中20名は循環応答に問題はなく10名において血圧低下を認めた。これは,従来知られている起立時循環応答のうち,心拍出量維持のための心拍応答の遅延によって血圧低下を生じた可能性が考えられた。以上のことから,急性期脳卒中患者の離床におけるリスク管理は,リハビリテーション開始基準と起立時循環応答の理解が重要であることが確認された。【理学療法学研究としての意義】離床時の循環動態を調査することで,急性期リハビリテーション開始時のリスク管理の参考になりうる。
  • 足立 はるか, 上田 周平, 柳澤 卓也, 鈴木 重行
    セッションID: 0561
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳卒中の予後予測について検証した報告として,1982年に発表された二木による脳卒中患者の早期自立度予後予測基準(以下,二木による基準)が知られており,脳卒中治療ガイドライン2009にも引用されている。しかし近年はより早期に充実したリハビリテーション(以下,リハ)医療を開始することの重要性が啓発され,急性期病院での在院日数は短縮化している。また2005年にはt-PA(組織型プラスミノーゲンアクチベータ)が脳梗塞急性期の治療薬として認可され,治療方法も変化してきている。そこで,本研究はリハ開始時期や在院日数,治療法などが変化している近年においても,二木による基準によって脳卒中患者の予後予測が可能かを検討することを目的とした。【方法】脳卒中発症後当院に入院し,2009年4月から2012年3月に退院した205名(平均年齢75.5±12.1歳,男性98名,女性107名)を対象に,後方視的に二木による基準にて自立度の予測が可能であるかを,二木による基準と当院のデータの母比率(個々のカテゴリーが母集団で占めるであろう割合)の95%信頼区間を比較し,検討した。二木による基準と比較し,信頼区間に有意差があった予測基準については二木による予測が合致した群(以下合致群)と予測が合致しなかった群(以下非合致群)に群分けし,比較,検討した。なお,統計学的手法はχ2検定,Fisherの正確確率検定を用い,有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院の倫理委員会の承認を得て行った。後方視的研究となるため,個人情報の取り扱いに十分配慮し,ヘルシンキ宣言に沿って行った。【結果】二木の基準と母比率信頼区間を比較し,有意な差があった予測基準は,「入院時に全介助でも基礎的ADLの内2項目以上が実行なら歩行自立(以下I群:n=61)」,「入院時に全介助でも運動麻痺が軽度なら歩行自立(以下II群:n=27)」,「入院2週間時に新たにベッド上自立なら歩行自立(以下III群:n=68)」,「入院1か月時に新たにベッド上自立なら歩行自立(以下IV群:n=4)」であった(p<0.05)。その他の予測基準については有意差がみとめられなかった。さらに,I~IV群内の合致群と非合致群について,統計学的に検討した結果,有意な差がみられたのは,年齢,認知機能,発症前の歩行自立度であった。年齢はII群に有意な差があり(p<0.01),59歳以下,60~69歳において歩行自立が多く,80歳以上は全員が,最終的に自立歩行不能であった。認知機能はIII群に有意な差がみられ(p<0.05),中等度~重度認知機能低下した患者の多くが最終的に自立歩行困難であった。発症前の歩行自立度はI群,II群,III群に有意な差があり(p<0.01),発症前より自立歩行困難な患者は最終的に自立歩行困難な患者が多い傾向にあった。IV群はn=4と少数であり,統計学的解析は困難であった。【考察】二木の報告と本研究を比較した結果,4つの予測基準は自立度の予測が困難であった。二木の報告では対象者の平均年齢が67.0歳であるのに対し,本研究では対象の平均年齢が75.5歳と,患者の高齢化が認められた。予測困難であった要因としては,I群は発症前の歩行自立度,II群は発症前の歩行自立度と年齢,III群は発症前の歩行自立度と認知機能低下であった。一般的に高齢になるほど認知症の発症率は高くなるとの報告や加齢による身体機能の低下は不可避的な現象であり,日常生活動作に障害を抱えている患者も少なくないとの報告があり,そのため本研究では加齢によって発症前より自立歩行が困難な患者や認知機能が低下した患者が多くみられたと考えられた。また,最終自立度予測基準が「歩行自立」では「入院時にベッド上生活自立なら歩行自立」の場合のみ,「自立歩行不能」および「全介助」ではすべての条件下において医療が変化してきた現時点においても妥当性が認められた。しかしながら,「入院時にベッド上生活自立なら歩行自立」を除く「歩行自立」の基準では,年齢や発症前の自立度,認知機能を考慮する必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】近年においても,二木における脳卒中の早期予後予測基準は妥当性があると考えられた。しかし,年齢・認知機能・発症前歩行自立度を考慮して二木による基準を改訂することにより,現在でも有用な脳卒中の予後予測の指標となり得ると考えられた。
  • 寺尾 詩子, 眞木 二葉, 伊佐早 健司, 山徳 雅人, 鶴岡 淳, 長谷川 泰弘, 笠原 酉介, 小野 順也, 八木 麻衣子
    セッションID: 0562
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】当院では,臥床期間の短縮を目的に急性期脳梗塞患者の離床プロトコールを利用してきた。プロトコールの内容は,症状増悪のリスクを想定し,ラクナ梗塞例は離床が早いコース,主幹動脈の高度狭窄例は遅いコース,その他は普通コースの3つのコースを設定し,ギャッチアップや車いすでの座位負荷試験を段階的に行うものである。プロトコールの利用を開始して5年が経過し,当初の目標通り増悪例を増やすことなく臥床期間は短縮し,多職種で離床方法や状況を共有できる利点があった。しかし,座位負荷試験で血圧基準をクリアーし,安静度を拡大した後に症状増悪をきたした症例もあり,プロトコールの妥当性を検証してきた。本研究では,現離床プロトコール下に経験された離床期の症状増悪例の特徴を明らかにして離床方法との関連を考察した。【方法】2012年10月から2013年10月まで脳卒中リハチームで担当した急性期脳梗塞患者173例のうち,離床期(入院から1週間以内)に症状が増悪,変動した患者を抽出し,病型,病巣,入院から症状増悪までの日数,増悪・変動の期間,座位負荷試験の実施状況をカルテより後方視的に調査した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院生命倫理委員会の承認(2157号)を得て実施した。【結果】該当症例は173例中19例(11%)に見られ,年齢は56~90歳(平均74.2歳),男女比11:8であった。病型はアテローム血栓性脳梗塞(以後,ATBI)10例,Branch Atheromatous Disease(以下,BAD)5例,心原性脳塞栓症(以後,心原性)4例であった。責任血管は内頚動脈の狭窄・閉塞3例,中大脳動脈の狭窄・閉塞8例,椎骨・脳底動脈の狭窄2例,主幹動脈の明らかな狭窄・閉塞なし6例であった。病巣は中大脳動脈領域13例(穿通枝領域6例,皮質枝+穿通枝領域4例,分水嶺領域3例),橋5例,小脳半球1例であった。また,主幹動脈の高度狭窄や閉塞を認める症例においても広範囲脳梗塞の症例はなく,散在性の小梗塞あるいは,穿通枝領域の梗塞であった。12例で症状の増悪に伴い病巣の拡大が確認されていた。入院時National Institute of Health Stroke Scale(以下,NIHSS)スコアは平均4.7点で5点以内の軽症例が16例を占め,1~13点(平均5.4点)の増悪を認めた。入院後の症状の増悪日は入院1日目が2例,2日目が15例,3日目が2例,4日目が1例で2日目が最も多く,最終増悪日は入院2日目が3例,3日目が5例,4日目が3例,5日目が3例,6日目が2例,7日以上が4例で最長は13日目であった。増悪日の安静度設定はギャッチアップ不可2例,30度まで許可4例,60度まで許可3例,車椅子まで許可9例,歩行許可2例であった。座位負荷試験にて安静度拡大後の増悪例は7例,座位負荷試験で症状増悪し臥位にて症状の改善を認めた症例は1例であった。【考察】従来から言われているように,症状増悪で離床に難渋するのは,ATBIやBADの症例が多い結果となった。また,心原性の4例中3例は中大脳動脈領域の起始部(M1あるいはM2)の閉塞を認めるものの梗塞巣は穿通枝領域に留まり,症状が軽症あるいは改善傾向にあった症例である。これらの症例は座位負荷試験の結果に関わらず,また安静度の状況に関わらず増悪を示しており,座位負荷試験中の症状の変化や血圧変動をもとにした離床基準の再考が必要と考えられた。特に,症状が軽度であっても,主幹動脈の狭窄,閉塞を示す症例や,狭窄・閉塞血管がなくても病巣が橋傍正中動脈領域やレンズ核線条体動脈領域にある脳梗塞患者では,増悪の可能性があるハイリスク症例とする必要があると考えられた。増悪をきたす時期は入院後2日目に最も多く,離床の時期を考慮する材料の一つとして,今後病型,病態を含めて検討していく必要がある。一方,内頚動脈高度狭窄の増悪,進行が,座位負荷試験で確認し得た症例もあり,座位負荷試験の有用性が期待できる症例と考えられた。内頚動脈高度狭窄例による座位負荷時の症状増悪はこれまでにも経験しており,血管病変や病巣によるリスクについて更に症例を集積し,急性期のより安全かつ有効な離床方法を模索していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】急性期脳梗塞患者に対する理学療法のリスク管理に役立つ。
  • 辰巳 祐理, 武原 格, 平野 正仁, 増田 司, 溝口 あゆ実, 廣澤 全紀, 小山 麻希, 米本 祐樹, 大場 秀樹, 清野 佳代子, ...
    セッションID: 0563
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】近年,リハビリテーション(以下リハ)と栄養状態との関連性が指摘されている。特に脳卒中低栄養患者は退院時の日常生活の自立度が低く,転帰に関しても血清アルブミン(Alb)が低いほど自宅退院よりも介護施設への入所割合が高くなると報告されている。また,低栄養はサルコペニアを助長する因子であり,サルコぺニアは歩行能力に関与すると言われている。そのため,脳卒中患者の歩行獲得には栄養状態が影響すると思われる。しかし,歩行獲得に関連する因子として,運動麻痺,バランス能力,高次脳機能障害,認知機能などが影響するとの報告はあるが,栄養状態との関連についての報告は少ない。そこで今回は,当院回復期リハ病棟における脳卒中患者の歩行獲得と栄養状態の関連について調査したので報告する。【方法】対象は,2012年5月1日から2013年9月17日に当院回復期リハ病棟に入院した脳卒中患者52名とした。このうち,退院時のFIM歩行項目で5点(見守り)以上を獲得群,4点(軽介助)以下を非獲得群とした。測定は,栄養指標であるAlb,CRP,BMI,筋肉量とし,筋肉量は二重エネルギーX線吸収法(DXA)にて四肢筋量を計測後骨格筋指数(SMI)を算出し,これらを入院時および退院時に実施した。調査項目は,①両群間の栄養状態の比較(入院時・退院時),②各群における栄養状態の改善の有無,と設定し,獲得群と非獲得群における栄養状態の特長について調査した。統計学的分析は,①の両群間の比較では,年齢・Alb・BMI・SMIは2標本t検定,CRPはMann-WhitneyのU検定を行い,②の栄養状態の改善の有無では,年齢・Alb・BMI・SMIは対応のあるt検定,CRPはWilcoxsonの符号付き順位検定を行い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮】本研究は,当院倫理委員会の承認の下,患者に対し書面と口頭による説明を行い,同意を得た上で実施した。【結果】対象は,状態悪化による転院などでデータが欠損した12名を除く40名,獲得群23名(男性15名・女性8名),非獲得群17名(男性12名,女性5名)であった。診断名は獲得群(脳梗塞15名,脳出血5名,くも膜下出血3名),非獲得群(脳梗塞9名,脳出血6名,くも膜下出血2名),麻痺側は獲得群(右11名,左11名,両側1名),非獲得群(右5名,左9名,両側3名)であった。運動麻痺は退院時の下肢がBrunnstorom Recovery Stageにて,獲得群(III2名,IV3名,V10名,VI9名),非獲得群(III6名,IV3名,V4名,VI4名)であった。平均年齢は,獲得群65.4±12.4歳,非獲得群72.0±8.4歳と有意差はみられなかった。①両群間の比較では,入院時Alb(獲得群4.1±0.6mg/dl,非獲得群3.6±0.5mg/dl),CRP(獲得群0.58±1.21mg/dl,非獲得群0.79±1.12mg/dl),BMI(獲得群22.3±4.4,非獲得群19.8±3.7),SMI(獲得群6.38±1.33kg/m2,非獲得群5.40±0.75kg/m2)であり,Alb,SMIで非獲得群が有意に低かった。退院時はAlb(獲得群4.1±0.4mg/dl,非獲得群3.8±0.5mg/dl),CRP(獲得群0.27±0.39mg/dl,非獲得群0.15±0.28mg/dl),BMI(獲得群22.9±4.4,非獲得群20.5±2.7),SMI(獲得群6.61±1.38kg/m2,非獲得群5.80±0.62kg/m2)であり,SMIで非獲得群が有意に低かった。②栄養状態の改善の有無では,獲得群はSMI,非獲得群はAlb,CRP,SMIに退院時有意な改善がみられた。【考察】非獲得群は獲得群と比較し,入院時Albと入退院時SMIが有意に低かった。Albの低下は栄養状態だけでなく,肝疾患・腎疾患,炎症といった代謝状態の影響も受ける。しかし,今回CRPは有意差がみられなかったことから,入院時非獲得群のAlbの低下は悪液質を除いた低栄養の影響が大きいことが予測される。SMIは年齢,Alb,BMIと関連があると言われている。今回,年齢やBMIにおいて有意差はみられなかったためSMIの低下はAlbの低下が影響していると思われる。また,非獲得群は退院時Alb,SMIに改善がみられ,栄養状態の改善および筋肉量の増加がみられた。しかし,SMIについて筋肉量の増加は獲得群と同程度であったが,筋肉量は有意に少なかった。つまり,歩行獲得のためには更なる筋肉量の増加が必要であり,そのためにはAlbを含めた栄養状態に考慮することが重要であると思われる。【理学療法学研究としての意義】今回の研究から回復期脳卒中患者において,歩行獲得と栄養状態には関連があると考える。理学療法効果を高めるために,栄養状態を考慮しながら理学療法を行うことが重要である。
  • 河田 英登, 長縄 幸平, 平林 孝啓, 白上 昇, 長谷川 大祐, 内山 靖
    セッションID: 0564
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳血管障害(以下,CVD)患者における歩行能力はADL自立に大きな影響を与える。現在までに歩行能力は,麻痺の重症度だけでなく,BohannonによるCVD患者の歩行能力と麻痺側と非麻痺側下肢筋力の関連についての報告や,菅原らによる歩行能力と麻痺側荷重率(以下,WBR)についての報告がある。また体幹機能が歩行能力に影響していることも示されている。しかし,これらの項目を一括して歩行能力に影響しているかを相互に検討した報告はみられない。そこで,本研究ではCVD患者を対象とし,麻痺側および非麻痺側下肢筋力,麻痺側WBR,体幹機能と歩行能力との関連について明らかにすることを目的とする。【方法】対象は2012年12月から2013年10月の間に当院に入院したCVD患者54名(男性36名,女性18名,年齢67.3±12.2歳,BRSVI:31名,V:15名,IV:2名,III:6名)であった。除外基準は,Functional Independence Measureの歩行点数が4点未満の者,くも膜下出血,頭部外傷患者,入院期間中に再発や新たな疾患を発症した者,指示理解が困難な者,著しい整形外科疾患や内部疾患により検査が困難な者,安静度に制限がある者,本研究に同意が得られなかった者とした。調査項目は,退院時の10mの歩行速度,麻痺側および非麻痺側の股関節外転筋力(以下,股外転筋力)・膝関節伸展筋力(以下,膝伸展筋力),麻痺側WBR,体幹機能とした。股外転筋力は,加藤・山崎らの方法を参考にベッド上背臥位で股関節内外転中間位での等尺性筋力を測定し,膝伸展筋力は柏・山崎らの方法を参考に椅子座位下腿下垂位での等尺性筋力を固定用ベルト使用にて測定して,いずれも体重(kg)で除した値(kgf/kg)を算出した。WBRの測定は,山崎らの方法を参考に2台の体重計を使用して立位にて測定し,最大荷重量を体重(kg)で除した値(%)を用いた。体幹機能は,Trunk Impairment Scale(以下,TIS)を使用した。歩行速度は定常状態の10m最適歩行速度を算出した。解析は,Spearman順位相関係数を用いて歩行速度と各調査項目との相関係数を求めた。さらに,歩行速度を説明変数とし,各調査項目を独立変数としてステップワイズ法による重回帰分析を行った。統計学的有意水準は5%とし,データは平均値と標準偏差で示した。【倫理的配慮,説明と同意】所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。すべての対象者に文書と口頭にて十分な説明をし,文書による同意を得た。【結果】退院時において従属変数である歩行速度は50.3±20.2(m/min),各独立変数の麻痺側股外転筋力0.23±0.10(kgf/kg),非麻痺側股外転筋力0.27±0.09(kgf/kg),麻痺側膝伸展筋力0.32±0.15(kgf/kg),非麻痺側膝伸展筋力0.44±0.16(kgf/kg),麻痺側WBR 76.9±16.8(%),TIS 16.4±4.4(点)であった。歩行速度との相関は,麻痺側股外転筋力(r=0.665),非麻痺側股外転筋力(r=0.382),麻痺側膝伸展筋力(r=0.619),麻痺側WBR(r=0.552),TIS(r=0.609)との正の有意な相関がみられた。他方,非麻痺側膝伸展筋力との相関(r=0.126)はみられなかった。重回帰分析の結果,第1要因として麻痺側股外転筋力(β=0.476),第2要因として麻痺側WBR(β=0.357)が採択された。歩行速度の予測式は-5.022+0.984×麻痺側股外転筋力(kgf/kg)+0.428×麻痺側WBR(%)であり,自由度調整済み決定係数は0.494であった。【考察】歩行速度と麻痺側下肢筋力,麻痺側WBR,TISについては先行研究と同様に有意な相関が認められた。歩行速度に影響する因子として,麻痺側股外転筋力と麻痺側WBRが採択されたことから,歩行速度には体幹機能や非麻痺側筋力よりも麻痺側下肢機能が影響している可能性が示唆された。Bohannonの研究では,最適歩行速度と麻痺側股外転筋力を含む下肢筋力とはr=0.73-0.83,非麻痺側においてはr=0.34-0.57の相関と報告されており,麻痺側下肢筋力の重要性がうかがわれる。本研究から,とくに股外転筋力が選択された要因としては,一般的に歩行立脚中期の筋活動には股外転筋の関与が知られており,最適歩行速度においては前後方向の推進力そのものよりも側方安定性の制御に必要な股外転筋力が歩行速度に貢献している可能性が推察される。【理学療法学研究としての意義】歩行速度に影響する因子として体幹機能や非麻痺側下肢筋力に加えて,麻痺側筋力にも注目した理学療法を展開していく必要が示唆された。
  • ―脳卒中患者を対象として―
    藤井 茜, 鳥居 和雄, 横川 健大, 三浦 創
    セッションID: 0565
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】回復期リハビリテーション病棟では,活動量向上のため,安全かつ早期に病棟歩行を開始し,自立度向上を図ることが重要であると言える。当院では,平成23年より独自の判定方法を用いて病棟歩行自立の可否を決定している。担当理学療法士が病棟での歩行が自立可能と評価した後,ケアスタッフが中心となり,歩行自立アセスメントシート(以下,シート)を使用して一定期間病棟生活の評価を行う。そこで,転倒の危険性を生じる場面がなければ自立と判定している。脳卒中患者における歩行自立の判定方法や関連要因の検討に関する調査研究は存在するものの,未だ病棟歩行自立を許可する判定基準として確立されたものはない。本研究では,当院での病棟歩行自立の判定方法を検討することを目的に,病棟歩行自立後に転倒しなかった者と転倒した者の比較,自立と判定された後に転倒した者を検証し,若干の知見を得たのでここに報告する。【方法】対象は,平成24年4月1日~平成25年3月31日の間に当院を退院した895名のうち,当院入院時に歩行に介助を要し,退院するまでにシートを使用して病棟歩行自立となった,初発の脳卒中患者113名(脳梗塞53名,脳出血54名,クモ膜下出血6名)とした。平均年齢66±13歳,男性72名,女性41名,発症から病棟歩行自立を許可されるまでの期間は78±43日であった。病巣などの基本情報収集のほか,病棟歩行自立日前後2週間以内の麻痺側下肢Brunnstrom Stage,非麻痺側の等尺性膝伸展筋力,Functional Balance Scale,Timed Up and Go test,6分間歩行距離,Mini Mental State Examination,病棟歩行自立から退院までの期間の中枢神経作用薬使用の有無を調査した。病棟歩行自立判定後に転倒しなかった者(以下,非転倒群)と転倒した者(以下,転倒群)の2群に分け,各調査項目を対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定,カイ二乗検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とした。病棟歩行自立の判定は,(1)靴・装具の着脱,(2)自室のカーテンの開閉,(3)自室ドアの開閉,(4)一連のトイレ動作・整容動作,(5)自室・食堂の椅子操作と着座・歩行再開,(6)他の通行人に配慮し避ける・待つ,(7)歩行中の会話,(8)ふらつきがあっても自制内,(9)杖や床に落ちた物拾い,(10)目的の場所まで到達,これら10項目の記載があるシートを使用した。これらの項目において,ある一定の評価期間を転倒の危険がなく,安全に遂行できるとケアスタッフが判断した者を病棟歩行自立と判定した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき計画され,船橋市立リハビリテーション病院の倫理委員会の承認を得た。【結果】シートを使用して病棟歩行自立と判定された者のうち,転倒群は9名(8%)であった。転倒群の転倒時期は,自立後1週目に2名,2週目に3名,5週目に2名,6週目に2名であった。転倒場所は,自室7名,病棟廊下1名,トイレ1名であった。転倒の状況は,靴装着時にベッドからのずり落ちが3名,自室内の方向転換時の転倒が2名,その他4名であった。非転倒群と転倒群では,病棟歩行自立時期における全ての調査項目で有意差は認められなかった。【考察】本研究の結果より,病棟歩行自立判定後におけるシート導入後の転倒率は8%であった。上内らは,回復期リハビリテーション病棟における病棟歩行自立後の転倒者率は19.6%と報告していることから,病棟での生活場面の動作で,転倒の危険性が高いと予測される全10項目を抽出したシートの使用は転倒の予防に有効であった可能性が高いと考えられる。また,非転倒群と転倒群で病棟歩行自立時期の運動機能・認知機能に有意差が認められなかったことから,理学療法士による病棟歩行自立可能の判断は,ある一定の基準を満たしていることが考えられた。以上より,理学療法士によるリハビリ時間内の運動機能・認知機能評価だけでなく,ケアスタッフによる病棟での生活場面の動作を評価することの有用性が示唆された。一方,ケアスタッフの評価があったにも関わらず,自室内の転倒率が高いことが課題として挙げられる。今後は,自立判定後も定期的に病棟場面の動作を評価する,及び,端座位での靴着脱と方向転換の安全性を評価できる方法を検討していく必要があると考えられた。また,継続して自室内で起こった転倒リスクの層別化を行い,転倒の実態を調査分析し,転倒率の減少を図りたい。【理学療法学研究としての意義】病棟での生活場面の動作を評価することの有用性が示唆された。これは,安全かつ早期に病棟歩行の自立を判定するための,評価方法検討の一助となる。
  • 大橋 悠司, 山本 優一, 大槻 剛智, 佐藤 惇史
    セッションID: 0566
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳卒中治療ガイドライン2009では,リハビリテーション(以下リハビリ)プログラムを実施する際,日常生活動作(ADL),機能障害,患者属性,併存疾患,社会的予後などをもとに,機能予後を予測し参考にすることが勧められており,既に検証の行われている予測手段を用いることが望ましいとされている。そこで,当院では園田(1995)の研究を参考に予後予測を行い,リハビリプログラムを立案してきた。しかし,予後予測の結果と実際の帰結と差がみられることも少なくなく,特にFunctional Independence Measure(FIM)の改善度が大きいとされる入院時96点未満の脳卒中患者で誤差が大きくなる印象があった。そこで,当院の患者属性(2010年12月~2012年8月)をもとに退院時FIM運動項目(FIM-m)の予測式を作成した(佐藤ら,2013)。本研究でさらに当院で作成した予測式と先行研究による予測式から得られた予測値と実測値をそれぞれ比較し,予測式の精度を検証することとした。ガイドラインでは,多数の予後予測論文で提示された予測率があまり高くなく,予測精度検討も少ないなどの理由から活用には注意が必要とされている。よって,予後予測式の精度を検証した研究は意義深いと考える。【方法】対象は,2011年9月から2013年8月までに初発の脳梗塞または脳出血と診断され当院回復期病棟に入院した脳卒中患者で,入院時FIMが96点未満で入院期間が1ヶ月以上の95名(男性51,女性44)とした(テント下病変,くも膜下出血,リハビリ中止例は除外)。平均年齢は74.8±11.6歳,発症から入院までの期間は34.9±15.9日,入院期間は88.8±46.9日であった。2011年9月から2012年8月までの54名(男性32,女性22名)は園田(1995)の予測式を使用し予測値1を算出し,実測値1を収集した。2012年9月から2013年8月までの41名(男性20名,女性21名)は当院独自の予測式を使用し予測値2を算出し,実測値2を収集した。園田の予測式は0.222×入院時FIM-m+0.606×入院時FIM認知項目-0.106×入院までの期間-0.292×年齢+2.77×Stroke Impairment assessment Set(SIAS)膝伸展-0.717×SIAS足関節-3.43×SIAS言語-1.29×SIAS上肢関節可動域-1.94×SIAS大腿四頭筋筋力-1.65×SIAS下肢触覚+1.06×SIAS腹筋+82.3である。当院の予測式は54.5+入院時FIM-m×0.539+入院時意欲(Vitality Index;V.I.)×2.674+年齢×(-0.717)+SIAS総得点×0.318である。統計学的処理はそれぞれ予測値と実測値の比較にMann-WhitneyのU検定を用いた。また,サンプルサイズの影響を考慮し,効果量(Effect size;ES)を求めた。有意水準は両側5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】後方視的研究となるため,個人の情報が特定されないよう倫理的な配慮を行った。【結果】実測値1は47.3±24.0点,予測値1は65.1±9.6点であり,有意な差が認められた(p<0.05,ES;0.36)。一方,実測値2は48.0±24.5点,予測値2は51.5±21.9点であり,有意な差は認められなかった。【考察】本結果から,先行研究の予測式では当院の対象に対し有意な差が認められたが,当院独自の予測式では有意な差が認められなかったことから,当院対象者には当院独自の予測式の方が,予測精度が高いことが示唆された。先行研究の対象者と当院の対象者では属性が異なる点や,先行研究の予測式ではリハビリの効果に影響し得る対象者の意欲について考慮されてない点が予測値と実測値に大きな差が生じている理由と考えられる。脳卒中治療ガイドラインでは予測精度,適用の限界を理解して使用すべきとされているが,本結果からも先行研究の活用には注意が必要と考えられる。より精度の高い予後予測を行うためには,対象者の属性に合わせた独自の予測式を検討し活用していくことが重要であると考える。【理学療法学研究としての意義】正確な目標設定を行っていくためには,精度の高い予後予測を実施していく必要がある。そのためには対象者に合わせた予測方法を検討する必要があり,各病院独自で作成していく必要性を示唆している。
  • 村端 隼, 榎本 洋司, 笹井 俊秀, 小暮 英輔, 今井 正樹, 福田 千佳志
    セッションID: 0567
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    <はじめに>当院では,入院患者の病棟内歩行を自立とする際に,独自の判定項目を作成し自立歩行可否の判断を行っている。2010年度において歩行自立判定項目について,自立と判定された患者の転倒率等を検討した。その結果,病棟での転倒が半数以上であること,Functional Independence Measure(以下FIM)において転倒者は排尿・排便の点数が有意に低下し,トイレ動作における転倒が多いことが認められた。その結果を踏まえ今回新自立判定項目を作成しその妥当性について検討したので報告する。<方法>対象は2010年4月1日~2011年3月31日までの期間内にて前自立判定項目で病棟内歩行自立と判定した当院入院患者110名(男性56名,女性54名,平均年齢70.5±12.3歳,疾患の内訳は脳梗塞62名,脳出血33名,くも膜下出血5名,その他10名)と,2012年6月1日~2013年5月31日までの期間内にて新自立判定項目で病棟内歩行自立と判定した当院入院患者93名(男性67名,女性26名,平均年齢67.7±12.4歳,疾患の内訳は脳梗塞58名,脳出血18名,くも膜下出血4名,その他17名)とした。新判定項目として病棟内実動作評価,排泄評価を追加し以下の項目について比較した。年齢,男女比,歩行自立までの日数,自立率(全脳血管障害入院患者数に占める歩行自立患者数),転倒率,入院時FIM,自立時FIM,10m歩行速度,Time Up and Go(以下TUG),Functional Balance Scale(以下FBS),である。統計処理は,t検定,χ2検定,Mann-Whitney検定を用い,有意水準を5%未満とした。〈説明と同意〉ヘルシンキ宣言に基づいて当院の倫理規定にそって当院責任者の承諾を得た上でデータ収集を行った。データ収集では個人が特定できる情報は削除し,個人の同定を全く不可能とした。またデータは施錠のできるところに保管し,情報の分析に使用されるコンピュータを含め十分に注意を払った。<結果>自立率(前項目33.9%,新項目32.9%)および,自立までの日数(前項目38.7±41.0日,新項目37.3±42.2日)は有意差は認めなかったが,転倒率は前項目では16.8%(転倒群16名,非転倒群94名),新項目では4.3%(転倒群4名,非転倒群89名)と低下していた。また,自立と判定された患者の年齢(前項目71.4±11.9歳,新項目67.7±12.6歳),男女比(前項目:男性47名,女性49名,新項目:男性64名,女性26名)に有意差を認めた。入院時FIMおよび自立時FIM,FIM排泄項目に有意差は認めなかったが,10m歩行速度(前項目:53.8±21.2 m/min,新項目:63.8±23.6 m/min),TUG(前項目:16.9±7.9 sec,新項目:14.7±8.0 sec),FBS(前項目:46.0±6.7,新項目:48.8±5.6)は,いずれも新項目において高い値を示した。インシデント・アクシデント報告書より,転倒場所として前項目が「病室」57.7%,新項目が「トイレ周辺」50%,「病室」50%,トイレに関する動作中の転倒は前項目が30.1%,新項目が75%であった。<考察>先行研究では,病棟内歩行自立後の転倒者の割合は13~16%である。前項目の転倒率が16.8%であったのに対して,今回の転倒率は4.3%であり大幅に低下した。先行研究の転倒率と比較しても大きく下回っている。しかし10m歩行,TUG,FBSは新項目において高い値を示し,さらに先行研究で報告されているカットオフ値よりも高い水準であった。これは,新項目において病棟での実動作評価を加えたことが要因の一つであると考える。これに加え新項目での自立者の年齢に有意差がある事や自立までの日数に差がなかったことから,新項目ではより早期に自立出来た可能性がある。よって,一律に判定項目の結果だけで病棟歩行導入を考えるのではなく,患者の最大能力を活用するための環境面の工夫など,より個別性の高い病棟生活の実現を考えていくことも必要である。また転倒内容は依然としてトイレに関する動作時に多いことから,リハビリ時間以外(夜間・早朝)でのトイレ動作評価も検討していくと共に今後も継続した判定項目の見直しが必要である。<理学療法士研究としての意義>歩行自立判定は理学療法士としての専門性が高く,信頼性や客観性を求められる。今後も転倒率などを追跡調査することでより精度の高い歩行自立判定方法になることが期待できる。
セレクション
  • ―せん断波エラストグラフィーによる評価―
    建内 宏重, 白鳥 早樹子, 市橋 則明
    セッションID: 0568
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】腸脛靭帯炎は,ランナーや変形性膝関節症患者において頻度が高く,大腿骨外側上顆部での腸脛靭帯(ITB)による圧迫や摩擦により生じるため,ITBの硬度が高いことが腸脛靭帯炎の直接的な原因と考えられる。したがって,ITBの硬度に影響を与える要因を明確にすることは,腸脛靭帯炎の評価・治療において重要である。しかし,現在までITBの硬度を測定した報告は存在しないため,ITBの硬度に影響を与える要因も明らかではない。ITBの硬度を変化させる要因としては,主に股内外転角度や股内外転モーメント,股外転筋群の筋活動の変化などが考えられる。本研究では,近年開発された,生体組織の硬度を非侵襲的に測定できるせん断波エラストグラフィーを用いて,股関節の角度およびモーメント,股外転筋群の筋活動の変化がITBの硬度に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常者14名(男性7名,女性7名:平均年齢22.0歳)とした。課題は,骨盤,体幹ともに3平面で中間位の片脚立位(N),下肢挙上側の骨盤を前額面で10°下制させ体幹は中間位にした片脚立位(Pdrop),Pdropの肢位で体幹も下肢挙上側へ傾斜させた片脚立位(PTdrop),下肢挙上側の骨盤を前額面で10°挙上し体幹は中間位にした片脚立位(Prise),Priseの肢位で体幹も支持脚側へ傾斜させた片脚立位(PTrise)の5条件とした。ITB硬度(弾性率)の測定には,超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用いた。測定部位は膝蓋骨上縁の高位とし,5秒間姿勢を保持し超音波画像が安定してから記録した。また同時に,3次元動作解析装置(Vicon motion systems社製)と床反力計(Kistler社製)を用いて,各条件の股内外転角度・モーメント(内的)を測定した。加えて,ITBと解剖学的に連続する大殿筋(上部線維),中殿筋,大腿筋膜張筋(TFL),外側広筋の筋活動量を表面筋電計(Noraxon社製)により記録した。筋電図は,各筋の最大等尺性収縮時の値で正規化した。各条件の測定順は無作為とし,各々2回ずつ測定を行った。超音波画像でのITB硬度の測定は,ITB部に関心領域を3か所設定し,それらの部位の弾性率の平均値を求めた。なお,この測定は,実験後に条件が盲検化された状態で一名の検者が行った。ITBの硬度,筋活動量,股角度とモーメント各々について2試行の平均値を解析に用いた。各条件間の比較をWilcoxon符号付順位検定とShaffer法を用いた補正により行い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】所属施設の倫理委員会の承認を得たのち,対象者には本研究の主旨を書面及び口頭で説明し,参加への同意を書面で得た。【結果】股外転角度は,N(0.2°;中央値)に対してPdrop,PTdropで有意に内転位(-7.5°,-8.7°),Prise,PTriseで有意に外転位(11.0°,11.4°)であった。PdropとPTdrop間,PriseとPTrise間には有意差はなかった。ITB硬度は,N(10.7 kPa;中央値)に対してPTdrop(13.2 kPa)では有意に増加し,PTrise(8.1 kPa)では有意に減少したが,Nに対してPdrop(11.8 kPa)とPrise(8.7 kPa)では有意差を認めなかった。また,ITB硬度はPdropよりPTdropで有意に増加し,PdropよりもPriseで有意に減少した。股外転モーメントは,NよりもPTdropで増加,PTriseで減少し,Pdrop,Priseでは有意な差を認めなかった。さらに股外転モーメントは,PdropよりもPTdropで有意に増加し,PriseよりもPTriseで有意に減少した。筋活動における有意差として,大殿筋はPriseで他条件よりも増加し,中殿筋とTFLはNよりもPdrop,PTdropで減少,Priseで増加し,外側広筋はNに対してPriseで増加した。【考察】ITB硬度はPTdropで最も増加した。PTdropはNよりも中殿筋やTFLの筋活動量が減少したが股内転角度は増大しており,外転筋群の筋活動量よりも股関節角度の影響を強く受けたと考えられる。しかし,PdropはPTdropと股内転角度は同じでもNと比べてITB硬度の有意な増加は認めなかった。PTdropとPdrop間では,筋活動量に差がないもののPTdropの方が股外転モーメントは増加しており,股関節角度だけでなくモーメント変化もITB硬度に重要な影響を与えることが示された。【理学療法学研究としての意義】本研究により,ITB硬度が増加しやすい姿勢とともに硬度に影響を与える要因が明らかとなった。本研究は,腸脛靭帯炎の評価・治療に関して意義のある研究であると考える。
  • ―他動ストレッチと自動ストレッチでの検討―
    野末 琢馬, 高橋 健太, 松山 友美, 飯嶋 美帆, 渡邊 晶規, 小島 聖
    セッションID: 0569
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】ストレッチは可動域の拡大や組織の柔軟性向上,疲労回復効果などが報告されており,理学療法の現場においても多用されている。近年,ストレッチが柔軟性に与える影響だけでなく,筋力にも影響を及ぼすとした報告も散見される。Joke(2007)らは10週間週3回のセルフストレッチ(自動ストレッチ)を継続して実施したところ,発揮筋力が増大したと報告している。ストレッチによる筋力の増大が,他動的なストレッチにおいても得られるとすれば,身体を自由に動かすことが困難で,筋力増強運動はもちろん,自動ストレッチができない対象者の筋力の維持・向上に大変有用であると考えられた。そこで本研究では,長期的な自動および他動ストレッチが,筋力にどのような影響を及ぼすか検討することを目的とした。【方法】被験者は健常学生48名(男性24名,女性24名,平均年齢21.3±0.9歳)とし,男女8名ずつ16名をコントロール群,他動ストレッチ群,自動ストレッチ群の3群に振り分けた。他動ストレッチ群は週に3回,一日20分(各筋10分)の他動ストレッチを受け,自動ストレッチ群は同条件で自動運動によるストレッチを実施した。対象筋は両群とも大腿直筋とハムストリングスとし,介入期間は4週間とした。ストレッチ強度は被験者が強い痛みを感じる直前の心地よい痛みが伴う程度とした。測定項目は柔軟性の指標として下肢伸展拳上角度(以下SLR角度)と殿床距離を,筋力の指標として膝関節90°屈曲位の角度で膝伸展・屈曲の最大等尺性筋力を測定した。測定は4週間の介入前後の2回行った。測定結果は,それぞれの項目で変化率(%)を算出した。変化率は(4週間後測定値)/(初回測定値)×100とした。群間の比較には一元配置分散分析を実施し,多重比較検定にはTukey法を用いた。有意水準は5%とし,統計ソフトにはR2.8.1を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本学の医学研究倫理委員会の承認を得て行った。被験者には事前に研究内容について文書および口頭で説明し,同意が得られた場合にのみ実施した。【結果】膝伸展筋力の変化率はコントロール群で95.6±8.7%,他動ストレッチ群で115.2±21.2%,自動ストレッチ群で102.9±10.0%であった。コントロール群と他動ストレッチ群において有意な差を認めた。膝屈曲筋力,SLR角度,殿床距離に関してはいずれも各群間で有意差を認めなかった。【考察】本研究結果から,長期的な他動ストレッチにより膝伸展筋力の筋力増強効果が得られることが示唆された。筋にストレッチなどの力学的な刺激を加えることで筋肥大に関与する筋サテライト細胞や成長因子が増加し活性化され,筋力増強効果が発現するとされている(川田ら;2013)。本研究では,ストレッチによる,SLR角度や殿床距離の変化は見られなかったが,長期的なストレッチによる機械的刺激そのものが,上記に述べた効果に貢献し,筋力増強効果が得られたと推察される。膝屈曲筋力において筋力増強効果を認めなかった点について,両主動作筋の筋線維組成の相違が原因と考えられた。大腿四頭筋はTypeII線維が多いのに対し,ハムストリングスはTypeI線維が多く(Johnsonら;1973),筋肥大にはTypeII線維がより適しているとされている(幸田;1994)ことが影響したと考えられた。自動ストレッチによって筋力増強効果を得られなかったことに関しては,自己の力を用いて行うため,他動ストレッチに比べて筋を十分に伸張することができず,伸張刺激が不足したためと推察された。【理学療法学研究としての意義】他動ストレッチを長期的に行うことで筋力増強効果を得られる可能性を示唆した。他動的なストレッチが筋力にどのような影響を及ぼすのか検討した報告はこれまでになく,新規的な試みだと言える。他動的なストレッチを一定期間継続することで筋力の維持・向上に寄与することが明らかとなれば高負荷のトレーニングが適応とならない患者や,自分で身体を動かすことのできない患者にとって有用である。
  • 姿勢は会陰部へどのような影響を及ぼすか
    槌野 正裕, 荒川 広宣, 小林 道弘, 中田 晃盛, 西尾 幸博, 中村 寧, 辻 順行, 山田 一隆, 高野 正博
    セッションID: 0570
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【背景】当院は大腸肛門病の専門病院で,排便障害を主訴とする症例が多く来院する。一方,近年の高齢社会では直腸脱患者が増加している。諸家によると,直腸脱は6対1で女性に多く,男性は年齢による差はないが,女性の多くが高齢者であるとされ,当院でも高齢女性の直腸脱患者が増加している。また,直腸脱患者は排便障害の症状を持つものが多く,半数が排便困難に対する強い怒責の習慣をもち,15%は下痢であるとの報告がある。直腸脱では,このために活動範囲が制限されて生活の質(QOL)が低下する。活動範囲が制限されることで,ますます運動機能が低下するという悪循環に陥ってしまい,理学療法士の関与が必要であると考える。また,高齢直腸脱患者は,変形性脊椎症や圧迫骨折により脊椎のアライメントが崩壊し,腰椎の生理的前彎は消失し,骨盤は後傾している。第48回の当大会で姿勢の違いによる肛門内圧の検討を行い,骨盤が後傾した姿勢では前傾した姿勢よりも肛門内圧が低下することを報告した。そこで,今回は排便造影検査(Defecography)で会陰部の下垂について,姿勢の違いによる影響を前向きに検討したので報告する。【対象と方法】2013年4月から6月にDefecographyを施行した症例で,rest,squeezeを前屈座位と直立座位で撮影し,恥骨下端と尾骨先端を結ぶ恥骨尾骨線(PC-line)からの垂線で肛門縁までの距離Perineal Descent(PD),肛門管長軸と直腸長軸とのなす角Anorectal Angle(ARA)の計測が可能であった44例の中から,女性30例(平均年齢69.8±8.2歳)を対象として,姿勢の違いによるPDとARAの変化についてpaired-Tで比較検討した。なお,計測は電子ファイル上で経験のある放射線技師が行い,その結果のみを研究担当者が分析した。【説明と同意】臨床研究計画書を作成し,当院倫理委員会の許可を得て研究を行った。【結果】前屈座位と直立姿座位でPDは,restが6.8±16.3と29.0±17.5,squeezeで23.0±14.8と19.1±16.0であり,共に前屈座位で有意(p<0.01)にPDは増大した。また,ARAはrestで117.7±19.6と109.9±25.3,squeezeで104.8±22.4と97.6±25.7であり,PDと同じく前屈座位で有意(p<0.01)に鈍化していた。そこで,restとsqueezeにおける姿勢の違いによる差を検討したところ,PDがrestで7.8±6.8,squeezeで3.9±7.4と,restがsqueezeに対して有意(p<0.01)に下垂していたが,ARAはrestで7.7±12.8,squeezeで7.2±8.8と差を認めなかった。さらに,同姿勢におけるrestとsqueezeの差を検討したところ,PDは前屈で13.8±7.2,直立で9.9±5.8となり有意(p<0.01)に前屈座位で下垂していたが,ARAは前屈で12.9±8.4,直立では12.3±7.9と差を認めなかった。【考察】今回,姿勢の違いによるrestとsqueezeの会陰部への影響を比較検討した。PDとARAは共に前屈座位で会陰部は下垂し,角度は鈍角となっていた。また,姿勢の違いによるPDはrestの方がsqueezeよりも下垂していたが,ARAでは差を認めなかった。更にrestでの姿勢の違いによる差とsqueezeでの差も同様にPDはrestで有意に下垂していたが,ARAでは差を認めなかった。これらの結果から,会陰部の下垂には骨盤底筋群の筋緊張が関与していることが考えられ,直立した骨盤前傾位よりも前屈した骨盤後傾位でより弛緩していることが示唆された。変形性関節疾患の高齢者では,骨盤が後傾していることが多く,今回の結果から骨盤底筋群の緊張が低下し易いことが考えられる。骨盤底筋群の役割の一つに骨盤内臓器の保持があげられるが,安静時で下垂の程度が大きくなっていることから,骨盤が後傾している姿勢では,荷重負荷が骨盤底に常時加わっていることが考えられる。その機能が低下することで,直腸脱などの骨盤内の臓器脱などを引き起こすことが考えられる。【理学療法学研究としての意義】理学療法士として,直腸脱など骨盤内臓器脱の症例に対しては,広い視点で全身の姿勢評価を行い,適切なアプローチを行うことで,症状の再発予防だけではなくQOLを高め,運動機能の低下を予防できると考えられる。
  • 腰背筋活動様態の筋電図学的解析
    村尾 昌信, 佐藤 嘉展, 畑本 清一, 中嶋 正明
    セッションID: 0571
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】本邦における腰痛の生涯罹患率は70%を越え,社会問題となっている。腰痛患者において腰部多裂筋(以下LM)は,椎間関節由来のReflex Inhibition(以下RI)によって選択的かつ顕著な萎縮が生じると報告されている。腰痛の軽減および再発の予防にはLMの選択的な強化が必須である。LMの強化を目的とした腰痛exerciseは散見されるが,LMの選択的収縮が認められたという報告はない。腰痛exerciseとして推奨されている腹部ドローイン,バードドッグにおいても同様の傾向が見られる。Global筋の活動は,腰椎にトルクを生み,二次的なRIを惹起する可能性がある。それに対し,LMに代表されるLocal筋は,脊柱における分節的な安定性に貢献する。我々はLMの選択的強化をコンセプトに新たなexercise(以下N-ex)を考案した。本研究の目的は,N-exにおけるLMの活動度および腰背筋の活動局在を筋電図学的解析によって明らかにし,より効果的な腰痛exerciseとして提案することである。【方法】対象は整形外科的疾患の既往のない健常人21名(男性13名,女性8名:平均年齢20.9±0.9歳,平均BMI20.4±1.9)とした。表面筋電計はNicolet Viking IV(Nicolet社)を用い,筋電図導出筋は,Local筋であるLMと,Global筋である胸腸肋筋(以下ICLT)とし,いずれも左側の筋に統一した。全ての筋電図計測は5秒間行い,不安定な前後部分を切り捨てた3秒間の筋電図積分値を得た。全被験者に対して各筋の最大活動時筋電図積分値(MVIC)を得た後,腹部ドローイン,バードドッグ,N-exの3種類のexercise実施時における筋電図積分値(IEMG)を得た。腹部ドローインは腹臥位にて,下腹部に平常時圧70mmHgに調節したマンシェットを敷き,腹部の引き上げによって60-64mmHgの位置で保持させた(C. A. Richardsonら1995)。バードドッグは四つ這い位より,右上肢および左下肢を拳上(肩関節屈曲180°,股関節中間位),保持させた。N-exは治療台に向かい膝立ち位をとらせ,頭頚部,上部体幹前面および両上肢を治療台に接地し,脱力させた。その後,両股関節90°屈曲位となるように治療台の高さを調節し,左側下肢を拳上(股関節中間位),保持させた。LMの活動度を抽出するため,IEMG/MVIC比率(%MVIC)を求め,3群間で比較した。腰背筋の活動局在を抽出するため,ICLT(Global筋)の活動に対するLM(Local筋)の活動比(L/G ratio)を求め,3群間で比較した。統計処理には,いずれも一元配置分散分析を用いた。さらに,有意差が認められた場合にはPost hoc検定としてBonferroni/Dunn法による多重比較を行った。有意水準はp<0.05とした。統計解析ソフトにはStat View Version 5.0 softwareを用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究を行うに当たり,吉備国際大学倫理審査委員会の承認を受けた(12-13)。対象者に対して本研究における主旨の説明を十分に行い,賛同を得た上で実施した。【結果】LMの%MVICは腹部ドローイン群が3.0±3.9%,バードドッグ群が25.7±11.4%,N-ex群が30.3±12.7%であった。N-ex群の%MVICは腹部ドローイン群に対して有意に高比率(p<0.001)を示したが,バードドッグ群との有意差は認められなかった。L/G ratioは腹部ドローイン群が1.0±0.6,バードドッグ群が2.5±1.6,N-ex群が7.2±4.0であった。N-ex群のL./G ratioは腹部ドローイン,バードドッグ両群に対して有意に高比率(p<0.001)を示した。【考察】N-exの活動度は,腹部ドローインに対して有意に高く,LMの強化を目的とした腰痛exerciseであるバードドッグと同等の値を示した。これはN-exにおける腰椎以下の体幹および下肢の肢位が,バードドッグと同様の肢位をとることに由来すると推察する。さらにN-exのL/G ratioは,腹部ドローイン,バードドッグと比較して有意に高い値を示した。N-exを考案する過程で最も重要視した点は,脊柱に発生するトルクを可能な限り除去し,Global筋の活動を抑制することであった。N-exにおけるL/G ratioの高値は,Global筋の活動を抑制した結果であると推察する。Global筋の活動抑制は,exerciseに起因する二次的なRIを予防し得る。以上より,N-exは,推奨されているバードドッグと同等なLMの活動度を示しつつ,LMの選択的な活動も得られる,より効果的な脊柱安定化exerciseであると考える。N-exの腰痛exerciseとしての効果を検証するため,今後,腰痛患者を対象にした介入研究が必要である。【理学療法学研究としての意義】本研究では健常者を対象に,独自に考案したN-exにおけるLMの十分な活動度および選択的活動性を明らかにした。このことからN-exが,LMの選択的萎縮を呈した腰痛患者に対して高い適合性を有する可能性が示唆された。本研究は,真に有効な腰痛exerciseを構築する上で,基礎となるexerciseを提案した。
  • 上村 一貴, 東口 大樹, 高橋 秀平, 島田 裕之, 内山 靖
    セッションID: 0572
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】軽度認知障害(mild cognitive impairment;MCI)は記憶機能や注意機能の低下を特徴とし,アルツハイマー病の前段階として位置づけられる。MCIを有する高齢者は転倒リスクが高く,その予防のために特異的な評価や介入が必要であると考えられるが,MCIのバランスや姿勢調節機能に関する報告は少ない。本研究では,MCIの姿勢調節機能の特徴を明らかにするため,注意機能との関連も報告されている,ステップ動作開始時の予測的姿勢調節(Anticipatory Postural Adjustment[APA])の正確性および動作時間の分析に着目した。我々は,若年健常者においてもAPAの潜在的エラーは動作開始時に注意負荷が加わることによって増加することを報告しており,認知機能の低下したMCIでは注意負荷を伴う反応課題でAPAの潜在的エラーの増加や動作時間の遅延がより顕著に生じやすいのではないかという仮説を立てた。本研究の目的は,軽度認知障害が注意負荷を伴うステップ反応動作時の姿勢調節に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】対象は2011年8月~2012年2月に実施されたObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)に参加した65歳以上の地域在住高齢者5,104名のうち,Petersonの定義によりMCIと判定される41名(平均65.8歳)と,年齢・性別をマッチングさせた認知健常高齢者41名(平均65.6歳)とした。その他の神経学的疾患を有する場合は除外した。測定課題は,前方のモニターに表示される視覚刺激(矢印)の示す方の足をできるだけ早く30cm前方に踏み出すこととした。視覚刺激は選択的注意課題であるFlanker taskを用い,5つの矢印(→→→→→;一致または→→←→→;不一致)の表示に対して中央の矢印の示す方向の足を踏み出すよう指示した。2枚の重心動揺計(Anima社製)で測定した床反力垂直成分のデータから,ステップ動作時間(開始合図から遊脚側接地まで)を求め,(a)反応相:開始合図から,一側への体重移動開始(体重の5%以上の移動)まで,(b)APA相:体重移動開始から遊脚側離地まで,(c)遊脚相:遊脚側離地から接地まで,の三つに細分化した。指示とは逆の足を出した場合をステップエラー,APA開始時に通常とは逆に立脚側への体重移動が生じた場合をAPAの潜在エラーと定義した。一致と不一致の各条件について5試行の平均値を求めた。また,運動機能評価として歩行速度,5 chair stand test,一般認知機能評価としてMini-Mental State Examination(MMSE),注意機能としてTrail Making Test(TMT)-A,Bを測定した。統計解析は,ステップ動作の時間因子については,群(MCI,健常)と条件(一致,不一致)を2要因とした二元配置分散分析を用いて検討した。その他の変数については,対応のないt検定により,群間比較を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明し,同意を得た。実施主体施設の倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。【結果】年齢,性別,歩行速度,5 chair stand test,MMSEには群間で有意な差はみられなかった。TMT-A,Bの遂行に要する時間はMCI群で遅延していた(p=0.03,p=0.001)。ステップ動作時間およびAPAの潜在エラーは群と条件の交互作用がみられ(p=0.043,p=0.027),MCI群では,不一致条件で注意負荷が加わることにより増加しやすいという結果を示した。相ごとの分析では,APA相でのみ有意な交互作用がみられ(p=0.003),不一致条件において健常群(0.51s)に比較してMCI群(0.57s)で遅延していた(p=0.04)。また,ステップエラー,反応相および遊脚相には群間差はみられなかった。【考察】MCI高齢者は,歩行速度などの一般的な運動機能評価に低下はみられなかったが,注意負荷を加え,動作開始時の認知的過程を強調した評価を行うことで,特異的な姿勢調節能力低下が顕在化した。MCIは注意負荷が加わる動作場面で,潜在的な判断ミスを生じ,動作時間が増加しやすいことが示された。【理学療法学研究としての意義】本研究はMCIの姿勢調節機能の低下を明らかにすることにより,転倒予防のための評価や介入に注意負荷を伴う反応課題を取り入れることの有用性を示唆し,効果的な理学療法プログラムの開発に寄与すると考える。
  • ステップ中の下肢筋活動の変化に着目して
    越智 亮, 阿部 友和, 山田 和政, 建内 宏重, 市橋 則明
    セッションID: 0573
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】つまずき後の下肢の踏み出し反応(以下,ステップ)は転倒回避にとって重要である。ステップを実験的に誘発する方法によって,易転倒高齢者は非転倒者に比べ,ステップ長やステップ速度が低下していること,ステップ中の筋活動量減少や,筋活動ピーク出現の遅れがあること等が明らかにされている。このように,ステップ機能の低下は,踏み出し脚の筋活動に反映される。高齢者のステップ機能の改善には,下肢筋力やパワーのトレーニング,バランストレーニングが有効であると報告されている。最近,全身振動刺激(以下,WBV;whole-body vibration)を筋力トレーニングに併用することで,筋力増強効果が促進される報告が多く散見される。本研究の目的は,高齢女性を対象に,通常のバランストレーニングと,WBVを併用したトレーニングが,ステップ機能改善に与える効果の違いについて筋電図学的に検証することである。【方法】歩行が自立している養護老人ホーム在住の高齢女性20名を対象とし,約30分/日,3日/週,12週の介入前後にステップ動作中の筋活動を評価した。WBVを併用する群10名(以下,WBV群,80.9歳)とWBVを用いない群10名(以下,STE群;standard exercise without WBV,80.2歳)にランダムに分けた。ウォーミングアップ後,WBV群に,振動板上(Galileo 2000,Novotec社製)で,ハーフスクワット,踵挙上,つま先挙上,前後左右の最大リーチ動作を行わせた。振動刺激は1日3分間実施した。刺激強度は10Hzから開始し,毎週1Hzずつ増加させた(最終週21Hz)。STE群にはWBV群と同様の運動を3分間,床面上で行わせた。両群に共通のバランストレーニングは1日25分間で,内容は,ランジ動作(大,小,前後,左右,速く,遅く,体幹垂直位で下肢踏み出しを行う)と片脚立位,タンデム歩行,ホッピング等とした。ステップ評価は,被験者に牽引ケーブルで背部を牽引した(体重の20%の牽引力)状態で身体を前傾させ,検査者が牽引を解き放った後に下肢を前に踏み出させる方法を使用した。その際,踏み出し脚の大腿直筋(以下,RF),外側広筋(以下,VL),大腿二頭筋(以下,BF),腓腹筋外側頭(以下,GC),前脛骨筋(以下,TA)から筋活動を導出した。筋電計と同期させた3次元動作解析装置を使用し,初期姿勢と着地時姿勢における踏み出し脚の踵マーカー位置の差から,ステップ長(%height),遊脚時間からステップ速度(m/s)を導出した。筋電図解析から,牽引解除から各筋の活動開始までの時間(EMG onset),ステップ接地までの筋活動ピーク時間(EMG peak timing),介入前後それぞれの時点での最大等尺性収縮(MVC)で正規化されたピーク筋活動量(%MVC)を算出した。統計処理は,群×期間の反復測定二元配置分散分析を用い,交互作用を認めた場合はBonferroni法による事後検定を行った。【倫理的配慮,説明と同意】所属施設の倫理委員会にて承認を得た(承認番号E1479)。参加者に十分な説明を行い,書面にて同意を得た。【結果】両群のトレーニング回数は差がなかった(WBV;35.6±0.7回,STE;35.8±0.4回)。12週の介入後,両群のステップ長が増加した(WBV;32.1±5.2%→33.8±5.8%,STE;31.9±5.0%→34.2±6.3%,期間主効果p<0.05)。ステップ速度は交互作用を認め(WBV;1.79±0.29 m/s→1.97±0.31 m/s,STE;1.67±0.28 m/s→1.71±0.24 m/s,群×期間交互作用p<0.05),WBV群のみ有意に増加した。各筋のEMG onsetとEMG peak timingは全て変化がなかった。ピーク筋活動量は,RF(WBV;122±29%→133±27%,STE;120±27%→146±33%),BF(WBV;158±63%→181±54%,STE;165±44%→180±52%)が両群ともに増加した(期間主効果p<0.05)。GCは交互作用を認め,WBV群のみ有意に活動量が増加した(WBV;130±31%→182±49%,STE;122±38%→139±41%,群×期間p<0.05)。カッコ内は全て平均値±標準偏差を示す。【考察】ランジ動作を含むバランストレーニングは,高齢女性のステップ機能を改善させた。その機能改善はステップ中の筋活動量の増加に反映された。一方,WBVを加えた介入はステップ速度も向上させ,通常のバランストレーニングとの違いはGC活動に認められた。ステップ中のGC活動は,主に踏み出し直前の足プッシュオフに作用する。バランストレーニングにWBVを併用することで,足底屈筋のプッシュオフとステップ踏み出し速度をより効果的に改善できることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】高齢者の転倒回避ステップの能力は,ランジ動作を含むバランストレーニングにより改善すること,それが下肢筋活動に反映されることを示し,さらにステップ動作に対する全身振動刺激を用いた介入の効果を明らかにした。
  • 十鳥 献司, 前田 守, 前田 三和子, 中原 義人
    セッションID: 0574
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】一般に高齢者では立位姿勢における重心が後方に偏位し,後方バランスの低下により転倒リスクが増加する事が知られている。地域高齢者に対するバランストレーニングは種々の報告があるが,入院高齢者に対する短期的な効果をみたものは少ない。この度,我々は高齢者に特有の後方バランス低下に対する短期間のトレーニング効果を検証したので報告する。【方法】対象は医療療養型病床に入院している高齢者のうち,FIM移動が5点以上,かつHDS-Rが21点以上の者20名(平均年齢80.0±7.4歳,男性7名,女性13名)とした。20名を無作為にコントロール群(A群),トレーニング群(B群)に分類し,平成25年10月の同一日に,Berg Balance Scale(以下BBS),後方リーチ距離(平行棒内で片上肢支持下で実施),後方ステップ距離(平行棒内で両上肢支持下で実施),後方歩行時間(ミナト医科学社製3.5m平行棒を両上肢支持で往復の所要時間2回の平均)の4項目を計測した。その後B群には通常の理学療法プログラムに加えて,7日間の後方バランストレーニングを実施し,A群には通常理学療法プログラムのみ実施した。8日目に再度前述の4項目を計測し,介入前後で比較した。後方バランストレーニングの内容は,後方リーチ,後方ステップ,後方への体幹回旋,踵への重心移動を左右各10回,平行棒内後方歩行を2往復とした。介入前の両群の比較にはt検定,介入後の比較には対応のあるt検定を用いて,有意水準5%未満を有意差ありとした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に事前に研究の趣旨を説明し同意を得た。また,データの使用については匿名である事を条件に了承を得た。【結果】介入前のデータ(A群/B群 いずれも平均値)は,年齢(82.9/76.9歳),BBS(41/44),後方リーチ距離(右44.8/48.2 左45.9/44.8cm),後方ステップ距離(右60.6/49.3 左59.1/47.0cm),後方歩行時間(44.0/45.6秒)であり,いずれも統計学的有意差は認められず,初期条件に差異はなかった。介入3日目にB群の1名が内科的体調不良により離脱した。BBS,後方ステップ距離,後方歩行時間において,B群のみ介入前後で統計学的有意差が認められた(p<0.05)。後方リーチ距離については介入前後で両群ともに有意差は認められなかった。【考察】今回の結果では介入前の初期条件に差はなかったが,介入後のB群において,BBS,後方ステップ距離,後方歩行時間の3項目で有意に改善しており,7日間の後方バランストレーニングの有効性が示唆された。後方ステップと後方歩行については検査とトレーニングの内容が一致しており,バランスに関連する神経や筋への刺激効果の他に,運動学習による動作習熟が得られたものと思われる。対象に認知症などの高次脳機能の問題がなかった事,課題動作は上肢支持ありで比較的難易度が低かった事が学習を促進した可能性がある。後方リーチで有意差がみられなかった要因として,動作時の体幹回旋の許容や対測上肢支持への依存などの代償が影響し,再現性が不十分であった事が考えられる。BBSの有意な改善は転倒リスクの軽減に寄与すると思われるため重要と考える。今後は対象者を拡大し,実際の転倒予防効果についても検証していきたい。【理学療法学研究としての意義】改善が難しいと思われる入院高齢者に対し,比較的簡便な方法で短期的にバランス指標の改善が認められた事は有意義と思われる。今後は転倒予防プログラムへの応用等が考えられる。
  • 腹側運動前野から小脳核へと投射する新たな出力経路の構築
    山本 竜也, 村田 弓, 林 隆司, 肥後 範行
    セッションID: 0575
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】第一次運動野は大脳皮質と脊髄とを結ぶ皮質脊髄路ニューロンを豊富に含む領域である。この領域に損傷を受けると運動麻痺が生じる。しかし,このような麻痺は回復することがある。マカクサルを用いた行動学および脳機能画像解析により,第一次運動野を損傷した後に手指の把握運動が回復すること,その背景に大脳皮質運動関連領域(特に損傷同側腹側運動前野)による機能代償があることが明らかにされてきた。すなわち,損傷を受けた経路自体が再生しなくても,直接的な損傷の影響を免れた大脳皮質運動関連領域が代償的に機能することにより,運動機能が回復すると考えられている。しかし,このような機能代償がどのような神経回路基盤により制御されているのかは不明である。そこで本研究では,組織学的手法を用いて,損傷同側腹側運動前野を起源とするニューロンの投射先を運動機能回復後の損傷マカクサルと健常マカクサルとの間で比較することにより,第一次運動野損傷後の運動機能回復に伴う神経回路の変化を検証した。【方法】健常マカクサル2頭(Macaca mulatta,体重:5.0-5.5 kg,性別:オス)と第一次運動野(手領域)損傷マカクサル3頭(Macaca mulatta,体重:7.0-8.0 kg,性別:オス)を用いた。皮質内微小刺激及びイボテン酸を用いて,第一次運動野(手領域)に不可逆的な損傷を作成した。手指の把握運動機能を評価するために,目の前にある小さな餌をつまみ取る行動課題をマカクサルに学習させた。餌を落とさずに食べることを課題成功の条件とした。損傷前と同程度な機能回復レベルに達した損傷マカクサル(損傷後3ヵ月以上)に解剖学的トレーサー(Biotinylated Dextran Amine)を損傷同側腹側運動前野へ注入し,その約1か月後に還流固定を行った。凍結切片作成後,トレーサー陽性軸索を可視化するために免疫組織化学を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本実験は独立行政法人産業技術総合研究所の動物実験委員会による承認を得て行われた。産業技術総合研究所が規定する動物実験要項はアメリカ国立衛生研究所により制定された動物実験の倫理基準に準拠する。北米神経科学学会により承認されたPolicies on the Use of Animals and Humans in Neuroscience Researchに従い,実験により与える苦痛を最小限にするなど生命倫理に対して十分な対策を講じた。【結果】健常・損傷マカクサル共にトレーサー陽性軸索は,様々な中枢神経系領域において存在していたが,小脳核においては両者の間に顕著な違いが見られた。すなわち,小脳核(特に損傷同側室頂核)におけるトレーサー陽性軸索は,健常マカクサルでは観察されなかったが,損傷マカクサルでは観察された。損傷同側室頂核におけるトレーサー陽性軸索は,3頭の損傷マカクサルともに存在し,室頂核の中央部で顕著に観察された。【考察】本研究結果は,第一次運動野(手領域)損傷後に形成された損傷同側腹側運動前野から損傷同側室頂核へと向かう皮質下投射ニューロンが損傷後の運動機能回復に寄与することを示唆する。室頂核の中央部には室頂核から脊髄へ投射するニューロンが豊富に存在することが知られている。したがって,皮質から脊髄へと直接投射する皮質脊髄路が損傷による影響を受けたとしても,皮質から小脳核を介して脊髄へと向かう間接経路を新たに構築することにより,失われた脳機能の一部が代償されると推察される。【理学療法学研究としての意義】本研究成果は,ヒトに近い脳と身体の構造・機能を有するマカクサルを用いて,脳損傷後の運動機能回復に伴う神経回路の変化(特に機能代償領域を起源とする皮質下投射ニューロンの変化)を世界で初めて示したものである。本研究成果とこれまでの行動・脳領域レベルでの検証から得られた知見とを統合することにより,損傷後の可塑的な変化に対するレベル縦断的な理解につながる。このような知見は,リハビリテーションにおけるエビデンスを確立するうえで重要な基礎的資料になる。さらに本研究成果の発展により,脳損傷後の機能回復を促進させる新たな手法の開発が期待される。
  • 吉川 輝, 中町 智哉, 土田 将史, 杉山 公一, 加賀美 信幸, 今井 ノリ, 塩田 清二
    セッションID: 0576
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】現在,中枢神経傷害に対するリハビリテーションの回復メカニズムについて,基礎研究・臨床研究から数多く報告されている。我々が携わっている小児理学療法領域における脳傷害児は,成人期脳傷害患者と比較すると高い運動機能回復を示す。実際にモデル動物を用いた基礎研究においても,新生仔期脳傷害モデル動物の方が成獣期モデル動物に比べ高い運動機能回復を示す事が行動学的に報告されている。しかし,行動学的検討と大脳皮質運動関連領域での組織学的検討を組み合わせて,新生仔群と成獣群の運動機能代償機構の比較検討をした報告は見当たらない。そこで本研究では左大脳皮質吸引除去術を異なる時期に施行したモデルマウスを作製し,運動機能代償機構の違いを明らかにするために行動学的・組織学的評価を用いて検討した。【方法】本研究では生後7日齢(NBI群)および生後2-3ヶ月齢(ABI群)マウス(C57/BL6j)を用いた。ABI群では,ブレグマより尾側3 mmかつ外側3 mmの位置から,NBI群では尾側2 mmかつ外側2 mmの位置から前頭極へかけて左大脳皮質感覚運動領域(SMC)を吸引除去した。傷害モデル評価としては,肉眼解剖学的評価,大脳皮質冠状切片のNissl染色および頸髄冠状切片にて皮質脊髄路を特異的に染色するPKCγ染色を行い確認した。両群とも術後1,2,3ヶ月の時点で,行動学的評価としてラダー歩行試験を行った。全長60 cmの距離に対して直径1 cmの棒を2 cm間隔に規則的に配置し,そこを歩行している状態を右前肢のみに着目してビデオ撮影し,総ステップ数に対するステップ失敗数をカウントし失敗率を算出した。行動学的評価実施後,右前肢の支配領域である右第5-6頸髄に4% FluoroGoldを1 µl注入し同部位に投射している右大脳皮質脊髄ニューロンを逆行性に標識した。注入後1週間で4%パラフォルムアルデヒトにて潅流固定を行い,脳脊髄を剖出し20%スクロースにて氷晶防止処置を行った。そして脳脊髄の凍結包埋後,前頭極から頸髄まで40 µmの連続冠状切片を作製し,右大脳皮質における皮質脊髄標識ニューロン数をカウントした。得られたデータはNBI群,ABI群の順で平均値±標準誤差で示す。統計学的解析は,行動学的評価にはMann-Whitney U testを用い,組織学的評価にはKruskal-Wallis test,Scheffe’s methodを用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,動物実験委員会の承認を得て実施した。【結果】NBI群およびABI群とも傷害後3ヶ月での剖出時の肉眼解剖学的評価では,左SMCを含む大脳皮質が広範囲に傷害され,同部位での冠状切片におけるNissl染色でも,左SMC欠損が確認された。さらに左SMCを起源とする右皮質脊髄路が傷害されているか確認するため,頸髄に対してPKCγ染色を実施した。その結果,右皮質脊髄路が広範囲に消失している事が確認された。行動学的実験において,右前肢の失敗率は術後1ヶ月:22.8±1.3,45.6±2.9,術後2ヶ月:17.2±1.1,39.3±2.9,術後3ヶ月:12.8±1.1,36.9±3.2であり,両群とも運動機能の回復が認められたものの,全期間ともNBI群の失敗率がABI群よりも有意に低値を示した。逆行性トレーサー投与実験では,ブレグマより吻側2 mmの標識細胞数が688.7±140.7,189±72.7,ブレグマより吻側1 mmでは773.1±104.1,260.4±32.7,右SMC全体では4339.9±211.8,3288.6±199.6であり,NBI群において有意に多くの標識ニューロンが観察された。【考察】本研究より,NBI群において右SMC,特にブレグマより吻側領域にて右頸髄に投射している皮質脊髄ニューロン数が有意に多く標識された。この事が行動学的結果におけるNBI群の高い運動回復メカニズムに関与している事が示唆された。この領域はげっ歯類では吻側前肢運動領域(RFA)が含まれ,人における前頭前野・補足運動野に相当する場所として考えられている。この領域に有意に多く標識ニューロンが存在した理由として,1)成獣期中枢神経傷害後に示唆されている側枝発芽現象,2)新生仔期に一過性に出現するニューロンのアポトーシス回避,3)軸索の軸索刈り込み現象からの回避により,傷害された運動領域の代償的役割の一旦を担っているのではないかと考えられた。この事がABI群よりもNBI群で高い運動機能回復につながっているのではないかと考えている。【理学療法学研究としての意義】新生仔期および成獣期脳傷害からの運動機能回復機構の異なる現象を基礎研究より明らかにした。それにより,RFAでの代償機構が新生仔期脳傷害からの高い運動機能回復に影響を及ぼしている可能性が強く示唆された。我々は今後,これら運動領域間の代償メカニズムの違い,発達過程と成熟期での代償メカニズムの違いを明らかにする事で,効率的リハビリテーションの確立に貢献できると考えている。
  • -三次元培養を用いたin vitro研究-
    伊藤 明良, 青山 朋樹, 長井 桃子, 太治野 純一, 山口 将希, 飯島 弘貴, 張 項凱, 秋山 治彦, 黒木 裕士
    セッションID: 0577
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】外傷などを起因とする関節軟骨欠損は,疼痛や運動機能の低下を引き起こすことで生活の質を下げる要因となるが,現在欠損された関節軟骨を完全に再生することは困難である。これまで関節軟骨の再生を実現するために,再生医療分野において学際的に研究がなされてきた。しかしながら,細胞移植治療術前・後に関わる研究,特にリハビリテーション介入の有効性・安全性に関する研究はほとんどなされていないのが現状である。すでに関節軟骨欠損に対する再生治療は,平成25年4月1日から本邦で初の自家培養軟骨製品が保険適用となり臨床で実践されている。そのため,早急に関節軟骨再生治療におけるリハビリテーションを確立させることが求められ,その基礎となるエビデンスが必要である。そこで本研究では,関節軟骨再生治療における温熱療法の基礎となるエビデンスを得るため,軟骨細胞による関節軟骨基質(extracellular matrix:以下,ECM)生成のための至適な温度環境を明らかにすることを目的として実験を行った。【方法】大腿骨頭置換術時に摘出されたヒト大腿骨頭関節軟骨(62歳,女性)より初代培養軟骨細胞を単離し,ペレット培養法を用いた三次元培養下において軟骨ECMの生成能を評価した。培養温度条件は,通常関節内温度付近の32℃,深部体温付近の37℃,哺乳動物細胞生存の上限付近とされる41℃の3条件とした。軟骨ECM生成能を評価するため,生成されたペレットの湿重量を培養後3,7,14日目に測定し,軟骨基質関連遺伝子(II型コラーゲン,I型コラーゲン,アグリカン,COMP(cartilage oligomeric matrix protein))の発現を培養後3,7日目にリアルタイムPCRを用いて解析した。また,コラーゲンおよび硫酸化グリコサミノグリカン(sulfated glycosaminoglycan:以下,GAG)産生を培養後7,14日目に組織学的に,そして培養後14日目に1, 9-dimethylmethylen blue法にて生化学的に解析した。さらに,走査型電子顕微鏡(以下,SEM)を用いて生成されたECMの超微細構造を培養後14日目に観察した。最後に,生成されたECMの機能特性を評価するため,培養後3,7,14日目に圧縮試験を行い,その最大応力を測定した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。対象者にはヘルシンキ宣言に基づき,本研究の主旨を書面及び口頭で説明し,同意を書面で得た。【結果】生成されたペレットの湿重量は,培養後3・7・14日目のいずれの時点においても,温度が低いほど有意に増加した。軟骨基質関連遺伝子のmRNA発現を解析した結果,41℃では解析した全ての遺伝子発現が有意に抑制された。II型コラーゲンの発現は,32℃と37℃の間に有意な差は認められず,I型コラーゲンの発現は,培養後7日目において32℃が37℃と比較して有意に亢進された。アグリカンの発現は,培養後3日目においては32℃が37℃と比較して有意に亢進されていたが,培養後7日目においてはその有意差は認められなくなった。COMPの発現は,37℃が32℃と比較して発現が有意に亢進された。組織学的評価においても,コラーゲンおよびGAGの産生が41℃では顕著に低下した。32℃と37℃の間に顕著な違いは観察されなかった。生化学的解析においても,GAG産生量は41℃で有意に少なかった。SEM観察により,32℃と37℃では生成されたペレットの周縁部に層状の密なコラーゲン線維の形成が観察されたが,41℃においては観察されなかった。最後に生成されたペレットに対して圧縮試験を行った結果,培養後3日目においては37℃で最も最大応力が高かったが,培養後7・14日目においては32℃が最も高かった。【考察】ヒト軟骨細胞において,ペレット培養時のECM生成能は41℃において著しく低下した。これは41℃ではコラーゲンの高次構造の形成が阻害されるという報告(Peltonen et al. 1980)を支持している。間欠的な40℃程度の温熱刺激はコラーゲン産生を促進する可能性があるが(Tonomura et al. 2008),本研究のような長時間の曝露においては逆に抑制される危険性が示唆された。これは,炎症などによる関節内温度上昇の長期化が関節軟骨再生を阻害することを意味している。興味深いことに,本研究は32℃という比較的低温環境においても,37℃と同等のECM生成能を有することを示唆した。以上のことから,関節軟骨基質再生のための至適温度は通常関節内温度である32℃から深部体温である37℃付近ににあることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,関節軟骨再生治療における温熱療法の基礎となるエビデンスを示した。さらに,再生治療における術後リハビリテーション(再生リハビリテーション)の重要性を喚起する研究としても大変意義があり,さらなる研究を求めるものである。
  • 山口 将希, 青山 朋樹, 伊藤 明良, 長井 桃子, 太治野 純一, 飯島 弘貴, 張 項凱, 秋山 治彦, 黒木 裕士
    セッションID: 0578
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,関節軟骨損傷の治療方法として細胞移植治療が期待され,移植細胞の種類や足場となる生体材料の研究などが報告されてきた。骨髄間葉系間質細胞(以下MSCs)は,高い軟骨分化能力や細胞採取の容易性,免疫寛容能を有することから,関節軟骨損傷に対する有力な移植細胞として考えられている。しかし,細胞移植後の運動やリハビリテーションの有効性・安全性を調べた研究はほとんどない。今後,細胞治療が臨床にて適用されるにあたり,再生治療におけるリハビリテーションの有効性を明らかにしていくことは重要な研究課題である。そこで本研究では骨軟骨欠損したラット膝関節にMSCsを移植した後,走行運動介入を行うことが関節軟骨再生にどのような影響を及ぼすかを検証した。【方法】8週齢のWistar系雄性ラット32匹に対し,左右の大腿骨滑車部に直径1mmの骨軟骨欠損を処置した。移植細胞は,MSCsを8週齢の同種他家雄性ラット大腿骨より採取した。骨軟骨欠損処置から4週後に,1.0×106個の細胞をリン酸緩衝液(以下PBS)で希釈し,右膝関節に注入した。左膝関節に対しては,対照群としてPBSのみを注入した。MSCs移植後,ラットを通常飼育群(左膝:Control群,右膝:MSC群)と運動群(左膝:運動群,右膝:MSC+運動群)に分けた。運動群には移植2日後より週3回,12m/分,30分のトレッドミル走行を負荷した。2,4週後に膝関節を摘出し(各群n=8),大腿骨の組織切片を作成した。組織はサフラニンOおよびヘマトキシリン・エオジンにて染色を行い,Wakitaniの軟骨再生スコアにて評価した。統計解析は有意水準を5%とし,Kruskal-Wallis検定を行った後,Bonferroni’s検定にて多重比較を行った。データは平均値±95%信頼区間にて表示した。またピクロシリウスレッド染色による偏光顕微鏡観察によりコラーゲンの配向性を評価し,免疫組織化学的手法によりII型コラーゲンの発現分布を観察した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設の動物実験委員会の承認を得て行った。【結果】Wakitaniの軟骨再生スコアは値が低いほど良好な再生を示す。MSCs移植2週後ではControl群:7.5±1.17,運動群:5.8±1.56,MSC群:5.8±1.47,MSC+運動群:4.0±1.93となり,Control群に比べてMSC+運動群でのみ有意にスコアの改善が見られた(P<0.05)。組織学的所見ではPBSを注入した2群(Control群と運動群)の軟骨細胞は線維軟骨様の形態であり,MSCsを注入した2群(MSC群とMSC+運動群)では硝子軟骨様の形態が認められた。しかしPBS注入の2群やMSC群では欠損部位が十分に埋まらず,MSC+運動群では再生軟骨の厚さが周囲の組織に近づき,有意にスコアの改善が見られた。ピクロシリウスレッド染色においてコラーゲンの配向性はMSC+運動群で他の3群と異なり,周辺組織の配向性に近い所見が見られた。II型コラーゲン所見はMSCを注入した2群では深層に発現が見られた。MSCs移植4週後の再生スコアはControl群:7.4±1.23,運動群:6.4±1.23,MSC群:4.5±0.98,MSC+運動群:2.3±0.72となり,MSC注入2群の軟骨細胞はほぼ硝子軟骨様となった。そしてMSC+運動群では再生組織の軟骨厚,サフラニンO染色性に回復が見られ,Control群に比べてMSC群,MSC+運動群で有意に再生が見られた(P<0.01)。また4週においてMSC群に比べてMSC+運動群では有意にスコアの改善が見られた(P<0.05)。ピクロシリウスレッド染色ではPBSを注入した2群に比べて,MSCを注入した2群では周辺組織の配向性に近い所見が見られた。II型コラーゲンはMSC群では中間層から深層に発現が見られ,MSC+運動群では表層の一部を除く大部分で発現が認められた。【考察】MSCs移植2日後から走行運動介入(MSC+運動介入群)により,軟骨再生が非運動群(MSC群)に比べて促進された。In vitroの研究においてMSCsに対しての機械的刺激は軟骨分化の促進と基質合成の増加を促すことが報告されている。本研究の実験動物を用いたin vivo研究においても,MSCs移植後の走行による機械的刺激は,再生部位のMSCsの軟骨分化促進と軟骨基質合成の増加,あるいは移植されたMSCsの成長因子分泌促進などを引き起こし,軟骨再生を促進させたと推察される。以上のことからMSCs移植治療に運動を併用することはMSCs移植の再生効果を損なうことなく,欠損した関節軟骨を再生することにつながることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は関節軟骨損傷に対する細胞治療において,術後の運動介入が軟骨再生を促進する可能性があることを示唆した。これは再生医療におけるリハビリテーションの重要性を示しており,再生治療後のリハビリテーション(再生リハビリテーション)確立の必要性を示している。
  • 長井 桃子, 青山 朋樹, 伊藤 明良, 山口 将希, 飯島 弘貴, 太冶野 純一, 張 項凱, 秋山 治彦, 黒木 裕士
    セッションID: 0579
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】長期間の関節の不動化は関節拘縮につながる。関節拘縮に伴う関節構成体変化の病態理解は理学療法介入の治療根拠確立には不可欠である。関節の不動化により軟骨細胞数や軟骨基質が変化することが明らかにされているが,不動解除後の軟骨に起こる変化は不明である。軟骨基質の主成分の一つであるヒアルロン酸(以下HA)は軟骨機能維持に重要な役割を担っており,我々は2013年同学術大会において,軟骨細胞HA受容体であるCD44の発現は不動に伴い軟骨深層から低下することを報告した。今回,一定期間膝関節を不動化させ関節拘縮を惹起させたラットに対し,不動解除が関節軟骨・軟骨細胞応答に及ぼす影響について,病理組織学的に検討することを目的とし実験を行った。【方法】対象は8週齢のWistar系雄ラットを用いた。実験群の左膝関節をK-wireとレジンを用いた創外固定により膝関節屈曲140±5度で8週間固定を行った後,固定具を除去し不動解除期間ごとに,3日,1,2,4,8週間の5グループ(n=5/group)に分けた。対照群(n=3/group)は固定せず左下肢にK-wireのみを挿入し実験群と同一期間の介入を行った。飼育終了後,安楽死させたのちフォースゲージで膝関節伸展可動域(ROM)測定を行った。その後,膝関節を採取し浸漬固定後,10%EDTA溶液にて脱灰し,中和,脱脂操作を経てパラフィン包埋した。6μmで薄切したのち,HE染色・サフラニンO(以下SO)染色を行い光学顕微鏡下で観察し,軟骨厚測定とModified Mankin’s score(以下スコア)を用いて軟骨変性評価を行った。観察部位は左膝関節内側中央部矢状面とし,さらに評価部位は膝関節屈曲固定状態での大腿骨・脛骨の接触部(以下,接触部),接触-非接触移行部(以下,移行部),前方非接触部(以下,非接触部)の3領域とし,大腿骨と脛骨の計6部位を評価部位とした。免疫組織化学的分析はMMP13により断片化したII型コラーゲンを検出する抗Col2-3/4cと抗CD44を一次抗体とし,ABC法にて行った。統計解析は一元配置分散分析とTukeyの多重比較検定を行い有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】所属施設の動物実験委員会の承認を得て実施した。【結果】実験群では不動解除3日後からROMの増大を認め,8週後では約11度の伸展制限が残った。対照群の全観察部位と実験群の非接触部では,明らかな軟骨変性像は見られなかった。実験群の大腿骨及び脛骨接触部において核の萎縮像や細胞質の消失が確認され,脛骨移行部では不動解除8週間後に5個体中4個体で嚢胞様の軟骨変性像を認めた。軟骨厚(μm)は脛骨移行部337.7±29.2で接触部201.1±35.4よりも有意に増加した(P<0.05)。スコア(点)では,両骨接触部では14.1±1.0から改善は見られず,脛骨移行部では不動解除3日後は8.3±1.1,8週間後は18.0±3.0となり悪化がみられた(P<0.01)。両骨移行部ではSO染色性が見られたが,軟骨表層の不整や亀裂が進行し膨化した軟骨細胞の増殖が確認された。Col2-3/4c染色では,対照群はほぼ染色性がみられなかったのに対し,実験群の全評価部位で染色性がみられ,その染色性は不動解除期間の延長とともに表層で強くなった。CD44陽性細胞は,両骨接触部において不動解除3日では軟骨全層での発現がみられたが1週後から徐々に中間・深層で発現が低下し,8週後では顕著に低下した。移行部では4週以降から表層でも陽性細胞の減少がみられた。非接触部では陽性細胞発現に著明な変化は見られなかった。【考察】ROMの結果から,不動解除後の膝関節可動域の改善を確認した。しかしながら,実験群の両骨接触部で変性軟骨修復は確認されなかった。CD44発現が減少した結果からも,接触部における軟骨細胞の基質保持能力は,不動解除後も低下していることが考えられた。脛骨移行部では膨化軟骨細胞や軟骨厚の増加やSO染色性から軟骨基質の合成が進んでいると考えられるが,8週後に明らかな軟骨変性像が確認されたことから軟骨変性は接触部の周辺領域で進行することが明らかとなった。さらに,Col2-3/4cの染色性は全観察部位で確認されたことから,軟骨基質の分解は軟骨の広域で起きていることが考えられた。不動解除に伴う,急激な再荷重・関節運動による軟骨への剪断力などのメカニカルストレスの変化が一因となり,軟骨細胞の変性や軟骨基質変性が助長される可能性が示された。【理学療法学研究としての意義】本研究より,関節不動後の軟骨に対して急激な再荷重・関節運動を行うことは,不動下で変性した軟骨の修復よりも変性を助長させうる可能性だけでなく,軟骨の部位により変性状態が異なることが示唆された。本結果は関節不動後の理学療法介入を行う際は,緩やかな負荷を行うこと,また荷重部位を考慮する根拠となると考えられる。
  • ―ラット膝関節拘縮モデルを用いた検討―
    古野 泰大, 安井 惇, 高橋 健太, 野末 琢馬, 渡邊 晶規, 小島 聖
    セッションID: 0580
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】関節の不動化により拘縮は発生し,関節包をはじめとした関節構成体に起因した制限は不動期間の長期化に伴い顕著になるとされ,理学療法の対象となることも少なくない。不動により関節包はコラーゲン線維の増生と密性化,老化架橋の増加が引き起こされることが報告されている。しかし,これらの組織学的な変化が,強度や伸張性といった機能にどのような影響をおよぼしているのかは,十分に検討されているとは言い難い。そこで本研究では実験動物による拘縮モデルを用いて,関節構成体の強度および伸張性がどのように変化するのか明らかにすることを目的とした。【方法】対象として9週齢のWistar系雄ラット13匹を用いた。無作為に通常飼育のみを行う対照群(n=4)と実験群(n=9)にわけ,実験群は右後肢を股関節最大伸展,膝関節最大屈曲,足関節最大底屈位でギプス固定を行った。さらに両群ともに飼育期間を2週間とする群(2WC群:n=2,4肢と2WE群:n=5,5肢)と4週間とする群(4WC群:n=2,4肢と4WE群:n=4,4肢)に振り分けた。各群とも飼育期間終了後,腹腔麻酔下で膝関節可動域を測定したのち,安楽死させ,股関節離断により下肢を採取した。それらを慎重に皮膚と膝関節にまたがる筋をすべて除去し,脛骨近位部の矢状面中央付近に垂直にキルシュナー鋼線を挿入した。大腿骨を測定台の上に固定し,膝関節90°屈曲位となるよう位置させ,脛骨近部腹側面に,アタッチメントをとりつけた変位変換器(DTH-A-5,共和電業)を設置した。その上で,挿入した鋼線にデジタルpush-pullゲージ(WPARX-10,シロ産業)を用いてゆっくりと関節面を離解する方向に牽引負荷を加えた。牽引は関節構成体が破断されるまで実施した。両測定機器のモニターをデジタルビデオカメラで撮影し,牽引力と変位距離を記録した。関節可動域は伸展制限角度として示し,2WE群と4WE群の比較にはt検定を用いた。破断時の強度および変位距離の比較には2元配置分散分析を用い,有意水準は全て0.05とした。なお,統計処理にはR2.8.1を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は動物実験規定に準拠し,同大学が定める倫理委員会の承認のもとに飼育・実験を行った。【結果】膝関節伸展制限可動域は2WE群で17.3±4.7°,4WE群で47.4±5.4°であり,4WE群で伸展制限は顕著であった。破断時の強度はそれぞれ2WC群40.0±6.21N,2WE群27.9±3.84N,4WC群68.8±11.83N,4WE群41.3±5.44Nとなり,関節不動化の有無と飼育期間の違いのそれぞれで有意差を認め,交互作用も有意であった。一方,変位距離はそれぞれの条件間で有意差を認めなかった。【考察】関節不動化により関節構成体の強度は低下した。靭帯の強度を計測した報告(Wooら;1987)においても関節不動化により強度が低下するとされており,類似した結果が得られた。これはこれまでに報告されている組織学的な変化が同様に生じ,それが機能的側面に影響を与えたことを示したものと考えられた。不動期間での比較においては,期間の長い方でより強い強度を示したが,これは本研究で用いた9週齢ラットの膝関節が成熟していなかった事(萩原ら;2010)が原因と考えられた。本研究では3つの計測機器を同期させて実施出来ておらず,精度に課題を残している。今後測定方法を見直し,改めて不動期間と機能の関係を検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】関節拘縮による筋・関節の変化を形態学的・生化学的に検証した報告に比べ,機能的な側面から検討した報告は少ない。中でも特定の靭帯や関節包の一部を対象とせず,関節構成体の複合体として検証した報告は見当たらない。我々理学療法士が長期間不動化に晒された関節に治療を行う際,経験的に力加減を配慮しているが,本研究はその根拠を限定的ではあるが示すものであり,重要な意義があると考える。
  • 不動化モデルラットを用いて
    中川 達貴, 大竹 晋平, 堀 玲菜, 菅谷 和輝, 平賀 慎一郎, 村瀬 詩織, 水村 和枝, 肥田 朋子
    セッションID: 0581
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】麻痺などによる長期臥床や骨折などにより不動化されることがあるが,不動化に伴い疼痛が生じることが報告されている。この疼痛に対する治療として運動療法が用いられることがあり,我々の研究室でもラット足関節の不動期間中に自由運動を行わせたところ,疼痛発生を抑制する効果が得られている。他方,臨床において不動期間中に運動を行うことが困難であることから温熱療法も検討されている。しかし,ホットパックによる温熱療法が疼痛発生に与える影響は報告されていない。また,手関節不動化モデルラットにおける先行研究では痛覚過敏発生のメカニズムとして,神経伝達物質であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が後根神経節(DRG)の中型細胞で増加することが慢性痛の発生に影響していると報告されている。さらに,遅発性筋痛モデルラットにおいて筋圧痛閾値の低下に神経成長因子(NGF)が関与していることが報告されている。しかし,不動化に伴う疼痛発生に対するホットパックの温熱効果とこれらの物質の関与を示唆する報告はない。よって我々は,不動期間中のホットパックが不動化によって生じる疼痛発生に及ぼす影響とCGRP,NGFとの関係性について検討した。【方法】対象は,8週齢のWistar系雄ラット25匹を無作為に通常飼育するNormal群(N群),両側足関節をギプス固定するControl群(C群),ギプス固定とホットパックを施行するHot pack群(H群)に振り分けた。C群,H群は足関節最大底屈位で4週間ギプス固定した。固定期間中は両下肢を完全免荷とした。H群は,イソフルラン吸入麻酔下にてギプス固定を一時的に除去し,ホットパックによる温熱療法を1日20分間,週5日施行した。行動評価として,ギプス除去下にてラットの足底部に自作のvon Frey filamentを用いて刺激を与え,逃避反応から皮膚痛覚閾値を測定した。また,Randall-Selitto装置を用いて腓腹筋内側頭の筋圧痛閾値を測定した。固定期間終了後,ネンブタール腹腔麻酔下にて腓腹筋を摘出し,ELISA法により発色させ,NGFを定量した。腓腹筋摘出後,灌流固定を行い,L4-6のDRGを取り出し,CGRPの免疫染色を行った。CGRP陽性細胞面積を計測して100μm2ごとの分布を,CGRP含有細胞割合で示した。統計処理には一元配置分散分析を用い,多重比較はBonferroni法ないしTukey法を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】本研究は,本学の動物実験委員会の承認を受けて行った。【結果】N群の皮膚痛覚閾値は17.2±0.8gから17.8±0.3gの間でほぼ一定であった。C群のそれは0週で17.5±0.5gであったが2週目に12.3±2.8 gとなり,それ以降0週目と比べ有意差を認めた。H群は0週で17.7±0.4gであったが2週目に15.4±1.4gとなり,0週に比べ有意差を認めた。C群に対して他群は1週目以降すべて有意差を認めた。N群の筋圧痛閾値は141.8±7.8gから153.6±13.4gの間でほぼ一定であった。C群は0週で144.1±4.2gであったが3週目に107.4±23.3gとなり,それ以降0週目と比べ有意差を認めた。H群は0週目で142.4±6.8gであったが4週目に118.5±14.4gとなり,0週に比べ有意差を認めた。2週目以降C群は他群と有意差を認めた。また,CGRP含有細胞割合は600-700 μm2の細胞でN群3.3±1.3%,C群5.7±1.4%,H群で5.0±1.1%であり,N群に対して他群は有意差を認めた。700-800μm2ではN群3.0±0.9%,C群5.5±1.3%,H群3.3±1.2%であり,C群に対して他群は有意差を認めた。N群とC群は,800-900μm2においても有意差を認めた。また,腓腹筋のNGF量はN群で47.4±7.7pg/mg,C群で98.7±20.6pg/mg,H群で44.3±5.1pg/mgであり,C群は他群と有意差を認めた。【考察】不動化により疼痛が生じた。そして,600-900μm2の中型細胞でのCGRP発現の有意な増加がみられた。これは,先行研究と同様にCGRP含有細胞が中型細胞へと偏移したことが痛覚閾値の低下に関与したと考えられた。また,不動化により腓腹筋でのNGF含有量が有意に増加した。このことから筋圧痛閾値の低下に腓腹筋のNGF量の増加が関与しているのではないかと考えられた。本研究では,ホットパックによる温熱療法を施行した。その結果,不動化による痛覚閾値の低下を抑制,CGRP含有細胞の中型細胞への偏移を抑制,NGFの増加を有意に抑制した。これらのことから,不動化に伴う疼痛発生はホットパックによる温熱療法により抑制することができ,その鎮痛メカニズムにはCGRP,NGFの関与が示唆された。【理学療法学研究としての意義】不動化による疼痛の発生が確認されたが,不動期間中にホットパックによる温熱療法を施行することにより抑制されることが示された。臨床において不動化による疼痛発生に対してホットパックによる介入が効果的である可能性が示された。
口述
  • 呼吸リハビリテーションベースライン特性の多次元的比較より
    堀江 淳, 白仁田 秀一, 阿波 邦彦, 林 真一郎
    セッションID: 0582
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の呼吸リハビリテーション(呼吸リハビリ)における運動療法の効果は,高いエビデンスが付与されるようになった。しかし,その効果の出現には個人差が大きく,その特性については十分な検証がなされているとは言い難い。本研究の目的は,運動耐容能が,3か月間の呼吸リハビリで改善できた患者と改善できなかった患者の初期評価の種々の指標を比較すること。更に,その特性を多次元的,横断的に検証し,今後の呼吸リハビリプログラム導入の在り方について提言することとした。【方法】研究デザインは,後方視的横断研究とし,セティングは,特定非営利活動法人に登録している4施設とした。対象は,呼吸リハビリ実施中の病状安定期COPD患者51例(男性44例,女性7例,平均年齢74±9歳)とした。除外対象は,200m以上歩行距離が減少,または増加した者,歩行を阻害する痛みを有する者,その他歩行障害を有する者,研究に同意が得られない者とした。研究のプロトコールは,初期評価から3か月後評価において,6分間歩行距離(6MWD)が,「31m以上増加」していた群を改善群,「30m以下の増加」,あるいは「減少」していた群を非改善群とし,初期評価時の身体機能,身体能力,日常生活活動(ADL)能力,生活の質(QOL),社会背景を比較した。呼吸リハビリプログラムは,最大運動能力の30~50%の負荷での運動耐容能トレーニングを中心としたものを実施した。主要測定項目は,6MWDとし,説明測定項目は,修正Medical Reseach Counci(MRC)スケール,Body Mass Index(BMI),呼吸機能,呼吸筋力,上肢筋力,下肢筋力,最速歩行速度,Timed up and go時間,漸増シャトルウォーキング歩行距離(ISWD),長崎大学呼吸器疾患ADL質問票(NRADL),健康関連QOL質問票(St George’s Respiratory Questionnaire:SGRQ),社会背景(以前の職業,配偶者の有無,同居家族の有無,就学年数,運動習慣,自動車の使用,自宅周囲の環境,生活習慣病合併の有無,過去1年間の急性増悪の有無)とした。2群間の比較は,Levenの等分散性の検定後,Studentのt検定,またはWelchのt検定を用いて分析し,改善群,非改善群と社会背景測定項目との関係は,χ2検定を用いて分析した。なお,解析ソフトはSPSS(v19)を使用し,統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に沿った研究として実施した。対象への説明と同意は,研究の概要を口頭にて説明後,研究内容を理解し,研究参加の同意が得られた場合,書面にて自筆署名で同意を得た。その際,参加は任意であり,測定に同意しなくても何ら不利益を受けないこと,また同意後も常時同意を撤回できること,撤回後も何ら不利益を受けることがないことを説明した。【結果】改善群は27例(男性23例,女性4例,平均年齢75±9歳),非改善群は24例(男性21例,女性3例,平均年齢72±10歳)であった。改善群は6MWDが100±43m,ISWDが133±92m増加し,非改善群は6MWDが61±67m,ISWDが134±92m減少していた。改善群と非改善群の比較において,修正MRCスケールは2.1±0.9 vs 1.4±1.1(p=0.01),SGRQは46.8±17.4点vs 30.3±18.6点(p=0.02)と非改善群が有意に低値を示し,最速歩行速度は97±23m/分vs 118±21m/分(p=0.01),6MWDは314±113m vs 428±81m(p<0.001),ISWDは301±136m vs 456±159m(p=0.002),NRADLは73±18点vs 86±17点(p=0.01)と改善群が有意に低値を示した。また,社会背景には両群と有意な関係が認められなかった。【考察】短期的な運動耐容改善効果は,予測比一秒量に有意差がなく,初期評価時の息切れ,運動耐容能,ADL,QOLの評価に差が認められていることから,それらはCOPDの病期進行に依存するものではなく,症状,運動耐容能など能力の高低に依存する可能性が示唆された。息切れが強く,運度耐容能が低く,ADL,QOLが低いCOPD患者の方が,短期的には運動耐容能が改善しやすいことが示唆された。これらの患者は,日常的に活動性の低いことが容易に予想され,呼吸リハビリプログラムの開始に伴う反応が早かったものと考えられる。一方,運動耐容能が高く,ADL,QOLに支障が少ない症状非優位型のCOPD患者は,日常的な活動性が維持されており,短期間の運動耐容能改善効果を導き出すためには,更なる高負荷のトレーニングプログラムが必要であるのかもしれない。【理学療法学研究としての意義】短期的な運動耐容能改善効果が期待できるCOPD患者の特性を客観的に検証することができた。また,運動耐容能が高く,ADL,QOLに対する支障の少ないCOPD患者への,今後のプログラムに関する検証課題を明確にすることができた有用な研究となった。
  • 身体活動量の高い群と低い群の効果
    白仁田 秀一, 今泉 潤紀, 堀江 淳, 阿波 邦彦, 林 真一郎, 渡辺 尚
    セッションID: 0583
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に対する呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)の長期効果の有無について様々な報告されている。このようなことから,呼吸リハの長期効果には患者の様々な要因が影響していると考えられる。今回,1年間の呼吸リハについて,身体活動量の高い群と低い群に分けて検討する事を目的とした。【方法】身体活動量の評価として国際身体活動量質問票(IPAQ)を用いて調査した。身体活動量の高低差をIPAQの中央値987で分け,IPAQ987以上を高活動群,987未満を低活動群とした。なお,IPAQの測定は,呼吸リハ期間中に測定した。また,季節性を考慮するため,2012年11月と2013年6月の2回実施し,2回の平均値を採用した。対象は1年間当院で通院可能であったCOPD患者26例で,高活動群13例(年齢:69.7±9.6歳,MNA:26.2±1.7点,%FEV1.0:57.9±16.2%,mMRCスケール:1.7±0.6,CAT:12.5±6.0点,運動習慣なし:4/13(31%)),低活動群13例(年齢:73.3±10.1歳,MNA:21.4±3.9点,%FEV1.0:47.0±21.2%,mMRCスケール:2.3±0.9,CAT:16.2±5.9点,運動習慣なし7/13(54%))である。評価項目は,Body Mass Index(BMI),呼吸機能検査(%FEV1.0),症状評価(修正Medical Reseach Counci(mMRC)スケール,COPD Assessment Test(CAT)),筋力評価(呼気筋力(MEP),吸気筋力(MIP),膝伸展筋力/体重比(%膝伸展筋力)),運動耐容能評価(6 Minute Walking Test(6MWT),Incremental Shuttle Walking Test(ISWT)),ADL評価(Nagasaki University Respiratory ADL questionnaire(NRADL)),QOL評価(St.George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ)),精神評価(Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)不安,欝)とした。統計解析方法は,初期特性の2群間の比較は,Levenの等分散性の検定後,Studentのt検定,Welchのt検定で,運動習慣の有無はχ2検定で,1年後の比較を対応のあるサンプルのt検定を用いて分析した。また,有意確率にBonferoniの調整を実施した。なお,帰無仮説の棄却域は有意水準5%とし,解析にはSPSS version21.0を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に沿った研究として実施した。対象への説明と同意は,研究の概要を口頭及び文章にて説明後,研究内容を理解し,研究参加の同意が得られた場合,書面にて自筆署名で同意を得た。その際参加は任意であり,測定に同意しなくても何ら不利益を受けないこと,また同意後も常時同意を撤回できること,撤回後も何ら不利益を受けることがないことを説明した。【結果】両群の対象特性は,年齢,症状評価,運動習慣に有意差はなかったが,低活動群はMNA(p<0.01)が有意に低下していた。高活動群の1年間の経過はBMI(25.0±3.9→25.1±3.8 p=ns),%FEV1.0(57.9±16.2→59.3±15.8 p=ns),mMRCスケール(1.7±0.6→1.0±0.7 p<0.05),CAT(12.5±6.0→13.3±6.1p=ns),MEP(108.5±37.2→132.2±55.2 p=ns),MIP(63.5±21.1→68.6±23.7 p=ns),%膝伸展筋力(58.8±13.1→65.4±16.5 p<0.05),6MWT(426.9±73.0→497.7±74.6 p<0.01),ISWT(452.3±158.5→506.1±176.0 p<0.05),NRADL(87.6±15.0→90.6±11.1 p=ns),SGRQ(35.4±16.9→29.5±13.6 p=ns),HADS不安(5.5±2.7→6.0±3.3 p=ns),鬱(6.3±3.3→7.3±3.6 p=ns)であった。低活動群の1年間の経過はBMI(21.4±3.9→21.2±3.0 p=ns),%FEV1.0(49.3±21.6→46.6±25.2 p=ns),mMRCスケール(2.3±0.9→2.2±0.6 p=ns),CAT(16.2±5.9→16.9±7.1 p=ns),MEP(79.9±38.9→84.4±45.4 p=ns),MIP(52.6±27.6→52.7±21.0 p=ns),%膝伸展筋力(52.4±9.5→55.6±11.2 p=ns),6MWT(333.1±131.7→330.7±119.2 p=ns),ISWT(284.6±129.1→278.5±115.1 p=ns),NRADL(71.4±16.6→65.6±26.5 p=ns),SGRQ(46.1±15.4→46.9±16.4 p=ns),HADS不安(6.2±2.9→4.9±3.4 p=ns),鬱(7.0±2.2→6.5±3.2 p=ns)であった。【考察】1年間の呼吸リハ継続において,高活動群は,mMRCスケール,%膝伸展筋力,運動耐容能の項目で有意な改善を示した。一方で低活動群は全てにおいて維持傾向を示した。両群において呼吸リハ開始当初は運動習慣に差が認められないことからも,呼吸リハ期間中に身体活動が向上させることが長期の呼吸リハにおいて重要である事が示唆された。低活動群は低栄養による影響も重なり,長期効果については維持する傾向が強かった。【理学療法学研究としての意義】本研究は,身体活動量から考えた呼吸リハの長期的効果について客観的に検証した研究である。本研究結果は呼吸理学療法実施やプログラム立案の重要なアセスメントとなる研究である。
  • 玉木 彰, 康 希全, 高石 真希, 門 浄彦, 中川 淳, 大塚 浩二郎, 大塚 今日子, 永田 一真, 松本 健, 富井 啓介
    セッションID: 0584
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】慢性閉塞性肺疾患(以下,COPD)を中心とした慢性呼吸不全患者に対する呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)については,これまでその有効性に関する多くのエビデンスが示され,非薬物療法として確立されている。しかし呼吸リハの効果をもたらすためには,週3回以上で6週間程度の継続的な介入が必要であるとされており,在宅酸素療法が導入されている高齢呼吸不全患者では,通院による呼吸リハの実施は困難な場合多い。そのため,入院による集中的な呼吸リハの実施が求められるが,診断群分類包括評価(以下,DPC)が導入されている急性期病院での長期入院は難しいのが現状である。このような背景の中,我々は,DPCが導入されている急性期病院と,導入されていない地域の後方病院(慢性期)が協力し,病院と病院の連携による6週間の入院呼吸リハプログラムを作成し,実施してきた。そこで本研究では,本プログラムの内容やその効果を示し,新しい病病連携のモデルを提示することを目的とした。【方法】本プログラムは平均在院日数11.8日である急性期医療を担うA病院と,慢性期・維持期患者の治療を中心としたB病院の呼吸器内科およびリハビリテーション科の連携によるものである。対象者は,A病院の呼吸器内科で診察・治療を受けている慢性呼吸不全患者の中から,担当医が本プログラムの内容を説明し,入院呼吸リハの希望を示し,全ての内容に同意した方で,選択基準は次の通りである。①呼吸器症状があり,COPD,間質性肺炎(以下,IP)などの臨床診断がなされている。②病態が安定している。③機能的な制限がある。④不安定な合併症がない(肺高血圧,透析,うつなど)⑤患者に意欲がある。⑥禁煙ができている。⑦十分なインフォームドコンセントが行われている。⑧COPDであれば肺機能でII期~III期。⑨上記項目から除外されないIP患者とした。対象者はA病院に2週間,その後B病院に転院して4週間の合計6週間入院する。A病院では呼吸器内科にて肺機能検査,心臓検査,血液検査等を実施し,リハビリ科において呼吸リハの導入と呼吸リハプログラムの作成を行う。そしてB病院へ転院後は,A病院からの情報を基に,午前,午後の1日2回,計2時間程度の呼吸リハを継続して実施する。呼吸リハプログラムはガイドラインに従い,両病院で同様の内容を実施する。そして呼吸リハ介入前後で,①身体組成,②漸増運動負荷試験,③定常負荷試験(運動継続時間),④膝伸展筋力,⑤呼吸筋力,⑥6分間歩行試験,健康関連QOL(SGRQ,CAT),⑦呼吸困難(MRC),⑧不安・抑うつ検査(HADS)を評価する。尚,介入後の評価はB病院を退院後,A病院にて同一検者が行った。そして本プログラムによる効果の検討は,呼吸リハ介入前後の測定値を対応のあるt検定で分析した。【倫理的配慮・説明と同意】全対象者には本研究の内容および目的について文書による説明を行い,同意を得た。なお,本研究は,本学倫理審査委員会および各病院の倫理委員会の承認を受けて実施した。【結果】2012年4月~2013年11月までに本プログラムに参加し,呼吸リハを完了した対象者は12名(男性11名,女性1名)で,診断名はCOPD 7名,IP 3名,その他2名であった。本プログラムによって,運動継続時間,膝伸展筋力,吸気筋力,6分間歩行距離,健康関連QOLは有意な改善(p<0.05,p<0.01)を示したが,身体組成やHADSスコアは有意な改善が認められなかった。【考察】6週間の入院呼吸リハによって身体機能や健康関連QOLの有意な改善が認められ,また6分間歩行距離やSGRQなどでは臨床的に意味のある最小差(MCID)を超える変化があったことから,本プログラムは有効であったと考えられた。その一方で,身体組成やHADSのスコアは有意な改善を示さなかったことから,栄養療法や心理・社会的なサポートの必要性が明らかとなった。今後は本プログラム終了後,在宅における継続的な支援体制を構築していくことが重要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,機能の異なる2つの病院が連携して入院リハを実施するという新しい試みであり,診療科だけでなくリハビリ科が連携することで,今後より多くの呼吸不全患者に対し呼吸リハの機会を提供できるだけでなく,その効果(エビデンス)を示すデータの蓄積につながると考えられる。
  • 沢入 豊和, 上村 晃寛, 大森 裕介, 内藤 善規, 嶋 亜里佳, 森嶋 直人
    セッションID: 0585
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】慢性呼吸器疾患の代表である慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者に対して,運動療法を中心とした呼吸リハビリテーション(PR)の効果が数多くの論文にて報告されている。Waschkiらは,COPD患者の身体活動量が生命予後を予測する最も強い因子であると報告しており,身体活動量の向上はPRの最終的な目標の1つとして掲げられている。しかし,患者の身体活動量について言及した報告は少ない。本研究では,COPD患者に対して効果的なPRプログラムを構築する一環として,COPD患者の身体活動量に着目し,肺機能を含めた身体機能との関係を把握することを目的とした。【方法】対象は当院にて外来PRを実施している安定期COPD患者7名(全例男性)とした。歩行や日常生活活動(ADL)に著しい影響を及ぼす骨関節疾患や中枢神経疾患などを有する患者,認知症を有する患者は対象から除外した。測定項目は,臨床的背景因子として年齢,身長,体重,BMI,%1秒量(%FEV1),Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)分類,home oxygen therapy(HOT)の有無,過去1年間に増悪入院した回数を調査した。身体機能のうち,下肢筋力の指標としてμTas MT-1(アニマ)にて等尺性膝伸展筋力を体重で除した値(%体重比),運動耐容能として6分間歩行距離(6MWD),呼吸困難感としてmodified Medical Research Council(mMRC)と6分間歩行後の修正Borg scale,QOLとしてCOPD Assessment Test(CAT)scoreを測定した。身体活動量はライフコーダGS(スズケン)を用いて1週間測定し,1日の平均歩数を採用した。ライフコーダは就寝時と入浴時を除いて患者の腰部に装着した。また,身体活動を強度別に調査し,低強度および中等度強度以上の活動時間の割合を算出した。測定はPR開始時に実施し,6分間歩行試験は呼吸リハビリテーションマニュアルの方法に従って行った。解析方法は,歩数と臨床的背景因子および身体機能の関係をSpearmanの順位相関係数で検定し,統計学的有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】患者には資料にて本研究の意義や主旨を十分に説明し,書面にて同意を得た。【結果】患者の平均年齢は72±4歳,BMIは20.7±2.3kg/m2,%FEV1は49.0±22.0%,病期はGOLD分類でstage Iが1名,IIが1名,IIIが2名,IVが3名であり,HOTは7名中2名導入されていた。また,過去1年間に増悪入院した回数は0.7±1.1回(0-3回)であった。膝伸展筋力は43.3±12.1%体重比,CAT scoreは16.6±6.1点,6MWDは270±124m,6分間歩行後の修正Borg scaleは4.6±1.9であった。ライフコーダから得られた1日の平均歩数は3,348±2,730歩であり,活動時間は37.8±31.6分であった。身体活動を強度別にみると,低強度の活動時間の割合は95.7±4.1%,中等度強度以上の活動時間の割合は4.3±4.1%であった。歩数と各項目との関係を検討すると,歩数とmMRC,CAT score,6分間歩行後の修正Borg scaleの間に負の相関関係があり,相関係数はそれぞれ-0.973,-0.847,-0.927であった。歩数と臨床的背景因子,%FEV1,膝伸展筋力および6MWDとは有意な相関関係を認めなかった。【考察】身体活動量と肺機能を含めた身体機能との関係をみると,下肢筋力や運動耐容能よりも呼吸困難感の方が身体活動量と強い相関を認めた。川越らは,活動量は呼吸困難感や下肢筋力,6MWDと有意に相関していると報告している。今回,歩数とmMRCとの相関係数は特に高値を示し,臨床上簡便に測定できるmMRCはCOPD患者の身体活動量を反映する指標となる可能性がある。一方で,本研究において下肢筋力と相関関係がみられなかったことは,対象者が7名と対象数が少なかったことが考えられる。COPD患者の歩数は1日3,000歩程度と低活動であり,国民健康・栄養調査(厚生労働省)の平均歩数を上回る患者は1人もいなかった。さらに活動強度に注目すると,身体活動のうち約95%は低強度の活動しかできておらず,中等度強度以上の活動はほとんどできていなかった。COPD患者は労作時もしくは安静時からの呼吸困難感により低活動となることが既に知られており,本研究においても同様の結果であった。今回,身体活動量と%FEV1の間には有意な相関関係は認められなかったが,COPDの病態が進行している程身体活動量が低下するといわれている。そのため,COPDの病期が活動量に及ぼす影響を考慮して詳細な検討をする必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】COPD患者の身体活動量は低く,その原因は呼吸困難感が強く関係していることが示唆された。今後,症例数を増やして更なる研究を重ねることで,身体活動量を増やすことの有用性を検討し,病態の重症度や年齢に合わせた効果的なPRを提供することができると考えている。
  • 松嶋 真哉, 武市 梨絵, 横山 仁志, 渡邉 陽介, 笠原 酉介, 大森 圭貢, 笹 益雄, 駒瀬 裕子
    セッションID: 0586
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)患者は,労作時の呼吸困難感を主症状とし,筋力や運動耐容能などの身体機能が低下することが知られている。COPD患者に対するリハビリテーション(リハ)の効果は数多く報告され,現在リハはCOPD治療の重要な役割を担っている。2011年にGlobal Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)にてCOPDの診断,治療,予防に関するストラテジーが改訂され,従来の気流障害のみではなく増悪リスク(%FEV1.0<50%もしくは急性増悪≧2回/年)と症状レベル(修正MRCグレード≧2もしくはCOPD Assessment Testスコア≧10)を基準とした新たな重症度分類が提唱された。今後はこの分類にてCOPD患者を評価し,リハを実施していく必要があるが,重症度別に身体機能を検討した報告はなく,重症度別のリハプログラムを作成するまでには至っていない。そこで我々は,GOLDが提唱した新たな重症度別にCOPD患者の身体機能を比較し,各重症度における身体機能の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,2013年1月から10月までに当院の呼吸器内科に外来受診した男性COPD患者のうち,中枢神経系および運動器疾患を有していない連続60例(平均年齢75.2±8.2歳,平均%FEV1.0 79.1±31.4%)とした。GOLDの重症度分類を用いて対象者をGroup A(増悪リスクおよび症状レベルがともに低い),Group B(増悪リスクが低く,症状レベルは高い),Group C(増悪リスクが高く,症状レベルは低い),およびGroup D(増悪リスクおよび症状レベルがともに高い)の4群に分類した。調査測定項目は,患者背景として年齢,身長,体重および%理想体重を診療記録より調査し,身体機能に関しては下肢筋力の指標として等尺性膝伸展筋力,上肢筋力の指標として握力,運動耐容能の指標として6分間歩行距離(6 Minute Walk Distance:6MWD)を測定した。等尺性膝伸展筋力はアニマ社製の徒手筋力測定器を用いて測定し,その最大値の左右平均値を体重で除した値(kgf/kg)を算出した。握力はJamar社製の油圧式握力計を用いて測定し,その最大値の左右平均値(kgf)を算出した。最後に,6MWDは平地を6分の間に最長距離歩くよう指示し,その歩行距離(m)を測定した。統計解析は,各Group間の患者背景と身体機能を一元配置分散分析を用いて比較し,多重比較にはTukey法を用いた。なお,危険率5%未満を有意差判定の基準とした。【倫理的配慮,説明と同意】倫理的配慮として,当院における臨床試験審査委員会の承認を得た(承認番号:第369号)。ヘルシンキ宣言に沿って,すべての対象者に本研究の評価の趣旨,方法,およびリスクを説明し,同意の得られたものみを対象とした。【結果】対象はGroup A 17例,Group B 26例,Group C 8例,およびGroup D 9例に分類され,患者背景の年齢,身長,体重および%理想体重にはGroup間で有意差を認めなかった。なお,1年間に急性増悪にて2回以上入院歴がある者はGroup Dに3名のみであった。等尺性膝伸展筋力の平均値はGroup A,B,C,Dの順に0.58±0.11kgf/kg,0.48±0.11kgf/kg,0.63±0.18kgf/kgおよび0.42±0.15kgf/kgであり,Group間に有意差を認めた(F=6.0,p<0.05)。多重比較よりGroup Bの等尺性膝伸展筋力はGroup A,Group Cと比較して有意に低値を示し(p<0.05),同様にGroup DもGroup A,Group Cと比較して有意に低値を示した(p<0.05)。握力の平均値は,順に33.7±5.9kgf,27.2±10.9kgf,33.0±6.7kgfおよび26.7±8.9kgfであり,Group間に有意差を認めなかった。最後に,6MWDの平均値は,順に399.8±86.0m,344.5±124.2m,355.0±131.1mおよび253.1±92.5mであり,Group間に有意差を認めた(F=3.4,p<0.05)。多重比較によりGroup Dの6MWDはGroup Aに比較して有意に低値を示した(p<0.05)。【考察】本研究の結果から,Group Bでは下肢筋力が低下しており,Group Dでは下肢筋力と運動耐容能が低下していることが明らかとなった。一方,Group Cに関してはその他のGroupと比較して有意な身体機能低下は認めず,Group Aと比較的近い身体機能を示した。これらのことより,COPD患者の身体機能低下には症状レベルの高さが関連していることが示唆された。症状レベルの高いGroup BとGroup DのCOPD患者は,症状レベルの低いGroup AとGroup Cに比較して,筋力向上や運動耐容能向上を目的としたリハプログラムの必要性が高いと考えられた。ただし,本研究では増悪リスクの判断基準のひとつである増悪歴を有する症例が少ないため,増悪歴と身体機能の関連は今後さらなる検討が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】本研究は,COPD患者を新たな重症度分類ごとに身体機能を比較した報告である。これは,重症度別のリハプログラムを作成する際の一助となると考える。
  • 庭田 幸治, 中野 晴人
    セッションID: 0587
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】通所サービス利用者は施設通所日の身体活動量が非通所日よりも低いため,施設利用日の身体活動を促す環境整備,サービスの提供が必要と報告されている。これらの報告は自立歩行が可能な利用者を対象としており,歩行介助者や車椅子利用者の身体活動量が含まれていない。加速度による活動量計測は歩行を前提としているが,車椅子利用者においても,移乗の回数や自操の程度による運動量の差は活動量計測により把握が可能であると考えられる。よって本研究の目的は,車椅子利用者も含めて利用者の移動能力別に施設通所日と非通所日の身体活動量を調べ,歩行能力別に自宅および施設での活動の特徴を検討することとした。【方法】老人保健施設通所サービス利用者の中から,日常生活に全介助が必要な方を除き,測定装置の管理が可能な14名(平均年齢77.1±7.4歳,男性5名,女性9名)を対象とした。活動量の測定には生活習慣記録機ライフコーダEX(スズケン社製)を用い,腰部にベルトを介して取り付けた。入浴と睡眠時以外は装着したままで生活するよう指導した後,身体活動量を通所日と非通所日がそれぞれ1日以上含まれるよう2~3日間連続して測定した。対象者の群分けは日常生活での歩行自立度により,歩行補助具の使用に関わらず,日常の歩行に介助を要しない群(歩行自立群)5名,車椅子は使用しないが歩行の際に介助が必要な群(歩行介助群)1名,歩行が困難で車椅子を利用しているが,駆動には介助を要しない群(車椅子自操群)5名,車椅子の操作に介助が必要な群(車椅子介助群)3名の4群に分けた。各群の介護度の内訳は,歩行自立群は要介護1:3名,要介護2:2名,歩行介助群は要介護2:1名,車椅子自操群は要介護1:1名,要介護2:2名,要介護3:2名,車椅子介助群は要介護3:2名,要介護4:1名であった。統計学的な検討は身体活動量(kcal/day),運動量(kcal/day),歩数(steps/day)について,群間の差を1元配置分散分析,通所日と非通所日の差について対応のあるt検定またはウィルコクソン符号付順位和検定により,有意水準を5%として行った。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には口頭と書面にて研究内容を説明し,同意を得た上で研究に参加してもらった。【結果】全対象者の総消費量は通所日(1500±220kcal/day)と非通所日(1364±208kcal/day)の間に有意な差があり,通所日が非通所日より大きかった(P=0.003)。運動量については通所日(28±33kcal/day)と非通所日(26±38kcal/day)には差が見られなかった。群別に通所日と非通所日を比較すると,有意な差はみられなかったものの,総消費量では全ての群において通所日が大きかったのに対し,運動量では歩行自立群(通所日63.2±32.7,非通所日66.6±34kcal/day),歩行介助群(12,17kcal/day)では非通所日が大きく,車椅子自立群(8±5,3±3kcal/day),車椅子介助群(10±5,2±3kcal/day)では通所日が大きいという違いが見られた。【考察】総消費量は全ての対象者において通所日が大きく,歩行能力に関わらず通所によって身体活動が促されていることが確認された。老健通所者の身体活動量については,施設内での移動距離の減少や移動の必要性低下のために減少する(片山ら2008)と報告されているが,本研究の結果は通所日の方が大きいという逆の結果となった。これは対象とした施設が中山間地域に位置し,近隣の歩行に適した環境が乏しく,非通所日に外出の機会があまりないためと考えられる。また,車椅子利用者であっても,送迎時や施設内の通所サービス利用に伴う移動や移乗により,通所日の総消費量が大きくなるものと考えられる。一方,より加速度の大きい運動として捉えられる運動量で見ると,歩行群は歩数と運動量は通所日の方が小さかった。今回の歩行群の歩数は平均2827歩(680-4053歩)と,非常に大きく,このような積極的な歩行が可能な利用者は,施設利用時には環境的要因,歩行の必要性の低さから歩行量が減少し,また,在宅日の方が強度の高い(加速度の大きい)運動を行っているものと考えられる。安全性,転倒リスクといった観点から,今後,運動の具体的な内容を精査する必要がある。【理学療法学研究としての意義】今回の結果から,歩行能力に関わらず通所によって身体活動が促されていることが確認された。施設への通所は,要介護高齢者が健康的な生活を送るうえで必須である,身体活動を促す手段として有用であることを示した。
  • 杉田 洋介
    セッションID: 0588
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】●研究背景廃用症候群(以下:廃用)はリハビリテーション(以下リハ)の主要な対象障害のひとつであり,当院でも処方頻度の高い障害名である。当院の廃用患者の歩行能力に関する転帰は,自立群:47%に対し介助群:43%であり,全体の40%超と高い比率で退院時歩行能力に関して問題を抱えているという現状がある。Studenski1らにより高齢者にとって歩行能力と生存年数に関しては高い相関があることが報告され「歩行」は生活の中での「移動手段」であり生活を営むために,歩けるか否かは非常にシビアな問題となることが推察される。過去の先行レビューより,廃用患者の退院時の歩行獲得に影響する因子としては,年齢や臥床期間,栄養状態,など様々な因子が考えられる。これらの先行研究により廃用患者の歩行能力回復/回復阻害因子について検討した事例は多数あるが,予防のための至適運動量・行動特性について追跡調査した報告はない。●目的今回,当院にて廃用に対しリハビリを行った患者の退院時歩行能力に影響を及ぼす因子と廃用予防のための至適活動量と行動特性について抽出することを目的として検討した。【方法】●対象 項目①2010年1月~2013年3月までに廃用の診断名でリハ処方された434例中,介入時に自立歩行不可で退院時に自立歩行レベルまで回復した群202名(77.9±16.3歳)(死亡例,入院前から歩行不可例,意識障害遷延例,退院時自立歩行不可例を除く)を対象とした。●対象 項目②入院翌日からリハ依頼(待機日数がない)され,入院から7日以内に歩行経験をした21名(78±3.3歳)を対象とした。●方法 項目①診療記録より,廃用発症に関連する46項目について調査し,46項目を独立変数,退院時点での歩行獲得群を従属変数として単変量解析を行い,ア)年齢70歳未満 イ)認知症なし ウ)入院前屋外歩行自立 エ)リハ依頼待機日数3日以内 オ)握力が標準以上という項目が抽出された。また,単変量解析で有意とされた項目を独立変数,退院時点での歩行獲得群を従属変数として多重ロジスティック回帰分析を行った。●方法 項目②身体活動量(パナソニック製 3軸加速度付センサー歩数計 アクティマーカーE4800を使用し1日あたりの総歩数を換算)と行動特性(5項目)とADL維持の指標としてのBarthel Indexの点数との関係を統計解析した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究を計画するにあたり,対象者に与える負担を最小限に抑えるように配慮した。本研究を実施する際には,対象者に本研究の目的および方法などを十分に説明し,研究参加の同意を得た。なお,本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得て実施された。【結果】●項目①多重ロジスティック回帰分析の結果,入院前屋外歩行自立 リハ依頼待機日数3日以内 握力が標準以上 が歩行獲得群と有意な相関を認めた(P<0.05)。●項目②1日あたり1500歩以上の身体活動量が必要である「可能性」が示唆された。1500歩以下なら,歩けていても徐々にADLは下がる「可能性」あり。廃用予防のためには離床も歩行開始も5日以内が望ましい可能性が示唆された。【考察】歩行回復因子については入院前屋外歩行自立,リハ依頼待機日数が3日以内,握力が標準以上という項目が歩行獲得群と有意な相関を認められ,これは概ね先行研究と相違ない結果となった。廃用予防のための身体活動量としては1日あたり1500歩以上の身体活動量が必要である可能性が示唆され,廃用予防のための行動特性としては離床も歩行開始も5日以内が望ましい可能性が示唆された。1日あたり1500歩という歩数は健康づくりのための身体活動基準2013の中での65歳以上の活動量が男性7000歩/日,女性6000歩/日であり,比較しても決して多い活動量ではなく,1500歩という値がADL維持に寄与したとは考えにくい。むしろ離床も歩行開始も5日以内という早期離床・早期歩行という点の寄与が大きいのではと考えている。先行研究で明らかにされている廃用症候群に陥りやすい因子を保有する症例には予防的観点からリハ依頼までの待機日数を可能な限り短縮する,病棟との連携で早期離床を奨励するなどの伝統的に叫ばれてきた対処法の必要性が本研究を通じて科学的に立証されたと思われる。【理学療法学研究としての意義】予防のための指標,新人理学療法士の介入内容の検討や目標活動量の指標,Evidence構築といった点で意義があるものと思われる。【引用文献】1)Studenski S et al:Gait speed and Survival in older Adults.JAMA.2011;305(1):50-58
  • 宮本 沙季, 山口 智史, 松永 玄, 近藤 国嗣, 大高 洋平
    セッションID: 0589
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】脳卒中者におけるデイケアの利用目的に,回復期病院で獲得した身体能力や動作能力を長期的に維持・向上し,日常生活活動(ADL)を確保することが挙げられる。脳卒中発症後のADL低下には,歩行能力の低下が強く関連すると報告されている(Wade et al.,1992)。また,歩行能力には下肢筋力との関連が示唆されている(菅原ら,1993)。よって,ADLに関連する歩行能力の維持・向上には,下肢筋力が影響する可能性がある。デイケア利用による歩行能力と下肢筋力の長期的な変化の理解は,デイケアの効果を示すだけでなく,理学療法介入を考えるうえでも重要である。本研究では,当デイケアを2年間利用した脳卒中者の歩行能力と下肢筋力に着目し,デイケア利用の効果を検討した。【方法】対象は,2007年5月から2011年9月の間に,当院併設のデイケアを利用した脳卒中者104名(男性54名,女性50名)である。平均年齢は,64.3±10.2歳(平均±標準偏差)であり,発症後日数は182日(中央値,最小90日-最大4720日)であった。選択基準は,初回発作の脳梗塞および出血,経時的に評価が可能,利用開始時の歩行能力が監視以上,指示理解が良好な者とした。除外基準は,著明な疼痛や拘縮があり歩行が困難な者とした。評価項目は,歩行速度,下肢筋力とし,デイケア利用開始時,利用後3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月および24ヶ月に測定した。歩行は,10m歩行を快適速度にて2回測定し,平均値から歩行速度(m/s)を求めた。下肢筋力は,多機能エルゴメーター(三菱電機エンジニアリング社製)を用い,筋力測定モード(50r/min)にて,麻痺側,非麻痺側の下肢最大伸展トルクを5回転分測定し,体重で除した値(Nm/kg)を用いた。解析は,利用開始前の歩行能力に着目し,歩行速度と下肢筋力の経時的な変化を検討した。歩行能力の分類には,Perryら(1995)による脳卒中を対象とした歩行速度での活動範囲の3分類(<0.4m/s:household,0.4~0.8m/s:limited community,>0.8m/s:full community)を用いた。歩行能力が向上したか否かの判定は,Pereraら(2006)に基づく臨床的意義のある最小変化量の0.1m/s以上を基準として用いた。さらに,歩行能力の分類ごとに,初回と24ヶ月における歩行速度の改善と下肢筋力の改善の関係をPearson積率相関係数を用いて検討した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】所属施設の倫理審査会で承認後,後方視的研究として行った。【結果】利用開始時において,household群が31名,limited群が50名,full群が23名であった。また,それぞれの歩行速度(m/s)は0.27±0.08,0.59±0.11,1.02±0.13であった。24ヶ月においては,それぞれ0.45±0.22,0.74±0.20,1.03±0.18と改善を認めた。最小変化量を基準として,初回と比較し歩行速度が向上した割合は3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月,24ヶ月の順にhousehold群は32%,45%,48%,61%,limited群は38%,54%,54%,62%,full群は21%,30%,39%,34%であった。下肢筋力では,household群は初回,3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月,24ヶ月の順に,麻痺側は12.2±9.3,15.4±11.0,17.2±10.9,20.4±14.2,24.0±15.1,非麻痺側は33.5±23.6,31.1±20.3,31.7±17.0,36.6±22.7,37.9±25.4であった。limited群では,麻痺側は24.3±15.0,27.7±15.5,28.4±16.0,30.0±17.5,35.4±19.8,非麻痺側は41.3±26.7,42.4±24.1,43.3±24.5,43.7±25.5,49.4±28.4であった。full群では麻痺側は38.6±15.0,43.3±17.7,45.8±18.8,47.0±18.9,49.8±19.6,非麻痺側は52.4±17.8,53.3±19.6,55.0±22.2,58.0±22.5,59.5±24.7であった。24ヶ月における歩行速度と下肢筋力の改善の関係は,麻痺側,非麻痺側の順に,household群でr=0.62,r=0.58,full群でr=0.46,r=0.57であり,有意な正の相関を認めた(全てp<0.01)。一方,limited群ではp>0.05であり,麻痺側,非麻痺側ともに有意な相関を認めなかった。【考察】脳卒中者において2年間のデイケア利用は,持続的に歩行能力および下肢筋力を維持・向上させることが明らかとなった。特に利用開始時の歩行能力が低いhousehold群,limited群において改善を認め,長期的に理学療法を提供する重要性が示唆された。また利用開始後2年における歩行速度と下肢筋力の改善には,household群とfull群で正の相関を認めたことより,密接な関連があることが示唆された。今後,症例を増やし,デイケア利用による効果をさらに検証していきたい。【理学療法学研究としての意義】脳卒中者の歩行能力別にデイケア利用による長期的な効果を明らかにし,デイケアでの理学療法の重要性を示した。さらに長期的な歩行能力と下肢筋力改善の関係を明らかにし,理学療法介入に示唆を与えた点で意義がある。
  • 安藤 卓, 樋口 由美, 石原 みさ子, 平島 賢一, 今岡 真和, 藤堂 恵美子, 上田 哲也, 北川 智美, 水野 稔基
    セッションID: 0590
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】通所介護サービス(以下デイ)を利用する虚弱高齢者の身体機能評価は,デイを利用する日に限られることが多い。しかし,利用者の生活の大半を占めるのはデイ利用日以外であり,デイ利用日以外の活動性を理解することは利用者の生活機能向上をめざす上で重要である。通常使用される身体活動量計は,衣服の上から腰部に装着し歩数を計測するものが多いが,更衣時や入浴時に着脱の頻度が増えるため正確な1日の歩数を測定できない場合がある。そこで本研究は,装着のまま入浴可能な生活防水済のリストバンド式身体活動量計を用いることとした。本研究の目的は,デイを利用する虚弱高齢者の,施設および自宅での身体活動量を比較することと,身体活動量と運動機能との関連を明らかにすることとした。【方法】要支援1~要介護3の認定を受け,デイを利用し,屋内歩行が自立している65歳以上の利用者15名(男性7名,女性8名,平均年齢83.2歳,70-94歳)を対象とした。除外基準はMMSE20点以下とした。身長は平均153.6cm,体重は52.3kg,BMI22.2m2/kg,MMSEは平均26.0点(21-30点)であった。身体活動量測定には手関節にリストバンドとして装着できる機器(UP,JAWBONE社製,生活防水済)を用いて1週間の歩数を計測した。運動機能はTimed up & go test(以下TUG)を測定し,「できるだけ早く」とした口頭指示した歩行条件下で実施した。歩数の分析のために,1日を24-3時,3-6時,6-9時,9-12時,12-15時,15-18時,18-21時,21-24時の8時間帯(以下hour1-8)に分け,デイ利用日と利用日以外で比較した。さらに,デイ利用日の歩数に対する利用日以外の平均歩数比率を対象者毎に算出した。100%を下回る場合,デイ利用以外の日の方が身体活動量が低下していることを示す。この比率が100%以下もしくはほぼ変わらない群(以下100%以下群)と100%を大きく超える群(以下100%超群)に分け,運動機能を比較した。統計処理はWilcoxonの符号順位検定およびSpearmanの順位相関係数を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究の趣旨を説明し書面にて同意を得た。なお,本研究は本研究科倫理委員会の承認済である。【結果】対象者の1週間の総歩数の平均は8981.5歩(825-21609歩),1日あたりの歩数平均は1283.1歩(117-3087歩)であった。デイ利用日の平均の歩数は1429.7歩/日に対し,デイ利用以外の日の平均歩数は1234.1歩/日と減少していた。hour1-8の平均はデイ利用日で48.0歩,21.4歩,252.1歩,286.7歩,286.7歩,308.0歩,103.5歩,44.5歩,デイ利用以外の日で17.9歩,31.1歩,150.7歩,331.7歩,303.0歩,189.0歩,275.0歩,92.8歩であり,デイ利用日とデイ利用以外の日の各時間帯で有意な差はみられなかった。しかし,6-9時(hour3)と15-18時(hour6)でデイ利用日が高値を示す傾向が認められた。TUGと歩数との相関は,デイ利用日でr=-0.639(p<0.01),デイ利用以外の日でr=-0.519(p<0.048)と有意な中等度の相関を認めた。歩行比率が100%以下群(n=10名)の比率平均は55%で,TUGは14.6秒であった。100%超群(n=5名)の比率平均は177%で,TUGは17.1秒であった。100%超群の5名は,デイでは他の利用者との会話を主に楽しんでいるが,自宅ではセルフケアだけだなく,家事なども積極的に行っているものが多い。【考察】健康日本21(第二次)によれば,屋外歩行が可能な健常高齢者の平均歩数は,男性が5,628歩/日,女性が4,584歩/日とされる。今回の結果より,デイ利用者の歩数は極めて少ない値であり,特にデイ利用がない日は歩数が低下していた。ほぼ自宅内で活動量の少ない生活をしている様子が改めて確認された。時間帯による歩数の比較では,デイ利用日で6-9時と15-18時で多くなる傾向が認められ,外出や帰宅のための準備がその日の歩数に影響することが示唆された。また,100%以下群は,デイ利用日以外は利用日の約半分しか歩行していないことが認められ,デイ活用が利用者の身体活動を維持している機会になっていると考えられる。また,デイ利用日および利用以外の日の歩数は運動機能と相関関係を認めるものの,歩行比率が100%以下群でTUGの成績が良好であったことは,歩行する運動機能はあるが,自宅では歩いていないという外出機会や屋外歩行の制限など運動機能とは異なる他の要因が歩数減少の原因となっているのではないかと考えられる。【理学療法研究としての意義】デイ利用者の1日,1週間の歩数での身体活動量を可視化でき,デイを利用していない日の身体活動も把握した上で,運動指導に利用できること。
  • 堀 健作, 田邉 龍太, 青木 大輔, 松尾 恵利香, 村尾 彰悟, 江原 加一, 福田 恵美子, 江口 宏, 百留 あかね, 大久保 智明 ...
    セッションID: 0591
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)による支援の一つに,閉じこもりを解消し,生活圏拡大による活動性向上を図るため外出支援を実施する。その際,利用者や家族より外出先での移動や排泄などの問題で相談を受けることが多々ある。そこで,独自に作成した外出評価を用いて,支援内容の優先課題について調査検討したので報告する。【方法】対象は当事業所で,平成25年7月に訪問リハを1ヶ月以上継続している利用者89名とした。内訳は男性43名・女性46名,疾患は脳血管障害44名,骨関節疾患16名,神経筋疾患22名,その他5名である。訪問リハスタッフによる質問紙法で1.病院や通所サービス以外の場所への外出頻度(月1回以上・2~3ヶ月に1回程度・半年に1回程度・外出していない),2.外出する際の介助者,3.外出評価を実施した。外出評価内容は,外出前の状況で①過去1ヶ月の睡眠状況,②準備の実施状況,③準備に要する時間,④外出するための意欲,⑤外出するための環境,外出先の状況⑥排泄,⑦移動,⑧コミュニケーション,⑨食事の9項目を十分・やや十分・やや不十分・不十分の4段階で調査した。さらに,9項目に対してやや不十分・不十分と回答した利用者には,その理由を調査した。また,外出評価から顧客満足度調査で用いられるCS分析を行い優先すべき項目を抽出した。優先すべき項目は満足率が低く,かつ外出頻度に対する決定係数が高い項目とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当法人倫理委員会の承認を得て実施した。利用者には口頭・紙面にて研究の目的及び内容を説明し同意を得た。【結果】外出頻度は月1回以上:59名,2~3ヶ月に1回程度:9名,半年に1回程度:6名,外出していない:15名であった。外出する際の介助者は,不要:18名,家族:57名,サービス提供スタッフ:10名,近隣の方:1名であった。外出評価の結果,十分・やや十分の割合は①睡眠状況87%,②準備の実施状況83%,③準備に要する時間65%,④外出するための意欲70%,⑤外出するための環境74%,⑥排泄65%,⑦移動52%,⑧コミュニケーション91%,⑨食事70%であった。CS分析結果では,満足率が低く,かつ外出頻度に対する決定係数が高い項目で外出するための意欲(満足率52%,決定係数0.25),移動(満足率36%,決定係数0.11),排泄(満足率56%,決定係数0.11)の順で3項目が優先すべき項目で抽出された。以上3項目では,意欲では何となく疲れるなどの回答が52%,移動では歩行時に転倒しそうで不安など51%,車椅子を駆動できないなど環境要因23%,排泄では多目的トイレの位置を知らないなどの環境要因,排泄回数が多く失禁に対する精神的不安要因の回答が70%を占めた。意欲が十分・やや十分でも一緒に外出する家族の存在がない利用者8名では外出頻度を維持できていなかった。意欲や移動,排泄がやや不十分・不十分でも家族と外出し,外出頻度を維持している割合は56%であった。【考察】CS分析の結果より外出頻度の向上には,意欲向上や外出先での移動の確立に加え,外出先での排泄の問題解決に優先して取り組む必要性が示唆された。外出頻度の減少と意欲や移動能力の低下についての知見は散見するが,排泄の問題については調査されていない。今回の結果にて排泄でやや不十分・不十分と答えた利用者は,多目的トイレの位置を知らないなどの環境要因や排泄回数が多く失禁に対する精神的不安要因に関する回答が7割と多くみられ,訪問リハで支援できる課題も多いと考える。そのため,多目的トイレの位置情報の提供や事前の下見,実際の外出練習に加え,トイレが間に合わなかった場合の対策を詰めるなども必要と考える。外出頻度が低下する理由に,外出への意欲が十分・やや十分でも一緒に外出する介助者の存在が無いことが考えられる。逆に,意欲や移動,排泄がやや不十分・不十分でも,一緒に外出する家族の存在があると,外出時の課題を乗り越え外出頻度を維持していると考えた。以上のことより,意欲や移動,排泄の課題へ単独に支援するのではなく,それら以外の課題に対しても支援していく必要があると考える。また,本人と外出する家族などと外出時の課題を共有し支援すること,家族などインフォーマルサービスの関わりが難しい場面では外出援助のヘルパーや福祉タクシーなどフォーマルサービスの提案なども考慮すべきであると考える。【理学療法学研究としての意義】意欲・移動・排泄の課題への適切な支援やインフォーマル・フォーマルサービスの有効活用で,利用者の外出頻度の向上や閉じこもり解消に繋がり,生活再建とQOL向上に繋がると考える。
セレクション
  • 岡本 伸弘, 増見 伸, 水谷 雅年, 齋藤 圭介
    セッションID: 0592
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】大腿骨近位部骨折患者における機能予後についての報告は,2000年前後を中心に精力的に研究が取り組まれてきた。これら研究により,認知症,脳卒中の既往,年齢,受傷前歩行能力(以下,従来の関連要因)などが機能予後に影響をおよぼすことが明らかにされ,同時期に初めて本邦における高齢者の栄養状態について大規模な調査が実施された。これにより医療施設入院中の高齢者の多くが低栄養状態に陥っていることが明らかとなり社会的な問題として認識されるようになった。近年,リハビリテーション分野においても患者個々の栄養状態について着目されるようになり様々な報告がされている。大腿骨近位部骨折患者の機能予後と栄養状態について,市村らや古庄らは入院時における栄養状態は歩行自立の予測因子となることを報告している。このように大腿骨近位部骨折患者の機能予後については,従来の関連要因以外にも栄養状態との間に関連性が認められているものの,臨床現場では栄養状態を考慮した理学療法の展開は十分になされてない。このような問題として,これら栄養状態が提起された研究は,現在と制度的な枠組みの違いを考慮しなければならないことや,従来の関連要因を考慮した検証が行われてない。また,これら分析モデルは入院時における栄養状態が退院時の身体能力とどれほど関連するかというもので,身体能力の回復過程に栄養状態がどのような影響をおよぼすのかについて明確にされていない。本研究の目的は移動能力の回復推移と機能予後の側面から,当該患者集団において栄養状態に注目することの重要性について検討することである。【方法】調査対象は福岡県内一カ所の回復期リハビリテーション病院に入院された65歳以上の全大腿骨近位部骨折患者364名とした。対象は初回の大腿骨近位部骨折患者のみとし,除外基準として入院中に容態の悪化を認め転院となった者,データに欠損値があった者を除き,集計対象者は266名とした。調査内容は,基本属性,医学的所見,受傷前環境,栄養状態,移動能力,病棟歩行自立の有無とした。移動能力の測定にはFACを用いた。測定間隔については,入院時より2週間毎の測定結果を用いた。解析方法に関して,入院時の栄養状態を低栄養判定基準に基づき3群に群別し,栄養状態が経時的な移動能力の回復に影響をおよぼすかについて二元配置分散分析を行い,多重比較検定にはScheffe法を用いて検討を行った。次に退院時の歩行自立に影響する因子についてロジスティック回帰分析を用い検討を行った。従属変数は退院時までの歩行自立の有無とし,説明変数は先行研究で指摘されている関連要因として認知症,脳卒中の既往,年齢,受傷前歩行能力を措定すると共に,栄養状態に関する変数としてアルブミン値(Alb値),Body Mass Index(BMI)を投入した。【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言を順守し研究計画を立案し,当院の倫理審査委員会(承認番号 第25-1号)の承認を受け実施すると共に,調査にあたっては個人が特定できないよう匿名化し,データの取り扱いに関しても漏洩がないように配慮を行った。【結果】二元配置分散分析の結果,それぞれの要因による交互作用は認めなかった。一方,各群内の時点間比較では,低栄養群および低栄養リスク群では入院時より4週目まで有意な回復を示したが(p<0.05),栄養良好群では入院時より6週目まで有意な増加を示した(p<0.05)。また,各測定時期における群間比較では,全ての時期において低栄養群と比較し栄養良好群では有意に移動能力が高値を示した(p<0.05)。次にロジスティック回帰分析を用いた検討の結果では,入院時Alb値(オッズ比5.93,95%信頼区間2.49-14.11),入院時BMI(オッズ比1.11,95%信頼区間1.00-1.22)は有意な変数として採択されたが,先行研究で指摘されている関連要因のうち年齢は棄却された。【考察】移動能力の回復推移について,低栄養群では栄養良好群と比べ機能回復が緩徐で,入院中の経時的な身体機能についても栄養良好群と比べ低栄養群は低値であり,機能回復の過程において栄養状態が影響していることが示唆された。また移動能力の回復予後との関連では,先行研究で指摘されている関連要因とともに,入院時Alb値とBMIが影響を与える事が示された。この検討において年齢は棄却されたが,これは栄養状態因子を加えた解析により年齢は交絡として作用し,より身体機能に影響をおよぼす栄養状態因子が選択されたのではないかと推察する。【理学療法学研究としての意義】理学療法を展開する上で栄養状態を留意することの重要性を示すと共に,離床や嚥下機能の改善を図るなど栄養状態の改善に向けた介入のあり方を検討する必要性を示唆するものと言える。
  • 青山 朋樹, 藤田 容子, 窓場 勝之, 南角 学, 冨田 素子, 後藤 公志, 柿木 良介, 中村 孝志, 戸口田 淳也
    セッションID: 0593
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】再生医療は従来の治療では治癒が困難な患者にとって大きな希望である。いくつかの疾患においては既に臨床試験が開始され,良好な結果も報告されている。しかしながら細胞移植後あるいは輸注後のリハビリテーションにおいて特化したプログラムはなく,従来のリハビリテーションプログラムに沿って実施されているのが現状である。そこで本研究においては,臨床試験「大腿骨頭無腐性壊死患者に対する骨髄間葉系幹細胞を用いた骨再生治療の検討」を実施時のリハビリテーションプログラムとその結果を検証することを目的とする。【方法】本臨床試験は特発性大腿骨頭壊死症(ステロイド性含む)のうち厚生労働省素案X線グレードstage3A及び3Bの患者10名を対象に,自己骨随由来間葉系幹細胞とベータリン酸三カルシウムを血管柄付き腸骨移植術と併用し,細胞移植治療の有効性と安全性を検証する非盲検単群試験である。本臨床試験で実施したリハビリテーションプログラムは従来の骨頭温存手術後のプログラムに準拠してプログラム構築した。荷重は術後6週より1/3荷重から開始し,以後は2週毎に荷重量を増加し,術後12週で全荷重とした。関節可動域エクササイズは健側は術後3日,患側は術後2週から開始した。筋力強化エクササイズは健側は術後3日から,患側は術後6週から開始した。リハビリテーション実施期間は,急性期病院入院の1ヵ月間を急性期リハビリテーション,回復期病院に転院後2ヵ月間を回復期リハビリテーション,回復期病院退院後2ヵ月間を外来リハビリテーションとして実施した。リハビリテーション効果の判定は,機能評価として股関節可動域測定,筋力測定,パフォーマンス評価をTimed up and go test(TUG)にて行い,健康関連QOL評価として日本語版SF-36を用いた。関節可動域は股関節屈曲,伸展,外転,外旋を測定した。股関節周囲筋力(伸展,屈曲,外転)は徒手筋力計を,膝関節周囲筋力(伸展,屈曲)はIsoForce GT-330を用いて評価した。統計解析は術前,術後6ヵ月,術後1年の変化をFriedman検定にて解析した。多重比較はScheffeの対比較により行い,有意水準を5%とした。安全性の評価はリハビリテーションも含めて,臨床試験全体を通して有害事象のモニターを独立したデータマネジメントセンターで実施した。【倫理的配慮,説明と同意】文書及び口頭にて研究の目的,方法を説明し,文書による同意を得た患者を対象にした。本臨床試験は当該施設の倫理委員会に承認され実施した。【結果】本臨床試験には男性10名(20~48歳)が参加した。股関節可動域は患側,健側のいずれの可動域も治療前と比較して術後6ヵ月では増大傾向を示したが,術後1年では横ばいからやや低下傾向にあった。これらのうち患側の外旋は術前と術後6ヵ月との間で有意な増大を認めた。筋力は患側,健側のいずれの筋力も治療前と比較して術後6ヵ月で増加傾向を認め,術後1年ではやや増加傾向にあった。患側の股関節伸展,外転は有意な増加を認めた。TUGは改善傾向であったが統計的有意差は認めなかった。SF-36は下位尺度のうちphysical function,role-physical,bodily painは有意な改善を認めた。general health,social function,role-emotion,mental healthは統計的有意差を認めないが,改善傾向を示し,vitalityは不変であった。リハビリテーション実施中の有害事象は「筋肉痛」「筋のこわばり」などの主に筋力強化によるものであった。【考察】米国においてはAmbrosioがregenerative rehabilitationという名称で,再生医療におけるリハビリテーションの新たな役割について概念化を行なっている。しかしながら世界的にも再生医療後のリハビリテーションとして確立したプログラムはいまだ存在せず,従来のプログラムを踏襲して行なっているのが現状である。本臨床試験は非盲検単群試験であることから,今回のリハビリテーションプログラムの有効性について言及することはできない。しかしながらその効果について有効性と安全性を示唆する結果を得られた事から今後の発展性が期待される。今後は更に,再生医療に特化したリハビリテーションプログラムを基礎研究で開発することに加えて,臨床における有効性を臨床試験等によって明らかにすることが必要である。【理学療法学研究としての意義】今後,国内外において再生医療はますます発展することが予想される。細胞移植治療においては移植,輸注した細胞が移植部において成熟した組織に分化し,移植母床と一体化することが必要で,その際に理学療法はそれらを促す重要な因子になると考えられ,当該研究を実施することは再生医療のみならず理学療法の発展に大きく寄与すると考えられる。
  • 福元 喜啓, 建内 宏重, 塚越 累, 沖田 祐介, 秋山 治彦, 宗 和隆, 黒田 隆, 市橋 則明
    セッションID: 0594
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】階段昇降は日常生活の中でも行われることが多い動作のひとつである。変形性股関節症(以下,股OA)は様々な日常生活動作の低下をきたす進行性の関節変性疾患であるが,その動作解析を行った研究では主に歩行解析を扱った報告が多く,段差昇段動作を解析した報告は見当たらない。段差昇段時には歩行時よりも大きい筋活動を必要とすることから,下肢筋力低下を呈する股OA患者の段差昇段では関節モーメント低下や関節運動異常といった運動学的・運動力学的変化が生じている可能性がある。本研究の目的は,股OA患者における段差昇段動作の運動学的・運動力学的特徴を,健常者との比較により明らかにすることである。【方法】対象は,地域に在住している進行期または末期の股OA女性患者15名(平均年齢54.8±6.3歳,身長156.7±4.3cm,体重52.9±6.4kg,以下OA群)および健常女性10名(55.9±4.8歳,157.3±3.3cm,54.7±4.1kg,以下健常群)とした。解析対象側はOA群では患側,健常群では非利き脚側とした。段差昇段動作の開始肢位は両上肢を体幹の前で組んだ立位とし,前方の高さ17cmの段上に対象側下肢から昇段する動作を自由速度で実施した。解析には3次元動作解析装置(VICON社製,サンプリング周波数200Hz)および床反力計(Kistler社製,サンプリング周波数1000Hz)を使用し,反射マーカーはplug in gait full bodyモデルに準じて貼付した。対象側下肢が段上に接地してから反対側下肢が段上に接地するまでの所要時間(秒)を求めた。この区間の股関節伸展,膝関節伸展および足関節底屈の内的モーメントと,これらの総和であるサポートモーメント(Nm/kg)を求めた。サポートモーメントがピーク値となった時の股関節伸展,膝関節伸展および足関節底屈のモーメント値を求め,さらにサポートモーメントに対するそれぞれの比率を算出した。またこの時の体幹屈曲,股関節屈曲,膝関節屈曲および足関節底屈角度(°)を求めた。試行回数は3回とし,平均値を分析に用いた。統計学的検定として,対応のないt検定を用いて,各測定項目の群間比較を行った。また,Friedman検定およびWilcoxon検定(Bonferroni補正)を用いて,股関節伸展,膝関節伸展と足関節底屈のモーメント比率の群内比較を行った。統計の有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得て行われた。対象者には研究内容の説明を行い,書面にて参加の同意を得た。【結果】段差昇段の所要時間は,OA群が1.21±0.33秒,健常群が1.04±0.20秒であり,有意ではないがOA群が長い傾向を示した(p=0.09)。サポートモーメントのピーク値はOA群(1.30±0.22Nm/kg)が健常群(1.58±0.17Nm/kg)よりも有意に低かった(p<0.01)。各関節のモーメントは,股関節伸展(OA群0.39±0.13Nm/kg,健常群0.43±0.18Nm/kg)と膝関節伸展(OA群0.56±0.21Nm/kg,健常群0.56±0.20Nm/kg)では群間の有意差がなかったが,足関節底屈(OA群0.35±0.12Nm/kg,健常群0.59±0.18Nm/kg)ではOA群が有意に低かった(p<0.05)。サポートモーメントに対する股関節伸展,膝関節伸展,足関節底屈モーメントの比率は,OA群では30%,43%,27%であり,膝関節伸展と比較し足関節底屈が有意に低かったが(p<0.05),健常群では27%,36%,37%であり,有意差はなかった。また関節角度は,足関節背屈角度(OA群17.3±3.6°,健常群20.4±4.8°,p<0.05)ではOA群が有意に小さかったが,股関節屈曲,膝関節屈曲と体幹屈曲角度では群間の有意差はなかった。【考察】本研究の結果,OA群のサポートモーメントは健常群よりも小さかったことから,股OA患者は段差昇段動作を行うにあたっての下肢伸展モーメントの発揮が不十分であり,所要時間が延長していることが示唆された。またこのサポートモーメントの低下には,股関節や膝関節の伸展モーメントよりも足関節底屈モーメントの低下による影響が大きいこと明らかとなった。OA群の足関節背屈角度は健常者と比べ小さかったことから,股OA患者は段差昇段時において足関節背屈に伴う足関節底屈モーメントの発揮が困難であることが推察された。【理学療法学研究としての意義】臨床上,股OA患者は階段昇降動作の制限を強いられることが多い。本研究は股OA患者の段差昇段動作の評価や治療には股関節や膝関節だけでなく足関節にも着目する必要があることを運動学的・運動力学的に示したものであり,理学療法学の発展のための意義は大きい。
  • 無作為化比較試験
    中野渡 達哉, 鈴鴨 よしみ, 高橋 宏彰, 永峯 悠, 阿部 綾香, 齋藤 聡久, 横山 寛子, 鴫原 竜司, 佐藤 友梨香, 鎌田 宏之 ...
    セッションID: 0595
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】人工股関節全置換術(以下,THA)後の機能的脚長差(leg length discrepancy:以下,LLD)は,主観的LLDの訴えや歩行速度低下に関連することが報告されている(Nakanowatari, 2013)。THA後の機能的LLDは術側股関節外転拘縮や腰椎側方可動性の低下によって引き起こされ,理学療法によって治療的対処が可能である。近年,THA後LLDに対する介入を行った先行研究として,等尺性収縮後の筋伸張法等の運動療法にて主観的LLDが改善したこと(Sobiech, 2010)や,機能的LLDに対して術後早期から段階的に調整できる補高装具を用いたこと(西島,2012)が報告されている。しかし,対照群との比較を行い,科学的に検証した報告はなく,2つの介入方法の科学的根拠は明確に示されていない。そこで本研究は,THA後患者の機能的LLDに対する運動療法または補高装具の無作為化比較試験を行い,2つの介入方法が,機能的LLD,主観的LLDに及ぼす効果を明らかとすることを目的とした。【方法】対象は,2013年2月から同年7月の間に,仙台市内の一般病院にて片側初回THAを施行し,術後1週の時点で術肢が長下肢側の機能的LLDおよび主観的LLDを有している患者とした。研究デザインは,アウトカム評価者を盲検化した無作為化比較試験とし,次の3群に無作為に割付けた:①通常診療に加え,機能的LLDの原因への特異的運動療法として股関節屈筋・外転筋群に対する等尺性収縮後の筋伸長法と,腰椎側弯に対する体幹側方移動運動と骨盤側方挙上運動を併用するspecific exercise approach群(以下,SEA群);②通常診療に加え,1枚5mm単位で高さを増減できるインソール型補高を併用するmodifiable heel lift群(以下,MHL群);③通常のリハビリテーション治療を行う対照群。いずれも術後1週でベースライン時評価を行い,各介入を2週間継続し,退院時の術後3週で介入後評価を行った。評価指標は患者の均等感を基準としたblock testにより機能的LLDを計測し,自記式質問紙にて主観的LLD有無と5段階尺度を用いた主観的LLD程度を記述させた。両指標の妥当性を確認するためにメジャーにて転子果長,棘果長,臍果長,X線学的に大腿骨小転子から涙痕間線までの垂線の距離を計測し,術側値から対側値を減じた左右差を求めた。統計学的解析として,機能的LLDは一元配置分散分析後に多重比較検定(Dunnett法)にてSEA群またはMHL群と対照群を比較し,主観的LLDはχ2検定を用い3群間を比較した。機能的LLDと主観的LLDの計測値の妥当性は,他のLLD指標との間のSpearmanの順位相関係数を用い検討した。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】研究実施に先立ち,研究プロトコルは東北大学病院臨床研究倫理委員会の承認を得た。ヘルシンキ宣言を遵守し,事前に全対象者へ研究内容や個人情報の取扱に関する説明を文書と口頭にて十分に行い,署名にて同意を得た。【結果】基準を満たし,データ欠損のないSEA群10名,MHL群8名,対照群9名(全27名:年齢63.1±7.0歳,機能的LLD9.8±4.6mm)を解析対象とした。3群間の患者特性およびベースライン時の機能的・主観的LLDに有意差はなかった。介入後の機能的LLDは,SEA群3.3±3.1mm,MHL群2.2±2.1mmで対照群6.4±4.0mmに比べ共に有意に小さい値を示した(p<0.05)。介入後の主観的LLD有無の比率では3群間に有意差はなかったが,主観的LLD程度の比率は3群間で有意差を認め(p<0.05),主観的LLDが軽度の比率が対照群22.2%に対し,SEA群70.0%,MHL群75.0%であった。妥当性の検証では,block test計測値と主観的LLD程度共に機能的LLD指標である臍果長差との間にのみ,中等度の正の相関を認めた(p<0.05)。【考察】SEAによって大腿筋膜張筋や体幹伸筋群の伸張性が選択的に増し,機能的LLDを改善したと考えられる。またMHLにおいては,MHL挿入に伴う長下肢側の術肢の股関節屈曲位の補正によって,股関節屈筋群の伸張位保持時間を増え同筋群の伸張性が改善し,機能的LLDの改善をもたらしたと考えられる。主観的LLD程度は機能的LLDと相関していることから,機能的LLDの改善に伴い患者の知覚する主観的LLDも軽減したものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究で得られた知見は,THA後機能的LLDに対する運動療法と補高装具の効果について科学的根拠を提供でき,広く臨床導入できる可能性がある。また,対症療法的に用いられることが多い補高装具を,理学療法士が段階的に調整し用いることで治療的側面を見出した重要な知見となると考えられる。
  • 観察研究のメタアナリシス
    南有田 くるみ, 田中 亮, 木藤 伸宏
    セッションID: 0596
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】疼痛は変形性膝関節症(以下,膝OA)の主症状であり,多くの罹患者を悩ませる問題の一つでもある。疼痛緩和を目的に理学療法が選択されることは臨床現場において珍しくない。しかしながら,その一方で,疼痛を有する膝OA罹患者の29%は疼痛が自然回復することが報告されている(Peters and Sanders,2005)。それにもかかわらず,どのような膝OA罹患者であれば疼痛が自然回復するのか,あるいは持続したり悪化したりするのかは明らかにされていない。患者の病歴や検査から進行の予後指標を同定することは,医療従事者が疾患進行の可能性をより正確に予測し,患者を適切な介入へと向かわせることを可能にする(Chapple et al 2011)。本研究の目的は,膝OA罹患者の疼痛の予後予測要因を明らかにすることである。【方法】本研究のデザインは,観察研究のメタアナリシスとした。論文の適格基準は,膝OA罹患者が対象に含まれている,評価項目に疼痛が含まれている,臨床現場で簡便かつ容易に実施できる検査項目が含まれている,疼痛と検査項目との関連性が統計学的に分析されている,研究デザインが観察研究である,とした。文献検索には,PubMed,the Cochrane Library,CINAHLを使用した。適格基準に合致した複数の論文で同一の効果量が記載されていれば,その効果量を統合した。統合効果量とその95%信頼区間を算出し,統合効果量の有意水準をp<0.05とした。統合効果量の異質性を示すI²値を算出して効果量のばらつきを評価した。【結果】抽出された576編の論文のうち,適格基準に合致した論文は22編であった。疼痛との関連性が検討された項目を国際生活機能分類に準じて分類すると,心身機能13目,身体構造2項目,活動と参加7項目,個人因子・その他6項目であった。このうち,データの統合が可能であった項目は,膝関節屈曲可動域,膝関節伸展筋力,下肢アライメント,BMI,階段昇段,階段降段,活動全般,年齢,性別の9項目であった。データの統合は,ピアソンの積率相関係数のみ可能であった。データを統合した結果,統計学的に有意であった項目の統合相関係数(95%信頼区間およびI²値)は,膝関節屈曲可動域-0.272(-0.402~-0.133,0%),膝関節伸展筋力-0.302(-0.510~-0.06,63%),BMI 0.228(0.070~0.375,56%),階段昇段0.439(0.259~0.590,0%),階段降段0.447(0.268~0.596,0%)であった。データの統合に含まれた研究は全て横断研究であり,膝OA罹患者の疼痛の予後予測要因を明らかにしている縦断研究はみあたらなかった。【考察】膝OA罹患者の疼痛の予後予測要因は明らかにされていなかったが,疼痛と関連のある要因として膝関節屈曲可動域,膝関節伸展筋力,BMI,階段昇段,階段降段が示された。Belo et al(2007)は,膝OAの進行と強く関連のある要因として,多関節に及ぶOA,ヒアルロン酸注射,身体活動への参加,筋力,過去の膝関節受傷歴を挙げ,Chapple et al(2011)は,これら以外に,膝関節マルアライメント,年齢,レントゲン特性を挙げている。しかしながら,これら先行研究は膝OAの進行を疼痛だけでなく,レントゲン特性や身体機能の変化も含めて定義している。そのため,疼痛の予後を必ずしも予測しない要因が上記に含まれている可能性がある。それに対して本研究は,膝関節屈曲可動域,階段昇段,階段降段が疼痛と関連のある要因として示された。これらは,Belo et al(2007)やChapple et al(2011)が挙げた要因に含まれておらず,疼痛に固有の予後予測要因であるかもしれない。ただし,本研究のメタアナリシスは横断研究のデータに偏っているため,これらの項目で将来の疼痛の変化を予測できるとまでは言い切れない。また,交絡要因の影響が調節されていないデータを扱っていることや,データの統合結果に及ぼす一次研究のバイアスの影響が評価されていないことも,本研究の限界として指摘できる。したがって,膝OA罹患者の疼痛の予後予測が可能かどうか判断するためには,これらの要因を扱った縦断研究を行い,交絡要因の影響を調節した分析を実施したうえで,疼痛が持続する患者や悪化する患者の特徴を検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】未だ明らかにされていない膝OA罹患者の疼痛の予後予測について,今後の研究で扱われるべき潜在的要因の一部が示された。今後,疼痛の予後予測に対する臨床研究を実施した際,アウトカムの設定で効果判定の指標として使用することが期待できる。
  • 膝関節可動域・疼痛・重症度との関係
    齊藤 明, 岡田 恭司, 斎藤 功, 髙橋 裕介, 木下 和勇, 佐藤 大道, 柴田 和幸, 木元 稔, 若狭 正彦
    セッションID: 0597
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】膝関節筋は中間広筋の深層に位置し,大腿骨遠位前面を起始,膝蓋上包を停止とする筋である。大腿四頭筋と合わせて大腿五頭筋と称されることもあるが,その作用は大腿四頭筋とは異なり膝関節伸展時に膝蓋上包を牽引・挙上するとされ,機能不全が生じると膝蓋上包の挟み込みにより拘縮の原因になると考えられている。変形性膝関節症(以下,膝OA)の進行や症状には大腿四頭筋や膝蓋上包の機能低下が関与することが知られている。膝関節筋も起始・停止や作用を考慮するとその機能低下は膝OAに影響を及ぼす可能性があるが,明らかにされていない。本研究の目的は膝関節筋の機能に対する膝OAの影響を明らかにし,膝関節伸展可動域(以下,膝伸展ROM)や疼痛,重症度との関係を明らかにすることである。【方法】膝OA患者17名24肢(膝OA群:平均年齢72歳),健常高齢者50名100肢(高齢群:平均年齢69歳),健常大学生16名32肢(若年群:平均年齢22歳)を対象とした。測定肢位は筋力測定機器Musculator GT30(OG技研社製)を使用し椅子座位にて体幹,骨盤,下腿遠位部をベルトで固定した。動作課題は膝関節屈曲30°位での最大等尺性膝伸展運動とし,このときの膝関節筋筋厚,膝関節筋停止部移動距離を超音波診断装置Hi vision Avius(日立アロカメディカル社製)を用いて測定した。測定には14MHzのリニアプローブを使用しBモードで行った。膝関節筋筋厚は筋膜間の最大距離を計測し,安静時の値に対する等尺性膝伸展運動時の値の変化率を求めた。膝関節筋停止部移動距離は安静時の画像上で膝関節筋停止部をマークし,等尺性膝伸展運動時の画像上でその点の移動距離を計測した。この移動距離は膝蓋上包が膝関節筋により挙上された距離と定義した。また膝OA群では膝伸展ROMを測定し,膝関節の疼痛をVisual analog scale(以下VAS),膝OAの重症度をKellgren-Lawrence分類(K/L分類)を用いて評価した。各群間での膝関節筋筋厚および停止部移動距離の差を検定するため,一元配置分散分析およびTukey多重比較検定を行った。また膝OA群において膝関節筋筋厚および停止部移動距離と膝伸展ROM,VAS,K/L分類との関係をPearsonの相関係数を求めて検討した。統計解析にはSPSS19.0を使用し,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,本学の医学部倫理委員会(申請番号1035)の承認を得てから実施し,対象者には研究目的および研究方法を十分に説明し書面にて同意を得た。【結果】安静時の膝関節筋筋厚は膝OA群1.86±0.20 mm,高齢群2.02±0.11 mm,若年群2.21±0.17 mmで膝OA群が高齢群,若年群に比べ有意に低く(いずれもp<0.001),高齢群が若年群より有意に低値であった(p<0.001)。膝関節筋筋厚の変化率も膝OA群32.19±16.89%,高齢群72.42±12.27%,若年群124.61±35.13%で膝OA群が高齢群,若年群より有意に低値であり(いずれもp<0.001),高齢群は若年群に比べ有意に低かった(p<0.001)。同様に膝関節筋停止部移動距離も膝OA群4.86±2.46 mm,高齢群9.67±2.74 mm,若年群10.44±2.65 mmで膝OA群が高齢群,若年群に比べ有意に低値を示したが(いずれもp<0.001),高齢群と若年群との間に有意差は認められなかった。膝OA群では膝関節筋の筋厚変化率および停止部移動距離と膝伸展ROMとの間に有意な正の相関を認め(それぞれr=0.616,r=0.828),またVASとの間に有意な負の相関を認めた(それぞれr=-0.533,r=-0.777)。同様にK/L分類との間にも有意な負の相関を認めた(それぞれr=-0.691,r=-0.739)。【考察】膝OA群では高齢群,若年群に比べ安静時の膝関節筋筋厚が低値であり,筋委縮が生じていると考えられる。また筋厚変化率も同様に膝OA群では他の2群よりも低いことから,膝関節筋の機能不全が生じていることが示唆され,その結果,膝蓋上包の動きの指標である膝関節筋停止部移動距離も低値を示したと考える。膝OA群では膝関節筋筋厚変化率と膝伸展ROM,VAS,K/L分類との間に有意な相関関係を認めたことから,膝関節筋の機能不全は膝伸展ROM制限や疼痛などの症状と関連し,膝OAの進行とも関係があると考えられる。また膝関節筋停止部移動距離でも同様に非常に高い相関関係を認め,膝OAの症状や進行には膝蓋上包の動きも大きな関わりがあることが示された。【理学療法学研究としての意義】以上より膝OA群では高齢群,若年群に比べ膝関節筋の機能不全が認められ,また膝関節筋の機能不全は膝OAの症状や進行と関連することが明らかとなった。したがって膝関節筋は膝OAに対する理学療法の重要な治療対象であると考えられ,膝伸展ROM制限や疼痛の改善,膝OAの進行の抑制には膝関節筋の収縮を促し,膝蓋上包を挙上することが重要であると考える。
  • 中村 睦美, 木㔟 千代子, 山形 沙穂, 森田 真純, 長谷川 恭一, 浅利 洋平, 佃 麻人, 水上 昌文
    セッションID: 0598
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】変形性膝関節症が進行すると,機能障害だけでなく活動,参加が低下することが知られている。人工膝関節置換術により,活動,参加の改善が期待されるが,これらの経時的変化を調査した報告は少ない。我々は,前年度の本学会にて,変形性膝関節症および人工膝関節置換術(TKA)患者を対象とした「活動・参加」の評価指標として,国際生活機能分類(ICF)コアセットの項目を独自に作成した補足指針を用いて評価し,評価法の信頼性について報告した。そこで,本研究では,この評価法を用いて人工膝関節置換術患者における活動,参加の経時的変化を調査し,術後の活動,参加は術前と比較して改善するか明らかにすることを目的とした。【方法】対象者はTKA患者54名(74.0±8.6歳)であり,内訳は男性13名,女性41名,片側施行者32名,両側施行者22名,TKA後46名,人工単顆関節置換術(UKA)後8名,原疾患は変形性膝関節症51名,慢性関節リウマチ3名であった。活動,参加の評価項目には,ICFの変形性関節症に対するコアセット(ICF Core Set for osteoarthritis)の「活動・参加」19項目のうち,手,手指に関する2項目を除いた17項目を用いた。また,評価基準には厚生労働省「活動と参加の基準(暫定案)」を用い,実行状況と能力それぞれについて評価を行った。また能力においては,支援の有無による2つの状況下における評価を行った。なお,大川らの研究を参考にICFコードの500番台以前の10項目を活動,600番台以降の7項目を参加とし,それぞれの評価点基準を用いて評価し,各項目の合計得点を算出した。採点は,0点から4点の5段階とし,活動は0~40点,参加は0~28点までの範囲で,点数が低いほど活動,参加の状況が良好であることを示している。さらに,この評価基準に加えて,各項目において具体的な内容を挙げた補足指針を用いた。評価時期は術前,退院時,術後3か月,術後6か月とした。統計解析にはSPSS 20.0を用い,活動,参加の経時的な変化をFriedman検定,その後の比較にBonferroni検定を用い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究の目的および方法について説明し,書面により同意を得た。なお,本研究は本大学倫理委員会にて承認された「人工膝関節置換術後患者の参加制約改善を目的とした理学療法プログラムの開発」の研究の一部として行ったものである。【結果】活動について,術前,退院時,術後3か月,術後6か月はそれぞれ,実行状況では9.4±4.5,14.4±3.7,8.4±4.1,7.1±3.6であり,術前と比較して退院時に有意に高い値を,術後6か月で有意に低い値を示し,能力の支援有では7.6±4.0,8.6±4.2,5.7±3.4,4.6±2.5,支援無では9.1±4.5,9.9±4.6,6.7±4.0,5.3±2.9であり,支援有無ともに術前と比較して術後3か月と6か月で有意に低い値を示した。また参加について,術前,退院時,術後3か月,術後6か月はそれぞれ,実行状況では10.7±5.2,21.8±5.8,11.1±6.4,8.1±3.6であり,術前と比較して退院時に有意に高い値を,術後6か月で有意に低い値を示し,能力の支援有では6.1±3.8,7.8±4.8,4.8±3.6,4.5±3.4,支援無では6.7±4.1,8.2±5.0,5.3±3.9,4.9±3.7であり,支援有無ともに術前と比較して術後6か月で有意に低い値を示した。【考察】本研究では人工膝関節置換術患者において,活動,参加の状況は,術前と比較して術後に改善すると考え,術前後で比較検討を行った。その結果,実行状況では,活動,参加ともに,術前と比較して退院時に悪化し,術後6か月で改善した。また,能力では支援の有無ともに,活動は術後3か月,6か月で改善し,参加は術後6か月で改善した。このことにより,TKA患者の活動や参加は術前と比較し術後に改善されるが,能力において,参加での改善のタイミングは活動と比較して遅延することが示唆された。PisoniらやDavisらによると参加制約は機能障害や活動制限に比べて改善が遅いが,参加は術後3~6か月で術前より改善すると報告している。本研究の結果は,これらの報告を支持するものとなった。Annaらは,TKA術前患者は術後,機能障害の改善だけでなく,活動制限や参加制約の改善も期待していると報告している。TKA術後患者において早期に参加を獲得することにより,術後早期より社会や家庭内で自分の役割を見出し生活の質が高まること,また手術に対しての満足度が高まることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究により,TKA患者の活動や参加は術前と比較し術後に改善されるが,参加での改善のタイミングは遅延することが示された。今回の結果は,TKA術後患者における活動や参加に関する理学療法アプローチの一助となると考えられる。
  • 平野 和宏, 鈴木 壽彦, 五十嵐 祐介, 田中 真希, 石川 明菜, 姉崎 由佳, 川藤 沙文, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 安保 雅博
    セッションID: 0599
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々は,2010年4月より本学附属の4病院(以下4病院)にて,人工膝関節全置換術(以下TKA)患者を対象に統一した評価表を用いている。本評価表は患者の5段階による主観的評価を用いた問診票と理学療法士が評価する機能評価とで構成されている。TKA患者の高い活動性を維持するためにも,QOLを高めるためにも,外出が出来るか否かは重要であると考える。そこで我々は,第48回日本理学療法学術大会においてTKA患者が外出できる歩行能力を有しているのかを判断する場合,日本において徒歩何分という表示に用いられる80m/minという歩行速度は1つの判断基準となりうるとの考えから,TKA患者が80m/minの速度で歩行するためのQuick Squat(以下QS)回数とTimed up&Goテスト(以下TUG)のカットオフ値を算出し報告した。しかしながら,実際に患者自身が外出に関して満足するためには,どのような機能が必要かは判断できず,今回,TKA患者の外出に対する主観的評価に影響を及ぼす機能評価を抽出することを目的とした。【方法】対象は2010年4月から2013年8月までに4病院でTKAを施行し,自宅退院後である術後8週,術後12週のいずれかの時期に調査項目が評価可能であった212名とした。機能評価の調査項目は,5m歩行時間,QS回数,TUG,JOAスコア,膝の疼痛の有無,術側屈曲・伸展可動域,筋力(Nm/kg)として術側膝屈曲・伸展,非術側膝屈曲・伸展の11項目とし,QS回数,TUG,筋力は各々2回測定し,その平均値とした。QSとは,膝関節屈曲60°までのスクワットを10秒間に出来るだけ早く行い,その回数を評価するものである。問診票の調査項目は「外出」とし,患者の主観により外出が「5:楽にできる~1:出来ない」の5段階にて評価し,4・5の群を外出満足群,1・2の群を外出不満足群の2群とした。5段階評価のうち3の群は除外した(n=57)。統計解析としては,2群間における機能評価の測定値を対応のないt検定およびχ2検定にて比較した。さらに,外出の主観的評価にはどの機能評価が影響するのかを検証するために,外出の満足不満足を従属変数,2群間の比較にて有意差を認めた項目を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。有意な変数として抽出された項目については,オッズ比(odds ratio:以下OR)を算出した。統計解析ソフトはSPSS(ver.20)を使用した。【倫理的配慮】本研究は,当学の倫理委員会の承認を得て施行した。【結果】外出満足群は141名,外出不満足群は71名であった。2群間で比較したt検定およびχ2検定では,5m歩行時間,QS回数,JOAスコア,疼痛の有無,術側膝屈曲筋力,術側伸展筋力の6項目に有意差が認められた(いずれもp<0.01)。この6項目を独立変数としたロジスティック回帰分析の結果,モデルχ2検定はp<0.01で有意であり,判別的中率は76.4%であった。有意な変数として抽出された項目とそのORを以下に示す。QS回数で1.45(p<0.01),JOAスコアで0.7(p<0.01),膝の疼痛の有無で0.4(p<0.05)であった。【考察】統計解析の結果,膝の疼痛が無く,JOAスコアが高く,QS回数が多いことが外出の満足度を高めることとなった。TKAは除痛を目的に施行することが多いこと,歩行動作は疼痛の影響を受けると予測されることから疼痛の有無が抽出されたと考える。歩行という動作を含む評価項目はTUG,5m歩行時間,JOAスコアであるが,前者2項目は短距離での評価であるのに対し,JOAスコアは1kmという長距離の評価が含まれるために,外出に影響する因子として抽出されたと考える。QSは伸長-短縮サイクル(stretch-shortening cycle以下SSC)運動であり,SSC運動はスポーツ選手の投擲動作時やジャンプ施行時から健常者の通常歩行時まで幅広い動作において認められている。このため,歩行能力の維持・改善にはSSC運動の遂行能力向上と適切な評価が重要であるとの考えから,4病院ではTKA術後早期からQSをトレーニングとしても取り入れている。我々は第47回日本理学療法学術大会にてTKA患者のQS回数と歩行速度,TUGにおいて相関が認められたことを報告した。さらに今回,高い歩行能力に加え複合的な要素が必要と考えられる「外出」という行動に関してQSが影響する結果になった。これらのことから,QSはTKA患者の歩行能力やバランス能力のみならず幅広い動作能力を反映することが示唆された。また,QSは術後早期から退院後まで長期間において活用でき,簡便で特別な道具を必要とせず,評価とトレーニングを兼ねている点でも有用性が高いと考える。【理学療法学研究としての意義】TKA患者の外出に対する主観的評価に影響する機能因子として,QS回数,JOAスコア,膝の疼痛の有無が抽出された。QSはTKA患者の動作評価の新しい指標になりうると考える。
  • 白谷 智子, 新井 光男, 来間 弘展, 柳澤 真純, 桝本 一枝, 柳澤 健
    セッションID: 0600
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】固有受容性神経促通法(PNF)の骨盤パターンである後方下制の中間域での静止性収縮促通(SCPD)手技(低負荷)の上行性の神経生理学的影響を橈側手根屈筋(FCR)H波により検証した結果,抵抗時は抑制し抵抗後に促通効果が認められた(Arai et al. 2012, 2013)。骨盤の抵抗運動の下行性の神経生理学的効果では高負荷での一側骨盤の前方回旋への静止性収縮の促通時と直後では抵抗運動側と対側のヒラメ筋H波は有意な増大が認められているが(大城ら。1991),PNFパターンを用いた低負荷での下行性の生理学的効果の検証はなされていない。本研究の目的は,PNFパターンを用いた低負荷での骨盤の抵抗運動の一つであるSCPD手技の下行性の神経生理学的効果をヒラメ筋H波により検証することである。【方法】対象は神経学的既往のない健常者8名(男性4名,女性4名,年齢範囲21-24歳)とした。対象者は右坐骨結節からのSCPD手技と抵抗運動による右足関節の底屈位での静止性収縮促通手技(コントロール手技)を行った。各運動時の対象者の肢位は右を上にした側臥位とした。各運動の抵抗量は体重の1/20の強さで,抵抗の方向は,牽引ロープと上前腸骨棘-坐骨結節を結ぶ線が一直線となる方向とし,頭側方向に牽引し抵抗を行なった。各手技の静止性収縮の時間は20秒とし,同一対象者に無作為に施行した。ヒラメ筋H波は安静時・運動時・運動後に側臥位のままで,誘発筋電図は誘発電位・筋電図検査装置(日本光電社・MEB9100)を用い,左側の膝窩部より脛骨神経を刺激しH波を誘発した。電気刺激は,刺激時間1msの矩形波・刺激頻度は1Hz・刺激持続時間は0.5msecとした。安静時にH波を3回,運動時より運動後3分20秒までH波を誘発し20秒毎に相に分け,各相で運動時H波振幅値と最大M波振幅値を比較した振幅H/M比を求めた。振幅H/M比を指標に,運動と継時的変化(時間)と個人を要因とした三元配置分散分析を行い検証した。また,SCPD手技とコントロール手技の振幅H/M比の継時的変化の予測のため,各々,整次多項式による回帰分析し,自由度修正済み決定係数と回帰のp値を比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理審査委員会において承認を得て行い,研究同意書に署名を得た人を対象としたまた。また,対象者には研究同意の撤回がいつでも可能なことを説明した。【結果】三元配置分散分析の結果,運動の要因において有意差が認められた(p=0.019,η2=0.99)。また,運動と個人の要因において交互作用が認められた(p=0.049,η2=0.99)。コントロール手技よりSCPD手技において有意にH波の増大が認められた(p=0.02,η2=0.99)。SCPD手技の自由度修正済み決定係数と回帰のp値により,振幅H/M比の整次多項式は線形回帰式y=0.052x+0.255(p=0.017,R2=0.064)のみであった。コントロール手技は有意な整次多項式はなかった。【考察】運動と個人に交互作用があるため個人差による影響が示唆されるが,抵抗運動側と対側のヒラメ筋(左)H波はコントロール手技と比較しSCPD手技で対側下肢の有意な漸増的な促通が認められた。FCRのH波ではSCPD手技時に抑制が認められたが,ヒラメ筋H波では抑制が有意に認められなかったのは,コントロール手技でも低下を示す傾向があったためと推定される。SCPD手技の上行性・下行性の神経生理学的効果は上行性・下行性とも運動時抑制し運動後促通するリバウンド効果の可能性が推定できた(Arai et al. 2012)。大城ら(1991)は,一側骨盤の前方回旋運動において対側ヒラメ筋H波で振幅の増大が認めたことより歩行との関連性を示唆しているが,今回のSCPD手技は後方下制方向で(前方回旋と反対方向の運動)促通が認められたので,歩行パターンによる促通効果ではなく特異的な促通効果が生じていることが示唆され,今回のSCPD手技の神経生理学的効果は歩行パターでは説明できない。また,SCPD手技は脳への特異的な賦活・抑制効果もあることより(Shiratani et al. 2012),中枢への特異的効果があり障害の回復へ寄与する可能性が推察される。【理学療法学研究としての意義】SCPD手技により脳卒中後片麻痺患者の起き上がり・立ち上がり・歩行能力が改善することや(上広ら。2008,平下ら。2008,国吉ら。2011,柳澤ら。2011),整形外科疾患の膝関節の自動関節可動域が改善されたことが報告されている(Masumoto et al. 2012)。SCPD手技におけるヒラメ筋H波の促通効果は,下肢への遠隔促通による後効果により変化が生じている可能性があり,SCPD手技を用いた理学療法の生理学的根拠の一端を明示することができた。
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