理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ポスター
  • 松坂 基博
    セッションID: 0501
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】「脳卒中治療ガイドライン2009」において,痙縮に対するリハビリテーションについてボツリヌス療法(以下BTX)は推奨グレードAである。慢性期片麻痺患者の下腿筋の痙縮に関して,BTX施行後の理学療法により痙縮が改善したとする報告は多いが,足趾の屈筋痙縮を対象とした報告は少ない。今回,脳出血後遺症による左片麻痺患者に対して,痙縮のみられた足趾屈筋群へのBTX施行後,約2週間にわたる理学療法を実施する機会を得た。その結果,足趾屈筋群の痙縮改善とともに歩行能力の向上がみられたので報告する。【方法】症例は脳出血後の左片麻痺患者(70歳男性,2002年右大脳皮質下出血発症)である。2013年10月に左上・下肢の痙縮改善の為にBTX施行目的にて当院を入院された。歩行について「つま先が引きずりやすく,歩きにくい」との訴えがあった。10月1日のBTX施行前の評価では左下肢Brunnstrom Recovery Stage(以下BRS)IIIであり,左下肢の表在・深部感覚は鈍麻していた。高次脳機能障害は注意障害・半側空間無視を認めた。痙縮に関しては,左足第1~5趾の屈筋痙縮を認め,足関節も軽度底屈位となっていた。左足第1~5趾の過緊張は可動域ほぼ全域にみられ,屈筋痙縮のMASは2であった。他動関節可動域(以下P-ROM)は左足関節背屈0°,底屈40°,左母趾IP関節屈曲50°,伸展0°,左母趾MP関節屈曲50°,伸展20°,第2~5趾DIP屈曲40°,伸展0°,PIP屈曲30°,伸展0°,MP屈曲30°,伸展10°であった。歩行は四点杖を使用し,左麻痺側遊脚期に足部外旋位で足尖を引きずりながら下肢を振り出しており,立脚期は支持性低下による接地時間の短縮と,健側下肢への重心偏移がみられ,体幹は右傾斜していた。ADLは移乗・歩行動作で最大介助レベルであり,FIMは62/126点であった。10m歩行は57秒であった。10月2日に左短母趾屈筋と短趾屈筋へそれぞれ30単位(0.6cc),合計60単位のBTXを施行された。10月2日から10月18日までの理学療法内容として①BTXで痙縮が減弱した左足趾を中心とした関節可動域運動と持続伸張ストレッチ ②痙縮治療を行った拮抗筋への促通を図り,振り出しをスムーズにする為の左下肢麻痺筋への促通と骨盤後傾運動 ③視覚によるバイオ・フィードバックを利用して体の位置と下肢の動きを確認しながらの歩行動作練習 ④四点杖での歩行練習 以上の①~④を実施した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,症例には十分な説明を口頭で行い,同意を得た。【結果】10月18日の最終評価ではBRSと表在・深部感覚及び,高次脳機能障害に変化は認めなかった。痙縮に関しては第1~5趾の屈曲が軽度残存しているが,足関節の背屈がややみられるようになった。筋緊張も可動域終末での抵抗感のみに改善し,MASは1へと向上した。改善がみられたP-ROMは左足関節背屈では10°,左母趾MP関節の伸展では35°,第2~5趾のMP伸展では20°となった。歩行は左麻痺側遊脚期の足部外旋位が残存しているが,つま先の引きずりは見られなくなり,振り出し時のクリアランスが向上した。麻痺側立脚期では,踵での接地が可能となり,麻痺側への重心移動が行える様になった事で,健側方向への体幹傾斜が軽減した。ADLは移乗軽介助・歩行中等度介助となり,FIMは70/126点に向上した。10m歩行は37秒と改善した。【考察】BTX施行と運動療法介入前の評価時では,足趾屈筋群の筋緊張亢進により,立位・歩行時のバランスや姿勢制御が崩れており,運動パターンの異常を来していた。これに対し,BTX施行後に関節可動域運動とストレッチで筋緊張の改善と伸張性の向上を図り,正常な筋緊張に近づけた。更に麻痺のある下肢筋への促通や骨盤後傾を促し,クリアランスの向上を試みた。痙縮の改善に伴い,歩容パターンが変化しうる為,視覚によるバイオ・フィードバックを利用し,一連の歩行動作の確認と修正も併せて実施した。最終評価時でも足趾・足関節の自動運動での背屈は困難であったが,筋緊張改善と促通効果により,振り出し時の下肢共同運動の中で背屈が行いやすくなったと考える。立脚期も足趾屈筋群の痙縮が改善したことで,足底全体の接地が可能となり,支持性向上に繋がったと推察する。【理学療法学研究としての意義】通常,BTXの投与量については,筋の大きさや痙縮の状態によって決定されており,足趾屈筋群へのBTXアプローチは他の下肢筋と比べると投与量が少ない為,患者の身体的・経済的負担軽減に繋がる利点を有する。足趾屈筋群へのBTX施行後に理学療法を行い,歩行能力の向上を示した報告は多くないが,今回の症例により足部へのアプローチの有効性も示唆されたと考える。今後も症例数を増やして更に検討していきたい。
  • 門條 宏宣, 桑田 真吾, 藤島 里英子, 岸本 彩加, 青山 和多留, 中河 苑美, 原 裕, 寺口 徹, 冨田 千晶, 吉川 義之
    セッションID: 0502
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,ニューロリハビリテーションの一つとして電気刺激療法が取り上げられ,理学療法診療ガイドライン2011では,脳卒中患者に対する電気刺激療法が推奨グレードBとされている。脳卒中患者に対する先行研究では,歩行能力の改善,機能面においては上肢機能の改善および痙性抑制効果が報告されている。しかしながら,その他の機能に対する報告は散見される程度である。我々は第52回近畿理学療法学術大会にて,脳卒中患者の麻痺側下肢に対する末梢神経電気刺激後,即座に筋出力が向上したこと,「脚が軽くなった」という内省が得られたことを報告した。この要因として,末梢神経電気刺激により下肢協調性が改善したのではないかと仮説を立てた。本研究の目的は,脳卒中患者の麻痺側下肢に末梢神経電気刺激を実施し,下肢協調性が改善するのかを検討することである。【方法】対象は同意の得られた脳卒中患者6名であった。本研究の算入基準は,初発脳卒中患者で発症から30日以上経過している者,年齢が50歳から84歳の者,入院前のmodified rankin scaleが1以上の者,麻痺側下肢の感覚がStroke Impairment Assessment Scaleで2以上の者,筋緊張がModified Ashworth Scaleで1以下の者,麻痺の程度がBrunnstrom recovery stage4以上の者,指示理解が良好な者,書面にて同意が得られた者とした。除外基準は,失調症状を呈する者,本研究の実施に影響を及ぼす程の高次脳機能障害を有する者とした。本研究のプロトコールは,初日に課題に慣れかつ早期学習効果を排除するために練習セッションを実施した。2日目および3日目はコントロール期間(以下,A1期,A2期)とし,4日目に介入(以下,B期)を実施した。練習セッションは,下肢の協調性検査として信頼性と妥当性が報告されているLower Extremity Motor Coordination Test(LEMCOT)を用い,LEMCOT連続5試行を1セッションとして全3セッション実施した。セッション間の休憩は約5分とした。A1およびA2期は,末梢神経電気刺激を実施せずにLEMCOT連続10試行を1セッションとして全2セッション実施した。B期は,安静臥位で1時間の末梢神経電気刺激を実施した後にA1,A2期と同様にLEMCOTを実施した。末梢神経電気刺激には低周波治療器Trio300(伊藤超短波社製)を用い,電極位置は麻痺側の総腓骨神経領域とした。パラメータは周波数100Hz,パルス幅250μsecの対称性二相性パルス波を使用した。刺激強度は感覚閾値の2倍とした。評価項目はLEMCOTとし,評価者は本研究の内容を盲検化した者で実施し,測定バイアスを排除した。判定は目視により判断した。また補助的にA1期とA2期,A2期とB期の平均値を対応のあるt検定を用いて比較した。統計学的分析にはSPSS10.0Jを用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は部門長の許可を得て実施した。対象者には本研究の主旨を十分に説明し,自書による同意が得られた後に介入を実施した。【結果】介入期間中,副作用はなく全ての症例で受け入れは良好であった。目視による判断では6症例中4症例でA1,A2期と比較してB期で明らかな改善が認められた。全ての被検者の平均値は,A1期26.2±7.8回,A2期26.0±7.0回,B期29.7±7.3回であり,A1期とA2期では有意差は認められなかったが,A2期とB期では統計学的に有意な改善を示した(p<0.05)。【考察】目視による分析において6症例中4症例はA期と比較してB期に明らかな改善傾向を示し,また統計学的にも有意な改善を認めた。算入基準により,感覚障害,筋緊張異常および小脳性運動失調の影響を排除したことから他の要因により下肢協調性が改善した可能性が考えられる。Chipchaseらの末梢電気刺激に関するシステマティックレビューにおいて,末梢電気刺激により皮質下よりも皮質の興奮性を変化させることを述べている。更に先行研究では,末梢神経電気刺激により第一次感覚皮質および運動皮質の興奮性を増大させることが証明されており,皮質シナプスの長期増強効果と関連している可能性を報告している。長期増強効果は可塑性変化の一つであり,シナプスの伝達効率の向上である。よって,本研究からはシナプスの伝達効率の向上により随意性および筋出力の向上が協調性改善の要因として考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究は少数例ではあるが,脳卒中患者の麻痺側下肢に対する末梢神経刺激が下肢協調性を改善させる傾向を示した。通常の理学療法介入と併用することで高い治療効果が得られる可能性がある。
  • 機能的近赤外分光法(fNIRS)を用いた検討
    上間 智博, 松元 秀次, 廣川 琢也, 池田 恵子, 宮良 広大, 下堂薗 恵
    セッションID: 0503
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳卒中片麻痺患者の立位姿勢および歩行は非対称性を特徴とする。そのため一般的に歩行練習は,麻痺側への左右対称的な荷重を促すことで感覚入力による運動学習や下肢筋力の向上などに繋げ,対称的な歩行パターン獲得を目指している。しかし,脳卒中片麻痺患者の立位姿勢は,麻痺側の重心管理能力低下を非麻痺側(以下,健側)で補うことで姿勢制御を容易にしていることで知られている(長谷,2006)。また,歩行においても同様のことが考えられ,麻痺側と健側の荷重割合に留意することが重要であると思われる。我々は,歩行時の健側下肢機能を重要と考え,健側を中心とした歩行指導(以下,健側優位歩行)を行うことで,歩行速度が増し,身体(肩・骨盤)の側方変位が減少することを報告してきた(上間,2011)。本研究では,機能的近赤外分光法(fNIRS)を用いて片麻痺患者に対し麻痺側荷重を考慮した状況下で歩行指導が脳血流酸素動態に及ぼす影響について検討した。【方法】対象は,脳卒中片麻痺患者6名(男性4名,女性2名,平均年齢55.3±11.5歳。脳出血3名,脳梗塞3名。平均罹病期間33.3±23.9ヶ月。右片麻痺3名,左片麻痺3名,下肢Brunnstrome satageは,IVが5名,Vが1名)である。対象の選択条件は,短下肢装具とT字杖を使用して監視レベル以上で歩行が可能なものとした。なお骨関節疾患や重度の高次脳機能障害,重度の感覚障害,小脳症状を有するものは除外した。歩行様式は,健側優位歩行(健側下肢を基準とし健側および麻痺側立脚期に頭部・体幹の動揺が少ない歩行)と麻痺側歩行(健側と麻痺側を同程度に荷重:対称性歩行)とした。実験デザインは,安静30秒→歩行30秒→安静30秒を1セットとし,3セット施行した。歩行速度は,C-MILL-K(ForceLink社製)のトレッドミルを用い2km/hとした。脳血流酸素動態は,fNIRS(FOIRE-3000,島津製作所社製)を用いて測定した。チャンネルは,3cm間隔に配置されたプローブの間に位置した24個の送受光プローブで,両側半球で合計37チャンネルを作成した。プローブ位置は脳波における国際10-20法に基づきCzを基準として上下肢の運動野を中心に設定した。解析には,酸素化ヘモグロビン(以下,Oxy-Hb)値を用い2つの条件における各チャンネルのOxy-Hb値の測定開始時の値を0とした時の相対的な変化量(mM・mm)の平均値を算出し比較した。統計学的解析は,統計ソフト(PASW Statistics 18.0 for Macintosh)を用い,Wilcoxonの符号順位和検定を行い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,臨床研究倫理審査委員会の承認を得たうえで,全ての対象者に研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た。【結果】病巣側半球では,2群間で有意差はみられなかったものの健側優位歩行が麻痺側歩行に比べ,下肢の一次運動野領域においてOxy-Hb値の増加がみられた。また,麻痺側歩行では健側優位歩行と比べ,上肢・手指の一次運動野領域においてOxy-Hb値の増加がみられた。非病巣側半球では,健側優位歩行と麻痺側歩行において有意な差はみられなかった。【考察】病巣側半球において健側優位歩行は,麻痺側歩行と比べて,麻痺側の荷重を制限した歩行にも関わらず,下肢の一次運動野領域でOxy-Hb値の増加がみられた。麻痺側歩行は,健側優位歩行と比べて,左右対称的な荷重を求めた結果,上肢・手指の一次運動野領域でOxy-Hb値の増加がみられた。脳卒中患者の歩行時の脳活動は健常者と比較し左右差があり,歩行機能の改善に伴って左右差が改善する傾向があるとされている。さらに,一次感覚運動野の賦活の左右差は,下肢の遊脚期の左右差と相関していたと報告がある(Miyai,2003)。本研究の結果から,健側優位歩行は病巣側の下肢の一次運動野のOxy-Hb値の増加がみられたことは,麻痺側下肢の遊脚期の変化と考えられ,脳賦活への影響があると考えられる。一方,麻痺側歩行における上肢・手指の一次運動野のOxy-Hb値の増加は連合反応や共同運動の惹起を反映した可能性がある。今後は,症例数の蓄積を図るとともに運動学的視点や麻痺の程度による脳活動の差の検討等を研究していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺患者へ健側優位歩行を指導することで,病巣側半球での下肢運動野領域の賦活が実証されれば,脳活動および歩行効率を向上させる麻痺側荷重を考慮した新しい指導法として期待できると考えられる。
  • 奥口 義, 田崎 浩司, 相川 雅俊
    セッションID: 0504
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】疼痛に対する理学療法は組織異常から生じる身体的問題に着目しがちだが,非特異的腰痛に代表されるように,慢性痛は異常所見が画像や血液検査で認められないことがある。慢性痛は,身体的問題だけでなく心理社会的要因が複雑に絡み合っているため運動器の慢性痛治療は,生物心理社会的モデルに基づいた集学的治療が有効とされる報告が散見されるようになった(松原,2013)。一方,組織損傷の明確な中枢性疼痛に対しては,脳卒中治療ガイドライン2009によるとアミトリプチンや機能的脳外科手術が有効と紹介されているが,理学療法の有効性の報告は乏しい。遷延化した視床痛を呈した患者に対し慢性痛治療の概念を導入したところ,疼痛が緩和し過剰な受動的リハの悪循環から脱却できたので報告する。【方法】2009年7月に右視床出血を発症し,視床痛を呈した通所リハ利用中の60代後半の女性を対象にした。本症例に対し,痛み行動を助長させないこと,受動的リハの要求をエスカレートさせないことを目標とした。具体的方法として先行研究(関口,2007)を参考に進めた。不動による疼痛,疼痛による不動を防ぐため1.安静を治療として勧めない2.不活動の悪影響についての説明3.失敗体験の繰り返しを避けるため,平易な運動を提案し成功体験による自信と報酬(称賛,関心など)を得られるようにする4.疼痛の改善に無効な治療の見直し5.趣味や実生活で必要となる情報を聴取し,必要性のある活動や運動療法の反復練習を中心に行い患者の意欲が持続するように支持した。処方薬は,適宜服薬手帳で内容を確認し疼痛との関係を経過観察した。痛みは主観的なものであり,痛みを尋ねることで疼痛顕示行動を助長させる怖れがあるため,疼痛は客観的評価指標を用いて効果判定した。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に書面を用いて研究の趣旨を説明し,同意と署名を得た。【結果】2009年8月より回復期リハ病院に約180日入院。入院中も疼痛コントロール不良で不眠。趣味は外食・旅行・通院。通所リハを利用開始してからも夜間痛のため中途覚醒,日中も麻痺側に断続的な疼痛があり活動に消極的で受動的リハに固執。初期評価は,Face Scale:4(客観的),Brunnstrom stage:上肢I手指I下肢III,modified Ashworth scale:上肢2下肢3,麻痺側ROM制限著明で表在深部感覚重度鈍麻。立ち上がりと4点杖歩行(オルトップAFO使用)は一部介助で可能だが膝折れ有り。Barthel index:45点。寝返りや屋内車椅子自走等のできる活動もスタッフに依存的であった。身長:153cm,体重:51.7kg,BMI:22.0。2012年10月に近医の勧めで疼痛外来受診し投薬変更。昼夜とも疼痛緩和し能動的リハを希望し始める。同時に多部位かつ長期間の物理療法と徒手療法の見直しを提案した結果,運動療法(歩行練習,階段昇降練習,固定自転車運動)の割合が増え,受動的リハは麻痺側ROM運動と温熱療法1ヵ所へと整理できた。最終評価は,Face Scale:2(客観的),Brunnstrom stage:上肢II手指II下肢III,modified Ashworth scale:上肢1+下肢2,麻痺側ROM改善,下肢深部感覚軽度鈍麻。立ち上がりと4点杖歩行(オルトップAFO使用)は見守りで可能となり膝折れ無し。車椅子自走等のできる活動は自ら行うようになり活動範囲が広がった。Barthel index:65点,体重:68.6kg,BMI:29.3。【考察】疼痛を修飾する因子は,患者本来の性格や家族・医療スタッフとの関係が挙げられる。初期最終評価時とも主観的な痛みを尋ねると疾病利得からか険しい表情をしてアピールすることに変化はなかった。継続的な理学療法・薬物療法・家族の協力が功を奏し痛みの悪循環が断たれ,能動的リハが疼痛管理に役立つことを患者自身が経験し,自己効力感を得たことが過剰な受動的リハから脱却する転機になった。理学療法単独でなく実生活や趣味を通して活動性向上と活動範囲の拡大が生じ。疼痛緩和とともに関節運動が豊富になったことで神経筋活動が促通され,ADL向上と歩行能力改善に至ったと考える。また,漫然とした薬剤投与の場合,依存性や耐性に関する知識も必要と感じた。薬剤との関係も否定できない体重増加は,在宅での食事療法の困難さを示唆している。【理学療法学研究としての意義】組織損傷が明らかな視床痛においても運動器の慢性痛に似た様相を呈してくる。臨床で避けたいことは,医療や他人に依存し過ぎてしまい,治療に対する要求が徐々にエスカレートし,時間の経過とともに患者も医療者も悩みが増していくことである。心理社会的側面へのアプローチの視点も本症例を通じて経験できた。疼痛に対する理学療法は,多くの対象者に当てはまる普遍的側面よりも個別的側面の整理と検証作業の積み重ねが重要になる。今後,疼痛の変動とself-rating depression scale(SDS)の関連性も調査していきたい。
  • 運動麻痺重症度と年齢による層別化検討
    西本 理紗, 佐々木 祥, 渡辺 誠, 奥山 夕子, 村井 歩志, 鬼頭 奈央, 石橋 美奈, 原田 恵理子, 園田 茂
    セッションID: 0505
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】脳卒中片麻痺患者の深部感覚障害が歩行自立の阻害因子となるという報告は散見されるが,深部感覚障害の重症度と歩行能力に関する報告は少ない。そこで今回,我々は当院回復期リハビリテーション病棟(以下,リハ病棟)に入棟した脳卒中片麻痺患者を運動麻痺重症度と年齢で層別化し,深部感覚障害の有無と歩行能力との関係を検討したので報告する。【方法】対象は,2004年9月1日から2013年3月31日までに当院回復期リハ病棟に入退棟したテント上に一側性病変を有する脳卒中発症から当院回復期リハ病棟へ入棟した期間が60日以下の初発脳卒中片麻痺患者1996名である。そのうち,リハビリテーションの支障となる重篤な併存症を有する73名,入棟中に再発や急変を認めた76名,必要な評価項目に欠損データのあった105名を除外した1742名を対象とした。そのうち,入棟時の歩行が自立しておらずFunctional Independence Measureの歩行(以下,歩行FIM)が4点以下で,かつ失語症のないStroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS)のSpeechが3点の症例810名を抽出した。内訳は年齢67.9±12.8歳,性別は男性458名,女性352名,発症から入棟までの期間が32.8±12.2日,原疾患は脳梗塞381名,脳出血429名,病巣側は右578名,左232名,在棟日数は74.1±41.7日であった。今回の検討では,対象者を運動麻痺重症度と年齢で層別化し,深部感覚障害の有無と歩行能力との関係を検討した。感覚障害の有無は入棟時のSIASの下肢位置覚,運動麻痺は入棟時のSIASのHip flexion(以下,HF),歩行能力はFIM歩行項目(歩行FIM)を用い,入退棟時の評価を行った。年齢,在棟日数,入棟時の視空間認知,FIM運動項目合計点(以下,FIMM),FIM認知項目合計点(FIMC)も調査した。統計処理は以下の2つの方法で行った。1)対象者を軽度運動麻痺層(HF3点以上)と重度運動麻痺層(HF2点以下)の2層に分け,位置覚脱失群(下肢位置覚0点)と位置覚正常群(下肢位置覚3点)で,各評価項目を比較した。2)軽度運動麻痺層と重度運動麻痺層をさらに年齢で64歳以下(以下,若年者)と65歳以上(以下,高齢者)に分け,位置覚脱失群と位置覚正常群の各評価項目を比較した。統計は年齢,在棟日数,HF,FIMM,FIMC,歩行FIMの評価の比較にはマン・ホイットニーU検定を用い,性別,原疾患,病巣側にはカイ2乗検定を用いて有意水準を5%未満とした。【説明と同意】患者情報の学術的使用に関する同意は入棟時に書面で確認した。【結果】1)運動麻痺重症度別の位置覚脱失群と位置覚正常群の比較:軽度運動麻痺層では,退棟時歩行FIMに2群間での有意差を認めなかったが,位置覚正常群の方が在棟日数は有意に短かった。また,年齢,入棟時歩行FIMでも2群間に有意差を認めた。重度運動麻痺層では,位置覚正常群の方が退棟時歩行FIMは有意に高く,在棟日数も短かった。また,入棟時のFIMM,FIMC,歩行FIM,HF,視空間認知でも2群間で有意差を認めた。2)運動麻痺重症度と年齢で層別化した後の位置覚脱失群と位置覚正常群の比較:軽度運動麻痺層の若年者では,全ての項目において2群間の差を認めなかった。軽度運動麻痺層の高齢者では,位置覚正常群の方が入棟時と退棟時歩行FIMは有意に高く,在棟日数も短かった。重度運動麻痺層では若年者でも高齢者でも位置覚正常群の方が退棟時歩行FIMは有意に高く,在棟日数も短かった。また,入棟時のFIMM,FIMC,歩行FIM,HF,視空間認知でも2群間で有意差を認めた。【考察】本研究では,脳卒中片麻痺患者を運動麻痺重症度と年齢で層別化し,深部感覚障害の有無と歩行能力との関係を検討した。庄崎ら(2009)は,感覚障害が歩行自立の阻害因子と報告している。今回の検討では,若年の軽度運動麻痺層でのみ歩行自立に深部感覚障害が影響を与えていなかった。軽度運動麻痺層では麻痺肢の動きがあるため,視覚代償を用いた運動学習が比較的容易であったためであろう。しかし,高齢者では若年者に比べ,認知機能や体力が低下するため,深部感覚障害を他の機能で代償することが困難であり,運動学習にも時間を要したと考えられる。今回の検討では認知機能や視空間認知などその他の要因にも群間差が生じており,これらの項目の影響を否定できなかったため,今後処理方法を工夫するなどしてこれらの因子を除外した検討も行っていきたい。【理学療法学研究としての意義】今回の研究より,回復期リハビリテーション病棟に入院した初発脳卒中片麻痺患者の深部感覚障害が歩行能力に及ぼす影響について検証することができた。今後は,認知機能や視空間認知による違いや,疾患による違いの分析を行っていきたい。
  • 松下 信郎, 田中 直次郎, 山岡 まこと, 福江 亮, 丸田 佳克, 藤井 靖晃, 漆谷 直樹, 玉代 浩章, 岡本 隆嗣
    セッションID: 0506
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】当院では慢性期脳卒中後片麻痺患者を対象に,低頻度反復性経頭蓋磁気刺激(以下低頻度rTMS)と集中的作業療法を15日間併用するNEURO-15(NovEl Intervention Using Repetitive TMS and Intensive Occupational Therapy-15 Days Protocol)を行っている。現在,NEURO-15実施後に脳卒中後の上肢麻痺の回復が促されたとの報告が散見されているが,これまでのNEURO-15の報告の中で感覚障害が治療効果に与える影響を検討したものは少ない。本研究は感覚障害がNEURO-15の治療効果に与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は2010年10月26日から2013年8月23日までに当院でNEURO-15を実施した脳卒中後片麻痺患者のうち,上肢と手指のBrunnstrom stageが4から5であった55名(平均年齢63±10歳,男性38名,女性17名,発症後経過月数13~201ヵ月)とした。対象に対して1Hz,20分間(1200発)の健側大脳への低頻度rTMS,60分間の個別リハビリテーション(以下個別リハ),60分間の自主トレーニングからなるセッションを15日間の入院期間中に計21セッション行った。評価項目として,Stroke Impairment Assessment Set(以下,SIAS),Simple Test for Evaluating Hand Function(以下,STEF),Fugl-meyer Assessment,Wolf Motor Function Test,筋緊張評価として改訂Ashworthスケールを用いた。対象をSIASの下位項目である上肢触覚と位置覚に基づいて,感覚障害が認められなかった群をA群(22名),感覚障害が認められた群をB群(33名)に分類した。さらにB群を触覚のみに低下が認められた群をB1群(14名),触覚と位置覚ともに低下が認められた群をB2群(18名)に分類した。位置覚のみの低下は1名と少数だったため除外した。各群の全評価項目について入院時と退院時の変化量を算出し,A群とB群の2群間とA群,B1群,B2群の3群間における変化量の差異を検討した。2群間における変化量の比較はMann-Whitneyの検定,3群間における比較にKruskal-Wallis検定を行い,多重比較にはScheffeの方法を使用した。有意水準は5%とした。【説明と同意】全対象者には治療の説明とともに,研究内容を説明し同意を得た。本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った。【結果】全対象者が副作用なくNEURO-15を完遂した。A群とB群の2群間における変化量の比較では,STEFのみに有意差が認められた(p<0.05)。3群間における変化量の比較においても,STEFのみに有意差が認められ(p<0.01),各群の比較ではA群とB2群(p<0.01),B1群とB2群(p<0.05)において有意差が認められた。その他の評価項目においては有意な差は認められなかった。【考察】感覚障害によりNEURO-15の治療効果に影響があることが示唆された。2群間,3群間の比較はともに上肢の巧緻性や動きの速さを評価する検査であるSTEFにおいてのみ有意差が認められたことから,感覚障害は上肢運動機能,特に手指巧緻性の改善に影響していると考える。さらに各群の比較では,A群とB1群の変化量との間に有意差はなく,B2群はA群とB1群との間において有意差が認められたことから,NEURO-15の治療効果には感覚障害の中でも特に位置覚が手指巧緻性の改善に影響を与えていることが示唆された。今後は,感覚障害の重症度別の検討や対象者,評価法などのさらなる検討が必要と思われる。また,感覚障害を有する症例に対してrTMSを施行する際の刺激部位や強度等の検討や,個別リハでのアプローチ方法の検討も必要と思われる。【理学療法研究としての意義】感覚障害は脳卒中後片麻痺患者に対するNEURO-15の治療効果に影響することが示唆された。麻痺側上肢の運動麻痺に感覚障害を合併する症例は多く,今後は感覚障害に対して,rTMSの施行方法や個別リハでのアプローチ方法を検討する必要があると考える。
  • 中村 高良, 平野 和宏, 安保 雅博
    セッションID: 0507
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳卒中後上肢片麻痺患者に対する,低頻度反復性経頭蓋磁気刺激(repetitive transcanial magnetic stimulation以下rTMS)は,脳卒中後の機能回復が発症後6か月以内という定説を覆す一つの方法として,近年報告が増加している。当科においても集中的作業療法(以下OT)を併用したプログラムを考案し,上肢機能が有意に改善することが示され,現在まで多くの患者に提供している。下肢機能についても有効性を報告しているものがいくつかあるが,介入前の機能が介入後の機能改善に影響を及ぼすかを検討した報告は認められない。そこで,慢性期脳卒中患者(以下慢性期患者)に対し,当科におけるrTMSとOTに加えて短期理学療法を行い,下肢機能に与える影響の検討と,介入前の機能が介入後の歩行速度改善に影響を及ぼすのかを明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,当院でrTMS治療の適応と判断され入院加療した脳卒中後片麻痺患者134名(男性96名,女性38名,平均年齢64.8±11.8歳)である。診断名は脳梗塞72例,脳出血58例,その他4例であり,治療開始までの罹患期間は145.5±121.9ヶ月であった。当科プロトコールに沿って,13日間の入院中,休日を除いた日にrTMS照射と午前午後のOT及び理学療法を行い,患者のニーズに合わせ歩行や下肢機能向上へ向けた介入を行った。評価項目は下肢のBrunnstorom recovery stage test(以下BRST),麻痺側・非麻痺側の足関節背屈関節可動域(以下ROMT),麻痺側下腿三頭筋のmodified Ashworth scale(以下mAs),Functional Reach Test(以下FRT),10M最大歩行速度(Maximum Walking Speed以下MWS)と歩数,Timed Up&Go test(以下TUG)の8項目を介入前後で測定した。統計解析は,各評価項目の介入前後変化について対応のあるt検定を行った。また介入前の機能が歩行能力の改善可否に影響を及ぼすのか検討するために,介入前後におけるMWS改善の可否を目的変数とし,年齢,罹患期間と介入前の評価項目としてBRST,麻痺側ROMT,非麻痺側ROMT,mAs,FRT,TUGの8項目を説明変数とした尤度比による変数減少法でのロジスティック回帰分析を行い,有意な変数として抽出された項目については,オッズ比(odds ratio:以下OR)を算出した。尚,統計はSPSSver.20を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本大学倫理委員会の承認を得て「臨床研究に関する倫理指針」に遵守して実施した。【結果】今回の介入前後の結果を以下に示す。BRSTは4.48±0.93から4.54±0.96,麻痺側ROMTは8.62±8.44度から10.22±7.48度,非麻痺側ROMTは16.64±6.68度から17.46±6.74度,mAsは1.46±1.07から1.26±1.0,FRTは28.75±7.57cmから30.99±7.09cm,MWSは0.88±0.36m/secから0.94±0.37m/sec,歩数は22.83±7.83歩から22.06±7.75歩,TUGは17.62±10.03secから16.35±9.91secと変化し,いずれも有意差を認めた。(BRST:p<0.01,非麻痺側ROMT:p<0.05,麻痺側ROMT,mAs,FRT,MWS,TUG:p<0.001)MWS改善群は98名であった。ロジスティック回帰分析の結果,モデルχ2検定はp<0.01で有意であり,判別的中率は73.3%であった。得られた変数はBRSTのみであり,ORは1.93,95%信頼区間は1.22-3.05であった。【考察】rTMSと集中的理学療法の先行研究では,当科と同様のプロトコールにおいてMWSと歩数の改善が認めなかったとの報告があるが,今回の結果ではすべての評価結果で改善が認められ,特に機能的な評価項目よりも歩行などの動作能力の改善が大きく認められた。これは対象者が慢性期である点と本プロトコールは短期間であるため,機能的な要素より,自宅生活で生じた廃用の改善が大きく影響しているものと考える。同時にrTMSの刺激部位が健側大脳運動野の手指部位であるにも拘らず,下肢領域への促通を促した可能性が考えられる。rTMSと短期理学療法のそれぞれの効果に関しては,今後比較検討する必要があるが,脳卒中後の機能回復が発症後6か月以内とされている中,当科のプロトコールは有効なものであると考える。歩行速度の改善因子は,罹患期間や年齢などの背景因子は関係なく,介入時のBRSTのみ関連を示した。BRSTが高い方がより多様性のある対応が出来るため,廃用の改善も含めて今回の影響因子となったと考える。また年齢や罹患期間等の背景因子やBRST以外の評価項目との関連は認めなかったことより,当科プロトコールが幅広い多くの慢性期患者に適応がある結果であるとも考えられる。【理学療法学研究としての意義】慢性期脳卒中患者において,当科のプロトコールは幅広い対象患者への効果が示され,歩行改善に影響を及ぼす介入前機能因子としてはBRSTのみ抽出された。これらの結果は,慢性期の脳卒中患者の理学療法研究として意義があると考える。
口述
  • 田中 健太郎, 那須 勇太, 前田 秀博, 國澤 雅裕
    セッションID: 0508
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】周術期外科疾患において,術後の早期離床は様々な合併症を予防し,回復力を強化・促進するうえで重要である。その中で我々理学療法士(以下,PT)は,術後リスクを管理し,症例の苦痛を緩和しながら早期に離床させていく必要と役割があると考える。しかし,比較的臨床経験の浅いセラピストの中には術後“何を基準に,どのような手順で”離床を進めるべきか,困惑している者も少なくない。また,刻々と変動する各種パラメーターや術直後多数のドレーンを挿入され,体動とともに惹起される疼痛,苦悶表情を見せる症例を前に,結果的に離床を遅延させてしまう者もいるのではなだろうか。そこで当院では,2012年11月よりPTにおける術後の離床アプローチ手順を標準化するとともに,更なる質の向上(安全に活動する)をも目標に,術後PT離床プロトコールおよび離床手順フローチャートを外科医師の承認のもと作成し運用を開始した。この離床プロトコール・フローチャートには各種パラメータにおける上下限値や手術前後のオリエンテーション内容,離床手順等を記載しており,一定の標準化された離床アプローチが理解・実施しやすいよう配慮し作成したものである。本研究の目的は,当院で運用している周術期管理における術後PT離床プロトコールおよび離床手順フローチャート導入の効果を検証することである。【方法】調査期間は2012年11月の導入月を境に前後1年間とした。対象は当院消化器外科にて,何らかの待機手術を施術され,PTが介入した231症例とし,入院中の死亡例,術前に歩行不可能もしくは著しく介助を要する例,重度の認知機能障害等によりPTアプローチの進行に障害をきたす症例を除外した。方法は,プロトコール導入前後における,各術後入院期間,術後合併症発生率:せん妄(DSM-IVを参考)・呼吸器関連疾患・その他の有無,術後離床(座位・歩行)開始期間,初回歩行開始時の総歩行距離,退院時ADL(BI利得率),転帰を比較した。統計学的手法としてMann-Whitney U検定,χ2乗検定を用い,統計解析ソフトSPSSにて検討を行った。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言を遵守し,患者個人が特定されないよう匿名化し,当院研究規定に準じた手続きを経て,診療録を後方視的に調査した。【結果】該当症例は導入前124例,導入後87例であった。患者個人の術前状況(性別,年齢,既往,生活場所等)や手術侵襲因子(術時間,出血量,切開範囲),術後PT介入開始時期に有意差を認めなかった(p>0.05)。術後入院期間(前14.4日,後12.9日)や術後呼吸器合併症発生率(前4%,後5%),BI利得率(前95%,後95%)に有意差を認められなかったものの,術後PT介入から坐位開始(前0.21日,後0.11日:p=0.032),術後PT介入から歩行開始(前0.64日,後0.38日:p=0.001),歩行開始時総歩行距離(前122.7m,後187.7m:p=0.009)に有意差を認めた。更に合併症として,術後せん妄の有無において前17.7%,後8%と導入後の発生率に有意な低下を認めた(p=0.044 odds ratio 0.406 95%CI 0.165-0.997)。【考察】先にも述べたように,術後の早期離床は身体の回復力を強化・促進するうえで必要不可欠である。今回のプロトコール導入効果として,全般的な離床の促進,術後活動量増加が確認できた。この要因としては作成目標である,リスク管理を主とした質の向上と手技の標準化により,術後の不安定な時期であっても,許可範囲内で的確な離床アプローチが実施された結果と考えられる。また,これらが好転したためか,術後せん妄発生率にも改善を認める結果となっており,先行文献同様,早期離床・昼間の活動量増加が睡眠と覚醒のリズム調整に関与し,その効果としてあらわれたものと考える。これらのことを踏まえ,今回当院にて導入した離床プロトコール及びフローチャートは,アプローチの標準化と質の向上に対し一定の効果を示し,その有効性が示唆されたと考える。【理学療法学研究としての意義】毎年多くの理学療法士が誕生する現状において,アプローチの標準化と質の向上を追求していかなければ我々の存在意義は失われる。本研究において離床の早期化だけでなく,これに付随する効果が示せたことは,我々の介入価値を証明していくうえでも,非常に有意義な事であると思われる。
  • 山下 裕, 山北 喜久, 中崎 亨, 北村 健人, 京地 拓也, 岡嵜 誉, 山口 竜三, 會津 恵司, 有薗 信一, 田平 一行
    セッションID: 0509
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】集中治療領域でのせん妄は独立した予後決定因子とされ,全身管理をしていく上で極めて重要な合併症とされている。せん妄を発症した場合には医療・看護ケアの妨げになる上に,患者自身が傷付く危険性もある。一方,挿管人工呼吸管理中の患者であっても,理学療法介入によりせん妄を抑制したと報告されている。しかし,外科手術後のせん妄発症と理学療法士による離床介入の関連性についての報告は少なく,また確立したせん妄の評価法を用いた報告は皆無である。そこで本研究の目的は,消化器外科術後患者のせん妄の発症と手術後の離床進行状況の関連性を検討する事である。【方法】対象は当院外科にて消化器外科を実施予定である患者を募集した。理学療法介入は,術前は評価と術後離床の意義・重要性について,疼痛コントロールについて,呼吸法指導,排痰法指導(Active Cycle Breathing technique,咳嗽時疼痛軽減法),起居動作指導,術後離床スケジュールの説明など指導を中心に実施した。術後は1日からはヘッドアップ位での深呼吸練習,排痰訓練を中心に実施した。2日以降はクリニカルパスに合わせ離床を中心に実施し,歩行自立するまでは2回/日の頻度で介入した。歩行自立した後は評価,指導を中心に介入した。調査項目はPrimary Outcomeをせん妄発症の有無,発症までの期間とした。せん妄の評価はConfusion Assessment Methods for the ICU(CAM-ICU)を用いて術後7日まで実施した。Secondary Outcomeを離床状況とし,術後離床開始までの期間,歩行開始までの期間,歩行自立までの期間をそれぞれ記録した。せん妄の関連因子とされる以下の項目についても調査した。術前項目は年齢,性別,Body Mass Index(BMI),全身状態(ASA Physical Status:ASA-PS),術前併存症(Charlson Comorbidity Index:CCI),認知機能(Mini Mental State Examination:MMSE),精神症状(Hospital Anxiety and Depression Scale:HADs),日常生活活動(Barthel Index:BI)とした。術中項目は麻酔時間,手術時間,術中出血量。術後項目は鎮痛用麻薬(フェンタニル)総投与量とした。また,術後在院日数についても調査した。検討方法は,せん妄の発症数と発症率を算出した。せん妄群,非せん妄群の2群に分け,離床進行状況を含め,各指標を両群間で比較した。統計解析は,せん妄群と非せん妄群の2群間の比較を,各指標を尺度のタイプ別に対応のないt検定,マンホイットニーのU検定,χ二乗検定を用いて検討した。危険率は有意水準5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会より認証された(平成24年度第139号)。対象症例にはエントリー前に口頭および紙面にて説明し,同意を得た。【結果】エントリーされた対象症例は66例であった。除外症例は手術前に16例(拒否7例,術前歩行能力低下6例,評価法理解不能2例,手術中止1例),手術後に7例(術後状態悪化4例,術後安静度変更2例,術後転科1例)あり,抽出された対象は43例(平均年齢74.6±6.8歳,男性33例,女性10例)であった。せん妄の発症数は43例中3例(発症率7.0%)であった。発症までの期間は,術後1日が2例,術後4日が1例であった。離床進行状況は,離床開始までの期間は両群とも2.0±0.0日と差は認めなかったが,歩行開始までの期間,歩行自立までの期間はせん妄群が非せん妄群に比べ有意に延長した(2.7±0.6日vs. 2.0±0.0日;p<0.01,4.7±2.9日vs. 2.7±1.1日;p=0.02)。また両群における各因子の比較ではCCIがせん妄群で有意に高かった(6.3±1.5vs. 4.4±1.9;p=0.03)。その他の各指標では両群間に有意な差は認めなかった。【考察】せん妄発生率は7.0%と低値を示した。発症までの期間が術後1日に集中し,術後2日,3日には認めなかった。本研究で結果は先行研究と比較しても明らかにせん妄発症率が低値である。これは術後1日からヘッドアップまでの制限内でも積極的に介入した事,術後2日から離床を確実に進めた事が発症率に影響を与えたかもしれない。離床進行状況では歩行開始までの期間,歩行自立までの期間がせん妄群において有意に延長した。これは,せん妄が離床の阻害因子となった為と考える。本研究におけるせん妄の関連因子ではCCIのみせん妄群で有意に高い値を示した。これは,せん妄群の方が身体的予備能が劣っている事を示しており,さらに外科的ストレスが加わる事でせん妄を発症しやすい状態であったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】周手術期理学療法介入下での高齢開腹術後患者の術後せん妄の発生状況を調査した。せん妄発症数は43例中3例(7.0%)と先行研究に比べ非常に少なかった。周術期における計画的な理学療法介入はせん妄の発症を予防するかもしれない。
  • 中田 秀一, 渡邉 陽介, 横山 仁志, 武市 梨絵, 星野 姿子, 堅田 紘頌, 松嶋 真哉
    セッションID: 0510
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】周術期リハビリテーション(以下:リハ)は,肺合併症の予防,日常生活動作(Activity of Daily Living:以下ADL)の早期回復を目的とした術前後の介入である。このうち,術前介入は,術前オリエンテーションや呼吸トレーニング,咳嗽指導といった肺合併症の予防に関連したものがそのほとんどを占める。しかし,術後のADL低下の予防に視点をおいた介入は少なく,術前からそれらに着目した報告もみられない。そこで,本研究では消化器外科手術患者の術前身体機能に着目し,術後の移動能力や術後経過との関連について明らかにすることを目的とした。【方法】対象は2011年6月から2013年6月の期間に消化器外科に手術目的で入院し,術前から退院まで継続した周術期リハを実施し,身体機能評価に同意の得られた56例(平均年齢75.7±5.9歳,男性33例,女性23例)とした。なお,運動器疾患や中枢神経疾患を有するもの,術前移動能力が非自立のものは対象から除外した。また,当院では術後3日目までの棟内歩行自立を目標とした離床プロトコルを採用しており,ドレーン等の影響で離床が遅延する食道癌患者も対象から除外した。調査測定項目は,患者背景(年齢,性別,手術部位,手術方法,術中出血量),術前身体機能,術後移動能力,および術後入院期間とし,診療録より後方視的に調査した。術前身体機能は上肢筋力指標として握力,下肢筋力指標として等尺性膝伸展筋力,バランス能力指標として片脚立位時間(One Leg Stance:以下OLS),運動耐容能の指標として6分間歩行距離(6 Minute Walk Distance:以下6MWD)を測定した。握力は,Jamar社製Hand Dynamometer-5030J1を用い,左右の最大値の平均値を握力(kgf)として算出した。等尺性膝伸展筋力は,アニマ社製μ-TasMF01を用い,左右の最大値の平均(kgf)を体重(kg)で除した値を等尺性膝伸展筋力(kgf/kg)として算出した。OLSは左右2回実施し,その最高値をOLS(sec)として採用した。6MWDは,6分間で最長距離歩行するよう指示しその歩行距離(m)を測定した。移動能力は,術後3日目における棟内歩行自立の可否とその時点の非自立の理由,そして術後1週時,退院時における術前移動能力への回復の有無を調査した。検討は,術後3日目での棟内歩行自立の可否で自立群,非自立群の2群に分類し,術前身体機能や基本属性の差異について実施した。また2群間での術後1週時および退院時における移動能力や術後入院期間についても同様に検討した。統計解析は,χ²検定,Mann-Whitney検定,対応のないt検定を用いて検討した。全ての検討は,危険率5%未満を有意差判定の基準とした。なお,結果はパラメトリック検定を用いた場合は平均値±標準偏差を,ノンパラメトリック検定を用いた場合は中央値(四分位範囲)を用いて表記した。【倫理的配慮,説明と同意】倫理的配慮として,S大学病院生命倫理委員会の承認を得た(承認番号:第2314号)。各測定はヘルシンキ宣言に沿って評価の趣旨,方法,およびリスクを説明し,同意を得られたもののみを対象とした。なお,患者情報は厳重に管理し取り扱った。【結果】術後3日目での棟内歩行自立群は36例(64%),非自立群は20例(36%)であった。非自立群の遅延理由は,下肢支持性やバランス能力の低下を原因とした身体機能の低下7例(35%),肺合併症5例(25%),他の術後合併症3例(15%),起立性低血圧・嘔気2例(10%),その他3例(15%)であった。また自立群,非自立群の間には年齢,性別,手術部位,手術方法,術中出血量には差を認めないものの,等尺性膝伸展筋力(0.52±0.13 vs 0.43±0.12kgf/kg),OLS(37.1[12.2-60.0]vs 3.8[2.7-25.9]sec),6MWD(422.6±79.1 vs 290.0±63.3m)において有意差を認めた(p<0.05)。次に移動能力について検討した結果,術前移動能力への回復例の割合は,術後1週時では自立群,非自立群の順に34例(94%),9例(43%)であり(χ²値=17.6,p<0.05),退院時では同様に36例(100%),18例(85%)であった(χ²値=2.9,p<0.1)。また,術後入院期間は自立群13.0(11.0-17.8),非自立群19.0(15.0-31.8)日と2群間で有意差を認めた(p<0.05)。【考察】本研究の結果から,術後3日目での棟内歩行自立の可否には術前身体機能が密接に関連し,その後の移動能力の推移や術後入院期間にも影響を及ぼすことが明らかになった。以上より,術前に身体機能の低下を認める症例では,早期離床や肺合併症の予防に加え,術後早期からの身体機能に着目したトレーニングの積極的な導入や術前介入の工夫の必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は消化器外科手術患者の術前身体機能に着目し,術後経過との関連性を明らかにしたものである。術後肺合併症の予防に加え,身体機能面も加味した術前からの周術期リハの必要性を示唆している。
  • ―開腹による胃切除術と腹腔鏡下胃切除術を比較して―
    青野 達, 溝口 雅之, 野元 大, 駒坂 光朗
    セッションID: 0511
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】外科領域における開腹術後の長期安静臥床により,呼吸器・循環器合併症,骨格筋の筋力低下,深部静脈血栓症などの合併症をもたらすことは周知の事実である。術後に早期離床を促すことはこれらの合併症を予防し,ADL低下を最小限に留め早期退院を目標とする上で重要となる。当院における胃癌切除は開腹による胃切除術と腹腔鏡下胃切除術を行っており,それぞれ術後早期より離床・歩行練習を開始している。腹腔鏡下胃切除術は術中出血量や呼吸器合併症,鎮痛剤投与量などの指標にて有用性が報告されているが,離床や歩行に関する報告は少ない。本研究は当院における開腹による胃切除術と腹腔鏡下胃切除術後の離床経過をretrospectiveに比較・検証し,胃切除術後の離床状況を把握することが目的である。【対象・方法】当院消化器外科にてH.23年4月からH.24年3月に開腹による胃切除術(以下開腹群),腹腔鏡下胃切除術(以下腹腔鏡群)を施行し術後に理学療法介入のあった96例のうち,認知症などの既往がなく術前の歩行が自立していた82例(開腹群:50例,腹腔鏡群:32例)を対象とした。方法は,カルテより術後の①端座位・起立開始日,②歩行開始日,③歩行自立日,④経口摂取開始日,⑤在院日数,⑥肺炎の有無をそれぞれ抽出し比較した。統計処理はMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%未満とした。理学療法は術後1日目または2日目より起立・歩行開始を目標にベッドサイドにて実施し,病棟内歩行が可能となればリハビリ室でのトレーニングを行った。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づきデータの集計は患者名や疾患名をコード化し,個人を特定できないよう配慮を行って実施した。【結果】①端座位・起立開始日の比較において有意差がみられ,腹腔鏡群がより早期に離床を開始していた(p<0.05)。②歩行開始日,③歩行自立日,④経口摂取開始日,⑤在院日数,⑥肺炎の有無の比較では有意差はなかった。それぞれの平均値としては①端座位・起立開始日は開腹群1.6日,腹腔鏡群1.2日,②歩行開始日は開腹群2.3日,腹腔鏡群1.7日,③歩行自立日は開腹群3.6日,腹腔鏡群3.3日,④経口摂取開始日は開腹群4.6日,腹腔鏡群4.5日,⑤在院日数は開腹群14.4日,腹腔鏡群10.8日であった。⑥肺炎の有無は開腹群2例,腹腔鏡群2例であった。【考察】術後の端座位・起立開始日の比較において,腹腔鏡群で早期に端座位・起立が可能であった。腹腔鏡下胃切除術は侵襲が少ないことから動作時の疼痛が少なく,患者自身にて離床可能な症例が多く見られたことが早期離床に繋がったと考える。また歩行開始日,歩行自立日,経口摂取開始日,在院日数,肺炎の有無の比較から,開腹群・腹腔鏡群ともに術後歩行を開始してから退院までの経過に差がみられなかった。当院では術後1日目より積極的に離床にトライし,端座位・起立可能であれば歩行練習を実施しており,このことが両群の離床経過にほとんど差がないことの一要因であると考える。先行研究では消化器外科手術後の理学療法介入患者の離床は術後1~2日,歩行開始は術後3~5日との報告が多く,当院での開腹による胃切除術と腹腔鏡下胃切除術後においても,これらの報告と同様に理学療法介入による早期離床・歩行獲得が実施できており,合併症予防や早期退院に繋がっていることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】開腹による胃切除術後と腹腔鏡下胃切除術後の離床,歩行獲得はほとんど差がなく術後早期に可能である。また術後歩行を開始してから退院までの経過に差がないことが示唆された。外科領域における術後の理学療法介入の際の指標の1つとなることが考えられる。
  • 那須 勇太, 田中 健太郎, 川渕 正敬, 前田 秀博, 國澤 雅裕
    セッションID: 0512
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】消化器外科周術期における術後リハビリテーションは,早期離床・合併症予防を目的とし,術後の低下したADLを早期に立ち上げるために重要である。日々の臨床において,高齢者や術前の能力が低い患者,手術侵襲の大きい患者では術後の離床やADLの立ち上げに難渋することも少なくない。そこで,予め術前情報からADL低下を予測することが可能であれば,術後早期より個別的なアプローチの展開が可能となるのではないかと考えた。しかし,現状では術後ADL低下の可能性を介入前の情報から予測することは,各セラピストの経験や感覚に頼っていることが多い。先行研究において,芳賀らは消化器外科周術期における術後の合併症や生命予後に関する因子として,術前患者生理機能,手術侵襲および周術期管理チームのqualityを挙げスコア化している。その反面,術後ADLとの関連については明らかにされていない。そこで今回,術後ADL低下に関与する因子を患者の術前情報から推測可能か検討することとした。【方法】本邦で,周術期における患者術前情報や手術侵襲情報を点数化し合併症発生率,死亡率を算出する方法として,E-PASS(Estimation of Physiologic Avility and Stress)が有用とされており,今回はE-PASSを構成する因子を基に検討を行った。調査対象は2011年11月から2013年10月に当院消化器外科にて,待期上腹部開腹手術を施行され理学療法士が介入した115症例である。この115症例の情報をE-PASSにあてはめ術前因子スコア{PRS=-0.0686+0.00345X1(X1=年齢)+0.323X2(X2=重症心疾患あり[1],無し[0])+0.205 X3(X3=重症肺疾患あり[1],無し[0])+0.153 X4(X4=糖尿病あり[1],無し[0])+0.148 X5(X5=Performance status:以下PS[0-4]+0.666 X6(X6=麻酔リスク[1-5]),手術侵襲スコア{SSS=-0.342+0.0139 X7(X7=体重当たりの出血量:mg/kg)+0.0392 X8(X8=手術時間:h)+0.352 X9=(X9=胸腔鏡創または腹腔鏡創のみ[0],開胸あるいは開腹のいずれか一方のみ[1],開胸および開腹[3])}と総合リスク{(CRS=0.328+0.936(PRS)+0.976(SSS)}の各スコアを算出した。これらの各スコアとスコアを構成する各因子を従属変数,退院時Barthel Index(以下BI)の低下の有無を独立変数として検討を行った。統計分析には解析ソフトSPSSを使用し,ロジスティック回帰分析(変数増加尤度比)をおこなった。【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言を遵守し,患者個人が特定されないよう匿名化し,当院研究規定に準じた手続きを経て診療録を後方視的に調査した。【結果】BI低下の有無にて,有意差を認めたものは年齢,術前Performance status,麻酔リスク(ASA-PS),術前リスクスコアであった。有意差を認めたものに関して,更に分析を進め,最終因子として採択されたものは術前Performance statusであった(p=0.007 95%CI1.196-3.180)。【考察】今回の研究により,術後のADLに最も影響を及ぼす因子として術前Performance status,すなわち術前の動作活動能力であることが示唆された。年齢や全身疾患の強さ,侵襲の大きさよりも術前の動作活動能力との関連性が示唆されたことは,活動を評価し提供する我々理学療法士にとっての有用な情報であり,効率的に術後ADL低下を予防する上での一助となると考える。一般的に周術期での術後早期離床は合併症を予防しADL拡大に繋がるとされているが,中・長期的にADLを評価する場合,早期離床はもちろんのこと,術前の動作能力を十分に把握した上で介入していくことが重要と思われる。理学療法を行う上での情報収集は当然行うことであるが,今回の結果から,患者がどのような生活を送っていたのかを詳細に情報収集することの重要性を再認識することができた。これらの結果を踏まえて,消化器外科周術期理学療法において,介入前から術前の動作活動能力についての情報を十分に収集し,術後のADL低下を予め予測する。そして,高齢者や術前活動状況の低い患者程,術後ADL低下の可能性が高く個別的に積極的なアプローチを展開する必要があると考える。【理学療法研究としての意義】術前から術後ADL低下因子を予測することができれば,理学療法を行う上で先見的で個別的な介入が可能となる。本研究において術前のPerformance statusが術後ADLに関連することが示唆され,活動を評価し提供する我々理学療法士にとって有用な情報であり,術後ADL低下を予防する上での一助となると思われる。
  • 飯野 朋彦, 田川 雅浩, 平瀬 達哉, 井口 茂
    セッションID: 0513
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】一次予防高齢者においては,運動機能面の維持のみでなく,「生きがい」を反映した生活の質(quality of life:QOL)の維持,改善を企図した施策の充実が必要である。高齢者を対象とした運動介入による運動機能向上や健康関連QOLの改善を示した報告は数多くある。その中でも集団での運動介入がQOLと関連する精神機能の賦活に効果的であるとの報告もあるが,短期間の介入効果を言及していることが多い。そこで本研究では,一次予防高齢者に対する長期間の運動介入が運動機能,健康関連QOLに与える影響を経時的変化から検討することを目的とした。【方法】平成19年9月から当施設が実施している一次予防高齢者を対象とした中央開催型の運動事業参加者のうち,5年以上参加している20名(男性2名,女性18名,参加開始時の平均年齢74.0±4.8歳)を本研究の対象者とした。事業は月2回の通年開催で,運動内容はストレッチ,筋力トレーニング,バランストレーニングから構成されており,1回につき90分程度の集団で行うプログラムとなっている。調査項目は,問診項目として,GDS-15,鈴木らの転倒アセスメント,SF-36を調査し,SF-36に関しては8項目の下位尺度,身体的健康を表すサマリースコア(PCS),精神的健康を表すサマリースコア(MCS)を算出した。運動機能評価として握力,開眼片脚立位,椅子起立時間,Timed Up and Goの4項目を測定した。調査は,初回時,1年後(1Y),2年後(2Y),3年後(3Y),4年後(4Y),5年後(5Y)の計6回とし,それぞれの経時的変化を検討した。統計解析は反復測定分散分析を用いて検討を行い,有意差を認めた場合はBonferroni法を用いた多重比較を行った。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,事前に研究の主旨と目的を説明。この際,プライバシーの保持,参加途中での研究協力が断れることを説明し,研究参加に同意を得た。【結果】事業への参加率は79.4±11.7%であった。主効果の認められた項目はGDS,SF-36の下位尺度のうちVT(活力),MH(心の健康),運動機能では椅子起立時間であった。その後の多重比較において,GDS(点)では初回時(2.3±2.8)と比較して3Y(1.3±2.2),4Y(1.1±1.6)に有意な改善を認めた。VTでは,3Y(66.9±25.0)と比較して5Y(73.8±23.6)に有意な改善を認めた。MHでは初回時(64.3±21.5)と比較して4Y(79.0±18.3),5Y(76.0±20.0)に有意な改善を認めた。椅子起立時間(秒)では初回時(6.4±0.9)と比較して2Y(5.5±0.9),3Y(5.2±1.2),5Y(4.7±1.2),1Y(5.6±1.5)と比較して5Y,2Yと比較して5Y,3Yと比較して5Yに有意な改善を認めた。【考察】運動機能面に関しては,椅子起立時間を除いて経時的変化に主効果は認められず,開始時の運動機能水準を5年間維持していた。また,椅子起立時間においては,早い段階で向上しそのまま維持することが示され,下肢筋力に対する運動介入効果が示唆された。健康関連QOLに関しては,精神的健康度を示すVT,MHを除いて主効果は認められず,開始時の水準を維持していた。VT,MHに関して,改善したことが示されたことで,長期的な運動介入により精神的健康度の向上が図れることが示唆された。また,GDSにおいても同様のことがいえ,一次予防高齢者において,長期間運動介入を行うことは,運動機能並びに,身体的健康度の維持,そして精神的健康感,心理面に対して肯定的な影響を与える可能性があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】一次予防高齢者に対する長期間の運動介入が運動機能面の維持だけでなく,健康関連QOL,特に精神的側面の向上に寄与することが明らかになったことは,今後の介護予防に取り組む上で,貴重な資料となりうると考える。
  • 福谷 直人, 山田 実, 足達 大樹, 青山 朋樹, 坪山 直生
    セッションID: 0514
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】慢性閉塞性肺疾患(COPD)は不可逆性の閉塞性換気障害を有する進行性疾患である。これまで,病院に入院・外来通院しているCOPD患者においては閉塞性換気障害を起因とする息切れなどの身体症状が運動機能や身体活動量の低下をもたらすことが報告されている。一方,近年では,COPD患者の約95%が診断を受けていないことが明らかにされており,地域には閉塞性換気障害を有する高齢者が数多く潜在していることが予想される。このことから,地域在住高齢者の運動機能と身体活動量に閉塞性換気障害が与える影響は十分に検証されていないのが現状である。そこで本研究では,地域在住高齢者の運動機能と身体活動量に閉塞性換気障害が与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は男性の地域在住高齢者78名とした(73.7±4.5歳)。顕著な認知機能低下,重度な神経学的・整形外科的疾患の既往のある者,呼吸器疾患の診断歴を有する者は除外した。基本情報として,年齢,BMI,喫煙歴を調査し,さらに,呼吸機能,骨格筋量,運動機能,身体活動量を評価した。呼吸機能検査は電子スパイロメーター(フクダ電子社製SP-370COPD肺Per)を用いて行い,1秒率が70%未満の場合を閉塞性換気障害と定義した。骨格筋量は,生体電気インピーダンス法によって計測した四肢筋量を身長の2乗で補正したSkeletal muscle mass Index(SMI)を使用した。運動機能は,快適10m歩行速度,Timed Up & Go Test,Functional Reach Test,5 Chair Stand Test,握力の計測を行った。さらに,身体活動量の指標には,歩数計と記録用紙を対象者へ配布し,記録された2週間分の歩数データの1日の平均値を用いた。統計解析として,まず1秒率に基づき閉塞群と健常群の2群に分け,カイ二乗検定,対応のないt検定を行った。その後,従属変数に各運動機能を,独立変数に閉塞性換気障害の有無を,調整変数に年齢,SMI,喫煙歴を投入した重回帰分析(強制投入法)を行った。さらに,従属変数を身体活動量とし,独立変数に閉塞性換気障害の有無を,調整変数として,年齢,SMI,喫煙歴,各運動機能を投入した重回帰分析(強制投入法)を行った。統計学的有意確率は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当該施設の倫理委員会の承認を得て,紙面および口頭にて研究の目的・趣旨を説明し,同意を得られた者を対象者とした。【結果】対象者のうち22名(28.2%)が閉塞性換気障害を有し,その重症度は,閉塞性換気障害の重症度を示すGOLDの分類によるとMildが2名(2.6%),Moderateが20名(25.6%)であった。基本情報における2群間の比較では,閉塞群で有意に年齢が高く(閉塞群:75.9±5.3歳,健常群:73.0±4.1歳;P<0.05),BMIが低く(閉塞群:21.9±3.1 kg/m2,健常群:24.1±2.9 kg/m2;P<0.01),SMIが低く(閉塞群:6.9±0.6 kg/m2,健常群:7.4±0.7 kg/m2;P=0.01),身体活動量が低い(閉塞群:5131±1837 steps/day,健常群:8269±3632 steps/day;P<0.01)結果となった。各運動機能を従属変数とした重回帰分析の結果,閉塞性換気障害とどの運動機能の間にも有意な関連はみられなかった。しかし,身体活動量を従属変数とした重回帰分析の結果では,閉塞性換気障害は,身体活動量低下の有意な関連要因であった(β=-0.399,P<0.01)。【考察】本研究結果より,地域在住高齢者における閉塞性換気障害は年齢・筋量・運動機能で調整しても身体活動量に悪影響を及ぼしていることが明らかになった。一方,閉塞性換気障害による運動機能への影響は認められなかった。したがって,地域在住高齢者において身体活動量を評価する際には,呼吸機能の評価も必要であることが示唆された。短時間の能力発揮を必要とする運動機能は耐久性を必要としないため閉塞性換気障害との関連が認められなかったが,長時間の耐久性を必要とする身体活動量は,労作時の息切れ等の呼吸器症状により低下していることが考えられた。今後は,身体活動量低下により引き起こされると予想される病院への受診や入院などをアウトカムにした縦断的研究を行う必要性がある。【理学療法学研究としての意義】本研究結果より,地域在住高齢者の身体活動量の低下要因として,閉塞性換気障害が関与していることが明らかになった。本研究は,運動機能や身体活動量の維持・向上を推奨している健康日本21(第二次)を進めるうえで,有益な情報となることが期待できる。
  • 杉本 大貴, 堤本 広大, 澤 龍一, 中津 伸之, 上田 雄也, 斉藤 貴, 中村 凌, 村田 峻輔, 山崎 蓉子, 中窪 翔, 土井 剛 ...
    セッションID: 0515
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】本邦では自立高齢者の約3割が肥満であるとされ,その主な原因に身体活動量の減少が挙げられている。高齢期における肥満は,歩行能力や階段昇降を含む移動能力の低下につながると報告されている。一方,身体活動量の減少は歩行能力低下を引き起こすとも報告されている。以上のことから,身体活動量の減少による歩行能力低下には肥満が媒介的役割をしていることが仮説として考えられるが,身体活動量,歩行能力,肥満の3者の関係については明らかになっていない。さらに,肥満と身体活動量ないし歩行能力に関する先行研究において,肥満指標としてBody Mass Index(BMI)や腹囲が用いられ,BMIは全身的脂肪蓄積を腹囲は腹部脂肪蓄積を表すため両指標が示すものは異なる。そこで,本研究の目的は地域在住自立高齢者において身体活動量と歩行能力の関連性に肥満が媒介的役割を果たしているかを検討し,異なる脂肪蓄積を表すBMIと腹囲でその関係性が異なるかを合わせて検討することとする。【方法】本研究の解析対象者は,地域在住自立高齢者78名(男性38名,女性40名)のうちMini-Mental State Examination 24点未満,膝・股関節疾患,関節リウマチの既往のある者を除いた56名(男性28名,女性28名,平均73.3±4.1歳)とした。肥満指標として,BMI,腹囲を測定し,歩行能力として通常歩行速度を測定した。身体活動量は1軸加速度内蔵の活動量計を用いて,連続した7日間を測定期間とし,一日の平均歩数を算出した。肥満指標,身体活動量,歩行能力の3つの関係はBaron & Kenny(1986)が紹介した媒介モデルを作成し検討した。手順として,身体活動量が肥満指標と通常歩行速度のどちらにも影響を与えていることをSpearmanの順位相関係数あるいは,Pearsonの相関係数を求め有意に関連していることを確認後,通常歩行速度を従属変数とした重回帰分析(身体活動量と肥満指標を独立変数に投入)を実施し,肥満指標の効果が有意であり身体活動量の効果が有意に減少した場合,媒介モデルが成立したことを示す。各統計指標は5%未満を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は神戸大学大学院保健学研究科保健学倫理委員会より承認を得た後に実施し,対象者より,事前に口頭にて研究の目的・趣旨を説明し同意を得た。【結果】単変量解析においてBMIは平均歩数と,腹囲は通常歩行速度,平均歩数との間に有意な相関関係があった。年齢と性別で調整した多変量解析においてBMIと平均歩数(β=-0.31,p<0.05),腹囲と通常歩行速度(β=-0.33,p<0.01),腹囲と平均歩数について関係が見られ(β=-0.29,p<0.05),平均歩数と通常歩行速度それぞれと有意な関係が見られた肥満指標は腹囲のみであった。身体活動量減少による歩行能力低下に肥満が媒介的役割をしているという仮説を検討するため,X(独立変数:平均歩数)―M(媒介変数:腹囲)-Y(従属変数:通常歩行速度)として,モデル1:X-M(独立変数:平均歩数,従属変数:腹囲),モデル2:M―Y(独立変数:腹囲,従属変数:通常歩行速度),モデル3:X-Y(独立変数:平均歩数,従属変数:通常歩行速度),モデル4:X・M―Y(独立変数:X平均歩数,M腹囲,従属変数:Y通常歩行速度)を作成した。モデル1,2には負の相関関係,モデル3には正の相関関係が有意であることが認められた。次に,平均歩数が通常歩行速度へ及ぼす効果の変化をみるために,モデル3,4の回帰係数の変化をみた結果,腹囲投入前r=0.29,p<0.05,腹囲投入後β=0.21,p=0.11であった。このことより腹囲の増大は,平均歩数減少による通常歩行速度低下の媒介因子であることが示された。【考察】肥満指標の中で,身体活動量,歩行能力の両者と関連が認められたのは腹囲のみであった。先行研究において,BMIは筋肉量の蓄積あるいは脂肪の蓄積かを識別できないことや,加齢に伴う円背で身長が減少する高齢者には肥満指標として適さないことが報告されている。さらに,腹部の脂肪蓄積により体重心が前方に移動し身体平衡に必要な足関節のトルクが増大することと加齢に伴い運動器の応答が遅れることで転倒のリスクが増加することも報告されている。これらから,肥満指標のうち腹部の脂肪蓄積を示す腹囲のみに歩行能力と関連がみられたものと考えられる。また,媒介モデルが成立したことから身体活動量低下による腹囲増大が,歩行能力低下に影響を与えるという1つの可能性を明らかにした。【理学療法学研究としての意義】自立高齢者において,身体活動量低下により歩行能力低下を引き起こすことは広く知られているが,その媒介因子として形態学的な変化である腹囲増大が関連しており,歩行能力低下を予防するための介入として,腹囲を指標とした身体活動量処方が有用となる可能性が示唆された。
  • ―ロコチェックとロコモ25を用いた検討―
    藤田 博曉, 細井 俊希, 新井 智之, 丸谷 康平, 森田 泰裕, 旭 竜馬, 荻原 健一, 蓮田 莉, 利根川 賢, 村上 憲治, 石橋 ...
    セッションID: 0516
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】超高齢社会の到来とともに健康寿命の延伸に関わる取り組みは重要な位置づけをしめている。健康日本21(第2次)における高齢者の健康目標として,認知症とともにロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)の認知度向上があげられている。高齢者における運動器の老化は,活動性の低下だけでなくADLの低下にもつながる重要な課題といえる。対策としては運動器の衰えについて気付くための判定ツールが必要である。本研究では地域在住中高齢者の運動機能調査を行い,ロコモの危険性判定に用いられているロコモーションチェック(以下,ロコチェック)とロコモ25を用い有用性を検討した。【方法】対象は埼玉県内県伊奈町に在住し,住民票から性別・年齢分布が均等になるように無作為に選ばれた,要介護・要支援および身体障害非該当の60歳から79歳までの高齢者中高年者246名(男性116名/女性130名)である。事前に調査票を配布しロコチュエック,ロコモ25を調査した。運動機能については,握力,開眼片足立ち時間(以下,片足立ち),Functional Reach Test(FRT),5回立ち上がりテスト(以下,5STS),歩行速度(通常・最速),2ステップテスト(以下,2Step),立ち上がりテスト,膝伸展筋力,足趾把持力を測定した。また,体組成計(TANITA社製MC-190)を用いて体脂肪率,脂肪量,除脂肪量,筋肉量の計測を行った。解析方法はロコモ群と非ロコモ群の比較を行い,ロコチェックでは7項目中一つでも該当するものをロコモ群とし,ロコモ25についてはカットオフ値(16点)以下をロコモ群とした。また,参考までにロコモ25の中央値を基準にロコモ群の比較を行った。統計解析にはPASW Ver18を用い有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に対しては口頭と文書による十分な説明を行い,同意を得た上で行った。なお,本研究は埼玉医科大学保健医療学部倫理委員会の承認を得て行った。【結果】ロコチェックによるロコモ該当者は82名(33.3%)であり,ロコモ25によるロコモ該当者は9名(3.7%)であった。また,ロコモ25による中央値は4点であり,4点以下は95名(38.6%)であった。ロコチェックによるロコモ群と非ロコモ群の比較では,BMI(22.8±3.0/22.0±2.7),握力(右:27.1±8.2/30.7±8.1kg,左26.1±7.5/29.4±8.4kg),片足立ち(25.8±26.3/56.9±40.4秒),FRT(34.7±6.2/38.0±4.5cm),5STS(8.8±2.4/7.7±1.8秒),歩行速度(通常:1.53±0.24/1.42±0.21,最速:1.74±0.29/1.87±0.28m/s),2Step(1.34±0.14/1.44±0.12),膝伸展筋力(右:1.74±0.51/2.05±0.53N/m,左:1.77±0.51/2.01±0.56N/m),足趾把持力(右:11.5±4.8/14.1±4.9kg,左:11.7±4.4/13.4±4.9kg),において有意差を認めた。また,立ち上がりテストでは両足10cmの可否,片足40cmの可否において有意差を認めた。ロコモ25による比較では,5STS(10.8±3.4/8.0±2.0秒),歩行速度(通常:1.23±0.17/1.40±0.23m/s),2Step(1.29±0.18/1.41±0.13)に有意差を認めた。なお,ロコモ25について中央値を用いて比較すると,片足立ち,FRT,5STS,歩行速度(通常,最速)2Step,膝伸展筋力,足趾把持力に有意差を認めることができた。【考察】運動器障害により要支援・要介護となるリスクの高い状態をロコモティブシンドローム(運動器症候群:ロコモ)と呼ばれており,その普及が求められている。ロコモに対する基本的な対策として,セルフトレーニングであるロコモーショントレーニング(以下,ロコトレ)が推奨されている。つまり,自らの運動器の衰えついて気付くための判定ツールが必要であり,そのためのツールとしてロコチェックとロコモ25が開発されている。いずれも運動機能との関連が高いことが求められるが,今回の調査結果ではロコチェックによるロコモ群では運動機能低下が明らかであった。ロコチェックは基本チェックリストや転倒スコアなどの運動機能に関する項目で構成されており,運動機能との関連が改めて確認される結果となった。ロコモ25は,二次予防高齢者・要支援・要介護の状態像との関連が高いと報告されているが,調査項目に社会性などを問うものもあることなどから,運動機能との関連性が小さいことが推測される。さらに,地域在住の一般高齢者を対象とした本研究では,ロコモ25が16点以上であるものの数が極めて少なく,このカットオフ値を一般に適用することには注意を要すると考えられた。【理学療法学研究としての意義】運動器の健康としてロコモに対する取り組みは重要な位置づけをしめており,ロコモ判定ツールの確立が求められている。本研究によりロコモ判定のためのツールが確立され,予防理学療法としての介入の基礎研究が図られる。
  • 新井 智之, 藤田 博曉, 丸谷 康平, 森田 泰裕, 細井 俊希, 石橋 英明
    セッションID: 0517
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】長寿化が進む我が国では,運動器に障害をかかえる人は4700万人に及ぶとされ,ロコモティブシンドローム(ロコモ)の予防が求められている。ロコチェックはロコモの判定法として開発され,高齢者の運動機能と関連があることが報告されている。その一方で詳細な検討は行われておらず,年代ごとの比較やロコチェックの該当項目数による検討を行った報告はない。そこで本研究の目的はロコチェックと年齢,運動機能との関連を,ロコチェックの該当する項目数から調査し,運動機能評価表としてのロコチェックの有用性を明らかにすることとした。【方法】対象は高齢者運動器疾患研究所が主催する講演会の参加者及び埼玉県毛呂山町,日高市,鶴ヶ島市,伊奈町に在住する50歳以上の地域在住中高年者659人とした。平均年齢は74.2±6.8歳(56-94歳)であり,男177人,女482人であった。ロコチェックは7項目(①片脚立ちに靴下がはけない,②家の中でつまずいたり滑ったりする,③階段を昇るのに手すりが必要である,④横断歩道を青信号で渡り切れない,⑤15分くらい続けて歩けない,⑥2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難である。⑦家のやや重い仕事が困難である)であり,それぞれの質問に対し「はい」と「いいえ」の2件法で答える質問紙である。その他の測定項目は年齢,性別,BMI,運膝伸展筋力,足趾把持力,片脚立ち時間,Functional Reach Test(FRT),快適歩行速度,最大歩行速度,Timed‘Up and Go’Test(TUGT)を調査した。解析では,対象者を5歳ごとの年代別の6群に分け,年代間でロコチェックの「はい」と答えた項目数(陽性項目数)の比較を行った。次にロコチェックで1項目以上に該当したものをロコモ群,該当しなかったものを非ロコモ群に分け,両群間で各背景因子と運動機能との比較を行った。さらにロコチェックの陽性項目数により対象者を6群(0項目,1項目,2項目,3項目,4項目,5項目以上)に分け,各運動機能を比較した。統計解析にはSPSS 19.0J for Windowsを用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に従い,対象者全員に対し,研究の概要と目的,個人情報の保護,研究中止の自由などが記載された説明文書を用いて十分な説明を行い,書面にて同意を得た。また本研究は埼玉医科大学保健医療学部倫理委員会の承認を得て実施している。【結果】年代別のロコチェック陽性項目数の中央値は,65歳未満,65~69歳で0項目,70~74歳,75~79歳で1項目,80~84歳,85歳以上で2項目であった。全対象者中,ロコモ群は349人であり,ロコモ該当率は53.0%であった(男44.1%,女56.2%)。両群間の比較では,ロコモ群は非ロコモ群に比べ,有意に年齢が高く,すべての運動機能が有意に低い結果となった(全てp<0.0001)。ロコチェックの陽性項目数の内訳は0項目が310人,1項目が154人,2項目が95人,3項目が46人,4項目が29人,5項目以上が25人であった。陽性項目数による検討では,陽性項目数が増えるほどに,すべての運動機能が有意に低い結果となった(全てp<0.0001)。特に陽性項目数が4項目,5項目以上の2群では,すべての運動機能が著明に低下していた。さらに性別ごとの結果は,男性では片脚立ち時間とTUGが陽性項目数3項目以上で,女性では足趾把持力と膝伸展筋力が陽性項目数3項目以上で著明に低下していた。【考察】本研究の結果から,ロコチェックは高齢になるほど陽性項目数が増えること,また陽性項目数が増加するほど運動機能が低下していることが示された。先行研究においてロコチェックは高齢者の運動機能低下の予見性があると報告されているが,本研究においても運動機能との関連が示され,高齢者の運動機能低下をとらえる手段として有用であることが明らかとなった。さらに本研究ではロコチェック陽性項目数4項目以上である場合には,高齢者の運動機能が著明に低下している可能性があることが示唆された。また男性ではバランス能力が,女性では下肢筋力が陽性項目数3項目以上から著明に低下していた。【理学療法学研究における意義】高齢化,長寿化が進む我が国の現状を踏まえれば,できるだけ早期から運動機能の衰えを確認できる手段が必要である。ロコチェックは7項目と少なく簡便に行うことができ,内容も一般市民にわかり易い質問票であるである。ロコチェックは運動機能低下を判定する方法として活用でき,一般市民が運動機能の低下に気づき,健康増進活動を促す手段として活用できるものである。
ポスター
  • 菊地 康平, 境 侑亮, 佐々木 良輔, 高橋 拓斗, 渡部 祥輝
    セッションID: 0518
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】理学療法において,運動学習を促しパフォーマンスを向上させる方法の1つに言語指示がある。その方法には運動前にこれから行う動作において意識すべき点を伝える方法や,運動後に動作の修正点を伝える方法がある。前者には身体内部に意識を向けるInternal focus of attention(以下IFA)と外部環境に意識を向けるExternal focus of attentionがあり,後者にはどのような運動であったかを伝えるKnowledge of performance(以下KP)と運動の結果を伝えるKnowledge of resultが存在する。これらのうちIFAとKPには身体内部に意識を向ける性質がある。鈴木らは運動初心者に対してこれらを与えることでパフォーマンスの向上がみられたと報告している。一方で,wulfは身体内部に意識を向けると自動制御過程を妨害し運動学習が阻害されパフォーマンスが低下すると報告している。このように,身体内部に向けた言語指示の運動学習効果は不明な状況である。そこで我々は身体内部に意識を向ける学習方略と言語指示をしない学習法略を比較することで,どちらの方略が運動学習に効果的であるのか明確にすることを目的に研究を行った。【方法】対象はFunctional reach(以下FR)に対する知識の無い健常若年成人26名(19.42±2.4歳,男:14名,女:12名)とした。言語指示を行わない群(以下非介入群:14名),IFAとKPを与える群(以下IFA+KP群:12名)に無作為に割りつけた。本研究の運動課題はFRとし,踵を床から離さずに,可能な限り手を遠くに伸ばすことを求めた。測定項目はFR最大距離と,藤澤らの肩関節,股関節,足関節におけるFR最適姿勢からの角度誤差とした。実験手順は,事前に全対象に対しpre test(以下pre)を実施し,その後FR動作練習を1日10回,4日間連続で行った。その翌日にpost test(以下post)を実施した。IFA+KP群に対しては毎日FR動作練習開始直前に言語教示によるIFAを1回行い,FR動作練習5回に1回,計2回KPを行った。IFAは1.腕を耳より高くあげてください。2.股関節を曲げ,深くお辞儀をするようにしてください。3.お尻を後ろに引かないでください,の3項目とした。また,KPは肩関節,股関節,足関節におけるFR最適姿勢からの角度誤差情報を付与した。統計学的解析は,FR距離及び,肩関節・股関節・足関節の最適姿勢からの誤差について,時期(pre/post)および,群(非介入群/IFA+KP群)による効果を反復測定二元配置分散分析にて比較した。多重比較にはBonferroni法を用い,統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮】全ての対象者に対し事前に本研究の目的及び内容を十分に説明し,全員から書面にて同意を得た。【結果】肩関節の最適姿勢からの誤差は時期および群に主効果が認められたが(時期:p<0.05,群:p<0.05),交互作用は認められなかった。多重比較の結果,postにおいて非介入群と比較して,IFA+KP群で有意な改善がみられた(31.1±8.6度vs 19.3±11.1度)。また,両群ともpreに対してpostで有意な改善がみられた(非介入群:pre:40.5±12.8度vs post:31.07±8.6度,IFA+KP群:pre:36.1±12.7度vs post:19.3±11.1度)。FR距離は時期および群に主効果が認められたが(時期:p<0.05,群:p<0.05),交互作用は認められなかった。多重比較の結果,FR距離はpostにおいてIFA+KP群と比較して非介入群で有意な向上がみられた(92±8.3cm vs 102±5.9cm)。また,非介入群において,preに対してpostで有意な向上がみられた(pre:94±8.5cm vs post:102±5.9cm)。【考察】本研究の結果,FRの肩関節における姿勢変化では,時期の比較で両群ともに有意な改善があった。また,群の比較ではIFA+KP群は,非介入群と比較して有意な改善があった。野田らは身体に意識を向けた際,コントロールが容易なのは上肢であると報告している。本研究におけるIFAとKPによる言語指示は身体内部に意識を向ける性質があり,KPは最適姿勢との関節角度誤差を用いたため,コントロールが容易な肩関節に意識が向き,有意な改善がみられた可能性がある。FR距離は時期の比較において,言語指示を行わなかった非介入群で有意な向上があった。この結果は,IFAとKPを組み合わせた言語指示はパフォーマンスの即時的な向上を促す可能性があるとの鈴木らの報告と逆の結果となった。その理由は,今回KPの情報として用いたFR最適姿勢が本研究における対象の最大パフォーマンスを発揮する関節角度と一致していなかった可能性がある。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果,フォームの修正など,四肢の細かい調整が必要な場合は,IFAとKPの組み合わせによる言語指示の効果が示唆された。一方で,パフォーマンスの向上におけるIFAやKPによる言語指示は,対象が最大パフォーマンスを発揮できる情報と一致させる必要性が示唆された。
  • 齋藤 徹, 浅川 康吉
    セッションID: 0519
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,リハビリテーションの分野において,体感型ゲームを用いた介入研究が多く行われ,バランス機能や認知機能に対する効果が報告されている。しかし,ほとんどの研究が運動機能もしくは認知機能のどちらかについて論じたものである。そこで,今回は体感型ゲームの遂行能力に対して運動機能や認知的な注意・遂行機能が関連するかどうかを明らかにすることを目的とした。【方法】対象は介護老人保健施設入所者21名とした。対象者の属性は男性11名,女性10名であり,年齢は77.3±9.9歳であった。対象者の取り込み基準は監視レベル以上にて立位保持および歩行が可能なこととした。コミュニケーションに支障をきたすような重度の認知症および高次脳機能障害を有する者は除外した。体感型ゲームは任天堂(株)より発売されているNintendo WiiTMおよびWii Fit PlusTM,バランスWiiボードTMを使用した。Wii Fit PlusTMは69種類もの運動種目が用意されているが,今回はその中で立位での重心移動が必要とされる「ヘディング(HE)」を使用した。体感型ゲームの遂行能力の指標としてHEの得点と成功回数を記録することとした。HEの得点とはゲームの結果がゲーム内で計算され,画面上に出力されるものである。HEの成功回数とは,得点と異なりゲーム内での成功回数を検者が記録したものである。その他に運動機能の評価としてFunctional Reach Test(FRT)を行った。認知的な注意・遂行機能の評価として,山口符号テスト(YKSST)を行った。YKSSTはウェクスラー成人知能検査の符号問題を日本の高齢者用に改変したものである。HEは事前に1回の練習を設け,その後2回の測定を行い,最大値を測定値として記録した。FRTは2回行い,最大値を測定値とした。YKSSTは練習問題を1回行い,その後1回のみの測定を行った。統計解析はSPSS19.0J for Windowsを用いた。各項目間における関連についてはPearsonの相関係数を用いて分析を行った。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は老年病研究所附属病院の倫理審査委員会の承認を得た。また,対象者には説明書を用いて口頭にてその目的や方法,自由意志での参加であることなどを説明し,書面にて同意を得た。本研究はヘルシンキ宣言を遵守して行った。【結果】各項目における平均値はHE得点が12.0±5.1,HE成功回数が12.0±3.6,FRTが16.2±8.6,YKSSTが19.4±10.7であった。HE得点と有意な相関が認められた項目はYKSST(r=0.449,p<0.05)であった。HE成功回数と有意な相関が認められた項目はFRT(r=0.560,p<0.01)とYKSST(r=0.463,p<0.05)であった。【考察】今回の調査ではHE成功回数とバランス機能および認知的な注意・遂行機能との関連が得られた。HE得点はFRTとの有意な関連はなく,YKSSTと有意な関連が認められた。HEは画面の向こう側から左右および中央へと飛んでくるボールに合わせて,左右への重心移動を行い,それにより画面内のキャラクターがボールを頭で打ち返すというゲームである。ゲーム内ではボールの他にボールに類似した物(靴,白黒のやかん)が飛んでくることがあり,それを打ち返すと減点となってしまう。さらに連続してボールのみを打ち返すことにより,得点が徐々に加算されていく得点付けがなされている。このことから,HEにおいて高い得点を獲得するためには成功回数の多さよりもボールとその類似物を判断し,正確にボールのみを打ち返す能力が求められることが示唆される。また,HEの成功回数を得るためには,前方から飛んでくる物体を視認し,その方向に合わせた適切な重心移動が求められる。このことから体感型ゲームでは単なるバランス機能だけでなく,障害物や壁,段差などの自分がいる空間に合わせたバランス能力が必要となると考えられる。これらのことから,HEでは従来のバランス練習の効果に加え,日常生活に必要となる遂行機能の向上にも効果があると示唆される。【理学療法研究としての意義】本研究の結果から,体感型ゲームの遂行能力はバランス機能および認知的な注意・遂行機能の両面を反映していることが明らかとなった。よって体感型ゲームによる介入はこの2つを複合した機能向上が得られ,より日常生活に即した介入方法であることが示唆される。また,今回使用した機器は安価で容易に手に入ることから,医療機関だけでなく,施設や地域でのコミュニティ,自宅でのトレーニングにも用いることができると考えられる。
  • Hybrid mass-spring pendulum modelを用いた分析
    金井 欣秀, 山本 良平, 中野 渉, 大橋 ゆかり
    セッションID: 0520
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】本研究ではHybrid mass-spring pendulum model(以下,hybrid model)の概念を用いて加齢による健常者の歩行の変化を検討することを目的とした。hybrid modelは米国理学療法士のHoltによって提唱された歩行モデルで人間の歩行周期を予測し,身体要因から最適な歩行率を算出するものである(Holt,et al.,1996)。このモデルでは,歩行を行う人間の下肢は股関節を軸とする単振り子とみなされる。従って,膝関節の動きは考慮されない。下肢の筋を含む軟部組織をバネとみなし,バネから発生する力が歩行中の下肢の単振り子の推進力に加わる,バネ付き振り子を仮定するものである。【方法】協力者は整形外科的・脳神経的異常を伴わず,独歩可能な健常成人223名であった。協力者を年代により,20代,30代,40代,50代,60代,70代以上とグループ化した。これら協力者の身長・体重を測定した。次に靴底に絵の具を含んだスポンジを張り付けて足跡を測定するフットプリントメソッドを用い16mの模造紙による歩行路を歩行させた。歩行の際には日常生活での通常の歩行速度で歩行するよう指示した。両端の3mを除き,中間の10mをデータ取得領域とした。また,同時に歩行をビデオにて撮影し,歩幅(m)・歩行率(steps/min)・歩行速度(m/min)を測定した。また,hybrid modelを用いて,各協力者の歩行率の理論値を算出し,実測された歩行率との差を求めた。さらに,実測された歩幅を歩行率で除して歩行比を求めた。歩行比は歩行速度が変化しても変化しない不変項と言われている。そこで,各協力者の歩行比を用いて,各協力者が歩行率の理論値に相当する歩行率で歩行したと仮定した時の,歩幅および歩行速度を算出した。本抄録の以降の部分では,歩行率の理論値およびそれを用いて算出した歩幅,歩行速度をそれぞれの補正値と記す。統計解析にはIBM SPSS Statistics.ver.20を用い,歩幅,歩行率,歩行速度の各パラメータに対して,「年代グループ」と「補正の有無」を要因とする2要因分散分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は筆者の所属する施設の倫理委員会において承認を受けた計画に沿って実施した。また,研究内容に関して利益・不利益共に研究協力者に説明を行い,紙面にて同意を得た。【結果】分散分析の結果,「年代グループ」要因の主効果は見られなかった。歩行速度(df=1,F=22.65,p<0.01)と歩幅(df=1,F=21.90,p<0.01),歩行率(df=1,F=23.80,p<0.01)については「補正の有無」要因の主効果が有意であった。また,歩行速度(df=5,F=3.37,p<0.01)と歩行率(df=5,F=5.03,p<0.01)については2要因の交互作用が有意であった。そこで,下位検定として歩行速度,歩行率の実測値と補正値に対して,年代グループごとに対応のあるt検定を行った。結果として歩行速度,歩行率ともに60代で有意差がなくなり,実測値と補正値の近似が見られた。【考察】高齢者ではhybrid modelによって補正される値と補正前の値では差が減少した。hybrid modelでは,筋力や前庭・視覚機能といった歩行に影響を与える身体機能の変化について考慮していない。よって,hybrid modelの構成要素である身長や体重から想定される値によってその歩行周期が予測される高齢者では,歩行パラメータの決定に体格要因が大きな非常を占めている。つまり,高齢者では体格によって歩行パラメータが体格による制約を強く受け,他のパラメータを選択する冗長性が減弱していると言える。逆に,若年健常者では体格要因以外の要素にも歩行能力は依存している。これら事実を踏まえ,高齢者の歩行の冗長性の減弱を考慮することで適切な理学療法を提供できると考える。【理学療法学研究としての意義】高齢者の歩行は体格要因に依存する場合があるため,機能の変化に注意して理学療法を提供すべきであるということが再確認された。
  • 服部 宏香, 谷本 研二, 脇本 祥夫, 波之平 晃一郎, 阿南 雅也, 新小田 幸一
    セッションID: 0521
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】加齢に伴う身体機能の低下により,高齢者の多くが,日常生活中の諸動作で若年者と異なる動作戦略を用いることが知られている。起立動作とともに日常で頻繁に行われる着座動作は,重力の作用する環境下で身体重心(以下,COM)の空間座標を下肢各関節で制御し,滑らかに後下方に変位させる能力が要求される。この制御が不十分となり,起立動作よりも再獲得に時間を要する高齢患者を臨床の場では経験することが少なくない。しかし,高齢者の着座動作に関して運動学,運動力学的な観点から詳細に捉えた報告は少ない。そこで,本研究は高齢者と若年者の着座動作戦略の違いを運動学,運動力学的観点から比較し,高齢者の着座動作のバイオメカニクスを明らかにすることを目的として行った。【方法】被験者はシルバー人材センターに登録していた65歳以上の高齢群23人(男性10人,女性13人,平均年齢70.7±2.3歳),健常若年群20人(男性10人,女性10人,平均年齢23.6±2.2歳)であった。被験者は自らが感じる快適な動作スピードで,静止立位姿勢から下腿長の座面高の椅子への着座動作を行った。動作中の運動学データは身体各標点に貼付した赤外線反射マーカの空間座標を赤外線カメラ6台からなる三次元動作解析システムVICON MX(Vicon社製)にて,運動力学データは床反力計(テック技販社製)4基にて取得した。動作の開始は最大体幹前傾角速度出現以前に最後に角速度が負から正に転じる瞬間とし,動作の終了は最大体幹前傾角速度出現以降に最初に角速度が負から正に転じる瞬間とした。また,動作開始から最大体幹前傾角速度出現以降に最初に角速度が正から負に転じる瞬間までをCOM下方移動相とした。解析項目は,動作所要時間,動作所要時間に対するCOM下方移動相の時間割合,COM下方移動相中のCOM下方および後方速度最大値,下肢各関節角度変位量,足関節背屈角度最小値出現時間を求めた。また,動作中の関節角速度と関節モーメントの積から関節パワーを算出し,足関節背屈運動中に発揮される負のパワー絶対値の最大値,負のパワー発揮開始時間を求めた。統計学的解析には統計ソフトウェアSPSS14.0J for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用いて2群間の比較を行い,正規性が認められなかった場合にはMann-Whitneyの検定を,正規性が認められた場合には等分散性を検定し,等分散性が仮定された場合には対応のないt検定を,等分散性が仮定されなかった場合にはWelchの検定を行った。なお有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿い,研究の実施に先立ち,本研究の行われた機関の倫理委員会の承認の後,被験者に研究の意義と目的について十分に説明し,口頭および文書による同意を得て実施した。【結果】動作所要時間,COM下方移動相の時間割合は両群間で有意差を認めなかった。COM下方および後方速度最大値は高齢群が若年群より有意に低かった。股関節屈曲角度変位量は高齢群が若年群より有意に大きく,足関節背屈角度最小値出現時間は高齢群が若年群より有意に早かった。足関節背屈運動中の負のパワー絶対値の最大値は高齢群が若年群より有意に大きく,負のパワー発揮開始時間は高齢群が若年群より有意に早かった。【考察】高齢群では,COMに大きな後下方への速度が生じると,姿勢制御システムの変化のために,COMを滑らかに変位させることが困難になると考えられる。そのため,股関節屈曲によってそれより上位の身体重量を利用し,COMを極力前方に保持していたと考えられる。一方,COM下方移動相中は,足関節は両群とも底屈モーメントを発揮しており,動作開始から底屈運動を行い背屈角度最小値をとった後,背屈運動を行っていた。即ち,足関節負のパワーは底屈筋の遠心性収縮が行われていたことを示す。足関節背屈角度最小値出現時間,足関節背屈運動中の負のパワー発揮開始時間,負のパワー絶対値の最大値の結果から,高齢群では早期から大きな足関節底屈筋の遠心性収縮を要求されることが分かった。足関節は背屈運動によって,近位の関節に安定した土台を提供する役割があるとされており,高齢群では股関節の運動を補助するために早期から足関節による制御が要求されたと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,高齢者と若年者の着座動作戦略の違いを,運動学,運動力学的な観点から明らかにし,高齢者の着座動作では,COMの移動を緩やかに行うために,股関節と足関節においてより高い協調性が必要であることを示したことである。今後,動作戦略を変化させる要因として,動作中の下肢筋活動の特徴を検討することにより,高齢者の着座動作戦略に対する理解をより深めることができると推察する。
  • 上原 貴廣, 喜多 一馬, 増岡 康介, 眞伏 美和, 静間 久晴
    セッションID: 0522
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】動作学習において,学習者にモデル動作を提示し模倣させる方法は重要な学習方法であり,臨床場面で用いることの多い治療手段の一つである。このような観察学習では,教示者によるモデル動作の提示方法が学習者の習得能率に影響を及ぼすものと考えられており,モデル提示角度は重要な問題の一つとして挙げられている。モデルの提示角度としては,学習者が主体となるような背面での教示と心的回転を伴わない方法が最も簡単であるとされており,様々な研究により実証されている。しかし,先行研究で用いられている被験者は若年者であり,臨床場面で対象となることの多い高齢者での検討はなされていない。そこで,本研究では若年者と高齢者における動作模倣時のモデル提示角度の影響について検証することを目的とした。【方法】対象は右利きの健常成人18名とし,若年群9名(男性5名,女性4名,年齢25.44±5.03歳)と高齢群9名(男性2名,女性7名,年齢79.56±6.25歳)に分類した。被験者は,椅子座位を取り前方のモニターに映し出された模倣モデルの模倣を右手で行い,模倣が完成したら口頭で「はい」と合図するよう求めた。また,「なるべく早く」,「正確に」「手は常に手掌が自分の方向に向いているように」の3点の教示を与えた。被験者が試行している間,模倣モデルは提示したままとし,被験者の「はい」の合図で提示を終了とした。一試行終了ごとに被験者は手指を安楽肢位として待機し,次の試行に備えた。被験者には,模倣の成否を知らせることは行わなかった。模倣課題は,8種類の指構成それぞれに提示方向4方向を設けた32種類とし,これらをランダムに提示した。模倣モデルの提示方向は,手掌が被験者を向いた一人称,手背が被験者を向いた三人称を設定し,それぞれに右手であれば同側,左手であれば対側と区別し提示した。すなわち,模倣モデルの提示は,一人称同側,一人称対側,三人称同側,三人称対側の4方向とした。測定は,模倣の正解率とした。解析は,Excel統計2010を用い,若年群と高齢群の2群間でモデル提示方向の影響を検討するため,二元配置分散分析(two-way ANOVA)を行い,有意差が認められた場合にはBonferroni検定を行った。【説明と同意】被験者には,事前に実験の趣旨,方法の説明を十分に行い実験への参加の同意を得た。【結果】two-way ANOVAの結果,若年群,高齢群の2群間とモデル提示方向それぞれに有意差が認められ(p<0.01),交互作用は認められなかった(p>0.05)。若年群,高齢群の各要因におけるモデル提示方向の主効果は,若年群においては認められなかったが(p>0.05),高齢群において認められた(p<0.01)。モデル提示方向の主効果が認められた高齢群において,一人称同側と三人称同側(p<0.01),一人称同側と三人称対側(p<0.01)に有意差が認められた。【考察】本研究の結果,指構成模倣課題の正確性にモデル提示方向が与える影響は,若年者より高齢者に大きいことが示唆された。また,高齢群内におけるモデル提示方向の影響の検討から,一人称同側がより正確性の高いモデル提示方向であることが示された。動作模倣には,観察した動作である視覚的表象と自分の動作の内的表象とをマッチングさせる過程が存在すると考えられており,視覚的表象と内的表象に方向の違いがある場合にはマッチングの前に心的回転により方向を一致させる必要があると思われる。心的回転能力は心的回転課題において検討され,高齢者は若年者に比べ正解率が低下することが報告されていることから,高齢者のみに提示方向の影響が生じたのは心的回転能力の加齢による低下が反映されていると考えられる。また,動作模倣の難易度にモデル提示方向が与える影響について,心的回転課題から回転角度に比例して難易度が上がることが報告されており,動作観察,模倣時の脳活動から一人称に比べ三人称において複雑性が強いことが示唆されている。上記の報告から,一人称で心的回転を必要としない同側において正解率が高かったと考えられる。今回,指構成模倣時のモデル提示角度が若年者と高齢者に与える影響について検討し,観察学習時において高齢者を対象とする場合にはよりモデル提示方向に注意を払う必要があることが示唆された。今後,ダイナミックな動作課題や観察学習における記憶,保持におけるモデル提示角度の影響についても検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】今回の研究から,高齢者の動作模倣能力が提示方向に受ける影響は若年者より大きいことが認められ,高齢者を対象に動作模倣教示を行う場合にはよりモデル提示方向を考慮していく必要性が示唆された。
  • ―運動構成要素の学習順序変更による比較―
    米田 浩久, 鈴木 俊明
    セッションID: 0523
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】理学療法の場面では獲得すべき動作の構成要素を集中的にトレーニングすることが多い。理学療法では一般的に学習効果と達成度が高いとされる全習法よりも,むしろ構成要素ごとに学集する分習法をおこなうことで早期に改善する印象がある。この印象について検討するために,われわれは第48回日本理学療法学術大会においてバランスボール上での非利き手による下手投げ投球動作を用いて全習法と分習法の学習効果を検討した。その結果,全習法よりも分習法で有意な学習効果を認め,理学療法でおこなうトレーニングの有効性を証明した。一方,分習法によるトレーニングを実施する場合,構成要素をどのような基準で分割し,どのような順序で実施すべきかという疑問に対して,これまで有効な報告は得られていない。そこで今回,先行研究と同じ学習課題をもとに構成要素の学習順序が異なる2種の分習法を実施し,その効果を検討したので報告する。【方法】対象者は健常大学生24名(男子16名,女子8名,平均年齢20.4±0.6歳)とした。検定課題は以下とした。両足部を離床した状態でバルーン(直径64cm)上座位を保持させ,2m前方にある目標の中心に当てるように指示し,お手玉を非利き手で下手投げに投球させた。検定課題は学習課題前後に各1回ずつ実施し,バランスボール上座位を投球前に5秒間保持させ,的への投球をおこなった後,さらにバランスボール上座位を投球前に5秒間保持させた。目標の的から完全にお手玉が外れた場合と検定課題中にバルーン座位が保持できなかった場合は無得点とした。目標は大きさの異なる3つの同心円(直径20cm,40cm,60cm)を描き,中心からの16本の放射線で分割した64分画のダーツ状の的とした。検定課題では最内側の円周から40点,30点,20点,10点と順次点数付けし,その得点をもって結果とした。学習課題は2種類の方法を設定し,それぞれA群とB群として男女別に無作為に対象者を均等配置した。A群は,まずバランスボール上座位を6セット実施した後,椅座位での投球を6セット実施した。B群では,まず椅座位での投球を6セット実施した後,バランスボール上座位を6セット実施した。これらの学習では1セット1分40秒とし,セット間インターバルは1分間とした。投球課題では1セット内で対象者の任意のタイミングで5投実施した。学習効果の検討は,学習前後の的の得点と重心の総軌跡長の変化によって実施し,両群とも学習前後の検定課題の結果による群内比較と群間比較を実施した。統計学的手法は,群内比較には対応のあるt検定を用い,群間比較にはマン・ホイットニー検定を実施した。有意水準はそれぞれ5%とした。【倫理的配慮】対象者には本研究の趣旨と方法を説明のうえ同意を書面で得た。本研究は関西医療大学倫理審査委員会の承認(番号07-12)を得ている。【結果】学習課題前後の検定課題の平均得点(学習前/学習後)は,A群5.8±13.7点/24.2±15.64点(mean±S.D.),B群8.3±15.3点/12.5±14.2点であった。また,学習前後の重心の総軌跡長(学習前/学習後)は,A群289.76±69.27cm/175.46±93.24cm,B群が257.86±77.68cm/213.84±64.64cmであった。群内比較では得点および総軌跡長ともA群に有意な学習効果を認めた(p<0.05)。群間比較ではいずれも有意差は認められなかったが,学習後の得点でA群に学習効果を認める傾向を認めた(p=0.064)。【考察】Wadeら(1997)は,姿勢の変化が要求される運動は運動前や運動中におこなわれる姿勢制御によって担保され,運動の目的や状況,環境により姿勢制御は左右されるとしている。本研究では,バランスボール上座位という絶えず変化する座位の保持に加え,的の中心に当てるという精度の高い非利き手での投球動作の双方を要求した。対象者は,これらを実現するため絶えず座位の姿勢制御を求められていたものと考えられる。従って,B群に比べて初めに姿勢制御を学習したA群で,有効な姿勢制御を効果的に獲得でき,学習効果につながったと考えられる。以上のことから,分習法による構成要素の区分は姿勢制御課題を基準として分類し,まず姿勢制御課題から学習をおこなうことが重要であると示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,トレーニング課題の設定方法として姿勢制御課題を軸とした分類と学習をおこなうことの有効性を示唆したものである。動的姿勢改善に着目した分習法は,基本動作獲得の一助として理学療法への応用に有用であると考えられる。
  • 松本 浩希, 安江 啓太, 初瀬川 弘樹, 蔦 幹大, 貴志 紗由里, 井上 貴裕, 湊 哲至, 中野 恭一, 吉岡 大輔
    セッションID: 0524
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】側腹筋は外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋にて構成されており,体幹の安定性に関与している。特に,腹横筋は四肢の運動に先行して収縮し,腹圧の上昇,動的な脊柱の安定化に重要であることが報告されている。臨床において運動療法を行う際には,体幹部の影響を考慮しなければならないことが先行研究で述べられているが,四肢の運動方向の違いによる腹横筋の変化についての報告は少ない。四肢の運動方向の違いによる体幹筋の役割を知ることは,下肢筋力増強運動,動作練習など理学療法を行う際,体幹部の影響を考慮する上で必要な情報になると思われる。今回,下肢の運動に着目し,超音波診断装置を用いて股関節の運動方向を変えた際の腹横筋の変化について調査したので報告する。【方法】対象は,下肢・体幹に整形外科的・神経学的疾患のない健常者10名(男性:6名,女性:4名,24±2歳)とした。身長は166.3±7.6cm,体重は54.1±8.5kgであった。測定には超音波診断装置(東芝メディカルシステムズ株式会社NemioMX SSA-590A)を使用し,測定はBモードにて行った。測定筋は,腹横筋とし,測定部位は右側前腋窩線上の肋骨下端と腸骨稜との中央部より下部にて微調整を行い決定した。方法は,測定肢位を背臥位とし安静呼気終末時の最大筋厚および股関節中間位における右股関節屈曲・伸展・外転・内転・外旋・内旋時の最大等尺性運動時の最大筋厚を各々2回測定し,その平均値を求めた。その後,安静時に対する各運動時の筋厚変化率を算出した。各運動時において,固定ベルト,クッションラバー,徒手にて可能な限り代償を抑制した。統計処理は,反復測定による一元配置分散分析と事後検定(Bonferroni法)を実施した。【倫理的配慮,説明と同意】今回の調査は,ヘルシンキ宣言の規定に従い実施し,研究の趣旨,測定の内容,個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で研究協力の承諾を得た。【結果】各運動時の筋厚変化率は,屈曲時が1.30±0.38,伸展時が1.30±0.37,外転時が1.39±0.41,内転時が1.21±0.30,外旋時が1.13±0.36,内旋時が1.12±0.24であった。統計学的検討では,安静時と比較し,屈曲時(P<0.05),伸展時(P<0.05),外転時(P<0.01)に有意差を認め内転時,外旋時,内旋時には有意差を認めなかった。各運動間での検討では,外転時に対する内旋時に有意差(P<0.05)を認め,その他の運動間で有意差を認めなかった。【考察】本研究の結果,安静時と比較し,屈曲時,伸展時,外転時に有意差を認め内転時,外旋時,内旋時には有意差を認めなかった。屈曲時,伸展時,外転時に有意差を認めたのは,股関節屈筋群が強く活動すると骨盤は前傾方向へ,伸展筋群が強く活動すると後傾方向へ,外転筋群が強く活動すると下制方向へ引っ張られ,それに伴い骨盤運動が生じてしまうため,中枢部の固定作用として腹横筋が活動したのではないかと考えた。内転時,外旋時,内旋時に有意差を認めなかったのは,内転筋群が強く活動すると骨盤は前下方へ,外旋筋群が強く活動すると側方へ引っ張られるが,大腿骨頭と臼蓋が突き当たり,骨盤運動が生じにくいことと各主動筋の出力も比較的小さいことが中枢部の固定作用としての腹横筋の活動が少なくてもよかったためであると考えた。内旋時においては,小殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋,内転筋群などが活動するといわれているが,各筋の出力が小さいこと,拮抗筋どうしの活動であるため,骨盤運動への影響が少なく,固定作用としての腹横筋の活動が少なくてよかったためであると考えた。外転時に対する内旋時に有意差を認めたのは,等尺性収縮下において最も体幹の固定作用が必要な股関節運動が外転であり,最も体幹の固定作用を必要としない股関節運動が内旋であったためであると思われる。今回,股関節運動側と対側の腹横筋の変化や上肢運動時の変化の検討までは至っていない。今後は,対側の腹横筋の作用の検討,上肢運動時の変化の検討,起立や歩行等,動作と腹横筋との関連を調査する必要がある。【理学療法学研究としての意義】今回,股関節屈曲時,伸展時,外転時に腹横筋の固定作用が比較的強く生じる可能性が示唆された。本研究の結果は,下肢筋力増強運動,動作練習など理学療法を行う上で,腹横筋の固定作用を検討する際の一助となると思われる。
  • 澳 昂佑, 福田 章人, 奥村 伊世, 川原 勲, 田中 貴広
    セッションID: 0525
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】本邦の変形性膝関節症患者数は約3000万人と推測され(平成20年介護予防の推進に向けた運動器疾患対策に関する検討会-厚生労働省),膝関節機能不全によって,歩行能力の障害を呈することが多く,生活機能の低下を引き起こしてしまう。このため,膝OAの病態を把握し,適切な理学療法を模索することは重要である。とりわけ内側型変形性膝関節症(膝OA)患者の立脚期における膝関節内反モーメントの増加は膝関節内側のメカニカルストレスや痛みの増加に関与していることが報告されている(Schipplenin OD.1991)。これに対して,外側広筋は筋活動を増加することによって側方不安定性に寄与し,膝関節内反モーメントを制動することが知られている(Cheryl L.2009)。一方,股関節は体幹を立脚側に側屈することにより,立脚側へ重心を保持する代償動作を行い(Hunt MA.2008),股関節内転モーメントが減少することが知られている(Janie L.2007)。さらにこの戦略によって股関節外転筋は不使用による筋力低下を引き起こし,二次障害を誘発すると考えられている(Rana S.2010)。これらの知見は膝OA患者に対して膝関節のみではなく,股関節の筋にも着目したトレーニングを行う必要性を示唆している。しかしながら,膝OA患者において歩行中の股関節の筋活動の特徴は明らかとなっていない。そこで本研究の目的は膝OA患者における歩行中の股関節の筋活動の特徴を明らかにすることとした。【方法】対象者は健常成人7名(25歳±4.5)とデュシェンヌ歩行を呈する片側・両側膝OA患者4名(85歳±3.5)とした。膝OAの重症度はKellgren-Lawrence分類(K/L分類)にて,IIが4側,IIIが1側,IVが2側であった。対象者には筋電図の記録電極を外側広筋,中殿筋,内転筋に設置し,足底にフットスイッチを装着させた。筋活動の測定には表面筋電計(Noraxson社製MyoSystem1400)を使用した。歩行中の筋活動の測定は,音の合図に反応して快適な歩行速度で歩行させた。歩行計測終了後,各被検筋の最大随意収縮(Maximal Voluntary contraction:MVC)を等尺性収縮にて3秒間測定した。解析は得られた波形を整流化し,5歩行周期を時間にて正規化した。各筋の1歩行周期における平均EMG振幅,MVCの平均EMG振幅を算出した。各歩行周期の平均EMG振幅は%MVCにて正規化した。統計処理は健常成人とOA患者のEMG振幅をMann-Whitney U-testにて比較した。健常成人,OA患者それぞれの外側広筋と中殿筋,内転筋のEMG振幅をPaired t-testにて比較した。OA患者のEMG振幅とK/L分類の関係をSpearmann順位相関係数にて検証した。有意水準は0.05とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,阪奈中央病院倫理委員会の承認を得て実施された。被験者には実験の目的,方法,及び予想される不利益を説明し同意を得た。【結果】OA患者における外側広筋,中殿筋,内転筋のEMG振幅は健常成人と比較して有意な増加を認めた。健常成人の外側広筋と中殿筋,内転筋のEMG振幅は有意差を認めなかった。他方,OA患者は外側広筋と比較して,内転筋のEMG振幅は有意な増加を認めた。OA患者のK/L分類と外側広筋(r=0.79,p>0.05),内転筋(r=0.83,p>0.05)のEMG振幅は有意な正の相関関係を認めた。【考察】健常成人は外側広筋と内転筋,中殿筋の筋活動に差がないにも関わらず,膝OA患者においては外側広筋の筋活動より,内転筋の筋活動が増加した。これは健常成人と膝OA患者の歩行中の筋活動パターンが異なることを示している。OA患者の外側広筋の筋活動が増加し,K/L分類と相関関係を認めたことはOAの進行による側方不安定の増加に対して外側広筋が制動に寄与しようとした結果であり,先行研究(Cheryl L.2009)と一致した。OA患者の内転筋の筋活動が増加し,K/L分類と相関関係を示したことは膝OAの進行による側方不安定の増加に対し,内転筋が遠心性収縮に作用することによって,体幹を立脚側に側屈(デュシェンヌ歩行)し,メカニカルストレスを軽減しようとした結果であると考える。しかしながらこれらの結果は筋活動であり,筋力を反映していないため,今後,筋活動と筋力の関係を調査する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】膝OA患者の歩行中の外側広筋と内転筋が同時に代償的に活動していることは新たな知見であり,理学療法として膝関節のみではなく,股関節の筋活動にも着目したトレーニングを行う必要性が示唆された。
  • 南角 学, 柿木 良介, 西川 徹, 松田 秀一
    セッションID: 0526
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】臨床場面において,臼蓋形成不全によって股関節痛を伴う股関節疾患に対して,大腿骨と臼蓋の安定化を図りながら,動作の改善を目指すことは多い。臼蓋形成不全による骨形態の変化は,大腿骨と臼蓋の構造的な安定性の破綻をきたすとともに股関節の安定性に関わるその他の因子の機能にも影響を及ぼす。特に,股関節周囲筋の筋出力や筋張力によって大腿骨頭に加わる力の大きさや方向が変化することで股関節の安定性に関与することから,これらのメカニズムを考慮しながら理学療法を展開していくことは重要である。しかし,臼蓋形成不全と股関節の安定化機構に関わる股関節周囲筋の関連性を検討した報告はなく,不明な点が多い。そこで,本研究の目的は,変形性股関節症患者における臼蓋形成不全と股関節周期筋の筋萎縮の関連性を明らかとすることとした。【方法】対象は片側の変形性股関節症患者44名(男性6名,女性38名)とした。測定項目は股関節周囲筋の筋断面積,脚長差,Central-edge angle(以下,CE角)とし,測定には当院整形外科医の処方により撮影されたCT画像と股関節正面のX画像を用いた。股関節周囲筋の筋断面積の測定は,Raschらの方法に従い,仙腸関節最下端での水平断におけるCT画像を採用し,画像解析ソフト(TeraRecon社製)を用いて各筋群の筋断面積の測定を行った。対象は梨状筋,腸腰筋,中殿筋,大殿筋とし,得られた筋断面積から患健比(患側筋断面積/健側筋断面積×100%)を算出した。また,股関節正面のX画像から,小転子先端から涙痕先端までの距離を計測し脚長差を算出するとともに臼蓋形成不全の評価としてCE角も算出した。その他の運動機能の評価として,IsoForceGT330(OG技研社製)にて膝関節伸展筋力を計測し,トルク体重比を算出した。さらに,臼蓋形成不全の診断基準値に準じてCE角が20°未満(臼蓋形成不全症例:以下,A群)と20°以上(以下,B群)の2群に分け,各測定項目の比較を行った。統計処理は,両群間の比較には対応のないt検定とMann-WhitneyのU検定を用いた。さらに,臼蓋形成不全の有無を目的変数,両群間で有意差を認めた項目を説明変数としたロジスティック重回帰分析を行い,統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は京都大学医学部の倫理委員会の承認を受け,対象者には本研究の主旨ならびに目的を説明し研究への参加に対する同意を得て実施した。【結果】A群は24名(年齢:61.1±8.6歳,BMI:22.0±3.6kg/m2),B群は20名(年齢:65.9±10.7歳,BMI:23.0±3.0kg/m2)であり,年齢とBMIについては両群間で有意差を認めなかった。A群の梨状筋は60.8±14.5%,腸腰筋は62.2±10.5%,中殿筋は65.0±12.7%,B群の梨状筋は83.1±13.6%,腸腰筋は83.2±12.7%,中殿筋は84.6±8.3%であり,これらの筋についてはB群と比較してA群で有意に低い値を示した。一方,大殿筋(A群:76.3±11.0%,B群:83.1±8.4%)と膝関節伸展筋力(A群:1.31±0.56Nm/kg,B群:1.28±0.62Nm/kg)に関しては,両群間で有意差を認めなかった。また,A群の脚長差(23.9±9.9mm)は,B群(8.3±5.5mm)と比較して有意に大きい値を示した。さらに,ロジスティック重回帰分析の結果より,変形性股関節症患者の臼蓋形成不全と関連する因子として,脚長差と腸腰筋の筋萎縮が有意な項目として選択された。【考察】腸腰筋や梨状筋などの股関節の深部にある筋群は,それぞれの筋機能のバランスを保つことによって臼蓋と大腿骨頭の適合性すなわち股関節の安定化に寄与すること報告されている。また,中殿筋の後部線維は筋線維方向が頚体角と同等であることから股関節を求心位に保持する機能があることも報告されている。本研究の結果より,臼蓋形成不全症例では脚長差が大きく,大殿筋や膝関節伸展筋よりも股関節の安定性に関わる腸腰筋,梨状筋,中殿筋により顕著な筋萎縮を認めた。さらに,重回帰分析の結果より,臼蓋形成不全の影響を最も受けやすい筋は腸腰筋であることが明らかとなった。腸腰筋は大腿骨頭を前方から押さえることで臼蓋と大腿骨頭の安定性を向上させる作用があることから,臼蓋形成不全が大きい症例では股関節の前方への安定化がより欠如している可能性があり,これらのことを考慮した介入が必要であると考えられた。【理学療法研究としての意義】本研究の結果より,変形性股関節症患者の臼蓋形成不全は股関節の安定性に関与する筋群の萎縮と関連することが明らかとなり,理学療法において効果的なアプローチ方法を立案していくための一助となると考えられる。
  • 生友 尚志, 田篭 慶一, 三浦 なみ香, 中川 法一, 増原 建作
    セッションID: 0527
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】人工股関節全置換術(THA)後1年間の筋力の推移を報告した研究はほとんどない。本研究の目的は,THA術前から術後1年間の股関節外転(股外転)筋力と膝関節伸展(膝伸展)筋力の推移を明らかにすることである。【方法】対象は当クリニックにて初回片側THAを施行した女性64名とした。対象者は全例が片側の変形性股関節症であり,平均年齢は63.6±9.4歳,罹病期間は7.7±6.6年,Harris Hip Scoreは61.7±11.3点であった。手術は全て同一医師により後側方アプローチにて施行した。術前後のリハビリテーションは同一の理学療法士が主に担当し,1日2回計2~3時間程度週6日実施した。術後2日目より歩行開始し,筋力トレーニングは対象者の回復状況に応じて実施した。股外転筋力トレーニングは,術後3か月までは創部への過負荷を避けるため高負荷な股外転運動は実施せず,ゴムバンドを用いた運動を中心に実施した。術後3か月以降は側臥位や荷重位での股外転運動などの積極的な股外転筋力トレーニングを追加して実施した。膝伸展筋力トレーニングは術後早期より積極的に術側下肢への荷重練習を実施し,段差昇降運動や自転車エルゴメーターなどを実施した。入院期間は4週間であり,退院後は術後2か月,3か月,6か月,1年時に回復状況の評価とホームエクササイズの指導を行った。筋力の測定にはHand-Held Dynamometer(アニマ社製μTas F-1)を使用して,両側の股外転と膝伸展の最大等尺性筋力を測定した。測定時期は,術前,術後3週,3か月,6か月,1年時とした。測定方法は,股外転は背臥位にて股外転0度で大腿遠位外側部にて測定,膝伸展は端座位にて膝関節屈曲約80度で下腿遠位前面にて測定した。測定には固定バンドを使用し全て同一検者にて行い,約3秒間の最大等尺性筋力をそれぞれ2回測定し,その最大値からトルク体重比(Nm/kg)を算出した。また各筋力の患健差の推移を検討するために患健比(患側トルク体重比/健側トルク体重比×100)を算出した。統計解析は,各筋力の測定時期におけるトルク体重比の比較には,Friedman検定と多重比較検定を用いた。患健比の推移の比較には,測定時期,筋力間を要因とした二元配置分散分析を用いた。全て有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には口頭ならびに書面にて本研究の趣旨を説明し,研究参加の同意書に署名を得た。【結果】股外転筋力のトルク体重比は,患側,健側それぞれ術前は0.70±0.26Nm/kg,0.93±0.27Nm/kg,術後3週は0.67±0.23Nm/kg,0.89±0.22Nm/kg,術後3か月は0.87±0.26Nm/kg,1.01±0.24Nm/kg,術後6か月は0.95±0.25Nm/kg,1.06±0.24Nm/kg,術後1年は1.04±0.28Nm/kg,1.10±0.29Nm/kgであった。股外転筋力の患健比は,術前は75±17%,術後3週は75±15%,術後3か月は86±16%,術後6か月は90±13%,術後1年は95±12%であった。膝伸展筋力のトルク体重比は,患側,健側それぞれ術前は1.07±0.39Nm/kg,1.42±0.44Nm/kg,術後3週は1.00±0.28Nm/kg,1.44±0.40Nm/kg,術後3か月は1.30±0.36Nm/kg,1.56±0.40Nm/kg,術後6か月は1.39±0.39Nm/kg,1.57±0.41Nm/kg,術後1年は1.48±0.40Nm/kg,1.62±0.41Nm/kgであった。膝伸展筋力の患健比は,術前は76±18%,術後3週は70±13%,術後3か月は84±15%,術後6か月は90±16%,術後1年は92±16%であった。Friedman検定の結果,両筋力ともにトルク体重比は測定時期によって有意な差がみられた(p<0.01)。多重比較検定の結果,患側のトルク体重比は術前と術後3週では有意な差は無く,術後3か月,6か月,1年では術前と比較して有意に高かった(p<0.05)。分散分析の結果,患健比の測定時期,筋力間の要因による交互作用はみられなかった。両筋力ともに測定時期間では患健比の有意な差がみられたが(p<0.01),両筋力間では患健比の有意な差はみられなかった。【考察】本研究の結果より,患側の股外転筋力と膝伸展筋力ともにTHA術後3週時には概ね術前の水準まで回復しており,術後3か月以降は術前と比べて有意に改善を示し,その後術後1年まで改善し続けることがわかった。また,患健比は両筋力ともに測定時期間での有意な改善はみられるが,術後1年間の推移については両筋力間に有意な差はみられなかった。先行研究では,THA術後早期において他の股関節周囲筋の筋力に比べて膝伸展筋力の回復が遅延することが報告されている。しかし,本研究により術後1年間においては股外転筋力と膝伸展筋力の回復には差がないことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,THA後1年間の股外転筋力と膝伸展筋力の推移の参考値の1つとなり,THA術前後のリハビリテーションにおいて意義があると考える。
  • 柳川 竜一, 角谷 一徳, 都丸 哲也
    セッションID: 0528
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】慢性期患者においては一般的に身体機能や日常生活活動(以下ADL)能力は維持又は低下すると言われているが,中には向上するという報告もされている。よって,慢性期患者においても定期的に身体機能の評価を行うことは重要であると考える。しかし,臨床場面において療養病院や特別養護老人ホームといった施設に入院されている慢性期患者(以下療養患者)では,認知面や覚醒の問題によって,身体機能の評価を正確に行えないことが多い。そこで,認知面などの影響を受けずに行える身体機能の評価が必要であると考える。身体機能のひとつである筋力や骨格筋量を簡便に評価する方法としては周径の評価が挙げられる。その中で下腿周径は,筋力や栄養状態を反映することやADLと相関関係が認められることが報告されている。しかし,先行研究では健康な高齢者,又は健常成人を対象としていることが多く,療養患者を対象として下腿周径とADLや身体機能との関係性を検討している報告はわずかである。中でも療養患者の移乗動作に関する報告や,下腿周径とADLの経時的変化を検討している報告は少ない。今回我々は介護療養病棟に入院している療養患者に対し,下腿周径と移乗動作能力の経時的変化を評価し,この2つの変化量の関係性を比較,検討した。【対象と方法】対象は平成23年12月から平成25年4月までに介護療養病棟に転院又は転棟された患者の中で,明らかな浮腫を認めた患者と移乗動作が全介助又は自立の患者を除き,初回測定から6ヶ月後の下腿周径に変化があった患者32名(男性13名,女性19名,平均年齢86.0±7.4歳)とした。測定項目は下腿周径を計測し,移乗動作能力はFIMの車いす移乗項目を用いて,それぞれの初回測定と6ヶ月後の変化量を比較した。下腿周径では,左右の下肢を比較し,主として使用している側の下腿最大周径を計測した。なお,研究を行うにあたり下腿周径の計測の信頼性を評価するため,検者内級内相関係数(以下ICC)を求めた。統計学的解析ではSPSS ver15.0を使用。下腿周径の変化量と移乗動作の点数の変化量についてはSpearmanの順位相関係数で比較検討し,危険率5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮,説明と同意】当院,永生病院倫理委員会の承認を得て実施した。また,御本人又は御家族に対し倫理的配慮について文章または口頭にて説明し,了承が得られた者に対し測定を行った。【結果】初回測定と6ヶ月後の下腿周径の変化量と移乗動作能力の変化量の相関を求めた。結果,2つの変化量の順位相関係数はrs=0.865となり,強い相関が認められた。また,ICCは0.982となり優秀な相関を認めた。【考察】本研究の結果より,下腿周径の変化量と移乗動作能力の変化量に強い相関が認められた。このことから,下腿周径が大きくなると移乗動作能力も向上し,下腿周径が小さくなると移乗動作能力も低下するということが分かった。先行研究において下腿周径と筋力や骨格筋量の関係性についても報告されている。つまり,下腿周径の変化はこれらの変化によるものであると考えられる。移乗動作は立ち上がり,立位保持,方向転換,着座の動作を要する動きである。立ち上がり動作から立位保持においては足関節底屈筋群も膝関節伸展を作り出すのに関与していると言われており,着座動作では前脛骨筋の働きも関与すると報告されている。つまり,移乗動作は下腿の筋力も必要とする動作であると言える。以上のことから,下腿周径の変化量と移乗動作能力の変化量に関係性があったと推察される。療養患者は認知面の影響により指示が入りにくいことや,覚醒に変動があることなどにより協力動作が得られない患者が少なくない。したがって,客観的な身体機能評価を正確に行うことが難しい患者も多い。そんな中で,本研究で下腿周径と移乗動作能力の変化量に相関が認められたことは,下腿周径の評価により認知面の影響を受けずに,移乗動作能力の変化を客観的かつ簡便に評価できるひとつの指標として活用できる可能性を示したと考える。【理学療法学研究としての意義】今回の結果,下腿周径の変化量と移乗動作能力の変化量に相関があることが示唆された。このことから,移乗動作能力が変化した際,下腿周径の変化が身体機能の評価のひとつとして使用できる可能性を示せたと考える。今後は下腿周径が変化した要因を検討するとともに,測定患者数の増加と,その他の周径やADL能力との関連性も検討し,療養患者におけるより簡便な身体機能評価を確立していく必要があると考える。
  • 角谷 一徳, 柳川 竜一, 都丸 哲也
    セッションID: 0529
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】高齢者に対しては身体計測と日常生活動作(以下;ADL)との関係はしばしば検討されている。身体計測は上肢もしくは下肢での周径を利用し,筋肉量や筋力を含めADLとの関係が報告されている。また,近年上腕および下腿周径を用いて栄養状態との関係も報告されている。しかし,病院を含めた施設等での療養生活を送っている患者については,身体計測とADLとの関係は十分明らかにされていない。一般的に,上腕と下腿では筋肉量・骨格の違いからも下腿での周径が大きいことがわかっているが,病院を含めた施設等での療養生活を送っている患者では,上腕と下腿における周径の差(以下;周径差)に一定の変化が起こると予測された。そこで,本研究では療養病棟入院患者を対象に身体計測を行い,ADLに含まれる基本動作能力(以下;基本動作)に着目し,身体計測と基本動作との関係を検討した。【対象と方法】対象は,70歳以上の療養病棟入院患者60名(男性25名,女性35名,平均年齢85.8±8歳,平均入院日数508±328日)。身体計測は,上腕および下腿周径とし同側上下肢で計測が行える患者とした。また,明らかな麻痺のある側での測定は行わなかった。計測は,上腕周径(以下;上腕)を上腕膨隆部位,下腿周径(以下;下腿)を下腿膨隆部位にてその最大周径を測定した。測定した計測値は,上腕と下腿との周径差を算出し,評価した。基本動作は,3群に分類した。1群は,立ち上がり動作で下肢支持がわずかにでも行えない群を立位不可群(以下;立位不可)。2群は,立ち上がり動作で下肢支持がわずかにでも行える群を立位可群(以下;立位可)。3群は,介助量を問わず歩行ができる群(以下;歩行可)とした。基本動作で3群間に分類し,上腕と下腿の周径差から算出した測定値との比較を一元配置の分散分析を行い,比較検討した。なお,統計学的処理はSPSSver16を使用し,有意水準は危険率1%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】当院,永生病院倫理委員会の承認を得て実施した。対象者(家族含む)に倫理的配慮について文書および口頭にて説明し,研究参加の同意を得た。【結果】身体計測の上腕と下腿の周径差の平均値は,3群でそれぞれ立位不可1.5±1.2cm,立位可4.1±1.3cm,歩行可6.4±1.8cmであった。身体計測の上腕と下腿の周径差と3群に分類した基本動作において有意差を認めた(p<0.001)。結果,上腕と下腿の周径差が基本動作に関係していることが示唆された。【考察】本研究においては,療養病棟入院患者の身体計測での上腕と下腿の周径差が基本動作能力に関係していることが示唆された。このことにより,上腕および下腿の身体計測により,簡易的に基本動作能力を予測できると考えられた。本研究の対象は,平均年齢85歳,平均入院日数1年~1年半と長期療養生活を送っている高齢患者であることもあり,上下肢の周径に与える影響は,廃用症候群の進行の有無が関係していることも考えられた。立位可群と歩行可群では,上腕と下腿の周径差が保たれていた。立ち上がりや歩行における下肢での支持が下肢筋力の維持として働き,下腿周径が保たれたと考えられる。しかし,上腕と下腿では筋肉量・骨格の違いからも下腿での周径が大きいことがわかっている中,立位不可群では上腕と下腿の周径差がほとんどなくなっていた。それは,長期療養生活において廃用症候群が進行し,下腿の筋肉量の低下よりも上腕の筋肉量の低下の進行が少なく周径差に影響がみられないことも示唆された。今後は,長期療養生活高齢患者による廃用症候群が,上腕および下腿の周径にどのくらい影響するのか,明らかにしていきたい。【理学療法学研究としての意義】上腕と下腿の周径差が基本動作能力に関係していることが示唆されたことは,同部の周径の計測が簡易的に基本動作能力を予測する一指標となる点で理学療法研究として意義があると考えられる。
  • 短期間の術前リハビリ科入院による心肺機能強化運動の導入
    原田 健史, 井手 克己, 上西 啓裕, 小池 有美, 川西 誠, 中川 雅文, 中村 健, 佐々木 裕介, 坂野 元彦, 山上 裕機, 田 ...
    セッションID: 0530
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】日本では年間約40万件もの消化器外科手術が行われている。そのうち9~40%は無気肺,術後肺炎,肺水腫,急性呼吸不全といった術後肺合併症(Postoperative pulmonary compulications:PPCs)を併発すると報告されている。PPCsは病院滞在期間,他の術後合併症罹患率,死亡率を増加させ患者のADLおよびQOLを大幅に低下させる。手術手技の進歩や術後栄養管理等の発達によりPPCs発生頻度は減ってきているが,その反面で高齢者や全身状態不良者等に対する手術件数の割合が年々増えてきている。近年,術前の最高酸素摂取量(Peak VO2)を増加させることはPPCs発生の低下に関連すると報告されており,周術期の心肺機能強化運動(Cardiopulmonary fitness:CPF)が推奨されている。当院では2013年1月よりPPCs発生リスクの高い患者を,外科入院前にリハビリテーション科に1週間入院させCPFを施行するといった取り組みを行っている。今回,当院の通常の周術期リハビリ(外来紹介時に行うオリエンテーション,外科入院時から開始するCPFと筋力増強運動,術後翌日からの椅子座位と歩行訓練)に加え,手術待機期間を利用した短期間の周術期入院リハビリを行うという取り組みが,PPCs発生リスクが高い患者に対しPeak VO2を増加させ,PPCs発症予防に関与するか検討することを目的とした。【方法】対象は2013年1月から2013年11月までの期間に当院消化器外科で全身麻酔下での手術予定の12名(男性8名,女性4名,平均年齢81±6.4歳)とし,対象者全員が術前の呼吸不全リスク指数(Respiratory failure risk index:RFRI)がclass3以上で,PPCs発症率が高いと主治医により判断され今回の試行に参加している。測定項目は①体重②Peak VO2③肺機能(%VC,FEV1.0%)④6分間歩行試験で,リハビリ科入院時と退院時に測定し,術後PPCs発症の有無,術後在院日数,転帰について調査した。Peak VO2は呼気ガス分析装置を用いて,米国胸部学会(ATS)のガイドラインを基にランプ負荷法を実施し算出している。CPFは米国スポーツ医学会(ACSM)が推奨している有酸素運動を基に,リハビリ科入院時にCPET後,60~70%Peak VO2の運動強度で自転車エルゴメーターを毎分50~60回転で連続30分以上,午前と午後の1日2回施行した。統計学的検討はpaired t-testを用いリハビリ科入院時と退院時の値を比較し,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者全員に口頭および文章にて本研究に対するインフォームド・コンセントを行い,署名と同意を得ている。本研究は,当院倫理委員会の承認を得て実施している。【結果】リハビリ科入院時と比較し退院時の体重(57.3±7.9kg vs 55.5±7.3kg;p<0.05)は有意に低下し,Peak VO2(16.5±3.1ml/kg/min vs 18.0±3.6ml/kg/min;p<0.05)と6分間歩行距離(342±94m vs 404±101m;p<0.05)は有意に増加した。しかし%VC(74.0±5.1% vs 74.1±7.7%;p=0.97)およびFEV1.0%(90.0±9.2% vs 91.1±11.0%;p=0.37)は有意差を認めなかった。術後平均在院日数は13.1±7.3日で,術翌日に全ての対象者が歩行訓練を実施し,PPCsの発生0名,自立歩行で自宅退院となった。なお,同時期に通常の周術期リハビリを行った患者86名の術後平均在院日数は14.3±8.0日で無気肺1名,肺炎1名のPPCsを認めた(2名ともRFRI class2以下)。【考察】PPCs発生リスクが高い患者に対し,1週間という短期間であっても術前にCPFを科学的根拠に基づき実施することで,Peak VO2を増加させることが可能であり,PPCs発生の低下に関与する可能性を認めた。悪性腫瘍の場合,疾病の進行が懸念され,より早期に手術に臨むことが望ましいとされている。短期間にPPCs発生予防に効果のある介入をすることが,PPCs発生リスクの高い癌患者に対しての周術期リハビリテーションで最も重要であり,今回の我々の検討においてそれが可能であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】DPC制度の導入や手術対象者が増加した現在では,経営や病床管理上の都合により外科入院日が手術日の数日前になることも多いため,今回の我々の試行は特定機能病院において特に有意義なものであると考える。また,疾病予防といった観点からみても理学療法の有用性について意義があるものと考える。
  • 運動習慣の有無からの検討
    神崎 かおり, 大谷 直寛, 乾 純子
    セッションID: 0531
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】現在,外科の周術期において早期離床が様々な合併症や二次的障害の予防に繋がるという報告は多く,実践されている施設が多い。また,大腸がんの術式は腹腔鏡下手術が施行され,低侵襲で術後の疼痛が軽く,早期の離床が実現されている。しかし,低侵襲で術後の疼痛が軽いといわれる腹腔鏡下手術施行前後におけるがん患者の運動耐容能についての報告は少ないのが現状である。また,三村氏は,加齢に伴い体力は低下する傾向を示し,運動習慣が体力の維持・向上および良好な生活習慣の獲得に影響を及ぼすことを報告している。今回我々は,大腸がんにて腹腔鏡下手術を施行した患者の手術前後の運動機能及び運動習慣について調査し,理学療法の必要性について検討したので報告する。【方法】対象は2012年5月から2013年3月までに当院にて大腸がんと診断され腹腔鏡下外科手術を施行し,既往歴に呼吸器疾患や心疾患が無い54名(平均年齢67.5±9.1),男性24名(平均年齢66.2±9.2),女性30名(平均年齢68.5±9.0歳)とした。また,術前ADLがBarthel lndex100点でかつ運動機能障害や認知機能障害が認められないものとした。対象者54名の運動機能指標は6分間歩行距離(6-minute walk test;6MWT)を使用し運動耐容能の評価とした。54名のうち,週2回以上,30分以上の運動を1年以上継続している者を運動習慣があるA群28名とし,それ以外の者を運動習慣がないB群26名とした。今回,術前及びリハビリ終了時の6MWT歩行距離を比較・検討した。なお,統計はウィルコクスンの符号付き順位検定を用い有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究を行う上で対象患者に対して説明し同意を得た上で実施した。【結果】リハビリ施行日数についてA群及びB群は有意差を認めなかった(リハビリ施行日数7.1±2.2日)。6MWTの歩行距離はA群(術前423.8±65.1m,終了時366.1±63.9m)及びB群(術前356.2±75.6m,終了時317.3±95.3m)であった。6MWTは術前A群と術前B群に有意差を認め,術後A群と術後B群も有意差を認めた。また,A群及びB群それぞれの術前後6MWTに有意差を認めた(P<0.05)。【考察】今回,A群とB群の術前歩行能力及び術後歩行能力に有意差を認めたことから,運動習慣のあるものは運動習慣のないものと比較し手術前後ともに運動耐容能が高いと考える。茨城県健康科学センターの調査・報告によると,運動習慣のある者は運動習慣のないものに比べ,体力的に優れ日常生活の活動能力が高いと報告している。しかし,A群及びB群ともに術前後の6MWTに有意差を認め,理学療法終了時は術前歩行能力に達していないことから,運動習慣の有無に関わらず運動耐容能は低下すると考える。また,術後A群と術後B群の平均歩行距離は2群ともに400m未満であった。6MWTにおいて400m未満の者は屋内歩行の自立を意味し,400m以上が屋外歩行自立の目安となる。今回の結果,2群において理学療法終了時の歩行能力は屋外等での実用的な活動量を得られているとは言い難いが,術後A群は術前B群と比較し平均歩行距離は良好であり,運動習慣により運動耐容能を高く維持することが出来たと考える。これらから,術前から運動習慣があることは重要であると考える。しかし,患者は退院後に通院にて化学療法等を受ける療養者となり治療により更に体力低下を招く恐れがある。よって,低侵襲である腹腔鏡下手術後でも,運動習慣や手術侵襲を問わず,早期から術後及び退院後の体力低下を視野に入れた理学療法の実施が重要であると考える。また,大腸がんにて腹腔鏡下手術を施行した患者の入院期間は短いことから,どのような理学療法及び退院時指導を実施するかが今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】外科周術期患者に対し理学療法の介入及び退院時指導を実施することは機能低下予防及び改善の為に重要であり,本研究は外科周術期患者の理学療法介入の際の一助となると考える。
  • ―周術期運動機能変化および手術後Quality of Lifeとの関連性―
    原 毅, 佐野 充広, 四宮 美穂, 市村 駿介, 中野 徹, 松澤 克, 石井 貴弥, 松本 恭平, 吉田 智香子, 櫻井 愛子, 草野 ...
    セッションID: 0532
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】昨今がん生存者は,がん医療の発展により増加傾向にある。この変化に伴いわが国では,がん患者リハビリテーション(以下リハ)料が新設され,対象疾患の8項目中5項目が周術期がん患者に定めている。しかしリハ分野では,周術期がんリハ関連の報告が少なく,早急に検討すべき課題と考える。消化器がん患者の手術前の腹部骨格筋断面積(以下筋断面積)に着目した研究は,国外より報告されている。手術前筋断面積が少ない患者は,他の患者と比較して手術後合併症の発症リスクが高く,積極的治療後の高再発率,低生存率が明らかとなっている。リハ分野においても消化器がん患者の骨格筋量など体格は,臨床現場で手術後経過を推測する一指標として重要視しているが,双方の関連性など客観的に検討した報告はない。そこで本研究では,消化器がん患者の手術前筋断面積と周術期運動機能変化,手術後Quality of Life(以下QOL)の関連性について予備的に検討した。【方法】対象は,手術前運動機能および認知機能障害が認められず日常生活が自立し,手術後経過が良好で自宅退院された周術期消化器がん患者33例(男性20例,女性13例,平均年齢62.1±11.6歳)とした。対象者の手術部位は,胃9例,肝臓11例,膵臓1例,結腸7例,直腸5例であった。筋断面積計測には,手術前に主疾患の確定診断目的で撮影された腹部CT画像を使用した。腹部CT画像は,最も左右横突起がクリアに写るL3レベルの画像を採用した。筋断面積の計測には,ImageJ1.47を使用した。計測された筋断面積は,「筋断面積(mm2)/身長2(m2)」の式に挿入し,正規化した。運動機能評価には,6分間歩行距離(以下6MD)を使用した。6MDの測定動作は,対象者に勾配のない50mの歩行路を最大努力下で可能な限り往復することとした。検査者は,対象者の後方から歩行距離測定器(セキスイ樹脂,SDM-1)を用いて追跡し,歩行距離(m)を計測した。計測時期は,手術日より1日以上前の時期(以下手術前),手術後10前後経過した時期(以下術後10),手術後28日前後経過した時期(以下術後28)の3つの時期としたQOL評価には,Short-Form 36-Item Health Survey version 2のアキュート版(以下SF36)を使用した。SF36は,術後28の時期に自己記入式の質問用紙を対象者に記入してもらい,認定NPO法人健康評価研究機構iHope Internationalが推奨しているSF36v2TM日本語版スコアリングプログラムを使用して得点化した。QOL評価値には,算出された8つの下位尺度得点を採用した。統計学的処理では,まず反復測定一元配置分散分析と多重比較検定(Bonferroni法)を使用し,各計測時期間の6MDの差について比較した。手術前筋断面積と周術期運動機能変化の関係には,予め多重比較検定の結果より有意差が認められた計測時期間の6MDのみ「後計測時期の6MD/前計測時期の6MD×100%」の式に挿入して6MD変化比(%)を算出し,Pearsonの積率相関係数を用い,筋断面積と6MD変化比の相関を検討した。手術前筋断面積と手術後QOLの関係には,Spearman順位相関係数を用い,筋断面積と術後28の各下位尺度得点の相関を検討した。有意水準は,全て5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,国際医療福祉大学三田病院倫理委員会の承認を受けて実施した。【結果】6MDは,計測時期要因に有意な主効果が認められ,多重比較検定の結果より手術前と術後10(6MD変化比:89.4±15.4%),術後10と術後28(6MD変化比:111.9±19.2%)に有意差が認められた。また,筋断面積は,手術前と術後10の6MD変化比のみ有意な相関関係(r=0.350)が認められた。【考察】周術期消化器がん患者は,手術治療に伴い免疫機能が活性化し,エネルギー源として骨格筋内で蛋白異化が発生する。この蛋白異化は,手術侵襲の大きさと関連することが報告されている。本研究の対象者は,全例手術治療を受けており,手術後骨格筋に蛋白異化が発生することが推察され,手術後一時的な運動機能低下が起きた可能性がある 先行研究より手術前筋断面積は,周術期消化器がん患者の手術後合併症の発症リスクと関連することが報告され,手術侵襲に対する予備力の指標として可能性が示唆されている。本研究の結果より手術前筋断面積は,手術後一時的に起こる運動機能低下に対する予備力の指標としても関連する可能性が示唆される。一方で積極的治療を終えた消化器がん患者の自覚的健康感には,手術前筋断面積のみではなく他の要因が関連する可能性が示唆される。【理学療法学研究としての意義】消化器がん患者の手術前筋断面積は,周術期運動機能変化に関連することが明らかとなり,周術期がんリハ実施に際し把握すべき一情報と考える。今後は,さらに対象者増加,層別化し,より一層検討が必要と考える。
  • 小池 有美, 上野 雄太, 中川 雅文, 川西 誠, 上西 啓裕, 杉野 亮人, 松嶋 翔, 岩橋 誠, 津村 優子, 松下 有香子, 山上 ...
    セッションID: 0533
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】食道癌をはじめ消化器癌に対する内視鏡手術は近年急増し,術後患者への負担は軽減されつつある。しかし開胸および開腹を余儀なくされる切除術は侵襲が大きく,術後早期は創部痛や呼吸機能低下により離床が妨げられることが多い。また周術期の心肺機能強化トレーニングを怠ると,退院後の早期社会復帰やQOL低下が危惧される。今回,障害者スポーツで活躍中の選手が消化器癌を罹患し,開腹切除術後再び全国トップクラスへの復帰に成功した。この2症例について検証し復帰する際に留意した点について報告する。【対象】当院で消化器癌切除術を施行され,周術期心肺機能強化トレーニングを実施した2例。いずれも術前5年以内に全国障害者スポーツ大会に出場し,術後も運動を継続して2年以内に同大会に選抜された。症例1は50代男性,胸部食道癌に対し内視鏡および開腹切除術を施行された投擲選手。障害は左足部の一部切断。術前大会参加時の体重は65Kgで,術後(復帰後)は53Kg。症例2は60代男性,肝臓癌に対し開腹切除(逆L字切開)術を施行されたフライングディスク選手。障害は左前腕切断。術前大会参加時の体重は72Kgで,術後(復帰後)は68Kgだった。【方法】術前および術後に,全国障害者スポーツ大会に出場した際の成績をそれぞれ比較した。また周術期リハ担当PTと全国障害者スポーツ大会参加時の帯同スタッフとで情報を共有した。心肺機能強化トレーニングについては,術前に50-70%HRR負荷で1日2回エアロバイクとハンドエルゴで30分以上の有酸素運動やスクワット等筋力トレーニングを実施した。術後は翌日から離床して歩行を開始し,1週間以内でリハ室でのトレーニングを再開している。【倫理的配慮,説明と同意】両例には競技成績と入院中の状況について報告することと,個人の特定を避けるために,参加日時や手術時期について公表しないことを説明し文書で同意を得た。周術期のトレーニングについては,本大学倫理審査会により承認されている研究の一環として行っている。【結果】2例とも術前と術後の大会参加では5および7歳加齢し,体重は2例とも低下を認めた。症例1はソフトボール投げでは,術前55mで全国1位,術後は52.04mで1位だった。ジャベリックスローでは,術前32.22mで1位,術後は33.76mで3位と順位はさがったが距離は延長していた。症例2はフライングディスク競技のディスタンスで,術前39mで1位,術後は26.63mで4位と距離および順位で低下を認めた。アキュラシーでは術前3位,術後は2位と順位は高位となった。【考察】障害者では健常者と比較し,日常的な活動量が少ないことが知られている。また癌患者でも,告知後の抑うつ状態や創部痛,低栄養等により易疲労が危惧される。今回2例とも周術期の運動と早期離床,早期スポーツ復帰を実践し,今もなおパフォーマンス維持向上が出来ている。症例1は消化の良い食事を少量で回数多くとるようこころがけ,大会参加中も脱水予防と体重や排便状況について確認を行った。また脊柱や肩甲帯の柔軟性を高めるためセルフストレッチを説明し,術前のフォームに近づけるよう指導したことが結果につながったと考える。症例2にもセルフストレッチや鏡での姿勢確認を指導した。また倦怠感やむくみの有無,食欲について確認し競技帯同スタッフは飲酒を控えた。結果は,正確性が求められるアキュラシーでは順位が上昇したが遠投では距離が低下した。L字切除は縦横に切開創があり,術後は脊柱伸展や回旋時に創部痛が出現し,術後の動作や姿勢に影響を及ぼすことがある。フライングディスク遠投は脊柱の可動性が重要な役割を果たすため,距離低下に至ったと考える。【理学療法学研究としての意義】障害をもつ癌患者であっても周術期に運動を行い臓器特有の術後対応を行えば安全なスポーツ復帰可能で,継続によりパフォーマンスを維持向上できることが証明された。本報告は,普段からか活動量が低下しがちな障害者や癌患者への,スポーツ奨励の励みになると考える。
  • 水野 陽太, 伊藤 理, 麻生 裕紀, 永谷 元基, 井上 貴行, 高木 優衣, 小原 雄斗, 兒玉 奈菜恵, 西田 佳弘, 長谷川 好規
    セッションID: 0534
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】肝移植は末期肝不全患者に対する治療手段の一つである。肝移植レシピエントの特徴として,重度の肝障害に伴う低栄養,胸腹水,筋力低下,高アンモニア血症に伴う意識障害などが挙げられる。さらに,移植待機期間が長期にわたる場合もあり,これらの結果生じる肝移植術前のディコンディショニングから不活動状態に陥り,術後の早期離床が困難となる。また,肝移植手術は侵襲度が高いことから,肺炎など術後合併症を併発するリスクが高く,離床のさらなる長期化につながりうる。肝移植周術期における理学療法は,術後の早期離床を促し,呼吸器合併症を減少させる効果を期待される。さらに,術前から理学療法介入を行うことで,身体機能を維持し,術後離床の促進につながる可能性も期待される。本研究では,当院における肝移植レシピエントに対する理学療法介入状況と術後経過について検討した。【方法】2012年4月から2013年9月までに当院において肝移植手術を施行され,理学療法が処方された成人17例(男性9,女性8例,平均年齢45.4歳)の臨床情報をカルテより後方視的に調査した。入院後,術前から処方のあった症例に対する理学療法として,オリエンテーション,呼吸・排痰法指導,ADL指導,歩行練習を行った。術前および術後からの処方例ともに術後は可及的早期に離床を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を得た上で行った。【結果】移植術前の肝障害重症度MELD scoreは平均21.3(7-47)点であった。生体肝移植は13例であり,そのうち術前から理学療法介入が行われていたのは10例であった。脳死肝移植は4例で全例術後からの介入であった。術前に独歩自立していたのは11例(術前理学療法6例)で,修正自立やベッド上安静が6例(術前理学療法4例)であった。術後理学療法開始までの期間は平均3.3(1-13)日,術後歩行練習開始までは平均16.3(2-84)日,術後在院日数は平均60.8(30-204)日であった。移植前独歩可能群(11例)において修正自立またはベッド上安静群(6例)より術後歩行練習開始までの期間が短くなる傾向が見られたものの,統計学的には有意ではなかった(p=0.085)。術後歩行練習開始までの期間と有意な正の相関を示した項目は手術時間,術中出血量,挿管日数,ICU滞在日数,術後在院日数であった。4例(23.5%)で術後肺炎を発症した。6例に術後歩行練習開始までに10日以上の遅延が認められ,その要因には術前歩行手段が修正自立以下(4例),術後肺炎(3例),急性拒絶反応によるショック(1例)が含まれた。転帰は全例生存で,自宅退院14例,転医3例,転帰時の移動能力は独歩14例,修正自立2例,車椅子1例であった。【考察】術前に独歩可能であった症例では,移動能力が修正自立またはベッド上安静であった症例に比べ術後の歩行練習開始が早い傾向がみられた。すなわち,術前移動能力が術後離床の重要な要素であると推測され,今後生体肝移植については,積極的に術前介入を行っていく必要がある。また術後肺炎を発症した4例中3例において歩行開始が遅延しており,うち2例が術後全身状態不良のため術直後から理学療法を開始できていなかった。ICU滞在日数も長期化しており,ベッド上安静を余儀なくされ,離床不可能な状態であったと推測される。離床が行えないような状態にある時期においては,コンディショニングを中心とした呼吸理学療法が術後呼吸器合併症の発生予防に重要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】肝移植の周術期理学療法介入の効果は十分明らかにされておらず,諸外国における報告は散見されるものの,歩行開始時期,在院日数などは社会的背景などの違いにより,一概には比較できない。本研究で現在の介入状況と術後の経過を把握することは,本邦における肝移植レシピエントの理学療法プログラムを立案する上での有用な情報になりうると期待される。
  • 河邉 真如, 秋吉 直樹, 山下 剛司
    セッションID: 0535
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】腹横筋は体幹の深部に位置し,腹圧のコントロールに関与するとされている。尿失禁患者や出産経験のある女性は腹横筋や骨盤底筋の機能低下から失禁や臓器脱,腰痛を起こしやすいとされている。腹横筋の促通を行う場合,呼吸を通したアプローチが多いが呼吸時に胸郭の可動性が乏しい患者を目にする。腹横筋が付着するとされる下位胸郭の可動性が低い場合だけでなく,上位胸郭の可動性が低下している場合でも腹横筋の収縮が乏しいことを経験する。先行研究では,腹部・骨盤への口頭指示の違いによる腹横筋の活動が変化することや腹横筋の促通で体幹可動性が向上すると報告されているが,胸郭の可動性と腹横筋の機能については報告されていない。本研究は,胸郭高位の拡張差の違いが腹横筋の収縮と関連があるか調べることを目的とする。【方法】対象は健常成人女性10名(平均年齢35.5±14.21歳)。計測肢位は全て膝関節90度屈曲位の背臥位とした。計測する胸郭高位は腋窩高(以下,上位胸郭)・第10肋骨高(以下,下位胸郭)とした。各レベルで最大吸気・最大呼気の胸郭周径をテープメジャーで3回計測し,平均値を算出した。超音波(SIEMENS社製)にて腹横筋を撮影し,最大吸気時と最大呼気時の腹横筋厚を比較した。腹横筋の測定位置は布施らの方法を参考に,上前腸骨棘と上後腸骨棘間の上前腸骨棘側1/3の点を通り,床と平行な直線上で,肋骨下縁と腸骨稜間の中点とした。統計処理はR(Ver.1.4-8)を使用し,超音波測定の検者内信頼性は級内相関係数(ICC)を算出し,上位胸郭と下位胸郭の拡張差と腹横筋厚の関係はピアソンの積率相関係数を算出した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究にあたり,医療法人社団淳英会倫理委員の承認を得た。また,被験者には本研究の目的・方法について十分に説明を行い同意を得た。【結果】超音波による腹横筋厚測定の検者内信頼性は級内相関係数(ICC(1.1))=0.94となった。最大吸気の値から最大呼気の値を引いた上位胸郭の拡張差は3.13±1.0cm,下位胸郭の拡張差は3.67±2.05cmとなった。上位胸郭・下位胸郭の拡張差と腹横筋厚の相関係数はr=0.65(p<0.05)となり,上位胸郭の可動性が低く下位胸郭の可動性が大きいほど腹横筋厚は増加しやすい結果となった。【考察】上位胸郭と下位胸郭の拡張差の違いと腹横筋厚に有意な相関が認められた。腹横筋は第7肋骨~第10肋骨に付着し肋骨を引き下げ呼気時に胸郭全体を下方へ運動させる。腹横筋は下位胸郭に付着を持つため上位胸郭の可動性が低下している場合でも腹横筋の収縮を十分に行うことができると考える。しかし,上位胸郭の可動性の減少は下位胸郭の体容積を増加させるとの報告があり,これにより胸郭の形状が変化し全体的な可動性の減少を起こすことが考えられる。胸郭の全体的な可動性の低下は腹横筋の収縮を制限すると考えられる。また,今回は女性のみの被験者であったため乳房や普段着用している下着の着用位置や締め付け具合なども影響することが考えられ,胸郭可動性だけでなく形状による評価も必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】今回,腹横筋の促通には下位胸郭の可動性が必要なことが示唆された。腹横筋の促通には腹部・骨盤への直接的な介入・運動療法だけでなく,胸郭の柔軟性や形状にも配慮した介入が必要と考える。女性は加齢によっても出産によっても体幹筋の機能低下は起こしやすく,骨盤・腹部への口頭指示や運動療法では腹横筋の促通を十分に誘導できないことは多々ある。今回の研究で胸郭の可動性を確保することで,腹横筋を促通しやすい身体環境に整えることが可能と考える。
  • 吉田 大輔, 島田 裕之, 朴 眩泰, 阿南 祐也, 伊藤 忠, 鈴木 隆雄
    セッションID: 0536
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】加齢に伴う骨格筋量ならびに筋力の低下(サルコペニア)は,高齢期の生活機能を低下させる危険因子であり,その早期発見と予防戦略の確立は重要な課題といえる。サルコペニアの発症機序はいまだ解明されていないが,骨格筋自体の変化だけでなく内分泌系因子の関与が指摘されている。なかでも,インスリン様成長因子I(Insulin-like growth factor I:IGF-I)は筋タンパク質の合成を促進するサイトカインの一種で,筋の再生・肥大にとって重要な役割を担う。過去の縦断研究では,血清IGF-Iがサルコペニアの予測因子となり得る可能性が示唆されており,IGF-Iはサルコペニアのハイリスク者を同定するバイオマーカーとして有効かもしれない。その一方で,IGF-Iの血中濃度は骨格筋量と同様に年齢や性別,人種によって大きく異なることが知られている。過去の知見が日本人高齢者に当てはまるか否か,現在のところ明らかではない。本研究では,日本人高齢者の血清IGF-I濃度と全身筋量を測定し,両者の関連性について検討した。【方法】65歳以上の地域在住高齢者251名(男性142名,女性109名;平均73.6±5.7歳)を対象として,二重エネルギーX線吸収法(DXA法)による身体組成の測定と採血を実施した。身体組成の測定にはQDR-4500A(Hologic社)を使用し,全身スキャンの結果は専用の解析ソフトウェア(ver. 9.03D)によって脂肪,除脂肪,骨組織に分類された。これら一連の測定・解析作業は,すべて熟練した同一の放射線技師が実施した。安静状態で採取された血液検体は遠心分離後に冷凍保存され,専用キット(IGF-I(ソマトメジC)IRMA「第一」)を用いた免疫放射定量法によって血清IGF-I濃度を測定した。血清IGF-I濃度と全身除脂肪量との関連性を検討するため,まずはPearsonの相関分析を行った。次に,従属変数に全身除脂肪量,独立変数に血清IGF-I濃度と調整因子(年齢,BMI,血清アルブミン値)を投入した重回帰分析(強制投入法)を行った。すべての統計解析は男女別に行い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理・利益相反委員会の承認とヘルシンキ宣言を遵守して実施した。また,対象者には書面と口頭にて研究の目的・趣旨を十分に説明し,研究に対する参加の同意を得た。【結果】単相関分析の結果,血清IGF-I濃度は男女とも年齢(男性:r=-0.37,女性:r=-0.34),血清アルブミン値(男性:r=0.23,女性:r=0.40)と有意に関連した。一方,全身除脂肪量(男性:r=0.38,女性:r=0.01)とBMI(男性:r=0.25,女性:r=-0.01)は,男性のみ血清IGF-I濃度との有意な正の相関を認めた。多変量解析の結果,男性では血清IGF-I濃度およびアルブミン値,年齢,BMIで全身除脂肪量の57%を説明でき,これらの変数で調整しても血清IGF-I濃度と全身除脂肪量との関連性は有意であった(β=0.15,p=0.02)。【考察】今回の結果は,年齢や体格,栄養状態の影響を除いてもIGF-Iが全身筋量に独立して関連する可能性を示唆しており,日本人高齢男性におけるサルコペニア対策を考えるうえで,IGF-Iのシグナル系統は重要な役割を果たすものと考える。その一方で,同じような関連性は高齢女性で認められなかった。高齢女性では炎症性サイトカインによるタンパク分解系統がサルコペニアの予測に有効との報告もある。骨格筋における肥大・委縮のメカニズムには,IGF-I以外にも複数の内分泌系因子が関与しており,今後はこれらの影響についても検討する必要があるだろう。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,サルコペニアの発症機序を理解するうえで有益な知見であり,その早期発見や予防戦略を考える際の重要な手がかりになり得る。我が国の理学療法士が介護予防事業の中心的な役割を担うためには,サルコペニアにおける日本人の特殊性や男女による病態の違いなどを理解する必要があり,今回の研究成果はその一助となるだろう。
  • 山科 吉弘, 青山 宏樹, 横山 久代, 田平 一行
    セッションID: 0537
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】高齢者の死因として肺炎は大きな割合を占めており,その原因の一つとして咳嗽能力の低下が指摘されている。咳嗽能力は呼吸筋力と相関があるとされ,健康増進において呼吸筋力の維持・向上は不可欠である。また,近年水中運動は水の性質(浮力,抵抗,水圧など)によって持久性や筋力の向上を促すことができることから,中高年者をはじめ各世代で健康増進の手段として注目されている。水中運動は,水の性質により吸気時には抵抗が加わり吸気筋力を増強させる有効な手段となる可能性が考えられるが,呼吸筋に対する影響についての報告はほとんどない。そこで,今回水位(腋窩レベル・臍レベル)の違いが吸気筋に与える影響について検討したので報告する。【方法】対象は,喫煙歴がなく呼吸・循環器疾患のない健常成人男性8名(年齢24.2±4.1歳,身長169.6±4.6cm,体重64.1±6.3Kg)とした。水槽はHOKKODENKI水中トレッドミルKRT-2500Pを使用し,水位は臍レベル・腋窩レベルの2条件に設定した。また水温は32±1℃とした。測定項目として吸気筋力(最大吸気圧;maximum inspiratory pressure;以下PImax)をチェスト社製スパイロメーターHI-801にて,下記プロトコールに従って測定した。尚,PImaxは各2回測定し最大値を採用した。プロトコール:両水位条件ともに,まず被験者は臍レベルの水位で安静椅座位10分後にPImaxを測定し,これを負荷前値とした。次に,各水位レベル(臍・腋窩)で安静椅座位5分後に負荷前値の30%負荷に設定した吸気負荷装置(Threshold IMT)を使用し,吸気負荷呼吸を1分間15回の頻度でメトロノームに合わせ15分間実施した。そして負荷呼吸終了直後のPImaxを両水位条件ともに臍レベルの水位にて計測した。尚,両水位条件は少なくても3日以上間隔をあけて実施した。統計学的処理:各水位条件における負荷前値および負荷呼吸終了直後のPImax,両水位条件間におけるPImax変化率を対応のあるt検定にて比較した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は大学倫理委員会の承認を得て実施した。尚,被験者には本研究の目的や方法,リスク等を口頭および書面にて十分に説明し,承諾を得た。【結果】PImaxは,負荷前値と比べて負荷呼吸後は両水位条件とも有意に低下(p<0.05)を示した。またPImax低下率は,臍レベル水位の方が腋窩レベルより有意に大きかった(臍レベル;4.1±3.3%,腋窩レベル;7.2±2.6%,p<0.05)。【考察】一般的に,水中では水深が増すことによって静水圧により胸郭が圧迫・圧縮され肺容量が減少するとされている。今回の結果よりPImaxは腋窩レベル水位の方が臍レベルと比べて有意に低下を示したことから,水圧の影響により圧迫された胸郭を広げるためには,吸気時にさらに筋力が必要となり,呼吸を繰り返すことで吸気筋により疲労を生じさせていると考えられた。これらのことから,横隔膜レベルより上位の水位における水中運動は吸気筋負荷を与え,吸気筋力を増強させる有効的な手段となり得ると考えられた。【理学療法学研究としての意義】水中における運動効果についての報告は多数認められているが,呼吸機能の中でも呼吸筋力に対する影響を調べたものは少ない。健康増進において中高齢者の水中運動がよく実施されているが,今回の研究から水中運動は吸気筋にも負荷を与えることが確認され,吸気筋力トレーニングの一手段となる可能性が示唆された。
  • 尾関 伸哉, 鳥居 昭久
    セッションID: 0538
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】動的バランスの評価の際の指標として多く用いられているFunctional Reach Test(FRT)は,必ずしも歩行能力や転倒予測の指標としては相関しておらず,むしろ側方へのリーチ距離が転倒予測やADL能力に関連しているとの報告がある。一般に高齢者や片麻痺などの障害者の転倒リスクとして側方や後方への転倒が危惧されることからも,側方リーチテスト(以下LRT)が動的バランスの評価としては有効であることが示唆される。しかし,LRTは測定時に肩関節を外転90°位にて行うため,片麻痺などの障害を有する症例の評価には不向きな部分がある。そこで今回,肩関節外転困難な症例を想定し,肩峰を測定指標としたLRTについて検討した。【方法】今回,健常な男子学生15名(年齢21.3±1.6歳,身長171.5±5.5cm)を対象とした。計測肢位は,対象者の足幅を肩幅(両肩峰間距離)にした立位とし,側方への最大リーチ距離を計測した。リーチ距離の測定指標は,通常のLRT同様に肩関節90°外転位にて実施した指尖(以下,指尖リーチ),上肢下垂位での肩峰(以下,肩峰リーチ)として,それぞれの指標の最大到達距離を計測した。測定には,三次元動作解析装置(ローカス3D MS-2000アニマ社)を使用し,2回動作練習を行ったあとに,3回の測定を実施,最大値を採用した。さらに,フォースプレート(MG-100アニマ社)にてリーチ動作中の側方への足圧中心移動距離(以下COP移動距離)を測定した。統計解析として肩峰と指尖でのリーチ距離とCOP移動距離との関連についてPearson相関係数を用いて検討した。全ての統計解析には改変Rコマンダーを用いて行い,本研究の統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究に先立ち,被検者には研究内容を説明し,その主旨の理解と同意を得られた上で実施した。また,愛知医療学院短期大学倫理委員会の承認を得て実施された。【結果】肩峰リーチ距離は右側19.2±2.7cm,左側16.9±1.9cm,指尖リーチ距離は右側20.3±3.3cm,左側19.7±1.9cmであった。肩峰COP移動距離は右側16.2±1.5cm,左側15.7±2.1cm,指尖COP移動距離は右側15.6±1.9cm,左側15.7±1.8cmという結果であった。肩峰リーチと指尖リーチのリーチ距離の相関では右側r=0.70,左側r=0.60であり左右とも相関がみられた。また,COP移動距離の結果においても右側r=0.52,左側r=0.78と左右のCOP移動距離ともに相関がみられた。また,リーチ距離,COP移動距離ともに左右差はみられなかった。【考察】今回の結果では,肩峰と指尖でのリーチ距離,COP移動距離との間に高い相関を得ることができた。また,Brauerは,側方リーチ距離は左右対称性を示すと報告しているが,肩峰を計測指標とした場合にも左右対称性が担保された結果であった。すなわち,LRTを実施するにあたり,その計測指標として指尖のかわりに,肩峰を計測指標にして,その最大到達距離から側方リーチの評価をすることができることが示唆された。このことは,例えば,片麻痺患者に対してLRTを実施する際に麻痺側のリーチ距離を肩峰のリーチ距離から推定することが可能であり,麻痺側方向への動的バランスを評価することができることを示唆している。今後の課題として,実際の片麻痺症例などの肩関節外転困難な症例に対して,この測定方法を実施し,障害の程度と側方リーチ距離の関係を,指尖,肩峰それぞれの計測指標を用いて検証し,より臨床的な有用性について明らかにしていく必要がある。【理学療法学研究としての意義】臨床においての様々な検査測定手技は,何らかの障害を想定して実施されなければならない。本研究は,動的バランスや転倒予測としての評価手段の一つとして有用とされているLRTを,上肢機能が障害されている場合を想定して実施する方法を検討し,その可能性を明らかにした。これにより,臨床において上肢障害を有する症例に対しての立位の動的バランスの評価や,転倒予測の一手段として応用できると考えられる。
  • 髙木 大輔, 西田 裕介
    セッションID: 0539
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】世界保健機関(WHO)によると,脳血管疾患の51%,虚血性心疾患の45%が高血圧に起因する。また安静時心拍数の増加は高血圧,心血管イベントの発症に関与する。したがって安静時血圧,心拍数に影響を与える因子を把握することは,脳心血管系疾患の発症を予防できる可能性がある。骨格筋の遅筋線維の割合と安静時血圧には有意な負の相関関係があり,また毛細血管数の減少が安静時血圧,心拍数を上昇させるとし,遅筋線維と毛細血管数の減少が安静時血圧,心拍数に影響を与えることが推測される。筋線維組成の判別や測定には筋生検法などが実施されるが,侵襲的かつ技術を伴うものであり,臨床現場での汎用性が低いのが現状である。下腿三頭筋は,腓腹筋とヒラメ筋から構成されており,ヒラメ筋の約90%は遅筋線維が占め,また遅筋線維の毛細血管数は,速筋に比べ多い。そこで我々の先行研究(2013)で下腿周径の増減が安静時脈拍数に影響を与えるかについて地域在住の高齢者19名を対象に予備研究を実施した。結果として下腿周径と安静時脈拍数には有意な負の相関関係を認めた。そこで今回対象者数を増やし,関連因子を考慮した解析も含め下腿周径の減少が安静時脈拍数を増加させるか再検討したため報告する。【方法】対象は,地域在住の高齢者63名とした(男性;20名,女性;43名,年齢;76±5.6歳,身長;149.6±8.1cm,体重;49.3±8.6kg,Body Mass Index;21.9±2.4kg/m2)。下腿部に骨折の既往がある,強い浮腫が存在する者は測定から除外した。下腿最大周径の測定は,西田ら(2010)によると,下腿長(腓骨頭下端から外果中央までの距離)を100%とした場合に,腓骨頭下端から26%部位が下腿の最大周囲径に相当すると報告されている。そこで腓骨頭下端から26%部位における周囲径をテープメジャーにより測定し下腿最大周径とした。測定肢位は,足底を接地した椅子座位で股関節,膝関節90°屈曲位,足関節底背屈0°とした。収縮期血圧,拡張期血圧は安静5分後,自動血圧計(HEM-907,オムロンヘルスケア)を用いて左上肢にて測定した。測定は2回とし,2回の平均値を用いた。収縮期血圧,拡張期血圧より平均血圧,脈圧も算出した。脈拍数については,左橈骨動脈にて徒手で1分間測定した。統計解析は,血圧(収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧,脈圧),脈拍数と下腿周径の関係性をPearsonの積率相関分析を用いて検討した。次に年齢,性別,身長,体重を調整変数とし重回帰分析(Stepwise Method)を実施した。有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には口頭および紙面で研究内容を十分に説明し,研究の同意を得た。【結果】下腿周径と収縮期血圧,拡張期血圧,平均血圧,脈圧には有意な相関関係が見られなかった(p>0.05)。一方で下腿周径と安静時脈拍数には有意な負の相関関係を認め(r=-0.33,p<0.05),下腿周径の減少は,安静時脈拍数を上昇させる結果となった。また重回帰分析(Stepwise Method)において年齢,性別,身長,体重で調整した後も,下腿周径は安静時脈拍数の独立した因子として抽出された(β=-0.33,95%CI;-2.885~-0.462,p<0.05)。【考察】今回,予備研究と同様に下腿周径と血圧には関連性を認めなかったが,下腿周径の減少は年齢,性別,体格で調整した後も,独立して安静時脈拍数の増加をもたらす因子であることが明らかになった。下腿三頭筋の筋量は,底屈筋群の約73%を占め,中でもヒラメ筋は底屈筋群の約41%に相当するため,下腿周径の測定がヒラメ筋量を反映する可能性が高いことが推測される。したがって,ヒラメ筋量が低下することで下腿周径が減少した結果,安静時脈拍数が増加したのではないかと考えられる。しかし本研究ではMRI,超音波によるヒラメ筋の横断面積や筋厚を測定していないため直接的なヒラメ筋の関与については言及できない。今後は安静時脈拍数に影響を与える要因について検討していく必要がある。下腿周径と血圧に関連性を認めなかった原因として,血圧は心拍出量と末梢血管抵抗の積で表され両者の変動により規定される。循環血液量,心拍数,心収縮力,血液の粘性,動脈壁の弾性などの影響を受けるため,脈拍数に対して多要因の影響を受け下腿周径と関連が見られなかったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】筋線維組成の測定は臨床現場で簡便に実施することは困難である。しかし下腿周径はテープメジャーにより非侵襲的かつ簡便に理学療法士でも測定できる。したがって下腿周径が安静時脈拍数の独立した影響因子であることを明らかにしたことで,臨床現場また地域支援事業における体力測定などでスクリーニング検査として実施でき,脳心血管系疾患の発症の予防に寄与できる可能性が示唆された。
  • 塙 美緒, 須永 康代
    セッションID: 0540
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】エストロゲンとプロゲステロンは卵胞形成や排卵などの月経に関与するだけでなく,自律神経系,筋骨格系,中枢神経系に影響するといわれている。姿勢保持能力は,視覚系,前庭系,固有感覚系の感覚情報を中枢神経系を経て筋に連絡することで成り立ち,静的バランス能力は月経周期の影響を受けると報告されている(林ら,2004)(Darlingtonら,2001)。動的バランス能力への影響を報告した研究は少なく,また外乱刺激への応答を調べた研究はみられない。一方,月経周期における運動選手のパフォーマンスや主観的コンディションの変化が複数報告されており,月経に伴う気分が競技記録に影響するとする報告もある。動的バランス能力は月経周期の影響を受ける可能性があるため,理学療法介入効果のためにも配慮すべき点である。本研究では主観的コンディションと動的バランス能力の月経周期に伴う変化およびその関係について明らかにすることを目的とした。【方法】対象は本研究に同意の得られた埼玉県立大学の女子学生で,月経周期の安定した(25~38日周期で変動6日以内,かつ正常持続日数3~7日)10名。いずれも避妊薬等の月経周期に影響の及ぶ服薬・治療を行っていない者であった。基礎体温の計測をもとに月経期・卵胞期・黄体期前半・黄体期後半の4つの時期にわけ,各時期に一回,動的バランス検査と,月経随伴症状のアセスメント用紙の記入をした。動的バランス検査にはEqui test system version7.0(Neuro Com社)を用い,sensory organization test(SOT),motor control test(MCT),adaptation test(ADT)を行った。月経随伴症状のアセスメントにはPMS(premenstrual syndrome)メモリー(月経研究会連絡協議会,1997)を用いた。統計処理はIBM SPSS statistics21を用いて,各スコアについて一元配置の反復測定による分散分析,またはFriedman検定を行い,有意差があったものについてTukey HSD法またはBonferroni法を用いて多重比較を行った。有意水準はすべて5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究内容について説明し同意を得た。また本研究は埼玉県立大学倫理委員会の承認を得て行った(25839号)。【結果】月経随伴症状はPMSメモリーの総合点において中央値にて月経期58点,卵胞期53.5点,黄体期前半54点,黄体期後半55点であり,卵胞期や黄体期前半と比べて月経期に有意に点数が高かった(p<0.05)。Eui testではSOTの開眼静止立位のみに有意差がみられ(p<0.05),平均値にて月経期95.2,卵胞期96.37,黄体期前半95.72,黄体期後半95.34であり,卵胞期と比べて月経期と黄体期後半のスコアが低かった。【考察】卵胞期や月経期前半と比べると月経期に主観的コンディションが下がることが分かった。Equit testではSOTの開眼静止立位のみに有意差が見られ,卵胞期と比べて月経期と黄体期後半に重心動揺が大きいことが分かった。動的バランス能力は月経周期の影響を受けず,静的バランス能力は影響を受けることが示唆された。これらの結果は先行研究と一致し,バランス能力の低下する時期も先行研究と一致した。閉眼静止立位では有意差が見られなかったことから視覚系への影響が考えられるが,原因は明確でなく,「眠くなる」「無気力」「気分が集中できない」などの主観的コンディションによって変化する可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】静的バランス能力は月経期と黄体期後半に低下する可能性があり,静的バランス評価の際に女性が対象の場合は時期を考慮する必要性が示唆された。また,主観的コンディションは月経期に低下し,理学療法効果に影響する可能性が考えられるため,本研究は理学療法研究としての意義がある。
  • 科学的根拠に基づく運動処方に向けて
    井澤 美保, 井澤 克也, 藤田 綾子, 大橋 聡子
    セッションID: 0541
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】妊婦スポーツは,気分転換・体力維持を目的に広く行われ,水泳・ウォーキングなどの全身運動が推奨されている。開始は妊娠12週以降,終了時期は定められていない。近年,QOL向上に対する有効性が報告され,周産期合併症のリスクが高い妊娠高血圧・肥満の予防・対策へも適応が拡大されてきている。しかし,妊婦スポーツの問題点として,流産・早産,胎児発育障害の危険性も指摘されている。各妊婦に応じた運動処方をするため運動負荷試験の実施が必要とされているが,現状,実施している施設はほとんどなく,科学的根拠のないまま妊婦スポーツが行われている。さらに,運動処方に関する報告もほとんどない。一方,内部障害領域では心肺運動試験(CPX)により測定される嫌気性代謝閾値(AT)を運動耐容能指標として運動処方に利用され,多くの施設で実施されている。今回,妊婦1名のATを妊娠中期から後期にCPXを実施し,妊婦への運動処方に関する知見を得たので報告する【方法】30歳代の女性,妊娠が正常,単児,胎児の発育に異常なし。また,既往に早産や反復する流産なし。妊娠28週・35週・39週にCPXを実施し,ATを測定した。実施にあたり,「妊婦スポーツの安全な管理基準」に準拠し,実施前に産婦人科医による妊婦・胎児の診察およびCPX実施の許可を得た。実施時間は子宮収縮出現頻度が少ないとされる午前11時から午後0時とした。CPXは,自転車エルゴメーターを用いて,安静3分間,ウォーミングアップ20W4分間の10W/minのRamp負荷で行い,呼気ガス代謝モニターCpex-1(インターリハ社製)にてBreath by Breath法によりATを測定した。安全を期するため許容運動強度を,母体脈拍数150bpm,自覚的運動強度「ややきつい」とした。さらに,測定中に腹部緊満感出現の有無を確認した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に従った。対象者に口頭および文章による十分な説明をし,同意を得て実施した。【結果】各時期とも運動終了は自覚的運動強度「ややきつい」であった。ATでの分時酸素摂取量・脈拍数は,妊娠28週で14.9ml/kg/watt・97beats/min,35週で13.2ml/kg/watt・106beats/min,39週で11.2ml/kg/watt・96beats/minであった。39週時においてのみ,測定終了時に腹部緊満感の出現を認めた。【考察】本研究の結果,妊娠28週・35週・39週と経過するにつれ,ATでの分時酸素摂取量が低下した。また,脈拍数は96beats/minから106beats/minであった。妊娠経過に伴いさまざまな身体変化が報告されている。その中には横隔膜の平底化,全血液量の増加,単位当たりの赤血球やヘモグロビン値の減少など,運動耐容能に影響する変化がある。現在,長時間の連続運動では母体心拍数135beats/min,自覚的運動強度「やや楽である」以下の運動強度が推奨されている。しかし,本研究の結果より,妊娠週数の経過ともに運動耐容能は低下する傾向を認め,徐々に負荷量を軽減する必要があると考えられた。つまり,一律の運動処方でなく,妊娠週数経過による身体変化に応じた運動処方・指導が必要であることが示唆された。今後,さらに対象を増やし,検討を重ねることが必要である。【理学療法学研究としての意義】正常妊婦および妊婦高血圧・妊婦糖尿病などの疾病管理において,科学的根拠に基づいた運動指導・運動処方が求められる。さらに,本研究の結果,妊娠週数や身体変化に対応することも重要と考えられた。今後,産科領域において,妊娠経過による多様な身体変化に対応した運動指導が必要であり,そのニーズに理学療法士の職能を活用することができると思われる。
  • ~直腸性便秘に着目して~
    国武 ひかり
    セッションID: 0542
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】大腸肛門病専門病院で理学療法にあたる私たちは,機能性便秘の治療に携わることが多い。機能性便秘は一般的に,弛緩性便秘,痙攣性便秘,直腸性便秘に分類される。その中で,直腸性便秘は腸管輸送能に問題がなく,直腸からの便排出が困難な状態を指し,主な症状としては,排便時の過剰な息みや残便感,用手的な排便促進等が伴うことが多いと言われている(以下,「便排出困難」とする)。その原因として,感覚障害や疼痛の他に,骨盤底筋の収縮や肛門括約筋の弛緩の協調障害,排出力の不足等が挙げられる。便意出現から便排出に至る過程は随意的な身体動作を含み,理学療法の対象となり得ると思われる。しかし,本邦での直腸性便秘に対する理学療法の取り組みは少ない。そこで健常者の便排出困難の発現頻度やその要因,排便に関連する症状を把握する必要性を感じ,今回,高齢者を中心にアンケート調査を実施したので報告する。【方法】対象は,平成24年12月から平成25年10月にK市近郊で行った地域での講演会に参加した40歳代~90歳代1300名(男性288名,女性1012名)。対象者は講演会に自立して参加できるため,今回,健常者と定義した。アンケートは過去の文献を参考に16問からなる無記名選択回答として,講演会終了後に回収し,便排出困難あり群となし群で各項目を比較検討した。【倫理的配慮,説明と同意】また,対象者にはアンケートの結果について情報を公開し,共有することを事前に伝え,了解を得ている。【結果】回収率81.6%。排便に関する症状を有している割合は全体の84%であった。便排出困難の出現頻度は69.9%であった(男性72.7%,女性69.4%)。排便に関連した病院受診歴は,便秘群31.2%,便失禁群15.1%,便排出困難あり群9.6%,便排出困難なし群5.6%であった。また,便失禁があると回答した対象者の75.5%に便排出困難を伴った。便排出困難あり群では,便排出困難なし群と比較して,残便感(P<0.0001)や用手的な排便促進(P<0.0001)以外にも,便秘(P<0.0001),排便頻度(P=0.007),便性(P<0.0001),排便に要する時間(P<0.0001),腹痛(P<0.0001),空振り(便意があってトイレに行くが便が排出されない状態)(P<0.0001)の8項目において有意差を認めた。しかし,年齢,性別,出産回数,体型,肛門の手術歴,トイレ様式,排便に関する受診歴や便失禁の有無の8項目においては,両群に有意差を認めなかった。【まとめ】今回の調査から,便排出困難あり群の受診歴は便秘や便失禁と比べ低く,また便失禁を伴う便排出困難も多くみられ,便排出困難という病態に関する情報を広く公開していく必要性を感じた。今後もアンケート調査を継続し,その結果をもとに,便排出困難という症状の理解や対処法を含めた,排便障害に関する啓発活動を継続していきたい。また,今回取り上げた便排出困難や直腸性便秘に対する理学療法が一般的な治療としてとらえれらるように,今後,介入の在り方等を更に検討し,排便障害に対する理学療法を確立していきたい。【理学療法学研究としての意義】
  • ~メンズヘルス,ウィメンズヘルスの必要性~
    松谷 綾子, 安村 明子, 青田 絵里, 山田 実
    セッションID: 0543
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】尿失禁は,尿意切迫感が主体の切迫性尿失禁と,膀胱支持組織の脆弱化などが主体の腹圧性尿失禁など原因別に分類される。また,尿道の長さ等の構造や妊娠出産時に骨盤底に負担がかかるという性差から,女性の尿失禁が問題とされやすい。しかしながら,前立腺肥大症を原因とする切迫性尿失禁は男性に多く生じることから,男女ともに対応する必要があると考えられる。尿失禁等の排尿トラブルは,周囲に相談することが少ないため早期治療の機会を逃しやすいと考えられる。そこで,本研究では地域高齢者の尿失禁に関する認知状況調査し,その結果から早期治療につなげるための方策を検討した。【方法】対象は,A町における体力測定会に参加した65歳以上の男女174名(男性:82名,女性:92名)とした。調査は2012年11月10日~11日に実施した。調査内容は,尿失禁に関する情報の入手状況,尿失禁治療の認知状況,治療の実施経験とした。さらに,尿失禁の保有状況にInternational Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form日本語版(以下,ICIQ-SF),尿失禁が生活に与える影響にはIncontinence Impact Questionnaire Short Form日本語版(以下,IIQ-7)を用いた。得られた結果は性別ごとに分析した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,甲南女子大学研究倫理委員会にて承認を受け実施した。対象者には書面および口頭にて説明し,同意を得られた上で調査を行った。【結果】対象者の平均年齢は男性73.9±4.6歳,女性73.5±4.2歳であった。体格は男女それぞれ身長162.5±5.7cm,149.7±4.8cm,体重61.5±9.3kg,51.3±6.8kg,BMI23.3±3.1,22.9±2.8であった。尿失禁に関する情報を聞いたことがある人は男性では全体の58.5%,女性では78.3%であり,情報の入手元は男女ともにマスコミ,尿失禁経験者の友人の順で多かった。尿失禁の治療法を聞いたことがある人は男性では全体の25.6%,女性では58.7%であった。治療内容の上位2項目は,男性では処方薬,市販薬,女性では骨盤底筋体操,処方薬であった。治療の実施経験のある人は,男性では全体の12.2%,女性40.2%であった。実施経験は男性では処方薬,骨盤底筋体操,女性では骨盤底筋体操,処方薬の順に多かった。尿失禁を有する人は,男性が全体の13.4%,女性は38.0%であった。尿失禁を呈する場面は,男性ではトイレに行く前,次いで理由不明であった。女性では咳・くしゃみ時,運動時の順で多かった。尿失禁を有する人において影響のある活動は,男性では緊張やうつ状態などの心理面や家事動作が多く,女性では身体的レクリエーション,家事動作,社会活動が多くなった。【考察】結果より地域高齢者は男女ともにマスコミから尿失禁に関する情報を得ていることが分かった。マスコミによる情報提供は,入手する人が受け身となることから周囲に相談することの少ない排尿トラブルを持つ人への情報提供には有用であると考えられる。また,尿失禁を経験した友人から情報を得ていることから,身近な経験者からの話を聞く機会を設けることは,受け入れやすく尿失禁を自分自身の健康問題として自覚する方策であると考えられる。知っている尿失禁の治療法は,男性では薬物治療,女性では骨盤底筋体操が多く性差が見られた。これは,男性では前立腺肥大症等による切迫性尿失禁,女性では骨盤底筋の弱化による腹圧性尿失禁が多いといった性別での特徴を反映していると考えられる。実施経験のある治療法は,男女ともに骨盤底筋体操が最も多かったことから,骨盤底筋体操は高齢者においても試みやすい治療法であることが示唆された。また,実際に尿失禁を自覚している人は,女性のみではなく男性にも存在することが明らかとなった。症状を呈する場面は男女で異なることから,性別に応じた尿失禁へのアプローチを用意することが必要であると考えられる。その一方で,男女共通して制限された活動は家事動作であったことから,性別に関わらず日常生活活動の維持に対するアプローチが必要であると考えられる。尿失禁と活動制限との関連は明らかにされておらず,今後尿失禁を有することによる身体運動能力への影響を明らかにすることが必要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,尿失禁に対して早期にかつ症状に合わせた情報提供や指導に寄与し,尿失禁による生活活動制限を予防し,健康な排尿機能の維持に寄与すると考えられる。
  • ~筋電図バイオフィードバックを用いた症例経験を通して~
    青田 絵里, 松谷 綾子, 西上 智彦, 辻下 守弘, 服部 耕治, 木村 俊夫
    セッションID: 0544
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】近年,尿失禁や便失禁症状に対する骨盤底筋トレーニングが症状の改善に効果的であることが知られるようになり注目を集めている。骨盤底筋はその解剖学的位置から収縮を目視出来ないという特徴があり,収縮のフィードバックが得られにくいことから腹筋群などの代償性収縮を伴いやすい。代償性収縮を防ぐための方法として,筋電図バイオフィードバック療法(以下,BF療法)があるが,本邦における実践報告は未だ少ないのが現状である。今回,骨盤底機能障害の症状を呈する2症例に対し,BF療法を用いて骨盤底筋トレーニングをおこなった。その結果,腹筋収縮と分離させた骨盤底筋の選択的収縮が症状の改善に有効であったので報告する。【介入】骨盤底筋と腹筋を選択的に収縮させることを第一目的として,筋電図バイオフィードバック機器(Myotrac3:Thought Technology社製)を用いトレーニングを行った。評価指標として骨盤底筋の最大収縮,10秒および20秒間の持続収縮を測定し,同時に腹筋筋電位も測定した。電極位置は,骨盤底筋はプローブ型電極を膣内に挿入し,腹筋は内外腹斜筋重層部とした。頻度は2週間に1回とし,併行して毎日の自宅トレーニングの指導もおこなった。【説明と同意】本研究は甲南女子大学倫理委員会において承認を得た上で,対象者に研究について口頭および書面にて説明を実施し,同意を得て実施した。【結果】症例A:膀胱瘤により骨盤内臓器脱術を受けた70歳女性。術後,下垂症状は改善したが,運動時にガス程度の便失禁を1日4~5回以上みとめ,約3.5ヵ月後よりBF療法を開始した。開始時の筋電図所見は,骨盤底筋の活動電位がとくに持続収縮時に低く,収縮を持続させることが困難で代償的に腹筋の活動電位が上昇する傾向がみられた。骨盤底筋および腹筋の活動電位は,骨盤底筋13.8μV,5.8μV(最大収縮時,持続収縮時),腹筋11.3μV(持続収縮時)であった。16セッション終了後,骨盤底筋および腹筋の活動電位は,骨盤底筋14.7μV,6.8μV(最大収縮時,持続収縮時),腹筋4.1μV(持続収縮時)となり,14セッション以降,完全に失禁症状が解消した。症例B:膀胱瘤および子宮脱により骨盤内臓器脱術を受けた66歳女性。術後,下垂症状は改善したが,1日数回の軽度の腹圧性尿失禁をみとめ,約3ヵ月後よりBF療法を開始した。開始時の筋電図所見は,骨盤底筋は最大収縮時に約20μVの強い筋収縮が可能であったが,単独での選択的収縮が困難であり,骨盤底筋の収縮と同時に腹筋の高い活動電位が観察された。また,腹筋は安静時にも高い筋活動量を示していた。骨盤底筋および腹筋の活動電位は,骨盤底筋18.9μV,10.5μV(最大収縮時,持続収縮時),腹筋13.2μV,25.6μV(安静時,持続収縮時)であった。8セッション終了後,失禁症状が1日0~1回に減少,1日10回以上であった排尿回数も7~8回程度に減少した。骨盤底筋および腹筋の活動電位は,骨盤底筋22.3μV,17.3μV(最大収縮時,持続収縮時),腹筋3.8μV,5.4μV(安静時,持続収縮時)となった。【考察】症例Aは骨盤底筋の活動電位が低い症例で,最終評価においてもその値に大きな変化は見られなかったが,代償的な腹筋活動の減少に伴って症状の改善が得られた。一方,症例Bでは骨盤底筋の活動電位自体は高く維持されていたが,同時に腹筋が収縮し尿失禁症状を呈していた。さらに,症例Bは安静時にも腹筋が高い活動電位を示したが,安静時および骨盤底筋収縮時における腹筋の筋活動を抑えることが可能となり,症状が改善されつつある。このことから,BF療法を用いた骨盤底筋トレーニングにおいて,骨盤底筋単独の筋収縮力増大ではなく,腹筋と分離した骨盤底筋の選択的収縮の習得が骨盤底機能障害の症状改善に有効であることを確認した。また,BF療法により両筋の収縮の様子を同時にフィードバックできたことも選択的収縮の習得に有効であったと考えられた。【理学療法研究としての意義】本研究の結果から,尿失禁などの骨盤底機能障害の治療には,骨盤底筋体操などのパンフレットを配布するのみではなく,理学療法士の積極的な関わりのもと,その収縮様式の確認が重要であることが示唆された。
  • ―習慣化を促すカレンダー表を用いた効果―
    森 明子, 稲葉 朗子, 野﨑 園子
    セッションID: 0545
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】加齢に伴う骨盤底筋群の筋力低下や肥満,出産などが原因で尿失禁を経験する女性は4割にものぼる。その治療法として骨盤底筋体操の有用性が国内・国外で報告されており,ガイドラインでは推奨される治療法の第一選択として位置づけている。骨盤底筋体操は患者自身が正しく理解し継続して実施することで初めて効果が期待できる。しかし,日常生活に無理なく骨盤底筋体操を取り入れて継続実施することは困難な場合が多くみられる。そこで我々は2年前より骨盤底筋体操を継続実施するための促通ツールとしてカレンダー表を用いた取り組みを実施している。本研究ではカレンダー表を用いることによる骨盤底筋体操の継続実施効果や尿失禁に対する不安変化について検討することを目的とした。【方法】対象は本大学地域連携実践センターが平成24・25年度に企画した「地域と大学が一丸となり健康問題について取り組む地域健康プロジェクト」に参加した16名のうち同意の得られた健常女性12名(平均年齢68.6±8.6歳)。このうち平成24年度参加の6名をグループA,平成25年度参加の6名をグループBとした。尿失禁に対して治療中の者,婦人科系の疾病の手術歴がある者は除外した。プロジェクト初回には①尿失禁について学ぶ②骨盤底筋体操について学ぶ③骨盤底筋体操の実技指導を行い,尿失禁や骨盤底筋体操の理解と習得をはかるプログラムを実施した。骨盤底筋体操は自宅で3か月間継続するよう指導し,初回より1カ月後にフォローアッププログラム,3か月後にプロジェクト終了時の追跡調査を実施した。骨盤底筋体操指導は,「失禁の症状にあわせた予防法」(平成17年日本理学療法士協会推奨)を参考にした。なお,プロジェクト内容はグループA,Bともに同様とし,骨盤底筋体操を継続実施するための促通ツールであるカレンダー表のみ,異なるタイプのものを使用した。グループAのカレンダー表は,体操が実施できた日には「○」,できなかった日には「×」をつけるように指導した。一方,グループBのカレンダー表は,10回を1セットとし,骨盤底筋体操を1セット実施するごとに1マスを塗りつぶすよう指導した。グループBのカレンダー表は骨盤底筋体操を実施したセット回数が増えるほど,塗りつぶすマスが積み上げていくようなものを使用した。調査項目は自宅での骨盤底筋体操の継続実施効果,尿失禁に対する10段階不安評価とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学の倫理審査委員会の承認を得て実施し(第12017号),対象者には文書および口頭で本研究の趣旨と目的等の説明を十分に行い,参加についての自由意思による文書同意を得た。【結果】尿失禁有りがグループAは2名,グループBは5名であった。また,BMIはグループAが22.0±1.8,グループBが22.4±2.6であった。骨盤底筋体操の継続実施状況はグループAでは「ほとんどできなかった」1名,「週1日」1名,「週2~3日」1名,「週3~4日」1名,「毎日」2名,と個人差がみられた。一方,グループBでは「週3~4日」1名,「週5~6日」2名,「毎日」3名となり,グループAと比べて骨盤底筋体操の継続実施効果が高い結果であった。尿失禁に対する10段階不安変化の3か月間の追跡調査では,初回プログラム実施時と3ヵ月後を比較すると,グループAでは1名のみ大きく不安が増加(6ポイント)し,グループBでは多くの対象者が尿失禁に対する不安は少なく安定した状態であった。【考察】グループAと比べてグループBにおいて,骨盤底筋体操の継続実施を促通する効果が得られ,尿失禁に対する不安も少なく,安定した結果となった。これは,グループAよりグループBで使用したカレンダー表のほうが,骨盤底筋体操の実施成果が視覚的にわかりやすく,結果的に骨盤底筋体操を継続実施するためのモチベーションアップに繋がったのではないかと考えられる。また,各日の骨盤実施状況が一目瞭然で把握することができ,前日以上に体操を実施しよう,などの実施回数の目標が立てやすく,自宅での骨盤底筋体操を後押ししたのではないかと考える。本プログラムにより尿失禁に対する正しい理解を深め,正しい体操の実施方法を習得したこと,また,促通ツールとしてカレンダー表を用いることで骨盤底筋体操を継続実施できたことが尿失禁に対する不安の軽減にも寄与したのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】骨盤底筋体操の継続実施を目標とした促通ツールとしてカレンダー表の工夫による効果を検証した。この結果は尿失禁に対する骨盤底筋体操継続実施を促通するために意義のあるツールであると考える。
  • 鈴木 加奈子, 塩島 直路
    セッションID: 0546
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】肩関節は胸郭上を浮遊する関節のため,その土台となる体幹の機能の影響を受けやすい。我々は先行研究において,上肢前方挙上時における体幹の動きは屈曲伸展運動のみならず,空間上における前後方向の動きが伴うこと,その動きが上肢挙上動作に影響を及ぼすことを報告した。先行研究では,坐位での上半身質量中心点が位置するとされている第9胸椎(Th9)高位での動きを検討してきたが,その他の部位でも上肢挙上動作に影響を及ぼす動きが生じている可能性がある。本研究では第1胸椎(Th1),第12胸椎(Th12)高位での動きを指標に加え,空間上での胸椎の動きが上肢前方挙上角度に及ぼす影響を検討することを目的とした。また,胸椎を3部位に分け,その角度変化と空間上での胸椎の動きとの関係について検討した。【方法】対象は健常成人14名(男性11名,女性3名,年齢:28.8±5.5歳)とした。測定肢位は自然坐位(坐位),坐位での両上肢最大前方挙上位(挙上位)の2肢位とした。被験者に自動で測定肢位を保持させ,スパイナルマウス(インデックス社製)を用いて第7頚椎から第3仙椎までの棘突起上をなぞり,胸椎彎曲角度{Th1と第2胸椎(Th2)間の角度から,第11胸椎(Th11)とTh12間の角度までの合計}を計測した。挙上位ではゴニオメータを用いて右上肢前方挙上角度(上腕骨と垂線とのなす角度)を計測した。計測した数値を基に,上位胸椎角度{Th1とTh2間の角度から,第4胸椎と第5胸椎(Th5)間の角度までの合計},中位胸椎角度(Th5と第6胸椎間の角度から,第8胸椎とTh9間の角度までの合計),下位胸椎角度(Th9と第10胸椎間の角度から,Th11とTh12間の角度の合計)を算出した。スパイナルマウスより出力された画像をパーソナルコンピュータに取り込み,画像解析ソフトScion imageを用いてTh1,Th9,Th12のx座標を計測した。x座標は後に実寸値(単位:cm)に換算した。得られたデータについて,挙上位での値から坐位での値を減じて変化量を算出し,胸椎の角度変化と空間上での移動量を求めた。数値が小さい程,胸椎角度は伸展が大きくなることを示し,x座標は前方への動きが大きくなることを示した。変化量について,上肢前方挙上角度とTh1,Th9,Th12のx座標,およびTh1,Th9,Th12のx座標と上位・中位・下位胸椎角度のPearsonの相関係数を算出し,各々の関係について検討した。なお,統計にはJSTATを用い,危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には事前に本研究の趣旨と内容,得られたデータは研究の目的以外に使用しないこと,プライバシーの保護には十分留意することを説明し,同意を得た。【結果】Th9x座標と上肢前方挙上角度の間に有意な比較的強い相関(r=-0.69,p<0.01)がみられ,Th9の前方への動きが大きくなるほど上肢前方挙上角度が大きくなった。また,中位胸椎角度とTh9x座標との間に有意な比較的強い相関(r=0.54,p<0.05)がみられ,中位胸椎の伸展が大きくなるほどTh9の前方への動きが大きくなった。上肢前方挙上角度とTh1x座標(r=-0.41)およびTh12x座標(r=-0.17)との間に有意な相関はみられなかった。【考察】Th9x座標と上肢前方挙上角度の間に有意な相関がみられ,Th9の前方への動きが大きくなるほど上肢前方挙上角度が増大することが示唆された。これにより,Th9の前方への動きの増大が上肢前方挙上角度の増大に関与する可能性が考えられる。また,中位胸椎角度とTh9x座標との間に有意な相関がみられ,Th9の前方への動きの増大には中位胸椎の伸展の増大が関与する可能性が考えられる。Th1およびTh12のx座標と上肢前方挙上角度との間に有意な相関はみられず,Th1およびTh12の空間上での動きと上肢前方挙上角度との関係は被験者により様々であり,Th1およびTh12の前方への動きが大きくても上肢前方挙上角度が小さくなる被験者,前方への動きが小さくても上肢前方挙上角度が大きくなる被験者など,一定の関連性がないことが考えられる。本研究の結果,Th9x座標のみに上肢前方挙上角度との間で有意な相関がみられたことから,上肢前方挙上の際には特にTh9の前方への動きが必要であることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】上肢前方挙上角度には特にTh9高位での動きが関係し,Th9高位での動きには中位胸椎の動きが関係することが示された。これらの動きが上肢前方挙上に対する評価,治療を行う際の着眼点になり得ることが示された。
  • 一瀬 裕介, 高澤 寛人, 野崎 陽平, 保坂 泰平, 成田 悠樹, 岡田 浩史, 久保 晃
    セッションID: 0547
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】頚部痛により頚部の運動制御方式に変化が起こり,頚部深層屈筋群の活動障害と同時に表層筋の活動が増加し,非運動時においてもこの状態が持続していると報告されている。頚部深層屈筋群の間接的テストとして,頭頚部屈曲テスト(Cranio-Cervical Flexion Test:以下CCFT)が開発され,その妥当性とトレーニング効果が実証されている。しかし,このテストの正確性のフィードバックは主観的評価に止まっており,リアルタイムに観察可能な超音波診断装置で表層筋と深層筋を同時にイメージングし,筋収縮時の形状変化を捉えることで臨床で活用できるものと思われる。超音波診断装置を用いた先行研究では,頚部痛群において頚部深層屈筋群である頚長筋の安静時の断面積が有意に小さく,その形状は平坦であることが示されているが,左右差や個体の属性との関連は明らかではない。またその評価は筋厚,断面積においてそれぞれ検証されており統一された方法はない。筋収縮時の形状変化を捉える前段階として,安静時の頚長筋の形状を筋厚,断面積の双方で評価し,その特性を検討することを本研究の目的とした。【方法】頚部の基礎疾患や頚部痛の既往のない健常成人男性10名(年齢:24.9±3.4歳,身長:176.3±5.6cm,体重:67.2±6.0kg)を対象とした。10名とも利き手は右側であった。測定はJavanshirらの方法に従い,被験者の後頭下にタオルを敷いて頭部がベッドより3~4cm高くなるようにした背臥位とし,甲状軟骨底部より2cm下方をランドマークに頚部長軸に対して垂直にプローブを当て,超音波診断装置(sonosite社)を用いて頚長筋,胸鎖乳突筋を静止画にてイメージングした。得られた画像を画像解析ソフトImage Jを用いて,頚長筋筋厚,筋幅,断面積,形状比(筋幅/筋厚),胸鎖乳突筋厚を測定した。胸鎖乳突筋厚は総頚動脈直上で測定した。また,腹臥位にてC6レベルの僧帽筋,頭板状筋の筋厚を測定した。属性項目は体組成(BMI,骨格筋量,体脂肪率),頚部周径とした。体組成の測定は,体組成計InBody(Biospace社)を用いた。頚部周径は超音波プローブと同じ高位でメジャーで測定した。得られた測定結果から,頚長筋の筋厚,筋幅,断面積,形状比の左右差をWilcoxonの符号付順位和検定を用いて比較した。またSpearmanの順位相関係数を用いて各測定結果の相関関係を解析した。統計処理はSPSS statistics 17.0を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】被験者には事前に書面と口頭にて研究の目的と方法,個人情報の取り扱い,危険性などについて説明し,同意書への署名を得た。本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】頚長筋の各パラメータの平均値は,筋厚(右:0.82±0.09cm,左:0.96±0.18cm),筋幅(右:1.81±0.21cm,左:1.93±0.27cm),断面積(右:1.16±0.25cm2,左:1.42±0.31cm2),形状比(右:2.23±0.29,左:2.11±0.29)であった。筋厚,断面積において有意な左右差が認められ(p<0.05),筋幅,形状比では有意差はみられなかった。相関分析では,左頚長筋の断面積は筋厚(r=0.93,p<0.01),筋幅(r=0.76,p<0.05)との間に有意な正の相関がみられた。その他の項目間では相関はみられなかった。【考察】本研究の結果,安静時の頚長筋筋厚と断面積において,左側で有意に高い値を示した。筋幅においては有意差は認められなかったが,やはり左側で大きい傾向にあった。これは本研究における10名の被験者は全て右利きであることから,利き手の影響が関与していると考えられる。上肢の運動時に頚長筋はフィードフォワード機構として活動することが先行研究により報告されており,右上肢の活動を姿勢保持筋である左頚長筋が有意に制御している可能性が示唆される。また頚長筋は両側の対称的な収縮により頚椎の前弯を立て直す機能があり,こうした左右差がCCFTでの筋収縮時にどのような影響を及ぼすかは,今後の研究課題である。左頚長筋において断面積と筋厚,筋幅との間に有意な正の相関がみられたことに対し,右頚長筋ではその傾向がみられなかった。これは利き手側における超音波診断装置を用いた頚長筋の観察では,筋厚の測定が筋の大きさを反映するものではない可能性を示している。筋収縮時の撮像においても断面積を測定することでより正確な評価が行えるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】超音波診断装置を用いて頚長筋の筋収縮時の変化を捉えた報告は徐々に増えているが,本邦では筋厚での報告が多い。本研究では頚長筋の断面積を測定し左右差を検証したことで,利き手の影響と断面積の測定が有用であることを提示できた。これは今後の研究と臨床応用の一助となるものと思われる。
  • 壬生 彰, 西上 智彦, 山本 昇吾, 梶原 沙央里, 岸下 修三, 松﨑 浩, 田辺 曉人
    セッションID: 0548
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,複合性局所疼痛症候群(Complex regional pain syndrome以下,CRPS),慢性非特異的腰痛(以下,Chronic non-specific low back pain以下,CNSLBP)及び変形性膝関節症において,身体イメージの異常や2点識別覚閾値(Two Point discrimination Threshold以下,TPD)の増加が報告されている。この身体イメージの異常やTPDの増加は痛みの慢性化に関与する中枢神経系の変化を示す重要な評価として認識されてきている。しかし,CRPSやCNSLBPなどと同様に中枢神経系が変化している可能性が指摘されている慢性非特異的頸部痛(Chronic non-specific neck pain以下,CNSNP)において,これまでに身体イメージやTPDの変化について十分に検討されていない。そこで,本研究ではCNSNP症例において頸部身体イメージの異常が存在するのかを健常者と比較し,さらに,身体イメージやTPDがどのような因子と関連するか検討した。【方法】対象は18歳以上75歳以下で,頸部痛が6ヶ月以上持続する男性4名,女性16名の20名(平均年齢55.9±11.7歳)を頸部痛群,頸部痛がなく頸部痛群と同程度の年齢である男性5名,女性15名の20名(平均年齢57.7±11.7歳)を対照群とした。頸部痛群の除外基準は頸部の変形が著明な者,頸椎に対する外科的手術の既往がある者,神経根性疼痛を有する者とした。評価項目は,頸部身体イメージ,頸背部のTPD,疼痛強度,Pain Catastrophizing Scale(以下,PCS),Tampa Scale for Kinesiophobia(以下,TSK)とした。頸部身体イメージはLaucheらの報告を参考に,頸部が欠けた上半身の図を用い,頸部の輪郭を対象者自身に記入させた。その際の指示は「あなたの頸部をイメージしてください。この図の欠けている部分にそのイメージを描いてください。その際,頸部には触らないでください。イメージのまま,感じるままに描いてください。感じることができない部分は描かないでください。どのように見えるかでなく,感じるままに描いてください。」とした。描かれたイメージが正常より明らかに歪んでいる場合を異常ありとし,対象者にはどのように感じたのか口頭で確認した。TPDの測定は,Mobergらの方法に準拠して行った。頸部をできる限り床面と水平にした腹臥位にて第7頸椎棘突起の高さで両側を測定した。キャリパーを脊柱に対して垂直方向にあて,2点の間隔を5mmずつ増減していき,最初に明確に2点と答えた値を記録した。測定は2回行い,値が異なる場合は小さい値を閾値として採用した。疼痛強度はVisual Analogue Scale(VAS)にて測定した。統計解析にはJMP11を使用した。頸部痛群と対照群の頸部身体イメージの異常の有無の比較をFisherの正確確立検定を用いて行った。さらに,頸部痛群を頸部身体イメージの異常の有無で2群に分け,対照群を含めた3群間でTPD,VAS,PCSおよびTSKの比較を多重比較検定を用いて行った。統計学的有意水準はすべて5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には事前に研究目的と方法について口頭で十分に説明し,同意が得られた者のみを対象とした。【結果】頸部痛群は対照群と比較して頸部身体イメージの異常が有意に認められた(頸部痛群10/20例,対照群1/20例,p<0.01)。そのイメージについての記述は「腫れているよう」,「膨らんでいるよう」,「へこんでいるよう」というものであった。頸部痛群のうち,頸部身体イメージの異常がある群は疼痛側,非疼痛側ともに対照群と比較してTPDの有意な増加が認められた(p<0.05)。疼痛強度,PCSおよびTSKに有意な差は認められなかった。【考察】身体イメージの異常やTPDの増加は一次体性感覚野を中心とした中枢神経系の異常との関連が報告されており,臨床的に簡便に評価可能であることからも有用な指標である。本研究の結果より,CNSNP症例において頸部身体イメージの異常が対照群と比較して有意に認められ,また,頸部身体イメージの異常が存在する群でTPDの有意な増加が認められたことから身体イメージの異常とTPDの関連が示唆された。よって,CRPS症例などと同様にCNSNP症例においても疼痛の慢性化や難治化に中枢神経系の変化が関与している可能性が考えられる。。【理学療法学研究としての意義】CNSNP症例においても身体イメージの異常やTPDの増加を認めることが明らかとなり,その病態に中枢神経系の機能異常が関与している可能性を示唆した点。
  • 葉 清規, 対馬 栄輝, 村瀬 正昭, 大石 陽介
    セッションID: 0549
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】近年患者立脚型アウトカム評価が重要視されるようになり,整形外科疾患の治療成績においても,健康関連QOL(HRQOL)の代表的指標であるSF36およびSF8を用いた報告が散見される。しかしながら,本邦では頸椎疾患のHRQOLに対して影響を与える因子の詳細な報告は見られない。頸椎疾患については多角的なアプローチが必要とされているため,HRQOLに影響する因子を把握することは臨床上重要である。頸椎疾患の治療成績判定基準の代表的指標として,日本整形外科学会頸部脊髄症評価質問票(JOACMEQ)が用いられ,JOACMEQとHRQOLの関係を知ることは有効であると考える。そこで本研究の目的は,SF8とJOACMEQを用いて,頸椎変性疾患患者の機能面がHRQOLにどのように影響するか検討することである。【方法】対象は2013年7月から2013年10月の期間に当院へ受診し,頸椎疾患にて理学療法の処方された98例のうち,初診時にSF8とJOACMEQを評価可能であった40例とした。平均年齢48.1±9.88歳,男性25例,女性15例であった。疾患内訳は頸椎椎間板ヘルニア10例,頸椎症性神経根症23例,変形性頸椎症7例であった。評価基準としてSF8の評価基準に則り,また機能面,HRQOLに影響を与える可能性がある,明らかな原因による急性発症例,事故後の頸椎疾患,精神疾患・中枢性疾患・上肢疾患合併症例,他疾患による歩行介助症例は除外した。方法は,初診時のSF8の身体的健康度(PCS)と精神的健康度(MCS)のサマリースコアを国民標準値と比較した。またPCS,MCSを従属変数とし,JOACMEQのサブスケールである頸椎機能,上肢機能,下肢機能,膀胱機能,QOLを独立変数として,その影響について検討した。統計学的解析は正準相関分析を適用した。解析にはR2.8.1(CRAN,freeware)を用い,危険率は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究については筆頭演者所属施設の倫理委員会の承認を得て,対象者には説明を行い,同意を得た。【結果】PCS,MCSはともに国民標準値を下回っていた。正準相関分析では,第1正準変量で正準相関係数がr=0.811(p<0.01)であった。従属変数の第1正準負荷量はMCS:-0.958,PCS:-0.271であり,独立変数の第1正準負荷量はQOL:-0.909,膀胱機能:-0.618,下肢運動機能:-0.517,上肢運動機能:-0.328,頸椎機能:-0.141であった。【考察】本研究結果より,頸椎変性疾患患者はHRQOLが低下しており,さらにMCSに影響を与える因子として膀胱機能や下肢運動機能などが強く影響し,上肢運動機能はやや影響していた。膀胱機能障害や下肢運動機能障害によるHRQOLの低下についての報告は散見される。頸椎変性疾患患者においては,頸部や上肢の疼痛,痺れなどが症状として多くみられるが,HRQOLの向上には主症状のみではなく,膀胱機能や下肢運動機能など全身的な身体機能の状態も把握することが必要であると考えた。【理学療法学研究としての意義】頸椎変性疾患患者のHRQOLに対して影響を与える機能面の特徴を把握することは,理学療法を実施する上で早期のQOL向上のための一助となると考える。
  • 竹内 雄一, 木村 祐介, 久野 剛史, 佐竹 裕輝, 北川 明宏, 大林 舞, 速見 全功, 清水 智弘, 奥田 早紀, 星野 雅俊
    セッションID: 0550
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】腰部脊柱管狭窄症術後の下肢の疼痛及びしびれを主とした下肢残存症状は,患者満足度の低下にも影響をおよぼし,その治療にも難渋する。本研究の目的は,経皮的電気刺激療法(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation;TENS)が腰部脊柱管狭窄症術後の下肢残存症状におよぼす効果について検討することである。【方法】当院にて腰部脊柱管狭窄症に対する後方除圧術を受け,術後に疼痛及びしびれの下肢残存症状を認めた患者40名(男24例:女16例,平均年齢68.8歳)を前向きにサンプリングした。群分けは,TENS介入+従来リハビリ群(以下;TENS群)と従来リハビリ群(以下;control群)とし,手術施行月別に振り分けた。介入内容は,従来リハビリとしてADL指導と個々に応じた運動療法を実施し,TENSは下肢残存症状が強い部位を中心に1日10分間,周波数は100Hz,強度は不快感がなく痛みが生じない範囲で実施した。実施期間は,当院のClinical pathを基準に,リハビリ室に出室する術後4日目から退院日までとした。検討項目は,Primary outcomeとして安静時と歩行時の下肢疼痛及びしびれおよび歩行満足度のVAS(100mm scale),Secondly outcomeとしてPain drawingとJOABPEQの疼痛関連障害,腰椎機能障害,歩行機能障害,社会生活障害,心理的障害とし,術後4日(開始時),術後2週間(退院時),術後1カ月時において評価し,両群間でそれぞれの改善量および有効率を比較検討した。解析はt検定とMann-WhitneyのU検定を用い有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】研究の遂行に当たり,ヘルシンキ宣言の理念に基づき患者の人権擁護には十分の配慮を行い,研究に協力を依頼する患者には研究の目的を十分に理解が得るよう説明と同意を徹底した。また,患者の病状および個人情報の管理を徹底したうえでプライバシーの保護に配慮した。【結果】TENS群19例,control群21例であった。術後2週時において,有意な値は認められなかったが,境界領域の値を示したものは安静時下肢疼痛VASの改善量(TENS群9:control群1,P=0.089)であった。術後1カ月時においては,安静時下肢疼痛(TENS群11:control群1,P=0.020),歩行時下肢疼痛(TENS群10:control群0,P=0.033),歩行満足度(TENS群17:control群-9,P=0.018),それぞれのVAS改善量に有意な値を認めた。JOA BPEQは術後1カ月時の有効率で,疼痛機能障害(TENS群86.4%:control群47.1%,P=0.052),腰椎機能障害(TENS群50.0%:control群25.0%,P=0.064)に境界領域の値を示した。その他の検討項目においては有意な値は認められなかった。【考察】本研究の結果,TENSは腰部脊柱管狭窄症術後の下肢残存症状に対して有効であることが示唆された。TENSは過去に,肩関節術後,心臓バイパス術後,月経困難症等の侵害受容器性疼痛への効果が報告されており,神経障害性疼痛に対するTENSの効果は不明な点が多い。今回我々は混合性疼痛(侵害受容器性,神経障害性)と考えられている腰部脊柱管狭窄症術後の下肢残存症状に対するTENSの効果を前向き介入比較試験により実証することができた。一般的に,TENSの作用機序はPlacebo効果としての心理的要素,内因性疼痛抑制機構として脳脊髄液中のオピオイド物質が増加し疼痛伝達経路に抑制的に働くとの報告や,gate control theoryに基づき電気刺激が脊髄レベルでの痛みの経路を抑制し求心性神経線維の刺激により疼痛やしびれを緩和させるとの報告がある。本研究においても,これらの作用機序により術後残存症状に効果的であったと考える。【理学療法学研究としての意義】術後の創部痛に対するTENSの報告は散見されるが,腰部脊柱管狭窄症術後の下肢残存症状に対するTENSの前向き介入比較研究は存在しない。下肢残存症状に対するTENSは,物理的な特性を考慮すれば患者に負担をかけることなく,臨床的にも有効な手段であるため理学療法研究としても意義があると考える。
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