理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
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セレクション
  • 大西 忠輔, 和田 健征, 三沢 貴博, 肥田 光正, 佐藤 満, 井野 秀一, 中村 幸男, 本田 哲三
    セッションID: 0401
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】距骨下関節面の形状は個人差が大きく,運動軸の位置も偏倚がきわめて大きいため,距骨下関節の動きを正確に測定することは困難である。しかし,距骨下関節の動きを知ることは運動連鎖を考える上で重要な要素である。そこで我々は,臨床現場でも簡易に実施できる荷重位での距骨下関節内外反の程度を測定する方法を考案し,レントゲン撮影で得られたデータと比較することにより,本測定方法の妥当性を検討した。【方法】本研究における被験者は,変形性膝関節症など整形疾患を既往とする16人(男性3名,女性13名,年齢73.8±9.9歳,身長155.4±9.5cm,体重56.6±12.1 kg)である。単純X線を用いた荷重肢位でのレントゲン撮影法は,両足の間隔を自然肢位とし,股関節を内旋させ両足部の長軸(第二趾と踵の中心)が平行になるような立位姿勢にて,Cobey(1976)の後足部レントゲン撮影方法を用いた。その後,レントゲン画像上で距骨滑車関節面の中点から下した垂直線に対して踵骨軸(踵骨の中心線)がなす角度を計測し,踵骨の内反および外反の角度とみなした。体表からの計測においては,Elveru(1988)らが行った距骨下関節計測方法(腹臥位・非荷重位)に従い,新たに踵骨の外輪郭を触診しやすい踵遠位1/3を除いた部分に,踵骨近位から遠位にかけて踵骨内外側を2等分する3点を等間隔でマークした。その後,レントゲン撮影法と同じ方法での立位姿勢になり,外果中心より1cm近位の高さのアキレス腱の中心を距骨滑車関節面の中心とみなし,その位置から床への垂直なレーザー(クロスラインレーザーQuigo:BOSCH社製)を照射した。踵骨内外反の判定には踵骨内外側を2等分した3つの中点が全てレーザー上にあるものを内外反中間位とし,レーザーに対して3点全て外側にある場合を外反,2点の場合をやや外反,1点だけの場合を少し外反とし,内反についても同様の基準とし,計7群に分類した。統計処理は,XLSTAT(Addinsoft社製)を用い,レントゲン撮影により得られた踵骨内外反の角度とレーザーを使用して計測した踵骨内外反の程度の関係性に対してスピアマン順位相関係数を使用し,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】実験の開始および参加にあたり,事前に実験の趣旨を口頭にて説明し,対象者の同意を得た上で実験をおこなった。本実験は昭和伊南総合病院倫理委員会で承認されている。【結果】レントゲン撮影により得られた踵骨内外反角度とレーザーを使用して計測した踵骨内外反の程度には負の強い相関が認められた(r=-0.83,P=0.0002)。なお,レーザー照射に伴う有害事象は全例で認められなかった。【考察】これまで日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会が制定する足部の内がえしと外がえしの基本軸は下腿軸への垂直線,移動軸は足底面であり,距骨下関節を計測する上では,足底面は横足根関節及び足根中足関節を含むため,純粋に距骨下関節の内外反を反映する計測方法ではない。さらに荷重位での距骨下関節の角度を計測することは困難であった。本研究の結果からレントゲン撮影による踵骨内外反角度とレーザーを使用して計測した踵骨内外反の程度には高い相関があることが分かり,体表からレーザーを使用することで踵骨内外反の程度を正確にとらえることが可能であることを示唆した。よって,レーザーを使用する計測方法は荷重位での距骨下関節の動きが強く反映されたものであると推測され,被爆も生じない安全で簡易的な荷重位での距骨下関節の動きを知る上で有用な評価方法であると思われる。また,荷重位での距骨下関節の動きを知ることは臨床において,歩行における重心移動などのダイナミックな動きの推測に役立つほか,近隣する筋骨格系の問題を知る上での手がかりとなりえる。今後は,レーザーを用いた本研究実施方法に関する信頼性や再現性を検討していく必要がある。【理学療法学研究としての臨床的意義】二足直立歩行を行う人間は下半身と上半身,それに伴う身体重心位置の変化及び床反力によって多くを制御することで,身体の様々な部分にメカニカルなストレスが加わり障害を引き起こす。そのため,足部からの運動連鎖,障害発生のメカニズムを力学的観点から捉えることは臨床上重要な観点であると思われる。特に距骨下関節は床反力の影響を最初に受ける関節であり,荷重位での距骨下関節の内外反の程度を正確に測定することの臨床的意義は理学療法士にとって大きいと思われる。
  • 中村 雅俊, 池添 冬芽, 梅垣 雄心, 西下 智, 小林 拓也, 田中 浩基, 藤田 康介, 市橋 則明
    セッションID: 0402
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】スタティックストレッチング(SS)は筋の柔軟性の改善を目的として広く用いられている。SSが筋の柔軟性に与える影響については,関節可動域(ROM)を指標として検討されることが多い。しかし,ROMは対象者の痛みに対する慣れなどの影響があるため,近年では関節を他動的に動かした時に生じる受動トルクあるいは受動的トルクと関節角度との関係(角度―トルク曲線)から求めた筋腱複合体(MTU)全体のスティフネスを柔軟性の指標として用いることが推奨されている。我々は腓腹筋MTUを対象にSSが受動トルクに及ぼす影響を経時的に検討し,腓腹筋の柔軟性を増加させるには最低2分間以上のSS時間が必要であることを報告した(Man Ther, 2013)。しかし,筋の柔軟性を増加させるために必要なSS時間については対象筋によって異なる可能性が考えられる。そこで本研究は臨床においてSSを行う機会が多いハムストリングスを対象筋とし,5分間のSSがハムストリングスMTUに及ぼす影響を経時的に検討し,ハムストリングスの柔軟性を増加させるために必要なSS時間について明らかにすることを目的とした。【方法】対象は下肢に神経学的及び整形外科的疾患を有さない健常若年男性15名(平均年齢23.4±2.2歳,股関節90°屈曲位での膝最大伸展角度-33.4±6.1,最大膝伸展時の受動的トルク40.6±11.4Nm)の利き脚(ボールを蹴る)側のハムストリングスとした。スティフネスの評価は等速性筋力測定装置(Biodex社製Biodex system 4.0)を用い,背臥位にて骨盤を軽度前傾位に固定した状態で,股・膝関節90°屈曲位から痛みが生じる直前まで角速度5°/秒で他動的に膝関節を伸展させた際に得られる膝屈曲方向に生じる受動トルクの計測を行った。この受動トルクと膝関節角度との角度―トルク曲線を求め,先行研究に従って最終10%の角度範囲の傾きをスティフネス(Nm/°)と定義した。SSは等速性筋力測定装置を用い,スティフネスの測定と同様に股関節90°屈曲位で膝関節を伸展していき,痛みが生じる直前の膝関節角度で1分×5回(計5分間)のSSを行った。SS開始前(SS前)とSS開始後1分毎にスティフネスの評価を行った。なお,SS開始後のスティフネスの評価,すなわち最終10%の角度範囲での角度―トルク曲線の傾きの算出については,SS前と同様の角度範囲を用いた。統計学的処理は,SS前とSS後1分毎のスティフネスについて,一元配置分散分析とScheffe法における多重比較検定を用いて比較した。有意水準は5%未満とした。なお,結果は全て平均±標準誤差で示した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設の倫理委員会の承認を得て(承認番号E-1877),文書および口頭にて研究の目的・主旨を説明し,同意が得られた者を対象とした。【結果】ハムストリングスのスティフネスはSS前:1.23±0.24Nm/°,SS後1分:1.14±0.17Nm/°,SS後2分:1.08±0.16Nm/°,SS後3分:0.90±0.18Nm/°,SS後4分:0.83±0.16Nm/°,SS後5分:0.74±0.11Nm/°であった。一元配置分散分析の結果,スティフネスに有意な変化が認められ,多重比較の結果,SS前と比較してSS後3,4,5分目で有意に低値を示した。さらに1分目と比較して4,5分目,2分目と比較して5分目で有意に低値を示した。【考察】本研究の結果,スティフネスはSS前と比較してSS後3,4,5分目で有意に低値を示したことから,SS開始後3分目以降でハムストリングの柔軟性向上効果が得られることが示された。我々は腓腹筋の柔軟性を増加させるためには最低2分間のSSが必要であることを報告しており,ハムストリングスの柔軟性を増加させるために必要なSS時間と乖離がある。その要因としては,筋の断面積の違いと耐えうる最大の受動的トルク,つまりSS強度に違いがあることが関連していると考えられる。筋の断面積ではハムストリングスの方が腓腹筋よりも大きく,SS強度に関しては腓腹筋の方がハムストリングスよりも強かった(腓腹筋:49.4±12.4Nm,ハムストリングス:40.6±11.4Nm)。これらの結果より,ハムストリングスは腓腹筋よりも断面積が大きく,弱い強度でのSSしか行えなかったため,柔軟性を増加させるためには腓腹筋よりも長い時間である3分間のSS時間が必要になった可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】理学療法分野においてSS介入を行うことが多いハムストリングスの柔軟性を増加させるために必要なSS時間を検討した結果,最低3分のSS時間が必要であることが示唆された。
  • 高井 遥菜, 椿 淳裕, 菅原 和広, 宮口 翔太, 小柳 圭一, 松本 卓也, 大西 秀明
    セッションID: 0403
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】運動時の循環調節には,筋の代謝性需要に応じた調節のほか,中枢性の循環調節が考えられている。これは,高位運動中枢からの運動指令と並行して,運動開始前から予測的に循環調節を行うことで運動開始時の急激な血圧上昇を防ぎ,スムーズな運動開始を可能とするものである。我々は,この運動準備期における体循環応答に着目し,運動準備期の平均血圧は,低強度,高強度の運動に比して中強度運動で有意に上昇することを明らかにした。本研究では,非侵襲的で,被験者の身体的拘束が少なく,運動時の脳活動を記録するのに適しているとされる近赤外線分光法(NIRS)を用い,中枢性循環調節の起源として注目される大脳皮質運動関連領野の運動準備期の活動を明らかにすることを目的とした。【方法】エジンバラ利き手テストにて右利きと判定された健常成人6名(年齢:21.8±0.75歳)を対象に,最大随意収縮時筋張力の10%(低強度),50%(中強度),90%(高強度)の右手掌握運動と,運動を行わない対照条件を含む計4条件の課題の運動準備期における大脳皮質運動関連領野の脳血流動態と体循環応答を計測した。脳血流動態の計測はNIRSを使用し,左右の一次運動野(M1),運動前野(PMC),補足運動野(SMA)における酸化ヘモグロビン(oxy-Hb)量を計測した。各被験者の計測位置統一のため,国際式10-20法におけるCzを基準に,照射プローブおよび受光プローブを装着し,38チャネルで計測を行った。NIRSの問題点として,測定値に頭皮血流の影響を含む可能性が指摘されているため,レーザー組織血流計により前額部の頭皮血流(SBF)も同時に計測した。平均血圧(MAP),心拍数(HR)は非掌握側第3指に装着した連続血行血圧動態装置で心拍一拍毎に計測した。プロトコルは安静120秒の後,運動20秒とし,各条件をランダムに行った。各データは安静中の20秒間の平均値からの変化量を用いた。運動直前の20秒間を運動準備期として,この区間の平均値を結果として扱った。統計処理は,各脳領域のoxy-Hb量に関しては「強度」×「半球側」×「領域」の3元配置分散分析,循環応答に関しては「強度」×「半球側」の2元配置分散分析を行った後,それぞれTukey HSD法による多重比較検定を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則って実施した。被験者には実験内容について十分に説明をし,書面にて同意を得た。【結果】運動準備期における各領域のoxy-Hb平均値(単位:a.u.)は,M1において左半球で対照条件-0.398,低強度0.132,中強度-0.211,高強度1.173,右半球で対照条件0.263,低強度-0.034,中強度-0.337,高強度0.2304であった。PMCにおいては,左半球で対照条件-0.911,低強度0.1884,中強度-0.544,高強度0.7632,右半球で対照条件0.3169,低強度-0.509,中強度-0.003,高強度0.1173であった。SMAにおいては,左半球で対照条件-0.541,低強度0.037,中強度-0.631,高強度0.2861,右半球で対照条件0.282,低強度-0.05,中強度0.071,高強度-0.032であった。統計の結果,oxy-Hb量に関して,半球側,ならびに領域要因に差はなく(半球側(p=0.586),領域(p=0.626)),強度要因において高強度運動条件が他の条件に比べ有意に高い結果となった(p<0.05)。循環応答に関しては,MAP(半球側(p=0.969),強度(p=0.832)),HR(半球側(p=0.338),強度(p=0.499)),SBF(半球側(p=0.534),強度(p=0.342))と各要因間に有意な差は認められなかった。【考察】各条件のSBF値に差がなかったことから,本結果への皮膚血流による影響は少ないと考えられる。本結果より,運動準備期には大脳皮質運動関連領野の中でも,一次運動野と運動前野において神経活動賦活が生じることが示された。運動中の脳循環動態を検証した研究では,脳血流量は筋収縮強度に依存して上昇することが示されており,この時MAPやHRも同様に変化することが報告されている(Sato K et al,2009)。本研究において循環応答に収縮強度による差は見られなかったが,MAPは中強度運動で最も上昇するという我々の先行研究の結果と合わせて考えると,運動準備期では脳血流量は筋収縮強度に依存するが,体循環反応はこれとは異なる可能性が考えられた。これに関わる因子として,今後自律神経系や運動準備に関わる大脳皮質運動関連領野の機能的な関わりをより詳細に検証する必要がある。【理学療法学研究としての意義】運動準備期の体循環調節と運動野との関係を検証することで,より安全な運動の処方や,運動による効率的な脳の賦活化の指標とすることが出来,運動療法をより有益なものとする手掛かりとなると考える。
口述
  • 兵頭 正浩, 平川 白佳, 岸本 英孝, 濱田 和美, 入江 将考, 篠原 伸二, 山下 智弘, 中西 良一
    セッションID: 0404
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】当院では胸腔鏡下肺葉切除術(thoracoscopic lobectomy:TL)を施行した非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer:NSCLC)患者全例に入院呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を行っている。しかしTLは低侵襲手術であるため在院日数の短縮が可能になり,呼吸リハ介入も短期間になっている。これまで術後外来呼吸リハ継続は行っておらず,退院後の運動耐容能の経過は不明であった。そこで今回,退院後のTL患者の運動耐容能を測定し,その回復に関与する因子や,術前から退院後までの運動耐容能の推移を検討したので報告する。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は対象者全員に十分な説明を行い,同意を得た上で理学療法を実施し,倫理的配慮に基づきデータを取り扱った。【方法】対象は,当院にて2012年10月~2013年10月までにTLと呼吸リハを施行され術前歩行が自立していたNSCLC患者(n=37,平均年齢68.3±7.5歳(54~83歳,中央値68歳))とした。呼吸リハは,手術後1病日(POD1)より早期離床を行い,POD2から退院日まで1日2回午前・午後と運動療法を行った。下肢筋力(等尺性膝伸展筋力)と運動耐容能(6分間歩行距離:6MWD)を,手術前,POD2,POD7,退院時,退院後(POD30)の計5回測定した。6MWDが手術前に比し,退院後(POD30)に100%以上回復しているか否かで,対象を回復群と低下群の2群に分類した。単変量解析として,連続変数の検定には正規性に応じて対応のないt検定またはMann-Whitney U検定を,名義・順序変数にはFisherの正確検定を用い,患者因子および手術因子を両群間で比較した。多変量解析は,退院後6MWD回復or低下を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を用い,独立変数は単変量解析にて有意差を認めた背景因子とした。手術前から退院後(POD30)までの運動耐容能の推移を明らかにする目的で,計5回の各測定時期での6MWDを両群間で比較し,また反復測定の分散分析(repeated measures ANOVA)を行った。有意水準は危険率5%とした。【結果】退院後6MWD回復群は17例(45.9%),低下群は20例(54.1%)であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,退院後6MWD回復に関与する有意な独立変数は,年齢(>70歳)[odds ratio(OR),0.102;95% confidence interval(CI),0.0169-0.615;p=0.0128]と,退院時下肢筋力(<220N)[OR,9.820;95% CI, 1.6300-59.300;p=0.0128]であった。各測定時期での6MWDの比較においては,手術前~退院時(p=0.936,p=0.35,p=0.215,p=0.0698,respectively)では有意差を認めなかったが,退院後(POD30)にのみ両群間に有意差を認めた(p=0.0011)。反復測定の分散分析の結果,経時変化の比較(p<0.001)と交互作用(p<0.001)に有意差を認めた。【考察】本研究の対象者においては,全体の半数以上で,退院後(POD30)運動耐容能が術前レベルまで回復できていなかった。多変量解析の結果,その有意な独立因子は年齢と退院時下肢筋力であった。つまり,退院時の下肢筋力が低下した高齢患者群では,退院後に身体活動量が落ち,運動耐容能が回復出来ていない可能性が示唆された。運動耐容能の推移に関しては,両群間で入院中では有意差なく退院後(POD30)にのみ有意差を認めたことと,反復測定の分散分析で群間要因が有意でなかったことから,術後の運動耐容能は両群とも退院までは同様に推移するが,退院後においては回復群は右肩上がりに回復するのに対し,低下群では減少に転じてしまうことが判明した。したがって,呼吸リハ介入に関しては,高齢かつ退院時下肢筋力が低下した患者群に対して,外来呼吸リハなどの何らかの継続介入の必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】今回TL患者の退院後の運動耐容能回復に関与する因子を明らかにした。開胸下の肺切除術後患者に対する呼吸リハの報告は散見されるが,今回の結果によって,低侵襲手術であるTL患者の退院後呼吸リハの必要性がより高い症例を検出する事が出来るのではないかと考える。適応患者を厳選することで,より効果的な理学療法介入に寄与出来るのではないかと考える。
  • 濱田 和美, 入江 将考, 平川 白佳, 岸本 英孝, 兵頭 正浩, 篠原 伸二, 山下 智弘, 中西 良一
    セッションID: 0405
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】肺癌に対する肺全摘除術は,根治手術の中でも術後の呼吸機能低下や合併症発症のリスクが高く,患者背景においても化学療法後にようやく手術適応となる症例もあり,術後の運動耐容能やPerformance Status(PS)の低下が懸念される治療法である。しかし,肺全摘除術症例の術後近接期の経過に関する報告は少ない。今回,原発性肺癌に対し胸腔鏡下肺全摘除術(thoracoscopic pneumonectomy,TP)を施行し呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)を実施された患者の術後経過について,胸腔鏡下肺葉切除術(thoracoscopic lobectomy,TL)症例と比較し,その傾向を調査した。【方法】対象は,2009年5月から2013年10月までに,当院で肺癌に対し胸腔鏡下手術を施行され呼吸リハを介入した220例中,TPおよびTLを施行された169例とした。後方視的に,カルテより患者背景と周術期及び術後outcomeを調査した。運動耐容能評価としては,6分間歩行距離(6MWD)を術前,退院時に測定し,術前下肢筋力評価はハンドヘルドダイナモメーターを使用し,大腿四頭筋力を測定した。統計は,matched-pair analysisを行い,TP8症例と,年齢,性別,BMIをマッチさせたTL32症例を抽出した。2群間の解析には,t検定,Wilcoxon検定およびFisherの正確検定を用い,有意水準は危険率5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,対象者全員に十分な説明を行い,同意を得て評価および呼吸リハを実施し,倫理的配慮に基づきデータを取り扱った。【結果】全症例における術後在院日数の中央値は10日(6日~95日)であった。マッチング後の患者背景は,併存疾患(Charlson Comorbidity Index),術前の肺機能・PS・6MWD・下肢筋力の各因子では2群間における有意差は認められなかった。術後に関しては,離床獲得時期,在院日数,合併症ともに2群間において有意差は認められなかったが,術後回復期において,TP群がTL群よりも退院時の6MWDの回復率が悪く(p=0.007),入院時よりもPSが低下していた(p=0.02)。【考察】今回の結果から,TP群は,合併症発症率,術後離床獲得,在院日数において,TL群と同様の成績を示したが,退院時の運動耐容能やPSはTL群よりも低下していた。これらのことから,TP群の術後近接期において,合併症を回避し術後経過良好で退院できても,心肺予備能の指標である運動耐容能や日常生活上の活動量を反映しているPSは,退院時すでに低下を生じていることがわかった。Win Tら(2007)によると,術後肺機能低下に関連して運動耐容能低下は長期持続するとの報告がある。一方,Deslauriers Jら(2011)は,肺全摘除術後の長期評価において,肺機能低下は持続するが,残存肺の機能改善により,ガス交換や運動耐容能は正常に回復するという報告もある。そのため,今後は退院後の適切な評価や介入を含め,症例を重ねて検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】今回,TP患者の術後近接期の経過について調査した。肺全摘除手術は合併症やそれに関する死亡のリスクが高いため,TP患者の術後経過を把握し,術後合併症予防に努めると同時に,十分な運動療法を施行することで術後の運動耐容能回復および良好なPS,QOLの獲得に寄与すべきである。
  • 平山 善康, 阿波 邦彦, 佃 陽一, 太田垣 あゆみ, 松井 萌恵, 田中 宇大, 堀江 淳, 山下 直己
    セッションID: 0406
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】現在,我が国における死亡原因の第1位は「がん」であり,疾病対策上の最重要課題として対策が進み,周術期呼吸理学療法の重要性も高まっている。当院では呼吸器外科で肺がんと診断され胸腔鏡下手術(以下,Video-assisted thoracic surgery:VATS)が施行された患者に対し,周術期呼吸理学療法を実施している。そこで本研究の目的は,術前の身体機能,精神心理機能が,退院時にどのように変化しているか検討し,VATS施行患者の術後経過を検証することとした。【方法】本研究デザインは前向きコホート研究とし,調査期間は平成23年5月から平成23年11月とした。研究参加者は,当院呼吸器外科でVATSが施行され,周術期呼吸理療法を実施した13名(男性9名,女性4名)であった。研究参加者の特性は,平均年齢71.2±5.0歳,平均BMI 22.3±3.0,平均予測比肺活量93.9±18.1%,平均1秒率74.1±8.2%であった。調査は術前,退院前の2時期とした。呼吸理学療法は,術前オリエンテーションから介入し,術後1病日目より早期離床を行い,インセンティブ・スパイロメトリーと運動療法を実施した。測定指標は,コーチ2の最大吸気量,呼吸筋力として予測比最大呼気口腔内圧(%MEP),予測比最大吸気口腔内圧(%MIP),筋力として握力,体重比膝伸展筋力,歩行能力としてTimed up and go test(TUG)の所要時間,運動耐容能として6分間歩行距離(6MWD),がんによる倦怠感評価としてCancer fatigue scale(CFS),精神心理機能評価としてHospital anxiety depression scale(HADS),健康関連QOL評価としてShort-form 8 items health survey(SF-8)を測定した。統計学的分析は,各測定項目の術前と術後の比較を対応のあるt検定とWilcoxon順位和検定を用い検討した。なお,これらの検定に先立って,データが正規分布に従うかShapiro-wilk検定で確認した。すべての検定における帰無仮説の棄却域は有意水準5%未満とした。統計解析ソフトにはSPSS ver.19を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】研究参加者に研究の趣旨,方法,同意の撤回などについて文書と口頭で説明を行い,同意を得た。なお,本研究は,当院研究倫理委員会にて研究の倫理性に関する審査,承認を得て実施した。【結果】平均在院日数は,9.1±3.9日であった。術後に有意差を認めた測定項目は,コーチ2の最大吸気量が1758.3 mlから1120.8 mlに減少(p=0.008),TUGが5.5秒から6.1秒へと所要時間が延長(p<0.001),6MWDが517.8 mから459.4 mに減少(p=0.004),6MWT時の疼痛(Visual analog scale)が0から2.6へと増加(p=0.008)した。一方,%MEP(p=0.089),%MIP(p=0.456),握力(p=0.089),体重比膝伸展筋力(p=0.090),CFS(p=0.487),HADS-anxiety(p=0.128),HADS-depression(p=0.774),SF-8 physical component summary(p=0.254),SF-8 mental component summary(p=0.929)については有意な変化は認められず,基準値より低値のままであった。【考察】本研究は,VATS後の身体機能および精神心理機能の変化を前向きに検証した結果,TUGの所要時間の延長,6MWDの有意な減少が認められた。VATSは低侵襲であるため,早期離床が容易に可能であるが,歩行時における疼痛や呼吸機能の低下が原因で,それらの能力が低下したものと考えられる。その一方,術後1週間程度では,倦怠感や不安などの精神心理機能面や健康関連QOLの改善には至っていない。これらの変化については,期間を延長した時点での評価測定が必要になると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,VATS後の身体機能や精神心理機能,健康関連QOLなどを前向きに検討した研究である。我々は限られた在院日数と多忙な診療の中で,いかに有効な周術期理学療法を提供することができるかが課題であり,本研究はその足掛かりとなる可能性を示唆した。
  • 入江 将考, 濱田 和美, 兵頭 正浩, 岸本 英孝, 平川 白佳, 篠原 伸二, 山下 智弘, 中西 良一
    セッションID: 0407
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】患者の全身状態(特に身体機能)を表すPerformance status(PS)は,非小細胞肺癌(non-small cell lung cancer:NSCLC)の予後因子や,術後補助化学療法の適応において重要な指標である。本研究の目的は,NSCLCに対する胸腔鏡下肺葉切除術(Thoracoscopic lobectomy:TL)の術後におけるPS悪化の予測因子と,PS悪化と術後アウトカムとの関連を明らかにすることである。【方法】当院において2005年6月から2012年10月までにTLならびに呼吸リハビリテーションを受けたNSCLC患者(n=267,平均年齢69.1±10.6歳(21~90歳,中央値71歳))を対象とした。呼吸リハプログラムは,術前オリエンテーションから介入し,術後においては術後1病日(POD1)より病棟での早期離床を行い,POD2から退院前日までは,午前・午後と1日2セッション,理学療法室で運動療法を中心に行った。下肢筋力(体重比等尺性膝伸展筋力)と運動耐容能(6分間歩行試験:6MWT)は,手術前,POD2,POD7,退院時に測定した。対象を術後PS悪化(退院時PSが術前値から1以上悪化したもの)の有無により2群に分類し,単変量解析として人口統計学的因子,生理学的因子,腫瘍学的因子,手術・術後関連因子,そして下肢筋力および6MWTを2群間で比較した。連続変数の検定には正規性に応じて対応のないt検定またはMann-Whitney U検定を,名義・順序変数にはFisherの正確検定を用いた。多変量解析は術後PS悪化を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析を用い,単変量解析でp<0.1となった因子を独立変数とした。変数選択にはp値によるステップワイズ法を用い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は対象者全員に十分な説明を行い,同意を得た上で呼吸リハを実施し,倫理的配慮に基づきデータを取り扱った。また当院の研究審査委員会の承認を得た。【結果】術後PS悪化群は43名(16.1%),PS悪化なし群は224名(83.9%)であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,術後PS悪化の有意な独立変数は,POD2の6分間歩行距離(<200m)[odds ratio(OR),4.47;95% confidence interval(CI),1.81-11.1;p=0.0012]と,術前の下肢筋力(<40%BW)[OR,2.78;95% CI, 1.10-7.02;p=0.0308]であった。2群間における術後アウトカムの比較では,術後歩行獲得までの日数(p=0.138)を除き,術後心肺合併症発症率(p<0.001),自宅退院率(p=0.0116),術後在院日数(p<0.001)において,有意な差を認めた。【考察】多変量解析の結果,退院時にPSが悪化する因子は,周術期の下肢筋力や運動耐容能が有意な予測因子であり,肺機能などの生理学的因子,腫瘍因子,手術関連因子ではないことが明らかとなった。また術後アウトカムにおいては,早期離床には有意差がないものの,退院時にPS悪化をきたすようなケースでは,術後における合併症,転帰,在院日数の面において劣っていることが判った。TL患者のPSを退院後も維持させることは,予後や術後補助化学療法導入の面で重要である。したがってTL患者に対する呼吸リハでは,周術期の身体機能評価によってPS悪化のハイリスク患者群を早期に同定し,術前の筋力強化,積極的な合併症予防,術後早期の運動耐容能回復を獲得することが,PSを維持させるために重要であることが示された。【理学療法学研究としての意義】肺切除術後の理学療法介入目的に,合併症の予防や早期離床獲得が含まれるのは,周知の通りであるが,今回は更に腫瘍学的な介入目的としてのPerformance Statusの維持を提唱した。本研究の結果,その予測因子が理学療法の対象となる周術期の身体機能であったことは,理学療法学研究としての意義を有すると考えられる。
  • 押本 理映, 市川 毅, 小宮 良太, 赤木 昭博, 川上 晶子, 北川 和彦, 三井 裕子, 伊藤 大起, 大岩 加奈, 木村 雅彦, 豊 ...
    セッションID: 0408
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】肺切除術は肺癌の有効な根治的治療として確立されている一方で,特に高齢者における肺切除術後には肺合併症の発症や全身持久力の低下が顕著であり,これらの予防手段として周術期における呼吸理学療法が有効とする報告が多い。一方で,高齢患者においては術前の日常生活関連動作の活動度(活動度)や不安・抑うつといった背景因子が術後に影響すると考えられているが,未だ十分に検討されていない。本研究では,高齢肺切除術患者における術前の活動度が,術後肺合併症,全身持久力,運動機能および呼吸機能に及ぼす影響,ならびに術前における活動度と不安・抑うつの関係を検討した。【方法】対象は,2012年6月から2013年10月までに当院で肺切除術と周術期呼吸理学療法を行った65歳以上の高齢患者のうち,歩行が自立し,術前および術後退院時に下記の評価を完遂した16例(年齢72±5歳,身長157±8 cm,体重57±12 kg,男:女=8:8,開胸術6例,胸腔鏡視下術10例)とした。患者背景因子では年齢,性別,出血量,手術時間,手術方法,切除領域および修正Medical research council dyspnea scaleを,また,術前の活動度の指標としてFrenchay activities index(FAI),不安・抑うつの指標としてHospital anxiety depression scale(HADS)を調査した。およそ手術1週前から外来にて,等尺性膝伸展筋力,努力性肺活量(FVC),随意的咳嗽時最大呼気流量(CPF),ならびに全身持久力指標として6分間歩行距離(6MWD)を測定した。術前に流量型インセンティブスパイロメトリー,腹式呼吸練習,ハフィングおよび創部固定による咳嗽練習,呼吸筋ストレッチ,ならびに術後早期離床の指導を2~3回行ったうえで全例手術翌日から離床し,術前内容に加えて可及的早期に歩行練習や全身持久力運動を行った。術後経過として,手術日から歩行開始,歩行自立および退院までの日数を調査した。退院時には等尺性膝伸展筋力,FVC,CPF,6MWDを測定した。統計学的解析では,FAIを各対象者の年代の標準値(蜂須賀,2000)に対する割合を算出して標準化し,対象者を術前FAIの中央値に基づき2群(高FAI群,低FAI群)に分類した。術前の2群間比較には,χ²検定とMann-Whitney U検定,各群における術前と退院時の比較にはWilcoxon符号付順位和検定を用いた(有意水準:危険率5%未満)。【倫理的配慮,説明と同意】当院の倫理規定に従って本研究の承認を得た。対象者には,研究内容やプライバシー保護,承諾の自由を説明後,書面で同意を得た。【結果】FAIは,高FAI群129±18%,低FAI群80±86%であった。2群間比較では,患者背景因子,術前における呼吸機能,等尺性膝伸展筋力,FVC,CPFおよび6MWDに有意差を認めなかった。術前HADSのうち,抑うつには有意差を認めなかったが,不安は高FAI群に比べて低FAI群で有意な高値を示した(4±2 vs. 7±4点,p<0.05)。また,手術から歩行開始(高FAI群1±0 vs.低FAI群1±1日),歩行自立および退院までの日数(7±3 vs. 8±3日)にも有意差を認めず,両群ともに術後肺合併症を生じた患者はいなかった。退院時のFVCとCPFは,術前に比べて両群ともそれぞれ有意な低値を示した(p<0.05)。術前と退院時の6MWDについては,高FAI群では有意差を認めなかった(術前420±63 vs.退院時401±74 m)が,低FAI群では退院時に有意な低値を示した(381±75 vs. 325±110 m,p<0.05)。術前と術後の等尺性膝伸展筋力には,両群ともそれぞれ有意差を認めなかった。【考察】退院時のFVCおよびCPFは術前の活動度に関係なく,術前に比べて有意に減少しており,高齢肺切除患者の呼吸機能は,肺切除による残存肺容量の影響が大きい(中原,1983)と考えられた。また,退院時の等尺性膝伸展筋力は術前の活動度に関係なく術前と同等に維持されており,早期離床が寄与したものと考えられた。一方で,全身持久力は術前に比して肺切除術後1週で低下する(Nomori, 2003)と報告されており,今回も術前の活動度が低い高齢肺切除患者の全身持久力は術後1週退院時では術前よりも有意に低下し,さらに術前の不安が増強していた。しかし,活動度が高い患者の術後全身持久力は術前と同等に維持されていた。これらのことから,高齢肺切除術患者の術後全身持久力の回復には,術前の活動度や心理的要素が深く関与している可能性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】高齢肺切除術患者における術後の回復に対して,術前の活動度が及ぼしている影響を明らかすることで,周術期呼吸理学療法におけるリスク層別ならびにプログラムの立案に貢献できる。
  • 植田 拓也, 柴 喜崇, 栗原 翔, 前田 悠紀人, 渡辺 修一郎
    セッションID: 0409
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】高齢者が有する疼痛は身体機能の低下(安齋,2012)や,IADL,健康関連QOLの低下につながるとされており(Woo,2009),運動は疼痛の軽減に有効であるとされている。しかし,昨年我々が報告した自主参加型体操グループへの参加中止の要因では,実際の参加中止した理由の約40%を疼痛・怪我が占めており,運動習慣を有する高齢者にとっても疼痛および怪我の予防が重要であることが考えられた。本邦においては全高齢者のうちの約8割が介護も支援も必要としない自立高齢者であるとされ,平成22年国民栄養調査によると65歳以上で運動習慣のあるものの割合は40%以上であると報告されている。また,地域在住高齢者においては身体機能,障害など,個人の身体状況に合わせた予防的対策を検討する必要があり,一次予防の視点から運動習慣を有する元気高齢者の疼痛の実態の把握が必要であると考えられた。しかし,運動習慣を有する地域在住高齢者に着目した疼痛についての報告は少ない。そこで本研究では,運動習慣のある地域在住高齢者を対象として,性別毎に疼痛の有無と身体機能,精神的健康の関係について横断的に明らかにすることを目的とした。【方法】対象は神奈川県S市のラジオ体操会会員から募集し,2009年から2013年まで毎年実施している体力測定に参加した65歳以上の地域在住高齢者171名(男性89名,女性82名,平均年齢72.4±4.6歳)とした。各参加者の体力測定参加初年度の結果を分析対象とし,横断的に検討した。参加者には体力測定および質問紙調査を実施した。調査項目は,疼痛の有無,疼痛の程度,年齢,性別,運動機能として円背指数,握力,開眼片脚立位時間,立位体前屈,Timed Up and Go Test,5m最大および通常歩行時間,膝伸展筋力,精神的健康の指標としてWHO-5精神的健康度評価表(以下,WHO-5),転倒恐怖感の指標としてFall Efficacy Scale International(以下,FESI)を調査した。統計解析は,性別ごとに,疼痛の有無により2群に分類し,身体機能,WHO-5,FESIそれぞれをMann-WhitneyのU検定を用い2群間で比較した。また,疼痛の程度と各測定項目の相関関係を検討するため,Spearmanの順位相関係数を用い分析した。【倫理的配慮,説明と同意】研究は研究代表者の所属する機関の研究倫理委員会の承認を得て実施し,対象者には口頭および書面にて十分な説明を行い,書面にて同意を得た。【結果】腰痛を有する者は男性17名(19.1%),女性14名(17.1%)であり,膝関節痛を有する者は男性15名(16.9%),女性16名(19.5%)であった。腰痛有群と腰痛無群では,男性において,年齢(p=0.013),開眼片脚立位時間(p=0.04),Timed Up and Go Test(p=0.02),5m快適歩行時間(p=0.02),5m最速歩行時間(p<0.01)が統計学的に有意な差を示した。また,女性においては立位体前屈(p=0.006)のみ2群間で有意な差が確認された。膝痛の有無の群間比較では,男性で5m快適歩行時間(p=0.01),WHO-5精神的健康度評価表得点(p=0.006)の2項目に有意差が認められた。女性では,すべての項目で有意差は確認されなかった。疼痛の程度と各測定項目では,女性において膝痛の程度と膝伸展筋力(r=-0.608,p=0.012,n=15)の間にのみ統計学的有意な中等度の相関が確認された。【考察】本研究では運動習慣のある地域在住高齢者において,腰痛および膝痛の有無と身体機能の関係を検討した。性別に関わらず,腰痛,膝痛とも,地域在住高齢者の20%程度が有することが明らかとなった。これは一般高齢者を対象とした研究(Ono,2012)と比較してもやや低値を示した。また,腰痛については,腰痛有群で腰痛無群に比較し,有意に年齢が高いことが明らかとなった。男性では腰痛有群では腰痛に加え,高年齢による機能低下が,開眼片脚立位時間,Timed Up and Go Test,5m歩行時間など身体機能に関する項目で,有意に機能低下しているという結果につながったと考えられた。また,膝痛は男性において,5m快適歩行時間,WHO-5得点で2群間での有意な差が確認された。疼痛はQOLにも影響を与える(Woo,2009)ことが知られており,本研究でも同様の結果が示された。本研究では,運動習慣を有する地域在住高齢者の腰痛,膝痛を有する者の割合は一般高齢者に比較し低値を示すことが明らかとなった。また,精神的健康が疼痛有群で膝痛無群に比較し低値であったことから,運動習慣のある地域在住高齢者においても疼痛が精神機能,QOLにも影響することが考えられた。【理学療法学研究としての意義】疼痛は高齢者の健康寿命延伸の阻害要因である。本研究は,自立高齢者が運動を継続し,健康な身体,生活を維持していくための予防的介入の方策を検討する一助となると考えられ,理学療法学研究としての意義は高いと考えられた。
  • 高取 克彦, 松本 大輔, 岡田 洋平, 西田 宗幹, 松下 真一郎
    セッションID: 0410
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】世界でも有数の長寿国である我が国では,高齢者の健康寿命延伸が大きな課題となっている。平成23年人口動態統計により肺炎が脳卒中を上回り死因の第3位となったことから,高齢者の誤嚥性肺炎予防に向けた取り組みが注目されている。我々は昨年度より奈良県健康長寿共同事業において誤嚥性肺炎予防および転倒予防を目的としたオリジナル体操の開発を行っている。従来の口腔・嚥下体操は口腔周辺や舌などの局所運動が中心であるが,嚥下時のスムーズな喉頭挙上や力強い咳嗽などは,姿勢や体幹筋活動,呼吸機能が重要性とされている。これらの事より,本体操は全身的アプローチというコンセプトを基に口腔周囲の運動と全身運動を組み合わせて構成されている。本研究の目的は地域在住の虚弱高齢者を対象に,本体操の実施が,高齢者の口腔・嚥下機能および身体バランス機能に及ぼす影響を明らかにする事である。【方法】対象は県内7地域における介護予防教室参加者および自主運営サロン参加者96名(男性16名,女性80名,平均年齢74.8±6.0歳)である。対象者は地域別にオリジナル体操導入地域(介入群:69名)と非導入地域(対照群:29名)に振り分けられた。介入群には教室開始当初に2回の体操指導および奈良県健康長寿共同事業にて作成した体操DVD(12種目の運動で構成,所用時間5分)とパンフレットを配布した。自宅での体操実施は少なくとも週2回以上行うように指導し,実施状況は「イキイキ地域生活カレンダー」(日本理学療法士協会作成)を用いて記録を行う事とした。教室は隔週で6ヶ月間実施され,介入群における教室の内容は本体操の他,伸張運動やレクレーション活動も実施された。対照群では初回のみ自宅で実施可能な運動指導を行い,その他は自主活動とした。評価項目は運動機能に関しては5m歩行時間,Timed Up and Go(TUG),Functional Reach Test(FRT),30秒間立ち上がり回数(CS-30),重心動揺検査,最大膝伸展筋力,椅座位体前屈距離の他,嚥下機能と関連する口唇閉鎖圧,随意咳嗽力測定を実施した。重心動揺検査はグラビコーダGP-31(アニマ社製)を用い,静止立位30秒間の重心動揺面積(外周面積)と単位軌跡長を開眼・閉眼の2条件で測定した。最大膝伸展筋力の測定には筋力計(F-100:アニマ社製)を用い,最大膝伸展筋力体重比を算出した。口唇閉鎖圧測定はリップデカムLDC-110R(モリタ社製)を用い,随意咳嗽力はピークフローメーターを用いて測定した。また生活機能に関してはE-SAS(日本理学療法士協会作成)の中から「転ばない自信」,「人とのつながり」について評価を行った。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には本研究に関する十分な説明を口頭で行い,自由意志にて研究参加の同意を得た。また本研究は畿央大学研究倫理委員会の承認(承認番号H24-20)を得て実施された。【結果】ベースライン比較において5m歩行時間に群間差(介入群>対照群,p<0.05)が見られたが,その他の項目には差がなかった。教室前後の運動機能面の比較においては,5m歩行時間,FRT,TUG,椅座位体前屈距離,CS-30,閉眼外周面積,ロンベルグ率に有意な改善が認められた(各p<0.05)。対照群では閉眼単位軌跡長のみ有意な改善が認められた(p<0.05)。咳嗽力,口唇閉鎖圧については有意な変化は認められなかった。生活機能面では両群ともに有意な改善を認めなかった。教室後データを目的変数,ベースライン値を共変量とした共分散分析の結果,FRT,TUG,CS-30において介入群が対照群に比較して有意に改善していた(各p<0.05)。【考察】本研究の結果,オリジナル体操を導入した介護予防教室は,非導入教室に比較して身体バランス機能,下肢筋力,歩行機能を改善させることが示唆された。しかし,体操の主目的である嚥下・咳嗽機能は改善傾向のみであり,現時点では統計学的な差を検出するには至らなかった。本研究対象者においては,ベースライン時からこれらに大きな機能低下を示す者が少なく,上記運動機能の改善が直接的に反映されなかったものと考えられる。今後はや対象者を体操の定着度によりサブグループ化し効果を検証することや,施設入所者などを対象としたハイリスクアプローチも実施していく予定である。【理学療法学研究としての意義】本研究は理学療法士,言語聴覚士および行政の三者が連携した誤嚥性肺炎・転倒予防のための具体的取り組みであり,多職種連携による地域高齢者の健康増進・介護予防に高い意義を持つものと考えられる。
  • 鳥居 真己, 間瀬 浩之, 平井 達也, 篠田 真志, 藤田 正之
    セッションID: 0411
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】高齢者の転倒は要介護認定となる重要な要因であり,全国的に転倒予防が取り組まれている。また,転倒発生に関わる多くの要因の中でも転倒恐怖感は健康状態の低下や身体機能の低下,または不安やうつなどとの関連が指摘され,検討すべき重要課題と認識されている(Legters, 2002)。各自治体では,介護予防の一環として地域包括支援センター(以下支援センター)を中心とした一次予防が実施されている。しかし,支援センターが運営する一次予防事業参加者を対象とした転倒やその要因の研究報告は会議録等で散見されるが,サンプル数が非常に少なく単一の支援センターのみのデータを使用していると思われる。そこで,我々は,自治体及び各支援センターと連携を図ることで複数の支援センターの一次予防事業参加高齢者を対象とし,転倒恐怖感が運動機能に与える影響,転倒恐怖感と転倒経験の関連について調査を行った。本研究では転倒恐怖感「有」,「無」の二件法(以下二件法)と14項目(各項目10点,合計140点)で構成されているmodified Falls Efficacy Scale(以下mFES)を用い,どちらが転倒恐怖感の評価として有用性の高い評価法であるかの検討を行い,今後の一次予防に役立てることを目的とした。【方法】対象者は,平成25年度に開催されている一次予防事業に参加した地域在住高齢者137名(男性:28名,女性:109名,平均年齢76.9±5.4歳)で,独歩またはT字杖で歩行可能な者を対象とした。重度の認知機能障害及び神経学的所見を有し,測定が実施困難な者は除外した。運動項目は,Timed Up & Go Test(以下TUG),握力,開眼片脚立位の測定を実施した。アンケート項目では,転倒恐怖感について二件法,mFESと過去1年間の転倒経験の有無を聴取した。先行研究より,mFESの得点が139点以下を転倒恐怖感有と判断した。統計学的解析は,二件法より,全対象者を恐怖感有群(75名),無群(62名)の2群に分類し,各運動項目ついて対応のないt検定により群間比較を行った。mFESにおいても,満点群(68名)と139点以下群(69名)の2群に分類し,二件法の群間比較と同様の解析を行った。また転倒経験者と非転倒経験者に分類し,mFESの得点について対応のないt検定を行い,転倒経験の有無と二件法における恐怖感の有無の人数分布をχ²検定を用いて比較した。有意水準は全て5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当院倫理委員会の承認(承認番号:025-008)を得た後に実施した。対象者は,本研究の主旨及び倫理的配慮について書面,口頭にて説明し,署名にて同意を得た者とした。なお,本研究データを使用するにあたり,西尾市長寿課の承認を得た。【結果】TUGでは,恐怖感有群(平均時間±SD:7.1±1.5秒)が恐怖感無群(6.3±1.2秒)より有意に遅かった(p<0.05)。mFESの139点以下群(7.1±1.5秒)は満点群(6.4±1.3秒)より有意に遅かった(p<0.05)。握力では,恐怖感有群(21.8±6.3kg)が,恐怖感無群(25.1±7.8kg)より有意に低かった(p<0.05)。mFESでは,2群間に有意な差を認めなかった。開眼片脚立位では,恐怖感有群(29.4±24.5秒)は,恐怖感無群(41.1±23.2秒)より有意に短かった(p<0.05)。mFESでは,2群間に有意な差を認めなかった。転倒経験有無によるmFESの比較では,転倒経験者(116.7±29.7点)が非転倒経験者(128.7±23.1点)より有意に低値を示した(p<0.05)。転倒経験の有無と二件法における恐怖感の有無の人数分布については,転倒経験者は,非転倒経験者よりも二件法による恐怖感を有する比率が有意に高かった(p<0.01)。【考察】TUGについて,二件法による恐怖感の有無,mFESの満点群と139点以下群による群間比較では,両方の群間に有意差が認められたことから,TUGのような複合的動作を含む運動は,転倒恐怖のような心理特性と関連することが示唆された。一方,握力,開眼片脚立位においては,二件法でのみ有意差が認められた。この結果より,一次予防の現場において,二件法がより有用な指標になる可能性が示唆された。転倒経験によるmFESの比較は2群間に有意差を認め,また転倒者が非転倒者に比べて恐怖感を有する比率が高かったことから,本地域の高齢者においても転倒恐怖感が転倒と強く関連することが示唆された。恐怖感を有する者は外出や活動量が減少し,運動機能が低下した可能性が考えられ,今後,外出頻度や活動量について精査していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究結果より,一次予防事業の現場においてより簡便な二件法で恐怖感を問う評価方法の有用性が示され,支援センターで実施されている現場スタッフ及び理学療法士に役立つ情報となり得る。
  • 池上 泰友, 中田 みずき, 北浦 重孝, 篠原 信平, 清水 富男
    セッションID: 0412
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,高齢者の転倒に関する心理的側面の研究が数多く報告されており,その中で転倒は恐怖感を拡大し,不安や自己効力感の低下といった心理的影響を引き起こすと報告されている。転倒の要因の一つとして,主介護者との関係性が挙げられるが,これまでの研究の多くは要介護者の評価であり,主介護者の心理的側面に関する検討は十分にされていない。そこで,本研究では転倒自己効力感について家族を介護する主介護者と要介護者との間の差異を調査し,転倒回数から主介護者の心理的側面にどのような影響があるのかを検討した。【方法】対象は訪問リハビリテーションを実施し,質問紙の回答が得られた主介護者48名(平均年齢80.5±8.1歳),要介護者48名(平均年齢62.1±12.9歳)の48組96名である。調査期間は2013年7~8月にアンケートを配布後,後日回収する手法で行った。測定項目は,要介護者に対して転倒の有無,要介護度,FIM,認知度,自己効力感として征矢野の開発した転倒予防自己効力感尺度(FPSE)を調査し,一方,主介護者に対しては健康状態,介護年数,介護時間,Zarit介護負担感尺度日本語版の短縮版(J-ZBI_8),主観的幸福感としてPCGモラール・スケールを調査した。また,要介護者の行動に対してFPSEの項目を「利用者の行動について自信があるか」と一部変更したFPSE変法を作成し調査した。なお本研究における転倒は,Gibsonの定義に従い過去1年間の転倒既往とした。統計解析には要介護者の転倒回数から,転倒のない群(N群),1-2回の群(A群),3回以上の群(M群)の3群に分類した。また,主介護者および要介護者における各測定項目は2水準因子についてはカイ二乗検定,Mann-WhitneyのU検定で評価し,3水準の因子については一元配置の分散分析を用い,下位検定には,Tukey-Kramerの多重比較を行った。なお,統計処理はSPSS15.0を用い,全ての統計処理において有意水準5%と未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に研究目的,意義,調査は匿名であり,研究によって得られた個人情報は研究以外には使用しないこと,研究協力は任意であり,協力を拒否したことによる損害は一切ないことなど紙面で説明し,同意を得た上で研究を行った。【結果】要介護者の転倒率は56.4%であった。要介護者のFPSEは,N群19.1±5.2(平均値±標準偏差)点,A群16.7±4.5点,M群15.3±2.3点で,3群間で比較するとN群とM群の間に有意差を認めた(p<0.05)。また,主介護者のFPSE変法は,N群20.6±6.2点,A群18.3±7.3点,M群17.8±4.2点とM群が低下する傾向であった。要介護者のFIMは,N群とM群の間で有意差を認め,M群が低値を示した(p<0.05)。主介護者のJ-ZBI_8は,N群とM群,A群とM群の間で有意差を認め,いずれもM群が高値を示した(p<0.01)。主介護者のPCGモラール・スケールは,N群とM群の間で有意差を認め,M群が低値を示した(p<0.05)。また,FPSEの主介護者と要介護者の比較において,転倒回数別ではM群の両群間で要介護者が有意に高値を示した(p<0.05)。しかし,その他の項目に関しては各群間に有意差を認めなかった。【考察】本研究では,要介護者の転倒に着目し,主介護者の心理的側面を中心に検討した。転倒に関しては,70歳以上の要支援・要介護者の転倒率は50.0~65.2%と報告があり(三浦,2007),今回の対象者の転倒率とほぼ同じ結果であった。要介護者と主介護者の転倒回数とFPSEとの関連をみると,いずれも転倒回数が多いほど自己効力感が低くなる結果であった。すなわち,複数回の転倒は要介護者だけでなく,主介護者の自己応力感も低下させていたが,主介護者の方が要介護者より高かった。今回の研究では,どちらに要因があるのか言及することはできないが,乖離が生じることで関係性が崩れる可能性があり,互いにどのように理解しているのかバランスを取っていく必要があると考えた。また,主介護者の主観的幸福感はM群で低下し,介護負担感はM群で増大していた。複数回の転倒は,主介護者の精神状態に影響して心理的な問題を抱える形となることが示唆され,主介護者に対して心理的に支えるようなサポートが必要であると考えられた。以上のことより,要介護者の複数回の転倒は,捉え方に差異はあるものの主介護者の自己効力感も低下させるため要介護者,主介護者双方への心理的な支援が必要であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は主介護者の心理的側面に着目し,主介護者と要介護者の転倒不安感の捉え方を明らかにしたものである。我々が介護者の心理状態を把握することで,介護者に対して精神的なサポートをどのようにすべきか介入方法を支援する一助になると考える。
  • ~認知機能低下がE-SASスコアや運動機能に与える影響~
    上原 光司, 小杉 正, 後藤 友希恵, 是永 優華, 保原 啓志, 石原 拓郎, 大井 康史, 欅 篤
    セッションID: 0413
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】認知症患者は462万人に上るといわれており,軽度認知症を含めると高齢者の4人に1人が認知症,またはその予備軍であるといわれている。また超高齢社会を迎えた我が国は,今後75歳以上の年齢層しか人口が増えないと予測されており,ますます認知症患者が増えることは容易に想像できる。当院では認知症の早期発見・進行抑制を目標とした初期もの忘れ外来を2010年より開設した。開設当初よりセラピストも介入し,神経心理検査・運動機能検査にて評価を行い日常生活指導や運動指導を実施している。日々の診療の中で我々は,運動機能だけではなく心理社会学的側面の評価をする必要性を感じ,地域在住高齢者の介護予防評価として日本理学療法士協会が開発した『高齢者の活動的な地域生活の営みを支援するアセスメントセット;Elderly-status Assessment Set』(以下E-SAS)を2012年7月から導入した。そこで今回は認知症有病率が高い後期高齢者に焦点をあて,初期もの忘れ外来を受診した後期高齢者の認知機能低下がE-SASスコアや運動機能に与える影響について調査を行ったので報告する。【方法】対象は2012年7月~2013年10月の間に,当院初期もの忘れ外来を初めて受診された後期高齢者58名(男性25名,女性33名)で平均年齢は80.6±3.4歳であった。全例独歩可能で日常生活は自立していた。E-SASは自己記入していただき,運動機能検査と神経心理検査を受けて頂いた。運動機能検査の内容は,運動器の痛み,転倒歴や運動習慣を聴取し,BMI,握力,大腿四頭筋筋力,10m歩行,Timed up and go test(以下TUG),開眼片脚立位,重心動揺検査(開眼静止立位・Cross Test)を測定した。認知機能に関しては,神経心理検査のMini-Mental State Examination(以下MMSE)を用い,23点以下で認知機能低下有りと判断した。統計解析は,認知機能低下の有無により分けられた2群間の比較を,対応の無いt検定またはχ2検定を用い5%未満をもって有意差ありと判断した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者には本研究の施行ならびに目的を詳細に説明し,研究への参加に対する同意を得た。【結果】全対象者のBMIは21.6±2.7 kg/m2,握力は24.3±7.4kg,大腿四頭筋筋力体重比は0.45±0.11kgf/kg,10m歩行は7.0±2.4秒,TUGは8.1±2.5秒,開眼片脚立位は16.8±11.0秒,重心動揺検査の総軌跡長は37.54±14.43cm,Cross Testの左右COP最大振幅は15.0±6.5cm,前後COP最大振幅は9.3±3.0cm,E-SASの生活の広がりは84.5±28.1点,入浴動作は9.9±0.2点,休まず歩ける距離は5.3±1.0点,人とのつながりは14.5±6.8点だった。また神経心理検査のMMSEは24.1±3.8点で,そのうち26名(45%)が認知機能低下を有した。そして,認知機能低下の有無で2群に分け運動機能検査の中で有意差が認められたのは,開眼片脚立位時間とCross Testの前後COP最大振幅であった。またE-SASでは,生活の広がり,人とのつながりの項目で有意差が認められた。【考察】本研究では,当院初期もの忘れ外来を受診した後期高齢者58名を対象とし,認知機能低下の存在率及びその有無が運動機能やE-SASにどのように関連しているのかを検討した。その結果,認知機能低下は対象者の45%に存在した。認知症の有病率は,74歳までは10%以下だが85歳以上で40%超となるといわれており,今回の研究もそれと同等の値であった。そして認知症高齢者は,注意力の低下などから転倒する機会が増加するといわれ,外出機会の減少や活動量低下に伴い基本運動能力も低下すると考えられている。本研究の2群間でも,片脚立位とCOP最大振幅に有意差を認め,その他の項目も認知機能低下群で運動機能が低い傾向にあった。そのため,運動機能が落ちやすい認知機能低下高齢者には,良質な運動器を保つことは極めて重要なことだと考えられる。また今回我々が注目したE-SASの生活の広がり,人とのつながりの項目でも有意差を認めた。加齢に伴う虚弱による生活空間の狭小化や,独居高齢者の増加により地域や人とのつながりが減り他人と会話することさえ無くなっている現社会では,認知機能低下に心理社会的な要因が多く関与していることが考えられた。本研究結果から,ADLが自立しているような後期高齢者においては,良質な運動機能を保ち続け生活の広がりと人とのつながりを意識した活動参加をすることで,認知機能やADL低下を予防でき健康寿命の延長が期待できるのではないかと考えられた。【理学療法学研究としての意義】介護予防分野における理学療法士は,運動機能面だけではなく生活の広がりや人とのつながりなどの心理社会学的要因にも注目して運動指導を行うことで,より非薬物療法としての効果を得られる可能性がある。
セレクション
  • 豊田 輝, 坂上 昇, 加藤 宗規, 高田 治実
    セッションID: 0414
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】理学療法士は,義足装着下での歩行練習を実施する下肢切断者に対して義足歩行分析を必ず実施するが,経験の浅い理学療法士や養成校の学生(以下,初学者)がこれらを的確に実施することは容易ではない。これまでに我々は,その要因のひとつとして,初学者が参考とする専門書の多くが「異常歩行の種類とその原因」の記載に留まっていることを指摘してきた。また,その改善案として下肢切断のリハビリテーションに10年以上従事した経験を持つ理学療法士(以下,熟練者)らを対象として,眼球運動計測装置(NAC社製EMR-8,以下EMR-8)を用いて作成した観察手順書を紹介してきた。そこで本研究では,この観察手順書を用いた学習方法の有用性について検討することを目的とした。【方法】対象は,理学療法士養成校4年次生24名(平均年齢22.8±4.4歳)とした。また,本研究に先立ち「事前課題」として異常歩行の原因や対処方法などを問う10設問(制限複数回答形式)からなる試験を実施し,正答数を算出した。方法手順について以下に示す。まず,片側大腿切断者の正常歩行映像(ソケット不適合やアライメント異常がない状態の歩行映像)をスクリーンに投影し観察させた後,「学習前歩行観察」として2つの異常歩行映像(意図的にアライメントの異常を設定した上で歩行させた映像,課題1は外側ホイップ,課題2は側傾歩行)を観察させ,異常歩行の名称を回答するように求めた。また,回答できるまでの時間を観察所要時間として計測した。この際対象は,EMR-8を装着した状態でスクリーンへ投影された映像を3m離れた場所から端座位姿勢で歩行分析を行った。次に対象を「事前課題点数」と「学習前歩行観察での異常歩行の名称」の正答数が均一となるように2群に分けた。対照群には,共通した専門書を教材として異常歩行観察に関する自己学習を行わせ,介入群には,先行研究から作成した観察手順書を教材として熟練者が説明した。尚,両群ともに学習時間は10分間とした。最後に「学習後歩行観察」として,学習前歩行観察と同様の設定にて異常歩行映像(課題3は伸び上がり歩行,課題4は側傾歩行)を観察させ,異常歩行の名称を求めるとともに観察所要時間を計測した。得られたデータの解析方法は,EMR-8によって歩行観察時の視野映像に注視点を表示させるとともに,解析ソフト(以下,EMR-dFactory)によって視線軌跡及び停留点(0.1秒以上)の定量解析を行った。統計的手法としては,異常歩行名称正答率にはχ2検定を用い,評価所要時間にはMann-WhitneyのU検定を用いて検討した。また,いずれも危険率5%未満を有意水準とし,全ての分析にはPASW Statistics18を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】対象には,事前に本研究目的及び本研究で知り得た情報が個人を特定されるような形で公開されないことなどを説明した後,書面にて研究協力に対する同意を得て実施した。【結果】観察所要時間の中央値(四分位範囲)は,「学習前歩行観察」において対照群で79.6(47.0~107.7)秒,介入群で61.9(32.2~76.8)秒,「学習後歩行観察」では,対照群で54.4(24.6~110.6)秒,介入群で49.7(41.1~74.5)秒であり,両群ともに学習前後の観察所要時間に有意な差は認めなかった。異常歩行名称の正答者は,課題1で対照群が3名,介入群3名,課題2で対照群が2名,介入群が2名,課題3で対照群6名,介入群10名,課題4で対照群4名,介入群が11名であり,課題4のみ有意に介入群が正答していた。EMR-dFactoryによる注視項目分析と停留点分析では,「学習前歩行観察」において各群ともに異常歩行の種類,遊脚期,立脚期を問わず身体のあらゆる部位を無作為に観察しており,注視点,停留点及び注視順の全てにおいて分散した状態であった。一方,両群ともに「学習後歩行観察」の正答者では,熟練者の歩行観察手順で示された特定の異常歩行における遊脚期,立脚期に共通した注視点,停留点及び注視順を観察していた。【考察】本研究結果から義足歩行観察は,初学者にとって難易度の高い課題であることが推察された。しかし,観察手順書を用いることで一度経験した課題であれば正答率を高めることができるのではないかと考える。さらに,正答者の注視項目及び停留点分析結果が熟練者の観察手順内容と同様であったことから,初学者が的確な義足歩行観察技能を習得するためには,義足歩行観察手順書の存在は大きな役割を果たす可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】歩行観察手順書を用いた学習方法は,初学者が義足歩行観察技能を習得する際に有用な学習方法であると考える。つまり,義足歩行観察手順書を用いることで義足歩行観察技能における学習効率が高まることが示唆された。
  • 藤本 静香, 藤本 修平, 太田 隆, 金丸 晶子
    セッションID: 0415
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】在宅での日常生活動作や手段的日常生活動作(まとめてADLと称する)を把握することは,在宅生活を安全かつ効率的に送るうえで重要である(Brown et al.,2013)。変形性膝関節症(膝OA)のように,外来で介入する対象では直接在宅生活を見る機会がなく,病院で実施する評価からADLを予測することになる。実施環境の制限から,簡便な基本動作の評価を統合して予測することが求められる。これまで我々は膝OA患者における基本動作とADLの関連について明らかにした(藤本ら,2012)。一方,臨床実習では,学生が様々な基本動作を統合して実用的な動作を予測することは容易ではない。療法士が様々な基本動作からどのようにADLを予測するかを説明し,学生の理解を促すように指導することをしばしば経験する。学生に有効な指導を行うためには,学生がどのように基本動作とADLの関連を捉えているかを明らかにすることが重要である。そこで,本研究の目的は,どのような基本動作がADLに関わると学生は考えているのかを探索的に検討することとした。【方法】対象は,理学療法士および作業療法士の養成課程に所属する学生95名(男性47名,女性48名;平均年齢21.5±2.9歳;2年生34名,3年生35名,4年生26名)とした。対象に,アンケート調査を行ない,基本動作とADLの関連についてどのように思考しているか検討した。アンケート調査に用いる基本動作,ADLの項目については,日本整形外科学会治療判定基準の膝OA治療成績判定基準や日本版膝OA患者機能評価表,Western Ontario and McMaster Universities osteoarthritis indexなど,国内外15種の膝関節機能評価表から抽出し,基本動作に関連する19項目,ADLに関連する19項目を選択した。アンケート調査は,横列に基本動作,縦列にADLを記載した19×19マスの格子状の評価用紙を用い,関連すると考えられる項目同士の格子に印を付ける様式とした。対象には,膝関節の機能障害を想定した場合に,ADL遂行のために必要と考えられる基本動作を必要なだけ選択するように指示した。評価用紙は,項目順序の影響が相殺されるように,基本動作とADLを各々2分割し,ブロック毎に順序を入れ替え,計4種類の評価用紙をランダムに配布した。解析は,まず全ての対象に関して,基本動作およびADLの項目パターンを分類するため,クラスター分析を実施した。さらに,ADLに関連する基本動作にどのような傾向があるかを検討した。また,就学年数による傾向を検討するため,就学年数ごとに層別化して同様の解析を実施した。クラスター間の距離は平方ユークリット距離を用い,分類法はウォード法とした。以上の解析にはSPSS12.0J for Windowsを利用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理委員会の承認を受け,ヘルシンキ宣言に則り,対象には事前に研究内容を十分に説明し同意を得た。【結果】全ての対象に関して実施したクラスター分析では,基本動作・ADLともに6群に分類された。基本動作は,A(歩行,立位保持),B(移乗,立ち座り),C(床に身体をかがめる,しゃがむ),D(階段昇降,坂道の上り下り),E(膝立ち,膝を前につく),F(床上動作,片脚立位など)に分類された。ADLは,a(重い物を運ぶ,掃除機の使用,簡単な掃除など),b(食事の後片付け,炊事),c(下衣着脱,靴下着脱),d(床の拭き掃除,床の物を拾う),e(自動車の乗り降り,トイレ動作,入浴),f(外出,買い物,習い事や友達付き合い)に分類された。これらの分類に関して,就学年数ごとの傾向は認められなかった。基本動作とADLの関連について,80%以上の学生がADLに関連すると判断した基本動作は,A>B>Cの順に多く,AはADLのa,b,fに,BはADLのeに,CはADLのfに大きく関わっていた。学生はその他の基本動作を重要とは考えていなかったと,判断された。【考察】膝関節の機能障害を想定した場合,学生はADLに関連する基本動作として,立位動作およびしゃがみ動作を多く選択することが明らかとなった。一方で,外出や買い物といった手段的日常生活動作に関して,先行研究によって関連性が示されている階段昇降や立ち上がりといった項目については,多くの学生は選択しなかった。これは,学生が手段的日常生活動作に必要な場面を想定できないと考えられ,より実践に近い臨床経験を多く提示することの必要性を示唆した。【理学療法学研究としての意義】本研究により,療法士が経験的に予測するような基本動作とADLの関連性について,学生の思考が明らかとなり,効率的な説明やどのような経験が必要かを判断する一助となった。
  • ~客観的臨床能力試験(OSCE)を用いて~
    田房 正寛, 小島 伸枝, 田中 良明, 雄谷 太一, 由水 麻里香, 高村 雅二, 木村 憲仁
    セッションID: 0416
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】近年,臨床技能を評価する方法として医学教育を中心に客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination:以下OSCE)が取り入れられている。理学療法教育においても,養成校では実習前試験として,各施設では卒後教育として導入されている報告がある。当院では平成24年度より臨床実習生の理学療法評価技能において,指導者(Supervisor:以下SV)以外の第三者によるOSCEを実習初期と終期に実施する取り組みを開始した。今回,当院臨床実習における学生の理学療法評価技能変化の傾向について検討した。【方法】対象は平成25年4月から10月までに,当院理学療法科で総合臨床実習を行った学生20名。OSCE課題は①関節可動域検査(以下ROM-t),②徒手筋力検査(以下MMT),③形態計測,④筋緊張検査,⑤表在感覚検査,⑥深部感覚検査,⑦12段階式片麻痺機能テスト,⑧深部腱反射検査の8課題とし,各課題には6~13の小項目を設けた。小項目は,「オリエンテーション」と「検査技能」の2つの大項目から構成されている。採点方法は,課題毎に当院が作成したOSCE評価指標に則り,1~5点で採点し計40点満点とした。OSCEの試験官はSV以外で,リハビリテーション部のOSCE評価者規定基準を満たした理学療法士(理学療法士経験6年以上)1名,模擬患者は職員用評価技能試験に合格した理学療法士(理学療法士経験2年以上)1名とした。1度目は実習開始2週目に実施し,結果を学生とSVにフィードバックし指導に反映させ,2度目は実習終了1週間前に実施し,成績は試験官がつけた。検討は,合計点は対応のあるt検定,各課題点数についてはWilcoxonの符号付き順位和検定を使用し,1度目と2度目の差を比較した。有意水準は5%とした。また,大項目および全74小項目中,1度目の適正率(適正に実施できた小項目数/実施小項目数)が最も低かった5項目について,1度目と2度目における適正率の変化を検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,個人情報の管理には十分配慮し実施した。【結果】全対象学生合計の平均点が1度目19.35点,2度目27.80点であり有意な改善を認めた。各課題においても全ての課題で点数の向上を認め,深部感覚検査以外の7課題に有意な差を認めた。2つの大項目「オリエンテーション」,「検査技術」における適正率の変化(1度目→2度目)は,①ROM-t,②MMT,③形態計測,④筋緊張検査,⑤表在感覚検査,⑥深部感覚検査,⑦12段階式片麻痺機能テスト,⑧深部腱反射検査の順に,オリエンテーションの適正率変化は,①56%→88%,②62%→84%,③50%→75%,④65%→93%,⑤60%→90%,⑥25%→55%,⑦77%→90%,⑧77%→88%となった。同じく検査技術の適正率変化は,①58%→77%,②74%→83%,③61%→84%,④70%→83%,⑤72%→80%,⑥58%→70%,⑦75%→85%,⑧63%→82%,となった。また,1度目の適正率が下位5項目と適正率の変化(1度目→2度目)は,[1]深部感覚検査:運動開始・終了のタイミングが把握できるか確認し信頼性の向上を図る(17%→37%),[2]深部感覚検査:大まかな感覚検査を実施する(スクリーニング)(25%→55%),[3]ROM-t:正確にゴニオメーターを当てている(35%→50%),[3]ROM-t:測定結果が妥当解と比較して±5°以内である(35%→65%),[3]深部感覚検査:その他の刺激を排除できている(35%→45%)となった。【考察】合計点および7課題にて,2度目のOSCEでは有意な点数向上を認めた。先行研究ではOSCEが臨床技能における課題の早期発見手法として有効であると報告されており,今回の結果においても実習初期に実施された1度目のOSCEにより,早期に学生の評価技能における課題が明確となり,SVは効率的な指導が可能になったと考える。大項目の適正率変化の結果より,オリエンテーション項目は1度目のOSCEでは適正率が低いが,2度目のOSCEでは検査技術項目と比較し,改善しやすい傾向がみられた。オリエンテーションにおいては1度目のOSCE結果とフィードバックを活かし,適正率向上に結び付けやすいことが考えられる。一方,検査技術では検査の知識・理解に加え,手技の上達が不可欠であり,一定の練習量が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】今研究より,臨床実習において,SV以外の第三者によるOSCEの実施が理学療法評価技能向上に有効であることが示され,養成校および臨床実習施設での学生指導の一助となると考える。
  • 河辺 信秀, 渡部 祥輝, 岡崎 浩二, 清川 恵子, 古谷 実, 坪内 敬典, 水野 智明, 大竹 泰史, 米本 竜馬, 櫻井 亮太
    セッションID: 0417
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年,臨床実習における教育方略はクリニカル・クラークシップ(以下CCS)への移行が推奨されている。CCSは学習理論を基軸に,デスクワークではなくクリニカルワークを中心とした教育システムである。当校では,平成24年度第3学年(13期生)の臨床実習からコンプライスの改善,臨床実習の教育化を目的にCCSを導入した。患者担当制による従来の実習方式では,先行研究においてState-Trait Anxiety Inventory(以下STAI)で計測した不安が臨床実習前および実習中で高いとされている。Profile of Mood States(以下POMS)での検討においても,実習開始1ヶ月前の段階で健常学生と比較して不安が強く,実習終了後と比較して実習中の不安が強いことが示されている。藤井らは,心理的ストレスの原因としては,レポートなどの課題遂行が47.3%と最も多いと報告した。これらのデスクワークによる心理的ストレスは,CCSの導入によって軽減することが予測される。そこで,今回,我々はCCS導入前との比較によって,CCS導入により学生の心理的ストレスが軽減しうるか明確にすることを目的に研究を行った。【方法】対象はC専門学校12期生25名(F群),13期生47名(CCS群)であった。F群は年齢23.5±3.6歳,男性20名,女性5名,CCS群は年齢22.7±3.0歳,男性35名,女性12名であった。F群の臨床実習は到達度評価,症例発表・レポート,課題レポートの存在する患者担当制での実習形態であった。CCS群の臨床実習は形成的評価,技術単位診療参加システム,見学・模倣・実施の原則,脱レポートなどに基づくCCSによる教育スタイルであった。第4学年2期総合臨床実習(7週間)を研究の対象とした。心理的ストレスの評価は,STAIとPOMSを用いた。実習開始前に記入方法について説明し,評価用紙を配布した。実習前(開始1~4日前),実習中(開始後3週目終了時)に自宅にて評価用紙に各個人で記入した。実習終了後に評価用紙を回収した。STAIは特性不安と状態不安における不安存在項目(P),不安不在項目(A),合計を得点化した。POMSは「緊張-不安」「抑うつ-落込み」「怒り-敵意」「活気」「疲労」「混乱」の各尺度を得点化した。統計解析は,IBM SPSS statistics 21.0を用い,危険率5%未満を有意水準とした。反復測定の2元配置分散分析およびBonferroniの多重比較を同時に実施した。【説明と同意】研究目的,方法,個人情報保護に関して口頭にて説明し同意を得た。【結果】実習前の特性不安合計得点およびP得点,状態不安合計得点およびA得点,POMSの「緊張-不安」において有意差がみられ,F群と比較してCCS群で不安が強い傾向にあった(47.6±9.2 vs 53.5±9.3,21.0±5.6 vs 25.3±6.2,48.4±11.1 vs 54.3±9.3,28.8±5.9 vs 32.6±5.3,14.7±7.6 vs 18.5±7.0;P<0.05)。CCS群の特性不安合計得点およびA得点,状態不安合計得点およびA得点,POMSの「緊張-不安」において有意差がみられ,実習前と比較して実習中に不安が軽減する傾向にあった(53.5±9.3 vs 50.0±11.0,28.2±5.2 vs 26.0±6.0,54.3±9.3 vs 48.9±10.3,32.6±5.3 vs 28.3±6.2,18.5±7.0 vs 16.5±6.9;P<0.05)。POMSの「疲労」では,群の主効果がみられ,交互作用はなかった。多重比較では,F群と比較してCCS群で実習中の不安が軽減していた(16.2±6.7 vs 12.3±7.0;P<0.05)。3度の臨床実習期間中にF群では3名の実習中断がみられたが,CCS群では存在しなかった。【考察】本研究では,実習開始前にCCS群で不安が強かった。しかし,状態不安だけでなく,個人が元来備えている心理状態である特性不安でも差がみられた。従って,CCS群は,F群と比較してやや心理的不安の強い傾向の集団であった可能性がある。先行研究においては,実習前および実習中に心理的ストレスが強かった。しかし,本研究ではCCS群で実習中の不安が軽減した。楽しさや創造性などの前向きな気分を反映するA得点で改善がみられ,POMSの結果でもCCS群は心理的疲労感が少なかった。これらは,日々のデスクワークが心理的ストレスの原因であるとした先行研究の結果を考えると,クリニカルワークを中心とした教育システムが臨床における理学療法技術の獲得に対して前向きに取り組む心理状態を生み出し,心理的な疲労を減少させたためであると推測される。CCSによる心理的ストレスの軽減は実習中断の減少にもつながっているであろう。以上のようにCCSによる臨床実習は心理的ストレスを軽減させたが,今後は,本来の目的である教育効果に関して検討を加えていく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,臨床実習における精神的健康度の悪化という問題を解決するための一つの方略を提示したという点で意義がある。
  • 学生の理解度を把握する方法の検討
    大寺 健一郎
    セッションID: 0418
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当学院では,平成24年度臨床実習からクリニカルクラークシップ(CCS)による実習指導を臨床実習指導者(SV)に推奨している。第48回の本学会において,その実施状況の把握とCCSを現場に導入していくための方法論を模索し報告した。平成25年度はその結果を踏まえた上で学生の理解度に関するアンケートを行い,昨年課題に挙がった学生の理解度を把握する方法の具体的な方向性について一定の知見を得たので報告する。【目的】臨床実習(長期実習)指導に関するアンケート調査を実施し,CCSの実施状況を確認するとともに,今後レポートに代わるツールとして臨床実習における学生の理解度をどのように把握するか,その方法論の具体的な方向性を検討する。【方法】SVに臨床実習指導方法(レポート指導・CCS・レポート指導とCCSの併用)と,学生の理解度に関するアンケート調査を実施した。アンケートは留置式で複数回答,内容は①学生の理解度を把握するための方法に関する質問(11項目),②学生の理解度を把握するために欲しいツールを尋ねる質問(9項目),③レポート評価で重要視するポイントを尋ねる質問(10項目)とした。有効回答は実習2期分で,レポート指導のSV(レポート)が19名,CCSのSV(CCS)が18名,レポート指導とCCSを併用したSV(併用)が50名の合計87名から回収した。調査結果の分析にはMicrosoftExcel 2010とフリーソフト“R”ver2.11.1を用い,基本統計および数量化III類によるカテゴリースコア・サンプルスコアの算出と散布図の作成,分析の視点となる軸の設定と分析および解釈を行った。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に従い,アンケート調査に際してはSVに研究を目的として行うこと,個人情報などの漏洩がないことを紙面上で説明し,回答の返却をもって同意を得たものとした。【結果】①では,数量化III類を用いて質問項目に対するカテゴリースコアを基に分析の視点となる軸を設定した。水平軸には臨床能力(プラス成分)と課題作成能力(マイナス成分),垂直軸には記録とコミュニケーション(プラス成分)と実際の検査測定(マイナス成分)を取って直交グラフにした。次にこのグラフ上に各SVのサンプルスコアによる散布図を作成して,指導別に学生の理解度を把握する方法の特性について分析した。CCSでは水平軸の臨床能力にプロットが多く,レポートと併用では垂直軸全体の周辺にプロットが多くなる傾向にあった。一方レポートでは,当初予測された水平軸の課題作成能力への偏りは比較的なかった。また併用では,臨床能力と課題作成能力の双方を評価する傾向も見ることが出来た。次に②では,全体を通して集計した結果,「学生の思考過程が見える」(57件)「ケースごとの記録と考察が書ける」(37件)「評価から治療への流れが追いやすい」(23件)の3項目が欲しいツールとして回答数が多かった。③では,②と同様の集計で「問題点の関連付け」(77件)が最も回答数が多かった。その次に「臨床推論能力」(47件)「理学療法に関する知識」(39件)「検査測定の正確性」(37件)「運動療法の治療計画」(32件)が続いていた。【考察】①の結果から,CCSは比較的臨床能力を評価する傾向にあったものの,レポートおよび併用では当初想定された課題作成能力に偏った結果ではなかった。これはこれまで問題とされていたレポート作成偏重の指導ではなく,臨床場面でのリアルな経験も十分考慮された実習に移りつつあることを示唆している。この傾向は併用のグラフで著明に見られ,垂直軸を挟んで縦に広がった分布となっているものの,臨床経験と課題作成のバランスが意識されているのではないかと考えられる。次に臨床経験を持たせながら学生の理解度を把握するツールをどのように設定するか検討した。ヒントとして②の結果を検証したところ,実際の現場で使用している患者カルテや,評価や考察および治療内容を記載する計画書の作成につながる要素であることが容易に考えられた。また③の結果から,SVがレポートを評価する時に重要視している項目が「問題点を関連付け」としての統合と解釈と,その過程で繰り返される「臨床推論能力」であるということから,より臨床に近い実践要素を含んだ,学生の理解度を簡便に分かりやすく表現できるツールの開発が期待されていることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】今回の調査では,臨床実習の中で学生の理解度を把握する方法が,現場での実践に近い形で展開されており,それが簡便な方法で形になるツールが期待されていることがわかった。今後は臨床の現場で実際に使用できる具体的なツールの開発を進めていく。
  • 臨床教育支援用DVDの制作
    堀本 ゆかり, 山田 洋一, 佐々木 嘉光, 中澤 陽介, 内田 全城, 石神 理恵, 鈴木 りえ
    セッションID: 0419
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】理学療法士養成校での臨床実習は,専門分野の34%を占めており,その成果は理学療法士育成の大きな位置づけとなっている。臨床実習指導者(以下,指導者)はロールモデルとして存在し,指導者と学生との関係性はその進捗に影響を与える。臨床実習の進捗が滞る原因は,学生の資質的課題,臨床実習施設および養成校の関わり方など多くの要因が存在する。臨床教育を向上させるためには,学生に関わる関係者が積極的な議論を行う必要がある。情意領域に関する議論は,捉え方によって偏る懸念があるため,言語に符号化された情報では十分に理解できない場合も少なくない。そのような状況を回避し,臨床実習指導者の教育力向上のティーチングティップスとして,臨床教育支援用DVDを制作し,その満足度について質問紙調査を行ったので報告する。【方法】DVDは静岡県理学療法士会 教育・管理系専門部会委員と有志の理学療法士により2本制作した。全視聴時間は約20分である。1本目は臨床実習NG集と題し,「学生の人格否定」「学生の孤立化」「パワハラ」「国語力の指導」「過剰な量の課題」の5つの場面で構成されている。2本目は症例検討会編でGOOD・NO-GOODの2部構成となっている。内容は,在学中に臨床実習指導で経験された事案をもとに台本を作成し,寸劇形式で撮影した。編集作業では,1編を短時間にとどめ,わかりやすさと見る側の負担感を軽減するように工夫した。DVDは16県22施設に貸出を行った。内訳は県士会5件(22.7%)大学4件(18.2%)専門学校8件(36.4%)臨床実習施設5件(22.7%)である。貸出に際して,質問紙調査を依頼し,同意が得られた場合のみ返送いただく事とした。質問数は7項目で満足度と利用状況について調査した。質問紙回収数は26件(100%)で,臨床実習施設13件,養成校13件である。得られた結果を集計し,p<0.05で統計的処理を行った。【倫理的配慮,説明と同意】DVD制作およびレンタルに関しては,出演者および一般社団法人静岡県理学療法士会の了承を得た。また,DVDレンタル時に趣旨を説明し,同意が得られた場合に質問紙返送を依頼した。質問紙の内容に関しては,個人あるいは団体が特定されないよう配慮した。【結果】DVD視聴後の満足度では,満足72.0%,やや満足20.0%,やや不満8.0%であり,DVD版ティーチングティップスの教育的効果は有効92.3%,どちらとも言えない7.7%という結果であった。しかし,満足度をダミー変数に置き換え,一元配置分散分析で解析した結果,臨床実習施設と養成校では,分散比10.2,p<0.01で差を認めた。双方のコメントについても,臨床実習施設側はDVDの内容は現実的であると捉えており,教育力の向上に向けた建設的な意見が大半であった。一方,養成校側のコメントではDVDは非現実的であると捉える教員が存在し,満足度にバラツキが生じた。実習内容の改善に向けられるような意見は少ない傾向であった。有効と思われるDVDの利用方法に関しては,「臨床実習指導者研修会」100%,「新人教育プログラム」65.4%「各種研修会」30.8%,「ハラスメント研修会等」23.1%であった。【考察】木村によると,臨床実習の指導のあり方の多くは,指導者個々の価値観や経験則に基づいた実習指導として行われているのが実情のように思われると報告しており,指導者の資質に大きく左右される。DVDによる話題提供は,客観的な振り返りを促し,汎用的な場面で活用を可能にする。また,視聴者の共通認識を高めることができ,抵抗感や負担感を軽減することができる。視聴覚用メディアの利用は,学習者の興味を喚起し,視覚的イメージをもとに思考を構築するため議論に発展しやすい。Paivioによる二重符号化理論では人間の認知活動は,言語に符号化された情報と非言語的システムという2つのサブシステムは独立して存在し,加算的に学習効率を向上させるとされている。職場での認知的徒弟制度という学習デザインの成功体験は,臨床実習教育へのよりよい関わりを保証する要因とも成り得る。その学習デザインの中に,視点を明確にしたテーチングティップスを組み込むことにより,人材育成システムの効率化が期待できる。臨床実習施設は複数の養成校より臨床教育を委ねられている事が少なくない。短期間で学生の変化を期待する分,指導者にかかる役割も大きい。臨床実習指導者の教育力向上が議論にあがるが,今回の臨床実習施設と養成校の認識の解離は,養成校教員の学生理解と臨床実習施設との連携の質,教員の臨床実習内容への関心度に潜在的な課題があるように捉えられる。【理学療法学研究としての意義】若手臨床実習指導者の急増により,徒弟制度を利用した臨床教育には限界が生じている。短編DVDでのテーチングティップスを使用する事により,客観的に事象を捉え,議論に発展させることができる。
  • 湯地 英充, 池田 耕二
    セッションID: 0420
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】現在の理学療法臨床実習は,臨床実習指導者(以下,指導者)に教育資格がない等の諸問題を抱えており,その有り方や指導方法は迷走している。そのため指導を不慣れとする新人・中堅指導者の不安や心理的負担は大きくなっている。こうした問題は,同じ構造をもつ作業療法臨床実習にもあると思われ,後輩・指導者育成という観点から解消すべき問題の一つと考えられる。本研究の目的は,理学療法,作業療法臨床実習(以下,臨床実習)にある新人・中堅指導者の不安増幅プロセスを可視化し,それを視点に不安軽減対策を検討することである。【方法】対象者は,臨床実習を考える勉強会の参加者23名であり,その内訳は,理学療法士17名,作業療法士6名,性別,男性18名,女性5名,平均年齢25.1±3.9歳,平均経験年数は4.0±2.3年であった。方法には構造構成的質的研究法(以下,SCQRM)をメタ研究にしたM-GTAを採用した。手順としては,23名を4つのグループに分け,フォーカスグループインタビューを実施した。各グループにはファシリテーターをつけ,インタビューガイドをもとにグループ内で1時間程度のディスカッションを行い,その内容をICレコーダーに記録した。インタビューガイドは,1)臨床実習指導者に指名された場合,あなたはどのような気持ちになりますか?2)なぜ,そう感じましたかを詳しく教えてください。3)最後に言い忘れたこと,言い残したことはありませんか?とした。次に,インタビューで得られた録音データをテクストデータに変換し,分析ワークシートを用いて概念を生成し,それらを包括するサブカテゴリーやカテゴリーを作成しつつ,臨床実習にある新人・中堅指導者にある不安増幅プロセスに焦点化しながらボトムアップ的にモデル構築を行った。【説明と同意】本研究では,対象者に本研究の目的や方法を説明したうえで口頭にて承諾を得た。【結果】構築されたモデルを以下に説明する(《 》は概念,〈 〉はサブカテゴリー,「 」はカテゴリーを示す)。本モデルでは,臨床実習において新人・中堅指導者は《自分でちゃんと指導できるかなという思い》,《いろんなタイプの学生に対して自分が対応できるのか不安》,《指導方法が正直難しいという迷い》からなる〈指導者の迷いや不安〉と《学生指導ができれば患者指導にもつながる》と《学生を一人前にしたり,成長させるような実習をしなければならないという思い》を有しており,それらを循環させる形で「揺れ動く指導者の思い」を構成している。また,指導する際には《先輩の見守りで自分が助かる》という思いと《経験を重ねた先輩が指導した方が良い実習になる》という思いの間で,「先輩との差から感じる不安」を感じている。こうした不安のなかで行われる臨床実習は,《余裕をもって実習指導を出来ない状況》を生み出し,《学生に対して厳しくなる》となり,「余裕がないことによって生じる事例」を発生さる可能性を高くしている。結果として,本構造を有する臨床実習は,《学生や先輩から評価されているという不安》を生み出し,それが「揺れ動く指導者の思い」に影響し,不安増幅プロセスを形成している。【考察】本研究で用いたSCQRMは視点提示型研究法であり,本構造を視点とすることで事象の捉え方を変化させることができるとされている。これに従えば,臨床実習における新人・中堅指導者の不安増幅プロセスは,指導者の内に抱える「揺れ動く指導者の思い」と「先輩との差から感じる不安」,その結果からくる《学生や先輩から評価されているという不安》によって構成されているといえる。指導者の揺れ動く思いには,適切な指導が自分にできるかという不安や迷いが混在し,その一方で,指導は患者指導にも繋がるという思い(自己還元)や学生を一人前にしたいという責任感を有し,これが指導者の思いを揺さぶり不安を掻き立て増幅させているものと推察される。そのため,指導チーム等でお互いの迷いや不安,責任感等を共有できるような体制を構築しておくことが,不安軽減対策の一つになると考えられる。他方,「先輩との差から感じる不安」は,見守りで助かる面と先輩の方が上手に指導できるという自己嫌悪感からくるものと推察される。よって,不安軽減対策としては,実習施設内で指導者の育成体制を整え,各指導者に自信をつけさせていくことが有効と考えられる。それらの結果,余裕がないことで生じる事例等が回避され,学生や指導者から評価されているという不安を緩和し,新人・中堅指導者の臨床実習にある不安増幅プロセスを軽減していくものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】理学療法臨床実習にある新人・中堅実指導者の不安増幅プロセスを可視化し,不安軽減対策を提示できたことに本研究の意義があると考える。
  • 芳野 純, 臼田 滋
    セッションID: 0421
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】理学療法士の継続教育に限らず,成果を確認する教育評価は効率的な教育を実施する上で不可欠である。学習者自身が行う自己評価は学習の振り返りや自己効力感を高める等の効果があり,自己主導型学習を促すことができる。しかし外部からの評価が無ければ独善的になる可能性があるため,自己評価と指導者評価の乖離を埋めることは重要である。本研究は資格取得後3年未満の理学療法士に対して自己評価と指導者評価を実施比較し,その特徴を検討することを目的とする。【方法】本研究は,理学療法における臨床能力評価尺度(Clinical Competence Evaluation Scale in Physical Therapy:以下CEPT)を用いて調査を行った。CEPTは7つの大項目(理学療法実施上の必要な知識・臨床思考能力・医療職としての理学療法士の技術・コミュニケーション技術・専門職社会人としての態度・自己教育力・自己管理能力)と53の評価項目で構成され,各項目に対して4段階の評定を行う評価尺度である(合計53~212点:点数が高いとより能力が高い)。本研究の対象は関東圏内の9つ医療施設に所属し,資格取得後の経験年数が3年未満の理学療法士(以下,学習者)及び,学習者に対して指導的立場にある理学療法士(以下,指導者)各69名の計138名であった。CEPTを用いて学習者は自己評価を,指導者は学習者に対する他者評価を実施した。得られたデータはCEPTの合計及び評価項目毎に学習者・指導者間の差をWilcoxon検定にて解析した。さらに学習者のCEPTの合計と指導者のCEPT合計の差を求め,その69組の平均値及び標準偏差(SD)を求めた。学習者と指導者のCEPTの合計の差が「平均値+1SD」以上の学習者を過大評価群,「平均値-1SD」未満の学習者を過小評価群として,各群での評価項目毎の学習者・指導者間の差をWilcoxon検定にて解析した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属する大学院の疫学研究に関する倫理審査委員会より承認を得ている。データの回収において,学習者・指導者間で相互の評価結果を確認しないように配慮した。無記名にて実施したため対象者に対して書面にて研究内容を説明した。研究への同意は施設管理者のみから同意を得て,対象者個人に対しては同意書を作成せず,研究への協力をもって同意を得たものとした。【結果】対象者の平均経験年数(SD)は学習者1.2(1.0)年,指導者6.4(2.7)年であった。CEPT合計の平均(SD)は学習者121.2(19.3)点,指導者139.0(25.5)点であり有意に指導者が高かった。評価項目毎のWilcoxon検定の結果においては46項目で有意に指導者が高かったが,大項目の「臨床思考能力」に関する3項目,「コミュニケーション技術」に関する1項目,「専門職社会人としての態度」に関する1項目,「自己管理能力」に関する2項目は有意な差が認められなかった。学習者のCEPTの合計と対応する指導者のCEPT合計の差の平均(SD)は-17.9(23.6)点であり,学習者合計と指導者合計の差が5.7点以上の学習者を過大評価群,差が-41.5点未満の学習者を過小評価群とした(各12名)。過小評価群の学習者・指導者のWilcoxon検定の結果は,53の評価項目全てにおいて指導者評価が有意に高かった。過大評価群の結果は大項目の「臨床思考能力」に関する2項目,「医療職としての理学療法士の技術」に関する1項目,「コミュニケーション技術」に関する3項目,「専門職社会人としての態度」に関する1項目,「自己教育能力」に関する2項目,「自己管理能力」に関する1項目の計10項目で学習者の自己評価が有意に高く,「専門職社会人としての態度」に関する1項目のみ自己評価が有意に低く,その他は有意差が認められなかった。【考察】本研究の結果から,全体的には,経験年数3年未満の理学療法士は指導者による他者評価より,学習者自身の自己評価のほうが有意に低く評価していることが分かった。経験年数の浅い理学療法士は自己効力感が低いという報告もあり,これらの影響を受けている可能性がある。しかし過大評価群においては,「臨床思考能力」「コミュニケーション技術」「自己教育力」等の大項目に関するいくつかの評価項目は有意に自己評価のほうが高い結果となった。これらの項目は自己の能力に対して客観的に評価しづらいことが考えられ,適切に指導をする必要性があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】適切な学びを促すためには,自己評価と指導者評価の乖離を防ぐことが重要である。本研究は,自己評価と指導者評価を比較したものであり,これらを考慮した指導は理学療法士の継続教育に活用できると考える。
  • 松岡 雅一, 大工谷 新一, 藤波 良嗣
    セッションID: 0422
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】我々は,昨年度の当学術大会において,理学療法技術の客観的な評価方法を確立していく前段階として,立位で荷重を他動的に左右方向へ誘導するという技術について,重心動揺計を用いた理学療法技術の評価を試み,理学療法士の経験年数による差について検討した結果を報告した。その結果から,理学療法士の経験年数によって,立位で側方に荷重を誘導するというような比較的簡単な技術にも差があることが明らかとなった。そこで,同様の立位で荷重を他動的に左右方向へ誘導するという技術について,今回は加速度計を用いた理学療法技術の評価を試行し,理学療法士の経験年数による差についても併せて検討した。【方法】対象は理学療法士18名とした。被験者の平均年齢は25.1±3.4(22-36)歳で,理学療法士免許取得後の平均年数は2.2±1.6(1-7)年であった。被験者を免許取得後年数に基づき6名ずつの3群(A・B・C群)に分けた。各群の平均年齢と理学療法士免許取得後年数はA群では順に23.4±0.8歳,1年目のみ,同様にB群では24.5±0.8歳,2年目のみ,C群では27.9±4.4歳,4.2±1.5(3-7)年であった。各被験者には,立位をとらせた健常者1名(36歳男性)に対して左右交互への荷重を誘導させた。具体的には,後方から両手で骨盤を両側から把持して30秒間で10回以上(左右5回)の他動的な誘導をおこなわせた。誘導の順序は,安静立位で正中位を開始肢位とし,右,正中位,左,正中位の順で実施させた。なお,誘導の際には一側下肢に各々最も荷重が加わるように指示した。実施の際,各被験者の両手背部に加速度計(ユニメック社製)を設置し,他動的な荷重誘導時の理学療法士の上肢の使用状況について力学的様相を評価し,ソフトを用いて3次元的に解析した。具体的には,荷重を誘導した際に理学療法士の手部に生じる加速度について,加速時計から得られるX(上下方向)・Y(前後方向)・Z(左右方向)を3つの数値として算出し,各々の被験者の最大値の平均値と変動係数を算出した。また,各平均値の群間比較をTukey法による多重比較にて行った。なお,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,筆者の所属先の職員教育の一環として実施したものであり,就業規則に準拠したものである。また,被験者およびモデルとした健常者に対しては研究の趣旨を説明したうえで同意を得た。【結果】A・B群では,YとZにおいて値が大きく,特にZの値が大きい傾向を呈した。C群ではX,Y,Zの全てで低値を示した。3群間の比較において,ZについてはA群,B群と比較してC群では有意に低値を示した。変動係数では,A・B群のYに高値を示した。【考察】立位で荷重を他動的に左右方向へ誘導するという技術を免許取得後年数により客観的に評価することを加速度計の使用によって試みたところ,Z(左右方向)において免許取得後年数が長い群で有意に低値を示した。変動係数の分析からはA・Bの2群のYで高値を呈していた。以上のことから,本研究の結果として以下のことが示唆された。1.免許取得後年数が短い群よりも長い群の方が荷重誘導時の上肢による操作は少ない可能性があること。2.前後方向の荷重誘導方法については,免許取得後年数の長い群よりも短い群において,バラツキが多いこと。これらの結果から,理学療法士の免許取得後年数によって,立位で側方に荷重を誘導するというような比較的簡単で頻繁に実施される技術において,上肢の使用方法に差があることが明らかとなった。左右方向への誘導がA・Bの群で大きくなったのは,左右への誘導が上肢による操作が力源となっている可能性があると考えられた。C群では,上肢ではなく,自らの左右への体重移動を利用して左右への荷重誘導を行っている可能性があると考えられた。一方,一側下肢へ荷重を誘導する際,前後方向や上下方向に対しては,一定した正常パターンや理学療法士間での共通認識がなく,誘導の方向として留意せずに実施している可能性や経験則によって実施されている可能性があると考えられた。さらに,本研究の方法をもとに立位での荷重誘導の様相を数値化できれば客観的な比較が可能となり,その結果をもとに理学療法技術の伝達や教育に使用することが可能になると考えられる【理学療法学研究としての意義】本研究を応用することで,客観的に示すことが難しい理学療法技術を一部ではあるが,規定することができる可能性がある。特に加速度計を用いた理学療法技術評価は荷重誘導場面での介入における理学療法技術の伝達や教育,さらには技術トレーニングに有効な方法となることが期待される。
  • TUG遂行時の高齢者映像を使用した臨床経験の違いによる転倒予測の違い(質的研究)
    松田 徹, 井上 美幸, 吉田 晋, 村永 信吾, 大嶋 幸一郎, 川間 健之介
    セッションID: 0423
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】Timed “Up&Go”(以下TUG)Test,Functional Reach(以下FR),Berg Balance Scale(以下BBS)などを使用した転倒予測だけでなく,clinical judgment(以下臨床判断)の有効性が看護領域で報告されている。しかしPT領域での報告は少ない。第48回理学療法学術大会にて,PTの臨床判断による転倒予測の確かさについて,臨床経験による違いをTUG遂行時の高齢者映像を用いた量的研究から検討した。その結果,臨床経験が10年以上熟練することで,予測が確かとなることを示唆した。本研究は,臨床判断の基盤となる転倒予測の視点が,臨床経験によってどのような違いがあるか,質的研究から検討することを目的とした。【方法】対象は,臨床経験10年目以上のPT15名(以下「10年目以上」群),5~9年目のPT43名(以下「5-9年目」群),3~4年目のPT34名(以下「3-4年目」群),1~2年目のPT46名(以下「1-2年目」群),PT養成校に在籍する3,4年生32名(以下「学生」群)である。データ収集は,5~30名程度の集団毎に行った。使用した映像は,先行研究で用いた9名のTUG遂行映像であり,前額面,矢状面の順に,パソコン上の操作によりプロジェクターを通して映写した。被験者は,Visual Analogue Scaleを使用して,「転倒の危険性が非常に高い~転倒の危険性が全くない」で転倒予測を行った後,転倒予測の判断根拠について自由記述を行った。自由記述データの内容については,KH Coder(Ver.2)を使用してテキストマイニングを行い,特徴語の抽出と共起ネットワーク,対応分析の結果から検討した。特徴語は,臨床経験別に出現頻度が高く特徴的に使用された上位10個の言語を抽出した。共起ネットワークは,共起の程度が強い語を線で結び図式化した。対応分析は「抽出語×文章」の2元データをもとに,2次元の散布図として図示するものであり,出現パターンが似通ったものは近くに布置され,逆に出現パターンが異なるものは遠くに布置される。【倫理的配慮,説明と同意】筑波大学大学院人間総合科学研究科研究倫理委員会の承認を得て実施した(記番号23-6)。【結果】分析対象となった文章数は2,867文であった。分析の結果,総抽出語数は27,291語,うち異なり語数は1,673語であった。1,673語のうち,言語的内容の分析上で意味を有さない品詞(助詞,助動詞)を除外したことで,分析対象語数は1,431語となった。頻出する複合語は,言葉の意味を理解しやすくする目的で強制抽出するよう設定した。臨床経験別の出現頻度の高い特徴語は,各群ともに,TUGを構成する相に関する記述が上位を占めた。「学生」群の特徴として,「スムーズ」,「上手い」など抽象的な記述が多く,具体的な動作の異常に関する記述が少なかった。「1-2年目」群,「3-4年目」群,「5-9年目」群では「問題なし」が上位を占め,「重心」や「クリアランス」,「性急」などの記述がみられた。「10年目以上」群では,「問題なし」の記述がなく,「歩幅」,「狭い」,「不安定」,「性急」など具体的な動作の問題を示す記述が多かった。共起ネットワークも同様の結果を示し,「10年目以上」群では,「歩行」,「歩幅」との共起関係が強く,ついで「着座」,「立ち上がり」が強かった。それらに「不十分」,「足」,「立ち上がる」,「性急」,「狭い」,「安定」が共起しており,歩行の特性を示す多様な言葉との共起が多いのが特徴であった。対応分析の結果は,「1-2年目」群,「3-4年目」群,「5-9年目」群が比較的まとまった位置にあり,「学生」群と「10年目以上」群が,それぞれ他群から大きく離れて布置された。【考察】対応分析の結果は,「10年目以上」群の臨床判断による転倒予測の基盤となる視点が,他群とは大きく異なることを示唆するものである。特徴語,共起ネットワークの結果,「10年目以上」群の記述する内容が多様であることから,臨床経験を積むことで,転倒予測の基盤となる視点が多様化・具体化すると考える。10年以上の臨床経験を積むことで,多様な視点を習得し,また幅広い視点の中で患者の状態を評価することで,転倒危険の判断をより正確に行えるようになる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,臨床経験10年以上のPTの臨床判断による転倒予測の有用性を示唆するものである。また臨床経験による差を埋めるための臨床教育の必要性を示唆するものと考える。
  • 動画を使用した歩行分析と分析能力に関するアンケート調査
    山田 洋一, 堀本 ゆかり, 丸山 仁司
    セッションID: 0424
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】臨床における動作分析は理学療法介入を行う上で重要な情報であり,医学的・社会的情報などとの照合や原因を推察し,目標設定や介入内容を決定する重要な評価項目である。この評価はさまざまな装置を利用した客観的なデータ収集も可能だが,医療現場では装置が高価で導入は難しく,また,データ解析にも熟練を要するため,多くの現場では理学療法士(以下,PT)自身の評価に委ねられている。分析は観察から得られる視覚的情報が多く,得られた情報を分析する能力はPTの技能に左右されやすい。しかし,現状では決められた到達基準やトレーニング法はなく,組織内研修を中心に行われている。動作分析の重要性はPTにとって周知されているにもかかわらず,到達レベルの設定やトレーニング手法が開発されていないことは,動作分析が質的な情報を扱うことで暗黙知的な部分が解明されていないことによると思われる。本研究は動作分析の熟達度を解明する手がかりを解明することを目的に熟達群及び対照群にビデオ撮影した歩行動画を提示し評価を行わせた,また,評価後に分析能力に関するアンケート調査を実施した。【方法】ビデオ動画課題は脳血管障害による片麻痺者2名(以下,課題症例)で日常生活での歩行は自立している。熟達群は7名で,PT免許取得からの平均年数は24.57±7.76年,平均臨床経験年数は12.4±5.3年,属性は養成校(大学)教員6名,医療機関勤務1名であった。一方,対照群は73名で,免許取得からの平均年数は3.86±4.89年,臨床経験年数は3.9±4.9年であった。課題症例の歩行条件はトレッドミル上で本人が快適に歩行できる速度を設定し,矢状面(麻痺側:左),前額面(後方)より撮影した動画を各20秒に編集したものを作成した。熟達群および対照群には作成した動画を矢状面・前額面を続けて提示した後,指定した評価用紙に記載する作業を5回施行した。記載時間は5分以内とし,評価用紙は1回ごとに新しいものを使用し,回数を重ねるごとに気付いた評価を加筆させた。評価は自由記載とし,分析に使用する用語は臨床で日常使用しているものとした。回収後の回答は,解析前に用語を統一変換し,使用された用語数をキーワード数(以下,KW)として集計した。解析内容は1回ごとの動画から得られた情報量と正誤性,経験年数とし,熟達群と対照群を比較した。【倫理的配慮,説明と同意】すべての協力者には本研究の目的と趣旨について同意が得られた者を対象とした。また,個人情報の取り扱いについて十分配慮し,データは本研究以外に使用しないこと,個人が特定できないように統計処理を行った。【結果】熟達群の歩行分析は2症例とも全KW数の8割以上が2回目までで終了していた。熟達群は前額面および矢状面で40秒間の画像の分析を1クールとすると,概ね4クールで殆どの情報が収集されていた。一方,対照群は3クール目の情報収集が8割弱であった。また,熟達群の回答を基準とした対照群の誤答比率は2から3%だった。今回の調査では熟達群と対照群では時間的要因による特性差が大きい傾向を認め,免許取得年数との関係では取得後7から9年と10年以上でKW数における統計的有意差が認められた。アンケート調査では対照群の3割が視覚的に動作を追えない,情報との関連付け,現象と原因の追究に関して不十分であると回答していた。【考察】対照群における評価能力の課題は分析内容ではなく,分析に要する時間に課題があることがわかった。評価技術の向上には,認知領域と標準的な評価技術の習得が得られた後,短時間で必要な情報量を収集できるようなトレーニングを行うことが必要と思われる。熟練した理学療法士は我が国の医療を支えてきた。理学療法士のマンパワーが不足していた時代には限られた時間で多くの患者を診療することが通常であり,日常業務は評価と診療技術向上のトレーニングの位置づけも担っていた。現在は患者一人当たりの診療に費やす時間は保証され,若手理学療法士は時間をかけて介入することができる。評価の精度は向上しても,分析速度が伴うには相当の時間が必要であることがわかる。この乖離を小さくすることが今後の重要な課題と考える。アンケート調査では臨床推論に関して課題を抱えていることが示唆された。理学療法士の人口構造はひずみを抱えている。現状の改善には,現場管理者の認識と改善に向けた早急な取り組みが必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】今回の研究により,熟達群と対照群では分析にかかる時間に課題がある事が示唆された。動作分析の標準化は,大きな課題である。現状を整理し,改善に向けた策を講じる手掛かりとしたい。
  • アンケートによる意識調査から
    宮川 研, 板垣 仁, 六倉 悠貴, 相澤 孝一郎, 鐘司 朋子, 品田 良之
    セッションID: 0425
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】急性期医療を担う当院では,発症や受傷直後からリハビリテーション(以下,リハビリ)を行なっている。さらに在院日数の短縮化や対象者の高齢化・重症化に伴いセラピストに求められるリスク管理が高度化・多様化している。一方,リスクを恐れ積極的な急性期リハビリを実践できない現状は少なからずある。そのため,適切かつ万全なリスク管理が必要とされている。そこで当院リハビリ科スタッフの医療安全に対する認識を調査し,今後の対策を検討することを目的とした。【方法】当院リハビリ科における医療安全対策の現行を,再確認した。また,スタッフ18名を対象に,医療安全に対するアンケートを実施し,結果を集計した。さらに,2012年4月~2013年3月までのインシデントレポート報告(以下,レポート報告)の内容を集計し,アンケート結果との関連を検討した。アンケート内容は,①医療安全に関心はあるか,②ヒヤリハット(未報告のインシデント)経験の有無・内容,③意識消失事例の経験の有無・対応,④急変時のDr Callをためらうか,⑤レポート報告書作成の有無,⑥レポート報告するレベルを迷うか,⑦インシデントレベルの分類(以下,レベル分類)の認識,⑧医療安全に関する勉強会の必要性の8設問である。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿いアンケートの対象者には事前の説明を行い,同意を得た上で無記名にて実施した。データ収集や集計にあたり個人情報保護,匿名化等に厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」(平成20年7月31日全部改正)に従って対応した。【結果】現行の対策は,スタットコールの掲示,モニターと救急カートの設置,週1回のインシデント報告,年5回程度の院内勉強会や院内ICLSの参加と年1回の科内BLSの開催である。アンケート結果は,89%(16人)のスタッフが医療安全に関心を持っていた。また78%(14名)がヒヤリハットの経験があり,「ドレーンチューブ類(39%)」が最も多かった。さらに半数のスタッフが意識消失事例を経験し,発生後の対応は,「人を呼ぶ(44%)」が最も多かった。Dr Callは72%(13人)がためらわずに行なえると回答した。レポート報告書は78%(14人)のスタッフが作成したことがあったが,78%(14人)がインシデントを報告するレベルかどうか迷うという結果であった。レベル分類は56%(10人)が把握していなかった。94%(17人)のスタッフが医療安全に関する勉強会の必要性を感じており,事故対応(37%)と事故予防(33%)に関する内容が多かった。期間内でのレポート報告件数は31件であった。内訳はチューブ・ドレーン類が9件,情報伝達不足が5件,意識消失が7件,転倒が2件,表皮剥離が2件,打撲・骨折が2件,嘔吐が2件,その他が2件だった。報告者の判断したレベル分類(8段階)別の件数は,レベル0は1件,レベル1は13件,レベル2は9件,レベル3は8件であったが,医療安全委員会の判断したレベル分類別の件数は,レベル0は1件,レベル1は11件,レベル2は17件,レベル3は1件だった。【考察】スタッフの多数がヒヤリハットの経験があり,またスタッフの半数が意識消失事例を経験していたことから,当院は大きな医療事故に繋がるインシデントやアクシデントが,多く潜む環境であると考えられる。対応として人を呼ぶことやDr Callはためらわずに行えることから,初期段階の応援要請は可能と伺える。また,ヒヤリハット経験の多数がドレーンチューブ類の内容であり,実際のレポート報告と一致する。インシデント報告については8割のスタッフが経験しているが報告に迷う,レベル分類を把握していない,さらにレポート報告の当事者のレベル分類と医療安全委員会のレベル分類が乖離しているという結果であった。報告基準の明確化や統一化が必要と考える。多くのスタッフが医療安全に関心を持ち,勉強会の必要性を感じており,事故対応・予防に関する内容が多く求められていた。以上より,事故対応や事故予防の勉強会を開催し,発生後の対応フローチャートを作成することで,事故を未然に防ぐ知識と技術の向上に加え,発生後迅速に対応できる環境作りに努めていく。さらに,レポート報告の基準を作成することで,判断基準の差異を少なくし,正確かつ積極的なインシデント報告を行なえるようになると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究では医療安全に関するスタッフの認識が把握でき,今後の対策を検討することができた。リスク管理の教育におけるシステムの構築に非常に有用と考えられる。また当院と同様の急性期医療施設への情報提供となり,今後の積極的かつ安全なリハビリの普及にも有用と考えられる。
  • 池戸 佳代美, 岩佐 佳恵, 寺坂 晋作
    セッションID: 0426
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】当院では,組織の継続的改善と成長を続けるために,ISO9001(品質マネジメントシステム),BSC(バランストスコアカード),シックスシグマ(行動プロセスを用いた経営変革手法の1つ)の3つのマネージメントツールを融合させた独自の「済生会クオリティマネジメントシステム(以下SQM)を導入し,理念や意識のベクトルの統一,組織横断的なチームの形成,創造工夫しながら問題解決をする場の提供等,組織風土改善を目的としている。今回リハビリテーション部門の視点からSQMシステムを紹介,報告する。【方法】SQM導入後の取り組みとしては,病院の年度目標から部門目標をワークアウト手法(ゼネラル・エレクトリックにおける組織運営の手法の1つ)を用いて全員の共通理解を得る方式で,BSCを作成し,PDCAサイクル(計画→実行→評価→改善)を回して継続的に改善を行い,ISO9001の運用では,年2回のSQMインタビューにて確認した。また,年1回病院全体で各部署SWOT分析(4つのカテゴリーで分析する経営戦略ツールの1つ)・部門別ベストスタッフ賞・優秀学術活動のノミネートや各種プロジェクトの発表,BSCの達成度の分析などのマネージメントレビューの機会があり,1年の業務全般を職員全体で共有しフィートバック出来るシステムとなっている。今回,SQM導入の効果を,BSC導入前の2007年度と導入5年後の2012年度のリハビリテーション部の患者満足度(CS)と職員満足度(ES)を,厚生労働省調査研究班による外部顧客満足度調査(現在は株式会社エクスアンティによる)の結果をもとに比較検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の定める規定,ならびに本研究に関わる対象者の個人が特定されないように配慮し,統計処理されたデータを用いて実施した。【結果】患者満足度を部門別職種別サービス実行ポイントからみると,「リハの目的説明」,「日常生活でのリハの応用等」の項目で,入院で4.54(最高5.0)から4.73,偏差値58(7:1-10段階評価)から70(10)に改善,外来では偏差値41(4)から47(5)に改善した。また,職員満足度としては,「家族,友人,知人などが病気になったら,この病院を薦める」66.7%から88.5%,「この病院で働くことにして良かったと思う」が,66.7%から84.6%,「職場の人間関係に満足している」が,52.4%から73.1%,「今後もこの病院で働くことで専門的な技能や知識が向上すると思う」が71.4%から80.8%,「他の病院への転職は考えたことがない」が,23.8%から38.5%,「自分がこの病院にとって必要な人材だという手ごたえを感じる」が14.3%から30.8%,「家族,友人,知人などが病院勤務を希望するなら,この病院を薦める」が33.3%から65.4%,「全体として,この病院で働いている事に満足している」が57.1%から80.8%に改善し,全ての項目で平均を上回る結果となった。【考察】今回リハビリテーション部の質の改善度をCS,ES面から検討した。改善の理由として,ISO9001や病院機能評価では,部署目標やチーム医療の充実,文書管理・機器管理や個人力量評価等,リハビリテーションの質から医療安全,業務管理まで多岐にわたって評価される為,業務が整理され,BSCを用いることで共通の目標意識が持てたといえる。その基盤として,前述の各種経営ツールを学べる研修など,経験年数等に応じて段階的に職員教育が行われており,積極的に業務で活用する事により,問題点や改善が必要になった場合でも,自然とワークアウトが行われ,話し合い,共通意識が得られやすい環境づくりが出来てきている。直近のリハビリテーション部BSCを紹介すると,学習と成長の視点で,役割分担チームや診療チームごとに,イノベーションプロジェクトに取り組んだ点が特徴である。色々な管理運営ツールを用いているが,評価の為に行うのではなく,業務改善につながるように導入していく事が大切な事だと感じている。今回,SQMでのトータルマネージメントシステムをリハビリテーション部に導入したことにより,働きがいのある職場への改善の要因となったのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】理学療法業務において,管理運営のマネージメントシステムによる職場環境の充実は,1人1人の理学療法士の育成,安全で質の高い理学療法の発展に有意義であると考える。
  • ―経験年数による専門職連携(IPW)に必要な課題の検討―
    木村 圭佑, 篠田 道子, 宇佐美 千鶴, 櫻井 宏明, 金田 嘉清, 松本 隆史
    セッションID: 0427
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】医療保健福祉領域において専門職連携(以下IPW)は必要不可欠な技術となっている。しかし,リハビリ専門職の養成課程において専門職連携教育(以下IPE)カリキュラムを導入している養成校は少数である。多くのリハビリ専門職は臨床場面において,他の専門職との連携を通して自ら実践的に学んでいる。今回ケースメソッド教育を用いた研修会後に調査した,カンファレンス自己評価表の分析から,経験年数によるIPWに必要な課題を検討する。【方法】ケースメソッド教育は,日本では1962年から慶応義塾大学ビジネススクールで用いられるようになった教育手法である。現在ではビジネス領域だけではなく教職員養成や医療保健福祉領域にまで用いられている。高木ら(2006)によるとケースメソッドは「参加者個々人が訓練主題の埋め込まれたケース教材を用い,ディスカッションを通して,ディスカッションリーダーが学びのゴールへと誘導し,自分自身と参加者とディスカッションリーダーの協働的行為で到達可能にする授業方法」であると定義している。本研究の対象は平成24年~平成25に実施したIPWを目的とした研修会に参加した,異なる職場で働くリハビリ専門職34名である。内訳は,1~3年目以内(以下新人)19名(理学療法士17名,作業療法士2名),4年目以上(以下経験者)15名(理学療法士3名,作業療法士12名)である。尚,全てケースメソッド教育は未経験であった。研修会では日本福祉大学ケースメソッド研究会に登録されている退院時カンファレンス場面のIPWを題材としたケース教材を用いた。参加者にはケース教材の事前学習を促し,研修会の開始前にケースメソッドに関する講義を行った。そして,グループ討議を行った後,筆者がディスカッションリーダーとなりクラス討議,振り返りを実施し最後に篠田ら(2010)が開発したカンファレンス自己評価表を記入してもらった。カンファレンス自己評価表は主に「参加後の満足感」「カンファレンスの準備」「ディスカッションに関するもの(参加者としての気づき,発言の仕方・場づくりへの貢献等)」の全12項目で構成され,各設問に対し5段階評価(「5そう思う」「4:ややそう思う」「3:ふつう」「2:あまりそう思わない」「1:そう思わない」)で回答してもらった。得られた結果を新人と経験者とに分け,カンファレンス自己評価表の各項目を分析した。統計学的処理は,Mann-WhitneyのU検定を用いた(p<0.05)。【倫理的配慮】本研究は,日本福祉大学「人を対象とする研究」に関する倫理審査委員会が作成したチェックシートに基づき実施した。【結果】カンファレンス自己評価表は全員から回収した。新人と経験者間で有意差が認められた項目は,「積極的な参加」「受容的・許容的な雰囲気づくりへの貢献」「自分の意見・考えを他者へ伝達」「疑問への質問」「参加者の立場から討議の流れをリード(以下討議をリード)」「他者の発言の引用・改良」「多様な対応策の提案」であった。しかし,「討議をリード」に関しては,経験者は2割が「5:そう思う」「4:ややそう思う」と答えるのみに留まった。また,IPWに必要な技術の一つである「主張(結論)+理由(根拠)のパターンでの発言(以下結論根拠の発言)」では両者に有意差は認められず,経験者の中でも実施できている例は少数であった。【考察】新人ではIPWにおいて最も重要である積極的な発言,頷きや受容的な態度といった「人とつながる」技術の未熟さが確認された。新人の課題としては,対立を恐れずに自らの意見を伝える勇気,そしてすべてを受け入れる温かいムード作りに貢献することである。それらが習得でき,初めて専門職同士の力の貸し借りを上手に行い,多様な対応策の検討の実践が可能と考える。一方,経験者では「討議をリード」することも十分に遂行できているとは言い難く,ファシリテーション技術が未熟であることも示唆された。また,「結論根拠の発言」の実践もできていない。そのため他の専門職への情報共有時やカンファレンス時に,専門的評価や分析をもとにして発言の根拠を明確にできていない可能性がある。経験者の課題は自らの専門性から発言の根拠を明確にするだけでなく,反論や対立意見を上手く扱い,他者の意見を重ねて創発的な意見を積極的に発言することである。ケースメソッド教育で養われる能力の中に「人とつながる」「人を束ね,方向づける」が含まれる。今後もケースメソッド教育を通し,リハビリ専門職におけるIPWの課題を解決できるようさらに検討を続けていく。【理学療法学研究としての意義】医療保健福祉領域におけるIPWの重要性は高く,マネジメント教育や患者の健康行動への教育とその目的は拡大しつつある。そのため,リハビリ専門職におけるIPW・IPEに関する取り組みは急務であり,本研究もその一助になりうると考える。
  • ~せん断波エラストグラフィー機能を用いた検討~
    西下 智, 長谷川 聡, 中村 雅俊, 梅垣 雄心, 小林 拓也, 藤田 康介, 田中 浩基, 市橋 則明
    セッションID: 0428
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】肩関節は自由度が高く運動範囲が広いが,関節面が小さいため回旋筋腱板(腱板)の担う役割は重要である。肩関節周囲炎,投球障害肩などに発生する腱板機能不全では棘上筋,棘下筋の柔軟性低下が問題となることが多く,日常生活に影響を及ぼすこともある。柔軟性向上にはストレッチング(ストレッチ)が効果的だが,特定の筋の効果的なストレッチについての研究は少ない。棘下筋に関しては即時効果を検証するような介入研究もされているが,棘上筋ではほとんど見当たらない。棘上筋の効果的なストレッチは,複数の書籍では解剖学や運動学の知見をもとに,胸郭背面での内転(水平外転)位や伸展位での内旋位などが推奨されているが定量的な検証がなされていない為,統一した見解は得られていないのが現状である。Murakiらは唯一棘上筋のストレッチについての定量的な検証を行い最大伸展位での水平外転位が効果的なストレッチであるとしているが,これは新鮮遺体の上肢帯を用いた研究であり,臨床応用を考えると生体での検証が必要である。これまで生体における個別のストレッチ方法を確立できなかった理由の一つに,個別の筋の伸張の程度を定量的に評価する方法が無かったことが挙げられる。近年開発された超音波診断装置のせん断波エラストグラフィー機能を用いることで,計測した筋の伸張の程度の指標となる弾性率を求める事が可能になった。そこで今回我々はせん断波エラストグラフィー機能によって計測される弾性率を指標に,効果的な棘上筋のストレッチ方法を明らかにすることを目的とした。【方法】対象者は健常成人男性15名(平均年齢23.4±3.1歳)とし,対象筋は非利き手側の棘上筋とした。棘上筋の弾性率の計測は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用い,棘上筋の筋腹に設定した関心領域の弾性率を求めた。計測誤差を最小化出来るように,計測箇所を肩甲棘中央の位置で統一し,2回の計測の平均値を算出した。弾性率は伸張の程度を表す指標で,弾性率の変化は高値を示す程筋が伸張されていることを意味する。計測肢位は,下垂位(1st),90°外転位(2nd),90°屈曲位(3rd),最大水平内転位(90Had),45°挙上での最大水平内転位(45Had),胸郭背面での最大水平外転位(20Hab),45°挙上での最大水平外転位(45Hab),最大水平外転位(90Hab),最大伸展位(Ext)のそれぞれの肢位にて被験者が疼痛を訴える直前まで他動的に最大内旋運動を行った9肢位に,更に安静下垂位(Rest)を加えた計10肢位とした。統計学的検定は,各肢位の棘上筋の弾性率について一元配置分散分析および多重比較検定を行い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を順守し,所属機関の倫理委員会の承認(承認番号E-1162)を得て行った。対象者には紙面および口頭にて研究の趣旨を説明し,同意を得た。【結果】全10肢位のそれぞれの弾性率(平均±標準偏差,単位:kPa)はRestが26.2±10.9,1stが21.2±8.0,2ndが37.0±13.7,3rdが28.3±11.2,90Hadが29.3±9.5,45Hadが37.1±16.7,20Habが34.0±13.1,45Habが83.3±35.4,90Habが86.0±34.1,Extが95.7±27.6であった。統計学的にはRest,1st,2nd,3rd,90Had,45Had,20Habに対して45Hab,90Hab,Extの弾性率が有意に高値を示した。Rest,1st,2nd,3rd,90Had,45Had,20Habそれぞれの肢位間では,1stと2ndとの間にのみ有意差が見られ,その他は有意差が無かった。45Hab,90Hab,Extそれぞれの肢位間には有意な差は無かった。【考察】棘上筋のストレッチ方法は,Restに対して弾性率が有意に高値を示した45Hab,90Hab,Extの3肢位が有効であることが示され,有効な3肢位は全て伸展領域の肢位であった。しかしながら,同様に伸展領域の肢位である20Habには有意差は認められなかった。全肢位中,45Hab,90Hab,Extの弾性率が有意に高値で,かつ,20Habに有意差が見られなったことから考えると,棘上筋のストレッチ方法はより大きな伸展角度での水平外転・内旋もしくは,最大伸展位での内旋が効果的であることが明らかとなった。この結果は新鮮遺体での先行研究を支持するものであった。しかし書籍などで推奨されていた胸郭背面での水平外転位のストレッチについては水平外転よりもむしろ伸展を強調すべきであることが明らかとなった。【理学療法学研究としての意義】これまで新鮮遺体でしか定量的な検証が行えていなかった棘上筋のストレッチ方法について,本研究では弾性率という指標を用いる事で,生体の肩関節において効果的な棘上筋のストレッチ方法が検証できた。その運動方向は,より大きな伸展角度での水平外転・内旋もしくは,最大伸展位での内旋であることが明らかとなった。
  • せん断波エラストグラフィーを用いた弾性率評価による検証
    長谷川 聡, 中村 雅俊, 小山 優美子, 西下 智, 山内 大士, 梅垣 雄心, 岩嵜 徹治, 川原 あい, 市橋 則明
    セッションID: 0429
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】肩関節腱板修復術後には正しい固定性が確保できないことが原因で再断裂や術後疼痛の増悪を発生させてしまうという事例が多く認められる。さらには近年,術後固定期間が延長される傾向にあり,固定期間中の体幹や肩甲胸郭関節を中心とした患部外機能の低下などが弊害として課題とされており,患部の固定性を担保しながら,患部外のトレーニングを実施する必要がある。我々は,従来の肩関節固定用装具(sling)とそれに腋窩に枕を挿入した装具(sling pillow)を装着した条件で,安静時および肩甲胸郭関節,体幹運動時の肩甲上腕関節(GHj)の三次元運動解析と肩関節周囲筋の筋電図解析を行った。その結果,sling pillowにおいてGHjの固定性が有意に高まり,棘下筋や三角筋の筋活動が抑制されるという結果を報告したが,方法論の限界により,棘上筋に加わる負荷に関しては検証できなかった。そこで本研究では,肩関節固定用装具の腋窩に枕を挿入することで安静時および肩甲胸郭関節運動時の棘上筋にかかるストレスが軽減するかどうかをせん断波エラストグラフィーを用いた弾性率評価によって検証することとした。【方法】健常若年男性15名を対象とした。対象者に対して,①上肢下垂(SA条件)②従来のsling着用(SL条件)③slingに加えて腋窩に枕を挿入(SP条件)の3つの条件下にて安静座位および肩甲骨拳上運動を行わせた。また,比較課題として肩関節外転90°保持を行った。その際の棘上筋の弾性率(kPa)と安静上肢下垂時を基準とした動作課題時における増加率を超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用いて測定した。せん断波エラストグラフィー機能により算出される弾性率と筋張力や筋活動量との関係は,下腿三頭筋で強い相関関係認められており,棘上筋においても両者の関連性は高いと予想される。各条件下での測定は2回ずつ行い,その平均値を採用した。また,各条件における動作時の変化率は上肢下垂安静時の値を基準として算出した。全対象者の測定値を平均化し,3条件間における反復測定一元配置分散分析および多重比較Bonferoni法にて分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当施設の倫理委員会の承認を得て実施し,対象者には本研究の主旨および方法に関するインフォームド・コンセントを行い,署名と同意を得ている。【結果】安静座位では,棘上筋にかかる弾性率は,SA条件8.9±2.7kPa,SL条件7.5±2.5kPa,SP条件6.5±2.1kPaであり,3条件間で有意な差を認め,多重比較検定の結果,SP条件は他の2条件と比較して有意に低値を示した。肩甲骨拳上時においては,SA条件24.4±6.7kPa,SL条件18.1±6.6kPa,SP条件14.7±4.7kPaであり,3条件間で有意な差を認め,多重比較検定の結果,SA条件SL条件,SP条件の順で有意に低値を示した。上肢下垂安静時を基準とした増加率は,SA条件では183.2±74.1%,SL条件では112.2±83.2%,SP条件では73.4±56.9%でこれらに関しても3群間で有意な差を認め,SA条件,SL条件,SP条件の順で有意に低値を示した。また肩関節外転90°保持時の弾性率は25.6±8.5kPa,増加率は200.6±110.3%であり,SP条件下肩甲骨拳上運動の増加率の約2.7倍であった。【考察】三次元運動解析と筋電図を用いた我々の先行研究において,安静座位時における3条件間の肩関節周囲筋の筋活動量に関しては,差を認めなかったが,今回,棘上筋にかかる張力の指標となる弾性率を用いて検討した結果,SP条件において最も安静が保たれていることが示唆された。肩甲骨拳上運動に関しては,先行研究のGHjの固定性の結果と同様となり,3つの条件間それぞれで有意な差を認め,SP条件で棘上筋にかかる張力は最も抑えられることが示唆された。先行研究では,上肢下垂での肩甲骨拳上運動や肩関節外転90°における棘上筋の筋活動量は最大筋力発揮時のそれぞれ約40%,約30%程度であると報告されているが,本研究の結果からは,SP条件では棘上筋へのストレスが上肢下垂での肩甲骨拳上運動や肩関節外転90°保持の半分以下に軽減されることが示唆された。我々の先行研究および本研究の結果より,sling固定装具の腋窩に枕を挿入することでGHjの固定性を高めることができ,棘上筋へのストレスも軽減できることから,修復腱板に対してより安全な固定方法となることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】肩関節腱板修復術後の修復腱板の温存は重要な課題であり,本研究によってもたらされた術後の固定方法に関する効果検証の結果は,術後急性期における安全な理学療法の遂行および生活動作の実現に繋がる点で意義深く,有益な研究である。
  • 正木 光裕, 池添 冬芽, 小林 拓也, 佐久間 香, 塚越 累, 沖田 祐介, 田中 真砂世, 坪山 直生, 川口 喬久, 田原 康玄, ...
    セッションID: 0430
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】腰痛患者においては,健常者と比較して異なる歩行特性を有することが報告されている(Seay 2011,Crosbie 2013)。しかし,先行研究では若年または中年の腰痛患者を対象としているものが多く,高齢者における報告は少ない。また,腰痛を有する高齢者の中でも歩行時に腰痛を有する者においては,日常生活での移動が制限されるため,歩行特性のみならず下肢筋力にも影響が生じることが予想される。しかし,歩行時に腰痛を有する高齢者の歩行特性や下肢筋力は明らかにされていない。したがって,本研究では歩行時に腰痛を有する高齢者における歩行特性や下肢筋力を明らかにするために,立位での姿勢アライメント,歩行持久力とも合わせて詳細に検討することを目的とした。【方法】滋賀県長浜市で実施している「ながはま0次予防コホート事業」に参加した地域在住高齢者274名のうち,過去に3ヵ月以上続く腰痛既往がなく,現在腰痛が全くない健常群93名(男性40名,女性53名,平均年齢70.8±5.1歳)と歩行時に腰痛がある腰痛群20名(男性8名,女性12名,平均年齢71.1±4.4歳)を対象とした。なお,測定に支障を及ぼすほど重度の整形外科的・神経学的・呼吸器および循環器疾患を有する者,過去に背部の手術を受けた者は対象から除外した。腰痛群における腰痛のNRS(Numeric Rating Scale)は4.7±1.1,ODI(Oswestry Disability Index)は23.8±12.0%,腰痛既往の期間は74.1±78.1ヵ月であった。歩行特性の評価については,光電管を使用して通常歩行および最大歩行時の歩行速度を測定した。同時に多機能三軸加速度計(ベルテックジャパン製G-WALK)を第5腰椎に固定し,ケイデンス,ストライド長,骨盤運動範囲(前後傾角度,側屈角度,回旋角度)を計測した。また,歩行持久力について,休まずに歩き続けることができる距離を5段階のスコア(①2~3kg以上,②1kg程度,③300m程度,④100m程度,⑤10m程度)で調査した。姿勢アライメントの測定にはスパイナルマウス(Index社製)を用い,安静立位での胸椎後彎角度,腰椎前彎角度,仙骨前傾角度を測定した。下肢筋力は最大等尺性股関節屈曲筋力,股関節外転筋力,膝関節伸展筋力,足趾屈曲筋力を測定した。なお,股関節,膝関節筋力はトルク体重比(Nm/kg),足趾屈曲筋力は体重で除した値(%BW)で表した。統計学的検定には正規性を確認したうえで,Mann-Whitney検定を用いて群間比較を行った。また,性別についてはカイ2乗検定を用いて群間比較を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究内容についての説明を行い,書面にて同意を得た。なお,本研究は本学と地方自治体,有識者市民代表からなる検討委員会で協議・制定され地方自治体で条例化された個人情報保護に関する独自のルールに則って実施した。【結果】健常群および腰痛群との間で年齢,身長,体重および性別に有意差はみられなかった。通常歩行時の歩行特性について,歩行速度には有意差がみられなかった。歩行の項目の中では,骨盤側屈角度のみ2群間で有意差がみられ,健常群よりも腰痛群で有意に小さかった。それ以外のケイデンス,ストライド長,骨盤前後傾・回旋角度においては有意差がみられなかった。最大歩行時においても,歩行速度には有意差がみられなかった。その他の項目において,骨盤前後傾角度および骨盤側屈角度のみ有意差がみられ,健常群よりも腰痛群で有意に小さかった。歩行持久力のスコアは2群間で有意差がみられ,腰痛群は健常群と比較して歩行持久力低下がみられた。立位姿勢アライメントは,全ての角度において群間で有意差はみられなかった。下肢筋力については,股関節屈曲筋力,股関節外転筋力,膝関節伸展筋力,足趾屈曲筋力のすべての筋力で健常群よりも腰痛群で有意に低かった。【考察】腰痛群では健常群と比較して,歩行速度あるいは安静立位姿勢アライメントには違いがないものの,歩行時の骨盤運動範囲が減少していることが確認された。本研究における腰痛群は歩行時に腰痛を有する高齢者であったことから,歩行時の骨盤運動によって腰痛が増強することを防ぐため,あるいは腰痛による防御性収縮により歩行時の骨盤運動が減少していたことが考えられる。また,下肢筋力については腰痛群において全ての筋で減少がみられた。腰痛群では歩行持久力の低下もみられたことから,歩行時に腰痛を有する高齢者では歩行量の低下により,股関節から足趾まで下肢筋に廃用性の筋力低下が生じていることが推測された。【理学療法学研究としての意義】歩行時に腰痛を有する高齢者は,歩行時に骨盤運動が減少し,また下肢筋力低下が生じていることが明らかとなった。本研究は,歩行時の骨盤運動減少を改善するアプローチの検討や,下肢筋力低下を改善していくことの必要性を示唆している。
  • 森井 康博, 山中 正紀, 三浦 拓也, 斎藤 展士, 寒川 美奈, 小林 巧
    セッションID: 0431
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,ライフワークの変化から座位での時間が増加しており,長時間の座位姿勢の維持が腰痛を助長する要因であるとされている。先行研究においては不良姿勢,いわゆる円背座位姿勢において,体幹安定化に寄与すると言われている腹横筋の活動性に低下が見られたとの報告がある。その他,座位姿勢と体幹筋筋活動についての報告はいくつかあるが,それらのほとんどが腰椎や骨盤のアライメントと体幹筋筋活動の関係性について検討したものであり,胸椎部のアライメントとの関連性を調べたものは渉猟し得た限りない。胸椎と腰椎は連続した構造体であるため,胸椎アライメントの変化は腰部への力学的ストレスを変化させ,さらには体幹筋筋活動にも影響を与えることが予想される。本研究の目的は座位姿勢における胸椎矢状面アライメントと,体幹安定化に寄与する腹横筋の筋厚との関係を検討することとした。【方法】対象は本学に所属する健常男女9名(男性:6名,女性:3名,平均年齢:21.5±0.88歳,平均身長:167±9.5 cm,平均体重:58.8±8.0 kgとした。通常座位(Natural sitting:N-sit),胸部伸展座位(Thoracic upright sitting:T-sit),胸腰部後弯座位(Slump sitting:S-sit)の3つの座位姿勢において,C7,Th7,L1棘突起上にマーカーを貼付し,矢状面画像を取得した。それぞれの姿勢において超音波画像診断装置(esaote Mylab25,B-mode,7.5~12 MHz)を用いて安静時(吸気終末)および腹部引き込み運動(Draw-in)時の腹横筋筋厚を3回測定した。プローブの位置は下位肋骨と腸骨稜の中点と前腋窩腋下線の交点を基準とした。筋厚計測が全て終了した後,画像解析ソフトImage Jを用いて座位矢状面画像より各被験者の胸椎角度を算出した。胸椎角度に関してはTh7/L1を結んだ線を基準とし,C7/Th7を結んだ線が基準線より何度前傾位にあるかを計測した。腹横筋筋厚に関しては安静時とDraw-in時の筋厚,またそれらの数値をもとに腹横筋筋厚変化率を算出した。算出した数値を一元配置分散分析及び多重比較検定により解析した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】被験者には倫理的に配慮し研究内容を説明し同意の上で実験を行った。本学倫理委員会の承認の上実施した。【結果】胸椎角度に関して,T-sit(6.8±5.5°)はN-sit(18.2±5.0°)に比して有意に伸展しており(p<0.01),S-sit(30.6±6.1°)は他の2姿勢に比して有意に屈曲していた(T-sit:p<0.01,N-sit:p<0.01)。腹横筋筋厚に関して,安静時には各姿勢間において有意差は認められなかった。Draw-in時にはT-sit(4.2±0.7 mm)およびN-sit(4.3±0.8 mm)に比してS-sit(3.3±0.7 mm)における腹横筋筋厚が有意に低値を示した(T-sit:p<0.01,N-sit:p<0.01)。またT-sitとN-sitの間においてはDraw-in時の腹横筋筋厚に有意差は認められなかった。また腹横筋筋厚変化率においてはN-sit(56.3±28.2%)に比してS-sit(26.2±20.1%)が有意に小さく(p<0.01),N-sitに比してT-sit(76.9±24.3%)が有意に大きかった(p<0.01)。【考察】胸椎角度ではT-sitがN-sitよりも有意に伸展しており,S-sitは他の2姿勢と比して有意に伸展していたことから,3つの姿勢は胸椎角度により適切に条件付けされていたと言える。S-sitでは他の2つの座位に比してDraw-in時の腹横筋筋厚・筋厚変化率が有意に小さかった。O’Sullivanらは,Slump sittingはErect sittingに比して内腹斜筋の筋活動が有意に減少したと報告し,ReeveらはErect SittingとSlump sittingで腹横筋筋厚を比較し,Slump sittingにおいて有意に小さかったと報告している。本結果はこれらの報告を支持するものであり,S-sitは体幹安定化筋である腹横筋を効率よく収縮させにくい姿位であることを示唆した。また,腹横筋筋厚変化率ではT-sitとN-sitの間に有意差が認められたが,Draw-in時における腹横筋筋厚には両姿勢間で有意差を認めなかった。これは,安静時の腹横筋筋厚において姿勢間で有意差は認められなかったものの,平均値においてN-sitの値がT-sitの値を上回っていたことを反映した結果であると思われる。したがって,胸椎を伸展させるT-sitにおいて腹横筋がより活動しやすいことを部分的に示したものと思われる。【理学療法学研究としての意義】S-sitにおいてDraw-in時の腹横筋筋厚・筋厚変化率が他の2姿勢よりも有意に小さく,S-sitは腹横筋を特異的に収縮させるのが困難な姿勢であることが示唆された。臨床にて腰痛患者に対して腹横筋の特異的なトレーニングを行う際により適切な姿勢を選択することは重要であり,将来的な腰痛発症を予防する上でもライフワークなどの日常的な座位活動においてS-sitは避けるべきである。
  • 高見 友, 篠田 宗一郎, 薄 勝也, 梶間 健史, 唐澤 幹男, 森田 英隆, 辰村 正紀, 岩井 浩一
    セッションID: 0432
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】入谷は中足骨レベル横アーチを前方部分と後方部分に分け,前方部分の横アーチは立脚後期の前後の重心移動に影響し,後方部分の横アーチは踵離地の時間的因子に深く関わっていると述べている。また,中足骨レベル横アーチの評価で用いられる中足骨レベル前方部分の横アーチパッド(前方パッド)の貼付は踵離地(heel off:HO)を延長させ,中足骨レベル後方部分の横アーチパッド(後方パッド)の貼付は足尖離地(toe off:TO)を延長させると述べているが,その詳細についての研究は少ない。本研究の目的は入谷式足底板の前方パッドと後方パッドの貼付により踵接地(heel contact:HC)からHO,HOからTOの1歩行周期に対する時間的割合の変化の有無を検証することである。【方法】対象は下肢に疾患を有さない成人男性10名10足,平均年齢26.3(22-29)歳,測定側は右下肢とした。被験者は直径8mmの赤色マーカー用シールを踵骨隆起,第1末節骨に貼り,裸足にてトレッドミル上を歩行速度4.7kg/hに設定し歩行を行った。撮影はデジタルビデオカメラ(SONY製HDR-CX17)を使用し,レンズの高さ54cm,被写体までの距離3.6mに設定し,サンプリング周波数240Hzにて記録し側方から定点撮影を行った。中足骨レベル横アーチパッドは右足底のみに貼付し①パッド貼付無し(無し)②前方パッド貼付(前方)③後方パッド貼付(後方)の3パターンの歩行をランダムに行わせた。使用するパッドの形状は縦1cm×横2cm×厚さ2mmの長方形とし,第4中足骨の中央を基準線とし,基準線より前方に前方パッドを,後方に後方パッドを貼付した。各々の歩行を撮影前に1分間実施した後に3歩行周期を撮影し,右側のHCからHO,HOからTOの時間を測定し,1歩行周期での時間的割合の平均値を算出した。統計学的解析はSPSS statistics 20にて多重分析Bonferroni法を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り,対象には実験前に口頭と書面で本研究の目的,実験手順,考えうる危険性等を十分に説明し,内容について十分に理解を得た。その上で参加に同意した者は同意書に署名し実験に参加した。【結果】HC-HOの1歩行周期に対する時間的割合は前方が34.5±2.8%,後方が35.7±2.9%,無しが35.1±3.34%であった。HO-TOは前方が30.4±3.2%,後方が29.3±3.3%,無しが29.1±3.7%であった。HC-HO,HO-TOともに前方と後方の間に有意差が認められた。【考察】前方パッドを貼付することでHC-HOの短縮とHO-TOの延長,後方パッドを貼付することでHC-HOの延長とHO-TOの短縮に影響する事が示唆され,中足骨レベル横アーチパッドが立脚中期以降の時間的因子に深く関与している事が分かった。入谷は前方パッドの貼付によって歩行時に股関節を伸展に誘導すると述べており,立脚後期で生じる股関節の伸展が増大することで立脚後期が延長し,TOが遅延したのではないかと考えられる。また,後方パッドの貼付に関しても歩行時に膝関節を屈曲に誘導すると述べており,膝関節が屈曲に誘導されることによって立脚中期での膝関節伸展が遅延し,結果としてHOが遅延したのではないかと考えらえる。これらの影響から前方パッドと後方パッドの貼付によってHOとTOが遅延したのではないかと考えらえる。【理学療法学研究としての意義】入谷式足底板療法では歩行観察を基に関節や筋にかかるメカニカルストレスの増減の推察を行い,そのコントロールを目的に足底板の処方を行っている。前方パッドと後方パッドの貼付は立脚中期以降の時間的因子を変化させる事が示唆され,メカニカルストレスによって生じる疼痛の改善を目的に実施される理学療法を施行していく上で貴重な知見となると思われる。
  • 白尾 泰宏
    セッションID: 0433
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】歩行中の進行方向に対する足部の角度(以下,足角)は重要なアライメント要素であり7°~13°外旋が正常であるとされている。その要因としては,股関節の回旋,脛骨大腿関節での回旋,大腿骨や脛骨の捻転など骨性,関節性,神経筋性の要因が考えられているが,骨性因子の報告は少ない。今回の研究は,その要因である骨性因子と歩行時足角の関係を調査することである。【方法】下肢疾患の無い健常成人22名44下肢(男性11名,女性11名,平均年齢31.4歳)を対象とした。足角(toe out angle)は,zebris社製FDM-TLRシステムを用いて,トレッドミル上を自由歩行で任意の速度を決定後,試技を1分間行い,その後の30秒間を解析ソフトWin FDM-Tで2回計測し,平均値を算出した。股関節捻転角(femoral neck torsion以下FNT)はブルースラントダイヤル式角度計(感度0.1146°精度±1.0°以内)足底に固定しcraig testに準じて測定した。脛骨捻転角(tibial torsion 以下TT)は腹臥位膝90°屈曲位で,脛骨内果と腓骨外果の中央を結ぶ線と,大腿骨顆部中央を結ぶ線のなす角度をゴニオメーターを用いて測定した。それぞれ2回測定し平均値を算出し,得られたデータは級内相関係数を求め,次にTOAとFNT,TTをスピアマン順位相関係数の検定を行なった。各角度の群間比較ではWelch’s t-testを行い,全ての有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には事前に研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た上で実施した。【結果】級内相関係数は,足角(右0.97 左0.99),大腿骨前捻角(右0.97 左0.98),脛骨前捻角(右0.72 左0.77)であった。相関係数の検定では,足角とFNTには有意な相関がみられた(rs=-0.4719 P=0.0017)が,脛骨捻転角では低い相関はあるものの有意差はみられなかった(rs=0.02896 P=0.8387)。各平均値は足角(男性9.43±5.1°女性6.36±3.51°P=0.0258),FNT(男性15.27±6.13°女性23.88±8.34°P=0.00036)で有意差がみられたが,TTでは(男性15.02±3.35°女性13.2±3.38°P=0.0967)有意差はみられなかった。【考察】歩行時足角とFNTは負の相関であることから,FNTの増大は足角減少に作用することが示唆された。SahrmannらはこのFNTの増大は,中殿筋後部線維の延長・弱化による股関節内旋の優位性を報告しており,歩行時の股関節内旋が起こりやすい状態が推察される。また,宮辻らは,自由歩行における足角の男女比において女性の足角が有意に減少したと報告しており,今回の研究も同様の結果となった。また,女性高齢者では同若年者と比較し足角が増大したと報告している。つまり,加齢にともなうバランス能力・筋機能低下から,その代償作用として足角を変化させ安定性を獲得していると思われる。しかし,FNTが増大した条件下での足角増大は膝関節にknee in toe outの回旋ストレスを誘発させることが推察される。また,同様に女性non contactスポーツに発生頻度の高い膝前十字靱帯損傷の発生メカニズムの要因にも,このFNT増大の条件下での足角増大による回旋ストレスが関与しているのではないかと思われる。したがって,この3つの形態評価は膝障害へのマルアライメントの解釈に重要と思われる。しかし,今回の研究では歩行時の膝関節回旋角度の評価を行なっていないため,脛骨・大腿骨の回旋角度と,足角,FNT,TTをパラメーターとした調査が今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】臨床において,歩行分析を行なう上で膝回旋ストレスを考える際,動的な股関節・足部の影響が考慮されるが,あらかじめ解剖学的構造的特性を評価することで,その解釈の情報の一部になると思われる。また,さまざまな膝疾患の発生メカニズム解明の一助として意義がある。
  • 膝関節運動の左右差に着目して
    浦辺 幸夫, 事柴 壮武, 岩田 昌, 笹代 純平, 前田 慶明
    セッションID: 0434
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】膝前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:ACL)損傷は,最も予防効果が期待されているスポーツ疾患である。近年,ACL損傷予防プログラムが取り入れられることで,少しずつ発生率が減少している。このプログラムは「ハイリスク選手」を抽出し,選択的に実施すると効率がよくなると考えられている。ハイリスク選手の条件はいくつかあるが,スポーツ動作時に過度な膝関節外反を起こす選手に共通して注意がはらわれている。ACL損傷は左膝関節の発生率が高いことが示されているが(井原ら2005,Urabe et al 2010),スポーツ動作時に左右の膝関節運動に違いがあるのかは,まだ十分に解明されていない。今回はサイドステップカッティング(side step cutting:SSC)動作時に,左膝関節の方が最大屈曲角度が小さく,最大外反角度が大きいのではないかという仮説をたてた。左膝関節で右関節との違いがみだせるか,また左右差が大きい人がどの程度含まれるのか検討した。【方法】対象は,下肢に大きな傷害の既往のない健康な女性バスケットボール選手15名である。平均年齢(±SD)は21.1±1.7歳,身長は161.5±3.2cm,体重は55.4±7.5kg,競技歴は6.7±2.5年だった。上肢は全員が右利きで,サッカーボールのキック足は左下肢だった。足部接地地点の約5m手前から助走し,90°側方へのSSCを実施した。右方向と左方向の選択は,2m手前にあるセンサーマットとライト点灯をランダムに同期させることで行った。SSCは5台のハイスピードカメラ(FNK-HC200C,4 assist社)を使用し,200Hzで撮影した。3次元解析ソフト(Detect社)により,三次元座標を求めた。Grood et al(1983)の方法を参照し,膝関節屈曲角度と外反角度を算出した。SSCは2期に分割し,足部接地から膝関節最大屈曲位までをストップ期,膝関節最大屈曲位から足部離地までを側方移動期として分析に用いた。各3回行い,1回の動作時間を100%に正規化し,膝関節屈曲角度と膝関節外反角度について3回の平均値を各対象の代表値とし,15名分を平均した。統計学的分析には,左右の膝関節最大屈曲角度と最大膝関節外反角度について,対応のあるt検定を行った。危険率5%未満を統計学的に有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,広島大学大学院医歯薬保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1327,1335)。研究に先立ち,十分な説明を行い対象の同意を得た。【結果】一周期でストップ期は右が平均52%,側方移動期は48%,左が49%と51%で,左右に有意差はなかった。接地時の膝関節屈曲角度に左右差はほとんどなく,平均22°だった。ストップ期の膝関節最大屈曲角度は右平均57°,左54°だったが,有意差はなかった。左膝関節の方が最大屈曲を示した時間が早かったが,有意差はなかった。右膝関節も左膝関節も,時間の経過とともに側方移動期で膝関節屈曲角度は漸減した。膝関節最大外反角度は右平均7°,左5°だったが,有意差はなかった。最大外反を示す時間は左右ともストップ期で,一周期の約20%だった。膝関節屈曲角度の増加に伴い,外反角度は減少したが,側方移動期に移行する一周期の約50%で右膝関節も左膝関節も再度平均2°の外反を示す2峰性の軌跡を示した。膝関節最大外反角度が大きい選手では,膝関節屈曲角度が小さくなる傾向が示された。選手の感応評価では,左右のSSCでどちらかといえば左下肢でストップする右方向へのSSCが行いやすいという者が多かった。左右のSSCで一方向の行いやすさを訴える選手でも,左右の膝関節運動が平均値と大きく逸脱していなかった。【考察】左下肢でストップし右方向にSSCする動作では,有意差がないものの,左膝関節が右よりも最大屈曲角度が小さく,最大外反角度が大きくなる傾向が示された。仮説を肯定するには至らなかった。今回は15名の対象であったが,母数を増加させることで対応できると考える。本研究では,左右90°方向のSSCで膝関節運動に明確な左右差は示されなかった。したがって膝関節運動の左右差によって,左膝ACL損傷のハイリスク選手を検出することは現時点で困難と考えるのが妥当である。しかし,共通して認められた膝関節運動の傾向を,ACL損傷予防プログラムの指導に反映することは可能と思われる。SSCで,左膝関節運動がACL損傷発生のリスクに合致するにもかかわらず,女子バスケットボール選手では左下肢でのSSCが行いやすいという結果は興味深い。【理学療法学研究としての意義】ACL損傷が左膝関節に多い理由について,研究データから結果を示すことは,理学療法士の大きな使命である。本研究はACL損傷予防プログラムの実施のために,基礎的な実験室での研究成果をエビデンスとして蓄積するという意義がある。
  • 岩田 昌, 浦辺 幸夫, 前田 慶明, 篠原 博, 笹代 純平, 藤井 絵里, 森山 信彰, 事柴 壮武, 山本 圭彦, 河原 大陸
    セッションID: 0435
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】女子バスケットボール競技では膝関節に多くの外傷が発生しており,特に膝前十字靭帯(anterior cruciate ligament;ACL)損傷の重大性は高い。サイドステップカッティング(sidestep cutting;SSC)動作は,非接触型ACL損傷を起こす動作のひとつである(Olsen et al. 2004)。この動作の際に,膝関節が過剰に外反することで損傷を惹起させると考えられている(Hewett et al. 2005)。SSCを実験室で測定・解析する際には,ストップ時の脚とストップ後の側方移動方向を前もって決めておく「予測条件」が圧倒的に多い。これに対して,光刺激等を使用して側方移動方向を「非予測条件」で設定する方法がある。ストップ脚を決めていないため,測定の失敗も多く,安定したデータを得るためには困難も多い。先行研究で,非予測条件で側方60°方向のSSCを測定したものがある(木村ら,2010)。この場合,予測条件よりも非予測条件で膝関節最大外反角度が増大していた。これまで女子バスケットボール選手を対象に,側方90°方向のSSCを予測条件と非予測条件で比較した研究はない。本研究ではこの条件の違いで,膝関節運動にどのような影響があるのかを提示したいと考える。仮説として,非予測条件での90°SSCは予測条件より難易度の高い動作となるため,膝関節最大屈曲角度は減少し,膝関節最大外反角度は増加するとした。【方法】対象は大学女子バスケットボール選手で,膝関節外傷の既往がない者6名とした。年齢(平均±SD)は21.2±1.2歳,身長は161.3±3.5cm,体重は54.2±3.9kg,競技歴は8.3±2.3年であった。予測条件の90°SSCは,5mの助走路を最大努力で走り,指定した脚をセンサーマット(竹井機器工業社)上に軸脚としてストップしたのちに踏み切り,軸脚と反対の側方に90°移動する。非予測条件の90°SSCは,同じく5mの助走路で,スタート後3m地点に設置したセンサーマットを踏むと,光刺激でランダムに左右の方向が指定される。さらにその前方のセンサーマット上でストップしたのち,側方に90°移動する。本研究では,各試行で成功したものを3回抽出し,SSCにかかった時間を正規化して比較した。SSCの解析区間は,足部接地から足部離地までとした。三次元動作解析のために,対象の両下肢に反射マーカーを計16箇所貼付し,5台のハイスピードカメラ(フォーアシスト)を用いて,サンプリング周波数200Hzで撮影した。撮影した画像から動作解析ソフト(Ditect)を用いてDLT法により,三次元座標を求めた。本研究では軸脚の膝関節最大屈曲角度と膝関節最大外反角度を分析に使用した。統計学的分析には,対応のあるt検定を用いて,膝関節最大屈曲角度,最大外反角度を予測条件と非予測条件で比較した。危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,広島大学大学院医歯薬保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号1335)。研究に先立ち十分な説明を行い,対象の同意を得た。【結果】90°SSCの膝関節最大屈曲角度は,左右の平均(±SD)が予測条件で51.2±5.5°,非予測条件で53.0±6.2°となり,非予測条件で1.8°大きかったが,有意差はなかった。膝関節最大外反角度は予測条件で8.2±3.8°,非予測条件で10.1±5.1°となり,非予測条件で1.9°大きくなった(p<0.05)。【考察】非予測条件の90°SSCでは,予測条件より膝関節最大屈曲角度は減少し,膝関節最大外反角度が増加すると仮説したが,本研究では膝関節最大外反角度のみが大きくなった。ストップ動作で膝関節が屈曲していく際に,予め軸脚が分かっていてもいなくても,選手が行いやすい屈曲角度で最終的にはストップするのではないかと考えた。これは随意的な努力に加え,大腿四頭筋やハムストリングなど膝関節周囲筋の緊張や固有感覚で決定されるのかもしれない。一方,膝関節外反について予測条件では屈曲と同様に選手がある程度制御が可能であるが,非予測条件では屈曲の制御とは異なり膝関節回旋の要素が多くなるため,十分な制御が困難になることが考えられた。平均1.9°の外反角度の増加は比較的大きなものであり,実際のスポーツ活動で不意にこのような非予測条件に類似した状況が起こると,ACL損傷のリスクになることが推測される。本研究では,非予測条件のみならず,予測条件でのSSCの測定も,安定したデータを得るためにかなりの試行回数を要した。実験室での測定結果が,実際のバスケットボール競技の局面に少しずつ反映できるように,さらに対象を増やして吟味する必要がある。【理学療法学研究としての意義】非予測条件の90°SSCで膝関節外反角度の制御が困難になることが示されたことは,ACL損傷予防の方策の立案に,新たなエビデンスを加えるという点で理学療法上の意義がある。この知見を女子バスケットボール選手のACL損傷予防の一助としたい。
  • 松浦 由生子, 石川 大樹, 大野 拓也, 堀之内 達郎, 前田 慎太郎, 谷川 直昭, 福原 大祐, 鈴木 千夏, 中山 博喜, 江崎 晃 ...
    セッションID: 0436
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】近年,膝前十字靭帯(ACL)再建術後の再断裂例や反対側損傷例に関する報告が増えている。我々もサッカー選手において反対側損傷率が高いことを報告したが(谷川ら,2012),その詳細については未だ不明な点が多かった。そこで本研究ではACL再建術後に反対側ACL損傷を来たしたサッカー選手の詳細を検討し,その特徴を報告することを目的とした。【方法】対象は2003年1月から2012年10月までに当院にて初回ACL再建術を行い,術後1年以上経過観察しえたスポーツ選手612例(サッカー選手:187例,その他の競技選手:425例)とし,それぞれの反対側損傷率を比較した。さらに,サッカー選手187例を片側ACL損傷173例(男性151名,女性22名:片側群)とACL再建術後に反対側ACL損傷を来たした14例(男性11名,女性3名:両側群)に分けて,片側群と両側群の比較を行った。検討項目は,①初回受傷時年齢,②初回受傷側,③競技レベル,④競技復帰時期,⑤術後12ヶ月のKT-2000による脛骨前方移動量の患健差(以下,KT患健差),⑥術後12ヶ月の180°/s,60°/s各々の膝伸展・屈曲筋力の患健比(%)とした。なお競技レベルはTegner Activity Score(TAS)にて評価し,筋力測定には,等速性筋力測定器Ariel(DYNAMICS社)を使用した。また,両側群(14例)を対象として初回受傷時と反対側受傷時の受傷機転の比較を行った。項目は①コンタクト損傷orノンコンタクト損傷,②オフェンスorディフェンス,③相手ありorなし,④ボールありorなしとした。なお,相手に合わせてプレーをしていた際を「相手あり」とし,相手に合わせず単独でプレーをしていた際を「相手なし」とした。統計学的分析にはSPSS Ver.20.0(IBM社)を使用した。サッカーとその他の競技の反対側損傷率の差,片側群と両側群の初回損傷側の比較にはχ2乗検定を用い,その他の項目はWilcoxonの順位和検定を用いて比較した。さらに両側群の初回受傷時と反対側受傷時の受傷機転の比較にはMcNemar検定を用いた。有意水準5%未満を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者に本研究の趣旨を説明し,書面にて同意を得た。また当院倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】反対側ACL損傷率はサッカー選手7.49%(14例),その他の競技選手3.29%(14例)であり,サッカー選手が有意に高かった(p=0.02)。片側群と両側群の比較において,初回受傷時年齢は片側群28.5±9.5歳,両側群26.7±8.7歳(p=0.32)であった。初回受傷側に関しては,右下肢受傷が片側群49.2%,両側群64.3%で2群間に有意差を認めなかった(p=0.82)。TASは片側群7.5±1.0,両側群7.9±1.1(p=0.12),競技復帰時期は片側群9.3±2.0ヶ月,両側群9.6±2.0ヶ月(p=0.56),KT患健差は片側群0.0±1.2mm,両側群0.5±0.8mm(p=0.14)であった。膝筋力の患健比は180°/sでの伸展筋力が片側群87.2±15.3%,両側群86.4±10.0%(p=0.62),屈曲筋力が片側群88.2±18.9%,両側群87.8±14.8%(p=0.56),60°/sでの伸展筋力が片側群84.4±19.5%,両側群86.6±10.8%(p=0.98),屈曲筋力が片側群86.6±18.2%,両側群91.6±11.5%(p=0.32)でありいずれも有意差を認めなかった。両側群の受傷機転において,初回受傷時では相手あり4名,相手なし10名であったのに対し,反対側受傷時で相手あり11名,相手なし3名であり有意差を認めた(p=0.02)。その他の項目に関しては有意差を認めなかった。【考察】本研究においてサッカー選手がその他の競技選手と比較し,有意に反対側損傷率が高いことが示された。多種目の選手を対象とした先行研究での反対側ACL損傷率は約5%と報告されているが,本研究でのサッカー選手の反対側損傷率は7.49%であり,やや高い傾向にあった。両側群の受傷機転に関しては,初回損傷時よりも反対側損傷時の方が,相手がいる中での損傷が有意に多かった。サッカーは両下肢ともに軸足としての機能が要求される競技であるため,初回再建術後に軸足としての機能が回復していないと予測困難な相手の動作への対応を強いられた際に,反対側損傷を起こす可能性が高まるのではないかと推察した。以上のことから,サッカー選手に対しては初回ACL再建術後に対人プレーを意識した予防トレーニングを取り入れ,軸足としての機能回復や予測困難な相手の動きに対応できるagility能力を高めておくことが反対側ACL損傷予防には重要であると考えた。【理学療法学研究としての意義】本研究では,サッカー競技におけるACL再建術後の反対側ACL損傷は対人プレーでの受傷が多いという新しい知見が得られた。サッカーに限らず,反対側ACL損傷率を減少させるためには,スポーツ競技別に競技特性や受傷機転などを考慮した予防トレーニングを行っていくことが重要であると考える。
  • 佐藤 謙次, 細川 智也, 関口 貴博, 鈴木 智
    セッションID: 0437
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】膝前十字靱帯(ACL)再建術後再断裂の危険因子に関する報告は散見されており,低年齢やスポーツ活動レベルの高さが指摘されている。一方,ラグビーやアメリカンフットボールなどのコンタクトスポーツの再断裂率は高いとされており,コンタクトスポーツとノンコンタクトスポーツでは傾向が異なることが予測される。しかし,スポーツカテゴリーの違いが再断裂に及ぼす影響に関する報告は渉猟し得ない。本研究の目的はACL再建術後の再断裂の危険因子を明らかにすることである。【対象と方法】対象は当院において2005年から2010年に膝屈筋腱を用いた初回解剖学的二重束ACL再建術を受け2年以上経過観察可能であった949例(男性500例,女性449例:平均年齢26.5歳)とした。両側ACL損傷例,再再建例は除外した。診療記録より再断裂の有無を調査した。再断裂は担当医が理学所見,KT2000,MRI,関節鏡所見から総合的に判断した。性別,年齢(18歳以下・19歳以上),スポーツレベル(競技レベル・レクリエーションレベル),スポーツカテゴリー(コンタクトスポーツ・ノンコンタクトスポーツ)に分けて再断裂率を算出した。なお,練習回数が週4回以上を競技レベル,週3回以下をレクリエーションレベルとした。また,コンタクトスポーツは,フルコンタクトスポーツとリミテッドコンタクトスポーツを含んだものとした。統計学的解析は,再断裂率を項目ごとに両群間でχ2検定を用いて比較した。また,多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を用いて,再断裂の危険因子を抽出した。目的変数を再断裂の有無とし,説明変数を性別,年齢,スポーツレベル,スポーツカテゴリーとした。なお統計ソフトはR2.8.1を用い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいて行い,データの使用にあたり患者の同意を得た。個人情報保護のため得られたデータは匿名化し,個人情報が特定できないように配慮した。【結果】再断裂は949例中45例に認められ再断裂率は4.7%であった。性別(男性4.2%,女性5.3%)において男女間に有意差は認められなかった。年齢(18歳以下8.1%,19歳以上2.8%),スポーツレベル(競技レベル8.1%,レクリエーションレベル2.3%),スポーツカテゴリー(コンタクトスポーツ5.8%,ノンコンタクトスポーツ2.7%)において両群間に有意差が認められた(p<0.05)。多重ロジスティック回帰分析の結果,スポーツレベルとスポーツカテゴリーが危険因子として選択された(モデルχ2検定:p=0.000)。スポーツ活動レベルのオッズ比は3.4,スポーツカテゴリーのオッズ比は1.8であった。【考察】ACL初回損傷において女性は男性よりも2~8倍受傷リスクが高いことが知られているが,再断裂については男女間に有意差はなく危険因子としても抽出されなかった。したがってACL再建術後のスポーツ復帰に際しては男女ともに同等に注意を要すると思われた。2群間の比較において低年齢,競技レベル,コンタクトスポーツが有意に高い再断裂率を示したが,ロジスティック回帰分析による危険因子の抽出では,低年齢は選択されず,競技レベルとコンタクトスポーツが選択された。これはステップワイズ法により多重共線性をもつ低年齢が除外されたものと解釈できる。一方,スポーツレベルについては過去の報告と同様に危険因子として抽出され,競技レベルはレクリエーションレベルよりも3.4倍再断裂のリスクが高いことが明らかになった。さらにこれまで指摘されてこなかったスポーツカテゴリーにおいて,コンタクトスポーツが危険因子であることが新たに明らかになった。得られたオッズ比からコンタクトスポーツはノンコンタクトスポーツよりも1.8倍再断裂のリスクが高いことが分かった。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,競技レベルとコンタクトスポーツの選手がハイリスク群として抽出された。したがってこれらに対して集中的に再断裂予防策を講じることが効率的・実用的と考える。競技レベルはレクリエーションレベルより3.4倍,コンタクトスポーツはノンコンタクトスポーツよりも1.8倍再断裂のリスクが高いことを患者に対しても説明可能であり,術後理学療法を円滑に進める一助になると考える。とくにスポーツの種類により再断裂率が異なることを新たに証明できた意義は大きいと考える。
  • 膝関節角度に着目したアライメントの解析
    安中 聡一, 川口 徹, 三浦 雅史, 西野 彩音
    セッションID: 0438
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】前十字靭帯(ACL)損傷の発生型は,接触型と非接触型に分類でき,7対3の割合で非接触型損傷が多いことが知られている。また,着地時や方向転換時の膝外反角度の大きさがACL損傷のリスクとして考えられており,片脚着地は両脚着地より膝外反角度が大きいとの報告がある。そして,実際のスポーツ場面では,着地場所の予測や確認をできない場合が多く,このことがACL損傷のリスクとして影響があるのではないかと考えた。よって,本研究では片脚着地動作における選択反応の影響に着目し,4方向への選択反応を加えた片脚着地動作のアライメントを解析した。【方法】1.対象健常大学生10名(年齢20.1±1.2歳,身長159.9±5.4cm,体重52.1±4.7kg)とし,非接触型のACL損傷は女性に多いことから全員女性とした。2.課題動作対象が高さ30cmの台に右下肢で片脚立位をとり,前後左右の4方向へ落下するものとした。なお,対象には動作開始から終了までを通して,胸の前で腕を組み,視線は常に前方へ向けるよう指示した。1)着地方向既知対象に着地方向をあらかじめ伝え,検査者の合図により落下する。2)着地方向未知対象の正面に位置した検査者が着地方向を指さし,その方向にできるだけ速く落下する。3.解析ビデオカメラとダートフィッシュソフトウェア(ダートフィッシュ社製,Ver pro5.5)を使用し,膝関節外反角度と膝関節最大屈曲角度を測定した。膝関節外反角度は足底全面が接地した瞬間(足底接地時外反角度)と膝関節が最も屈曲した瞬間(膝屈曲時外反角度)の2相を測定した。成功例のうち最初の3回の平均を代表値として,既知と未知の条件間での関節角度の比較は対応のあるt検定,4方向での関節角度の比較はTukey法による多重比較にて行った。各検定における有意水準を危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,対象者が所属する大学の倫理委員会の承認を受け,事前に研究内容を対象者に十分説明し,書面で同意を得た上で行った。【結果】1.膝関節外反角度1)足底接地時外反角度既知条件では右側方で6.9±8.0度,左側方で11.2±5.2度,前方で12.1±6.2度,後方で9.0±6.6度,未知条件では右側方で7.0±5.9度,左側方で11.5±5.5度,前方で9.7±4.3度,後方で8.9±5.5度であり,既知と未知の条件による有意差および着地方向による有意差は認められなかった。2)膝屈曲時外反角度既知条件では右側方で10.5±8.0度,左側方で29.1±5.6度,前方で24.0±9.3度,後方で20.2±7.9度,未知条件では右側方で13.4±1.15度,左側方で28.6±9.7度,前方で23.0±12.1度,後方で21.7±9.2度であり,両条件ともに右側方が有意に小さかった。既知と未知の条件による有意差は認められなかった。3)足底接地時外反角度と膝屈曲時外反角度の比較両条件ともに,左側方,前方,後方にて膝屈曲時外反角度が有意に大きかった。2.膝関節最大屈曲角度既知条件では右側方で61.1±7.3度,左側方で66.6±8.8度,前方で61.0±9.1度,後方で60.5±5.9度,未知条件では,右側方で63.8±7.0度,左側方で67.2±6.6度,前方で67.8±7.2度,後方で60.9±7.2度であり,前方での未知条件にて,既知条件よりも有意に大きかった。着地方向別での有意差は認められなかった。【考察】1.既知条件と未知条件膝関節外反角度に有意差はなく,4方向への片脚着地動作における選択反応の影響は,膝関節外反ストレスには影響しなかったといえる。膝関節最大屈曲角度は,前方への着地のみ,既知条件よりも未知条件にて大きかった。この結果から,未知条件における前方への着地では,着地場所が視界に入っていることにより,危険を予測し,回避するための反応として膝関節屈曲動作が出現したが,他の3方向では,着地場所を十分認知できず,膝関節屈曲動作が少なかったと考える。よって,片脚着地動作において下肢への負荷を少なくするためには,着地場所を確認するという視覚の重要性が示唆された。2.足底接地時外反角度と膝屈曲時外反角度ACL損傷の発生起点として,膝関節軽度屈曲位での膝関節外反ストレスが関係しているという報告が散見されるが,本研究の結果では,膝関節最大屈曲位での膝関節外反ストレスが大きいということになる。このことより,ACL損傷のリスクは膝関節屈曲角度よりも,着地時に体重が大きく負荷され,膝関節外反角度が大きくなることで高まると考えた。したがって,ACL損傷のリスクを把握するためには,片脚着地時に下肢に加わる荷重量についても明らかにする必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究により,選択反応が片脚着地動作における膝関節へ及ぼす影響を示すことができた。今後は片脚着地動作を全身の複合運動としてとらえ,アライメントや荷重状況なども調べていきたい。
  • 石田 知也, 山中 正紀, 谷口 翔平, 宝満 健太郎, 越野 裕太, 寒川 美奈, 齊藤 展士, 小林 巧, 青木 喜満, 遠山 晴一
    セッションID: 0439
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】膝前十字靱帯(ACL)損傷はスポーツ外傷のうち最も多く,重篤な外傷の一つである。ACL損傷のうち約70%は非接触型損傷であり,女性は男性に比べ非接触型損傷率が2から8倍高いことから,特に女性のACL損傷予防が重要である。近年,ACL損傷メカニズムの一つに接地直後の急激な膝外反,内旋運動が提唱されており(Kogaら,2010),その様な急激な関節運動を防ぐことはACL損傷予防に繋がると考えられる。しかし,接地直後の急激な膝関節外反,内旋運動を導く要因は明らかとなっていない。本研究の目的は着地後早期の膝関節外反,内旋運動と他の下肢関節運動との関係を検討することである。【方法】対象は過去6か月に整形外科学的既往がない健常女性39名(21.3±1.2歳,160.3±6.1cm,52.3±7.0kg)とした。動作課題は30cm台から着地後直ちに最大垂直跳びを行うDrop vertical jumpとし,台からの着地を解析対象とした。反射マーカーを骨盤および下肢の骨指標,右の大腿,下腿などに合計39個貼付し,赤外線カメラ6台(MotionAnalysis,200Hz)と三次元動作解析装置EvaRT4.3.57(Motion Analysis),床反力計2枚(Kistler,1000Hz)を同期させ記録した。下肢関節角度(股関節屈伸・内外転・内外旋,膝関節屈伸・内外反・内外旋,足関節底背屈・内外反)の算出にはデータ解析ソフトSIMM6.0.2(MusculoGraphics)を用いた。また,下肢関節角度は静止立位時の角度を0°とした。初期接地(IC)を床反力の垂直成分が10N以上となった時点として同定し,IC後50msまでの下肢関節角度変化量を算出した。膝関節内外反および回旋角度変化量とその他の下肢関節角度変化量との間の関係をPearsonの相関係数を用いて検討した(P<0.05)。なお,各被験者データは成功3試行の平均値を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学保健科学研究院倫理委員会の承認を得て行った。対象には事前に口頭と書面にて本研究の目的,実験手順,考えられる危険性などについて説明し,十分に理解を得て,参加に同意した者は同意書に署名をし,研究に参加した。【結果】膝関節内外反角度(外反が正)はIC時に-1.3±2.9°,IC後50msでは2.9±4.8°であり,接地後50msまでの角度変化量は4.2±2.6°(範囲:-0.3から11.5°)であった。また,膝関節回旋角度(内旋が正)はIC時に2.5±4.8°,IC後50msでは5.9±5.8°であり,接地後50msまでの角度変化量は3.4±4.3°(-5.0から11.1°)であった。IC後50msまでの股関節回旋角度変化量(内旋が正)は1.2±3.1°(-8.5から6.5°)であり,同時期での膝関節内外反角度変化量(R=0.365,P=0.022),膝関節回旋角度変化量(R=0.471,P=0.002)との間に有意な正の相関関係を認めた。その他に有意な相関関係は認めなかった。【考察】本研究結果から着地直後の股関節回旋運動と膝関節内外反,回旋運動との間に相関関係が示され,着地直後の股関節回旋運動がACL損傷と関連することが示唆された。Elleraら(2008)はACL損傷者で股関節内旋可動域が減少していたと報告しており,本研究結果も股関節外旋運動と膝関節外反,内旋運動の関連を示唆する結果であった。従来,股関節内旋はACL損傷と関連があるとされるdynamic knee valgusやknee-inといった下肢の動的アライメントの要素の一つであり,運動連鎖の観点から膝関節外反や内旋の増大を導くと考えられてきた。しかし,本研究結果からその様な正常な運動連鎖が生じないことにより膝関節の外反,内旋ストレスが増加する可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は着地動作中の股関節外旋運動を減じる,もしくは内旋運動を引き出すことで膝関節外反,内旋ストレスを減じることが出来る可能性を示唆している。また,先行研究でACL損傷者の股関節内旋可動域の減少が報告されており(Elleraら,2008),股関節内旋可動域制限の改善は着地動作中の正常な運動連鎖を導き,膝関節外反,内旋ストレスの減少に繋がるかもしれない。本研究はスポーツ理学療法分野におけるACL損傷予防,またACL再建術後リハビリテーションの一助となるものと考える。
  • 生田 亮平, 山中 正紀, 石田 知也, 谷口 翔平, 越野 裕太, 上野 亮
    セッションID: 0440
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】膝前十字靱帯(ACL)損傷は約70%が他者との明らかな接触がない着地動作やカッティング動作で生じる非接触型損傷とされ,非接触型ACL損傷発生率は男性に比べ女性で2から8倍高いと報告されている。ACL損傷は接地後早期に生じると報告されており,着地動作における接地後早期の膝関節の動的制御が重要である。筋収縮はその電気的活動が筋に伝わってから30から50ms遅れて発生することが示されているため,着地動作における接地後早期の膝関節制御には接地前からの筋活動(前活動)が必要である。しかし,着地動作における膝周囲筋前活動と膝関節運動および膝関節モーメントの関係を検討した研究は少なく,特にACL損傷が発生するとされる接地後早期に焦点を当てたものは見られない。よって本研究の目的は,着地動作における膝周囲筋前活動と接地後早期を含む接地後の膝外反角度および膝外反モーメントの関係を検証することとした。【方法】健常女性16名を対象とした(年齢21.6±0.8歳,身長162.0±5.7cm,体重53.1±6.5kg)。除外基準はACL損傷の既往を有する者,過去6ヶ月間に下肢・体幹の整形外科的な既往を有する者とした。計測には赤外線カメラ6台(Motion Analysis社製)と三次元動作解析装置EvaRT4.3.57(Motion Analysis社製,200Hz),ワイヤレス表面筋電計(日本光電社製,1000Hz),床反力計2枚(Kistler社製,1000Hz)を同期させ用いた。反射マーカーは骨盤および下肢の骨指標,右下肢の大腿,下腿などに合計39個貼付した。筋電計の導出筋は大腿直筋,内側広筋,外側広筋,大腿二頭筋,半腱様筋とし,SENIAMに準じた位置に電極を貼付した。はじめに各被験者の最大等尺性収縮(MVIC)時の筋活動をSENIAMに準じて記録し,その後に動作課題を行った。動作課題は30cm台から着地後直ちに最大垂直跳びを行うDrop Vertical Jump(DVJ)とした。DVJでの最初の台からの着地における,初期接地(IC)から膝最大屈曲までを解析相とし,SIMM6.0.2(MusculoGraphics社製)を用いて各施行における膝外反角度および膝外反モーメントを算出した。膝外反角度は各被験者の静的立位時を0°とし,IC時,IC後50ms,解析相における最大角度をそれぞれ解析に用いた。膝外反モーメントは各被験者の体重および身長で除し,標準化した。筋電図データはband-pass filter(20-500Hz)で処理したのち,全波整流処理を行い,low-pass filter(10Hz)にて平滑化した。得られた筋電図データから,IC前50msからICまでの積分値を算出し,MVICのデータで標準化した。MVICデータは50msのmoving windowを用いてMVIC試技中の50ms間積分値の最大値を算出した。統計学的解析はPearsonの相関係数を用い,膝外反角度および最大膝外反モーメント(それぞれ外反が正を示す)と膝周囲筋前活動の積分値との関係性を検討した。有意水準はP<0.05とした。なお,各被験者データは成功3試行の平均値を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当大学院倫理委員会の承認を得て行った。対象には事前に口頭と書面で本研究の目的,実験手順,考えられる危険性などを十分に説明し,その内容について十分に理解を得て,参加に同意した者は同意書に署名し,研究に参加した。【結果】大腿二頭筋の前活動(IC前50ms平均筋活動量:13.0±5.9%MVIC)とIC時膝外反角度(-1.0±2.6°,R=0.67,P<0.01),ICから50msまでの膝外反角度変化量(3.4±3.2°,R=0.51,P<0.05),最大膝外反角度(11.4±5.6°,R=0.509,P<0.05)との間にそれぞれ有意な正の相関を認めた。その他に統計学的有意な相関は認めなかった。【考察】本研究結果は,大腿二頭筋の前活動が着地動作時の最大膝外反角度と相関するという過去の報告(Smithら,2008)を支持するものであり,さらに本研究から,大腿二頭筋の前活動は接地時や接地後早期の膝外反運動とも関連することが示された。大腿二頭筋の前活動は,非接触型ACL損傷リスクとされる接地後早期の膝外反運動と関連することから,非接触型ACL損傷に関連する要因の一つであることが示唆された。神経筋トレーニング効果により,膝周囲筋前活動に変化が生じることが報告されており,大腿二頭筋の前活動を減じることはACL損傷予防に繋がる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究結果は非接触型ACL損傷リスクとされる接地後早期の膝外反運動と大腿二頭筋の接地前活動が相関することを示し,接地後早期の膝外反運動を制御するために接地前への介入が必要であることを示唆するものである。よって本研究はスポーツ理学療法分野におけるACL損傷予防,またACL再建術後リハビリテーションの一助となるものと考える。
  • 唄 大輔, 岡田 洋平, 福本 貴彦
    セッションID: 0441
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】膝前十字靭帯(以下ACL)損傷予防において,ジャンプ着地動作時に脛骨前方移動を制御するための前活動という機能が着目されており,着地前からの筋活動を誘導することが損傷予防に有効であると多く報告されている。前活動に関して,垂直ジャンプ着地やドロップジャンプ着地時の報告は多くあり,着地時に大腿四頭筋に対してハムストリングスの前活動が早いことが報告されており,着地前に適切なタイミングでハムストリングスの前活動を高めることが,ACL損傷予防に有効な戦略の一つとして考えられる。ACL損傷予防プログラムには様々なジャンプ動作が用いられており,その中には回転ジャンプ着地動作も含まれている。しかし,回転ジャンプ着地時における前活動のタイミングについて明らかにされておらず,損傷予防のための前活動を促す練習としての有用性は明らかでない。そこで本研究の目的は,180°,360°回転ジャンプ着地動作両条件における着地時の筋の前活動開始時間の相違を検証することとした。【方法】対象は下肢に運動器疾患のない健常女性10名(平均年齢23.5±2.5歳,平均身長158.5±4.8 cm,平均体重50.3±3.8 kg)とした。課題は直立位から右側へ180°および360°回転ジャンプを行わせ,着地後に着地姿勢を2秒間保持することとし,両条件において3試行ずつ実施した。着地動作における左膝関節周囲筋の筋活動の評価は表面筋電図測定装置を用い,筋活動開始が床反力計により評価した着地時点より何秒前に認められたかを算出した。被検筋は,内側広筋,大腿直筋,外側広筋,大腿二頭筋,半膜様筋の5筋とした。各条件において,各筋の活動開始時間の3試行の平均値を算出した。統計解析は,課題間における各筋の活動開始時間の差の検討には対応のあるt検定を用いた。また,各課題において筋間の活動開始時間の差を検討する際には,一元配置分散分析を用い多重比較にはTukey-Kramer検定を用いた。危険率は5%未満を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属機関の研究倫理委員会の承認(H23-25)を得て行った。被験者には本研究の趣旨について口頭および文書にて十分な説明を行い,書面にて同意を得た。【結果】180°回転ジャンプの筋活動開始時間は,内側広筋が0.03±0.01ms,大腿直筋が0.03±0.01ms,外側広筋が0.04±0.01ms,大腿二頭筋が0.11±0.03ms,半膜様筋が0.13±0.04msであった。また,360°回転ジャンプにおいて,内側広筋が0.04±0.01ms,大腿直筋が0.04±0.01ms,外側広筋が0.04±0.01ms,大腿二頭筋が0.13±0.04ms,半膜様筋が0.14±0.04msであった。全ての筋の活動開始時間は課題間で有意差が認められなかった。また,180°,360°回転ジャンプいずれにおいても,大腿二頭筋と半膜様筋の活動開始時間は内側広筋・大腿直筋・外側広筋に対して有意に早かった(p<0.01)。しかし,どちらの課題も大腿二頭筋と半膜様筋間の活動開始時間,また内側広筋・大腿直筋・外側広筋間の活動開始時間において有意差が認められなかった。【考察】本研究では,180°,360°回転ジャンプ着地動作における膝関節周囲筋の筋活動開始時間の差を検討した結果,各筋において前活動を認めたが,活動開始時間は課題間で有意な差を認めなかった。また,いずれの課題においても大腿二頭筋と半膜様筋が内側広筋・大腿直筋・外側広筋に対して有意に早かった。本研究において検討した膝関節周囲の5筋すべてにおいて着地前の前活動が認められたことから,回転ジャンプ着地動作はACL損傷予防のための前活動を促す動作課題として利用可能であると考えられる。また,回転ジャンプ着地動作における大腿二頭筋と半膜様筋の筋活動開始時間は,先行研究におけるドロップジャンプ着地動作の結果より早い傾向が見られ,回転ジャンプ着地動作はドロップジャンプ着地動作よりも着地前のより早いタイミングでの前活動を促す課題として有用である可能性がある。また,大腿二頭筋と半膜様筋間の活動開始時間に差がなく,内側広筋・大腿直筋・外側広筋間にも差を認めなかった。着地前に外側の大腿二頭筋と外側広筋の活動が高まることで着地時に膝関節が外反方向へ誘導されることや,膝関節内側の筋群の活動が着地時の外反制動に関連することなどの報告がある。本研究における両回転ジャンプ着地動作においては大腿二頭筋と半膜様筋間の前活動が同様のタイミングで起こり,また内側広筋・大腿直筋・外側広筋間でも活動が同様のタイミングで起こったことにより,内外反方向への回旋ストレスを軽減している可能性がある。【理学療法学研究としての意義】回転ジャンプ着地動作は着地前の前活動を要する課題であり,ACL損傷予防プログラムの一つとして有用であることが示された。
  • 大路 駿介, 相澤 純也, 柳下 和慶
    セッションID: 0442
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに・目的】ジャンプ着地は,バスケットボールやハンドボールなどの競技において不可欠な動作であり,着地時の床反力の急激な増大は前十字靭帯(以下:ACL)損傷などの下肢スポーツ傷害のリスクファクターとされている(Griffin,2000;Cocharane,2007)。実際の競技では相手をかわしながらジャンプしてシュートを打ち着地するような空中での身体回転を伴った着地動作が要求される。しかし,床反力の分析は単純な前方もしくは側方へのジャンプ着地を課題としたものが多く(Hewett,2004;Mark,2010),空中で身体の回転を伴いながら着地(空中回転着地)した際の床反力の特徴に関するデータは見当たらない。そこで本研究では,前方や側方へのジャンプ着地に加えて空中回転着地課題において,床反力を計測し,比較することで空中回転着地時の緩衝コントロールの評価及び指導に役立つ基礎データを得ることを目的とした。【方法】対象は健常アスリート19名(男性15名,女性4名)。参加基準:①過去2年間に体幹,下肢の手術歴がない,②過去6か月間に明らかな整形外科的,神経学的な病歴がない,③過去に膝靱帯損傷および手術歴がない。計測課題は,20cm高のボックス上での片脚立位から60cm離れたフォースプレート(9260AA6,Kistler)上に最小限のジャンプで片脚着地させる動作とした。ジャンプ・着地方向は前方,外側方,外回り回転,内回り回転の4種類とした。外回り,内回り回転では,フォースプレートに対して支持側下肢の外側,内側を向けて立ち,90°の回転をしながら前向きに着地するよう指示した。解析ソフト(TRIAS,DKH)を使用してa)床反力垂直成分の最大値(体重比),b)初期接地から床反力垂直成分最大値までの時間を計測・抽出した。また単位緩衝時間あたりの垂直床反力としてaをbで除した値を算出した。統計学的分析としては,a,b,a/bを従属変数とし,ジャンプ・着地の方法(4水準)と左右(2水準)を要因とした2元配置分散分析および多重比較を実施した。統計ソフト(SPSS ver.21)を用いて有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は東京医科歯科大学医学部付属病院倫理審査委員会によって承認された後に開始した。全ての参加者に対して研究開始前にヘルシンキ宣言の精神に基づき作成した参加説明書および同意書の内容を説明し,同意の意思を署名により確認した。【結果】参加者の年齢,身長,体重,BMIは各々平均で21.6歳,169.8cm,63.3kg,21.8であった。計測値の平均および標準偏差を下記に示す。a:前方右足407±69%,前方左足414±75%,側方右足394±66%,側方左足394±81%,外回り右足417±93%,外回り左足412±76%。内回り右足419±88%,内回り左足411±82%。b:前方右足40±12ms,前方左足38±12ms,側方右足61±12ms,側方左足65±15ms。外回り回転右足43±14ms,外回り回転左足50±23ms,内回り回転右足42±12ms,内回り回転左足40±10ms。a/b:前方右足11910±6812,前方左足12169±5246,側方右足9356±11239,側方左足6536±2337。外回り回転右足11502±7293,外回り回転左足10690±8781。内回り回転右足10819±6732,内回り回転左足10564±3550。b)初期接地から床反力垂直成分最大値までの時間においてジャンプ・着地の方法の効果は有意であった(p<.01)。Tukey法による多重比較の結果,平均の大小関係は外回り回転=内回り回転=前方<側方であった。その他の項目については条件の効果を認めなかった。【考察】空中回転着地では,側方着地と比較し初期接地から床反力垂直成分最大値までの時間が有意に低値を示した。これらの値は過去の報告による実際のACL損傷の発生タイミング17-50ms(Krosshaug,2007;Koga,2010)と一致した。空中回転着地では単純な前方や側方への着地と比べて膝の外反や回旋のモーメントアームが増大しやすいと推察される(Shin,2011;Jamison,2012)。空中回転着地時のACLにかかるストレスをコントロールするためには,膝のモーメント増減に影響しうる床反力の立ち上がり時間をコントロールすることが重要になるかもしれない。【理学療法学研究としての意義】今回得られた空中回転着地時の床反力計測は,単純な前方もしくは側方への着地と比べて,実際の競技特性をより考慮したものであり,得られたデータは空中回転を伴う着地動作での接地緩衝のための評価手法の発展や指導に役立つ基礎データとなりうる。空中回転課題を統制した着地における床反力データは国内外をみても見当たらない。
  • ~入院時の栄養状態は自宅退院の可否に影響する~
    國枝 洋太, 今井 智也, 三木 啓嗣, 野田 真理子, 野村 圭, 松本 徹, 新田 收, 星野 晴彦
    セッションID: 0443
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,急性期病院における在院日数の短縮が進む中,発症後早期からの効率的な機能回復を促す理学療法の実施が求められる。急性期病院の理学療法士は機能回復と同時に,自宅退院の可否や回復期病院転院の適応などを理学療法介入早期の段階で予測し,医師や看護師,ソーシャルワーカーなどと情報交換を行う必要性が求められている。そこで本研究では,急性期脳梗塞患者の転帰先をより早期かつ正確に予測するために,自宅退院の可否に関連する因子を抽出し,その影響度を検討することを目的とした。【方法】対象は2012年9月から2013年8月に発症後3日以内に当院に入院した急性期脳梗塞患者108名のうち,当院の離床コースに従って離床を図り,データ欠損のない60名(平均年齢72.7±13.0歳,平均在院日数23.8±18.4日)とした。まず自宅退院の可否に関連する因子を抽出するため,診療録より後方視的に,年齢(75歳以上;ダミー変数1,75歳未満;ダミー変数2),性別(男;1,女;2),世帯構成人数(独居;1,同居者あり;2),入院時血清アルブミン値(alb値)(3.5g/dl未満;1,3.5g/dl以上;2),入院時National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS)(8点以上;1,8点未満;2),入院から1週後の藤島式嚥下グレード(嚥下Gr)(Gr1~6;1,Gr7~10;2),高次脳機能障害(認知症は除く)(あり;1,なし;2),離床時の20mmHg以上の収縮期血圧低下(あり;1,なし;2)を調査し,ダミー変数(1,2)を用いてそれぞれカテゴリー化した。各項目について自宅退院が可能であった34名(自宅群)と自宅退院が困難で回復期病院や施設へ入所した26名(転院群)に割りつけ,その関連性を比較検討した。統計分析は,SPSSver20を使用し,有意水準は5%とした。カテゴリー化された各検討項目と自宅退院の可否にてクロス集計表を作成し,χ2検定を行った。χ2検定にて有意差を認めた項目に関して,自宅退院の可否に対する影響度を検討するため,尤度比による変数増加法にて多重ロジスティック回帰分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】理学療法開始時に内容の説明を全患者本人または家族に行い,書面にて同意を得た上で実施した。この研究はヘルシンキ宣言に沿って行い,得られたデータは匿名化し個人情報が特定できないよう配慮した。【結果】χ2検定にて自宅退院の可否と関連を認めた項目は,年齢,性別,alb値,入院時NIHSS,嚥下Gr,高次脳機能障害であった。世帯構成人数,離床時の収縮期血圧低下は有意差を認めなかった。次に年齢,性別,alb値,入院時NIHSS,嚥下Gr,高次脳機能障害の6項目を用いて検討した多重ロジスティック回帰分析では,alb値(p=0.017,オッズ比0.085,95%信頼区間:0.011-0.644),高次脳機能障害(p=0.003,オッズ比0.098,95%信頼区間:0.021-0.449),入院時NIHSS(p=0.045,オッズ比0.173,95%信頼区間:0.031-0.963)の3項目が選択された。HosmerとLemeshowの検定結果は,p=0.899で問題はなく,判別的中率も85.0%と比較的良好な結果であった。急性期脳梗塞患者で自宅退院が困難な症例は,年齢が75歳以上の女性で,入院時の栄養状態が悪く,嚥下障害および高次脳機能障害を有する患者が自宅退院に難渋する結果を示した。中でも入院時の栄養状態と高次脳機能障害,脳卒中重症度が,自宅退院の可否に対し高い影響度を示した。【考察】本研究では脳梗塞患者の自宅退院の可否の予測因子として,先行文献での報告と比較的類似した結果を示したが,世帯構成人数では自宅退院との関連を示さなかった。これは同居者の有無ではなく,介護者の有無が関連している可能性が示唆された。多重ロジスティック回帰分析にて高い影響度を示した項目のうち,高次脳機能障害と脳梗塞の重症度は自宅退院に影響を及ぼす因子として様々な報告があるが,本研究ではalb値が最も自宅退院に強く影響を及ぼす結果であった。一般的にalb値は,栄養状態の指標として臨床場面で頻繁に用いられるが,半減期の問題や他疾患の影響によりその他のデータとの併用が推奨される。急性期病院搬送直後のalb値は,入院前の栄養状態や入院時の全身状態を反映しており,自宅退院の可否にも影響していることが示唆された。よって入院時のalb値が栄養の指標としてだけでなく,転帰の予測因子としての可能性が示唆された。今後の課題は,入院中のalb変化量と転帰の関連や,alb値と社会背景との関連性の検討,施設入所患者の分類方法の検討などである。【理学療法学研究としての意義】急性期脳梗塞患者の自宅退院の関連因子が客観的により抽出されることで,急性期病院において早期理学療法介入による効率的機能回復に加えて,理学療法士としての立場から発症後早期の段階で転帰予測をより正確に行い,他職種との情報交換が可能となる。
  • 中村 潤二, 喜多 頼広, 岡田 洋平, 庄本 康治
    セッションID: 0444
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】半側空間無視(Unilateral spatial neglect:USN)に対する治療の一つにカロリック刺激がある。カロリック刺激は,外耳から冷水を注水し,前庭器官を刺激し,USNを改善させる。しかしカロリック刺激は,眩暈や嘔気を引き起こし,副作用の影響が大きく,効果の持続は15分程度のため,臨床での実施は困難である。カロリック刺激に代わる前庭刺激法として,直流前庭電気刺激(Galvanic vestibular stimulation:GVS)がある。GVSは,両側の乳様突起に貼付した電極から微弱な直流電流を通電し,前庭器官を刺激するものである。GVSはカロリック刺激と異なり,刺激強度を調節できるため,眩暈や嘔気などを生じることなく,前庭器官を刺激することが可能である。皮膚感覚閾値下の低強度のGVSをUSN患者に対して実施し,抹消試験を行うことで,この改善が報告されている。しかし,USNに対するGVSの先行研究は少なく,実施中の効果を報告しており,持続効果や刺激時間,刺激極性の違いによる効果の違いを検討した報告は少ない。本研究の目的は,USN患者に対するGVSの刺激時間,刺激極性による影響の違いを検討することとした。【方法】対象は初回脳卒中発症後2ヶ月以上を経過し,左USNを呈する患者(USN+群)7名(年齢75.4±9.0歳;女性4名)とUSNを呈さない患者(USN-群)8名(年齢76.6±7.2歳,女性5名)とした。USNはBehaviour Inattention Test(BIT)の通常検査においてカットオフ値以下の場合をUSNとした。GVSは直流電流を用い,両側の乳様突起に自着性電極を貼付して行った。刺激強度は皮膚感覚閾値の70から80%の感覚閾値下とした。刺激時間は20分間とした。GVSの刺激極性は左乳様突起を陰極,右を陽極とした左GVS,右を陰極,左を陽極とした右GVS,電極設置のみのsham刺激の3条件を各対象者に,48時間以上の間隔を空けて無作為の順番で実施した。GVSは経頭蓋直流電気刺激の安全基準に基づき実施した。評価は,BITの線分抹消試験を用いて抹消数を算出し,各条件毎に刺激前,GVS開始から10分後の10分間刺激,20分後の20分間刺激,終了後から24時間後の4条件で測定した。統計解析はUSN+群のみに実施し,反復測定二元配置分散分析およびBonferroni法による多重比較を実施した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者の保護に十分留意し,対象者には,本研究の目的について説明し,自署による同意を得た後に実施した。【結果】全症例において疼痛や眩暈などの副作用の訴えはなかった。USN+群における各刺激条件の刺激前の間には有意差は認めなかった(p>0.05)。二元配置分散分析にて,時間による主効果を認め(F=3.33,p=0.026),相互作用が認められた(F=3.13,p=0.01)。多重比較にて,左GVSにおける刺激前と20分間刺激との間に有意な増加がみられ(p<0.001),10分間刺激,24時間後においても増加傾向を示した(p>0.05,GVS前:25.0±11.3,GVS中:27.4±8.8,GVS後:29.6±8.4,24時間後:27.0±9.7)。右GVS(刺激前:25.0±10.9,10分間刺激:26.6±10.4,20分間刺激:26.9±11.4,24時間後:26.9±10.5)やsham刺激(刺激前:27.1±9.8,10分間刺激:25.7±10.0,20分間刺激:26.1±11.2,24時間後:25.9±11.1)に有意な変化はみられなかった(p>0.05)。USN-群では,いずれの刺激条件においても線分抹消数の変化はみられず,全ての線分を抹消した。【考察】全症例に副作用の報告はなく,USN-群においても線分抹消数の減少がなかったことから,GVSによる悪影響は少ないと考えられる。今回,左GVSを20分間行った際に有意な線分抹消数の増大がみられ,24時間後にも増加傾向を示した。他の非侵襲性脳刺激法である経頭蓋直流刺激も刺激量の増大に伴い,ワーキングメモリの向上することが報告されており,GVSも刺激量に応じた効果が得られ,10分間よりも20分間の刺激の方が効果を高める可能性がある。GVSを実施すると,前庭皮質やその周辺領域が賦活し,空間性注意の偏移を調節し,USNが改善する可能性があるとされるが,極性によって賦活の様式が異なるされる。左GVSでは,両側の前庭皮質が賦活したのに対して,右GVSでは右側の前庭皮質が賦活するとされる。今回は左GVSにより広範囲に前庭皮質等を賦活したことで効果が高かったのかもしれない。また先行研究では,GVS中に線分二等分試験を実施し,特に右GVSにおいて改善がみられており,本研究とは異なる結果となっている。これには刺激量や患者の重症度,課題の違いが影響している可能性があり,さらなる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】GVSは副作用が少なく,USNに対する新たな治療手段となる可能性があるが,適切な刺激方法は明らかではないため,今回の結果から20分間の感覚閾値下の左GVSは,効果的な改善を得られる刺激条件となる可能性がある。
  • 安藤 千里, 宮崎 雅子, 石原 裕也, 清水 さとみ, 内山 靖
    セッションID: 0445
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】回復期の脳血管障害患者(Cerebrovascular Disease:以下CVD患者)では,日常生活活動(activities of daily living:以下ADL)の改善が多いものと少ないものがいる。その中でも臨床経験上,注意機能障害や意欲低下を有すると動作・活動能力の改善が少ない印象を受ける。特に,移乗は動作を遂行する際に多くのプロセスを組んでいるため,他の基本動作に比べ,より多くの注意機能を必要とすると考えられる。しかし,CVD患者の注意機能が歩行能力に影響するという報告はされているが,注意機能と移乗動作に着目した報告は少ない。また,意欲低下においてはADLの改善を阻害する因子であるとの報告を散見するが,移乗動作との関係は明らかではない。そこで,移乗動作に着目して,CVD患者の注意機能障害・意欲低下がその改善に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。【方法】対象は2012年9月から2013年9月までA病院に在院したCVD患者64例(男性43例,女性21例,平均年齢67.8±12.4歳)であった。移乗動作に関しては,病棟での実際の移乗動作を測定した実行状況移乗Functional Independence Measure(以下FIM)と最大能力を測定した能力移乗FIMの2つを評価した。さらに他の測定項目において,脳卒中機能はStroke Impairment Assessment Set(以下SIAS),運動機能はBrunnstrom recovery stage(以下BRS),認知機能はMini-Mental State Examination(以下MMSE),注意機能はTrail Maiking Test PartA(以下TMT-A),Behavioral Assessment of Attentional Disturbance(以下BAAD),意欲はやる気スコア,Vitality Index(鳥羽ら)を用いた。各項目は入院時と入院1ヶ月後(以下1ヶ月後)に測定をした。実行状況移乗FIMと能力移乗FIMについて,1ヶ月後-入院時の値を求め,それぞれ改善あり・なしの2群に分類した。各項目間の関連性にはSparmanの相関係数を用いた。移乗FIM改善あり・なしの2群を従属変数とし,入院時SIAS,MMSE,TMT-A,BAAD,Vitality Indexを独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。さらに,入院時と1ヶ月後の移乗FIMで,自立群(FIM7・6点)と介助群(FIM5点以下)の2群に分類し,同様の分析を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。全ての対象者に文書と口頭にて十分な説明をし,文書による同意を得た。【結果】入院時の実行状況移乗FIMは,BAAD(r=-0.475)・SIAS(r=0.657)・Vitality Index(r=0.405)・BRS(r=0.492)と相関がみられた。能力移乗FIMは,BAAD(r=-0.441)・SIAS(r=0.570)・Vitality Index(r=0.387)・BRS(r=0.387)と相関がみられた。ロジスティック回帰分析では,実行状況移乗FIMの改善には,入院時のMMSE(オッズ比0.875),能力移乗FIMには入院時のBAAD(オッズ比0.852)が関係していた。また,実行状況移乗FIMの自立には,SIAS(入院時オッズ比0.890,1ヶ月オッズ比0.930)とVitality Index(入院時オッズ比0.566,1ヶ月オッズ比0.552)が関係していた。能力移乗FIMの自立には,SIAS(入院時オッズ比0.914,1ヶ月オッズ比0.932)とVitality Index(入院時オッズ比0.566,1ヶ月オッズ比0.367)が抽出された。【考察】実行状況移乗FIMの改善に与える因子として,認知機能評価であるMMSEが抽出された。能力移乗FIMの改善に与える因子としては,注意機能評価であるBAADが抽出された。豊倉らは,FIMとBAADには負の相関があると報告している。今回も同様の結果が得られ,更にFIMの改善には認知機能・注意機能が影響していることが示唆された。また,入院時と1ヶ月後のそれぞれの時期においてFIMの自立に影響を及ぼす因子として,意欲の評価であるVitality Indexが抽出された。実際の日常生活での移乗自立に影響を与える因子として,意欲が関与することが示唆された。【理学療法学研究としての意義】今回,移乗の改善や自立に影響を及ぼす因子として,注意機能と意欲の関連が認められた。理学療法士として,身体機能に加えて注意機能や意欲に着目した治療プログラムとゴール設定が必要であると考えられる。今後,退院までの経時的な変化を追うことで,より詳細な構造を明らかにしていきたい。
  • 多施設間ランダム化比較対照試験の中間解析
    生野 公貴, 渕上 健, 小山 総市朗, 藤川 加奈子, 小林 啓晋, 北裏 真己, 松永 玄, 河口 紗織, 山口 智史
    セッションID: 0446
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳卒中後の歩行能力再獲得は,リハビリテーションの重要な目標である。近年,歩行能力獲得への介入として,ペダリング運動や電気刺激,それらの併用による効果が報告されている。先行研究ではペダリング運動に機能的代償として電気刺激を併用する報告が多いが,特殊な装置が必要なため臨床で簡便に用いることが困難であった。また適切な対照群を設定していないため,併用治療が各治療単独より効果的かどうかは不明であった。我々は,回復期脳卒中患者を対象として,ペダリング運動中に簡便に使用可能な感覚刺激強度の電気刺激を併用することが歩行能力改善に有効かどうかを多施設間ランダム化比較対照試験で検討することを目的とした。本報告はその中間解析として臨床効果と目標症例数の確認を行った。【方法】対象は7施設の回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中患者である。参加基準は,発症後6か月以内である初回発症の脳梗塞および脳出血患者,監視レベル以上で10m以上の歩行が可能なものとした。研究デザインは多施設間単一盲検ランダム化シャム統制試験とし,対象者をペダリング運動と電気刺激併用(P-ES)群,ペダリング運動と偽刺激併用(P-Sham)群,電気刺激単独(ES)群の3群に無作為に割り付けた。ランダム化には単純ランダム化を用い,割り当ては中央登録性とした。介入は,標準的リハビリテーションに加えて1日1回15分の治療介入を週5回3週間実施した。ペダリング運動には,リカンベントエルゴメーターを用い,負荷は25Wとし,快適な回転速度にて15分間実施した。電気刺激には低周波治療器(Trio300,伊藤超短波社製)を用いた。刺激部位は大腿四頭筋と前脛骨筋とし,対称性二相性パルス波にて周波数は100Hz,パルス時間は250μsとした。刺激強度は感覚閾値の1.2倍とし,ペダリング運動と同時に15分持続的に刺激した。P-Sham群は「非常に弱い電気を流します」と伝えて刺激強度を0mAとした。ES群は電気刺激のみとし,椅子座位にて15分実施した。主要評価項目は10m歩行速度とし,副次的評価項目は6分間歩行テスト,modified Ashworth scale,Fugl-Meyer Assessment下肢,膝伸展筋力,Functional Independence Measure,Stroke Impact Scaleとした。評価は介入前,3週後,6週後に測定した。統計解析は介入前の群間比較に一元配置分散分析またはカイ二乗検定を行った。3週後および6週後の3群間の多重比較には,Bonferroniの補正を行ったt検定を実施した(α=0.017)。3週後の主要評価項目の結果から効果量およびパワーを算出し,必要症例数を求めた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は各実施施設における倫理委員会の承認を受けた。対象者には本研究の主旨を説明し,手記にて同意の得られたのちに介入を実施した。尚,本研究はUMIN臨床試験登録をしている(UMIN000007685)。【結果】研究期間中,P-ES群に10名,P-Sham群に14名,ES群に15名の計39名が割り当てられた。ES群の1名が脱落した。介入実施中の有害事象はなかった。介入前評価において,全評価項目で3群間に有意差はなかった。3週後評価では,10m歩行速度においてP-ES群はP-Sham群と比較して有意な改善を示し(P=0.016),ES群とは有意差がなかった(P-ES群:0.77±0.18m/s,P-ES群:0.53±0.24m/s,P-ES群:0.71±0.34m/s)。その他の評価項目に有意差はなかった。6週後では,10m歩行速度においてP-ES群はP-Sham群と比較して有意な改善を示し(P=0.001),ES群とは有意差がなかった(P-ES群:0.85±0.19m/s,P-Sham群:0.53±0.18m/s,ES群:0.72±0.34m/s)。その他の評価項目に有意差はなかった。3週後の10m歩行速度の結果から,効果量は0.4,パワーは0.56であり,必要症例数は66名と計算された。【考察】本研究はペダリング運動と電気刺激を併用することでペダリング運動単独よりも歩行速度の改善が有意に大きいことを明らかにした。電気刺激単独との有意差はなかったが,併用治療がもっとも改善度が大きい傾向にあった。これは,電気刺激と随意運動の併用が最も皮質脊髄路の興奮性を増大させる,あるいは相反神経抑制を増大させることに起因するかもしれない。本研究は先行研究よりも簡便に実施することが可能であり,脱落率も低いことから歩行速度改善に対して臨床有用性が高い治療であると考えられる。今後目標症例数に到達することで,より正確な結果を示すことが可能である。【理学療法学研究としての意義】本研究は多施設間ランダム化比較対照試験において脳卒中後歩行障害に対するペダリング運動と電気刺激の併用治療の効果を検証した貴重な報告である。今後研究を継続し,有効性が強固なものになれば,歩行障害に対する介入のエビデンスの構築に大いに寄与すると考えられる。
  • 渡邉 大貴, 田中 直樹, 金森 毅繁, 斉藤 秀之, 長澤 俊郎, 小関 迪, 柳 久子
    セッションID: 0447
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】現在,ロボットスーツHAL®福祉用(以下,HAL®)(CYBERDYNE株式会社)は全国の約160施設や病院に導入され,理学療法士により臨床応用されている。KubotaらやKawamotoらはHAL®装着下での歩行練習を実施し,歩行能力に向上を認めたと報告している。しかしながら,HAL®を使用したリハビリテーション(以下,リハ)の効果を通常のリハと比較した研究は少なく,HAL®の有効性については今だ不明な点が多い。そこで,本研究では脳卒中片麻痺患者におけるHAL®を用いたリハの効果を検討することを目的とする。【方法】研究デザインは,ベースライン期(以下,BL期),介入期で構成した群間比較デザインとした。本研究の同意が得られた患者をHAL®群と対照群にくじ引き試験を用いて割り付けた。対象は当院の回復期リハ病棟に入院し,本研究の同意が得られた脳卒中片麻痺患者であり,①発症前から歩行が可能な者,②回復期リハ病棟入棟時に歩行が自立していない者,③意識レベルがJapan Coma Scaleで1桁である者,④重篤な心肺機能障害を有さない者とした。研究プロトコルは,BL期に開始時評価を実施し,HAL®群の介入期ではHAL®を使用した歩行リハ20分間を1回とし,週3回合計12回,対照群の介入期では従来の平地歩行練習20分を1回とし,週3回合計12回実施し,介入終了時には開始時評価と同様の評価を実施した。その他の理学療法,作業療法,言語聴覚療法は継続して実施し,週3回合計12回の介入のみ規定した。本研究で使用したHAL®は単脚用であり,制御モードは,基本的にCVC(Cybernic Voluntary Control)モードを選択し,生体電位信号が出現しない場合はCAC(Cybernic Autonomous Control)モードを使用した。主要評価項目は,Functional Ambulation Category(以下,FAC)。副次評価項目は,患者情報,下肢Fugl-Meyer Assessment(以下,下肢FMA),下肢等尺性筋力(両股関節屈曲・伸展,両膝関節屈曲・伸展),Timed up and go test(以下,TUG),10m最大歩行速度,6分間歩行距離とした。統計学的解析は,BL期,介入期における各評価においては,二元配置反復測定分散分析を使用し,危険率5%未満を統計学的に有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当院の倫理委員会の承認と筑波大学医学医療系医の倫理委員会の承認を得て実施し,患者には説明と同意を得て実施した。【結果】2013年2月8日~2013年9月8日に当院の回復期リハ病棟に入院した脳卒中片麻痺患者は61名であった。そのうち,33名が除外され28名をランダムに2群に割り付けた。HAL®群は14名中3名が脱落し最終的に11名,対照群は14名中3名が脱落し最終的に11名となった。平均年齢はHAL®群67.0±16.8歳,対照群75.6±13.9歳,病型は両群ともに脳梗塞6名,脳出血6名,発症後期間はHAL®群58.9±46.5日,対照群50.6±33.8日でありBL時の患者特性においては両群間で有意差を認めなかった。二元配置反復測定分散分析の結果,FACは時間要因(F値:55.577,p<0.001)と交互作用(F値:4.808,p<0.05)は有意であったが,群間要因は有意ではなかった。下肢FMA,TUG,6分間歩行距離においては,時間要因は有意であったが,群間要因や交互作用は有意ではなかった。下肢等尺性筋力,10m最大歩行速度においては,時間要因,群間要因,交互作用ともに有意ではなかった。【考察】回復期脳卒中片麻痺患者におけるHAL®を用いた歩行リハは,従来の平地歩行練習より明らかに優れていなかった。しかし,HAL®群は,対照群に比べて歩行能力の向上を認めた。これは,HAL®を使用したことによって,生体電位センサや床反力センサの情報をもとに歩行時の立脚相や遊脚相に応じた筋活動を適切なタイミングでアシストでき,左右対称的な歩行練習を実施することができた。このことが,歩行能力の向上に寄与したと考える。HAL®を使用した歩行リハは,歩行能力を改善できる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は,HAL®の臨床プロトコルの一案,ロボット技術を応用した歩行練習の一案であり,症例を蓄積し他の治療アプローチと比較することにより,根拠に基づく理学療法へとつながる可能性がある。
  • Health Action Process Approachの視点から
    小沼 佳代, 竹中 晃二
    セッションID: 0448
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】リハビリテーション(以下,リハ)の最終目標は,QOLの最大限の向上である(上田,1981)。そのため,リハ専門家は,患者の機能や能力のみならず,退院後の生活を想定した介入を行う必要がある。しかし,回復期リハ対象者の5割を占める脳卒中患者について,退院後に活動量やADL能力が低下している(細井,2011;芳野,2010)と報告されている。活動量の低下は,身体・精神機能が低下する悪循環を生じさせ,QOLの低下につながる(佐浦,2006)。すなわち,リハ本来の目的が達成されていない現状がうかがえる。退院後の社会的活動性は,健康関連QOL(Almborg,2010)や生活満足度(Boosman,2011)に影響を及ぼすことが明らかとなっており,最終目標であるQOLの向上を図るためには,退院後の社会的活動性の向上に着目する必要があるといえる。しかし,社会的活動性を向上させる効果的な介入方略は確立されていない。一方,健康行動の促進に対する介入においては,多くの行動科学の理論が用いられている。多くの理論では,行おうとする「意図」が行動の予測因子となるとされている。中でも,Health Action Process Approach(以下,HAPA)は,意図に加えて,詳細な「プランニング」(アクションプラン・コーピングプラン)や「セルフエフィカシー」(以下,SE)が行動を促進し,心疾患や整形外科疾患患者の身体運動の促進にも適用可能であるとされる(Schwarzer,2008)。本研究では,退院3ヵ月後から6ヵ月後にかけての,社会的活動性,および意図の変化を明らかにすること,また,HAPAの要素を踏まえ,退院6ヵ月後の社会的活動性に影響を及ぼす要因を明らかにすることを目的とした。【方法】回復期リハ病院から自宅へ退院する患者のうち,主病名が初発の脳卒中で,活動を制限する重篤な既往症がなく,担当言語聴覚士との合議により自記式の質問紙への回答が可能と判断された患者を対象とした。対象者の自宅に,退院から3ヵ月経過時に,随時,調査票と返信用封筒を送付した。調査票の項目は,①社会的活動性尺度(Social Activity Scale),②社会的活動実施意図尺度(Implementation Intention of Social Activity Scale),③産医大版Barthel Index自記式質問紙(以下,BI),④アクションプラン,⑤コーピングプラン,⑥タスクSE,⑦メンテナンスSEであった。退院3ヵ月後の調査に回答のあった者には,退院から6ヵ月経過時に,再度,同様の調査票を送付し回答を得た。退院3ヵ月後と6ヵ月後の社会的活動性,および意図の比較は,対応のあるt検定,退院6ヵ月後の社会的活動性に影響を及ぼす要因は,重回帰分析を用いて検討した。統計処理にはPASW(Ver.21)を使用した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】退院時に,研究の目的,方法,および協力の拒否や同意の撤回による不利益のないことを,同意説明文書を用いて説明し,同意が得られた者を対象者とした。また,本研究の実施にあたっては,協力施設倫理審査委員会(承認番号:014),および早稲田大学倫理審査委員会(承認番号:2012-254)の承認を得た。【結果】退院3ヵ月後,6ヵ月後の調査の両方を完遂した45名(男性29名。平均年齢±標準偏差:64.2±12.1歳)を分析対象とした。退院3ヵ月後と6ヵ月後の社会的活動性,および意図の比較では,意図に有意差は認められなかった(t=.333,p=.740)ものの,社会的活動性は,有意に低下していた(t=2.043,p<.05)。退院6ヵ月後の社会的活動性を従属変数,意図,BI,アクションプラン,コーピングプラン,タスクSE,メンテナンスSEを独立変数とする重回帰分析の結果,退院6ヵ月後の社会的活動性に影響を及ぼす要因として,アクションプラン(β=.334,p<.05),コーピングプラン(β=.259,p<.05),タスクSE(β=.344,p<.05)が明らかとなった(調整済みR2=.758)。【考察】本研究の結果から,退院後の社会的活動性は低下することが明らかとなり,低下を防ぐ介入方略の必要性が示された。これまで,退院後の活動性の向上に向けた取り組みは,退院後のリハの継続やケアプランの工夫等,退院後のサポートの利用を促すものが中心であったが,本研究の結果から,アクションプラン・コーピングプランの立案や,SEの向上を促すような,患者自身への教育的介入が重要である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究では,回復期リハ病院退院後の社会的活動性に関連する要因を明らかにした。これは,退院後の社会的活動性向上のための介入方略開発の基礎研究となる。本研究をもとに,退院後の社会的活動性向上のための介入方略が開発されれば,退院後の社会的活動性の低下を防ぐことができる可能性がある。これは,リハの最終目標である患者のQOLの向上につながると考えられる。
  • 國澤 洋介, 高倉 保幸, 一氏 幸輔, 石川 秀登, 師岡 祐輔, 前川 宗之, 山本 満
    セッションID: 0449
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】不全頸髄損傷例においては,その後の機能回復により歩行再獲得の可能性が高いとされている。しかし,多くの報告は受傷後6ヶ月以降の機能的予後について検討したものであり,急性期病院で関わる受傷後早期(1ヶ月以内)の歩行獲得状況についての報告は少ない。本研究は,不全頸髄損傷例について改良フランケル分類およびAmerican Spinal Injury Association機能障害評価の下肢運動スコアを用いて群分けし,各群における受傷後早期の歩行獲得状況の経時的変化を明らかにし,理学療法(PT)の目標設定やプログラム立案に必要な情報を提供することを目的とした。【方法】対象は,平成21~24年度に頸髄損傷の診断により入院しPTを実施した95例のうち,採択基準を満たした53例とした。採択基準は,受傷後1週間以内にPTを開始し,PT開始時の改良フランケル分類がCおよびDの不全麻痺例とした。対象の内訳として,年齢の中央値(25-75パーセンタイル値)は64(53-72)歳,受傷からPT開始までの日数は3(3-5)日,性別は男性45例,女性8例であり,PT開始時の改良フランケル分類は,C1が13例,C2が5例,D0が7例,D1が16例,D2が4例,D3が8例であった。方法は,診療録内容の後方視的観察研究とし,PT開始時の改良フランケル分類および下肢運動スコアを用いた群分けによる各群の歩行獲得状況を調査した。各評価指標を用いた群分けについて,改良フランケル分類では,C1,2の歩行不能な不全麻痺例(C群),D0の急性期で歩行評価不能例(D0群),歩行可能だが車いす併用例(D1群),歩行可能例(D2,3群)の4群,下肢運動スコアでは四分位数をもとに4群とした。歩行獲得の判定は機能的動作尺度(0-4点の5段階評価)を用い,4点(歩行補助具を使用せず50mの歩行が自立)を歩行獲得とした。歩行獲得状況の経時的変化については,受傷後1週から4週の各週における各群の歩行獲得率を算出した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属機関の倫理審査委員会の承認を得て実施した。【結果】改良フランケル分類を用いた群分けでは,C群18例,D0群7例,D1群16例,D2,3群12例となった。下肢運動スコアを用いた群分けでは,25パーセンタイル値が35点,中央値が45点,75パーセンタイル値と最大値が50点であったため,35点以下群15例,36-45点群12例,46点以上群26例の3群として検討した。全例における歩行獲得率の経時的変化は,受傷後1週が32.1%(17/53例),2週が51.9%(27/52例),3週が60.0%(30/50例),4週が65.3%(32/49例)であり,4週までの間で歩行が未獲得のまま転院となった例が4例あった。改良フランケル分類を用いた各群の歩行獲得率の経時的変化(1週から4週の順)は,C群では4週までの全てが0%,D0群では0%,33.3%,60%,100%,D1群では31.2%,81.2%,100%,100%,D2,3群では1週目からの全てが100%であった。下肢運動スコアを用いた各群の歩行獲得率の経時的変化は,35点以下群では4週までの全てが0%,36-45点群では16.7%,50%,72.7%,72.7%,46点以上群では57.7%,84.0%,91.7%,100%であった。【考察】今回,不全頸髄損傷例における受傷後早期の歩行獲得状況として,受傷後2週では約半数,4週では約2/3の症例で歩行補助具を使用しない50mの歩行が自立となることが明らかとなり,急性期病院退院時の歩行能力を予測したPT介入に役立つ指標になると考えられた。改良フランケル分類は歩行能力を判定基準に採用しているため,D1およびD2,3の症例において早期の歩行獲得が期待できることは予測されたが,D0の症例においても1ヶ月以内での歩行獲得が期待できることが明らかとなった。しかし,C1,2の症例については先行研究に示されるような長期の歩行獲得は期待されるものの,早期の歩行獲得は困難であることが示唆され,早期に獲得可能な活動レベルを念頭に置いたPT計画の立案が必要であると考えられた。下肢運動スコアは歩行獲得に重要な下肢筋力の把握に有用で,急性期から評価可能な指標とされている。下肢運動スコアが35点以下の症例では短期的な歩行獲得が困難であること,46点以上の症例では受傷後2週の歩行獲得率が約85%,36点以上を含めた2群の症例では4週の歩行獲得率が約90%(32/35例)であることが明らかとなり,急性期で歩行評価不能例の歩行予後や歩行獲得に向けたPTの介入ポイントを検討するための指標になると考えられた。【理学療法学研究としての意義】急性期病院では在院日数の短縮にともない,早期から自宅退院の可能性,日常生活活動や歩行能力などの機能的予後を判断した介入の必要性が増加している。本研究のように,不全頸髄損傷例における早期の歩行獲得状況に関する知見は,このような急性期病院における理学療法の進め方を判断する上で役立つ内容であると考える。
  • ―リハビリテーション病院における後方視的検討―
    古関 一則, 吉川 憲一, 前沢 孝之, 浅川 育世, 水上 昌文
    セッションID: 0450
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】脊髄不全損傷者の歩行予後予測に関する先行研究は,受傷後早期の神経学的変数をもとに予測するとした報告が多い。わが国では回復期リハビリテーション制度が導入されたのに伴い,回復期病棟を含む一般リハビリテーション病院(リハ病院)を経由して自宅退院する脊髄損傷者が増加した。これらのリハ病院では,受傷直後や急性期における神経学的回復に関する情報が十分得られないことが多く,入院時点での身体及び動作能力から予後予測をする必要がある。我々は第48回日本理学療法学術大会においてリハ病院入院時点での各指標から脊髄不全損傷者の歩行予後に関わる要因を明らかにすることを目的に検討を行い,報告した。しかし前回の報告では,独自に設定した順序尺度の従属変数に対し重回帰分析を行ったため,結果の解釈が不十分であった。今回は更に症例数を増やし,分析方法についても再検討を行ったため報告する。【方法】対象は2001年3月から2012年12月までに当院へ入院した脊髄障害を有する者のうち,受傷から3ヶ月以内かつASIA impairment scale(AIS)C,Dの者(motor incomplete Spinal Cord Injury,以下miSCI)87名(平均年齢57.8±14.2歳,男性66名,女性21名)とした。手術目的で入院者,その他特筆すべき既往歴を有する者は除外した。調査項目は入院時・退院時の基本情報(『年齢』『性別』『受傷原因』),疾患情報(『麻痺分類』),初期カンファレンス時点での神経学的機能(『AIS』)及び動作能力(『寝返り』『起き上がり』『座位』『立ち上がり』『立位』『Walking Index for Spinal Cord InjuryII(WISCI)』『排尿方法』『FIM運動』『FIM認知』)の計14項目をとし,診療録より後方視的に情報を抽出した。退院時の歩行自立度はSpinal Cord Independence MeasureIII(SCIM)のitem12・14を基準とし,『歩行非自立』・『屋内自立』・『屋外自立』の3群へと分類した。調査は事前に評価基準の統一を十分に図った理学療法士3名が実施した。歩行自立度に関わる要因の分析は,まず歩行可否(非歩行自立群と歩行自立群)の判別を行った後,歩行自立群を対象として屋外歩行可否(屋内自立群と屋外自立群)の判別を行った。判別は単相関分析(spearmanの順位相関係数)及びχ2検定を用いて独立変数の絞り込みを行った上で,歩行自立度を従属変数としたロジスティック回帰分析(変数減少法)にて実施した。各項目のランク付けの検者間信頼性はκ係数を用いて検討した。データ解析はSPSS(ver.20)を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,茨城県立医療大学倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:516)。【結果】受傷から予後予測実施日までの期間は79.3±18.9日,受傷から当院退院までの期間は188.9±53.3日であった。歩行可否を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,麻痺分類・AIS・寝返り・FIM認知・WISCIが要因として選出され(モデルχ2検定p=0.000,判別的中率88.5%),判別値を求める予測式はp=1/{1+exp(-17.688+1.756×麻痺分類+2.399×AIS+0.756×寝返り+0.159×FIM認知+0.223×WISCI)}であった。また,屋外歩行可否を従属変数としたロジスティック回帰分析の結果,受傷年齢・立位・FIM認知が要因として選出され(モデルχ2検定p=0.000,判別的中率86.0%),判別値を求める予測式はp=1/{1+exp(-5.766-0.08×年齢+1.739×立位+0.185×FIM認知)}であった。。【考察】歩行予後予測に関する先行研究は急性期病院における報告がほとんどであり,歩行獲得に関する要因として神経学的要因と年齢を挙げるものが多い。本研究においても歩行可否に関する要因として麻痺分類・AISが挙げられ,自立歩行獲得には神経学的要因が主として関係することが示唆された。一方で屋外歩行獲得の要因には年齢・認知機能が挙げられ,活動範囲を規定する要因としては認知機能を含む加齢変化の影響が大きいことが示唆された。また,両方に共通して寝返り・立位・WISCI(練習場面での歩行手段)という実際の動作能力を示す指標も要因として挙げられた。受傷後早期の急性期病院では安静度の問題から実際に動作を行い評価することは困難であるが,リハ病院では実際の動作指標を用いて歩行予後予測を可能なことが示唆された。この2つの判別式は共に判別率が80%を超えており,miSCIの歩行予後予測に有用な指標であるといえる。【理学療法学研究としての意義】近年増加傾向にあるmiSCIの歩行予後に関する要因を明らかにすることは,計画的かつ効率の良い介入内容の選択や退院準備を行う際に重要である。特に,近年は受傷から退院までを脊髄損傷専門病院で過ごすだけでなく,急性期病院から一般病院を経由して自宅退院を目指すケースも増加しており,受傷後ある程度経過した時点で使用可能な予後予測の指標を作成することは有用である。
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