理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ポスター
  • 清水 菜穂, 白井 智裕, 加藤木 丈英, 樋田 麻依, 池田 陽香, 齋藤 義雄, 小谷 俊明
    セッションID: 1051
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】従来,脊椎圧迫骨折に対しては安静臥床,装具療法,保存療法が主に行われてきた。2011年1月よりBalloon kyphoplasty(以下BKP)が公的保険適応となり,低侵襲の経皮的椎体形成術として着目されている。BKPの先行研究では,治療効果として良好な疼痛緩和と椎体高の回復,局所後弯角の改善などが報告されているが,動作能力に着目した報告は少ない。本研究の目的は,当院にて脊椎圧迫骨折に対しBKPを施行した患者の術前・術直後・退院時の動作能力と疼痛を評価し,比較・検討を行うことである。【方法】対象は,脊椎圧迫骨折に対し当院にてBKPを施行した38例(男性10名,女性28名,年齢77.0±7.2歳)とした。方法は,術前,術直後,退院時の3群間にて基本動作,日常生活動作(以下ADL),疼痛を評価した。基本動作の評価は,Ability for basic movement scale(以下ABMS)を用い,合計点と各項目において検討し,ADLは,Barthel Index(以下BI)の合計点にて実施した。疼痛は,Visual Analogue Scale(以下VAS)を用いて評価を行った。また,BIとVASの相関関係を求めた。統計学的処理は,Friedman検定と多重比較検定(Tukey法),Spearmanの順位相関係数を用い比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき説明と同意を得て実施した。また,個人情報保護を遵守し,集積データは個人が特定できないようにした。【結果】ABMSでは,術前平均21.6,術直後23.1,退院時24.1という結果となり,VASにおいては,術前68.2,術直後34.7,退院時20.4と3群間において有意差を認めた。BIでは,術前79.3,術直後86.3,退院時94.2と術前・退院時,術直後・退院時に有意差を認めた。ABMSの各項目の検討では,寝返り,起き上がりにおいて術前・退院時,術直後・退院時に有意差を認めた。座位保持においては,術前より高値を示し術前・退院時のみ有意差を認める結果となった。立ち上がりは3群間にて有意差を認め,立位保持は術前・術直後,術前・退院時に有意差を認め術前後での改善が大きい結果となった。BIとVASにおいて,術直後,退院時に相関を認めたが,術前,退院時のBI値に天井効果がみられた結果となった。【考察】結果より,疼痛に関しては3群間に有意差が認められ,BKP施行により即時的な除痛効果は得られているものの消失には至らず,退院時まで残存する結果となった。先行研究より,BKPの効果として術直後から疼痛が緩和し術後ADLの改善が見られるとされている。また,脊椎圧迫骨折は,骨折部以外にも関連痛が認められており深部組織の損傷により,筋緊張の亢進を招くと報告されている。以上より,BKP施行により骨折部の椎体回復による疼痛の軽減は認められたが,骨折部以外の他要因による疼痛は残存し改善に時間を要したと考える。基本動作に関しては,座位保持,立ち上がり,立位保持が術後早期より自立となったのに対し,寝返り,起き上がりの獲得には時間を要した。ADLは基本動作と比べ術前後の変化は少なく,退院時に改善傾向となった。脊椎圧迫骨折の症状として,体幹筋力の低下や寝返り・起き上がり時の疼痛増強を認め,疼痛により体幹の回旋が制限されると報告されている。よって,寝返り,起き上がり動作には体幹の回旋が含まれており疼痛の誘発や体幹筋の発揮不十分が生じたことが原因だと推察する。また,基本動作はADLを遂行するための手段であり,ADLは基本動作よりも複雑な動作が含まれていることから,より獲得に時間がかかったと考える。ADLと疼痛において,術直後,退院時共に相関が見られた。しかし,BIのデータに天井効果が認められたことをふまえると,ADL改善要因として除痛は挙げられるものの要因の一つであり,その他の因子も関連していることが示された。以上より,BKPを施行した患者は,即時的に疼痛が軽減しADLは改善傾向となるものの,寝返り・起き上がり動作やより複雑な動作であるADLの改善には時間を要することが示された。よって,術後早期の理学療法には骨折部周囲に負担のかからないADL指導が重要であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】今回,脊椎圧迫骨折に対しBKPを施行した患者の入院中の基本動作,ADL,疼痛を評価し検討を行った。結果,理学療法士による入院中のADL指導の重要性が示唆され,今後は体幹機能,認知症との関連性の検討やADL阻害因子を明らかにすることが重要だと考えた。
  • 歩行距離,膀胱機能障害に着目した臨床症状の把握
    有地 祐人, 須堯 敦史, 出田 良輔, 佐々木 貴之, 植田 尊善
    セッションID: 1052
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】高齢化社会に伴い,腰痛経験者の割合は年々増加傾向を辿っている。65歳以上の約20%が腰痛を訴え,うち60%は間歇性跛行(以下IC)を呈すと言われている。ICとは,歩行による腰部・下肢への力学的負荷が加わることで,下肢症状(疼痛等)が出現し歩行困難となるが,安楽肢位により回復する病態をいう。高齢化社会の日本において,予防医学ひいては医療経済的観点から,最重要課題疾患の一つと言える。ICの病態を記した文献は数多くあるが,歩行距離と症状経過(膀胱機能障害等)の術後比較に着目した研究は国内外において皆無である。そこでICの病態調査を行ったので報告する。【方法】2012年7月~2013年2月に当院にて手術し,かつICを呈していた腰椎変性疾患の者を対象とした。対象は手術前,手術2週後にトレッドミル上歩行が可能であった105例(平均年齢:66.6±14.1歳),内訳は男性62例,女性43例であった。調査項目は以下の8項目である。診断名,職業歴,症状初発時期,症状ピーク時期,膀胱機能障害の有無,安楽姿勢,理学所見{SLR,ラセーグ,FNST,Kemp,腱反射,FFD,筋力(大腿四頭筋,前脛骨筋,足趾伸筋,下腿三頭筋)},歩行状態(歩行速度,歩行最大距離,症状改善時間,痛み・痺れ・異常感覚の部位)。尚,感覚部位は国際脊髄損傷協会のデルマトームに従った。手順はトレッドミル歩行前後にて理学所見並びに歩行状態を調査した。歩行速度は自然歩行速度に設定し,歩行最大距離は500mを上限とした。歩行中,IC症状により歩行困難な場合は,その時点での距離を歩行最大距離とした。その後,安楽姿勢にて症状改善時間を計測した。統計学的処理はt検定,Mann-Whitney U検定,一元配置分散分析を行った。対象は以下の2つに階層化し,比較・検討を行った。【1】手術前検査で膀胱機能障害を呈す群(74例)と正常群(31例)での各群間の症状比較【2】手術前検査で歩行最大距離が200m以下群(54例)と201m以上群(51例)での手術前後症状の各群間の比較【倫理的配慮,説明と同意】歩行検査は主治医の指示の基に行っており,本研究の目的を説明した上で書面にて同意を得て実施した。本研究は当院の倫理委員会承認のもと行った。【結果】診断名は腰部脊柱管狭窄症(以下LCS)68例,腰椎辷り症(以下LDS)26例,腰椎椎間板ヘルニア(以下LDH)11例。研究対象年齢は年代別分布で70代が最も多く,診断名別分布はICを呈す症例の65%がLCSであった。職業歴では生産労務職,次いで事務職の順に多かった。安楽姿勢は術前では側臥位,術後は背臥位が多かった。症状初発・ピーク時期は症例によりばらつきがあるものの症状に差異は認められなかった。【1】手術前検査で膀胱機能障害を呈す群と正常群での各群間の症状比較術後歩行後の痺れの有無(P<0.01),術前MMT大腿四頭筋(P<0.01),術前MMT前脛骨筋(P<0.05)に有意差が認められた。その他比較項目には有意差は認められなかった。【2】手術前検査で歩行最大距離が200m以下群と201m以上群での手術前後症状の各群間の比較術前FNST(P<0.01),術後歩行速度(P<0.01),術後最大距離(P<0.01),術後症状安静時間(P<0.05),術後SLR(P<0.01)に有意差が認められた。その他の比較項目には有意差は認められなかった。【考察】本結果からも対象は70代が最も多く高齢化が認められる。またIC呈す疾患はLCSが最も多く文献的にも合致が見られた。【1】術前筋力(特に大腿四頭筋,前脛骨筋)において,膀胱機能障害を呈す群では筋力低下も著明であり,関連があると推察する。痺れ感は患者自身の主訴で最も多い症状である。結果より,術前検査で膀胱機能が正常であれば,術後の痺れは比較的良好な経過となる事が示唆された。逆にICを呈し,膀胱機能障害があれば手術適応の可能性が高いと言える。【2】術前検査で歩行距離が200m以下群は術後の歩行速度,歩行最大距離の値が201m以上群と比較すると有意に低い数値を示しており,200m歩行困難ならば手術後の歩行速度,歩行距離に影響しやすいことが明らかになった。これは術前検査で理学的所見の定量的評価として充分に意味を成し,医療者側にとって臨床症状の把握のための有益な判断材料となる。今後の検討課題として,不定なIC症状の把握を深めるためにも,1年後の歩行検査を行うことで,術後の長期成績把握を行う必要がある。【理学療法学研究としての意義】本研究にてIC症状,歩行距離,症状経過ならびに関連症状との関係性について比較・検討行った。200m歩行困難ならば術後の歩行状態に影響することが明らかとなった。これは臨床的に腰椎疾患患者様に対しての根拠ある情報提示として有用であり,医療者側にとっても治療方針を決める際の有益な情報となり,理学療法分野における重要なデータとなると考えられた。
  • ―血液データから予測できること―
    洲鎌 美和子
    セッションID: 1053
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】わが国における大腿骨近位部骨折を受傷する患者は年々増加し,2020年には約25万人に達すると推計される。大腿骨近位部骨折における予後不良因子として,近年では低栄養も因子として挙げられることが多々見られるようになった。特に高齢者は低栄養を認めることが多く,理学療法におけるリハビリテーション(以下,リハ)栄養管理の重要性を示唆している報告もあり,栄養サポートチーム(以下,NST)介入が推奨されている。周術期管理においても栄養介入により大腿骨近位部骨折患者の死亡率の低下・血中蛋白質の回復・リハ期間の短縮が期待できると報告されているが臨床場面において栄養管理が行き届いていない場面も少なくはない。そのため,リハ栄養の観点から栄養状態などの全身管理の重要性を認識し介入していく必要がある。今回,当院で大腿骨近位部骨折患者を対象に低栄養がリハ進行状態や転帰に対しどのように影響をきたしているかを後方視的に調査し検証した。【方法】2011年4月から2013年3月までの期間に当院に入院しリハを実施した大腿骨近位部骨折患者(頚部・転子部)の中から発症前生活が自宅,移動手段は歩行(T字杖,歩行器含む),観血的整復固定術を施行した98例(男性:17例,女性:81例,平均年齢81.9±10.7歳)を選出し対象とした。なお,入院中の死亡,転院・転科した6例は除外した。対象者を自宅退院した群をA群:80例,施設退院した群をB群:18例の2群に分類し,年齢,Body Math Index(以下,BMI),入院時・術後ヘモグロビン値(以下,Hb),入院時・術後血清アルブミン値(以下,Alb),入院時・術後C反応性タンパク(以下,CRP),歩行開始日,在院日数,発症前・退院時日常生活動作(以下,ADL),発症前・退院時移動手段について後方視的に調査,検討した。ADLは自立-修正自立,軽-中介助,重-全介助の3段階,移動手段は独歩もしくはT字杖,歩行器,車椅子の3段階に分類した。術後Alb,Hbは術後1日目,術後CRPは術後14日目のデータを抽出した。歩行開始日は手術から歩行開始した期間,在院日数は受傷から転帰までの期間を記録した。統計処理は対応のないt検定,U検定を用いた。その他,術後Alb・Hb・CRPを歩行開始日,在院日数,退院時ADL・移動手段を対象に回帰分析,相関係数を用いて解析した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究を行うにあたり,個人情報の取り扱いは当院の規定に従った。【結果】対象を比較検討した結果,年齢(p<0.01),BMI(p<0.05),入院時Hb(p<0.05),術後Hb(p<0.05)は有意差が認められた。入院時Alb(p=0.09)やCRP(p=0.28)は両群間にて有意差が認められなかったが,術後Alb(p<0.05)はHbと同様に侵襲による影響が認められ,B群では術後CRP(p<0.05)が低下せず炎症所見の鎮静化が遅延していることが分かった。歩行開始日(p=0.1)や在院日数(p=0.26)共に両群間で有意差はなかったものの,ADLはA群:25.8%,B群:43.8%が介助量の増大し,移動手段はA群:25.8%,B群:46.9%に歩行能力低下が認められた。その他,術後Albは歩行開始日(p<0.05,r=-0.25),在院日数(p<0.01,r=-0.33),退院時移動手段(p<0.01,r=-0.25),ADL(p<0.05,r=-0.23),転帰先(p<0.05,r=-0.22),術後CRPは退院時移動手段(p<0.05,r=0.24),ADL(p<0.05,r=0.22),転帰先(p<0.05,r=-0.25)に有意な相関が認められた。【考察】A群とB群を比較検討した結果,前述した高齢化による影響が立証され,入院時の栄養状態ではHb以外の項目において有意差が認められなかったことから,侵襲に伴う低栄養の状態によってリハ進行状況や転帰が変化することが分かった。今回,術後14日目以降も持続している炎症所見も全身状態の機能回復が遅延し予後不良となる因子であることが分かった。その他,術後AlbやCRPではリハ進行状況や退院時ADL,移動手段において有意な相関があることから,術後の血液データより予後予測をすることも可能であると考える。リハ栄養における侵襲の障害期から異化期においては栄養状態の悪化防止が目標とされており,レジスタンストレーニングは禁忌であり,機能維持を目標とし離床や2METs以下の身体活動,日常生活活動を実施することが推奨されている。サルコペニアを伴っている場合が多い高齢者はより早期に侵襲に伴う低栄養を予測していくことやリハプランの検討も重要である。そのため,術前より低栄養が予測される症例に対しNSTにて栄養管理を共有していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】大腿近位部骨折を発症した患者における低栄養によって予後不良とされる項目が明確化した。術前よりリハ栄養の観点から予後予測を行い栄養管理やリハプランの見直しができたことは意義があると考える。
  • 中野 尚子, 木原 秀樹, 多賀 厳太郎, 渡辺 はま, 中野 純司, 小西 行郎
    セッションID: 1054
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】生後間もない乳児の動きに脳神経系の発達過程が反映されているという考え方が,小児発達神経学の分野から報告されている(Prechtl, 1993)。Prechtlらは胎児や新生児に見られる自発運動のうちもっとも頻繁に見られる代表的全身運動であるgeneral movements(GMs)の質の変化が児の神経学的予後を予測する指標になることを報告し,診断法として確立した。本研究では超・極低出生体重児におけるfidgety GMs評価と,6歳時健診結果との関連性を調査し,発達予後予測としてのGMs評価の信頼性を検討した。【方法】2002年6月~2007年10月に,長野県立こども病院総合周産期母子医療センター新生児科に入院した超・極低出生体重児で,修正週齢48週~60週前後にfidgety GMsの観察評価を行い,6歳時に健診を受けた77症例(男児25名,女児52名,在胎週数:24週2日~36週3日,出生時体重:499g~1,498g)を対象とした。乳児を肌着着衣程度の状態で仰臥位にし,斜め上方に設置したビデオカメラで児の自発運動を約5~10分間撮影した。録画した画像から児がstate4(覚醒していて機嫌良く動いている状態)の時を選び,2名の評価者がGestalt視知覚を用いて観察評価を行った。fidgety GMsの評価判定はPrechtlの分類に基づき,正常(fidgety正常;FN),異常(fidgety欠如;F-,異常なfidgety;AF)に分類した。評価が一致しない場合は2名で議論し結果を統一した。評価者間一致率は,κ=0.82であった。6歳時健診においては,ウェクスラー式知能検査(Wechsler Intelligence Scale for Children-Third Edition;WISC-III)と小児神経科医による診察を実施した。WISC-IIIの結果から全検査IQ(FIQ),言語性IQ(VIQ),動作性IQ(PIQ)を計算し,正常発達(80以上),境界発達(70以上80未満),発達遅滞(70未満)に分類し,医師の診察の結果から発達予後を正常,境界,異常に分類した。fidgety GMsの評価判定と6歳時の健診結果との関連性については感度,特異度,陽性予測値と陰性予測値を算出し,GMs評価とCPあるいは他の発達障害との関連性について検討した。【倫理的配慮,説明と同意】研究参加者の保護者に対し,主治医および理学療法士より口頭ならびに文書にて十分な説明を行い,理解と協力を得られるよう配慮し,保護者から文書にて同意を受けた。同意書の撤回にはいつでも応じることとした。【結果】fidgety GMs評価の判定は,正常40名(51.95%),異常37名(F-:36,AF:1)(48.05%)であった。6歳時のWISC-IIIの結果は,全検査IQ(FIQ)正常40名(51.95%%),境界20名(25.97%),遅滞17名(22.08%)であった。6歳時健診における発達予後は,正常30名(38.96%),境界10名(12.99%)名,異常37名(48.05%)であり,脳性麻痺診断(CP)11名(14.29%),広汎性発達障害診断(PDD)12名(15.58%),高機能広汎性発達障害診断(HFPDD)6名(7.79%),精神発達遅滞診断(MR)8名(10.39%)であった。fidgety GMsと発達予後との関係では,感度72.34%%,特異度90.00%,陽性予測値91.89%,陰性予測値67.50%であった。とりわけfidgety GMs評価とCPとの関係では,感度100.00%であり,従来の報告と同様高い関連性を示した。またfidgety GMs評価とCP以外の発達障害との関係では,感度63.89%,特異度65.85%,陽性予測値62.16%,陰性予測値67.50%であった。【考察】fidgety GMsの評価と6歳時の発達予後の関係において,特異度90.00%,陽性予測値91.89%と高い関連性を示し,fidgety GMs評価において異常と判定されたなら発達障害をきたす可能性が高いと考えられ,適切な早期介入プログラムを考慮する等のフォローアップが必要である。またGMs評価は従来CPの予後予測に優れていると報告されてきたが,本研究の結果からCPのみでなく他の発達障害の予後予測にも適用できる可能性を示唆した。【理学療法学研究としての意義】早産低出生体重児は満期産児と比較し,発達障害の出現率が高いという報告が多くなされている。新生児・乳児期に信頼性のある発達予後予測が可能であるなら,早期より個々の児の発達を考慮した介入支援を提供することが可能である。
  • 木原 秀樹, 岩岡 晴美, 佐藤 紗弥香, 小野 久美子, 草間 かおり, 宮原 真理子, 廣間 武彦, 中村 友彦
    セッションID: 1055
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】早産・低出生体重児の発達予後は芳しくなく,本邦における2003~2007年出生の極低出生体重児(1500g未満出生)の3歳時発達予後は,脳性麻痺8.2%,精神運動発達遅滞16.0%であった(河野ら,2013)。新生児期から早産・低出生体重児に理学療法士らが介入し,自発運動(General Movements;GMs)評価の発達評価を導入する機会が増えている。GMs評価は発達予後予測に有効である(Prechtl HFR et al,1990/1997)が,GMs評価では発達障害の障害別の予後予測は困難である。そこで我々は,極低出生体重児における新生児期の各行動を観察し,5歳6ヵ月時の発達との関係を検討し,第48回日本理学療法学術大会で報告した。新生児期の行動から正常・脳性麻痺・その他の発達障害を予測できる可能性を示した。今回,修正3ヵ月頃の乳児早期の各行動を観察し,5歳6ヵ月時の発達との関係を検討した。【方法】対象は2002年7月から2007年11月に当院へ入院した極低出生体重児416名中,修正49週0日から修正60週6日(修正3ヵ月頃:乳児早期)にGMs評価を行い,5歳6ヵ月検診を受診した78名とした。同時期のGMs評価は入院中のGMs評価でPoor Repertoire GMsと判定された児が対象となった。対象児の性別は男児28名・女児50名,平均在胎週数は28週1±22日(23週0日~36週1日),平均出生体重は940±298g(492~1498g)であった。乳児早期の発達評価では,自発運動をビデオ録画し,細分化した各行動の有無を3名の理学療法士が観察した。自発運動のビデオ録画では,覚醒睡眠レベル(state)3・4の児を約10分間録画し,最も活発に動いている1-2分間を選定した。観察した行動は,早産・極低出生体重児でよく観察される安定化・ストレス行動,Dubowitz評価の異常徴候等から53パターンとした。各行動で片方または両側,1分間のうち計30秒以上,2回以上観察されるといった観察基準を設けた。5歳6ヵ月検診では,新生児科医師の診察と知能検査(WISC-IIIまたは田中ビネー)を実施し,発達予後が確認された。発達障害リスク児は神経科医師に紹介された。知能検査の結果から知能指数80以上を正常,70から79を境界,69以下を遅滞とした。知能検査の結果も踏まえ,発達予後は正常(N),境界・遅滞(MR),広汎性発達障害(PDD),脳性麻痺(CP)とした。本研究はRetrospective studyで,二項ロジスティック回帰分析を用い,危険率5%以下を統計学的有意とし,各発達予後に関係ある行動を検定した。【倫理的配慮】本研究は当院の倫理委員会承認(25-1)のもと実施した。対象児の保護者にはフォローアップについての説明および情報の取り扱いについて,紙面および口頭にて説明し同意を得て実施した。【結果】対象児の発達予後は,N35名,MR19名,PDD16名,CP8名であった。発達予後別の平均在胎週数は,Nで28週5±17日,MRで28週0±31日,PDDで27週4±19日,CPで26週4±18日,平均体重は,Nで1037±281g,MRで819±288g,PDDで911±273g,CPで862±333gであった。乳児早期の各行動は,Nでは頭部回旋(p<0.001),頭部正中位保持(p=0.003),上肢屈曲位での前腕回内外(p=0.015),上肢伸展位での前腕回内外(p=0.014),手関節掌背屈(p=0.040),手関節回旋(p<0.001),下肢屈曲拳上位(p=0.021),下肢屈曲拳上(p=0.006),下肢屈曲位での足関節底背屈(p=0.014),下肢伸展位での足関節底背屈(p=0.012),下肢屈曲位での股関節内外旋(p=0.008),足趾分離屈伸(p<0.001),手をしゃぶる(p=0.006),服をつかむ(p=0.010)が有意に観察された。MRでは有意に観察された行動パターンはなかった。PDDではATNR(p=0.045),母指内転位(p=0.013),足趾把握位(p=0.022)が有意に観察された。CPでは頸部伸展位(p=0.016),全身反り返り(p=0.016),ATNR(p<0.001),全身力む(p=0.003),下肢伸展位での足関節底屈位(p<0.001),母趾背屈位(p=0.006),足趾把握位(p=0.009),下肢のキッキング反復(p=0.007),1肢振戦(p=0.026)が有意に観察された。【考察】極低出生体重児における修正3ヵ月頃の乳児早期の行動と発達予後の関係性が認められた。乳児早期のNは正中位指向・末梢の分離運動,PDDは反射残存・末梢緊張,CPは反射残存・行動反復・振戦・全身緊張が観察されやすく,MRは行動に主たる特徴がなかった。この時期は正常・各発達障害が判別できる可能性が示された。【理学療法学研究としての意義】新生児・乳児早期の理学療法は対象児の将来像が不明確なまま介入していることが多い。乳児早期の行動から発達予後を予測でき,促したい行動が明確になることで,より適切な支援が行える。
  • 伊藤 康弘, 森田 伸, 田仲 勝一, 藤岡 修司, 板東 正記, 刈谷 友洋, 小林 裕生, 廣瀬 和仁, 日下 隆
    セッションID: 1056
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年の周産期医療の進歩により,本邦は新生児死亡率が世界で最低である。一方で,低出生体重児の出生率は増加傾向にあり,中でも極低出生体重児(VLBWI)の発達予後に関しては,満期産で出生した児に比べ,発達支援の必要なハイリスク児が多い事が報告されている。さらに,VLBWIを対象とした全国調査では,出生体重が750g未満の児は,それ以上の出生体重の児と比較して,明らかに予後不良であったとの報告もある。当院では,2011年1月より新版K式発達検査を,リハビリテーション部で継続的に行えるように組織化した。今回は,当院総合周産期母子医療センター(NICU)を退院したVLBWIの1歳6ヶ月時の発達状況を,後方視的に調査したので報告する。【方法】対象は,当院NICUに入院していたVLBWIのうち,2011年1月~2013年10月までに1歳6ヶ月健診で新版K式発達検査を施行できた症例のうち,脳障害や先天性異常,視覚・聴力障害を認めない46名(1,000g以上22名,1,000g未満24名)とした。対象者の在胎週数は平均28週3日±30日,出生体重は平均1,077±411g,修正年齢は平均1歳6ヶ月±2ケ月であった。方法は,姿勢-運動(P-M),認知-適応(C-A),言語-社会(L-S)の3分野において算出された発達指数(DQ)について,一元配置分散分析と多重比較を用いて比較検討した。さらに出生体重が1,000g以上と1,000g未満の児におけるP-M,C-A,L-Sの3分野のDQについて,対応のないt検定を用いてそれぞれ比較検討した。統計学的有意水準は,いずれも5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象児の両親に,評価・健診内容,本研究の主旨と目的を説明し,データ利用の理解と同意を得た。【結果】P-MのDQ平均は82±18,C-Aが81±9,L-Sが80±13で,3分野の平均(全領域)は81±9であった。DQは85以上が正常群,70以上85未満が境界群,70未満が遅滞群とされているが,3分野の平均(全領域)を含め,すべての分野で境界群であった。また,P-M,C-A,L-SのDQにおいて,それぞれの間には有意差を認めなかった。さらに,1,000g以上の児のDQ平均は,P-Mは85±13,C-Aが85±8,L-Sが80±9で,3分野の平均(全領域)は84±7であり,1,000g未満の児のDQ平均は,P-Mは78±19,C-Aが79±9,L-Sが79±15で,3分野の平均(全領域)は79±9であった。1,000g以上と1,000g未満の児の比較では,P-M,C-A,3分野の平均(全領域)において,1,000g以上の児が有意に高かった。L-Sについては,1,000g以上の児が高い傾向であったが,有意差を認めなかった。また,3分野の平均(全領域)で遅滞群となった児が,1,000g以上では認めなかったが,1,000g未満の児の中に4名存在した。【考察】当院NICUを退院したVLBWIの1歳6ヶ月健診では,P-M,C-A,L-S,3分野の平均(全領域)すべてにおいて,境界群となった。これは,冒頭で述べたように,VLBWIの発達予後に関しては,満期産で出生した児に比べ,発達支援の必要なハイリスク児が多いと言われているが,当院でもそれに近い結果となった。また,1,000g以上と1,000g未満の児の比較では,P-M,C-A,3分野の平均(全領域)において,1,000g以上の児が1,000g未満の児より有意に高かったことから,1,000g未満の児でより発達遅滞に関する注意が必要であることが示唆された。さらに,3分野の平均(全領域)で,遅滞群となった児が4名存在し,その4名はすべて1,000g未満の児であった。VLBWIを対象とした全国調査で,出生体重が750g未満の児はそれ以上の出生体重の児と比較して,明らかに予後不良であったとの報告があるように,1,000g未満の超低出生体重児の中には,発達支援の必要なハイリスク児が多いことが,当院の調査結果からも示唆された。【理学療法学研究としての意義】今回の調査結果から,VLBWIは発達遅滞に関する注意が必要であり,1,000g未満では,より発達支援の必要なハイリスク児が多いことが示唆された。先行研究ではVLBWIは,学習障害などの発達障害の発生率が高い事が報告させている事から,今後も発達検査を継続し,発達障害を早期の段階から見極める手がかりとなる因子を模索し,早期から包括的なフォローアップができるように努める必要がある。
  • 小野 久美子, 木原 秀樹, 岩岡 晴美, 佐藤 紗弥香, 草間 かおり, 宮原 真理子, 廣間 武彦, 中村 友彦
    セッションID: 1057
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】新生児集中治療室(NICU)から早産・低出生体重児に介入する理学療法士が増えている。当院では,児の入院直後から安静保持および屈筋緊張促進のために児をやや圧迫するSwaddlingを行い,急性期治療が終える修正33週前後に,理学療法士がポジショニング評価を実施している。ポジショニング評価では,新生児個別発達ケア評価プログラム(NIDCAP)(Als H,et al.1986)の行動観察シートから行動評価(ストレス・安定行動),新生児神経評価(Dubowitz評価)(Dubowitz LM,et al.1999)から筋緊張評価を実施し,ポジショニング用具の仕様変更を検討している。今回,極低出生体重児での,修正33週頃の行動,筋緊張,ポジショニングとの関係を検討した。【方法】対象は2010年4月から2013年3月入院した極低出生体重児194例中,急性期治療を終え,修正32週0日から修正34週6日にポジショニング評価を実施した69名とした。対象児の性別は男児37名・女児32名,平均在胎週数は28週5±18日(22週2日~32週6日),平均出生体重は1123±291g(486~1498g)であった。ポジショニング評価では,NIDCAPの行動観察シートから,ストレス行動と安定行動を観察した。1-2分間の観察中に各行動が2回以上見られた場合を行動有とした。さらにDubowitz評価から,筋緊張評価として姿勢,上肢リコイル,上肢牽引,下肢リコイル,下肢牽引の5項目を評価した。評価は理学療法士2名で実施した。行動評価からストレス行動が安定行動より優位に観察される(振戦痙攣様・驚愕を除き,種類や量で判断),筋緊張評価から屈筋緊張が成熟していないcolumn2以下が3項目以上ある,自己鎮静困難な場合,やや圧迫するSwaddlingを継続した。本研究では,スピアマンの順位相関係数,ロジスティック回帰分析,クラスカル・ワーリスの順位を用い,危険率5%以下を統計学的有意とし検定した。【倫理的配慮】本研究は当院の倫理規定のもと実施した。対象児の保護者には,発達フォローアップシステム実施により得た情報の取り扱いについて,紙面および口頭にて説明し同意を得た。【結果】対象児の評価時の平均修正週数は33週4±5日,体重は1420±200gであった。行動評価の結果,ストレス行動として網状の皮膚色7例,振戦痙攣様65例,驚愕39例,ぎこちない動き27例,四肢・体幹の伸展位46例,手掌をかざす14例,手指を開く16例,握り拳1例,弛緩8例,下肢の伸展位拳上41例,後弓反張0例,自己鎮静困難7例,安定行動としてピンク色の皮膚色26例,良好な筋緊張15例,スムースな動き11例,手を頭へ25例,手を顔へ50例,手を口へ32例,手と手を合わせる6例,足を組む4例,四肢・体幹の屈曲位22例,自己鎮静可能36例に見られた。筋緊張評価の結果,column1/2/3/4/5の順で姿勢0/7/49/12/1例,上肢リコイル0/5/43/21/0例,上肢牽引0/34/314/0例,下肢リコイル0/7/26/36/0例,下肢牽引0/19/43/7/0例であった。評価結果から29例でやや圧迫するSwaddlingを継続した。在胎週数が長いもしくは出生体重が大きいほど安定行動の種類が多く見られた(r=0.25・p=0.038)。出生体重が大きいほど安定行動の種類が多く見られた(r=0.27・p=0.025)。在胎週数が短いほどストレス行動の種類が多く見られた(r=0.25・p=0.036)。在胎週数および出生体重と筋緊張に有意な相関関係は認めなかった。ストレス行動の自己鎮静困難と手指を開く(p=0.002・OR:5.556・95%CI:1.095-28.189),安定行動の自己鎮静可能とピンク色の皮膚色(p=0.002・OR:5.625・95%CI:1.868-16.934),良好な筋緊張(p=0.005・OR:20.364・95%CI:2.493-166.313),スムースな動き(p=0.020・OR:12.308・95%CI:1.478-102.513),四肢・体幹の屈曲位(p=0.039・OR:7.250・95%CI:2.113-24.872)で有意な関係があった。四肢・体幹の屈曲位では,筋緊張評価の5項目間で有意差(p<0.001)があり,平均順位は下肢リコイル(AR:77.000),上肢リコイル(AR:64.455),姿勢(AR:60.273)の順に高かった。他の行動も同様の傾向であった。【考察】極低出生体重児における修正33週前後の行動・筋緊張・ポジショニングでは,在胎週数および出生体重と行動に関係性が認められた。在胎週数および出生体重と筋緊張に関係性は認められず,早く生まれた児もポジショニングにより屈筋緊張が促進されている可能性が示唆された。自己鎮静可能な児は四肢・体幹の屈曲位行動との関係性が認められ,特にポジショニングにより下肢リコイルが高めることが効果的と考えられた。【理学療法学研究としての意義】極低出生体重児の急性期治療を終える頃の発達(行動・筋緊張)とポジショニングの傾向を理解することで,理学療法士の早期介入目的が明確になると考えられた。
  • 宮城島 沙織, 樋室 伸顕, 鎌塚 香央里, 小塚 直樹, 森 満, 堤 裕幸
    セッションID: 1058
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】理学療法士(PT)が様々な予後不良リスクを抱える早産・低出生体重児の発達支援を行うケースが増えている。その介入において育児を行う家族を中心としたケア(Family centered care;FCC)は重要である。脳性まひをはじめとする障がいを持った子どもに対するリハビリテーションにおいて,FCCの重要性が示されているが,早産・低出生体重児で発達支援を必要とする児に対するFCCの実践については報告がない。また,児や家族の状況に応じたPTの関わり方については明らかにされていない。そこで,本研究の目的はFCCに対する親とPTの視点を比較すること,児の特徴との関連を検討することとした。【方法】対象は北海道内3施設で修正6ヶ月以降まで理学療法士が継続的に介入している早産・低出生体重児24名(男児16名,女児8名)とその親22名,担当したPT9名とした。FCCについて親はThe Measure of Processes of Care-20(MPOC-20)の5領域(「励ましと協力」,「全般的な情報提供」,「子どもに関する具体的な情報提供」,「対等で包括的な関わり」,「尊重と支え」),PTはMeasure of Processes of Care for Service Providers(MPOC-SP)の4領域(「思いやり」,「全般的な情報提供」,「子供に関する情報提供」,「敬意ある対応」)を用いて評価した。児の特徴(出生体重,在胎週数,Dubowitzの神経学的評価法,予後不良疾患(脳室周囲白質軟化症,脳室内出血,新生児慢性肺疾患)罹患の有無,修正6ヶ月時の粗大運動発達,修正6ヶ月時の体重)はカルテ情報より収集した。修正6ヶ月時の粗大運動発達はAlbert Infant Motor Scale(AIMS)で評価した。MPOC-20とMPOC-SPの領域,質問項目ごとに比較検討した。また,児の特徴とMPOC-20の関係をPearsonの相関係数およびMann-WhitneyのU検定を用いて検討した(有意水準は5%)。すべての統計処理はSPSS18.0Jを用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は札幌医科大学倫理委員会の承認を得て行った。対象となる児の親には書面と口頭による説明を行い,署名による同意を得た上でデータ収集を行った。【結果】MPOC-20の領域別スコアは「励ましと協力」が最も高く,「全般的な情報提供」が最も低かった。個々の項目の分析では,地域サービスの情報提供や情報へのアクセス,書面での情報開示,哺乳や啼泣といった身体面以外への関わりが低く評価された。MPOC-SPの領域月スコアは「敬意ある対応」が最も高く,「子どもに関する情報提供」が最も低かった。情報へのアクセス,書面での情報開示,家族全員への情報提供を低く評価している割合が多かった。児の特徴とMPOC-20の関係は出生体重と「子どもに対する情報提供」(r=-0.49)に有意な相関を認めた(p<0.05)。また,新生児慢性肺疾患のある場合,「励ましと協力」(p=0.029)と「対等で包括的な関わり」(p=0.017)が有意に高い結果であった。その他の児の特徴に関係を認めなかった。【考察】早産児の発達支援に関わるPTはFCCを実践しており,親も同様の視点を評価していることか明らかになった。早産・低出生体重児の予後や病態に関する情報提供は親を不安にさせる可能性があり,また,PTは診断や病状に関わる説明を行う権限がなく,それらが影響し,情報提供の領域では親,PT共に低い結果となった可能性が考えられた。早産・低出生体重児は出生体重が小さいほど,脳性まひ,精神発達遅滞などのリスクが高くなるとされている。PTはこのような背景を基により情報提供を積極的に行い関わっている可能性がある。また,新生児慢性肺疾患は予後不良因子であり,人工呼吸器管理期間や酸素投与期間が長く,経口哺乳開始の遅延など関わり方により一層の配慮が必要となる場合があり,より包括的な関わりを持っていることが示めされた。その他の周産期データや粗大運動発達レベルとMPOC-20に関係は認められなかった。発達支援においてPTは現在の発達レベルにとらわれず,分け隔てなくFCCを実践していることが示された。子どもの発達や機能の獲得はさまざまな因子とのダイナミックな相互作用の結果,家庭や社会生活のなかでみられる。PTは運動発達に重きを置きがちであるが,今回明らかとなった改善点を考慮することで発達支援の重要な役割を担うことができると考えられる。本研究の限界は対象者が少ないこと,横断研究であり発達支援のアウトカムや疾患と家族への関わりの因果関係までは言及できないことである。【理学療法研究としての意義】発達支援は育児を行う家族を中心として介入する必要があるが,理学療法士としての関わり方を明確に示した報告はなかった。本研究の結果は今後の早産・低出生体重児の理学療法介入において,根拠をもって家族と関わる上で重要な情報となりうる。
口述
  • 中村 浩輔, 浅井 友詞, 仁木 淳一, 山田 幸太郎, 眞島 喜代乃, 水谷 陽子, 水谷 武彦
    セッションID: 1059
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】高齢者における転倒の要因として歩行,立ち上がり,方向変換動作が7割を占め,さらに直線歩行よりも方向変換動作の転倒率が高いとの報告もある。歩行時は,若年者,高齢者ともに頭頚部を固定する特徴があるが,Aftab E. Patlaらは方向変換時に先行して,頭頚部が回旋すると報告している。一方,高齢者では方向変換時において頭頚部,体幹の柔軟性低下からそれらの分節運動が減少することにより,頭頚部,体幹,骨盤が一体となって回旋するという報告もある。さらに,頭部の動きと重心動揺に関しても関係性が報告されていることから,方向変換時の頭頚部,体幹,骨盤の動作解析は非常に重要であると考えられる。方向変換動作に関する研究は,三次元動作解析システムを用いたものが多く,非常に高価であり,臨床応用は困難であると考えられる。近年,簡便かつ安価な加速度センサと角速度センサの2種類が搭載された6軸センサが実用化され,歩行周期時間の算出などに使用されている。また,我々は第48回全国理学療法学術大会において歩行時180°方向変換動作における6軸センサの有効性をVICONとの比較により検討し,高い信頼性があると報告した。そこで,今回は,若年者における歩行時180°方向変換時の頭頚部,体幹の回旋開始時間を6軸センサのみを使用し検証することを目的とした。【方法】対象は,15名の健常若年者(年齢:21.1±0.64歳,身長171.1±6.1cm,体重62.9±6.7kg,BMI21.4±1.4)である。計測には,小型無線ハイブリッドセンサWAA-010(ワイヤレステクノロジー社製)を使用し,6軸センサは頭頂,第7胸椎棘突起,第4腰椎棘突起の3部位に装着した。サンプリング周波数は100Hzに設定し,検出されたデータはButterworth filterにてローパスフィルター補正を行った(遮断周波数6Hz)。歩行路は10mとし,直線歩行5回の各部位の回旋角速度を測定し,その後,直線歩行に180°方向変換を加えた歩行を同様に10回計測した。方向変換の合図はブザーを使用し,ブザーが鳴ったら方向変換するように指示した。各歩行速度は快適歩行速度とし,視線に関しては特に指示をせず行った。各部位の回旋開始時間算出方法は,5回計測した直線歩行時の時系列角速度から,各被験者における直線歩行の基準角速度(平均±標準偏差×2)として算出し,方向変換歩行10回において基準角速度から逸脱した時系列角速度を回旋開始時間とした。その結果から頭頂,第7胸椎棘突起,第4腰椎棘突起の回旋開始時間の差を一元配置分散分析により統計解析を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本実験のすべての手順は,ヘルシンキ条約に基づき,全ての被験者には本研究の主旨を文書及び口頭にて説明し,研究の参加に対する同意を書面にて得た。【結果】一元配置分散分析を行った結果,被験者ごとの回旋開始時間の平均値は頭頂で2.42秒,第7胸椎レベルで2.77秒,第4腰椎レベルで,2.81秒であった。頭頂と第7胸椎レベルでの回旋開始時間の間に有意水準5%未満で有意差を認め,頭頂と第4腰椎レベルでも有意差を認めた。第7胸椎レベルと第4腰椎レベルでは有意差を認めなかった。【考察】今回,頭頂の回旋開始時間と第7胸椎レベルでの回旋開始時間の間に有意な差が認められ,Sakineh B.Akramらの先行研究と同様の結果となった。また,第7胸椎レベルでの回旋開始時間と第4腰椎レベルでの回旋開始時間との間には有意差は認められず,先行研究とは異なった結果となった。これは,6軸センサの感度が高いために,床反力などの下肢の影響を受けやすく,回旋開始時間の測定に誤差を生じたためと考えられる。また,ヒトが方向変換時に頭部の回旋が体幹の回旋に先立ち起こることは,視覚による制御を行う目的であると報告されていることから,頭頂と体幹の回旋開始時間には有意差を認めたが,体幹と腰部の回旋開始時間には認めなかったと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本実験により,小型無線式の6軸センサを用いた計測においても,回旋開始のタイミングを計測できたことから,客観的に動作解析が可能であり,臨床での評価として利用できる可能性が示唆された。また,今回の計測は若年健常者のみでの計測であったが,今後,さらに高齢者や,有病者との比較や転倒歴などの要素を含めた解析を行うことにより,転倒の危険予測因子としての活用や,頭頂,体幹の分離運動の重要性の検討に加え,疾患による機能低下の評価への活用を行うことで,今後の理学療法プログラムの立案も期待できると考えられる。
  • ―1年後の経年的変化の検討―
    榎 勇人, 石田 健司, 細田 里南, 芥川 知彰, 上野 将之, 室伏 祐介, 近藤 寛, 田中 克宜, 高橋 みなみ, 小田 翔太, 橋 ...
    セッションID: 1060
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】我々は,地域高齢者の歩行能力の維持改善につなげる目的で,高齢者の歩行と体幹姿勢や脊柱可動性との関係性を調査し,さらには即時効果のある歩行指導の検討を行った結果,脊柱のKyphosisの程度を表す直立角度や後屈角度が歩幅・歩行速度と相関性を示すことや,床反力鉛直成分(以下Fz)の2峰性の出現に歩幅と1歩時間が関係すること,さらに体幹の伸展を意識させる指導を行うだけで,即時的に歩幅,歩行速度,Fzの2峰性が改善することを明らかとし,第48回日本理学療法学術大会にて報告した。今回は,これらの1年後の経年的変化を評価し,体幹姿勢や脊柱可動性の変化と,歩行や歩行指導の即時効果の変化との関連性を検討した。なお本研究は,日本学術振興会科学研究費の助成を受けて行った(課題番号:23700604)。【方法】平成23・24年度の高知県室戸市の特定健診に参加し,杖などの歩行補助具を使用せず歩行をしている60歳以上の高齢者の方で,書面にて研究の趣旨を説明の上,署名により同意を得た延べ483名(平成23年度:282名,24年度:201名)中,2年間共に評価が行えた100名を対象とした。男性34名,女性66名,平均年齢69±5歳(61-86)。脊柱可動性の評価は,Index社製Spinal mouseによって,立位での直立姿勢およびできる限りの前屈・後屈姿勢における脊柱が矢状面にて垂線となす角度を計測した。歩行評価は,ニッタ社製Gait scanを用いて,通常歩行および歩行指導として「胸を張って背筋を伸ばし,前を向いて歩いて下さい」という体幹姿勢を意識させた体幹指導の2条件下における,歩幅,1歩時間,歩行速度,Fzの2峰性の有無を評価した。なお,各評価項目の1年間の経年的変化は,平成23年度から24年度のデータを引いた差で算出した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,高知大学医学部倫理審査にて承認を受け,書面にて研究の趣旨を説明の上,署名により同意を得た。取得したデータは連結可能匿名化とし,個人情報の取り扱いに配慮した。【結果】脊柱の角度の平均(H23/24年度)は,直立2.2±3.9°/3.1±3.3°,前屈97.2±17.0°/104.1±16.0°,後屈21.5±9.5°/24.4±8.5°といずれも対応のあるt検定にて有意差が認められた(直立p<0.05,前後屈p<0.01)。しかし歩行の評価では,全てにおいて有意差は認められなかった。さらに1年間の脊柱の各角度の変化と歩行データの変化の関係をPearsonの相関係数にて検討したが,全てにおいて相関性は認められなかった。通常歩行時のFzの2峰性の有無(H23/24年度)は,それぞれ19名/18名が消失しており,体幹指導によりその内13名/15名が即時的に改善し,χ2乗検定にて両者の改善度に有意差は無かった。また1年間の変化は,2年共に2峰性が出現していたgreat群67名,23年度消失していたが24年度は出現したgood群15名,23年度出現していたが24年度に消失したpoor群14名,2年共に消失していたbad群4名であった。このうち変化があったgood群とpoor群の脊柱角度と歩行評価の1年間の変化値を対応のないt検定で検討した結果,1歩時間と歩行速度の変化値で有意差が認められ(1歩p<0.05,速度p<0.01),good群では1歩時間が短くなり歩行速度が速くなる傾向を示していた。【考察】今回1年間の脊柱可動性や歩行能力の変化を検討した。脊柱の角度については全角度において有意差が認められたが,特に歩行と関連する直立・後屈角度に関しては平均約1~3°程度の変化であり,この有意差には意味がなく,角度に変化はないと判断する。また,歩行に関しても1年間で有意な変化は無く,歩行能力は維持されていた。しかし,高齢者の歩行状態を表す力学的指標として有用とされるFzの2峰性がH24年度から出現したgood群と消失したpoor群の比較にて,good群では1年前に比べ1歩時間が短く,歩行速度が速くなる傾向を示し,その変化がpoor群より有意に大きかった。昨年度の我々の検討から2峰性の出現に1歩時間が関係していたことから,good群にて2峰性が出現したのは,特に1歩時間の短縮による影響が考えられるが,今回の結果からはその短縮した因子の究明には至らなかった。【理学療法学研究としての意義】本研究は,1年間継続して歩行と体幹姿勢や脊柱可動性との関係性を検討し,さらに歩行指導の即時効果を検討した結果,1年間の経年的変化では,体幹姿勢や脊柱可動性,歩行能力はほぼ維持されていることが解ったが,中には歩行能力変化によりFzの2峰性が変化するグループの存在も明らかとなった。今後はその原因を究明することで,より高齢者の歩行能力の維持改善に寄与するものと考える。
  • 林 翔太, 勝平 純司, 丸山 仁司
    セッションID: 1061
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】我が国では各事業所で定年退職年齢が引き上げられるなど,労働する高齢者は増加傾向にある。近年,バイオメカニクス的手法により,物体の持ち上げ動作時の腰部負担の指標となる腰部椎間板圧縮力を計測する試みがなされているが,高齢者が行う持ち上げ動作を分析し,腰部負担を検討した報告は見当たらない。そこで本研究では健常若年者と健常高齢者を対象とし,加齢による身体特性の変化が,持ち上げ動作時の腰部や下肢関節への負担に影響を及ぼすのか検討すること,また,腰部負担が軽減するとされる骨盤を前傾させる戦略を指示することで動作の変化が生じるのか検討することを目的とした。【方法】対象は腰部・下肢に既往のない健常若年男性10名(年齢20.9±0.5歳 身長174.9±4.3cm 体重64.1±4.8kg)と,健常高齢男性10名(年齢67.6±2.1歳 身長168.7±4.8cm 体重63±7.2kg)とした。対象者には①squat法とよばれる股関節と膝関節を屈曲して持ち上げる方法②squat法で,より骨盤を前傾させて腰椎を重量物に近づけるように指示した方法の2つの条件で,11.3kgに設定された重量物の持ち上げ動作を行った。測定機器は三次元動作解析装置VICON MX(VICON社製),床反力計(AMTI社製)4枚,赤外線カメラ(周波数100Hz)10台を用いた。被験者には45個の赤外線反射マーカーを貼付し,動作中の椎間板圧縮力・剪断力,腰部側屈・伸展・回旋モーメント,骨盤前傾角度,体幹前傾角度,下肢関節モーメント,腰部関節中心と重量物の重心・体幹重心との距離,床反力を算出した。椎間板圧縮力・剪断力,関節モーメント,床反力は体重で除して正規化した値で比較・検討を行った。統計処理は年齢と動作方法を要因とした二元配置分散分析反復測定法を用いた。また,各要因内での差を判定するために,年齢を要因とした各水準の比較には対応のないT検定,動作方法を要因とした各水準の比較には対応のあるT検定を用いた。なお危険率は5%未満をもって有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】研究の実施に先立ち,国際医療福祉大学の倫理委員会にて承認を得た。なお,全ての被験者には予め本研究の目的・内容・リスクを十分に説明し,書面による同意を得た後に計測を行った。【結果】椎間板圧縮力に関して年齢層の違いには主効果はみられず,条件の違いには主効果がみられた。また,squat条件では若年群よりも高齢者で有意に小さい値を示すが,骨盤前傾指示条件では両群間に有意差はみられなかった。腰部関節中心と重量物の重心との距離に関しては交互作用がみられ,若年群は骨盤前傾指示条件で有意に小さくなり,高齢群では有意差はみられなかった。腰部関節中心と体幹重心との距離に交互作用はみられず,両群において骨盤前傾指示で有意に小さくなった。骨盤前傾角度に関しては交互作用がみられ,若年群は骨盤前傾指示によって骨盤前傾角度が有意に増加するが,高齢群では骨盤前傾指示によって有意に減少した。体幹角度に交互作用はみられなかったが,高齢群では骨盤前傾指示で有意に体幹が伸展し,若年群では骨盤前傾指示による有意な変化はみられなかった。膝関節モーメントについて交互作用はみられなかったが,高齢群のみ骨盤前傾指示によって膝関節伸展モーメントが有意に増加し,若年群では有意差はみられなかった。【考察】持ち上げ動作時に骨盤前傾させるように指示をすると若年群では椎間板圧縮力が有意に小さくなり,高齢群では同様の傾向がみられた。若年群では骨盤前傾を指示すると骨盤が前傾し,腰部関節中心を体幹重心や重量物の重心に近づけていくことができるため,椎間板圧縮力が減少したと考える。高齢群の場合は骨盤前傾指示によって腰椎と重量物との距離が変化せず,体幹前傾角度が有意に小さくなり,体幹重心を腰部関節中心に近づけることで椎間板圧縮力が減少したと考える。若年群と比べて高齢群の戦略では,腰部負担を軽減させる効果は小さく,また,体幹重心が後方に移動し,膝関節中心から離れることで膝関節伸展モーメントが有意に増加したと考える。以上のことから,若年者では骨盤を前傾させて腰椎を重量物に近づけるように意識させることは腰部負担を軽減させることに有効であり,高齢者の場合は,膝関節に疾患がない場合に推奨される動作であるといえる。【理学療法学研究としての意義】若年者と高齢者では持ち上げ動作時の椎間板圧縮力が変化しないこと,高齢者の場合,若年者に有効な骨盤を前傾させる戦略によって得られる腰部負担の軽減効果が小さいことがわかった。今回得られた知見は高齢者が労働する際の動作指導や,事業所での労働条件を設定する際に有用な情報であると考えられる。
  • 西田 直弥, 石塚 達也, 柿崎 藤泰
    セッションID: 1062
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】我々は肩関節疾患に対する理学療法で肩関節の病態メカニズムを確定するため,肩関節を構成する関節間での連鎖,体幹や下肢からの影響などを考慮し肩関節の機能評価を行っている。特に胸郭に起こりやすい分節的な肋骨の配列変化は肩関節の機能に多大な影響を与える。また上肢運動では左右側で胸郭に異なる運動連鎖が生じていると捉えている。左右側の上肢運動で胸郭に異なる運動連鎖が存在することは,肩関節疾患の病因が左右肩関節で異なる可能性があると言える。そのため,この運動連鎖を明らかにすることは肩関節疾患の病態メカニズムを確定する一助になると考える。そこで本研究の目的は,肩関節屈曲における胸郭の運動連鎖について検討することとした。【方法】対象者は脊柱や肩関節に既往のない健常成人男性10名(平均年齢22.7±1.5歳,平均身長171.3±5.4cm,平均体重64.8±7.8kg)とした。測定機器は3次元動作解析装置(VisualayezII VZ4050,PTI,BC,Canada)を用い,サンプリング周波数は100Hzとした。LEDマーカーを体表上に定めた位置に貼付し,3次元空間座標を測定した。測定課題は椅子座位で上肢下垂位(肘伸展位)から屈曲最終域までの肩関節屈曲運動とし,左右で測定を実施した。測定を実施する前に数度練習し,運動を習熟させた。LEDマーカー貼付位置は両肩峰,両手関節背側中央部,胸骨頚切痕(JN),胸骨剣状突起(XP),第9胸椎棘突起(Th9),第12胸椎棘突起(Th12)とした。肩関節屈曲角度は,手関節背側中央部と肩峰を結ぶ直線,肩峰を通る床への垂直線の2直線のなす矢状面上の角度とした。また,JNとXPの2点を結ぶ線を胸骨軸,Th9とTh12の2点を結ぶ線を脊柱軸と定義した。肩関節屈曲運動時の前額面上の脊柱軸に対する胸骨軸で形成される投影角と,水平面上のTh9に対するXPの位置を経時的に算出した。また肩関節屈曲角度と前額面上の投影角,肩関節屈曲角度と水平面上のTh9に対するXPの位置の各々で散布図から近似直線を算出した。右側肩関節屈曲時,左肩関節屈曲時の近似直線の傾きの有意水準をχ²検定を用いて求めた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者に対して本研究内容の趣旨を十分に説明し本人の承諾を得た後に,測定を実施した。なお,本研究は倫理審査委員会の承認を得て実施した。【結果】肩関節屈曲角度は右側156.5±6.2°,左側154.9±7.0°となった。前額面上の投影角の結果より,安静位では脊柱軸に対し胸骨軸は3.0.±0.7°右傾斜位にあった。左側肩関節屈曲では安静位でみられた右傾斜が7.0.±1.7°右傾斜位に増加していき(p<0.05),右側肩関節屈曲では右傾斜が減少していき0.8±0.9°左傾斜位となり投影角が0°に近づいていった(p<0.05)。また水平面上の結果より,安静位ではTh9に対してXPは11.7±2.7cm左側に位置していた。左側肩関節屈曲ではTh9に対してXPは24.9±5.1cm左側と安静よりさらに左側に移動していき(p<0.05),右側肩関節屈曲では6.2±3.8cm右側と水平面上でのTh9に対するXPの位置のずれが少なくなる方向に移動した(p<0.05)。【考察】今回の検討により右側肩関節屈曲と左側肩関節屈曲で,胸郭の水平面上でみられる相反的な回転様の運動が生じたと推測する。これは,左右同レベルでの相反した肋骨の回旋運動が生じた動きであると考えられる。具体的には,安静位でみられた投影角に比較し右側肩関節屈曲で投影角が0°に近寄り,水平面上にてTh9に対してXPが右側へ移動することは胸郭形状の正中化を意味する。そして左側肩関節屈曲で投影角が大きくなり,水平面上にてTh9に対してXPがより左側へ移動することは胸郭形状の非対称性の増加を意味するものである。このことから,左右肩関節屈曲でそれぞれの質的な運動の相違が明らかになった。肩関節の運動を再構築する理学療法においては以上の肩関節屈曲による胸郭の運動連鎖を考慮したアプローチが重要であると考える。また,肩関節疾患の病態メカニズムを確定する際は,左右肩関節では異なる運動連鎖が生じていることを加味する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究では肩関節屈曲における胸郭の運動連鎖が示され,左右側で異なることが明らかになった。これは肩関節疾患に対する理学療法評価,アプローチの一助となることが期待できる。
  • 石田 弘, 小原 謙一, 大坂 裕, 伊藤 智崇, 末廣 忠延, 黒住 千春, 渡辺 進
    セッションID: 1063
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】排痰手技のハッフィングでは気道内の痰を移動させるために速い呼気流速が必要で,腹部筋群(腹直筋,外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋)は呼気流速に寄与する主要な筋群とされている。腹部筋群は,腹腔内圧を高め横隔膜を上方に押し上げること,胸郭を引き下げながら前後径を小さくすることによって呼気流速を高めることに寄与するが,どの腹部筋が最も貢献度が高いのかは不明である。本研究では,各腹部筋群の筋力は直接測定できないため,間接的に筋力を示す値として各筋の筋厚を測定し,最大呼気流速と腹部筋群の筋厚との関係を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は健常男性23名(平均年齢21.1±3.0歳,身長172.2±7.2cm,体重65.7±10.9kg)とした。最大呼気流速はフィリップス・レスピロニクス社製のアセスピークフローメータ(フルレンジ)にマウスピースを装着して測定した。測定は端座位でノーズクリップを付け,最大吸気位から最大限の力で急速に息を呼出させた。数回の練習の後に,3回の最大呼気流速(L/min)の計測を行い,最大値を代表値とした。腹部筋群の筋厚はアロカ社製の超音波診断装置(SSD-3500SX)の10MHzのリニア型プローブを使用し,Bモードで計測した。測定は背臥位で,腹直筋は臍の右側4cm,側腹部(外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋)の筋厚は右肋骨弓下端と腸骨稜上端の中間で中腋窩線の2.5cm前方で画像化を行った。接触させる力によって筋厚は変化するため,プローブの設置位置と角度は自作のホルダーを用いて固定した後に,多量のゲルを介在させてプローブが腹部に接触しないように調節しながら安静呼気位で静止画像の撮影を行った。撮影は各3回で,計測部位は撮影した画像の左右を二等分する位置に統一し,計測した各筋の厚さ(mm)の平均値を解析に用いた。統計にはIBM SPSS Statistics 22.0を用い,Pearsonの積率相関係数によって最大呼気流速と腹部筋群の筋厚との関係を検討した(p<0.05)。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,被験者全員に対し十分な説明を行い,書面による同意を得てから計測を行った。また,所属機関の倫理委員会の承認を受けている。【結果】最大呼気流速は604.8±66.9L/minであった。以下,各筋の筋厚,相関係数を示す。腹直筋は13.1±2.6mm,r=0.348で有意な相関はなかった。外腹斜筋は10.8±1.9mm,r=0.530で有意な相関が認められた(p<0.01)。内腹斜筋は9.0±2.2mm,r=0.362で有意な相関はなかった。腹横筋は3.3±0.8mm,r=0.278で有意な相関はなかった。【考察】本研究では,外腹斜筋の筋厚のみ最大呼気流速との間に有意な相関関係のあることが分かった。これは,腹部筋群の中でも外腹斜筋が呼気流速を高めるために最も貢献している可能性を示している。先行研究では,外腹斜筋が下部肋骨の横径を小さくするように作用し,腹直筋が下部肋骨の前後径を小さくするに作用することが示されている。また,最大呼気時の胸郭の動きを解析した先行研究では,前後径に先行し左右径が小さくなることが示されている。そのため,本研究で腹直筋ではなく外腹斜筋に最大呼気流速との相関関係があったことは妥当と考える。一方,腹直筋も胸郭の動きに関与すること,腹圧の変化は外腹斜筋よりも腹横筋や内腹斜筋の筋活動量と相関関係にあることが先行研究で示されていることを勘案すると,外腹斜筋以外の腹部筋群と最大呼気流速との間に有意な相関関係が認められなかったことに疑問は残る。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,腹部筋群の中でも外腹斜筋が呼気流速を高めるために最も貢献している可能性を示し,呼気流速の維持・改善のための運動療法の基礎的資料として意義がある。
  • ニワトリ胚由来の培養系筋萎縮モデルを用いて
    吉岡 潔志, 黒木 優子, 笹井 宣昌, 早川 公英, 村上 太郎, 宮津 真寿美, 河上 敬介
    セッションID: 1064
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】筋収縮低下はADL低下につながる筋萎縮を引き起こす。理学療法士にとって筋萎縮の予防は重要な課題であるが,そもそも筋収縮低下と筋萎縮との関係が十分に分かっていない。特に筋収縮低下の直後における現象は不明である。我々はこれまでに,筋細胞を電気刺激により周期的に収縮させた状態で培養し,刺激停止により収縮を除くと筋の横径が細くなる筋萎縮モデルを作製した。本研究の目的は,我々の作製した培養系筋萎縮モデルを用いて,筋収縮停止後のタンパク質分解や合成の変化を明らかにすることである。【方法】12日目ニワトリ胚の胸筋から採取した筋芽細胞を,コラーゲンコートをした培養皿に播種した。筋芽細胞が筋管細胞まで分化し,多くの横紋構造が観察できるようになる分化開始5日目の時点で電気刺激を加え,筋管細胞を周期的に収縮させた状態で培養した。二日後,電気刺激を中断し筋収縮を止めた状態でさらに培養を続け,これを筋萎縮モデルとした。なお,本モデルで48時間後には有意な筋の横径の減少を確認している。筋収縮停止から0,1,3,6,24時間後に筋管細胞をcell lysis bufferにより回収し,電気泳動法及びウエスタン・ブロット法を用い,ユビキチン・プロテアソーム系のタンパク質分解の指標となるk48ポリユビキチン鎖,オートファジー系のタンパク質分解の指標となるLC3-IIの発現量の変化を経時的に調べた。また,定量的リアルタイムPCR法により,筋を構成するTroponin-T,筋萎縮に関わるMuRF1,Atrogin-1のmRNA発現を,筋収縮停止から0,1,3,6,24時間後に調べた。タンパク質合成はSUnSET法を用いて調べた。【倫理的配慮,説明と同意】本実験は「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」および「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」を遵守し当大学の動物実験委員会の承認を得て行った(承認番号:024-030)。【結果】電気刺激による筋収縮停止から,わずか1時間後にはK48ポリユビキチン鎖,LC3-IIの発現上昇がみられ,ユビキチン・プロテアソーム系とオートファジー系のタンパク質分解の両方が亢進した。また,同時期に新生ペプチドの発現も上昇し,継続的な筋収縮中の1時間よりも,筋収縮停止後の最初の1時間において,タンパク質合成が上昇した。このタンパク質合成の上昇は,ユビキチン・プロテアソーム系によるタンパク質分解を抑制するE1抑制剤の添加によって抑えられた。筋収縮停止から24時間後には,タンパク質分解・合成ともに筋収縮中のレベルに戻る傾向がみられた。筋収縮停止後のmRNA発現を調べたところ,筋収縮停止から1時間では筋構成タンパク質であるTroponin-Tの発現が上昇する一方で,筋萎縮に関与するMuRF1Atrogin-1には変化が見られなかった。一方,24時間後のTroponin-Tの発現は刺激停止直後のレベルまで低下し,6時間・24時間後のMuRF1Atrogin-1は上昇する傾向がみられた。【考察】筋は萎縮する際,筋細胞内のタンパク質が分解されることが知られている。よって,筋萎縮の本質はタンパク質分解である。一方,分解されたタンパク質とは細胞にとってアミノ酸の供給でもある。アミノ酸はタンパク質を構成する原材料となるだけでなく,タンパク質の合成自体を促進することが報告されている(Sancak, 2010)。本研究において,我々の筋萎縮モデルでも,筋収縮停止から1時間で見られるユビキチン化を介したタンパク質分解が,同時期におこるタンパク質合成を促進させることがわかっている。これは,タンパク質分解による細胞内へのアミノ酸の供給が原因であると考えられるが,これを証明するにはさらなる研究が必要である。また,調べたmRNAのうち,筋収縮停止によって,まず筋構成タンパクのTroponin-Tの発現上昇がみられた。筋萎縮に関わるmRNAであるMuRF1,Atrogin-1の発現は,その後の継続的な筋収縮停止によって遅れて上昇がみられた。このことより,長期の筋収縮停止が,よく知られているように筋萎縮につながることを確認した一方で,筋収縮停止後早期に見られるタンパク質分解の上昇は,筋萎縮にかかわるよりもむしろ,筋構成タンパクの新生に関わっている可能性を示唆する結果となった。【理学療法学研究としての意義】筋収縮停止やそれによって引き起こされるタンパク質分解は,適度な時間であれば筋細胞の維持にとって陽性的に働くことが示唆された。本研究結果は,「適度な休憩」が筋細胞の維持にとって実際に有効であるということを分子レベルで証明する一助となる。
  • ニワトリ胚由来の培養系筋萎縮モデルを用いて
    黒木 優子, 吉岡 潔志, 笹井 宣昌, 早川 公英, 村上 太郎, 宮津 真寿美, 河上 敬介
    セッションID: 1065
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】ユビキチン・プロテアソーム系(UPS)とオートファジー系の蛋白質分解機構の亢進は,筋萎縮を引き起こす。ただ,この亢進は筋細胞内アミノ酸プールを増加させる。アミノ酸はmTOR経路を介して蛋白質合成を促進することが明らかになった(Sancak, 2010)。しかし,2つの蛋白質分解がそれぞれ,蛋白質合成の促進に関係しているのかどうかは不明である。我々はこれまでに,電気刺激を用いた筋収縮のコントロールにより,筋管細胞の細くなる培養系筋萎縮モデルを作製した。そこで本研究では,この培養系筋萎縮モデルを用い,オートファジーによる蛋白質分解が,蛋白質合成に及ぼす影響を調べることを目的とした。また,それが筋萎縮時の形態変化や,UPSによる蛋白質分解に及ぼす影響についても調べた。【方法】対象はニワトリ胚由来の筋管細胞とした。筋管細胞に周期的な電気刺激を与えることで,筋収縮をコントロールした。培養5日目から電気刺激を2日間与えた後,電気刺激を止め,E64dとpepstatin Aを添加する群(inhibitor(+)群)と添加しない群(inhibitor(-)群)とを作製した。このE64dとpepstatin Aは,オートファジーの過程でオートファゴソームが形成された後に起こる,その内容物(蛋白質)の分解を抑制する。その後2日間培養した後,両群の筋管細胞横径を測定した。これに加えて,電気刺激を止めた直後,6,24時間培養した両群の筋蛋白質サンプルを採取した。そのサンプルで,LC3-II(オートファゴソームの数の指標),K48ポリユビキチン鎖(UPS活性の指標)をウエスタン・ブロット法にて解析した。加えて,SUnSET法(非放射性の蛋白質合成量測定法)を用いて,蛋白質合成量を解析した。統計には一元配置分散分析を用い,有意差を認めた場合には,多重比較検定にTukeyの方法を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本実験は「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」および「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」を遵守し,当大学動物実験委員会の承認を得て行った。【結果】電気刺激を止めた直後の筋管細胞横径(15.9±1.3μm:mean±SD)に比べ,inhibitor(+)群(13.1±1.4μm)とinhibitor(-)群(11.4±1.1μm)の横径は有意に小さかった(p<0.01)。さらに,inhibitor(+)群の横径は,inhibitor(-)群より有意に小さかった(p<0.05)。電気刺激を止めて6,24時間後におけるinhibitor(+)群のLC3-II発現量は,inhibitor(-)群よりも有意に多かった(p<0.01)。電気刺激を止めて6時間後における,inhibitor(+)群のK48ポリユビキチン鎖は,inhibitor(-)群よりも多かった。また,新生ペプチドの発現は,電気刺激を止めた直後に比べ1時間後では多く,両群間に差はなかった。【考察】本培養系筋萎縮モデルにおける,E64dとpepstatin Aを加えた後のLC3-IIの発現量増加は,オートファゴソームの蓄積を裏付けている。すなわち,このことは,オートファジーによる蛋白質分解が抑制されたことを示している。このような条件下では,筋収縮の減少による筋萎縮をさらに促進させることがわかった。この現象は,in vivoでも起こることがわかっており(Masiero, 2009),本培養系筋萎縮モデルを用いれば,そのメカニズムを解明することが出来ると考える。また,オートファジーを阻害すると,これとは異なる機構であるUPSによる蛋白質分解が亢進することがわかった。オートファジー阻害による筋萎縮の促進には,このUPSによる蛋白質分解の亢進が関係しているかもしれないが,その詳細は不明であり,今後検討する必要がある。一方本研究室では,筋収縮減少の数時間後に起こるUPSによる蛋白質分解が,蛋白質合成を促進させることを報告している。しかし今回,もう一つの分解機構であるオートファジーによる蛋白質分解は,筋収縮減少の数時間後に起こる蛋白質合成の促進に関与しないことが明らかとなった。よって,オートファジーとUPSそれぞれの亢進で起こる筋細胞内のアミノ酸プール増加の役割は異なり,蛋白質合成の促進には主にUPSが関係していると考えられる。しかし,オートファジーの亢進によるその増加の役割については明らかになっておらず,今後さらに研究を進める必要がある。【理学療法学研究としての意義】加齢やがん・神経変性疾患などの疾病において,オートファジーが抑制されているといわれている。よって,これらの条件下で筋萎縮を誘発する長期臥床やギプス固定などを行うと,通常以上に筋萎縮が促進されると考えられる。本培養系筋萎縮モデルを用いて,このメカニズムのさらなる解明を行うことで,その効果的な抑制方法,回復促進方法などの詳細な検討に萌芽する。
  • 平山 佑介, 中西 亮介, 藤野 英己
    セッションID: 1066
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】不活動により骨格筋は萎縮し,毛細血管も退行する。毛細血管の退行は筋持久力の低下を促し,さらに活動性の低下を惹起する。不活動時には筋活動の低下に伴い,エネルギーの需要量が低下し,栄養の取り込み量が減少する(Wall, 2013)。これを補うために不活動時にアミノ酸を摂取することで骨格筋萎縮を予防することが報告されており(Lomonosova, 2009),栄養サポートが必要であると考えられる。また,栄養サポートとしてヌクレオプロテインを用いた先行研究では,廃用性筋萎縮に伴う毛細血管の退行が予防されたが,骨格筋の萎縮は予防できなかった(Kanazawa, 2013)。一方,不活動時の荷重負荷が骨格筋萎縮を予防する報告があるが,その予防効果は限定的である(Dupont-Versteegden, 2002)。また,筋力増強や持久力向上を目的とした運動では,しばしば栄養サポートが用いられており,アミノ酸の摂取が運動による骨格筋タンパクの合成や毛細血管新生を促進すると報告されている(Suzuki, 2006;Pasiakos, 2012)。これらの報告から荷重負荷に加え,ヌクレオプロテイン摂取を併用することで,効果的な骨格筋萎縮及び毛細血管退行の予防ができるのではないかと考えられる。そこで本研究では,ラット後肢非荷重期間中の荷重負荷に栄養サポートとしてヌクレオプロテインを摂取させ,骨格筋萎縮及び毛細血管退行に及ぼす効果を検証した。【方法】9週齢の雄性SDラットを対照群(CON),後肢非荷重群(HU),ヌクレオプロテインを摂取した後肢非荷重群(HU+NP),後肢非荷重期間中に荷重負荷を与えた群(HUIR),ヌクレオプロテインを摂取し,後肢非荷重期間中に荷重負荷を与えた群(HUIR+NP)に分類した。ヌクレオプロテインは1日に体重1 kgに対して800 mgをゾンデで経口摂取させた。また,荷重負荷は1日当たり1時間実施した。7日間の後肢非荷重期間終了後,ヒラメ筋を摘出した。薄切切片を作製し,ATPase染色及びAlkaline Phosphatase染色を施した。それぞれの組織化学染色により筋線維タイプ別の筋線維横断面積(FCSA)と毛細血管筋線維比(C/F比)を測定した。また,酸化的酵素活性の指標としてクエン酸合成酵素(CS)活性を測定した。得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。【結果】FCSAはタイプIではHU群とHU+NP群がCON群と比較して有意に低値を示した。また,HUIR群及びHUIR+NP群は,それぞれHU群及びHU+NP群と比較して有意に高値を示した。タイプIIAではHU群とHU+NP群がCON群と比較して有意に低値を示し,HUIR+NP群がHU群及びHU+NP群と比較して有意に高値を示した。C/F比はHU群,HU+NP群,HUIR群はCON群と比較して有意に低値を示した。また,HUIR+NP群はHU群,HU+NP群,HUIR群と比較して有意に高値を示した。CS活性もC/F比と同様に,HU群,HU+NP群,HUIR群はCON群と比較して有意に低値を示したが,HUIR+NP群はHU群,HU+NP群,HUIR群と比較して有意に高値を示した。【考察】不活動期間中の荷重負荷に栄養サポートとしてヌクレオプロテインを摂取することが骨格筋萎縮のみならず,毛細血管退行を予防する方法として有効であることが明らかとなった。毛細血管の退行には筋活動の低下により酸化的酵素活性が低下し,酸素需要量が低下することが関連している。本研究では酸化的酵素活性を維持したことで,毛細血管退行を予防できたと考えられる。一方,ヌクレオプロテインの摂取のみでは毛細血管退行の予防はできなかった。Kanazawaら(2013)による報告では,ヌクレオプロテインの摂取のみで毛細血管退行を予防できたが,その相違点として本研究ではヌクレオプロテインの摂取が少量であったことが挙げられる。一方,アミノ酸の取り込みは運動によって促進することが報告されている(Shimomura, 2004)。本研究では荷重負荷によりヌクレオプロテインに含まれるアミノ酸が作用して,酸化的酵素活性を維持し,毛細血管退行を予防できたと考えられる。また,栄養の過剰摂取は脂肪の蓄積を惹起するが,本研究では荷重負荷との併用により少量の摂取で毛細血管退行を予防できた。【理学療法学研究としての意義】廃用性筋萎縮の予防には荷重負荷だけでなく,栄養サポートを取り入れることにより,筋萎縮のみならず毛細血管退行の予防効果が得られることが明らかとなった。筋の持久性低下の予防を考慮した理学療法につながると考えられ,当該分野において意義ある結果と考える。
  • 金指 美帆, 田中 雅侑, 藤野 英己
    セッションID: 1067
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】長期臥床などの不活動は骨格筋における活性酸素種(ROS)の過剰産生を誘発し,筋萎縮や微小血管障害を引き起こす。また,ROSの増加は血管内皮細胞のアポトーシスやミトコンドリア機能障害を惹起するといわれている。我々は先行研究で抗酸化サプリメントであるアスタキサンチン(Ax)摂取による栄養サポートは,不活動による酸化ストレス障害を防ぎ,微小血管障害を予防することを報告した。一方,Ax摂取による栄養サポートのみでは筋萎縮を予防することはできなかった。毛細血管量は筋の活動量及び筋線維サイズに依存すると報告されており,荷重負荷などの運動により筋萎縮を予防することで,筋萎縮のみならず微小血管障害を予防できると考えた。一方,萎縮筋への荷重は炎症を惹起し,酸化ストレスを増加するという可能性がある。そこで,筋萎縮予防のための荷重運動に併用して,抗酸化サプリメントを摂取し,荷重運動による酸化ストレスを軽減することができれば,より効果的に廃用性筋萎縮及び微小血管障害を防ぐことができると仮説を立てた。本研究では廃用性筋萎縮に伴う微小血管障害に対する荷重運動の影響及び荷重運動と抗酸化サプリメントの併用効果について検証した。【方法】10週齢の雄性SDラット35匹を対照群,後肢非荷重群(HU),後肢非荷重+アスタキサンチン摂取群(HU+AX),後肢非荷重+間欠的荷重群(HU+IL),後肢非荷重+アスタキサンチン摂取+間欠的荷重群(HU+AX+IL)に区分した。アスタキサンチン(富士化学工業)は100mg/kg/日を経口投与し,荷重は1時間/日とした。2週間後にヒラメ筋を摘出し,ATPase染色から筋線維横断面積と筋線維タイプ比率,共焦点レーザー解析で毛細血管容積を測定した。また,酸化ストレスの指標として骨格筋内のROSとSOD-1を測定し,血管内皮細胞増殖因子(VEGF),及びVEGFの発現促進に関与し血管新生を誘導するとされるPGC-1αのタンパク質発現量をウェスタンブロッティングにより測定した。また,ミトコンドリア活性の指標としてコハク酸脱水素酵素(SDH)活性を分析した。得られた測定値の統計処理には一元配置分散分析とTukey法による多重比較検定を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い,動物実験委員会の承認を得たうえで実施した。【結果】HU群とHU+AX群の筋線維横断面積は対照群と比較して有意に低値を示したが,間欠的荷重を行ったHU+IL群とHU+AX+IL群はHU群と比較して有意に高値を示した。ROSとSOD-1は,HU群とHU+IL群では対照群と比較して有意に高値を示し,更にHU+IL群ではHU群と比較して有意に高値を示した。一方,Axを摂取したHU+AX群とHU+AX+IL群は対照群との間に有意差を認めなかった。毛細血管容積は,HU群とHU+IL群では対照群と比較して有意に低値を示し,血管退行を認めたが,HU+AX群とHU+AX+IL群は対照群との間に有意差を認めなかった。タイプI筋線維比率でも毛細血管容積の結果と同様の傾向を示した。PGC-1αの発現量は,HU群とHU+IL群では対照群と比較して有意に低値を示したが,Axを摂取したHU+AX群とHU+AX+IL群は対照群同様の発現を維持した。また,VEGFの発現量はAxを摂取したHU+AX群とHU+AX+IL群が,その他3群と比較して高値を示した。SDH活性は対照群と比較してHU群,HU+AX群,及びHU+IL群で低値を示した。一方,間欠的荷重とAx摂取を併用したHU+AX+IL群でのみ対照群同様に活性が維持された。【考察】不活動により骨格筋の酸化ストレスは増加し,筋萎縮と微小血管障害を生じた。1日1時間の荷重運動は筋萎縮を抑制したが,酸化ストレスの増加及びPGC-1α発現の減少を抑制できなかった。その結果,筋線維サイズの減少を抑制したにも拘らず微小血管障害が生じたと示唆される。一方,Ax摂取を併用することで,不活動に伴う酸化ストレスの増加を抑制し,PGC-1α発現が増加した。その結果,VEGF発現の増加及び血管形成が促されたと考えられる。また,PGC-1αはミトコンドリア機能に関与し,遅筋線維への移行を促すことから骨格筋代謝及びタイプI筋線維比率が維持された。これらの結果から荷重運動にAx摂取を併用することで,筋萎縮の抑制だけでなく骨格筋代謝を維持し,更に微小血管障害を予防したことが示された。【理学療法学研究としての意義】荷重にAx摂取を併用することで筋萎縮と微小血管障害を効率的に予防した本研究結果は,抗酸化サプリメントによる栄養サポートが運動療法の補助的手段になり,効果的な運動療法を行えることを示唆している点で意義があると考える。微小血管障害の予防は,骨格筋における酸素供給を維持し,筋持久力を維持するために重要であると考える。
  • 大塚 亮, 柴山 靖, 小山 明男, 梶栗 潤子, 伊藤 猛雄
    セッションID: 1068
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】交感神経より遊離されるノルアドレナリン(NAd)は血管平滑筋細胞のa-アドレナリン受容体(a-AR)とb-ARに作用することにより,血管のトーヌスを調節している。血管平滑筋細胞において,NAdが活性化するa-ARにはa1-ARとa2-ARの2種があり,さらに,a1-ARはa1A-AR,a1B-ARのa1D-ARの3種のサブタイプよりなる。全身の種々の臓器に分布する血管の平滑筋細胞に存在するこれらのサブタイプ受容体の種類は,その臓器によって異なっており,交感神経による臓器特異的な血流分配を調節している。また,糖尿病を発症した重症下肢虚血疾患の患者では,a-ARによる下肢血管の収縮反応が亢進しているとの報告もあり,種々の臓器での血管収縮に関与しているa受容体サブタイプを明らかにすることは,循環器疾患患者の治療やリハビリテーション法を考える上で極めて重要である。しかしながら,種々の下肢疾患病態と下肢血管に局在するARサブタイプの機能変化との関係は未だ不明な点が多い。これらの点を明らかにするため,我々は,正常ラットの膝窩動脈および膝窩静脈におけるa1-AR活性化による収縮に関与するサブタイプ受容体について検討した。【方法】実験には,8-9週齢のWistar系雄性ラット(体重263±21 g)を使用した。ラットをセボフルレンにて麻酔後,腸骨動脈切断により瀉血,致死させた。その後,膝窩動脈・膝窩静脈を摘出し,実体顕微鏡下にてステンレスピンで血管の内皮細胞を注意深く除去し,内皮除去輪状標本を作製した。標本を37℃に保温し,5% CO2+95% O2を通気した張力測定用チャンバーにセットし,等尺性張力を測定した。全ての実験はグアネチジン(5 mM:交感神経からのNAd遊離を阻害するため)とジクロフェナク(3 mM:プロスタグランジン合成阻害のため)を含むKrebs溶液中で行った。まず,過剰K+(70 mM)による収縮反応を記録した。次に,a1-ARアゴニストであるフェニレフリン(PE:10-7-10-5 M)を累積投与しコントロールとしての濃度依存性反応を取得後,a1A選択的アンタゴニストであるシロドシン(5 pM,10 pM,30 pM),a1B選択的アンタゴニストであるL-765,314(1 nM,3 nM,10 nM),またはa1D選択的アンタゴニストであるBMY7378(10 nM,30 nM,100 nM)存在下でPEの濃度依存性反応を取得した。【倫理的配慮,説明と同意】本実験は名古屋市立大学動物実験倫理委員会の規定に従って行った。【結果】高K+-溶液とPE(10 µM)は膝窩動脈と膝窩静脈をともに収縮させたが,その発生張力は膝窩静脈より膝窩動脈が大きかった(P<0.001)。シロドシン(5 pM,10 pM,30 pM)は,膝窩動脈でのPE収縮を有意に抑制したが(P<0.001),膝窩静脈でのPE収縮に影響を与えなかった(P>0.05)。一方,L-765,314(1 nM,3 nM,10 nM)は,膝窩静脈でのPE収縮を1nMから濃度依存性に抑制した(P<0.001)が,膝窩動脈でのPE収縮には10 nMでも影響を与えなかった。BMY7378(10 nM,30 nM,100 nM)は,膝窩動脈と膝窩静脈でのPE収縮をともに抑制した(P<0.001)。【考察】第48回学術大会において,ラット膝窩動脈と膝窩静脈平滑筋におけるa1-ARの活性化は収縮を発生させるが,一方,a2-ARの活性化は収縮を発生させないことを報告した。今回,我々は,膝窩動脈と膝窩静脈平滑筋でのa1-ARによる収縮に関与するa1-ARサブタイプが異なっていることを明らかにした。a1A選択的アンタゴニストのシロドシンは膝窩動脈平滑筋でPE-収縮を抑制したが,膝窩静脈平滑筋でのPE-収縮に影響を与えなかった。一方,a1B選択的アンタゴニストのL-765,314は,膝窩静脈平滑筋でのみPE収縮を抑制し,更に,a1D選択的アンタゴニストであるBMY7378は,膝窩動脈と膝窩静脈平滑筋でのPE収縮をともに抑制した。これらの結果より,ラット膝窩動脈平滑筋では,a1A-ARとa1D-ARが,膝窩静脈平滑筋ではa1B-ARとa1D-ARがPE収縮に関与していることが明らかとなった。以上のことより,膝窩動脈と膝窩静脈は異なったa-ARサブタイプを使用して末梢循環の調節を行っている可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】リハビリテーションによる身体構造・機能の向上を考えていく上で,血管トーヌスの調節機能を理解することは重要であると考えられ,本研究成果はその基礎的な知見を提供するものと考えられる。
セレクション
  • 亀井 健太, 安竹 正樹, 野々山 忠芳, 鯉江 祐介, 嶋田 誠一郎, 北出 一平, 久保田 雅史, 馬場 久敏, 腰地 孝昭
    セッションID: 1069
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに・目的】近年,手術手技や術後管理の向上により,術後の呼吸器離脱やその後の離床は早期から行われるようになってきている。一方で,手術適応患者の拡大や重症化に伴い,呼吸器管理が長期化する症例もみられ,患者の経過は大きく二極化していると考えられる。挿管時間の長期化は,術後の呼吸器合併症やICU滞在日数,入院日数の増加をもたらすとされる。さらに,リハビリテーションプログラムの遅延因子においても,以前は不整脈例が多かったのに対し,近年では長期人工呼吸器管理例の増加が多数報告されている。そのため,挿管時間が長期化する患者の特徴を把握することや,術前の指標から長期化のリスクを評価することは,臨床の一助になると考えられる。そこで,本研究の目的は,心大血管手術後に人工呼吸器管理が長期化する症例の特徴を後方視的に検討すること,および術前の指標の中から,術後人工呼吸器管理の長期化に関する予測因子を抽出し,さらにその因子のカットオフ値を検証することとした。【方法】対象は2011年1月から2012年11月までに当院心臓血管外科にて開心術および大血管手術を行った124例とした。術後ICU入室24時間以内に挿管チューブを抜管できた群(C群:n=98)とできなかった群(L群:n=26)の2群に分け,カルテより後方視的にその特徴を解析した。検討項目は患者背景,動脈硬化危険因子や術後せん妄の有無,緊急手術か待機手術か,手術時間,カテコラミン投与期間,ICU滞在期間,鎮静期間,術後在院日数,入院時の推定糸球体濾過量(eGFR),左室駆出率(EF),端座位および歩行開始までの日数,転帰,退院時の運動機能と精神機能(厚生労働省による障害老人の日常生活自立度判定基準),血液検査データ,Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)scoreとした。これらの項目に対し,Mann-WhitneyのU検定およびχ二乗検定を用いて両群の比較を行った。その中の術前に評価可能な項目で有意であったものに対し,多重ロジスティック回帰分析を行い,影響の強さを検証した。その後,最も影響が強いと考えられる因子について,Receiver Operating Characteristic(ROC)曲線を用いて,選択された項目のカットオフ値を算出した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言および疫学研究に関する倫理指針を遵守した。【結果】L群では有意に,手術時間,カテコラミン投与期間,ICU滞在期間,鎮静期間,術後在院日数,端座位および歩行開始までの日数が長く,また緊急手術や術後せん妄の割合が多かった(P<0.01)。手術前の要因としてL群では,eGFRやEF,白血球,SOFA score,血清クレアチニンが有意に低値(P<0.05)であり,糖尿病や喫煙などの動脈硬化危険因子を多く有していた。しかし,年齢や性別,退院時の運動機能,転帰に有意差は認めなかった。またこれら術前の因子において,多重ロジスティック回帰分析を行った結果,術前のSOFA scoreが最も強いリスクとして抽出され,オッズ比は3.6(95%信頼区間:2.0-6.7)であった。さらにROC曲線から,術前のSOFA score 1.5点(感度:76.9%,特異度:78.6%,AUC:0.84)がカットオフ値として算出された。【考察】術後24時間以上の人工呼吸器管理を要する患者の特徴として,手術前の腎機能や心機能低下,脂質異常症や糖尿病などの合併症の存在,緊急手術であることが挙げられた。これらを要因として,長期呼吸器管理による全身状態の改善と安定化を必要とし,その結果,術後離床の遅延やせん妄の高い発生率,在院日数の長期化をもたらしたものと考えられた。しかし,退院時の運動機能では両群に有意差を認めておらず,このことは離床は遅れるものの,その後の介入により身体機能は改善する可能性を示すものである。また,SOFA scoreは,身近な項目を用いて重要臓器の障害度を数値化し,スコアの総和で重症度を表すもので,死亡率やICU退出の基準として用いられている。今回の我々の検討でも,術後24時間以上の挿管管理のリスクとして,術前のSOFAスコアが2点以上との結果が得られた。以上より,術前のSOFA scoreを評価することで,呼吸器合併症に対する予防的介入などこれからの臨床における一助になるものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】SOFA scoreは比較的評価の容易な項目が用いられた多臓器不全の重症度を評価するバッテリーであり,臨床での有用度は高い。術前に評価の可能な項目から術後の呼吸器管理の長期化を予測することにより,呼吸器合併症に対する予防的介入や必要な症例に対する重点的かつスムーズな介入が可能になるものと考えられる。
  • 岩佐 祐子, 齊藤 正和, 河合 佳奈, 小薗 愛夏
    セッションID: 1070
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,Stanford type A急性大動脈解離(AAD)術後患者の入院死亡率は,依然10~35%程度と高いものの,自宅退院可能であったStanford type A AAD術後患者の5年生存率は88%と高値である事が報告されている。一方で,自宅退院可能となるStanford type A AAD術後患者の多くは,長期間の周術期管理により長期臥床を余儀なくされ,骨格筋機能や運動耐容能をはじめとする身体機能の低下が著しいのが現状である。そのため,入院期より身体機能の改善ならびに自宅復帰や社会復帰を目的とした急性期心大血管疾患リハビリテーション(心大血管リハ)が行われている。また,Stanford type A AAD術後患者は,偽腔拡大や再解離の予防に向け,退院後も厳密な血圧管理が重要とされているが,回復期心大血管リハの効果に関する検討は極めて少ないのが現状である。そこで,本研究は,Stanford type A AAD術後患者に対する回復期心大血管リハの遠隔期血管イベントに対する影響を検討することとした。【方法】対象は2006年より2011年10月の間に当院にて急性大動脈解離に対する人工血管置換術を施行したStanford type A AAD術後患者連続330例(男性173例,女性158例,年齢66±13歳)とした。これらのStanford type A AAD術後患者を回復期心大血管リハに参加した53例(phaseIICR群:男性34例,女性19例,年齢62±12歳)と回復期心大血管リハに参加しなかった273例(対照群:男性137例,女性136例,年齢67±12歳)の2群に分類した。尚,本研究では,Stanford type B AAD術後患者,マルファン症候群は対象より除外した。PhaseIICR群は,週1~2回,3か月間,心肺運動負荷試験にもとづく運動処方もしくは運動開始時収縮期血圧130mmHg未満,運動療法中収縮期血圧150mmHg未満という運動療法の基準に基づいた監視型運動療法ならびに血圧管理に焦点を当てた疾病管理指導を含む回復期心大血管リハプログラムを施行するとともに,自宅においても適切な血圧管理下のもと運動処方にもとづく運動療法を継続するように指導した。一方,対照群は入院期間中に指導された血圧管理方法にもとづく疾病管理を継続した。本研究では,回復期心大血管リハの安全性の調査のため,術後6か月時の大動脈拡大,再解離の有無を調査するとともに,遠隔期の心血管イベント発症の調査として,さらに術後1年後までの大動脈拡大,再解離の有無ならびに術後2年以内の再入院の有無を血管由来,心臓由来に分類して調査した。統計学的手法として,両群間の患者背景因子の比較には対応のないt検定,カイ二乗検定,心血管イベント発症の比較には,カイ二乗検定,カプランマイヤー曲線ならびにログランク検定を用いて解析を行った。全ての統計学的解析はSPSS 19.0を用いて,有意水準5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究を実施するにあたり,当院倫理委員会の承認を得た。また,本研究の参加に対して,ヘルシンキ宣言に基づき対象者の保護には十分留意し,厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」に従って,事前に研究の趣旨,内容および調査結果の取り扱い等に関して説明し同意を得た。【結果】PhaseIICR群と対照群の術後6か月以内の心血管イベント発症率には有意差を認めなかった(動脈拡大:phaseIICR群vs.対照群:9% vs. 13%;p=0.467),(再解離:2% vs. 1%;p=0.461)。同様に術後1年以内の心血管イベント発症率には有意差を認めなかった(動脈拡大:8% vs. 7%;p=0.766),(再解離:0% vs. 1%;p=0.998)。また,術後2年以内の再入院も両群間で有意差を認めず(Log rank test;p=0.720),再入院の理由別の比較においても,同様に両群間で有意差を認めなかった(血管由来:8% vs. 10%;p=0.799),(心臓由来:3% vs. 2%;p=0.392)。【考察】厳格な血圧管理のもと施行されるStanford type A AAD術後患者に対する回復期心大血管リハは,少なくとも心血管イベント発症助長するものではなく,適切な管理のもと実施するうえでは安全に施行可能と示唆された。一方,本研究では虚血性心疾患や心不全患者で示されている,包括的回復期心大血管リハによる遠隔期のイベント抑制効果は認めなかった。【理学療法学研究としての意義】動脈硬化を主体とする心血管疾患患者が増加しており,とくにStanford type A AAD術後患者は,高齢者に多いため,退院後も回復期心大血管リハを継続し,身体機能や日常生活動作を再獲得していく事は重要である。本研究はStanford type A AAD術後患者に対する厳格な血圧管理下で行われる回復期心大血管リハが安全に施行可能である事が示しており,Stanford type A AAD術後患者に対する理学療法介入の礎となると考える。
  • 安藤 可織, 西崎 真里, 相本 晃一, 廣川 晴美
    セッションID: 1071
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は,器質化血栓により肺動脈の閉塞や狭窄をきたし肺高血圧症を発症する疾患であり,臨床症状は低酸素血症や運動耐容能低下等を呈する。近年,末梢性病変に対するバルーンを用いた経皮的肺動脈形成術(BPA)により循環動態や予後は改善してきている。しかし,本邦においてCTEPH患者のリハビリテーションについて論じた報告は少ない。本研究では,BPAにより平均肺動脈圧がほぼ正常化したCTEPH患者における運動耐容能や労作時の循環応答,下肢・呼吸筋力,ADLを評価し,リハビリテーションの必要性について検討した。【方法】2011年2月から2013年9月までの間に当院でBPA治療により循環動態が安定し,Swan-Ganzカテーテル挿入下で心肺運動負荷試験(S-G CPX)が可能であったCTEPH患者48例(男性12例,女性36例,平均年齢59.4±12.9歳)を対象とした。患者背景として循環動態である平均肺動脈圧,心係数,脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)と呼吸機能である肺活量,1秒率,肺拡散能を調査した。また,S-G CPXはSwan-Ganz挿入下で半座位型エルゴメータ機器を用いて,5wattの定常負荷2分後に5watt/minの漸増負荷を症候限界性亜最大負荷まで実施し,運動耐容能,循環応答(血圧,心拍数,動脈血酸素飽和度,平均肺動脈圧,心係数),呼吸応答(酸素摂取量,二酸化炭素排出量,換気量),Borg指数を用いて自覚症状(息切れ・下肢疲労)を評価した。下肢筋力についてはストレングスエルゴメータ機器を用いて最大下肢伸展トルクを,呼吸筋力についてはAUTOスパイロメーター機器を用いて最大吸気・呼気口腔内圧(PImax・PEmax)を評価した。ADLについてはNagasaki University Respiratory ADLquestionnaire(NRADL)を用いて評価した。統計処理は,SPSS(Inc IL,USA)を用い,S-G CPXの循環動態の変化をstudent-T検定を行い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当院倫理委員会の承諾を得て実施した。本研究の施行に際し,我々は対象者に研究の趣旨や内容および調査結果の取り扱い等に関して説明し,書面にて同意を得た。【結果】循環動態では,平均肺動脈圧21.8±4.2mmHg,心係数2.8±0.9L/min/m2,BNP 27.9±42.3pg/mlと心不全は代償されていた。呼吸機能では肺活量103.7±18.0%,1秒率72.6±9.0%,肺拡散能66.6±11.7%であり,1秒率と肺拡散能の低下を認めた。S-G CPXの結果より,運動耐容能はpeak VO2/W 13.4±3.5ml/kg/min(55.0±13.6%),AT 10.7±2.8ml/kg/min(69.0±14.9%)と低下していた。循環応答の変化では,平均肺動脈圧は最大負荷(41.9±20.4W)時に41.8±8.7mmHgまで上昇した(p<0.01)が,心係数は3.7±1.0L/min/m2にとどまった。動脈血酸素飽和度は90.5±12.3%(p<0.01)まで低下し,自覚症状ではBorg指数が息切れ13.2±2.2,下肢疲労12.5±3.1と息切れのほうが強かった。最大下肢伸展トルクは1.3±0.5N・m/Kg(予測値の80.1±25.2%),PImaxは50.4±21.0cmH2O(予測値の84.7±35.0%),PEmaxは60.4±22.8cmH2O(予測値の80.1±25.2%)とやや低下を認めた。NRADL総合点は93.1±7.4点であり,その詳細から階段昇降の点数が他の項目に比べ低い傾向にあった。【考察】本研究より,平均肺動脈圧がほぼ正常化したCTEPH患者において運動耐容能や下肢・呼吸筋力は低下を認めた。また,運動負荷により平均肺動脈圧は上昇し,心係数は増加不足が起き,その結果,低酸素血症が生じていることを認めた。これは,CTEPH患者の罹患期間が長いため,deconditioningによる骨格筋の減少や機能異常により運動耐容能が低下するため,治療後の回復には十分な時間を要すると考える。また,労作時の循環応答は末梢の肺動脈病変の残存や労作時における肺血管の拡張・再灌流の障害により正常化までには至っておらず,労作時の低酸素血症や息切れが残存していると推測される。心・呼吸器疾患において下肢・呼吸筋力の改善が,運動耐容能・自覚症状・日常生活動作等の改善に関与すると報告もあり本疾患でもその効果を期待する。そのため,平均肺動脈圧がほぼ正常化したCTEPH患者のリハビリテーションを実施する際には,運動負荷量の決定と漸増には十分に注意することとバイタルの変化を把握するためにモニタリングを行うことは重要であり,疾患性に応じた呼吸理学療法や下肢筋力トレーニングを併用したリハビリテーションを行っていく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究は,BPA治療後のCTEPH患者の運動耐容能や下肢・呼吸筋力,ADL,労作時の循環応答を明らかにし,リハビリテーションの必要性について示唆したものである。更に,リハビリテーションのプログラム立案するうえで重要な資料となり極めて有用であると考える。
  • 笠原 酉介, 井澤 和大, 渡辺 敏, 松嶋 真哉, 横山 有里, 大森 圭貢, 大宮 一人
    セッションID: 1072
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】慢性心不全(CHF)患者は,CHFの増悪により入院加療となった際に,退院時の歩行能力が入院前と比較して低下する症例が多く存在する。我々は先行研究において,入院時腎機能障害の程度や理学療法開始時に得られた下肢筋力値が退院時の歩行能力と関連することを報告した(2012年)。一方で,高齢者では入院期間中の臥床により著しい下肢筋力や運動耐容能の低下を示すことが知られている。しかし,急性増悪にて入院加療となったCHF患者においてCHF加療中の臥床期間が退院時歩行能力に与える影響については明らかにされていない。本研究の目的は,急性増悪にて入院となったCHF患者の臥床期間が退院時歩行能力に与える影響を明らかにすることである。【方法】対象は,2009年1月から2011年6月までにCHFの増悪で入院加療となり,各診療科より理学療法依頼のあった連続254症例のうち,除外基準を満たさないCHF患者101症例である(76.7±11.4歳)。除外基準は,歩行障害の原因となる整形外科疾患もしくは中枢神経疾患,不安定狭心症,コントロールされていない重症不整脈,入院前に歩行が自立していない症例,および指示動作困難な認知症を有する場合とした。我々は,年齢,入院時脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP),左室駆出率(LVEF),入院時推算糸球体濾過量(eGFR),入院からトイレ歩行獲得までの日数を臥床期間として診療録より後方視的に調査した。さらに我々は,退院時の歩行能力より,連続500m歩行が可能であり介助無しで病棟内歩行が自立したものを自立群,自立不可能であったものを非自立群として,2群に分類した。統計解析は,自立群であることを目的変数とする単変量ロジスティック回帰分析を,年齢,性別,BNP,LVEF,eGFRおよび臥床期間を説明変数として行った。その後に,単変量ロジスティクス回帰分析の結果,P<0.2であった説明変数を用いて,自立群であることを目的変数とする多変量ロジスティック回帰分析を行った。さらに,多変量ロジスティック回帰分析でP<0.05未満であった連続変数を用いてreceiver operating characteristic(ROC)曲線による分析を行い,感度,特異度,およびカットオフ値を算出した。統計ソフトにはSPSS ver.12.0Jを用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当院の生命倫理委員会の承認(承認番号326号)を得て実施された。また,ヘルシンキ宣言に従って,対象者には研究の趣旨,内容および調査結果の取り扱いについて説明し同意を得た。【結果】自立群を目的変数とする単変量ロジスティック回帰分析の結果から,年齢(P<0.01),性別(P<0.05),eGFR(P<0.10)および臥床期間(P<0.01)が選択された。また,これらの説明変数を用いた多変量ロジスティック回帰分析の結果,性別(女性=1,P<0.01,オッズ比0.289,95%信頼区間:0.11-0.74),eGFR(P<0.05,オッズ比1.02,95%信頼区間:1.01-1.04)および,臥床期間(P<0.01,オッズ比0.86,95%信頼区間:0.78-0.94)が自立群であることを予測する因子として抽出された。自立群であることを状態変数とするROC曲線から得られたカットオフ値は,eGFRは59.3 mL/min/1.73m2(曲線下面積0.65,P<0.01,感度63.6%,特異度34.8%),臥床期間は4.5日(曲線下面積0.76,P<0.01,感度82.2%,特異度40.0%)であった。なお,性別,eGFR,臥床期間を用いた多変量によるROC曲線から得られたカットオフ値は,-1.241×性別(女性=1)+0.020×eGFR-0.156×臥床期間+0.775=0.34(曲線下面積0.81,P<0.01,感度76.4%,特異度22.2%)であった。【考察】急性増悪にて入院となったCHF患者では,加療による臥床期間が独立した退院時の歩行能力の規定因子であることが明らかとなり,トイレ歩行までにおよそ5日以上を要した場合は,退院時の歩行自立度が制限される可能性が高まることが示された。さらに,臥床期間のみならず,入院時の腎機能障害の程度や性別を加味することにより,より高い感度で退院時の歩行自立度が予測できることが明らかとなった。以上より,入院期の理学療法プログラム作成する際には臥床期間が長期となった症例に対する対策を講じる必要性が示された。【理学療法学研究としての意義】CHF患者の退院時の歩行能力に関連する因子ついて,入院期の理学療法プログラムおよびゴール設定の上で有用な知見が得られた研究である。
  • ―Geriatric Nutritional Risk Indexを用いた検証―
    櫻田 弘治, 石井 香織, 長山 医, 中嶋 美保子, 葉山 恵津子, 氷見 智子, 加藤 祐子
    セッションID: 1073
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに・目的】栄養関連指標であるGNRI[Geriatric Nutritional Risk Index={14.89×血清アルブミン}+{41.7×(現体重/理想体重)}]は手術後患者や透析患者などの生命予後予測指標として注目されている。我々は,心不全患者におけるGNRIが,その後の心血管疾患による死亡の規定因子であることを報告した。心不全患者は心不全の進行により,呼吸負荷や交感神経系の活性化によるエネルギー消費量の増大や筋肉の異化亢進に伴う筋肉量の低下,腸管浮腫による腸管運動障害による吸収障害や食欲低下によって,低栄養状態に陥りやすいといわれ大きな問題となっており,心不全患者における栄養状態の改善が急務とされている。一方,心不全患者の予後規定因子として確立とされている運動能の指標と栄養状態の関係について検討した報告は少ない。今回,栄養関連指標としてGNRIを用いて,心不全患者の栄養状態と運動療法の効果との関係を検討した。【方法】2011年6月から2013年10月までに,NYHAII度以上の心不全患者に対する運動療法を週2回以上の頻度で291±180日間実施した21例{男性:14例,年齢:62±11歳,NYHA(II度:11例,III度:9例,IV度:1例)}を対象とした。運動療法は,有酸素運動とレジスタンストレーニングを行った。評価項目は,患者基本情報,運動療法前後の血液生化学データ(Hb,CRP,eGFR,ALB,BNP),心臓エコー検査による左室駆出率(LVEF),GNRI,心肺運動負荷検査(AT@VO2,Peak VO2,VE/VCO2 slope,Peak WR)とした。心不全患者による運動療法前後のGNRI改善率と心肺運動負荷検査による諸指標の改善率との関係,さらに,心不全患者の中でGNRIが94未満の心不全患者を,栄養障害リスクあり心不全群(7例)の運動療法前後のGNRI改善率と心肺運動負荷検査による諸指標の改善率の関係について検討した。統計学的手法は運動療法の効果についてはPaired t-test,相関関係はSpearmanの順位相関係数により統計解析を行った。全ての検定における有意水準はp=0.05とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の実施にあたり,事前に研究の趣旨,研究内容及び調査結果の取り扱いについて説明し同意を得た。また,本研究は他者との利益相反はない。【結果】運動療法前後のHb,CRP,eGFR,ALB,BNP,LVEFは有意差を認めなかった。GNRIは運動療法前が97.3±9.2から運動療法後に100.4±7.1と有意な改善が認めた(p<0.05)。また,運動療法によってAT@VO2は運動療法前が9.2±1.9ml/min/kgから運動療法後に10.0±1.8 ml/min/kg(p<0.01),Peak VO2は運動療法前が12.7±3.8 ml/min/kgから運動療法後に14.4±3.2ml/min/kg(p<0.01),Peak WRは運動療法前が68.1±28.0Wから運動療法後に79.8±27.1W(p<0.01)と有意に改善したが,VE/VCO2 slopeは運動療法前が37.0±9.8から運動療法後に34.7±10.3と有意差は認めなかった。全ての心不全症例において,運動療法前後のGNRI改善率と心肺運動負荷検査による諸指標の改善率には有意な相関を認めなかった。しかし,栄養障害リスクあり心不全群において,運動療法前後のGNRI改善率とAT@VO2改善率(r=0.978;p<0.001),GNRI改善率とPeak VO2改善率(r=0.877;p<0.001),GNRI改善率とPeak WR改善率(r=0.791;p<0.05)には有意な正の相関関係を認めたが,GNRI改善率とVE/VCO2 slope改善率には相関関係を認めなかった。【考察】心不全患者を対象とした,GNRIを用いた本研究結果より,栄養障害リスクのある患者は,栄養状態の改善率によって,運動療法の効果に影響を及ぼす可能性がある。このため,今後は積極的な栄養状態の改善に対する介入研究が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】心不全患者に対する運動療法の有効性は周知されている。今回の研究結果によって,栄養障害リスクのある患者は,栄養状態の改善へのアプローチも心臓リハビリテーションの役割のひとつであると再認識できた。栄養状態の改善によって,さらなる効果的な運動能の改善が期待され,心不全患者の生命予後の改善に影響する可能性が示唆された。
  • 齋藤 崇志, 大森 祐三子, 大森 豊, 渡辺 修一郎
    セッションID: 1074
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】在宅要介護高齢者(高齢者)に対する訪問理学療法の主な役割は,日常生活活動(ADL)能力の改善を図ることである。ADL能力は国際生活機能分類(ICF)において「活動」に該当する。「活動」を改善するためには,「環境因子」への間接的介入や「活動」への直接的介入など様々な介入が有用であり,「心身機能・構造」への介入が唯一の手段ではない。しかしながら,理学療法士(PT)は,「心身機能・構造」への介入,すなわち,運動療法を行う専門職である。運動療法を通して「活動」を改善することはPT以外の医療や介護の専門職には困難であり,PTがその専門性を発揮するべきである。ADL能力を改善するための運動療法を行うためには,ADL能力に関連する運動機能を同定する必要がある。先行研究において,通所介護サービスを利用する高齢者のADL能力と運動機能の関係が報告されている。しかしながら,訪問理学療法を利用する高齢者を対象として,ADL能力と運動機能の関係は検討されていない。本研究の目的は,訪問理学療法を利用する高齢者のFunctional Independence Measure(FIM)に関連する運動機能を明らかにすることである。【方法】対象者は,新規で訪問理学療法を開始した在宅高齢者連続127名の中で,取り込み基準(65歳以上,かつ,自宅内歩行が可能)を満たし,除外基準(Mental State Questionnaireの誤解答数が9以上の者,Brunnstrom Recovery StageがStageIV以下の重度の運動麻痺を有する者,神経筋疾患を有する者,後述する運動機能測定が不可能な者)に該当しない41名(男性16名,女性25名,平均年齢81.0歳)であった。測定項目は,運動機能とFIM(運動項目)であり,訪問理学療法開始時に担当PTが測定した。運動機能の指標として,2.4m歩行テスト(2.4GT)と等尺性膝伸展筋力体重比(KE),Modified-Functional Reach Test(MFRT),握力の測定を行った。2.4GTは2.4mの距離を歩く所要時間を測定するテストであり,最速歩行による所要時間を測定した。KEは左右の測定値の中で低い方を障害側KE(KE-AS),高い方を健常側KE(KE-NAS),左右平均値を平均膝筋力(KE-AV)とした。MFRTは3回測定したうちの最大値を採用した。握力は最大値の左右平均値を採用した。FIMは担当PTが評価した。統計解析は,まず,FIMと各運動機能の相関関係を明らかにするために単変量解析を行った。FIMは,運動項目の合計点とセルフケア(SC),移乗(TF),移動(MO)の小計点の4つに分類し,それぞれ運動機能との相関関係を分析した。次に,FIMに関連する運動機能を明らかにするために重回帰分析を行った。年齢と性別は調整変数として強制投入し,FIMの各4分類を従属変数,単変量解析で相関関係を認めた運動機能を独立変数とするステップワイズ法を用いた。統計解析には,IBM SPSS Statistics(Version21)を用い,両側検定にて危険率5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,訪問理学療法の概要およびデータの学術的利用について事前に対象者に対して説明し,同意を得て実施した。【結果】単変量解析の結果,2.4GTとKE-AV,MFRT,握力は,FIMの各4分類と共通して相関関係を認めた。そのため,この4つの運動機能を重回帰分析における独立変数に採用した。重回帰分析の結果,FIM合計点と有意な関連が認められた運動機能は,2.4GT(β=-0.64)であり自由度調整済み決定係数(R2)-=0.38であった。SC小計点においては,2.4GT(β=-0.65)であり,R2=0.38であった。TF小計点においては,MFRT(β=0.49)であり,R2=0.22あった。MO小計点においては,KE-AV(β=0.42)と2.4GT(β=-0.41)であり,R2=0.45であった。【考察】2.4GTは,SC小計点を除く,全てのFIMに共通して関連する運動機能であった。また,MFRTとKE-AVは,特定のFIM下位項目と関連があった。この結果から,膝伸展筋力とバランス能力,そして,歩行能力を改善する運動療法が,訪問理学療法を利用する高齢者のADL能力の改善に寄与することが示唆された。ただし,決定係数が0.22~0.45と低値を示したことから,ICFに基づく「背景因子」への間接的介入や「活動」への直接的介入など様々なレベルへの包括的介入の1つとして運動療法を位置付けるべきである。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,運動療法が訪問理学療法を利用する高齢者のADL能力の改善に寄与する可能性を示したことである。
  • 大沼 剛, 橋立 博幸, 阿部 勉
    セッションID: 1075
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】障害により生活空間が狭小化し,屋内生活空間での活動を主とする在宅高齢者においては,自宅屋内における生活空間の身体活動を把握し,適度な身体活動を確保する必要がある。我々は,屋内生活空間における身体活動を簡便に評価できる質問紙指標home-based life-space assessment(Hb-LSA)を開発し,臨床的有用性を有する指標であることを確認した。しかし,屋内生活空間における身体活動低下に関わる要因については明らかとなっていない。そこで本研究は,訪問リハビリテーション利用者を対象に,Hb-LSAを用いて屋内生活空間における身体活動を1年間追跡調査し,身体活動低下に関わる要因について明らかにすることを目的とした。【方法】訪問リハビリテーションを利用する要支援・要介護高齢者37人中1年間の追跡調査を実施できた25人(平均年齢77.9±7.2歳)を対象とした。初回調査から6か月毎に,個人的要因として,身体活動(Hb-LSA,life-space assessment(LSA),離床時間),基本動作能力(bedside mobility scale(BMS)),日常生活動作能力(functional independence measure(FIM))),身体機能(握力,30-s chair stand(CS-30),片脚立位保持時間),認知機能(mental status questionnaire(MSQ))を調査した。社会的要因として,通所系サービス利用の有無,介護状況,居住環境を聴取した。また,調査期間中の転倒および入院の有無を聴取した。Hb-LSAは,過去1か月間において,自宅屋内を中心とした生活空間を移動または活動したレベルと,その頻度および自立度を調べた結果を得点化する指標である(得点範囲0-120点)。屋内生活空間における身体活動の低下に関連する要因を明らかにするため,1年後のHb-LSA得点の経時変化から,維持・増加群と低下群と2群に分け,個人的要因および社会的要因,転倒・入院の有無をMann-WhitneyU検定およびカイ二乗検定を用いて,有意確率を5%未満として比較した。また,個人的要因の6か月毎の経時的変化を比較するため,Willcoxon符号付順位和検定を用い,有意差の判定には有意水準をBonferroni補正した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき計画され,研究概要を対象者または家族介護者に対して事前に口頭と書面にて説明し,同意を得た。なお,本研究は杏林大学保健学部倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】1年後のHb-LSAを調査した結果,16人が維持・増加しており(維持・増加群:開始時52.8±20.6点,1年後58.7±19.3点),9人が低下していた(低下群:開始時73.4±17.6点,1年後59.6±12.2点)。2群間を比較した結果,初回調査時のBMS,FIM,運動FIMが低下群で有意に高かった。低下群では,転倒をした者および生活環境の移動の際に階段昇降の必要性を有する者が有意に多かった。加えて,低下群では,1年後のFIMが有意に低下しており,FIM下位項目の階段において,維持・増加群と比べ,自立度が低下した者が有意に多かった。維持・増加群では,個人的要因には初回調査時と1年後に有意な変化が認められなかった。【考察】低下群では初回調査時のBMSおよびFIMが維持・増加群に比べて有意に高く,屋内生活空間における身体活動も高かったことから,日常生活動作能力が相対的に高い成績を示す高齢者においても有害事象の発生や生活機能の低下によって屋内生活空間での身体活動が低下し得ると考えられた。実際に低下群における屋内生活空間の身体活動低下の要因を分析した結果,低下群では初回調査からの1年間で転倒した者が有意に多く,FIMの成績が低下した。低下群では,転倒の発生によって引き起こされた転倒後症候群によって日常生活動作能力が低下し,その結果,屋内生活空間での身体活動が低下したと推察された。また,低下群では生活環境における階段昇降の必要性を有する者が多く,かつ,階段昇降の自立度が低下した者が多かったことから,階段が屋内生活空間における身体活動の障壁になるとともに階段昇降動作能力の低下が屋内生活空間における身体活動低下に影響を及ぼすと考えられた。【理学療法学研究としての意義】訪問リハビリテーションを利用する高齢者における転倒および階段昇降の環境的必要性と実際の遂行能力低下は,屋内生活空間における身体活動低下に影響を及ぼす可能性があり,身体活動低下を予防するために重要な要因であることを示した。
  • 角田 友紀, 蛭間 基夫, 中島 明子, 鈴木 浩
    セッションID: 1076
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】他領域を含めて住宅改善におけるPT・OTの役割や専門性の重要性が複数報告されている。一方で他領域の専門職から住宅改善におけるPT・OTとの連携の困難さやフォローアップ(以下,FU)に不参加であることも同時に報告されている。このような状況は住宅改善におけるPT・OTのニーズの減少を招き,PT・OTの職域の狭小化に結びつく可能性がある。そこで,本報告ではPT・OTに対する全国調査から住宅改善後のFUや自宅訪問に影響する要因を明らかにするものである。【方法】対象は日本理学療法士協会及び日本作業療法士協会の各名簿(09年度)に掲載されていた中から自宅会員を除いて無作為に抽出したPT3,795人,OT2,094人である。調査の期間は2010年8月初めから2ヶ月で,質問紙によるアンケート調査を実施し,調査票を郵送にて配布,回収した。有効回収数はPT1,529人(回収率40.3%),OT785人(同率37.5%)であった。調査結果は住宅改善の介入経験があるPT・OT1,693人(PT1,163人,OT530人)の中でFUの実態が明らかであった1,643人を後述の三群に分け,クロス集計により比較,分析した。【倫理的配慮,説明と同意】本調査の主旨に理解を得られた場合に調査票を返信して頂くことを記載した依頼文を調査票とともに配布した。また,本研究は和洋女子大学ヒトを対象とする生物学的研究・疫学的研究に関する倫理委員会から承認を受け実施した。【結果】1.住宅改善後のFUの方法に関して直接対象者の自宅訪問によって行う場合が多いPT・OT295人(訪問群),対象者や他職種から情報収集するだけの場合が多いPT・OT1,061人(聴取群),FUしない場合が多いPT・OT287人(未実施群)に大別された。2.勤務機関は三群とも「病院」(訪問群46.1%,聴取群73.0%,未実施群88.9%)の割合が最も高かった。訪問群では「訪問系機関」の割合が他二群が約1.0%であるのに対して18.0%だった。3.日常業務の主対象者として訪問群は「在宅生活者」(32.2%),聴取群は「回復期患者」(29.2%),未実施群は「急性期患者」(40.1%)の割合が各々最も高かった。4.住宅改善に介入した対象は,それまで治療を「自分が直接担当」した者の割合が三群とも最も高かった(訪問群96.6%,聴取群98.1%,未実施群97.6%)。訪問群では「リハ部門以外の紹介」(19.0%)や「職場以外から紹介」(20.0%)された者の割合が他二群より高かった。5.住宅改善における苦慮,困難事項は「自身の知識・技術不足」(訪問群76.6%,聴取群79.0%,未実施群85.0%),「住宅改善に関する業務時間不足」(訪問群54.2%,聴取群68.6%,未実施群65.2%)の割合が三群とも上位だった。また,「住宅改善の収益が少ない」の割合は訪問群23.4%,聴取群31.4%,未実施群26.8%だった。6.FUの必要性に関する意識は,訪問群は「必ず行う」(73.9%)の割合が最も高かったが,他二群では「対象者に応じて行う」(聴取群53.3%,未実施群65.2%)の割合が最も高かった。7.理想的なFUの方法は三群とも「自宅訪問」(訪問群92.9%,聴取群65.5%,未実施群51.6%)の割合が最も高かった。【考察】住宅改善後のFUは工事状況の確認とともに,新しい環境における動作や生活指導の重要な支援である。また,PT・OTにとって実施した住宅改善の効果判定の機会でもあり,その具体的方法として実際の状況を直接確認するための自宅訪問の必要性は高い。このような中で住宅改善の経験のあるPT・OTにおいてFUを自宅訪問により行うことが多い訪問群は17.4%に留まっている。調査結果から三群ともFUの実施やその際の自宅訪問を重視することは明らかになったが,その意識に格差もある。また,聴取群及び未実施群では現在実施しているFUの方法と理想とするFUの方法に乖離が生じている。これらの差や乖離の背景として,訪問群は勤務機関が訪問系機関が多く,主対象者が在宅生活者が中心で,周囲から住宅改善の紹介が多いといった勤務環境に特徴を有している。調査に示された苦慮,困難事項が三群とも同傾向にある中では,訪問群が他二群と比較すると住宅改善以外の地域や在宅における支援に介入しやすい条件がFUの実態に影響を及ぼしていることが示唆された。従って,自らがFUの実施や具体的方法に制約があるPT・OTでは支援の質を担保するために,訪問群と連携できる環境整備が求められる。ただし,FUは効果判定を通してPT・OTの住宅改善における知識や技術の向上の機会となるため,他の方法でどのようにこれらに対応するのかといった事項に関しては今後の検討課題となった。また,このようなPT・OTの実態に関して他領域に啓発する具体的な方法についても今後の課題となった。【理学療法学研究としての意義】住宅改善におけるFUの実施に影響を与える要因を明らかにし,今後のこれらの促進について検討する視点を明らかにした。
  • 1218名における2年間の追跡調査
    波戸 真之介, 鈴川 芽久美, 林 悠太, 今田 樹志, 小林 修, 秋野 徹, 島田 裕之
    セッションID: 1077
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】我が国の介護保険は要介護者への介護給付に加えて,「予防」の概念を取り入れた要支援者に対する予防給付を導入している。理学療法士として介護予防を推進するうえで,運動療法が適用される機会は多く,どのような運動機能が要介護状態に陥る原因として重要か明らかにする必要性は高い。牧迫らによって,地域在住の後期高齢者における歩行速度は将来の新規要介護認定の発生に影響を与えることなどが報告されているが,現場ではすでに要支援認定を受けた高齢者の運動機能が要介護認定といった重度化への移行に及ぼす影響が十分明らかになっていない。そこで本研究の目的は,2年間の追跡調査によって要支援から要介護への移行に影響を与える運動機能を検討することとした。【方法】対象は2006年9月から2011年9月の間で全国のデイサービスを利用し,その後2年間の追跡調査が可能であった要支援高齢者1218名(平均年齢82.1±6.2歳,男性311名,女性907名)とした。ベースラインにおける調査は,握力,Chair Stand Test- 5 times(CST),開眼片脚立ち時間,6m歩行速度,Timed Up and Go(TUG)を測定した。また,ベースラインより2年間,毎月の要介護度を追跡調査した。統計学的解析は,要支援から要介護への移行に各調査項目が及ぼす影響を検討するため,Cox比例ハザード回帰分析を実施した。独立変数はベースラインにおける年齢,性別,要介護度,握力,CST,開眼片脚立ち時間,歩行速度,TUGとした。要介護への移行に有意に影響を与えるとして抽出された変数に関してはハザード比を算出した。また,各運動機能検査の結果について四分位を基準として4群に分類し,要介護への移行率曲線を群間で比較するため,Log-rank検定を実施した。なお,各解析における有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に沿って研究の主旨および目的の説明を行い,同意を得た。なお本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。【結果】2年間の追跡調査期間で,要支援から要介護に移行したのは558名(46%)であった。Cox比例ハザード回帰分析により,要支援から要介護への移行に有意に影響を及ぼす変数として抽出されたのは,性別(HR:0.51,95%CI:0.41-0.65),ベースラインにおける要介護度(HR:1.36,95%CI:1.15-1.62),握力(HR:0.96,95%CI:0.95-0.98),TUG(HR:1.02,95%CI:1.01-1.03)であった。握力とTUGに関して,四分位を基準として結果が良好な順にIからIV群に分類し,Log-rank検定により要介護移行の発生率曲線について群間の比較をしたところ,握力が最も低下しているIV群(男性:21kg未満,女性:12kg未満)はそれよりも高いI~III群と比べて,要介護度への移行率が有意に高いことが示された。また,I~III群間ではいずれの組み合わせにおいても有意差が認められなかった。TUGは,最も低下しているIV群(男性:17.1秒以上,女性:19.1秒以上)はI群(男性:11.1秒未満,女性11.6秒未満)およびII群(男性11.1秒以上13.4秒未満,女性:11.6秒以上14.3秒未満)と比べ有意に要介護への移行率が高いことが認められた。また握力同様,I~III群間ではいずれの組み合わせにおいても有意差が認められなかった。【考察】要支援から要介護への移行に影響を及ぼす要因として,運動機能は握力とTUGが抽出された。握力は身体活動や将来のADLの変化との関連性が先行研究において報告されており,同様に要支援から要介護への移行にも影響を及ぼしたと考えられる。TUGは単純な歩行だけではなく,立ち座りや方向転換といった要素を含み,日常生活における実用的な歩行能力である。そのため,歩行速度が抽出されない中でTUGが将来の要介護への移行に影響することを示したと考えられる。Log-rank検定の結果より,握力とTUGの両者において四分位で最も低下していたIV群が,それよりも高い群と比べて要介護への移行率が高いことを示した。一方で,その他の群間では有意差が認められなかった。そのため,運動機能が顕著に低下している群は要介護への移行率が高く,特に運動機能に関するアプローチを必要としている可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より,握力やTUGといった簡便に実施出来る評価結果が,要支援から要介護への移行に影響することが明らかになったため,病院や施設等における要支援から要介護への移行リスクの評価としても積極的に測定をするべきであることが確認出来た。また,要支援及び要介護高齢者における大規模集団を対象とした縦断的研究は少なく,本研究結果は貴重な情報と言える。
  • 田代 英之, 井所 拓哉, 武田 尊徳, 中村 高仁, 西原 賢, 星 文彦
    セッションID: 1078
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脳卒中者において移動性の損失は深刻な問題であり,その制限は生活活動の量や自立度,QOLの低下を招くとされる。そのため,地域における移動性の維持,改善は脳卒中者のリハビリテーションにおいて重要な課題である。これまでに脳卒中者において,制限のない地域内歩行が可能となるために歩行速度が重要な要因であることが明らかとなっているが,自立した屋外歩行の可否に影響する要因については明らかでない。これについて,歩行バランスを含めた複数の課題の遂行能力が地域における移動性で重要な要素となりうることが提案されているが,その検証はこれまでに十分されていない。そこで本研究の目的は,脳卒中者の移動性が屋内から近隣,地域へと拡がる上で重要な運動機能について,歩行速度と動的バランスに着目し明らかにすることとした。【方法】通所サービスを利用中の自立した歩行が可能な脳卒中者49名(男性27名,女性22名,年齢70.4±9.3歳,発症からの期間72.9±61.7ヶ月)を対象とした。Functional Ambulation Classification of the Hospital at Sagunto(FACHS)を用い,歩行による移動の実行状況から地域における移動性を評価した。運動機能は,10m歩行テストによる快適,最大歩行速度,動的バランスの評価としてmini-Balance Evaluation Systems Test(mini-BESTest)を評価した。統計学的解析は,FACHSで評価された移動性の範囲から屋内歩行群,近隣歩行群,地域内歩行群の3群に分類し,快適・最大歩行速度,mini-BESTestをTukeyの方法で群間比較した。次に,自立した屋外歩行の可否に影響する要因を明らかにする目的で,屋内歩行群と近隣歩行群以上の群の2群に分け,2群を従属変数とし,屋内歩行群と近隣歩行群以上の比較で有意な差が認められた運動機能を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。また,制限のない地域内歩行の可否に影響する要因を明らかにする目的で,近隣歩行群以下と地域内歩行群の2群に分け,2群を従属変数とし,近隣歩行群以下の群と地域内歩行群の比較で有意な差が認められた運動機能を独立変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。さらに,多重ロジスティック回帰分析で抽出された独立変数について,それぞれReceiver Operating Characteristic曲線(ROC曲線)を作成し,ROC曲線下面積(Area Under the Curve,AUC)とカットオフ値を求め,分割表より感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率を求めた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学及び研究実施施設の関連施設の倫理委員会にて承認を得て実施した。対象者には事前に研究の趣旨の説明,プライバシー及び個人情報の保護について,口頭及び書面にて説明し,署名にて同意を得た。【結果】屋内歩行群は16名,近隣歩行群は19名,地域内歩行群は14名であった。mini-BESTestは,地域内歩行群,近隣歩行群が屋内歩行群と比較して有意に高い値を示した(P<0.05)。また,快適,最大歩行速度は,地域内歩行群が屋内歩行群,近隣歩行群と比較して有意に高い値を示した(P<0.05)。自立した屋外歩行の可否に影響する要因として,多重ロジスティック回帰分析の結果,mini-BESTestが抽出された(P<0.05)。そのカットオフ値は11点であり,AUCは0.819(P<0.05),感度は90.9%,特異度は62.5%,陽性的中率は83.3%,陰性的中率は76.9%であった。また,制限のない地域内歩行の可否に影響する要因として,多重ロジスティック回帰分析の結果,快適歩行速度のみが抽出された(P<0.05)。そのカットオフ値は0.63m/sであり,AUCは0.811(P<0.05),感度は85.7%,特異度は77.1%,陽性的中率は60.0%,陰性的中率は93.1%であった。【考察】自立した屋外歩行の可否に影響する要因としてmini-BESTestが抽出された。そのカットオフ値の陽性的中率,陰性的中率ともに比較的高い値を示し,動的バランスが自立した屋外歩行の可否に影響する重要な要因であると考えられた。また,制限のない地域内歩行の可否に影響する要因として快適歩行速度が抽出された。そのカットオフ値の陽性的中率は低かったが,陰性的中率は高く,カットオフ値を下回るもので制限のない地域内歩行が可能であったものは少ないことから,快適歩行速度は制限のない地域内歩行の可否に影響する重要な要因であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究は,脳卒中者の移動性の範囲が屋内から近隣,地域へと拡がる上で,異なる運動機能が影響することを示した。さらにそのカットオフ値と特徴を明らかにした点で,脳卒中者の地域における移動性の維持,改善を目的とした理学療法に貢献しうるものである。
口述
  • 平田 大地, 黒川 純, 田村 淳, 村上 舞, 玉木 宏史, 関根 正樹, 田村 俊世
    セッションID: 1079
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】動作解析を行う方法として,従来から床反力計や三次元動作解析装置を用いることが多く,これらを用いた研究は多数報告されている。しかし,これらは高額で測定環境も限定されることから臨床場面やスポーツ現場に十分普及されているとは言い難い。そこで近年では,小型で持ち運び可能である加速度計が普及しつつあり,加速度計を用いた動作解析が行われてきているが,その信頼性や妥当性については不明な点が多い。また,加速度計を歩行分析に用いた研究報告は散見されるが,動作時の膝外反を加速度計にて評価した報告は渉猟し得ない。本研究の目的は,片脚立位および片脚膝屈曲時の膝外反をウェアラブルモーションセンサおよび静止画像にて評価し,ウェアラブルモーションセンサの信頼性および妥当性を検討することである。【方法】対象は,健常成人20名40脚(男性:11名,女性:9名,平均年齢:28.3±5.6歳)とした。モーションセンサは3軸加速度センサ(LSM303D,STMicroelectronics),3軸角速度センサ(L3GD20,STMicroelectronics),マイクロプロセッサ,Bluetoothを内蔵しており,各センサから得られたデータはBluetoothを介してサンプリング周波数200HzでPCに記録される。モーションセンサの外形寸法およびバッテリを含む重量は37×63×16mm,40gと小型軽量であり,これをキネシオロジーテープにて大腿部(膝蓋骨より5cm上縁で大腿の中央)と下腿部(脛骨粗面)に装着し,測定側の足部を第2趾から踵中央を矢状面上に設定した後に静止立位5秒,片脚立位5秒,片脚膝屈曲5秒(膝屈曲角度30度)を連続して左右1回計測した。大腿部と下腿部ともに静止立位時のロール角を0degに較正した後,片脚立位,片脚膝屈曲との差分から大腿部と下腿部の角変位を求めた。解析区間はそれぞれ5秒間のうち中間3秒間とし平均値を用いた。また,計測中は被験者正面(足部から2m,地面上40cm)よりビデオ撮影し,各動作を静止画像にて抜粋した。被験者には事前に上前腸骨棘,膝蓋骨中央,母趾中央にランドマークをつけており,画像解析ソフト(Image J)を用いて膝外反の有無を評価した。検者は2人(検者A,B)とし,1週間後に同条件にて計2回計測した。統計学的解析は,級内相関係数(Intraclass Correlation Coefficient:ICC)を用いて,検者内信頼性ICC(1.1),検者間信頼性ICC(2.1)を課題動作である静止立位と片脚膝屈曲の各課題でそれぞれ算出し,モーションセンサと画像解析の関連はカッパ係数(k係数)を用いて評価した。解析ソフトにはSPSSver12.0を用い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施し,対象者には研究の意義,目的,方法などの説明を十分行い,同意を得た後に実施した。【結果】片脚立位時のICC(1.1)は検者Aにて右0.633,左0.755,検者Bにて右0.724,左0.711であり,ICC(2.1)は右0.852左0.765であった。片脚膝屈曲時のICC(1.1)は検者Aにて右0.617,左0.710,検者Bにて右0.78,左0.534であり,ICC(2.1)は右0.505,左0.562であった。k係数は右0.800(p=0.000),左0.600(p=0.006)であった。【考察】ICCの解釈には桑原の判定基準を用い,片脚立位時の検者内および検者間信頼性は可能~良好であったが,片脚膝屈曲時の検者内および検者間信頼性は要再考~普通という結果であった。これは課題動作である片脚膝屈曲の難易度が高く,動作自体の信頼性が低いことが影響したのではないかと考える。また,モーションセンサと画像解析の膝外反有無の一致度はLandisの判定基準からModerate~Substantialであり,モーションセンサにて膝外反を評価することは十分可能であることが示唆された。本研究結果より,モーションセンサは高い妥当性を認めたが,運動課題の信頼性については十分な検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】近年注目されている小型加速度計を用いて膝外反を評価し,その信頼性および妥当性を明らかにした。本研究結果は加速度計を用いて研究する上で重要な情報であり,妥当性について良好な結果を示したモーションセンサの有用性が示唆された一方,評価する動作の再現性については課題が残ることを提示できたことは今後の理学療法研究への意義があると考える。
  • 身体機能,静止立位バランスの影響
    有馬 泰昭, 森 公彦, 脇田 正徳, 金 光浩, 長谷 公隆, 大野 博史, 飯田 寛和
    セッションID: 1080
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】正常歩行における床反力垂直分力は二峰性波形を示し,歩行速度の減少や下肢屈曲位での歩行によって二峰性波形が減衰することから,床反力垂直分力の波形は,身体の支持能力や歩行効率を反映すると考えられる。変形性膝関節症(膝OA)では,関節構造の破綻によって歩行立脚期に生じる床反力の制御が困難となり,著しい歩行障害を呈する。膝OA患者の歩行速度に座位バランスが関連することが報告されていることからも,膝OA患者の歩行分析では,下肢関節機能に加え,体幹機能も含めたバランス機能の影響を検討する必要がある。しかし,膝OA患者における歩行時の床反力波形の変化が,どのような身体機能やバランス機能の影響を受けるかは明らかにはされていない。本研究の目的は,膝OA患者の自由歩行速度における床反力垂直分力の二峰性波形に立位バランスを含めた身体機能がどのように関与しているのかを明らかにすることである。【対象と方法】対象は,人工膝関節置換術施行予定の両側性内側型膝OA患者21名(男性3名,女性18名)とした。片側手術施行予定者では手術予定側を術側,両側手術施行予定者では膝関節伸展筋力の弱い側を術側,反対側を非術側と定義した。平均年齢,身長,体重はそれぞれ72.1±8.9歳,152.0±8.8cm,61.3±9.4kgであった。測定項目は,自由歩行速度での床反力,身体機能(疼痛,関節可動域,下肢筋力),立位バランスとした。床反力は,靴型下肢加重計(アニマ社製,ゲートコーダMP-1000)を用いて約15mの歩行路を歩行させ,自由歩行速度,床反力垂直分力,一歩行周期に占める立脚時間,両脚支持時間の割合(単脚立脚期,両脚立脚期)を算出した。床反力波形における二峰性の同定の可否によって,それぞれ二峰性群,非二峰性群として分類した。疼痛は,歩行時の膝関節痛として,Visual Analogue Scaleを用いた。関節可動域は,ゴニオメーターを使用し,股関節伸展角度,膝関節伸展角度を計測した。筋力は徒手筋力測定器(アニマ社製,ミュータスF-100)を使用し,股関節外転,膝関節伸展,足関節底屈の最大等尺性筋力を2回測定し,最大値を採用した。股関節,膝関節,足関節の筋力のアーム長は,それぞれ大転子から腓骨外果の5cm近位,膝関節中心から腓骨外果の5cm近位,足長とし,筋力測定値との積をさらに体重で除して算出した値を下肢筋力として用いた。立位バランスの評価は,両側足底部へのラバーマット挿入の有無による2条件(ラバーマットあり条件,ラバーマットなし条件)とし,プレート式下肢加重計(アニマ社製,ツイングラビコーダGP-6000)を用いて,30秒間の開眼静止立位(足幅10cm)を測定し,姿勢制御の有効性の指標となる単位軌跡長,実効値面積を算出した。統計解析は,2群間の各パラメータをWilcoxonの符号付き順位検定を用いて検定し,統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には検査の内容を十分に説明し,理解が得られたのち同意を得て実施した。【結果】床反力波形から,二峰性群9名,非二峰性群12名に分類された。非二峰性群のうち片側のみ二峰性が消失していた3名は解析対象から除外した。2群間の比較では,両脚立脚期(二峰性群18.0%,非二峰性群21.3%および二峰性群15.4%,非二峰性群20.6%;p<0.05),単脚立脚期(術側:二峰性群65.9%,非二峰性群68.7%;p<0.05,非術側:二峰性群67.7%,非二峰性群73.2%;p<0.01),ラバーマットあり条件の実効値面積(二峰性群2.0cm2,非二峰性群4.5cm2;p<0.05)で有意差を認めた。歩行速度,身体機能,ラバーマットなし条件の実効値面積,単位軌跡長では,2群間で有意差を認めなかった。【考察】ラバーマットあり条件のような不安定面上で立位姿勢を高度に制御する機能は,歩行場面においても時々刻々と変化する末梢からの感覚情報を統合し,調節する機能としても重要となる。二峰性が消失するような膝OA患者では,立脚期における床からの抗力を管理する必要性から終期両脚立脚期を延長し,倒立振子モデルによる歩行の効率性よりも,身体を安定させる歩行戦略を適用していることが推察された。膝OA患者における床反力垂直分力の二峰性波形の出現には,歩行能力の基盤となるバランス機能の保持が必要であることが示唆された。【理学療法研究としての意義】本研究により,膝OA患者の自由歩行における床反力垂直分力の二峰性波形出現に立位バランス機能が影響することが明確になった。本研究は,膝OA患者の歩行機能の維持,改善において重要な情報を提供するものと考えられる。
  • 歩行速度を考慮して
    和田 治, 飛山 義憲, 川添 大樹, 中北 智士, 浅井 剛
    セッションID: 1081
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】踵接地時の衝撃は変形性膝関節症(膝OA)の発症要因の1つとして考えられている。歩行時の衝撃は歩行速度の増加に比例してすることが分かっているが,この衝撃の増加を膝関節がどの程度吸収しているかは不明である。さらに,この膝関節衝撃吸収能力は膝OA患者において変化している可能性がある。臨床上,膝OA患者は矢状面だけでなく,前額面や水平面上での歩容異常も呈するため,衝撃吸収能力を検討する際には3軸での検討が必要であると考えられるが,現在までの研究では床反力の立ち上がりや膝関節内転モーメントなど一軸性の検討がほとんどである。そこで,本研究の目的は,健常者における膝関節衝撃吸収能力と歩行速度との関連性を調べること,および膝OA患者における衝撃吸収能力を3軸上で検討することとした。【方法】対象は下肢に整形外科的疾患のない健常若年男性11名(年齢25.2±3.1歳,身長172.7±6.7cm,体重64.8±7.2kg)と末期膝OA患者50名(男性9名,女性41名,年齢72.0±7.0歳,身長152.7±9.3cm,体重61.0±8.2kg,測定側gradeIV45名/gradeIII5名)とした。対象者の10m歩行を計測し,その際に患側の腓骨外果3cm近位(下腿)および大腿骨外側上顆(大腿)に3軸加速度センサ(サンプリング周波数500z)をベルクロにて貼付した。10m歩行時の測定条件は,健常若年者は最大遅歩,遅歩,通常歩行,速歩,最大速歩の5条件,膝OA患者では通常歩行のみとした。波形の安定した8歩行周期のデータ用い,大腿/下腿のそれぞれの3軸上のRoot Mean Square(RMS)の合計を算出した。膝関節の衝撃吸収能力(CoA)を得られたRMSの値を用いて算出した;CoA=100×(1-大腿RMS/下腿RMS)。統計学的解析では,健常者CoAと歩行速度との関連性の検討にはPearsonの相関分析および反復測定一元配置分散分析を用いた。膝OA患者のCoAと健常者のCoAの比較には対応のないt検定を用いた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】すべての対象者に本研究の趣旨と内容,データの利用に関する説明を行い,書面にて同意を得た。本研究はヘルシンキ宣言に基づいて計画され,当院倫理委員会にて承認を得た。【結果】健常者のCoAと歩行速度は負の相関関係を示した(p<0.001)。加えて,反復測定一元配置分散分析の結果,遅歩-速歩(p<0.01),通常歩行-速歩(p<0.05),最大遅歩-最大速歩(p<0.01),遅歩-最大速歩(p<0.01),通常歩行-最大速歩(p<0.01)で有意な差が認められた,さらに,膝OA患者のCoAは健常者の同程度の歩行速度でのCoAと比較して有意に低い結果となった(p<0.01)。【考察】本研究結果より,歩行速度の増加に伴い膝関節の衝撃吸収能力は低下することが示された。先行研究では,歩行速度の増加に伴い関節のstiffnessが高まり,さらに関節のstiffnessの増加は衝撃吸収能力の低下につながることが示されており,本研究も同様の結果となったと考えられる。一方で,膝OA患者は健常者と比較し膝関節衝撃吸収能力が低下する結果となった。この原因として,関節軟骨の摩耗に加え,膝OA患者の多くが呈する大腿四頭筋を含めた筋力低下により,歩行時の衝撃を十分に吸収できない事が予想される。しかしながら,本研究では膝OA患者との比較に健常若年者を用いているため,衝撃吸収能力に対する加齢の影響を除外出来ていない。したがって,今後は健常高齢者を対象とした研究が必要になると考えられる。【理学療法学研究としての意義】現在まで,膝OA患者の衝撃吸収能力に関する研究では,床反力の立ち上がりや膝関節内転モーメントなど,1軸性の衝撃を検討したものがほとんどであり,3軸の総和としての衝撃吸収能力を検討した報告は見当たらない。本研究は,膝OA患者における衝撃吸収能力1軸性だけでなく,3軸の総和としても低下していることを示した点で非常に意義深いと考えられる。
  • 非術側に着目して
    山﨑 登志也, 出口 直樹, 樋口 智貴, 平川 善之, 原 道也
    セッションID: 1082
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】変形性膝関節症(以下,膝OA)は両側罹患例が多く,進行すると除痛目的に全人工膝関節置換術(以下,TKA)が施行されることが多く,その術後臨床成績は良好とされている。しかし,TKA施行後に非術側に疼痛の出現及び憎悪などの症状を来す患者を散見することがあり,術後理学療法は非術側を含めた評価と治療の必要性があると思われる。歩行の定量的解析に加速度計が臨床現場で実用性のある評価機器として,膝関節ラテラルスラスト(以下,LT)や重心動揺の評価に使用され,我々も昨年の本学会においてその有用性を報告した。そこで本研究においては,加速度計を用い,TKA術前後での非術側膝のLTを計測し,その変化を比較検証しTKAによる非術側への力学的な影響を検討する事を目的とした。【方法】対象は2012年9月~2013年8月に当院でTKA施行した患者28名(男性5名,女性23名,平均年齢76.5±6.3歳)であった。除外基準は独歩不能・慢性関節リウマチ・非術側にTKAの既往がある者とした。測定はTKA術前(以下,術前)とTKA術後5週(以下,術後)に実施した。歩行評価の測定は裸足での自由歩行とし,被験者に「普通に歩いてください」と口頭指示し,同時に10m歩行時間(以下,歩行時間)を計測した。加速度評価は3軸加速度計(MA3-04Acマイクロストーン社製)を下腿は木藤ら(2004)の方法を参考に腓骨頭直下(以下,膝部),足関節外果直上(以下, 足部)に,重心は山田ら(2006)の方法を参考に第3腰椎にバンドで固定し,加速度波形をサンプリング周波数100Hzにて導出した。足部の垂直成分の波形から踵接地を同定し,膝部の波形で下腿の外側加速度を算出した。歩行開始時の加速,終了時の減速の影響を考慮し,各試行中の6歩・8歩・10歩目から得られた加速度波形を分析した。測定は各歩行条件で2回行い計6歩行周期を解析対象とした。重心の側方加速度は各歩行条件の6歩目から10歩目間の波形にroot mean square(以下,RMS)を行い解析した。各パラメーターの平均値を被験者の代表値とした。FTAは電子カルテ(ソフトウェアサービスニュートン)で臥位のX-Pより計測した。統計解析は術前と術後のFTA・歩行時間・膝部外側加速度(以下,膝加速度)・側方重心加速度のRMS(以下,重心RMS)の比較に対応のあるt検定を用いた。いずれの検定も,統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】当院の倫理委員会より承諾を得て,被検者には研究の目的を説明し同意を得た。【結果】歩行時間は術前12.4±2.9秒,術後13.2±2.7秒で有意な差は認めなかった。FTAは術前180.5±3.4度,術後175.8±1.9度で術後が有意に減少した(p<0.05)。重心RMSは術前1.7±0.6,術後1.5±0.3で術後が有意に減少した(p<0.05)。膝加速度の術側では術前9.6±5.3m/s2,術後7.4±3.6m/s2で術後が有意に減少した(p<0.05)。非術側では術前8.5±5.1m/s2,術後11.1±5.1m/s2で術後が有意に増加した(p<0.05)。【考察】桜井ら(2010)は,規定速度と自由速度を比較し自由歩行が良好な再現性を示したため,今回の指示を自由歩行とした。また,本研究では術前後での歩行時間に有意な差が認められなかったことから,今回比較する体幹および膝の加速度には歩行速度は影響しないと思われた。山田ら(2006)はRMS値が大きいほど動揺性の大きい歩行と述べている。今回,術後の重心RMSは減少していた。これは術後5週で術前より安定した歩容が獲得できたことを示していると考えられる。膝加速度において術前に比べ術後の術側は有意に減少した。これはTKAにより術側はFTAが改善し靭帯バランスが整ったため,膝加速度は軽減したと思われる。しかし非術側は有意に増加した。これは歩容の安定や術側とは反する結果であった。非術側における報告でMartinら(2010)は三次元動作解析装置にてHTO術前と術後で比較し,術側の膝関節内反モーメントは減少し,非術側の膝関節内反モーメントは増大したと報告しており,本研究のTKAを対象とした膝加速度と一致した。これらのことから術後5週で歩容は安定し,術側のLTは軽減しているが非術側のLTは増加し,膝OAの進行に影響を及ぼしていると考えられた。そのことから,TKA術後の理学療法では非術側膝の状態を含めた評価と治療が必要であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】TKA術後の術側・非術側の膝加速度を明らかにした。TKA後,非術側の膝加速度が増大した。このことからTKAにより非術側のLTが増大し,非術側の膝OA進行を助長させる可能性があることが危惧された。そのため非術側の予防も行う必要性があると思われる。
  • 佐野 佑樹, 岩田 晃, 松井 未衣菜, 藤原 明香理, 堀毛 信志, 西 正史, 和中 秀行, 樋口 由美, 淵岡 聡, 渡邉 学
    セッションID: 1083
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】TKA術後患者の歩行能力には,膝関節機能が大きな影響を与えており,その関連性は多数の先行研究で示されている。一方で,疾患に関わらず,体幹機能が歩行能力に影響を及ぼすことが指摘されており,TKA術後の歩行においても体幹機能に着目する必要性が示唆されている。そこで本研究では,通常の理学療法に加え体幹機能の改善に特化したトレーニングを実施し,そのトレーニングが歩行能力の改善に対して有効であるかを検討することを目的とした。【方法】膝OAと診断され,TKAを施行された105名を対象とした。対象者の選択条件は,60歳以上であること,術前の歩行が自立していること,運動制限が必要な合併症がないこと,TKA術後1週の時点で杖歩行または独歩が可能であること,の4条件とした。本研究は,手術が実施された順に,介入群とコントロール群に群分けする,準ランダム化比較試験として実施した。両群とも,通常の理学療法として,術後翌日より全荷重,術後2日目より立位・歩行を開始,その後歩行トレーニング,関節可動域運動,筋力強化,ADLトレーニングを実施した。介入群は,これら通常の理学療法に加え,体幹機能の改善に特化したトレーニングとして,SST(Seated Side Tapping)トレーニングを行った。これは,坐位で両上肢を側方に挙上し,その指先から10cm離した位置にマーカーを設置し,出来るだけ速くマーカーを交互に10回叩き,要した時間を測定するというトレーニングであり,先行研究に基づき実施した。この運動を1セットとして,1日5セットを通常の理学療法後に行った。トレーニングの所要時間は,準備も含め3分程度で,これを術後2日目より退院日まで実施した。本研究の測定項目は,歩行能力として歩行速度,TUGを測定した。その他に,体幹機能,術側膝関節の屈曲角度,伸展角度,屈曲筋力,伸展筋力,疼痛を測定した。歩行速度は,通常速度で歩くように対象者に説明し,8m歩行路の中央5mの歩行に要した時間から算出した。TUGは,Podsiadloらの原文に基づき測定した。体幹機能はSSTをテスト(SST-test)として用い,測定した。全ての項目についてストップウォッチを用いて2施行測定し,最速値を解析に用いた。屈曲角度,伸展角度は,臥位にてゴニオメーターを使用し測定した。屈曲筋力,伸展筋力は,端座位にて膝関節屈曲90°とし,ハンドヘルドダイナモメーターを用いて等尺性筋力を測定した。全ての項目について2施行測定し,最大値を解析に用いた。疼痛は,5m歩行時の疼痛を,Visual Analog Scaleを用いて測定した。測定は術前と術後3週に行った。統計処理は,2群の各測定項目を,対応のないt検定を用いて検討した。全ての統計解析には,SPSS Ver.21.0を用い,危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】本学研究倫理委員会並びに,当センター臨床医学倫理委員会の承認を得た。また,全ての対象者に研究内容の説明を行い,書面による任意の同意を得た。【結果】対象者105名のうち,選択条件を満たした75名(介入群37名,コントロール群38名)を解析対象とした。介入群(男性7名,女性30名)の平均年齢は75.0±6.4歳,コントロール群(男性8名,女性30名)の平均年齢は75.8±5.8歳であった。年齢を含めた属性について,2群間に有意な差は見られなかった。術前の介入群とコントロール群の測定項目の結果を以下に示す。歩行速度は秒速1.02±0.21m,1.02±0.21m,TUGは10.9±2.6秒,10.8±2.7秒,SST-testは6.1±0.9秒,6.1±0.9秒であった。次に術後3週の介入群,コントロール群の測定項目の結果を以下に示す。歩行速度は秒速1.03±0.19m,0.92±0.21m,TUGは10.4±1.9秒,12.2±3.2秒,SST-testは4.9±0.6秒,5.9±1.0秒であった。全ての項目で,術前の2群間に差はなかったが,術後3週では歩行速度(p<0.05),TUG(p<0.01),SST-test(p<0.01)で,有意な差を認めた。屈曲角度,伸展角度,屈曲筋力,伸展筋力,疼痛は,術前,術後3週とも全ての項目で有意差は認められなかった。【考察】本研究では,術前の2群間には,属性や全ての測定項目に差がなかったが,術後3週間SSTトレーニングを実施した群において,実施しない群に比べ歩行速度,TUG,SST-testのすべてで有意に速い値を示し,膝関節角度や筋力,疼痛は有意差を認めなかった。この結果から,術後3週における2群間の歩行能力の差は,今回の介入によって生じた体幹機能の差によるものと考えられる。以上のことから,TKA術後歩行能力の改善に対し,通常の理学療法に加え体幹機能の改善に特化したトレーニングの実施が有効であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】TKA術後患者の体幹機能の改善が,歩行能力の改善に繋がる点。
  • ヒールパッドと半ヒールパッドによる検討
    岩永 竜也, 上島 正光, 亀山 顕太郎
    セッションID: 1084
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】一般的に後足部パッドとしてヒールパッド,外側ヒールウェッジ,内側ヒールウェッジが使用されている。これらは踵骨部分へ貼付するため,立脚初期に作用させるものとして使用されている。前述以外にも入谷はヒールパッドと作用の異なる半ヒールパッドを紹介している。半ヒールパッドはヒールパッドと同じ方向に楔状の形状をしており,足長に対してヒールパッドの半分以下の長さである。入谷はヒールパッドと半ヒールパッドは歩行立脚初期の踵接地から足底接地までの足関節底屈の動き(以下フットスラップ)の時間的因子に関与していると述べている。しかし,これらのパッドの形状の違いが歩行に与える影響は明らかでない。本研究の目的はヒールパッドと半ヒールパッドが歩行立脚初期に与える影響を検証することである。【方法】対象は,既往に整形外科的疾患を有さない健常成人12名とした。内訳は男性6名,女性6名,年齢20.1±1.9歳,身長166.2±6.7cm,体重61.4±9.1kg,BMI 21.9±2.2であった。方法は全例において右下肢の1)裸足歩行時のフットスラップに要する時間,2)フットスラップ時の前脛骨筋と腓腹筋内側頭の筋電図を測定した。フットスラップの時間計測にはフットスイッチを使用した。フットスイッチの貼付部位を足底部踵部後方と第5中足骨頭部とした。裸足歩行,ヒールパッド貼付歩行(以下ヒールパッド群),半ヒールパッド貼付歩行(以下半ヒールパッド群)の3条件にて検討した。歩行を3回測定し,各歩行において中間の3歩行周期のデータの計9歩行周期の平均値を解析データとして用いた。ヒールパッドと半ヒールパッドの高さは3mmとした。両パッドの貼付開始位置は踵骨隆起最後部より垂線を下ろした位置から開始し,ヒールパッドは外果前縁から垂線を下ろした位置までの長さとし,半ヒールパッドの足底部踵骨最大膨隆部までとした。各条件にて歩行速度が一定になるようにメトロノームを使用し,各条件にて至適速度での歩行を行わせた。表面筋電計にはMyosystem1400(Noraxon社製)を使用した。得られたデータをパソコンに取り込み,前脛骨筋と腓腹筋内側頭の最大収縮時に対する%MVCを求めた。統計的手法はSPSS Ver17.0を使用し,3条件の1)フットスラップに要する時間,2)フットスラップ時の前脛骨筋と腓腹筋内側頭の%MVCを一元配置分散分析にて3条件を比較した。また,有意水準を5%とした。【説明と同意】対象者には研究の趣旨と内容,方法を十分に説明し,得られたデータは研究の目的以外には使用しないこと,および個人情報の漏洩に注意することについて説明し,同意を得た上で研究を開始した。【結果】立脚初期のフットスラップに要する時間は,裸足歩行0.069±0.004秒,ヒールパッド群0.085±0.002秒,半ヒールパッド群0.054±0.004秒であり,3群間に有意な差がみられた。前脛骨筋の%MVCでは裸足37.6±9.4%,ヒールパッド群39.6±10.1%,半ヒールパッド群40.0±9.2%となり3群間に有意はみられなかった。腓腹筋内側頭の%MVCでは裸足13.9±5.3%,ヒールパッド群12.3±7.8%,半ヒールパッド群11.6±6.9%となり3群間に有意な差はみられなかった。裸足に比し,ヒールパッドではフットスラップが遅延し,半ヒールパッドでは早期に出現する結果となった。【考察】裸足歩行に比し,ヒールパッド群ではフットスラップが遅くなり,半ヒールパッド群ではフットスラップが早期に出現することが明らかになった。ヒールパッドは裸足歩行に比し,立脚初期のフットスラップを遅延させ,足関節底屈角速度を小さくし,半ヒールパッドはフットスラップが早期に出現し,足関節底屈角速度を大きくすることがわかった。この変化は共に約0.15秒と小さいが,裸足歩行のフットスラップに要する時間の約0.07秒からの変化の割合としては約22%の変化は身体に十分な変化を与えると思われる。この短い時間でも変化の割合が大きくなることにより,実際の臨床では半ヒールパッドを処方することでフットスラップ時のブレーキ作用である前脛骨筋の負担が小さくなると考えられる。筋電図では3条件にての%MVCには変化がみられなかったが,フットスラップに要する時間に変化がみられたことより,筋収縮している時間には変化を与えられると考えられる。この立脚初期のフットスラップの変化は,立脚期を通しての歩行,特に矢状面の動きに影響を与えると思われる。今後は三次元動作解析装置や床反力計を用いて,両パッドが歩行に及ぼす影響を明らかにしたい。【理学療法学研究としての意義】臨床ではフットスラップ時の動きの変化を観察にて捉えていたが,今回の結果より臨床での観察の必要性を確認でき,理学療法士として自信をヒールパッドと半ヒールパッドを使用できる。
  • 藤田 仁, 小関 泰一, 濱田 夏世, 財前 知典, 小関 博久
    セッションID: 1085
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】臨床上,足関節捻挫や骨折等により後足部malaligmentが生じ,中でも後足部の外反不安定性が顕著にみられることが多い。後足部外反不安定性は,足関節による姿勢制御機能低下や歩行における足部の推進機能低下を招き,矢状面方向の働きを阻害する要因ともなり得る。先行研究では,後足部外反と足圧中心(以下,COP)の左右動揺について多く報告されているものの,COPの前後移動との関係性を報告している研究は散見される程度である。よって,本研究では後足部外反角度変化がCOPの矢状面位置変化に与える影響を明確にし,足部の評価や治療の一助とすることを目的とした。【方法】対象は,整形外科疾患の無い健常成人8名(男性5名,女性3名,平均年齢23.4±3.0歳)とした。測定は,片脚立位時の前後方向のCOP位置測定に足底圧分布測定装置win-pod(MEDI CAPTEURS社製)を用いた。なお,前後方向のCOP位置は第5中足骨基部後端の位置を基準として表した。後足部外反角度は,静止立位と片脚立位時の後足部及び下腿を,後正中方向30cmの位置からデジタルビデオカメラにて撮影し,画像解析ソフトImageJ(NIH社製)にて,下腿軸と踵骨軸のなす角度を算出し,静止立位と片脚立位時の後足部外反角度を求めた。下腿軸は下腿遠位1/3と踵骨上端の2点の交線とし,踵骨軸は踵骨上端と踵骨下端の2点の交線とした。静止立位は,先行研究を参考に固視点を設置し,対象者に注視を求め,体幹正中位,両上肢下垂位,歩幅は棘果長の50%とした。片脚立位は,下肢を支持基底面から持ち上げ,股関節60°屈曲位,下腿と足部は下垂位を保持する肢位とした。また,すべての被験者の利き足が右側であったことから右片脚立位とした。片脚立位保持時間は2秒間とし,限りなく足関節制御によるデータを抽出するために,他部位の関与が可及的に少なくなるよう指示および学習させ,他部位での代償が観察されたものは除外した。測定は3回実施し,平均値を代表値とした。統計学的検討は,得られた前後方向のCOP位置と静止立位から片脚立位時の後足部外反角度変化をpeasonの積率相関係数を用いて分析した。なお,統計処理には統計ソフトSPSS Statistics18を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】被験者にはヘルシンキ宣言に基づいて研究の主旨を十分に説明し,同意を得た上で計測を実施した。【結果】後足部外反角度変化と前後方向のCOP位置変化は高い正の相関を示した(r=0.91)。【考察】本研究では,後足部外反角度の増大に伴いCOP位置が前方に移動することが示された。後足部外反は距踵関節の回内,外転,背屈の複合運動であり,距舟関節と踵立方関節の関節軸は,横足根関節で平行に位置することとなる。横足根関節は足部の柔軟性と固定性に関与し,横足根関節軸が平行に位置することにより可動性が増加し,柔軟な足部を形成することが確認されている。距舟関節での可動性増大は舟状骨下制を招き,内側縦アーチは低下することになる。柔軟な足部の形成や内側縦アーチの低下による支持性の低下が,片脚立位時におけるCOP位置を前方に位置させた一因であると考える。また,後足部外反は距骨下関節回内を伴い,一般的に距骨下関節回内は歩行立脚中期以降の身体重心前方への移動を早期に生じさせることが知られている。本研究においても歩行と同様にCOP位置が前方に移動する傾向を示した。このことから,片脚立位は歩行立脚中期を反映すると考える。歩行立脚中期以降の足部は,体重を支持し推進テコとして機能する。後足部外反角度の増大は,足部の柔軟性を増加させ推進テコとしての支持機能低下を招き,COP位置を前方に位置させた一因であると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,後足部とCOPには関連性があることが示唆された。下肢関節疾患における疼痛は,関節に対するメカニカルストレスと関係があると考えられている。各質量中心の相対的位置関係の変位やCOP制御機能の低下がメカニカルストレスを増大する一因となることが多い。よって,COPを客観的に把握することは理学療法を展開するにあたり臨床的意義があると推察する。COP制御には足関節制御が必須であり,特に後足部は中足部や前足部に影響を与えるとともに,近位部では下腿と直接連結しており,重要部位として位置づけられている。下肢関節疾患に対する理学療法を展開する上で,後足部を含めた足部の評価,治療は重要であると考えられる。今後は,今回の知見をより臨床に活かすため,動作時におけるCOPや後足部運動,下肢関節疾患との関連性に着目し,検討していくことが必要であると考える。
  • 正常アーチ足と低アーチ足の機械的特性計測による比較
    清水 新悟, 後藤 慎, 伴 留亜, 春田 みどり, 山田 春菜, 横地 正裕, 花村 浩克, 猪田 邦雄, 混 恵介
    セッションID: 1086
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】足部アーチは,歩行時や走行時などに足底から受ける力を吸収する衝撃吸収機能が存在すると言われている。衝撃を吸収する機能は疲労骨折や足底筋膜炎などの足部障害を防ぐ障害予防に大きく関わっている。しかし先行研究では,アーチの高さによる違いが衝撃吸収機能に与える影響までは明らかにされていない。そこで今回,我々は扁平足に見られる典型的な低アーチ衝撃吸収機能と正常アーチ衝撃吸収機能を定量的に比較し,その特性について検討したので報告する。【方法】被験者は,H25.8.13~8.23にアーチ機能を計測した健常者男性9例18足(平均年齢27.7歳,平均身長172.0cm,平均体重65.0kg),女性7例14足(平均年齢23.9歳,平均身長159.7cm,平均体重48.7kg)とした。なお被験者の除外基準としては,歩行時の疼痛や過去における下肢障害を伴う疾患の既往がある者とした。またボールを蹴る足は全例が右であった。正常アーチ足と低アーチ足を分類する方法として我々は内側縦アーチ高率を使用した。内側縦アーチ高率は静止立位で床面から舟状骨までの高さを実足長で除して100を乗ずる値を用いた。内側縦アーチ高率は我々の先行研究から,低い内側縦アーチ(扁平足)がアーチ高率にて男性が平均15.7±0.7%,女性が13.5±1.1%であるとしている。したがって低いアーチは平均値から男性で15.7%以下,女性で13.5%以下とした。また今回は正常アーチとして平均値に標準偏差を足して男性が16.5%以上,女性が14.7%以上とした。この方法を用いて16例32足の内,低い内側縦アーチ群と正常内側縦アーチ群に分類して,衝撃吸収特性を比較した。実験方法は,椅子に腰掛けて股関節,膝関節,足関節が90度屈曲位にて足下には床反力計(MG-200,アニマ社製)を1台置き,下腿の長軸上に10kgの重りを乗せたときの足部アーチの機械インピーダンスの変化を計測した。衝撃吸収特性は高速カメラと床反力計を用いてアーチのバネ定数と荷重伝達をみる。バネ定数(バネ定数k(N/mm)は,力f(N)を内側縦アーチの変化した距離δ(mm)で除した値)を計測した。荷重伝達は10kgの重りを乗せたときのアーチ最大変化時の床反力計の値(垂直成分)から初期値(重りを乗せる前の垂直成分の値)を引いた値を計測した。マーカーは直径5mmのシールを使用し,舟状骨突起の下の位置と垂直に降ろした床の位置の2点とした。今回は足部内側をハイスピードデジタルカメラ(EX-ZR100,Casio Co.)を用いて,毎秒240コマで撮影し,画像解析では二次元動作解析(東総システム社製,Total Motion Coordinator Lite)を使用した。重りの乗せ方に関しては何度も練習を繰り返し,筋の反射を考慮して2秒の時間を掛けてゆっくり載せた。【倫理的配慮,説明と同意】被験者には本研究の目的と方法を十分に口頭ならびに署名にて説明を行い,同意を得た。また本研究はあさひ病院の倫理委員会にて承認を受けている(承認番号A-13)。【結果】正常アーチ足5例10足(男性3例,女性2例),低アーチ足5例10足(男性3例,女性2例)となり,バネ定数は定常値で低アーチ足が正常アーチ足と比べ有意に高値を示した(p<0.05)。また荷重伝達では正常アーチ足が変化したときの床反力計が約+10kgに対し低アーチ足では約+7kgとなり,低アーチ足が有意に低値を示した(p<0.05)。【考察】今回の実験から正常アーチ足に比べ,低アーチ足はバネが固く,荷重伝達が悪いことが明らかになった。低アーチ足のバネが固いことは,荷重時のアーチ変化が少なくなり,歩行時や走行時の衝撃を和らげるショックアブソーバーの機能低下に結びつくと考えられる。荷重伝達が悪いことは,足部アーチでの衝撃吸収が低下していると考えられる。したがってアーチだけでなく他の関節(距骨下関節,距腿関節)などによって衝撃吸収が行われ,足部に負担をかけている可能性があると推察した。今後はこの実験結果からバネ定数と荷重伝達を正常アーチの値に近づけるインソールの開発を行っていきたい。【理学療法学研究としての意義】今回の結果より,低アーチ足を呈する扁平足は,アーチの衝撃を吸収する機能が正常足より低下しているため,足部などの様々な箇所に負担をかけ,疼痛が出現する可能性があることが判明した。また衝撃吸収機能を改善するようなインソール開発の必要性を指し示した点においても本研究は意義があると考えられる。
  • 足趾機能の比較
    城下 貴司
    セッションID: 1087
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】我々は足趾エクササイズについて,第42と43回理学療法学術大会では臨床研究を,第46回では表面筋電図による実験研究を,第47と48回では横断および縦断研究で形態学的研究を行ってきた。いずれもタオルギャザリングエクササイズ(以下TGE)と足内側縦アーチとの関連性は低いと報告したが,その根拠を示す必要性があった。我々は足趾底屈エクササイズの表面筋電図解析は既に報告した,本研究は足趾底屈エクササイズと併せたTGEの表面筋電図解析を比較することに着目し,TGEの運動学的根拠を示すことを目的とした。【方法】機材は小型データロガシステムpicoFA-DL-2000(4アシスト)とFA-DL-140ディスポ電極を使用しサンプリング周波数は1kHz,5~500Hzの周波数を抽出,時定数0.03secとした。対象は特に足趾や足関節運動をしても問題のなく,過去6ヶ月間,足関節周囲の傷害により医療機関にかかっていない健常者14名14足,年齢24.6±6.3歳とした。実験項目は全趾での底屈エクササイズ,母趾での底屈エクササイズ,2から5趾での底屈エクササイズ,そしてTGEとした。足趾底屈エクササイズは被験者に端坐位姿勢,大腿遠位端に3kgの重錘をのせ趾頭で踵を挙上させるように底屈エクサイサイズ(等尺性収縮約5秒間)をおこなった。膝および股関節の代償運動抑制を目的に,被験者の体幹前傾,膝の鉛直線上に頭部を位置させた。TGEは被験者に端坐位姿勢,足趾完全伸展から完全屈曲を1周期とし,母趾頭にフットスイッチを貼付し1周期を算出した。電極は腓骨小頭直下の長腓骨筋,内果やや後上方の内がえし筋群,腓腹筋内側頭筋腹,腓腹筋外側頭筋腹の4カ所に貼付した。足趾底屈エクササイズの解析は定常状態と思われる等尺性収縮5秒間の内,2秒間の筋電積分値(IEMG)を採用した。全趾による底屈エクササイズのIEMGをベースラインとして他の条件を正規化(%IEMG)した。TGEの解析は3から5周期を計測し,定常状態と思われる任意の1周期を採用した。エクサイサイズ別の各筋出力の比較はKruskal Wallis検定後,Mann-Whitney検定を採用した。統計ソフトはSPSS21.0を使用した。【説明と同意】すべての被験者に対して,実験説明書予め配布し研究の主旨と内容について十分説明をした後,同意書に署名がされた。また本研究は群馬パース大学および早稲田大学の倫理委員会の承認のもと行った。【結果】母趾底屈エクササイズでは,長腓骨筋が126.3±9.8%,内がえし筋群が112.4±13.1%,腓腹筋外側頭が79.2±8.1%,内側頭は90.2±5.9%であり,有意に長腓骨筋が腓腹筋内外側頭よりも高値を示した(p=0.003,0.000)。2から5趾底屈エクササイズでは,長腓骨筋が64.4±5.2,内がえし筋群が161.9±25.2%,外側頭は76.1±7.8%,内側頭97.8±5.0%を示し,内がえし筋群が長腓骨筋や腓腹筋外側頭よりも有意に高値を,長腓骨筋が腓腹筋内側頭よりも有意に低値を示した(p=0.000,0.003,0.000)。TGEでは,長腓骨筋が44.5±6.1%,内がえし筋群が145.1±21.4%,腓腹筋外側頭が18.8.±2.9%,内側頭は26.3±4.8%であった。内がえし筋群が他の筋群よりも有意に高値を示した(p=0.000,0.000,0.000)。【考察】本研究は筆者が考案した足趾底屈エクササイズとTGEを表面筋電図解析で比較したものである。足趾底屈エクササイズの筋放電パターンに関しては,本研究は先行研究と類似した。足趾底屈エクササイズとTGEを併せて比較すると,本研究のTGEおよび2から5趾底屈エクササイズは内がえし筋群が優位となり,母趾底屈エクササイズは長腓骨筋が優位な筋放電パターンを示した,すなわちTGEと2から5趾底屈エクササイズの筋放電パターンが類似した。形態学的変化に着目した先行研究では,TGEおよび母趾底屈エクササイズは足内側縦アーチとの関連性は低く,2から5趾底屈エクササイズと足内側縦アーチとの関連性は高かった,すなわちTGEと母趾底屈エクササイズの形態学的な研究結果は類似した。以上から,形態学的研究と表面筋電図解析による結果が一致しなかった。表面筋電図解析だけでは形態学的研究の根拠を示すことが困難であった。本研究の内がえし筋群の電極は後脛骨筋,長趾屈筋,長母趾屈筋のクロストークによるものである,単独筋ごとに明確な変化を示せない表面筋電図の限界があった,そのことは形態学的研究と結果が一致しなかった原因の一つと考えられた。今後は上述の矛盾した結果についてさらに研究していく課題が残された。【理学療法学研究としての意義】本研究から,足趾の評価治療は全趾を評価するのでなく足趾ごと評価治療することの必要性の意義を改めて示した。足関節の研究において表面筋電図のみで臨床的な現象を解釈することの困難さも示せた。
  • ―片脚立位時の重心動揺計と筋電図を用いた検討―
    吉田 隆紀, 谷埜 予士次, 鈴木 俊明
    セッションID: 1088
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】足関節捻挫後の機能的不安定性を有する場合は,腓骨筋群の筋力低下や筋収縮の遅延が存在するという報告がある。我々は過去の研究において,足関節捻挫後の機能的不安定性に対しての経皮的末梢経電気刺激療法(transcutaneous electrical nerve stimulation以下,TENS)が片脚立位時やジャンプ動作での片脚着地時の重心動揺を減少させ,捻挫後の早期リハビリテーションとして効果的であると報告した。またスポーツ復帰前の動きに重点をおいた理学療法では,このTENSと運動療法を組み合わせることで更なる効果が期待できる。そこで本研究の目的は,足関節捻挫後の機能的不安定性に対して運動中にTENSを加えることにより理学療法の効果が増強するかを検討することである。【方法】当大学の運動系クラブに所属する男子学生7名(平均年齢21.3±0.9歳,平均身長172.1±4.4cm,平均体重65.0±4.4kg)である。対象は捻挫の既往がある足部(以下捻挫側)がKarlssonらの足関節機能的安定性スコア80点以下,なおかつ捻挫側は非捻挫側より15点以上差があるものを選定した。被験者に対して不安定板上(インターリハ)でバランスエクササイズを実施する条件(以下,EX条件)と不安定板上でバランスエクササイズを実施する際にTENSを加える条件(以下,TENS付加条件)の実験順序をランダムに設定する。エクササイズは,課題40分間で不安定板上での左右下肢のレッグランジ,サイドランジ,脚踏み動作,スクワット,片脚立位保持動作を含んだ10分間のEXを3回実施し,5分の休憩を2回挟んだ。TENS付加条件は,EX条件に40分間のTENSによる電気刺激を継続する課題とした。測定は,重心動揺計(ユニメック)を用いて,エクササイズ施行前・後において,30秒間の開眼片脚立位時の足圧中心(center of pressure以下COP)の移動距離(以下,COP総軌跡長)を3回計測し,平均値を算出した。また同時に開眼片脚立位時の下腿の筋活動を,腓骨筋,前脛骨筋,後脛骨筋,腓腹筋に電極を貼布し,筋電図(キッセイコムテック)で測定を実施した。TENSは総腓骨神経に感覚閾値レベルの強さ(4.7±1.2mA)を40分間実施した。また統計学検討方法として,EX条件とTENS付加EX条件の捻挫側と非捻挫側をU検定,さらに課題前後をWilcoxon検定で比較した。危険率は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,研究目的及び方法を対象者に書面にて説明し,本研究の同意書にサインを貰い同意を得ている。本研究は,本学倫理委員会で承認されている。【結果】課題前の捻挫側と非捻挫側の比較において,EX条件におけるCOP総軌跡長は捻挫側1183.5±239.9mm,非挫側1056.9±215.9mm,TENS付加条件の捻挫側1154±259.7mm,非捻挫側1058.2mmであり,両条件共に捻挫側のCOP総軌跡長が有意に増加した。また両課題前後の比較においてEX条件におけるCOP総軌跡長は,捻挫側1183.5±239.9mmから1120.1±214.9mmと有意な変化はなかったが,TENS付加条件は,COP総軌跡長が捻挫側1154.1±259.7mmから1013.3±242.1mmと有意に減少した。また筋電図の結果では,TENS付加条件の課題前後の比較において,捻挫側の捻挫側腓骨筋群の積分値は,2160.5±155.8mVら1553.5±732.4mVと有意に減少した。【考察】捻挫側による片脚立位時の重心動揺は,TENS付加条件の課題前後で有意に減少していた。また筋電図の結果では,TENS付加条件は,捻挫側の腓骨筋郡の筋積分値が課題前後で有意に減少していた。Wuらの報告では,正中神経への電気刺激を連続で実施し,15分間隔で脳血流量の評価を実施して30分間以上で血流が増大し,大脳皮質感覚野から皮質間連絡により運動野への興奮が伝導することを確認している。よって今回の研究によるTENSは,総腓骨神経に関連する大脳皮質感覚野から皮質間連絡により運動野への興奮が伝わり,長・短腓骨筋などの下腿筋群の反応性を高めたため,片脚立位時の重心動揺の減少及び腓骨筋の筋積分値の減少に繋がったのではないかと推察する。【理学療法学研究としての意義】本研究は,足関節捻挫後の運動療法にTENSを加える事により,理学療法の効果が増大する可能性を示唆し,足関節捻挫のリハビリテーション発展に寄与すると考える。
  • ―歩行機能に着目して―
    長谷川 三希子, 後藤 圭介, 川田 友子, 猪飼 哲夫
    セッションID: 1089
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】NICU(Neonatal Intensive Care Unit;以下NICU)管理を要したハイリスク児の予後は芳しくない。近年では高次脳機能の問題も注目されるが,両親にとっては,歩行が出来るか否かは最も明確でかつ最初の課題の1つである。発達予後予測において,頭部MRI所見は有用とされるが,神経学的予後に一致しないという報告もある。本研究は,NICUからリハビリテーション(以下リハ)依頼があったハイリスク児における予後予測に生かす目的で,退院時MRI所見と歩行機能に着目した発達予後の関係を検討した。【方法】2010年4月~2012年3月にリハ依頼があった120名のうち,死亡例4名,転居や通院中断・終了による発達予後が確認できなかった23名,染色体異常等の基礎疾患を認めた9名を除いた84名を対象とした。超低出生体重児39名,極低出生体重児30名,低出生体重児9名,2500g以上6名であった。発達予後は脳性麻痺(Cerebral Palsy;以下CP)の有無と歩行獲得月齢とし,1m程度の歩行が可能になった修正月齢を理学療法場面にて聴取もしくは診療記録より抽出した。退院時MRI所見は,放射線科医師の読影で,正常,正常範囲,異常の3群に分類し,発達予後との関係について検討した。正常範囲群は,脳室の拡大や白質量に若干の所見を認めるものの,正常範囲と読影されたものとした。また頭部MRIの再検査を行った13名については結果を同様に3群に分類し,退院時の結果と比較した。【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき,個人情報の扱いに留意した。【結果】6名がCPと診断され,3名が歩行困難であった。退院時MRI所見は,未施行を加え計4群に分類した。正常群は46名,正常範囲群は10名,異常群は26名,未施行群は2名であった。再検査の施行は,正常群2名,正常範囲群1名,異常群9名の計12名で,発達の遅れに対し12~18ヶ月で施行された。正常群の2名は異常,正常範囲群の1名は正常範囲,異常群は異常が8名,正常範囲群が1名であり,3名が退院時所見と異なった。退院時MRI所見と発達予後の関係は,CPは異常群で5名,発生率が0.17,正常範囲群は0名,正常群は1名,発生率は0.02であった。異常群のCP5名で,退院時MRIにて孔脳症,脳質周囲白質軟化症(Periventricular Leukomalacia;以下PVL)を認めた3名は早期にCPと診断され,GMFCSレベル(以下レベル)I,IV,Vそれぞれ1名ずつであった。レベルIの児は18ヶ月で歩行を獲得した。退院時MRIが「右脳室拡大,陳旧姓出血変化」と「脳室内出血II°」の所見であった2名は,再検査で「右PVL」「脳室拡大,白質発達不良,PVL」を認めた。1人は片麻痺,レベルI,23ヵ月で歩行を獲得した。もう1人は両麻痺,レベルIVであった。正常群のCP1名は,再検査にて「側脳室軽度拡大,白質発達不良,PVL 」と診断,両麻痺,レベルII,26か月で歩行を獲得した。歩行獲得月齢の平均は,正常群14ヶ月,正常範囲群17ヶ月,異常群16.3ヶ月,未施行群15ヶ月であった。また,18ヶ月において歩行が未獲得であったのは,CPを除外し,正常群1名,正常範囲群2名,異常群1名,未施行群1名の計5名であった。その内2名(正常範囲群,未施行群1名ずつ)は支持性低下に対し下肢装具を作成した。2歳過ぎに歩行を獲得した2名(異常群,正常範囲群1名ずつ)は超低出生体重児であった。【考察】退院時MRI所見と予後については,正常群で,CP発生率が低く,平均歩行獲得月齢が早く,異常所見による装具使用や2歳過ぎの歩行獲得を認めないことから,他の群に比べ予後良好であることが確認できた。しかし,退院時MRIで正常と判定された場合でも,再検査によりCPと診断された予後不良例もあった。反面,退院時MRI所見が異常であってもCPと診断されない場合が高率なことも確認された。正常群以外には,2歳過ぎの歩行獲得や支持性低下に対する装具の必要性を認め,これは発達障害の初期症状として報告されている「筋トーヌスの弱さ」や「活動性の低さ」,「始歩の遅れ」等と一致する可能性も示唆された。自閉症や発達性協調運動障害もMRI所見の異常を認めるという報告もあることから,異常群,正常範囲群ではこれらの障害発生についても考慮した介入が重要であると考えられた。頭部MRI所見は鋭敏な検査で,頭部MRI所見がCP発生予測に有用であるとされる反面,MRIは脳実質病変が明らかであれば有用であるが,脳室拡大のみや髄鞘化の遅れのみでは予測は難しいという報告もある。今後の予後予測の精度を高める為には,異常所見についての分析を深めると共に,理学療法評価や周産期を含めた危険因子についての検討も必要と考える。【理学療法学研究としての意義】MRI所見と発達予後について明らかにすることは,ハイリスク児の予後予測と早期介入に有益であると考える。
  • 海部 忍, 北中 雄二, 横野 志帆, 土橋 孝之, 椛 秀人
    セッションID: 1090
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】発達障害とは「学習障害(LD)」,「注意欠陥多動性障害(ADHD)」,「広汎性発達障害(PDD)」「軽度の知的障害」,「発達性協調運動障害」を称したものである。近年,発達障害はまれな障害ではなく,我々理学療法分野においても発達性協調運動障害に対する介入が求められている。そこで今回は,発達障害児の描写する自画像と運動発達の関係性を検討したので報告する。【方法】対象は当院小児外来リハビリテーションに通院している発達障害児11名(平均月齢66±17.5ヶ月)である。対象児にはA4用紙に鉛筆を用い,自己の全身像を描写するよう教示した。描写された自画像はグットイナフ描写テスト(以下DAM)を用いて採点し,精神年齢を算出した。また,児の運動機能評価には乳幼児発達スケールを使用し運動領域における発達年齢を算出した。統計学的解析には児の生活年齢,DAMから算出される精神年齢,乳幼児発達スケールから算出される運動発達年齢を対応のある一元配置分散分析にて分析した。また,児の生活年齢および精神年齢,運動発達年齢の関係性を検討するためPearsonの相関係数にて分析した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に準拠し,対象児の保護者には口頭および紙面にて同意を得た上で実施した。【結果】描写された自画像の一例として頭部は描写されているが頸部や体幹が描写されず,頭部から直接四肢が描写されているものや,頭部・頸部・体幹は描写されているが四肢の描写が曖昧なものなど,生活年齢に対して描写内容が不十分なものが多かった。統計学的分析結果としては対象児の生活年齢に対して精神年齢および運動発達年齢に有意な低下が認められた(p<0.05)が,精神年齢と運動発達年齢との間に有意差は認められなかった。また,生活年齢と精神年齢の間(p<0.01 r=0.73),精神年齢と運動発達年齢の間(p<0.01 r=0.89)には有意な相関関係が認められた。【考察】今回,発達障害を有する児は自己身体に対する認識の低下が自画像に現れており,生活年齢に対し精神年齢および運動発達年齢の低下が認められた。行為および運動を学習する上で自己身体の認識は大切であり,発達障害児において自画像を描写する事は自己身体をどの程度認識できているのか評価するのに有用であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は発達障害児に対する理学療法が運動機能面の評価と運動課題の提示だけではなく,児が自己身体を認知できているのかを知る必要性が確認できたと共に,リハビリテーションアプローチ立案の一助となると思われる。
  • 古谷 育子, 寺尾 貴史
    セッションID: 1091
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】重度脳性麻痺者(以CP)の二次障害として脊椎側彎症の発症はよく知られているが,その発症の時期や長期に渡っての自然経過についての報告は少ない。そこで第47回日本理学療法学術大会において粗大運動能力分類システム(以下GMFCS)レベル5のCPの過去約40年間に渡っての側彎の経年的変化について報告した。しかし,GMFCSレベル5以外の経年変化や脊柱側彎変形を助長する因子についてまでは未検討であった。そこで本研究ではGMFCSレベル別での脊柱側彎の経過を示し,それを助長する因子として,胃瘻増設及び,気管切開術の術前,術後での側彎進行について検討し,それを踏まえて今後の課題を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は当院に入院する,脳性麻痺者49名(男性25名,女性24名)。GMFCSレベルはレベル2および3(5人),レベル4(14人),レベル5(30人)とした。初期側彎評価時には側彎の発症が認められず,定期的に側彎評価が可能であったものとした。平均年齢は43.5±8.1歳(初期評価時平均年齢5.0±2.3歳),調査期間は平均37.7±7.2年間であった。脊柱側彎変形は,毎年通常の診察時に撮影したレントゲン画像を用い,臥位での全脊椎正面像から,Cobb法によりCobb角の算出が可能なものを選択した。Cobb角算出が不可な年については,前後の年から差を算出し推定Cobb角を算出した。そして,年齢を0~6歳(以下1期),7~12歳(以下2期),13~18歳(以下3期),19~24歳(以下4期),25~30歳(以下5期,)の6年ごとに5つの区分に分けた。また,GMFCSレベル5のみを1群,レベル4を2群,レベル2と3を3群とし,それぞれの各区分間での群内比較および群間比較をし,側彎の各区分における変化量について二元配置分析により検討した。また,胃瘻増設術および,気管切開術の術前,術後の5年間の側彎の増加量をSpearmanの順位相関係数により検討した。【説明と同意】今回の研究は,後方視的に解析したものであり,通常の医療で行われたレントゲン画像の評価を用いている。データの使用に関しては院内での所定の規定による許可を得て行った。【結果】群内比較では2,3群では有意差がみられなかったが,1群での1期と2期,1期と3期,2期と4期,2期と5期,3期と4期,3期と5期において有意な差が認められた(p<0.05)。群間比較では,1群と3群,1群と2群において有意な差が認められた(p<0.05)。胃瘻増設術および,気管切開術の術前,術後では有意な差は認められなかった。【考察】群間比較において有意差が認められたことから側彎の増大は運動機能による影響が大きいことが示唆された。2,3群の群内比較では有意差が認められなかったことから,GMFCSレベル5の運動機能が低いと側彎の進行は急激に進行し,運動機能が高くなると進行は緩やかに増加していくことが考えられる。胃瘻増設術および,気管切開術の術前術後では有意差がなく,側彎の増大の影響因子とはなりにくいと考える。【理学療法学研究としての意義】側彎の経年的変化を追い今後さらに他の障害と脊柱の側彎変形の進行との関係についても後方視的に検討していくことで,側彎に伴う二次障害や,側彎の障害像や予後予測を描くことができる。これにより今後の理学療法の評価の視点や治療プログラム,アプローチを立案するうえで重要な指標とすることができる。このことは,重度脳性麻痺者の側彎進行に対して,適切かつより効果的な理学療法の提供に繋がると思われる。
  • 無作為化比較試験による検討
    鳥瀬 義知, 島 恵, 大橋 知行, 荒井 洋
    セッションID: 1092
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】2013年,Novakらは脳性まひ(CP)に対する治療法の有効性に関するsystematic reviewの中で,世界的に広く行われている神経発達学的治療(NDT)は無効であり,「行うべきでない」とのrecommendationを出した。その根拠として,1980年代の画一的手法を用いたNDTの有効性がevidence levelが高い無作為化比較試験(RCT)によって否定されたこと,神経生理学を基盤として包括的治療を取り入れた近年のNDTの内容や有効性を客観的な指標で示した論文がないことが挙げられている。一方,このようなreviewで療法士の技能による差が取り上げられることは全くない。2012年の本学会で我々は,入院による包括的な治療が脳室周囲白質軟化症(PVL)による痙直型両まひ児の粗大運動機能を有意に向上させることを示した。今回は症例数を増やし,療法士のNDTに関する熟練度と治療効果との関係について,粗大運動能力尺度(GMFM)を指標とし,RCTによって検討した。【目的】脳性麻痺治療において療法士のNDTに関する経験および熟達度が機能変化に及ぼす影響を調査し,NDTの技術的側面が持つ意味を検討する。【方法】粗大運動能力分類システム(GMFCS)level III~IVの4歳~7歳のPVLによる痙直型両まひ児で,研究開始6ヶ月前から研究期間中に整形外科的手術,ボツリヌス毒素療法を行わなかった16例(男5例,女11例)を対象とし,CPに対する治療経験が20年以上の理学療法士(PT)・作業療法士(OT)が治療する群(NDT群)と治療経験が5年以下のPT・OTが治療する群(対照群)とに8例ずつ無作為に振り分けた。治療計画は両群とも担当者に加えて治療経験10年以上の療法士を含む多職種(小児神経科医,小児整形外科医,看護師,臨床心理士)のカンファレンスによって立案し,定期的に修正した。16週間の入院期間中,平日はPT,OTを各1時間,土日はどちらかを1時間施行した。GMFMは入院8週前(開始時),入院時,入院8週後,退院時,退院8週後(終了時)の計5回評価した。評価は本研究に対してblindであるPTが一定期間の研修を受けた後に行った。各期間ならびに開始時から終了時,入院時から退院時におけるGMFM-88,GMFM-66を2群間でt検定によって解析した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院の倫理委員会の承認をうけ,文書にて保護者に説明し,了承を得た上で実施した。【結果】NDT群と対照群の間で,男女比,年齢,GMFCS level,開始時のGMFM-88,GMFM-66およびPEDIの点数に有意差はなかった。対象全体では,入院時~入院後8週間におけるGMFM-88総得点およびGMFM-66(カッコ内)の変化が8.14±11.08(2.13±1.54)であり,開始時~入院時の1.14±13.54(0.05±1.40),退院時時~終了時の4.87±11.41(0.44±1.51)と比較していずれも有意に高かった(P<0.05)。GMFM-88総得点の変化は,開始時~終了時NDT群20.43±9.57,対照群15.00±11.42,入院時~退院時NDT群12.13±7.57,対照群6.00±5.98であり,いずれも両群間に有意差を認めなかった(P=0.42,P=0.13)。GMFM-66についても,開始時~終了時NDT群2.07±2.71,対照群3.23±1.65,入院時~退院時NDT群2.05±2.49,対照群2.62±1.63であり,いずれも両群間に有意差を認めなかった(P=0.40,P=0.63)。また,他のいずれの期間においてもGMFM-88,GMFM-66の点数変化に両群間で有意差を認めなかった。【考察】PVLによる痙直型両まひ児に対する短期集中治療において,療法士のNDTに関する経験や技術の差は機能変化に有意な影響を及ぼさなかった。全体的な機能向上はむしろ,治療頻度,包括的な評価に基づく治療方針の選択および多職種による同時介入によってもたらさられたものと考えられる。一方で,運動の質的な変化の差はGMFMによって捉えることが困難で,今後,長期の運動機能予後を比較する中で技術の差が運動の質に与える影響についても検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】脳性まひに限らず,リハビリテーション効果の検討は治療方法に対してのみ研究されており,個々の理学療法士のアイデンティティに関わる経験や技術の影響は全く考慮されていない。今回の結果は経験の差をチーム医療がある程度カバーできることを示唆するものであったが,さらにRCTを用いたエビデンスレベルの高い研究を行うことで,理学療法士にとって重要な技能とは何かをより明確にできると考える。
  • ―特別支援学校教員への面接調査から―
    大矢 祥平, 宮原 なおみ, 井上 裕次, 酒井 潤一, 武田 知仁, 金子 幸恵, 川間 健之介
    セッションID: 1093
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】重度・重複化していく児童生徒の障害像の変化に伴い,障害児への教育課題の設定やその支援の在り方が問題となっている。それに合わせて,学習指導においてもその児に応じた対応や指導が必要になってきており,その指導にあたっては理学療法士(以下,PT)などの医療の立場の専門家からのアドバイス・助言が必要とされている。その中でPTと特別支援学校の教員,双方の支援に対する考え・現状を把握し,共通点や相違点を明らかにすることは重要である。そこで本研究では,特別支援学校の教員のPTとの支援・連携に対する考えを質的に明らかにすることを目的とした。【方法】依頼書にて同意を得られた,A県内の特別支援学校にて自立活動を担当し,PTと関わったことのある教員(PT免許を持っている教員は除く)12名対して,半構造化面接を実施した。質問項目は,1)「PTに支援してほしいこと。また,それをどういった場面・場所で行いたいか。」,2)「PTと話していて困ったエピソードは何か。」,3)「学校のことや教育に関してPTに知っていてほしいことは何か。」,4)「PTの支援を受ける際に教員が知っておくべきことは何か。」,5)「医療機関のPTと連携する際,どのような方法がよいと考えるか。」とした。得られた内容は質的研究手法であるSteps for Cording and Theorization(SCAT)法(大島,2008)で分析した。質問ごとにストーリーラインを作成し,キーワードを抽出した。調査期間は平成25年7月から9月に行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は千葉リハビリテーションセンター倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には紙面にて研究目的および倫理的配慮を説明し同意を得て行った。【結果】特別支援学校自立活動教員12名(特別支援学校教員歴22.7±8.3年,自立活動担当歴11.1±8.4年目)に行った。1)教員がPTに支援してほしいこと(場面・場所)「体の動かし方の指導」,「PT手技の伝達」,が学校あるいは医療施設にて,「補装具の使用方法・配慮点」が学校にて行なってほしいなど,13個のキーワードが抽出された。2)教員がPTと話していて困ったエピソード「学校生活の不理解」,「車椅子について」,「医療側からの一方的な依頼」など12個のキーワードが抽出された。3)PTが学校のことで知っておくべきこと「学校生活の様子」,「自立活動の理解」など8個のキーワードが抽出された。4)教員がPTと話す際に知っておくべきこと「学校の様子の把握」,「医療的知識」など8個のキーワードが抽出された。5)医療機関にいるPTとのよい連携方法抽出されたキーワードのうち,情報交換の妥協案として「電話」,「文書」が挙げられた。また,医療施設で行うとよいキーワードとして「リハ見学」,「手技の伝達」があった。また,学校や医療施設で行うとよいキーワードとして「ケース会」や「研修会」があった。とてもよいと考えられる連携方法のキーワードとして「直接会う」があり,その中でも「頻回に」「話し合う」が最もよい方法として挙げられた。【考察】本研究において,教員はPTには,生活の場面である「学校にて」支援してほしいという答えが多かった。困ったエピソードとしては,「車椅子」や「学校生活の不理解」に関する事柄が挙げられた。また,教員がPTに知っていてほしいこと,あるいは教員がPTと話す際に知っておくべきことは「学校生活の把握」に関する意見が挙げられた。さらに,教員は医療機関にいるPTとは,「頻回に」「話し合う」ことが最もよい連携方法であることが挙げられた。佐藤ら(2007)は教員へ質問紙調査を行ない,理想の方法として,「常勤でPTがいる」など教員は常時相談できる状態を求めていることを報告している。今回の面接調査においても,教員側は,PTが常勤でいることが難しい場合でも頻回に話し合える関係性を築くことが重要であると考えていることが示唆された。また面接調査方法により教員側の困ったエピソードを聞くことで,教員は「車椅子」などの補装具や「学校生活の不理解」に苦慮していることが明らかとなり,今後PTはこの点に留意して教員と関わっていくことが必要であることが示唆された。一方でこの困っていることや,教員側が考えている双方にとって必要だと思われる事柄がPT側と共有されているかは明らかではない。このことから,今後はPT側のニーズの捉え方も調査し,双方の共通点や相違点を比較していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】今後,教育分野との連携が重要になっていく。その中で面接調査から質的に分析することは,教員がPTにどのようなことを支援してほしいか,またどのような連携方法を望んでいるかを把握することの一助とすることができると考える。
ポスター
  • 竹内 弥彦, 下村 義弘, 雄賀多 聡, 三和 真人
    セッションID: 1094
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】ヒトの立位姿勢において足底部は唯一,地面と接する身体部位である。ゆえに,ヒトの立位姿勢制御には足底部の機能が重要とされている。なかでも,足底内在筋の活動は足趾を屈曲し床面把握作用を有することから,立位姿勢制御に重要な役割を担っている。加えて,立位姿勢におけるバランス能力を捉えるには,足底部で構成される支持基底面と身体重心を制御する足圧中心(Center of Pressure;COP)との位置関係が重要となる。支持基底面から重心投影線が外れることで転倒がおこると考えると,支持基底面内でCOPを最大限移動した位置における足底内在筋の活動やCOPの動揺特性を捉えていくことが重要と考える。本研究の目的は,COPを最大限移動した位置での立位姿勢を不安定肢位と定義し,不安定肢位における高齢者の足底内在筋活動とCOP動揺特性との関連性を明らかにすることである。【方法】対象は地域在住高齢者11名(平均年齢69.8±4.4歳,足長21.5±1.1cm,足幅8.9±0.5cm)とした。測定対象筋は足底内在筋として足趾屈曲作用を有する,短母趾屈筋,母趾外転筋,短趾屈筋,小趾外転筋の4筋とした。これら4筋の筋活動を計測するために,インソール型の筋電計を作製した。インソール型筋電計は足底部への接触面積が広くなるようにシリコン素材の薄いシートをベース部とした。さらに,内側縦アーチ部(短母趾屈筋)と電極との接触性を高めるために市販のインソール上に設置した。表面電極には直径1mm,長さ8mmの銀・塩化銀電極を5mm間隔に9本並べたアレイ電極を用い,各筋の解剖学的な走行に合わせシリコンシート上に4列配置した。各筋につき9個の電極を配置し任意の2つの電極間で誘導をおこなうことで,性別による足底部の広さや足アーチ形状の個人差への対応を可能とした。なお,計測対象は右側の足底内在筋とした。COPの計測には重心動揺計(Anima社製G-6100)を用いた。被験者は重心動揺計上に設置したインソール型筋電計上で,立位姿勢を保持した。静止立位姿勢を10秒間保持後,前後左右方向に身体重心を移動し,各方向の最大移動位置で5秒間立位姿勢を保持後,静止立位姿勢に戻る動作を課した。各方向におけるCOPの最大移動位置は各被験者のフットプリントから足長と足幅を計測し,その割合で正規化した。データのサンプリング周波数は筋電計1000Hz,重心動揺計200Hzとし,AD変換時に重心動揺計からの同期信号を取り込んだ。PCにデータを取り込み後,ソフトウエア(MS社製エクセル)上にて,筋電計のデータをリサンプリングしCOPデータと同期した。COP最大移動位置5秒間の中間3秒間について,各筋活動量およびCOPの前後・左右方向における位置変化と速度の実効値(Root Mean Square:RMS)を算出した。なお,筋活動量は静止立位時10秒間のRMS値を100%とする相対値(%RMS)で表した。統計処理はCOPの位置変化と速度を目的変数,足底内在筋の活動量を説明変数として,単回帰分析をおこなった。なお,有意水準は1%とした。【倫理的配慮,説明と同意】全ての被験者には,実験の趣旨を口頭および書面を用いて説明し,署名にて同意を得た。なお,本研究は本学倫理審査委員会の承認を得て実施した。【結果】前方向の不安定肢位では前後方向のCOP速度を目的変数とした回帰分析において,母趾外転筋活動で有意な回帰式が得られた(y=0.1x+0.9,R2=0.64)。また,左右方向のCOP速度を目的変数とした回帰分析において,短趾屈筋活動で有意な回帰式が得られた(y=0.4x+0.8,R2=0.56)。左方向の不安定肢位では左右方向のCOP位置変化を目的変数とした回帰分析において,母趾外転筋活動で有意な回帰式が得られた(y=0.7x+0.8,R2=0.66)。後方向および右方向の不安定肢位ではCOP動揺特性と各筋活動量の間に有意な回帰式は得られなかった。【考察】回帰分析の結果から,前方向の不安定肢位では母趾外転筋活動による母趾の中足指節関節屈曲(床面把握)作用により前後方向にCOPを速く移動し,短趾屈筋活動による第2から第5趾の近位指節関節の屈曲作用により左右方向にCOPを速く移動することで,不安定肢位における身体重心を制御していたことが考えられる。これらの結果から,前方向の不安定肢位におけるCOP制御に関与する足趾の作用として,母趾と第2~5趾の違いが示された。加えて,左方向の不安定肢位における結果から,非荷重側の右母趾外転筋活動による母趾中足指節関節の屈曲作用が,左右方向へのCOP位置変化の制御に関与していたことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究で得た,不安定肢位における足底内在筋活動の知見は,高齢者を対象とした足趾屈曲機能の評価やトレーニングの内容について,より科学的根拠に基づいたものとするための基礎データとして活用可能と考える。
  • 吉田 美里, 笠原 敏史, 斎藤 展士, 柚原 千穂
    セッションID: 1095
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】スクワット動作は下肢筋の筋力増強やバランス能力の向上の手段としてリハビリテーション,スポーツ領域,健康領域で広く用いられ,様々な年代に適用される。実際に,スクワット動作を実施する際,体幹の傾き(Wall Squat Hold法),膝の最大屈曲角度,沈み込みの深さ(Quarter,Parallel,Full),施行回数などが対象に合わせて設定される。しかしながら,これらの研究報告の多くは若年者やスポーツ障害患者を対象にしており,得られた知見が異なる年代に必ずしも適用できるとは限らない。今回,我々は,高齢者のスクワット動作時の関節運動を調べ,加齢の影響を明らかにしたので報告する。【方法】対象は健康高齢者18名(平均年齢70.7±3.7歳;平均身長:164.4±4.9 cm;平均体重:62.6±9.2 kg),1年以内に転倒歴のない者とした。スクワット動作の開始肢位は安静直立位とし,歩隔は両上前腸骨棘間距離の150%,足角は第2足趾と踵を結んだ線が平行となるようにして被験者を床反力計上に立たせた。上肢は胸部の前でクロスした状態とした。コンピュータスクリーンを被験者の眼前の高さで1m前方に設置し,足圧中心の前後及び左右の2次元座標系をフィードバック情報として与えた。被験者が自身の足圧中心を外果前方5cm,両内果の中央の位置に配置させ,安定したのち,閉眼させ,聴覚刺激によりスクワット動作を開始させた。被験者への指示は,「出来るだけ素早く,腰を落として下さい。踵やつま先を浮かせてはいけません。また,胸の前に組んだ腕が太ももに当たらないようにして下さい。」とした。被験者はスクワット動作を5回実施した。スクワット動作時の重心運動を算出するために,3次元動作解析(Motion Analysis社製)を用いた。サンプリングレートは100Hzとした。Winterらの方法に従い反射マーカーを設置し,重心位置を算出した。データ処理は,10Hzのローパスフィルター処理後,運動開始の聴覚刺激の合図を基準として各データを再配列し,5試行の加算平均を各被験者のデータとして求めた。スクワット動作の評価は,聴覚刺激から各関節(体幹,股関節,膝関節,足関節)の運動開始までの反応時間(msec),各関節の最大角度(°),各関節の最大角速度(deg/sec)とした。さらに,加齢の推移を調べるために対象を60代と70代に分け,統計処理には対応のないt検定を行い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学に設置されている倫理委員会の承認を得ており,同意を得た者が実験に参加した(11-03)。【結果】膝関節の最大屈曲角度は,全体で89.4±19.2°,70代で80.0±14.8°,60代で101.9±18.2°であり,70代が有意に小さかった(p<0.05)。膝関節の最大角速度は全体で134.3±35.1 deg/sec,70代は115.7±32.6 deg/sec,60代は157.5±22.6 deg/secであり,70代が有意に低下していた(p<0.05)。股関節,足関節は最大屈曲角度と最大角速度ともに有意差はなかった。【考察】本研究の結果,60代と70代では膝関節の最大屈曲角度,最大角速度において有意差を認めた。股関節最大屈曲角度,足関節最大背屈角度,股・足関節最大角速度については有意差を認めなかった。一般的に,加齢による骨格筋量の減少はsarcopeniaと呼ばれている。特に,大腿四頭筋やハムストリングスといった膝関節周囲筋におけるsarcopeniaが顕著であること,加齢に伴う筋収縮速度の低下のため動的な筋活動のパフォーマンスが低下することが報告されており,今回の結果はこれらの加齢による筋機能低下が影響していたものと考える。スクワット動作の適切な深さは大腿と地面が水平となる高さであると報告されているが,加齢により膝関節周囲筋の筋力低下がみられる高齢者の場合,必ずしも適切な姿勢とはいえない。今後は筋力測定などを含めて加齢の影響を考慮したスクワット動作の指導を提案する必要がある。【理学療法学研究としての意義】今回の研究は幅広く用いられているスクワット動作への加齢の影響を下肢関節の運動特性から明らかにした。本研究結果は理学療法の高齢者に対する健康増進および介護予防の運動プログラムに役立ち,国民の健康増進に寄与する。
  • 大森 圭貢, 笠原 酉介, 森尾 裕志, 立石 真純, 小野 順也, 岩崎 さやか, 近藤 千雅, 松嶋 真哉, 鈴木 智裕, 笹 益雄, ...
    セッションID: 1096
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】歩幅は加齢に従って減少するとともに,日常生活動作能力低下との関連や,転倒の予見因子となることが報告されている。このため歩行速度と同様に臨床で評価すべき歩行能力指標と考えられる。歩幅と並ぶ歩行能力の指標である歩行速度は下肢筋力と密接な関連があり,高齢患者における両者の関係は線形に比べて非線形のモデルにより適合することが報告されている。一方,高齢者の歩幅と下肢筋力の関係が線形,あるいは非線形に適合するかの検討はほとんどされていない。歩幅と下肢筋力の関係が非線形であった場合,わずかな筋力の変化が歩幅に大きく影響する筋力水準や,反対に筋力の変化が歩幅にあまり影響しない筋力水準が存在すると推察される。これらの筋力水準は,歩行能力の低下のみならず,日常生活動作能力低下や転倒予防を考える上で参考になる可能性が高い。本研究の目的は,歩幅と下肢筋力の関係が線形に適合するのか非線形に適合するのかを検討し,歩幅が著しく減少する筋力水準について高齢男性患者を対象に明らかにすることである。【方法】研究デザインは横断研究である。対象者は,65歳以上の男性患者176名である。対象者の取り込み基準は,脳血管障害・運動器疾患・認知症がない,呼吸器や循環器の問題によって10mの歩行に制限がない,測定によって得られたデータの取り扱いの可能性について十分な理解と同意を口頭で得た者とした。これら取り込み基準を満たした対象者の下肢筋力および10m最大歩行速度測定時のデータを診療録から後方視的に調査した。下肢筋力は,等尺性膝伸展筋力を指標とした。等尺性膝伸展筋力はアニマ社製徒手筋力測定器μTasMT-1あるいはμTasF-1を用い,腰掛け座位で下腿を下垂した膝屈曲90度位で測定した値を採用した。測定はできるだけ強く3秒間膝を伸展するように教示し,左右のそれぞれ2回の測定のうち大きい値を採用し,左右の平均の体重比(kgf/kg)を求めた。歩幅は10m最大歩行速度測定時に計測した歩数(歩)をもとに算出した。まず10mを計測した歩数(歩)で除した値を算出(cm)した。次に身長の歩幅への影響を除外するために,得られた値を身長(cm)で除した値を算出し,歩幅(cm)とした。なお10m最大歩行速度の測定は2回行い,所要時間の短い測定での歩数を採用した。分析は歩幅と等尺性膝伸展筋力の関係を線形と非線形モデル(対数モデル)に適合させた際のR2値を求め,適合度を比較した。歩幅と等尺性膝伸展筋力の関係が非線形モデルにより適合した場合には,等尺性膝伸展筋力を筋力値の低い水準から区分けし,区分けした筋力未満をy=ax+b,以上をy=cx+dの式に当てはめ,両式の残差平方和の和が最小値となる筋力水準を算出した。【倫理的配慮,説明と同意】10m最大歩行速度および等尺性膝伸展筋力の測定に際しては,測定によって得られたデータの使用の可能性について口頭で説明した。また説明に対して十分な理解と同意を口頭で得た者のデータを採用した。【結果】対象者の平均年齢は76.3歳,平均身長161.7cm,平均Body Mass Indexは20.6kg/m2であった。対象者の診断は呼吸器疾患124名,心大血管疾患46名,その他6名であった。歩幅と等尺性膝伸展筋力の関係は,筋力が高くなるに従い歩幅は大きく,一方,筋力が低くなるに従い歩幅は小さかった。両者の線形および対数モデルのR2値は,順に0.28,0.32であり,線形モデルに比べて対数モデルで高値であった。様々な筋力値で区分し,その筋力値未満をy=ax+b,以上をy=cx+dの式に当てはめた場合の両式の残差平方和の和は,等尺性膝伸展筋力0.40kgf/kg未満と以上で区分けした際が0.13であり,他の筋力値で区分した時に比べて最も小さかった。なお,0.40kgf/kg未満の式はy=0.97x+0.04(R2=0.85),0.40kgf/kg以上の式はy=0.22x+0.31(R2=0.36)であった。【考察】高齢男性患者の歩幅と等尺性膝伸展筋力の関係は,線形モデルに比べて対数モデルにより適合したことから,歩幅と下肢筋力の関係は非線形関係に近いと考えられた。等尺性膝伸展筋力が0.40kgf/kg未満と以上によって区分した場合,2つの式の残差平方の和が最小値となった。また回帰係数は筋力値0.40kgf/kg以上の式が0.22であったのに対し,未満の式のそれは0.97であった。これらのことから,等尺性膝伸展筋力がおおよそ0.40kgf/kgを下回った場合には筋力の低下によって歩幅の減少は著しくなると考えられた。【理学療法学研究としての意義】歩幅と下肢筋力の関係が非線形関係に適合し,また歩幅は一定の下肢筋力水準を下回ると著しく制限される危険性を示した研究である。移動手段として歩行を捉え,その障害の予防,改善を考える際の目安となる筋力水準を示した点で有用である。
  • ~スクワット動作時の下肢筋活動の解析~
    笠原 敏史, 齊藤 展士, 高橋 光彦
    セッションID: 1097
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】日常生活動作を行うためにバランス能力は不可欠であり,理学療法の重要なテーマである。ヒトの姿勢制御の研究は前後あるいは左右への随意的な重心移動や外乱刺激への応答について調べているものが多く,起立や歩行動作にみられる上下方向の姿勢制御に関する研究は少ない。一方,スクワット動作は代表的な上下方向の運動であり,理学療法のみならず高齢者の健康増進プログラム(大江ら)の一つとして取り入れられている。しかしながら,スクワット動作,つまり,垂直方向への姿勢制御への加齢の影響はほとんど明らかにされていない。また,スクワット動作時の筋活動量の大きさの研究から大腿四頭筋群はスクワット動作において重要であることが報告されているが,下肢筋群の協調性についても明らかにされていない。本研究では,垂直方向への姿勢制御の加齢の影響を明らかにするため,高齢者のスクワット動作時の重心運動と下肢筋活動について調べた。【方法】健康高齢者18名(平均年齢70.7±3.7歳)を対象とした。過去1年以内に転倒歴の無い者であった。スクワット動作は安静直立位から開始し,「音の合図後,出来るだけ早く,しゃがみ込んで下さい。踵やつま先を浮かせてはいけません。また,胸の前で組んだ腕が太ももに当たらないようにして下さい。」と指示し,音刺激後に開始させた。解析は安静立位から重心最大下方位までとし,5回実施した。試行間に十分な休息を与えた。重心位置を測定するためWinterら(1995)の方法に従い,反射マーカーを設置し,3次元動作解析装置を用いて記録した(100Hz)。筋電計を用いて,大腿直筋,大腿二頭筋外側頭,前脛骨筋,腓腹筋の筋活動を記録した(1kHz)。重心座標信号は10 Hz,筋活動信号は整流化後,3 Hzのローパスフィルタによる平滑化信号処理を行った。運動開始の音刺激の合図を基準として各データを再配列し,5試行の加算平均を各被験者のデータとした。運動評価は音刺激に対する下方への重心反応時間,重心最大下方位(%:身長で正規化),下方への最大重心速度を算出めた。スクワット動作時の下肢筋活動の解析は開始時刻及び抑制時刻を計測した。さらに,本研究では加齢の影響の推移を調べるために対象を60代と70代に分け,統計解析を用いて比較検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学に設置されている倫理委員会の承認を得ており,同意を得たものが実験に参加した(11-3)。【結 果】重心反応時間は全体で331.1±122.6[標準偏差]msec,70代で374.4±115.5 msec,60代で396.5±110.5 msecで年代間に差はなかった。下方への重心移動は全体で17.3±5.8%,70代で14.6±4.8%,60代で20.7±5.4%,70代は有意に浅いスクワット動作であった(p<0.05)。下方への最大重心速度は全体で-43.6±1.7 cm/sec,70代(-35.3±15.2 cm/sec)は60代(-54.0±13.8 cm/sec)に比べ有意に遅い速度であった。音刺激後,背側の大腿二頭筋(200.1±153.0 msec),腓腹筋(232.9±193.8 msec)の抑制と腹側の前脛骨筋(194.4±133.3 msec)の活動がほぼ同時に観察された。その後,全ての筋群で活動が観察され,大腿二頭筋(350.0±133.3 msec),大腿四頭筋(360.2±230.1 msec),腓腹筋(519.5±379.9 msec)の順であった。さらに,70代の腓腹筋の抑制開始時刻(343.8±199.3 msec)が60代(94.3±32.3msec)に比べて有意に遅延していた。【考察】一般的に,高齢者の姿勢制御の特徴は反応時間の遅れである。反応の遅れ及び反応速度の低下は中枢神経での処理過程の影響が大きいとされている。吉永らは,単純なジャンプ課題では高齢者と若年者の反応時間に差を認めず,計算問題を負荷したジャンプ課題で差を認めたと報告している。今回の反応時間の結果は課題の難易度に依存していたと考えらえられる。70代高齢者は60代高齢者に比べて遅く浅いスクワット動作であったことは,転倒防止のための防御姿勢(重心を低くした姿勢)を取ることを困難にさせ,より転倒のリスクが高くなる可能性を示唆する。本研究はスクワット動作時の筋活動を経時的に調べ,音刺激後に前脛骨筋の活動開始と拮抗筋の腓腹筋の抑制がほぼ同時にみられることが明らかになった。さらに,70代での腓腹筋の活動抑制の遅れは前脛骨筋の働きを低下させ,円滑な下方への重心移動や足関節による姿勢戦略の制限となっている可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は垂直方向への姿勢制御の加齢の影響を調べるために,理学療法で幅広く用いられているスクワット動作を用いて高齢者を対象に実験を行った。本研究結果は高齢者に対する健康増進への理学療法および介護予防プログラムに知見を与え,国民の健康増進の一助と成る。
  • 渡辺 進, 石田 弘, 小原 謙一, 吉村 洋輔, 大坂 裕, 末廣 忠延
    セッションID: 1098
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】歩行や階段昇降などの移動動作時に,高齢者が手すりや壁面に指先を軽く触れる場面がよく観察される。これは指先からの体性感覚入力が,立位や歩行中のバランス能力を高めるためとされる(Jekaら,1997)。また,対象物への能動的手指接触時には,運動野からの運動指令が体性感覚野に遠心性コピーとして送られ,運動制御に関わっているとされる(岩村,2001)。これまで水平固定面(以下,固定面)への指先接触が立位重心動揺に与える影響について数多くの報告がなされてきた。しかしながら,転倒の危険性が高まる昇段動作直後という時期に固定面への能動的指先接触が立位重心動揺と下肢筋活動にどのような影響を及ぼすかについての研究は見あたらない。本研究の目的は,それらを運動学的および筋電図学的に解析することである。【方法】対象は健康な男性12名(平均年齢20.8±0.7歳)であった。実験条件の昇段の高さは,16cmの高さの段上に,厚さ4cmの重心動揺計(共和電業社製)を置き,合計20cmとした。被検者に右脚から昇段を指示し,昇段後は2m前方のマーカーを注視させた。両足の間隔は自由とした。昇段直後の3秒間の重心動揺を測定した。重心動揺の指標は,総軌跡長,矩形面積であった。測定条件は,右示指を固定面に触れさせないで触れる模倣をさせる(非接触),右示指の指先を固定面へ1N以下の圧で接触させる(軽接触),右示指の指先を水平面へ5~10Nの圧で接触させる(強接触)の3条件とし,測定順序は無作為とした。なお,5~10Nの接触圧では,力学的支持によりに姿勢を安定化できるが,1N以下では力学的支持は得られないとされる(Holdenら,1994)。固定面への接触圧は荷重計(共和電業社製)を用いて測定し,被検者へ圧のフィードバックを行い,接触圧を各条件の範囲内に規定した。重心動揺測定と同時に,筋電計(NORAXON社製)を用いて右側の大腿直筋,大腿二頭筋,前脛骨筋,腓腹筋,ヒラメ筋の筋活動を測定した。あらかじめそれぞれの筋で最大随意収縮(MVC)をさせ,平均活動電位を正規化の基準とした(%MVC)。なお,腓腹筋とヒラメ筋については,右片脚立位で踵挙上時の筋活動を最大随意収縮とした。各指標について一元配置分散分析を用いて3条件間で比較した。事後検定にはBonferroni検定を用いた(p<0.05)。統計解析ソフトは,SPSS. 16.0を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】被験者全員に対し本研究について口頭と文書で十分な説明を行い,同意書に署名と捺印を得た後に実験を行った。【結果】総軌跡長について,非接触は101.1±11.1cm,軽接触は95.6±13.0cm,強接触は89.7±21.1cmであり,3群間で有意差はなかった。矩形面積について,非接触は148.5±113.4cm²,軽接触は69.3±48.0cm²,強接触は55.1±33.1cm²であり,軽接触と強接触は非接触と比較して有意に小さかったが,両接触条件間には有意差はみられなかった。下肢筋活動(%MVC)については,すべての筋において3条件間で有意差はみられなかった。【考察】3条件間で総軌跡長に有意差がなく,2つの指先接触条件で非接触条件よりも矩形面積が有意に小さかった。このことは,固定面への指先接触が重心動揺を小さい面積の中で,微調整したものと考えられた。そのために,下肢筋活動にも有意差がみられなかったものと思われた。また,両接触条件間で有意差がみられなかったことから,接触圧の違いにかかわず,固定面に指先を能動的に接触すること自体が重心動揺の微調整に寄与していると考えられた。つまり,指先の強い接触圧で固定面を押して支持基底面を増やすことにより姿勢を安定させなくても,指先を軽く触れるだけでも重心動揺を減少させることが分かった。Jekaらは,指先の軽い接触圧変化が重心動揺より約300msec先行することを明らかにし,指先からの体性感覚刺激が大脳で統合・処理され下肢筋の活動により重心動揺を制御していると述べている。また,岩村は,能動的手指接触時には運動野から体性感覚野へ遠心性コピーがいち早く送られ,運動制御に関与していると報告している。これらにより,固定面への指先の軽接触は,昇段動作直後にも体性感覚入力を増やして,重心動揺を減らす効果につながったと考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,水平固定面への能動的指先接触による体性感覚入力が動作直後の立位バランスを向上させることを示唆し,転倒予防の観点から,バランス能力の低下した対象者指導の一つの方略に基礎的裏付けを与えた点で意義がある。
  • 丹羽 義明, 山崎 和博
    セッションID: 1099
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】座位FRTは上肢の前方リーチによる支持基底面内での体重心制御能を評価するもので,その有用性は先行研究において報告されているが,身長や上肢長などの体格から受ける影響については言及されていない。今回,先行研究の測定条件として用いられている足底接地(接地),足底非接地(非接地)の2つの測定条件下での体格の影響と測定条件間の筋出力特性を筋電図により検討したので報告する。【方法】<対象>整形外科的疾患を有さない右利きの健常成人男性10名で,平均年齢は23.1±3.6歳であった。<体格指標測定>身長,上肢長,大腿長および座高長(肩峰から座面までの長さ)を測定した。<座位前方リーチ距離測定>台面の高低が調節可能な斜面台上で体幹正中位,股,膝関節90°屈曲位で端坐位となり,測定肢として選択した右上肢を肩関節90°屈曲位,肘関節伸展,前腕および手関節中間位で手指を伸展させ,高さ調整が可能なサイドテーブルを第3指遠位端の高さと一致させた。テーブル上にはメジャーを置き,開始の合図によりできる限り上肢を前方に伸ばすように指示し,前方リーチ距離(リーチ距離)を測定した。測定は接地,非接地の2条件で行い,開始から終了までは5秒以内とした。測定はそれぞれ3回行い,3回の平均値を算出した。また,各測定条件でのリーチ距離の再現性を検討するため1週間後に同様なリーチ方法にて測定した。<筋電図測定>筋活動電位の取り込みは表面電極を用いた筋電計(Noraxon社製マイオシステム1200)を使用し,サンプリング周波数は1000Hzとした。測定筋は左右の脊柱起立筋,右内側広筋および右腓腹筋内側頭で,被験者間の筋活動量の比較を行うため,5秒間それぞれの測定筋に対して等尺性最大随意収縮を行わせ,最大となる1秒間あたりの筋活動電位を最大随意収縮(MVC)として算出した。また,リーチ距離測定の開始から終了までの測定筋筋活動から測定区間内で最大となる1秒間あたりの筋活動電位を抽出し,MVCを基に正規化して%MVCを求め,それぞれ3回の平均値を算出した。<統計学的解析>接地と非接地のリーチ距離および各%MVCの比較は対応のあるt検定を用い,接地と非接地それぞれのリーチ距離と身長,上肢長,大腿長,座高長および各%MVCとの関連性はPeasonの相関係数を用いた。また,リーチ距離の再現性は級内相関係数(ICC)使用して分析した。統計ソフトはSPSSを使用し,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究の趣旨と内容,得られたデーターは研究以外の目的に使用しないことなど個人情報の保護に留意することを説明し,同意を得た。【結果】リーチ距離は接地(47.5±5.0cm)が非接地(40.8±5.4cm)と比較して有意に長く(P<0.05),測定筋の%MVCは左右の脊柱起立筋においてのみ接地(右24.5±11.4% 左25.0±10.6%)が非接地(右18.5±11.6% 左20.3±10.3%)と比較して有意に大きいことが示された(P<0.05)。測定条件によるリーチ距離と身長,上肢長,大腿長,座高長との関連性は,非接地は身長および座高長と相関が認められたが(それぞれr=0.84 r=0.71 P<0.05),接地では相関が認められなかった。また,リーチ距離と各測定筋の%MVCは接地および非接地ともに相関が認められなかった。各測定条件によるリーチ距離の再現性を示すICCは接地,非接地それぞれ0.78(sem2.3)0.92(sem1.6)で非接地が高かった。【考察】今回,それぞれの測定条件でのリーチ距離は接地が有意に長いことが示されたが,非接地と比較して接地は支持基底面が拡大されることにより安定性の向上が図られてリーチ動作での体幹前傾が増大した結果と考えられ,体幹前傾に対して体幹を安定させる作用として働く左右脊柱起立筋の活動量が接地において非接地より高かったことからも伺える。また,リーチ距離と体格指標との関連性において,身長と座高長は非接地と相関が認められたが接地とでは相関が無く,接地でのリーチ距離は今回採用した指標とは異なる要因から影響を受ける可能性がある。足部での支持を有する接地条件は支持基底面が広いことにより安定性の向上が図られ,リーチ動作戦略に多様性が生じて体格指標との関連性が無かったと考えられる。一方,非接地は不安定な条件下でのリーチ動作となり,動作戦略の限定化が生じたため体格指標との関連性が示されたと推測され,限定された動作戦略は非接地の再現性の高さにも反映されていると考える。【理学療法学研究としての意義】姿勢制御能評価から予後を予測するには,より妥当性および信頼性の高い評価指標の使用が望まれる。今回の検討では座位FRTの非接地では体格指数による正規化の必要性が示され,評価指標としての精度向上に寄与する。
  • 高橋 尚, 小原 謙一, 山形 隆造, 飯田 達也, 大村 真悟, 古我 知成
    セッションID: 1100
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】乳酸閾値(LT)とは,段階的に運動負荷量を増加させた時に,急激に血中乳酸濃度が上昇するときの運動強度である。LTレベルの運動負荷は,耐久性向上を目的とした運動に適しており,身体へのストレスも少ないため高齢者や障がい者に推奨されている。屋内で使用可能なトレッドミルは,速度を段階的に上昇させることで負荷量を増加させることが可能で,LTの決定において有効である。しかし,走行が困難な体力の低下した人たちには不可能な場合がある。近年発売されているトレッドミルは,傾斜角度を変化させることが可能なものもあり,段階的な角度増大によってもLTが出現することが予測される。本研究の目的は,段階的な角度増大による運動負荷時のLTを明らかにすること,および速度上昇もしくは角度増大による運動負荷によって決定されたLT時の心拍数について比較検討することである。【方法】対象は健常な学生(男性7名,女性3名),年齢は20.8±0.5歳であった。角度増大による運動負荷として(実験1),トレッドミル速度を4.5km/h,傾斜角度0°でトレッドミル運動を3分間行った。運動後1分間の休憩をとり,耳朶から採血して血中乳酸濃度を測定した。同時に手首式血圧計を用いて心拍数を測定した。休憩後は傾斜角度を1.7°増大させて運動を再開させた。これを13.6°になるまで8回繰り返した。速度上昇による運動負荷として(実験2),トレッドミル傾斜角度0°,速度3km/hでトレッドミル運動を3分間行った。3分間のトレッドミル運動後に1分間休憩して,血中乳酸濃度および心拍数を測定した。休憩後はトレッドミル速度を1.5km/h上昇させて運動を再開した。これを15km/hになるまで8回繰り返した。実験1と実験2は別の日に行い,順番は無作為とした。LTの解析は乳酸値解析ソフトウェアを用いて2点法で行い,有酸素性代謝でエネルギーが供給されるLT1,無酸素性代謝によるエネルギー供給の割合が多くなるLT2を決定した。心拍数は運動強度に比例することが報告されている。そこで,LT1およびLT2前後の心拍数から回帰直線を計算して,LT時の心拍数を決定した。また,決定した心拍数から,カルボーネン法を用いてLT時の運動強度を算出した。統計解析にはIBM SPSS Statistics 21を用いて行い,実験1と2の結果について,正規性の検定後に対応のあるt検定,Wilcoxonの符号付順位検定を行い比較した。また,相関についてPearsonの相関係数またはSpearmanの順位相関係数を用いた。危険率5%未満を有意差有りとした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,演者所属施設の倫理委員会の承認を得た後に実施した(承認番号:417)。各対象者には事前に本研究の趣旨と目的を文書にて説明した上で協力を求め,同意書に署名捺印を得た。【結果】角度増大による運動負荷(実験1)では,LT1の時の傾斜角度は4.2±1.3°,LT2では9.4±1.7°であった。LTの時点での心拍数は,LT1で92.2±13.7bpm,LT2で119.8±19.2bpmであった。また,LTの時点での運動強度は,LT1で15.0±6.0%,LT2で36.6±12.6%であった。一方,速度上昇による運動負荷(実験2)では,LT1の時の速度が6.4±1.0km/h,LT2で10.7±1.6km/hであった。LTの時点での心拍数は,LT1で97.2±20.8bpm,LT2で139.3±24.0bpmであった。また,LTの時点での運動強度は,LT1で15.7±10.8%,LT2で49.8±16.0%であった。実験1および実験2から算出されたLT1の時の心拍数および運動強度に有意な差は認められなかった。さらに,LT2の時の心拍数および運動強度は,実験2と比較して実験1で有意に低かった(P<0.05)。また,実験1と2におけるLT1およびLT2に達した時の心拍数の間に有意な相関はなかった。【考察】運動負荷量の増加に角度増大を用いた場合にもLT1およびLT2が認められた。したがって,歩行速度が一定だとしても,角度増大を用いた負荷量の増加によってLTが出現することが明らかとなった。LT2の心拍数および運動強度は速度上昇による運動負荷と比較して角度を増大した運動負荷で有意に低かった。血中乳酸濃度が急上昇する原因として,有酸素性代謝と無酸素性代謝への移行,交感神経活動の亢進,速筋優位な活動などが報告されている。したがって,傾斜角度を増大させると速度を上昇するよりも低い運動強度で上記のいずれかが生じた可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】LTは速度を一定とした歩行でも傾斜角度を増大させることで求められることが明らかとなった。さらに,角度増大によるLT2の心拍数および運動強度は速度上昇時のものより低かった。したがって,走行が困難な人たちのLTを安全に調べることができ,さらにLT程度の運動負荷も従来の方法より身体へのストレスが少なく,効率的な耐久性の向上が可能となることが期待される。
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