理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
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口述
  • 古川 公宣, 下野 俊哉
    セッションID: 1151
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】表面筋電図による筋疲労の評価は,最大負荷時に振幅及び周波数の低下,最大下負荷時に振幅の上昇と周波数の低下が起こるが,低出力時の周波数感受性は低く,筋疲労を確定しにくいとされている。本研究目的は,低出力での持続的筋収縮時の筋活動の変化を追跡し,振幅確率密度関数(Amplitude Probability Distribution Function:APDF)と従来の筋電図学的指標の経時的変化の相違から,より有効な筋疲労評価方法を検討する事である。【方法】健常成人14名(男性9名,女性5名,平均年齢:21.6±0.6歳)を対象とした。被験筋は利き手側の上腕二頭筋とし,最初に,肘関節屈曲90°位で壁面に固定された表面筋電計と同期したロードセルを最大努力で5秒間牽引し,その間の筋活動電位と発揮トルクから各々のピーク値を抽出した。次に同様の肢位にて,抽出されたピートルク値の25±5%の出力でロードセルを牽引し続け,この出力が連続して5秒以上維持できなくなった時点で課題終了とした。課題の持続時間を10等分し,各時点(開始時,10から90%時点及び終了時)の3秒間の波形から平均振幅及び中間周波数(高速フーリエ変換)を算出した。APDF解析は,筋活動電位のピーク値を100%として,各時点のデータ分布から5%毎の階級で度数分布を作成(0-100%peakを20階級に分割),各階級の全データ数に対する割合を算出し,各階級の出現確率とした。統計学的検定には一元配置分散分析を使用し,多重比較検定(Dunnett法)にて開始時に対する各時点の変化を,加えて,各指標間の男女差を対応のないt検定を用いて有意水準5%未満で検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,被験者は研究の目的と内容の説明を受け,同意の後に本研究に参加した。【結果】課題の平均持続時間は653.7±184.5秒で,男女間に有意差はなかった。平均振幅は50%時点以降終了時まで有意に高値を示したが(p<0.01),中間周波数は終了時との比較で初めて有意に低値を示した(p<0.05)。また,疲労の影響と思われる男女差を示さなかった。APDF解析では,0-5%peak階級で30%時点以降有意に低値を示したのに対して,5-10%peak階級では10%時点からすでに有意に高値を示した。さらに10-80%peak階級では,50%時点から大きい階級ほど有意性の出現が後半へと移行し,高値を示していた。また男女差を見ると,有意性の出現が5-50%peak間の各階級で女性が遅く,女性は50%peak以降で有意性がないのに対して,男性は65%peakまで有意性を示していた。【考察】持続的筋収縮時には,筋線維の疲労により収縮張力が低下し,要求された張力維持ために動員される運動単位数が増加すること,TypeII線維の易疲労性により動員数が漸減し,発揮張力が低いTypeI線維動員数の漸増により,相対的に動員される運動単位数が増加して振幅が増大する。また,周波数も同様の理由から反応する刺激頻度特性の相違のため,周波数スペクトルが低周波帯へ移行することで低下するため,この2条件が満たされた場合に筋疲労が確認されたことになる。しかし,低負荷での筋収縮では,出力要求に対して動員される運動単位数が少ないため,十分な活動交代が可能である。従って,本研究で用いた低い出力要求では,平均振幅は課題遂行時間の50%時点以降から有意に高値を示し,中間周波数では終了時にのみ有意な低値を示したと考えられた。APDF解析では,0-5%peak階級で30%時点以降有意に低下し,5-10%peak階級は10%時点,10-80%peakの間のすべての階級で,50%時点以降から有意な上昇を示した。0-5%peak階級の出現確率が減少するのは,筋電図波形が基線を通過する頻度が減少したことを示し,持続的筋収縮による筋活動の変化は,従来の概念よりもはるかに早期から発生していることが確認された。また,高い値の%peak階級の出現確率が増加することは,周波数の低い波形が複合干渉波形の中に混入していることを示している。本実験結果では,この出現確率は課題の後半以降に徐々に増加したが,中間周波数に反映されるほど大きな変化ではなかったと考えられた。さらに男女間の比較では,従来の指標では見られない相違を出現時期で示すことができ,今回の実験からAPDF解析は,筋疲労による筋活動の変化に高い感受性を持つことが示された。現在,中及び高強度出力での本解析による特性についても検討を加えており,継続的に報告をしたいと考えている。【理学療法学研究としての意義】筋収縮状態の変化は,理学療法プログラムの構築及び遂行時の重要な指標である。これを経時的にとらえることは,評価及び効果判定を正確に行う事が可能となるため意義深いと考える。
  • 評価法の信頼性と妥当性,カットオフ値
    諸澄 孝宜, 平澤津 隼人, 川崎 綾子, 太田 光祐, 山口 亜希子, 長田 喜代美, 中村 学, 末永 達也, 伊藤 貴史, 宮上 光祐
    セッションID: 1152
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】当院ではFunctional Balance Scale(FBS)や動作観察により担当理学療法士(PT)が安全性を判断し,高次脳機能障害の有無や長谷川式簡易知能評価スケール(HDR-S)を参考にして作業療法士,看護師(Ns)と相談のうえ病棟内ADL自立度を判断している。しかし,高次脳機能障害や認知症を有する症例ではその判断に難渋する。上内,島田らは病院独自の評価表を作成し,身体機能,認知機能に加えて行動分析評価の有用性を報告している。本研究では病棟内ADL動作に加えて,認知機能面の項目も追加した病棟内ADL行動観察型評価スケール(ADL-S)を作成し,病棟内ADL自立度判定の際に有効な指標と成りうるかを検討した。【方法】対象は平成25年8月以降に当院回復期リハビリテーション病棟入院中の症例とし,疾患,高次脳機能障害や認知症の有無,性別は不問とした。病棟内ADL自立度は,起居移乗・移動動作に介助を要さない症例を自立群とし,上記動作に見守りを要する症例,離棟などの危険行動がみられる症例を非自立群とした。ADL-Sは当院リスクレポートやPT・Nsへの問診,認知症行動障害尺度(DBD),臨床認知症評価法-日本版(CDR-J)を参考にして作成した。評価項目は全8項目(動作:ベッド周り,起居,整容動作,移動,トイレ,認知:記憶力,見当識,判断力)で,三人のNs(一人/日)が病棟内行動を観察し(日勤帯2日,夜勤帯1日),各項目について自立度を評価した(非自立0点,自立1点,合計得点0-24点)。ADL-Sの再現性については再テスト法により1週間以内に再評価し,検者間信頼性は日勤帯の結果より信頼性係数を算出した。自立度判定に使用する評価指標として,FBS,HDS-R,FIM,ADL-Sを使用した。統計的処理は,まず,ADL-Sの妥当性についてSpearmanの順位相関係数により各指標とADL-Sの相関を算出した。また,自立群と非自立群間で対応のないt-検定,Mann-WhitneyのU検定により項目分析を行った。群間比較において有意差の認められた項目を独立変数とし,現在の病棟内ADL自立度を従属変数としてロジスティック回帰分析を行い,ADL自立度に影響する因子を抽出した。また,抽出された因子についてreceiver operating characteristic(ROC)曲線からカットオフ値を算出した。なお,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に従い,事前に研究の趣旨を説明し,文章により同意を得た。【結果】対象者の内訳は自立群19名,非自立群13名であった。基本属性は自立群/非自立群において中枢疾患14/9名,整形疾患5/4名,年齢(平均値±標準偏差)56.0±17.6/74.5±14.2歳であった。ADL-Sの再現性についてICC(1.1)=0.987,ICC(2.1)=0.935であった。ADL-Sと各指標との相関は,年齢(r=-0.61),FBS(r=0.42),HDS-R(r=0.65),FIM(r=0.58)で中等度の相関が認められた(p<0.05)。また,両群間で年齢,FBS(48.2±6.7/40.2±12.9点),HDS-R(23.4±8.1/17.0±7.4点),FIM(96.4±26.1/69.0±20.9点),ADL-S(22.7±1.7/8.7±5.9点)に有意差が認められた。ロジスティック回帰分析の結果,ADL-Sのみが抽出された(寄与率R2=0.91,的中率93.1%,オッズ比2.93,P<0.05,95%信頼区間(CI)=1.02-8.37)。ADL-SにおけるROC曲線の曲線下面積は0.99(95%CI=0.97-1.01)であり,カットオフ値は19点(感度94.7%,特異度92.3%)であった。【考察】当院では病棟内ADL自立度判定にはFBSやHDS-Rなどの指標を用いていたが,疾患や高次脳機能障害,認知症の有無に関わらず病棟内ADL自立度判定に対する行動観察型評価スケールであるADL-Sの有効性が示唆された。ADL-S(8項目2段階)はFIM(18項目7段階)との相関も高く,また,島田らの転倒関連行動測定表より項目数が少ない(19項目3段階)ことから,より簡便に評価可能で,かつ外的妥当性のある評価方法であると考えられる。セラピストによる身体機能,認知機能の評価結果を踏まえ,ADL-Sを用いてNsによる病棟内の「しているADL」を評価することで,PTとNs間で問題点を共有することができると考える。【理学療法学研究としての意義】回復期病棟において病棟内ADL自立度の判断は転倒や危険行動の予防のためにも重要となる。病棟とセラピストの情報共有のためにも行動観察型評価スケールを作成する意義があると考えられる。
  • 男性元気高齢者における50m歩行時間の有用性
    八谷 瑞紀, 村田 伸, 大田尾 浩, 久保 温子, 松尾 奈々, 甲斐 義浩, 溝田 勝彦, 浅見 豊子
    セッションID: 1153
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】歩行能力の評価は,5mや10mの短距離における歩行時間を計測することが多い。しかし,元気高齢者では天井効果のために適切に身体機能を把握できない可能性がある。そこで我々は,高齢者のための新たな歩行能力評価法として,多くの施設で確保されている10m歩行路を利用した50m歩行時間を考案した。本研究では,50m歩行時間の有用性について,男性元気高齢者を対象に50m歩行時間中のlap間の所要時間の変化を検討し,つぎに50m歩行時間および5m歩行時間を測定し,下肢筋力,持久力,バランス能力との関連について検討した。【方法】対象は,地域在住の高齢者用フィットネスジムを利用している男性13名(年齢71±3歳)とした。なお,対象者は,自宅生活が自立しており,自家用車などで自ら調査に参加できる者であった。歩行能力の評価は,50m歩行時間のほか5m歩行時間を実施した。身体機能の測定項目は,大腿四頭筋筋力,30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30),開眼片足立ちテスト,Timed Up & Go Test(TUG)を実施した。50m歩行時間は,10mの歩行路間に配置したコーンを3往復折り返して合計60mを歩き,開始からの50mにかかる所要時間を計測する。準備するものは,10mの歩行路,方向転換時の目印(コーン),ラップ機能付きのストップウォッチである。測定方法は,開始前の姿勢は静止立位とし,コーンの横に立つ。被験者への説明として,検査者の合図で歩き出すこと,目印の外側を3往復することを伝えた。その際の歩行条件は最速歩行とした。10mの歩行路を直進し,コーンの外周で方向転換を行い,再び直進歩行を行う。3往復する間は休憩を入れず連続して歩行を行う。ストップウォッチの操作は,歩行開始から40m(2往復目)までは10mごとにラップ計測を行い,50m終了時にストップを押す。記録する評価項目は,50m歩行の所要時間(秒),およびラップ機能で計測したlap1~lap 5の10mごとの所要時間(秒)である。実施する上での注意点として,下記の3点を説明した。第一に,最初に立つ位置は,コーンの左右どちらでもよいこと。第二に,歩行補助具の使用を認めた。しかし,方向転換時に杖をコーンの内側についたり,触れたりすることがないように配慮した。このほか,歩行補助具を使用しない場合であっても,コーンに触れないように事前に説明を行った。第三に,安全確保を最優先に考慮し転倒などの事故には十分に注意した。統計学的分析方法は,対象者の50m歩行時間の方向転換を含まないlap1を除く,lap2からlap 5までの各ラップから得られた所要時間を一元配置分散分析にて比較した。また,50m歩行時間および5m歩行時間の測定値と,身体機能の測定値との関連をピアソンの相関係数を用いて検討した。なお,統計解析にはSPSS19.0(IBM社製)を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて行われた。対象者に研究の趣旨と内容を十分に説明し,同意を得たうえで測定を開始した。また,研究の参加は自由意思であること,参加しない場合に不利益がないことを説明した。本研究は,事前に施設の施設長の承認を得て実施した。【結果】50m歩行時間のlap2からlap5までに得られた所要時間を比較した結果,すべてのラップ間に有意な差は認められなかった(F=0.16,r=0.92)。歩行能力と身体機能との関連をみたところ,50m歩行時間と有意な相関が認められたのは,大腿四頭筋筋力(r=-0.62,p<0.05),CS-30(r=-0.90,p<0.01),開眼片足立ちテスト(r=-0.70,p<0.05),TUG(r=0.89,p<0.01)であった。一方,5m歩行時間と有意な相関が認められたのは,大腿四頭筋筋力(r=-0.57,p<0.05),TUG(r=0.58,p<0.05)であり,CS-30,開眼片足立ちテストとは有意な相関が認められなかった。【考察】本研究の結果から,50m歩行時間のlap2からlap5の所要時間において有意な差が認められなかったことより,男性元気高齢者では最速歩行を50m行っても,lap間による所要時間の落ち込みはないことが確認された。一方,50m歩行時間は,今回測定を行ったすべての身体機能と有意な相関が認められ,5m歩行時間は,大腿四頭筋筋力,TUGと有意な相関が認められた。以上のことから,5m歩行時間は男性元気高齢者の歩行能力を適切に表すことが困難である可能性が示めされた。また,50m歩行時間は,下肢筋力,持久力,バランス能力と関連が認められたことから,男性元気高齢者の歩行能力を適切に表す歩行能力評価法である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】身体機能の評価は,対象者の現状を正確に表せる指標であることが求められる。50m歩行時間は,高齢者の歩行能力を適切に評価する指標として期待できる。
セレクション
  • ―息切れとDesaturationに着目しての検討―
    沖 侑大郎, 酒井 英樹, 藤本 由香里, 松村 拓郎, 三栖 翔吾, 角岡 隆志, 永谷 智里, 三谷 祥子, 高橋 一揮, 本田 明広, ...
    セッションID: 1154
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の運動耐容能評価法として,6分間歩行試験(6MWT)は簡便な検査指標として広く用いられる。6MWTに関しては,6分間歩行距離(6MWD)による生命予後などについては多くの報告があるが,6MWT中における息切れやDesaturationの関連性については確立されていない。臨床場面においても,労作時の息切れは強いが経皮的酸素飽和度(SpO2)に変化がない場合,もしくは労作時の息切れはないがSpO2低下を認める場面に遭遇することも少なくない。本研究の目的は,6MWT中の息切れとDesaturationについての関連性を検討することで,COPDの病態把握に対する6MWTの新たなる可能性を明らかにすることである。【方法】外来診療にて6MWTを実施したCOPD患者28名(男性:26名,女性:2名,70.04±8.93歳)を対象とした。対象者選択基準として。①在宅酸素療法(HOT)を使用していない ②肺機能および肺拡散能検査後,6MWT実施日までが2週間以内である ③右室収縮期圧<50mmHgと設定した。6MWTは,米国胸部学会ガイドラインに基づき実施し,6MWT中のSpO2測定に関して,スタープロダクト社製のWristOxTM6-MWを使用した。調査項目は,年齢,性別,Body Mass Index(BMI),GOLD重症度分類,肺機能(対標準肺活量;%VC,対標準努力性肺活量;%FVC,1秒量;FEV1.0,対標準1秒量;%FEV1.0,対標準肺拡散能;%DLco,%DLco/VA,対標準残気量;%RV,対標準機能的残気量;%FRV,対標準最大呼気流量;%PCF,対標準全肺気量;%IC),6MWD,6MWT中のSpO2最低値(SpO2(min)),SpO2最高値とSpO2最低値の差(ΔSpO2),修正Borg Scaleの最高値(B.S(max))を後方視的に調査した。SpO2(min),ΔSpO2,B.S(max),6MWDに対する各変数との相関関係について変数特性に応じ,Pearsonの積率相関係数,Spearman順位相関係数で解析した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,神戸大学大学院保健学研究科保健倫理委員会において承諾されている。また,対象者には試験内容を口頭および紙面にて説明し,同意を得て実施している。【結果】対象者データは,GOLD重症度分類(I:5名,II:11名,III:9名,IV:3名),BMI:22.17±3.78,%VC:82.06±21.05,%FVC:78.39±20.11,FEV1.0:1.64±0.53,%FEV1.0:60.28±20.72,%DLco:51.11±20.27,%DLco/VA:%DLco/VA:42.27±19.64,%RV:87.26±33.66,%FRV:94.24±34.79,6MWD:413.13±124.40であった。相関関係(相関係数[95%信頼区間],p value)は,6MWT中のSpO2(min)に関し,%DLco(r=0.67[0.40-0.84],p<0.01),%DLco/VA(r=0.60[0.29-0.80],p<0.01)で有意な相関を認め,同様にΔSpO2でも%DLco(r=-0.64[-0.82-0.35],p<0.01),%DLco/VA(r=-0.63[-0.81-0.33],p<0.01)で有意な相関を認めた。B.S(max)は,FEV1.0(r=-0.47[-0.71-0.11],p=0.01),%FEV1.0(r=-0.45[-0.71-0.10],p=0.02),%FVC(r=-0.41[-0.68-0.04],p=0.03)で有意な相関を認めた。6MWDは,FEV1.0(r=0.58[0.27-0.79],p<0.01),%FEV1.0(r=0.40[0.04-0.68],p=0.03),%FVC(r=0.41[0.04-0.68],p=0.03),%PCF(r=0.41[0.04-0.68],p=0.03)で有意な相関を認めた。【考察】本研究により,6MWT中のSpO2(min)およびΔSpO2は%DLco,%DLco/VAが関連し,息切れはFEV1.0,%FEV1.0,%FVCが関連し,6MWDはFEV1.0,%FEV1.0,%FVC,%PEFが関連していた。これは,desaturationは気腫優位型病変が非常に強く関係し,一方で息切れと6MWDは気道優位型病変が関係することが示唆される。現在のCOPD診断はスパイロメトリでの肺機能検査が実施され,GOLD重症度分類においても%FEV1.0が基準である。しかし,本研究から現在の重症度分類のみでは,労作時のdesaturationについて必ずしも反映せず,肺機能検査のみでは不十分である可能性が示唆された。desaturationに強い相関を認めた%DLco,%DLco/VAは,全ての医療機関で測定可能ではない。特に,COPD未診断患者の多くを占める在宅場面での評価は,さらに困難である。また,高齢者の肺機能検査は,正確な評価が困難との報告もある。COPD患者の大半は高齢者であり,診断には肺機能検査に加えdesaturation評価の観点からも6MWTを積極的に実施する必要があると考える。そして,労作時の息切れや低酸素血症に対するHOTの有用性は明らかになっているが,HOT導入基準に関し安静時の動脈血酸素分圧(PaO2)で検討することが多いと報告され,労作時に低酸素血症を呈しながらも安静時PaO2が適応基準外でありHOTを導入されていない例は少なくない。今後,6MWTによりCOPD病態の簡便な判別が可能になることや適切な酸素流量処方評価法への可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】健康日本21にCOPDが追加され,6MWTに対する保険診療報酬も認可されたことでCOPDに対する注目が集まっている。在宅医療への転換が図られる中,理学療法学的観点から6MWTという簡便な検査方法の新たなる解釈を提言する非常に意義のある研究であると考える。
  • ~携帯型加速度測定器を使用して~
    飯塚 崇仁, 石黒 真理, 矢野 正剛, 小杉 正, 椎名 祥隆, 欅 篤
    セッションID: 1155
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】当院では2012年8月~肺癌の胸腔鏡下肺切除術(以下,VATS)における術後早期の活動量評価および指導と運動耐容能の回復を目的に携帯型加速度測定器(以下,活動量計)を導入した。今回,術後の活動量の推移や活動量と運動耐容能の回復との関係について検討したため報告する。【方法】対象は2012年8月~2013年11月までに当院にてVATSを施行し,術前術後に6分間歩行テスト(以下,6MWT)の測定が可能であり,活動量計にて術後活動量の評価が可能であった13例(男性11例,女性2例)を対象とした。理学療法プログラムは,術前は呼吸・動作指導を行い,術後は呼吸練習・筋力増強運動・歩行練習・自転車エルゴメーター・毎日の活動量に対する評価と指導を行った。運動耐容能は6MWTとし,術後の回復率(%:術後7日目測定値/術前値)を評価した。術後6MWT回復率と術後の活動量(歩数)との関係については,Pearsonの積率相関計数を用いた。術後6MWT回復率90%以上群の8例(全例男性)をA群とし,90%以下群の5例(男性3例,女性2例)をB群に分け,年齢・術前%肺活量・術前1秒率・術前膝伸展筋力(ハンドヘルドダイナモメーターで測定し筋力体重比を算出:kgf/kg)・術前6MWT・術後の活動量についてMann-Whitney検定にて比較を行った。活動量の評価は,3軸加速度センサの活動量計Active style Pro(OMRON HJA-350IT)を使用し,術後4~7日目までの活動量(歩数)の平均値を算出し評価した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言にもとづいて,各対象者には本研究の施行ならびに目的を説明し,研究への参加に対する同意を得た。【結果】術後6MWT回復率と術後の活動量(歩数)について,有意な正の相関を認めた(r=0.628)。A群・B群の比較にて,術前%肺活量・術前1秒率・術前6MWTについて有意差はなかった。年齢ではA群64.1±6.4歳と比較しB群74.6±6.8歳と有意差を認めた(p=0.02)。術前膝伸展筋力ではA群0.61±0.15kgf/kgと比較しB群0.43±0.08kgf/kgと有意差を認めた(p=0.04)。術後活動量ではA群6706.6±1647.4歩と比較しB群3449.5±1184.8歩と有意差を認めた(p=0.008)。【考察】術後6MWT回復率と術後の活動量に有意な正の相関を認めた。また,先行研究ではVATS術後1週間での6MWT回復率は90%以下との報告が多いことから,当院において90%以上と以下で群間比較検討したところA群において有意に活動量が多い結果となった。上記2つの結果から,術後早期の活動量向上が早期の運動耐容能の回復に寄与することが示唆された。A・B群での比較でB群において有意に高齢が多く,術前膝伸展筋力においても有意に弱かったこと,また有意差はなかったが,術前6MWTにおいてA群531.7±78.6mと比較しB群455.8±55.1mとB群において運動機能面や運動耐容能の低下が術前から生じていることが考えられる。その術前の因子が術後の活動量減少や運動耐容能の回復の遅延に影響している可能性が考えられた。今後の課題として症例数を増やしていき,その解析を進めていくとともに運動耐容能の早期回復に寄与する因子(呼吸機能や筋力など)について調べていく必要があると考える。また,肺癌術後だけでなく,その他の周術期における活動量と運動耐容能の回復についても検討していきたいと考える。【理学療法学研究としての意義】肺癌術後において早期社会復帰や術後補助化学療法を進めるうえで術後早期の運動耐容能の回復は重要である。今回,術後早期の活動量と運動耐容能の回復との関係が示唆されたことにより,従来の理学療法に加え活動量計使用による活動量への評価・指導の重要性についても示せたのではないかと考える。
  • 武市 梨絵, 渡邉 陽介, 横山 仁志, 松嶋 真哉, 星野 姿子, 堅田 紘頌, 中田 秀一
    セッションID: 1156
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】周術期のリハビリテーション(以下,リハ)の目的は,呼吸器合併症予防とADL・運動機能の早期改善である。そのための介入としては,肺拡張手技や排痰援助に加え早期離床,運動療法を実施している。しかし,術後のリハプログラムは順調に進行していても,疼痛や起立性低血圧,ドレーンや点滴類の管理,疲労感などの術後の様々な問題で離床がリハの介入時間だけにとどまっていることも少なくない。その結果,身体活動量(physical activity:以下,PA)の低下が運動機能低下を招き,ADL・運動機能の早期改善の弊害になることが示唆される。そこで,入院中の消化器外科手術後患者のPAと運動機能の推移を明らかにし,PAと運動機能の関連について検討すること本研究の目的とした。【方法】対象は2012年7月から2013年9月の期間に消化器外科手術を受け,手術前後のリハを実施した21例(平均年齢72.1±8.7歳,男性16例,女性5例,食道癌8例,胃癌3例,膵臓癌7例,大腸癌3例)である。これらを対象に,PA,運動機能評価として下肢筋力,バランス能力,運動耐容能を測定し,術後棟内歩行可能となった日を調査した。PAは,万歩計(テルモ活動量計MT-KT01)を用いて術前のリハ開始日から退院前日までの歩数を測定し,リハ開始日から手術前日までの術前,術後翌日から1週間および術後1週から2週までの1週間の平均の中央値(歩/日)を算出した。下肢筋力はアニマ社製μTas-MF01を用い,等尺性膝伸展筋力を測定した。バランス能力は片脚立位時間を,運動耐容能は6分間歩行距離を測定した。運動機能評価は,術前,術後1週,術後2週に行い,6分間歩行距離のみ術前,術後2週に実施した。また,PAの低下と運動機能との関連を明らかにするために,PAおよび運動機能の変化率も算出した。PA変化率は,{(術後2週のPA-術前PA)/術前PA×100}で求め,運動機能の変化率も同様に算出した。以上から得られた結果より,術前,術後1週,術後2週のPA,運動機能の推移をFriedman検定,Bonfferoni法,Wilcoxonの符号付き順位検定を用いて検討した。そして,PAと運動機能の変化率との関連について,Spearmanの順位相関係数を用いて検討した。なお,危険率5%未満を有意差判定の基準とし,測定値はすべて中央値(四分位範囲)で示した。【倫理的配慮,説明と同意】倫理的配慮として,当院臨床試験審査委員会の承認を得た(承認番号:第2314号)。すべての対象者にヘルシンキ宣言に沿って本研究の評価の趣旨,方法,およびリスクを説明し,同意の得られたものみを対象とした。【結果】1.PAの推移 PAは術前,術後1週,術後2週の順に,2279(3378)歩/日,410(461)歩/日,1170(2344)歩/日であった(p<0.05)。術後1週のPAは術前の18.0%,術後2週は術前の51.3%であり,ともに術前よりも有意に低値を示した(p<0.05)。なお,術前,術後1週,術後2週のPAは,性別,手術部位別で差を認めず,年齢との間にも相関は認めなかった。また,術後棟内歩行可能となったのは術後2(3.5)日であり,その症例の割合は術後1週で90.5%,術後2週で100%であった。2.運動機能の推移 等尺性膝伸展筋力は,術前,術後1週,術後2週の順に,28.8(11.5)kgf,23.8(13.5)kgf,26.4(11.4)kgfであり(p<0.05),術前と術後1週の間に有意差を認めた。片脚立位時間の推移は,術前49.5(56.2)秒,術後1週19.9(43.2)秒,術後2週53.4(37.4)秒であり(p<0.05),術後1週と術後2週の間に有意差を認めた。6分間歩行距離は,術前400(160)m,術後2週325(225)mであり,術後に低値を示した(p<0.05)。3.PAと運動機能の関連 PA,等尺性膝伸展筋力,片脚立位時間,6分間歩行距離の変化率は順に,-12.7(0.76)%,-7.5(18.9)%,0(13.2)%,-15.8(37.1)%であった。PAと等尺性膝伸展筋力,6分間歩行距離の変化率との間には有意な相関関係を認め,その相関係数は順に0.54,0.58であった(p<0.05)。【考察】消化器外科手術後のPAは術前に比較し顕著に低下しており,全例が棟内歩行可能となっている術後2週の時点においてもPAは術前の値まで回復していないことが明らかとなった。また,PAと同様に,術後は運動機能も低下していた。そして,PAの変化率は下肢筋力および運動耐容能の変化率と相関関係にあり,術後のPA低下は運動機能低下と関連があることも明らかとなった。以上のことから,消化器外科手術後患者の運動機能の低下予防や早期改善には,従来の早期離床に加えて,その後のPAを高める必要性があるものと考えられた。今後の課題は,術後のPA低下要因を明らにすること,および術後に運動機能を低下させないPA水準を検討することである。【理学療法学研究としての意義】消化器外科手術後のPAと運動機能の推移とそれらの関連を明らかにした研究であり,周術期の呼吸リハの介入方法を身体活動量の面から新たに検討するものである。
  • 野口 知紗, 間瀬 教史, 山本 健太, 田上 未来, 冨田 和秀, 門間 正彦, 居村 茂幸
    セッションID: 1157
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】呼吸理学療法では,気道内分泌物の移動や換気血流比の改善などを目的に体位変換を行う。体位の変化は心臓などの縦隔組織の形状や肺野との位置関係にも大きな影響を与える。縦隔組織による肺野の圧迫は,その部位の肺野の拡張を抑制することが報告されている。しかし,心臓を中心とした縦隔組織により,どの部位の肺野がどの程度圧迫されているかについて,詳細に検討した報告はない。もし,体位による心圧迫部位と体積の違いが十分把握できれば,体位変換時の参考資料となると考えられる。本研究の目的は,体位変換に用いられる頻度の高い仰臥位,側臥位,前傾側臥位における心臓により圧迫を受ける肺野の部位およびその体積の違いを明らかにすることである。【方法】対象は,健常人8名(男性6名,女性2名,年齢29.0±9.2歳)であった。測定体位は,仰臥位,左右の側臥位・前傾側臥位とした。撮像時の肺気量位は,機能的残気量(FRC)位,全肺気量(TLC)位,残気量(RV)位とした。撮像装置は,1.5TのMRI(東芝EXCELART Vantage1.5T)を用いた。各被検者に各体位にて各肺気量位での息止めを30秒程度行わせ撮像した。撮像は,三次元構築画像撮像として,腹側から背側方向へ肺全体の撮像を冠状断で行った。得られたMRI画像から画像解析ソフトimageJを用いて以下の分析を行った。まず,各画像の①左右別の肺面積,②心臓により重力方向に圧迫を受けている左右別の圧迫面積,を求めた。その後,円錐近位法を用いて各肺気量位別に左右の肺面積を合計することにより肺体積を算出し,各体位でのRV,FRC,TLCを算出した。さらに,各肺気量位別に左右の圧迫面積を合計することにより心臓による肺の圧迫体積を算出した。また,各肺気量位での肺体積で除すことにより心圧迫率を求めた。【倫理的配慮,説明と同意】研究の趣旨及び研究協力により対象者に発生が予測される利益・不利益について書面を用いて説明を行い,同意を得た者を対象者とした。【結果】両肺圧迫体積は,FRCでは仰臥位304±66cm3,右側臥位363±97.cm3,左側臥位218±53 cm3,右前傾側臥位102±34 cm3,左前傾側臥位90±71 cm3,TLCでは仰臥位398±65cm3,右側臥位642±150.cm3,左側臥位394±108 cm3,右前傾側臥位135±96cm3,左前傾側臥位57±51cm3,RVでは仰臥位256±58cm3,右側臥位344±99 cm3,左側臥位210±50cm3,右前傾側臥位43±34cm3,左前傾側臥位31±27cm3であった。いずれの肺気量位においても,圧迫体積は右側臥位が他の肢位に比べ有意に高く,左右前傾側臥位は他の肢位に比べ有意に低い値を示した。心圧迫率は,FRCでは仰臥位11.2±2.3%,右側臥位11.7±2.3%,左側臥位6.9±1.3%,右前傾側臥位3.4±1.0%,左前傾側臥位2.9±2.1%,TLCでは仰臥位17.4±4.0%,右側臥位25.8±7.8%,左側臥位15.8±4.5%,右前傾側臥位6.4±5.7%,左前傾側臥位2.3±2.0%,RVでは仰臥位5.0±0.8%,右側臥位6.6±1.4%,左側臥位4.1±1.0%,右前傾側臥位0.9±0.7%,左前傾側臥位0.5±0.4%であった。どの肺気量位においても,心圧迫率は,左右の前傾側臥位が他の肢位に比べ有意に低値を示した。TLC,RVでは右側臥位が他の肢位に比べ有意に高値を示した。FRCでの心圧迫率は,右側臥位と仰臥位の間に有意な差はなく,両肢位とも左側臥位に比べ有意に高値を示した。心圧迫部位は,仰臥位では主に左下背部,側臥位では下側肺野の下部であった。前傾側臥位では,下側肺野の下腹側部の一部に限られていた。【考察】心臓により圧迫を受ける肺体積は,前傾側臥位が仰臥位,側臥位に比べ低いことが分かった。心臓は胸腔内の腹側に位置しており,前傾側臥位では重力の影響により心臓が胸郭前壁方向に移動するため,その部位が心臓による圧迫を受ける。それにより肺野自体が受ける心圧迫が減少したと考えられる。今回の結果でも,前傾側臥位の心圧迫部位は,下側肺野の下腹側部に限られていた。今回の結果より,上肺野に位置する肺野の拡張を促すための体位変換として積極的に用いられる側臥位は,下側に位置する肺野の心圧迫面積や圧迫率としては高く,心圧迫という観点からは,側臥位より左右の前傾側臥位が有用な姿勢であることがわかった。【理学療法学研究としての意義】体位変換を選択する一要因として,体位の違いによる心圧迫部位,体積の変化が把握できたことは,呼吸理学療法時に体位変換を行う体位の選択において有用な情報と考えられる。
  • 市川 毅, 横場 正典, 木村 雅彦, 石井 直仁, 黒崎 祥史, 山田 優也, 三井 裕子, 松永 篤彦, 益田 典幸, 片桐 真人
    セッションID: 1158
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】呼気呼吸筋力は,気道内分泌物を喀出するために必要な咳嗽に深く関与しており,呼気呼吸筋力の的確な評価は重要である。一般的に,呼気呼吸筋力の評価には,最大呼気口腔内圧(Maximal mouth expiratory pressure:MEP)が用いられる。しかし,口腔内圧を用いた呼吸筋力測定は持続的な最大呼気/吸気圧の発生を必要とし,患者の理解力や意欲に依存しやすい評価法である。加えて,球麻痺が進行する神経筋疾患患者では,マウスピースの使用が困難となり,正確な口腔内圧測定ができない場合がある。このような場合の吸気呼吸筋力の評価法では,瞬時に鼻をすする動作時の吸気鼻腔内圧(Sniff nasal inspiratory pressure:SNIP)が広く普及しているが,呼気呼吸筋力測定の良い評価法は確立されていない。我々は,これまでSNIPを参考に,瞬時に鼻をかむ動作(Reverse sniff:R-sniff)時の呼気鼻腔内圧(R-sniff nasal expiratory pressure:RSNEP)が,呼気呼吸筋の筋活動と強い正の相関関係にあり,さらに最大強度のR-sniff時のRSNEP(RSNEPmax)がMEPと有意な正の相関関係にあったことから,呼気呼吸筋力の評価法になり得ることを報告している(ERJ P3519,2012)。今回は,異なる肺気量位からR-sniffを行った場合,RSNEPmaxおよび呼気呼吸筋活動にどのような違いがあるかをMEPとともに検討した。【方法】対象は,健常成人男性9名(年齢25±4歳,体重65±8 kg,身長171±5 cm)とした。呼気呼吸筋活動の評価には,fine wire電極による直接的な筋電図計測法を用いた。この計測法では,呼気時に最も強く活動する腹横筋(Transversus abdominis muscle:TA)に対して,呼吸器科専門医が1対のfine wire電極を右前腋窩線上で肋骨縁下の約1cmの部位に,超音波断層画像ガイドを用いて刺入し直接留置した。RSNEPmaxは,一方の鼻腔に圧トランスデューサー付バルーンカテーテルを挿入し,対側鼻腔は開放させて測定した。被験者は,瞬時(0.5秒以内)かつ鋭い最大強度のR-sniffを全肺気量(Total lung capacity:TLC)位と機能的残気量(Functional residual capacity:FRC)位から各5回程度行い,その最大圧をRSNEPmaxとした。MEPは,ノーズクリップを装着し,圧トランスデューサー付マウスピースを咥えた状態で測定した。被験者は,TLC位とFRC位から各2回程度,最大呼気圧まで徐々に(約10秒)圧を増加させ,その最大圧をMEPとした。RSNEPmaxおよびMEP時のTA筋活動は,様々な呼吸および非呼吸動作から得た積分筋電図波形の最大筋活動に対する百分率(%EMGmax)で評価した。なお,サンプリング周波数は4kHzとした。TA筋電図および圧の測定と解析には,PowerLab® 16/35 SystemとLabchart® 7 software(PL3516 ADInstruments,愛知)を用いた。統計学的解析として,TLC位とFRC位の差の検定にはpaired t testを用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,本学医学部・病院倫理委員会で承認を得て,被験者は公募制とした。応募してきた被験者には,研究内容,プライバシー保護および承諾の自由を説明し,書面にて同意を得た。【結果】fine wire電極の刺入時や実験中に,不快感などの有害事象を訴える被験者はいなかった。RSNEPmax(TLC位70.7±25.6 vs. FRC位76.4±25.6 cmH2O)およびRSNEPmax時のTA筋活動(55.9±23.5 vs. 53.0±20.3%EMGmax)は,TLC位とFRC位の間に有意差を認めなかった。一方,MEPは,FRC位と比べてTLC位の方が有意な高値を示した(109.3±38.4 vs. 96.5±26.7 cmH2O,p<0.05)。MEP時のTA筋活動は,TLC位とFRC位の間に有意差を認めなかった(47.5±26.6 vs. 52.7±30.4%EMGmax)。【考察】RSNEPmaxおよびMEP時の呼気呼吸筋活動は,TLC位とFRC位の間でいずれもその程度に有意差を認めなかった。しかし,MEPはFRC位と比べてTLC位の方が有意な高値を示した。これは,一般的にMEPが肺気量位と圧の関係から,FRC位では呼気呼吸筋が発生する圧を示す一方で,TLC位ではその圧に加えて肺と胸郭の弾性収縮圧が上乗せされる(Cook,1964)ことが大きく影響していると考えられた。一方,RSNEPmaxはTLC位とFRC位の間に有意差を認めなかった。これは,R-sniffが瞬間的な動作であり,肺と胸郭の弾性収縮圧の影響を受けにくく,TLC位とFRC位でも呼気呼吸筋が発生する圧を反映している可能性が考えられた。また,TA以外の呼気呼吸筋や上気道開大筋が影響している可能性も考えられた。以上のことから,RSNEPmaxはMEPと異なり,肺気量位に依存せずに呼気呼吸筋力を評価できる指標になり得ると考えられた。【理学療法学研究としての意義】直接的な呼吸筋筋電図計測法を用いて,異なる肺気量位からのRSNEPmaxおよび呼気呼吸筋活動を明らかにすることで,RSNEPmaxを臨床的に有用な呼気呼吸筋力の評価法に発展させることができる。
  • 長谷川 正哉, 寺田 知代, 島谷 康司, 金井 秀作, 田中 聡, 小野 武也, 沖 貞明, 大塚 彰
    セッションID: 1159
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】足部は体重を支持し,力を伝達する効果器としての役割とともに,接地面の情報をフィードバックする感覚器としての役割を担う。一方,現在流通するインソールや靴は,足部の効果器としての役割をサポートする目的で作製されているものが多く,感覚器としての役割に働きかける履物は少ない。そこで,我々の研究グループでは足底感覚を用い動作を制御する手法の検討を行い,現在,履物を用いた足底感覚入力方法の有効性を検証している。以下に研究開発のコンセプトと経緯を示す。まず,靴の中に小石が入った場面を想像すると,もし不快感や痛みがなければ異物を感知しながら,動作を続けることが可能である。この際,足底感覚からは小石の形状や質感のみでなく,「異物の接触部位」や「動作中に接触が強くなるタイミング」などの情報がフィードバックされる。我々はこれらの感覚情報を動作中の「重心移動方向」や「接地・蹴り出し位置」に置換することで動作指導に用いる手法を提案し,足底感覚入力を行う突起を配したインソール(以下,知覚インソール)を試作した。また,先行研究にて試作品の着用により重心移動方向の制御が可能になることを報告した。本研究では知覚インソールの次なる展開として,初期接地時の踵接地部位を教示した際の歩容変化について調査することを目的とした。【方法】健常成人16名(女性10名,男性6名)を対象とした。実験に先立ち,踵後外側部に接地位置を示す突起を設置した知覚インソールを作製した。実験条件はコントロール条件および知覚インソール条件とし,コントロール条件,突起条件の順で歩行を行わせた。なお,突起条件では踵後外側部の突起を「踏みながら歩く」ように指示した。計測にはVicon Motion System社製Vicon-MXおよびKistler社製床反力計からなる三次元動作解析システムを使用し,サンプリング周波数100Hzにて遊脚中における第2中足骨頭の高さ(以下,つま先高)および初期接地時における足関節背屈角度を抽出した。なお,遊脚中のつま先高は二峰性を示すことから,遊脚初期における第1ピーク値,遊脚中期から下腿下垂位に見られる下限値,遊脚終期における第2ピーク値を抽出した。統計解析には対応のあるt検定を用い条件間の比較を行った。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】実験前に書面と口頭による実験概要の説明を行い,同意と署名を得た後に実験を実施した。なお,本研究は全てヘルシンキ宣言に基づいて実施した。【結果】初期接地期における足関節背屈角度はコントロール条件0.3±3.5度,インソール条件9.3±6.1度となり,インソール条件にて有意な増加を認めた(p<0.001)。遊脚中におけるつま先高の第1ピーク値はコントロール条件110.3±10.5mm,インソール条件114.8±12.4mmとなり,インソール条件にて有意な増加を認めた(p=0.016)。つま先高の下限値はコントロール条件85.7±7.7mm,161.9±23.2mmとなり,インソール条件にて有意な増加を認めた(p<0.001)。つま先高の第2ピーク値はコントロール条件161.9±23.2mm,インソール条件196.0±25.3mmとなり,インソール条件にて有意な増加を認めた(p<0.001)。【考察】まず,インソール着用条件における足関節背屈角度の増加が確認された。理由として,インソール上の突起を知覚しながら歩行するように指示したことで,着用者自身が踵後外側部の接地に必要な足関節背屈角度を判断しながら歩行したものと考える。また,遊脚期におけるつま先高の上昇が確認された。理由として,先述した初期接地時の足関節背屈角度を増加させるためには,先行する遊脚期においても足関節を背屈させておく必要がある。加えて,インソール上の突起を的確に踏みつけるために下肢の振り出し方向や高さを予測的に制御したことで,つま先高の増加に至ったものと考える。なお,本研究結果はトゥクリアランスの低下や足関節背屈角度の減少に起因する高齢者の躓き転倒を予防する手段として応用可能と考える。【理学療法学研究としての意義】知覚インソールが立脚期のみでなく遊脚期にも効果を発揮することを確認した。足底感覚を用いて着用者の意識に働きかける本手法は今後のインソールや履物の開発に新たな展開をもたらす可能性がある。また,知覚インソールの作製は突起を靴底に貼付するのみで汎用性が高い。そのため,臨床場面における動作指導や運動学習の諸相にも利用可能と考える。そのため今後,知覚インソールが動作指導や運動学習に与える影響について検証を進めていきたい。なお,本研究は平成25年度科学研究費助成(挑戦的萌芽研究:課題番号25560290)を受け実施した。
  • 義足支援からの検討
    竹内 知陽, 鈴木 昭宏, 服部 義
    セッションID: 1160
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,軽量パーツの開発や筋電位を利用した義肢に関する研究等が進み,小児の四肢欠損児に対しても,比較的早い乳幼児期に機能的義肢を処方することが可能となった。運動発達期においては,ボディイメージの育みや義肢の受け入れ,義肢操作のパフォーマンスの高さ等を鑑み,適切な義肢を提供することが重要である。今回,先天性片側骨盤下肢欠損児に対する理学療法支援の機会を得た。本研究の目的は,本児が義足を使用して基本動作を獲得していく経過を振り返ることにより,生まれつき片脚のない児の粗大運動発達を促進する関わりについて,義足支援の視点から検討することである。【方法】対象は,右先天性骨盤下肢欠損の男児である。在胎37週0日,1980gにて出生,臍帯ヘルニア,鎖肛,右腎欠損,右精巣欠損,腹壁瘢痕ヘルニア,胸腰椎部の潜在性二分脊椎,右腸骨形成不全,右尺側列形成不全による裂手,右下肢形成不全による先天性骨盤下肢欠損の診断を受けた。理学療法は,義肢が処方された時点,すなわち児が9ヶ月の時に開始し,その後は1ヶ月毎に実施した。調査は,児が3歳3ヶ月時,理学療法初回から2年3ヶ月が経過した時に,診療記録をもとに後方視的に行った。調査内容は,初回受診時の運動発達の状況,義足装着練習の内容および主な粗大運動能力の獲得時期,義足の更新状況とした。調査結果をもとに,児の粗大運動発達と義足支援との関係について検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究内容の学術集会での報告について,研究対象児の親権者に説明し同意を得た。【結果】児の粗大運動発達は,頸定3ヶ月,腹臥位および寝返り6ヶ月で,理学療法初回受診時において,座位,ずり這い移動は未達成であった。9ヶ月時,最初の訓練用義足を処方,義足装着下での床上移動および座位の達成を目標とし支援を開始した。10ヶ月時にずり這いがはじまり,その後1歳時に達成した。10ヶ月時点で,健側座骨部に補高すればセット座位を保持でき,1歳過ぎには健側を割座させて座位達成となった。この後の11ヶ月時には,セットによるつかまり立位で義足に荷重することをし始めた。1歳2ヶ月時,義足未装着の状態で床からの台立位が可能となり,義足装着下では横方向への台伝い歩きを始めた。目標を手引き歩行の達成とし,1歳4ヶ月時に2本目となる本義足を処方,1歳半で斜め方向への台伝い歩きを開始した。義足への荷重に十分慣れていたが,ソケットの適合調整に難渋し,義足の長さが安定しなかった。1歳9ヶ月以降に手引き歩行をし始めたことから,床からの立ち上がり,および独歩の獲得へと目標を更新し,支援の頻度を増やした。1歳11ヶ月時,壁伝いでの歩行が可能となり,義足未装着では,支えなしで床からの立位が可能となった。2歳2ヶ月時に3本目となる義足を処方,健肢側の片手引きでの歩行が可能であったが,なかなか独歩には至らず,伝い歩きを始めてから1年以上が経過した2歳3ヶ月時,杖の使用を検討した。2歳半で2~3歩の距離を手放しで歩くようになったが,転倒の頻度も多く,転倒しそうな感覚から手放しでの歩行練習を嫌がる様子が見られた。2歳8ヶ月時に4本目となる義足を処方し,その後独歩可能となった。また,自ら手をついて床に降りたり立ち上がったりすることも可能となったが,右裂手の二指では股継ぎ手のロックを自分で解除することが出来ず,自力で床上での座位姿勢に変換することはできなかった。その後は,歩行安定性の向上を目的に自宅での歩行練習を促した。同時に,目標を立位から床座位への姿勢変換の自立とし,股継ぎ手のロック解除操作の自立支援方法について,義肢装具士と検討を重ねた。3歳3ヶ月時に5本目の義足を処方,ロック解除用の延長レバーを工夫して設置したところ,右裂手の二指間にレバーを把持し,右肘の伸展動作によって自力でのロック解除が可能となり,立位から座位への姿勢変換が自立した。同様に,床座位から立位への変換も支えなしで行い,股継ぎ手のロックも自力にて可能となった。【考察】先行研究に乏しく比較検討は困難であるが,粗大運動の発達を意識しながら義足支援を行うことで,基本動作の自立を促進することができたと思われる。その後は,義足装着の自立に向け支援を継続している。児の身体機能と構造を考慮し,操作性を加味した義足支援をすることが,先天性骨盤下肢欠損児の粗大運動発達を促進する上で重要であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】先天性四肢欠損児の義肢支援における理学療法士の関わり方の一事例研究として提示した。類似する症例の理学療法に携わる臨床研究者にとって,理学療法介入方法を考察する上で意義のある研究と考える。
  • 川崎 真嗣, 幸田 剣, 小池 有美, 寺村 健三, 鈴木 浩之, 上西 啓裕, 田島 文博
    セッションID: 1161
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】褥瘡は脊髄損傷者(脊損者)にとって致命的な合併症の一つである。ひとたび発生すると,莫大な経済的損失とQOL低下が懸念されるため,早期発見と予防が重要となる。褥瘡は深部組織が損傷された後に皮膚表面に現れるため,超音波検査による検出率が最も高いと報告されている。また外力による不可逆的な阻血性傷害であり,外力を減らすことは予防戦略の一つでもある。圧力分布測定装置は,外力に影響を受ける座面圧を視覚的に評価することが可能である。これまで超音波検査や座面圧を単独で評価した報告はあるが,双方の関連を検討した報告はない。慢性脊損者に対し,超音波検査での病変の有無と,車いす上の座面圧について調査し,個々の特性に応じた深部組織損傷の予防法を検討する。【方法】対象は,受傷後1年以上経過した脊損者38名(44.2±12.2歳)。損傷レベルはC6-L1で,ASIA分類A27名,B5名,C6名であった。経過年数や乗車時間,残存機能レベル,除圧頻度については問診を行った。除圧頻度は4段階に分類し「1時間未満に1回」,「1-2時間に1回」,「2-3時間以上に1回」,「全くしない」とした。褥瘡評価は,ベッド上腹臥位で視診と触診を行った後,汎用超音波画像診断装置(SonoSite MicroMaxxシリーズ;SonoSite社)を用いて両坐骨部の皮下を検査した。病変を認めたものを陽性群,認めなかったものを陰性群に分類した。座圧測定は普段使用している車いすとクッションに座り,圧力分布測定装置(The Force Sensitive Applications;Vista Medical社)を用いて測定した。姿勢は車いす上の安楽静止座位とし,部位は両坐骨部を中心に最も圧の高かった4つのセンサーの平均値を坐骨部座面圧とした。統計学的検討は,超音波検査の結果から陽性群と陰性群とに分類し,年齢,BMI,経過年数,乗車時間,坐骨部座面圧を平均値±標準偏差で表し,Student’s-t検定を用いて両群間で比較した。また,残存機能レベルはFisher’s直接法を用い両群間で比較した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当大学の倫理審査委員会の承認を得ている。被験者には,書面と口頭で実験目的および方法,危険性,個人情報保護について十分説明し,文書で同意を得た。【結果】38名(76部位)のうち10名(17部位)を陽性群,28名(59部位)を陰性群に分類した。陽性群は陰性群と比較し,BMI(陽性群22.6±1.9,陰性群20.3±2.6)が高値で(p<0.05),経過年数(陽性群26.6±16.0年,陰性群17.0±10.4年)は長かったp<0.05)。一方,年齢および乗車時間,残存機能レベルに差を認めなかった。坐骨部座面圧(陽性群156.8±27.0mmHg,陰性群128.1±37.1mmHg)は,陽性群で有意に高値であったp<0.01)。また,陽性群の除圧頻度は「全くしていない」が8名,「1-2時間に1回」が2名であった。陰性群では,「全くしていない」が3名,「2-3時間以上に1回」が6名,「1-2時間」が8名,「1時間未満」が11名であった。【考察】本研究では,超音波検査で病変が確認された脊損者は,坐骨部座面圧も高値であることが双方の結果から明らかとなった。脊損者は,軟部組織の萎縮により骨突出部の座面圧が健常者と比較し高値であることが報告されている。そのため,個々の特性に合った車いすやクッションを使用することで,座面圧の分散を図っている。また成犬後肢の圧迫実験において,褥瘡形成では時間と圧力が反比例の関係であることが判明している。本研究では,乗車時間に差を認めなかったものの,病変が確認された脊損者の中には,除圧を全くしていない者が多かった。また,病変が確認されなかったにもかかわらず,坐骨部座面圧が高値な対象者も存在した。この結果から,病変のある脊損者は除圧が不可欠で,座面圧が高くても頻回に除圧を実施していれば,深部組織が阻血に陥る前に血流再還流ができる可能性が示唆された。今回は測定後,実際に圧力分布測定装置を用いて,除圧姿勢やクッションの適性について指導を行なった。今後は超音波検査での病変確認と座圧測定後の指導がどのような経過をたどるかを評価することが重要な課題と言える。【理学療法学研究としての意義】褥瘡予防には,視診と触診に加え定期的な超音波検査と座圧測定が有効で,これらの結果をもとにフィードバックすることは,脊損者の自己管理につながる。
  • 伊藤 千晶, 丸山 翔, 武田 甫行, 若山 佐一
    セッションID: 1162
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】臨床現場で,後進歩行(Backward Walking,以下BW)は治療に用いられる事が多い副課題だが,前進歩行(Forward Walking,以下FW)と後進歩行の運動パターンは単純な逆再生であるという説や,異なる運動制御機構をもつなど不明確な事が多い。又,それらを比較した研究の多くは「定常歩行」に着目され,直立姿勢から定常歩行に至るまでの姿勢変換過程である「歩行開始」についての分析は少ない。今回は,これまで「歩行開始」について基礎研究が行われてこなかったFWとBWとの違いを,床反力に着目して分析する。又,この研究を今後,歩行開始に特徴的な病態を持つ患者と比較検討する基礎研究とする。【方法】健常成人10名(女5名,男5名),平均年齢22±1.9歳,身長166.7±10.8cm,体重56.9±8.7cm。対象は神経疾患に起因する下肢への障害の無い者とする。8台のMXカメラと床反力計,三次元動作解析VICON Nexus,50dBのシグナルスイッチを同期し,サンプリング周波数は全て100Hzとした。フィルターはButterworth filterを用い,カットオフ値を8Hzとした。前後2.5Mの歩行路の中心に床反力計を二枚接地し,対象は全身に35ポイントのマーカーをつける。その後,床反力計上で直立姿勢をとり,シグナルスイッチのブザー音が鳴ると同時に歩行を開始する。測定順はランダム化し前後10回ずつの計測とした。歩行開始の定義は条件により諸説あるが,先行研究(RA.Mann,1979. M.Nissan,1990.)を参考に,「自己快適速度で直立姿勢から2歩目の初期接地までとし,振り出し側を遊脚肢,支持側を立脚肢」と定義する。時間軸はFWとBWを比較できるように一部名称を改変し,SS(start signal):開始シグナル,R(reaction):反応期,FO1(foot off):1歩目の足部離地,IC1(Initial Contact):一歩目の初期接地,FO2:二歩目の足部離地,IC2:二歩目の初期接地とした。床反力は左右方向(Fx),前後方向(Fy),鉛直方向(Fz)の3軸方向のピーク値を抜き取る。床反力のFxとFyは,Max1:遊脚肢の最大ピーク値,Max2:FO1の立脚肢の最大ピーク値,Max3:FO2前の最大ピーク値とする。FzのみMin:立脚中期の間の最小値を求めた。計測したデータの内一部は,BWをFWに対応するようにデータを反転させた。統計はFWとBWを比較し,ソフトはSPSS16.0Jを用いた。有意水準を5%未満とし,Shapiro-Wilk検定実施後,対応のあるt検定とWilcoxon符号順位和検定を実施した。表記は有意差と効果量(r)で表し,効果量の基準は0.1(小),0.3(中),0.5(大)とする。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設の倫理審査委員会の承認の元に十分な説明を行い,同意を得た。【結果】FWとBWのピーク値の比較した所,Fx-max2,Fz-max1,Fz-max2,Fz-max3にて有意差があり,効果量も大であった。ピーク値はFWの方がBWより大きい傾向があった。Fy-max1,3とFz-minは有意差がないが,効果量は中であった。Fx-max3とFy-max2においては,有意差がなく,かつ効果量も小であった。【考察】FWとBWのピーク値を比較し有意差と効果量を求めた結果,FWとBWでは前後の動きよりも,左右方向と鉛直方向の動きに差があると考えられ,FWとBWは異なる運動制御のパターンを示す可能性が示唆された。左右方向ではFx-Max2,すなわち遊脚肢のFOの時の立脚肢のピーク値に差があった。これは,Mickelborough(2004)らによる,歩行開始における足圧中心の軌跡の研究で,足圧中心が一度遊脚肢へ移動した後に立脚肢方向へ移動するという,左右の動きが多くなる時とタイミングが一致する。鉛直方向ではFz-min以外に差があり,FWでは足部のロッカー機能を使って身体重心を移動するが,BWでは足部のロッカー機能が働きにくい為,FWとBWのピーク値に差がでたのではと推測する。今回は床反力のみの分析としたが,「歩行開始」においては質量中心,足圧中心なども特徴的なパラメーターを示すため,引き続き分析を行っていく。【理学療法学研究としての意義】病態疾患毎の特性を比較する基礎研究となる。
口述
  • 平田 裕也, 石川 大樹, 堀之内 達郎, 大野 拓也, 八木 貴史, 前田 慎太郎, 福原 大祐, 内田 陽介, 佐藤 翔平, 鈴木 晴奈 ...
    セッションID: 1163
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】楔状開大型高位脛骨骨切り術(Opening wedge high tibial osteotomy;OWHTO)は,骨切り開大時に脛骨結節を引き下げるため,術後合併症の一つとして膝蓋骨低位が報告されている。また膝蓋骨低位は膝蓋大腿関節(PF関節)の関節内圧を上昇させると報告されている。現在,OWHTO後の膝蓋骨低位がPF関節軟骨に与える影響について統一した見解が得られていない。そこで今回我々はOWHTO後のPF関節軟骨損傷と膝蓋骨位置の変化との関連を明らかにした。【方法】対象は,当院で2008年6月から2013年2月までに内側型変形性膝関節症に対しOWHTOを行い,且つ再鏡視し得た46例48膝とした。内訳は男性15例17膝,女性31例31膝,平均年齢63.1±11.9歳,OWHTOから再鏡視までの期間は16.2±3.9ヶ月であった。術式は目標FTAを170°とし,イメージ下にアライメントロッドでMiklicz線が顆間隆起外側を通ることを確認した。骨切り開大部には人工骨を充鎮した。固定材料にはPuddu plateを用いた。全荷重は術後6~8週で許可した。OWHTO時と再鏡視時のPF関節軟骨損傷の程度を比較し,再鏡視時に軟骨損傷が悪化していた症例をA群,軟骨損傷が改善もしくは変化しなかった症例をB群とした。関節軟骨の損傷度はOuterbridge分類を用いて評価した。検討項目は手術時年齢,BMI,プレートサイズ,JOA score,大腿脛骨角(Femorotibial angle:FTA),脛骨後方傾斜角(Posterior tibial slope;PTS),矢状面における膝蓋骨の位置(術前,術後1ヶ月,術後1年)とした。膝蓋骨の位置はBlackburne-Peel index法を用いた。また,統計方法は手術時年齢,BMI,プレートサイズに対してはT検定を用いた。JOA score,FTA,PTS,膝蓋骨の位置はBonferroniを用いて比較検討した。なお,危険率5%未満を有意差ありとした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は佐々木病院の倫理委員会の承認を得て行った。また説明書および同意書を作成し,研究の目的,結果の取り扱いなど十分に説明を行った後,研究参加の意思確認を行った上で同意書へ署名を得た。【結果】各群の内訳は,A群16例16膝(男性7例,女性9例),B群30例32膝(男性8例,女性22例)であった。手術時年齢はA群61.3±13.8歳,B群63.6±10.9歳であった。BMIはA群25.6±3.6,B群26.1±3.9であった。プレートサイズはA群12.9±2.7mm,B群12.5±2.6mmであり,それぞれ有意差を認めなかった。JOA scoreは術前A群65.0±7.6点,B群67.8±10.7点,術後A群88.6±9.0点,B群90.0±10.3点であり,FTAは術前A群182.5±2.2°,B群183.0±2.4°,術後A群170.6±2.0°,B群170.6±1.4°であり,それぞれ両群間では有意差を認めなかった。PTSは術前A群9.2±2.8°,B群9.6±3.0°,術後A群9.5±3.4°,B群9.6±3.3°であり,いずれも有意差はなかった。膝蓋骨の位置を経時的に観察すると,A群は術前0.75±0.19から術後1ヶ月0.60±0.20と減少し(P<0.05),さらに術後1年0.50±0.16と漸減しているのに対し,B群は術前0.64±0.15,術後1ヶ月0.49±0.13,術後1年0.52±0.11で,術前から術後1ヶ月では減少(P<0.01)しているものの術後1ヶ月から術後1年の変化は見られなかった。【考察】今回の結果より,年齢,BMI,プレートサイズ,FTA,PTSはOWHTO術後のPF関節軟骨の変化に影響を与えないことが分かった。OWHTOによって脛骨粗面が外方遠位へ変位するため,術後合併症の一つとして膝蓋骨低位が報告されている。本研究においても術後,両群ともに膝蓋骨が低位になっており,先行研究と一致する結果であった。今回A群では術前と術後1ヶ月,術後1年を比較し術後の経過とともに膝蓋骨低位が進行していた。B群では術前と術後1ヶ月,術後1年で有意に膝蓋骨が低位になるが,術後1ヶ月と術後1年を比較して膝蓋骨の位置はほとんど変化がなかった。このことより,OWHTOにより術後に膝蓋骨低位を生じるものの,その後に膝蓋骨低位が進行しなければ,PF関節軟骨損傷が改善若しくは変化しない可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究によって,OWHTO術後の経時的な膝蓋骨低位の進行がPF関節軟骨損傷の悪化に影響を及ぼす可能性が示唆された。このことは,OWHTO術後における理学療法の一助になり得ると考える。
  • 須貝 勝, 平山 美麻, 間宮 加奈, 谷口 暁代, 瀬尾 大樹, 吉田 哲平, 鶴見 太朗, 永松 康太, 和田 優子, 平田 藍, 齋藤 ...
    セッションID: 1164
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,膝蓋骨脱臼に対して内側膝蓋大腿靭帯(MPFL)再建術が導入されており,概ね良好な結果が得られている。一方,術後リハビリテーションプロトコールについては様々な報告が行なわれており,一定の見解を得ていない。当院では,術後早期より再建靭帯に強度が得られるなどの理由から,人工靱帯を用いたMPFL再建術を行ない,術後早期より膝関節可動域運動等の理学療法を実施している。今回,当院におけるMPFL再建術後の膝関節可動域の完全屈曲獲得日数,ならびに膝蓋骨脱臼再発の有無の調査を行なった。その結果を踏まえた上で,早期膝関節可動域運動実施の妥当性及び安全性について検討したので報告する。【方法】対象は2006年12月~2012年6月までに当院にて人工靭帯(LK-15)を用いMPFL再建術を施行した反復性膝蓋骨脱臼患者のうち,経過を追うことができた17例22膝(平均年齢25.75(±9.92)歳,男性1名1膝,女性16名21膝)である。術中,膝屈曲60°にて再建靱帯を固定し,膝屈曲伸展全可動域にてlength patternを確認している。方法は,術後膝完全屈曲獲得日,術後1年後のCrosby&Install grading system,術前及び術後1年後のapprehension test,ならびに単純X線画像から膝屈曲30°のCongruence angle(正常値-6±11°)を測定し,膝蓋骨脱臼再発有無の調査を行なった。術後リハビリテーションプロトコールは,術後1日目よりQuad setting等の大腿四頭筋エクササイズ開始,3日目より膝屈曲45°からCPM開始し1日5°毎に屈曲角度を拡大する。5日目よりニーブレース装着下での部分荷重歩行及びセラピストによる膝関節可動域運動を開始,12日目よりパテラブレースでの全荷重歩行許可,2週目以降より症状に応じて階段昇降,自転車エルゴメーター,スクワット開始,8週目よりジョギング許可,16週でフルスポーツ許可となっている。【倫理的配慮,説明と同意】対象患者には治療,研究を目的に検査結果を使用することを事前に説明し,本研究の発表にあたり同意を得た。【結果】術後膝完全屈曲獲得日は平均80.9(±62.57)日であった。術後1年後のCrosby&Install grading systemは,Excellent,16膝(72.72%),Good,5膝(22.73%),Fair to poor,1膝(4.55%)であった。Fair to poorの1膝は術後感染による腫脹,疼痛の残存を認めていた。apprehension testは術前では全例陽性であったが,術後1年後では全例陰性となった。膝屈曲30°のCongruence angleは,術前では,平均22.61(±21.50)°であったが,術後1年後では平均-1.70(±17.40)°と正常化した。【考察】当院におけるMPFL再建術後の膝屈曲関節可動域獲得は良好であり,膝蓋骨脱臼再発も認めなかった。生体内の正常MPFLにおいては,膝屈曲60°までが膝蓋骨のstabilizerとして機能しており,MPFLは膝屈曲60°付近で最も緊張し膝蓋骨の制動効果が高いといわれている。また,MPFL再建術後においても,膝屈曲60°以上では再建靭帯にストレスはかからず,膝深屈曲位での5mm程度の緩みはむしろ生理的であり望ましいといわれている。したがって,膝屈曲60°までは再建靭帯へのストレスを考慮する必要があるが,膝屈曲60°以上の関節可動域運動は早期より実施可能であると考えた。本研究の結果,人工靱帯を用いたMPFL再建靱帯後における早期膝関節可動域運動実施の妥当性及び安全性が示唆された。膝蓋骨脱臼の病態は複雑かつ多様であるため,MPFL再建術後の理学療法を実施していく上では,軟部組織や骨形態などの先天的解剖学的因子に加え,内側広筋の筋収縮力や下肢のアライメントなどの膝関節に関わる安定化機構も考慮する必要がある。今回,人工靭帯を用いたMPFL再建術での調査報告であったが,今後,自家腱を用いた場合についても検証していきたい。【理学療法学研究としての意義】MPFL再建術後の理学療法は,膝蓋骨制動機能及び膝蓋骨脱臼の病態を理解した上で,再建靱帯へのストレスを考慮して実施する必要がある。本研究は,MPFL再建術後早期からの膝関節可動域運動実施の妥当性及び安全性を示唆するものである。
  • 板倉 友紀子, 西村 直樹, 熊沢 好悦, 小平 博之, 青木 啓成
    セッションID: 1165
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】人工膝関節置換術(以下TKA)後,創部周囲の皮膚および皮下組織の癒着が膝関節屈曲制限や疼痛の一因であると感じる場面が多い。本研究の目的は,術後早期から皮膚可動性を意識した軟部組織モビライゼーション(以下STM)を施行し皮膚可動性の拡大が膝関節可動域の改善と疼痛に与える有効性を検討することである。【対象と方法】平成25年3月から10月までに両側TKAを施行された7名(全例女性,年齢73.4±5.5歳,BMI25.3±3.4,Kellgren-Laerenc分類:III右3名/左2名,IV右4名/左5名,FTA:右183.1±4.0,左186.7±4.8,術前膝関節屈曲可動域:右130.0±8.7度,左129.3±10.6度,在院日数:26.3±0.8日,全例同一術者により手術が行われmid-vastus approachでPosterior stabilizedの機種を使用)を対象とした。方法はTKAを施行した両側膝関節において右膝関節のみにSTMを実施した。右側を治療側とし左側は非治療側と定義した。手術翌日のドレーン抜去後よりリハビリを開始し,術後13日目までは両側に標準的な理学療法を施行した。術後14日目から20日目までの7日間を治療介入期間とし標準的な理学療法を施行した後,右膝関節のみに皮膚に対するSTMを膝関節屈曲位で5分,伸展位で5分の合計10分間施行した。皮膚可動性の測定方法は,膝関節最大伸展位で膝関節裂隙上5cm(以下膝蓋骨上部),膝蓋骨直上部,膝蓋骨下端と脛骨粗面の中点(以下膝蓋靭帯部)の3カ所にマーキングし,そのポイントを徒手的に近位・遠位方向(以下長軸),内側・外側方向(以下短軸)に移動させ長軸と短軸の移動量をそれぞれ測定した。事前に健常者下肢にて上記部位を測定し,級内相関係数(以下ICC)を算出。検者内信頼性ICC(1,1),検者間信頼性(2,1)ともに測定の信頼性が高いことを確認した。その他,評価項目として治療期間中の膝関節屈曲可動域(仰臥位にて股関節屈曲90度で測定)と安静時痛,動作時痛,荷重時痛をNumeric Rating Scale(以下NRS)を用いて評価した。各評価の術後14日目と20日目の測定値の差を治療期間中の変化量とし,7名の平均変化量を算出した。統計解析はMann-Whitney検定を用いて有意水準は5%とした。【説明と同意】本研究は当院の臨床研究倫理委員会で審議を受け,医学的,倫理的に適切であり,かつ被験者の人権が守られていることが承認されており,ヘルシンキ宣言に沿った研究である。【結果】皮膚可動性の変化量は,膝蓋骨上部は長軸:右9.0±5.6mm,左5.1±3.2mm,短軸:右13.4±5.4mm,左7.4±3.6mm,膝蓋骨直上部は長軸:右4.3±3.2mm,左4.6±2.1mm,短軸:右4.4±2.7mm,左3.5±2.4mm,膝蓋靭帯部は,長軸:右4.9±3.2mm,左2.3±3.9mm,短軸:右5.9±2.5mm,左5.0±2.4mmであった。膝蓋骨直上以外は治療側において皮膚可動性は改善傾向を示し,膝蓋骨上部の短軸においてのみ統計学的に有意な改善を認めた(P<0.05)。膝関節可動域の平均変化量は,右11.4±5.6度,左12.9±4.9度で有意差を認めなかった。疼痛の変化量は,安静時:右-1.0±1.0,左-0.9±1.2,動作時:右-1.3±1.3,左-1.3±1.6,荷重時:右-0.4±0.8,左0.0±1.3であり安静時と荷重時において治療側が軽減傾向にあった。【考察】本研究より皮膚および皮下組織の可動性の改善は治療側において膝蓋骨上部と膝蓋靭帯部で高い傾向にあった。また,安静時と荷重時においては統計学的な有意差を認めないものの治療側が疼痛の軽減が得られる傾向を認めた。これらより,TKA術後の創部周囲の管理においては皮膚および皮下組織の可動性を考慮して行うSTMは有用であると考えられた。しかし,本研究からは皮膚および皮下の可動性の改善が膝関節屈曲可動域の拡大に効果があるとは言えなかった。この理由としては,TKAは関節への侵襲が大きいことから,術後早期においては関節可動域制限の原因が皮膚のみではなく筋,腱,靱帯,関節包等のより深層の組織が影響していると考えられた。【理学療法学研究としての意義】TKA術後早期から皮膚可動性を意識したSTMは,膝蓋骨上部,膝蓋靱帯部の皮膚可動性の拡大に有用である。治療上,皮膚の可動性は疼痛の改善と関係があることが見いだせたことは理学療法の治療技術の発展において意義のあることといえる。
  • 小山 香恵, 家入 章, 石田 和宏, 木村 正一
    セッションID: 1166
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(TKA)後の膝屈曲関節可動域(膝屈曲角)は,術前要因,手術要因,術後要因の影響を受ける。その中でも術前要因について報告したものが多い。術前要因とは,年齢,性別,BMI,JOA score,膝痛,大腿脛骨角(FTA),膝屈曲角,健康関連QOL(HRQOL),患者の精神面を挙げることができる。これらの要因は,複雑に絡み合い術後膝屈曲角という結果に現れる。しかし,これまでの報告はTKA後の膝屈曲角に対し単変量解析による検討が多く,要因間の関係については考慮されていなかった。そのため,これらの全ての要因を含めた上で,TKA後の膝屈曲角に関係する要因を再検討する必要があった。本研究の目的は,TKA後の膝屈曲角に影響すると思われる術前要因を後方視的に調査し,TKA後の膝屈曲角に影響する要因を明らかにすることである。【方法】対象は,2011年4月から13年3月までに内側型変形性膝関節症にて,当院で片側TKAを行い同一術者が執刀した279名のうち除外基準に該当しなかった139例(73.6±7.7歳,男性32例,女性107例,BMI28.4±4.3,術後入院期間20.9±2.7日)とした。術式は全例midvastus approachであった。使用機種は,Nexgen LPS Fixed型(stryker社製)とscorpio NRG型(zimmer社製)であった。除外基準は,当院のクリニカルパスから逸脱,または記録の不備があった者とした。評価項目は,先行研究を参考に術前の年齢,性別,BMI,JOA score,FTA,膝痛,膝屈曲角,HRQOL,患者の精神面とした。さらに膝屈曲角は,術後3日時,1週時,2週時,3週時にも調査した。測定は,日本整形外科学会の方法に準じ,ゴニオメーターを用いて5°単位で行った。疼痛評価は,数値的評価スケール(VAS)を使用した。HRQOLの評価は,SF-36v2を用いた。精神面の評価は,整形外科疾患における精神医学的問題の簡易問診票(BS-POP)を使用した。統計的解析は,正規性の検定にShapiro-Wilk検定,各時期の膝屈曲角の比較にはFreidman検定と多重比較法(Wilcoxonの符号付順位検定をShaffer法で補正)を用いた。Cohenの方法を用いて効果量の算出も行った。効果量は絶対値が0.3未満を効果量小,0.3~0.5未満を効果量中,0.5以上を効果量大とした。術後3週時の膝屈曲角を従属変数,その他の術前要因を独立変数としてステップワイズ法による重回帰分析を行った。多重共線性の有無の判断は,相関係数0.8以上とした。データーの収集と解析は,SPSS ver19.0 for Windows(SPSS Japan Inc)を用いた。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に則り十分な配慮を行い,研究の趣旨および目的,研究への参加の任意性と同意撤回の自由およびプライバシー保護について十分な説明を行い同意を得た。【結果】膝屈曲角の平均は,術前120.3±16.5°,術後3日時81.1±15.0°,1週時96.0±13.4°,2週時112.2±11.0°,3週時120.9±11.1°と術前から術後3週時の間で有意に変化した(p<0.01)。術前から術後3日時は有意に低下したが(効果量r=-0.86,p<0.01),術後3日時から1週時(r=-0.79),術後1週時から2週時(r=-0.83),術後2週時から3週時(r=-0.75)と段階的に著明な改善を示した(p<0.01)。独立変数間の多重共線性を確認した結果,術側膝屈曲角と非術側膝屈曲角の相関係数(r)が0.61と最も高かった。術後3週時の術側膝屈曲角を従属変数とした重回帰分析の結果,術前要因の非術側膝屈曲角(β=0.28,p<0.05),術側膝屈曲角(β=0.21,p<0.05),SF-36v2の心の健康(MH)(β=0.17,p<0.05)の3項目が選択された(R2=0.23)。【考察】TKA後早期の膝屈曲角に影響する術前要因は,非術側膝屈曲角,術側膝屈曲角,SF-36v2のMHであった。これまでの単変量解析による検討でも,影響する要因として術前の膝屈曲角を挙げた報告は多く,本研究はこれらの報告を支持するものである。戸田らは術前の膝屈曲角が術後に影響する原因を術前からの軟部組織の短縮と述べている。今回の検討は術後3週時のため,特に術前の軟部組織の影響が反映されたと考える。また,ElizabethやVissersらは,術前のMHはTKA後の結果に影響すると述べている。本研究でも,術後の膝屈曲角とMHの関係が示されており,TKA患者に対する精神面への配慮が重要であることが再度認識された。さらに,術前の膝屈曲角は,術側に加えて非術側も選ばれた。これは,患者自身が持つ関節柔軟性や術側の膝痛を代償する動作パターンなどが関連していると推測するが,現状では不明な点が多い。今後は,術前の非術側膝関節機能にも注目した検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,TKA後の膝屈曲角拡大を目的とした理学療法を展開するための一助となる。
  • KS-Measureを使用して
    近藤 淳, 沼田 純希, 東 陽子, 永塚 信代, 糟谷 妙織, 井上 宜充
    セッションID: 1167
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】人工膝関節全置換術(TKA)後の膝屈曲において大腿骨のロールバックは重要なキネマティックスの一つである。BanksらによればTKA膝の大腿骨ロールバック量と膝屈曲関節可動域(Range of motion:ROM)には相関があったとされている。大腿骨のロールバックは相対的に脛骨前方移動が起こるため,脛骨前方弛緩性(Laxity)の低下は,膝屈曲ROMを低下させると考えた。今回,後方安定型TKA(PS-TKA)術後患者の脛骨前方Laxityと膝屈曲ROMの関連を検討し,ROM制限の一考察にしたいと考えた。またLaxityの増大は臨床症状悪化が危惧されるため,脛骨前方Laxityと自覚症状との関連も検討した。【方法】対象は当院にてPS-TKA施行された術後患者23名28膝(男性6名,女性17名。平均±SD:術後経過月数9.3±8.4ヶ月・年齢75.3±6.9歳・身長152.4±9.0cm・体重61.4±13.1kg・大腿脛骨角173.7±3.0°)とした。全例BIOMET社TKA(Vanguard-PS)を使用した。脛骨前方Laxityの計測には十字靭帯機能検査機器であるKS-measure(日本シグマックス株式会社)を使用し,膝屈曲20°・50°・80°で15lbsのストレス下で脛骨前方移動量3回計測し平均値を算出した(Anterior tibial translation:ATT)。本研究に先立ち健常成人4名3施行でATT計測の検者内信頼性を検定したところ,級内相関係数は膝屈曲20°が0.93,50°が0.92,80°が0.82であった。膝屈曲ROM測定は自動(A-ROM)・他動(P-ROM)で行い,背臥位で足底を接地したまま膝屈曲しゴニオメーターを使用し測定した。足底と床面の間にはビニール袋を2枚挟み摩擦が一定になるようにした。A-ROMは患者に「足を地面につけたまま膝を出来るだけ曲げてみてください」という指示で自動的に屈曲し計測,P-ROMは脛骨粗面下20cmの部位にHand-held dynamometer(アニマ社製µTas F-1)を使用し,尾側から頭側に40Nのストレスをかけ他動的に膝関節を屈曲し計測した。自覚症状の指標として膝の疼痛VAS(最大10cm)とoxford knee scoreの質問10(0-4点,高い程良好:OXS)「突然膝が抜けるように感じたり,崩れてしまうことはありますか?」を使用し,各角度のATTとの相関を検討した。統計処理に関して各角度でのATTとA-ROM・P-ROM・各臨床症状の相関にスピアマン順位相関係数検定を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院の倫理審査委員会承認(第25-17号)を受け実施した。全ての対象にヘルシンキ宣言に則り倫理的配慮をし,書面で本研究の説明を行い,同意を得た。【結果】各測定の中央値(IQR)は以下の通り。ATTは屈曲20°が5.9(3.6to7.4)mm,50°が6.2(4.4to7.6)mm,80°が4.2(3.3to5.9)mm。A-ROMが110(100to120)°,P-ROMが117.5(105to125)°。疼痛VASが2.5(0.5to3.9)cm,OXSが4(3to4)点であった。統計結果に関して,A-ROMとの関連は屈曲20°(p=0.0128,r=0.48)・屈曲50°(p=0.0044,r=0.55)・屈曲80°(p=0.0003,r=0.7)でのATTと正の相関を認めた。またP-ROMとの関連は屈曲20°(p=0.0123,r=0.48)・屈曲50°(p=0.0062,r=0.53)・屈曲80°(p=0.0002,r=0.72)でのATTと正の相関を認めた。各角度でのATTとVAS・OXSに相関は認めなかった。【考察】今回の結果からPS-TKAでは脛骨前方Laxityが膝自他動屈曲ROMに重要な因子の一つであることが示唆された。これは膝屈曲ROM拡大に重要な大腿骨ロールバック時の,相対的な脛骨前方移動が関与しているためと考えた。YoshiyaらによればPS-TKAはPOST-CAM機構があるため,強制的に大腿骨のロールバックを引き起こし,一様にロールバックが見られる傾向にあったとされている。今回PS-TKAに限定したことも,相関を認めた要因であると考えた。各角度での検討では,屈曲80°でATTとROMに0.7以上の強い相関を認めた。PS-TKAはPOST-CAMエンゲージ後,強制的に大腿骨ロールバックを生じさせる。対象に使用されている機種のエンゲージ角度は屈曲45°で設定されている。そのため20°,50°に比べ80°屈曲位ではエンゲージしている可能性が高く,80°以上屈曲する際には大腿骨ロールバックが確実に生じることが考えられる。それが屈曲80°で強い相関を認めた要因であると考えた。膝疼痛VASやOXSはATTとの相関を認めなかった。今回の対象のATTの程度であれば,ATTの疼痛や膝崩れへの影響は少ないことが示唆された。【理学療法研究としての意義】今回の結果ではPS-TKAにおいて膝屈曲80°での脛骨前方Laxityの確保が膝自他動屈曲ROMの拡大に特に重要であることが示唆された。また脛骨前方Laxityと臨床的な自覚症状との関連は認められなかった。
  • 西上 智彦, 辻下 守弘, 竹林 直紀
    セッションID: 1168
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】線維筋痛症,複合性局所疼痛症候群及び慢性腰痛症などの難治性疼痛に対する理学療法は難渋することが多い。これらの難治性疼痛症例の痛みの要因には末梢組織器官だけではなく,中枢神経系の変調が大きく関与していることが明らかになっており,段階的な運動イメージトレーニングや認知行動療法などの中枢神経系の変調の改善を目指した治療が報告されている。しかし,これらの治療も効果が限定的であることが報告されている。近年,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いたリアルタイムfMRIを用いて中枢神経系の変調に対して直接的にアプローチを行うニューロフィードバックが注目されている。deCharmsらは前帯状回によるリアルタイムfMRIニューロフィードバックが自律神経訓練よりも慢性疼痛患者の痛みの改善に効果的であったことを報告している。この研究ではfMRIを用いており,fMRIは機器が高価であることや医師や放射線技師などの限られた職種しか臨床で用いることはできないなどの臨床汎用性に問題がある。比較的安価であり,理学療法士でも使用可能な脳波は,近年,Low-resolution electrical topographic analysis(LORETA)解析という解析によって大脳辺縁系の部位特定が可能になっている。今回,10年来腰背部の痛み及び両下肢の不快感にとらわれていた難治性疼痛症例に対してニューロフィードバックを行ったところ,両下肢の不快感の著明な軽減が認められたので報告する。【方法】対象は主訴が腰背部痛と両下肢の不快感である30代男性であった。腰痛は10年前に特に誘因なく発症し,両下肢の不快感は8年前腰神経ブロック施行後に両下肢に出現した。MRI及びレントゲンにて異常所見は認められなかった。これまでに複数の医療機関を受診したが十分な効果は認められなかった。初期評価時のNumeric Rating Scale(NRS)は腰背部の痛みが3,両下肢の不快感が10であった。Roland-Morris Questionnaire(RDQ)は6であり,Pain Catastrophizing Scale(PCS)は49であった。まず,健常者の脳波のデータベースとの比較検討を行うために,閉眼安静時にて3分間計測を行った。脳波計はDiscovery 24E(Brain Master Technologies, Inc.)を用い,電極位置は国際10-20法を参考にした19部位とした。解析ソフトはNeuroGuide(Applied Neuroscience社製)を用いて行った。δ帯,θ帯,α帯,β帯,High β帯の周波数解析を行い,ソフト内に組み込まれている健常人の性別,年齢をマッチングさせたデータと比較した。同様に,ソフト内に組み込まれているLORETA解析によって,各脳領において健常人との比較を行った。脳波測定の結果,前帯状回のα帯において健常者より高値が認められた。この前帯状回をターゲットとして,BrainAvatar(BrainMaster社製)を用いて,ニューロフィードバックを週1回1時間を4週間行った。ニューロフィードバック時の言語教示はdeCharmsらの方法を参考にして,「痛み刺激に注意を向けてください,次は注意をそらしてください」,「痛み刺激を制御するようにして下さい」とした。介入4週間後にBRS,RDQ,PCSについて再評価した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は甲南女子大学倫理委員会の承認を得て行った。対象者には事前に研究目的と方法について口頭で十分に説明し,同意が得られた。【結果】腰背部痛のNRSは介入前後ともに3であった。両下肢の不快感のNRSは介入前の10から介入後には3となった。RDQは介入前の6から,介入後には4となった。PCSは介入前の49から,介入後には31となった。【考察】今回,10年来の腰背部痛及び両下肢の不快感によって,ドクターショッピングを繰り返していた症例に対してニューロフィードバックを行ったところ,腰背部痛は変わらないものの両下肢の不快感は著明に軽減した。前帯状回は痛みに伴う不快感に関係していることから,本研究において前帯状回のニューロフィードバックを行った結果,前帯状回の脳活動が制御可能となり両下肢の不快感が減少した可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】脳波にて脳の深部にある前帯状回のニューロフィードバックが可能であり,今後,通常の理学療法に抵抗する難治性疼痛症例に対しての一治療法としてニューロフィードバックが有効な可能性なことを示唆した点。
  • 内川 智貴, 坂野 裕洋, 佐々木 翔矢, 中村 郁美, 豊田 慎一, 柳瀬 準
    セッションID: 1169
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】理学療法では,筋スパズムに代表されるような反射的に引き起こされる骨格筋の過収縮によって,骨格筋の伸張性が低下して関節可動域制限の原因となる場合がある。このような場合には,脊髄前角細胞の抑制やリラクセーション,筋血流の改善や軟部組織の伸張性向上を目的に,温熱,寒冷,振動刺激などの物理刺激やストレッチなどが行われる。しかしながら,これらの介入方法を比較し,その有用性について検討している報告は少ない。そこで本研究では,骨格筋の伸張性改善を目的とした理学療法介入効果に関する基礎研究として,健常者の下腿三頭筋を対象に,温熱,寒冷,振動刺激といった物理刺激やストレッチが脊髄前角細胞の興奮性やstiffness,stretch toleranceに及ぼす影響について比較検討した。【方法】対象は,下肢に神経障害の既往がない健常大学生20名(男性12名,女性8名,平均年齢21.7±1.1歳)とした。対象部位は右下腿三頭筋とし,介入条件は無処置の対照条件,ホットパックによる加温を行う温熱条件,アイスパックによる冷却を行う寒冷条件,振動刺激装置を用いてアキレス腱部に振動刺激を加える振動刺激条件,膝関節伸展位で下腿三頭筋を持続的にストレッチするストレッチ条件の5条件を設定し,24時間以上の間隔を空けて実施した。なお,実験室の室温は25℃とした。介入ならびに測定肢位は,腹臥位にて膝伸展位,足関節軽度底屈位とした。実験は,安静10分,介入10分,回復10分の計30分とし,介入直前,介入直後,介入10分後に測定を行った。測定項目は,脊髄前角細胞の興奮性の指標としてヒラメ筋のH/M比,下腿三頭筋の剛性と伸張に対する耐性の指標としてstiffnessとstretch toleranceを測定した。なお,統計学的解析にはKruskal-Wallis検定を用い,有意差を認めた場合には,事後検定としてWilcoxonの符号順位和検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言(ヒトを対象とした医学研究倫理)に準じて行い,全対象者には研究の趣旨を文書及び口頭にて説明し,研究参加に対する同意を得た。【結果】H/M比は,振動刺激条件のみ介入直前と比較し,介入直後に有意な低下を認めた。また,介入直後の振動刺激条件は,対照条件と比較して有意に低値であった。stiffnessは,ホットパック条件とストレッチ条件において介入直前と比較し,介入直後に有意な低下を認め,ストレッチ条件では介入10分後まで有意な低下を維持していた。また,介入直後のホットパック条件とストレッチ条件は,対照条件と比較して有意に低値であった。stretch toleranceは,ホットパック条件とストレッチ条件において介入直前と比較し,介入直後に有意な増加を認め,ストレッチ条件では介入10分後まで有意な増加を維持していた。また,介入直後と介入10分後のホットパック条件とストレッチ条件は,対照条件と比較して有意に高値であった。【考察】本研究結果から,H/M比は振動刺激のみで刺激直後に低下する事が明らかとなった。これは,アキレス腱に加えられた振動刺激によって,微小な筋長の変化を筋紡錘および腱紡錘が感知し,その情報がIa,Ib,およびII感覚線維に伝えられ,介在神経を介したシナプス前抑制によってα運動神経が抑制されたためと考えられる。しかしながら,振動刺激では骨格筋のstiffnessやstretch toleranceが変化しなかった事から,健常者では筋スパズムに代表されるような反射的に引き起こされる骨格筋の過収縮の影響が少ないため,脊髄前角細胞の抑制が骨格筋のstiffnessやstretch toleranceに影響しなかったと推察される。一方,骨格筋のstiffnessやstretch toleranceについては,ホットパックによる加温や持続的なストレッチが有効であることが明らかとなった。これは,加温による血流動態の変化や熱感覚入力,持続的な張力負荷による骨格筋の形態的変化などによってもたらされた可能性が推測される。【理学療法学研究としての意義】理学療法では,筋スパズムに代表されるような骨格筋の過収縮によって,その伸張性が低下し,関節可動域制限の原因となる場合があり,一般的には,脊髄前角細胞の抑制やリラクセーション,筋血流の改善や軟部組織の伸張性向上を目的に,温熱,寒冷,振動刺激などの物理刺激やストレッチなどが行われる。しかしながら,これらの介入方法を比較し,その有用性について検討している報告は少ない。本研究は,骨格筋の伸張性改善を目的とした理学療法介入効果に関する基礎研究であり,その結果は骨格筋の過収縮やそれに伴う伸張性低下,関節可動域制限に対する介入方法の選択に際して有益な情報を提供する。
  • 効果量(Effect Size)による検討
    井上 雅之, 井上 真輔, 中田 昌敏, 西原 真理, 新井 健一, 池本 竜則, 河合 隆志, 宮川 博文, 長谷川 共美, 下 和弘, ...
    セッションID: 1170
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】外来治療に難渋する慢性痛患者は,痛みと局所部位との関連性が低いケースが多く,また痛みの長期化による心理的負荷や社会的要因が混在し,病態をより複雑なものにしている。このような慢性痛患者に対し,痛みに対する多角的評価および認知行動療法に基づく多職種による学際的アプローチが推奨されている。我々は平成23年より,愛知医科大学学際的痛みセンターと運動療育センターとの共同で,学際的アプローチによる,認知行動療法と運動療法を基盤としたグループプログラムを,「慢性痛教室」の名称で実施している。このプログラムは,欧米諸国で実施されているグループプログラムを参考として立案したものであり,これまでに良好な成績を得ている。第48回日本理学療法学術大会において,本プログラムの有効性について報告したが,今回,効果の大きさを分析することを目的として,改善を認めた評価項目について効果量(Effect Size)を用いて検討したので報告する。【方法】対象は,平成23年10月から平成25年9月までに開催された本プログラムの参加者37名(男性13名,女性24名),平均年齢66.2歳(34~81歳)である。1グループの定員は5~7名とし,週1回,全9回のスケジュールで実施した。プログラムは,痛みのメカニズム,ペーシング,睡眠,栄養などについての講義(30分),リラクセーション,ストレッチング,自重負荷による筋力強化エクササイズ(30分),エルゴメーターを使用した有酸素エクササイズ(10分),歩行を中心とした水中エクササイズ(30分)から構成される。講義は医師(整形外科,精神科,麻酔科),理学療法士,管理栄養士が担当し,適宜グループミーティングを交えて行った。また運動指導は医師(整形外科),理学療法士,トレーナーが担当した。本プログラム開始時と終了時に下記の評価を実施し,各評価項目の変化および効果量について調査,検討した。痛みの評価は,痛みの強さ:Visual Analog Scale(VAS),ADL:Pain Disability Assessment Scale(PDAS),精神・心理:Hospital Anxiety and Depression scale(HAD不安,HAD抑うつ),Pain Catastrophizing Scale(PCS),QOL:EuroQol 5 Dimension(EQ-5D),自己効力感:Pain Self-Efficacy Questionnaire(PSEQ)などの質問票を使用した。また身体機能評価は,体重,長座体前屈(前屈),開眼片脚立位保持時間(片脚立位),10mジグザグ歩行(10m歩行),起居動作テスト(起居動作),身辺作業能力テスト(身辺作業),6分間歩行距離(6MD),開眼立位重心動揺検査(重心動揺),等尺性体幹屈曲・伸展筋力,等尺性膝屈曲・伸展筋力などを計測した。統計学的処理は,各評価項目の前後比較に対応のあるt検定を使用し,危険率を5%未満とした。また効果量は,Cohenの方法を使用して差の大きさを表す指標であるdを算出した。【倫理的配慮,説明と同意】参加者は全て愛知医科大学痛みセンターを受診する患者であり,本プログラム参加に先立ち,主治医から,1)教室内容,2)安全に十分に配慮して実施すること,3)参加者の個人情報の保護に関する事項等に関し,十分な説明を行った後,参加同意を得た。【結果】プログラム前後において,痛みの評価では,VAS,PDAS,HAD不安,HAD抑うつ,PCS,EQ-5D,PSEQに有意な改善を認めた(p<0.05)。また身体機能評価では,体重,前屈,10m歩行,起居動作,身辺作業,6MD,重心動揺に有意な改善を認めた(p<0.05)。これら有意な改善を認めた項目のうち,PDAS,身辺作業は効果量大(0.8≦d)を示し,VAS,HAD抑うつ,PCS,EQ-5D,PSEQ,起居動作,6MDは効果量中(0.5≦d<0.8)を示した。また,HAD不安,前屈,10m歩行,重心動揺は効果量小(0.2≦d<0.5)を示した。【考察】慢性痛患者は,痛みに対する認知の歪みから,過度の安静による活動量の減少や,運動に対する恐怖が生じやすいとされる。そのため,不安や抑うつ傾向などの精神・心理機能の低下,QOL,ADL,全身持久力,筋柔軟性および筋力などの低下を認めることが多く,本プログラム参加者においても同様の傾向であった。今回,学際的アプローチによる,認知行動療法に基づく講義と運動療法を組み合わせたことで,痛みに対する合理的な認知の構成や,適切な痛みへの対処法を習得し,運動に対する恐怖が軽減したと推察する。これに加えてグループの力動による継続効果も作用し,精神・心理機能の改善,全身持久力およびADLなどの向上を認め,二次的に痛みの改善に繋がったと推察する。【理学療法学研究としての意義】本研究は,難治性の慢性痛患者に対する学際的グループプログラムの有効性や効果の大きさを明らかにしたものであり,今後の慢性痛患者に対する治療アプローチの一助になるものと考える。
  • 宇野 彩子, 城 由起子, 松原 貴子
    セッションID: 1171
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】痛みは一感覚というだけでなく情動的ならびに認知的側面など多面性を有している。特に慢性痛は情動・認知的側面が色濃く反映される病態であり,また精神心理社会的因子によりその病態は複雑化している可能性が指摘されている。近年,このような慢性痛に対し運動療法が主観的疼痛や身体機能を改善させるとの報告は多く(Balague 2012, van Middelkoop 2011),中でも,個別にデザインされたプログラムをホームエクササイズとしてセラピストによるフォローアップの下で行うsupervised exercise therapyが有効であるとされている(Koes 2010, Hayden 2005)。しかし,このような運動療法の効果における患者の情動・認知的側面や精神心理社会的因子の関与についての報告はほとんど見受けられない。そこで,運動器慢性痛患者を対象に,運動療法による疼痛改善効果と精神心理社会的因子の関係性について検討した。【方法】対象は,3か月以上続く膝または腰の痛みにより当院を受診した外来患者22名(男性2名,女性20名,平均年齢59.7±19.0歳)で,そのうち膝痛9名(女性9名,平均年齢70.4±14.3歳),腰痛13名(男性2名,女性11名,平均年齢52.2±18.6歳)であった。なお,明らかな外傷や急性痛症状,神経症状を呈する者,手術の既往がある者は除外した。すべての対象者にsupervised exercise program(セラピストの管理下で個別にデザインした運動プログラムをホームエクササイズとして実施)を1か月間実施した。なお,セラピストによるフォローアップは週1回のペースで行い,その都度フィードバックにもとづき運動プログラムを修正し実施させた。評価項目は,膝または腰の主観的疼痛強度(visual analogue scale:VAS),疼痛関連機能障害(pain disability assessment scale:PDAS),さらに精神心理因子として不安・抑うつ(hospital anxiety and depression scale:HADS)とカタストロファイジング(pain catastrophizing scale:PCS,下位尺度:反芻,無力感,拡大視),社会的因子として家庭内役割,社会参加および同居家族の有無とした。得られた値から,介入1か月後のVASが介入前の20%以上減少した者(改善群)としなかった者(非改善群)に分類し,各項目について比較検討した。統計学的解析は,各項目の群間比較をMann-WhitneyのU検定またはχ2検定,経時変化の比較をWilcoxonの符号付き順位和検定にて行った。なお有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】すべての対象者には,ヘルシンキ宣言にもとづき研究内容,個人情報保護対策,研究への同意と撤回について説明し,同意を得た。また,研究の実施に際しては,安全管理および個人情報保護に努めた。【結果】改善群は非改善群に比べ介入前にHADSの抑うつが有意に高値であり,社会参加をしている者,同居家族がいる者が多い傾向を示した。また,1か月間の介入により改善群ではPDASおよびPCSの全下位項目で有意な改善を示した一方,HADSは変化しなかった。非改善群では全項目で変化を認めなかった。【考察】改善群ではsupervised exercise programを実施することで1か月の短期間に主観的疼痛強度,身体機能とともにカタストロファイジングも改善したことから,運動療法は疼痛のとらえ方を変化させることで疼痛認知を是正し疼痛抑制効果をもたらす可能性が示唆された。一方,1か月間の短期介入では疼痛情動に変化をもたらすまでには至らなかった。また,非改善群に比べ改善群は社会参加をしている者や同居家族のいる者が多かった。慢性痛有訴者では,独居者の比率が高いこと(井上2012),また,社会・家族からの孤立や支援の過少・過多,失職・職場問題,生産性喪失などの社会的問題を抱えていること(Alon 2012)などが報告されており,社会的因子が痛みのみならず身体機能や情動・認知にさまざまな影響を与え,慢性痛の病態をより複雑化させることが推察される。今回の結果から,運動療法による疼痛改善効果も,慢性痛患者の社会的因子による影響を受ける可能性が示唆された。これらのことから,慢性痛のマネジメントにおいては,患者の身体機能のみに注視することなく,疼痛情動・認知に焦点を当て,さらに精神心理社会的問題の改善に向けた治療介入が必要であると考えられた。【理学療法学研究としての意義】運動器慢性痛に対する運動療法が痛みの精神心理社会的因子への影響を含め多面的かつ包括的なアプローチとして疼痛関連障害の改善をもたらす可能性を示したことは興味深く,精神心理社会的アプローチを含め構成される運動療法プログラムが有効な慢性痛治療法構築の一助となりうることを提案できた点で本研究は非常に意義深いと考える。
  • ―栄養学的因子も含めて―
    佐藤 陽一, 池沢 里香, 野崎 琴美, 吉田 祐文
    セッションID: 1172
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】疼痛は主観的な知覚体験であり,様々な因子が関連する。近年では,認知的因子や精神的因子の影響が注目されている。特に整形外科領域において,先行研究(平川ら2013)では術後痛に対してこれらの因子が影響を及ぼすと報告されている。一方,この認知・精神的因子は栄養状態と関連があるとされる(石岡ら2013)。臨床的にも手術に伴う種々のストレスから,食事摂取が進まずに低栄養に陥る症例を少なからず経験する。我々はこのような低栄養症例は比較的術後痛が強いという印象を抱いている。しかし現状では術後痛と栄養状態との関連性についての研究は少ない。そこで今回の目的は,術後痛に対して影響を与える因子を,先行研究で報告されている認知・精神的因子に栄養学的因子を加え,調査することとした。【方法】対象は当院にて2012年11月~2013年10月に大腿骨近位部骨折により入院し,手術を施行した50例(男性11名,女性39名,平均年齢78.7±13.9歳)である。評価項目は術後痛をVisual analog scale(VAS),認知的因子をNeglect-like symptoms score(NLS-s),精神的因子をPain Catastrophizing Scale(PCS),栄養学的因子を血清総蛋白(TP),簡易栄養状態評価表(MNA-SF)とし,それぞれ術後3週目で評価をした。術後痛に関しては,術創部の1日の中で最も強い疼痛について評価した。またPCSはその下位項目である反芻,無力感,拡大視に分けて検討した。それぞれの評価は同一検者が行った。統計処理はVASと各評価項目との相関関係をSpearmanの順位相関係数により求めた。またVASを従属変数,その他の評価項目を独立変数としたステップワイズ重回帰分析を行った。なお多重共線性を考慮して,独立変数間で相関係数が高い項目(rs>0.8)に関しては,VASとの相関係数がより高い項目を独立変数として選択した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に対して事前に研究の趣旨を説明し,同意を得て実施している。【結果】VASと各評価項目との相関係数を算出した結果,NLS-sがrs=0.87(p<0.01),反芻がrs=0.86(p<0.01),無力感がrs=0.73(p<0.01),MNA-SFがrs=-0.67(p<0.01),TPがrs=-0.28(p<0.05)と相関関係を認めた。また各独立変数間での相関係数を算出した結果,いずれの独立変数間においても高い相関係数は算出されず,すべての項目が独立変数として選択された。これを踏まえてステップワイズ重回帰分析を行った結果,反芻(β=0.39 p<0.01),MNA-SF(β=-0.29 p<0.01),NLS-s(β=0.22 p<0.01),無力感(β=0.22 p<0.01)が抽出された(R2=0.88)。なお今回の対象者には,術後3週目において創部のナートや消毒等の処置が必要な者はいなかった。【考察】今回の結果から,術後痛には認知・精神機能に加え,栄養状態も関与することが分かった。認知・精神機能については先行研究(平川ら)を支持する結果となった。一方,今回明らかになった栄養状態の関与だが,これは栄養が創傷治癒に対して影響を与えるためと考えられる。一般的に,術後痛の要因として創部の状態が大きく関与する。この創部の治癒は,先行研究(Guoら2010)において低栄養状態にある患者ほど遅延が生じると報告されている。つまり低栄養に陥ることで創部の治癒に遅延が生じ,結果として術後痛に悪影響をもたらすと考えられる。今回の症例では外見上,創傷治癒が遅延した例はいなかったが,ミクロな視点で見ると回復の程度に差が生じていた可能性が推測された。一方,重回帰分析の結果,TPが排除されMNA-SFが抽出されたが,これにはアルブミンの半減期の影響が考えられる。つまりアルブミンは半減期が2~3週間であり鋭敏に栄養状態を反映しないため,十分に術後痛を予測し得なかったと考えられる。そのためラボデータのみで低栄養評価を行うのではなく,包括的栄養評価法も含めた低栄養評価が重要になると思われる。今後の課題として,手術による侵襲は術式により大きく異なるため,術式ごとに術後痛の状況を考察していく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】今回の結果から,術後痛に対して認知・精神機能のみならず,栄養状態も影響を与え得ることが分かった。また栄養状態の評価においても,より包括的な評価が重要であると分かった。これらを踏まえ,我々が術後患者に介入していく上で,身体機能のみならず,認知・精神機能や栄養状態まで含めて多面的に評価していく必要性が示唆された。
  • ―端座位プッシュアップ能力と移乗動作の関係性に着目して―
    本多 佑也, 賀好 真紀, 植田 尊善
    セッションID: 1173
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脊髄損傷者にとって自動車運転の獲得は復学・復職や余暇活動の充実などQOL向上に繋がる。中でも頸髄損傷者では上肢・体幹機能の障害により自動車への移乗が困難となることが考えられる。しかし頸髄損傷者の自動車への移乗動作自立までの過程を追った報告は少ない。今回,端座位プッシュアップ能力(臀床間距離,プッシュアップ保持時間),物的介助量と自動車への移乗動作の関係性に着目して動作練習を行い,自立までの経過観察が可能であった1症例を報告する。【方法】症例紹介:20代男性。受傷前職業は製造業。スノーボード中に3m下へ転落し受傷。診断名は第6頸椎涙滴型骨折。経過日数は受傷日を1日目とし,PT初回評価時(3日目)の身体計測は身長176cm,体重56kg,BMIは18.0で痩せ型。改良Flankel分類A,Zancolli分類C6BI/C6BIII。ROM-Tは左肘関節伸展-10°,感覚機能はC7領域以下脱失,MMTは手根伸筋3/3・上腕三頭筋0/1・以下0。評価項目:端座位プッシュアップ時の臀床間距離(座面から坐骨までの距離),プッシュアップ保持時間,移乗動作の所要時間,物的介助量(①トランスファーボード・②頭部保護枕・③ヘッドギア)を計測した。評価期間:初回時から2週間ごとに12週目まで計7回の計測を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本報告は当院倫理委員会の承認を得て,症例には書面にて趣旨を十分に説明し,同意を得た上で計測を行った。【結果】プッシュアップ時の臀床間距離は0cm→3.5cm→6.0cm→8.0cm→14.5cm→17.5cm→20.5cm,プッシュアップ保持時間は0秒→1.0秒→1.2秒→10.0秒→15.6秒→20.0秒→20.5秒へ向上。移乗動作の所要時間は12分→12分→8分→5分→6分→2分→1分,物的介助量は①・②・③→①・②→①・②→①→①→①→物的介助不要へ減少。移乗動作に関して,初回は自動車に左下肢を上げ,左上肢をトランスファーボード,右上肢をレッグパイプに付き,頭部をドアに当てた3点支持で行い,トランスファーボード上を滑るように臀部を移動した。2・4週では両上肢・頭部の3点支持にて行い,車いすから運転席まで3回のプッシュアップで臀部を移動した。6週目にはZancolli分類C6BIII/C6BIIIとなり,MMTは手根伸筋5/5・上腕三頭筋2/4と運動機能も向上。移乗動作は両上肢の2点支持となり,臀部の移動回数も2回となった。8・10週目からは車いす座面+5cmの運転席へ移乗を実施。移乗方法に変化はなく,臀部の移動回数は8週目3回,10週目2回となった。12週目では車いす座面+20cmの運転席へ移乗を実施。両下肢をフットレストに載せた状態で左上肢を運転席,右上肢をレッグパイプに付いた2点支持でプッシュアップを行い,臀部を運転席へ移動。臀部の移動回数は2回であった。【考察】今回,20歳代男性の頸髄損傷者において端座位プッシュアップ能力と介助量,自動車への移乗動作の方法について評価を行った。動作練習を重ねるごとに臀床間距離の拡大,プッシュアップ保持時間が延長した要素として,症例は20男性,痩せ型でありプッシュアップ動作に有利な体格であったこと,合併症がなく円滑に動作練習が進行したことがあげられる。またプッシュアップ能力向上を目指し,三角筋・大胸筋・前鋸筋・上腕三頭筋の重点的な筋力強化,体幹に重錘を巻いてのプッシュアップ練習などのアプローチを行った。その結果,6週目から臀床間距離及びプッシュアップ保持時間が大きく向上した。これは上記の筋力が向上した事により,肘のロッキングが十分に可能となり,プッシュアップバランスが向上したためと考えられる。このように安定したプッシュアップを獲得することで臀部をより高く,遠くへ移動することができるようになり,臀部の移動回数が減少したことで所要時間の短縮・高い座面の運転席への移乗が可能となったと考える。このことからプッシュアップ能力の向上が自動車移乗動作自立の大きな要因の1つであることが推察された。また移乗練習開始時では臀床間距離0cm,プッシュアップ保持時間0秒であっても,頭部の支持やトランスファーボードの使用など環境設定を行うことで自動車への移乗は可能であった。本症例は痩せ型の若年男性で,プッシュアップに有利な体格であったが,プッシュアップ能力の低いC6BIレベルや女性の頸髄損傷者であっても身体機能にあった自動車の選定,物的介助の利用,頭部支持など適切な指導を行うことにより,自動車への移乗自立の可能性があることも推察された。【理学療法学研究としての意義】本報告を通じて自動車への移乗動作開始時の環境設定,指導法など治療者側への一助となることを期待する。今後は多症例で損傷レベル,性別,体格などの詳細な分析を行い,自動車運転獲得の要因を明確にすることで頸髄損傷者のQOL向上に繋がると考える。
  • 安岡 良訓, 坪井 宏幸
    セッションID: 1174
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】頸髄損傷者(頸損者)はいかに残存機能を活かして基本動作及び日常生活動作を獲得するかが課題であり,教科書や文献などで損傷レベルに応じた方法が提示されている。Zancolliの分類C6B1頸損者の場合では,側方移乗の達成率が7.7%,自動車への移乗が38.5%と報告されている。従って,画一的な方法では同じ損傷レベルであっても身体能力や体型といった個人差により動作の獲得に影響を及ぼすことが伺える。今回,C6B1レベルの頸損者において,教科書等に記載される画一的な動作方法では自動車への移乗が困難であったが,移乗時に加工した鉄製パイプを使用することにより,自動車への移乗が自立した症例を経験したのでその工夫を踏まえて報告する。【方法】症例は23歳の男性。平成18年にプールへの飛び込みによりC5・C6骨折を受傷し,C4-C7頸椎前方固定術,椎弓形成術,C5・C6椎弓切除術を施行した。急性期病院から回復期リハビリテーション病院を経て,平成20年に介護付き住宅に退院となった。平成21年12月に運転補助装置を設置した自動車を用いて自動車免許を取得した。自動車免許を取得した際の現症は,機能的残存レベルはZancolliの分類C6B1,Frankelの分類Aであった。徒手筋力検査では,三角筋は両側共に5レベル,上腕二頭筋は右側が4+,左側が5レベル,橈側手根伸筋は右側が4-レベル,左側が4レベル,大胸筋は右側が2-レベル,左側が3レベル,橈側手根屈筋及び上腕三頭筋は両側共に0レベルであった。プッシュアップ動作は端座位の状態で,頭部・体幹を介助者が支えることにより約5mm程度可能であった。車椅子駆動は自立しており,移乗は前方・側方共に中等度の介助を要した。自動車(運転席)への移乗はトランスファーボードを使用してC6頸損者に推奨されている頭部を利用した側方移乗を練習したが,殿部の離床が困難なことから,車椅子のスカートガードを超えられず,また,その際に車椅子からずり落ちる危険性も高かった。尚,本症例の運転席は電動且つ可倒式サイドサポート付きシートであった。従って,自動車の運転席に移乗する際に殿部を離床するための解決策を検討し,残存機能で殿部が離床可能となるよう独自の器具を作製することにした。器具は鉄製パイプを加工して作製した。工夫した点は肘関節屈曲の作用により殿部が離床できるように,①鉄製パイプの中央は前腕が固定出来るように加工し,②運転席のドア(右ドア)を開けた際にパイプの両端がハンドルとドアノブにはまり込むように末端を加工した。【倫理的配慮,説明と同意】症例及びその家族に対し,発表の旨を口頭及び書面で十分に説明し,同意を得た。【結果】加工した鉄製パイプを使用することにより,一人で殿部が離床できるようになり,さらに運転席の座面に浅く座ることが可能となった。運転席に浅く座ってからは左上肢による座面のプッシュアップと右手で鉄製パイプを把持した状態からの肘関節屈曲により殿部を少しずつ浮かせながら運転席の中央までいざることが可能となった。最後に以前から設置されていた電動シートを調整することで最終的な姿勢の修正を行うことができた。これらの動作を反復して行うことにより,徐々に動作が上達し,移乗動作の練習を開始してから4ヶ月で自立に至った。その後,独りで自動車を利用し出かけられるようになり,生活範囲が広がった。【考察】本症例がC6頸損者に推奨されている頭部を利用した側方移乗を行えなかった主要因は,プッシュアップを行う残存筋の筋力不足と考える。従って,殿部の離床を行う上で,プッシュアップ動作に代わり,比較的筋力の強い肘関節屈筋を活かした方法を見出したことが自動車への移乗の獲得に大きく関与したと考える。また,この方法の特徴を活かすことでC6B1レベルの頸損者における自動車への移乗の達成率が向上する可能性がある。【理学療法学研究としての意義】頸損者は基本動作及び日常生活動作の達成度が低い。しかし,今回の報告のように残存機能を最大限に発揮できる新たな工夫を見出し,成功例を紹介することは,動作の獲得に難渋する症例の一助となる。
  • 長谷川 道子
    セッションID: 1175
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】近年,頸髄不全損傷による四肢不全麻痺を呈する者が増加しているという報告が多く出されており,障害者支援施設である当センターにおいても同様の状況である。ケースによって麻痺の程度は大きく異なるが,今回は利用期間中の改良Frankel分類がC1から変化がなかったケースに着目した。リハビリテーションを進めていく上で,ADLを順調に獲得できるケースとできないケースに明らかに二分されるという印象を持ったからである。そこでADLの基本となる車椅子-ベッド間の移乗動作の可否で分類して調査と検討を行ったため,ここに報告する。【方法】平成15年4月から平成25年3月までに当センターを利用開始し終了した頸髄不全損傷者20名(男性,利用期間中の改良Frankel分類がC1から変化なし)を対象とした。その20名を車椅子-ベッド間の移乗動作が自立した者(以下,自立群,10名),自立できなかった者(以下,非自立群,10名)に分け,カルテ記録から後方視的調査を行った。調査項目は,利用開始時年齢,損傷高位,利用開始時のASIA motor・touch・pin score,合併症,在宅を含む経由医療機関数,受傷から利用開始までの期間,常用する車椅子の種類とした。合併症と常用する車椅子の種類以外の項目についてはT検定を用いて分析を行い,危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮】データ収集及び分析を行う際は,ヘルシンキ宣言及び個人情報保護に留意し,個人が特定できない処理を行った。【結果】以下の数値は自立群/非自立群とする。利用開始時年齢は36.4±15.9才/47.2±12.2才だった。損傷高位はC2が1/0,C3が0/1,C4が0/5,C5が1/3,C6が7/1,C7が1/0だった。ASIA motor scoreは40.0±8.6/29.0±16.9だった。ASIA touch scoreは63.1±15.9/51.8±19.5だった。ASIA pin scoreは58.0±9.3/48.0±18.0だった。合併症は重複しているケースがいるがOPLLが2/2,脊柱管狭窄症が0/1,糖尿病・高血圧等の内科的疾患が2/2,無しが5/6だった。在宅を含む経由医療機関数は3.4±1.3ヶ所/2.8±0.9ヶ所だった。受傷から利用開始までの期間は19.2±17.7か月/21.6±14.2か月だった。常用する車椅子の種類は手動車椅子が10/4,簡易電動車椅子が0/6だった。分析の結果,有意差が認められたのは損傷高位のみであった(P<0.05)。【考察】当センターの利用者は,複数の医療機関や中には在宅生活を経験してから利用開始となるため,受傷してからの期間が長期となる。最短は8か月で自立群の4名だったが,最長も同じく自立群の62か月であった。その間,どのようなリハビリテーションを受け,どのような生活を送ってきたのかは,ケースによって大きなばらつきがある。したがって今回着目した利用期間中の改良Frankel分類がC1で変化がなかったという大きな共通点はあるものの,利用開始時というスタートラインにおいていかに身体機能面での問題点が少ないか,がその後のADL獲得の進捗を左右するという印象を常々抱いていた。その問題点とは今回の調査項目にはあえて挙げていないが,可動域・可動性の制限と異常筋緊張の程度である。この二つは密接に関連しているということを臨床上よく経験しており,特に今回非自立群に分類したケースをみると,多くがこの二つの問題点のために上肢の自動運動範囲が大きく制限され,結果として10名中6名が簡易電動車椅子を常用している。しかし制限された範囲での筋力は比較的保たれているため,ASIA motor scoreとしては有意差が出なかった。また手動車椅子を常用している4名については,平坦な屋内環境での駆動のみが可能なレベルであって屋外駆動の実用性は全くなく,生活の質を考慮すると非自立群全てのケースにおいて簡易電動車椅子が適当と言っても過言ではないと思われる。本研究において損傷高位のみに有意差が出た,という結果はある意味当然の結果であったが,頸髄完全損傷だけでなく不全損傷であっても一髄節異なるだけで大きな差が出るということが明らかにされた。特に改良Frankel分類のC1は,体幹・下肢機能だけで実用的な起立が不可能であるためADLの方法は完全損傷と大差ないことに加え,不全損傷特有の異常筋緊張や異常感覚が前面に出てくることが多く,アプローチに難渋する場合が多い。これらのことを踏まえ,損傷高位及び程度の分析と先に述べた可動域・可動性や異常筋緊張の臨床所見を加えた調査・分析の必要性があると考え,今後の課題としたい。【理学療法学研究としての意義】一般の医療機関では長期的にアプローチできる機会が殆どないと思われる,改良Frankel分類がC1のケースについての現状を伝えること,また今後の課題の事項については予後予測に使用できる可能性があると思われる。
  • 佐藤 善信, 石蔵 政昭, 森兼 竜二, 春元 康美, 布原 史翔, 今泉 正樹, 桑田 麻衣子, 松本 和美, 鬮臺 歩美, 坂村 慶明, ...
    セッションID: 1176
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】筋萎縮症患者に対する呼吸ケアとして,カフアシストや救急蘇生バックを気道クリアランスや肺吸気量を保つ目的で用いられている。しかし,気管切開された筋萎縮症患者において肺吸気量を保つことに対する効果を明らかにした先行研究は少ない。今回,PEEP弁付き救急蘇生バックを用いた深吸気療法をカフアシストの影響を除外するため痰絡みなどが少なくカフアシストと徒手介助を加えた器械的咳介助(mechanically assisted coughing:MAC)を定期的に行っていなかった患者に限定し肺機能に対する効果を検証することを目的とした。【方法】研究デザインは,非ランダム化比較対照試験とした。対象は,当院入所中または外来フォロー中の筋萎縮症患者161例のうち除外基準に該当しなかったDuchenne型筋ジストロフィー(DMD)2例,福山型筋ジストロフィー(FCMD)6例,筋萎縮性側索硬化症(ALS)15例の計23例である。MACを定期的に実施していなかった群(7例)に対して,PEEP弁付き救急蘇生バックを用いたMIC(PEEP lung insufflation capacity:PIC)を5秒間息溜めし10セット毎週2回の頻度で3ヵ月間PEEP弁20cmH2O,その後3ヵ月間30cmH2Oにて実施した。定期的(約週2回の頻度)にMACを実施している群(16例)を対照群とした。除外基準は,他の進行性肺疾患,気胸の既往,血圧など不安定な患者,深吸気療法に同意を得られなかった患者等とした。PIC測定は,簡易流量計を用いてPEEP弁からリークするまで強制的に送気した後,PEEP弁を外して脱気した値とした。統計解析は,介入前後と対照群とのPICの比較に分割プロットデザインの分散分析を用い,事後検定として2標本t検定,Bonferroniの方法を選択した。統計学的有意水準は5%未満とした。統計ソフトにはSPSS17.0J for Windowsを用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究実施においては,対象者に発表の趣旨を十分に説明し同意を得た上で行った。【結果】PIC介入群において多臓器不全などにより継続不可能となった2名を除いた計21例を対象としper protocol based解析を行った。ベースライン時において患者背景,PICに対して2群間に有意差は認めなかった。6ヵ月間の介入後,分割プロットデザインの分散分析から交互作用(p<0.05)を認めた。MAC群は前後比較で有意差を認めず,PIC介入群においては,前後比較(p<0.05),対照群との比較(p<0.05)に対して有意差を認めた。また,気胸などの合併症も全例認めなかった。【考察】6ヵ月間のPIC介入により2例を除いた全例においてPICの増加が認められた。気管切開された患者において,長期的に肺吸気量が低下し無気肺などを呈する可能性がある。筋萎縮症患者に対する長期的な呼吸ケアにおいて,PEEP弁付き救急蘇生バックを用いた深吸気療法は肺胞拡張を得るための方法として有用である可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】気管切開された筋萎縮症患者において,肺吸気量を保つことは重要と考えられているが,肺吸気量に関する先行研究は少なく効果に対するevidenceは乏しい。本研究では,PEEP弁付救急蘇生バックを用いて非ランダム化比較対照試験にて肺吸気量に対する効果をevidence level IIaにて証明した。また,PEEP弁付救急蘇生バックは,カフアシストと比較し排痰においては不利であるが安価で比較的簡便に使用することが可能であり,吸気量を測定することも可能である。気管切開された筋萎縮患者において,深吸気療法の効果に対する有用な知見が得られた。
  • ―簡易栄養状態評価表(Mini Nutrtional Assessment-Short Form:MNA-SF)を用いて―
    堤 恵志郎, 近藤 修, 久留 聡, 小長谷 正明
    セッションID: 1177
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】進行性筋ジストロフィー(Progressive muscular dystrophy:PMD)は,骨格筋の筋力低下に伴い筋肉量が減少し,やせを呈することがある。また呼吸筋に関しても同様に筋力・筋肉量の低下が出現する。呼吸筋筋力の低下により肺活量が減少した患者は,咳嗽力も低下し気道内分泌物の除去が困難となり,肺炎や気管切開へと移行することが多く,予後や生活の質(Quality of Life:QOL)の低下を招くとされている。このような全身筋肉量の減少によってやせを呈すPMD患者では,理学療法の効果を期待できないどころか,かえって栄養状態が悪化し,更なるやせを引き起こす可能性がある。そのため理学療法を行う際には栄養状態を把握することはとても重要である。簡易栄養状態評価表(MNA-SF)は,リハ栄養スクリーニングとして簡便で優れており,検査値が含まれていないため,在宅などの環境でも容易に評価できる利点がある。そこで,本研究の目的は,当院のPMD患者における栄養状態をMNA-SFにて評価し,予後やQOLに影響を与える呼吸機能との関係性について検討することである。【対象】対象は,国立病院機構鈴鹿病院に通院・入院している気管切開がなく人工呼吸器管理には至らずに車椅子座位にて過ごしている者とし,ベッカー型4名,肢帯型4名,筋強直型4名の計12名(平均年齢63±12歳,男性8名,女性4名)とした。筋ジストロフィー機能障害度は,ステージVIが5名,ステージVIIが7名であった。【方法】MNA-SFは自己評価または家族からの情報により評価を行った。合計14ポイント中,12ポイント以上で栄養状態良好,8~11ポイントは低栄養の恐れあり,8ポイント未満は低栄養と判断される。呼吸機能は,電子式スパイロメーター(MINATO社製,Autospiro)とピークフローメーター(ASSESSRPeak Flow Meter)を用いて評価を行った。スパイロメーターでは,肺活量(VC),%肺活量(%VC),努力性肺活量(FVC),1秒量(FEV1),ピークフローメーターでは自己咳嗽力(Cough Peak Flow:CPF)を測定した。また統計処理はMNA-SFと各呼吸機能の相関をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,国立病院機構鈴鹿病院倫理審査委員会の承認を得た上で,対象者に研究の趣旨を十分に説明し同意を得て実施した。【結果】MNA-SFにて,8ポイント未満が2名,8~11ポイントが8名,12ポイント以上が2名となり,12名中10名に低栄養,低栄養の恐れが認められた。呼吸機能はVC 1.49±0.56(L),%VC 47.75±21.05(%),FVC 1.27±0.55(L),FEV1.0 1.1±0.47(L/sec),CPF 166.25±53.98(L/sec)となり,すべての患者において拘束性換気障害を認めた。またMNA-SFと各呼吸機能において,VC(p=0.002,r=0.79),%VC(p=0.013,r=0.69),FVC(p=0.019,r=0.66),FEV1.0(p=0.026,r=0.64),CPF(p=0.031,r=0.62)となり,各項目ともに高い正の相関を認めた。【考察】施設別に低栄養の高齢者の割合をMNA-SFで調査したレビュー論文では,病院38.7%,リハビリ施設50.5%と低栄養の割合が高かったとされており,本研究においても,12名中10名と高い割合で低栄養の恐れがあると認められた。慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者では,栄養不足による骨格筋,呼吸筋の筋力低下が換気制限に関与するとされ,やせはCOPD患者の独立した予後因子とされている。本研究でも,PMD患者の呼吸機能はMNA-SFによる栄養評価と高い正の相関を認め,PMD患者の栄養管理は重要な課題であることが考えられる。実際の栄養障害の有無はアルブミンなどの検査値と上腕周囲長や下腿周囲長の身体計測で判断される。しかし,PMD患者は仮性肥大の影響により,身体計測ではうまく栄養障害を捉えることは難しい。MNA-SFはBMIの測定と問診により簡便に評価でき,侵襲を伴わず行えることに利点がある。今後は症例数を増やし型別での検討,継時的に測定を行い栄養状態の経過について検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】MNA-SFによる栄養評価は,PMD患者において,予後やQOLに関連する呼吸機能評価と同様に重要であり,理学療法士が簡便に実施できる一つの指標として有用であると考える。
ポスター
  • 牧野 美里, 高見 彰淑
    セッションID: 1178
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】後方歩行は,高齢者や脳卒中などの中枢神経疾患患者が困難とされる,後方へのバランス能力が必要であり,難易度が高い動作である。高齢者は若年者や中年者と比較し後方歩行パフォーマンスが著明に低下し,さらに転倒歴のある高齢者の方が無い高齢者に比べ著明に低下するという報告もある。しかし,脳卒中片麻痺患者を対象とした後方歩行に関する報告は見当たらない。今後,片麻痺患者への評価・治療につなげるため,パイロットスタディとして健常成人の後方歩行の特徴を捉えることを目的とした。【方法】対象は下肢や腰部に問題となるような既往歴を有しない健常成人14名(男性7名・女性7名,年齢21.4±0.6歳,身長166.3±8.3cm,体重56.9±7.6kg)であった。計測機器は,赤外線カメラ8台で構成される三次元動作解析装置(Vicon Motion Systems社製,Vicon Nexus)および床反力計1枚(AMTI社製,400mm×600mm)を使用し,サンプリング周波数は100Hzとした。三次元動作解析装置に設定されているPlug-in Gait Full Bodyモデルに従い,直径14mmの赤外線反射マーカーを対象者の身体の35か所に貼付した。解析には解析ソフトPolygon4を使用した。床反力計上を通過するような5mの歩行路を設定し,床面に誘導用のラインを引いた。そのラインを見ながら,速度と歩幅は任意で前方歩行と後方歩行を行った。なお,後方歩行時は後方が見えずゴール地点が分からないため,ゴール手前1mから別の色のラインをもう1本引き,安全に止まれるよう何度が練習を行った。測定順序は前方歩行,後方歩行とした。前方歩行では右踵接地から次の右踵接地まで,後方歩行では右前足部接地から次の右前足部接地までを1歩行周期とし,この期間の分析を行った。分析項目は,歩行速度,ストライド長,ケイデンス,立脚期,矢状面における下肢の関節角度と関節モーメントであった。統計学的分析は,対応のあるt検定とウィルコクソン符号付順位和検定を用い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】すべての対象者には本研究の概要等を充分に説明し,書面にて同意を得た。また弘前大学大学院医学研究科倫理員会の承認を得てから実施した。【結果】結果を前方歩行,後方歩行の順で示す。歩行速度(m/sec)1.3±0.1,0.8±0.1,ストライド長(m)1.3±0.1,1.0±0.1,ケイデンス(steps/min)111.8±7.9,102.8±10.5であり,いずれも前方歩行と比較し後方歩行で有意に低下した。立脚期は59.8%,59.4%と有意差はなかった。関節角度の最大値(°)で有意差があったのは,股関節伸展14.8±5.0,5.1±4.7,膝関節屈曲59.5±7.6,40.0±9.0,足関節底屈14.0±6.5,2.7±7.8であった。股関節屈曲30.3±2.8,29.5±5.5,膝関節伸展-4.4±3.9,-5.1±5.5,足関節背屈16.9±4.4,23.2±5.9では有意差がなかった。関節モーメントの最大値(Nm/kg)で有意差があったのは,股関節屈曲0.7±0.3,0.4±0.1,股関節伸展0.7±0.2,0.6±0.3,膝関節屈曲0.4±0.1,0.3±0.1,膝関節伸展0.5±0.2,0.4±0.3であった。足関節背屈0.1±0.03,0.1±0.05,底屈1.6±0.2 N,1.5±0.3では有意差がなかった。【考察】同じ歩行速度で比較した場合,後方歩行では前方歩行と比較してケイデンスが高値となり,歩幅が低値となると言われている。しかし,今回は後方歩行で歩行速度が有意に低下したため,ケイデンスが減少したと考える。股・膝・足関節ともに,前方歩行と比較し後方歩行で関節運動範囲が減少していた。特に股関節伸展角度が減少したことにより,ストライド長が減少したと考える。また関節モーメントはレバーアームと力の積で算出されるが,健常前方歩行では,床反力が関節から遠く離れることはなく,関節モーメントは小さいと言われている。後方歩行では関節運動範囲の減少により,前方歩行より股関節と膝関節の関節モーメントが有意に低下したと考える。足関節に関しては,底屈モーメントに有意差は見られなかったが,ピークの出現位置が,前方歩行では立脚期の後半,後方歩行では前半と異なっていた。後方歩行は前足部から接地するため,前方歩行でみられるような蹴り出しが見られず,このこともストライド長の減少に関与していると思われる。【理学療法学研究としての意義】健常成人の特徴を捉えることで,今後,片麻痺患者と比較することができると考える。片麻痺患者の特徴を捉えることができれば,より効果的なトレーニングの提供や,転倒リスクの評価や転倒防止対策の一助となる可能性もあり,臨床や日常生活への応用につなげることができると考える。
  • 渡辺 幸太郎, 関 公輔, 高階 欣晴, 村上 敏昭
    セッションID: 1179
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】立位姿勢におけるバランス評価として,左右への重心移動動作が理学療法場面で用いられることが多い。これは,立位姿勢の安定性や下肢支持性の低下を判断する方法で用いられ,立ち上がり動作や歩行能力と結び付けやすい荷重下での評価である。また,現在はロコモティブ・シンドローム対策の一つとしても,その動作評価の重要性が報告されている。その一方で臨床上,重心移動時の姿勢アライメントに関して着目することも多い。歩行立脚中期は,重心位置が最外側に位置する地点と定義され,この姿勢と重心移動時の姿勢との関連性は強いものと推測される。しかし,重心移動動作に関する諸研究は,最大重心移動距離や荷重量,動作速度などの検討が多いが,臨床にて意識される姿勢アライメントや,歩行との関連性に関して触れられたものは少ない。これらを踏まえ本研究は,静止立位姿勢と最大側方重心移動姿勢(以下,重心移動姿勢),また歩行立脚中期における体幹側屈角度,股関節内・外転角度を比較し,姿勢と動作における姿勢アライメントの関連性を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は,整形外科的および神経学的な疾患の既往のない健常成人12名(年齢25.9±4.8歳,身長171.1±5.4cm,体重66.3±9.8kg)とした。計測課題は,静止立位姿勢と静止立位から左右方向への最大側方重心移動,歩行とした。静止立位姿勢は,床反力上にて,視線の高さで5m前方に設置した視標を注視するように教示した。側方重心移動は,口頭指示として「体を真っ直ぐにしたまま,左右の足に体重をかけて下さい。」と教示し,移動速度は自由とした。また,支持側方向への床反力側方成分が最大値を示した際の立位姿勢を,重心移動姿勢と定義した。歩行課題は,床反力計を挟み前後3mの助走を含んだ10m歩行とし,私適歩行速度での計測とした。歩行は,得られたデータから支持側床反力鉛直成分が最小値を示した際の立位姿勢を,立脚中期姿勢と定義した。計測機器は,3次元動作解析装置Vicon612(Vicon Motin System社製,vicon612,60Hz,カメラ8台)と2枚の床反力計(Bertec社製)を用いて計測した。マーカー位置は頭部3点,両側烏口突起,第2胸椎棘突起,両肩峰,両上腕外側上顆,両手関節中央,両上前腸骨棘,両上後腸骨棘,両側股関節,両側膝関節,両側外果,両側第5中足骨頭,両踵骨に添付した。体幹側屈は左側屈,股関節は外転をそれぞれ正と定義した。計測指標としては,静止立位時,重心移動姿勢時,立脚中期姿勢時での各課題中の体幹側屈,股関節内・外転の角度を算出した。分析は,重心移動姿勢での体幹側屈,股関節内・外転角度,および立脚中期姿勢での体幹側屈,股関節内・外転角度を比較した。また,静止立位姿勢での体幹側屈側への重心移動姿勢と立脚中期姿勢での体幹側屈,股関節内・外転角度を比較した。統計学的検討には,SPSS PASW Statistics 18にてPearsonの相関係数を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,研究の目的,方法等について説明を行い,同意を得た上で計測を実施した。【結果】重心移動姿勢と立脚中期姿勢との関係では,左右いずれの体幹側屈,股関節内・外転角度ともに有意な相関は認めなかった。静的立位姿勢での体幹側屈側への重心移動姿勢と立脚中期姿勢との関係では,体幹側屈角度に有意な正の相関を認めた。(r=0.583,p<0.05)また,股関節内外転角度には有意な相関は認めなかった。【考察】本研究結果から,静止立位体幹側屈側への重心移動姿勢と立脚中期姿勢における体幹側屈角度に有意な相関が見られた。その一方で,開始姿勢を規定しない重心移動姿勢と立脚中期姿勢との関係については相関を認めなかった。これらのことより,静止立位姿勢における体幹側屈角度が,その後の重心移動時の動的姿勢,また歩行立脚中期における体幹側屈角度を大きく反映することが推察され,体幹制御に着目する重要性とバランス,歩行における姿勢制御評価の指標となると考えられる。いずれの課題においても,股関節内・外転角度に一定の関連性が見られなかった点については,股関節の前額面上における動きの幅が大きく,姿勢制御戦略(動作パターン)に個人差が出やすい部位であるためと推察される。今後の課題として,体幹角度変化の詳細や他の身体体節間の位置関係,また筋電図学的な検討が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究は,静止立位姿勢が側方重心移動や歩行といった動作時の姿勢アライメントに影響する可能性,および体幹側屈角度に着目する有用性を示唆した。臨床における評価・治療の一助になると考えられる。
  • 大倉 俊, 溝田 康司, 松原 誠仁, 坂元 勇太, 川﨑 靖範, 槌田 義美
    セッションID: 1180
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】歩行の評価は3次元動作解析装置などの開発により,運動学的動作解析から運動力学的動作解析へと解析手法が展開されている。しかし,臨床では観察による主観的評価が多く行われ,客観的評価を行う為に,臨床応用を目的とした歩行を標準化する客観的指標の確立が課題とされている。Schwartzら(2000)は,健常小児の股関節機能に着目し,Hip flexor index(HFI)を5つのイベントパラメータより算出することで歩行の標準化を試み,HFIが小児の歩行を客観的に評価する有効なツールになり得ると報告している。また,RomeiらはSchwartzらの研究を発展させ,歩行の定量的評価指標を算出し,Normalcy Indexすなわち「正常指標」として脳性まひ児の歩行の客観的評価指標を報告しているが,成人における歩行の客観的指標に関する報告は少ない。そこで今回,健常成人歩行におけるHFIの標準化と検証を目的とし,Schwartzらが提唱するHFIが,成人の臨床における歩行の標準化,客観的指標の確立に応用可能かを検証したので報告する。【方法】対象は,股関節疾患等の既往のない健常成人男性20例(年齢26±3.8歳),及び股関節頚部骨折後骨接合術の既往のある男性患者(股関節既往患者)2例である。2例の股関節既往患者の日本整形外科学会股関節機能判定基準(JOA)は93点と39点であった。方法は,3次元動作解析システム,赤外線カメラ,床反力計を用いて,Schwartzらが提唱する5つのイベントパラメータである最大骨盤傾斜角(MPT),骨盤傾斜範囲(PTR),立脚期最大股関節伸展角(HEST),立脚期股関節屈曲-伸展モーメントの伸展から屈曲に切り替わる割合(TOC),立脚期後半の股関節屈曲パワー(H3)を算出し,Schwartzらが算出したイベントパラメータと比較することで健常成人HFI回帰モデルの必要性を検証した。また,イベントパラメータの主成分分析を行い,健常成人HFI回帰モデルを作成し,その後,股関節既往患者のHFIの算出,比較を行うことで有用性を検証した。【倫理的配慮,説明と同意】全ての対象者に研究の説明を行い,協力の同意と署名を得て研究を実施した。また,熊本保健科学大学臨床研究倫理審査にて承認を得て研究を行った。【結果】イベントパラメータの比較においてMPTは健常成人で15.23±12.92°,Schwartzらの報告は12.31±3.97°であり約3°高値を示した。PTRは健常成人で4.27±1.1°,Schwartzらの報告は3.83±1.36°であり近似の値となった。HESTは健常成人で-3.82±7.98°,Schwartzの報告は-9.17±5.19°であり約5°低値を示した。TOCは健常成人で49.65±5.55%,Schwartzらの報告は36.7±9.89%でありに大きく遅延した。また,H3は健常成人で0.05±0.06W/kg,Schwartzらの報告は1.51±0.29W/kgであり低値を示した。主成分分析の結果より算出された健常成人HFI回帰モデルを2例の既往患者に適用したところ,股関節機能を示すJOA得点が低い患者のHFIは1.72,得点の高い患者のHFIは0.5となり,より股関節に問題を有する患者のHFIが高値を示した。【考察】イベントパラメータを比較した結果,健常成人とSchwartzらのMPT,HEST,TOC,H3に相違が認められた。吉川らは,健常成人と健常小児の歩行を比較し,股関節の関節角度,立脚終期の股関節伸展モーメントに相違があったことを報告し,Gageらは,股関節の産生するパワーは成人に比べ小児で高値を示し,歩行における推進力は小児において足関節よりも股関節に依存していると報告している。今回の結果は,これらの報告と類似しており,Schwartzらが作成したHFI回帰モデルを健常成人に適用することは困難であり,新たに健常成人におけるHFI回帰モデルを作成することの必要性を確認することができた。また,股関節既往患者のHFIを比較した結果,対象者間に相違が確認され,JOA得点が低い患者のHFIは±1SDを超えるものとなったことから,今回作成した健常成人HFI回帰モデルは股関節機能における異常を比較的鋭敏に検出することが可能であった。【理学療法学研究としての意義】臨床における健常成人HFI回帰モデルの有用性を示唆することができた。より客観的な指標として臨床応用するためには,歩行の安定性に関与すると言われている身体重心位置との関係性を検討する必要があると考えられた。
  • 羽崎 完, 高田 裕斗, 谷口 有貴
    セッションID: 1181
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【緒言】Trendelenburg姿勢(以下,T姿勢)は片脚立位時に骨盤を水平位に保つことができず,骨盤が遊脚側に傾斜する姿勢である。一般にこの姿勢は,股関節外転筋力の低下によって起こるとされている。Myersは,股関節外転筋は側腹筋群とともに外側線を構成し,ともに立位姿勢の側方バランスに関与すると述べている。また多々良らは,股関節外転筋筋活動を骨盤の固定の有無で調べ,骨盤の固定が効率的な筋活動を可能にしたと考察している。これらのことから,片脚立位時の側方バランス維持のために股関節外転筋筋力を発揮する際には,体幹筋による骨盤の安定が必要と考えられるが,両者の関係について検討した報告はない。本研究の目的は,T姿勢において体幹筋と股関節外転筋の筋活動を明確にし,その関係を検討することである。【方法】対象は,健常成人男子大学生8名(平均年齢20.0±0.8歳,身長171.9±4.1cm,体重69.6±12.3kg)とした。測定肢位は,片脚立位とT姿勢とし,片脚立位は骨盤を水平位に保持させ,T姿勢は骨盤を遊脚側に最大下降させた。すべての姿勢において,上肢は体側に自然に下垂させ,前方を注視させた状態を5秒間以上保持させた。測定筋は,支持脚側の内腹斜筋,外腹斜筋,多裂筋,中殿筋,大腿筋膜張筋とした。それぞれ筋線維の走行に沿って電極を貼付し,電極が正確に目的とする筋に貼付できているか,超音波画像診断装置(日立メディコ社製Mylab25)を用いて確認した。筋活動の測定は,表面筋電計(キッセイコムテック社製Vital Recorder2)を用い,電極間距離1.2cmのアクティブ電極(S&ME社製)にて双極導出し,サンプリング周波数は1kHzとした。筋活動の解析は,波形の安定していた2秒間を抽出し,全波整流後,自乗平方根値を求め,平均値を算出し行った。さらに,新・徒手筋力検査法の正常段階時の筋活動を100%として正規化し,それぞれの筋の代表値とした。個々の筋について,Wilcoxonの符号順位和検定を用いて,片脚立位とT姿勢の筋活動を比較検討した。【倫理的配慮,説明と同意】対象者の個人情報は,本研究にのみ使用し個人が特定できるような使用方法はしないことや研究の趣旨などの説明を書面および口頭にて十分に行った上で,本研究への参加について対象者から同意の署名を得た。【結果】内腹斜筋の筋活動量中央値は片脚立位で71.4%,T姿勢で50%と片脚立位がT姿勢より有意に高値を示した(p>0.05)。外腹斜筋の筋活動量中央値は片脚立位で18.3%,T姿勢で19.2%と両者に有意な差は認められなかった。多裂筋の筋活動量中央値は片脚立位で20.5%,T姿勢で20.0%と両者に有意な差は認められなかった。中殿筋の筋活動量中央値は片脚立位で31.1%,T姿勢で21.2%と片脚立位がT姿勢より有意に高値を示した(p>0.05)。大腿筋膜張筋の筋活動量中央値は片脚立位で31.1%,T姿勢で16.3%と片脚立位がT姿勢より有意に高値を示した(p>0.05)。【考察】今回,体幹の安定筋とされる内腹斜筋のみに有意な差が認められ,非常に興味深い結果となった。T姿勢で内腹斜筋の筋活動は,片脚立位とくらべ有意に低下した。内腹斜筋は胸腰筋膜の外側縫線に起始を持ち,この筋の収縮で生じる張力は腰椎棘突起を接近させ,腰椎および骨盤を安定させる。しかし,T姿勢では支持脚側が凹に側屈しており,外側縫線が緩んだ状態になるため,内腹斜筋筋力が発揮しにくくなったと考える。また,外腹斜筋,多裂筋の筋活動は有意に変化しなかった。外腹斜筋は,外側縫線に起始していないため腰椎安定に関係しておらず,腰椎側弯の影響を受けなかったと考える。多裂筋は,腰椎の安定に関係するが,その作用は垂直方向のベクトルに表れるとされている。また佐々木らは,腰椎前弯減少に伴い多裂筋の活動が増加したと報告している。したがって,多裂筋は腰椎の矢状方向の安定に深く関係し,側方の安定にはあまり関与していないのではないかと考える。また,中殿筋と大腿筋膜張筋がT姿勢で片脚立位とくらべ有意に低値を示したことから,筋活動量低下の代償として支持脚外側の靱帯等で骨盤を保持していることが確認できた。以上のことから,片脚立位時の側方バランス維持のために,体幹筋のなかでも内腹斜筋と股関節外転筋が協調して働くことがわかった。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,片脚立位時に骨盤を水平に保つために,股関節外転筋だけでなく内腹斜筋の活動も必要であることを示している。したがって,Trendelenburg徴候がみられる患者に対しては,股関節外転筋とともに内腹斜筋に対してもアプローチすることが肝要であり,そのようなアプローチによって,効率よく歩容改善できると考える。
  • 工藤 慎太郎, 下村 咲喜, 稲生 侑汰, 松下 智美, 富田 恭輔, 畠中 泰彦
    セッションID: 1182
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】歩行における立脚終期(TSt)は,前方への推進力を生み出すため,歩行能力改善において重要な位相の一つとなる。PerryはTStにおける前方への推進力を生成する機序に,forefoot rockerと呼ばれる足部機能が関与していることを述べている。また,その力源として,強い下腿三頭筋の収縮とWindlass機構を挙げ,これらの機能によって適切な踵離地が生じることが重要としている。しかし,Hicksによると,Windlass機構はMTP関節が伸展することで,足底腱膜の緊張が亢進し,前足部の剛性が高まるメカニズムである。つまり,Windlass機構は,踵が挙上した後に働く機序である。そのためTStでの踵離地を効率化する足部機能について検討の余地がある。そこで,効率的なTStを行うための足部機能を明らかにすることを目的に本研究を行った。【方法】対象は健常成人男女40名66肢(男性;52肢,女性;14肢,年齢22.0±3.6歳,身長167.9±7.7cm,体重64.7±11.1 kg)とした。歩行中の運動力学的因子の分析には足圧分布測定器Win-podを用いて計測した。記録周波数は300Hzとし,裸足での歩行を1回計測した。なお,歩行率を113bpmにメトロノームで一定にし,十分な練習後に計測を行った。得られたデータから足底に加わった力を算出し,TStでの力積(FTI)を算出した。得られた全被験者のFTIから四分位範囲を算出し,25%点以下の16足を弱化群,75%以上の16足を過剰群,25~75%範囲内の34足を正常群として分類した。また,デジタルビデオカメラ1台を用いて,立脚期の足部の運動を記録周波数300Hzで側方から撮影し,TStにおけるMTP関節最大背屈角度(MTP角度)をImage-J(NIH)を用いて計測した。母趾圧迫力の計測には,床反力計(アニマ)を用いた。床反力計上に母趾のみを置けるように自作した測定装置を固定し,3秒間の最大努力圧迫における垂直分力を計測した。その際,測定肢位は椅子坐位で,椅子に大腿と骨盤・体幹を固定した状態で実施した。垂直分力から力積を算出し,体重で除した百分率を母趾圧迫力とした。静止立位時の横アーチ長率(TAL)と下腿最大前傾位での横アーチ長率の差をD-TALとして算出し,TALを開帳足,D-TALを横アーチの柔軟性の指標として計測した。MTP角度,母趾圧迫力,TAL,D-TALの4パラメーターに関して3群間で比較した。統計学的手法には三群間の比較にKruskal Wallis test,post hoc testとして,bonfferoni法を用いた。なお,統計解析にはSPSS ver.18を用いて,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施した。対象者には本研究の趣旨および対象者の権利を紙面と口頭で説明し,紙面上にて同意を得た。【結果】母趾圧迫力は弱化群16.7%(12.9-19.2),正常群21.5%(18.6-25.6),過剰群16.9%(11.9-19.3)で正常群と弱化群・過剰群間に有意差を認めた。その他のパラメーターは有意差を認めなかった。【考察】TStで発生する強い足関節底屈モーメントは,下腿三頭筋をはじめとした足外在筋と,足内在筋の総和である。換言すると,FTIは下腿三頭筋と足内在筋で床面を強く押した仕事と考えられる。足内在筋の緊張は,Windlass機構を調節していると考えられ,足内在筋の緊張が高ければ,Windlass機構も強く作用し,低ければ,Windlass機構は弱くなる。そのため,足内在筋の緊張の低下による開帳足では,Windlass機構が弱まり,FTIが低下すると仮説を立てた。しかし,本研究の結果より,FTIの大小に関わらず,開帳足や前足部横アーチの柔軟性は有意差がなかった。また,FTIにWindlass機構が影響を与えるならば,MTP伸展角度に影響が出現すると考えたが,有意差を認めなかった。つまり,FTIにWindlass機構の与える影響は少ないと考えた。一方,FTIが大きい群と小さい群では,母趾圧迫力が弱化していた。これは,足内在筋の筋力が低下していた例では,床面を十分押すことができず,FTIが低下したためと考えられる。また過剰群は母趾圧迫力の弱化による足関節底屈モーメントの弱化を下腿三頭筋が代償したことで,FTIが過剰に大きくなったと推察している。つまり,適正なTStにおける床面の蹴り出しには,母趾圧迫力により踵離地の前に,足部の剛性を高める機能が必要になると考えた。【理学療法学研究としての意義】従来TStでは,下腿三頭筋の収縮とWindlass機構が重要と考えられていた。しかしTStでは受動的なWindlass機構よりも母趾圧迫力などの足部内在筋の筋力といった能動的要素が重要になっている可能性が考えられた。そのため,TStにおける適切な踵離地を促すためには,下腿三頭筋の筋力と共に,母趾圧迫力の強化が重要になることが示唆された。
  • 立脚前半相・後半相に着目して
    石原 剛, 野口 悠, 島田 周輔, 神原 雅典, 水元 紗矢, 加藤 彩奈, 井口 暁洋, 浅海 裕介, 吉川 美佳, 川手 信行
    セッションID: 1183
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】歩行とは身体を前方に移動させる動作であり,立脚相と遊脚相を左右交互に繰り返す循環運動である。歩行のような直線的進行を行う循環運動の遂行には加速・減速が必要とされており,両脚支持期で加速,単脚支持期で減速が起きると言われている。我々は,第32回関東甲信越ブロック理学療法士学会において,足圧中心(以下COP)軌跡の前後成分の移動距離と速度の関連性を検討し,立脚前半相と後半相でCOP速度に違いがあることを報告した。健常成人の自然歩行では,COP速度が前半相で速く後半相で遅いパターン,前半相で遅く後半相で速いパターンの2パターンに分類された。立脚期を前半相・後半相に分け,COPの前後成分の変化を検討している報告は少なく,健常人における左右の特徴についても示されていない。そこで,COP軌跡を立脚前半相・後半相に分類し,前後移動速度の左右下肢の関連性および足底圧の変化について比較し,健常成人の自然歩行の特徴について検討することを目的とした。【方法】対象は,健常人31名62肢(男性17名,女性14名)年齢22.4±1.9歳 身長166.7±8.9cmであった。歩行条件は10mの自然歩行とし,10回計測を行った。ANIMA社製のシート式足圧接地足跡計測装置(ウォークWay MW-1000)と圧力分布測定装置(プレダスMD-1000)を用い,歩行速度,立脚時間,COP移動速度,足底圧を計測し,左右下肢ごとに平均の値を算出した。COP移動速度は,1,立脚全体(以下COPv),2,前半相(以下COPMsv),3,後半相(以下COPPsv)を算出した。立脚時間の50%のところで,前半相・後半相に分けた。足底圧は,1,前半相ピーク(PmaxMs),2,後半相ピーク(PmaxPs),3,前半相積分値(PiMs),4,後半相積分値(PiPs)を算出した。足底圧の値は正規化を図るために,後半相(PmaxPs)に対する前半相(PmaxMs)の足底圧ピークの割合(Pmax%)と,後半相(PiPs)に対する前半相(PiMs)の積分値の割合(Pi%)を算出した。COP速度を個体間で比較するため,COPMsvがCOPvの平均を左右とも上回る群,下回る群,左右一方が上回り・一方が下回る群に分類した。検討項目はCOPMsvとPmax%,COPMsvとPi%とした。統計解析はSpearmanの順位相関係数を用いて比較検討を行い,危険率は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本実験はヘルシンキ宣言を鑑み,予め説明した実験概要と公表の有無と形式,個人情報の取り扱いに同意を得た被験者を対象にした。【結果】COP移動速度は,COPv平均0.31±0.02m/s,COPMsv平均0.36±0.07m/s,COPPsv平均0.26±0.26m/sであった。個体間の比較では,左右とも立脚前半(COPMsv)が平均を上回る群が14名,下回る群が11名,左右いずれか一方が上回り・一方が下回る群が7名となった。Pmax%の平均は0.99±0.09であり,2峰性の波形となった。Pi%の平均は1.04±0.10であった。COPMsvとPmax%(p<0.01 r=0.50),COPMsvとPi%(p<0.01 r=0.49)の間にはそれぞれ正の相関関係を認めた。【考察】一般的に立脚時間の50%は足底圧中心を重心が超える点とされており,下肢の役割も大きく変化すると言われている。COPMsvとPi%に正の関係性を認めた。前半相のCOP速度が速いパターンは前半での足圧積分値が高いことから,COP速度から分類されたCOPMsvがCOPvの平均を左右とも上回る群14名と下回る群11名では,前半相・後半相にかかる足圧ストレスが異なることが示唆された。また,左右下肢のCOP速度の分類から31名中25名は左右同パターン(平均を左右とも上回る群,下回る群)とも考えられる。COPMsvとPmax%の関係性は立脚前半相において速度が速いものが足底圧の2峰性の波形の前半相が高くなり,遅いものが足底圧の2峰性の波形の後半相が高くなった。これらは,左右下肢の立脚前半相と後半相の関係性が,片側の立脚後半相で足底圧のピークが高い(低い)と対側の立脚前半相で足底圧のピークが低い(高い)すなわち,両脚支持期の左右合成足底圧を補正する反応としてみられているのではないかと考えた。会津,山本らの報告(1999)では,足底圧は精度の差異はあるものの,床反力の鉛直成分と同様の波形が得られるとしている。健常人の自然歩行において,立脚前・後半のCOPの速度変化に個体差がみられた結果は,両脚支持期で最大となる鉛直成分の加速度を片側の立脚後半相もしくは対側の立脚前半相で対応し,両脚支持期で加速,単脚支持期で減速を可能とする反応であると考えた。【理学療法学研究としての意義】今回の健常人の特徴を年齢や疾患別と比較することで,足底圧での評価が正確に患者評価・治療に反映させられると考えます。
  • 櫻井 雄太, 児嶋 大介, 山城 麻未, 東山 理加, 太田 晴基, 森木 貴司, 小川 真輝, 藤田 恭久, 木下 利喜生, 梅本 安則, ...
    セッションID: 1184
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】これまで,運動負荷が臓器に影響を与えるシグナル経路は,神経系だと考えられていた。しかし,Pedersenらは筋収縮により筋細胞からInterleukin-6(IL-6)などのサイトカインが発現し,骨格筋が内分泌器官であると報告した。また,温熱負荷でも筋細胞からIL-6が発現することが報告された。CXC motif ligand 1(CXCL1)もまた骨格筋から発現するサイトカインの1つであり,主に血管新生や肝保護,創傷治癒等に作用する。マウスに水泳をさせると,血中IL-6が上昇し,その後血中CXCL1も上昇する。さらに,CXCL1の発現にIL-6が必要不可欠であると報告がある。これらのことから,我々は,温熱負荷による血中IL-6上昇後に血中CXCL1が上昇すると仮説を立てた。そこで我々は20分間の温水頚下浸水前後での血中IL-6,CXCL1,それらの代謝機序に関係するTNF-α,hsCRPを測定した。【方法】被験者は若年健常男性8名(年齢25.8±1.2歳,身長173.3±1.4cm,体重70.1±4.2kg)とした。除外基準は糖尿病,心疾患,慢性炎症性疾患,皮膚疾患のない者とした。また,測定前日から激しい運動・カフェイン・アルコールの摂取を禁止した。被験者は室温28℃の環境で,深部体温として食道温をモニタリングしながら安静座位をとった。食道温が安定した後,10分間の安静期間を開始した。その後,42℃の温水に頚まで浸かりながら20分間安静座位をとり,その後再び室温28℃の環境で4時間の安静座位をとった。浸水前,浸水終了直後,浸水後1時間,浸水後2時間,浸水後3時間,浸水後4時間に医師が採血を行った。採血後,直ちに遠心分離機で血清を分離させ,ELISA法により血中IL-6,CXCL1,TNF-αを測定した。また,hsCRP,赤血球,ヘマトクリット値,ヘモグロビン,単球の測定を行った。結果の解析は,ANOVAを行い,post hoc testにFisher’s LSD testを用いて負荷前後の検定を実施した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理委員会の承認されており,実験に先立って被験者には研究の主旨と方法を書面と口頭で十分に説明し,同意を得てから実施した。【結果】頚下浸水負荷前後の深部体温は浸水前(36.9±0.4℃)と比較し,浸水終了直後(40.4±0.4℃),浸水後1時間(37.4±0.3℃),浸水後2時間(37.2±0.2℃),浸水後3時間(37.2±0.2℃)に有意な上昇が認められ,浸水後4時間には浸水前水準に戻った。血中IL-6濃度は,浸水前(0.9±0.3pg/ml)と比較し,浸水後1時間(1.6±0.4pg/ml),浸水後2時間(1.5±0.4pg/ml),浸水後3時間(1.5±0.2pg/ml)に有意な上昇が認められ,浸水後4時間には浸水前水準に戻った。血中CXCL1,TNF-α,hsCRPは浸水前後で有意な差は認められなかった。CBCの分画である赤血球,ヘマトクリット値,ヘモグロビン,単球は浸水前後で有意な差は認めなかった。【考察】若年健常者において,42℃温水頚下浸水により血中IL-6が増加したが,血中CXCL1は変化がなかった。本研究の結果は,ヘマトクリット値に変化がなかったため,血中IL-6やその他の血液データは温熱負荷による血液濃縮の影響は受けていないと考えられる。IL-6やCXCL1は,炎症反応によりTNF-αや単球によって産生される。しかし,浸水前後でhsCRP,TNF-α,単球数が一定であったことから,炎症反応による血中IL-6の上昇は否定的である。IL-6は筋収縮だけでなく温熱負荷でも筋細胞から発現する事が報告されている。今回の研究では,被験者は安静座位を保ったため,血中IL-6上昇は過去の研究と一致し,筋細胞から由来であると推測する。また,過去の報告では,マウスに1時間水泳をさせることで血中IL-6が5倍上昇し,その2時間後に血中CXCL1が上昇した。一方,本研究では血中IL-6の上昇が2倍であった。したがって,CXCL1が変化しなかったことはIL-6の発現量が不十分であった可能性も示唆される。【理学療法学研究としての意義】本研究により,温熱療法の効果機序を解明する一助となった。
  • 山城 麻未, 木下 利喜生, 櫻井 雄太, 小川 真輝, 藤田 恭久, 森木 貴司, 太田 晴基, 東山 理加, 児嶋 大介, 幸田 剣, ...
    セッションID: 1185
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】唾液中に含まれる分泌型免疫グロブリンA(sIgA)は病原体の粘膜下への侵入を防ぐことで感染を防御し,口腔内局所免疫機能における主要な役割を果たすと考えられている。また比較的容易にかつ非侵襲的に採取が可能なこともあり口腔内免疫機能の評価に多く用いられている。免疫機能は栄養状態やストレスにより影響される。高強度の運動後では,唾液中sIgA濃度やnatural killer細胞活性が一過性に低下するため,感染症を引き起こし易いと言われている。栄養状態や免疫機能が低下している患者に対し,運動負荷を加えていくためにこれらの知見を理解しておくことは重要である。また湯治に代表されるように,入浴は免疫機能を向上させる。42℃の足浴が唾液中sIgAを上昇させたとの報告もあるが,我々の知る限り42℃の入浴による唾液中sIgA動態を調査した報告は見当たらない。42℃の入浴は高温水であるため逆に強いストレスとなり,唾液中sIgAに影響する可能性も考えられる。今回,42℃20分間の入浴前後での唾液中sIgAと,その動態に関する自律神経活動の指標であるアドレナリン・ノルアドレナリン,及びストレスの指標としてコルチゾール・ボルグスケールを測定し,検討することで若干の知見を得たため報告する。【方法】健常成人男性8名(平均年齢25.8±1.2歳)を対象とした。室温28℃の環境下で30分間の安静座位をとり,42℃20分間の入浴を行った。その後,再び室温28℃の環境下で1時間安静座位をとった。実験中は自由飲水としたが,唾液採取15分前から唾液採取までは飲水を控えた。唾液採取と採血は,入浴前,入浴終了直後(入浴直後),入浴後1時間(入浴後1h)に行った。唾液採取はDraining methodを用いて,2または3分間で行い,測定に最低限必要となる1gを得るため実験前に唾液採取のプレを実施し,採取時間を決定した。測定項目は唾液中sIgA,血中アドレナリン,ノルアドレナリン,コルチゾール,ボルグスケールとした。各項目の平均値と標準誤差を求め,ボルグスケールは中央値と四分位偏差を求めた。統計解析は入浴前後で一元配置分散分析を行った後,post hoc testとしてFisher’s LSDを用いて検定を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は倫理委員会で承認された。被験者に実験の目的,方法及び危険性を説明し,同意を得た上で行った。【結果】唾液採取時間は,8名中3名が2分間,5名が3分間であった。唾液量は入浴前後で有意差は認められなかった。唾液中sIgA濃度は入浴前(5.45±1.67mg/dl)と比較し,入浴直後(8.16±1.47 mg/dl)(p<0.05)に有意な上昇が認められ,入浴後1hには入浴前水準に戻った。血中アドレナリン・ノルアドレナリンは入浴前(52.4±6.9pg/ml,236.9±21.4pg/ml)と比較し,入浴直後(114.9±28.8pg/ml,493.0±51.6pg/ml)(p<0.01)に有意な上昇が認められ,入浴後1hには入浴前水準に戻った。コルチゾールは入浴前(11.3±1.0μg/dl)と比較し,入浴直後では有意差は認められず,入浴後1h(18.7±1.7μg/dl)(p<0.01)で有意な上昇を認めた。ボルグスケールは入浴前が7±1.5,入浴直後が17±0.3,入浴1h後が6.5±3.0であった。【考察】本研究において,42℃20分間での入浴により唾液中sIgA濃度が一過性に上昇することが判明した。唾液量の変動はみられなかったため,唾液量減少からの唾液中sIgA濃度上昇の可能性はないと考える。したがって,高温水での入浴による温熱負荷が唾液中sIgA濃度上昇を惹起する因子であると考えられる。唾液中sIgA濃度を上昇させる因子として交感神経活動による機序が報告されている。Proctorらはラットのβアドレナリン受容体を刺激することで唾液中sIgA分泌が上昇すると報告し,Judithらも交感神経賦活が唾液量に影響を及ぼす事なく唾液中sIgA分泌率を上昇させると報告している。本研究では,血中アドレナリンとノルアドレナリンが有意に上昇しており,交感神経活動亢進によって唾液中sIgA濃度が上昇したと考えられる。また入浴直後のボルグスケールは17±0.3であり,入浴後1hのコルチゾールも有意に上昇していたことから42℃の入浴は強いストレスになると考えられた。しかし本研究により,高強度の運動負荷時のような唾液中sIgA濃度の低下は惹起されないことが分かった。今回の結果より,唾液中sIgA濃度が上昇したことから,42℃20分間の入浴は,健康増進を目的とした温熱療法として推奨できると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究において42℃20分間の入浴は,唾液中sIgA濃度の有意な上昇を認めた。ストレス環境下においても口腔内免疫機能低下は惹起されず,健康増進を目的とした入浴効果が得られることが示唆された。
  • 菊本 東陽, 丸岡 弘, 星 文彦
    セッションID: 1186
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】身体活動量の増加や定期的な持久的運動の実施は,持久力や抗酸化能の向上など,健康を良好に維持する上で有益に作用することが知られている。なかでも,抗酸化能に対しては,活性酸素の発生に対抗するために抗酸化能を増強させ,運動をしていないときでも活性酸素を除去し,酸化を防止する作用のあることが明らかにされている。反対に,過度の運動や精神,環境,免疫ストレスなどの生理的イベントによって,酸化ストレス度は増加することも明らかにされている。しかし,これらのヒトや動物を対象にした多くの報告における運動負荷方法は,機械による強制運動であり,運動自体がストレスとなる可能性が否定できない。本研究の目的は,持久的運動における運動負荷方法(強制運動と自発運動)の違いが持久力と酸化ストレス防御系におよぼす影響を調査し,酸化ストレスを抑制するための適切な運動負荷方法について検討することとした。【方法】対象は,ICR系雄性マウス(5週齢)18匹とし,無作為に強制運動群(FM群:n=6),自発運動群(LA群:n=6),対象群(CON群:n=6)の3群に区分した。運動負荷はFM群,LA群に対してのみ実施した。FM群に対しては,動物用トレッドミル(TM)を使用し,TMの運動強度を速度20m/min,傾斜10度に設定し,1日1回30分間とした。LA群に対しては,回転式運動量測定装置を使用し,回転式運動器と接続されているゲージ間の移動は自由となるように設定し,1回24時間とした。両群ともに週3回の頻度で連続4週間実施した。なお,本研究の開始前に1週間の馴化飼育期間を設けた。測定は全群に対し,4週間の運動負荷期間前後にTM走行時間,酸化ストレス防御系について実施した。TM走行時間の測定は,TMの運動強度を速度25m/min,傾斜20度とし,運動の終了基準をTM走行面後方の電気刺激装置による刺激間隔が5秒以内となった時点とした。酸化ストレス防御系の測定は,活性酸素・フリーラジカル分析装置(H&D社製FRAS4)を使用し,酸化ストレス度(d-ROM)と抗酸化能(BAP)をTM走行時間測定直後に測定し,潜在的抗酸化能(BAP/d-ROM比)を算出した。なお,酸化ストレス防御系の測定には,尾静脈を一部切開し採血を行い,遠心分離後の血漿を用いた。得られた数値は,平均値±標準偏差で表した。有意差の検定は対応のあるt検定および一元配置分散分析を実施し,有意水準5%で処理した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本大学動物実験倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】(1)持久力の変化TM走行時間(秒)について,運動負荷期間開始前はFM群:2719.1±1012.8,LA群:2071.0±889.4,CON群:2675.8±1128.7,運動負荷期間終了後はFM群:2770.4±1076.4,LA群:3636.8±666.9,CON群:3114.7±1524.7であり,LA群のみ運動負荷期間前後に有意なTM走行時間の延長を認めた(p<0.05)。しかし,平均変化量の群間による比較では,有意差を認めなかった。(2)酸化ストレス防御系の変化d-ROM(U.CARR)について,運動負荷期間開始前はFM群:132.6±19.6,LA群:133.0±23.2,CON群:126.8±13.2,運動負荷期間終了後はFM群:139.8±32.8,LA群:174.7±24.5,CON群:139.8±32.8であり,FM群,LA群の運動負荷期間前後に有意な上昇を認めた(p<0.05)。BAP(μM)について,FM群:3136.6±307.8,LA群:3044.8±186.0,CON群:3022.5±463.6,運動負荷期間終了後はFM群:2860.4±455.4,LA群:2655.3±205.4,CON群:2956.5±647.6であり,FM群,LA群の運動負荷期間前後の比較では有意な低下を認めた(p<0.01)。BAP/d-ROM比について,FM群:24.2±5.3,LA群:23.4±3.7,CON群:23.8±1.9,運動負荷期間終了後はFM群:16.1±4.2,LA群:15.5±3.1,CON群:22.0±5.9であり,FM群,LA群の運動負荷期間前後の比較では有意な低下を認めた(p<0.01)。しかし,いずれの測定項目においても平均変化量の各群間の比較では有意差を認めなかった。【考察】持久力において,LA群で認めたTM走行時間の延長は回転運動器の回転数の増加と関連していた。酸化ストレス防御系において,運動負荷群にd-ROMの有意な上昇を認めたのは,測定前の運動負荷が酸化ストレス度の過度な上昇につながり,介入効果で相殺できなかったことが示唆された。また,d-ROM,BAPの平均変化量に群間差を認めなかったのは,体内でビタミンCなどの抗酸化物質を自ら産生する能力を有する標準的なマウスを選択したことも一因であると推察した。【理学療法学研究としての意義】理学療法による初期介入は,適度の運動負荷量であっても強制運動になりかねない。本研究で示した,自発運動で持久力の改善を認めたことから,介入時期に応じた効果的な運動負荷方法の一指標になるものと考える。
  • 浦川 将, 兼本 宗則, 高本 考一, 酒井 重数, 松田 輝, 田口 徹, 水村 和枝, 小野 武年, 西条 寿夫
    セッションID: 1187
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】筋の痛みに対する理学療法は,最も頻繁に行われるリハビリテーション治療法のひとつである。この治療機序解明を目的として,ラット腓腹筋の伸張性収縮と温熱・寒冷刺激を行い,腓腹筋表面と筋温度,ミトコンドリア活性,および機械圧痛閾値の変化を計測した。【方法】6週齢のSD雄性ラットを十分にハンドリングにより馴化させ,事前の機械圧痛閾値を測定後,麻酔下にて左腓腹筋外側頭に対して伸張性収縮を行った。伸張性収縮は,腓腹筋外側頭の支配神経である脛骨神経近傍に刺激電極として陰極の針電極を刺入し,単収縮閾値の3倍の電流強度の通電によって筋収縮を誘発すると同時に外力を加え筋を伸張させた。4秒間の伸張性収縮1サイクルを500回繰返した。終了直後からゲルパックによる温熱刺激群(42℃-20分間)寒冷刺激群(10℃-20分間)および介入のない対照群に分けて比較検討した。腓腹筋が位置する表面温度と腓腹筋の筋温度変化を同時に測定した。ミトコンドリア活動の指標として,COX4の経時的変化をウェスタンブロット法により計測した。機械圧痛閾値の変化は12日目まで計測した。【倫理的配慮】当大学の動物実験取扱規則の規定に基づき厳格・適正な審査を受け承認を得た後,研究を行った。【結果】伸張性収縮後,数日間にわたって機械圧痛閾値の低下が観測され,腓腹筋外側頭に遅発性筋痛が認められた。伸張性収縮中の温度変化観察から,腓腹筋の表面温度と実際の筋温度が筋収縮中に上昇することが明らかとなった。さらに伸張性収縮直後の寒冷刺激により筋温度は約11.4℃下降し,温熱刺激では約2.4℃上昇した。寒冷刺激群では,対照群と同様の圧痛閾値の低下が観測されたが,温熱刺激群では圧痛閾値の低下がみられず,対照群に比べて有意に閾値が上昇した。COX4の発現は,伸張性収縮により収縮後20分から早期に上昇したが,温熱刺激群では伸張性収縮前と同レベルであり,発現増大が有意に抑制されることが判明した。【考察】伸張性収縮後の理学療法として,温熱刺激の有効性が確認された。伸張性収縮により筋自体に代謝熱が発生し,その後ミトコンドリアの活性(COX4発現量)が上昇することが判明した。温熱刺激群ではこのミトコンドリア活性が抑制されていることから,温熱刺激によって筋温を上昇させることにより,激しい運動後の筋代謝活動がミトコンドリアを動員しなくてもよい状況に改善される可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】筋の痛みに対する理学療法のひとつである温熱療法に対して,鎮痛効果が確認され,治療機序の一端として筋における代謝活動の変化が関与することが示唆された。
  • 山上 拓, 岡田 圭祐, 河田 真之介, 今北 英高
    セッションID: 1188
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】肝臓は代謝の中心臓器であり,肝機能低下によってさまざまな代謝異常が出現する。肝臓は糖代謝・蛋白質代謝・脂質代謝の中間機能をもち,生命維持に必要不可欠な臓器である。以前は,肝機能障害への運動は肝機能障害を悪化させると考えられており,安静の必要性を述べられていた。しかし,近年では,安静による身体機能の低下を防ぐために,適度な運動が必要であるといわている。運動の必要性が述べられている中で肝機能障害が骨格筋機能にどのような影響を与えるかは明らかではない。本研究は,肝機能障害モデルラットを作成し,肝機能障害が骨格筋機能にどのような影響を与えるのかを目的とした。【方法】9週齢のWistar系雄性ラット12匹を対象とし,肝機能障害モデルを作成した。作成には四塩化炭素(0.25ml/500g)を混合したオリーブオイルを1日1回,週2~3日の頻度で30日間投与し,血液データにおいてAST(IU/L),ALT(IU/L),r-GT(IU/L),T-BIL(mg/dL)の項目に関して異常値をきたし肝機能障害が生じていることを確認した。モデル作成後,ランダムに非運動群(LD群n=6)と運動群(RUN群n=6)の2群に区分した。RUN群にはトレッドミル走行(18m/min,30min,勾配±0%)を週3回の頻度で30日間実施した。すべてのラットにおいて餌や給水は自由に摂取させた。実験期間終了後,麻酔下にてヒラメ筋(SOL)と長趾伸筋(EDL)を摘出し,In vitroにおいて電気刺激を行い,筋疲労指数(FI)を測定した。筋長ならびに筋湿重量を計測後,横断切片を作成し,コハク酸脱水素酵素染色およびATP-ase染色において単位断面積当たりの筋線維タイプ別筋組成比,筋線維タイプ別筋横断面積を計測した。得られた結果は,2群間における有意性の検定としてF検定後にT検定を実施し,危険率5%未満を有意差とした。【倫理的配慮,説明と同意】本実験は,畿央大学動物実験倫理委員会の承認を得て行った。【結果】FIではSOLの開始1min後においてRUN群はLD群と比べ有意な差を認めず,開始2min後にRUN群はLD群と比べ有意に低値を認めた。EDLの開始1min,2min後ともにRUN群はLD群と比べ有意差を認めなかった。筋線維タイプ別筋組成比では,SOLのRUN群はLD群と比べSO線維が有意に高値を認め,FOG線維が有意に低値を認めた。EDLのRUN群はLD群と比べSO線維,FOG線維が有意に高値を認め,FG線維が有意に低値を認めた。筋線維タイプ別筋横断面積では,SOLのRUN群はLD群と比べSO線維が有意に高値を認めた。EDLのRUN群はLD群と比べSO線維,FG線維が有意に高値を認めた。【考察】本実験は肝機能障害モデル作成後,トレッドミルを用いた運動療法を実施し,運動療法が骨格筋機能にどのような影響を与えるかを検討した。RUN群では筋疲労指数から持久性が低下したと考えられる。筋線維タイプ別筋組成比からSO線維,FOG線維が増加傾向となり,遅筋化が起こったことが考えられる。筋線維タイプ別横断面積からSO線維,FOG線維,FG線維が増加傾向となり,筋の肥大化が起こったことが考えられる。トレッドミルを用いた運動療法において,骨格筋機能は筋肥大し遅筋化が起こり,持久性は向上することが知られている。しかし,本実験では,筋肥大と遅筋化は起こったが持久性は低下した。これは,肝機能障害に対して18m/min,30minの運動は過度であったことが考えられる。血液データのAST(IU/L),ALT(IU/L),r-GT(IU/L),T-BIL(mg/dL)が異常値を示していることから,糖代謝と蛋白質代謝の低下が出現し,乳酸の分解力低下とグルコース供給量低下が生じた。このことにより運動へのエネルギー供給量が低下し,筋疲労が起こりやすい状態となり持久性の低下に繋がったと考えられる。本実験では,肝機能障害モデルにおいて運動負荷量が過負荷によって持久性の低下が起こったと考えられる。今後,運動の負荷量の変化や継続期間を長くすることによって骨格筋機能の改善から代謝の改善を立証することが出来ればと考える。【理学療法学研究としての意義】肝機能障害への運動療法において,骨格筋機能の変化は認められた。今後,運動療法の負荷量を調節することにより,肝機能障害への運動療法の負荷量を明らかにできる可能性がある。
  • 藤田 俊文
    セッションID: 1189
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】近年,全身振動刺激(Whole Body Vibration;WBV)を用いた運動介入が,短時間の介入で効果的であるとの報告があり注目されている。特に,筋力・筋パワー向上およびパフォーマンスの向上を認めるとの報告があり,筋機能向上に大きく貢献するものと考えられる。その中でも筋電図学的な研究報告も見られ,筋機能の詳細(筋活動量や周波数分析)についても分析されてきている。しかしながら,筋電図学的な分析の際には,動作に伴うアーチファクトの影響もあり結果の解釈には十分な注意が必要である。加えて,筋活動と筋循環動態は大きく関連していると思われるが,WBV実施時の特徴については十分に検討されていない。そこで本研究では,筋電図学的分析および筋循環動態測定を実施し,WBV実施時の筋機能についての特徴を調査することである。【方法】研究対象は健常成人8名としたが,その内,データ欠損があった3名を除いた5名とした。運動負荷には,全身振動刺激装置G-Flexを用いて実施した。実施姿勢は,足部を20cm開脚し,膝関節軽度屈曲位(約40度)を維持したスクワット肢位とした。運動負荷プロトコルは,開始前座位安静5分・WBV実施時間3分(30Hz)・終了後座位安静5分とした。測定は,筋循環動態評価として簡易型近赤外線組織酸素モニタ(PocketNIRS Duo,株式会社ダイナセンス社製)を使用し,右下肢の大腿部内側(内側広筋),下腿後面(腓腹筋内側)にプローブを貼付した。安静時からWBV実施時および終了後安静5分まで常時測定した。また筋機能評価は,表面筋電計(バイオモニターME6000,MEGA社製)を使用し,電極を酸素モニタのプローブに重ならないように同様の筋腹に貼付して測定した。筋電図測定はWBV実施時の3分間測定し,サンプリング周波数は1000Hzとした。筋循環動態の特徴については,安静時からのトータルヘモグロビン,酸化ヘモグロビン,脱酸化ヘモグロビンの経時的変化の特徴について調査した。また,得られた筋電図測定より得られた値については,生データの特徴を把握し,その上でアーチファクトと思われる周波数を確認しノッチフィルタおよび5-500Hzのバンドパスフィルタを実施した。その上で30秒毎に積分値の算出,高速フーリエ変換を実施し,筋活動量と周波数特性について調査した。酸素モニタの解析にはPocketNIRS Duo付属のソフト,筋電図の解析にはMegaWin(MEGA社製)を使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は所属施設の倫理委員会の承認後に実施し,対象者へ研究の趣旨と内容について十分説明し同意を得た上で行った。【結果】WBV実施中の酸素モニタの結果では,内側広筋では運動直後から60秒程度まで安静時よりもトータルヘモグロビンが若干低下し,その後運動終了3分まで上昇を続ける傾向がみられた。また腓腹筋内側では実施直後から終了後までトータルヘモグロビンが安静時よりも低い状態となる傾向がみられた。介入終了後の安静座位において筋循環は安静時よりも高い状態で5分間経過していた。また,筋電図学的分析では,開始直後から30秒程度までが筋活動も高く,周波数解析の結果,内側広筋・腓腹筋とも高周波成分が多く含まれていた。【考察】本研究では,WBV実施時の筋循環動態と筋活動の特徴について調査した。WBVを用いた運動は高速振動により外的刺激を与える装置であり,緊張性振動反射により筋活動が促通されているといわれている。筋電図の特徴からも,開始30秒程度の運動は高頻度に筋収縮が引き起こされ,これは速筋線維が優位に活動していることが示唆された。また,筋循環動態の特徴として,運動開始30秒程度で循環動態の低下が見られやすく,有酸素性の運動よりも無酸素性の運動が優位であることが示唆された。また内側広筋の筋組成の特性上,遅筋線維が多く含まれていうということを考慮すると,開始後ある一定の時間を過ぎた時点から有酸素性のエネルギー供給が増加すること,逆に腓腹筋に関しては速筋線維が多く含まれているという点から運動中は無酸素的なエネルギー供給割合が大きいことが示唆された。ただし,個人レベルで特異的な反応をしている印象もあり,今後さらに対象者数を増やして対象者の特性(身体組成や運動歴など)などからの検証を行うことでより詳細な結果が得られる可能性がある。【理学療法学研究としての意義】WBVを用いた運動の特性を十分踏まえた上で,臨床上でWBVを使用する根拠としてのひとつの指標を示すことができたと考えられる。
  • 増山 慎二, 北野 晃祐, 川本 友範, 月木 伊都子, 大田 智加予, 丸山 俊一郎, 村田 敏明, 小野 順子
    セッションID: 1190
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】糖尿病患者は,肥満を改善することでインスリン抵抗性の改善,糖尿病腎症の進展抑制が期待できる。肥満治療は,筋肉量を反映する除脂肪量の減少抑制が肝要であり,運動療法が推奨される。しかし,筋蛋白異化亢進,蛋白制限(PC),尿蛋白量増加が背景にある糖尿病顕性腎症(DN3B~4)患者に対する効果は明らかにされていない。今回,糖尿病教育入院中にPC食を摂取しているDN3B~4患者は,運動療法により除脂肪量減少を抑制しているかを後方的調査にて検討する。【方法】対象は,2010年1月から2013年3月の間に当院において糖尿病教育入院中に理学療法を行い,PC食を摂取しているDN3B~4期患者12名(PC食群)と,栄養調整(EC)食を摂取しているeGFR60ml/min以上の21名(EC群)。除外基準は,50歳未満または80歳以上の患者,歩行困難,浮腫・腹水,著明な視力低下,下肢切断を有する患者,利尿剤を使用していない患者,診療録により経過が追えない患者とした。対象群の比較として年齢,入院時BMI,在院日数,HbA1c,eGFR,尿蛋白量,指示エネルギーをWilcoxonの符号付き順位検定を行った。また,両群のインスリン療法使用率を算出した。運動項目はストレッチ,有酸素運動,レジスタンストレーニング(RT)に分類し,実施割合を算出した。身体組成(体重,除脂肪量,脂肪量)は,入院時,退院時に測定し,Wilcoxonの符号付き順位検定を行った。機器はインピーダンス法(タニタBF-220)を用いた。入院時,退院時の身体組成の変化率と,尿蛋白量にピアソンの相関分析を行った。統計学的分析は統計ソフトDr.SPSSII for Windowsを用い,いずれも有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,後方視的な調査である。調査時に継続して当院を受診している対象者に対しては口頭で研究概要を説明し同意を得た。調査は当院倫理委員会の承認を受けて実施した。ヘルシンキ宣言を遵守し,個人が特定されることがないよう注意した。また,研究への同意を撤回する権利を有することを説明した。【結果】両群の年齢,入院時BMI,在院日数に有意差はみられなかった。HbA1c,eGFR,尿蛋白量に有意差(p<0.01)がみられ,指示エネルギーに有意差(p<0.05)がみられた。インスリン療法使用率はPC群66.6%,EC群23.8%であった。ストレッチと有酸素運動は,ほぼ全例に実施していた。RTは,PC群16%,EC群57%に実施していた。PC群は,体重が67.5±12.1kgから64.6±10.8kg,除脂肪量が52.1±8.1kgから48.9±7.0kgと有意(p<0.01)に減少していた。EC群は,体重が62.1±12.0kgから60.3±11.2kgと有意(p<0.01)に減少し,脂肪量が21.0±8.5kgから19.6±8.3kgと有意(p<0.05)に減少していた。PC群の除脂肪量の変化率と尿蛋白量に相関(r=0.68,p<0.05)していた。【考察】PC群は,除脂肪量が有意に減少していた。PC群は運動制限があり,運動負荷の高いRTの実施が困難であったと考えられる。RTは,有酸素運動と併用することで除脂肪量減少の抑制効果を高めるとしており,RTの実施頻度が低いことは,PC群の除脂肪量減少の要因と考えられた。EC群は,RTの実施頻度が高く,除脂肪量減少を抑制しつつ減量が可能であったと考えられた。また,PC群は入院中に体重が約3kg減少していた。短期間の急激な減量は,除脂肪量減少を伴うとされており,1か月の適正な減量は1~2kgとしている。1か月未満での3kgの減量は,PC群の除脂肪量減少を抑制できなかった要因と考えられ,教育入院中の消費エネルギーに対する摂取エネルギーの調整が課題として挙げられた。PC群の除脂肪量変化率と尿蛋白量が相関していた。尿蛋白量の増加が,除脂肪量減少の要因と考えられた。【理学療法学研究としての意義】PC食を摂取しているDN3B~4患者は,運動療法による除脂肪量減少の抑制効果は低いことが示唆された。
  • 沼田 純希, 井上 宜充, 石井 顕, 宮地 竜也, 東 陽子, 永塚 信代, 芹澤 貴子, 國保 敏晴
    セッションID: 1191
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】末期腎不全(ESKD)患者,特に透析患者には全身的に合併症が併発し,活動量低下から筋力・運動耐用能低下をきたしやすく,運動療法介入の必要性は高いとされる。当院ではESKD患者の病期や透析方法に合わせた介入を実施しているが,臨床上,活動意欲の低下もみられ,介入には病期・病態や生活環境など個々の症例への配慮の必要性を感じることが多い。本報告では,後方視的に介入成果を分析し,今後の運動療法実施の一助とすることを目的とした。【方法】対象は,①保存期のESKD患者及び家族,②血液透析(HD)患者,③腹膜透析(PD)患者とした。保存期のESKD患者及び家族に対しては「腎臓病教室」を定期的に実施し,医師・看護師・管理栄養士・理学療法士が治療の理解と進行予防の啓発活動を実施している。終了後,理解度や感想を質問紙法で聴取し次回に反映している。HD患者に対しては透析中運動療法を実施している。週1回,3ヶ月間,ゴムバンドや重錘を用いたレジスタンス運動を実施し,その他home exerciseとして下肢レジスタンス運動を処方した。開始時・終了時に,自覚症状や生活状況の聴取,hand held dynamometer:HHD(μ-Tas F-1,アニマ株式会社)を使用し等尺性膝伸展筋力体重比(以下,体重比)(%),10m歩行時間(sec)を測定し,対象者へフィードバックしている。本報告では,運動機能改善を認めた3例{男性1例(89歳),女性2例(90,63歳)}の経過を述べる。PD患者に対しては日常行動記録計(Welsupport,ニプロ社)を用い3~4ヶ月毎に1週間の活動量(kcal),歩数(steps)等を計測し,また質問紙法での活動度・自覚症状等の聴取,さらに体重比(%),6分間歩行(以下,6MD)(m)を測定し,結果から有酸素運動及び下肢筋力強化を中心とした運動指導を実施している。今回は,8例{男性7例,女性1例,年齢61.5歳(43-80),median(min-max)}の測定結果と,うち2度の指導を行った5例{全例男性,年齢69歳(56-80)}の経過を述べる。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を受け実施した(承認番号:25-28)。また,対象者には十分な説明を行い同意を得た。【結果】腎臓病教室後の理解度アンケートでは,全体として食事療法に関する感想が多数みられた。運動療法については,運動の必要性を初めて認識したという旨の内容がみられた。HD患者についてはそれぞれ,体重比が初期で12.3,26.5,11.0(%),最終が21.2,36.1,27.5(%),10m歩行時間が初期で9.96,8.44,11.9(sec),最終が8.39,8.5,8.85(sec)と改善を認めた。PD患者については,身体活動量176.5(88.5-564)kcal/day,歩数6889(2113-14240)steps/day,体重比39.7(27.7-65.5)(%),6MD 522(411-593)mであった。また,再評価可能であった5名の各項目の変化率は活動量155%,歩数168%,四頭筋筋力108%,6MD97%であった。【考察】保存期患者・家族からは,食事療法に関する反応が多く得られたことから,疾患と生活習慣との関係への関心の高さが示唆された。一方,運動に関しては認知度の低さが認められた。保存期患者に関して,適度な運動療法の重要性が報告されており,より早期からの運動を含めた生活習慣改善の指導が予後改善につながると考えられる。HD患者に関して,週1回の運動頻度にも関わらず運動機能改善がみられたことは,home exerciseの実施が一因と考えられる。運動定着に関しては,非透析日の運動でdrop outが多いとの報告もあり,今回の方法が他症例にも適応となるかは今後の検討が必要である。PD患者については,等尺性膝伸展筋力体重比に関して,平澤らが60代の健常者平均では男性63.6±11.6(%),女性50.2±9.6(%)であると報告しており,健常者に対するPD患者の筋力低下が示唆された。また,活動量の増加を認めたが,体重比・6MDの改善はみられなかった。これは,散歩等の有酸素運動量は増加したが,速度は至適速度で実施しており,またレジスタンス運動は実施しなかった症例が多かったためと考える。時間的制約が少ない点がPDの特性ではあるが,実際には就労していない症例や高齢者では社会参加・外出頻度は少なく,1.5~2.5lの透析液の重量による倦怠感も重なり低活動となっている症例も多く,医療者の関わり方の工夫,home exercise方法の選択が課題と考える。本研究の結果から,CKD患者の病状,身体機能や生活環境は多様であり,個々の症例に対する運動療法介入に併せ,QOL改善のため行動変容を促していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】腎臓リハビリテーションにおいて,病期,また個々の症例に応じて介入方法を考慮する必要性が示唆された。更に,早期からの運動の重要性に関する啓発が必要であると考える。
  • 中道 博, 池田 裕貴, 森田 善仁, 原田 和博
    セッションID: 1192
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】透析人口は2011年に全国で30万人を超え,血液透析(HD)患者の高齢化が進んでいる。一般的に,透析をする高齢者では筋力低下,筋委縮,腎性貧血,心肺機能低下などで運動耐容能低下や易疲労性を生じやすい。また,水分摂取や通院などの日常生活における制限や抑うつ,死の恐怖などの精神的ストレスにさらされているため,活動性が低下しやすい心理社会的状況にあると言える。これらの背景から,運動を継続して行っているHD患者は少ないのではないかと推察される。また,透析患者の生活の質(QOL)は一般人口よりも低下していることが知られ,運動習慣の欠如はQOL低下に影響を及ぼす一因かもしれない。本研究では,HD患者における運動の状況とその継続に関わる要因を分析し,運動の継続が自己効力感やQOLに及ぼす影響について検討した。【方法】当院のHD患者を対象に,運動の継続に関するアンケート調査と同時にSF-36v2,Exercise Self-Efficacy(運動SE)を実施した。認知症や意識障害,四肢の機能障害を有する患者は除外した。診療録より年齢,性別,透析年数,糖尿病の有無の項目を抽出した。「1回30分以上の運動を,週2回以上,1年以上継続」を“運動習慣”,「何らかの運動を週1回以上,6か月以上継続」を“運動継続”と定義した。続いて,運動継続の有無と年齢(65歳未満と65歳以上),性別,長期透析(10年未満と10年以上),糖尿病の有無との関連を調べた。最後に,運動継続群と非運動継続群に分け,SF-36v2の下位尺度および運動SEのスコアを比較した。統計解析にはChi-Square test,Mann-Whitnet U testを用い,P<0.05を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は病院倫理委員会の承認を得て実施された。事前に本研究の内容について文書により説明を行い,同意した患者を対象とした。【結果】136名中117名より回答を得た。平均年齢は65.4歳,男性の割合は55%,平均透析年数は9.1年,糖尿病を有する割合は35%であった。“運動習慣”,“運動継続”ありの割合はそれぞれ10%,33%であった。運動継続の有無に関わる要因では,年齢,性別,透析年数,糖尿病の有無のいずれも関連を認めなかった。SF-36v2のスコアは,運動継続の有無に関わらず,すべての下位尺度において国民基準値を歌まわっていたが,運動継続群では,身体機能,日常役割機能(身体),日常役割機能(精神)の下位尺度において非運動継続群よりもスコアが高値であった。また,運動継続群は,非運動継続群より運動SEのスコアが高値であった。【考察】当院では“運動習慣”のない透析患者が大多数であった。透析患者は一日の活動量が健常人の40%程度まで低下していると言われており(今井2009),透析患者の運動機能をいかに維持するかは深刻な問題である。一方で,“運動習慣”に至らないでも,“運動継続”している透析患者は一定数いることが判明した。何らかの運動を継続することは,透析患者の自己効力感を高め,身体活動に関わるQOLの改善につながる可能性がある。特に,自己効力感は身体活動,運動の促進,継続に最も関わる心理的要因とされることから,透析患者の自己効力感を高め,“運動継続”を支援する対策が必要と考える。【理学療法学研究としての意義】今透析医療において高齢化が急速に進んでおり,運動機能の低下により自力で外来通院ができなくなる患者が増加している。長年運動習慣のない透析患者が一人で運動を始めて継続することは難しいため,理学療法士が介入する意義は大きい。さらに,自己効力感が高まるような介入は,身体活動,運動の促進,継続につながる可能性がある。
  • 垣内 優芳, 三上 英慈, 肥田 典子, 森 明子
    セッションID: 1193
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】血液透析患者(以下 透析患者)では,透析療法後半に血圧低下を伴う筋痙攣(こむら返り)を起こすことがある。筋痙攣は患者にとって苦痛であり,充分な透析療法の妨げになる。その発生原因には多量に貯留した体液を短時間に除水することによる血管内脱水がある。その他,ドライウエイト(以下DW)の設定不良,電解質濃度の変動,カルシウム(以下Ca),カルニチンの低下なども関係する。筋痙攣の対策には除水を低下ないし中止,10%NaCl溶液投与,補液,カルシウム,カルニチンなどの薬物療法,DWの調整,過剰な飲水に対する患者指導などが挙げられる。透析患者はその病態から代謝機能の低下に加えて運動耐容能の低下が顕著となり,骨格筋量が減少すると報告されている。骨格筋量の減少は体内の総水分量低下につながるため,脱水による筋痙攣を発生させやすい状態にあると推測する。しかし,透析患者の骨格筋量の増加が筋痙攣を改善するかどうかは明らかではない。今回我々は,長期間の運動療法後に透析療法後半に出現していた下肢の筋痙攣が消失した症例を経験する機会を得たので報告する。【方法】症例は糖尿病性腎症で平成23年4月に血液透析導入となった60代前半の男性で,平成24年に右第2趾切断,廃用症候群と診断された。既往歴は糖尿病(HbA1c6.8%),第7頸椎・第1胸椎椎体炎,脳梗塞である。透析療法はオンラインHDF,週3回,バスキュラーアクセスは左上肢である。降圧剤服用中であった。運動療法開始の前月である平成24年7月時の下肢筋力はF+~G,Barthel Index(以下BI)は65点で歩行や階段昇降困難,入浴も要介助であった。両手指・足趾の変形を認めるも,四肢の運動麻痺や感覚障害はなかった。同月1か月間で計13回透析療法を実施しており,透析前収縮時血圧は152.1±17.8mmHg,透析後収縮期血圧は146.9±15.6mmHg,透析中の下肢痛や下肢の筋痙攣発生回数は13回中3回,透析中の10%NaCl溶液の投与回数は13回中5回であった。DW55kg,心胸比49%,補正Ca値8.2mg/dlであり,蛋白質摂取量を反映する標準化蛋白異化率(以下nPCR)は1.3g/kg/day,全身の骨格筋量を反映する%クレアチニン産生速度(以下%CGR)は91%であった。これらはカルテと血液透析記録結果から調査し,Shinzato式により算出した。運動療法はカリウム値が6mEq/L未満で不整脈がないことを確認した後に開始した。週2回,1回20分,1年間継続した。治療内容は下肢関節可動域運動,ストレッチ,下肢筋力強化運動とし,透析開始2時間以内の透析中に行った。筋力強化の強度はBorgスケール11(楽である)~13(ややきつい)とした。運動療法開始1年後に下肢筋力,BI,血圧,透析中の下肢痛や筋痙攣発生回数,10%Nacl溶液投与回数,DW,心胸比,補正Ca値,nPCR,%CGRを再評価した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守した上で研究計画を立案し,対象者には紙面および口頭で本研究の趣旨と目的等の説明を十分に行い,本研究への参加について本人の自由意思による同意を文書にて取得した。【結果】運動療法による急激な血圧変動,不整脈,胸部症状の発生はなかった。運動療法開始1年後の両手指・足趾の変形,下肢筋力,BIに著変はなく,1か月間(計13回の透析療法)の透析前収縮時血圧は160.8±18.6mmHg,透析後収縮期血圧は148.4±15.1mmHgであった。透析中の下肢痛や下肢の筋痙攣は平成25年2月頃より消失し,発生回数は0回であった。10%NaCl溶液の投与回数は0回,DWは1年間の中で定期的な修正が行われ最終的に63kg,心胸比は50%であった。補正Ca値9.5mg/dl,nPCR0.81g/kg/day,%CGR98%であった。【考察】透析中の下肢痛や筋痙攣は消失し,10%NaCl溶液の投与も不必要となった。これは%CGRの上昇(骨格筋量の改善)によって体内の総水分量が増加し,脱水症状が緩和したと推測する。ただし,nPCRが0.81であり蛋白質の摂取量が不足しており,より効果的な骨格筋量の改善のために蛋白質やエネルギーの摂取を促し,充分な透析療法を行う必要がある。またADL,QOLなどの視点からDWの検討と修正が行われたこと,Ca値の改善なども筋痙攣改善の要因になったと示唆する。今回はこれらの様々な要因が筋痙攣の改善に影響したと推測され,今後,骨格筋量と筋痙攣の関係性については検討の余地がある。【理学療法学研究としての意義】運動療法による骨格筋量の改善は,透析患者の筋痙攣の軽減に繋がる可能性があることが示唆された。
  • 3年間の追跡調査
    上杉 睦, 園 英則
    セッションID: 1194
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】肥満は様々な疾患の要因であり,整形疾患や内部障害などのガイドラインでも肥満の改善や減量指導が推奨されている。また,日常生活動作でも肥満は立ち上がり動作,歩行動作などの努力量を増加させる要因である。肥満に対しては有酸素運動や運動療法の実施と,栄養管理の継続が重要である。介護老人保健施設(老健)では多職種による包括的ケアの提供が可能で,運動療法や栄養管理を,中長期的に継続することが可能である。今回,老健の2度の入所と通所リハビリの利用による体重減少の取り組みが効果的であった症例を経験し,3年間の調査を行ったので報告する。【方法】80歳代,女性,身長160.0cm,BMI31.3,肥満II度(日本肥満学会基準),FIM93点(運動13項目73点),既往歴は脳梗塞,心不全。脳梗塞の発症により急性期病院に入院の後,当老健へ1度目の入所(初回入所)をする。6カ月の入所の後,在宅復帰し同老健の通所リハビリを週2回利用する(在宅)。在宅生活2年経過時に老健に2度目の入所(再入所)をする。9カ月の入所の後,再度在宅へ復帰する(再在宅)。老健入所時は運動療法を週5回,座位エルゴメータ15分(カルボーネン法,定数0.4にて目標心拍数を設定),連続歩行運動20分を実施した。栄養管理では管理栄養士により,1日エネルギー1500kcal,タンパク質60gの食事提供を行った。通所利用時は運動療法を週2回実施。内容は入所時と同様で負荷量の調整を行った。評価項目は全期間を通じて1ヵ月毎の体重を測定した。また,下肢伸展筋力(OG技研,GT-3500),Timed Up & Go Test(TUG),5m歩行速度,ファンクショナルリーチテスト(FRT),握力,FIMを3ヵ月ごとに測定した。また,5m歩行直後の膝関節の疼痛についてNRSを測定した。退所時の訪問指導では1度目の退所時は理学療法士による家屋改修,2度目は管理栄養士による栄養指導を本人と家族に行った。【倫理的配慮,説明と同意】研究の実施および個人情報の取り扱い方法に関してはヘルシンキ宣言および臨床研究に関する倫理指針を順守し,対象者および家族に説明と書面の署名にて同意を得た。【結果】体重(kg)は初回入所時77.4,入所後6ヵ月後は67.9に減少した。しかし,在宅生活後10ヶ月に79.8に増加した。再入所後は入所後8ヶ月で71.0に減少し,再在宅後3ヵ月後も70.3で経過した。5m歩行(秒)は初回入所時13.3が6か月後12.4,再入所時38.7が入所後8か月後に11.7に改善した。TUG(秒)は初回入所時40.3が6ヵ月後34.9に,再入所時は67.0となったが再入所後7ヵ月後に27.9に改善した。NRSは初回入所時8/10が入所3日ヵ月後に5/10,5ヵ月後に3/10と改善した。膝伸展筋力,FRT,握力,FIMは特徴的な変化はなかった。【考察】老健入所における集中的な運動療法と栄養管理の実施により,1ヵ月に2~3kgの理想的な体重減少が達成できた。下肢筋力の変化はなかったが歩行速度が改善したことより,体重減少による動作の改善や膝関節の負担の軽減による疼痛の減少の効果が考えられる。老健入所による集中的な運動療法の実施や栄養管理の継続は肥満の改善に効果的である。一方,在宅生活では日常生活での運動量確保や栄養管理の徹底とその継続は難しく,本人,家族への指導や環境の調整と通所サービスの利用による継続的な管理が重要である。【理学療法学研究としての意義】老健の役割は在宅復帰支援,在宅生活の継続支援である。現在の法制度において今回の症例のように,疾患名に関わらず中,長期的に理学療法士や他の職種が包括的に介入できる環境が老健の特徴である。今後,老健で理学療法士の役割の拡大を図る取り組が必要である
  • 新田 佳央, 砂原 正和, 中川 ふみよ, 市木 育敏, 橋本 有加, 速見 菜々花, 有田 親史
    セッションID: 1195
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】運動後,酸素消費量(以下VO2)が安静時よりも増加した状態が持続するということはよく知られており,これは運動後余剰酸素消費量(excess post-exercise oxygen consumption;以下EPOC)と呼ばれている。EPOCを生み出す要因については,乳酸の除去やホルモンレベルの上昇,基質利用の変化など諸説ある。また,除脂肪体重は運動中の酸素消費量と相関が認められるとされるが,EPOCとの関連を検討した研究は数少ない。そこで今回,強度の異なる二つの運動を行い,EPOCを除脂肪体重の点から比較し検討することを研究の目的とした。【方法】対象は健常成人男性7名(年齢24.3±1.9歳,身長170.9±7.1cm,体重62.4±7.9kg)で,運動習慣がないものとした。実験は3回実施し,それぞれ最大酸素摂取量(以下VO2max)測定,VO2maxの40%の負荷での運動実験(Low Intensity;以下LI),VO2maxの70%の負荷での運動実験(High Intensity;以下HI)であった。最初にVO2maxの測定を行い,LIおよびHIの負荷量を算出し,2つの運動実験は順番を無作為に行った。3つの実験は,それぞれ1週間以上の間隔を設け,実験は昼食後5時間以上経ってから実施した。高強度の運動,飲酒,喫煙,カフェインの摂取は実験前24時間以上避け,実験当日の昼食以降は水のみ摂取を許可するという条件を設定し行った。3つの実験には呼気ガス分析装置(AE-310s,ミナト医科学社製)を用い,breath-by-breath法でデータを30秒ごとに採取し,VO2max測定は漸増負荷法によるall-out testにて行った。運動方式は自転車エルゴメーター(75XL,COMBI社製)を用いた。また,VO2max測定前に体成分分析装置(Inbody230,Biospace社製)を用いて体組成の測定を行った。2つの運動実験は,VO2が定常状態になるまで安静にした後で10分間運動を行い,運動後は背臥位での安静による30分間のデータ測定を行った。統計学的解析は,安静時と運動後のVO2の平均値の差の検定にはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた。除脂肪体重とVO2の関連性の検討にはPearsonの積率相関係数を用い,除脂肪体重とEPOCの総量の関連性の検討にはSpearmanの順位相関係数を用いた。統計学的有意水準はすべて5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,被験者には本研究の目的,方法,危険性などを十分に説明し,全員から実験に参加することの同意を得た。【結果】EPOCはLIで運動後2分30秒時点まで,HIで運動後9分30秒時点まで認められ,EPOCの総量はそれぞれ8.5±0.8L,10.4±1.1Lであった。除脂肪体重と両運動条件におけるEPOCの総量の関連を検討したところ,LIとは有意な正の相関(r=0.89)が認められたが,HIとは有意な相関は認められなかった。また,除脂肪体重と安静時のVO2との間には有意な相関は認められなかったが,LIおよびHIの運動中のVO2と有意な正の相関が認められた(それぞれr=0.81,r=0.81)。【考察】本研究では,EPOCと除脂肪体重の関連性は強度によって異なるという結果が得られた。Taharaらは,EPOCの総量と除脂肪体重との間には有意な正の相関が認められると報告しているが,この研究では運動強度が明確に定義されていない。また,Lamontらは,VO2maxの50%の強度で1時間の運動を行わせたところ,EPOCの大きさは性差を問わず除脂肪体重と関連があったと報告している。ただし,運動強度によって除脂肪体重がEPOCに及ぼす影響が異なるという先行研究はなく,本研究の結果からその可能性が示唆された。今回は,HIでは相関は認められず,LIのみで相関が認められた。このことは,運動における代謝回路や,筋収縮に動員される筋線維のタイプなどの影響を受けたことが考えられるが,今後,さらなる研究が望まれる。また,除脂肪体重は両運動条件での運動中のVO2との間には高い相関が認められたが,安静時のVO2との間には有意な相関が認められていないことから,運動中の酸素摂取動態への貢献が大きいことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,EPOCは除脂肪体重とともに運動強度の影響も受けることが示唆された。今後,EPOCの要因を検討する上では,運動中の酸素消費動態と異なることや,運動強度に関しても考慮する必要があることがわかった。
  • (ホームエクササイズ指導による1症例検討)
    中島 文音, 田中 仁
    セッションID: 1196
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】脳卒中ガイドラインのリハビリテーションでは,痙縮軽減に対して経皮的電気刺激(以下TENS)が勧められている。しかし,訪問リハビリテーション場面で,その効果を検証している研究は少ない。そこで,本研究では,訪問リハビリテーションにおいて,TENSのホームエクササイズを指導し,それを行うことで,上肢の実用性の向上,歩行の安定性の向上が得られるかABA型シングルケースデザインで実施した。【対象と方法】対象は33歳男性,3年前に前頭葉出血にて左片麻痺を呈した症例である。上肢はブルーンストロームステージ3,下肢はブルーンストロームステージ3,基本動作,日常生活動作ともに自立し,就労している。A期間(介入期)は,訪問リハビリテーション時の運動療法とTENSを実施した。低周波治療器は,伊藤超短波トリオ300を使用した。麻痺側上肢は,手関節背屈筋群(橈側手根伸筋)に電極を設置した。麻痺側下肢は,足関節背屈筋群(前脛骨筋)に接置した。上肢,下肢ともに30mmA,100Hzに合わせ毎日30分間実施するように指導し,それを5週間実施した。B期間(未介入期)は,運動療法のみを5週間実施した。A1期,B期,A2期に渡って,15週間を研究期間とした。評価について上肢は,握力(血圧計を使用),Modified Ashworth scale(以下MAS,6段階を1~6と表記した),Fugl- Meyer-TEST(以下FMT),下肢は,歩行速度(5m)30秒間立ち上がりテスト,Times up and Go Test(以下TUG),Functional Reach Test(以下FRT)を実施した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,対象者,家族にヘルシンキ宣言に基づいた研究の主旨の説明を行い,同意を得て進行した。また,当所属法人の倫理委員会で承認された研究である【結果】上肢において握力は,A1期5.6±1.5mmHg,B期7.9±2.3mmHg,A2期6.4±2.2mmHg,MASで肘関節伸展は,A1期4.0,B期4.0,A2期3.4±0.9,肘関節屈曲は,A1期2.8±0.8,B期3.4±0.5,A2期3.0±1.0,手関節回外は,A1期5.2±0.4,B期5.0,A2期5.4±0.5,手関節回内は,A1期1.0,B期1.0,A2期1.0,FMTは,A1期28.4±1.5,B期29.8±2.7,A2期32.6±1.8であった。下肢において歩行速度は,A1期7.1±0.6秒,B期7.0±0.9秒,A2期7.9±0.4秒,30秒間立ち上がりテストは,A1期14.5±0.5回,B期13.4±0.5回,A2期13.5±0.8回,TUGは,A1期13.5±0.9秒,B期12.7±0.9秒,A2期13.1±0.8秒,FRTは,A1期15.4±2.9cm,B期15.5±2.8cm,A2期19.8±3.2cmであった。【考察】脳卒中治療ガイドライン2009より,痙縮に対し,高頻度のTENSを施行することが勧められている。脳卒中片麻痺患者に対し,訪問リハビリテーションでのホームエクササイズ指導によるTENSによって,上肢では,どれだけの筋緊張低下,随意性の向上がみられるかどうか,下肢では,歩行能力,バランス能力の向上がみられるかどうかを検討した。脳卒中治療ガイドラインより,TENSは刺激頻度や評価期間により,効果判定に差がみられている。長期効果としてTENS(1.7Hz,60分,週5)を施行し,3年間の評価では痙縮の改善が有意にみられていない(Ib)。100Hzの高頻度のTENSを施行することにより,8週間での評価では,痙縮の改善が有意にみられている(Ib),とのことから,今回は100Hzの高頻度のTENSを利用し自宅でのホームエクササイズとして容易にできるよう麻痺側上肢下肢ともに100Hz 30mA 30分間を施行した。握力はA1期では,1番低い値になりB期で1番高い値となった。それは,TENSによる相反抑制作用によって屈筋群の随意性が抑制され,握りにくくなったためかと考える。MASの肘伸展はA2期で低下した。これは,脊髄レベルにおける上位運動ニューロンの過興奮の抑制効果が上肢全体及んでるのではと考える。肘屈曲でも同じように考える。FMTは,A2期で著しく向上した。これはTENSによって上肢全体の随意性が向上したと考える。下肢においては歩行能力関係の評価は変化がなかった。しかし,FRTはA2期において著しく向上した。それは,下腿三頭筋の痙性抑制による荷重時の重心移動が円滑になったためと考える。痙性筋への電気療法による痙縮抑制のメカニズムは,電気刺激に伴い感覚神経全体の興奮が起こるとし,これらの求心性発射は,α運動ニューロンに対し抑制を引き起こすと考えられている。拮抗筋への電気療法による痙縮抑制のメカニズムは,麻痺筋への拮抗筋に電気療法施行後に相反抑制の回復と考えられている。従って本研究においては,それらの効果によって,訪問リハビリテーションにおけるTENSのホームエクササイズの効果は,上肢の随意性をやや向上させ,下肢においては,バランス能力を向上させたと考える。【理学療法学研究としての意義】訪問リハビリテーションにおける物理療法効果の検証の一助になると考える。
  • 高野 吉朗, 松原 誠仁, 松瀬 博夫, 志波 直人
    セッションID: 1197
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】わが国は高齢社会に伴い多くの高齢脊髄損傷者が増加しているが,在宅障害者は医療施設と同様の積極的な理学療法を受けることは環境の違いにより難しい。国内外で古くから,脊髄損傷者に対し様々な電気刺激法を用いた理学療法は行われている。介護保険開始以降,在宅理学療法は拡大しているが,理学療法効果を科学的検証した知見は少ない。今回,在宅高齢脊髄損傷者の1症例に対し,シングルケースデザインABA法を用い,電気刺激療法を用いた効果を,三次元動作解析で検証した報告をする。【方法】対象者は胸髄下位の脊髄炎により両下肢不全麻痺を呈している要介護2の70歳女性である。発症後10年経過し,通所介護を週2回利用しているのみで,医療施設における理学療法は受けていない。通常移動はローテーター型歩行器を屋内外で利用しているが,監視下で10m独歩は可能である。介入方法は,志波らが開発した電気刺激と随意刺激を組み合わせた筋力強化法であるハイブリッドトレーニングシステムを用い,膝屈伸運動20分を週2回6ヶ月間行った。電気刺激療法が歩行動作に及ぼす影響について,介入前,介入6ヵ月後,介入終了後6ヵ月後にKinematicsおよびKinetics的解析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は久留米大学倫理委員会の審査を受けた。対象者に対し研究の説明を行い,途中中止の申し出が可能であることも伝え同意を得た。【結果】電気刺激療法介入前と介入終了後6ヶ月後の力学的評価量を比較すると,左下肢支持期前半における地面反力前後成分が大きな負の値を示した。また,左下肢支持期における足関節外転および膝関節外旋角度が増加し,右下肢支持期前半における股関節伸展角度が増大した。下肢関節トルクは,右下肢支持期における足関節背屈-外転,膝関節屈曲,股関節外転トルクが増大した。また,左下肢支持期における足,膝および股関節外旋トルクが大きく減少した。【考察】電気刺激療法介入後の歩行動作において,右下肢では,股関節伸展および外転筋群の活動が増加すること,左下肢では内旋から外旋位となり,外旋筋群の活動が減少することが示唆された。このことは,接地時の衝撃力を示す地面反力前後成分に抗する筋活動が出現していることを示すものである。以上のことから,電気刺激療法を用いたハイブリッドトレーニングシステムは,歩行時の筋活動量を増加させるため,訪問理学療法の有益な治療法の1つであることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】訪問理学療法は拡大しているが,提供する理学療法内容は乏しい問題点も挙げられる。今回,新しい物理療法技術を集中的に実施した効果を科学的に検証出来たことは,訪問理学療法の発展に繋がると考える。
  • 宮重 有貴, 石垣 智也, 松本 大輔
    セッションID: 1198
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】訪問リハビリテーション(以下,リハビリ)では,目標設定の困難さが指摘されることが多い。目標設定には利用者の積極的関与を得るべきであり,利用者にはリハビリに対する自律性が必要と考えられる。今回,目標設定に関与することにあまり関心がなく,従順な態度を示すことが顕著であった訪問リハビリ利用者に対して,利用者のリハビリにおける自律性を視点に目標の共有に取り組んだ結果を報告する。【方法】症例は60歳代の女性であり,左被殻出血発症後(開頭血腫除去術後)であった。発症から9ヵ月後に回復期リハビリ病院を退院し,訪問リハビリ利用を開始された。訪問リハビリは週3回40分ずつ利用された。利用開始から6ヶ月後の時点について記す。FIM運動関連項目は合計56点であり,移動能力は短下肢装具と4点杖を使用して屋内歩行自立であるものの,日中の大半は座位で生活していた。FIM認知関連項目は合計21点であり,失語症を呈していたため,コミュニケーションは簡単なことに限られた。リハビリには良い努力で参加するが,受身的態度であり,Pittsburgh Rehabilitation Participation Scale(以下,PRPS)は4点であった。家族構成は夫,息子,孫2人との同居であった。2階建て住宅の2階で就寝し,日中は1階で過ごしておられた。介護度は要介護3であり,主たる介護は夫が行っていた。訪問リハビリの目標は「屋内歩行の実用性向上」としており,歩行の安楽性を向上させ,歩行頻度の増加により活動量の向上を図るとの説明を口頭と紙面で行っていた。しかし,こちらの提示した目標に従順な態度であり,目標設定に関与することにあまり関心がない様子であった。そこで,自律性を測定するためにCustomer Satisfaction Scale based on Need Satisfaction(以下,CSSNS)を使用した。CSSNSは,欲求の充足を測定する15項目から構成され,その中に「リハビリの内容は自分自身で決めていると感じますか」,「どんなリハビリをするかは自分自身に任せられていると感じますか」,「自分が行うリハビリは自分で自由に選んでいると感じますか」といった自律性の3項目がある。すべての項目に対して「全く感じない」(1点)から「強く感じる」(5点)までの5件法で回答を求める。本症例は自律性の3項目は合計3点であり,自律性の低い状態であった。目標の共有を図るには,利用者からの関与を引き出す必要があると感じ,独自に作成した質問紙を用いて利用者がリハビリ目標とみなしているものを抽出することにした。リハビリ目標になりえる26項目から,利用者が1項目ずつについてリハビリ目標とみなしているかどうかを選択し,その優先順位によって更に3項目を抽出する方法とした。担当者も質問紙へ回答し,回答後に照合することとした。【研究倫理的配慮】研究の趣旨について口頭と紙面で説明し,同意を得た。【結果】リハビリ目標とみなす項目の優先順位として,本症例は1.表出,2.歩行,担当者は1.歩行,2.表出,3.階段昇降を抽出した。抽出した項目が一致する程度には目標の共有がなされていると確認できた。その際,催促することなく質問紙の回答もあり,利用者の関与を引き出すことが出来た。そこで,目標をさらに具体化することが出来ると判断し,口頭で目標を相談した。症例は,1階では4点杖を使用しておられたが,2階での4点杖使用は夫による持ち運びが必要となっており,2階で伝い歩きが可能となれば,生活の安楽性が高まるとの話ができた。そして,目標を「短下肢装具着用のごく短距離伝い歩き」と具体化して共有することができた。利用開始から8ヶ月後の時点について記す。FIM運動・認知関連項目の合計点は変わりがなかったが,リハビリ内容は「短下肢装具着用のごく短距離伝い歩き」を実際に行なうことが多くなり,症例の取り組みも意欲的となった。リハビリへの参加意欲は向上し,最大努力で参加するが,受身的態度でありPRPSは5点であった。CSSNSによる自律性の3項目は合計8点となり,向上がみられた。短下肢装具着用のごく短距離伝い歩きが可能となったことで,1階と2階の往来頻度も増加し,活動量の向上も図れた。【考察】症例は目標設定に関与することにあまり関心がなく,従順な態度であり,リハビリに対する自律性が低い状態であると判断できた。利用者の関与を引き出すことを優先して,目標の共有を図ったことにより,結果として自律性の向上もみられたと考える。さらに,利用者の関与が引き出せたことが目標の具体化にもつながり,意欲の向上とADLの向上が達成できたと感じる。【理学療法学研究としての意義】目標設定が漠然としやすい訪問リハビリにおいて,利用者の自律性を測定し,利用者からの関与を引き出すことは目標の共有だけでなく目標の具体化に導ける意義もあると考える。
  • 江口 宏, 青木 大輔, 松尾 恵利香, 村尾 彰悟, 堀 健作, 江原 加一, 谷口 善昭, 福田 恵美子, 當利 賢一, 百留 あかね, ...
    セッションID: 1199
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】睡眠障害には服薬など医学的介入だけでなく,日常生活への包括的な介入が必要とされる。睡眠状態を規定する因子には睡眠負債と体内時計がある。睡眠負債とは覚醒時間が長いほど眠気が増す概念を指す。体内時計とは各体細胞が時計をもつという概念で,眠気は体内時計の影響で変化する。訪問リハは,睡眠負債を適切に保つための活動性向上や,体内時計を社会的時刻に合わせるための生活習慣の指導を生活の現場で実施できる。このことから,訪問リハは在宅生活者の睡眠状態を改善できる可能性を持つ。今回,訪問リハ対象者の生活形態と睡眠との関連を調査し,睡眠に対する訪問リハの在り方を考察した。【対象】対象は訪問リハ利用者74名(年齢69±11.52歳,男性37名女性37名)。疾患内訳は,脳血管障害40名,パーキンソン病13名,骨関節疾患18名,神経難病3名。要介護度分布は,要介護者63名(要介護1:17名,2:26名,3:11名,4:5名,5:4名),要支援者11名(要支援1:3名,2:8名)。通所サービス利用率は70%(52/74人)。【方法】H25.7.1~H25.7.30に訪問リハスタッフが問診でピッツバーグ睡眠質問票(以下,PSQI)を記入した。PSQIは過去1か月間の量的・質的な睡眠状態を把握するもので,信頼性・妥当性の証明された尺度である。この評価で「睡眠の質」,「睡眠時間」,「入眠時間」,「睡眠効率」,「睡眠困難」,「眠剤使用」,「日中の眠気」の7つの睡眠障害要素(以下,要素)が把握できる。各要素の得点(0-3点)を加算し総得点(21点満点)を算出する。高得点ほど睡眠が障害されていると評価する。PSQIの総得点を目的変数とした重回帰分析(変数選択増減法)を行った。説明変数は基本属性として年齢,要介護度,訪問リハ開始からの日数,睡眠負債に関与する変数として2次活動(家事など義務的性格が強いもの)割合(%/週),主体的3次活動(散歩,読書,創作活動など主体的で活動性の高いもの)割合(%/週),消極的3次活動(ごろ寝,テレビ鑑賞など受動的で活動性の低いもの)割合(%/週),体内時計に関与する変数としてH25.7.15熊本地方での日の出時刻と起床時刻の差(分,以下時刻差)とした。統計はExcel統計2010を用い,P値・標準偏相関係数(β),修正R2を算出した。有意水準は0.05%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】当研究は法人内倫理委員会の規定に則り,研究の主旨を対象者に説明,同意を得て実施した。【結果】PSQI総得点は6.5±3.9点であった(男性5.5±3.9点,女性7.5±3.8点)。西村らが行った健常者60歳以上587名のPSQI総得点は男性2.8±2.1点,女性3.8±2.8で,本研究の対象の睡眠状態が悪かった。また,要素間では「睡眠の質」(83.8%),「睡眠困難」(74.3%),「入眠時間」(56.8%)に問題を有した。重回帰分析の結果,①主体的3次活動割合p=0.026β=-0.2537,②訪問開始からの日数p=0.036β=0.2395,③時間差p=0.1309β=0.1715が抽出された。修正R2=0.1007。なお,すべての説明変数間で多重共線性はなかった。【考察】本研究での対象者は中途覚醒,入眠困難を有す者が多く,健常者よりも睡眠状態が悪い傾向にあった。年齢,要介護度に関わらず,主体的3次活動割合が高いほど睡眠状態が良かった。消極的3次活動割合はPSQIの総得点と有意な相関がないことから,介入は単に日中覚醒時間を増やすだけでなく主体的3次活動の導入・継続が睡眠状態の改善に必要と考えられた。また,在宅生活期間が長いほど睡眠状態が悪かった。今回は横断研究にて同対象者間の睡眠状態の変化を調査していないが,在宅生活者の睡眠状態は経時的に変わる可能性が示唆された。時刻差は睡眠状態との有意な相関はなかった。閉眼状態でも光は受容できるとされており,起床前に光を受容している可能性がある。そのため時刻差のみの変数では体内時計への関与が説明できなかったと考えられる。修正R2は0.1007と低かった。これは睡眠状態を規定する因子が他にもあることを意味する。今後多くの対象者の睡眠に関心をもち,様々な介入戦略をもつ必要がある。【理学療法学研究としての意義】主体的3次活動を獲得させることが良質な睡眠に必要と示唆された。訪問リハ利用者が主体的3次活動を獲得するには,専門的な介入が必要である。理学療法士が対象者の心身機能・活動について深く評価し,時間をかけ粘り強く介入することが効果的である。睡眠の介入において,理学療法士が担う重要性を認識できた研究である。
  • ―訪問リハビリテーション利用者における状況と対策―
    今井 隆雄, 長尾 哲也, 竹内 丘, 金崎 嘉恵, 香川 久圭, 友森 沙弥華
    セッションID: 1200
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,急激な温暖化現象に伴い,夏場になると,熱中症で搬送された人や,不幸にも亡くなられた人のニュースが毎日のように流れている。その数も年々増加している。その多くは,エアコンを使ってなかったり,十分な水分摂取ができてなかったことが原因で,家屋内にて,熱中症を発症している。訪問リハ利用者にも,エアコンの設置が無い部屋で,すごされている人や,エアコンの風が麻痺側に当たると痛いから等,エアコンがあっても使用していない人,またリハビリ時には使用しているが普段は,ほとんど使用していない人,トイレに行く回数が増えるからと水分摂取の少ない人など,熱中症のリスクの高い人がいる。訪問リハ時,熱中症予防の指導として,エアコンの使用や水分摂取を促し,対処方法を伝えている。しかし口頭だけの指導であったため,まだまだ十分な対策を実施できていない人がいる。そこで,利用者の現状を把握し,熱中症に対する情報(厚生労働省,消防庁,環境省,自治体など)を詳しく調べた。それらを資料にして渡し,熱中症に注意を促すことを目的とした。【方法】対象は,当院訪問リハ利用者69名(男性44名,女性25名,平均年齢79.1±10.0歳,平均要介護度2.9)とした。調査は,各担当療法士が聞き取り調査用紙を用いて行った。現状の調査項目は,性別,年齢,主疾患,要介護度,エアコンの使用状況,一日の水分摂取量,の6項目とした。熱中症対策として,本人・家族に資料を手渡し,室温のコントロールと水分摂取に注意を促した。後日,資料配布と説明による効果を調査し,分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】訪問リハ利用者・ご家族に,本研究の意図を十分に説明し,同意を得た上で,聞き取り調査を実施した。【結果】現状の調査では,エアコンをほぼ常時使用している人は,49名(71.0%),リハビリ時のみ使用11名(15.9%),あるが未使用6名(8.7%),なし3名(4.3%)であった。一日の水分摂取量は,1500ml以上26名(39.4%),1200~1499mlは13名(19.7%),1000~1199mlは15名(22.7%),1000ml未満12名(18.2%)であった。(PEG 2名とIVH 1名は水分摂取の計算から省いた)性別による違いは認められなかったが,主疾患による違いとしては,エアコンの設置なし3名と未使用者6名は,すべて脳神経疾患者であった。要介護度による違いは,水分摂取において要介護度の高い人ほど,水分摂取量が少ない傾向にあった。資料配布と説明による効果として,室温のコントロール面では,エアコンの無かった3名のうち2名が新しく設置された。エアコン未使用だった6名のうち5名が使用するようになった。エアコンの使用時間の延長を図られた人が11名中6名であった。その結果,エアコンをほぼ常時使用している人は,58名(84.1%),リハビリ時のみ使用9名(13.0%),あるが未使用1名(1.4%),なし1名(1.4%)となった。室温計を新しく設置された人が4名となっている。水分摂取の面では,水分摂取量の増加が15名(22.7%)にあった。その結果,1500ml以上29名(43.9%),1200~1499mlは14名(21.2%),1000~1199mlは16名(24.2%),1000ml未満7名(10.6%)と改善された。家族も室温,水分摂取量に注意するようになったと答えられた人が43名(62.3%)であった。多くの人が,熱中症を予防できたが,1名約3週間の入院となってしまった。【考察】熱中症対策として,本人・家族に資料を手渡し,室温が28℃を超えないようにエアコンを使用し,コントロールするように注意していただいた。また水分摂取は,一日に1500ml以上を目標とし,少なくとも1200mlは,取るように促した。その結果,多くの人(58名84.1%)に,エアコンをほぼ常時使用した室温コントロールがなされるようになった。水分摂取においても,15名(22.7%)に摂取量増加が図られた。中には,経口補水液(OS-1)を購入して摂取されるようになった人もいた。また,飲料水からのみでは十分な量の摂取が難しい人にゼリーや果物から水分摂取するように工夫されている人もいた。しかし,残念ながら1名に熱中症での入院があった。エアコンは常時使用されていたものの,一日の水分摂取量が800mlと少なかった。96歳で認知症もあったため,家族に摂取量を増やすよう依頼をしていたが,十分な量を得ることは難しく,入院となってしまった。今回,資料を手渡しすることにより,目で見ても分かりやすく,具体的に数値で予防方法を伝えることで,本人・家族に注意を促すことができ,大多数の方が,室温や水分摂取量に注意するようになっており,効果があったと考える。【理学療法学研究としての意義】今回の研究は,在宅生活を支援する方法の一助になると考える。在宅生活を支援する訪問リハの役割として,リハビリの成果をあげることだけでなく,各種疾患の予防に取り組むことも大切な要素であると考える。今後は,冬場に多いインフルエンザやおう吐下痢症といった他疾患の注意喚起も資料を用いて実施していきたい。
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