理学療法学Supplement
Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ポスター
  • 内川 智貴, 坂野 裕洋, 柳瀬 準
    セッションID: P-MT-04-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】骨格筋の伸張性低下は,関節可動域に制限を引き起こし運動機能に悪影響を及ぼす。そのため,関節運動を介して骨格筋を伸張するストレッチングは,理学療法において多用される治療方法のひとつである。しかしながら,理学療法の対象患者の中には,痛みなどによって関節運動を行えない場合もあり,関節運動を伴わないダイレクトストレッチングがしばしば用いられる。ダイレクトストレッチングは,圧痛や運動時痛が生じる部位に隣接する腱または筋間に指を押し入れ,筋膜を含めた軟部組織を標的にすることで,直接的に骨格筋を伸張すると考えられている。しかしながら,適切な実施時間や強度,骨格筋の伸張性に与える影響などについては不明瞭な点が多く,それらを検討した報告も少ない。そこで本研究では,ダイレクトストレッチングに関する基礎研究として,健常者を対象にダイレクトストレッチングの実施時間の違いが骨格筋の伸張性に与える影響について検討した。【方法】本研究は単盲検交互比較試験で行い,対象は手関節に神経障害の既往がない健常大学生6名とした。介入部位は橈側手根屈筋の筋腹とし,痛みを感じる直前までダイレクトストレッチングを行った。介入時間の条件は,15秒,30秒,60秒,300秒とし,被験者は24時間以上の間隔を空けて4条件すべてを行った。評価は介入の直前と直後,5分後の計3回,手関節の背屈角度(ROM),筋腱複合体の粘弾性(stiffness),痛みに対する耐性(stretch tolerance)を計測した。統計学的解析は群内比較でFriedman検定を用い,事後検定にWilcoxonの符号付順位検定を行った。群間比較にはKruskal-Wallis検定を用い,事後検定にMann-Whitney検定を行った。有意水準は5%未満とした。【結果】ROMは,30秒条件のみで介入直前と比較して介入直後と5分後に有意な増大を認めた。stiffnessは,15,60,300秒条件で介入効果を認め,15秒条件では介入5分後,60,300秒条件で介入直後と5分後に有意な低下を認めた。stretch toleranceは,15秒条件のみで介入直前と比較して介入直後と5分後に有意な増加を認めた。なお,条件間の比較では,すべての評価時期で有意差を認めなかった。【結論】本研究結果より,ダイレクトストレッチングでは,15秒や30秒といった短時間の介入によって,ROMやstiffness,stretch toleranceといった骨格筋の伸張性に関連する指標が変化することが明らかとなった。このことから,ダイレクトストレッチングでは,関節運動を介して骨格筋を伸張する一般的なストレッチングとは異なる作用機序によって,筋腱複合体の粘弾性や関節可動域を変化させている可能性が推察される。また,本研究では健常な骨格筋を対象としたが,実際の臨床場面では,疼痛や筋スパズム,癒着などを呈している場合が殆どであり,そのような病態に対して圧刺激が及ぼす影響についても今後検討が必要である。
  • 中村 翔, 小林 一希, 颯田 季央, 工藤 慎太郎
    セッションID: P-MT-04-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】外側広筋(VL)は膝関節の主要な伸展筋であり,さらに内側広筋と共同して膝蓋骨の安定性に寄与している。しかし,臨床で遭遇するVLの過緊張は内側広筋とのアンバランスを引き起こし,膝蓋骨の正常な運動を阻害する。そして膝蓋大腿関節症といった膝周囲の疼痛を引き起こす原因となるため,膝蓋大腿関節の機能改善のためには,VLに対する治療が重要となる。我々は先行研究において超音波画像診断装置を用いて膝関節屈曲運動時のVLの動態を観察した結果,膝屈曲運動時にVLは後内側に変位することを報告した(中村2015)。そしてEly test陽性例に対して,VLの動態を考慮した運動療法を行った結果,VLの動態の改善や筋硬度の減少といった結果が得られたことを報告した(中村2015)。しかし,我々が考案した運動療法と従来から行われているストレッチングの効果について比較をしていない。そこで今回は両介入における即時効果の比較検討をしたので報告する。【方法】対象はEly testが陽性であった成人男性20名40肢とした。対象を無作為にVLの動態を考慮した運動療法を行う群(MT群)とストレッチングを施行する群(ST群)の2群に振り分けた。MT群は膝関節自動屈曲運動に伴い,VLを徒手的に後内側に誘導する運動療法を行った。回数は10回を1セットとし,3セット行った。ST群は他動的に最終域まで膝関節を屈曲するストレッチングを行った。回数は30秒を1セットとし,3セット行った。測定項目は膝関節屈曲運動時のVL変位量(VL変位量)と筋硬度を介入前後に測定した。VL変位量は超音波画像診断装置を用いて,Bモード,リニアプローブにて,膝関節自動屈曲運動時のVLの動態を撮影した。そして,得られた動画を静止画に分割し,膝関節伸展位と屈曲90度の画像を抜き出し,VLの移動した距離をImage-Jを使用して測定した。筋硬度は背臥位,膝伸展位で筋硬度計を用いて,大腿中央外側にて測定した。統計学的処理にはR2.8.1を使用し,介入前後の比較にはWilcoxonの符号付順位検定を行い,群間の比較にはMann-Whitney検定を行った。いずれも有意水準は5%未満とした。【結果】介入前の両群間の各変数に有意差は認めなかった。介入前のVL変位量は,MT群8.3mm(7.5-9.7),ST群8.7mm(8.1-10.2),介入後はMT群12.5mm(11.7-13.5),ST群11.9mm(11.1-13.4)であり,両群とも介入前後で有意差を認めた(p<0.05)。介入前の筋硬度は,MT群1.5N(1.5-1.6),ST群1.5N(1.4-1.5),介入後はMT群1.4N(1.4-1.5),ST群1.5N(1.4-1.5)であり,両群とも介入前後で有意差を認めた(p<0.05)。介入後の両群間の比較では,VL変位量,筋硬度ともに有意差を認めた(p<0.05)。【結論】筋の動態を考慮した運動療法はストレッチングと比較して,膝関節屈曲運動時の筋の動態および筋硬度が改善したことより,本法は短軸方向への筋の柔軟性改善に有効な手段であることが明らかとなった。
  • 中村 雅俊, 長谷川 聡, 梅原 潤, 草野 拳, 清水 厳郎, 森下 勝行, 市橋 則明
    セッションID: P-MT-04-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】頸部や肩関節の疾患は労働人口の30%以上が患っている筋骨格系疾患であると報告されている。その中でも,上肢挙上時の僧帽筋上部の過剰な筋収縮や筋緊張の増加は肩甲骨の異常運動を引き起こし,頸部や肩関節の痛みにつながると報告されている。そのため,僧帽筋上部線維の柔軟性を維持・改善することは重要であり,その方法としてストレッチングがあげられる。一般的にストレッチングは筋の作用と反対方向に伸ばすことが重要であると考えられている。僧帽筋上部線維の作用は肩甲骨の拳上・上方回旋と頸部伸展・反対側回旋・同側の側屈であるため,ストレッチング肢位は肩甲骨の拳上・上方回旋を固定した状態で,屈曲・同側回旋・反対側の側屈が有効だと考えられる。僧帽筋上部線維に対するストレッチングの効果を検証した報告は散見されるが,効果的なストレッチング肢位を検討した報告は存在しない。そこで本研究では,筋の伸長量と高い相関関係を示す弾性率を指標に,僧帽筋上部線維の効果的なストレッチング肢位を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は上肢に神経学的及び整形外科的疾患を有さない若年男性16名の非利き手の僧帽筋上部線維とした。先行研究に従って,第7頚椎と肩峰後角の中点で,超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能を用い,弾性率を測定した。弾性率測定は各条件2回ずつ行い,その平均値を解析に用いた。弾性率は筋の伸張の程度と高い相関関係を示すことが報告されており,弾性率が高いほど,筋は伸張されていることを意味している。測定肢位は,座位にて肩甲骨の挙上・上方回旋を徒手にて固定した状態で対象者が痛みを訴えることなく最大限耐えうる角度まで他動的に頸部を屈曲,側屈,屈曲+側屈,側屈+同側回旋,屈曲+側屈+同側回旋を行う5肢位に,安静状態である頸部正中位を加えた計6肢位とし,計測は無作為な順で行われた。統計学的検定は,頸部正中位と比較してストレッチングが出来ている肢位を明らかにするため,頸部正中位に対する各肢位の弾性率の比較をBonferroni補正における対応のあるt検定を用いて比較した。また,頸部正中位と比較して有意に高値を示した肢位間の比較もBonferroni補正における対応のあるt検定を用いて比較した。【結果】頸部正中位に対する各肢位の比較を行った結果,全ての肢位で有意に高値を示した。また有意差が認められた肢位間での比較では,屈曲に対し,その他の全ての肢位で有意に高値を示したが,その他には有意な差は認められなかった。【結論】肩甲骨の挙上・上方回旋を固定した状態で頸部を屈曲することで僧帽筋上部線維をストレッチング出来るが,屈曲よりも側屈する方が効果的にストレッチングすることが可能であった。また,側屈に屈曲や同側回旋を加えても僧帽筋上部線維をさらに効果的にストレッチング出来ないことが明らかになった。
  • 三次元動作解析装置を用いた検討
    藤田 康介, 建内 宏重, 小山 優美子, 市橋 則明
    セッションID: P-MT-04-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】スタティックストレッチング(SS)やダイナミックストレッチング(DS)は運動前に実施されることが多く,これらがその後の運動に及ぼす影響について検討することは運動指導上有用である。先行研究によると,SSを行うとその後のスポーツパフォーマンスは低下するがDSでは向上すると報告されている。このような先行研究においてはDSを股関節や膝関節に対して高速・高頻度に実施することが多いため,前述の効果が相反神経抑制によるものなのか,必然的にもたらされるウォームアップ効果なのかを疑問視する考え方がある。近年,足関節底屈筋のみに対するDSを行った結果,足関節背屈可動域の増加が得られることが報告されたが,この方法によりスポーツパフォーマンスがどのように変化するのかを詳細に検討した報告は見当たらない。そこで今回,ジャンプ動作を例にとり,跳躍高,及び動作中の足・膝・股関節各々の運動力学的指標が足関節のみに対するDSを実施した前後でどのように変化するのか検討することを目的とした。【方法】対象は健常男性15名(年齢25.5±3.2歳,身長171.6±5.7cm,体重64.7±8.3kg)とした。運動学的・運動力学的分析には三次元動作解析装置(VICON社製)および床反力計(KISTLER社製)を使用し,サンプリング周波数はカメラ200Hz,床反力計1000Hzとして測定を行った。反射マーカーはPlug-in-gait full body modelに準じて,対象者の上下肢,体幹に27箇所貼付した。測定課題はカウンタームーブメントジャンプとした。被験者は静止立位から上肢の反動をつけて最大努力で垂直跳びを行った。測定はDSの前後で3回ずつ行い,後の2回を解析対象とした。なお,DSは先行研究と同様に立位で一側下肢を股関節軽度屈曲位,膝関節伸展位として前方に浮かし,1秒に1回の頻度で足関節を勢いよく最大まで背屈させる運動を行った。回数は30回を1セットとし,左右を交代しながら各下肢10セットずつ行った。得られた値のうち,胸骨剣状突起と第10胸椎棘突起の中点を体幹部重心(COT)とし,COTの垂直成分の最大変位量を跳躍高とした。また,跳躍前のCOTの垂直成分が最小になった時点から爪先離地までの時間を跳躍期と定義し,矢状面における股関節,膝関節,足関節の発揮パワーの正の最大値および跳躍期に各関節がした正の仕事量を下肢の各関節における力学的指標として算出した。統計学的処理として,介入前後の各指標の変化を対応のあるt検定にて検討した。有意水準は5%とした。【結果】跳躍高は介入の前後で有意に変化しなかった(介入前50.2±4.8cm,介入後49.4±4.6cm)。また,各関節のピークパワー,仕事量も介入前後で有意な変化はみられなかった。【結論】本研究の結果,足関節のみに対するDSはジャンプ動作の跳躍高,運動力学的指標を変化させないことがわかった。この結果はDSがスポーツパフォーマンスに与える影響について考える上で重要な知見となりうる。
  • 白谷 智子, 新井 光男, 来間 弘展, 保原 塁, 柳澤 健
    セッションID: P-MT-04-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】固有受容性神経筋促通法(PNF)の上肢や肩甲骨パターンを用い,遠隔部位の関節可動域が改善することが報告されている(西浦ら;2009,立石ら;2003)。運動肢と対側に及ぼす影響として,西浦ら(2006)は健常者を対象に肩関節の静止性収縮が両股関節自動関節可動域(AROM)に及ぼす影響を検証した結果,運動肢と対側の膝伸展位での股関節屈曲(SLR)のAROMが有意に増大したことを報告しており,関節可動域に及ぼす影響は検証されているが,上肢PNFパターンが対側下肢に及ぼす下行性の生理学的影響は明らかではない。上肢筋の静止性収縮の下行性遠隔後効果の神経生理学的効果は,上肢筋群を収縮させることにより,遠隔部位の下肢の屈筋と伸筋の運動ニューロンの促通と下肢の反射の亢進が認められたことが報告されている(Toulouse;1980)。また,運動肢と同側ヒラメ筋H波に及ぼす影響は運動方向に依存し変化が認められたことが報告されているが(白谷ら,2015),対側肢への影響は明らかでない。本研究の目的は,異なる上肢PNFパターンが対側ヒラメ筋H波に及ぼす影響を検証することである。【方法】対象は整形外科的・神経学的疾患の既往のない健常者14名(男性11名,女性3名,平均年齢(SD)23.6(2.8)歳)であった。対象者は右肩関節90°屈曲位で上肢屈曲-内転-外旋の静止性収縮と上肢伸展-外転-内旋の静止性収縮を行った。誘発筋電図は誘発電位・筋電図検査装置(日本光電社・MEB9100)を用い,左ヒラメ筋H波を記録した。安静時,運動時,運動後3分40秒までH波を誘発した。20秒毎に各相でH波振幅値と安静時最大M波振幅値を比較した振幅H/M比を求めた。統計解析は,振幅H/M比を指標に,運動方向と経時的変化と個人を要因とした三元配置分散分析を行い,有意差の認められた要因においては多重比較検定(Turkey法)を行った。有意水準は5%とした。【結果】三元配置分散分析の結果,経時的変化の要因において有意差が認められた。経時的変化の要因は運動時より運動後に有意な抑制が認められた。運動方向の要因において有意差は認められなかった。【結論】運動肢と同側ヒラメ筋H波に及ぼす影響は運動方向に依存し変化が認められたことが報告されていたが(白谷ら,2015),対側ヒラメ筋H波に及ぼす影響は,上肢屈曲-内転-外旋・伸展-外転-内旋間に有意差は認められなかった。両パターン共に運動時より運動後にリラクセーション効果が認められた。今回の研究により,上肢伸展-外転-内旋パターンにより対側股関節SLRのAROMが増大した(西浦ら,2006)生理学的機序としてハムストリングスのリラクセーションが生じた影響が推察される。また,伸展-外転-内旋のみでなく,屈曲-内転-外線においても対側AROMが増大する可能性が示唆されると同時に,運動後にリラクセーション効果が認められたことより他動関節可動域も改善させる可能性が推察される。
  • 山田 知美, 夏原 梨彩, 木村 香奈子, 明石 邦彦, 田中 亮祐, 渥美 佐知子, 奥村 美沙子, 深尾 卓史, 磯嵜 浩司, 織部 恭 ...
    セッションID: P-MT-05-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】鏡視下腱板修復術(arthroscopic rotator cuff repair:以下,ARCR)は良好な術後成績が報告されている。それに踏まえて,ARCR後再断裂に関連した様々な報告もされている。しかし,再断裂の術後の報告は数多く報告されているが,術前の評価に関した報告は数少ない。そこで,当院におけるARCR後の修復良好群と再断裂群の両群で術前の筋力評価を比較し,臨床への応用を検討する。【方法】当院にて過去4年間にARCRを施行し,術前の評価が行えた37例(男性25名,女性12名,平均年齢62.9±9.8歳,部分~小断裂12名,中断裂13名,大~広範囲断裂12名,うち肩甲下筋腱断裂を含む5名)のうち,術後半年~1年でのMRI評価においてSugaya分類TypeI~IIIを修復良好群(28名:部分~小断裂11名,中断裂11名,大~広範囲断裂6名),TypeIV~Vを再断裂群(9名:部分~小断裂1名,中断裂2名,大~広範囲断裂6名)とし,2群間での比較検討を行った。測定にはANIMA社製等尺性筋力計ミュータスF-1を用い,術前の肩関節90°外転位(以下,ABD90°),下垂位外旋位(以下,ER),下垂位内旋位(以下,IR)の最大等尺性収縮ピーク値を測定した。得られた数値をABD90°では上肢長との積を,ER,IRでは前腕長との積を関節トルク(Nm)とし,男女差が出ないよう健側比を算出(Nm%)し比較検討を行った。統計処理は対応のないt検定を用い,有意水準5%未満とした。【結果】当院全体でのARCR後の再断裂率は19.6%であった。対象年齢は修復良好群61.4±10.3歳,再断裂群67.4±7.8歳であり有意差は認められなかった。術前筋力(修復良好群/再断裂群)は,ABD90°(58.4±28.1Nm%/39.4±24.0Nm%),ER(77.3±21.3Nm%/48.5±25.6Nm%),IR(92.0±21.4Nm%/82.2±20.1Nm%)であり,ABD90°,IRでは有意な差は認められず,ERのみ有意な差が認められた。【結論】今回の結果から,ERのみ術前筋力において有意な差が認められた。腱板断裂(rotator cuff tear:以下RCT)において最も損傷を受けやすい棘上筋は,どの断裂サイズにおいても何らかの影響を受けている可能性が高く,ABD90°において有意な差はみられなかったと考える。IRに関しても肩甲下筋の断裂が5名と少数であったため結果に反映されなかったと考える。断裂サイズが大きいほど再断裂の危険性が高いことは周知の事実である。当院の再断裂群において,断裂サイズを視てみると大~広範囲断裂が高い割合を占めることから,その傾向が反映されていることを示している。以上のことを踏まえ,ERにおいて再断裂群ではRCTの大~広範囲断裂サイズが占める割合が高いことから,棘下筋の損傷が高度であるため有意な差が認められた結果となったと考察する。今後,RCTにおいて大断裂以上のサイズのARCR後の再断裂に気を付けることはもちろん,特に外旋筋力が弱い症例に関して治療を行う上で細心の注意を払う必要があると考える。
  • 渡邊 直樹, 中山 裕子, 野嶋 素子, 小川 幸恵, 石津 克人, 早川 敬
    セッションID: P-MT-05-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】鏡視下肩腱板修復術(以下,ARCR)後に発症する合併症の一つに複合性局所疼痛症候群(以下,CRPS)がある。これまでの報告によると,その発症頻度は11~24%で,特徴として術前の痛みが強い,術前の外旋制限があるとされている。術前の要因に関する報告は散見されるが,術後の経過は報告が少なく十分検討されているとは言えない。本研究の目的は,ARCR後に発症したCRPS症例の経過を調査し,その傾向を明らかにすることである。【方法】2013年4月から15年7月に当院でARCRを施行した166例(男性100例,女性66例,年齢67.1歳)のうち,本邦のCRPS判定指標に該当した15例をCRPS群とし,それ以外の151例のうちデータが得られた63例を対象群とした。カルテより年齢,性別,術前・6か月の疼痛(NRS),断裂サイズ,再断裂の有無,自動および他動肩屈曲・下垂位外旋角度(術前,術後6週・3か月・6か月)について調査し,CRPS群と対象群で比較した。また,CRPS群について発症時期・症状持続期間・症状を調査した。後療法は術直後から肩外転装具を装着,術翌日から理学療法室にて肩・肩甲帯のリラクゼーションを開始,リラクゼーションが得られた後,他動可動域運動を追加,原則4週で装具除去,自動可動域運動を開始した。入院期間は約2週間で,以降外来での理学療法を週1~2回継続した。CRPS症状が見られた場合には作業療法が処方された。統計学的検討は,t検定,χ2検定を行い有意水準は5%未満とした。【結果】CRPSの発症頻度は166例中15例(9.0%)であった。術前NRSは,CRPS群6.0±2.4,対象群6.3±2.4,6か月は2.5±2.3,2.9±2.1であり,両群間に有意差はみられなかった。術前自動外旋は,CRPS群は31.0±21.9°,対象群は49.1±18.1°,術前他動外旋は43.0±27.8°,61.6±19.4°,他動屈曲6週は86.2±12.8°,109.2±16.9°,3か月は,128.0±14.1°,143.5±12.7°,6か月は,149.4±16.2°,159.5±10.0°であり,それぞれCRPS群が有意に小さい値を示した。CRPS発症時期は,4.8±4.3週であり,症状は肘関節,手指の関節可動域制限10例,疼痛7例,浮腫14例,発汗亢進2例であった。症状が軽快した症例は8例(53.5%)であり,症状持続期間は12.2±10.5週であった。症状が継続していた症例中6例は改善が見られ,1例は発症当初の症状が持続していた。年齢,性別,断裂サイズ,再断裂の有無においては差が認められなかった。【結論】本調査におけるCRPSの発症頻度は9.0%であり,過去の報告と同程度であった。CRPS群では,術後他動屈曲角度が経過を通して有意に小さく,症状が軽快した後でも屈曲角度の改善に影響することが明らかとなった。また,CRPSを発症しても,半数は日常生活に支障がない程度まで改善することも明らかとなった。しかし,発症当初の症状が持続する症例も存在しており,可能な限り予防に努めることが重要と思われた。
  • 遠藤 和博, 佐原 亮, 猪瀬 洋一, 五十嵐 絵美, 小野 健太, 瀬川 大輔, 細川 利沙, 山田 孝幸, 浜田 純一郎
    セッションID: P-MT-05-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】肩関節に疼痛や可動域(ROM)制限を有する患者では,上腕の回旋制限により日常生活動作に困難をきたすことが多い。普段の生活において手を使う場合,末梢の手に意識は向くが中枢部の上腕の回旋は無意識下で起こっている。したがって,末梢の運動に合わせた中枢の動きの評価を行うことが有用と考えられる。本研究の目的は,肩関節屈曲90度で前腕肢位を変化させ,その時の上腕回旋角度を計測し,肩関節疾患別の上腕回旋角度制限の特徴を明らかにすることである。【方法】肩関節に既往の無い健常群10名20肩(50~59歳)と症候性腱板断裂群(RCT群)9名10肩(60~81歳),凍結肩群(IFS群)14名15肩(41~74歳)を対象とした。対象者に上腕骨内側・外側上顆が上腕回旋の指標となるようバー付装具を装着した。測定肢位は肩関節屈曲90度で前腕90度回外位(回外位),中間位,90度回内位(回内位)の3肢位とし,そのときの上腕回旋角度を測定した。上肢長軸方向からデジタルカメラで撮影しPCに取り込んだ後,画像処理ソフトImage Jを用い,水平面を0度として上腕回旋角度を算出した。また各肢位間の上腕内旋・外旋回旋角度を算出した。健常群とRCT群・IFS群健側の比較,RCT群とIFS群での健側と患側の上腕回旋角度を比較した。統計学的検討ではShapiro-Wilk検定にて正規分布に従う場合はt検定を,正規分布に従わない場合にはMann-Whitney検定を用い,有意水準を5%とし各群間の比較を行った。【結果】どの肢位の上腕回旋角度においても健常群とRCT群・IFS群の健側で有意差を認めなかった。回外位と中間位間の上腕外旋角度はRCT群の健側(40.4±7.1度)と患側(30.6±7.3度),IFS群の健側(41.9±9.7度)と患側(24.0±5.6度)で有意差を認めた。中間位と回内位の上腕内旋角度ではIFS群の健側(18.5±7.3度)と患側(9.2±7.0度)で有意差を認めた。健常群とRCT群・IFS群の健側で差がなかったことから,RCT群・IFS群の健側と患側の上腕回旋角度を比較できることが示唆された。RCT群の患側は健側よりも上腕外旋角度が有意に制限されており,そのため動作に制限を起こすと考えられた。IFS群では健側よりも患側で上腕内旋,外旋角度が低下しており,より多くの動作に制限を起こしやすいと考えられた。【結論】健常者とRCT群・IFS群の健側で上腕回旋角度に差はなかった。RCT群,IFS群ともに上腕回旋制限が起こり,特にIFS群で回旋制限が強くなることが示唆された。
  • 板野 哲也
    セッションID: P-MT-05-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】肩関節腱板断裂術後1年以上経過した症例の患者満足度に影響を及ぼす因子として,疼痛との関係性が報告されている。当院では肩腱板断裂症例にMcLaughlin法を施行し,術後約2~3ヶ月で退院して日常生活や仕事復帰する特徴がある。そこで実際に退院後,元の生活環境に戻り,術側の使用頻度が増え始める術後4ヶ月時の患者満足度と身体機能評価の関係性ついて検討した。【方法】対象は,2015年2月~5月に当院にて肩腱板断裂に対しMcLaughlin法を施行し,術後ゼロポジション固定を用いた21名とした。患者満足度(0~100%)は口頭で聴取し,満足度80%以上群(11名,手術時平均年齢:65.1±5.7歳)と満足度80%未満群(10名,手術時平均年齢:66.2±6.4歳)に群分けした。身体機能評価は,疼痛の程度(安静時痛,夜間時痛,運動時痛)及び不安の程度(疼痛,仕事)をVisual Analogue Scale(以下:VAS)を用いて評価した。また,客観的評価として肩関節可動域(以下:ROM)の他動屈曲,外転,内転角度,自動屈曲角度と徒手筋力検査法(以下:MMT)に準じて肩関節屈曲,外転,棘上筋,棘下筋,肩甲下筋の筋力を測定した。主観的評価は,患者立脚肩関節評価法Shoulder36 V1.3(以下:Sh36)の疼痛,可動域,筋力,健康感,ADL,スポーツ能力の6項目を用いた。術後4ヶ月時の満足度80%以上群と80%未満群の2群間で各評価項目について比較検討した。統計処理はt検定,Mann-Whitney U検定を用いて,有意水準は5%未満とした。【結果】疼痛に対する不安の程度と肩関節外転筋力,Sh36可動域,筋力において,2群間に有意差がみられた(p<0.05)。Sh36筋力の2群間に有意差がみられた項目の具体的な内容は,「タオルの両端をもって患側の手を上にして背中を洗う」「患側の手で頭より上の棚に皿を置く」「日常生活で普段患側を使って行うことを健側を使わずに出来る」であった(p<0.05)。また,疼痛の程度,客観的評価のROM各項目,MMTの外転筋力以外は,2群間に有意差はみられなかった(p>0.05)。【結論】術後4ヶ月時の患者満足度の高い群は,疼痛に対する不安感が少なく,客観的及び主観的に肩関節外転筋力が高値であった。ゼロポジション固定後の経過をみると,挙上方向に比べ下垂方向への可動域獲得に遅延する傾向にあるが,客観的評価のROM各項目は,2群間に差がみられなかった。術後4ヶ月時の肩関節内転角度は患者満足度に影響を与えていなかった。このため,下垂可動域の改善よりも挙上位での筋力発揮を優先して獲得する事が満足度を高めるためには重要となる。
  • 高橋 友明, 畑 幸彦, 石垣 範雄, 雫田 研輔, 田島 泰裕
    セッションID: P-MT-05-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに】以前,われわれは腱板断裂術後早期の肩関節可動域制限は術後3ヵ月以降の肩関節機能の回復を低下させるという報告をしたが,術後早期の具体的な肩関節可動域の目標値については言及できなかった。今回,われわれは,術後早期の具体的な肩関節可動域の目標値を明らかにする目的で,術後の他動的肩関節角度を経時的に調査したので報告する。【対象】対象は,広範囲腱板断裂を除く腱板全層断裂に対してmini open repair法を施行された79例79肩である。内訳は,手術時年齢が平均65.7歳(43歳~74歳),男性41肩・女性38肩,右50肩・左29肩であった。また,術後後療法は,全例に対して同一プログラムを施行した。【方法】まず術後6ヵ月時の関節可動域を用いて,対象を挙上角度が150°以上かつ外転角度が90°以上の良好群54例54肩と挙上角度が150°未満または外転角度が90°未満の不良群25例25肩の2群に分けた。次に2群間で,病歴(手術時年齢,性別および手術側),断裂サイズ,術後1週,2週,3週および4週の関節可動域の3項目について有意差検定を行った。なお,肩関節可動域は,術後1週と2週では90°scapution(前方分回し30°・外転90°)位での外旋角度を,術後3週では90°外転位内旋・外旋角度を,術後4週では屈曲,外転,下垂位外旋および90°外転位内旋・外旋角度を同一検者が他動的に測定した。統計学的解析は,性別と手術側についてはχ2検定を用いて行い,断裂サイズについてはマン・ホイットニ検定を用いて行い,手術時年齢についてはウィルコクソン符号付き順位和検定を用いて行い,それぞれ危険率5%未満を有意差ありとした。さらに肩関節可動域については箱ひげ図を用いて2群間での境界値を算出した。【結果】病歴の手術時年齢,性別,手術側および断裂サイズについては,2群間で有意差を認めなかった。各時期の関節可動域については,箱ひげ図で2群間の間に境界線を引けたのは,術後1週では90°scapution位外旋40°であった。術後2週の箱ひげ図では境界線を引けず,術後3週では90°外転位外旋30°で境界線が引けた。術後4週の箱ひげ図では,屈曲140°と下垂位外旋10°で境界線が引けた。【結論】今回の結果から,術後6ヵ月で良好な関節可動域を獲得するための術後早期の目標角度は,術後1週,3週および4週においては示すことができたと考える。これに関して,矢貴らは,『腱板断裂術後6ヵ月において,肩関節可動域が良好な群の術後2週時の肩関節角度は,屈曲159.0±4.0°,外転127.0±15.0°,90°外転位外旋83.0±9.0°であった。』と報告しており,戸野塚らは,『腱板断裂術後3ヵ月において,挙上120°と下垂位外旋10°の基準可動域値をクリアすることが術後24ヵ月での良好な可動域の獲得に強く影響していた。』と報告している。しかし今回の結果はこれまでの報告よりさらに明確で詳細な術後早期の関節可動域の基準値を提供することができたと考えた。
  • 太田 大輔
    セッションID: P-MT-07-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】高齢者の転倒およびそれに伴う大腿骨頸部骨折は寝たきりの主要な原因であり,受傷前ADLの再獲得が難しい症例も多い。今回,在宅復帰を果たした大腿骨頸部骨折術後患者の身体機能を調査し,立位バランス能力を中心に転倒歴も含め比較検討した。【方法】対象は歩行自立している当院デイケア利用女性22名。(内訳 大腿骨頸部骨折術後群(以下骨折群):10例,術後経過期間5.9±2.6年,年齢85.2±5.12歳/非骨折群12例,年齢83.5±4.71歳)重度の神経学的障害や認知障害を有する者は対象から除外した。調査項目は1)過去1年間の転倒回数2)他動関節可動域(股屈曲,伸展,外転,内転,膝屈曲,伸展,足底屈,背屈)3)筋力(股屈筋,伸筋,外転筋,内転筋,膝伸筋)静的バランス能力4)矢状面における重心位置動的バランス能力5)開眼片脚立位保持時間6)Functional Reach Test(以下FRT)7)10m歩行時間8)タンデム歩行の歩数3)は,Handy型徒手筋力計使用(日本メディックス社製マイクロFET2)分析は転倒回数と2)~8)各々の相関関係。骨折群と非骨折群の比較。それぞれ有意水準5%未満とした。【結果】転倒回数は全体平均2±1.5回。骨折群2.8±1.2回 非骨折群1.3±1.5回。2群間に差を認めた。転倒回数と以下の項目に有意な負の相関を認めた。(股伸展,膝屈曲,股屈筋,伸筋,外転筋,膝伸筋,片脚立位保持,タンデム歩行)骨折群と非骨折群の比較では,股伸展,股伸筋,膝伸筋,FRTは骨折群が有意に低値を示した。【結論】在宅高齢者における1年間での転倒発生率は約20%と報告がある。高齢者の転倒原因として外的要因である生活環境と内的要因があり,内的要因には転倒歴,筋力,関節可動域,歩行能力,前庭機能,視覚機能などがある。今回の調査では転倒回数が多いほどROM,筋力,バランス能力の低下を認め,同様に内的要因の低下は再転倒する危険性が高くなることが分かった。立位バランスを保つ戦略として足関節戦略,股関節戦略,踏み出し戦略が指摘されているが,Horakは高齢者の姿勢保持は股関節戦略に大きく依存していると述べている。今回の調査では転倒回数とFRT,股伸展,股屈筋,伸筋,外転筋,膝伸筋に負の相関を認め,また骨折群の股伸展,股伸筋,膝伸筋,が有意に低値な為,骨折群は立位バランス能力が非骨折群に比べ劣っており,FRTも有意に低値だったことから動的なバランス能力は低下していると考える。今回の調査により,骨折群は週2,3回の定期的な運動介入,さらに術後平均約6年経過しているにもかかわらず,非骨折群と比べて股関節周囲機能が有意に低下していた。このことより骨折群は股関節戦略を行うために必要な能力が不十分であると推察され,より転倒リスクが高まるのではないかと考える。今後の課題として,股関節周囲機能,特に股伸展,股伸展筋力向上を中心に治療介入を検討していきたい。
  • 木村 誉, 今田 健
    セッションID: P-MT-07-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】大腿骨頸部骨折(以下,頸部骨折)を受傷した患者に対する理学療法において,入院中に,より早期かつ高い水準で歩行能力を自立させることは重要な課題である。歩行の自立度に関する要因を調査した先行研究は散見されるものの,自立の達成期間を調査した報告は見当たらない。当院に入院,退院した頸部骨折を受傷し症例の歩行自立度および達成期間について調査した。【方法】2013年3月1日から2015年9月30日までに入院,退院した症例のうち,頸部骨折を受傷した症例である49例について後方視的調査を行った。男性15例(平均年齢78.0歳,標準偏差6.7),女性34例(平均年齢80.6歳,標準偏差13.3)であった。除外基準は,急性期病院へ転院の症例とした。調査項目は発症から当院入院までの日数,回復期での在院日数,機能的自立度評価法(以下,FIM)得点,受傷前,退院時の移動状態とした。傷前,退院時の移動状態は,電子カルテより受傷前の歩行状態を抽出した。屋外歩行時には見守りが必要な患者が存在したが,主に用いられている歩行手段とした。歩行距離については問わず,自立歩行可能=1,T字杖歩行可能=2,4点杖歩行可能=3,歩行器・老人車歩行可能=4,移乗可能=5,移乗にも至らない=6の6段階で採点した。歩行自立の達成期間については,FIMの歩行の項目が6点以上となった時期とした。受傷前の歩行状態と退院時の歩行状態についてχ2検定を適用し,2要因間の関連の程度としてCramer's Vを用いた。統計はR2.8.1を使用し,有意水準は5%とした。【結果】術式について,1名の保存療法となった症例以外は手術療法(γ-nail,人工骨頭置換術,Parallel Femoral Nail)を施行した。発症から当院入院までの平均日数が男性26.4日(標準偏差12.5),女性26.5日(標準偏差10.7),回復期リハ病棟での在院日数は男性65.7日(標準偏差26.5),女性73.3日(標準偏差21.8)であった。入院時のFIM運動項目合計点は(以下,運動FIM)は57点(標準偏差14.6),入院時のFIM認知項目合計点(以下,認知FIM)は26点(標準偏差8.4),退院時は運動FIMが75点(標準偏差12.8),認知FIMが27点(標準偏差8.0)であった。受傷前歩行状態は,自立歩行28例,T杖歩行12例,4点杖3例,歩行器5例,移乗1例であった。退院時の歩行状態は,自立歩行8例,T杖歩行20例,4点杖7例,歩行器11例,移乗3例であった。受傷前と退院時の歩行状態の関連はp<0.001で有意な差を認め,Cramer's Vは0.522であった。退院時FIMの歩行に関して,6点以上が26例,5点以下が23例であった。歩行自立の達成期間について,中央値は32日(最小0-最大83)であった。【結論】受傷前,退院時の歩行状態について,やや強い関連を認めており,先行研究と一致する結果であった。FIM歩行の6点以上の症例において,半数が当院へ入院してから32日までに歩行自立を達成していることが示された。
  • 深江 航也, 河原 常郎, 大森 茂樹
    セッションID: P-MT-07-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】大腿骨頚部/転子部骨折術後患者の歩容の特徴として,前額面に注目し報告されているものが多く,矢状面上の特徴を示した報告は少ない。本研究は,大腿骨頚部/転子部骨折術後患者の矢状面上における歩行の特徴と,歩行能力の改善に関与する身体機能の要素を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は大腿骨頚部/転子部骨折術後の患者5名(男性3名,女性2名,年齢:78.6±7.2歳)とした。計測課題は,「歩行解析」に加え,歩行能力の指標として「10m歩行」,身体機能の指標として「等尺性膝伸展/屈曲筋力」測定とし,それぞれ入院期間中に2回(初期,最終)実施した。歩行解析は,床反力付トレッドミルGRAIL(motek medical)と三次元動作解析装置VICON(VICON Motion System)を同期させて実施した。運動課題は定常歩行とし,手すりの使用は自由とした。解析項目は,一歩行周期中の矢状面上における股・膝・足関節の角度変化,床反力とした。10m歩行は,時間,歩数を計測し,そこから重複歩長(m),歩行率(歩数/分)を求めた。等尺性膝伸展/屈曲筋力測定は,イージーテックプラス(easytech)を使用し,膝関節屈曲60度で5秒間の最大収縮を行い,最大トルクを体重で正規化した値を採用した。【結果】歩行解析における特徴として,股関節最大伸展角度の減少,屈曲領域のみでのdouble knee action,足関節最大底屈角度の減少が1例を除いて示された。床反力では,鉛直成分で1峰性のグラフを示し,前後成分では,健常人と同様のグラフ波形を示した。初期と最終の歩行では3つのパラメータが変化した。①股関節最大伸展角度が-18.3度から-11.3度と増加,②足関節最大底屈角度が-2.5度から3.0度へ増加,③床反力の前方への最大値が0.5N/kgから0.8N/kgと上昇した。それぞれの最大値を迎えるタイミングは①股関節と③床反力は立脚終期で共通していたが,②足関節は立脚終期から前遊脚期にかけてと若干遅れてピーク値をむかえた。その他のパラメータは著明な変化を認めなかった。10m歩行の時間は,10.92秒から9.08秒,重複歩長は0.9mから1.1m,歩行率は120.6歩/分から124.6歩/分とすべてのパラメータで改善した。等尺性膝伸展/屈曲筋力に関しては統一した結果は得られなかった。【結論】歩行解析の結果より,身体の前方推進に有利に働く要素(股関節伸展角度,足関節底屈角度,床反力前方分力)の向上を認めた。それらが結果として10m歩行における重複歩長,歩行率の向上に関与し,歩行速度の向上につながったと考える。前方推進力のピークは股関節最大伸展のタイミングと同時期に出現していることから,歩行能力の改善には立脚終期での股関節伸展角度の向上を促すことが重要と思われる。本研究は対象者が5名と少なく,筋力と歩行能力との関連性も十分に言い切れなかった。身体機能と歩行能力の関係性については今後の課題となる。
  • 目黒 智康, 海老澤 玲, 成田 美加子, 桒原 慶太, 塗山 正宏, 占部 憲
    セッションID: P-MT-07-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】大腿骨転子部骨折は安定型骨折と不安定型骨折とに分類されるが,本邦においては,大腿骨転子部骨折術後の機能障害が,骨折型の分類と関連付けて検証された報告は殆どみられない。しかし,安定型と不安定型骨折では,骨折周囲の軟部組織に対する機械的な損傷や骨整復の難易度も異なるため,機能障害や予後への影響も異なることが考えられる。したがって,大腿骨転子部骨折に対する急性期の理学療法を進めるうえでは,骨折型の分類に基づいて機能障害の特徴を把握することも重要と思われる。本研究の目的は,大腿骨転子部骨折における安定型骨折と不安定型骨折の運動機能を比較し,骨折型の違いにより術後の機能回復の特徴を検証することとした。【方法】受傷前に屋内杖歩行ないし独歩が自立していた大腿骨転子部骨折患者22名を対象とし,医師の診断にて骨折型により安定型群11名(84±7歳,男性2名,女性9名)と不安定型群11名(83±6歳,男性1名,女性10名)に分類した。調査項目は手術時間,術中出血量,術後在院日数,自宅退院率,および運動機能とした。運動機能は,術後2週および3週時に下肢筋力(術側および非術側の股関節外転,膝関節伸展)と歩行能力,歩行距離を評価した。各調査項目は,χ二乗検定,Fisherの直接確率検定を用いて比較検討し,安定型群と不安定型群の筋力の改善パターンの違いをみるために2要因における二元配置分散分析を用いて解析した。なお,有意水準は危険率5%未満とした。【結果】術式は全例に観血的骨接合術が施行された。両群ともに手術翌日から全荷重を開始した。手術時間(53±21 vs.72±42,NS),術中出血量(14±22 vs.62±104,NP),術後在院日数(34±13 vs.31±9,NP),自宅退院率(73 vs.50,NP)には2群間で有意差を認めなかった。術後2週時において,安定型群の術側膝伸展筋力は,不安定型群と比べて有意に高値を示した(P<0.05)。また,両群ともに術後2週時と比べて術後3週時の膝伸展筋力が有意に高値であった(P<0.05)。術後3週時において,T杖歩行ないし独歩が可能となった割合は安定型群で73%であり,不安定型群の36%と比べて高い傾向にあった(P<0.1)。【結論】大腿骨転子部骨折の安定型骨折は不安定型骨折と比べて,歩行能力の改善が早い傾向にあった。安定型骨折において術後早期の膝伸展筋力が高い水準にあったことが,早期の歩行能力向上に影響していると考えられた。以上のことから,大腿骨転子部骨折の理学療法を進めるうえで,骨折型の評価を踏まえて治療プラグラムを実施することが必要と思われた。
  • 篠田 宗一郎
    セッションID: P-MT-07-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】大腿骨転子部骨折を受傷した患者の術後理学療法において,小転子骨片が転位している症例を経験する。先行研究では小転子骨癒合不良例において,日常生活動作上は支障を来たしていないとされているが,小転子骨片の転位が歩行能力の再獲得を阻害していると感じることが少なくない。今回,大腿骨転子部骨折患者において,小転子骨片の転位の有無が退院時歩行能力に影響を与えるか明らかにすることを目的とした。【方法】2012年4月から2015年7月までに当院に入院し,大腿骨転子部骨折を受傷後,骨接合術を施行した患者の中から,1.65歳以上,2.受傷前の屋外歩行が自立,3.悪性腫瘍等による病的骨折でない,4.交通外傷や高所からの転落による骨折でない,5.受傷前の主な移動手段が歩行,6.受傷前の生活拠点が施設でない,7.併存症に認知症,脳卒中後遺症がない,8.転帰が死亡および合併症の増悪による転院でない,9.診療録の記録に不備がない,以上の条件を満たす60例(男性5例,女性55例,84.5±6.3歳)を対象とした。診療録から,年齢,性別,同居家族の有無,手術から退院までの日数,小転子骨片の転位の有無(股関節の単純X線写真正面像にて骨の連続性を確認),受傷前・退院時歩行能力(補助具使用の有無及び介助者の有無にて採点するMobility scoreを使用),退院先,併存症の数について情報収集した。統計的検討として,対象を小転子骨片の転位の有無であり群となし群に分け,年齢,退院時歩行能力を対応のないt検定,手術から退院までの日数,受傷前歩行能力をMann-WhitneyのU検定にて比較した。さらに,退院時歩行能力を目的変数,年齢,小転子骨片の転位の有無,受傷前歩行能力,併存症の数を説明変数とした重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。統計解析には,SPSS ver 22.0を使用し,いずれの検定も有意水準は5%とした。【結果】あり群は23例,なし群は37例であった。退院時歩行能力(あり群3.3±2.3点,なし群4.6±2.2点:p=0.03)に有意差を認めた。年齢(あり群84.3±7.2歳,なし群84.6±5.9歳),受傷前歩行能力(あり群5.5±2.3点,なし群6.6±2.4点),手術から退院までの日数(あり群93.9±26.1日,なし群80.4±25.9日)には有意差を認めなかった。退院時歩行能力を目的変数とする重回帰分析では説明変数として受傷前歩行能力(β=0.666),併存症の数(β=-0.217)が選択され,重相関係数R=0.701,決定係数R2=0.491であった。【結論】大腿骨転子部骨折患者で小転子骨片の転位のある者は,ない者に比べ,退院時歩行能力が低下することが明らかになった。小転子骨片の転位により,小転子に付着する腸骨筋,大腰筋の機能低下及び疼痛の増強を招き,歩行能力の低下を生じた可能性が考えられる。小転子骨片の転位の有無,併存症の数が,大腿骨転子部骨折患者の術後理学療法を進める上で,歩行能力の予後予測に有益な情報となる可能性が示唆された。
  • 岡本 伸弘, 増見 伸, 水谷 雅年, 齊藤 圭介, 原田 和宏, 森下 元賀, 仲村 匡平
    セッションID: P-MT-07-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに】大腿骨頸部骨折後に再び歩行が自立するためには,受傷前歩行能力,受傷時の年齢および認知症の有無など,受傷後に変化がない不変的要因と,筋力や栄養状態など受傷後にも変化がある可変的要因の二つに分けることができる。可変的要因の一つである栄養状態は,生理学的な側面からも身体機能を向上させるための重要な要因であることが明らかにされている。臨床現場では,患者の栄養状態を客観的に把握するために,臨床検査値の一つである血清アルブミン値(以下,Alb値)を用いることが多い。しかし,歩行自立に向けたリハビリテーションを行うにあたって,どの時期にどの程度の栄養状態が必要であるか具体的な基準については,十分に検証されていないことが現状である。したがって,本研究では大腿骨頸部骨折後の歩行自立に必要となる栄養状態の基準について,検討することが目的である。【方法】調査対象は,福岡県内一カ所の回復期リハビリテーション病院に2010年1月から2013年3月の間に入院した65歳以上の全ての大腿骨頸部骨折患者316名とした。骨折の既往歴がある者や急な転院などによりデータに欠損があった者を除いた最終的な集計対象者は266名であった。歩行自立に必要な栄養状態の基準を検討するために,受傷から当院で臨床検査を測定した日までの経過日数を調査した。次に,歩行自立の予測に栄養状態は有用であるかを検討するために,歩行自立の有無を独立変数,説明変数をAlb値としたROC分析を行い,Area under curve(以下,AUC)によって予測精度を算出した。また,歩行自立に必要なAlb値のカットオフ値については,Youden's indexを用いて算出した。【結果】集計対象者の平均年齢は85.2歳であった。受傷から当院で臨床検査を実施した日までの経過日数は平均22.4日であった。歩行自立に対するAlb値のAUCは71%であった。カットオフ値はAlb値3.5g/dl(感度59%,特異度73%)であった。【結論】本研究結果より,歩行自立に必要な栄養状態の具体的な数値については,受傷から22.4日が経過した時点におけるAlb値を3.5g/dlと設定した。またAlb値を用いた歩行自立の予測は,AUCが71%であり中等度の予測精度があることが示された。カットオフ値については,感度がやや低いものの特異度は73%であり,Alb値3.4g/dl以下の場合は歩行の自立が難しくなることを示唆するものであった。先行研究においてもAlb値3.4g/dl以下の場合は,歩行の自立が遅延することが報告されているため,本研究で設定したカットオフ値は妥当ではないかと考える。統計解析について,本研究は栄養状態の基準を示す方法の一つとしてROC分析を選択した。しかし,正確に歩行自立を予測するためには,多変量解析によって挙げられている関連要因を考慮する必要があると考える。
  • 加古 誠人, 鈴木 謙太郎, 高木 優衣, 林 和寛, 佐藤 克成, 鄭 伃廷, 佐藤 幸治, 門野 泉, 酒井 忠博
    セッションID: P-MT-08-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】30seconds chair stand test(CS-30)は,下肢筋力の推測可能なパフォーマンステストとして広く知られており,虚弱高齢者などの評価にも用いられ,その有用性の報告は数多くされている。一方で,整形外科疾患患者における報告は少なく,痛みがCS-30に影響を及ぼすことが予測されるが,その関連因子は十分に検討されていない。そこで,本研究は変形性膝関節症患者(膝OA患者)におけるCS-30の有用性とそれに影響を及ぼす因子を検討することを目的とした。【方法】対象は2014年5月から2015年9月までの期間に人工膝関節置換術目的に当院へ入院した膝OA患者37例(女性32例,男性5例,年齢70.9±7.2歳,身長151.3±7.5cm,体重61.4±11.1kg)で,膝OAの重症度はKellgren-Lawrence分類3もしくは4であった。CS-30は,高さ40cmの座面にて両上肢を胸の前で組んだ姿勢に統一し,測定は30秒間に出来るだけ多く起立,着座を行うよう指示して行った。測定は1回のみとした。運動機能の評価項目として,股関節,膝関節,足関節の関節可動域(ROM)と股関節外転・伸展,膝関節伸展の等尺性の最大筋力を計測した。筋力測定は,ハンドヘルドダイナモメータ(ミュータスF-100,アニマ社製)を使用した。また,10m最大歩行速度,Timed up and go test(TUG)を測定した。痛みに関する評価は,痛みの程度(Visual analogue scale:VAS),痛みに対する不安症状尺度(A short version of the pain anxiety symptoms scale:PASS-20)を測定した。また,不安,抑うつをHospital anxiety and depression scale(HADS)を用いて測定した。評価項目は,すべて手術前日に測定した。統計処理は,CS-30に対する各指標間の関連をPearsonの相関係数を用いた。結果は,平均値±標準偏差で示し,有意水準は5%未満とした。【結果】CS-30は平均10.0±6.16回であった。CS-30は10m最大歩行速度(r=.596,p<.001),TUG(r=-.557,p=.005)と有意な相関を示した。また,両側股関節屈曲角度(患側:r=.410,p=.012/健側:r=.425,p=.009),伸展角度(患側:r=.499,p=.012/健側:r=.546,p<.001),両側足関節背屈角度(患側:r=.387,p=.018/健側:r=.467,p=.004),健側股関節外転筋力(r=.371,p=.026),健側膝関節伸展筋力(r=.361,p=.031)と有意な正の相関を示した。また,VAS(r=-.344,p=.043),PASS-20下位項目の認知的不安(r=-.412,p=.012)において有意な負の相関を示した。【結論】CS-30は膝OA患者においても,これまでの報告と同様に両側下肢の筋力や可動性と正の相関が認められた。さらに歩行速度,TUGとも相関する結果が得られ,膝OA患者の下肢筋力や可動性,歩行能力を反映する有用な評価法であることが明らかになった。また,痛みに関する評価は,VAS,PASS-20の認知的不安が,負の相関を示したことより,膝OAによる慢性的な痛みを背景に,痛みに対する不安症状が起立,着座動作に影響を及ぼす可能性が示唆された。
  • 弦巻 徹, 河西 孝佳, 富田 樹, 天本 藤緒
    セッションID: P-MT-08-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】変形性膝関節症(以下膝OA)患者にとって,体重の管理と減量指導は治療の第一選択となることが多い。脂質代謝異常が膝OAの病因となる仮説について,血清コレステロールおよび中性脂肪の値と骨髄変性の発症との関連性を認めた先行研究があり,近年膝OAの発症や増悪を防ぐために体重だけでなく脂質代謝をバランスよく維持しておくことの重要性が喚起されつつある。膝OA患者と関節に疼痛を有する他の疾患患者との間で,体重や肥満度,血清コレステロールの値とその比率,中性脂肪の値に相違があるかを明らかにする目的で後方視的に比較検証を行った。【方法】対象は2010年10月~2015年9月までの間に当院を受診し膝OAと診断された606人(男:女=108:498,年齢:63.6±10.90歳,身長:1.59±0.08m,体重:59.5±11.5kg),関節リウマチ(以下RA)と診断された463人(男:女=84:379,年齢:49.2±13.3歳,身長:1.60±0.07m,体重:54.3±10.1kg)について,BMI値を算出し,初回採血時の血液データより,総コレステロールとLDLコレステロール(以下LDL),HDLコレステロール(以下HDL),中性脂肪(以下TG),LDLとHDLの比率(以下LH比)を抽出し,平均値を求め,それぞれの値を比較検証した。統計学的処理としては対応のないt検定を用い,有意水準5%未満とした。採血データのない症例,膝OAとRA双方の診断がついている症例については対象から除外した。【結果】総コレステロール(p<0.01),LDL(p<0.01),TG(p<0.01),BMI(p<0.01),LH比(p<0.01)は膝OA群の方が高かった。OA群における総コレステロール(217.9±37.0 mg/dl),LDL(124.6±29.5 mg/dl),TG(146.9±99.4mg/dl)の平均値±標準偏差は一般に標準とされる値を超えなかった。一方で,BMI(23.6±3.6 kg/m2)とLH比(2.07±0.68)の平均値±標準偏差は標準とされる値(BMI=22.0,LH比=2.0)を超える結果を示した。【結論】検証結果より,統計学的に有意差を認めながらも標準とされる値を超えていない項目が多い中BMIとLH比がOA群で標準値より高く,膝OA患者はRA患者に比べ高齢で所謂悪玉コレステロールが多く肥満傾向にあり,脂質代謝に問題がある例が多いことが窺えた。先行研究において肥満が膝OAの発症と関連性があるとしているものは多く,膝OAの発症以前から肥満が存在する例が多いことも報告されている。日常生活において膝関節には体重の数倍の負荷がかかることが知られており,膝OA患者に対する体重管理や減量の指導は多く行われてきたが,今回の検証結果より肥満だけでなく脂質代謝の異常が膝OAの発症と関連性を持つ可能性が示唆された。血清コレステロールの値に注目し,脂質代謝を正常化させる治療や食餌療法・運動療法の提供,指導が膝OAの発症や増悪を予防し得る有効な手段である可能性が示唆された。今後は年代や性差にも着目し,より詳細な傾向を検証していく必要がある。
  • 和田 治, 紙谷 司
    セッションID: P-MT-08-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】変形性膝関節症(膝OA)は関節変形や可動域制限,筋力低下を生じる加齢性の変性疾患であり,高齢者人口の増加とともに罹患者数も増加すると予想されている。一方で,世界的に問題となっている慢性疾患として肥満と糖尿病が挙げられる。肥満と糖尿病は膝OAの発症を及び進行のリスク因子となるだけでなく,健常者を対象として研究では可動域制限や筋力低下にもつながることが報告されている。しかしながら,現在まで,末期変形性膝関節症患者の膝機能と肥満および糖尿病の関連性は明らかでない。そこで本研究では,末期膝OA患者の膝機能に肥満と糖尿病が与える影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は膝OAを原因疾患とし当院へ外来通院中である膝OA患者とした。膝機能の指標はthe new Knee Society Score(new KSS)とし,さらにKellgren-Lawrence分類によるgrade(重症度の高い側を患側,低い側を健側),Body mass index(BMI),HbA1c,飲酒の有無,喫煙の有無を調査した。BMIが25 kg/m2以上のものを肥満ありとし,カルテ情報から判断しHbA1cが6.5%以上もしくは糖尿病の既往のあるものを糖尿病ありとした。統計解析ではNew KSSの合計点を従属変数,肥満および糖尿病の有無で分類した4群を独立変数,さらに年齢,性別,健側grade,飲酒の有無,喫煙の有無を調整変数として投入した重回帰分析を行った。また同様の重回帰分析を男女別に行った。有意水準は5%とした。【結果】解析対象となったのはデータに欠測のない1069名であった。平均年齢72.4±7.8歳,男性206名,女性863名であり,患側gradeIVが896名,IIIが170名だった。調整後の重回帰分析の結果,肥満なし。糖尿病なしに対する各群の回帰係数β[95%信頼区間]はそれぞれ肥満なし・糖尿病ありβ=-8.11[-14.56―-1.67],肥満あり・糖尿病なしβ=-7.07[-10.09―-4.04],糖尿病あり・肥満ありβ=-13.15[-17.53―-8.77]であり,有意な関連を認めた。男女別の結果では,女性のみで有意な関連を認め,肥満なし・糖尿病ありβ=-7.67[-15.00―-0.34],肥満あり・糖尿病なしβ=-7.81[-11.15―-4.48],糖尿病あり・肥満ありβ=-13.40[-18.42―-8.39]であった。男性では一部有意な関連を認めなかったものの,肥満なし・糖尿病ありβ=-7.40[-21.16―-6.35],肥満あり・糖尿病なしβ=-3.76[-10.97―3.45],糖尿病あり・肥満ありβ=-11.69[-20.86―-2.52]であり,関連の傾向については一貫した結果であった。【結論】本研究結果より,肥満と糖尿病の罹患は膝機能の低下と関連していることが示された。したがって臨床において,同じ重症度であっても肥満や糖尿病を伴う場合は膝関節機能がより低下している可能性があり,より積極的な理学療法学的アプローチを行う必要性があることを示唆できたと考える。
  • 阿部 宙, 戸田 成昭, 渡邊 裕之, 月村 泰規, 重田 暁, 斉藤 良彦, 松永 篤彦
    セッションID: P-MT-08-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】変形性膝関節症(以下膝OA)は,膝関節の変形に起因した膝痛が主症状であるが,腰痛を訴えることも少なくない。過去の報告によると,膝OA患者のうち半数近くが腰痛を有しているが腰痛の原因は不明確である。膝OA患者は,臨床症状の特徴の一つとして膝の屈曲拘縮が挙げられ,立位バランスを保つために脊柱や骨盤で代償し,腰椎骨盤のマルアライメントを有している可能性が考えられる。近年では,腰椎骨盤のマルアライメントは腰痛を誘発する原因の一つとして考えられており,矢状面のレントゲン画像から計測される腰椎骨盤アライメントが注目されている。しかし,膝OA患者の腰痛が立位姿勢における膝関節屈曲角度および腰椎骨盤アライメントと関連するかは不明である。本研究では膝OA患者を対象に腰痛と立位姿勢での膝関節屈曲角度および腰椎骨盤アライメントの関連を検討することを目的とした。【方法】対象は,整形外科を受診し,膝OAと診断された113名(男性31名,女性82名,平均年齢71.0±7.8歳)とした。対象には,問診表にて1週間以上継続する腰痛の有無を聴取し,腰痛群と腰痛なし群に分けた。また,腰椎骨盤アライメントの指標として,X線を用いて立位矢状面の脊柱を撮影し腰椎前彎角(LL)と骨盤傾斜角(PT)を計測した。さらに,立位姿勢における膝関節屈曲角度はゴニオメーターを用いて計測した。検討項目は,腰椎骨盤アライメントの各計測値を2009年に金村らが発表した健常日本人の基準値を参考に,LLを正常範囲と基準値を逸脱したもの,PTを正常範囲と基準値を逸脱したものに分け,さらに立位膝屈曲角度は5度以下のものと5度より大きいものにそれぞれ分けて,腰痛の有無との関連をχ2乗検定にて検討した。【結果】腰痛を有する者は全体の45.7%であった。また,PTは腰痛群で正常範囲を示したものが47名(28.3%)と基準値を逸脱したものが13名(18.6%),腰痛なし群で正常範囲を示したものが32名(41.6%)と基準値を逸脱したものが21名(11.5%)であり,χ2乗検定の結果から有意差が認められた。逸脱例のPTは全例骨盤後傾位を示していたことから,膝OAの腰痛は骨盤後傾位との関連が認められた。一方,LLと立位膝屈曲角度は腰痛の有無により有意差を認めなかった。【結論】本研究の結果より,健常日本人の基準値を参考にPTを正常範囲と基準値を逸脱した例に分けた場合において腰痛の有無との間に有意差が示された。一方,立位膝屈曲角度を5度以下と5度より大きいものに分けた場合において,腰痛の有無との間に有意差は認めなかった。そのため,膝OA患者の腰痛対策を講じるためには,立位姿勢において膝関節のみでなく,特に骨盤の後傾に着目して評価を行うと同時に理学療法を実施する必要があると考えられた。
  • 前田 貴哉, 吉田 英樹, 佐々木 知行
    セッションID: P-MT-08-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】TENSや温熱刺激(TS),寒冷刺激(CS)は,変形性膝関節症(膝OA)患者の鎮痛目的に用いられることが多く,互いに類似もしくは異なる作用機序に基づいた鎮痛が得られる。いずれの手法も単独で適用した場合の鎮痛効果は確認されているが,TENSとTSもしくはCSを同時に施行した場合の鎮痛効果向上の可能性については検討されていない。TENSとTSもしくはCSの同時施行により相乗効果が生まれ,より高い鎮痛効果を得られる可能性は否定できない。そこで本研究は,TENSとTS又はCSの同時施行が鎮痛効果に及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】膝OAと診断された患者33名を対象とし,介入としてTENSのみ施行する群(単独群),TENSとTSを同時に施行する群(TS併用群),TENSとCSを同時に施行する群(CS併用群)に無作為に振り分けた。TENSは疼痛部位を挟むように電極を貼付した上で,パルス幅200μsec,周波数100Hzの単相性矩形波を患者が耐え得る最大刺激強度で20分実施した。TS併用群及びCS併用群では,TENS開始時よりTENSの電極上にそれぞれホットパック(表面40℃),アイスパック(表面0℃)を配置した上で20分実施した。各群の介入前後で,ADL上で重要と考えられる快適速度での歩行時及び椅子からの起立動作時(起立時)の膝痛をVisual Analogue Scale(VAS,単位:mm)にて評価した他,Timed Up & Go test(TUG,単位:秒)も実施した。その上で,各群の介入前後でのVAS及びTUGの変化量を有意水準を5%に設定し,一元配置分散分析にて検討した。【結果】各群のVAS及びTUGの変化量(平均値:[最小値,最大値])は,単独群では歩行時VASが-12:[-31,15],起立時VASが-9:[-24,0],TUGが-0.1:[-1.3,2.3],TS併用群では歩行時VASが-12:[-53,3],起立時VASが-16:[-77,3],TUGが-1.2:[-5.2,0.3],CS併用群では歩行時VASが-18:[-71,0],起立時VASが-14:[-75,27],TUGが-0.2:[-1.6,1.0]であった。一元配置分散分析では各群のVAS及びTUGの変化量に有意差を認めなかったものの,単独群と比較してTS及びCS併用群では歩行時及び起立時VAS,TUGの大きな改善を示す症例も存在した(最小値参照)。【結論】本研究結果では,TENSとTSもしくはCSの同時施行した場合の明らかな有効性は示せなかったが,動作時痛及びパフォーマンスが大きく改善した症例も存在した。今後,TENSとTSもしくはCSの同時施行が奏功する症例の特徴を明らかにするために,膝OAの重症度に基づく対象の層別化や,疼痛の程度や部位などの特徴について追加検討が必要と考えられる。
  • 院内におけるClinical Prediction rulesを満たす患者でのケースシリーズ
    中口 拓真, 岡 泰星, 田津原 佑介, 原井 祐弥, 市平 暁平, 芝氏 太作, 藤本 威洋, 柳川 楓夏, 林 大樹, 玉置 桂一
    セッションID: P-MT-08-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】症状・徴候・診断的検査を組み合わせて点数化し,その結果から,対象となる疾患を持つ可能性に応じて,患者を層別化するClinical Prediction Rules(CPR)が注目されている(Gavin:2009)。しかし,本邦ではCPRの使用頻度は低く検証はされていない。介入頻度の多い変形性膝関節症患者に対して,Linda L(2007)らが報告したCPR(陽性尤度比12.9,成功確率97%)を満たす患者を対象とした股関節モビライゼーションの即時効果の本邦での検証を目的とする。【方法】Linda Lらの報告したCPRを使用した。当院に入院する患者のうち歩行可能で変形性膝関節症の既往歴があり膝関節痛を有する者で(1)股関節痛または鼡径部痛,感覚異常(2)大腿前面痛(3)膝関節屈曲122°以下(4)股関節内旋17°以下(5)股関節Distractionテスト陽性のうち2つ以上満たすものを対象とした。また,除外基準として,神経学的疾患,変形性膝関節症と同側の整形外科的疾患,認知機能低下を有する者とした。治療介入は先行研究に従い,比較的容易な手技であるCaudal glide・Anterior-posterior glide・Posterior-anterior glide・Posterior-anterior glide with flexion, abduction, and lateral rotationとし,セラピスト間で確認練習を行った後に実施した。治療介入前と介入直後に最大膝伸展筋力(Nm/kg),Numerical Pain Rating Scale(NPRS)と膝関節に対する全体的な症状の把握を目的として,変形性膝関節症転帰スコア(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score:KOOS)のうち,症状・疼痛・生活の質を調査した(満点80点)。NPRSは,最も疼痛が強く出現する動作の直後に調査した。治療効果の主観的な変化度合いに対する評価として15pointsのGlobal Rating of Change Scale(GRC)を用いて行った。なお,NPRS・GRC・KOOS評価は研究や治療に関与しない第3者に依頼し盲検化を施した。【結果】上記基準を満たす5名,平均年齢79.2歳,BMI25.4kg/m2に対し,モビライゼーションを行った。介入前平均,膝伸展筋力0.82Nm/kg,NPRS:5.6点,KOOS:31.2点。介入後平均,膝伸展筋力0.88Nm/kg,NPRS:3.2点,KOOS:40.2点,平均GRC:3.2【結論】変形性膝関節症患者でCPR基準を満たす対象者に股関節モビライゼーションを行った。本研究においてもNPRSが平均2.4点(42%)改善し先行研究を支持する形となり本邦においても治療意思決定に有用である事が示唆され,NPRSのMinimal Clinically Important Difference(MCID)に近似した値(Michener:2011)となっている為,意義のある改善であると考える。GRCにおいてもLinda Lらが報告した3.27と近い値となった。KOOSは平均9点の改善であり測定誤差(Salavati:2011)を超えている為,膝関節全体の症状も改善したと考える。本研究の限界としてプラセボ群を設定していない点や対象者数が非常に少ない事,本対象者は膝関節以外の疾患も同時に罹患している為,日常生活動作の改善がモビライゼーションの効果であると証明できない点等が挙げられ今後の課題である
  • 西山 昌秀, 田中 彩乃, 八木 麻衣子, 岩崎 さやか, 近藤 千雅, 鈴木 智裕, 星野 姿子, 松永 優子, 秋山 唯, 松下 和彦
    セッションID: P-MT-09-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】足関節果部骨折および足関節脱臼骨折(足関節骨折)術後は,一定の免荷期間が必要となるため術側下肢の運動機能は著明に低下すると考えられる。しかし,足関節術後患者における運動機能の経時的な報告は非常に少なく,その実態は明らかになっていない。本研究の目的は,足関節術後患者における運動機能の経時的変化を明らかにすることである。【方法】対象は2013年2月から2015年3月までに足関節骨折にて手術を実施し,リハビリテーションを行った連続症例66例中,下記の症例を除外し,下記の評価が可能であった16例(男性11例,女性5例,平均年齢46.25±15.44歳,体重66.74±19.30kg,身長169.48±6.80cm,Body Mass Index 23.18±2.49kg/m2)である。除外基準は創外固定,骨折部の固定性不良により筋力評価が困難であった症例,上肢骨折などの他疾患合併である。骨折型は内果骨折2例,Lauge-Hansen分類にてSupination-external rotation(SER)II5例,SERIV6例,Pronation-external rotation(PER)III1例,PERIV1例,Supination-adduction(SA)1例であった。全荷重時期は5.81±1.83(週)であった。ベースライン(全荷重時),術後3ヶ月(3M)及び6ヶ月(6M)に運動機能評価として,術側下腿三頭筋のMuscle Manual Testing(MMT),等尺性膝伸展筋力体重比(膝体重比)及び等尺性膝伸展筋力患健比(膝患健比),片脚立位時間(one leg standing:OLS),手支持なしでの立ち上がりが可能な高さ(立ち上がり),関節角度(術側足関節背屈,底屈)を測定した。統計は各測定時期の継時的変化について1元配置の分散分析およびfriedman検定,χ2検定,多重比較を実施した。統計ソフトはSPSS 12.0Jを用い,統計的有意水準は5%未満とした。【結果】ベースラインと比較して,術側ではOLS(21.7±24.4 vs. 49.2±16.0 vs. 53.6±16.6 sec)と膝体重比(56.2±16.1 vs. 59.2±16.9 vs. 63.5±14.0%),足関節背屈角度(10.63±5.12 vs. 16.25±4.08 vs.17.34±4.42度)にて改善が認められた。膝患健比(68.45±15.31 vs.84.73±8.94 vs.90.61±8.17%)にも改善が認められた。また,6Mと比較して,非術側では膝体重比(56.17±16.10 vs. 59.16±16.91vs. 63.50±16.61%)にて改善が認められた。一方,術側下腿三頭筋のMMT,非術側のOLS,足関節底屈角度,立ち上がりには有意な変化を認めなかった。特に術側の下腿三頭筋に関しては,6か月の時点でもMMT5が4例,4が1例,2が11例と改善が乏しかった。【結論】術側OLS,両側膝体重比,膝患健比,術側足関節背屈角度は著明な改善を認めたが,術側下腿三頭筋のMMTは術後6ヶ月においても著明な改善が認められなかった。よって,下腿三頭筋に関しては,術後6ヶ月以降も筋力トレーニングの継続が必要であると同時に,より早期に改善が図れるようなリハビリテーションプログラムの工夫が必要と考えられた。
  • 高木 優衣, 加古 誠人, 鈴木 謙太郎, 鄭 伃廷, 佐藤 克成, 佐藤 幸治, 門野 泉, 長谷川 幸治
    セッションID: P-MT-09-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】変形性股関節症(以下,股OA)患者の外科的治療は,主として骨切り術などの関節温存手術と人工関節置換術(以下,THA)が挙げられる。骨切り術は関節裂隙狭小化や骨頭変形が進んでいない初期股OA患者に適応され良好な成績を挙げている。しかし,骨切り術後にOAが進行し,数年後にTHAを施行される患者を経験することも多い。骨切り術後の身体機能について,術後1年間における筋力回復率など短期における報告は多く認められるが,長期的にみた身体機能についての報告は認められない。本研究は,骨切り術の既往がある末期股OA患者を対象とし,身体機能面での特徴を検討することを目的とした。【方法】対象は2014年4月から2015年9月においてTHA目的で当院に入院した患者47名のうち,大腿骨頭壊死3名,再置換術予定4名を除く40名(年齢64.4±12.7歳,身長153.8±10.4cm,体重64.4±12.7kg)とした。対象者を骨切り術の既往の有無で,骨切り群11名(骨切り後人工関節置換術まで22.3±10.1年),初回手術群29名の2群に分類した。身体機能に関する測定項目は手術前の疼痛,下肢関節可動域(以下,ROM),下肢筋力,歩行速度とした。疼痛は,最大の疼痛をVisual Analog Scale(以下,VAS)で評価した。下肢関節ROMは,術側股関節屈曲,伸展,内転,外転,内旋,外旋ROM,膝関節屈曲,伸展ROM,足関節底屈,背屈ROMを測定した。下肢筋力は,ハンドヘルドダイナモメーターμ-tas(アニマ社製)を使用し,術側の等尺性股関節外転筋力,伸展筋力,膝関節伸展筋力を測定した。各筋力は2回測定したうちの最大値を使用し,トルクを算出し体重で除した値を使用した。歩行速度は快適速度での10m歩行テストを2回実施し,その最大値を使用し算出した。統計には,Wilcoxonの符号付順位和検定を使用し,各測定項目について2群間で比較した。なお,有意水準は5%とした。【結果】骨切り群11名,初回手術群29名の身体組成に2群間での有意差は認められなかった。初回手術群と比較し,骨切り群は,股関節屈曲ROMが18.9°(p<0.05),股関節伸展ROMが7.24°(p<0.05),股関節内旋ROMが13.7°(p<0.01),それぞれ有意に低値を示した。その他のROM,最大疼痛,下肢筋力,歩行速度には両群間の差は認められなかった。【結論】本研究は,末期股OA患者における骨切り術の既往の有無が身体機能に及ぼす影響について検討した。骨切り術の既往がある患者は,既往がない患者と比較し,股関節屈曲,伸展,内旋ROMが有意に低値を示した。しかし,疼痛,下肢筋力,歩行速度には差が認められなかった。本研究結果より,骨切り術は,疼痛,下肢筋力,歩行速度において,長期的予後が良好であることが明らかになった。また,骨切り術の既往がある末期股OA患者は,より著明なROM制限が生じることが明らかになり,長期的なリハビリテーションにおいて可動域獲得の必要性が示唆された。
  • 橋﨑 孝賢, 川崎 真嗣, 湯川 晃也, 川西 誠, 児嶋 大介, 木下 利喜生, 上西 啓裕, 西村 行秀, 田島 文博
    セッションID: P-MT-09-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】今回,交通事故で軸椎歯突起骨折・頚髄損傷を受傷した小児脊髄損傷者に対し,リハ科医師・義肢装具士と連携し適切な頚部・体幹装具を使用し,頚部の安定性を獲得しながらリハビリテーション(リハ)を行うことで,人工呼吸器離脱,ADL向上,自宅・復学復帰を遂げた症例を経験したので報告する。【方法】6歳男性。第0病日15時頃,自動車の助手席に乗車中,交通事故により受傷。当院救急外来に搬送。搬入時は四肢自動運動が不可能であり,頚髄損傷,軸椎歯突起骨折,左第8肋骨骨折,肺挫傷と診断され,人工呼吸器による呼吸管理,頚部2kgのグリソン牽引が開始された。第2病日,リハ目的で理学療法,作業療法を開始。【結果】開始時,主科の指示でギャッジアップは不可であった。現症は四肢可動域制限なく,自動運動認めず,腱反射消失していた。第6病日に頚椎は牽引療法からネックカラーに変更し,ギャッジ60度まで可能となったが,ギャッジアップを進めていく中で歯突起の転位を認め麻痺増悪のリスクがあった。そこでリハ科医師,義肢装具士と検討し頚胸椎装具を提案し,SOMI装具を使用することで歯突起の安定性を獲得しながらリハを行った。その後徐々に四肢の自動運動出現,呼吸機能改善を認め,人工呼吸器離脱。第30病日に軸椎の骨癒合がすすみ,SOMI装具装着下で徐々に座位・立位・歩行練習開始。歩行は,体幹の安定性,下肢の支持性弱く介助が必要であった。第42病日に下肢筋力低下の為,両下肢に短下肢装具を作製。また,リハ時間増大のため,成人用歩行器に工夫を行い,吊り下げ可能とし自己で歩行練習を行えるようにした。さらに看護師・家族に装具の使用法や自主練習の指導を行った。徐々に歩行能力向上し,第81日目に数メートルの自立歩行・見守りでの歩行獲得,第109病日に数十メートルの自立歩行可能となり,自宅退院し,段階的に復学した。【結論】小児脊髄損傷の頻度は低く,特徴として損傷部位は下位頚髄~上位胸髄が多く,完全麻痺があっても骨傷がない事があげられている。しかし,本症例は損傷部位が上位頚髄で骨傷を伴っており一般的な小児脊髄損傷の特徴と異なり,小児脊髄損傷においても稀なケースといえる。本来であれば,成人と同じく強固な固定を行い早期から積極的なリハを行うべきでだが,今回の症例は頭蓋骨が柔らかくハローベストが行えずネックカラー使用で最小限の固定しか行っていなかった。さらに,骨傷を伴った外傷であり骨癒合までの臥床,活動制限が危惧された。そのような状況でリハビリ科医師,義肢装具士と連携を図り頚部・体幹装具の工夫を行い,頚部安定性を獲得しながら離床を行い,神経症状の悪化なくリハビリを進めることができた。急性期からリハ介入をおこない,装具作製や多職種連携,家族指導を行い二次的な合併症を防ぎ,病状を悪化させずリハを行えたことが良好な転帰の一助になったと考える。
  • 湯本 翔平, 中島 彩, 高橋 佑介, 中川 智之, 恩田 啓, 木村 雅史, 立石 智彦
    セッションID: P-MT-09-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】坐骨結節剥離骨折は成長期のスポーツ選手にしばしば認められる。受傷メカニズムは,骨端線閉鎖前の脆弱な骨に対し,スポーツ動作等で強力な筋収縮が生じることで受傷に至るとされている。坐骨神経症状のあるものや骨片の転位が大きいものは手術適応であるとされているが,その報告は非常に少ない。今回,スポーツ中に坐骨結節剥離骨折を受傷し手術療法を行った症例に対し,スポーツ復帰を目指して術後介入を行い,良好な結果が得られたので報告する。【方法】症例は15歳男性。サッカーの試合中,ボールをトラップしようと股関節屈曲,膝関節伸展位となった際,殿部から大腿後面に疼痛が出現し,プレー困難となった。他院での単純X線像,CT所見にて,骨折部の転位が大きく当院紹介となった。術前評価ではジョギング,股関節内旋時に殿部から大腿後面に疼痛を訴え,SLRは110度/60度であった。受傷後6週にて,観血的骨接合術を行った。手術は腹臥位にて坐骨結節から長軸に10cm切開,大殿筋を下縁から持ち上げ,腹側へ落ち込んでいた骨片を確認した。骨片はcannulated cancellous screw3本で固定した。術後3週はシーネによる膝関節45度屈曲位固定を行い,それ以降シーネを外しROM開始となった。術後5週より1/2荷重,ハムストリングスのストレッチを開始し,術後6週で全荷重となった。術後9週のCTにて骨癒合を認めたためジョギング開始となり,術後13週で競技復帰に至った。【結果】術後3週での評価にて股関節屈曲85度/120度,内旋15度/30度と左右差を認め,最終域では坐骨結節に疼痛が出現した。MMTでは大殿筋,ハムストリングス共に3レベルであった。競技復帰時の評価では股関節にROM制限はなく,最終域での疼痛も消失した。SLRは80度/60度で,ジョギングや競技動作での疼痛はなかった。MMTでは大殿筋,ハムストリングス共に4レベルと改善がみられ,CYBEXを用いた膝屈曲等速性筋力(角速度60度/秒)では健患比68%と術前の48%と比較し改善を認めた。【結論】術中所見にて骨片が腹側へ転位していたことは,ハムストリングスの中でも腹側に付着部を持つ半膜様筋が骨片へ伸張ストレスを加えていたことを推察させた。そのため術後の介入においては殿筋群や内旋筋へのトレーニングを行い,筋の不均衡改善を図った。更にスクワットやジャンプなど,瞬発的なハムストリングスの伸張が生じるトレーニングを段階的に進めた。筋の不均衡に対する介入と骨癒合に応じて段階的にハムストリングスへの伸張ストレスを高めていったことにより円滑な競技復帰が可能になったものと考える。坐骨結節剥離骨折に対する手術療法及び,術後リハビリテーションに関しての報告は稀であるが,手術療法に併せ,坐骨結節への伸張ストレス軽減を踏まえたリハビリテーション介入により良好な成績を得られる可能性がある。
  • 薦田 昭宏, 橋本 聡子, 窪内 郁恵, 黒田 祐子
    セッションID: P-MT-09-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】Neglect-like symptoms(NLS)は,痛みに伴い自肢がどうなっているのかわからない,自肢を動かすのに過剰な努力を要する状態であり,身体の一部から欠落している感覚である。先行文献では,痛みの強さと相関ならびに知覚能力の低下と関連があるといわれている。そこで今回,線維筋痛症(Fibromyalgia:FM)例の体性感覚とNLSとの関連について検討したので報告する。【方法】対象は,当院外来通院可能なFM例で足部に痛みおよび不快感を呈する10例,全例整形外科的・神経学的問題がなく歩行自立レベルである。平均年齢50.3±17.8歳,線維筋痛症活動性評価票Fibromyalgia activity scale 31(FAS31),平均20±6.5点である。また体性感覚は健常者24例をコントロール群として比較検討した。なお年齢ならびに身体組成においては両群間に有意差はなかった。方法は,体性感覚評価では足底部の二点識別覚距離(Two-points discrimination test:2PD)を測定した。ノギス使用にて踵・母趾球・小趾球をup-down法にて測定した。なおFM群は全例,症状が両側であるため両側評価,コントロール群は片脚起立困難側を評価した。痛み評価は,Numerical Rating Scale(NRS),広範囲疼痛指数(wide-spread pain:WPI),神経障害性疼痛重症度評価ツール(Neuropathic Pain Symtpom Inventory:NPSI)を用いた。情動的評価として痛みの破局的思考(Pain catastrophizing scale:PCS),不安・抑うつ(Hospital Anxiety and Depression scale:HADS)を評価した。認知的評価としてNLSを評価した。統計処理は,群間比較をt検定,2PDと各因子の関係をSpearmanの順位相関係数を用い有意水準5%未満とした。【結果】2PDでは,踵,母趾球,小趾球ともにFM群に有意な距離の増大を認めた。2PDとNRS,WPI,NPSI(総得点),PCSならびにHADSでは,相関は認めなかったがNPSIの下位項目の誘発痛では強い相関(r=0.73)を認めた。2PDとNLS(総得点)では,母趾球で中等度の相関(r=0.48)を認めた。【結論】痛みが慢性化すると末梢の原因よりも,脳の機能不全が強くなると言われている。FM群では,患肢の不使用による感覚入力や運動入力が減少,それに伴う脳内体部位再現領域の狭小化が2PDの増大に繋がったと考える。また2PD,NPSI,NLSとの関係では,複数の身体部位を統合する頭頂葉の機能不全にて,身体所有感や運動主体感などの欠如に至ったと考える。ヒトが運動を行うとき知覚―運動協応が重要であり,身体認知能力の向上を図るリハビリテーションの提供が必要と考える。
  • 池上 泰友, 井上 健太, 中田 みずき, 吉岡 菜月, 佐々木 弘樹, 中西 雅哉, 清水 富男
    セッションID: P-MT-10-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに・目的】生活習慣病としての糖尿病者数はなお増加の一途であり,一方高齢化に伴い変形性膝関節症(OA)による人工膝関節全置換術(TKA)を受ける患者数も増加している。糖尿病者の下肢筋量と筋力は非糖尿病者と比較して低下していることが知られているが,これは高血糖が続くことで筋量の減少をもたらし,また早期から出現する糖尿病性神経障害(Diabetic polyneuropathy:DPN)が筋力低下に関与していると考えられている。しかし,このような糖尿病やDPNがTKA術後の回復に影響があるのかについては十分検討されていない。そこで本研究では,OA患者に合併している2型糖尿病とDPNはTKA術後の身体機能の回復に影響するのかを検討したのでここに報告する。【方法】対象は2014年4月~2015年9月までにOAを原疾患としたTKAを施行した患者97名(男性23名,女性74名,平均年齢72.3±9.7歳)とした。除外基準は,両側同時にTKAを施行した者,認知障害を有する者,歩行に影響を及ぼす疾患の有する者とした。調査項目はBMI,CRP,入院期間,手術翌日・退院時血糖値とし,等尺性膝伸展筋力/体重(下肢筋力),膝関節可動域,10m最大歩行時間を手術前と4週間後に調査した。下肢筋力は,徒手筋力計(Tas F-1,アニマ社)を用いて測定した。分析は,2型糖尿病のない者を非DM群,2型糖尿病を合併している者をDM群,DPNと医師により診断された者をDPN群として群分けを行った。統計的解釈として,4週間後の値を手術前の値から除して変化率を算出し,3群間の各項目の比較は一元配置分散分析およびbonferroniの多重比較検定を行った。データの統計解析には,SPSS(ver.22)を用い,危険率5%未満を有意とした。【結果】非DM群は67名,DM群は16名(罹患期間8.1±5.1年),DPN群は14名(罹患期間9.1±5.2年)であり,年齢,性別,BMIによる有意な差は認めなかった。下肢筋力の変化率は,非DM群83.2±32.4%,DM群81.4±37.1%,DPN群74.2±12.2%であった。歩行の変化率は,非DM群104.9±37.2%,DM群117.2±49.8%,DPN群117.6±23.3%であった。多重比較検討の結果,手術翌日血糖値は3群間で有意差を認め,非DM群よりDM群,DPN群が有意に高値を示した。その他の項目は3群間で有意な差は認めなかった。【結論】血糖値はTKA翌日の2型糖尿病者,DPN患者で有意な上昇を認めたが,退院時に下がり先行研究と同様の結果を得られた。一方,TKA4週間後での身体機能の回復は,非糖尿病者と比較して2型糖尿病,DPNの合併による有意な差はなく今回の検討では影響はないことが示唆された。しかしながら,足関節周囲筋の筋力低下を呈することや手術後の疼痛の回復が遅れることは報告されており,今回統計的な差はなかったがDPN患者の身体機能の回復は悪かったことから積極的なアプローチが望ましいと考える。今後は,長期間の調査,糖尿病性神経障害の程度を考慮して検討する必要があると考える。
  • 中島 彩
    セッションID: P-MT-10-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】脛骨近位部の骨腫瘍においては,広範切除により骨・関節欠損の他,膝蓋靱帯も合併切除される。これに対し,腫瘍用人工膝関節置換術(以下腫瘍用TKA)に伴う膝伸展筋機構の再建が必要となる。膝伸展機構の再建については,人工関節の被覆も可能な腓腹筋弁を使用することも多い。今回,脛骨近位巨細胞腫による骨腫瘍広範切除及び腫瘍用TKAを施行した症例を経験した。再建された膝伸展機構に着目した理学療法介入によりADL向上を図れたため報告する。【方法】症例は30歳代女性。悪性骨巨細胞腫と診断を受け,脛骨近位骨腫瘍広範切除及び腫瘍用TKAを施行した。膝伸展機構の再建は,膝蓋腱を脛骨側インプラントに縫着した上で,前方移行した腓腹筋弁でインプラントを覆い膝蓋腱とも縫着を行った。閉創できなかった腓腹筋弁の表層に植皮を行い,大腿骨遠位のインプラントは大腿四頭筋を引き下げ,腸脛靱帯を前方移行する事で被覆した。後療法は術後3週までニーブレス固定,その後関節可動域(以下ROM)練習開始であった。術後2週に当院へリハビリ目的で転院となった。転院時はサークル歩行自立レベル,膝の疼痛はなかったが,歩行時にtoe clearanceが低下し,外果前方の疼痛のため長距離歩行困難であった。ROMは足関節背屈20/-5°,底屈50/45°であり,背屈時に外果前方に疼痛を認めた。膝蓋骨は全方向でmobilityを認めず,健側と比較して2横指低位であった。理学療法介入は足関節ROM-ex,下肢筋力トレーニング(大腿四頭筋の筋力トレーニングはsettingから開始し,術後9週よりleg extension開始),術後3週から膝ROM-exを実施した。【結果】術後13週でサポーター装着下独歩,階段昇降2足1段自立にて退院となった。術後4週で足関節ROMは背屈20/15°,底屈50/50°,疼痛が消失し長距離歩行可能となった。膝伸展筋力の回復は難渋したが,退院時にはextension lag10°に改善した。膝関節ROMは0/60°であったが屈曲動作はスムーズとなった。歩行は患側遊脚期の膝屈曲やtoe clearance低下が改善され,安定性が増大した。【結論】本症例はTKA施行に伴い膝蓋腱を切離しており,インプラントへの縫着までsettingを行っていたがhamstrings優位であり,大腿四頭筋の早期筋力向上は乏しかった。また,インプラント被覆のための操作により膝蓋骨低位であり,介入当初から大腿四頭筋への温熱療法や膝蓋骨のmobilization,創部軟部組織のmobilizationを行っていたが,膝蓋骨mobility向上が見込めず屈曲ROM拡大に難渋した。leg extensionにより大腿四頭筋優位の筋収縮が得られ,extension lag10°まで筋力向上を認めた。また,筋収縮に伴う膝蓋骨の上方移動は膝蓋骨mobilityを向上させ,膝屈曲ROMは拡大した。膝蓋腱のインプラント逢着後,積極的に大腿四頭筋優位の筋力トレーニングを行った。大腿四頭筋の筋力向上や膝ROMの拡大が,歩行安定性の増大や階段昇降の獲得等のADL向上へ至った。
  • 脛骨骨切り量と後方傾斜の影響
    伊能 良紀, 冨田 哲也, 二井 数馬, 藤戸 稔高, 河野 賢一, 吉川 秀樹, 菅本 一臣
    セッションID: P-MT-10-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【目的】後十字靭帯温存型人工膝関節全置換術(CR TKA)後に温存されたPosterior Cruciate Ligament(PCL)の両線維(Antero Lateral Bundle(ALB),Postero Medial Bundle(PMB))は,術後に機能することを前提としているが,posterior stabilized TKAと比較すると屈曲可動域の低下や,深屈曲時のroll backの再現性が劣る報告がある。CR TKAのPCL付着部は,bone islandにて温存することが推奨されるが,PCL付着部に関係なくフラットに骨切りすることも珍しくない。そこで3次元(3D)脛骨骨モデルを用いCR TKA時の骨切りシミュレーションを行い,ALB・PMBの付着部の残存率を3D的に調査・検討した。【方法】対象は内側型変形性膝関節症患者34膝とした。脛骨の3DCTモデル,PCLを含めた脛骨3DMRIモデルを作成し,両モデルを使用しsurface registrationを行い,PCL付着部を定め,面積を算出した。ALB・PMBの同定は付着部の骨形態を参考に面積を算出した。脛骨3DCTモデルの骨切りは,外側関節面の中心から遠位8mm及び10mm,脛骨後方傾斜(後方傾斜)0,3,5,7,10度とした。残存率は骨切り後に残存したALB・PMB付着部面積を,骨切り前のALB・PMB付着部面積にて除した値とした。統計は,骨切り8mmにおけるALB・PMBの後方傾斜角度それぞれの比較を多重比較検定,ALBとPMBの骨切り8mmと10mmの比較を対応のあるt検討を用いた(p<0.01)。【結果】骨切り8mmにおけるALBの残存率は,後方傾斜0,3,5,7,10度では17.2±20.1,9.9±14.7,6.3±11.0,3.6±7.8,1.4±4.1%,PMBの残存率はそれぞれ87.7±14.2,79.1±19.1,72.4±21.9,64.9±24.3,52.5±26.1%であった。骨切り10mmのALB残存率は,後方傾斜0,3,5,7,10度では3.5±7.8,1.2±3.8,0.5±1.9,0.2±0.9,0.0±0.1%,PMBの残存率はそれぞれ,65.8±24.2,54.0±25.1,46.0±24.6,38.1±23.2,26.8±20.6%であった。骨切り8mmにおけるALBの各後方傾斜角度それぞれの比較は0度と7,10度,PMBは0度と5,7,10度,3度と10度,5度と10度に有意差が認められた。ALBとPMBにおける骨切り8mmと骨切り10mmの比較は,ALBでは後方傾斜角度0,3,5,7度,PMBでは全ての後方傾斜角度において骨切り10mmが有意に残存率が小さかった。【結論】脛骨3DCTモデルを用いたCR TKAにおける骨切りシミュレーションでは,後方傾斜が増大するにつれてALB・PMB付着部が減少し,ALBの残存率は著しく低下することが示唆された。温存されたPCL各線維に期待されている機能は,ALBが大腿骨の回旋軸,PMBが深屈曲時の脛骨のposterior translationの抑制である。今回の結果とALB・PMBの機能を考えると,ALB付着部が切除された場合は膝関節屈曲時に大腿骨の回旋が減少し,両線維の付着部が切除される場合にはparadoxical anterior movementが生じると考えられる。以上から,CR TKA後のPCL付着部残存率は術前のPCL付着部と異なるため,術後リハビリテーションを行う際には残存したPCLを考慮し,リハビリテーションを実施する必要がある。
  • 岡 智大, 和田 治, 中北 智士, 飛山 義憲
    セッションID: P-MT-10-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】人工膝関節置換術(以下;TKA)の在院日数は短縮傾向であるが,早期退院後は激しい疼痛を経験すると報告されているため,退院後の疼痛管理が重要となる。近年,疼痛管理の方法としてチェックシートを用いたセルフモニタリングが着目されており,他疾患でその効果が実証されているが,TKA後早期の疼痛管理で検討している研究は見当たらない。よって,本研究の目的はTKA患者の早期退院後のセルフチェックシートを用いた疼痛管理の有用性を検討することとした。【方法】対象者は,当院でTKAを施行され本研究に同意を得られた患者61名とし,セルフチェックシート介入群(以下;介入群)32名,コントロール群29名に無作為に振り分けた。身体機能評価は手術1ヶ月前,術後5日,術後2週,術後4週に行い,評価項目は歩行時痛,階段昇降時痛(いずれもNumerical Rating Scale,以下;NRS),膝関節可動域とした。両群とも術後翌日より歩行練習,日常生活動作練習を開始し,術後翌日に歩行器歩行自立,術後3日目に杖歩行自立,術後5日目の退院を目標とした。退院後は週に1度の外来リハビリテーションを継続した。介入群に対し退院日にセルフチェックシートを配布し,毎日就寝前に記載するよう説明した。その後,外来通院時に理学療法士が回収し,新たに1週間分を配布する介入を術後4週まで繰り返した。セルフチェックシート内容は,歩行時痛(NRS),前日との腫脹の比較,膝関節伸展位保持の確認,端座位での下垂位保持の確認とした。統計学的解析は,基本属性,術前の身体機能には対応の無いt検定,χ二乗検定を行い,各評価項目と評価時期を2要因とした二元配置分散分析およびBonferroniの多重比較検定を用いた。有意水準は5%とした。【結果】介入群で4名,コントロール群で2名脱落したため,最終的に介入群28名(男性4名女性24名,年齢70.0±5.4歳),コントロール群27名(男性5名女性22名,年齢72.1±5.6歳)での解析を実施した。基本属性,術前の身体機能には両群間で有意差を認めなかった。交互作用は階段昇降時痛に認め(p=0.03),介入群では術後2週(p<0.01),術後4週(p=0.04)で有意に低値を示した。また,介入群はコントロール群と比較し歩行時痛で術後2週(p<0.01),術後4週(p=0.02)に有意に低値を示し,膝関節屈曲可動域で術後2週(p=0.04),術後4週(p<0.01)に有意に高値を示した。【結論】TKA患者における早期退院後の疼痛軽減にはセルフチェックシートを用いた疼痛管理が有効であることが示唆された。セルフモニタリングは疼痛管理の手段として有効であると報告されており,早期退院後のTKA患者においても歩行時痛や膝機能の状態をセルフチェックシートに記載したことで自己疼痛管理が行え,疼痛軽減につながったと考えられる。本研究はセルフチェックシートがTKA後早期の疼痛管理に対する新たなサポートツールとして活用できることを示唆している。
  • 田村 拓也, 大鷲 智絵
    セッションID: P-MT-10-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】近年,人工膝関節全置換術(以下TKA)術後の出血対策として,止血剤の一つであるトラネキサム酸(以下TA)の有効性が示されている。しかし,TA投与における術後の理学療法の報告は少ない。当院でも2011年6月から術中に関節内へのTA投与を行っている。その為,今回はTKAにおけるTA投与・非投与による違いが術後身体機能(自動膝関節屈曲・伸展,他動膝関節屈曲・伸展,周径,荷重時痛)に影響を及ぼすか否かを当院のTKAデータベースを用いて後方視的に検討することを目的とした。【方法】2008年2月から2014年6月までに当院でTKAを行った118例123膝のうちTA非投与群は,2008年2月から2011年5月までの47例(男性7例,女性40例)47膝。TA投与群は,2011年6月から2014年6月までの71例(男性12例,女性59例のうち両側同時例5例)76膝とした。検討項目は,年齢,体重,身長,術後出血量,自動膝関節屈曲・伸展,他動膝関節屈曲・伸展,周径(膝蓋骨上縁周径の術前後差),荷重時痛(以下疼痛)とし,術後2日,術後1週,術後2週,術後3週,術後4週,術後8週の値をTA投与群とTA非投与群で比較した。なお,周径については術後1週から比較した。統計解析は,正規分布を確認の上,2群を対応のないt検定を用いて危険率5%未満とした。【結果】年齢,体重,身長は,2群間で有意差は認められなかった。術後出血量は,TA投与群とTA非投与群で有意差が認められた。術後身体機能では,術後2日は自動・他動膝関節伸展,術後1週は自動・他動膝関節屈曲,自動・他動膝関節伸展,周径,疼痛,術後2週は他動膝関節屈曲,自動・他動膝関節伸展,周径,疼痛,術後3週は他動膝関節伸展,術後4週は自動・他動膝関節伸展,術後8週は自動膝関節伸展に有意差が認められた。【結論】術後1週~2週においてTA投与による術後身体機能に有意差があるので,TA投与・TA非投与による違いが影響を及ぼす結果となったが,術後3週以降では大きな影響がない事が示唆された。TA投与により術後1週~2週で膝関節屈曲,膝関節伸展,疼痛に有意差が出現した事については,TA投与により術後出血量が有意に少ないので術後早期に可動域練習や歩行練習に積極的に取り組む事が可能であるので,その影響が術後2週まで及ぼしているのではないかと考える。また,今回の結果から周径は,術後1週・2週共にTA投与群の方が有意に大きいので,腫脹があっても術後身体機能には大きな影響を及ぼさない可能性があると考える。
  • 徒手筋力検査で段階3を保つことの必要性について
    源 裕介
    セッションID: P-MT-06-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】Keeganが報告した近位型頚椎症性筋萎縮症(以下Keegan型CSA)にて手術療法を選択する場合,徒手筋力検査(以下MMT)段階2以下の機能低下を基準とすべきとの見解があるが,実際にどの段階で行うと機能が再獲得しやすいかという報告は渉猟した範囲では見当たらず,見解が曖昧なのが現状である。今回,Keegan型CSAを発症して手術療法を選択し,術後早期に機能の再獲得を得られた症例に運動療法に関わる機会を得たので,何故早期に機能を再獲得できたかという考察をMMTの所見を踏まえて報告することを目的とする。【方法】症例は60歳代前半の男性で,卓球中スマッシュして右肩関節に疼痛が生じたことをきっかけに来院し運動療法が開始された。当初の症状は上腕二頭筋腱付近の疼痛であったが,徐々に右上肢挙上動作困難と,右肘関節屈曲困難を生じるようになり,緩やかに悪化の傾向をたどっていた。徒手筋力検査(以下MMT)では上腕二頭筋で段階3を保っていたが,右肘関節の自動屈曲運動を繰り返していると,急に屈曲運動が不可能となってしまう現象が起き,これがきっかけで精密検査を受け,Keegan型CSAに発症していることが発覚した。手術療法を行うまで,当院で関わった運動療法期間は3ヶ月間であり,内容の多くは上腕二頭筋の筋出力を改善する運動療法を中心に行っていた。手術目的のため他院に転院後も,上腕二頭筋の自主トレーニングは継続してもらい,MMT段階3は保つように努めた。運動療法開始から6ヶ月後にC4-5,C5-6椎弓形成,C4-5,C5-6椎間孔拡大術を実施した。【結果】手術後は他院にて入院中に2週間運動療法を実施した。退院時には以前のような右肘関節屈曲困難となる症状は消失し,症状が出現する以前の状態(MMT段階5)の状態まで改善が見られた。【結論】今回の試みとしては,MMT段階3を保つことに重きを置いて運動療法に取り組んだことが結果として,術後早期に機能が再獲得できたと考えられた。過去の肩関節周囲筋MMT段階2以下の症例における手術症例の報告では,運動療法開始後3ヶ月を経過しないと改善が見られなかったという報告や,平均1年4ヶ月経過を追った5症例の内2症例しかMMT段階2以上に改善しなかったという報告が存在することから,MMT段階2以下での手術では,機能の再獲得に難渋することが推測される。これらより,Keegan型CSAの症例で手術を検討している症例に関しては,術前にMMT段階3という機能の維持または獲得を運動療法にて事前に行っておくことが,術後早期の機能再獲得を目指せるということが今回の経過より考えられた。
  • 小山 貴之, 中丸 宏二, 相澤 純也, 新田 收
    セッションID: P-MT-06-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】頸部障害の要因として,頭頸部屈曲運動の主動筋である頸部深層屈筋の機能不全が報告されている。Jullらは空気圧フィードバック装置を用いた評価とトレーニングを行っており,頸部障害者では頭頸部屈曲運動中の持久性低下が認められている。この方法は段階的に微量の空気圧変化をさせるため課題が難しく,監視下で行う必要がある。そのため,より簡便に自己管理下で使用可能な頭頸部屈曲運動機器を開発した。本研究は,作製した運動機器の負荷強度が頭頸部屈曲の抵抗運動として適正であるかを検証することを目的とした。【方法】対象は頸部に愁訴を持たない健常男性15名(平均年齢21.9±1.3歳)とした。まずJullらの頭頸部屈曲テスト(CCFT)を行い,胸鎖乳突筋(SCM)活動を記録した。方法は,背臥位で圧フィードバック装置(Stabilizer,Chattanooga社製)を頸部後面に挿入して空気圧を20mmHgとし,2mmHgずつ5段階圧上昇させて10秒間維持させ,各段階におけるSCMの筋電図活動を表面筋電計(トリーニョワイヤレスシステム,Delsys社製)により記録した。次に,作製した運動機器を用いた抵抗負荷を行った。抵抗負荷は自覚的運動強度とし,最初に最大努力に機器の顎台を押し付けさせ,次に最大努力の2/3と1/3の強度で行い,それぞれ課題実施中のSCMの筋電図を5秒間記録した。また,頸部屈曲の最大等尺性運動を行い,筋電図を記録した。筋電図データは全波整流の後に平均絶対値を算出し,最大等尺性運動時の平均値により各測定値を補正した(%EMGmax)。SCMが過活動せずに頭頸部屈曲運動を行っている場合に頸部深層屈筋が適正に活動していると推測されるため,以下の分析を行った。CCFTの5段階内におけるSCM筋電図活動の相違,抵抗負荷の3段階内における筋電図活動の相違について反復測定分散分析を行い,主効果が認められた場合は多重比較検定を行った。抵抗負荷中の筋活動とCCFTの筋活動を比較するため,対応のあるT検定を行った。【結果】CCFTの各段階におけるSCM活動では主効果は認められず,段階による筋活動の違いは認められなかった。運動機器の各負荷段階におけるSCM活動は主効果を認め,すべての段階間で有意差を認めた。運動機器の負荷段階とCCFT時のSCM活動は,最大努力負荷ではCCFTの全段階,2/3負荷では22-26mmHg,1/3負荷では22mmHg,24mmHgとの間にそれぞれ有意差を認めた。【結論】CCFTにおけるSCMの筋活動と比較して,運動機器による抵抗負荷時のSCMは,2/3負荷においては30mmHg,1/3負荷においては28mmHg,30mmHgにおける筋活動と同等なレベルであった。このため,抵抗負荷の強度は最大努力ではなく,2/3負荷より低い自覚的運動強度で行うことが推奨される。加えて,抵抗負荷中の各強度段階には筋活動に有意差があり,より選択的に頸部深層屈筋のトレーニングを行うのであれば,有意にSCM活動を抑制できる1/3負荷で行うことが推奨される。
  • 高電圧パルス電流法を用いて
    圓福 陽介, 満安 隆之, 砂川 一馬, 前原 孝政, 蓑原 勝哉, 茂利 久嗣, 植村 郁, 野海 渉, 渡辺 一徹, 東 友和, 太田尾 ...
    セッションID: P-MT-06-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】頚椎症性筋萎縮症(以下,CSA)は,近位型と遠位型に分類され,多くは近位型である。遠位型は若年男性が多いとされるが,今回稀な遠位型の女性を経験したので報告する。近位型に対して運動療法の報告は散見されるが,遠位型に対しては少なく有効な治療法が確立しているとは言い難い。近年,脳卒中片麻痺に対する治療として,電気刺激と促通反復療法の併用が足部機能や歩行能力が改善するとの報告もある。しかし,CSAに関する報告そのものが少ない。今回,CSAの総指伸筋の麻痺による第3・4指伸展不全(drop fingers)に対して,高電圧パルス電流法Hi Voltage Pulsed Current Therapy:HVCTと随意運動中心の運動療法との併用が手指機能・上肢能力やQOLの改善につながるかを検討した。【方法】対象は,CSAの遠位型を呈した61歳女性。身長148cm,体重48kg,BMI21.9,現病歴はH23頃より左肩~上肢にかけての疼痛としびれ出現。近医クリニックにて保存治療行うも改善みられず,H27.4月近医病院紹介受診し,H27.8.6同病院にて手術:C3~C6椎弓形成術・C6/7左椎間孔拡大術を施行され,H27.8.19当院にリハビリ目的にて入院となった。電気刺激は,電流発生装置(ES-530,伊藤超短波社製)のHVCTを使用。HVCTの通電方法は,施行者がマウス型導子を用いて刺激部位を総指伸筋のモーターポイントとし,症例の手指伸展の随意運動に同期させた。また,疼痛のない刺激強度(周波数50Hz,パルス幅50μs)で,通電時間は5秒間かけ最終域まで伸展させその位置で5秒間保持した後に5秒間休憩を1クールとし,10分間施行した。リハビリは,週6回,8週間実施した。デザインはBefore-after trialで,簡易上肢機能検査Simple Test for Evaluating Hand Function:STEF,Fugl-Meyer Assessmentの上肢のみ:FMA,左第3・4指伸展MMT,左第3・4指伸展の自動伸展可動域,握力,痺れをVAS,医師による日本整形外科学会頚部脊髄症評価質問票にて(JOACMEQ)介入前,2週後,4週後,8週後に評価した。【結果】介入前,2週後,4週後,8週後の各評価の数値を羅列するとSTEF72,84,98,100FMA51,57,63,65,左第3・4指MMT2,3,3,3,左第3・4指伸展の自動伸展可動域-85,-50,-35-,15,握力(kg)19.2,19.4,19.8,19.8,右22.2,23.2,24.4,24.2,JOACMEQ293,348,388,422(QOL25,32,47,61),痺れは介入前後ともに左第4・5にVAS10.0cmであった。【結論】痺れに関しては,手術前後にて変化を認めず,手術前の頚髄神経圧迫によるダメージが反映したと考えられた。それ以外の評価項目に関しては,全項目にて改善が認められた。手術介入に加え,術後早期からの麻痺筋への神経筋促通を電気刺激と運動療法を併用したことにより,drop fingers以外にも各機能の改善やQOLの向上が認められたと考える。今回結果からCSA遠位型の椎弓形成術後患者の理学療法は,HVCTと運動療法との併用の検討余地があり,理学療法学研究としての意義があったと考えた。
  • 石川 大瑛, 畠山 優, 阿部 寛子, 柏木 智一, 本間 昌大, 伊藤 麻子, 山内 紗貴子, 豊口 卓, 笹島 真人
    セッションID: P-MT-06-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】頚椎症性脊髄症(以下,頚髄症)は,上下肢に運動障害を引き起こし,手術療法の有効性が示されている。治療の有効性の評価として患者立脚型評価スケールである日本整形外科学会頸部脊髄症評価質問票(JOACMEQ)が開発されたが,術前後のJOACMEQの経過の報告はまだ不十分である。また,術後の結果には年齢による影響が示唆されている。そこで本研究では術後6ヶ月までの頚髄症術前後のJOACMEQの経過と年齢による影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は当院整形外科にて頚髄症と診断され,手術を施行された44名とした(男性24名,女性20名,平均年齢68.2±34.2歳)。取り込み条件は頚椎症性脊髄症もしくは後縦靭帯骨化症にて頚椎拡大術を施行された患者で,かつ術後6ヶ月以上経過しているものとした。除外条件は,脳血管疾患など運動に影響を及ぼす疾患の既往があるもの,認知症などにより評価が困難なものとした。また,対象は75歳未満を若年群,75歳以上を高齢群とした。評価内容は,日本整形外科学会頸部脊髄症治療判定基準(以下,JOAスコア)合計値,JOACMEQ(頚椎,上肢,下肢,膀胱機能,QOL),Grip&Release(以下GR),Foot Tapping Test(以下FTT)とした。GR,FTTは左右の最小値を採用した。評価は術前,術後3ヵ月,術後6ヵ月時とした。統計学的解析は,年齢群と評価時期を2要因として,JOAスコア,JOACMEQ,GR,FTTを従属変数とした反復測定による二元配置分散分析を用いた。分析にはSPSS17.0Jを用い,有意水準は5%とした。【結果】二元配置分散分析の結果,JOAスコア,FTTにおいて年齢群と評価時期に有意な主効果を認めた。JOACMEQの上肢スコア,下肢スコア,GRの年齢群において主効果を認めた。さらに多重比較の結果,JOAスコアにおいては術前-術後3ヶ月,術前-術後6ヶ月,若年-高齢,FTTでは術前-術後3ヶ月,若年-高齢,JOACMEQ上肢スコアおよび下肢スコア,GRでは,若年-高齢の組み合わせで有意差が認められ(P<0.05),そのすべてにおいて年齢が若いほど数値が高く,術後のほど点数の改善が認められた。なお,交互作用は全てに認められなかった。【結論】頚髄症の術後成績については,患者立脚型評価スケールもひとつのアウトカムとして報告が増えてきており,本研究では術後6ヶ月までの経過を調査した。本研究では下肢の神経兆候や術後成績評価の改善は認められたものの,JOACMEQの改善は認めらず,JOACMEQの改善には時間を要する可能性が考えられた。また,多くの項目で高齢になるほど重症化し,術後においても低値であった。高齢者で回復が不良であった原因としては,高齢者は頚髄症自体がより重症であったことと,高齢による筋力低下や膝などの頚髄症以外の影響が大きくなる可能性の2つが考えられた。今後はより長期経過を追跡すること,JOACMEQの改善へ影響する因子の検討を行っていく必要がある。
  • 松澤 克, 保坂 亮, 井川 達也, 打越 健太, 綱島 脩, 鈴木 彬文, 櫻井 愛子, 福井 康之
    セッションID: P-MT-06-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】頸椎性脊髄症(CSM)は退行性変化を基盤とした頸椎症性変化により脊髄が圧迫され,脊髄症状が惹起される疾患の総称である。先行研究では術後頸部可動域の減少や,胸椎姿勢による頸椎姿勢への影響,術後の頸椎機能とQOLの関連が報告されている。このように頸部と体幹姿勢の関連性や主観的評価を同時に行う必要性が示唆されるが,頸部と体幹の運動とQOL評価を同時に行った報告は少ない。そこで今回術前後の頸部屈伸運動時の頸部,体幹角度とQOLの変化をあわせて検討することを目的とした。【方法】対象はCSMと診断され,椎弓形成術を行った患者12名とし,脊椎手術歴のある者,独歩不可能な者は除外した。計測は三次元動作解析装置VICON MXを用い,安静椅子座位にて頸部最大屈伸運動を術前と術後3週に各5施行計測した。頭部と体幹に貼付したマーカより最大屈伸運動時の頭部角度と頸部角度,体幹角度を抽出し,各平均値を算出し,また,同時期に日本整形外科学会頸部脊髄症評価質問票(JOACMEQ)を用い主観的評価を行い各々術前後で比較した。さらに,術後におけるJOACMEQの下位項目である頸椎機能と疼痛,頸部屈伸角度の関連性をそれぞれ検討した。統計学的検討としてWilcoxonの符号順位和検定,Spearmanの順位相関係数を用い,有意水準は5%未満とした。【結果】屈曲時の頭部角度(術前/術後:-16.6±9.4°/-3.6±13.0°)と頸部角度(1.1±13.6°/-7.0±13.6°),体幹角度(-17.1±5.6°/-12.3±5.0°)は術後有意に減少した。伸展時の頭部角度(63.5±12.7°/63.1±12.0°)は術前後に有意差が認められず,頸部角度(-76.8±10.3°/-66.3±10.1°)は有意に減少し,体幹角度(-10.7±7.5°/-2.6±5.9°)は有意に増加した。また,JOACMEQは上肢機能(89.0±10.2/95.0±4.6),QOL(50.0±13.3/64.5±13.6),上肢痺れ(4.5±3.2/1.0±2.4),下肢体幹痺れ(2.0±3.0/0±2.1)が有意に改善した。また,頸椎機能(85.0±13.7/77.5±10.6)は有意に改悪した。術後の頸椎機能と疼痛に相関(r=0.06)はなく,頸椎機能と頸部屈伸角度にも相関(屈曲:r=0.06,伸展:r=0.18)はみられなかった。【結論】本結果より,頸部運動において伸展時のみ体幹の代償が生じ頭部伸展運動に有意差が認められなかったと考える。また,JOACMEQの結果では術後,頸椎機能は低下したが,主訴として多い痺れや上肢機能が改善したためQOLが改善したと考える。術後疼痛と頸椎機能に相関は認められず,頸椎機能への疼痛の影響は少ないと考える。また,頸椎機能と頸部角度においても相関が認められないことから,頸部伸展時において体幹の代償がみられたように頸椎機能は他の部位からの代償による影響が含まれると考える。先行研究では術後1年時での頸部の運動機能の温存,改善がQOL向上に必要と報告され,今後は代償動作だけでなく頸部運動の改善が必要であると考える。
  • 石垣 智恒, 山中 正紀, 吉野 広一郎, 江沢 侑也, 遠山 晴一, 高橋 輝一, 菅原 誠
    セッションID: P-MT-11-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】腱板断裂は,加齢に伴って罹患率が増加することから,炎症を基盤とした腱板変性との関連が示唆されてきた。腱板は炎症や変性に伴って腱板厚が増加するとされる。腱板に炎症が生じる要因として,肩峰下腔の狭小化により,腱板が肩峰と上腕骨頭との間で外的に圧迫される肩峰下インピンジメントが挙げられる。それゆえ,腱板障害の罹患率が高まる中高齢者において,腱板厚や肩峰下腔の変化,またそれらの関連を調査することは,腱板断裂の病因の理解のために重要である。従って,本研究の目的は,中高齢者の腱板厚および肩峰下腔の狭小化を若年者と比較することで,加齢に伴う腱板形態や肩峰下腔の変化を特徴づけることに加え,腱板厚と肩峰下腔との関連性を検討することである。【方法】対象は,健常中高齢者27名(66.0歳±10.3歳),健常若年者18名(22.5歳±0.8歳)とした。腱板厚の変化として,腱板断裂において最も障害されることの多い棘上筋腱の厚さを超音波法にて計測した。肩峰下腔は,超音波法を用いて肩峰上腕骨頭間距離(Acromio-humeral distance,以下AHD)を計測することで定量化された。AHDは上肢下垂位,肩甲骨面上30°および60°拳上位にて計測した(AHD0,AHD30,AHD60)。また,それらの結果から,上肢下垂位と拳上位でのAHD変化量および各AHDに占める棘上筋腱厚の割合(Occupation ratio,以下OR)を算出した。統計解析において,各データを中高齢者と若年者との間で比較することに加え,腱板厚とAHDおよびAHD変化量との相関関係を検討した。【結果】若年者と中高齢者の比較において,棘上筋腱厚は中高齢者群で有意に厚かった。また,AHD0,AHD30,AHD60において,中高齢者群で有意に大きい値を示した。しかしながら,各AHD変化量および各ORにおける群間差を認めなかった。AHDおよびAHD変化量と棘上筋腱厚との間に有意な相関関係は認められなかった。【結論】本研究結果は,若年者に比し,中高齢者の腱板が厚くなっていることを認め,加齢に伴う腱板変性の可能性を示した。腱板の変性と肩峰下腔の狭小化との間には関連性を認めなかった。全ての拳上角度において,AHDは中高齢者群で有意に大きかった。AHD変化量やORに群間差を認めなかった。それゆえ,たとえ腱板が厚くなっていたとしても,肩峰下腔での腱板に対する圧迫は生じていないのかもしれない。従って,棘上筋腱の変性は,腱板炎の外的要因である肩峰下腔における圧迫よりもむしろ,内的要因によって生じる可能性が示唆された。
  • 山浦 誠也, 溝田 丈士, 壇 順司, 森山 佳代, 岩坂 知治
    セッションID: P-MT-11-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】腱板断裂が存在するにも関わらず挙上運動が可能な症例を経験することが多くある。本研究では,挙上可能な腱板断裂者と健常者の肩関節挙上時の肩甲上腕関節(Gleno Humeral joint:以下,GH)の動きを比較し,肩関節挙上時に腱板機能の低下を補う要素について明確にすることを目的に行った。【方法】対象は,本研究の趣旨を説明し同意を得た健常男性20名20右肩,年齢28.1±3.7歳(以下,健常群)と自由挙上120°以上可能な腱板断裂症例30名30肩(右肩23例 左肩7例),年齢65.1±11.0歳(以下,断裂群)とした。計測は端座位にて,下垂位・自由挙上30°・60°・90°・120°位での肩甲棘と上腕骨のなす角(以下,SHA)を測定した。得られたデータを1)30°SHA-下垂SHA 2)60°SHA-30°SHA 3)90°SHA-60°SHA 4)120°SHA-90°SHAの手順で下垂位から30°毎のGH角(以下,GHA)を算出した。両群間における下垂位のSHAと1)から4)のGHAの比較をMann-WhitneyのU検定(有意水準は5%未満)を用いて行った。【結果】健常群と断裂群の最大挙上角は各々165.2±6.2°と140.2±9.4°であった。下垂位SHAは91.3±3.0°と96.2±5.1°で有意に断裂群が大きかった(P<0.01)。GHAは1)30.9±4.1°と16.3±4.4°で健常群が有意に大きく(P<0.01),2)23.3±5.2°と21.5±4.5°で有意差はなかった。3)24.9±4.2°と17.0±5.8°で健常群が有意に大きかった(P<0.01)。4)8.5±5.5°と10.8±4.2°で断裂群が有意に大きかった(P<0.05)。【結論】断裂群では,まず下垂位でのGHは,肩甲骨が下方回旋し外転位にあることで,腱板の挙上初期の上腕骨頭を頭方から尾方に押し付ける機能と大結節を肩峰下へ引き込む機能を代償している。そのため30°までの挙上では先行して肩甲骨が上方回旋し挙上角度を確保しているので,GHの可動性はあまり必要ないことになる。次に60°までの挙上では,初期挙上時の慣性の動きで上腕骨を挙上するので,この区間は腱板機能を必要とせずGHを可動させていると考えられる。90°までの挙上では,上肢の重さによるモーメントが増加し腱板の機能が必要となるが,肩甲骨を上方回旋し関節窩の傾斜を強め関節の安定化を図り,可動域を補うことで挙上角度を確保しているため,GHの可動性は少なくてよいことになる。そして,120°までの挙上では,ここまで肩甲骨の上方回旋を先行して使用したために,残りの可動域は残存筋の作用によりGHを使い挙上角度を確保したものと推察される。つまり,断裂群は腱板機能を補うために肩甲骨が先行して動き,それを追随するように上腕骨が可動する動きを呈していることがわかった。肩甲骨の良好な可動性と各区間における使い方を習得している者が,腱板機能を使用しなくても挙上が可能であることから,腱板機能の低下に対するアプローチには,各区間における肩甲骨の効率的な可動性も重要であることが示唆された。
  • 阿部 友和
    セッションID: P-MT-11-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】本研究の目的は投球肩の一特徴である過外旋に注目し,これに関わる一要因と考えられる結節間溝の幅・深さの関係性を調査することである。【方法】対象は本学在籍中の男子野球経験者17名(平均身長171±4.98cm,平均体重63.7±6.77kg,野球歴8±2.73年)とした。評価指標は1)肩関節2nd肢位での肩関節他動最大外旋角(以下外旋角),2)後捻角,3)結節間溝部の幅・深さとした。1)は他動にて最大外旋位を保持し。日整会関節可動域測定法に準じ関節角度計を用いた計測を行った。2)は川村の方法に準じた。計測機器は超音波画像診断装置(TOSHIBA製Xario)を用いた。3)は2)と同様,大・小結節を導出し,その両頂点を結ぶ線長を幅,その線から結節間溝最低部までの垂線の長さを深さと定義した。本研究では実験1にて,超音波画像診断装置の信頼性の検証を行い,実験2では1-3)で計測した4つの評価指標の各分析を行った。実験1では3名の検者を用い検者内・間信頼性の検証を級内相関係数にて分析を行い。実験2では外旋角,後捻角,結節間溝の幅・深さの左右差の検証を対応のあるt検定にて分析を行った,そして,外旋角を従属変数,後捻角,結節間溝の幅・深さ,競技年数を独立変数としたロジスティック重回帰分析を行った。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】実験1における検者内信頼性の級内相関係数は幅0.90,深さ0.81,検者間信頼性の級内相関係数は幅0.92,深さ0.75であり,信頼性が高い方法であることを確認した。また,実験2における左右差の確認では結節間溝の幅(p=0.492)と深さ(p=0.133)に左右差がなかったものの,外旋角,後捻角では(p<0.01),左右差があった。この結果を踏まえ,ロジスティック重回帰分析を行った結果,結節間溝の深さのみに中等度の有意な負の相関を認めた(r=-0.64,p<0.01)。つまり外旋角は結節間溝の深さの関与が高いことを示唆した。【結論】本研究の結果では,投球肩によく見られる肩関節の過外旋の原因は意見が散見する上腕骨後捻角よりも結節間溝の深さの関与が高い可能性を示唆した。
  • 鈴木 加奈子, 塩島 直路
    セッションID: P-MT-11-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】肩関節は胸郭上を浮遊する関節のため体幹機能の影響を受けやすい。先行研究において,肩関節周囲炎患者では体幹屈曲運動時の胸椎屈曲角度が上肢前方挙上角度に関係する可能性が示された。これにより,胸椎伸展のみならず屈曲可動性も上肢挙上に関係することが考えられる。また臨床において,体幹後方移動を伴った屈曲運動を指導した際に上位胸椎の前方偏位,体幹前傾が生じ,胸椎の屈曲を十分行えず,上肢挙上における胸椎の動きの改善に結びつかないことがある。体幹屈曲運動時の体幹前傾が上肢挙上時における胸椎の動きに関係することが予測されるが,これらの関係については明らかにされていない。そこで本研究では,体幹屈曲運動時の体幹前傾と上肢前方挙上時における胸椎の動きの関係を検討した。【方法】対象は健常成人17名(男性13名,女性4名,年齢:27.5±5.3歳)とした。測定肢位は自然坐位(以下,坐位),坐位での体幹最大屈曲位(以下,屈曲位),坐位での両上肢最大前方挙上位(以下,挙上位)の3肢位とし,屈曲位では猫背になるように丸くなって下さいと被験者に指示した。被験者に自動で測定肢位を保持させ,スパイナルマウス(インデックス社製)を用いて体幹傾斜角度(第1胸椎と第1仙椎を結ぶ線と垂線との角度),胸椎彎曲角度を計測した。計測値を基に上位胸椎角度(第1,2胸椎間から第4,5胸椎間の角度),中位胸椎角度(第5,6胸椎間から第8,9胸椎間の角度),下位胸椎角度(第9,10胸椎間から第11,12胸椎間の角度)を算出した。屈曲位,挙上位各々の値から坐位での値を減じて変化量を算出し,数値が大きいほど体幹前傾および胸椎屈曲が大きくなることを示した。体幹屈曲時の体幹傾斜角度と体幹屈曲時および上肢挙上時の上・中・下位胸椎角度の関係をPearsonの相関係数を算出し検討した。なお,統計にはJSTATを用い,危険率5%未満を有意とした。【結果】体幹屈曲時の体幹傾斜角度(平均値±標準偏差:3.8±4.2°)と体幹屈曲時の下位胸椎角度(12±4.7°)の間(r=0.68,p<0.01),体幹屈曲時の体幹傾斜角度と上肢挙上時の下位胸椎角度(-6.6±5.8°)の間(r=0.51,p<0.05)に有意な相関がみられ,体幹屈曲時の体幹傾斜角度と上肢挙上時の中位胸椎角度(-8.1±7.5°)の間(r=-0.51,p<0.05)に有意な負の相関がみられた。体幹屈曲時の体幹前傾が大きくなるほど体幹屈曲時の下位胸椎屈曲が大きくなり,上肢挙上時の下位胸椎伸展は小さく,中位胸椎伸展は大きくなった。【結論】体幹屈曲運動時の体幹前傾と上肢挙上時の下位胸椎および中位胸椎の動きに関係があることが示された。特に,体幹屈曲運動時に体幹前傾が伴う場合は下位胸椎での屈曲が大きくなり,上肢挙上時における下位胸椎の伸展が小さくなったと考える。したがって,体幹屈曲運動時の体幹前傾を抑制することが上肢挙上時の下位胸椎の伸展可動性増加に結びつく可能性が考えられる。
  • 栗原 良平, 嵩下 敏文, 脇元 幸一, 内田 繕博
    セッションID: P-MT-11-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】肩関節の可動域は肩甲上腕関節・肩甲胸郭関節・体幹関節の総和であり,相互に関連して肩関節の複雑な運動を可能としている。我々は過去に,腱板損傷・拘縮肩患者と健常群の脊柱アライメントを比較し,上位胸椎後弯角度に違いを報告した(肩の運動機能研究会2010)。しかし,明らかな原因が認められない前方拳上制限に関しては未だ検討しておらず,またそのような報告も認められなかった。そこで,前方拳上制限を有する肩痛患者と前方拳上制限を有さない健常群の脊柱アライメントを比較し,その特徴を見出すことを目的とした。【方法】対象は2009年1月から2014年12月までに当院外来を受診し,高岸らが提唱する「自動・他動運動ともに機能的に制限され,単純X線で骨萎縮像および石灰化以外に異常を認めない」に該当し,外傷性・拘縮(肩関節拳上角度110以下かつ外旋角度15°以下の者)・Impingement所見陽性(Painful arc,Neer,Howkins)が認められず,健側と比較して5°以上の前方拳上制限を有する250名(男性111名,女性139名,平均55.3±7.8歳,以下SP群)とした。健常群は肩関節痛,前方拳上制限を有さない男女20名ずつとした。脊柱アライメント評価には直立立位側面全脊柱X線像の撮影を実施し,胸椎・腰椎弯曲角度の計測にはCobbの変法を用いた。上位胸椎後弯角度(以下,UTKA)と下位胸椎後弯角度(以下,LTKA)の計測には尾崎ら(日本理学療法学術大会2011)の方法を参考とし,両群の比較にはWelchのt検定を用い,有意水準5%未満とした。【結果】腰椎弯曲角度は健常群35.32±9.8.°,SP群35.02±9.9°と有意差は認められなかった。胸椎弯曲角度は健常群39.2±9.1°,SP群35.9±10.2°,UTKAは健常群20.0±7.8°,SP群15.47±7.6°,LTKAは健常群16.34±3.8°,SP群18.27±7.4°といずれも有意差が認められた。【結論】今回の結果から,前方拳上制限を有するSP群の脊柱アライメントは健常群と比較して,胸椎後弯角減少,UTKA減少,LTKA増加が認められた。山本らは,高齢者を対象に肩関節痛の有無と姿勢異常の関連を調査し,胸椎後弯に次いで平背に多く,鈴木らは,上部胸椎屈曲可動域が大きい場合,下部胸椎伸展可動域が大きくこれらの関係性が前方拳上の可動域に関与していると報告している。胸椎屈曲を胸椎後弯増加,伸展を胸椎後弯減少と捉えるならば,SP群の胸椎アライメントは胸椎後弯角度が減少している平背傾向かつ,上位胸椎屈曲・下位胸椎伸展の関係性と対照的なアライメントであることが伺える。本研究結果は,前方拳上制限を有するSP群の特徴的な姿勢を示唆し,理学療法展開の手がかりに繋がる可能性がある。
  • 脊柱回旋に対してのself-exerciseが結帯動作に及ぼす影響
    齋藤 涼平, 南海 うらら, 柳田 顕, 内藤 雅博, 道明 大貴, 廣澤 暁
    セッションID: P-MT-11-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】臨床の中で結帯動作に左右差を認める症例では脊柱や肋骨の可動性やアライメントの左右差を認めることを経験する。結帯動作は肩甲上腕関節の動きだけでなく,肩甲骨,鎖骨,胸郭,脊柱の複合した動きからなる。肩甲上腕関節や肩甲骨の動きに関しての報告はあるが,土台である胸郭の動きに関しての報告は見当たらない。我々は前回の学術大会で胸郭の動きを変化させるself-exercise(self-semi-CKC-exercise:以下,SE)を考案した。本研究の目的は,結帯動作と脊柱回旋可動域の関係と,脊柱回旋可動域の変化させた時の結帯動作に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】対象は健常成人男性11名(年齢24.9±2.6歳,身長173.2±5.1cm利き手は全員右)とした。測定課題は座位での最大脊柱回旋動作と立位での最大結帯動作とした。脊柱回旋動作では開始肢位を骨盤前後傾中間位での座位とし課題動作中も保持するように実施した。結帯動作は立位で母指を脊柱に沿って行うように実施した。左右脊柱回旋角度,結帯動作を測定したのち,前回の学術大会で報告したSE(正面の目印を注視して頭部を可能な限り固定した状態での最大脊柱回旋動作)を右回旋方向のみ実施後,再び左右脊柱回旋角度,結帯動作を計測した。脊柱回旋角度の測定は,両肩峰にマーキングをし,デジタルビデオカメラにて記録し得られた静止画からフリーソフトimage-Jを用いて関節角度を測定した。結帯動作の測定はC7から母指までの指椎間距離をメジャーにて計測した。SE前とSE後の,左右脊柱回旋角度と結帯動作について比較検討した。統計手法には対応のあるt検定を用い,有意水準は危険率1%未満として解析を行った。【結果】SE前の脊柱右回旋51.4±9.3°,脊柱左回旋56.9±10.9°と有意差を認めた(p<0.01),SE後の脊柱右回旋60.1±9.7°,脊柱左回旋60.3±9.3°と有意差を認めなかった。右指椎間距離はSE前17.2±3.1cm→SE後14.6±2.7cmと有意差を認めた(p<0.01)。左指椎間距離はSE前11.3±3.8cm→SE後10.8±3.8cmと有意差を認めなかった。【結論】結帯動作の動作解析では,肩甲上腕関節での伸展,外転,内旋,肩甲胸郭関節での下方回旋,前傾,肘関節での屈曲が(山﨑ら2012)報告され,Th12より高位では主に肩甲骨の運動によっておこなわれる(本田ら2004)と報告,筋電図を用いた結帯動作における(高見ら2011)の報告でも,高位になるほど僧帽筋中部,下部線維が重要と報告。今回結帯動作での指椎間距離は左右差を認めていたが,SE後は左右差は減少。SEの回旋側の胸郭可動性の向上(上位胸郭の前方回旋,下位胸郭の後方回旋)と肩甲帯周囲や体幹筋群の筋活動の促通がされる。胸郭可動性やアライメントが調整され,肩甲胸郭関節の可動性向上,肩甲帯周囲筋(僧帽筋中部,下部線維),体幹筋群(内,外腹斜筋)促通がされ,結帯動作の左右差が減少したと考える。臨床において結帯動作を考える際に脊柱や胸郭の可動性の影響も考慮する事が重要と考える。
  • 田内 真鈴, 柗田 憲亮, 曽根田 有紀
    セッションID: P-MT-12-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】足趾把持筋力は動的姿勢制御に関与していることが報告されている(加辺ら,2002)。また地域在住高齢者を対象とした報告では足趾把持力は静的バランスに強く影響される要因とされている(新井ら,2015)。一方,足関節捻挫既往者における足趾把持筋力やバランス能力については報告がない。本研究では健常者と足関節捻挫既往者の足趾把持力およびバランス能力について比較検討することを目的とした。【方法】対象は若年男性61名(平均年齢21.1±0.1,BMI22.1±2.5)の100足とした。対象者には,問診および整形外科的テストを行い,健常若年男性10名(平均年齢21.1±0.3,BMI21.8±2.4)の20足をコントロール群,足関節捻挫既往複数回の若年男性24名(平均年齢21.3±1.1,BMI22.2±2.5)の30足を足関節捻挫既往群として抽出した。評価項目は整形外科的テスト,レッグヒールアライメント,足趾把持筋力,下腿筋力,重心動揺計,加速度計(10m歩行)の測定を行った。整形外科的テストは,足関節の前方引き出しテストおよび内反ストレステストを行い靭帯損傷の有無を判別した。足趾把持筋力は,T.K.K3000(竹井機器)を用いて測定し,その最大値を体重で除し代表値とした。下肢筋力測定はM-tas(アニマ株式会社製ハンドルダイナモメーター)を用いて足関節底背屈,内外反の筋力を測定した。重心動揺計(アニマ社製)は,閉眼片脚立位にて測定した。加速度計(マイクロストーン社製)での10m歩行の測定は3m助走路を設け,定常歩行を教示し,10m歩行中の立脚期での上下・左右・前後方向へのRMSを計測した。統計学的分析は,SPSS(IBM SPSS Statistics 21)を使用した。統計方法には独立二群の差の検定を用いて比較検討した。なお,有意水準を5%未満とした。【結果】足趾把持筋力では,コントロール群と比較し足関節捻挫既往群が有意に増加した。一方,閉眼片脚立位時の総軌跡長等の静的バランスに関する評価値については2群間の有意差を認めなかった。また,歩行中の上下・左右・前後方向における動揺など動的バランスに関する項目についても2群間の有意差を認めなかった。さらに,足部アライメントや下腿の筋力においても2群間の有意差を認めなかった。【結論】足関節捻挫複数群は足趾把持筋力をコントロール群よりも強く発揮することで静的・動的姿勢制御を行っている可能性が示唆された。今後は,股関節周囲筋の筋力や歩行時の代償運動なども検討する必要性がある。
  • ―外反母趾に対する運動療法の再考―
    吉田 隆紀, 谷埜 予士次, 鈴木 俊明
    セッションID: P-MT-12-2
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】我々は過去の研究で,外反母趾症例は歩行時の立脚後期において足趾内側方向に足圧中心(COP)が移動し,蹴り出し時の直前に垂直方向への床反力が増大しているという知見を得た。今回の本研究の目的は,外反母趾症状を有する症例の立位時の特徴と歩行時の蹴り出し時の床反力増大の関連性について検討し,今後の外反母趾に対する運動療法の一助とすることとした。【方法】対象は,外反母趾角15度以上の女子大学生9名(以下H群)(21.3歳,身長158.5±3.8cm,体重50.9±5.7kg),コントロール群は外反母趾角が10度以下の女子大学生9名(以下C群)(年齢21.1±0.2歳,身長158.3±4.1cm,体重54.9±4.3kg)とした。方法は,身体アライメント評価として,外反母趾角,FTA,Leg-heel角,縦アーチ高率,横アーチ長率を計測した。関節可動域測定として足関節の背屈・底屈(膝屈曲位と膝伸展位)を測定した。また立位時の30秒間のCOPを圧力分布測定システム(ニッタ株式会社)で計測し,両足底の前後長からのCOPの割合を算出した(足先を0%,踵後端を100%とした)。またフォースプレート(AMTI)を使って歩行時の立脚時間,水平前後分力のピーク値,離地時の垂直分力,離地時の水平前後分力を計測し,体重で正規化した。なお測定は3回実施し平均値を採用値とした。得られた測定値はU testを用いて検討しH群とC群を比較した。有意水準は5%とした。【結果】測定の結果,有意差が認められたのは外反母趾角(H群22.4±3.3°,C群9.8±5.2°),Leg-heel角(H群外反10.5±4.1°,C群外反3.8±3.6°),縦アーチ高率(H群13.6±1.8,C群17.8±1.3)であった。関節可動域テストにおいて足関節背屈可動域(膝屈曲位:H群8.5±7.4°,C群18.1±10.1°)(膝伸展位:H群4.5±6.7°,C群13.4±7.4°)で認められた。筋力測定では母趾圧迫力(C群3.9±2.0kg,H群1.9±0.9kg)で認められた。また立位時のCOP位置(H群61.4±5.4%,C群55.4±5.4%),歩行時の測定の離地時垂直値(H群1.6±0.2N/kg,C群1.2±0.1N/kg),離地時前後値(H群0.2±0.2N/kg,C群0.6±0.5N/kg)で認められた。【結論】H群はC群に比較して歩行の足趾離地時に垂直方向の負荷が大きく,離地時前後水平分力が低いことから蹴りだし時において適切に推進力が得られていないと考えられる。その理由としてLeg-heel角の増大や縦アーチの減少を加味すると要因として足底部の剛性の減少によって前後への推進力を低下させていることや母趾の圧迫力が弱いことが挙げられる。またH群は足関節背屈制限が原因となり立位時のCOPが後方にあり,歩行時においても後方重心のため足趾離地時の垂直方向の負荷が増大するのではないかと推察した。これにより外反母趾症例の立位姿勢にも着目することが重要と考えられた。
  • 重心動揺による検討
    岩永 竜也, 岡田 匡史, 亀山 顕太郎, 入谷 誠
    セッションID: P-MT-12-3
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】理学療法効果を高めるためには,精度の高い評価が重要となる。入谷は効率的な歩行が可能な足部関節肢位を見分ける一助として,立位体前屈評価を利用している。本研究の目的は,距骨下関節の回内外誘導で立位体前屈が変化するかを確認すること,さらに距骨下関節の回内外誘導が片脚立位時の重心動揺に及ぼす影響について調査し,立位体前屈評価の有用性を明かにすることである。【方法】対象は,平衡機能に障害のない健常成人21名(男性14名,女性7名,年齢27.6±3.6歳)とした。方法は対象の距骨下関節を回外・回内誘導し,その後立位体前屈を実施した。立位体前屈は,自然立位とし両膝関節伸展位で最大限前屈する指床間距離(以下;FFD)をメジャーにて計測した。FFDが向上した誘導方向(以下;FFD向上群)とFFDが向上しない誘導方向(以下;FFD非向上群)として2群に分けた。距骨下関節回外・回内誘導には,伸縮性テープDE-50(ドレイパー社製)を用い,入谷の評価方法に準じて同一検者が両足に同一誘導を行った。次に対象の回外・回内誘導時の片脚立位における総軌跡長の測定を行った。総軌跡長は圧力分布測定装置(アニマ社製MD-1000)上で,自然立位より両腕を組み片脚立位にて安定した10秒間にて測定した。測定時は開眼で全例右足を支持側とした。2条件の測定順序は循環法を用いて,FFD向上群とFFD非向上群で,片脚立位時の総軌跡長を比較した。統計的手法はSPSS Ver17.0を使用し,FFDと総軌跡長を対応のあるt検定で2群間を比較した。有意水準は5%とした。【結果】FFDはFFD向上群が5.6±9.0cm,FFD非向上群は1.8±10.0cmであった(p<0.05)。またFFDが向上した誘導方向は,回外誘導が15名,回内誘導が6名であった。総軌跡長はFFD向上群29.5±5.3cm,FFD非向上群は33.2±4.0cmであった(p<0.05)。FFD向上群で総軌跡長の短縮が認められた者は21名中20名であった。【結論】距骨下関節を誘導することによって,FFDの変化が認められた。またFFDが向上した誘導方向と片脚立位時の安定性は関与していることが示唆された。先行研究において距骨下関節回外誘導は,片脚立位時の総軌跡長や筋活動を減少させると報告している。本研究では,距骨下関節回外誘導で21名中15名に,回内誘導で6名にFFDの向上が確認された。個々によって適合する距骨下関節誘導方向は異なることが明らかとなった。FFD向上群では21名中20名で片脚立位時の安定性が認められた。このことから,より精度の高い距骨下関節の誘導方向の決定には,立位体前屈を用いた評価が有用であることが示唆された。また先行研究で片脚動作中に起こる現象は歩行立脚初期から中期にかけて反映されることやFFDの向上は歩行効率が向上すると報告されており,FFDの向上は歩行時の距骨下関節誘導方向を示唆する可能性がある。今後は,歩行との関連を調査していきたい。
  • 坂本 翔平, 原川 裕貴, 大河原 海人, 古海 真悟, 松田 憲亮
    セッションID: P-MT-12-4
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】先行研究では,足関節捻挫と静的バランス能力における関係性は多く報告されている。しかし,足関節捻挫と動的バランスとの関係性はあまり報告がされていない。そのため本研究では,健常群と足関節内反捻挫既往群における身体機能およびバランス能力の比較について検討を行うことを目的とした。【方法】対象者は,健常大学生男性62名,100足(年齢:21.1±1.0身長:172.8±5.3cm,体重:65.6±8.2kg)とした。問診および足部靭帯に対する整形外科テスト(踵腓靭帯・前距腓靭帯)を実施し,①踵腓靭帯テスト陽性群28足,②前距腓靭帯テスト陽性群8足,③靭帯テスト陰性群37足,④健常群20足を抽出し,4つのグループとした。問診はFoot and Ankle Disability Index,捻挫既往および回数,受傷後の対応,診断名,損傷部位,重症度,CAIの評価,スポーツ歴,利き足,身長,体重,その他既往の13項目で実施した。計測は足関節アライメント,関節可動域測定,下肢長測定,筋力測定,Finger of 8 hop test,Side hop test,静的バランス検査,動的バランス検査の8項目を実施した。下肢長測定の際にはメジャー,筋力測定ではμ-tasF1(アニマ株式会社製:ハンドルダイナモメーター),静的バランス検査では重心動揺計(アニマ株式会社製)を用いて実施した。動的バランス検査では加速度計(マイクロストーン株式会社製)を腰部に装着し,10m歩行中の上下,左右,前後方向のRMSを計測した。統計にはSPSS Statistics22を使用した。評価項目値の4グループ間比較には一元配置分散分析およびを多重比較検定を用いて実施した。有意水準はすべて5%未満とした。【結果】膝関節伸展位での足関節背屈角度において健常群と靭帯テスト陰性群,踵腓靭帯テスト陽性群,前距腓靭帯テスト陽性群間に有意差を認めた。静的バランスにおいては,4グループ間の有意差を認めなかった。一方,動的バランスにおいては,歩行中の前後方向RMSで健常群と踵腓靭帯テスト陽性群間の有意差を認めた。【結論】先行研究同様,足関節捻挫既往の3グループについては,足関節背屈角度の有意な低下を示した。歩行中の動的バランスについては,健常群と比較し踵腓靭帯群間では,前後方向RMSの有意な増加を認めた。この結果より,立脚期の踵腓靭帯における制動の重要性と代償的な股関節戦略の出現につながっている可能性が示唆された。
  • 田坂 精志朗, 松原 慶昌, 福本 貴彦, 西口 周, 福谷 直人, 田代 雄斗, 城岡 秀彦, 野崎 佑馬, 平田 日向子, 山口 萌, ...
    セッションID: P-MT-12-5
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】近年,足趾障害の一つとして浮き趾が注目されている。浮き趾は幼児から高齢者まで幅広い年代でみられ,そのうち成人や高齢者においては,浮き趾が足趾把持力や歩行能力に関連することが報告されている。しかし,小学生における浮き趾と足趾把持力との関連や,浮き趾の有無が直接的に運動能力に影響するかどうかは不明である。特に12歳までの子どもの時期は,足部形態が完成に向かう時期である。この時期の浮き趾が引き起こす問題や関連要因を検証することは,早期からの浮き趾予防を考えるうえで重要である。よって本研究の目的は,小学生における浮き趾と各種運動機能との関連を明らかにすることとした。【方法】奈良県田原本町の小学校5校の4~6年生635名を対象に浮き趾の有無,足趾把持力,新体力テスト(反復横跳び,50m走,立ち幅跳び)を測定した。浮き趾の有無は,フットプリンターによって得た静止立位時の足型データにおいて,全くプリントされていない趾が一本でもあれば浮き趾群と判定した。足趾把持力は,足趾筋力測定器(竹井機器工業,T.K.K.3364)を用いて股関節,膝関節90度屈曲座位にて左右各2回計測し,その最大値を用いた。新体力テストの結果は,奈良県教育委員会が管理する完全匿名化データを使用した。統計解析は全て対応のないt検定を用いた。まず対象者の左右各足において浮き趾群と正常群に群分けし,足趾把持力を左右別々に比較した。次に,左右両方の足を合わせた場合の浮き趾群(左右の趾の中で一本でも浮き趾がある群)と正常群に群分けし,反復横跳び,50m走,立ち幅跳びの結果を比較した。統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】解析対象者635名のうち,浮き趾群に該当したのは,右足で253名(39.8%),左足で259名(40.8%)であった。足趾把持力は左右ともに正常群に比べ,浮き趾群が有意に低かった(右足:浮き趾群:13.1±3.7kg,正常群:13.7±4.2kg,p=0.040;左足:浮き趾群:12.6±3.7kg,正常群:13.4±4.0kg,p=0.011)。また,左右合わせた場合で浮き趾群に該当したのは376名(59.2%)であったが,浮き趾の有無による新体力テストの3項目の結果に有意な差は認められなかった(反復横跳び:p=0.29,50m走:p=0.87,立ち幅跳び:p=0.55)。【結論】本研究の結果,小学校4~6年生において浮き趾がある側の足趾把持力が低いこと,浮き趾の有無によって運動能力に差がないことが明らかになった。本研究は横断研究であるため因果関係は不明だが,浮き趾という現象自体が運動能力に影響を与えるのではなく,足趾把持力の低下に影響し,足趾把持力が関連する運動能力の低下につながる可能性が示された。一方で,新体力テストはスポーツ活動の有無や足部以外の運動機能も結果に影響するため,今後は様々な要因を含めた調査によって,浮き趾がどのような問題を引き起こすのか,そして浮き趾の原因を検証する必要がある。
  • 大田 幸作, 津田 泰志, 森島 健
    セッションID: P-MT-12-6
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】介護事業で評価する立位歩行バランスは,片脚立位,Timed up and go test,Functional reach testが主である。理学療法評価では下肢のアライメント評価も疼痛管理として股・膝関節にとどまることが多く足部構造と動的立位バランスの評価は多く行われていないのが現状である。本研究の目的は,要支援1・2認定者と若年者間において足部構造と機能変化および動的立位バランスにどのような違いがあるか比較検討することである。【方法】対象は,要支援1・2群,13名(男性5名,女性8名,年齢80.4±7.6歳,身長157.2±8.7,体重55.5±10.5)中枢性疾患を有しないものと健常な若年者(以下,若年者)13名(男性4名,女性9名,平均年齢30.2±3.9歳,身長165.8±7.5,体重59.8±8.4)の2群間の足部構造と動的立位バランスの関係を比較した。評価項目は1)アーチ高比,2)母趾アライメント(以下HVA),3)Navicular drop test(以下NDT),4)立位支持面積比(時計回り,反時計回り)を計測し2群間で比較した。アーチ高比は床面から舟状骨上端を結んだ垂線を足長で割った値を使用,立位支持面積比は足圧計測器フットバランス(インターリハ社製)を使用した。立位支持面積比について被験者は,股関節位置に合わせ一定足位にて直立姿勢を崩さず足下から逆円錐状に身体をできる限り大きく回して足圧中心軌跡を記録した。測定データから2群の評価項目の値を算出し比較検討した。統計学的解析は対応のないt検定を利用,有意水準は5%未満とした。【結果】1)アーチ高比は,要支援1・2群は右側0.23±0.03,左側0.22±0.03,若年者群は右側0.23±0.02左側0.23±0.01で有意差はなかった。2)HVAは,要支援1・2群は右母趾16.15±5.31°,左母趾20.54±13.97°,若年者群は右母趾7.77±5.31°,左母趾6.92±4.18°で要支援1・2群のHVAが大きく有意差が認められた(p<0.05)。3)NDTは,要支援1・2群は右側6.85±2.96mm,左側7.77±3.01mm,若年者群は右側4.15±1.46mm,左側4.54±1.8mmで有意差が認められ(p<0.05),要支援1・2群の舟状骨落下距離が大きかった。4)立位支持面積比は,要支援1・2群は0.29±0.07,若年者群は0.4±0.05で有意差が認められ(p<0.05),若年者群の重心移動面積が大きかった。【結論】2群間のアーチ高比に差がなくNDTに有意な差が出た理由として要支援1・2群は,舟状骨高位の変化だけでなく外反母趾とともに何らか足長に影響する足部変形の可能性を示唆した。立位支持面積比は要支援1・2群が小さかったが,支持基底面内の外側への足圧中心移動のためには足部剛性の高さが必要であり要支援1・2群のNDTが大きいように足部剛性の低下と高齢者の転倒に関して足部剛性の強化の必要性が考えられた。
  • 吉田 望, 時津 直子, 長谷川 睦美
    セッションID: P-MT-13-1
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/04/28
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    【はじめに,目的】下肢運動器術後の患者(以下術後患者)の松葉杖免荷歩行(以下免荷歩行)の獲得に難渋する例は多い。先行研究では,獲得に関与する因子として上肢筋力についての報告はあるが,下肢との関連は示されていない。そこで,本研究は下肢筋力,片脚立位バランスという視点から免荷歩行の獲得に影響する因子を明らかにすることを目的とした。【方法】対象者は平成26年10月から平成27年8月の当院入院の術後患者23名とした。糖尿病患者,認知機能低下を疑う者,免荷歩行経験者は除外した。術後翌日からの非術側下肢の筋力評価として,トルク体重比%をStrengthErgo.240(MEE製)を用いて,得られた最大トルクから算出した。非術側下肢の片脚立位バランスの評価として,開眼での外周面積,片脚立位時間をActive Balancer(酒井医療株式会社製)を使用して測定し,その他のバランス評価は片脚Functional Reach Test(以下片脚FRT)と,足趾把持筋力を握力計(トーエイライト株式会社製)を用いて測定した。術部の疼痛はNumerical Rating Scaleで評価した。その他の情報はカルテより収集した。統計的解析は,従属変数を免荷歩行自立の獲得・非獲得,独立変数をトルク体重比%,外周面積,片脚立位時間,片脚FRT,足趾把持筋力,疼痛として,ステップワイズ法によるロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とし,統計ソフトはR2.8.1を使用した。【結果】対象者23名(女性14名)の平均年齢は57.1±19.4歳であり,免荷歩行獲得者は12名,非獲得者は11名であった。松葉杖練習開始から免荷歩行自立までは平均4.9±5.3日だった。統計的解析の結果,免荷歩行自立の可否に影響する因子は,非術側下肢の筋力を示すトルク体重比%(オッズ比1.195%CI:1.011~1.255)が選択された。モデルχ2検定の結果はp<0.01と有意であり,Hosmer-Lemeshow検定で適合度は良好であると判定された(p=0.998)。【結論】本研究の結果,術後患者の免荷歩行獲得に非術側下肢の筋力が関連していることが明らかとなった。免荷歩行では2足歩行と同様に,立脚期に床反力はピークとなる。先行研究では2足歩行と比較し,免荷歩行の接地脚に生じる垂直床反力は1.16倍,進行方向への床反力は2.3倍になること,下肢筋力と歩行速度は比例関係にあることが報告されている。このことから,免荷歩行においても床反力に対して筋力が必要であり,また,筋力が強ければ歩行速度は増加し,片脚支持期は短縮することが予測される。よって,片脚立位時間の短縮が,姿勢保持時間の短縮となり,バランス能力の影響が低くなったのではないかと考えた。本研究の結果より,免荷歩行獲得にはバランス能力よりも筋力の影響が大きいと解釈し,治療では筋力強化に次いで,バランス能力向上の練習を行うことを推奨する。今後継続する研究では,免荷歩行パターンや上肢機能との関連について評価項目を検討し,解明していきたい。
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