保健医療学雑誌創刊10 周年,おめでとうござい ます.前・保健医療学雑誌編集委員会委員長として,保健医療学雑誌の過去・現在・未来に一言申し上げます. 10 年前,保健医療学学会が創立され,同時に保健医療学雑誌が創刊された時のコンセプトは保健医療という幅広い分野の研究を担うこれからの若い研究者に投稿いただき,研究者としての,あるいは医学系論文執筆の登竜門としていただきたい,ということであったと記憶しています.投稿論文の査読にあたっては,“あまり厳しくならないように”審査することとされていました.しかし私には,この言葉が全く理解できませんでした.私は,老若男女関係なく研究者である以上,一定の研究知識と研究倫理を持つべきで,その審査にあたっては,そのことを十分に理解しているものが“厳しく”かつ“慎重に”行うべきと考えていたからです. 私がこのように考えていたのには理由があります.研究にはルールがあり,崇高な倫理観が必要であることは,研究者であればだれでもが承知していることです.このルールと倫理観に則って研究が遂行されるからこそ信頼できる結果が導き出されるのです.しかし我々医療技術者はその養成課程で正しい研究ルールや研究倫理を学んできたでしょうか.卒業研究で研究のルールや研究倫理が学べたでしょうか.研究のルールや研究倫理を学ぶ機会のなかったものが,患者さんのためにあるいは臨床家のために根拠を示したいという高い意識を持ち研究を行ったとしても,結果的には信頼される成果は導き出されません.無意識的に嘘の結果を提供することになるかもしれません.場合によっては,研究不正として研究者生命が絶たれるかもしれません.現に,理学療法士や作業療法士の研究の中には,倫理審査を通していないもの,研究計画書が存在しないもの,インフォームドコンセントやイ ンフォームドアセントを得ていないもの,得ていても口頭で済ませているもの,仮説なくデータを先に収集してあとからものを言おうとしているもの,まさに恐ろしい状況が漫然と存在していたのです.だからこそ,若手研究者の登竜門というのであればなおさら,研究ルールを熟知し,崇高な研究倫理を持ち合わせたものが,若手研究者に研究のイロハから指導する体制が必要ではなかったかと振り返るところです. その時代から10年が経過し,大阪保健医療大学では質の高い研究計画書の作成と厳格な倫理審査を実施しています.研究者であれば知っていて当たり前の研究ルールや研究倫理,研究計画書の作成方法ですが,院生の誰一人としてこれらを知らない状況は,10年前と何も変わっていません.院生の中には,これらを知らないまま学会発表や論文投稿をしているものがいるという非常に危険な状況です. 私は研究者として,保健医療学雑誌が後進のための教育的医学雑誌であることに大きな存在意義があるものと理解しています.だからこそ,現編集委員会には,若手研究者に正しい研究ルールと研究倫理を指導していく役割を担う必要があるのではないかと思っております.本学の紀要では,研究計画書の提出を論文投稿時に求めています.研究者の研究ルールや研究倫理の理解度を確認し,ルール通り研究が遂行されたかを確認するためです.これは研究者を守る手段であることは言うまでもありませんが,雑誌を守る手段でもあります.研究不正は,今や,研究者個人の問題ではなく,編集委員会の質や雑誌の問題ととらえられる時代です.保健医療学雑誌でも昨今の研究環境を敏感にキャッチされ,今後も若い優秀な研究者を育て,秀逸な研究成果を掲載し,保健医療のevidence 構築に邁進されますこと,期待しております.
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