日本森林学会大会発表データベース
第124回日本森林学会大会
選択された号の論文の840件中151~200を表示しています
育種
  • 小長谷 賢一, 栗田 学, 谷口 亨, 石井 克明
    セッションID: F25
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
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    近年深刻化しているスギ花粉症問題対策として、我が国では自然界からスギ雄性不稔変異体が複数単離されている。しかしながら、これらは劣性形質であり、本来利用すべき成長や材質形質に優れる品種へ交雑育種により導入するには長い育種年限を必要とする。そこで本研究では、雄性不稔性を付与した遺伝子組換えスギの作出を試みた。まず、雄花で花粉形成期に特異的に発現する遺伝子をスギESTデータベースおよびサブトラクション法により4遺伝子単離し、これら遺伝子のプロモーター(転写制御領域)に致死誘導遺伝子であるBarnase(RNA分解酵素)をそれぞれ連結した。また、異所的なBarnase発現を抑制する目的で、Barnaseの阻害因子であるBarstarを全身で発現するコンストラクトを作製し、Barnaseとともにスギとモデル植物であるシロイヌナズナへアグロバクテリウム法により遺伝子導入した。その結果、シロイヌナズナではいずれのコンストラクトも雄性不稔性が確認された。一方、スギにおいては得られた組換え体を特定網室にて栽培し、ジベレリンによる着花誘導を行った。現在、花粉形成について経時的に調査を行っている。
  • 谷口 亨, 小長谷 賢一, 栗田 学
    セッションID: F26
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
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    スギの不定胚形成細胞は不定胚形成を経て個体を細分化する能力が高い。そのためにクローン苗の大量増殖に利用可能である。また、遺伝子組換えスギを作成するために用いられている。しかし、細胞の継代培養期間が長くなるに従い、再分化能力が減少することが問題であり、1年以上経過すると多くの場合個体細分化能力がなくなる。この問題を解決するためには、液体窒素を用いた超低温状態で細胞を保存する方法の開発が必要である。本研究では、凍結防御剤(グリセリンとショ糖の溶液)に浸漬処理した細胞をフリーザー(−30℃)に一定時間保持して予備凍結を行い、その後に液体窒素中で急速冷却する簡易凍結法を試みた。この方法は非常に簡便な方法である上に、これまでに検討した乾燥法に比べると保存後の細胞の増殖率が高いことが明らかになった。一方、供試する細胞株により増殖率が異なるので、多種類の細胞株を保存するためには手法の改良が必要である。
  • 山下 実穂, 宮原 文彦, 白石 進
    セッションID: F27
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
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    スギの採種園、採穂園を適切に管理するために、様々なDNAマーカーが開発されている。しかし、葉緑体DNAマーカーを開発するための知見は少ない。葉緑体DNAは、ハプロタイプであり、スギでは父性遺伝する。このため、変異情報を分析することで、親子鑑定や父性系統関係の解明が可能になる。我々は、葉緑体ゲノムの変異を包括的に分析する葉緑体ゲノムタイピング(CGT)システムを構築し、実用化を目指している。九州では、在来品種と精英樹の系統関係が長年問題となってきた。これまで、核DNAマーカーを用いてこの関係を明らかにすることを試みてきたが、核ゲノム情報に葉緑体ゲノム情報を加えることで、さらに詳細な系統関係の解明ができると考える。CGTシステムを構築するため、スギの葉緑体DNA上のVNTR領域で53プライマー対を設計した結果、44VNTRが多型であった。本研究では、このCGTを実際に用いて、福岡県の在来品種と精英樹の品種鑑定を行った。その結果、福岡県の在来品種と精英樹においても高いCGT多型性が認められた。また、供試サンプルの多くが、これまで核DNAによって明らかにされた系統関係と同様の結果を示した。
  • 内山 憲太郎, 岩田 洋佳, 伊原 徳子, 上野 真義, 森口 喜成, 坪村 美代子, 三嶋 賢太郎, 井城 泰一, 渡辺 敦史, 二村 典 ...
    セッションID: F28
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
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    DNAチップや次世代シークエンサーなどの技術の汎用化を背景に、育種速度を高度に向上させる技術として、高密度のDNAマーカーを用いて表現型を支配する遺伝子を検出するゲノムワイドアソシエーション解析(GWAS)や、遺伝子型情報から表現型を予測し選抜を行うゲノミックセレクション(GS)などの手法が動植物の育種の世界で注目されている。本報告では、関東育種基本区のスギ精英樹の材質および雄花着花量を対象に行ったGWASおよびGSの結果を報告する。精英樹337個体3,768SNPsのデータを用いたGWASの結果、材質および雄花着花量それぞれ18座と10座の有意な相関のあるSNPが検出された(p<0.01)。blastx検索の結果、材質と最も高い相関を示した遺伝子座はmicrotubule-associated proteinとの相同性が認められた。雄花着花量と最も高い相関が検出された遺伝子は既知のタンパクとの相同性は認められなかった。一方でRidge回帰による予測モデルの構築では、5分割の交差検証法により予測精度を検証した結果、雄花着花量において材質の5倍程度の比較的高い予測精度が得られた。
  • 津村 義彦, 内山 憲太郎, 伊原 徳子, 上野 真義, 舘田 英典, 渡辺 敦史
    セッションID: F29
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
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    針葉樹では有用遺伝子単離のためのBAC(Bacterial Artificial Chromosome)ライブラリーの構築はマツやトウヒの数種でしか行われていない。これは針葉樹のゲノムサイズが巨大(10-20Gb)であるためである。しかし現状では将来の分子育種や遺伝子研究のためにはこのBACライブラリーは欠くことのできないものである。スギのゲノムサイズは約11Gbと言われているため、スギのゲノムをほぼ網羅するライブラリーを構築する必要がある。現在、構築したスギのBACライブラリーはスギのゲノムサイズの約4倍量のもので368,256クローン(平均インサート長、約130kb)から構成されている。この中から無作為に選んだBAC16クローンの塩基配列を次世代シークエンサーで解析した。その結果、GC含量は37.07%で、スギ等の裸子植物ではゲノム中のトランスポゾンの割合が低く、LTRレトロポゾンが多くDNAトランスポゾンの割合が少ない傾向で、繰り返し配列の割合が高いことが分かった。またBACの塩基配列では100kbあたりまでほとんど連鎖不平衡は減衰することがなかった。
  • 今 博計, 来田 和人, 内山 和子, 黒丸 亮
    セッションID: F30
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
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    カラマツ類の採種園・交配園では、着花調節が難しい、着花の年変動が大きいことなど、着花・結実性が大きな問題となっている。これまで人為的に花を着けさせるため、薬剤処理(GA4/7)や根切り・傷つけ処理など様々な方法が試みられてきたが、有効な手法は確立されてこなかった。しかし、近年カナダのケベック州では、日本カラマツとヨーロッパカラマツの接ぎ木苗を側面に小さな穴の開いたポットに植え、温室で育てることで、着花を促進させることに成功している(Colas et al. 2008)。「double pot system」と呼ばれるこの着花調節を見学した武津(2008)は、空中根切りによる乾燥ストレス、温室での温度調節が着花の鍵になっていると報告している。本研究では、カラマツ2クローンとグイマツ3クローンの接ぎ木苗を対象に、①ポット+6月加温処理、②ポット処理を行い、③圃場に植栽した苗を対照とすることで、乾燥と加温が着花に及ぼす影響について実験を行った。その結果、カラマツでのみ処理による効果が認められた。着花率は胆振1号では①21%、②2.3%、③0.7%、空知3号では①6%、②0.1%、③0%であり、乾燥ストレスと前年6月の高温が着花に影響していることを示唆していた。
  • 来田 和人, 内山 和子, 今 博計, 黒丸 亮, 田村 明, 織田 春紀
    セッションID: F31
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    カラマツ類の採種園では着花調節が難しい、着花の年変動が大きいことが問題となっている。これまで薬剤処理や傷つけ処理などの方法が試みられてきたが有効な手法は確立されていない。しかし、近年カナダで日本カラマツとヨーロッパカラマツの接ぎ木苗をポットに植えることで着花を促進させることに成功している(Colas et al. 2008)。そこで北海道でカラマツとグイマツのつぎ木苗をポット化したところ2011年に大量に着花が認められた。本研究ではポットつぎ木苗によるグイマツ×カラマツ種子生産の実用化にむけて、カラマツ2クローンとグイマツ1クローンの接ぎ木苗を対象にポット化による着花促進、人工交配、種子・苗木生産の一連の工程を行った。その結果、対照の野外に植栽した接ぎ木苗で全く雌花がなかったのに対してポット苗ではクローン平均で22個~202個の雌花が認められた。雄花は対照が0~18個、ポット苗が143~678個であった。苗木全体を袋で覆うことで交配に必要な量の3.5倍の花粉が得られた。グイマツポット苗木の種子は通常の種子に比べて重さが52%と小さく発芽率も低かったが、苗木の成長は良好であった。
  • 生方 正俊, 板鼻 直栄, 田村 明, 黒丸 亮, 長谷部 辰高, 大久保 典久, 佐藤 新一
    セッションID: F32
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    本州中部以北の主要な造林樹種であるカラマツは、近年採種園等での凶作が続き、優良種苗の安定的な供給に危機感が高まっている。貴重な種子を効率的に採取するためには、採種適期を判断し集中して作業する必要があるが、植栽場所やその年の気候条件等により、採種適期は異なることが予想される。カラマツの採種適期の場所による違いや年次間変動を明らかにするため、2011年に長野県御代田町、岩手県滝沢村、北海道江別市および中川町の4箇所において、7月から10月まで約10日間隔で球果を採取し、得られた種子について軟X線による内部の観察および発芽率の調査を行った。発芽率が急激に上昇する時期(種子成熟期)は、長野および岩手で8月20日前後、北海道江別で9月1日前後、北海道中川で9月20日前後と北上するに従い大きく遅れる結果が得られた。2012年は全国的にカラマツの種子は凶作だったが、長野県御代田町と岩手県滝沢村について再度同様のサンプリングおよび調査を行った。2012年は、長野県御代田町周辺の気温は、2011年に比べ7,8月が若干低く推移し、岩手県滝沢村周辺では5~7月が若干低く推移したが、種子成熟期には年次間の差は認められなかった。
  • 有吉 邦夫, 森田 浩也, 磯田 圭哉, 植田 幸秀
    セッションID: F33
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    ヒノキの実生2林分とサシキ3林分(c1,c2,c3)の強度特性調査から、実生林に比べてサシキ林の個体間変動が小さいことが明らかになった。これらサシキ林は6家系の実生採穂園産穂木を使ったサシキ苗で造成された30年生前後のヒノキ林である。したがって、遺伝的な多様性を持つと考えられる林分で個体間変動が小さいことの原因は不明であった。そこで、サシキ3林分からそれぞれ無作為に抽出した32個体の針葉を採取し、8種類のSSRマーカーによる遺伝子型の同定を行い各林分のクローン構成を推定した。その結果、c1林分は2種類の遺伝子型が認められ、その頻度はA型30個体、B型2個体であり、c2林分は3種類、C型30個体、D型1個体、E型1個体であり、c3林分は32個体全てが異なる遺伝子型であった。このことからc1及びc2林分は遺伝的組成がほぼ同じで、個体間変動は大部分が環境変動と見なせるクローン林分、c3は実生林分に似た遺伝変動を含む林分と判断された。これを基に、丸太動的ヤング係数、製材乾燥後の曲げヤング係数及び曲げ強度における広義の遺伝力はそれぞれ79%、77%、68%と推定された。
  • 矢野 慶介, 岩泉 正和, 大谷 雅人, 平岡 宏一, 宮本 尚子, 山田 晋也, 小谷 二郎, 武津 英太郎, 高橋 誠, 生方 正俊
    セッションID: F34
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    地域性に配慮しつつ、効率的に林木遺伝資源を保全するためには,対象樹種の分布域全体にわたって地理的な遺伝変異を把握することが重要である。ケヤキは、日本では青森県下北半島から鹿児島県北部にかけて分布する。材は建築用や家具用の高級材として利用されてきたが、近年、その資源は減少傾向であり、地域性に配慮した遺伝資源の保全が求められている。本研究では、ケヤキの遺伝資源の保全に資するため、複数の遺伝マーカーを用いて日本国内の分布域全体における地理的変異を明らかにした。ケヤキの天然分布の北限とされる青森県大間町の集団や、南限付近に位置する宮崎県南部の集団を含む、ケヤキ天然林36集団を解析の対象とした。1集団あたり概ね20~30個体から分析用試料を採取し、核SSRマーカー8座とアイソザイム8座における遺伝子型を決定した。得られた遺伝子型データより、遺伝的多様性の指標などの地理的勾配や、集団間の遺伝的分化のレベル、地理的な遺伝構造ついて比較検討を行い、結果について報告する。
大気環境変化にともなう森林の生産性と分布の予測―対流圏オゾンの影響を中心に―
  • 山口 真弘, 安土 文鹿, 松村 友絵, 上原 唯, 鹿又 友彰, 黄瀬 佳之, 小林 亜由美, 松村 秀幸, 伊豆田 猛
    セッションID: G01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    窒素負荷量の異なる土壌で育成したブナの成長に対するオゾン(O3)の影響を、葉のO3吸収量に基づいて評価するために、ブナの葉の気孔コンダクタンス(gs)推定式を構築し、2成長期間にわたってブナ苗にO3と土壌窒素負荷の複合処理を施した。処理区として、ガス処理3段階(浄化空気区, 1.0倍O3区, 1.5倍O3区)と窒素処理4段階(0, 20, 50, 100 kg ha-1 yr-1区)を組み合わせた12処理区を設けた。0、20、100 kg ha-1 yr-1区では、育成終了時の個体乾重量にO3による有意な低下が認められたが、50 kg ha-1 yr-1区のそれにはO3の有意な影響は認められなかった。本研究で構築したgs推定式から求めた葉の積算O3吸収量は、窒素負荷量の増加に伴って低下し、100 kg ha-1 yr-1区で最も低かった。これらの結果から、O3によるブナ苗の成長低下の程度が窒素処理区間で異なった原因は、O3吸収量の窒素処理区間差だけでは説明できないことが明らかになった。本研究は、環境省環境研究総合推進費(B-1105)の助成を受けて行われた。ここに記して感謝の意を表す。
  • 稲田 直輝, 星加 康智, 渡辺 誠, 毛  巧芝, 小池 孝良
    セッションID: G02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    オゾン濃度は今後も増加し、植物の成長に悪影響を与えると考えられている。そこで冷温帯に広く分布するブナとミズナラの幼樹を対象として、日中60ppbに制御した開放系暴露装置を用いたオゾン付加実験を行った。それぞれの葉は生育する光環境が異なり、形態や光合成能力が異なる。そのため、樹冠位置により、オゾンの光合成機能への影響が異なると考えられる。そこで、本研究では、受光量の違いに注目して、ブナとミズナラの光合成速度へのオゾンの影響を明らかにすることを目的とした。2012年6、8、10月にガス交換速度を測定した結果、ブナでは受光量の大きい葉においてオゾン付加により、8、10月において光合成機能が低下し、暗呼吸速度が上昇した。一方、ミズナラでは、オゾン付加による顕著な光合成機能の低下は認められなかった。樹木では、樹冠上部の受光量の大きい葉による光合成生産への寄与が大きいため、オゾン濃度の上昇は、ブナの樹木全体としての成長に影響を及ぼす可能性が考えられる。
  • 渡辺 誠, 星加 康智, 小池 孝良
    セッションID: G03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    世界各地でオゾン濃度が上昇しており、樹木へのオゾン影響の解明が必要とされている。本研究ではウダイカンバに異なる時期のオゾン付加を行い、オゾン吸収量と個葉光合成の関係を調べた。 ウダイカンバ2年生苗に60 ppbのオゾンを6月13日~9月26日の日照時に付加した。対照区(付加なし)、前期付加区(~8月2日)、後期付加区(8月3日~)、全付加区の4処理区を設定し、7月上旬に展開した葉のガス交換速度を3週間おきに継続調査した。葉の積算オゾン吸収量と、光飽和時の純光合成速度(Asat)および葉緑体の光合成活性を示す最大カルボキシレーション速度(Vcmax)の関係を調べた。積算オゾン吸収量の増加に伴い両パラメーターは低下したが、Asatでは相関が低かった。その原因としてオゾンによって気孔が開き気味となり葉内CO2濃度が増加したため、積算オゾン吸収量が高くてもAsatが高く維持されたことが考えられた。これは光合成に対するオゾン影響を考える際に、気孔を介したCO2取込と葉内光合成活性、それぞれに対するオゾン影響を考える必要があることを示唆している。
  • 北尾 光俊, 小松 雅史, 矢崎 健一, 飛田 博順
    セッションID: G04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    落葉広葉樹3種(シラカンバ,ミズナラ,コナラ)の苗木を対象として,二酸化炭素とオゾンの複合ストレスが成長量に与える影響を調べた。処理開始前の3月に,一年生苗木を森林総合研究所実験林苗畑に設置した開放型二酸化炭素オゾン暴露装置内に直植えし,根の成長を抑制しない状態で生育させた。大気の二酸化炭素濃度が約380ppmであるのに対して,高二酸化炭素処理は550ppmとなるように制御を行った。大気オゾン濃度は顕著な季節変化を示すことから,高オゾン処理については,大気オゾン濃度に対して2倍の濃度になるように制御を行った。二酸化炭素およびオゾン処理は4月から11月の生育期間に行い,オゾンを供給しないコントロール区では昼間(6:00-18:00)のオゾン濃度の平均値が33ppbであり,オゾン処理区では54ppbであった。成長停止後の12月に刈り取りを行い,葉,幹,根の各器官に分けて乾燥重量を求めた。個体全体の乾燥重量は,高二酸化炭素処理によって増加し,オゾン処理によって低下する傾向が見られた。一方で,オゾン処理により個体重に占める葉の重量の割合が増加し,根の重量割合が低下することが明らかになった。
  • 飛田 博順, 小松 雅史, 矢崎 健一, 北尾 光俊
    セッションID: G05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では,高オゾンに対する感受性が比較的高いという報告のあるブナを対象として,光合成機能に及ぼす高二酸化炭素濃度と高オゾンの影響を明らかにすることを目的とした。茨城県の森林総合研究所実験林苗畑に設置した開放型二酸化炭素オゾン暴露装置内の土壌にブナ苗木を植栽した。コントロール,二酸化炭素付加,オゾン付加,二酸化炭素 + オゾン付加,の4処理区を設定した。高二酸化炭素処理は外気(380 ppm)に対して550 ppm に制御した。高オゾン処理は大気の2倍の濃度に設定した。処理2年目のブナ稚樹について,一次葉の純光合成速度を5月から10月にかけて,各生育環境の二酸化炭素濃度(コントロールとオゾン付加区が380 ppm,二酸化炭素付加区が550 ppm)で測定した。生育環境の二酸化炭素濃度での純光合成速度(Agrowth-CO2)は,コントロール区に比べて,二酸化炭素付加区では5月から7月に上昇し,オゾン付加区では7月から8月に低下する傾向を示した。一方,二酸化炭素+オゾン付加区のAgrowth-CO2は,二酸化炭素付加区に比べて生育期間を通じて顕著な低下を示さないことが明らかになった。
  • 川口 光倫, 渡辺 誠, 小池 孝良
    セッションID: G06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    G06  グイマツ雑種F1におけるオゾンと二酸化炭素濃度上昇への応答

    北大大学院農学院・農学研究院
    ○川口光倫・渡辺誠・小池孝良
    **【背景】急速に変化している大気環境による樹木影響に関しての実験では、設備や期間、樹木の状態により結果は左右されている。より実際的な実験を行うことで、樹木の環境因子への応答メカニズムや将来の森林資源への理解が深まると思われる。
    **【材料と方法】北海道大学札幌研究林において、周囲を農業用の透明フィルムで覆われ、上部が開空したチャンバーを設置し、広葉樹と共にグイマツ雑種F1(Larix gmelinii var. japonica×L. kaempferi)の苗木を植栽した。チャンバー内の空気のCO2とO3濃度を上昇させ、2成長期間育成した。
    **【結果】個体サイズには、有意な項目は少ないものの高CO2により成長が促進され高O3により成長が低下する傾向がみられた。生理的測定からは、O3処理による光合成パラメータの部分的な増加傾向がみられた。
    **研究費の一部は、環境省地球環境研究推進費(B-1105)と科研費(23380078)の支援を得た。
  • 深山 貴文, 奥村 智憲, 小南 裕志, 吉村 謙一, 安宅 未央子, 檀浦 正子
    セッションID: G07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    対流圏オゾン濃度が将来的に上昇していく要因としては、人為起源の窒素酸化物濃度の上昇の他、地球温暖化に伴う植生起源の揮発性有機化合物(BVOC)放出量の上昇等も考えられる。BVOCの主要成分であるイソプレン(C5H8)は、天然ゴムのモノマーでメタンに次いで放出量の多い炭化水素であり、主な放出源としてシダ、ナラ、ユーカリ、ポプラ、エゾマツ等の140種以上の植生が知られている。日本国内ではコナラ属が強いイソプレン放出源となっているが、その森林内外での野外観測の事例は未だ少なく、その放出特性と拡散過程の評価が重要な課題となっている。本発表では京都府南部の落葉広葉樹二次林の内外でイソプレンの放出量や濃度観測を行った結果について報告する。
  • 小松 雅史, 吉村 謙一, 藤井 佐織, 矢崎 健一, 溝口 康子, 深山 貴文, 小南 裕志, 安田 幸生, 山野井 克己, 北尾 光俊
    セッションID: G08
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    森林の炭素固定機能に及ぼす対流圏オゾンの影響を林分レベルで評価するため、札幌、安比、山城にある三カ所の森林総合研究所フラックスタワーサイトにオゾン計を設置し、2011年10月より森林上空のオゾン濃度の常時計測を行っている。森林総合研究所のフラックスサイトでは、2000年からのフラックス観測データを公開しており、森林における炭素吸収の履歴を過去に遡り参照することが可能である。同サイトでは2010年以前のオゾン観測を行っておらず、過去のオゾン濃度値を直接参照することは出来ないが、各タワーの周辺都市部には、大気観測局があり、2000年以前よりオゾン濃度の常時観測が行われている。そこで本研究では、タワー周辺の大気観測局とタワーのオゾン濃度を比較することで、大気観測局の過去の濃度値からタワーサイトの過去のオゾン濃度の推定が可能か検証した。さらに、推定した過去のオゾン濃度値とフラックス観測データを比較し、森林のオゾン濃度の変動が森林の炭素固定機能に及ぼす影響について考察した。
  • 久米 篤
    セッションID: G09
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
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    対流圏オゾン(O3)は,汚染源から放出された窒素酸化物(NOx)や揮発性有機化合物(VOC)などから大気中で生成され,汚染源よりもその周辺で濃度が高くなる傾向がある.変化前のNOxは森林への窒素供給源として大きく影響し,O3は大陸からも付加される.汚染源からは亜硫酸ガスも放出され,硫酸塩エアロゾル(nss-SO42-)へと変化する.そのため,これらの前駆物質の放出とその後の推移を観測すると,風に乗って移動している間に1次汚染物質(NOxやSO2)の割合が低下し,2次汚染物質(O3やSO42-)の割合が高まる過程が記録され,これらの濃度比は汚染源からの距離と共に変化する.すなわち,都市近郊の汚染源周辺のO3濃度の違いは,大気汚染物質の総量の変化というよりかは,むしろ反応前・途上の様々な汚染物質の酸化程度の違いを反映したものとなる.一方,CO2濃度は汚染源からの距離と共に低下していく.日本の高濃度O3地域では,NOx濃度が低下し,SO42-の負荷量の比率が高くなる傾向があり樹体内からの栄養塩類の溶脱を促進するため,特に貧栄養な山岳地域においてはO3との複合影響を考慮する必要がある.
気候変動と森林の窒素循環~観測・実験・広域評価
  • 大手 信人, 徳地 直子
    セッションID: G10
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
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    窒素飽和によって森林集水域で何が起こるのかというStoddardのレビューが出たのが1994年。以来、森林生態系への過剰な窒素負荷の影響への関心は20年近く継続されている。この間、各地で窒素飽和に関する事例研究は蓄積され、生物地球化学的なプロセスに関する仮説もいくつか提示されてきた。しかしながら、集水域レベルでの窒素の現存量や内部循環のフローは、土地利用、植生、土壌など系の特性ごとに極めて多様で、過剰な窒素負荷に対する系全体の反応は決して一様ではない。結果、多くの謎は残され、新たな理解が依然として必要とされている。窒素飽和以外にも、伐採、虫害や気象害など、森林の撹乱に伴う窒素循環の変化についても種々の地域で調べられてきた。いずれにしても、窒素という生態系を構成する生物群集の営みに不可欠な養分を巡るプロセスの解明には、それを見る新しい切り口が必要ではないか。例えばそれは、窒素の形態変化を左右する微生物群集の動態の記述から、今まで見てきた「生物地球化学的反応」を再解釈するというアプローチではないだろうか。多くの反応で見られる非線形なレスポンスを説明するのは、群集の動態ではないのだろうか。
  • 浦川 梨恵子, 柴田 英昭, 黒岩 恵, 稲垣 善之, 舘野 隆之輔, 菱 拓雄, 福澤 加里部, 平井 敬三, 戸田 浩人, 小柳 信宏, ...
    セッションID: G11
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    温帯の森林生態系では、冬季気候変動によりもたらされる凍結融解サイクルの変化が土壌の窒素(N)動態に影響を与えることが予想される。本研究では日本各地10カ所の土壌を、北海道の多雪(非凍結環境)および少雪地帯(凍結融解環境)で野外培養することにより、凍結融解サイクルの有無によるN無機化、硝化速度の変化と、凍結融解サイクルに対する反応の大きさと土壌特性との関係を調査した。また、凍結融解サイクル経験の有無が生育期のN動態に与える影響を明らかにするため、春~夏季のN無機化、硝化速度も引き続き調査した。凍結融解環境下にあった土壌は、非凍結環境下の土壌に比べて冬季の無機化速度は大きく、硝化速度は小さかった。生育期では、凍結融解サイクルを経験した土壌は、非凍結の土壌に比べて硝化速度が上昇する傾向がみられた。以上の反応には土壌による差が見られ、総硝化速度、総硝酸消費速度およびアンモニウム態N現存量の高い土壌ほど、無機化速度および硝化速度の凍結融解環境と非凍結環境の差が大きかった。微生物活性や肥沃度の高い土壌では、気候変動にともなう凍結融解サイクル変化に対して敏感に反応することが示唆された。
  • 舘野 隆之輔, Kim Mincheol, Adams Jonathan
    セッションID: G12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    土壌における窒素無機化や硝化などのプロセスは、微生物の働きによるものであるが、これまで窒素動態に関わる微生物群集はブラックボックスとして扱われることが多かった。微生物群集を記述するには、従来は単離培養し顕微鏡下で形態を観察するなど微生物学的な手法が必要であったが、近年の分子生物学的手法の発展により、土壌から抽出した環境DNAのメタゲノム解析により比較的簡易に群集構造を記述することが可能となった。さらに次世代シーケンサーの登場により、群集構造に関する情報は飛躍的に増えている。例えば硝化プロセスは、従来は細菌の働きによるとされてきたが、多くの土壌でアンモニア酸化古細菌が重要な役割を担うということが明らかにされつつある。これらの古細菌のほとんどは単離培養することが出来ないため、これまでその存在や働きについては十分に知られていなかった。しかし様々な窒素動態のパラメータと併せて微生物群集のメタゲノム解析を行うことにより、ブラックボックスの中身が明らかになりつつある。本講演では、最近のメタゲノム研究の発展を紹介するとともに、現在進めている日本国内の様々な土壌でのメタゲノム解析の結果を紹介する。
  • 橋本 昌司, 森下 智陽, 阪田 匡司, 石塚 成宏
    セッションID: G13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    We developed simple models, which were termed SG models, for soil CO2 efflux, CH4 uptake, and N2O efflux in forest soils (Hashimoto et al. 2011, Ecological Modelling). Here we report the modeling of N2O efflux. We described the gas flux in terms of three functions: soil physiochemical property (C/N ratio for N2O), water-filled pore space (WFPS, 5-cm depth), and soil temperature (5-cm depth). We used Bayesian calibration for optimization of the model. Then we estimated climate-driven changes in N2O emission fluxes in Japanese forests from 1980 to 2009 using the models (Hashimoto et al. 2011, Scientific Reports). Our study reveals that the N2O flux in Japanese forests has been increasing over the past 30 years at the rate of 0.0052 Gg N yr−2 for N2O (0.27 % yr−1).
  • 佐々井 崇博, 脊戸山 祐子, 中路 達郎, 三枝 信子
    セッションID: G14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    これまで、陸域生態系起源の炭素(C)、窒素(N)に関わる温暖化効果ガスを広域、且つ高精度に算定する目的で、N動態を陸域生物圏モデルへ統合する試みがなされてきた。しかし、主要なNプロセスがモデルに記述されていないことや地下部N動態の理解が十分でないこと、検証の少なさ等の理由から、その精度には未だ疑問が呈されている。今後は、現在継続観測されている多くのデータを速やかに整備し、そこから得られた知見を基に随時モデルを高度化していくことが必要であろう。
    そこで、本研究では、N-C相互作用の広域評価を目的として陸域生物圏モデルBEAMSの高度化に挑戦する。BEAMSは、エネルギー、水、炭素プロセスが統合されたモデルである。今回は生態系内のN循環を再現するモデルを新たに構築し、BEAMSに統合した。本モデルで推定した葉のC/N比を富士北麓、苫小牧タワーサイトで検証した結果、典型的な季節パターンを再現することができた。同時にエネルギー・Cフラックスも観測値とよい一致を示した。今後は、土壌N動態の再現性向上を目標にモデル開発を進め、衛星観測データと組み合わせて日本全域の窒素収支解析を行う予定である。
日本の伝統的な漆塗を支えるウルシ林の持続的管理と未利用資源の利用
  • 飯田 昭光, 田中 功二, 小岩 俊行, 高田 守男, 井坂 達樹, 中村 弘一, 松本 則行, 田端 雅進
    セッションID: G15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    我が国において、漆は耐久性の高い塗料や接着剤として、古くは縄文時代から使われてきたが、現在では国内消費量の9割以上を中国産が占めている。しかし、国産漆は中国産に比べ高品質で、文化財の修復や高級漆器の仕上げ用として不可欠なものである。こうした国産漆の安定供給のためには健全なウルシ林の育成が重要であるが、ウルシ林の管理技術はほとんど明らかになっていない。そのため、青森・岩手・茨城・新潟県のウルシ林において調査を行い、適切な管理技術について検討した。ウルシ林調査の結果、立木密度がヘクタール当たり1,650本以上の混み合った林分では、成長が悪く枯死する個体も認められたことから、こうした林分ではヘクタール当たり1,000本を目安とした除伐や間伐を実施するなど、適切な密度管理が必要であると思われた。また、植栽地で繁茂したミツバアケビなどのツル植物やクマイザサによる成長阻害が認められたことから、繁茂状況によりツル切りやクマイザサの除去が必要と思われた。一方、水はけの悪い区域の個体は、良い区域のものに比べ、明らかに成長が劣ったことから、植栽にあたっては、排水の良好な区域を選定するべきと思われる。
  • 平井 敬三, 田中 功二, 飯田 昭光, 小岩 俊行, 松本 則行, 中村 弘一, 河原 孝行, 田端 雅進, 高田 守男
    セッションID: G16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    ウルシ林分では病害等による成長低下や枯死等が拡大している。これには適地外への植栽が原因の一つと考えられる。健全なウルシ林分造成に向けた適地検討のため、成長に対する土壌水分と土壌群の影響評価を植栽林分で調査した。土壌水分の影響は岩手県二戸市と北海道網走市の斜面上部と下部で調査した。土壌水分はいずれの林分でも成長の良好な斜面上部で高く、斜面下部では低かった。特に斜面下部では、30cm深の水分張力が圃場容水量(-6.2kpa)より過湿な状態が長く続くが、斜面上部では比較的早く乾燥する傾向にあった。これは土壌断面調査による地下水面の有無からも裏付けられた。土壌群との関係解析は北海道、青森、岩手、茨城、新潟の試験地で調査した。樹高成長は褐色森林土(特に乾性型)や台地土で大きく、低地土やグライ土で小さく、黒ボク土はその中間であった。褐色森林土や台地土などは相対的に高い地形位置に分布しており、土壌水分の観測地で認められた斜面上部で成長が相対的に良い傾向と一致する。これらから、ウルシは比較的乾いた立地に適していると考えられた。今後のウルシ林分の造成にはこれら立地条件を考慮した植栽が必要と考える。
  • 河原 孝行, 平岡 裕一郎, 渡辺 敦史, 小岩 俊行, 滝 久智, 田端 雅進
    セッションID: G17
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    ウルシは日本の伝統工芸を支える漆を得るための重要な特用林産物である。文化財修復など国産漆の需要は高まっており、安定供給が求められているが、その伝統に反し、ウルシの育林技術は確立されていない。健全な育苗を行っていくために、ウルシ林がどのような繁殖構造を持っているか遺伝解析によって検討した。
    北海道網走市及び岩手県二戸市浄法寺町に植栽されるウルシ林を材料として用いた。SSR10座を用い、multiplexによるPCR増幅後ABI prism 3100XLにより遺伝子型を決定した。  網走の2林分において6mx6m内の全ラメットを採取し、クローン構造を決定した。成長良好箇所はラメット数が少なく(134)、22のマルチジェノタイプ、不良個所はラメット数が多く(223)、24のジェノタイプが検出された。この結果、約20年での萌芽枝の最大伸長は4m前後であり、自然実生による更新も行われていることが示された。また、上伸成長がよい個体では萌芽枝を発生しないか少ないことが示された。  
    両地域の代表的な母樹を選び、父性分析を行ったところ、隣の林分からの遺伝子フローもあることが示された。
  • 渡辺 敦史, 花岡 創, 田端 雅進, 平岡 裕一郎
    セッションID: G18
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    国産漆は、神社・仏閣の修復のため近年需要が増大しており、その増産が求められている。漆の増産には、ウルシ林の適切な管理とともに、育種を進めることが重要であると考えられる。しかし、これまでウルシの育種を行うための試験地が設定された例はほとんど無く、系統別の形質評価を行うことが困難である。そこで本研究では、SSR(Simple Sequence Repeats)マーカーを開発し、ウルシの自然交配実生を植栽した試験林の家系構造をマーカー情報から再構築し、家系毎の形質評価を行った。マーカー開発の結果、多型性の高い有用なマーカーを得た。試験地に植栽されている約800個体の成長測定とともに、DNAサンプルを採取し、開発したSSRマーカーによる遺伝子型の決定を行った。決定した遺伝子型に基づきSTRUCTURE解析を行った結果、4家系に分かれると推定された。したがって、本試験地の個体は異なる4母樹に由来すると考えられる。漆生産には個体の成長の良さが重要であると考えられるため、家系毎の樹高を評価した。その結果、家系によって優劣が認められ、ウルシにおいて優良形質系統の選抜の可能性が示唆された。
  • 中村 仁, 竹本 周平, 田端 雅進, 佐々木 厚子, 市原 優, 相川 拓也, 小岩 俊行
    セッションID: G19
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    岩手県のウルシ栽培林における生育不良や枯損等の衰退には紫紋羽病の関与が疑われているが,その実態については不明であり,白紋羽病の発生も認められる。そこで,岩手県二戸市のウルシ林で2009~2011年に両紋羽病菌を採集して接種試験を行い,当該ウルシ林の衰退に両紋羽病が関与するか考察した。紫紋羽病菌はウルシ林9ヵ所の41樹(主に生育樹)からHelicobasidium mompa(Hm),H. brebissonii(Hb)およびHelicobasidium sp.(Hsp)の3菌種が採集され、そのうちHmは菌糸生長が旺盛で,頻度は低いもののウルシに病原性を示したが,HbおよびHspは菌糸生長が貧弱で,ウルシに病原性を示さなかった。また,Hmの子実体が形成されたウルシの地下部においては発病(感染座形成)を確認できなかった。白紋羽病菌Rosellinia necatrixについては,ウルシ林4ヵ所の9樹(枯死樹)から採集され,ウルシを含む3植物種に高頻度で病原性を示した。以上から、今回調査したウルシ林の衰退に紫紋羽病が関与する可能性は極めて低いが,白紋羽病は衰退に関与すると考えられた。
  • 竹本 周平, 市原 優, 相川 拓也, 田中 功二, 飯田 昭光, 小岩 俊行, 高田 守男, 松本 則行, 田端 雅進
    セッションID: G20
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    近年、ウルシ植栽地においてウルシの幹に樹液異常漏出被害が頻繁に見られるようになり、被害木では漆液が採取できないことも発生し、重要な問題になっている。そこで、北海道、青森・岩手・茨城・新潟県のウルシ林でその被害症状、原因及び被害状況を明らかにする目的で被害実態調査、菌類の分離及び接種試験を行った。 被害木は樹皮から外部に乳白色の漆液が異常に流出し、時間が経つと漆液は黒く固まっていた。また、患部の形成層が壊死し、幹や枝の壊死部は陥没していた。3年生の若い樹だけでなく、15年生を超えるウルシでも本被害の症状が見られた。 樹液異常漏出・陥没症状の被害木から菌類を分離した結果、Phomopsis属菌が頻繁に分離された。分離菌を用いて接種を行った結果、本菌では接種部の陥没が観察され、内樹皮に壊死が見られた。壊死部から菌類を分離した結果、本菌が高頻度で再分離された。 ウルシ植栽地では調査したほとんどのウルシ林で樹液異常漏出被害が確認され、被害率は3~94%と植栽地によって被害率が異なっていた。
  • 小岩 俊行, 田端 雅進, 市原 優, 相川 拓也
    セッションID: G21
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    目的】近年、各地のウルシ植栽地においてウルシ樹幹から異常に樹液を漏出する被害(以下、「樹液異常漏出」)がみられるようになっているが、その発生原因など詳細は未だ明らかになっていない。今回、発生原因解明の一環として、樹液異常漏出症状がどのように推移するのか観察を行った。【方法】2010年7月、ウルシ林(岩手県二戸市浄法寺町、28年生)内の萌芽(5~6年生)9個体上の樹液異常漏出初期症状と考えられる32カ所(以下「病斑」)をマークし、生育期間を中心に約1ヶ月おきに2012年9月まで被害推移を調査した。【結果】マークした病斑のうち約半数(47%)は、そのままか、治癒の方向へ変化した。円形やへん平など樹幹部の変形を伴った場合は、病斑が拡大する傾向にあった。また、病斑の外観は大きく変化しないが、別の部位から樹液異常漏出がみられ、ウルシ樹個体としては病斑数が増加する場合があった。病斑は初夏頃に変化(拡大など)する傾向がみられた。ウルシ林の管理では、樹幹変形の伴った病斑が多い個体を除去するなどの注意が必要と考えられた。【謝辞】本研究は「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」によって行われた。
  • 田端 雅進, 宮腰 哲雄, 橋田 光
    セッションID: G22
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】日本の主な漆生産地から入手した漆液の特性を評価し優良系統を識別するために、化学性と塗膜性を分析した。【方法】用いた漆液は岩手県浄法寺産、新潟県村上産及び茨城県奥久慈産の初辺・盛辺・遅辺漆、浄法寺産裏目・止掻・枝・根漆、中国城口産・嵐康産・比節産・毛具産生漆であった。これらの漆液についてウルシオール、水分、ラッカーゼ酵素の活性、pH、漆液の乾燥性などを測定した。 【結果】種々の漆液を分析した結果、乾燥性は初辺漆、盛辺漆、遅辺漆の順に良く、裏目漆はかなり時間がかかり乾燥したが、止掻・枝・根漆は乾燥しなかった。中国城口産生漆の乾燥性は良好であったが、中国嵐康産・比節産・毛具産生漆は乾燥が遅かった。これらの漆液中のウルシオール分は67~80%とかなり高い含有量であった。一方、乾燥性の良い盛漆はラッカーゼ酵素の活性値が高いが、乾燥性の悪い漆は活性値が低かった。また、初辺漆のラッカーゼ酵素は高い活性値を有していたが、遅辺・裏目漆のそれはやや低く、止掻・枝・根漆のそれらは極めて低い活性値であった。以上の結果、漆液の乾燥性にはラッカーゼ酵素の活性値が重要であることが判明した。
  • 橋田 光, 田端 雅進, 久保島 吉貴, 牧野 礼, 外崎 真理雄
    セッションID: G23
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    ウルシ材は水桶や網浮木として用いられてきたが、現在では漆液採取後のウルシ材はほとんど利用されていない。ウルシ材の有効利用法の一つとして織布への染色が有望と考え、本研究では、ウルシ材抽出成分の染色特性を明らかにすることを目的とした。
    ウルシ材成分の水による効率的抽出条件を検討した結果、炭酸ナトリウムの添加により無添加の1.5倍量以上(総フェノール量換算)を抽出可能であることを明らかにした。ウルシ材抽出染液による染色特性について多繊交織布を用いて検討した結果、含窒素繊維で染色性が良好なこと、炭酸ナトリウム添加抽出による染液に酢酸を加えることで濃染が可能なことを明らかにした。ウルシ材染色布の金属塩による媒染を検討した結果、炭酸ナトリウム添加抽出・酢酸添加染色で媒染による発色も濃色になること、染色・媒染を2回繰り返すことで濃染が可能なことを明らかにした。また、ウルシ材染色した綿布は、媒染・濃染することで洗濯による色落ちを抑制できることを確認した。ウルシ材染色した綿布の抗菌性を評価した結果、黄色ブドウ球菌及び大腸菌に対し抗菌性があることを明らかにした。
  • 久保島 吉貴, 外崎 真理雄, 橋田 光, 田端 雅進
    セッションID: G24
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    ウルシ材は耐湿・耐水性に優れるため水桶や馬桶などに用いられ,材が軽いことから網浮木として用いられてきた。また材色を活かして寄木細工にも使用されている。しかし材の特性は一部の地域産材に関しては得られているものの十分な知見が得られているとは言えない。現状では伐採後に放置されている樹液採取後のウルシ材の利用し新たな産業の創出や漆産業の維持・拡大につなげて行くには,材の特性を解明し,特性を活かした利用法を開発する必要がある。そこでウルシ材の主に物理的,力学的な物性を検討した。その結果,静的曲げヤング率,静的曲げ強度および衝撃曲げ吸収エネルギーは小さいものはスギと同程度で大きいものはカラマツおよびアカマツと同程度であり,密度と有意な相関関係が存在した。従って材の強度は密度から推定される妥当な範囲であると考えられるが,樹液採取が樹齢10-15年程度で行われるため丸太の直径が小さいことと,生産本数がスギ,ヒノキおよびカラマツなどと比較して極めて少ないことなどを考慮した用途開発が望まれる。用途としては既に開発されているものに加え産地の小中学校や体験教室などの教材にも利用出来るのではないかと考えられる。
生物多様性の保全を促進する企業・経済活動
  • 香坂 玲
    セッションID: H01
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    生物多様性の保全と持続可能な利用には、理念や法的な規制だけでなく、企業の取り組みを含む社会経済的な活動様式の変更が不可欠であると国際的に認識されてきている。そこで、本稿では国際的な取り組みの具体的な事例として、欧州のフィンランドやドイツにおける行政の取り組みについて、コスト負担や行財政改革の観点から紹介をする。

    生物多様性と生態系サービスについて、どのような役割と任務を公的な機関が担い、どのようなインセンティブを準備することで、どのような役割を民間企業が担っていくように制度が設計されているのかを検証する。民営化、直接支払いなどの金銭的な流れだけではなく、人的な育成をどのように実施しているのかということも視座にいれて、フィンランド政府の人材育成制度の認証制度、ドイツの行政の団体について解説する。
  • 栗山 浩一
    セッションID: H02
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    生物多様性を保全するためには多額の資金が必要である。とりわけ,財政基盤の弱い途上国では自力で生物多様性を保全するための資金を確保することは困難である。そこで,従来の政府を中心とした保全策を見直すとともに,私たちの経済活動自体が生物多様性や生態系サービスを考慮して,持続可能な社会へと転換することが求められている。 そのためには,現在は認識されていない生態系サービスの価値を適切に評価し,新たな市場を構築することが不可欠である。そこで,本報告では生態系サービスの価値を金銭単位で評価したこれまでの実証研究を整理し,生物多様性の喪失によって社会が被るコストを把握することで,生態系と生物多様性を保全することの社会的意義を示す。
  • 尾崎 研一
    セッションID: H03
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    最近、企業等によって生物多様性の保全活動がさかんに行われるようになった。しかし、これらの活動が本当に生物多様性の保全につながるのかについては不明な点が多い。そこで企業等の取り組みを整理し、その効果を検討してみる。企業による活動は大きくは社会貢献としてのものと、本業を通した取り組みに区別することができ、さらに後者は経営上のリスクを回避するためのものと、チャンスを作り出すものに分けられる。社会貢献としてのものには社員による保全活動等があるが、これは環境教育的な意味合いが強く保全上の効果を検証することの意義は小さい。一方で、本業を通した取り組みは、特にリスクの回避を目的とする場合にはその効果をモニタリングし、目標に向けた計画の修正が必要となる。これには認証制度の利用や研究者との協働が有効だと考えられる。一方、ビジネスチャンスの創出を目的とした活動は多岐に渡るため、その効果をどのように検証するのかを一律に考えるのは難しい。例えば、環境に配慮した商品が、使い方によっては種間の相互作用を介して生物多様性に悪影響を及ぼす可能性がある。保全目標や地域性を考慮に入れた効果の検証が重要だと考えられる。
  • 小林 秋道
    セッションID: H04
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    住友林業グループは、創業から約320年、生物多様性の恵みであり再生可能な生物資源である「木」を活かし、山林事業から木材建材流通・製造事業、住宅事業、そして生活サービス事業へと、住生活に関するさまざまな事業を展開してきました。
    住友林業グループは、生態系が維持され、木という豊かな森の恵みが持続的に育まれなければ、自らの事業基盤を失うリスクもあると考えています。また、生物の宝庫であり、きれいな水や酸素、土壌など生命の源を生み出す森に直接関わっており、健全で持続可能な森を育てていく責任もあります。
    2012年3月には、「住友林業グループ生物多様性宣言・行動指針・長期目標」を公表しました。これは、2010年10月愛知県名古屋市で開催された生物多様性条約第10回締約国会議で採択された生物多様性の国際的な目標である愛知目標について、住友林業グループとして貢献できることを網羅的に検討し、目標として設定し、生物多様性に関わる社会的責任を果たしていくことを明確にしたものです。
    本シンポジウムでは、この生物多様性宣言に基づく住友林業グループの生物多様性に係わる具体的な活動をご紹介します。
  • Langor David, Volney Jan , Spence John, Witiw Jim
    セッションID: H05
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    The concept for the Ecological Management Emulating Natural Disturbance (EMEND) experiment arose from a need to develop a sustainable ecosystem approach to managing the boreal forest of Alberta. Using a broad partnership approach, a 1000 ha experiment was designed and established, including variable residual harvesting treatments (clumped and distributed), fire treatments, silvicultural treatments and controls. EMEND is now in its 12th year post-treatment. Lessons learned from EMEND: science have been adopted by the forest industry and have influenced forest management policy. EMEND has been used to train a new generation of professionals who are influencing forest management across Canada and internationally. I will describe the steps from concept to operationalization and the ingredients necessary to ensure success at each step.
  • 會田 洋平, 李 政哲
    セッションID: H06
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    ゴールドスタンダード(至適基準)-バードフレンドリー®コーヒー(BF)の認証基準は100%有機栽培、森林基準、他コーヒーとのブレンド不可など、その基準の高さ、取得の厳しさからコーヒー業界ではゴールドスタンダードと称される。厳格な基準は、一杯のコーヒーから環境保全、渡り鳥の保護など自然環境保護をダイレクトに訴えることを目的としている。

    BFの起源は90年代後半、米国スミソニアン協会傘下のスミソニアン渡り鳥センター(SMBC)がアメリカ大陸を縦断する渡り鳥の数が減少していることを観測したことから始まる。縦断中継地となる中米諸国での森林伐採が減少の理由の一つとして唱えられ、環境保全、渡り鳥の保護を目指したSMBCは同地域の主要農産品であるコーヒーに着目、森林を伐採しないコーヒーの生産基準を設定、同基準を満たしたコーヒーをバードフレンドリー®と認定し、プレミアム価格での取引を可能とした。

    日本市場では、2004年に住友商事が独占輸入権を取得、小川珈琲㈱や㈱キャメル珈琲などのロースターと協働でBFコーヒーの商品化を進めている。

    本講演ではBFの認証基準などを軸に、現在・過去・未来について発表する。
  • 西村 修
    セッションID: H07
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    中越パルプ工業(株)は、産業用紙から印刷用紙まで生産販売する総合紙パルプメーカーです。年間約100万BDT(絶乾トン) の木材チップを扱います。今回は、当社の本業を通じた社会的課題への取り組み「竹紙」「里山物語」をご紹介いたします。
    「竹紙」の取り組みは1998年より始めました。全国に広がる放置竹林の問題は、現代では使われる事が少ない竹を大量に使うことこそが、最大の解決策です。木材に比べて効率の悪い竹を試行錯誤の末、日本で唯一マスプロ製品として紙にしています。未利用資源である国産竹2万トン/年を越える集荷は、日本最大の活用事例でしょう。
    もう1つは2009年から始めた「里山物語」という仕組みの紙です。クレジット方式を用いて、100%間伐材の紙と同じ効果を生み、間伐材が最大限に活用されています。証明書付き間伐材3万3000BDT/年は、製紙業界で最大の集荷量です。また、紙代金に含まれる寄付金が、里山に精通したNPO法人を通じて里山へ還元されています。
    これらは、森林、里山、生物多様性保全や、地域経済への貢献が評価されているが、より効果がある持続的な取り組みとなるよう議論したいと思います。
森林の分子生態学 ―新たな地平を目指して―
  • 加藤 珠理, 松本 麻子, 吉村 研介, 勝木 俊雄, 岩本 宏二郎, 河原 孝行, 向井 譲, 津田 吉晃, 石尾 将吾, 中村 健太郎, ...
    セッションID: H08
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    ‘染井吉野’はサクラの栽培品種のなかでも特に馴染み深い花木であり、その起源については様々な研究分野において熱心に調べられてきた。著者らは昨年の森林学会において、核SSRマーカーを用いたDNA多型分析を行い、‘染井吉野’の起源について再評価した。その結果は、‘染井吉野’の起源にエドヒガンとオオシマザクラが関与し、他の野生分類群が関与する可能性は低いことを、改めて示すものであった。本研究では、更に詳細な解析を行い、‘染井吉野’がオオシマザクラとエドヒガンの雑種第一代である可能性が高いことを明らかにした。また、‘染井吉野’と他の栽培品種の遺伝子型を比較したところ、‘染井吉野’が片親であるとされる栽培品種(‘衣通姫’、‘咲耶姫’、‘仙台吉野’など)だけでなく、DNAの突然変異などを考慮して数座のミスマッチを許容する場合、サトザクラ系の栽培品種のいくつかについても親子関係が成立し得ることがわかった。これらの栽培品種は、‘染井吉野’と直接の親子関係を持たないかもしれないが、何らかの血縁関係はあると考えられ、‘染井吉野’とサトザクラ系の栽培品種の作出過程に共通の親個体が関与している可能性が高い。
  • 稲永 路子, 中西 敦史, 鳥丸 猛, 西村 尚之, 戸丸 信弘
    セッションID: H09
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    成木が高密度に分布する優占種の樹木集団では短距離の受粉が卓越する。もし成木集団内に遺伝構造が存在すると二親性近親交配が増加することから、適応度が低い次世代が生産される。しかしコホートの樹齢が上がるにつれて、構成個体数は減少し、近親交配由来の個体は集団から排除される。以上の仮説が正しければ、コホートの樹齢が上がるにつれて推定される有効な花粉散布距離は長くなり、近交係数は減少すると考えられる。この仮説を検証するために、樹木集団内の複数の生育段階において推定花粉散布距離(dp)、プロット外からの花粉移入率(mr)、近交係数(FIS)を比較した。鳥取県大山ブナ林の4 haプロットにおいてブナの成木、種子、5年生実生および稚樹を材料とし、マイクロサテライトマーカー7座による親子解析と近隣モデルによる花粉散布推定を行なった。dp、mrはともに種子よりも実生で高い値を示し、とくに実生のmrは80%を超えた。またFISは4生育段階間で有意差が検出されなかったことから、種子生産時に近親交配を回避する機構が存在する可能性が示された。発表では、稚樹の花粉散布を含めた解析結果について報告する。
  • 岩泉 正和, 大谷 雅人, 那須 仁弥, 平岡 宏一, 高橋 誠
    セッションID: H10
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
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    主要な優占樹種ではしばしば、景観内で数多くの集団が地形的要因等によって断続的に配され、「景観>集団>個体」という階層的な遺伝的構造により地域特有の遺伝変異が保たれていると考えられる。本研究では、福島県いわき市のアカマツ天然林において、これまで詳細な遺伝子流動の解析を行ってきた1つの尾根上の集団(調査範囲:3.75ha)に、周辺の尾根に生育する8集団を加え計9集団を調査対象として(約225ha)、各3台の種子トラップにより収集した散布種子の遺伝変異を解析した。胚と雌性配偶体(母親由来の半数体)の組織別にSSR分析を行い、集団間・集団内トラップ間での雌雄の配偶子の遺伝的異質性を正確に区別して評価した。その結果、雌性配偶子の集団間・トラップ間の遺伝的分化度はいずれも有意であり、全体的に雄性配偶子のそれよりも高い値を示すとともに、雌性配偶子では集団間の分化度の方がトラップ間のそれよりも高い値を示した。当該樹種の景観スケールでの遺伝的多様性の構築には、花粉による遺伝的交流がもたらす均一な雄性配偶子の遺伝変異に加え、集団間と集団内の両スケールでの雌性配偶子の遺伝的異質性が寄与していることが考えられた。
  • 黒河内 寛之, 齊藤 陽子, 中馬 美咲, 湯 定欽, 井出 雄二
    セッションID: H11
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
     人為的に導入された外来種の逸出や拡散は、在来種の生息地を圧迫し、在来生態系を改変し得るため、世界的に問題となっている。侵略性を発揮する外来樹木は、侵入先では、起源集団が限られること、地理的遺伝構造が不明瞭なこと、栄養繁殖による分布拡大といった共通点がある。中国原産のニワウルシは、欧米では侵略的とされるが日本にも広く分布する。本研究は、本種が日本においても侵略的であるかを明らかにするため、その遺伝構造や分布拡大に関わる繁殖特性を調べた。
     具体的には、①中国南東部を含む68地点の葉緑体DNAの類縁関係、②18集団の葉緑体および核DNAの遺伝構造、③逸出個体の点在する2地点の葉緑体と核の遺伝子型からの個体間の血縁関係を解析した。
     その結果、①系統の異なる2葉緑体ハプロタイプが日本各地に分布していた。②核DNA多型を用いたSTRUCTURE解析の最適クラスター数は2で、それぞれ異なる葉緑体ハプロタイプに対応した。③栄養繁殖に由来する延長数10mのジェネット、種子繁殖に由来する数100m離れた個体間の血縁関係が認められた。これらの遺伝構造や繁殖特性は、本種が日本でも侵略的であることを示唆する。
  • 鈴木 節子, 永光 輝義, 戸丸 信弘
    セッションID: H12
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    近交弱勢の大きさは周囲の環境によって変化することがある。本研究では雌雄同株のシデコブシにおいて交配様式(自殖・他殖)と生育環境(温室・野外)が実生の適応度(生存率、苗高)に与える影響を調べることによって、環境依存性近交弱勢が生じるかどうかを検討した。さらに野外において実生の環境(光量子束密度、コケの有無)が実生の適応度に与える影響を調べた。 野外で自然受粉した種子に由来する実生を温室で育て、その生残と成長を4年間追跡し、野外においても自然に発芽した実生の生残と成長を3年間追跡し、同時に各実生の環境を調べた。SSR解析によって実生が自殖か他殖かを判別し、温室と野外における近交弱勢の大きさ(他殖実生の適応度に対する自殖実生の適応度の割合)を、1-3年生実生の3つの生育段階で比較した。その結果、生存率において全ての生育段階で有意な近交弱勢が示され、さらに1年生実生において野外よりも温室において近交弱勢が大きくなる傾向があった。また、苗高は生育段階が進むにつれ近交弱勢が増加する傾向にあるが、野外と温室で有意差はなかった。さらに野外の実生の生存率はコケの存在によって有意に高まることが示された。
  • 木村 恵, 壁谷 大介, 齋藤 智之, 森口 喜成, 内山 憲太郎, 右田 千春, 千葉 幸弘, 津村 義彦
    セッションID: H13
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    クローナル繁殖は植物の個体群動態と遺伝構造を特徴付ける重要な要因である。本研究では全国のスギ天然林13集団を対象に、クローナル繁殖の1つである伏条繁殖の頻度を明らかにし、遺伝要因と環境要因が伏条繁殖に与える影響を調べた。核SSR8座を用いたクローン解析の結果、10集団で伏条がみられ空間遺伝構造に強く影響していた。伏条の頻度は集団間で異なったことから、説明変数に環境要因(積雪深)、遺伝要因(Structure解析によるQ値)、個体サイズ(胸高断面積合計:BA)、目的変数に各ジェネットが伏条繁殖するか否かとジェネットあたりのラメット数の2項目を用いて一般化線形混合モデルによりモデル選択を行った。その結果、伏条するか否かにはQ値、積雪深との交互作用、BAが選択され、積雪の多い地域では個体サイズが小さく、遺伝クラスター1に由来しないジェネットほど伏条を行うという結果が得られた。またジェネットあたりのラメット数はBAが小さいほど減少する傾向がみられた。以上から、スギにとって伏条は氷期のような厳しい環境下で個体群を維持するための重要な繁殖様式として機能してきたと考えられた。
  • 石塚 航, 後藤 晋
    セッションID: H14
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
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    分子生物学の進展により,遺伝子レベルで生物の適応進化の実態が解明できるようになってきた.そのためは,遺伝様式を解明できる実験材料の作出が重要となる.しかし,繁殖までに時間がかかる樹木では,(自然集団が対象となる場合にはとくに,)表現型分離が観察できる雑種第二世代(F2)以降の材料を用いた研究例が乏しい.
    東京大学北海道演習林では北方針葉樹トドマツ(モミ属)の標高間相互移植試験が1970年代より行われ,自生標高への適応が示唆されている.また,高・低標高自然集団を用いた人工交配試験地も同年代に設定されており,すでに一部個体が繁殖段階に達しているため,表現型分離を観察できるF2世代が作出できる状態にある.
    そこで,高・低標高の集団内・集団間交配で作出した,遺伝子組成の異なる母樹群を対象として自然交配種子を採集し,2010年春より共通圃場試験を行った.成長,耐凍性,季節性の形質に着目し,実生の形質値の分散と遺伝的背景との対応を調べ,変異が遺伝的基盤に基づくことを確かめた.以上の結果をもとに,標高に沿ったトドマツの適応的形質とその遺伝的基盤について紹介する.
  • 玉木 一郎, 畑中 竜輝
    セッションID: H15
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    フモトミズナラは東海地方と関東地方の一部に生育するコナラ属の希少樹種である。本研究では,自生地が多く存在する岐阜県の14集団417個体を対象に,それらの遺伝的多様性の程度や遺伝的分化の程度を明らかにすることを目的とした。自生地を網羅する14地域から,集団あたり約30個体の葉サンプルを採取した。DNAを抽出し,EST-SSR7座の遺伝子型を決定した。各集団におけるHEと対立遺伝子数は,それぞれ平均(SD)0.745(0.012)と8.8(0.5)の値を示し,集団間のばらつきは小さかった。GSTとHedrickのG'STは,それぞれ0.009と0.049の値を示し,遺伝的分化は6/7座で有意であった。しかし,DA遺伝距離に基づくNJ樹からは明瞭な地理的傾向は認められず,地理的距離とDA遺伝距離の相関も有意ではなかった(r = 0.062; P = 0.659)。STRUCTURE解析においても,単一の任意交配集団が支持されたことから,岐阜県のフモトミズナラの遺伝的分化の程度は弱いことが示唆された。今後は同じ地点から採取した近縁種かつ普遍種のコナラと遺伝的変異の程度を比較する予定である。
  • 平岡 宏一, 大谷 雅人, 宮本 尚子, 那須 仁弥, 生方 正俊, 岩泉 正和, 宮下 智弘, 高橋 誠
    セッションID: H16
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/20
    会議録・要旨集 フリー
    シラカンバ(Betula platyphylla)とダケカンバ(B. ermanii)は、ともにアジアに生育するカバノキ属樹種である。本研究では、これら2種の日本列島における地理的な遺伝構造を検出することを目的とした。シラカンバは北海道、本州北部および本州中部に分かれて分布するが、核SSRマーカーを用いた集団解析ではこれら3地域で異なる遺伝的変異が検出され、地理的な分布と一致した。シラカンバの葉緑体変異に関して、広範囲(25領域, 48,568bp)にわたる塩基置換変異の探索を行ったが、SSR1領域にのみ多型が検出された。その領域を用いて解析を行った結果、北海道では検出された4つの葉緑体ハプロタイプすべてが観察されたが、本州では単型であった。一方,ダケカンバの葉緑体では多数の塩基置換変異が検出された。シラカンバは集団の消失・再定着を頻繁に繰り返す生活史を有しているのに対し、ダケカンバは安定的に集団を更新維持する傾向が強く、極寒な環境下でしばしば極相林を形成する。同属種間で遺伝的変異に大きな違いが生じたのは、対照的な生活史に関係した有効集団サイズの違いに影響されているためかもしれない。
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