順調な経済成長を遂げてきたバングラデシュでは、農村住民にとって有利な非農業就業機会が確実に増え、労働市場が逼迫し、実質賃金の高騰が農業にも及んでいる。こうした中、従来あまり目立たなかった土地貸借市場の拡大が起こっている。本稿は、ボグラ県とタンガイル県の2つの調査村の1992年と2009年の全世帯データに基づき、土地貸借市場の拡大を確認し、その実態を明らかにし、さらに拡大をもたらした要因分析を行う。土地貸借市場の拡大が、2つの村で異なる形で起こっているにもかかわらず、伝統的富農層の大規模直接経営からの撤退、土地なしや零細土地所有世帯による小作の増加など、共通する現象が確認された。土地貸借市場の拡大は、労働者の雇用経費の高騰により、伝統的富農経営が成り立たなくなりつつあること、ビジネス、給与所得職、海外出稼ぎ等の有利な非農業就業機会が拡大していること、農業機械化による賃耕市場の発展など機能的土地なし層の小作経営を可能にする条件が整ってきたことなどが、その背景要因として重要であること、などが明らかになった。
ブータン国王は、時に「人民の王」や「菩薩王」と呼ばれ、人々に尊敬と敬愛の念を抱かれている。一方、国民総幸福量や「上からの民主化」など、ブータン国王の影響が著しく反映されるブータン社会において、王制がブータンにおける国民形成と結び付けて語られることはこれまでほとんどなかった。そこで本稿では、1967年から2000年までの間に発刊されたKuensel 社の英字新聞を用い、ブータン国王による地方行幸の目的とその機能の分析を通じて、国民形成への影響を明らかにした。国王はブータン各地を行幸し、スピーチの実施や人々と直接触れあう中で、開発への参加と協力を繰り替えし主張してきた。そのうえで国王による地方行幸は、開発計画と密接に結びつき、南部問題といった社会状況の変化の中で、「開発をともに進める」という国民が共有すべき属性が定義づけられ、強化されていく場として機能したと考えられる。
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