南アジア研究
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2014 巻, 26 号
選択された号の論文の21件中1~21を表示しています
論文
  • ―古代インドにおける祖先祭祀の対象とその変遷―
    虫賀 幹華
    2014 年2014 巻26 号 p. 7-25
    発行日: 2014/12/15
    公開日: 2016/01/08
    ジャーナル フリー
    古代インドの祖先祭祀として理解されるシュラーッダおよび同儀礼で祀られるピトリたちpitaraḥはそれぞれ「祖霊祭」「祖霊」と訳されてきたが、それらの概念が十分に考察されているとは言いがたい。本稿では、紀元前3世紀から後3世紀頃にかけて編纂されたスートラ文献およびその補遺文献のうち、シュラーッダに関する記述を収録している28のサンスクリット語文献を選び、祖霊という語で曖昧にされてきたシュラーッダの対象を具体的に提示した。時代が下るにつれ、「ピトリたち」すなわち〈父・父方の祖父・父方の曾祖父〉だけでなく、彼らの〈妻たち(母・父方の祖母・父方の曾祖母)〉、〈母方の祖父たちとその妻たち(母方の祖父母・母方の曾祖父母・母方の高祖父母)〉も祭祀対象として規定されたことが明らかとなった。本稿の後半では、母方親族への祭祀の発展過程を示し、それと「指定女の息子putrikāputra」の義務との関連性を仮説的に提示した。
  • ─インド・クンブメーラー祭における女性行者の親密ネットワーク─
    濱谷 真理子
    2014 年2014 巻26 号 p. 26-45
    発行日: 2014/12/15
    公開日: 2016/01/08
    ジャーナル フリー
    本論文の目的は、インドのクンブメーラー祭を舞台として、ヒンドゥー女性行者が修行者社会におけるジェンダー差別や抑圧をどのように受け止め、生きる場や生きる喜びを獲得しようとしているか、「家族」として意味づけられる親密ネットワークに着目して明らかにすることである。事例考察によって、女性行者もまた家住女性と同様に、家父長制的な師弟集団や、血縁に基づく親族、男性パートナーなど、物質的・精神的にさまざまなレベルの「家族」に依存していることがわかった。その一方、自己の威信や集団内でのポジショニングのため、生活していくために「家族」を活用する、あるいは女性が生きやすいようにそれらを再構築しようとする姿もみとめられた。そうした「家族」への依存や再構築を通じて、女性行者たちが絡めとられる社会的しがらみと、そのなかで生活上の便宜や修行上の意味を見出していこうと模索する姿を、本稿では描き出そうとした。
  • ─ 指定カースト留保議席導入をめぐる政治過程を中心に─
    板倉 和裕
    2014 年2014 巻26 号 p. 46-72
    発行日: 2014/12/15
    公開日: 2016/01/08
    ジャーナル フリー
    本稿は、社会的マイノリティに対して、留保議席のような政治的保障措置を世界に先駆けて導入したインドの経験に注目し、インド建国の指導者たちがなぜそのような措置を憲法の中に盛り込むことにしたのかを考察する。インドの制憲過程を扱った研究の多くがムスリムの処遇問題に関心を寄せてきた一方で、指定カーストの指導者たちによる、政治的権利獲得のための主体的な活動を考察に入れた政治過程の分析は十分に進められてこなかった。そこで、本稿では、指定カーストの中心的指導者であったB・R・アンベードカルに焦点を当て、制憲議会を取り巻く政治環境の変化に対するアンベードカルの適応過程と、それと同時に形成された会議派指導者との協力関係に注目し、インドの制憲政治を再検討することにより、指定カースト留保議席がインド憲法にいかにしてもたらされたのかを明らかにする。
  • ―デリー・スラム地域における総合的乳幼児発達支援事業とNGO の働きを中心に―
    渡部 智之
    2014 年2014 巻26 号 p. 73-99
    発行日: 2014/12/15
    公開日: 2016/01/08
    ジャーナル フリー
    本稿は、デリーの総合的乳幼児発達支援事業におけるNGOの機能を明らかにし、ポスト開発国家時代の育児支援ネットワークの構築における市民社会の役割を考察するものである。事業の官民連携化が進む中で、事業目的の効率的推進という機能を果たすNGOは貧困者の参加を事業目的に寄与する範囲に限定した。 また、事業と当事者ニーズとの齟齬解消という機能を果たすNGOは貧困者が声を上げることができる場を設けた。これらは、参加の程度は異なるものの貧困者の参加を進展させ、それぞれ貧困者の潜在能力、他人との議論や交渉を通じた協働的な能力であるキャパシティの向上に資する役割を果たし、育児を社会的に分担する基盤を構築した。つまり、育児支援ネットワークの構築における市民社会の役割を捉えるためには、参加の程度に着目する従来の見方ではなく、参加者の参加様態およびそれを媒介する市民組織の形態に着目することが決定的に重要であるといえる。
研究ノート
  • ―都市ガバナンス改善プロジェクトを事例として―
    七五三 泰輔
    2014 年2014 巻26 号 p. 100-123
    発行日: 2014/12/15
    公開日: 2016/01/08
    ジャーナル フリー
    1990年代以降に実施された構造調整プログラムに沿った経済・産業分野における政策改革は、バングラデシュの工業化を中心とする経済発展を促している。 一方、都市部における急激な人口増加は、都市特有の問題を深刻にしている。都市における公共サービスを改善するため、主要ドナーは都市インフラ事業とともに、地方自治体のガバナンス改善を支援している。中でもアジア開発銀行の支援によって実施されている都市ガバナンス及びインフラ改善事業は、地方都市において喫緊の課題となっているインフラ整備を実施しつつ、これまで行政に係る機会の少なかった女性や貧困層を含め、都市住民の参加を推進する活動を実施し、階層型統治形態から、ネットワーク型統治形態への移行を支援するモデル事業として注目されている。本研究では、この事業における住民参加型のガバナンス構築の実態を分析し、バングラデシュにおける参加型ガバナンスの可能性について検討する上での、今後の課題を示す。
  • 水上 香織
    2014 年2014 巻26 号 p. 125-147
    発行日: 2014/12/15
    公開日: 2016/01/08
    ジャーナル フリー
    20世紀初頭北米太平洋岸におけるインド系移民は、駒形丸事件やガダル運動といった政治的事件に集団参加したことで知られる。従来の研究ではこうした事件を生んだ北米インド系移民社会の背景を考えることは関心の主眼になってこなかった。またインド系移民の政治的事件への参加はインド系移民内の政治意識の高まりや宗教的紐帯と関連付けて論じられてきたが、背景と成り得た移民内での経済的な相互関係に関してはほとんど議論されてこなかった。 そこで1910年前後のバンクーバー市を例にインド系移民社会の背景を精査し直したところ、彼らは出稼ぎ的性格が強くカナダでの定着志向性が低い集団であったことが示された。インド系移民たちは一見移動性の高い集団であったが、カナダでの永住を前提としない場合においても経済的成功を目指す中で相互扶助的な組織を形成したりインド系移民の間に株主を求める会社を設立したりするなど、社会的紐帯を形成することがあった。
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