行動医学研究
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10 巻, 2 号
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原著
  • 荒井 弘和, 竹中 晃二, 岡 浩一朗
    2004 年 10 巻 2 号 p. 59-65
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    認知的方略は、運動に関する文献において、興味深い方略とされてきた。われわれは、2つの主要な認知的方略である、連合的方略と分離的方略に注目した。連合的方略は、課題 (運動) への集中を指し、分離的方略は、課題から注意をそむけることを意味する (Stevinson & Biddle, 1998)。競技スポーツに関する多くの文献があるにも関わらず、非競技場面で認知的方略を用いた運動を行う際の心理学的状態については、ほとんど明らかにされていない。本研究は、非競技場面において、認知的方略を用いた一過性運動の心理学的状態にもたらす効果を検討した。16名の被験者が集められ、カウンタ・バランスされた2つの条件、連合的方略条件と分離的方略条件に参加した。両方の運動条件において、被験者は中等度の強度による10分間のサイクリング運動を行った。運動前、ウォームアップ時、運動終了直後、および運動終了5分後において、被験者は、Waseda Affect Scale of Exercise and Durable Activity (WASEDA; 荒井他、2003b) とFeeling Scale (FS; Rejeski, 1985) という2つの運動固有尺度の評価を行った。分散分析は、両方の条件が高揚感、落ち着き感、および快感情を増加させることを示した。そして、分離的方略を用いた運動は、連合的方略を用いた運動と比較して、10分間の運動終了直前における快感情を増加させることを明らかにした。
  • 井澤 修平, 野村 忍
    2004 年 10 巻 2 号 p. 66-72
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    多くの欧米の研究者は、冠動脈疾患のリスクを考慮するうえで、敵意性、とくにシニシズムの役割を強調している。本研究の目的は、シニシズム尺度 (CQ) の作成とその妥当性を検討することであった。718名の学生と102名の従業員を対象にBarefootら (1989) の分類に基づく13のシニシズムを表す項目を実施した。探索的・検証的因子分析を行った結果、6項目1因子が抽出された。これらの項目の信頼性係数は学生サンプルで.753、従業員サンプルで.758であった。CQは敵意尺度の間に中程度の関連が示された。また日常ストレッサー・気分との相関を求めたところ、シニシズムの高いものは高頻度の日常ストレッサーと怒り気分を示した。12週間の間隔をあけて行われた再テスト結果との相関係数は十分に高いものであった (r=.704)。これらの結果はCQの妥当性と信頼性を支持するものである。CQはパブリックヘルスの調査において標準化された有用な尺度であると考えられる。
  • 佐藤 寛, 石川 信一, 新井 邦二郎
    2004 年 10 巻 2 号 p. 73-80
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、児童の体系的な推論の誤りが不安障害とうつ病性障害の症状に与える影響について検討することであった。まず、児童の不安とうつを喚起する場面において特徴的に見られる推論の誤りを測定する尺度を作成するため、児童用認知の誤り尺度 (Children's Cognitive Error Scale; CCES) の改訂を行った。217名の小学生に対して予備調査を実施し、児童がうつを喚起されやすい11の場面を抽出した。そして、これらの場面をCCESの児童の12の不安喚起場面と比較し、一致した9の場面を児童用認知の誤り尺度改訂版 (CCES-R) の場面とした。次に、452名の小学生に対して調査を行い、再検査信頼性およびα係数による内的整合性の検討を行った。その結果、十分な信頼性係数を得ることができた。また、妥当性についても、因子的妥当性と内容的妥当性の観点から検討を行い、CCESは十分な妥当性を有していることが示された。さらに、635名の小学生を対象に調査を行い、推論の誤りが不安障害とうつ病性障害の症状に与える影響について検討した。構造方程式モデリングを用いた分析の結果、体系的な推論の誤りは不安症状とうつ症状のいずれに対しても正の標準化係数を与えていることが示された。また、この影響は、不安症状とうつ症状の間の関連を統制した上でも有意に認められた。以上のことから、体系的な推論の誤りは児童の不安障害とうつ病性障害の症状に影響を及ぼしていることが示唆された。最後に、児童の不安障害とうつ病性障害に対して、推論の誤りに焦点を当てた認知療法的介入の必要性が議論された。
  • 津田 茂子, 田中 芳幸, 津田 彰
    2004 年 10 巻 2 号 p. 81-92
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    妊娠後期 (妊娠36週以降) の妊婦79名 (平均年齢30.0歳、19~41歳) を対象として、妊娠後期の心理的健康感と出産後のマタニティブルーズとの関連性を調べるとともに、マタニティブルーズに及ぼす産科的要因 (母体合併症の有無、出産経験、新生児の状態、分娩時の異常) と世帯形態、年齢などの影響を検討した。妊婦の心理的健康感は自記式のWHO Subjective Well-being Inventory (SUBI)、すなわち「心の健康度」と「心の疲労度の少なさ」の2つの下位尺度から構成された質問紙によって測定し、マタニティブルーズはSteinのマタニティブルーズ自己質問表によって出産後5日目に評価した。
    SUBIの標準化された得点区分に従えば、対象者の妊娠後期の心理的健康感は、心の健康度と心の疲労度の少なさ、いずれも高く自覚されていた。臨床上、マタニティブルーズと判定されるマタニティブルーズ高得点者 (8点以上) は16.2%であり、先行研究と比較すると、若干低い発症率であった。出産後5日目のマタニティブルーズ症状は妊娠後期の心理的健康感と有意な負の相関を示した。すなわち、妊娠後期の心の健康度が高いほど、マタニティブルーズの全症状と4つの下位症状 (情動易変性、抑うつ感、精神運動制止、自律神経系症状) は軽度であり、同様に、心の疲労度が少ないほどこれらマタニティブルーズの症状も少なかった。また、マタニティブルーズ症状と関連する産科的要因として、年齢の高さ、母体合併症、新生児の異常などが示された。さらに、心の健康度と心の疲労度の少なさの関数として、マタニティブルーズ症状得点は有意もしくは有意傾向をもって減少した。重回帰分析の結果は、出産後5日目のマタニティブルーズを予測するSUBI下位尺度項目として、身体的不健康感の少なさ、近親者の支え、社会的な支え、達成感、人生に対する失望感の少なさなどが、説明変数として有意であることを明らかにした。さらに、ロジスティック回帰分析の結果より、臨床的なマタニティブルーズの発症を予測する要因は妊娠後期の心の疲労度の少なさであることが示された。
    これらの知見より、出産後のマタニティブルーズの影響を軽減するための方策として、妊娠後期の心理的健康感、とりわけ心の疲労度を少なくすることが重要であること、さらに、管理する必要のある産科的要因として母体合併症の有無や新生児の異常が明示され、介入の方向性が明確になった。
資料
  • 島井 哲志
    2004 年 10 巻 2 号 p. 93-100
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    本研究は、わが国の一般集団における、喫煙がストレスへの有効な対処方法であるという信念の浸透と社会的影響を検討したものである。ここで分析した資料は、厚生省による平成12年度精神保健福祉動向調査によるものであり、2000年6月1日に実施されたものである。調査対象者は、平成12年国民生活基礎調査の調査地区から無作為抽出した300地区内における満12歳以上の世帯員であった。調査回収総数は32,729であり、このうち集計不能なものを除いた集計対象数は32,026であり、男性15,217、女性16,597、性別無記入212であった。結果は2つのことを示している。第1は、タバコをすうことをストレス対処と回答した割合は、全体の14.6%であったことである (男性22.8%、女性7.2%)。これは、喫煙者率を考慮すると、男性では喫煙者の50%程度、女性では70%程度にのぼると考えられる。第2は、喫煙はストレス対処のさまざまな方法の中では低い位置にあるということである。すなわち、喫煙をストレス対処の主要な方法にあげたものはわずかに1.9%に過ぎず、また、喫煙をストレス対処としてあげた集団は、積極的に問題に取り組んだり、感情に焦点をあてた、その外のストレス対処を行う集団よりも、主観的な健康状態が悪かったのである。以上のことから、わが国の一般集団において、喫煙が有効なストレス対処であるという信念はきわめて浸透しているものの、それは主要なストレス対処として用いられているわけではなかった。したがって、疫病予防の強化のためだけでなく、国民の精神保健の改善のためにも、喫煙がストレス対処であるという蔓延した信念に根拠がないことを示すことが重要であると考えられた。
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