本研究は,認知発達理論の立場から道徳判断の発達と対人的相互作用の量的・質的変数の関連を検討した。その結果,①認知的葛藤が起こらない相互作用は道徳判断の発達との関連は薄い。②役割取得の機会を含む対人的相互作用は道徳判断の発達を促す。③家族間で考えを述べ合い,相互に納得できるまで話し合う行為は道徳判断の発達段階を高める。④自己開示性は相互作用の量・質に関連している。対人的相互作用は道徳的認知構造の発達と相互規定的に関連しており,道徳判断の発達を促す心理教育的支援に有効な知見が得られた。
本研究では,身近な他者へ援助要請を行う際のセルフスティグマ尺度の作成を目的とした。大学生300名を対象とした調査を実施した。分析の結果,セルフスティグマ尺度は一因子構造を持つことが示された。また,セルフスティグマ尺度は援助要請意図や被援助志向性と負の相関を示した。また,セルフスティグマと身近な他者への援助要請意図との相関は,専門家への援助要請意図との相関よりも高かった。また,家族と友人への援助要請意図,被援助志向性,および援助要請実行における利益の予期は,いずれも「自己評価の低下」よりもセルフスティグマとの間に有意に強い相関を示した。最後に,セルフスティグマの得点は女性よりも男性の方が高かった。以上から本尺度は一定の妥当性を有するものと判断された。
本研究は,ワーク・エンゲイジメントを説明するモデルである仕事の要求度–資源モデル(JD-Rモデル)の動機づけプロセスに着目し,高等学校教員のポジティブ感情経験を測定する尺度を開発することを第1の目的とし,ワーク・エンゲイジメントに影響を与える要因を検討することを第2の目的として行われた。第1の目的のため,高等学校教員10名を対象とした半構造化面接の結果と先行研究から,ポジティブ感情経験尺度の項目を収集した。本調査では239名の高校教員を対象に質問紙調査を実施した。ポジティブ感情経験の因子分析の結果から,生徒成長,教員貢献,職場協働の3因子が得られ,各下位尺度において一定の信頼性と妥当性が確認された。第2の目的のため,ポジティブ感情経験と個人の資源がワーク・エンゲイジメントを介して,教科指導学習の内発的動機づけが高まるというモデルを想定し共分散構造分析を実施した。その結果,許容できるモデルの適合度が示された。最後に,高等学校教員を対象としたメンタルヘルス対策について言及した。
本研究の目的は予備校生イラショナルビリーフ尺度(以下,YIBS)を作成し,その信頼性と妥当性を検証することであった。予備調査によって収集した28個の質問項目からなる暫定版予備校生イラショナルビリーフ尺度を作成し,484名の予備校生を対象とした調査を行った。探索的因子分析の結果,“周囲へのサポート要求”,“受験勉強への集中”,“周囲への義務感”,“受験失敗への過剰な評価”の4因子が抽出され,YIBSを構成した。4因子のCronbachのα係数は,.70~.77であり,ある程度の信頼性が確認された。また4因子は,不合理な信念尺度(JIBT-20)や完全主義の認知を多次元で測定する尺度(MPCI)の因子,新版STAI状態-特性不安検査と一定の相関(r=.31~.37)が認められ,YIBSの構成概念妥当性,基準関連妥当性がある程度確認された。
学校危機予防は,重要性が指摘されながらも,広範な視点からの具体的対策が講じられていない。本研究は,学校危機予防の簡便な実態把握と改善に向け,学校の危機意識を把握することを目的とした。研究1で,連携・価値・組織・環境・カリキュラム・研修からなる支援ツールにより実態把握を行い,組織的取組の不十分さが共に認識され,役割・職務/分掌・校種間では異なる認識が示された。研究2では,学校危機対応の機会が多い養護教諭の危機予防の課題認識を精察し,危機意識が6領域に分化し,経験年数では危機意識の違いが示された。よって,危機予防教育のカリキュラム化・組織化・環境整備・規律の共有・地域特有の課題意識が示され,学校危機予防への具体的対策のあり方への示唆が得られた。
本研究では,青年期に発達障害の診断を受けた子どもの母親の心理的適応過程と援助ニーズについて事例を通して検討した。質的データ分析法の手順に従い,母親の心理として,7つの概念的カテゴリーを生成した。心理的適応過程を概念的カテゴリーの出現時期に基づき,3期にわけて検討したところ,Ⅱ期におけるわが子への新しい見方の獲得が転機となっていることが認められた。新しい見方とは,障害を認識した上でのわが子の特性や個性の発見であり,Ⅰ期から続くわが子理解のための探求や,Ⅱ期における支援者や仲間と行う出来事や意味づけの共有が契機となっていた。また,Ⅲ期における生き方の変化を引き起こすことの背景になっていた。相談機関やSC等心理教育的援助サービスの専門家の役割についても考察を加えた。
本研究は,教師の援助要請における国内外の先行研究のレビューを行うことで,わが国における教師の援助要請研究に関する今後の課題を検討することを目的とした。その結果,国内外の先行研究における相違点をふまえた今後の課題として,①日本の教師が直面しうる多様な問題を取り上げて,問題ごとの援助要請の特徴を検討すること,②教師の援助要請が教師や学校教育に及ぼす効果を多面的に検討すること,③教師の援助要請の個人差のみならず,教師同士の相互性や教師集団における援助要請のネットワーク構造を含めたマクロな視点をもつこと,の3点があげられた。
すでにアカウントをお持ちの場合 サインインはこちら