日本災害復興学会論文集
Online ISSN : 2435-4147
16 巻
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一般論文
  • 被災住民が災害復興の政治的な主体となるための道具立てを視点として
    小林 秀行
    原稿種別: 一般論文
    2020 年16 巻 p. 1-13
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/05
    ジャーナル フリー
    本稿は、災害復興における重要な主体の1つである、地域住民が災害復興における政治的な主体となることを可能にする道具立てとして、「象徴化された復興像」という概念を新たに提起し、その実態を岩手県大槌町赤浜地区における既往研究のレビューを中心に検討を行ったものである。「象徴化された復興像」とは、災害復興という試みの目標、目的もしくは対象を、人々に共有される形で端的に表そうとしたものを指し、言語や事物といったシンボルとして形成される。大槌町の事例からは「蓬莱島」がその座にあり、短期的には、「蓬莱島」が災害復興において守るべき地域の姿として一定の共通理解を得られたために、地域住民をその保護をめぐって災害復興の議論に集わせる「象徴化された復興像」として機能したことが明らかとなった。反面で、長期的にその座を維持することの困難さも明らかとなり、現状を捉えなおすことで復興像を結びなおすことの重要性も示唆された。
  • 佐々木 晶二
    原稿種別: 一般論文
    2020 年16 巻 p. 14-23
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/05
    ジャーナル フリー
    本稿では、東日本大震災の際に発出された、平時における義務の免除や要件の緩和などを内容とする「震災緩和通知」に関して、その法的な評価を行う。その上で、法律の文言に反する運用を認める内容の通知について、時系列的にみて、震災緩和通知の発出時に違法性を阻却されていたのかを分析し、さらに、その後の法改正を受けて現時点でどのような法解釈や立法措置を行うべきかについての具体的提案を行う。
  • 仮設住宅居住者と非津波被災者の語りに基づく「被災者」の構造と輪郭の分析から
    山﨑 真帆
    原稿種別: 一般論文
    2020 年16 巻 p. 24-36
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/05
    ジャーナル フリー
    本稿は、近年、多くの研究者により復興の主体として措定される「被災者」それ自体を対象化する学問的動向を受け、「被災者」自身の「被災者」に対する認識を対象とする。まず、仮設住宅居住者の語りについてKJ法による二次分析を実施し、「被災者」における自他認識の境界、そうした視点から複層的に構造化された「被災者」のあり様を描出する。次に、こうした構造に基づき「被災者」の輪郭、すなわち非「被災者」との間の境界について「被災における『中心―周辺』」という視点を導入しつつ検討し、「津波被災者=被災の中心=『被災者』/非津波被災者=被災の周辺=非『被災者』」という認識上の図式を見出した。続いて、「中心―周辺」の枠組みをKJ法の結果に導入し、自他認識の境界が「被災者」の認識上に「中心―周辺」図式を生じる局面ともなりうることを明らかにした。最後に、代表的な津波被災自治体である宮城県本吉郡南三陸町における住民の語りから、「被災の中心」にあるような人々が、町の復興という観点において「周辺」化していくダイナミクスの把握を試みた。
  • カイ・エリクソン『Everything in its Path』を読み返す
    大門 大朗, 宮前 良平, 高原 耕平
    原稿種別: 一般論文
    2020 年16 巻 p. 37-46
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/05
    ジャーナル フリー
    本論文は、カイ・T・エリクソン(1976)“Everything in its Path” で提起された概念「集合的トラウマCollective trauma」 を現代の日本の文脈で読み返すことを意図し、理論的検討を図るものである。はじめに、本著における集合的トラウ マとは、一般的な理解におけるトラウマ(心的外傷)つまり、個別的トラウマIndividual traumaとは異なり、個人が依 拠する共同体との結びつきの喪失による外傷を指していることを説明する。次に、本著がアメリカにおいて、心理学 的には(個別的)トラウマの二次的な症状として位置づけられ(集合的トラウマの個人化)、社会学的には社会構築主 義における歴史的・国民的トラウマと比較し自然主義に陥っていると批判されてきたこと(集合的トラウマの社会化) を説明する。最後に、集合的トラウマを個人の「心理」や当事者から過度に逸脱した「社会」に帰すことなく、被災 地がかかえる共同性(Communality)に着目することで、東日本大震災後の嵩上げ工事や福島原発事故の故郷喪失とい った日本の問題においても「集合的トラウマ」が可能性を秘めた概念であることを提示する。
  • 大塚 芳生, 田上 法子, 冨永 良喜
    原稿種別: 一般論文
    2020 年16 巻 p. 47-52
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/11/05
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、地震から半年後以降、防災教育と心のケアの授業のために開発された「心理教育のためのトラウマストレス反応9項目小学生版」尺度の妥当性と信頼性を検討することである。平成28年(2016年)熊本地震(以下、熊本地震)後6か月後と11か月後に、小学校5校児童1,628名の尺度データを分析した。その結果、最尤法による探索的因子分析により固有値の減衰率から1因子構造が妥当であった。また、α係数は、.8以上であり、信頼性が確認された。9項目の素点の合計点をデータとし学校(5校)と時期(6か月後、11か月後)の2要因混合分散分析を行った結果、学校の主効果に有意な差が認められ、下位検定の結果、震度の最も強い地域の小学生のストレス得点が最も高かったことから、この尺度の基準関連性が確認された。被災地での「心のケアを組み込んだ防災教育」の実践の可能性が考察された。
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