九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
選択された号の論文の187件中151~187を表示しています
一般演題26[ 骨関節・脊髄⑥ ]
  • O-152 骨関節・脊髄⑥
    吉川 太一, 堀 耕太, 高毛禮 敏行, 池田 さゆり, 村田 竜一郎, 田畑 伸治, 渡邉 光貴, 清永 紗知
    p. 152-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 脊髄損傷(以下、脊損)患者はADLのゴールに個人差が大きいことから、急性期医療の限られた期間の中ではその後のリハビリテーション(以下、リハ)達成度を予想することは極めて困難と言われている。脊損患者に対するリハは運動機能の改善を図るだけではなく、呼吸・排痰介助に加え、心肺機能の改善も図っていく。この戦略は、多職種と連携することでマンパワー以上の効果が期待できる。今回、長期入院脊損患者を担当し、最善の予後を目指し多職種と強く連携したリハを展開したため報告する。

    【説明と同意】 本発表はヘルシンキ宣言に基づき、本発表に関する内容説明を実施し、同意を得た。

    【症例紹介】 70代男性、畑仕事に従事。入院前生活は独居でADL自立。軽トラック運転中に乗用車と衝突し横転し受傷。ドクターヘリ要請し当院救急搬送。頸髄損傷(C5/C6脱臼)の診断となり、同日に後側方固定術施行、継続的加療目的に当院入院。

    【経過】 第2病日よりリハ開始。初期時、Frankel分類、ASIA分類はA。神経学的高位は感覚領域でC5/C5、運動領域でC5/C5。Zancolli上肢機能分類は右C6A、左C5B。呼吸状態不良で人工呼吸器管理。基本動作・ADL全介助。また、早期から仙骨部の褥瘡、胸水貯留による無気肺を合併。廃用予防、合併症予防目的として、ROMex, MSex、ポジショニングは転院まで継続して行なった。第4病日よりギャッジアップ座位訓練を開始。第13病日には呼吸器装着下での端座位訓練を開始。起立性低血圧の改善に伴い、第20病日からはリフターを使用し、リクライニング車椅子乗車開始。呼吸状態は徐々に改善し、第68病日に呼吸器離脱。第121病日にはTilt tableでの起立訓練開始。結果、第135病日では運動機能の改善乏しく、基本動作・ADL全介助のまま経過。合併症予防・改善の観点では、初期評価以降、著明な呼吸器合併症を起こすことなく経過。仙骨部の褥瘡に関しては、一時はDESIGN-Rスコア30点まで増悪したものの、最終的にはDESIGN-Rスコア27点と改善を認めた。その結果、褥瘡は皮弁術を行うことができる状態まで改善し、第136病日に他院転院となった。

    【多職種連携・協働】 リハ開始と同時に、9つの職種(Dr, Ns, WOCN, OT, ST, Ph, RD, MSW, AIN)と連携・協働してアプローチを行なった。例として、Drはリハに同行し、負荷量の助言や低血圧に対してNadの投与を行なった。Nsは、リハの時間に合わせて経管栄養の時間調整や、定期的な体位変換(体位はカンファレンスを行い決定)を行なった。加えて、呼吸器回診、褥瘡回診、多職種カンファレンスに参加することで、多職種間で共通の目標を明確にした。

    【考察】 受傷1年以内の高齢者脊損の死因として、1位が肺炎、2位が褥瘡からの敗血症、3位が腎不全、4位が心疾患と言われている。また、完全麻痺でも9割は損傷部に何らかの連続性が残っており、損傷後早期の荷重情報は運動機能回復に明らかな影響を与えると言われている。この2つの点から、運動機能回復に伴うADLの向上と合併症予防による生命予後の延長を目標とした。しかし、運動機能回復という目標は達成できなかった。目標のADLには至らず、初期には肺炎や褥瘡を引き起こしてしまったものの、多職種と連携・協働したことで、転院時には呼吸器系合併症無く、褥瘡は皮弁術を行うことができる状態まで改善したのだと考えた。

    【理学療法研究としての意義】 今回、多職種と連携・協働したリハを展開した。しかし、多職種連携には人員不足問題や、スタッフの技量に不規則さがあるとコミュニケーションが不足し、目標を見失うことがある。どのような症例に対しても、常に多職種間で円滑に情報共有を行い、共通の目標を明確にすることで日々効率の良い医療を提供していくべきである。

一般演題27[ 呼吸・循環・代謝③ ]
  • O-153 呼吸・循環・代謝③
    矢次 彩, 西村 繁典, 仲村 佳彦, 鳩本 広樹, 四井 泰大, 石倉 宏恭, 鎌田 聡
    p. 153-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【活動目的】 2019年末より新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が全世界に流行し、未曽有の感染症対策をしながらの医療提供を強いられた。当院救命救急センターに受け入れられるCOVID-19患者の特徴は、主に重症のH型(肺水腫が進行し肺内含気が低下してコンプライアンスが低下するタイプ)が多く、人工呼吸管理のみでは抵抗性があるためECMO(extracorporeal membrane oxygenation:体外式膜型人工肺)の適応となりうる患者が多い。また、集中治療室に入室することでICU-AW(ICU acquired weakness:ICU関連筋力低下)や、PICS(post intensive care syndrome:集中治療後症候群)などの合併症が懸念されるため、積極的に活動性を上げる早期リハビリテーションの介入が日常生活への復帰や社会復帰に重要となる。そこで、当院の重症COVID-19患者へのリハビリテーションの経験についてここに報告する。

    【活動内容】 当院でこれまでに管理した重症COVID-19患者は88例で、このうちリハビリテーション部は2020年5月から2023年1月までの間に68例の患者に介入した。

     通常の急性期リハビリテーションでは、早期からのearly mobility and exerciseの実施を推奨しているが、ECMO開始初期のリハビリテーションは肺保護戦略を取り、オープンラングや早期離床などは原則として不要、主に侵襲的人工呼吸管理下での四肢拘縮予防ROM-ex、呼吸理学療法(胸郭コンプライアンス維持、排痰療法)、腹臥位療法を主体としている。侵襲的人工呼吸管理下かつECMO管理下の患者は、深鎮静で使用する鎮静・鎮痛剤の使用量が多く、ステロイドも併用するため筋力低下が生じやすく、基本動作能力、運動耐容能の低下にも影響を及ぼす。そのため肺保護戦略解除後はなるべく覚醒させ、侵襲的人工呼吸管理下やECMO管理下においても可能な範囲で基本動作能力の向上を目指した。当院では一か月を超える長期ECMO患者も経験しているが、覚醒を上げ、活動性を上げる際の自発呼吸回復時には呼吸器合併症(P-SILI:patient self-inflicted lung injury自発呼吸誘発性肺傷害)を最小限にするため医師主導の下、呼吸状態のモニタリング(換気量、駆動圧、吸気努力、呼吸数など)を厳密に管理しながら座位および起立練習等の基本動作練習を実施している。

    【活動経過】 これまでの経験から、ECMO患者への治療およびリハビリテーションは日々変化する全身状態に適宜対応するため、毎日の多職種協議の上、治療方針を決定し、それを実行するためのある程度の経験を有した医師・看護師・臨床工学技士などの他職種連携チームにより、合併症を最小限に、リハビリテーションの効果は最大限に引き出し、患者のADL向上や社会復帰を目指すチーム医療であると考えている。

  • O-154 呼吸・循環・代謝③
    関 誠
    p. 154-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 2010年度より大牟田市において高齢者の介護予防対策として、「よかば~い体操巡回教室」を実施しており、この教室を実施した参加者は既に延べ78,348名に達した。今回、新型コロナウィルス感染症緊急事態宣言と蔓延防止等重点措置のために、外出頻度が少なくなり、教室での体操を休止しなければならず、多くの住民が引きこもりを増やす結果となった。その打開策として「よかば~い体操巡回教室」のプログラムを動画制作にして、地域住民、介護施設に配布した。また定期的に感染症対策を行いながら体操巡回教室も継続した。

     本研究の目的は、新型コロナウィルス禍において、体操巡回教室と運動動画視聴によるハイブリッドによる運動指導の効果を検討することである。

    【方法】 対象は、新型コロナウィルス感染症緊急事態宣言と蔓延防止等重点措置解除後に「よかば~い体操巡回教室」に参加し、2021年11月以降の体力測定(以下、再開時)とその6~8ヶ月後に行われた体力測定(以下、実施後)が実施できた207名、78.9±6.1歳(女性192名、79.0±6.0歳、男性15名、77.9±7.4歳)とした。

     「よかば~い体操巡回教室」のプログラムは、姿勢の維持改善を目的に大腿四頭筋、大殿筋、腹筋群、菱形筋の筋機能向上トレーニングと膝関節屈筋群、腸腰筋、大小胸筋のストレッチならびにニーベントウォーキング等の機能的トレーニングを実施した。実施方法は、大牟田市より指導員を月に1回派遣し体操を実施した。また団体によっては自主的に月に約1~2回体操を実施した。また、そのプログラムの動画制作を行い参加全員に配布し自宅で実施するように促した。体力測定項目は、握力、長座位体前屈、片脚立位時間、最大歩行速度、ファンクショナルリーチ(FR)、Time up and go(TUG)とした。統計解析はSPSS Ver. 28(IBM社製)を用い、データの正規性を確認後、Wilcoxonの符号付き順位検定を用いて2群間の比較を行った。なお、有意水準は5%とした。

    【結果】 2群間の比較は、FR、TUG、握力(右)、握力(左)がp<0.01となり有意な改善が認められた。平均値(再開時/実施後)は、FRが34.1±6.0 ㎝/35.0±5.1 ㎝、TUGが5.5±1.2秒/5.3±1.1秒、握力(右)が22.0±4.8 ㎏/22.8±4.8 ㎏、握力(左)が20.8±4.4 ㎏/22.0±5.1 ㎏であった。長座位体前屈はp=0.868で有意差は認められなかった。その平均値は35.1±7.8 ㎝/35.0±8.4 ㎝であった。片脚立位時間は最大時間を60秒と設定したこと、最大歩行時間は実施環境の影響により比較することが不可能であった。

    【考察】 本研究では、緊急事態宣言と蔓延防止等重点措置の期間の対象者の外出頻度が低下し身体機能が低下している状況で教室および自宅における運動により身体機能が改善したことが示唆された。特にTUGの運動要素の敏捷性・平衡性の向上が図られたことは行動スピードが向上し日常生活の大きく関与するものと考えた。今後の取り組みとして、教室の参加者が男性7%であり、このような教室への参加を促す手段を検討していかなければならないこと。再開後の身体機能との比較を検討すること、動画視聴時間を含めた総運動量の把握など、調査しなければならないことを今後の課題とした。

    【まとめ】 新型コロナウィルス感染症緊急事態宣言と蔓延防止等重点措置のために、外出頻度が少なくなった高齢者がハイブリッド方式による「よかば~い体操巡回教室」に参加することにより身体機能が向上することが示唆された。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は本学の研究倫理審査委員会(承認番号:帝福倫23-04)の承認を受けて実施した。対象者に本研究内容を書面にて説明し、同意を得た。

  • O-155 呼吸・循環・代謝③
    山田 晴彦
    p. 155-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【活動の背景と目的】 障害者施設等一般病棟にて新型コロナウィルス感染症クラスター発生による病棟隔離を2回(第1期令和4年8-9月および第2期12月-令和5年1月)経験した。今回、第1期の振り返りを活かし、第2期で病棟業務支援を行いながらリハビリテーション業務(以下、リハビリ)の早期介入が行えたため活動報告する。

    【病棟の規模や患者情報】 入院患者は第1期37名~第2期43名と入退院での変動あり。今回、第1期および第2期ともに病棟に在籍したリハ処方患者29名:平均年齢74.9±13.7歳(パーキンソン病48% 脳血管疾患等17% 脊髄小脳変性症10% 脊髄損傷10% 脳性麻痺3% その他:9%)を対象とする。

    【活動内容および経過】

    第1期:クラスター発生、感染拡大は急速であった。患者離床未実施。

    〈感染拡大時期〉病棟スタッフ人員不足により療法士もオムツ交換や食事介助などの病棟業務を優先するため、リハビリ実施困難であった。能力維持目的にて、プリント配布等での自主訓練指導や、隔離による環境変化に応じて環境調整等実施した。

     病棟隔離開始14日後リハビリ再開、①病棟スケジュールの把握を行い、療法士間の役割分担を明確化することで業務の円滑化を図った(リハビリ時間の確保)。また、②スタッフ全員での感染対策を共有した。③リハビリ実施にて接触する機会が増えるためPPEの着脱を学習した。病棟隔離中リハ再開後の患者介入単位は1日平均1.53単位→0.63単位へ低下。感染拡大前と比較すると患者の運動FIM平均27.4点→25.7点へ低下(有意差ありP<0.01)。

    〈病棟隔離解除後〉クラスター発生前と比較すると筋力・耐久性・認知面の低下を呈し、療法士間で情報共有しながら訓練実施することで能力改善に努めた。

     感染予防対策マニュアルは随時更新され、業務効率化された。今後同様な状況が起きた際にも対応できるようにした。

    第2期:クラスター発生も感染者の拡大は緩やかであった。患者離床継続。

    〈感染拡大時期〉病棟業務の手伝いとともに病棟隔離初日よりリハビリ介入 ①初期から病棟スタッフおよび療法士のPPE着脱の的確な実施。②感染下における病棟業務およびリハビリの早期分業。③動線の工夫(ベランダを利用した病室間移動でPPE着脱回数減少) ④陽性者への早期介入(離床、食事介助、ベッド周囲環境整備など)実施した。感染拡大前との比較し、病棟隔離中の患者介入単位は1日平均1.74単位→1.86単位と維持。患者の運動FIMも平均27.4点→26.03点(有意差無)とほぼ維持することができた。

    【考察】 第1期:FIM低下は病棟隔離対応によって移動範囲が縮小、制限されたため、歩行や移乗動作での点数低下がみられ、車椅子離床し食事摂取出来ていた患者がベッド上では自己摂取困難となり、食事介助量増大したためと考える。第2期では、①PPEの的確な着脱実施。②病棟業務とリハビリの早期分業。③PPE着脱回数減少などにより病棟スタッフおよび療法士の動きが効率化された。このため、早期介入実施できた。リハビリ介入による移動能力維持、病棟との協力による食事の際の離床実施等によりFIM維持できたと考える。

    【まとめ】 初回の病棟隔離の経験により、2回目の病棟隔離時、感染拡大予防のための対策とともに早期からのリハビリ介入を行えた。

     病棟隔離早期からの介入により病棟での患者の離床やADLを維持することができた。

     今後、感染症などによる病棟閉鎖が起きた際には、感染予防対策をとりながら、リハビリ介入を継続していきたい。

    【倫理的配慮、利益相反】 本報告はヘルシンキ宣言を遵守し個人情報の取り扱いに配慮した。なお利益相反に関する開示事項はない。

  • O-156 呼吸・循環・代謝③
    松永 あゆり, 陳野 裕子, 安藤 美幸
    p. 156-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 当院では2022年11月21日より感染病床を確保し、リハビリテーション(以下、リハビリ)スタッフも新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の感染病床専従として勤務をしている。当院の感染対策として、リハビリはフルPPEで1回の介入時間は20分、1日2~3回介入している。今回、入院前のADLは自立、就労しているCOVID-19の症例を担当した。短期間、短時間のリハビリ介入では退院までに活動性の高い職場復帰までの耐久性の回復は難しく、自主訓練指導など退院後の自己管理の指導の重要性を感じたため、ここに報告する。

    【症例紹介】 50歳代男性。病名:COVID-19、中等症Ⅰ。既往歴:高血圧、肺化膿症。喫煙歴:40年ほど前から20本弱/日。現病歴:家族がCOVID-19発症4日後、本人も発熱。発症第4病日にA病院受診。COVID-19の診断、胸部X線にて肺炎像あり、A病院入院。発症第5病日に当院へ転院、37.8度の発熱あり。抗ウイルス剤を前医から5日間、発症第8病日まで実施。主訴:呼吸苦、倦怠感、味覚障害、食欲低下。職業:自営業(鉄鋼業、仕事内容は事務や現場で20~30 ㎏の荷物の運搬など)

    【初回評価(発症第8病日)】 KT:36.6℃。SpO2(ルームエア):安静時95~96%、運動時93~94%。歩行:30mで修正Borg scale:5、心拍数:108bpm、呼吸数:28回/分。FIM:98/126点。活動性:トイレ以外はベッド臥床傾向。症状:咳・呼吸苦・頭痛・倦怠感。CRP:11 ㎎/dL。画像所見:右肺に擦りガラス様の陰影が末梢優位に広範。

    【経過】 理学療法はCRPが11 ㎎/dLから7 ㎎/dLに下がり、肺炎像が減少してきた発症第8病日にリハビリ処方あり介入開始。呼吸苦、倦怠感による活動性の低下が問題点であると考え、短期目標に体調に応じて自主訓練を行うこと、長期目標に職場復帰を挙げた。理学療法は呼吸リハビリマニュアルの運動療法の中止基準に準じて介入した。発症第8病日、発症第9病日は食事が摂取できず補液と捕食少量のみの摂取であり、呼吸苦、倦怠感が強く呼吸法の指導や上下肢のストレッチ、主観的運動強度での歩行訓練など低負荷の運動から開始。呼吸苦、息切れあるが運動を続けようとする場面もあり、SpO2や脈拍、呼吸数に合わせて運動を行うように指導した。発症第10病日より食事が7割程度摂取できるようになり、活気向上傾向で筋力訓練、有酸素運動、自主訓練指導を開始した。この頃は倦怠感消失し、リハビリ以外の時間で上肢・下肢の筋力訓練など自主訓練を実施。発症第13病日までの5日間介入し、状態改善し発症第14病日、入院期間8日目で退院となった。

    【最終評価(発症第12病日)】 KT:36.2℃。SpO2(ルームエア):安静時95~97%、運動時94~95%。歩行:6分間で360m程度、修正Borg scale:5、心拍数:120bpm、呼吸数:29回/分。FIM:108/126点。活動性:ベッド上胡座で過ごすなど離床時間も増え、自主訓練実施。症状:咳。CRP:1.31 ㎎/dL。画像所見:肺炎像軽減。

    【考察】 症例は、早期の職場復帰を希望していた。自主訓練も意欲的に取り組まれたが呼吸苦がありながら、無理して運動することもあり職場復帰後の自己管理が課題であると考えた。職場復帰には耐久性向上が求められたが感染病床での短期間での介入では耐久性の回復も完全ではなかったため仕事同等の動作など、負荷量の高い訓練は不十分な状態での退院となった。そのため、体調に応じた自主訓練の継続や動作に合わせた呼吸法の指導など具体的な自己管理の指導が退院後の生活において重要であったと考える。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:2303)。また、得られたデータは個人情報が特定出来ないよう十分な配慮をした。

  • O-157 呼吸・循環・代謝③
    友松 亜姫
    p. 157-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 今回、COVID-19発症後の特発性器質化肺炎の急性増悪を呈した患者に対して理学療法を行う機会を得たため、若干の考察を加え報告を行う。

    【症例紹介】 80歳男性、BMI16.28、ADL自立、非喫煙者、仕事は薬局経営(登録販売員)。発熱と全身倦怠感にて体動困難となり救急搬送されCOVID-19陽性が判明。COVID-19中等症Ⅱと診断あり当院緊急入院。

    【経過】 当院コロナ病棟に入院し(1病日)、NC2L/minとレムデシビルとデカドロン投与された。6病日にレントゲンにて左下肺野にすりガラス陰影認め、抗菌薬開始。10病日で服薬および抗菌薬終了。10日間の隔離期間を終了したが、器質化肺炎増悪を認め、隔離期間延長となった。12病日のCTにて背側に両側浸潤像あり、器質化肺炎増悪と判断し、PSL25㎎投与開始。計18日間の隔離期間を経て、一般病棟へ転棟。同日リハビリ開始。

     25病日にレントゲンにて左気胸あり、トロッカー挿入。39病日と40病日にブラットパッチ施行し、41病日にトロッカー抜去。その後気胸の再燃なし。40病日にPSL10㎎、47病日にPSL5㎎へ減量。52病日に自宅退院。

    【理学所見とアプローチ】 19病日より理学療法開始。20病日目より安静時酸素off。労作時NC2L/min使用。開始時FIM84点。両下肢筋力はMMTでFairと低下あり。安静時の呼吸苦訴えなし。労作時、歩行10mで疲労訴えあり。修正Borg scale 5でSpO2 88%への低下認めた。独歩で歩行訓練行ったためか、SpO2低下やふらつき、疲労強いため運動負荷調整行い、翌日より歩行器歩行訓練開始した。24病日、1日2回介入開始。39病日、歩行時のBorg scale5→2~3へと軽快。40病日、労作時酸素offへ。42病日、CKC訓練、バランス訓練開始。43病日、ポータブルエルゴメーター開始。45病日、自転車エルゴメーター開始。病棟内ADLは、42病日に自立。52病日に労作時SpO2 93%、FIM114点、独歩連続歩行200mで自宅退院となる。

    【考察】 COVID-19は感染力が強く、介入するにあたり、医療者への感染や他患者への感染を広げることに注意が必要であった。そのため、通常の肺炎であれば早期リハビリテーション介入を行うような症例であっても介入は行われなかった。当院では、COVID-19は10日間の隔離期間が定められている。そのことから本症例は早期リハビリテーション提供困難であった。それに加え、器質化肺炎や気胸の併発があり、より一層のリハビリテーション提供の遅延と著しいADL低下を認めた。

     COVID-19に対する呼吸リハビリテーションの効果は重症化に関わらず、有意に改善が得られていると報告があり、今回の症例でも、早期離床や運動療法継続により効果があったと考える。器質化肺炎や気胸の併発があったものの、早期離床や運動療法などによる呼吸リハビリテーションによって、運動耐容能の向上や呼吸困難の改善、歩行距離延長が得られたと考えられた。

    【まとめ】 当院ではCOVID-19の隔離期間は10日であるが、本患者は18日間の隔離期間となり、自宅退院困難となるまでのADL低下を生み、長期入院期間を要した。COVID-19発症後であること、呼吸器リハビリテーションに基づくリハビリテーション提供ができ、自宅退院に繋げることが出来た。

    【倫理に関する記述】 ヘルシンキ宣言の理念に基づき、個人情報の取り扱いに十分に配慮した。

  • O-158 呼吸・循環・代謝③
    小嶺 輝
    p. 158-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)の重症化因子として、“高齢者であること”、“基礎疾患を有すること”などが挙げられている。特に高齢者が感染した場合、疾病の重症化に加えて、隔離による入院生活を余儀なくされることで、身体機能やADL能力の低下など二次的障害の発生が懸念される。そのため、COVID-19から回復した高齢者に対するリハビリテーション(以下、リハビリ)は重要であると考えられるが、その経過や介入内容を記述した報告は少ない。今回我々は、COVID-19感染後に廃用症候群を呈した高齢患者に対し、リハビリを実施する機会を得た。リハビリの実施にあたって、Sariらが提唱するCOVID-19感染後患者に対するリハビリマネジメントプログラム(Sari, 2023)を参考に介入計画を構成したところ、良好な経過を得ることができたため、報告する。

    【症例紹介】 症例は、COVID-19(軽症)で入院した90歳代女性である。入院前のADLは見守りレベルであった。隔離解除後の第9病日目よりリハビリを開始した。初期評価時点において、立位保持が不安定で、ベッド~車椅子間の移乗に介助を要した(FIM運動項目:21点、FIM移乗(ベッド・椅子・車椅子):3点、FIM歩行:1点)。バイタルサインに異常は認めず安定していたものの、COVID-19の代表的な罹患後症状である疲労感・倦怠感・意欲低下を認め、リハビリへの参加は消極的であった。

    【介入方法】 SariらはCOVID-19感染後のリハビリについて、罹患後症状を管理しつつ、自覚的運動強度に基づいた段階的エクササイズの実施を提案している(Sari, 2023)。そこで、介入内容は筋力増強訓練や有酸素運動、日常生活動作訓練で構成し、疲労感・倦怠感・意欲低下を管理するために、適宜バイタルサインを確認するとともに、疲労感の訴えなどを自覚的運動強度に基づき注意深く観察しつつ、身体的に過負荷とならないよう配慮しながら進めていった。リハビリの効果判定には、バランスの指標にBBS, ADLの指標にFIM(運動項目・移乗・歩行)を用いた。

    【結果】 退院時評価(第50病日目)において、BBSは介入前12→介入後30点、FIM(運動項目)は介入前21点→介入後54点と改善を認めた。FIM(運動項目)の内訳について、FIM移乗(ベッド・椅子・車椅子)は3点→5点、FIM歩行は1点→4点へ改善し、入院前と同等のADLまで回復した。最終的には介護保険サービス(通所介護、ショートステイ)を導入した上での自宅退院となった。

    【まとめ】 本症例は、隔離期間により身体機能が全般的に低下しており、さらに隔離後はCOVID-19の罹患後症状として疲労感や倦怠感、意欲低下が確認された。先行研究において、COVID-19感染後の身体機能の低下により、ADLやQOLが著しく低下した帰結不良例の存在が報告されている(Li, 2020)。高齢者がCOVID-19に罹患し安静臥床を継続することによって、廃用症候群が生じることは言うまでもない。COVID-19から回復した高齢者に対して、罹患後症状に配慮した上で可及的早期の段階的なリハビリを実施することは、身体機能やADLの改善に重要であることが確認された。

一般演題28[ 呼吸・循環・代謝④ ]
  • O-159 呼吸・循環・代謝④
    広田 桂介, 福島 真仁, 今井 徹朗, 馬場 恵理子, 田島 裕之, 橋田 竜騎, 松瀬 博夫, 玻座真 琢磨, 深水 圭, 平岡 弘二
    p. 159-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 慢性腎不全患者の生命維持には透析管理は重要である。血液透析が円滑に実施されるには、動静脈シャントの十分な発達、および長期に渡る開存が必須であり、シャント不全は患者のQuality of lifeを低下させる有害事象である。本研究の目的は、外来慢性維持血液透析患者におけるシャント不全の要因を検討することである。

    【方法】 診療録を後方視的に観察した。シャント狭窄または閉塞により経皮的血管拡張術またはシャント再作成術実施の有無により、シャント不全群および非シャント不全群の2群に分類し、背景因子、体組成、血液・生化学検査データ、透析因子(kt/v、透析期間等)および身体活動量をウィルコクソンの順位和検定を用いて横断的に比較検討した。さらに、シャント不全に関連プロファイルを特定するために、決定木解析を用いて評価した。決定木解析における目的変数は、シャント不全の有無で、説明変数には背景因子、体組成、生化学検査データ、透析因子および身体活動量を投入した。背景因子、体組成、血液・生化学検査データ、透析因子および身体活動量の評価は2022年6月のデータを用い、シャント不全を引き起こした期間はその前後6ヶ月とした。体組成は、コンピュータ断層診断装置を用い、骨格筋指数、内臓脂肪面積、皮下脂肪面積および筋肉内脂肪を検討した。また、身体活動量の評価は、Bakerが開発したLife-Space Assessment(LSA)を用いた。LSAの得点は120点満点で、その得点が高いほど、身体活動量が高いことを示している。統計解析は、JMP Pro 16(SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を使用し、統計学的有意水準は0.05とした。

    【結果】 本研究の対象者は、外来慢性維持血液透析患者19名(中央値:年齢65歳[四分位範囲:49-75]、男性/女性:8/11, Body mass index(BMI):21.8 ㎏/m2[四分位範囲:18.7-25.6])であった。本研究において、外来慢性維持血液透析患者6名(31.6%)にシャント不全を認めた。2群間比較において、背景因子、血液・生化学検査データ、体組成、透析因子およびLSAに有意差を認めなかった。決定木解析においては、シャント不全に関連する要因の第1分岐因子はBMIで、BMIが24.5 ㎏/m2以上の患者の61.7%にシャント不全が認められた。一方、BMIが24.5 ㎏/m2未満の患者16.5%にシャント不全が認められた。また、BMIが24.5 ㎏/m2未満の患者の第2分岐因子は、LSAであった。LSA49.5点未満の患者の38.4%にシャント不全を認めた。また、LSA49.5点以上の患者にはシャント不全は認められなかった。

    【考察】 本研究において、外来慢性維持血液透析患者におけるシャント不全の要因はBMIであった。先行研究においてBMIは、シャント不全の予測因子であると報告されており、先行研究と本研究の結果は一致している。維持血液透析患者における高BMI患者は、静脈循環の内膜過形成が指摘され、シャント不全の1要因であると報告されている。また、もう一つの要因として身体活動量が同定された。シャント不全と身体活動量の関連は不明であるが、シャント不全とADLおよびフレイルとの関連が報告されており、シャント不全は身体活動量と関連があると考えられる。

    【結論】 本研究において、外来慢性維持透析患者におけるシャント不全の要因は、高BMI、または、身体活動量が低い患者であった。これらのプロファイルを有する患者において、減量等の栄養管理および患者教育を含めた包括的リハビリテーションは、シャント不全予防の一助となる可能性がある。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言のガイドラインに準じ、当大学倫理委員会の承認を得て実施した。患者からインフォームドコンセントを得るためにopt-out approachを用いた。

  • O-160 呼吸・循環・代謝④
    松木 宏多朗, 佐藤 明, 安部 優樹
    p. 160-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに、目的】 本邦における腹部大動脈瘤(以下、AAA)患者に対する手術件数は増加傾向にあり、特にAAAの手術件数は心臓血管外科手術例の中でも最も多く、術後合併症による活動量の低下、せん妄症状の出現等により入院期間の長期化が懸念される。入院期間の長期化を防ぐために、リハビリテーション(以下、リハ)では、術後翌日からIntensive Care Unit(以下、ICU)での離床や術後早期の歩行練習、一般病棟での日常生活動作(以下、ADL)練習が必須である。しかし、AAA患者のリハ経過について報告は少なく、術後のリハ阻害理由として術後合併症(消化器合併症、呼吸器合併症)、年齢、性別等が挙げられるが、一定の見解は得られていない。

     本研究では、当院でのAAA術後患者のリハ経過について後方視的に調査を行うことを目的とした。

    【方法】 対象は、2020年10月から2022年12月までにAAAに対して待機的人工血管置換術を施行し、リハ介入した28例の内、除外基準を除く13例を対象とした。除外基準は、維持透析例、入院継続例、データ欠損例とし、内訳は維持透析例1例、入院継続例1例、データ欠損例13例であった。調査項目は基本情報、血液データ、術中・術後経過、術後リハ経過、身体機能、Functional Independence Measure(以下、FIM)とし、先行研究との比較を行った。術前後での血液データ、身体機能、FIMの変化に対してShapiro-Wilk検定にて分布の正規性を検討したうえで、対応のあるt検定、Wilcoxonの符号付順位検定を行った。

    【結果】 対象の結果を以下に示す(本研究の結果/先行研究の結果)。基本情報は、男性9例、女性4例、年齢76歳(73.3-81.0)/69.8±10.3歳であった。術後経過は、術後在院日数15.2±5.0日/14.3±9.9日、術後経口摂取日数2.8±0.9日/3.5±2.3日、消化器合併症(麻痺性イレウス)割合30.1%/12~30%であった。術後リハ経過は、術後端坐位開始日数1.0日(1.0-1.0)/1.2±0.5日、術後起立開始日数1.0日(1.0-1.0)/1.4±0.7日、術後歩行開始日数1.0日(1.0-2.0)/2.1±1.0日、FSS-ICU合計点19.5±8.3点/21点、FSS-ICU歩行4.0点(0.0-8.8)、術後100m歩行自立日数4.0日(4.0-4.5)/3.4±1.1日であった。身体機能については、術前Short Physical Performance Battery(以下、SPPB)合計点12点(9.5-12)/11.5±1.1点であった。また、術前後の比較については、SPPB合計点[12点(9.5-12)→11点(6.3-12)]であり、有意差はみられなかった。

    【考察】 当院のAAA術後患者のリハ経過は、先行研究と比較して術前SPPBより術前の身体機能は良好であり、術後早期からの離床は行えているものの、100m歩行自立日数は遅延していた。100m歩行自立日数の遅延が生じていた要因として、術後の消化器合併症が生じていたことやFSS-ICU合計点が低値であること、FSS-ICUの歩行の点数にばらつきがみられたこと、年齢が高齢であることが影響していると推察される。また、術後にSPPB合計点のばらつきが大きくなった要因としては、術後経口摂取は早期より開始できていたが、術後の消化器合併症の出現や対象が高齢であったことより、十分な身体機能の改善が得られなかったためであると推察される。

    【倫理的配慮、倫理配慮】 ヘルシンキ宣言に基づきデータは匿名化し、十分に個人情報の保護に配慮した。

  • O-161 呼吸・循環・代謝④
    松尾 彰浩, 永友 雄大, 大場 潤一, 横田 悠介, 宮田 千春, 大石 賢, 内田 由美子
    p. 161-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 今回、脳梗塞による著明な麻痺は無いが夜間頻尿を呈する一症例に対して、夜間頻尿診療ガイドライン(日本排尿機能学会)で推奨されている行動療法を実施した。そのなかでも、夕方における運動療法に着目し、治療効果を排尿日誌や主要下部尿路症状質問票(以下、CLSS)等を用い評価したのでここに報告する。

    【症例紹介】 症例は80歳代の女性。運動器不安定症の診断で入院中に、脳梗塞を発症。身長152 ㎝、体重45.9 ㎏、BMI19.87、既往に過活動膀胱があり治療薬を飲まれていた。改善はしているが以前は時々失禁があった。介入前の基本動作能力は概ね見守り、歩行形態は杖歩行側方介助、FIM88点、MMSE22点である。夜間排尿回数は4.3回、夜間尿量率43.9%であり、夜間の排尿回数や睡眠時覚醒を悩まれていた。

    【方法】 通常理学療法(骨盤底筋群体操含む)と水分管理、膀胱訓練を2週間(以下、A1期)、続いてそれらに加えて夕方に運動療法を2週間(以下、B期)、最後にA1期と同内容を2週間(以下、A2期)の計6週間実施した。

     B期に行う運動療法は、16時半~17時に電動サイクル運動器(株式会社タタ・コーポレーション ルームマーチ)を使用し、ペダル回転速度低速で15分、上肢運動として1 ㎏ダンベルを使用したダンベル運動(フロントレイズ、サイドレイズ、ダンベルプレス)を各20回、下肢運動としてスクワット、カーフレイズ、つま先上げを各20回実施した。

     評価は排尿日誌、CLSS, aams(株式会社バイオシルバー 見守り介護ロボット)による睡眠評価、睡眠状況聴取、下腿最小周径を介入前、A1期、B期、A2期に評価した。なお、排尿日誌と下腿最小周径は各期4日間の平均値を算出した。身体機能評価(10m歩行テスト、TUGT、握力、膝伸展筋力)、FIM, MMSEは介入前とA2期に評価した。また、カルテより既往歴や排尿障害の診断及び排尿障害治療薬の有無を調査した。

    【結果】 排尿日誌より、夜間排尿回数は介入前:4.3回、A1期:4.0回、B期:2.7回、A2期:3.8回、夜間1回当たりの尿量は介入前:127 ㎖、A1期:215 ㎖、B期:263 ㎖、A2期:203 ㎖、夜間尿量率は介入前:43.9%、A1期:54.1%、B期:39.2%、A2期:57.7%であった。B期において夜間排尿回数と夜間尿量率は減少し、膀胱容量の増加がみられ夜間排尿症状の改善がみられた。

     aamsによる睡眠評価では睡眠時の[覚醒・浅い眠り・深い眠り]割合が介入前[17.5%・40.9%・41.6%]、A1期[13.9%・47.8%・38.3%]、B期[7.1%・29.9%・63.0%]、A2期[8.4%・41.0 %・50.6%]、睡眠状況聴取は介入前:夜起きるので日中眠くなる、A1期:前よりはよさそうだけど日中眠い、B期:久しぶりによく眠れてスッキリした、A2期:眠れていてよく夢をみますであり、B期において覚醒割合の減少、深い眠り割合の増加がみられ、睡眠状況が改善している。

     CLSS排尿の状態をどう感じるかは介入前:とても嫌だ、A1期:嫌だ、B期:どちらでもない、A2期:気が重いであり、B期において不快感が軽減している。

    【考察】 夕方における運動療法は、間質に貯留した水分を運動による筋肉ポンプ作用で血管内に戻し、またそれを汗として体外に排出する作用もあるため夜間頻尿に有効であったことが考えられる。睡眠に関しては、夕方に運動することで精神的な緊張の緩和や適度な疲労感が得られたことで睡眠を深くし、夜間の尿意による覚醒閾値の上昇、膀胱容量の増加に繋がったことが考えられる。

    【まとめ】 本症例において夕方における運動療法は、夜間排尿回数を減少させ良質な睡眠をとることに有効であったと思われる。しかし、本症例では夜間2回以上の排尿があり夜間頻尿改善には至らず運動療法の運動時間や負荷量の検討が必要である。

  • O-162 呼吸・循環・代謝④
    嶋村 法人
    p. 162-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【背景・目的】 今後高齢化がさらに進み、心不全を呈する症例が増加する。生活習慣病に伴う慢性腎臓病の罹患者も増加するといわれている。

     心疾患と慢性腎臓病に罹患した高齢患者の身体的フレイルが、CKD Stageによって改善に差があるか比較検討した。

     SPPBは特にフレイル状態かそのリスクがあると予想される高齢者の包括的下肢機能の評価が可能。生命予後や今後数年で歩行不能になるなどのADLの予測能に優れ、臨床現場で汎用されている。

    【対象・方法】 2019年1月~2022年3月の期間中当院に入退院し心大血管疾患リハビリを処方された症例でBUN、Cre、eGFR、Short Physical Performance Battery(以下、SPPB)、5m歩行、握力、FIMの入・退院時ともに計測できたもの且つ、本研究に同意を得られた95例。今回CKD StageはラボデータのeGFRで分け、腎機能の回復が難しいとされる重度機能低下分類のStage4・5群とその他の2群で比較検討した。

     CKD Stage4・5群29例(年齢89.4±5.6歳、女性13例・男性16例)とStage3b以上群66例(年齢87.0±5.3歳、女性39例・男性27例)の2群間で比較検討した。

     統計について各群の正規性検定を行い、その後統計学的検定(マン・ホイットニ検定、ウイルコクソン符号付順位和検定、ウェルチのt検定、対応のあるt検定等)を選択した。統計処理ソフトは、Statcel3を使用した。

    【結果】 Stage4・5群、Stage3b以上群ともに入退院時のSPPBに有意な差を認めた。また、2群間のSPPB変化に有意差はなかった。

     Stage4・5群の入退院時の5m歩行は有意に改善した。2群間の5m歩行時間変化、握力改善に有意差は認められなかった。2群間の入院退院時のFIMは有意に改善し、FIMの利得には有意差はなかった。

    項目:4・5群/3b以上群

    SPPB(入院時):5±2.8/7±3.1

    SPPB(退院時):7±2.7/8±2.9

    SPPB(改善値):2±2.2/1±3.0

    【考察】 SPPBがそれぞれ入院時に比べ退院時に改善した要因として、筋骨格異常の改善が考えられる。心不全症例の骨格筋異常に対し有酸素運動や低強度レジスタンストレーニングが理学療法プログラム中心であり、これによりSPPB改善に寄与したと思われる。しかし、スタッフによりプログラム内容が一定しないことが考えられ、これらに対し今後方法の検討が必要と思われた。また、SPPBが2群ともに改善はしたが退院時中央値が4・5群で7、3b以上群で8であり、入院時と比較しても先行研究をふまえると生命予後に変化は認めない。なお、SPPB変化量に有意差を認めなかった要因としては、4・5群では元々の能力が乏しく改善が困難なこと、3b以上群では入院時点数が高い状態でありさらに改善することが困難だったことが考えられた。

     今回CKD StageをeGFRのデータで群分けし比較検討した。CKDの診断を受けた症例もいるが全例ではなかった。また、前提として全例が医療的治療を受けており、今回のすべてのデータに関してバイアスとなることも本研究の限界として考えられた。

  • O-163 呼吸・循環・代謝④
    田中 颯人, 吉田 裕一郎, 工藤 誠也
    p. 163-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 急性膵炎の死亡率は近年低下したという報告があるが、重症膵炎の死亡率は10%以上であり、48時間以上持続する臓器不全がある場合は70%という報告もある。今回、アルコール性重症急性膵炎に伴う敗血症により、身体機能の著しい低下を起こしながらも、長期リハビリテーション(以下、リハビリ)介入により自宅退院まで回復を得られた症例を経験した。様々な状況変化の中での長期リハビリ介入の工夫と考察を加え報告する。

    【症例】 50歳代男性、身長175 ㎝、体重83 ㎏、BMI 27.1 ㎏/m2。既往歴:40歳代に膵炎にて入院歴あり。生活歴:独居、飲酒・喫煙あり、就労あり。X-1日、上腹部痛出現。X日、アルコール性急性膵炎の診断にて入院。厚生労働省急性膵炎重症度判定基準(2008)にて、入院時は予後因子2/9点にて軽症膵炎。輸液、蛋白分解酵素阻害薬、抗菌薬予防投与、鎮痛薬、酸素療法などの保存的治療開始。

    【経過】 X+2日、リハビリ開始。発熱、上腹部痛、嘔吐、倦怠感等によりベッドサイド介入から開始し、その後、車椅子離床、平行棒内歩行へと段階的に進めた。X+21日に仮性膵嚢胞を合併、X+31日には横行結腸瘻孔を合併し絶食管理が続いた。X+47日、予後因子3/9点となり重症膵炎判定、腹部正中切開による仮性膵嚢胞に対するドレーン挿入術を施行されHCU管理。X+48日に予後因子5/9点、術後敗血症性ショックにて人工呼吸器管理。X+64日、気管切開。X+78日、端座位練習開始。X+98日、人工呼吸器離脱しリクライニング車椅子離床開始(BI:0点、SPPB:0点、体重:66 ㎏、MNA:4点)。X+110日、腹部症状が軽快し経鼻経管栄養開始し、一般病棟へ転棟。X+115日、歩行練習再開。X+199日、マシンでのレジスタンストレーニングや有酸素運動を開始(BI:5点、SPPB:2点、体重43 ㎏、MNA:2点)。X+218日、自宅退院に向けたADL獲得を目標としたプログラムへと進め、X+234日に自宅退院(BI:85点、SPPB:5点、体重52 ㎏、MNA:7点)。

    【考察】 本症例は長期間に及ぶ炎症期、人工呼吸器管理、絶食に伴う低栄養等により著しい身体機能の低下を来し、すべての基本動作に全介助が必要な状態(BI:0点)となった。人工呼吸器管理当初は血圧低下が著しく、ベッド上関節可動域練習より開始し、次第に下側肺障害・換気血流不均等是正を目的としたプログラムへと移行した。循環動態が落ち着いた段階で端座位練習を開始し、ベッドサイドでの立位練習、リクライニング車椅子離床と進めたが、起立・移乗動作は2人介助を要する状況であった。長期臥床及び絶食管理で低栄養の中、運動負荷量設定には難渋したが、介助運動から徒手抵抗運動、マシンを使用してのレジスタンストレーニングや有酸素運動へと全身状態を見極めながら、運動負荷量を漸増することで身体機能改善に繋がったと考える。また、全身状態の改善と増悪を繰り返しながら経過し相当な時間を要する中で、精神面の支援も必要とした。週単位、月単位での短期目標を患者と共有しながら、モチベーションの維持にも努めた。退院前にはIADLを含めたプログラムも取り入れることでADLの拡大へと繋がり、自宅退院に至ったと考える。しかし、就労をしていた入院前の身体機能と比較すると著明に低下しており、復職を最終目標とすると今後も継続的なリハビリが必要である。重症急性膵炎の治療では長期入院を伴うことが多い。その中で廃用症候群に加えて、炎症や低栄養による骨格筋量の減少、身体機能の低下が引き起こされるため、多面的な視点で運動負荷量に注意しながらリハビリ介入する必要があると考える。

    【倫理的配慮】 対象者には、書面及び口頭にて発表の目的と内容を説明し、同意の署名を得た。

  • O-164 呼吸・循環・代謝④
    内田 有理香, 宮之原 俊一
    p. 164-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 身体活動量が多い者や、運動をよく行っている者は、総死亡率が低いこと、更に高齢者においても歩行など日常生活における身体活動が、寝たきりや総死亡率を減少させる効果のあることが示されている。アメリカスポーツ医学会(ACSM)の示した運動推奨ガイドラインによると、高齢者を含む18歳以上の成人すべての年齢層において、中等度の有酸素運動を1日最低30分(1回10分以上に分けても良い)週5回以上継続して行うことが推奨されている。しかし、日本老年学会・日本老年医学会が定義する90歳以上の超高齢者においては、特に十分な運動が実施されていないように思われる。そこで、当院に呼吸器疾患で入院した90歳以上の超高齢者を対象としたリハビリプログラムにおいて、有酸素運動の実態を調査し、超高齢者における運動プログラムの改善について考えを報告する。

    【方法】 対象は、令和4年1月1日から12月31日の間に呼吸器疾患で当院に入院し、理学療法または作業療法が処方された90歳以上の者とした。その中で有酸素運動の有無、内容についてリハビリ記録から調査を行った。歩行速度が記載されておらず、歩行距離のみ記載されたものは、サルコペニアの診断基準を参考に、480m(毎秒0.8mの歩行速度で歩いた距離)以下のものは10分未満と判断した。

    【結果】 当該期間内に対象となった患者は、延べ85名(男性38名、女性47名)、平均年齢は92.78±2.64歳、平均入院日数は20.81±15.07日であった。そのうち、10分以上の有酸素運動を行った者は居なかった。

    【考察】 当院の超高齢者リハビリプログラムにおいて、有酸素運動の不足が示唆された。確かに、入院や手術後の患者には慎重なアプローチが必要だが、結果を得るためには、適切な負荷が必要なことも重要である。超高齢者の有酸素運動の負荷量に関する研究は、渉猟し得た範囲では認められず、全体像を把握するため、今回は個別の状況を考慮せず、一律に運動負荷の調査を実施した。

     得られた結果から、リハビリ介入時期の問題、医療従事者やリハビリスタッフの認識不足、患者の意欲低下が原因として挙げられる。介入時期に関しては、当院が急性期であることを考慮するとやむを得ない環境であるようにも思われるが、10分以上の有酸素運動を行っている患者が数人は確認できてもよさそうである。むしろ、療法士の認識不足と患者の意欲低下の影響が結果により大きな影響を与えているように思われる。そこで、療法士の認識不足に対しては、医療従事者やリハビリスタッフの意識向上を図り、運動負荷量を再評価しながら、何よりも徐々に負荷を増やし、ACSMが提唱する1日最低30分(1回10分以上に分けても良い)週5回以上という必要量に近づけるアプローチが不可欠だと考える。また、患者の意欲低下も懸念されるところ、リハビリを通じて運動の重要性を伝え、健康と生活の質の向上を促すことが重要だと考える。

     特に呼吸器疾患を抱える患者にとって有酸素運動は重要であり、そのための運動プログラムの充実が求められる。リハビリ内容が患者の退院後の運動療法に影響を与えることを考慮すれば、超高齢者向けのリハビリプログラムには運動の重要性を配慮する必要がある。

    【まとめ】 昨年1年間、当院に入院した呼吸器疾患の90歳以上の患者の有酸素運動について調査した。その結果、患者に対して行ったリハビリプログラムの中で十分な有酸素運動が実施できていなかったことが判明した。このため、療法士や患者の意識改革、訓練内容の見直し等が必要だと考えられる。

    【倫理に関する記述】 本研究を行うにあたり、ヘルシンキ宣言の理念に基づき、個人情報の取り扱いに十分に配慮した。

一般演題29[ 測定・評価③ ]
  • O-165 測定・評価③
    堀内 大嗣
    p. 165-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 当院では機能性便排出障害(Obstructed defecataion syndrome:以下、ODS)の評価の1つとして排便造影検査(defecography)を実施している。骨盤傾斜や回旋の角度を画像を用いて評価する方法は多岐に渡るが、排便造影検査時には腰椎、仙骨を全て撮影することは困難である。そこで今回、排便造影時に必ず用いる恥骨と尾骨を結ぶ直線(pubococygeal line:PC line)と床面とのなす角を測定し、他の検査項目にどのように影響しているのかを調査したので報告する。

    【対象と方法】 対象は2019年9月から2023年2月までに排便障害を主訴に入院した118症例の中で骨盤底筋の機能に問題がある男性のODS症例23例(73.6歳±14.5)とした。除外基準として直腸重積などの器質性排便困難型症例やODS症例の中でも腹圧低下に問題のある症例、人工股関節全置換術等の股関節の手術の既往がある症例、神経筋疾患に問題がある症例を除外した。上記のような除外基準を設定した場合、女性は症例数が少なかったため今回は男性のみで調査を行った。

     調査内容は排便造影時の静止画を用いて安静時(rest)、収縮時(squeeze)、努責時(strain)の直腸肛門角(anorectal angle:ARA)、会陰下垂(perineal descent:PD)、恥骨直腸筋(puborectalis:PR)とPC-lineと床面とのなす角度(以下、PC-line傾斜角)と各項目をSpearmanの順位相関係数を用いて検定を行なった。

    【倫理的配慮】 当院の倫理委員会の許可のもと(22-41)、介入・計測を行った。

    【結果】 PC-line傾斜角とARAはrest(p<0.05 rs=0.42)、squeeze(p<0.05 rs=0.45)、strain(p<0.05 rs=0.46)で正の相関がみられた。その他の項目では相関はみられなかった。

    【考察】 今回PC-line傾斜角と排便造影で評価するARA、PD、PRとの相関を調査した。PC-line傾斜角とARAで正の相関がみられた。槌野によると前屈座位と直立座位で比較した際にARAは前屈位で有意に鈍化したと報告している。排便時はARAを鈍化させるために体幹前屈位をとるように臨床では指導を行っているが、骨盤後傾した状態で体幹の前屈位をとる症例も多くみられる。今回の結果からPC line傾斜角が前傾になるとARAは鈍化する可能性があると考える。また、端座位で骨盤前傾を促すためには股関節の屈曲可動域も関与している可能性があるため今後調査を継続していく必要があると考える。

  • O-166 測定・評価③
    藤村 諭史
    p. 166-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 若年者の下肢前方リーチ能力と下肢の傷害リスクには関連がある。下肢前方リーチは、動的バランスの評価法である。この若年者の動的バランス能力には、内側縦アーチ(medial longitudinal arch:MLA)の高さが関係する。そこで本研究の目的は、MLAの高さをアーチ高率で評価し、下肢前方リーチとの関係について検討することとした。本研究の結果は、動的バランスの能力向上や傷害発生の予防を目的とした理学療法の一助につながる可能性がある。

    【方法】 本研究は横断研究である。対象は健常若年者とした。除外基準は、下肢に痛みを有する者、データに欠損がある者とした。参加者の性別と年齢を記録し、身長、体重、body mass index(BMI)を測定した。身体機能は、下肢前方リーチ、アーチ高率、握力、膝伸展筋力、足指把持力、開眼片脚立ち時間を測定した。統計処理は、各測定項目の相関をPearsonの相関分析で検討した。次に、下肢前方リーチを従属変数、アーチ高率を独立変数とした単回帰分析を行った。model2では、共変量として各身体機能と性別を投入した重回帰分析で交絡の調整を図った。なお、重回帰分析に必要なサンプルサイズをf2=0.35、αエラー=0.05、検出力=0.8、独立変数=6に設定して算出した結果46名であった。

    【結果】 分析対象者は、必要なサンプルサイズを満たす健常若年者67名(19±1歳)であった。相関分析の結果、下肢前方リーチと有意な相関を認めたのは、左右ともにアーチ高率(右:r=0.49、左:r=0.56)と開眼片脚立ち時間(右r=0.26、左:r=0.20)であった。次に、下肢前方リーチを従属変数とした回帰分析を行った。左右ともに、下肢前方リーチにはアーチ高率が関係していた(右の最終モデル:標準化偏回帰係数=0.47, p<0.001、左の最終モデル:標準化偏回帰係数=0.49, p<0.001)。

    【考察】 下肢で前方リーチする際には、支持足の足圧中心(center of pressure:COP)が前方へ移動することが知られている。COPが前方へ移動する際には、下腿が前傾し、足関節は背屈する。先行研究によると低アーチ群は正常アーチ群よりも足関節の背屈角度が小さいことが報告されている。つまり、MLAが低いことで足関節の背屈と下腿の前傾角度が小さくなり、COPの前方移動が制限される。また、MLAが低いことで第1中足骨が背屈し、母指が伸展することが明らかにされている。このメカニズムによって、COPの前方移動が制限された可能性も考えられる。本研究では、足部の可動域やCOPを評価していないため、直接的な関係性には言及できないが、アーチ高率に関与する運動学的な機序が本研究の結果に関与している可能性がある。

    【結論】 本研究の結果、下肢前方リーチにはアーチ高率が関係することが明らかになった。したがって、若年者のアーチ高率を評価する重要性が示された。また、今後さらなる検証が必要ではあるが、アーチ高率への介入によって動的バランス能力の向上や傷害予防に寄与する可能性が示唆された。

    【倫理的配慮について】 対象者には、研究の内容と趣旨について説明し、理解を得たうえで協力を求めた。本研究への参加は自由意志であり、不参加や途中で辞退した場合も不利益にならないことを説明した。本研究は、西九州大学倫理審査委員会の承認(21HUR23)を得てから実施した。

  • O-167 測定・評価③
    佐藤 美紗妃, 田代 耕一, 古川 慶彦, 堀内 厚希
    p. 167-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 脳卒中治療ガイドライン2021では、脳卒中患者の運動療法に対して、課題に特化した訓練の量・頻度を増やすことが推奨されている。起立動作の獲得は生活の質の向上に繋がるため、起立動作の獲得を目的に、反復練習を行う事が多く、また、両足に荷重をかけることを目的にセラピストの指示や誘導により左右対称的な動作を促すことがある。そして、口頭指示によって誘発される動作が変化することを経験するが、どのように変化しているか客観的に評価した報告はみられない。そこで、注意の方向性を自分の身体運動に向ける内部焦点(Internal focus:以下、IF)と、目的物や環境に注意を向ける外部焦点(External focus:以下、EF)の違いにより、起立動作における関節運動の左右対称性にどのような影響を与えるのか検証を行ったため報告する。

    【対象と方法】 対象は、右被殻出血の発症から140日経過した左片麻痺を有する70歳代の男性であり、Brunnstrom Recovery Stage(以下、BRS)は、上肢Ⅴ手指Ⅴ下肢Ⅵ、Gross Muscle Test(以下、GMT)は、左上下肢4レベル、体幹4レベルであり、足関節クローヌスは陰性であった。病棟内移動は、左短下肢装具を装着したT字杖歩行で自立しており、裸足歩行も連続300m程可能であった。

     方法として、対象者は背もたれのない椅子に座り裸足となり、指示なし条件、IF条件、EF条件の3条件で計測した。IF条件では「左足(麻痺側)に体重をかけて起立を行ってください」、EF条件では床に目標物を置き、「目標物に額を近づけるように起立を行ってください」と通常の理学療法場面と同様の口頭指示を行った。測定には、マーカーレス3次元動作分析装置MA-1500(アニマ株式会社製)を用いて、各条件で3回分の起立動作における股関節の関節運動を前額面より、体幹の傾き・回旋運動を矢状面・水平面上より抽出した。さらに、抽出したデータを平均化し、3条件で比較を行った。

    【倫理的配慮】 対象者へ十分な説明を行い、同意を得ている。

    【結果】 指示なし条件での起立動作では、第2相から第3相にかけて麻痺側股関節の外旋が出現した。IF条件での起立動作では、第1相では、両下肢ともに股関節中間位をとっており、左右対称的な動作を行えているが、第2相から第3相にかけての動作では非麻痺側股関節が大きく外旋位を示し、体幹は右回旋位を示していた。EF条件での起立動作では、左右対称な動作が一連の動作において行えていた。

    【考察】 指示なし条件では、第2相から第3相にかけて重心位置が非麻痺側優位の動作となり、麻痺側下肢へ体重が乗りにくい姿勢になった可能性がある。そのため、麻痺側股関節の外旋が生じたことが考えられる。

     IF条件では、「麻痺側下肢へ体重をかける」という意識付けを行ったことで、第1相より頭部、体幹が麻痺側へ偏移し、第2相から第3相にかけて麻痺側優位な動作となっていた。そのため、体幹の右回旋が出現し、非麻痺側股関節が外旋位を示したと考えられる。また、本症例のBRSはⅥ、GMTは4レベルであり、麻痺側優位な動作であっても骨盤の後退はみられなかった。このことからも、体幹の右回旋が出現した要因であると考える。EF条件では、頭部の位置を目標物に向け、動作を促したことにより、身体への注意力は減少し、円滑な動作となりやすく左右対称的な動作に繋がった可能性が考えられる。また、予めセラピストが、目標物を左右対称的な起立動作となりやすい位置に設置していたことも一要因と考えられる。今回の検証により、セラピストの誘導方法によって、起立動作における関節運動の左右対称性へ影響を与えることが示唆された。

  • O-168 測定・評価③
    今泉 夏歩, 田代 耕一, 古川 慶彦, 堀内 厚希
    p. 168-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 脳卒中片麻痺患者における身体機能及び日常生活動作能力の維持・向上のためには、日々の生活における身体活動量が重要であると報告されている。しかし、脳卒中患者の中には、病識が乏しく、運動意欲も低下している症例も多く、十分な活動量を確保することが難しいことがある。そのため、日常生活場面での活動量を確保する手段の1つとして日常生活の移動形態を車椅子から歩行へ変更することがある。しかし、転倒リスクの伴う移動形態へ変更することで、活動量が必ずしも増加するとは言い切れない。そこで、移動形態の変更が、活動量の増加に寄与するのか検証したため報告する。

    【対象と方法】 対象は下肢のBrunnstrom Recovery Stage(以下、BRS)Ⅴである左片麻痺を呈している70歳代の女性とした。入院時(X年Y月Z日)より麻痺側下肢のすり足が著明であり、10m程度歩行すると躓きがみられていたため、病棟内移動を車椅子全介助で行うこととした。すり足が軽減し、独歩での移動を行えるようになったためZ日+28日に日中のみ病棟内の移動を独歩軽介助にて行うこととした。車椅子期間のZ+22~27日の6日間と、独歩軽介助期間のZ日+29日~34日の6日間において、日中のみ活動量計を装着し、1日の活動量を計測し比較した。

    【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には十分に説明を行い、了承を得た。

    【結果】 総消費カロリーの平均は車椅子期間1,406.5±32.8kcal、独歩期間1,464.6±66.9 kcalと独歩期間が上回った。歩数の平均は車椅子期間が1,249.3±503.1歩、独歩期間が1,520.6±421.3歩と独歩期間が上回った。METs数による1日の運動時間の平均は、1.0~1.9METsは車いす期間が342.5±62.3分、独歩期間が396±84.7分、2.0~2.9METsが車いす期間は35.5±8.5分、独歩期間は55.5±7.7分、3.0~3.9METsは車いす期間が8.3±4.2分、独歩期間が8.8±3.9分、4.0~4.9METsは車いす期間が4.7±0.7分、独歩期間が3.7±2.1分、5.0~5.9METsは車いす期間が2.2±0.69分、独歩期間が2.2±1.1分、6.0~6.9METsは車いす期間が1.2±0.4分、独歩期間が1.2±0.9分、7.0~7.9METsは車いす期間が0.8±0.9分、独歩期間が0.5±0.5分、8.0METs以上は車いす期間が0.2±0.4分、独歩期間が0.5±0.5分であった。

    【考察】 1.0~1.9METsは約53分、2.0~2.9METsは約30分上回った。これは、症例が比較的頻尿であり、トイレまでの移動回数も多かった。そのため、トイレまでの移動毎に歩行を行えたことにより、活動量が多くなったのではないかと考える。また、本人より、独歩軽介助になったことで他患者との交流が増えたと聴取した。廊下ですれ違った他患者と立ち話をする時間が増えたことにより、活動量が多くなったのではないかと考える。さらに、交流の中で他患者とテレビ番組の情報共有を行っていると聴取されており、椅子に座ってテレビを観るなど、座位で過ごされることが増えたため、活動量が多くなったと考える。

     移動形態の変更により活動量の増加を図る場合は、症例の活動意欲等も影響するため、今後も継続して検証を行っていく。

  • O-169 測定・評価③
    嶋村 剛史, 加藤 浩
    p. 169-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 リハビリテーションを実施する上で、ADLの向上に歩行能力の向上は重要である。近年、臨床において簡便な歩行時の質的評価として加速度情報から規則性・調和性・対称性を定量化するHarmonic Ratio(以下、HR)の研究が増えきている。HRに関して、高齢者や脳卒中患者の評価について報告はあるが、股関節外傷後患者についての報告は我々が渉猟した限り存在しない。そこで、本研究の目的は高齢健常者と股関節外傷術後患者を対象に歩行動作におけるHRが股関節外傷後の滑らかさと一側性障害後の評価に有用であるかを検討することとした。

    【方法】 対象者は60歳以上の高齢健常女性20名(健常群)及び、過去に認知症の既往がなくMMSE24点以上の股関節外傷術後の女性20名(股関節外傷群)とした。方法は9軸ワイヤレスモーションセンサ(スポーツセンシング社製)を用い、被検者の第3腰椎棘突起部に位置するように伸張性バンドで固定した。歩行は前後に3mの補助路を設け、定常歩行10mを計測した。課題動作は快適速度歩行と最大速度歩行とした。股関節外傷群の計測は術後7週間を目安とし、歩行動作が自立レベルで退院準備期に実施した。HRは1歩を1周期として1歩行周期を離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform:DFT)し、20周期までを解析対象とした。左右方向は奇数/偶数、その他は偶数/奇数として算出した。加えて、1歩行周期(ストライド)を1周期として2歩行周期をDFT、40周期からストライドHR(sHR)を算出した。sHRは全方向偶数/奇数として算出した。

     データの正規性はShapiro-Wilk検定、等分散性はLevene検定を用いて確認した。股関節外傷群と健常群におけるHRとsHRの比較には2標本t検定、Mann-WhitneyのU検定を用いた。HRとsHRの比較には対応のあるt検定、Wilcoxonの符号付き順位検定を用いた。有意水準は5%とした。すべての統計解析はWindows版のR4.2.1(CRAN, freeware)を用いた。

    【結果】 HRの比較において、快適歩行速度と最大歩行速度の両方の全方向で健常群が有意に高値であった(<0.001)。

     sHRの比較において、快適歩行速度では全方向で健常群が有意に高値であった(<0.001)。最大歩行速度では三軸合成を除いて健常群が有意に高値であった(左右<0.001、鉛直・前後<0.05)。

     HRとsHRの比較において、健常群における快適歩行速度では左右方向でHRが有意に低値であった(<0.05)。股関節外傷群において、快適歩行速度では全方向でHRが有意に低値であった(左右<0.05、前後<0.001、その他<0.01)。最大歩行速度では全方向でHRが有意に低値だった(左右<0.01、前後<0.05、その他<0.001)。

    【考察】 HRに関して、快適速度歩行と最大歩行速度の両方において、全方向で健常群が有意に高値であったことから移動が自立し、退院準備期においても股関節外傷群は滑らかさが低下している可能性が示唆された。

     sHRに関して、最大歩行速度の三軸合成においては有意な差を認めなかった。そのため、一側性障害後の評価にはHRに加えてsHRを評価することは有用である可能性が示唆された。

     HRとsHRの比較に関して、Kavanaghらは高齢者の内外側方向において滑らかさが小さいことを報告しており、高齢健常女性も対称性と滑らかさが低下している可能性が考えられる。さらには、快適歩行速度の左右方向除いて有意差を認めなかったことから、40周期までから算出したsHRの評価有用性が示唆された。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はくまもと県北病院倫理委員会の承認(2020-012)を受け実施した。すべての対象者にヘルシンキ宣言に基づき倫理的配慮を行い、書面を用いて研究の内容および意義を説明し、同意を得た。

  • O-170 測定・評価③
    倉内 健生, 大濱 倫太郎, 仮屋 有華, 外薗 幸和, 池田 恵子, 黒仁田 武洋, 小原 卓博, 木村 玲央, 宮良 広大, 下堂薗 恵
    p. 170-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 サルコペニアとは骨格筋量、筋力、身体機能が低下した状態であり、早期発見、適切な治療介入が推奨されている(Cruz-Jentoftら、2019)。身体機能障害を伴うサルコペニアは、海外のリハビリテーション病院では約50%(Sánchez-Rodríguezら、2016)、本邦の回復期リハビリテーション病棟(以下、リハ病棟)では53% (Yoshimuraら、2018)と示されている。一方、特定機能病院とは、一般医療機関では実施することが難しい手術や高度先進医療などの高度医療を、高度な医療機器、充実の施設の中で行うことができる病院を指す。特定機能病院リハ病棟に入院する患者層の背景として、基礎疾患の重複数、急性期治療の経過の違いなどが考えられ、サルコペニアの有無に関しても本邦回復期リハ病棟の報告とは異なる可能性がある。これらの背景を踏まえ、今回、当院の特定機能病院リハ病棟患者を対象に、入棟時サルコペニアの有無と関連因子について調査した結果を報告する。

    【対象と方法】 対象は2022年4月から12月までに当院リハ病棟に入棟した患者63名。入棟時評価として、入院からリハ病棟入棟までの日数、チャールソン併存疾患指数(CCI)、SARC-F、InBodyS20を用いた骨格筋指数、握力、下腿周径、Short Physical Performance Battery(SPPB)、Functional Ambulation Categories(FAC)、Functional Independence Measure(FIM)を評価した。サルコペニアの判定基準にはAsian Working Group for Sarcopenia2019(以下、AWGS2019)を用いた。主要アウトカムはリハ病棟入棟時のサルコペニア発症の有無とした。今回、リハ病棟入棟時のサルコペニア有病率を算出した。また、サルコペニア発症の因子を明らかにするため、サルコペニアを発症した群(以下、サルコペニア群)とサルコペニアを発症しなかった群(以下、非サルコペニア群)の2群に分類した。統計学的解析は、従属変数をサルコペニアの有無とした単変量解析を行った。なお、本研究は人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針、ヘルシンキ宣言に則り、趣旨と内容、研究参加拒否の機会を公開するため、研究期間中はオプトアウト資料を院内のホームページ上に掲示した。また、鹿児島大学病院倫理審査委員会の承認(承認番号:220082)を得て実施した。

    【結果】 対象者63名のうち、検査項目に欠損のあった3名は除外した。解析対象者は60名(男性28名、女性32名、平均年齢63.8±15.7歳)であった。疾患構成は、脳血管疾患36名、整形外科疾患21名、廃用症候群2名、心大血管1名であった。非サルコペニア群は55名、サルコペニア群は5名であり、リハ病棟入棟時のサルコペニア有病率は8.3%であった。両群間において、疾患、BMI、入院からリハ病棟入棟までの日数、骨格筋指数、握力、下腿周径、FIMで有意差を認めた。一方、CCIに有意差は認められなかった。

    【考察】 今回、入棟時のサルコペニア有病率はYoshimuraら(2018)の53%、八木(2022)の76.6%と比べ低い値を示した。先行研究と比べ、平均年齢が比較的若く、疾患構成の違い、例えば当院では廃用症候群が少ない点などが影響しているものと考えられた。また、サルコペニア群は非サルコペニア群と比較して、入院からリハ病棟入棟までの日数が有意に長く、急性期治療の経過も影響していることも考えられた。一方、CCIについて両群の有意差に至らなかった要因としてサルコペニア群のサンプル数が少ないことが考えられた。今後も症例数を蓄積し、当院リハ病棟患者の入棟時のサルコペニア有病率、退院時の機能予後に影響を与える因子の検証を継続して取り組む必要がある。

一般演題30[ 日常生活活動② ]
  • O-171 日常生活活動②
    荒木 紀彰, 岡﨑 大介, 多田 英晃
    p. 171-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 入浴動作は基本動作に上肢操作が伴う複合動作で、最も自立困難な動作と言われ、地域在住高齢者は実場面評価困難で難渋する事が多い。体幹は四肢間運動連結や姿勢制御、バランスに重要な役割を果たし、入浴動作でも同様である。奥田らの作成した臨床的体幹機能検査(Functional Assessment for Control of Trunk:以下、FACT)は体幹機能をパフォーマンスによる得点尺度で捉えた治療指向的検査法である。脳卒中以外の地域在住高齢者で実施された先行研究もあり、有用な体幹機能検査と言われる。地域在住高齢者入浴動作におけるFACTとの関連の報告は少ない。FACTと跨ぎ動作、入浴動作自立度の関連を調査し、地域在住高齢者の入浴動作評価・介入の一助とする事を目的に調査・統計学的検討を行い若干の知見を得たので報告する。

    【対象】 令和2年4月~12月に当院外来リハビリ利用された地域在住高齢者16名(男性5名、女性11名。平均年齢83.8±6.5歳。介護保険非該当7名、要支援1名、要介護8名。)で脳血管疾患4例、運動器疾患12例を対象とした。

    【方法】 対象者の年齢、要介護度と、浴槽跨ぎ動作型を7段階(ベッドバス~前方跨ぎ)評価し、入浴動作自立度はFIM入浴点数、FIM総点数を評価した。FACTと各身体機能の関連調査のため、FACT、関節可動域(SLR、股屈曲、外転、内旋、膝屈曲、伸展)、筋力は握力、体幹MMT(屈曲、回旋)と徒手筋力計(MT-100:酒井医療)で股屈曲、膝伸展を測定し、FACTと各評価・浴槽跨ぎ動作型・FIMの相関関係を調査した。また、FACT、浴槽跨ぎ動作型、FIM入浴点数、FIM総点数を従属変数とした重回帰分析を実施した。浴槽跨ぎ動作型(立位自立)のFACTカットオフ値をROC曲線を用い算出した。各統計処理は有意水準5%とした。

    【結果】 FACTは浴槽跨ぎ動作型(r=0.82)、FIM総点数(r=0.64)、FIM入浴点数(r=0.82)と相関を認めた。FACTと関節可動域で股屈曲(r=0.63)、SLR(r=0.5)、筋力では握力(r=0.5)、股屈曲(r=0.84)、膝伸展(r=0.77)、体幹屈曲(r=0.74)、体幹回旋(r=0.78)と相関を認めた。浴槽跨ぎ動作型と関節可動域は股屈曲(r=0.63)、SLR(r=0.61)、股外転(r=0.69)、膝伸展(r=0.63)、筋力は股屈曲(r=0.74)、膝伸展(r=0.72)、体幹屈曲(r=0.69)、体幹回旋(r=0.69)で相関を認めた。重回帰分析では、FACTに影響を及ぼす因子として股屈曲筋力(β=0.8、p<0.01)、握力(β=-0.6、p<0.05)が抽出され、浴槽跨ぎ動作型に影響を及ぼす因子としてFACT(β=1、p<0.05)が抽出された。浴槽跨ぎ動作型立位自立のFACTカットオフ値は11点(感度0.833、特異度1.0)であった。

    【考察】 入浴は身体を清潔に保つ事は勿論、身体、精神機能への効果もあり、地域在住高齢者の在宅生活を支える重要な動作である。結果よりFACTは体幹・股機能と関連を認め、浴槽跨ぎ動作型に影響を及ぼす因子として示唆された。FACTは座位評価だが体幹・股関節機能評価に優れ、重心移動能や動的評価が出来る。FACTを用い、地域在住高齢者のリハビリに入浴動作を想定した評価を行う事で、より股・体幹機能を捉えた入浴動作介入、介助量軽減に寄与出来るのではないかと考える。

    【今研究の限界と課題】 本研究のFACTの脳血管疾患以外の活用妥当性、浴槽跨ぎ動作型評価の信頼性、またサンプルサイズに課題が残る。今後もこれら項目の妥当性・信頼性の調査、サンプルを増加し検討し、地域在住高齢者の入浴動作の効果的な評価・介入について検討したい。

    【倫理的配慮、説明と同意】 当研究は当院倫理委員会審査に承認を得て(承認番号0501)、ヘルシンキ宣言に則り、対象者全員に研究の意義、目的を十分に説明し同意を得て実施した。

  • O-172 日常生活活動②
    松崎 凌真, 上田 晃希, 富原 優子, 長嶺 安通, 松岡 輝樹, 宮﨑 雅司, 中西 和毅, 榊間 春利
    p. 172-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 当院では、運動器疾患を有した地域在住高齢者に対して短時間通所リハを提供している。これまでの通所リハの効果に関する研究では、身体運動機能の維持・向上や生活空間の拡大効果など一定の効果が認められることが報告されている。しかし、通所リハが日々の活動パターンに及ぼす影響に関してはよく分かっていない。そこで、本研究の目的は、通所リハが運動器疾患を有した地域在住後期高齢者の1年後の身体運動機能や1日の活動パターン、介護度改善にどのような影響を及ぼすのか調査することとした。

    【方法】 2019年から2021年までに当院通所リハの利用者は87名であった。利用開始時に活動量の計測が実施できた27名の中で、神経筋疾患を有した利用者や1年後に活動量の計測ができなかった利用者を除外した11名(男性2名、女性9名、81.3±4.9歳、要支援1:3名、要支援2:6名、要介護1:2名)のデータを解析した。利用開始時と1年後に活動量、身体機能、抑うつ状態について評価した。活動量の計測には3次元加速度センサ(OMRON社製、Active style pro HJA-750C)を用い、利用者には1週間装着するよう指示し、8時間/日以上装着していたデータを解析に用いた。活動量の解析の指標として歩数、歩行EX、生活EXに着目した。EXとは身体活動の強さと量を表す単位で、身体運動強度(METs)と活動時間の積で表される。今回3METs以上6METs未満のEXを分析した。身体機能は握力、30秒椅子立ち上がり回数(CS-30)、開眼片脚立位時間、2ステップテスト、Timed up and go test(TUG)を評価した。抑うつ評価として老年期うつ評価尺度(GDS15)を使用した。利用者は週に1~2回、2時間/回、個別リハを中心に物理療法、マシントレーニングを1年間実施した。統計学的検定にはGraphPad Prismを用いて、対応あるt検定またはWilcoxonの符号付順位検定を行い、有意水準は5%とした。

    【結果】 1日の平均歩数は、利用開始時(1,391歩/日)と比較して1年後(1,820歩/日)に有意に増加していた。1日の時間別平均歩数は12時を境に午前と午後にピークを迎える2峰性の変化を示し、利用開始時と比較して1年後には午前(am7:00~10:00)と午後(pm15:00~18:00)の歩数が大きく増加していた。1日の時間別平均EXは、歩数変化と同様なパターンを示した。1日の時間別平均生活EXは、開始時と比較してam9:00からpm15:00の間で減少していた。運動機能評価は1年後に有意な改善は認められなかった。うつ評価の指標であるGDS15に関して、有意な改善は認められなかったが、開始時(中央値:8点)と比較して1年後(中央値:3点)に減少していた。介護度に関して、18%(2名)が改善を示し、64%(7名)の利用者は介護度に変化がなかった。

    【考察】 本研究は、1年間の通所リハが運動器疾患を有した地域在住後期高齢者の1日の歩行活動パターンを向上させ、運動機能維持や介護度維持・改善に効果が期待できることを示唆した。その要因として、生活活動から歩行活動への1日の活動パターンの変換が起こったと考えられる。また、通所リハに参加することにより運動や外出の機会といった社会参加を促進し、抑うつ状態が改善したことが活動パターンの変化に繋がった可能性がある。通所リハ利用者の日々の活動量向上には、身体機能のみならず精神的な改善も重要となることが示唆された。

    【まとめ】 1年間の通所リハは運動器疾患を有した地域在住後期高齢者の歩行活動を向上させ、日々の活動パターンに影響を及ぼすことが示唆された。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、鹿児島大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(No180050)。対象者には十分説明を行い、同意を得た。

  • O-173 日常生活活動②
    松岡 輝樹, 松崎 凌真, 中西 和毅, 榊間 春利
    p. 173-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 Timed up and go test(TUG)は動的バランス能力の評価指標であり、信頼性が高く、下肢筋力、バランス、歩行能力、易転倒性といった日常生活機能との関連性が高い。高齢者の身体機能評価や転倒の予測因子として広く用いられている。Shumway-Cook(Phys Ther. 2000)らは、地域在住高齢者の転倒経験者と非経験者のTUGのcut off値を13.5秒と報告している。これらのcut-off値は調査対象者によって変化し、運動器不安定症では11秒とされている。しかしながら、TUGの値が地域在住高齢者の日中活動パターンに及ぼす影響についてはよく分かっていない。そこで、本研究は、運動器疾患を有する地域在住高齢者を対象にしてTUGと日中活動パターンの関係について検討した。

    【方法】 対象は、運動器疾患を有する地域在住高齢者103名の内、過去1年以内の急性疼痛、認知症、神経疾患、心血管疾患、重度の併存疾患の既往をもつ者、データに欠損がある者30名を除外した73名(男性:16名女性:57名、81.2±13.2歳)とした。調査項目は、過去1年間の転倒経験、TUG、日中活動量の計測を行った。活動量の計測には3次元加速度センサ(OMRON社製、Active style pro HJA-750C)を用い、対象者には1週間装着するよう指示し、8時間/日以上装着したデータを解析に用いた。活動量の解析指標として歩数、生活EX、歩行EXに着目した。EXとは身体活動の強さと量を表す単位で、身体運動強度(METs)と活動時間の積で表される。今回AM6:00~PM23:00における3METs以上6METs未満のEXを分析した。最初に転倒経験者と非経験者において、TUGの値に違いがあるか検討した。次に、今回の対象者全員の平均値が12.9秒であったので、TUGのカットオフ値を13秒に設定し、TUG13秒未満群と13秒以上群の2群に分けて比較検討した。統計学的検定にはGraphPad Prismを用い、群間比較は対応のないt検定あるいはMann-Whitney検定、グループ解析はFisherの正確確率検定、日中活動パターンの比較は二元配置分散分析、TUGと活動量の関係はピアソン相関係数を用いて検討し、有意水準は5%とした。

    【結果】 TUGの値は、転倒経験者(16.1秒)が非経験者(11.3秒)と比較して有意に高かった(p<0.01)。1日の歩数において、TUG13秒以上群(1,409歩)は13秒未満群(3,264歩)と比較して有意に減少していた(p<0.01)。同様に、TUG13秒以上群は13秒未満群と比べて生活EX(11.2と18.6)、歩行EX(1.3と3.0)ともに有意に減少していた(p<0.05)。1日の時間別平均歩数は12時を境に午前10時と午後2時にピークを迎える2峰性の変化を示し、TUG13秒以上群は午前と午後の歩数が減少していた。歩行EXと生活EXも同様の日内変化を示し、13秒以上群で大きく減少していた。TUG値の増加は歩数や生活EXと有意な負の相関関係を認めた(r=-0.539とr=-0.530、p<0.05)。

    【考察】 運動器疾患を有する地域在住高齢者は歩行活動と比較して生活活動は比較的維持されていることが報告されている(Sakakima et al., Int J Environ Res Public Health. 2020)。本研究は、TUG値が大きいと転倒リスクが高まると同時に日中の活動パターンに影響を及ぼし、特に日中の歩行活動だけでなく生活活動も減少していることを示唆した。

    【まとめ】 運動器疾患を有する地域在住高齢者において、TUGの値は日中活動パターンと関係しており、在宅での活動性の評価指標として有益である。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は鹿児島大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(No180050)。ヘルシンキ宣言に基づいて実施した。対象者には十分説明を行い、同意を得た。

  • O-174 日常生活活動②
    早川 綾乃
    p. 174-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 近年、厚労省により「活動と参加に焦点を当てたリハビリテーションの推進」が求められ、入院リハアウトカムも活動が重要視されているが、退院後の生活について把握できていないのが現状である。高齢者の活動能力低下は日常の行動範囲の狭小化と関連性が高く、生活空間に関連する要因の検討が行われている。Life-space assessment(以下、LSA)は、外出行動の程度を点数化して評価するもので、日常生活活動低下に先立って狭小化し、将来の生活関連活動低下の予測因子であると言われている。そこで、本研究の目的は、自宅退院患者の生活活動範囲を拡大させるため、退院後のLSAに影響を及ぼす要因を検討することである。

    【対象および方法】 対象は、2022年9月~2023年3月に当院回復期病棟から自宅退院した65歳以上(77.1±8.7歳)の整形疾患患者53名(男性:14名、女性:39名)とした。調査項目は介護認定の有無、利用サービスの有無、同居者の有無とした。また、退院時のFunctional Independence Measure(以下、FIM)、Timed Up and Go Test(以下、TUG)、Berg Balance Scale(以下、BBS)を評価し、退院3カ月後のFIMとLSA(活動レベル、外出頻度、補助具の有無、付き添いの有無)を電話にて聴取した。先行研究に従い、退院3カ月後のLSAが57点以上を高活動群(38名)、56点以下を低活動群(15名)とした。統計解析として、各測定項目を2群間で比較し傾向を確認し、有意差を認めた変数と3カ月後LSAの関連性についてSpearmanの相関係数を算出した。次に、3カ月後LSAに及ぼす要因を検討するため、重回帰分析を行った。

    【結果】 本研究の退院3カ月後LSAの平均値は76.3±30.7点、TUGの平均値は12.8±9.1秒だった。また、介護認定保有者は11名だった。退院3カ月後LSAの2群比較の結果、同居者の有無以外の10項目に有意差を認めた。その内、活動レベル以外の9項目の間には、有意な相関関係を認めた。LSAを従属変数、有意な相関を認めた変数を独立変数とした重回帰分析の結果、介護認定の有無、外出頻度、補助具の有無、TUGに有意な差を認めた。

    【考察】 本研究の結果から、介護認定の有無、外出頻度、補助具の有無、退院時のTUGは自宅退院後のLSAに影響を及ぼしている可能性が示唆された。これまでの報告では、移動能力の低下や要介護度区分が上がるにつれて点数が低くなること、通所リハビリテーションの利用は、地域在住高齢者にとって重要な外出手段であると述べられている。また、LSAにより評価される生活空間は、高齢者の一般健康状態や身体機能、ADLと関連し、虚弱の促進や死亡率の増加の予測因子であることが明らかになっている。本研究でも、同様の項目に有意差を認めたことから、身体的な機能や活動量が低下した高齢者は、活動範囲の狭小化を招き、閉じこもりによる更なる活動性の低下が外出頻度に影響を及ぼし、LSA得点低下に繋がったと考えられる。また、本研究の対象者は、退院時FIMの平均値が比較的高いが、低値群は高値群と比べ、外出頻度の低下や移動時に補助具が必要であることが、LSA得点低下に影響を及ぼすと考えられる。

     今後、今回の結果を踏まえ、身体機能だけでなく退院後の生活におけるサービス利用や外出機会を増やすことについて、入院時から多職種と話し合いを行っていく必要がある。これにより、生活関連活動低下の予測因子であると言われているLSAの点数向上を目指すことで生活空間の狭小化を予防し、多様化する高齢者の活動に柔軟に対応していく必要があると考える。

    【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき本研究の目的及び方法を説明し、発表の了承を得た。

  • O-175 日常生活活動②
    二宮 有佳, 田代 耕一, 古川 慶彦, 堀内 厚希
    p. 175-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 立ち上がり動作は、運動学的特性から高齢者にとって困難な動作の一つである。そのため臨床上、動作学習のために補助具を用いて、難易度調整を行うこともあれば、動作獲得のための手段として、座面のプッシュアップを用いることがある。これらの方法の違いによって、離殿の可否に影響を与えることが多く、その要因の1つに下肢関節運動の影響が考えられる。しかし、起立動作の離殿の可否と各下肢関節運動の関係性を検証した報告は少ない。そこで、条件の異なる起立動作における離殿の可否が、体幹ならびに股関節・膝関節・足関節の関節運動とどのように関連しているか検証したため報告する。

    【対象と方法】 症例はCOVID-19の診断から60病日経過した80歳代の女性とし、GMTは体幹3、上下肢3、握力は右5.7 ㎏、左5.1 ㎏とする。上肢による、大腿支持で起立動作は離殿が困難であったが、固定式歩行器(以下、歩行器)の使用やプッシュアップでの起立動作では監視下で可能であった。

     方法について、症例は背もたれや肘かけのない椅子に股関節、膝関節が屈曲90°、足関節が背屈0°となるよう座位をとり、大腿支持の条件、歩行器(高さは70 ㎝に設定)を使用した条件、プッシュアップ条件の順に起立動作を実施した。3条件において、マーカーレス3次元動作分析装置MA-1500(アニマ株式会社製)を使用し、前額面より動画を撮影しつつ各関節運動を計測した。そして、体幹前傾開始から離殿直前を第1相とし、その動作時間(秒)と矢状面より推定された股関節、膝関節、足関節の関節角度(°)、体幹の前傾角度(°)を抽出し、3条件で比較した。

    【倫理的配慮】 対象者へ十分に説明を行い、同意を得た。

    【結果】 大腿支持の条件では、第1相の時間が1.17秒、関節運動は股関節屈曲25.6°、膝関節伸展14.3°、足関節背屈10.3°、体幹前傾41.9°で離殿が困難であった。歩行器の条件では、0.69秒、股関節屈曲20.7°、膝関節伸展8.0°、足関節背屈2.4°、体幹前傾23.8°で離殿は可能であった。プッシュアップの条件では、0.66秒、股関節屈曲16.5°、膝関節伸展8.2°、足関節背屈9.9°、体幹前傾38.1°で離殿は可能であった。

    【考察】 起立動作が可能な関節運動の平均値は、およそ股関節屈曲20°、膝関節伸展10°、足関節背屈10°体幹前傾38.5°とされている。大腿支持の条件では、起立動作が可能とされる関節運動を満たしており、臀部から足部への重心移動に必要な各部位の関節運動がみられていた。しかし第1相において大腿部を上肢で支持することにより、前下方へ押しつける力が加わり、身体には反作用の力が働くことで離殿の直前に重心が後方へ移動し離殿が困難となったと考える。歩行器条件では、体幹や膝関節、足関節の値が他の条件に比べ、低値を示していた。歩行器は浮かないまでも、引き動作が加わったことで重心の前方移動を可能にしたことが考えられる。そのため、体幹前傾角度は他の条件よりも低値を示していたと考える。その後は歩行器を押しつける力が加わり、前方へ移動した重心を上肢の力で上方へと移行でき離殿が可能となったと考える。プッシュアップ条件では股関節、膝関節のみ正常角度を満たしていなかった。これは、手で支持している位置が臀部に近く、臀部を上方へ押し上げる力が発生しやすいため、重心の前方移動より先に上方移動を行ったことで股関節、膝関節屈曲運動を最小限にし、離殿が可能であったと考える。

     つまり、上肢支持を用いた起立動作における離殿は各関節運動の連動により臀部から足部へ重心移動を行うとともに、上肢で押し付ける方向による、身体へ働く反作用の方向が重要であると考えられた。

  • O-176 日常生活活動②
    永渕 俊輝, 松本 隆史
    p. 176-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 高齢者が要介護状態へと変化する過程には、手段的日常生活活動能力(以下、IADL)の障害がきっかけとなることが多く、IADLを把握しておくことは介護予防の観点からも意義が高いことが窺える。本研究の目的は、介護予防通所リハビリテーション(以下、デイケア)利用者の運動機能とIADLの関連性について老研式活動能力指標(以下、老研式)を用いて、生活機能に影響を及ぼす身体機能について検討することである。

    【対象と方法】 要支援認定を受けたデイケア利用者36名(平均年齢:82.8±6.88歳)を対象とし、長谷川式簡易知能評価スケール(以下、HDS-R)20点以下の者、自力歩行が困難な者、本研究に同意を得られない者を除外した30名とした。対象者の運動機能評価(握力、5回椅子からの立ち上がりテスト(以下、FTSST)、5m歩行テスト(通常・最大)、Timed Up&Go test(以下、TUG)、開眼片脚立位(以下、OLS))の各項目と老研式の得点における単相関をSpearmanの順位相関係数で算出し、統計ソフトとしてJSTAT for Windowsを用い、有意水準は5%とした。

    【結果】 対象者の内訳は、要支援1(12名:男性3名、女性9名)、要支援2(18名:男性6名、女性12名)で、HDS-R:26.2±3.58点、老研式の得点は、7.43±3.31点だった。老研式と運動機能測定値との単相関分析を行った結果、有意な相関を認めたのは相関係数が高い順にTUG(r=-0.597)、OLS(r=0.509)、FTSST(r=-0.500)だった。老研式活動能力指標の回答率は83%だった。

    【考察】 要支援認定を受けたデイケア利用者を対象に、老研式に影響を及ぼす運動機能を検討した。その結果、TUG, OLS, FTSSTの順に相関係数が高かった。この3項目は動的バランス、平衡機能、下肢筋力を反映しており、いずれも転倒リスクの評価としても活用されている。本研究結果より、高齢者のIADL低下の要因として、下肢筋力と立位バランス能力が影響を及ぼしている可能性が考えられる。今回の対象者の評価結果は転倒リスクが高く、日常生活への支障も十分考えられる結果となった。この運動機能がIADLに影響する要因として、転倒不安感が考えられる。転倒不安感は、転倒経験のない高齢者においても12~65%で有していると報告されている(Murphyら,2002)。そのため、転倒不安感による外出自粛、社会活動や余暇活動が制限されることで、生活の質の低下や廃用性機能低下への進行が懸念されており、転倒不安感の軽減を目的とした運動、生活指導が必要と考える。また、TUGが最も相関係数が高かったことから、起立、歩行、方向転換といった動的バランスの改善に向けたアプローチを行うことで、老研式得点の向上、つまりIADLの低下予防に繋がる可能性がある。デイケアでは、利用者の生活機能向上のためのサービスを提供する必要があるため、個別リハビリテーションによる動的バランスの強化と並行して、活動と参加に焦点を当てた包括的な関りが必要となる。今回、対象者が30名と少なく十分な比較検討が行えなかったこと、また転倒不安感に関しての評価が未実施であることが課題となった。今後、老研式と転倒不安感の関連、また転倒不安感に関連する運動機能についての検討が必要である。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、東福岡和仁会病院の倫理審査委員会の承認(承認番号3)を得た上で実施し、対象者には事前に研究の目的、方法、研究への協力を断ることにより何ら不利益が生じないことを文書にて説明を行い、同意を得た。

一般演題31[ 地域リハビリテーション② ]
  • O-177 地域リハビリテーション②
    上野 猛
    p. 177-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 当院ではリハビリテーション(以下、リハビリ)の質の向上を図ることを目的に、入院時より退院時の目標FIMを設定している。臨床においては、移動・トイレ動作に関して本人・家族より希望が聞かれることが多い為、今回、運動器疾患患者の移動・トイレ動作の2項目に着目し、目標FIMの妥当性(予測精度)の検証を目的として研究を行った。

    【方法】 2022年4月1日~12月31日の期間に当院の地域包括ケア病棟に入退院した運動器疾患患者219名中、1ヶ月以上リハビリを実施し、転院や死亡、欠損データ患者を除いた79名を対象とした。

     また、入院時のFIM運動項目をFIMの点数(平均3点未満の38点以下を重度、平均3点以上4点未満の39~52点以下を中等度、平均4点以上の53点以上を軽度)を層別化しFIM利得において有意差の有無と、移動・トイレ動作の目標FIMと退院FIMの関係(相関係数)を検討した。統計は、Kruskal-Wallis検定Scheffé法とSpearman順位相関係数を用い、有意水準は5%未満とした。統計ソフトは、JSTATを使用した。

    【結果】 対象患者の内訳は、上肢帯・胸郭の骨折及び手術(29例)、下肢・骨盤帯の骨折及び手術(29例)、運動器不安定症(16例)、その他の運動器疾患(5例)であった。基本属性データは、年齢:83.53±9.24歳、在院日数:51.31±6.75日、入院時合計FIMは、69.73±24.05点(運動項目:41.65±17.79点、認知項目:28.09±8.57点)、退院時合計FIM:85.33±27.39点(運動項目:57.27±21.03点、認知項目:28.06±8.60点)、FIM利得:15.60±13.40点であった。

     対象全患者の目標FIMと退院FIMの相関係数(p)は、移動0.84、トイレ動作0.90であった。重症度別の移動/トイレ動作の相関係数(p)は、軽度(移動0.87/トイレ動作0.69)、中等度(移動0.55/トイレ動作0.77)、重度(移動0.77/トイレ動作0.71)であった。全ての重症度別において、有意な関連が認められた。

     重症度別のFIM利得のKruskal-Wallis検定Scheffé法においては、3群間で有意差は認められなかった。(P=0.14)

    【考察】 対象全患者の目標FIMと退院FIMの相関係数(p)は、移動0.84とトイレ動作0.90であり、正の強い相関が認められ、当院の療法士の目標FIMの妥当性が示された。

     徳永らは、「FIM利得」の平均値が最も大きいのは中等度介助の患者であり、入院時FIMが低い患者と入院時FIMが高い患者のFIM利得は小さいと述べているが、今回の重症度別に分けた、Kruskal-Wallis検定においては有意差が認められず、重症度に関係なく患者毎に評価し目標設定することが重要と考えられた。

     最後に、中等度の移動において相関係数がやや弱かった。これは、中等度の患者は、FIM利得が大きく改善又は低下する患者が存在し、平均年齢は86歳と高齢であったことから、複数の基礎疾患や予備力の低下の影響などにより、予測精度が低下したと考えられる。今後は、対象疾患毎のエビデンス、大腿四頭筋の筋力や認知機能などの客観的評価を加え、入院一ヶ月後の再評価・他職種からの情報など、補助(多角)的な要因も含めて検討していくことで、根拠のあるより正確な予後予測が行えると考える。

  • O-178 地域リハビリテーション②
    長谷場 純仁, 田中 伸明
    p. 178-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 障害者福祉における通所型サービスのひとつに「生活介護」があるが、我々の施設では、「生活介護」の利用者のうち必要な方に対し、リハビリテーション実施計画書を作成して個別の機能訓練を行っている。「生活介護」の利用者およびその家族のリハビリテーション(以下、リハ)に対するデマンドや実施内容を調査し、当施設の「生活介護」におけるリハに求められている役割について検討したので報告する。

    【対象と方法】 対象は、2022年9月から11月の3か月間において当施設の「生活介護」を利用された身体・知的・精神障害を有する58名のうち、リハ実施計画書に基づき個別の機能訓練を実施した29名(男性11名、女性18名、年齢35.4±12.1(範囲:20-62)歳;平均±標準偏差)。対象は施設周辺の鹿児島県霧島市および姶良市に居住し、また、障害の原因となる主な疾患は、脳性麻痺15名、脊髄損傷3名、脳疾患4名、神経筋疾患4名、その他の先天性遺伝子疾患が3名であった。主な障害は、四肢麻痺13名、両麻痺7名、対麻痺1名、片麻痺2名、運動失調症1名、全身性の筋力低下5名で、その他の重複障害として側弯症や強度の関節拘縮および変形5名、呼吸障害2名、失語症5名が認められた。対象のADLはBarthel Indexで25.2±27.9点で、0点が11名、5-20点が5名、25-55点が8名、60点以上が5名でそのうち80点が1名であった。

     調査方法は、対象のリハの頻度、当施設のリハに対する本人および家族のデマンド、実施されたリハの内容について、リハ会議録やリハ実施記録等より後方視的に調査された。

     なお、この研究は社内の倫理委員会により承認され(承認番号23-1-1)、全ての利用者や家族に対し広報誌を通じて告知を行い実施された。

    【結果】 対象の当施設での個別機能訓練の頻度は、7.0±2.4回/月で、4回/月が8名、5-7回/月が3名、8回/月が14名、それ以上が4名いた。当施設以外での個別機能訓練の頻度は、2.6±2.9回/月で、0回/月が11名、1回/月が5名、3-4回/月が7名、5回以上が6名いた。当施設外でリハを受けている場所は、病院が8名、通所施設(生活介護)が7名、訪問リハが6名であった。

     対象やその家族の当施設におけるリハへの主なデマンドは関節拘縮や変形・側弯の進行予防が23名、基本動作の維持および向上が21名、疼痛緩和が8名、筋力の維持・向上が6名、筋緊張のコントロールが5名、呼吸機能の維持が3名、自宅での介助量の軽減が1名、体重のコントロールが1名いた。

     リハの内容は、ストレッチングや関節可動域運動が28名、基本動作練習が22名、歩行練習が11名、筋力増強訓練が9名、促通訓練7名、リラクゼーションが9名、立位台での立位が2名、その他に家族や職員への介助およびADLの指導や自主練習指導などが実施されていた。

    【考察】 今回の調査から、対象の半数以上が他施設や病院等でのリハの頻度は1回/月以下であり、当施設でのリハの回数が病院や他施設よりも多く、また、対象および家族によるデマンドから、当施設のリハに病院等で実施されるリハと同等の内容が求められていた。これらより当施設の「生活介護」で行われるリハは、身体機能の維持・向上を中心に、施設や家庭での介護や日常生活の場面に生かされることを目的としての役割を求められており、そのためにも、利用者やその家族はもちろんのこと、関わり合う様々な職種のスタッフや関連する施設・病院と密に連携し、リハを取り組んでいく必要があると考えられた。

  • O-179 地域リハビリテーション②
    大賀 完
    p. 179-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【活動目的】 通所型サービスC(以下、通所型C)とは介護予防・日常生活支援総合事業における生活機能改善に向けた運動機能向上等を行う短期集中予防サービスである。

     益城町では近年の通所型C利用率が低く、従前相当の介護サービス利用が大多数を占めると共に、要支援1・2の介護度の悪化率が周辺市町村と比較して非常に高い事が課題であった。

     これを受け、令和4年に地域づくり加速化事業にて、全国8市町村のプッシュ型支援のうちの1つに選ばれ、厚労省の伴走支援を受ける事となった。

     伴走支援を通じて介護サービス事業所や包括支援センター、生活支援コーディネーター、住民代表への通所型Cの普及啓発、意識統一が図られたが、実践へ向けた取組は町に任されており、令和5年2月に新たな体制での試行的実施が開始されたばかりである。

     この度、通所型Cの体制整備に向け、益城町役場の任期付職員の理学療法士として雇用される機会を得た。

     高齢者がフレイルになっても再び元気になり、介護を受けずに地域で暮らし続けられる仕組み作りを進めると共に、包括ケアにおける規範的統合や総合事業の体制整備を進めていく立場での理学療法士の活動についてまとめ、報告する。

    【活動内容】 1. 普及啓発・対象者の拾い上げ体制整備

     伴走支援で頂いた助言を元にサロンなど町内各地を回って講話を行い、介護予防の考え方の周知及び“介護保険を使わずに元気になれるサービス”として通所型Cの普及啓発を行う。

     加えて体力測定を実施して頂いている事業所から測定結果を集め、フレイルに該当する方を拾い上げて通所型Cに繋ぐ体制を整備していく。

     また、町内医師会や周辺の病院等とも連携し、介護サービスに繋がる流れとは別に通所型Cの選択肢も候補に入れて頂けるよう働きかけ、通所型Cで短期集中的に生活機能を改善し、地域で自立して介護を受けずに生活を続けていける流れを整備する。

    2. 関連組織のチーム化・連携

     通所型Cの関連職種とも定期的に実施状況や町の状況を共有する会議を行い、必要に応じ実施方法の提案・連携などを進めていく。

     包括支援センターとの連携では通所型Cの予防プラン立案に向けたアセスメントへ同行し、理学療法士目線でアセスメント方法を共有しつつ生活場面での課題と阻害因子の分析を行い、ゴール設定等のプランニングにも協力する。

     通所型C卒業前にも生活支援コーディネーターなども含めた卒業前カンファレンスを実施し、卒業後も包括支援センターと協働し必要に応じて利用者と一緒に地域の繋ぎ先へ同行して自立した地域生活が継続できるようフォローを行うとともに、終了後のアセスメントも実施する。

     その中で生活場面や地域活動のビフォーアフターの動画を撮影し、利用者の満足度向上、地域住民への啓発拡大も行う。

     一連の流れを繰り返す事で従前相当の介護サービスと通所型Cの違い、介護保険利用の際の自立支援の理念などの共通認識を事業所・住民ともに形成し、規範的統合を進めていく。

    【活動経過】

    令和4年8月 地域づくり加速化事業第1回支援

    令和4年12月 地域づくり加速化事業第2回支援

    令和5年2月 通所型Cの試行的実施開始

    令和5年2月 地域づくり加速化事業第3回支援

    令和5年4月 通所型C試行的実施中間報告、町内医師会との連携、サロン等体力測定事業所への協力依頼、地域住民への啓発資料作成

    (予定)

    令和5年5月 サロンへの啓発開始、通所型C卒業前カンファレンス、アセスメント同行、通所型C卒業後フォロー

    令和5年6月 高齢者相談員定例会での通所型Cの啓発、通いの場立ち上げ啓発、試行的実施第1クールの終了、振り返り、第2クールへの移行

    令和5年7月 民生委員児童委員協議会での通所型Cの啓発

  • O-180 地域リハビリテーション②
    堀永 諭志, 上原 春輝, 益川 眞一, 松崎 稔晃
    p. 180-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 歩行不安感のある症例に対して機能的側面に焦点を当てた運動療法では歩行不安感を軽減できなかった。そこで、応用行動分析理論を用いたリハビリにプログラムを変更した。その変更したプログラムにおいて、先行刺激を最適化して行動を引き出すためにHonda歩行アシスト(以下、HWA)を新たに使用した。その結果、歩行不安感の軽減や外出頻度の拡大などの肯定的な効果を得られた為、ここに報告する。

    【症例紹介】 右変形性股関節症に対してTHAを施行した70歳代男性。5週間の入院で歩行独歩にて自立した為退院となる。しかし、歩行不安感が強いことによる移動範囲の減少、外出意欲の低下を認め趣味の畑仕事も入院前は毎日通えていたが退院後は週2回1時間程度になっていた。術後6週より当院外来リハビリを開始した。

    【経過】 XをTHA施行日として、X+1日で全荷重リハビリ開始、X+40日には自宅退院となる。その翌日より当院外来リハビリを週2回利用され、機能的側面を中心とした運動療法を開始した。X+69日より応用行動分析に基づいたHWAを用いた歩行練習に変更した。リハビリ室内50mを3セット行い、HWAの出力の設定は、日により調整して実施した。X+71日意欲的発言増加、X+80日畑仕事の時間頻度増加みられ、X+90日外来リハビリ終了となる。

    【結果】 ※開始より4週目と6週目の結果の順に表記する。

    平均歩行速度 49m/分→58m/分

    遊脚期股関節屈曲角度(R/L) 11°/22°→18°/25°

    歩行時股関節伸展屈曲時間の対称度

    屈曲0.97→0.58 ※値が1に近いほど対称

    伸展0.63→0.69

    リハビリ意欲:NRS 8/10→10/10

    転倒恐怖感:FES 102/140→124/140

    生活範囲:LSA 84/120→102/120

    畑仕事:1-2回/週→3-4回/週

    作業時間は:1時間/日→2時間/日

     退院時は草とり、水やりが中心であり、現在は作付け、収穫などが行えるようになった。

     6週目時点で、意欲的発言増加し、歩行不安感軽減、生活範囲の拡大を認めた。

    【考察】 外来リハビリ開始時は、機能的側面に着目した練習を3週間行ったが歩行不安感の訴えに変化は見られなかった。このような症例において、応用行動分析理論を用いたリハビリが有用でないかと仮説を立てリハビリメニューを再検討した。まず、行動のきっかけとなる先行刺激を考える際に、症例にとって分かり易く見通しが持てるような指示が重要と言われている。そのことから、付属のタブレット端末でリアルタイムに症例と共に細かい股関節の動きや歩行の相などが確認できるHWAを使用した歩行訓練を中心としたプログラムに変更した。導入当初より本人も興味を持ち、自分自身でもよく理解しようと努めていた。その結果、「足が軽くなった」などの意欲的な発言が徐々にみられるようになり、歩行不安感軽減、趣味の畑仕事の時間・頻度も拡大するといった好ましい後続刺激に繋がった。応用行動分析理論を用いたリハビリは、HWAというツールを使用することで、ロボットリハという最新機器を使用する期待感が得られ、視覚からのフィードバック、歩行の快適性が高められたことが、症例の自己効力感を高めた結果、運動意欲や外出への自信がつき、患者心理の変容を促すことができたと考える。

    【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき対象者には、介入の目的と内容、発表の趣旨などの説明を行い、同意を得た。また、発表に際し不利益にならないことを十分に説明し発表目的以外での使用はしないこと及び個人情報の漏洩に注意した。

  • O-181 地域リハビリテーション②
    原野 達也, 吉里 雄伸, 今井 孝樹, 竹原 真奈美, 内藤 勇人, 服部 蓮音, 福永 暁, 田中 瑞記, 清武 千草, 堤 千代
    p. 181-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 一般介護予防事業において「通いの場」という介護予防の場が展開され、高齢者が運動や趣味活動を行う小規模な拠点として機能している。そこでは、地域住民ボランティアである介護予防サポーター(サポーター)が1・2名配置され、参加者に運動を指導し、住民主体の介護予防活動を行っている。

     通いの場に関する報告では、理学療法士(PT)が通いの場に参加する地域住民に対して介入し、その効果について明らかになっている。しかし、サポーターを介した間接的介入効果を検証した報告は見当たらない。

     そこで、サポーターを介したPTによる運動指導が、通いの場に参加している地域住民に波及するかを確認することを本研究の目的とした。

    【方法】 A市で行われている通いの場7か所を介入群と対照群に無作為に割付け、そこに集う48名と24名の女性高齢者を、それぞれ対象とした。介入群では、PTがサポーターに骨盤底筋群トレーニング(PFMT)を指導し、サポーターが対象者にPFMTを指導した。対照群では、普段から通いの場で実施しているロコモティブシンドローム予防の運動をサポーターが対象者に指導した。その後、対象者にはそれぞれ指示された運動を週3回、8週間継続して実施してもらい、介入期間前後で以下のデータを得た。身長、体重、年齢、出産回数、尿失禁症状・QOL質問票(ICIQ-SF)、Life Space Assessment(LSA)、握力、Timed Up and Go Test(TUG)、股関節内転筋力、片脚立位時間、5回立ち上がりテスト、および介入期間中の運動実施回数である。

     分析は、各評価指標を前後で対応させ、介入群と対照群で差を比較した。統計手法はWilcoxon signed-rank sum testを用い、有意水準は5%とした。

    【結果】 ベースライン時における両群の基本特性に差はなく、尿失禁症状は、介入群31名、対照群12名に認められた。指導した運動の平均実施回数は、介入群2.4回/週、対照群2.6回/週であり、週3回実施者は介入群が56%、対照群は71%であった。尿失禁症状を示すICIQ-SFの差の平均値は、介入群は-0.79(p=0.19)と改善していたが有意差はなく、対照群では0.83(p=0.043)と有意に悪化していた。その他の各評価指標の変化では、LSA(p=0.016)と握力(p=0.018)で介入群に有意な改善、股関節内転筋力(p<0.001)で対照群に有意な改善がみられた。TUGと5回立ち上がりテストは両群ともに有意に改善していた(p<0.05)。

    【考察】 PTが指導したPFMTを学習したサポーターが、通いの場に参加する地域住民に対して運動指導を行った結果、PFMTを行わない場合、ICIQ-SFは悪化する可能性が示された。一方、介入群では悪化防止の効果が示されたといえ、波及効果について確認することができた。また、対照群と比較して介入群の握力とLSAが有意に改善した要因として、先行研究では尿失禁は生活の質に悪影響を及ぼし、社会参加を妨げると述べられており、尿失禁症状が改善したことによって身体活動量及び活動範囲が増加したことが考えられる。

     サポーターを介して伝達する地域リハビリテーション活動は、PTによる直接介入と同様の効果が得られる事が示唆され、ポピュレーションアプローチにおいて効率的な方法であるといえる。しかし、運動実施回数や股関節内転筋力では、対照群の方が良好な結果となっており、今回指導したPFMTのような特異的な運動のみではなく、様々な目的の運動を組み合わせて指導を行う必要性があると考える。

    【倫理的配慮】 本研究は、人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針に基づき、参加者からは文書同意を得ており、所属施設の研究倫理審査委員会の審査を受けて実施した(承認番号:研22-0805)。

  • O-182 地域リハビリテーション②
    北尾 昌平
    p. 182-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 熊本県では、平成24年より「運動器機能評価システム(以下、本システム)」を活用し、県下全体から高齢者の運動器機能評価に関するデータの収集・分析をしている。令和2年度より、本事業の実施主体である熊本県地域リハビリテーション支援センター(以下、県リハセンター)と、そこに関係者の数名を加えたワーキンググループ(以下、WG)により、事業運営についての課題に対する検討・対策を行ってきた。今回、熊本県の運動器機能評価事業(以下、本事業)における、現状と今後の課題、それに伴うWGでの活動経過を報告する。

    【倫理的配慮、説明と同意】 各施策事業の一環で評価を実施しており、熊本県及び県リハセンターの同意、承認を得て活動記録の活用を行った。

    【これまでの現状と課題】 熊本県には、熊本県医師会にて県リハセンターの事業が実施され、地域リハビリテーション広域支援センター(以下、広域リハセンター)、地域密着リハビリテーションセンターの三層構造によるリハビリテーション支援体制がある。この体制の中で市町村・地域包括支援センターや事業所といった本システム利用者(以下、利用者)とも協力し、運動器機能評価のデータを収集してきた。ただデータ収集の方法、データの活用方法などの協議が不十分であり、令和2年度からはデータ収集が中止されていた。

    【活動経過】 課題解決のために、令和2年度~令和4年度で県リハセンター及びWGにて、以下の活動を行った。

    令和2年度:WG検討会を実施。本システムの課題、運用方法、今後の評価の方向性について検討を行った。令和2年度時点の課題では、以下の①~③があった。

    ①取り組みにおける地域差があり、全県下からのデータ収集ができておらず、県のデータとして反映しにくい。

    ②システムへの入力項目が多く、未入力・誤入力が多く、収集・分析できるデータ数が少ない。

    ③測定方法の統一が不十分であり、データの信憑性に欠ける。

     その結果、本システムの活用拡大を目標に、取り組みやすさと入力ミスの防止のため、評価項目を絞る必要性があることを確認。入力項目の削減、事業形態区分の見直し、測定方法動画をシステムに掲載するなどの新システム作成に向けた改善案を取りまとめ改修を行い、利用者に配布した。

    令和3年度:新システムの活用状況のアンケート調査を実施した。アンケート調査結果では、全体の約8割が未使用であった。理由として、コロナ禍による活動自粛、システム自体を知らない、旧システムを使用中などの理由が多かった。そこでWG検討会後、運動器機能評価についての説明会を、利用者を対象に実施し、本システムの概要・活用に向けた啓発を実施した。

    令和4年度:WG検討会にて、各市町村における本システムの活用状況の確認と対策について検討した。また、本システムの継続的な啓発を目的に利用者を対象に説明会を実施し、介護予防の取組効果の検証を目的とするデータ収集を再開した。令和4年度に収集したデータ数は3,817名(令和元年度収集データ4,242名)で、熊本県下の24市町村からのデータ提出があり、未入力・誤入力数も減少していた。本年度より収集できたデータの中からデータの分析を試みているが、対象者数が少なく、分析ができない項目もあった。

    【今後について】 今後は、収集データ数の更なる改善を図るとともに、熊本県としての課題抽出や各地域の現状と取り組み効果等の検証も視野に活動を促進予定である。引き続きマニュアル整備やシステム改修を図りながら、利用者への本事業の理解を促すと共に、収集したデータの活用方法を提案し、評価に取り組む利用者を増やす必要性を感じた。

一般演題32[ スポーツ・健康② ]
  • O-183 スポーツ・健康②
    中根 知尋, 横手 翼, 西村 天利, 古川 正一郎, 井上 修二朗
    p. 183-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【背景】 心血管疾患患者においてフレイルを呈する者は多く、入院加療の安静によって身体機能が低下する者も少なくない。したがって心血管疾患患者において退院時のフレイルのリスクを低下させる要因を検討する必要がある。地域住民を対象とした研究において、趣味がない者と比較して趣味がある者は6年間の死亡リスクが低く、3年間の要介護認定リスクが低いことが報告されている。したがって本研究の目的は、急性期心血管疾患入院患者において入院前の活動的趣味の有無と退院時のフレイルとの関連を調査することである。

    【方法】 本研究は、入院前に日常生活動作が自立した急性期心血管疾患患者269名を対象とした後ろ向き観察研究である。入院中に、入院前の趣味の有無とその内容を聴取した。ウォーキングや農作業などの身体活動を要する趣味がある者を活動的趣味群、映画鑑賞や手芸などの身体活動を要さない趣味がある者を非活動的趣味群、そして趣味なし群の3群に分類した。フレイルは退院直前に評価し、Japanese version of Cardiovascular Health Study基準に基づき、握力低下、歩行速度低下、疲労感、体重減少、低活動の5項目のうち、3項目以上該当をフレイル、1~2項目該当をプレフレイル、0項目をロバストと定義した。趣味3群における特徴を比較し、趣味3群とフレイルおよびその構成要素との関連をロジスティック回帰分析で調査し、オッズ比(以下、OR)と95%信頼区間(以下、95%CI)を算出した。調整因子は年齢、性別、体格指数、疾患分類、在院日数とした。統計解析は統計ソフトSTATA ver. 17を用い、有意水準を5%未満とした。

    【結果】 趣味3群において、年齢、性別、疾患分類、退院時のフレイルの割合、フレイルの構成要素である歩行速度低下と疲労感の該当者の割合に有意差がみられた。趣味3群におけるプレフレイル/フレイルの人数(割合)は、趣味なし群が43(61.4%)/16(22.9%)、非活動的趣味群が33(53.2%)/23(37.1%)、活動的趣味群が70(57.4%)/17(13.9%)であった。趣味なし群と比較し、非活動的趣味群はプレフレイルとフレイルのORが低いと言えなかった。活動的趣味群では、プレフレイルとフレイルのORが有意に低く、調整後も変わらなかった(OR:0.38、95%CI:0.17-0.86)。フレイルの構成要素については、活動的趣味群は趣味なし群と比較して、調整後、歩行速度低下、疲労感、低活動のORが低かった。

    【考察】 身体活動は、歩行速度に関わる筋力やバランス能力に良い影響がある。入院前に活動的趣味がある者は、入院前の歩行速度が良く、それが入院中に維持し、退院時のフレイルのリスクが低かった可能性がある。同様に、入院前から活動的趣味を行う体力があることが、退院時まで維持していたことも考えられる。また、入院前に活動的趣味があることは、退院後にその趣味を再開したいという気持ちによって精神的活力を高め、運動や理学療法に対する動機づけとなり、その群における疲労感と低活動のリスクが低かったと考えられる。

    【結論】 急性期心血管疾患入院患者において、入院前に活動的趣味がある者は、趣味がない者と比較して、退院時にフレイルを有するリスクが低かった。今後は趣味の頻度や時間、継続年数、および強度を考慮した身体活動量、入院前のフレイルなどを評価するとともに、退院後の身体機能や再入院率などの長期予後との関連を検証する必要がある。

  • O-184 スポーツ・健康②
    樋口 貴彦, 吉村 直人, 初村 和樹, 本岡 和也, 伊藤 圭介, 井上 茂徳, 池田 寛明, 阿部 春香, 持田 海斗, 橋田 竜騎
    p. 184-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 近年、Osteosarcopenia(以下、OS)という概念が提唱され、骨粗鬆症とサルコペニアの合併は、転倒、骨折、身体機能低下、死亡率の増加などの負の転帰が骨粗鬆症、サルコペニア単独と比較しさらに高まると報告されており死亡率、経済的コストに影響を与える。

     骨粗鬆症患者において1年後OSに新規該当した症例の身体的特徴を報告した研究はなく、OSへ移行した症例の身体的特徴が分かればOSの早期発見、治療予防に役立つと考える。

    【方法】 研究期間は2017年7月~2021年7月の間に当院整形外来を受診した骨粗鬆症有する外来患者連続症例120名を対象とした。初回評価から1年以上経過しかつ再評価が可能であった60歳以上の女性のみ54名を対象とした。骨粗鬆症の診断としてBMDはHologic QDR 4500Aデンシトメーターを用いて測定した。サルコペニアの診断はAWGS2019のガイドラインを用い、握力は女性18.0 ㎏未満、歩行速度は通常の歩行速度<1.0m/秒、骨格筋指数は女性5.7 ㎏/m2のカットオフ値とした。除外基準として起立歩行不可、ペースメーカー挿入、脳梗塞の既往があり麻痺があるとした。

     評価項目は年齢、身長、体重、BMI、SMI、握力、歩行速度、等尺性膝伸展筋力、Weight Bearing Index(以下、WBI)、5回立ち上がりテスト(以下、CS5)を測定した。本研究はヘルシンキ宣言に基づき十分な説明を行い同意を得た。

     統計解析はJMPバージョン16.0を使用し、1年後の比較は対応のあるt検定を用い統計学的有意水準はp<0.05とした。

    【結果】 基本情報ではベースライン時と比較し1年後の基本データでは年齢74.59±9.71歳、75.87±9.86歳(p<0.0001)、体重50.65±8.48 ㎏、49.77±8.59 ㎏(p=0.0058)、BMI22.29±3.43 ㎏/m2、21.91±3.52 ㎏/m2(p=0.0059)、SMI(skeletal muscle mass index)5.77±0.79 ㎏/m2、5.65±0.79(p=0.0029)で有意差を認めた。身体機能では握力20.86±4.99 ㎏、18.99±4.67 ㎏(p<0.0001)、歩行速度1.33±0.40m/sec、1.26±0.39m/sec(p=0.0026)で有意な低下を認め、膝伸展筋力18.31±8.02 ㎏f、17.36±8.24 ㎏f(p=0.1165)、WBI0.36±0.16 ㎏f/㎏、0.35±0.15 ㎏f/㎏、CS5では9.90±4.30秒、10.21±5.29秒(p=0.1524)で有意差を認めなかった。

     効果量(r)は年齢0.131、体重0.103、BMI0.109、SMI0.152、握力0.387、歩行速度0.177、膝伸展筋力0.117、WBI0.061、CS5は0.064であった。

     ベースライン時OSは10/54名でサルコペニア率は18.5%で、1年後OSは14/54名でサルコペニア率は25.9%であった。

     1年後OSが新規該当した症例は5/54名であった。新規該当した症例の身体的特徴として全例握力低下を認めた。

    【考察】 今回の研究では骨粗鬆症患者の1年後は体重減少、筋肉量減少、握力低下、歩行速度の低下がみられ、効果量は握力が0.387で一番高い結果であった。長澤らは1年後の身体機能の変化において要介護状態への移行は握力が先行する可能性が考えられると報告している。今回の結果でもOSに新規該当した症例においても同様の傾向であり握力低下が先行する可能性が示唆された。

     1年後OSの有病率は25.9%、新規該当は9.3%であった。吉村らは地域住民60歳以上を対象とした集団においてサルコペニアの有病率は8.2%であり、1年後の累積発生率は2.0%であったと報告している。今回の結果は骨粗鬆症患者を対象としたため有病率や1年後新規該当が高い結果であったと考える。

     1年後OSに新規に移行した症例は全例握力低下が確認できた。サルコペニアの治療予防には栄養と運動の介入が推奨されている。今回の結果よりそれらに加え握力の継続的な経過を測定することでOSの早期発見に繋がり、治療予防に役立つと考える。

  • O-185 スポーツ・健康②
    三田 真平, 髙野 直哉, 松村 元貴
    p. 185-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 当院は地域密着支援センターに登録して介護予防事業に取り組んでいる。その一つとして地域サロン活動に携わっており、いつまでも住み慣れた地域でいきいきとした自立生活を送ることを目的とした介護予防事業である。高齢者の転倒は死因、寝たきりの一因となり、高齢社会の大きな問題の一つとして重要視されている。さらにフレイルは要介護状態になる主な原因であり、フレイル予防が重要である。地域サロン活動にて運動機能評価とアンケートを実施し、地域サロン利用者のフレイル状況と運動機能、アンケート調査の関連の分析を行った。

    【対象と方法】 令和3年10月から令和4年6月までに地域サロンを利用した40名(男性5名、女性35名、77.8±6.8歳)を対象とした。フレイルの判定はJ-CHS基準に基づき分別した。他項目として、基本情報(年齢、性別)、運動機能(握力、歩行速度、片脚立位、Time Up and Go test以下、TUG)、アンケートにて主観的健康観、運動、食生活・口腔、生活習慣、社会参加、くらしの28項目について調査した。統計学的解析は重回帰分析(変数減少法)により従属変数をフレイル、説明変数を年齢、性別、握力、片脚立位、TUG、歩行速度、アンケート項目を選択し関連性を解析した。握力はROC曲線にてカットオフ値を算出した。有意水準はいずれも5%未満とした。

    【結果】 J-CHS基準による内訳は、ロバスト群は17名(男性3名、女性14名、平均年齢76±7.3歳)、プレフレイル群は19名(男性2名、女性17名、平均年齢77.7±5.9歳)、フレイル群は4名(男性0名、女性4名、平均年齢86.2±2.9歳)であった。重回帰分析(ステップワイズ法)の結果、握力、性別、アンケート項目の運動が選択された。回帰係数は握力-0.07922259、性別0.94500024、運動-0.26889889であった(p<0.05)。握力のカットオフ値は男性30 ㎏(AUC 0.833)、女性20.3 ㎏(AUC 0.752)であった。握力とアンケート項目には相関はなかった。

    【考察】 今回の地域サロン利用者のJ-CHS基準の内訳はロバスト群43%、プレフレイル群47%、フレイル群10%であった。プレフレイル群の割合が最も高く今後フレイルへ移行しないように予防が重要になってくることが考えられた。運動機能評価では握力の関連性が高く、男性では30 ㎏、女性では20.3 ㎏がカットオフ値でありサルコペニアの基準値より高い値を示した。アンケート結果では運動項目(転倒経験、転倒不安、定期的な運動、歩行時間、体を動かす習慣、体を動かす楽しみ)がフレイルに関連していることが示唆された。

     フレイルを予防する為に筋力強化以外にも、転倒に関する評価や、楽しく運動を継続できる手段の検討などが必要であると考える。さらに本研究結果では地域サロンに参加する男性が少ない傾向を示した。先行研究により高齢期の男性では外出頻度が低下し生活範囲が狭くなっていくことや散歩や余暇での趣味やスポーツをしなくなると報告があり、閉じこもりがちな高齢男性のフレイル予防も視野に入れていく必要があると考える。今回男性参加者は少なかったが、すべての男性がアンケートの社会参加項目が満点であり生活の中に生きがいを感じられていた。さらにサロン運営を行うリーダー的役割を担う方が多かった。高齢男性の就労継続は精神健康や生活機能維持に有効であることが示されており、男性は特に何か役割と生きがいをもたせるように働きかけることが重要であると考える。

    【倫理的配慮】 当院の倫理委員会の承認を得て(承認番号:R5-4)、地域サロン利用者には本研究の必要性と、その結果を研究として報告する旨を説明し了解を得た。

  • O-186 スポーツ・健康②
    酒井 祥平
    p. 186-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 サルコペニアは、ADL低下、フレイルや転倒・骨折等との関連性から、要介護状態に陥る一因と考えられる。訪問リハビリテーション(訪問リハ)の対象者の多くは要介護高齢者であり、サルコペニアをきたしやすいと考えられ、その対策に向けた介入が必要である。その中で、運動療法は治療の一つに挙げられ、継続する事が重要とされている。今回、AWGS2019の診断基準に基づき、サルコペニアの可能性のある高齢者に対して、訪問リハにおいて運動療法を中心とした介入を継続的に行い、活動性の向上につながった症例を経験したので報告する。

    【症例紹介】 90歳代女性、要支援2。診断名は第11・12胸椎圧迫骨折であり、自宅内転倒し、当院入院となる。46病日に自宅近隣の娘夫婦宅に退院。100病日に自宅に戻られ、107病日より訪問リハ開始となる。生活歴は、持ち家に1人暮らしであり、娘が買い物や通院の支援をされていた。

    【理学療法評価】 身長は150.0 ㎝、体重は37.0 ㎏、BMIは16.4 ㎏/m2。下腿周囲長は右27.0 ㎝/左27.0 ㎝。SARC-Fは7点であった。身体機能評価は、握力は右13.5 ㎏/左11.7 ㎏、5CSは19.7秒、TUGは16.6秒。腰痛はNRSにて2/10。ADLはBIにて80点、IADLはFAIにて13点。日中は寝て過ごされる事が多かった。

    【経過・結果】 訪問リハは40分/回、週2回で行った。運動療法は、自重を用いてスクワットやヒールレイズ等を実施した。介入当初は腰痛悪化への不安もあり、腰痛のない動作方法の指導や安全面を考慮して手すりに掴まり実施し、自覚的運動強度をBorgスケールが11程度で行った。介入1ヵ月「脚の力がついてきた」と運動の効果が聞かれた。Borgスケールが13となる強度で、回数やセット数を漸増的に増やしていった。また、持久性トレーニングに自宅内歩行練習を選択し、約50m程度から開始し徐々に距離の延長を図った。介入2ヵ月握力は右13.8 ㎏/左12.2 ㎏、5CSは14.7秒、TUGは14.6秒。「トイレまで歩くのが楽になった」と生活動作への変化が聞かれた。運動療法の一部を自主トレーニングとして指導を行った。介入3ヵ月「近所の公園まで散歩ができるようになりたい」との希望から歩行練習を屋外へ移行した。介入4ヵ月体重は39.0 ㎏、BMIは17.3 ㎏/m2。下腿周囲長は右29.0 ㎝/左28.5 ㎝。SARC-Fは4点。握力は右13.4 ㎏/左12.8 ㎏、5CSは10.6秒、TUGは12.7秒と改善した。BIは90点、FAIは17点と向上した。自主トレーニングも定着でき、自宅から約300mの公園まで散歩も可能となった。

    【考察】 AWGS2019への改訂に伴い、訪問リハにおいてもサルコペニアの把握が容易となった。その中で、適切な個別プログラムを早期に提供することが重要とされている。本症例は腰痛への不安や90歳代と高齢であり、高負荷での運動実施は困難であると思われた。低負荷では血圧上昇や痛み等なく安全に実施できるとされ、痛みや疲労は在宅での運動実施の阻害要因である事から、痛みの程度に合わせた運動指導や運動強度を調整する事で、無理なく運動に取り組む事が出来たと考える。その中で、運動を継続する理由として運動機能向上の実感が挙げられ、定期的に身体機能を評価する事で、運動に対する結果の可視化ができた。さらに、運動実施への促進要因として効果への気づきが挙げられ、本症例ではトイレまでの移動といった実際の生活動作の改善が出来た事で、モチベーション向上にもつながったと考えられ、自主トレーニングや散歩といった主体的にも運動に取り組めた事が、活動性の向上が図れた要因であると考える。

    【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に沿って個人情報保護に配慮し、本人には説明し、同意を得ている。

  • O-187 スポーツ・健康②
    朝井 政治, 田中 健一朗, 永徳 研二, 森永 琴美, 三輪 優芽, 手老 泰介, 河野 礼治
    p. 187-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 大分県杵築市は、2018年度より、運動の場の提供、社会参加機会の確保を目的とした、住民主体型介護予防教室「週一通いの場」(以下、「通いの場」)の取り組みを開始した。「通いの場」は、(1)週に1回以上、公民館等の開催場所に集合すること、(2)杵築市から依頼された理学療法士が新たに開発した「きつみん体操」を「通いの場」で実施すること、(3)3ヶ月以上継続すること、の3点を運営の条件としている。また、「通いの場」参加者のうち希望者には定期的な体力測定と結果のフィードバックを実施している。今回、「通いの場」参加者の体力測定の結果を縦断的に解析し、その特徴を検討した。本研究で結果を省察することによって、今後の「通いの場」をより有意義なものにできると考えている。

    【方法】 対象は、2018年12月から2021年10月の期間に「通いの場」への参加を開始し、1年以上継続して参加した女性住民とした。方法は、測定および解析を希望した住民の体力測定の結果について解析を行った。解析項目は、教室参加開始時(以下、参加時)、3ヶ月経過後(以下、3ヶ月後)、1年経過後(以下、1年後)の身長、体重、身体指数:BMI、握力、開眼片脚立位保持時間:OLS、Timed Up and Go Test:TUGとした。解析は、正規性を確認した後に、反復測定分散分析、および多重比較法を実施した。解析はIBM社製SPSS(Ver. 21)にて実施し、有意水準を5%とした。体力測定の結果および個人情報の取り扱いについては、杵築市個人情報保護条例に基づき杵築市職員が管理している匿名化されたデータを受領し、解析を実施した。本研究は、大分大学福祉健康科学部倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:F18011)。

    【結果】 解析対象となったのは、94名(76.9±6.2歳)であった。身体機能の結果は、参加時、3ヶ月後、1年後の順で、握力が、22.4±5.3 ㎏、22.0±5.2 ㎏、22.3±4.2 ㎏、OLGは43.1±40.7秒、52.0±42.1秒、44.2±38.3秒、TUGは7.7秒±2.0、6.8±1.9秒、7.1±2.2秒であった。TUGのみ改善傾向を示した。

    【考察】 これまでに報告のある「週一通いの場」の効果について、廣らは、5m間最大歩行速度、TUG、5回椅子立ち上がり時間、握力の改善を報告している。本研究のTUGの結果も、時間の短縮を認めており、住民主体型介護予防教室に継続して参加することで一定の効果が期待できると考えた。一方、握力やOLGでは変化を認めなかった。これは、杵築市での「通いの場」の運動は住民主体で運営されており、頻度や「きつみん体操」の実施以外の運動内容については、住民に一任されていること、「きつみん体操」の内容は、筋力やバランス能力向上の要素を含む二重課題の運動構成となっているが、「通いの場」には様々な参加者が参加していることもあり、参加者によっては強度や頻度が十分ではないことなどが影響していると考えられた。現状では、測定結果のフィードバックとあわせて、運動指導が行われてはいるものの、実際の運動に反映されているかは確認できていない。「通いの場」によって、さらに体力の向上を求める際には、住民への運動指導だけなく、個々に応じた強度の設定や運動を日常生活に取り入れるなどの工夫も必要になると思われた。

    【まとめ】 住民主体型介護予防教室にて、身体機能の向上を図るためには、専門職による運動指導等の介入が必要と考える。また、介護予防教室以外での運動機会の確保も検討する必要がある。

  • O-188 スポーツ・健康②
    山下 工樹
    p. 188-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【活動目的】 当院では2016年に骨粗鬆症リエゾンサービス(以下、OLS)チームを立ち上げ、骨折の低減(高齢者健康寿命の延伸)、また骨粗鬆症治療開始率と治療継続率向上、転倒予防を目的に多職種で連携を図っている。骨粗鬆症治療に対するPTの役割は、転倒とそれに起因する脆弱性骨折を予防することである。2022年よりバランス・筋力の総合的評価とレベルに応じた自主訓練内容を独自に作成し、当院の骨粗鬆症外来に通院されている患者に対し指導を行ってきた。今回は約1年間の活動結果やそこから抽出された今後の課題について報告する。

    【活動内容】 当院のOLS活動は多職種により治療・教育・管理の3つの役割をもつ。治療は定期的な検査と、その結果を基にした薬物治療を行う。教育は検査値を基に栄養指導や、身体機能評価に基づく自主運動指導の実施。管理は骨粗鬆症カレンダー(以下、骨カレ)を使用する。骨カレは服薬や注射日を記載し、さらに運動の実施や転倒の有無を記入することで治療や運動を自己管理できるツールとなる。PTは当院の骨粗鬆症外来に通院されている40~100歳代の患者347名(男性40名、女性307名)に対し、骨粗鬆症外来受診時に、6ヶ月ごとに転倒リスク評価と運動指導、骨カレを用いた記録と自主訓練の定着を図る。また、転倒リスク評価と運動指導の内容についてカルテに記載し、情報共有を図る。転倒リスク評価はStanding test for Imbalance and Disequilibirium(以下、SIDE)と2ステップテストを使用し評価を行う。SIDEは静的立位バランスの評価であり、患者管理や移動形態の指標としても使用する。2ステップテストは下肢の筋力・動的バランス能力・柔軟性などを含めた歩行能力を総合的に評価し、2つの評価結果のレベルに応じて独自で作成した運動の指導を行う。なお、本来2ステップテストの判定基準は3項目(0.9未満、0.9以上1.1未満、1.1以上1.3未満)であるが、当院骨粗鬆症外来患者を幅広く評価するため、STEP1(立位保持困難)・STEP2(0.4未満)・STEP3(0.4以上0.9未満)・STEP4(0.9以上1.1未満)・STEP5(1.1以上1.3未満)・STEP6(1.3以上)の6項目に細分化して使用。運動指導内容はSIDE0で背臥位での下肢挙上、SIDE1は座位での足踏み運動、SIDE2aは立位での足踏み運動、SIDE2bはタンデム肢位保持、SIDE3は開眼片脚立位、SIDE4は閉眼片脚立位、STEP1はブリッジ運動、STEP2は座位での膝伸展運動、STEP3は起立運動、STEP4はスクワット、STEP5はモンキーウォーク、STEP6は二重課題運動とする。

    【活動経過】 患者347名中、初回評価と運動指導実施後6ヶ月の再評価までの間に転倒した患者は46名(平均年齢82.5±8.45)。自主訓練が継続できた患者は180名(継続率51.9%)。内、転倒群24名(13.3%)、非転倒群156名(86.7%)。また、自主訓練が継続できなかった患者167名中、転倒群22名(13.2%)、非転倒群145名(86.8%)であった。Mayoux-Benhamou MAらは骨粗鬆症予防を目的に閉経後女性にホームエクササイズを指導した研究で6ヶ月の運動プログラムの継続率は40%前後であったと述べている。今回の取り組みでは継続率が51.9%であり、骨カレによる管理やPTによる個別指導を行っていることが要因であると考える。しかし、自主訓練が継続できた患者と自主訓練が継続できなかった患者の転倒率の結果より、現在の指導内容では転倒予防の効果が乏しいことが示唆された。定期的な評価とそれに合わせた運動療法を指導してきたが、指導内容や負荷量を見直す必要があると考えられる。今回の結果を分析し、より効果的な運動指導の内容について検討していく。

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