九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題9[ スポーツ・健康① ]
  • O-052 スポーツ・健康①
    吉村 玲往, 藤原 和彦, 小松 洋平
    p. 52-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 保健衛生業では腰痛の発生件数が増加しており、保健衛生業での腰痛予防対策の推進は重要な課題である。腰痛は身体的負荷・心理的要因との関係が明らかにされており、それに伴う腰痛予防対策の研究も多い。しかし保健衛生業の中でも、介護従事者の腰痛予防行動の実施状況の実態を明らかにした研究は見つけることができなかった。そのため本研究では、介護従事者における腰痛予防行動の実態を調査し、腰痛予防行動尺度を作成する事を目的とした。

    【方法】 対象は入所施設(5施設)で働く介護従事者176人とした。方法は基本属性、腰痛予防行動について無記名のアンケートにより聴取し、留置法で回収した。腰痛予防行動は厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」を参考に、複数の研究者で質問項目を検討し17問を設定した。回答は質問の腰痛予防行動を実施しているかを「全くしていない:1点」から、「非常に良くしている:4点」の4件法で聴取した。

     統計処理は、探索的因子分析(最尤法、オブリミン回転)を行った。カイザー基準での分析にて4因子が抽出された。なお、項目の削除基準は、因子負荷量0.40未満及び独自性0.84超過と設定した。

    【結果】 回答者は144名(回答率81.8%)で、最終的な分析対象者は、129名(有効回答率73.3%, 平均年齢40.3±12.6歳、男性44名、女性79名)となった。腰痛予防行動の因子分析の結果、7項目が基準を満たさず、7項目を除外し再分析を行うと、単純構造が得られた。第1因子は「介護時・作業時に一定時間で姿勢の変更」など姿勢に関する3項目が高い因子負荷を示しており、「姿勢の工夫」因子と解釈した。第2因子は「湿布等の薬剤療法」など専門家への行動に関する4項目が高い因子負荷を示しており、「専門家への希求行動」因子と解釈した。第3因子は「筋力トレーニング」などセルフトレーニングに関する2項目が高い因子負荷を示しており、「セルフトレーニング」因子と解釈した。各因子の信頼性係数(McDonald’sω、Cronbach’sα)は姿勢の工夫(0.81, 0.80)、専門家への希求行動(0.75, 0.75)、セルフトレーニング(0.74, 0.74)であった。3つの因子の平均得点は、姿勢の工夫2.3±0.6、専門家への希求行動1.5±0.6、セルフトレーニング1.8±0.6であった。そして、これを「介護従事者の腰痛予防行動尺度」とした。

    【考察】 対象者の年齢や男女比は厚生労働省や介護労働安定センターの調査と比較しても大きな差はなく、本研究対象者は母集団と同様な集団であると推察された。研究の結果、作成した本尺度は信頼性が認められた。また、「姿勢の工夫」は発症予防や重症化予防を行う1次・2次予防的行動、「専門家への希求行動」は腰痛発生後に重症化予防や治療の為に行う2次・3次予防的行動、「セルフトレーニング」は、腰痛発生前に発生予防もしくは、腰痛発生後に治療の為に行う1次3次予防的行動であった。3つの因子は腰痛予防行動を実施するタイミングの違いでもある。そのため構造的に妥当である。また3因子の平均点で比較すると、姿勢の工夫を最も高く、介護従事者は姿勢の工夫を最も行っていると推察できる。そのため理学療法士は介護従事者に介護姿勢の工夫をアドバイスすると腰痛予防が図れると考える。一方、本研究では対象者を入所施設で働く介護従事者に限定した。そのため、本尺度が介護従事者全般さらには他職種に研究結果が適応できるかは、更なる研究が必要である。

    【まとめ】 今回、施設で働く介護従事者を対象とした腰痛予防行動尺度を作成した。最終的に9問の4件法の自己記入式アンケートが完成し、構造的的妥当性と信頼性が確認できた。

一般演題10[ 骨関節・脊髄③ ]
  • O-053 骨関節・脊髄③
    古川 雄大, 村上 智明, 平塚 晃一, 音地 亮, 垣添 慎二, 西井 章裕
    p. 53-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 変形性肩関節症は、近年高齢化社会の進行に伴い日本でも増加傾向にあり、年齢を重ねるごとに有病率が有意に高くなるとされている。腱板断裂性肩関節症において、近年では反転型人工肩関節置換術を用いることが増えている。それに伴い、同手術後の報告数も増加傾向にあるが、小径骨頭を用いた腱板縫合術または再建術の長期治療成績の報告は少ない。小径骨頭置換術は、腱板断裂性関節症および一次修復不能な広範囲断裂に対して用いられる治療法の一つである。今回、腱板断裂性関節症(以下、CTA)に対して小径人工骨頭置換術および肩甲下筋腱部分移行術を施行し、日常生活活動に必要な上肢機能を獲得後、4年間の長期経過観察可能であった1症例を報告する。

    【症例紹介】 性別:女性、年齢:70代前半、身長:141 ㎝、体重:45 ㎏、既往:右THA、職業:農業(自営)、利き腕:右

    【現病歴】 2017年末頃より右肩関節の可動域制限を自覚。MRI精査にて腱板断裂性関節症(大断裂)の診断を受け2018年に右CTAに対し、小径骨頭挿入および肩甲下筋腱部分移行術(cofield法)および上腕二頭筋長頭(以下、LHB)パッチ法、LHB腱固定術を施行し翌日よりリハビリ開始となった。

    【術前評価】 右肩関節可動域:自動屈曲90度、外転120度、外旋10度、内旋胸椎レベル8、他動屈曲160度、外転160度、外旋45度、bearhugtest:陽性、painfularctest:陽性、轢音:あり、徒手筋力検査(右肩関節):外転3、外旋3、内旋4

    【術後経過】 術後1週~肩甲骨自動練習開始。術後3週~肩関節全方向他動可動域練習開始。術後5週~仰臥位介助挙上練習開始。術後7週~仰臥位自動挙上練習開始。術後8週~立位自動挙上練習開始。術後3か月~軽作業開始。術後1年でリハ終了。以降外来1年ごとにフォローで経過観察。

    【結果】 右肩関節可動域は自動屈曲150度、外旋10度、内旋胸椎レベル9となり右肩関節筋力は屈曲4、外転4、外旋3、内旋4で外来リハビリ終了となった。JOA scoreおよび右肩関節屈曲可動域の項目(1年/1.5年/3年/4年)で記載。JOA scoreの総計(77/88.5/83/83)、疼痛(20/30/25/25)、機能(13/14.5/17/17)、総合機能(3/5/7/7)、ADL群(10/9.5/10/10)、可動域(24/24/21/21)、挙上(15/15/12/12)、外旋(3/3/3/3)、内旋(6/6/6/6)、X線所見評価(5/5/5/5)、関節安定性(15/15/15/15)。右肩関節屈曲可動域(150度/150度/140度/135度)となった。

    【考察】 谷口らの報告では、小径骨頭置換術後の肩関節屈曲可動域は平均124度とされているが、本症例は術後1年で肩関節自動屈曲150度となりJOA scoreのADL10点と挙上可動域も良好でADL自立レベルに至った貴重な症例と思われる。上肢機能の獲得のため術後から関節可動域練習、インナーマッスル筋力強化練習、骨盤運動、脊柱可動域練習を実施し術後8ヶ月で上記可動域を獲得することができた。特にインナーマッスル強化練習を実施する上で、残存筋の小円筋収縮練習を取り入れたことが上肢機能の改善につながった要因の一つと考える。本症例において術後4年経過時でもADL自立レベルの上肢機能を維持できているのは、リハビリ意欲が高く、自主練習である肩甲骨体操およびインナーマッスル筋力強化練習を継続的に実施できていること。また、現役で仕事を続けており仕事柄上肢挙上位での作業が多く、上肢使用の頻度が高いことで上肢機能の維持につながっていると考える。今後は症例数を増やし機能改善に至った要因をより多く検討していく必要がある。

  • O-054 骨関節・脊髄③
    吉野 温翔, 辛嶋 良介, 川嶌 眞人
    p. 54-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 神経痛性筋萎縮症(以下、NA)は一側上肢の神経痛で発症し、疼痛の軽快後に限局的な筋萎縮を生じる疾患であり、腕神経叢及びその近傍の末梢神経を主病変と考えられている特発性神経障害である。現在、NAについて確立された治療法はなく理学療法に関する報告も皆無である。今回、本症に対して理学療法を行った経過に関する小経験について報告する。

    【症例紹介】 50歳代の男性で、右利き、職業は製造業であった。特筆すべき既往歴はなかった。

     主訴は左肩関節の自動挙上困難であり、患者全体像は前向きの発言が多くみられ、病態の理解が良好であった。

    【現病歴】 2021年6月頃より誘因なく左上肢の脱力感が出現し、同年8月に当院を受診するも、精査目的で他科へと紹介となった。その結果、針筋電図では三角筋と上腕二頭筋に脱神経電位を認め、腕神経叢レベル(C4、5)の障害と判断され、疼痛のない非典型の神経痛性筋萎縮症と診断された。

     2021年8月より当院での理学療法開始となった。左三角筋の筋萎縮を認め、MMTでは三角筋2、上腕二頭筋3、棘下筋3と筋力低下を認め、握力は右31.3 ㎏、左21.8 ㎏であったが、感覚異常は認めなかった。患者立脚肩関節評価法Shoulder36 Ver. 1.3(以下、SF36)では、疼痛3.6点、可動域2.8点、筋力1.8点、健康観3.2点、日常生活動作2.6点、スポーツ能力0.5点であり、日常生活では挙上動作や重量物の把持が困難であり仕事動作に支障が生じていた。

    【理学療法】 他院では免疫グロブリン療法、ステロイドパルス療法を施行していた。当院では初期に肩関節・肘関節の自動介助運動、萎縮筋に対して電気刺激と自動運動を組み合わせて実施した。筋力の改善状況を確認して、自動運動やセラバンドを用いた抵抗運動などを実施した。また、仕事が製造業であり、上肢への負担が大きくなることを想定し、低負荷で高頻度の運動も行った。

    【経過】 6ヵ月後、左三角筋の筋萎縮はやや改善がみられ、MMTでは三角筋3、上腕二頭筋4、棘下筋3と軽度の改善がみられたが、握力の変化はなかった。1年後、握力は右33.5 ㎏、左25.6 ㎏と改善、三角筋の筋萎縮もさらに改善がみられたが、左右差は著明であった。1年半後、左三角筋の筋萎縮は改善し、MMTでは三角筋5、上腕二頭筋5、棘下筋4、握力は右34.7 ㎏、左30.5 ㎏と改善した。SF36は、疼痛4.0点、可動域3.9点、筋力3.3点、健康感3.8点、日常生活動作3.9点、スポーツ能力2.5点であり、自覚的にも筋力の回復を認めた。

    【考察】 NAに対する治療としては免疫グロブリン療法やステロイドパルス療法が行われることが多く、緩徐に症状が軽快し90%以上で回復するとされているが、なかには運動麻痺や疼痛が残存するとの報告もあり、いまだに確立した治療はない。

     末梢神経由来の萎縮筋に対しての理学療法では、一般的に筋力トレーニングや電気刺激療法が行われる。本症に対しても筋力増強運動と電気刺激療法を併用し、筋萎縮予防と筋力向上を目的とした。しかし、萎縮が強い症例は介入後の反応が出にくいため、当該筋に正確に刺激を加えられているか、判断が困難であった。

     NAの経過は長期に及ぶとされているが、本症の経過も同様に6ヵ月頃から改善がみられ、筋力としての改善は1年を要した。本症は、病態の理解が良好であったため、辛抱強く治療の継続は可能であったが、不安が強い等、症例によっては関わり方も考慮する必要があると思われた。

    【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、口頭にて十分説明を行い同意を得た。

  • O-055 骨関節・脊髄③
    辛嶋 良介, 井原 拓哉, 川嶌 眞人
    p. 55-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 拘縮肩は関節包や靭帯の肥厚や短縮による疼痛と可動域制限が主症状となる。臨床での遭遇頻度は高いが、理学療法診療ガイドラインでのエビデンスは非常に弱いとされている。そこで、本研究では重度の拘縮肩に対し、理学療法を中心とした保存療法による肩関節機能の改善状況やその特徴について調査した。なお、対象者へはヘルシンキ宣言に基づき口頭にて趣旨と内容について十分説明し、同意を得た。

    【対象と方法】 対象は、2016年12月から2021年5月の期間、明らかな外傷や石灰沈着性腱炎、腱板断裂などの概知の病態を除外した拘縮肩23名23肩のうち、肩関節可動域が屈曲100°以下、下垂位外旋10°以下、結帯での母指到達脊椎高(以下、scratch)が第5腰椎レベル以下とした包含基準を満たし、定期の肩関節機能評価が行えた11肩(うち男性3肩)とした。平均年齢は52.8歳(44-70歳)であり、糖尿病や甲状腺疾患の合併例はなかった。

     肩関節機能評価は肩関節の屈曲、下垂位外旋の他動可動域と自動挙上角度、scratchを計測し、患者立脚肩関節評価法Shoulder 36 V1.3(以下、SF36)を評価した。他動可動域の計測は、臥位で可能な限り疼痛を軽減させるように配慮し、scratchでは到達脊椎高が第12胸椎を12、第1腰椎を13とした数値に変換した。これらは、開始時と終診時の値を抽出して分析に用いた。

     治療では適宜消炎鎮痛剤の内服や関節内注射を実施しており、理学療法では上腕骨頭の関節包内運動を誘導しながら可動域の拡大と代償を含めた自動挙上角度の拡大を目標として徒手療法や自動介助運動を実施した。

     統計学的分析はR2. 3. 1を使用し、開始時と終診時での各指標の相違について対応のある差の検定を行い、効果量(Cohen’s d)を算出した。また、治療期間と終診時の各指標との相関分析を行った。いずれも有意水準は5%であった。

    【結果】 治療期間は平均173.0日であった。開始時と終診時の平均値(標準偏差)は、屈曲88.6(8.8)°が139.1(14.0)°、下垂位外旋3.2(5.3)°が27.3(12.9)°、自動挙上角度85.0(13.3)°が137.3(15.6)°、scratch18.1(0.5)が14.3(0.5)といずれも有意に改善し(p<0.01)、効果量は0.6~1.5であった。また、SF36は疼痛2.6(0.6)点が3.4(0.4)点、可動域2.5(0.7)点が3.3(0.4)点、筋力1.4(0.9)点が2.8(0.8)点、健康感3.0(0.6)が3.7(0.2)点、日常生活機能2.8(0.7)点が3.7(0.3)点、スポーツ能力0.6(0.7)点が2.4(1.0)点といずれも有意に改善し(p<0.01)、効果量は0.5~0.6であった。相関分析では治療期間と下垂位外旋(p=0.01, r=0.71)、scratch(p=0.04, r=-0.64)に有意な相関関係を認めた。

    【考察】 自験例では当初の可動域やSF36が非常に低値であることで統計学的な差が生じやすかった可能性もあるが、可動域、SF36とも効果量は中等度以上であった。しかし、約170日という短期間の介入であるが屈曲と自動挙上角度の効果量が顕著に大きかったことから、挙上方向の運動は可動域自体の改善に加え、代償運動も加わることで日常生活動作の改善に大きく寄与していると考えられた。一方、回旋のように肩甲上腕関節の運動が高い割合を占める運動では制限が強く残存すると考えられ、治療期間と最終時の可動域が中等度以上の相関を認めることから、根気強い治療を要することが改めて示された。いずれにしても、終診時にはSF36における各項目は比較的高値であり、代償を含めた動作が可能になることで日常生活の改善が得られるものと推察された。

    【結語】 重度拘縮肩に対する理学療法を中心とした保存療法では、肩関節機能は中等度以上の効果量で改善するが、特に回旋可動域の改善は不十分であった。

  • O-056 骨関節・脊髄③
    池田 瑞基
    p. 56-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 亜急性期での上腕骨近位端骨折術後の理学療法として骨折部の骨癒合が得られるまでは関節可動域(以下、ROM)運動が中心となる。沖田は関節の不動1週より拘縮が発生すると述べており、また肩関節拘縮を伴う高齢患者に対しては上腕骨解剖頸軸回旋を利用したROM運動の有用性が報告されている。今回、上腕骨近位端骨折術後固定により肩関節拘縮が生じ上肢挙上時の代償動作が著明に出現していた症例を担当した。本症例に対し、上腕骨解剖頸軸回旋を用いたROM運動を実施した事で、代償動作が改善しリーチ動作の獲得を認めた為、報告する。

    【症例紹介】 80歳代女性で一人暮らし。入院前のADLはすべて自立していた。X日に自宅内で転倒し左上腕骨近位端骨折(Neer分類2part)と診断され、Ⅹ日+2日後に観血的骨接合術(MDMmodeプレート+ファイバーワイヤー)を施行された。術後は2週間の三角巾固定と2ヶ月の荷重制限でROM運動は制限なしと医師の指示のもと理学療法を開始。X日+14日後に肩関節のROM制限により頭上へのリーチ動作と洗髪動作が困難であった為、リハビリ継続目的で当院転院となる。

    【理学療法評価】 初期評価、疼痛評価NRS安静時2/10、労作時2/10(肩関節前面術創部)関節可動域測定、左肩(自動)屈曲80°、外転60°、外旋-5°、内旋15°。筋力評価MMTでは強い荷重力が加わるため自動運動での確認を行い、3レベル以上と判断。整形外科的テスト(棘上筋テスト、棘下筋テスト、肩甲下筋テスト)陰性。動作分析と触診、上肢挙上運動開始時に肩甲帯挙上の先行、僧帽筋の過剰な収縮を認め、頸部屈曲と体幹伸展での代償動作を生じた。

    【理学療法プログラム】 上腕骨解剖頸軸回旋を用いて、肩甲骨面挙上45°での上腕骨の内外旋運動を最終可動域まで実施し、ストレッチを行った。実施強度は先行研究を参考にし、最終可動域で最低6秒間の伸長力を加えKaltenbornのグレードⅡまで緩め3~4秒間の間隔で繰り返した。介入当初は臥位でのストレッチを行いその後、同一肢位での上肢挙上運動時に僧帽筋の過剰な収縮の軽減を確認した為、座位でのストレッチを行った。

    【結果】 疼痛評価NRS、初期評価と大きな変わりはなかった。関節可動域測定、左肩(自動)X日+35日/屈曲100°、X日+41日/屈曲110°、X日+50日/屈曲120°、外転105°、外旋25°、内旋45°。初期評価と比べ屈曲40°、45°、外旋30°、内旋30度の改善を認めた。動作分析と触診、上肢挙上運動開始時の僧帽筋の筋スパズム軽減、頸部屈曲と体幹伸展の代償動作は改善した。しかし、自動屈曲90付近から過剰な収縮の残存を認めた。主訴である鍋をとるための頭上へのリーチ動作を獲得し退院となった。

    【考察】 今回、上腕骨近位端骨折の術後患者を亜急性期で担当した。沖田はROM制限の治療戦略の第一段階として筋収縮を緩和させる必要があると述べている。また大槻は上腕骨解剖頸軸回旋を利用したROM運動は肩甲上腕関節のROMに直接影響を及ぼす関節包や靭帯、回旋に関与する筋群などを均等に伸張させる有効な手段であると述べている。本症例は2週間の三角巾固定により拘縮を生じていたが僧帽筋の筋スパズムから拘縮の責任病巣は臨床的な理学療法評価では特定困難であると考えた。また、単純なROM運動では筋収縮が先行してしまい拘縮を生じさせている関節周囲軟部組織にアプローチができないと考えた。そのため、上腕骨解剖頸軸回旋を利用したROM運動を行うことで拘縮の生理的制限の寄与が高い骨格筋と関節包へ均等にアプローチすることができ筋スパズムの軽減、可動域改善につながったと考える。

    【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言を順守し、本人及びご家族へ本発表の趣旨を文書にて説明し同意を得た。

  • O-057 骨関節・脊髄③
    赤﨑 将太, 寺川 智
    p. 57-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 頭頸部癌に対する頸部郭清術後には様々な後遺障害が生じるため、術後早期のリハビリテーション(以下、リハビリ)介入が推奨されている。しかし、術後長期間経過後の理学療法介入の報告はほとんどない。今回、主訴の変化に応じて頸部前面部に着目し介入したことで主観的な喉の締め付け感が改善し、姿勢の修正と上肢機能の向上に繋がった症例を経験した。

    【症例紹介】 症例は、肩関節に既往のない50歳代男性。X年5月にA病院で下咽頭癌に対する咽頭摘出・両頸部郭清・遊離空腸再建術が行われ、約半年後にリハビリ目的で当院紹介。X年10月に下咽頭癌術後障害、両肩関節痛の診断で週2回の外来リハビリ開始。主訴は疼痛無く上肢が挙がり、趣味のドライブをしたい。頸部前面には永久気管孔が造設してあり、スカーフで覆われていた。

     初期評価は、疼痛検査としてNumerical Rating Scale(以下、NRS)は自動運動の両肩関節屈曲で7/10、感覚検査は頸部前面部に鈍麻・痺れあり。関節可動域(以下、ROM)は自動運動で両肩関節屈曲95°・外転80°、頸部屈曲30°・伸展10°・回旋25°・側屈15°、徒手筋力検査(以下、MMT)は両肩関節屈曲・外転3レベル、頸部屈曲2レベル、屈曲以外3レベル。整形外科的テストとしてNeer testは陽性。座位姿勢は頸部屈曲を伴った頭部前方位姿勢。頸部郭清術後問診票(簡易版)はQ1~Q8がそれぞれ(1, 1, 1, 2, 3, 1, 3, 1)であった。

    【経過と結果】 理学療法は、両肩関節と頸部のROM練習と筋力増強練習、姿勢の再教育を行った。また、時期に応じて自主練習を指導していたが、十分な満足度を得られていなかった。疼痛が軽減した介入1ヶ月後より車の運転が再開できたため、症例の訴えは肩関節痛から喉の締め付け感へと変化した。そこで、両頸部郭清術後の頸部前面部の皮膚・皮下組織(以下、軟部組織)へ着目したが、他部位と比較すると皮膚の血色は悪く、伸張性が乏しいために軟部組織を摘むことができない拘縮様の状態が広範囲にあった。そこで、軟部組織モビライゼーションを追加した。その結果、軟部組織の伸張性が向上し、喉の締め付け感・姿勢・上肢機能の改善に繋がった。

     介入3か月後のX年12月の最終評価では、NRSは1/10、感覚検査は鈍麻、痺れあり。ROMは両肩関節屈曲170°・外転160°、頸部屈曲50°・伸展35°・回旋45°・側屈35°、MMTは両肩関節屈曲・外転5レベル、頸部屈曲2レベル・屈曲以外5レベル。Neer testは陰性。座位姿勢は修正座位が可能。頸部郭清術後問診票(簡易版)はQ1~Q8がそれぞれ(3, 3, 4, 4, 4, 5, 4, 3)であった。

    【考察】 頸部前面部の軟部組織の伸張性向上により主観的な喉の締め付け感が改善し、姿勢の修正と上肢機能が向上したと考えた。沖田によると、関節可動域制限の約1割は皮膚の変化に由来することもあきらかになっていると報告している。本症例においても軟部組織への介入により伸張性が向上し、喉の締め付け感と頸部ROMが改善した。また、野村らは座位における後弯姿勢に伴って肩峰-上腕骨頭間距離が減少し、肩甲骨の上方回旋・内旋が生じることで肩峰下インピンジメントを引き起こす可能性があると報告しており、軟部組織介入後より修正座位が可能となり肩甲骨の位置が修正されたことで疼痛は軽減し、上肢機能が向上したと考えた。

     術後早期より軟部組織へ介入することは重要であるが、術後長期間経過した拘縮様の伸張性が低下している軟部組織であっても介入により改善する可能性があることが示唆された。

    【倫理的配慮、説明と同意】 発表にあたり患者へ内容について文書と口頭で十分説明し、対象になることについて書面にて同意を得た。

  • O-058 骨関節・脊髄③
    西園 太志, 西牟田 亮, 田中 佑一
    p. 58-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに、目的】 上腕骨近位端骨折の術後リハビリは、より早い社会復帰を目指すため、術後早期から肩関節の関節可動域(以下、ROM)練習を開始することが多い。しかしながら、術後急性期は手術の侵襲に伴う疼痛や筋スパズムにより、ROM練習が滞ることがある。肩関節の拘縮が生じた場合、結髪動作や更衣動作等の日常生活動作(以下、ADL)が低下しうる。先行研究によると、不動を開始して4週後までは拘縮の進行が著しいとされている。したがって、上腕骨近位端骨折の術後リハビリにおいても、術後の拘縮予防のため術後4週目までに一定のROMを獲得する必要があると考える。臨床上、術後早期に良好な肩関節ROMを獲得した場合、その後のROMの経過も良い傾向にあることを経験するが、その関係を検討した報告は見当たらない。よって、本研究は上腕骨近位端骨折の術後急性期における肩関節ROMと短期・長期的な肩関節ROMの関係を明らかにすることを目的とした。

    【方法】 対象は当院で2015年1月から2018年12月まで上腕骨近位端骨折のNeer分類における3-part骨折に対して骨接合術を施行した症例のうち、終診時まで経過観察可能であった17名(男性7名、女性10名、平均年齢61±12.0歳、平均観察期間37±14.5週)とした。方法は、術後2週目、術後4週目、術後8週目、終診時の肩関節屈曲可動域をカルテから後方視的に抽出した。統計処理は術後2週目と術後4週目、術後8週目、終診時のそれぞれの肩関節屈曲可動域との関係をスピアマンの順位相関係数を用いて解析し、有意水準は5%未満とした。

     本研究は、倫理的配慮として、ヘルシンキ宣言に基づき対象者における個人情報の保護等を十分に留意し、匿名化した上で実施した。

    【結果】 各観察期の肩関節ROMの平均は術後2週目105±17.8°、術後4週目119±18.0°、術後8週目127±14.0°、終診時149±19.1°であった。

     各観察期それぞれの肩関節ROMの相関関係は術後2週目と術後4週目において有意な相関(rs=0.63, p=0.012)を認め、その他の観察期との間にはいずれも有意な相関を認めなかった。

    【考察】 本研究の結果、上腕骨近位端骨折術後の肩関節ROMは術後2週目と術後4週目の間にのみ優位な相関を認めた。臨床上、術後急性期は侵襲部における疼痛や筋スパズム等の炎症症状がリハビリの進行に影響を与える。したがって、術後2週目の肩関節ROMは急性期における炎症の程度に依存し、術後4週目までその影響が及ぶと考える。術後2週目と術後8週目および終診時の肩関節ROMが相関を認めなかった理由は、退院後の生活状況や活動性の個人差が術後8週目以降のROMに影響を与えたためと考えた。臨床応用として、術後4週程度の短期的なADLは、術後2週目の肩関節ROMを参考にし、介助量の調整や環境設定を行うことが有効であると考える。今後はよりADLとの関連が強い、疼痛や自動ROMおよび日常生活動作評価を含めた検討を行いたい。

    【まとめ】 本研究では、上腕骨近位端骨折術後の急性期と短期および長期的な肩関節ROMとの関係を検討した。結果、上腕骨近位端骨折の術後2週目の肩関節ROMは術後4週目の肩関節機能を予測するための一要因であることが示唆された。

一般演題11[ 呼吸・循環・代謝① ]
  • O-059 呼吸・循環・代謝①
    宮川 幸大, 大野 暢久, 藤江 亮太, 瀧口 裕斗
    p. 59-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 高齢者(65歳以上)における待機的心拍動下冠動脈バイパス術(OPCAB)術後の転帰(自宅退院、転院)に影響する因子について検討を行ったので報告する。

    【方法】 2018年1月から2022年12月までの期間に当院心臓血管外科にて高齢者に対して待機的にOPCABを施行した症例のうち、入院前に自宅で生活し、歩行補助具の使用も含めて歩行が自立していた134例を対象とし、後方視的に検討を行った。

     転帰(転院)を従属変数とし、術前因子(年齢、性別、GNRI、BMI、5m歩行速度、握力、フレイル、介護保険取得状況、家族による介護力の問題、BNP、左室駆出率、既往歴(心疾患、不整脈、高血圧、透析、慢性腎臓病、腎機能低下、糖尿病、脂質異常症、脳血管疾患)、Cre、eGFR、呼吸機能検査(%FVC、1秒量、1秒率)、喫煙歴)、手術関連因子(バイパス数、アプローチ方法、手術時間、麻酔時間、輸血量、出血量)、術後因子(人工呼吸器装着時間、抜管後酸素投与時間、手術前後体重差、ドレーン挿入時間、左室駆出率、SOFAスコア(ICU入室日、ICU入室翌日、ICU退室日)、合併症、リハ開始日、端座位開始日、歩行開始日、6分間歩行が可能となるまでの日数、歩行自立獲得日、集団運動療法が可能となるまでの日数)を独立変数とし、ロジスティック回帰分析を行った。なおロジスティック回帰分析を行うにあたり、まず単変量ロジスティック回帰解析を行い、p値0.1未満の変数について多変量ロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とし、多重共線性に配慮して行った。

     次に有意な関連性を認めた独立変数について、ROC曲線を行いカットオフ値を算出した。

    【結果】 転帰に影響する因子として、年齢(OR:1.16, 95%CI:1.06-1.27, p<0.01)、歩行自立獲得日(OR:1.24, 95%CI:1.09-1.41, p<0.01)について有意差を認めた。

     次にROC曲線の結果より、カットオフ値はそれぞれ年齢80歳(AUC=0.7)、歩行自立獲得日6日(AUC=0.8)であった。

    【考察】 本研究では、高齢者におけるOPCAB術後の転帰に影響する因子として、年齢(80歳以上)、歩行自立獲得日(6日以上)を認めた。年齢については、心臓手術後のリハビリ進行の遅延因子や移動動作能力低下に関わる要因となるとの報告があり、本研究においても諸家の報告と同様の結果となった。また歩行自立獲得に6日以上要した際に転院となる傾向を認めたことについて、術後早期から介入し離床を進めることで、早期の歩行自立獲得、運動耐容能の改善、入院前ADLの早期獲得、そして自宅退院率向上につながるとされており、術後の治療と並行して離床を速やかに進めることで、より早く歩行自立獲得でき、自宅退院に繋げることができると思われた。

    【結語】 本研究では、高齢者におけるOPCAB術後の転帰に影響する因子として、年齢(80歳以上)、歩行自立獲得日(6日以上)を認めた。これらに該当する場合は、特に術後リハビリの頻度や時間を増やし、離床を速やかに進めるとともに、必要に応じて在宅サービスの使用等の検討も入院後早期より並行して行うことで自宅退院に繋げることができると思われる。

    【倫理的配慮】 本研究は当院臨床研究審査委員会の承認(承認番号:22041201)を得て、ヘルシンキ宣言に則り実施した。また、事前に対象者からデータを使用する事への同意を得た上で、個人情報保護など十分な説明を行い実施した。

  • O-060 呼吸・循環・代謝①
    野中 正大, 佐藤 憲明, 平井 祐治, 豊増 謙太
    p. 60-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 慢性心不全患者における慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)併存率は20~32%と報告されておりCOPD患者では心不全による入院リスクも高いと言われている。今回、重症高齢心不全とCOPD(GOLD分類Ⅳ期)を併存したが配置転換して職場復帰に至った症例を報告する。

    【症例紹介】 60代後半の男性。身長165 ㎝、入院時体重58 ㎏、BMI:21.3。職業:介護士。自宅:マンション1人暮らし。45歳の時にCOPD診断(肺機能検査:FEV1:0.71L(27.6%)、%VC:1.69L(50.0%)、FEV1%:42.01%)されHOT導入検討中であった。X年1月呼吸困難感の増悪のため当院救急搬送。搬送時心拍数120以上で心電図で心房細動波形。血液ガス検査(酸素2L)でPH:7.30、PaO2:95 ㎜Hg、PaCO2:65.4 ㎜Hg、HCO3:31.9mEq/L。心エコーでLVEF23.8%、左心室モヤモヤエコー。レントゲンでCTR58%と心拡大、胸水貯留。血液検査でNTPro-BNP10986と心不全を認めた。酸素カニューレ2L+抗菌薬の内服、フロセミドによる持続静注による治療開始し8病日目にリハビリ開始。

    【理学療法評価】 酸素カニューレ2LでSpO2安静時96~97%、呼吸数20回、安静時HR60~70台。視診触診:下腿浮腫+、起坐呼吸+。Short Physical Performance Battery(以下、SPPB)6点(歩行1点+バランス4点+起立1点)。30second chair stand test(以下、CS-30)8回。握力(R/L)27.6/27.0 ㎏。10m歩行35秒42。6分間歩行試験(以下、6MWT)103m、Borg指数13、SpO295~97%、呼吸数24回 最大HR92。

     Cahalinらが報告した6MWTによる予測Peak VO2の式を用いた。

     予測Peak VO2=0.006×6MWT÷0.305+3.38=5.4 ㎖/㎏/min。推定METs=5.4÷3.5=1.54METs。

     BarthelIndex(以下、BI)70点。フレイル評価(改訂日本版CHS基準)では5項目全てに該当しフレイルの状態であった。

    【運動負荷量の設定】 運動負荷量は日本循環器学会のガイドラインと主治医の指示に基づきBorg指数による自覚的運動強度13以下と安静時心拍数(以下、HR)を基準とした簡便法を使用し安静時HR+20、また最高HR100以下としてレジスタンストレーニングや歩行練習、エルゴメーター等を実施。運動耐容能の改善に合わせて運動負荷量は変更した。

    【理学療法最終評価】 酸素カニューレ2LでSpO2安静時96~99%、呼吸数18回、安静時HR60~70台。視診触診:下腿浮腫-、起坐呼吸-。SPPB12点。CS-30:14回。握力28.8/27.9 ㎏。10m歩行8秒92。6MWT390m、Borg指数13、SpO295~97%、呼吸数24回 最大HR86。

     予測Peak VO2=11.0 ㎖/㎏/min。推定METs=3.15METs。BI 1,100点。安静時1L、労作時2LでHOT導入となり29病日目に自宅退院。

     復職に関しては、国立健康・栄養研究所が作成した身体活動の運動METs表では介護活動の運動METsは4METs(入浴動作、移乗動作)としている。退院前の運動耐容能では過負荷になる可能性があり、またHOT導入する点や本人と職場担当者が共に配置転換を希望した事から、職場は事務員として復帰する事となった。

    【考察】 予測Peak VO2の式を使用して適切に運動耐容能を評価した。結果、運動耐容能は改善したが介護活動は4METsは必要であり過負荷になるリスクがある事が分かった。しかし、事務員(オフィスワーク1.5METs)であれば復帰可能と考えられ、主治医や職場担当者とカンファレンスを行い、現状を報告した。その結果、本人・職場双方の希望として、事務員としての復職する方針となった。運動療法を行ったことで身体的フレイルが改善、環境調整を行った事で配置転換して職場復帰が可能となり、社会的フレイルの予防に繋げられたと思われる。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本報告はヘルシンキ宣言に従って倫理的配慮を行うと共に、対象者本人に口頭で説明を行い同意を得た。

  • O-061 呼吸・循環・代謝①
    横手 翼, 西村 天利, 中村 裕輔, 大淵 雅子, 西 淳一郎
    p. 61-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 後期回復期に外来心臓リハビリテーション(以下、外来CR)を経験した患者においても入院する者が存在しており、この要因を調査する必要がある。うつ症状は再入院を高める要因であり、運動習慣はうつ症状や再入院リスクを軽減することが報告されている。したがって本研究の目的は、外来CR実施患者において、退院時のうつ症状と退院後の再入院リスクとの関連、およびその関連に対する運動習慣確立の有無の影響を調査することである。

    【方法】 本研究は後ろ向き観察研究である。当院に心血管疾患で入院し治療およびCR後、日常生活が自立して外来CRに移行した患者のうち、うつ症状のデータ欠損例を除外した患者を対象とした。再入院の定義は、退院から1年間の予定されていない心血管疾患の治療目的に入院した場合とした。うつ症状はPatient Health Questionnaire-9を退院前日に評価し、10点以上である者と定義した。運動習慣確立は、外来CR実施期間中に、週1回の外来CR以外で、週2日以上、1日30分以上の自主運動を実施している者とした。うつ症状の有無における再入院率の差をKaplan–Meier法とログランク検定で調査した。うつ症状の有無と再入院率との関連を多変量Cox比例ハザードモデルで調査し、運動習慣確立の有無それぞれでのサブグループ解析を実施した。調整因子は年齢、性別、体格指数、疾患分類、機能的自立度評価法の認知得点、推定糸球体濾過量とした。

    【結果】 最終解析対象者は244名(平均年齢68.2±11.1歳、男性174名、心不全57名、急性冠症候群114名)であった。うつ症状あり群は12.7%、うつ症状なし群が87.3%であり、うつ症状あり群はなし群と比較して、若年(平均64.5歳)で、退院時に半年前より2 ㎏以上体重減少した者が多く(14%)、退院時のShort Physical Performance Batteryの歩行速度と起立速度の得点が低い者が多かった(それぞれ11.1%、18.5%)。うつ症状あり群となし群の再入院率はそれぞれ32.3%、13.6%であった。Cox比例ハザードモデルでは、うつ症状なし群と比較してうつ症状あり群は再入院のハザード比が有意に高く、調整後もその関連は有意であった(ハザード比:3.42、95%信頼区間:1.63-7.17)。運動習慣確立の有無におけるサブグループ解析では、運動習慣確立しなかった群(89名)においてのみ、うつ症状あり群の再入院ハザード比が有意に高かった(ハザード比:8.06、95%信頼区間:2.63-24.69)。

    【考察】 外来CR実施患者を対象とした場合も、先行研究と同様にうつ症状は再入院リスクを高める要因であることが示された。うつ症状は自律神経機能の悪化により、冠血管疾患、心不全の悪化を招くことが要因として考えられる。外来心リハにおける精神面のフォローが不十分である可能性がある。運動習慣は冠危険因子の是正や予後に効果があることから、外来心リハ実施期間に運動習慣を確立した者においては、うつ症状と再入院に正の関連はみられなかったと考える。また、運動習慣を確立した者においては、うつ症状を呈していても、再入院に対する不安から運動に取り組んでいることが再入院予防に寄与した可能性が考えられる。

    【結論】 外来CR実施患者において、退院時にうつ症状を呈する者は1年間の心血管再入院率が有意に高く、運動習慣が確立しなかった者において有意であった。うつ症状を呈する者に対してより専門的な心理的アプローチや運動習慣確立に対する個別的な支援を検討する必要がある。

  • O-062 呼吸・循環・代謝①
    松下 洋祐
    p. 62-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【背景】 平成29年4月のLTAC心不全センター開設以降、当院にも高齢の心大血管リハビリテーション対象者が増加している。開設以降、心不全増悪に伴い、再入院を繰り返す症例もめずらしくない。初回の増悪要因と2回目以降の増悪要因の変化、またADLや再入院までの期間、退院先にも違いがあるように感じる。

    【目的・意義】 増悪要因の変化、再入院期間の変化によって、入院中・退院時の多職種による心不全指導の効果・理解度を医療者側が把握できるのでないか。それにより今後の指導内容や指導時期も的確になり、心不全増悪を繰り返す要因の変化が新たな介入への手掛かりになるのではないか。

    【対象者】 2017年4月1日~2021年3月31日までの4年間で当院へ心不全増悪で入院し、心大血管リハビリテーションを実施した同一患者を含む対象者(630名男性:273名、女性:357名、平均年齢85.75歳)のうち、心不全増悪での再入院2回目以降の対象者(111名 2回目:71症例、3回目:28症例、4回目:8症例、5回目:3症例、6回目:1症例)とした。

    【方法】 増悪要因、基礎疾患、退院先、再入院までの期間、BNP、ADLを主項目とし、再入院までの期間、BNP、ADLに関しては心不全増悪2回目の群と心不全増悪3回目以降の群で比較・検定した。統計解析には、Mann-WhitneyのU検定を用いて、有意水準は5%未満とした。倫理的配慮として、所属機関の倫理審査委員会の承認および、研究対象者から書面で同意を得た。

    【結果】 増悪要因に関しては塩分や水分制限の不徹底、内服コンプライアンス不足、オーバーワークを中心とした非医学的要因が多くを占めたが、心不全増悪を繰り返す要因が同じでない症例も多く存在した。基礎疾患に関しては心不全増悪回数に差はなかった。退院先に関しては入院前と同じ環境への退院が初回心不全入院群では約6割で一番高いが、増悪回数に伴って施設への退院や転院も増えている。増悪回数が増えることで独居や在宅での生活が困難となる症例が多いが、在宅系の施設を含めると両者で大きな差は認められなかった。再入院までの期間、BNPに関しては有意差ないが、BIとFIMともにADLに関しては有意差が認められた。

    【考察】 心不全増悪には非医学的要因が多く、心ポンプ機能の破綻には同症例でも変化することは少なくないことがわかった。独居や在宅での生活が難しくなる一方、家族の同居や在宅系の施設への入所が増えることで医学的要因の管理が出来るようになっている。入院中のリハビリ提供と多職種での心不全指導によりADL向上させることで再入院期間までの期間を維持出来たのではないかと考える。

  • O-063 呼吸・循環・代謝①
    岡村 剛志, 田中 誠, 嶋村 法人, 松下 洋祐
    p. 63-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 当院では2017年から心不全センターを開設し、年間約150名程度の循環器患者に対して心大血管リハビリテーションを実施している状況である。中でも心不全患者が約9割を占めている。

     心不全の治療・理学療法に関するエビデンスは、主に左室収縮能が低下している心不全(Heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)を対象とした研究を基に論じられてきたが、近年、左室収縮能が保たれている心不全(Heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)においても有効な治療、心臓リハビリテーションの有効性、予後に関する報告がなされている。そこで当院の4年間のデータをもとに、心不全患者の左室駆出率(Left ventricular ejection fraction:LVEF)の分類によって、患者特性、身体機能やADLの改善、在院日数や再入院率などに違いがあるか比較・検証する。

    【方法】 対象者は、2017年4月1日~2021年3月31日の期間に、当院へ心不全で入院し、かつ心大血管リハビリテーションを実施した630名(男性:273名、女性:357名、平均年齢85.75歳)。入院時LVEFの値が、40%未満をHFrEF群、40%以上をHFpEF群とし、以下の評価項目を比較した後ろ向き研究を行った。

     比較する項目は、年齢、性別、HDS-R、並存疾患/既往歴。血液生化学データの中から、脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)、ヘモグロビン(Hb)、血中尿素窒素(BUN)、血清クレアチニン(Cr)、推算糸球体濾過量(eGFR)、血清アルブミン(Alb)、総タンパク質(TP)。ADL・身体機能については、握力、歩行速度、FIM。経過として在院日数、再入院率、転帰先を選定した。

     2群間の比較には、χ二乗検定、Student’s T-test, Mann-Whitney’s U-testを使用し有意水準は5%未満とした。

    【結果】 年齢、性別、BNP、BUN、eGFR、死亡率の項目で2群間に差が認められた。

     年齢はHFrEFが83.5±8.54歳、HFpEFが86.6±7.4歳でありHFpEFが高齢であった。

     性別の割合はHFrEFが男性83名(57%)女性62名(43%)、HFpEFが男性116名(35%)女性216名(65%)と女性の割合が多かった。

     BNPはHFrEFが971.4±947.5pg/㎖、HFpEFが343.5±305.8pg/㎖であり、HFrEFの方が高値であった。

     BUNはHFrEFが34.7±20ng/㎗、HFpEFが27.8±16.6ng/㎗であり、HFrEFの方が高値であった。

     eGFRはHFrEFが36.8±16.8 mL/分/1.73 m2、HFpEFが42.9±22.4 mL/分/1.73 m2であり、HFrEFの方が低値であった。

     死亡率は、HFrEFが14%、HFpEFが8%であり、HFrEFの方が多かった。

     握力、5m歩行、FIMにおいては両群とも改善は見られたものの、2群間に有意な差は認められなかった。

    【考察】 LVEFによる2群間の分析の中で、HFpEF群は高齢で女性が多いこと、両群とも高血圧や心房細動・慢性腎不全が多いこと、再入院率は3割程度であるという結果は、これまで報告されているものと同様のものであった。平均年齢については日本循環器研究センターのデータと比較すると約7歳高く、当院の患者が高齢心不全患者であることが伺える。

     また、HFrEF群では腎機能低下やBNP高値の患者が多く、重症化リスクや死亡率も高いため運動負荷量や退院後の心不全管理についてより注意が必要であると思われる。

    【まとめ】 今回の調査・分析結果を通してLVEF分類とういう視点での患者の臨床特性を大まかではあるが把握することができた。ただ、LVEFだけでは全身状態を把握することは出来るわけではなく、特に並存疾患が多い高齢心不全においては個々の症例に対して、他職種と協働をする中で理学療法の役割を模索していくことが重要である。また、科学的検証を通じて理学療法の有効性をあきらかにしていくことも今後の課題であると思われる。

  • O-064 呼吸・循環・代謝①
    荒木 直哉, 高木 淳, 西川 幸作, 吉永 隆, 福井 寿啓
    p. 64-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 心臓手術後は可及的早期から心臓リハビリテーションを開始し、運動耐容能を含む身体機能の回復を目指すことが重要である。しかし、心臓手術後において連日運動耐容能を測定し、その回復を明らかにした報告はない。本研究では冠動脈バイパス術(Coronary artery bypass grafting:CABG)後における運動耐容能(6分間歩行距離)の回復に要する日数を調査し、その回復に影響を及ぼす術前因子を明らかにすることを目的とした。

    【対象と方法】 2019年4月から2023年3月までに熊本大学病院心臓血管外科にて待機的にCABGを施行した患者のうち、除外基準(術前歩行非自立例や維持透析例など)に抵触しない120例(中央値69歳、女性21例)を対象とした。以下の手順で調査を実施した:

    (1)術前、術後歩行自立から退院前日まで原則連日6分間歩行距離を測定し、術後6分間歩行距離が術前値に回復するまでに要した日数の中央値を算出した。

    (2)中央値までに回復した症例を早期回復群、それ以外を非早期回復群と定義し、両群にて患者背景や術前身体機能などを比較した。

    (3)さらに非早期回復群を目的変数とした多変量解析を実施し、術後6分間歩行距離の回復に影響を及ぼす術前因子を調査した。多変量解析に投入する説明変数は、単変量解析にてP値0.2未満であった項目を選定した。

    【結果】

    (1)入院中に術後6分間歩行距離が術前値に回復した症例は117例(97.5%)であり、回復に要した日数の中央値(四分位範囲)は9(7, 11)日であった。

    (2)非早期回復群は52例(43.3%)であり、早期回復群と比較し2型糖尿病の合併が高値であり(75.0% vs. 52.9%, P値0.01)、術後在院日数が長期であった(15.5日 vs. 14.0日、P値<0.01)。手術時間や人工心肺の使用割合、挿管時間、リハビリ経過(離床開始日、歩行開始日、歩行自立日)等は両群で有意差はなかった。

    (3)非早期回復群を目的変数とし女性、術前心房細動、2型糖尿病の合併を説明変数とした多変量解析にて、術後6分間歩行距離の回復に影響を及ぼす術前因子として2型糖尿病(オッズ比2.73, 95%信頼区間1.22-6.13, P値0.01)のみが該当した。

    【結語】 CABG後における運動耐容能は中央値9日で術前値まで回復し、その回復に影響を及ぼす術前因子は2型糖尿病の合併であった。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は熊本大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(第2213号)。本研究は公益社団法人熊本県理学療法士協会の「理学療法に関わる研究の助成(2020年4月から2022年3月)」を受け実施した。

一般演題12[ 小児・発達 ]
  • O-065 小児・発達
    平川 晋也
    p. 65-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 急性脳症や脳室周囲白質軟化症等を罹患し麻痺を呈する児に対して、急性期病院退院後も在宅生活を送りながら医療や福祉サービスにてリハビリテーションが提供される。しかし、保護者や医療機関等双方の社会的背景により提供回数が少なくなりやすく、神経可塑性に基づいた神経ネットワークの再構築を目指す上で十分な量が提供されていない現状がある。また、自主練習を促すものの両親の就労や兄弟姉妹の育児、閉鎖的な環境により継続的に行える家庭は少ない。そこで、各家庭での継続的な自主練習を目的とした支援を行ったので報告する。

    【対象および方法】 対象は、歩行補助具の導入が可能であり医療機関より自宅での自主練習を指導されていたが1月の自主訓練実施率30%以下の3才2カ月から5才4カ月の当児童発達支援事業所に通われる急性脳症2例、脳室周囲白質軟化症2例、脳出血1例の計5名。全ての児は、週に1回の頻度で医療機関による外来リハビリテーションを実施。粗大運動能力分類システムGross Motor Function Classification System:GMFCSレベルⅤ。方法は、事前に各医療・福祉サービスに自主練習の実施についての連絡を図った後、簡易的な歩行練習が可能な歩行補助具(ファイアフライ社製、アップシー小児用歩行補助具)を使用し、全身運動を目的とした歩行練習を指導する。別途理学療法士が介助する様子を動画で撮影し参考にしつつ、各々の可能なタイミングで自主練習を行った。また、LINE株式会社が提供するLINEを使用し保護者間での結果報告を各自行ってもらい、個別質問を理学療法士に問い合わせできる体制を構築した。毎月月末にweeFIMを評価。期間は令和4年6月6日から令和4年12月29日とし最終日に自由記述回答によるアンケートを実施した。

    【結果】 アンケートの結果より各家庭の一月の平均実施率は64%、父親80%母親20%が実施。開始時weeFIMの平均は18.4点であったが、終了時は平均28点であり、特に移動項目およびコミュニケーション項目での点数増加がみられた。児によっては、言語聴覚療法の実施が無いにも関わらず嚥下機能の大きな改善がみられ、さらに移動項目に関しては、全ての児に関して全介助から最大介助以上となった。

    【考察】 脳損傷後の回復メカニズムはhebb則に従うとされており、理学療法では神経可塑性を目的にシナプス結合を強化するため実施頻度も考慮しなければならないと考える1)。そのため、一定の頻度を提供する為には、保護者による支援も重要である。保護者自ら歩行距離や歩容などの目標を立て継続的に課題指向型の介入ができた事により、weeFIMの結果からも移動項目だけでなくその他の項目も含め点数が向上したのではないかと考える。また、就労しているにも関わらず継続的に実施できた背景には、各保護者間での情報共有が挙げられ、アンケートの結果からも実施方法の模索や効果の共有、目標設定など情報を共有化した事により、同じ課題を持つ保護者の目標は明確化された事が考えられる。児に対するリハビリテーションは、医療や福祉サービスで専門的に実施される必要がある反面、児の神経可塑性を目的に実施頻度を高める事も重要である。自主練習といった継続が困難である課題に対し、保護者が同じ環境の方と情報を共有し取り組む事で、より継続的に前向きに取り組めたらと考える。

    【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、家族に口頭と書類にて十分な説明と同意を得た。また、個人情報の取り扱いにおいては、個人情報保護に十分配慮して管理を行った。

    1)西条久夫:リハビリテーションのためのニューロサイエンス脳科学からみる機能回復

  • O-066 小児・発達
    中村 善則, 浪本 正晴
    p. 66-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 先天性骨欠損症は百万人に一人と言われるきわめて稀な疾患で、両側の骨完全欠損では膝関節離断に至る事が多い。今回、先天性両脛骨列欠損症を呈し両膝関節離断術後の児を担当した。発達段階にあり義足適合の難しさ、転倒の恐怖心から独歩獲得に難渋したため、治療経過に考察を加え報告する。

    【症例紹介】 先天性骨欠損症の膝関節離断術後男児、10歳。5歳までは自宅で過ごし就学1年前から就園、現在地元の小学校へ通っている。当院には3歳から通院。初診時股関節の他動的関節可動域は特に問題なく、筋力は体幹筋の弱さあり、5歳までの発達検査では、運動面を除きほぼ正常域であった。

    【倫理的配慮】 本研究は、本人、保護者に趣旨と目的を説明し承諾を得ると共に、当院倫理委員会にて承認を得て実施した。

    【治療経過及び考察】 以下に治療経過を2期に分け報告する。

    ①義足適合から義足歩行獲得期(3歳~7歳)

     初診時は断端末で数歩独歩可能。継手無しの肩掛けの骨格構造膝義足にて歩行器歩行がみられたが、義足装着の拒否有り。歩行時に突然手を離すなど危険認知の低さ見られた。約半年後、骨格構造膝義足ライナー式膝継手ロック式に変更、独り立ちが可能となったが、転倒の恐怖心が強かったため、短義足に変更し独歩可能となった。4歳半から成長に合わせ義足長の延長を行い、就園を機に装着時間が向上し、義足での独歩が実用化してきた。5歳3ヶ月膝継手(トータルニー)の練習を開始し6歳半には膝屈曲しながらの歩行が可能となった。この時期は数か月ごとに義足不適合があり、ソケットの微調整を繰り返していた。

     歩行獲得には、発達過程における歩行パターンの反復、バランス能力発達1)や身体図式の発達など様々な要因が考えられている。本児の3歳時には、自己身体の認識及び協調的運動が未発達で、義足歩行を行うために、股関節、大腿部の筋及び断端面からの情報を駆使した繊細な下肢の運動制御は、本児にとって難しく、「転倒への恐怖心」「装着拒否」などが生じていたことが考えられる。その為、本児の認知力に合わせて、短義足を用い段階的に運動学習を行うことで独歩可能となった。義足長を長くしたものではまだ恐怖心が強く、独歩不可で大腿部の繊細な制御力は未発達であったことが考えられる。しかし、この時期に就園、就学により先生や他児との関わりを通して歩行の成功体験が増え自信をつける事ができたことで装着時間が延長し、さらに動的立位の時間が増え遊動式膝継手を用いた義足の独歩獲得に繋がったと考えられる。

    ②義足独歩不能から歩行再獲得期(8~10歳)

     8歳時、長距離歩行にて右大腿部に痛みと新型コロナウイルス流行にて5ヶ月ほどリハ自粛となり、その間使用しなかったことからソケットが適合不良となり9歳頃に義足の作り直しを行ったものの歩行困難となった。しかし、9歳4ヶ月には、独歩再獲得し、義足の自己装着も可能となった。

     義足の再作成直後は歩行不能であったが、一旦身につけた歩行能力であったため、再度練習することで歩行を再獲得しやすかったと考えられる。今後も、長期間未装着は、独歩困難となる可能性があり自己管理を含め十分注意していくことが必要と考えている。

    【今後の展望】 先天性骨欠損症児の両膝義足による独歩獲得までの理学療法経過を報告した。発達段階に応じた義足選定、認知力を踏まえた運動課題の反復練習が必要であった。今後同様のケースを担当した場合の一つのモデルとなり、理学療法を考えていく上での参考となると考えている。

    【文献】

    1)岡本勉他:乳幼児の歩行獲得―立位から安定した歩行へ―.歩行獲得研究所,2013.

  • O-067 小児・発達
    西村 理佐, 木下 詔子, 松村 祥子, 橋本 和依, 西本 真帆, 浪本 正晴
    p. 67-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 当院がある八代市は、熊本県中央部の南側に位置し、第2の人口を擁する。八代市では、小児リハビリテーション(以下、小児リハ)が過疎的状況である。当院はその専門的な機能をもつ施設ではないものの地域ニーズに応えるべく平成23年4月1日に小児リハ外来を開設した。小児リハ担当は理学療法士(以下、PT)4名、作業療法士(以下、OT)2名、言語聴覚士(以下、ST)3名である。今回、過去5年間のデータをもとに小児リハの現状と課題を報告する。

    【対象と方法】

    1)対象:過去5年間(平成30年4月~令和5年3月)の小児リハ外来を利用した174名。

    2)方法:診療録より、①利用児数 ②居住地域 ③紹介元 ④利用開始年齢 ⑤疾病分類 ⑥PT, OT, ST毎の利用数について調査した。

    【倫理的配慮】 本研究は個人情報の管理には十分配慮し、当院規定に基づき承認を得ている。

    【結果】

    ①利用児数:年平均利用児数は全体が90名程度、新患20名程度で特に令和元年~2年に一旦減少しその後緩やかに戻りつつある。

    ②居住地域:八代市90.2%、八代市外4.6%、県内3.4%、県外1.7%。

    ③紹介元:熊本県こども総合療育センター56.9%、八代市内保健医療機関19.0%、県内周産期病院19.0%、その他5.1%。

    ④利用開始年齢:PTは3ヶ月~12歳(中央値1歳)で0~1歳が多く、OTは1~12歳(中央値6歳)、STは2~14歳(中央値6歳)でOT, STは5~6歳の開始が多かった。

    ⑤疾病分類:神経発達症(自閉スペクトラム症、注意欠陥多動症等)69名、言語障害(構音障害、言語発達遅滞等)38名、低出生体重(児)25名、発達遅滞(運動発達遅滞、精神発達遅滞等)22名、染色体異常9名、脳性麻痺5名、その他6名。

    ⑥PT, OT, ST毎の利用数:PT単独37名(21.3%)、OT単独16名(9.2%)、ST単独82名(47.1%)。また、39名(22.4%)はPT, OT, STいずれかの重複利用であった。

    【考察】 利用児数では、新型コロナウイルス感染症の流行時期に減少傾向がみられた。居住地域では、通院距離の近い八代市内が殆どを占め地域ニーズが確認できた。紹介元は、半数が熊本県こども総合療育センターで、次に八代市内保健医療機関や県内周産期病院からも紹介されるようになり、開設以降徐々に当院小児リハが認知されてきたと思われ、今後さらに地域の療育関連機関との連携を進めていきたい。

     利用開始年齢は、PTは発達初期段階からの早期介入傾向があり、運動発達に対する支援の必要性が予測された。OT, STでは就学に伴う利用が多く、生活動作や言語面でのニーズの高さが伺えた。また、疾病は幅広く、特に神経発達症が多い。これは文部科学省令和4年の調査による「小中学生の8.8%に発達障害の可能性がある」という報告が当院でも反映されたものとなった。

     PT, OT, ST毎の利用は、特にSTの需要が高くここ数年は待機児童が増え、その解決策として外来看護師と連携した窓口体制を整えた。また全体の22.4%は重複利用でありライフステージや発達状況に応じて各職種が役割を分担し、連携しながら支援していくことが重要と考える。特に就学前のケースにおいては家庭、教育機関との連携も今後の課題となっている。

    【今後の展望】 今後も対象年齢の幅や疾病が多岐にわたり様々なニーズが予測される。これらに応えるため、質の高い小児リハの提供及び地域との連携を図り、利用児とその家族の満足度が得られるように今回得られた様々な課題に取り組んでいきたい。

  • O-068 小児・発達
    白木 剛志, 夏井 一生
    p. 68-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 当院は、長崎地区の小児二次医療の役割を担っており、乳幼児の呼吸器疾患治療を行っている。入院時に軽症であっても酸素化低下が進行し、ネブライザー付酸素吸入器(以下、インスピロン)が必要となる患者には、小児科医師の判断により排痰介助目的にて理学療法処方が出されるケースがある。また、肺炎症状が進行し無気肺や急性呼吸不全に陥ると人工呼吸器を使用することになり、患者にとっても負担が大きい。今回、気管支肺炎、喘息重積発作患者に対し、インスピロン管理下に呼吸理学療法(以下、RPT)を実施し、急性呼吸不全、人工呼吸器回避に寄与できた可能性を示した症例を報告する。

    【症例】 診断名:気管支肺炎、喘息重積発作。発熱と喘鳴、呼吸困難感認められ当院へ紹介となった1歳2か月男児。既往歴:ダウン症候群。心房中隔欠損症 1 ㎜(無症状、自然閉鎖待ち。現状リスクないため、RPT実施許可あり) 気道病変無し 遠城寺式乳幼児分析的発達検査:移動運動:6~7か月 対人:5~6か月 喘息評価:MPISスコア 10点 四肢弛緩性テスト陽性。

    【経過】 第1病日よりインスピロン流量5L/min, FiO2 50%にて酸素療法開始。第2病日には酸素化不良進行し、アスプール薬剤使用、流量10L/min, FiO2 70%に変更。同日、排痰介助目的を主としたRPTの指示あり開始。胸部レントゲン上両側肺門部に浸潤影を認め、聴診上両肺野の呼吸音低下、高調性連続性副雑音を聴取。陥没呼吸も認められ、SPO2は93%を測定。左胸部優位の胸壁振動、低調性連続性副雑音も認められたため、吸入療法実施後に体位ドレナージとして右側臥位、右前傾側臥位、腹臥位を併用し実施。その後、聴診にて分泌物移動が認められたのを確認し振動法、スクイージングを実施。特にスクイージング実施時は喘息による気道狭窄があるため、悪化させないように聴診を行いながら実施した。その結果、中枢気道まで痰の移動認められ、吸引実施時も多量の痰を認めた。また、陥没呼吸は改善しSPO2も98%と即時効果あるため主治医と協議しRPT有効と判断。吸入療法実施時間帯に合わせて計2回介入することとなった。母親への指導はポジショニングの動画を撮影し、動画を用いて右側臥位、腹臥位を行うよう指導。第6病日には酸素化徐々に改善し、アスプール薬剤中止。インスピロン流量10L/min, FiO2 50%に変更。SPO2も96%を持続可能。第8病日には体調回復に合わせてインスピロン装着を嫌がる場面増えてきたが装着外れた場合でもSPO2 96%を持続可能。第10病日には胸壁振動、痰量も漸減してきたためRPTを1回へ変更。第12病日には室内気へ変更し、SPO2 98%持続可能となりMPISスコアも2点。第14病日に自宅退院となった。

    【結果】 患者は良好な酸素化を維持でき肺障害が改善し、急性呼吸不全、人工呼吸器使用を回避できた。また、新たな肺炎や無気肺、感染症などの予後に有害と思われる合併症も認めなかった。

    【考察】 今回、RPTの効果が得られたのはできる限り気道内分泌物の貯留を避けるために聴診、触診などを行いながら体位ドレナージ、手技を選択し、痰の移動と確実な吸引を行えたことが要因と考えられる。また、RPT実施後も時間経過に伴い、分泌物が出現してくるため、病棟スタッフ、母親協力の下、ポジショニングの実施や症状把握方法の指導を行い、分泌物貯留を予防する環境を作れたことも要因の一つと思われる。以上を踏まえ、インスピロン管理下での適切なRPTを継続できれば急性呼吸不全、人工呼吸器使用の回避にも寄与できる可能性を示した。

    【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき患者の保護者には発表の趣旨を説明し同意を得た。また、患者の個⼈情報を匿名加工し、特定されないよう配慮を行った。

  • O-069 小児・発達
    津 玄徳
    p. 69-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【背景】 グアテマラ共和国(以下、グアテマラ)は、一人あたりの国民総所得において4,940米ドル、人間開発指数において0.63であり、地方の貧困や医療福祉支援の不足などが大きな問題となっている。栄養問題においては、グアテマラ国内で5歳児未満の慢性栄養失調率が47%と世界6位、中米地域1位である。グアテマラ北西部にあるウエウエテナンゴ県アグアカタン市では、慢性栄養失調率が50%を超え、リハビリテーションの需要は栄養問題に起因する小児疾患が大多数を占める状況となっている。同市の障害児者協会は、市内唯一のリハビリテーション施設であり、理学療法士が1名、特別支援教育員が3名在籍しているが人的・物的資源が不足しており障害児者への支援不足から社会参加への機会損失が生じている。限られた資源で支援を実現していくため、家族・地域住民・学校教員等を巻き込んだ包括的な支援であるCommunity Based Rehabilitation(以下、CBR)に基づいた支援が必要とされておりJICA海外協力隊員の要請へと至った。

    【目的】 本演題では、グアテマラの障害児者協会で行なった理学療法士活動について報告・検討することを目的とする。

    【活動内容】 配属先の障害児者協会は、日本の外来リハビリテーションの様な利用形態である。理学療法サービスの利用者は幼児から高齢者まで幅広いが、全体の67%が小児疾患患者であった。これを基に主な活動として ①小児リハビリテーションの充実 ②障害児者や家族の疾病・健康・予防に対する意識改革 ③地域住民や学校への健康・障害に対する理解促進 ④山間部地域への訪問診療を行った。また、都市部アンティグア地区の福祉用具製造団体、スペインのカタルーニャ州の障害者支援団体も参画し、障害児者への福祉用具提供を行った。その他、栄養士や助産師隊員と多職種連携を図り、限られた資源の中でCBRを展開した。

    【活動結果】 活動のメインとなる小児リハビリテーションの充実に関しては、同僚指導・技術移転・大学での学生指導を行うことで、より専門的な理学療法の提供が可能となりつつあると感じられた。また、約1年間の継続した障害理解講座・各コミュニティ訪問・プロモーション活動により同士における理学療法の認知度向上を図り、施設利用者数も前年度から約2倍に増加することができた。継続した活動により障害者理解が促進され、リハビリテーションの必要性が浸透してきたと感じられた。

    【結論】 現地で活動を継続する中で小児疾患患者の原因について調査を行い、出生時障害に起因する脳性麻痺児が全体の76%と非常に多いことが分かった。グアテマラは、妊産婦死亡率・新生児死亡率・乳児死亡率が周辺他国と比較すると高い数値となっており、これらの原因は妊産婦の栄養に関する知識不足・マヤ民族文化による独特な出産方法が大きな問題であると考えられる。具体的には、妊産婦の劣悪な食生活による葉酸などの栄養不足、伝統的産婆(医療資格を持たないマヤ文化の産婆)による出産支援などが脳性麻痺や二分脊椎患者の増加に影響していることが示唆された。これらの背景を基に理学療法分野だけでなく、障害や疾病についての教育・母子保健・栄養など様々な視点から多職種と連携し、継続的で包括的なアプローチが必要であることが示唆された。

    【倫理的配慮】 本演題で発表する内容は福岡リハビリテーション専門学校倫理委員会の承認を得た。(承認番号:23001)

一般演題13[ 測定・評価① ]
  • O-070 測定・評価①
    日野 桃子, 宇野 研二, 中嶋 保則, 岡部 廣直
    p. 70-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 現在、全国的に高齢化が深刻となっており、当院がある宇美町の調査でも人口に対する高齢化率は2020年時点で27.7%、12年後の2035年には31.9%まで増加すると予測されている。加齢に伴い増加するロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)やフレイルは要介護のハイリスク因子となっており、それらを早期発見、予防することが健康寿命の延伸に重要である。当院では年に一度、地域住民に病院を開放して『健康フェスティバル』を開催しており、各種イベントやチャリティー検診を行ない地域住民との交流や健康啓発を行なっている。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大により一時中止を余儀なくされており、今回2022年11月に3年ぶりの開催となった。そこで、今回の健康フェスティバルにおいて来場者を対象に身体機能評価等を実施し、ロコモやフレイルの実態調査を行なったので報告する。

    【方法】 健康フェスティバル来場者のうち身体機能評価を希望した28名(男性9名、女性19名)を対象とし、未成年は除外した。ヘルシンキ宣言に基づき、参加者には事前に書面および口頭にて研究の主旨を説明し同意を得た。ロコモ度テスト(立ち上がりテスト、2ステップテスト、ロコモ25質問表)にてロコモ度テストの臨床判断値を用いてロコモ度1、2を判定。また、Friedらの5項目に従い、歩行速度、握力、体重減少、疲労感、運動習慣のうち1、2項目該当をプレフレイル、3項目以上該当をフレイルと判定した。加えてコロナ禍での外出頻度減少の有無を調査した。

    【結果】 対象者の平均年齢は63.2歳(男性62.4歳、女性63.6歳)であった。全対象者のうちロコモ度1は16名(57%)で、ロコモ度2は6名(21%)であった。ロコモ度1のうち項目別にみた基準値以下の該当者数は立ち上がりテスト14名(81%)、2ステップテスト5名(31%)、ロコモ25質問表4名(25%)であり、立ち上がりテストが最も多かった。ロコモ度2においても基準値以下となった項目は立ち上がりテストが4名(67%)と最も多かった。また、全対象者のうちプレフレイルは11名(39%)で平均年齢66歳、フレイルは2名(7%)で平均年齢87歳であった。フレイル・プレフレイルのうちロコモ度1以上の有病率は84%であった。さらに、ロコモまたはプレフレイル以上の91%が『コロナ禍で外出頻度が減少した』と答えていた。

    【考察】 吉村らが2012-2013年に行ったROADスタディーでは平均年齢72.2歳におけるロコモ度1以上の有病率は81%であり、フレイルのロコモ度1有病率は100%と報告されている。今回の調査では平均年齢63.2歳と若いにも関わらずロコモの有病率は78%と同等であり、ここ数年のコロナ禍による外出機会減少がロコモやフレイルの若年化に影響を及ぼしている可能性が考えられる。また、今回フレイルの前段階であるプレフレイルを含めてもロコモ度1以上の有病率が84%と高いことが分かった。さらに、ロコモ度1群の大部分において下肢筋力の評価である立ち上がりテストで基準以下となっていることから、特に下肢筋力の強化を行なうことがロコモやフレイルの予防に繋がると考えられる。またロコモ度1群の中には自覚症状がない人も多く見られた。今後も地域住民に向けて身体機能評価の機会を提供することでロコモやフレイルを早期発見し、運動への意識付けを行なうとともに、地域の健康寿命延伸にむけた支援や啓蒙活動に従事していく。

  • O-071 測定・評価①
    吉田 禄彦, 釜﨑 大志郎, 田中 真一, 八谷 瑞紀, 久保 温子, 大川 裕行, 坂本 飛鳥, 藤原 和彦, 井手 翔太郎, 大田尾 浩
    p. 71-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 臨床では、簡便に筋力を評価できるハンドヘルドダイナモメータ(HHD)で膝伸展筋力を測定することが多い。先行研究では、HHDで筋力を測定し、モーメントアーム(下腿長)で補正した値を膝伸展力としていることがある。一方、補正をせずに測定値を代表値としている報告もある。だが、どちらの値がより身体機能を反映するのかは一定の見解を得られていない。そこで本研究は、HHDで測定した膝伸展筋力値をモーメントアームによる補正の有無別に身体機能との関連を検討し、その程度を比較することとした。本研究は、より正確な膝伸展筋力の評価方法を示し、今後の研究の基礎的な結果を提供できると考える。

    【方法】 対象は、地域で実施した体力測定会への参加者とした。除外基準は膝に痛みを有した者、評価項目に欠損を認めた者とした。基本情報として、性別、年齢を記録し、身長、体重、body mass index(BMI)、skeletal mass muscle(SMM)、skeletal mass index(SMI)、骨密度を測定した。身体機能は、膝伸展筋力、握力、開眼片脚立ち時間、通常歩行速度、最大歩行速度、30-second chair stand test(CS-30)、timed up and go test(TUG)を測定した。なお、膝伸展筋力はHHDを用い、付属のベルトで固定し、センサーパッドを下腿遠位部に当て測定した。その他の評価としてmini-mental state examination(MMSE)、JST-index of competence(JST-IC)を評価した。統計処理は、モーメントアームによる補正の有無別に各測定項目との関連をPearsonの相関分析で検討した。次に、モーメントアームの補正の有無別に得られた相関係数を用いて差の検定を行った。

    【結果】 分析対象者は、体力測定会への参加者130名(64±18歳、女性76%)であった。相関分析の結果、膝伸展筋力は補正の有無に関わらず、SMI(補正有:r=0.51, p<0.001、補正無:r=0.55, p<0.001)および握力(補正有:r=0.59, p<0.001、補正無:r=0.64, p<0.001)と中等度以上の有意な相関が認められた。また、SMM(r=0.48, p<0.001)とTUG(r=0.45, p<0.001)は補正ありのみ中等度以上の有意な相関が認められた。一方、開眼片脚立ち時間、CS-30、通常歩行速度、最大歩行速度、MMSE, JST-ICとは0.4以上の相関はなかった。次に、補正の有無別に分けて相関係数の差の検定を行った。その結果、2群間で有意差はなかった。

    【考察】 握力およびSMIは筋力を評価する代表的な指標である。本研究では、補正の有無に関わらず中等度以上の有意な相関を認め、膝伸展筋力は筋力の評価としての基準関連妥当性を有する結果が示された。一方で、SMMおよびTUGとは補正ありのみと中等度以上の有意な相関が認められた。モーメントアームによって補正した膝伸展筋力の方が、四肢の骨格筋量や動的バランスと相関がある可能性が示唆された。しかしながら、補正の有無別に相関係数の差の検定を行った結果、有意な差はなかった。これらのことから、HHDで測定した膝伸展筋力は、モーメントアームの影響を受けづらいことが明らかになった。したがって、補正の有無に関わらず膝伸展筋力を評価できることが示された。

    【説明と同意、および倫理的配慮】 対象者には、研究の内容と目的を説明し、理解を得たうえで同意を求めた。本研究への参加は自由意志であり、参加を拒否した場合でも不利益にならないことを説明した。本研究は西九州大学倫理審査委員会の承認を得て実施した。

  • O-072 測定・評価①
    井手 翔太郎, 釜﨑 大志郎, 八谷 瑞紀, 久保 温子, 大川 裕行, 坂本 飛鳥, 藤原 和彦, 藤村 諭史, 田中 勝人, 大田尾 浩
    p. 72-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 歩行速度は、中高年者の身体機能を示すバイタルサインとされている。日常生活のなかで横断歩道を青信号のうちに渡るために歩く速度を上げるような場面がある。このように、中高年者の最大歩行速度は日常生活を送るうえでも重要なパフォーマンスの一つである。我々は、その歩行速度には四肢の筋力やバランス能力のみならず、体幹筋量も関与すると仮説を立てた。そこで本研究の目的は、地域在住中高年者の最大歩行速度と体幹筋量の関係を検討することとした。本研究の結果が明らかになることで、地域在住中高年者の歩行能力の維持および向上させる理学療法の一助になると考える。

    【対象と方法】 対象は、地域で実施している体力測定会に参加した中高年者とした。基本情報として性別、年齢を記録し、身長、体重、body mass index(BMI)を測定した。測定項目は、最大歩行速度、体幹筋量、握力、膝伸展筋力、30-secondchair stand test(CS-30)、開眼片脚立ち時間、痛みの数、mini mental state examination(MMSE)とした。統計解析は、まずPearsonの相関分析で各測定項目の関連を確認した。次に、最大歩行速度を従属変数、体幹筋量を独立変数とした単回帰分析を実施した。さらに、共変量と考えられる変数を投入した重回帰分析を実施し、交絡の調整を図った。なお、重回帰分析の最終モデルで必要なサンプルサイズを効果量(f2)=0.35、αエラー=0.05, power=0.8、独立変数=8に設定して算出した結果52名であった。

    【結果】 分析対象者は、必要なサンプルサイズを満たす地域在住中高年者72名(平均年齢74±7歳、女性75%)であった。相関分析の結果、最大歩行速度と有意な相関を認めた項目は、体幹筋量(r=0.39, p<0.01)とCS-30(r=0.36, p<0.01)であった。また、重回帰分析の全てのモデルにおいて、最大歩行速度には体幹筋量が有意に関係した(最終モデル:標準化係数=0.38, p=0.001)。

    【考察】 本研究の結果、最大歩行速度には体幹筋量が関係することが明らかになった。体幹筋量が減少すると、体幹の安定性が低下し、歩幅が短縮するとの報告がある。また、体幹が不安定だと、下肢の運動が円滑に行えないとの報告もある。このように、体幹筋は姿勢を制御する役割があることから、最大歩行速度と体幹筋量に関係が認められたと推察する。実際に、体幹筋量の減少や加齢による脊椎の後彎変形が歩行速度に関与すると報告されている。本研究では、脊椎アライメントの評価を行っていないため言及できないものの、体幹筋量が少ないと、体幹の姿勢を制御できずに最大歩行速度が低下している可能性も考えられる。

    【結論】 地域在住中高年者の最大歩行速度には、体幹筋量が関係することが明らかになった。このことから、四肢の筋力や身体機能に加えて体幹筋量を評価する重要性が示された。また、今後のさらなる調査が必要ではあるが、体幹筋量にアプローチすることで歩行能力の向上に寄与する可能性が示された。

    【倫理的配慮・説明と同意】 対象者には、研究の趣旨と内容について説明し、理解を得たうえで協力を求めた。本研究への参加は自由意志であり、拒否した場合でも不利益にならないことを説明した。本研究は西九州大学倫理委員会の承認を得て実施した。

  • O-073 測定・評価①
    甲斐 有城, 田原 佑晟, 米夛 めぐみ, 冨脇 梨奈, 髙野 直哉, 松村 元貴, 中神 正巳
    p. 73-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 日本人の363人に1人は透析患者と言われており70代に限れば100人に1人は透析を受けている。また、熊本県は、全国でも透析患者数が多く2010年以降、全国1、2位で推移している。令和4年度診療報酬改定に伴い、透析中の運動指導に係る評価が新設され、当院でも令和4年12月から外来・入院透析患者への透析中の運動療法を実施している。今回、透析中の運動療法を受けていない外来透析患者の透析導入から約5年後の骨格筋量の変化に着目し若干の知見を得た為ここに報告する。

    【方法】 対象は、2015年1月から2023年3月までの期間で外来透析導入(初期)から約5年間(最終)で定期フォローとしてCT検査が実施でき、歩行自立している慢性腎臓病(CKD)患者17名(男性9名、女性8名 平均68.94±10.47歳)とした。なお、透析中の運動療法を実施しているものは除外とした。評価項目は、BMI、Psoas Muscle mass Index(以下、PMI)、Geriatric Nutritional Risk Index(以下、GNRI)、アルブミン(以下、Alb)クレアチニン(以下、Cr)、Kt/v、CRPとし、初回と最終を比較検討した。PMIは、第3腰椎レベルにおける大腰筋面積の合計を身長の2乗で除した値とした。大腰筋面積はフリーハンドで2回トレースし平均値を算出した。PMIのcutoff値は、男性6.36 ㎝2/m2、女性3.92 ㎝2/m2を使用した。統計解析は、Statcel4を使用し、ウィルコクソン符号付順位和検定、関連のある2群の検定を用い、級内相関係数(intraclass correlation;ICC)も算出した。

    【結果】 初回と最終のPMIのICC(1, 1)は0.99であった。PMI(初期4.32±1.18 ㎝2/m2、最終3.99±1.12 ㎝2/m2、p=0.01 p<0.05)で有意差が認められた。BMI(初期23.48±3.38 ㎏/m2、最終24.05±2.70 ㎏/m2、p=0.29)、GNRI(初期97.36±7.36、最終100.26±6.56、p=0.98)、Alb(初期3.60±0.22、最終3.72±0.21、p=0.99)、Cr(初期3.76±1.20、最終3.74±0.85、p=0.79)、Kt/v(初期1.38±0.26、最終1.55±0.27、p=0.99)、CRP(初期0.44±0.84、最終0.39±0.52、p=0.70)とそれぞれ有意差は認められなかった。

    【考察】 外来透析導入から約5年後の骨格筋量は17人中14人でPMIが有意に減少しており骨格筋量の低下が認められた。今回、栄養状態や炎症値に有意差が認められなかったことから加齢以外では透析時の臥床時間などの身体不活動やインスリン抵抗性、多疾患併存、入院イベントなどが影響していたと考えた。また、男性は9人中8人、女性は8人中6人が初期からすでにPMIのcutoff値を下回っておりサルコペニアの状態であった。導入期腎不全患者は健常者と比べて尿毒症に加え、食事制限や低栄養、身体機能低下など様々な因子が影響していたと考えた。

     今回の研究で透析中の運動療法だけでなく自主訓練の方法や定着など考慮し身体機能維持・改善に努めていきたい。また、CKD保存期あるいはその前の段階から介入することでサルコペニアの予防を図ることが大切である。

    【結論】 当院外来透析患者の透析導入から約5年間で骨格筋量は低下していた。また、男性の88%、女性の75%が透析導入時からすでにサルコペニアの状態であったためCKD保存期あるいはその前の段階から自主訓練の方法や定着を考慮しないといけないと考えられる。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき、対象者に本研究の主旨、目的を十分に説明し、同意を得て実施した。

  • O-074 測定・評価①
    平尾 総康
    p. 74-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 骨粗鬆症(以下、OP)とサルコペニア(以下、SP)は代表的な老年疾患であり、近年その2つが合併したオステオサルコペニア(以下、OS)が新たな概念として注目されている。今回体組成計評価を用いてそれぞれの身体特性を検証した結果、オステオサルコペニア患者の身体的な特性に関して知見が得られたため報告する。

    【方法】 当院入院患者(2019年11月~2022年4月)のうち、体組成計(InBody S10)による計測を行った153例(85±7.6歳)を日本骨粗鬆学会原発性骨粗鬆症の診断基準、AWGSサルコペニア診断基準を用いて3群(OP群・SP群・OS群)に分類し検証を行った。統計処理はStat Flexを使用しKruskal-Wallis検定、Scheffeの多重比較を用いて有意水準5%未満とした(P<0.05)。

    【結果】 体水分量(L)/SMI(㎏/m2)はOP群と比べ、SP群・OS群が有意に少ない結果となった(OP群27.4±4.3/6.3±1.0 SP群23.7±4.1/5.1±0.9 OS群22.2±4.2/4.6±1.0)。位相角(°)はOP群・SP群と比べ、OS群が有意に少ない結果となった(OP群3.7±0.6 SP群3.7±0.6 OS群3.3±0.7)。細胞内水分量(L)/細胞外水分量(L)はOP群と比べOS群が有意に少ない結果となった(OP群16.2±2.7/11.1±1.9 SP群14.0±2.4/9.7±1.7 OS群13.1±2.9/9.1±1.7). ECW/TBW(細胞外水分比)は3群間で有意差が認められなかったがOS群が高い傾向であった(OP群0.407 SP群0.408 OS群0.411)。左右の下肢筋量(%)を比較したところ有意差は認めなかったがOS群のみ左右の筋量で差が生じる結果となった(OP群右下肢95.6±14.9/左下肢95.1±16.3 SP群右下肢77.9±12/左下肢77.9±11.6 OS群右下肢77.8±13.9/左下肢79.1±18.2)。

    【考察】 本研究結果よりOPとSPを合併したOS群では筋量低下、水分均衡の破綻、体細胞量の減少及び細胞レベルでの栄養状態不良という状態であることが判明した。筋量の低下はSP群も著しい結果であったが、OS群は左右下肢筋量に差がある傾向があった。Sketonらは下肢の非対称性な筋力低下は転倒非経験者よりも経験者でより顕著であり、将来的な転倒を予測する上で一般的な兆候である姿勢制御の低下の理由になる、と報告している。このことから骨粗鬆症とサルコペニアを合併することにより転倒リスク増加に繋がる可能性が懸念された。また体水分均衡の破綻に関して、人体は細胞内水分量と細胞外水分量を常に一定に保つ機能が備わっているがOS群は細胞内水分量の低下を認めた。これは老化・栄養状態不良による影響が大きいと解釈できる。さらにSMI, ECW/TBW、位相角の3項目を解析したところ栄養状態不良である結果となった。SMI, ECW/TBWの2つの関係から単なる筋肉量減少のみならず筋細胞の質も低下していることが判明した。また松尾らは糖尿病患者において位相角<2.9°かつECW/TBW>0.42を満たすと生命予後が極めて不良と報告している。今回のECW/TBW、位相角2つの関係から、OPとSPを合併すると予後不良となる可能性がありそれぞれの病態悪化予防が重要であることが示唆された。

    【倫理的配慮】 本研究では当院倫理審査委員会の承諾を得て実施した(承認番号:20220204k138)。

  • O-075 測定・評価①
    山口 晃樹, 徳永 誠次, 松尾 健一, 井口 茂, 諸岡 俊文
    p. 75-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 急性期病院の手術患者において、高齢者が占める割合は年々増加傾向にある。一般に高齢患者は生体機能及び生理的予備機能が低下するフレイルを呈しており、ひとたび合併症を併発すると回復に時間を要するため、近年では外科領域でもフレイルの概念が注目されている。これまでの外科領域におけるフレイルの先行研究では、フレイルは術後合併症と死亡リスクを予測する因子であると報告されており、その他にも在院日数の延長や日常生活動作能力の低下との関連性が示されている。したがって、外科手術患者において術前よりフレイルを考慮することは重要であると考えられるが、フレイルを有する外科手術患者の運動・認知・精神機能の入院期間中の多面的な経過については報告が少ないのが現状である。本研究では、急性期病院に手術目的で予定入院となった高齢者の運動・認知・精神機能の多面的な経過を調査することを目的とした。

    【方法】 対象は、2021年5月17日~2021年8月31日までの期間に在宅より当院に手術目的で予定入院し、調査に同意が得られた65歳以上の高齢者47名(平均年齢76.5±6.0歳)とした。評価項目は、基本属性(年齢・性別・Body Mass Index・在院日数・持参薬の種類)、入院期間中の経過(手術・リハビリテーション介入・合併症・せん妄・尿道留置カテーテル挿入の有無、ADL、サルコペニア発生の有無)、入退院時の運動・認知・精神機能、骨格筋量、フレイルの有無とした。運動機能では握力、大腿四頭筋筋力、椅子起立時間、Timed up and Go、開眼片脚立位時間、10m歩行時間の6項目を測定し、認知機能ではMini-Cog、精神機能ではGeriatric Depression Scale-15を測定した。フレイルは25項目から構成される基本チェックリスト(以下、KCL)を用い、先行研究をもとに8項目以上である者をフレイルと判定した。サルコペニアは、AWGSが2019に報告した診断方法を使用した。分析は、基本属性並びに入院中の経過においてt検定またはカイ二乗検定を用いて、非フレイル群、フレイル群の群間比較を実施した。運動・認知・精神機能においては、各群の入退院時の比較を対応のあるt検定を用いて群内比較を実施した。

    【結果】 入院時にフレイルを有しているフレイル群は13名(28%)であり、非フレイル群は34名(72%)であった。フレイル群と非フレイル群の基本属性、入院中の経過の群間比較の結果では、全ての項目において有意な差は認めなかった。2群の入退院時の群内比較の結果では、フレイル群・非フレイル群ともに骨格筋量において退院時は入院時と比較し有意に低値を示した。またフレイル群では握力において退院時は入院時と比較し有意に低値を示し、10m歩行時間では有意に高値を示した。非フレイル群では、TUGにおいて退院時には入院時と比較し有意に高値を示した。

    【結論】 今回の予定入院患者のフレイルの有症率は28%であり、地域在住高齢者のフレイルの有症率と比較し高い結果を示した。また予定入院となった高齢者においては、フレイルの有無にかかわらず手術の前後で骨格筋量が有意に低下し、さらにフレイルを有する高齢者では、入院期間中に筋力や移動能力が低下することが示唆された。

     これらの結果により、手術予定の高齢者においても入院時からのフレイルのチェックは重要で、フレイルと判定された高齢者には、入院前や入院期間中の運動指導やリハビリテーション介入、栄養療法の必要性が示唆された。

    【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言の趣旨に沿って実施し、所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:17)。

一般演題14[ 測定・評価② ]
  • O-076 測定・評価②
    田中 佑樹, 藤田 寛人, 松井 剛, 岩尾 象二郎
    p. 76-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 転倒とは人が同一平面あるいはより低い平面へ倒れることと定義されており、高齢者の入院が大多数を占める当院では高度の認知機能低下、精神状態の変容によって十分にこれらの精査が行えず転倒に繋がるケースを経験する。そこで今回、森田らによって開発された認知行動アセスメント(Cognitive-Behavioral Assessment:以下、CBA)を使用し転倒との関連性を検証した。CBAとは各種行動内容から全般症状の評価が可能とされ、意識・感情・注意・記憶・判断・病識の6領域を5段階で重症度の判定を行う。よってCBAと転倒の関連性を検証することで、当院入院患者の行動から転倒リスクの把握に繋がると考えた。

    【対象と方法】

    1. 2022年12月1日~31日の当院一般病棟入院患者から後方視的に転倒の有無をカルテ記録から抽出し、転倒、非転倒患者に関わらずCBAを実施した。その際、評価時間は多くの患者が覚醒している12-13時の同一時間に行った。また評価は日常生活場面の観察により行い、十分な情報を得られない際には多職種からの情報を収集し評価を行った。CBA評価は領域別の評価者信頼性は良好であるとされ、今回の評価は中枢疾患に十年以上携わる理学療法士により行った。

    2. 得られたデータを転倒・非転倒群に分け、年齢、男女比、長谷川式認知症スケール(以下、HDSR)、Functional Independence Measure(以下、FIM)CBA、の各項目(意識・感情・注意・記憶・判断・病識)と総合得点を比較する。その際、FIMの移乗・移動項目がすべて1点の患者は除外する。

    3. 検定は対応のないt-検定で行い、使用する統計ソフトはMicrosoft Excel2016を使用した。

    【結果】 評価を行った入院患者は23名(男性8名、女性15名)より、移乗・移動項目がすべて1点だった患者を除外し、対象者は13名(男性6名、女性7名)。整形外科疾患が11名、脳血管疾患が2名。非転倒群8名、転倒群5名の両群で検定を実施。年齢、男女比、HDSR、FIMには有意差を認めなかった。(P>0.05)CBAの意識・感情・注意・記憶・判断の項目、合計点数には有意差を認めなかった。(P>0.05)しかし、CBA項目の病識は転倒群で有意に低下していた。(P<0.05)

    【考察とまとめ】 今回、CBAと転倒の関連性を検証し、転倒群において病識の項目のみが優位に低下していた。井山らは病識とは幅広い意味を持つが、心理臨床に置いては病識を気づきととらえ、問題対処能力を含んだ幅広いとらえかたが一般的であると述べている。病識が低下した患者は危険に対する問題処理が行えずに転倒に繋がったと考える。また病棟では普段病識の低下は評価者により主観的に評価される。そのために転倒対策の必要性は個人の判断にばらつきが生じ連携が困難となる場合もある。しかし客観的に評価が可能なCBAと転倒の関連性が示唆された。今回得られた結果をもとに、CBAを用いて行動から病識の低下を客観的にとらえ、チームで転倒事故の低減につなげていきたい。日々の行動から気づきの変化に着目し、情報を多職種と共有することで日常生活場面での転倒対策を行っていきたい。

     最後に本研究の限界として、小標本の検証のため、標本数次第では結果が変動する可能性がある。また整形外科疾患を中心とした一般病床を対象としたために、求められる機能が異なる病棟においては結果が変動する可能性も考えられた。今後も継続的に調査を行い、役割の異なる病棟でも検証していきたい。

  • O-077 測定・評価②
    塚田 大智, 釜﨑 大志郎, 落石 公平, 末永 拓也, 吉田 禄彦, 吉瀬 陽, 井手 翔太郎, 田中 勝人, 大田尾 浩
    p. 77-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 我々は、要支援高齢者と要介護高齢者を判別する機能がタンデム立位であることを報告した。また、介護認定高齢者のバランス能力を評価する方法として、開眼片脚立ち時間やセミタンデム立位よりもタンデム立位がバランス能力を捉える可能性を示した。このタンデム立位は、入浴動作や歩行などの日常生活活動に関連することから、着目すべき身体機能の一つであろう。そこで本研究の目的は、介護認定を受けた高齢者のフルタンデム立位に関係する要因を検討することとした。本研究によって、介護認定を受けた高齢者のバランス能力を向上させる理学療法プログラム作成の一助になると考える。

    【方法】 本研究は横断研究である。対象は、通所リハビリテーションを利用している介護認定を受けた高齢者とした。除外基準は、歩行に介助が必要な者、欠損値を有した者とした。基本情報として、性別、年齢、介護度を記録し、身長、体重、体格指数(BMI)を測定した。身体機能は、フルタンデム肢位、下肢荷重力、握力、タイムアップアンドゴーテスト(TUG)、通常歩行速度、5回椅子立ち上がりテスト(FTSS)を評価した。その他に、日本語版CHS基準(J-CHS)、日本語版simplified nutritional appetite questionnaire(SNAQ)を評価した。統計処理は、まず各測定項目の相関をPearsonの相関分析で検討した。次に、従属変数をフルタンデム立位、独立変数を各測定項目とした重回帰分析を実施した。model 2では、共変量として年齢と介護度を投入し交絡の調整を図った。なお、重回帰分析の最終モデルで必要なサンプルサイズを効果量(f 2)=0.35、αエラー=0.05, power=0.8、独立変数=8に設定して算出した結果52名であった。

    【結果】 本研究の分析対象者は、必要サンプルサイズを満たす64名(83±7歳、女性59%)であった。相関分析の結果、フルタンデム立位は下肢荷重力(r=0.54)、およびTUG(r=-0.38)、通常歩行速度(r=0.35)と有意な相関があった。次に、従属変数をフルタンデム立位とした重回帰分析を実施した。その結果、共変量で調整した後も、フルタンデム立位には下肢荷重力が関係することが明らかになった(標準化偏回帰係数:0.63, p<0.001)。

    【考察】 脳卒中患者を対象とした先行研究によると、下肢荷重力は下肢筋力を評価する有用な方法であることが報告されている。したがって、介護認定を受けた高齢者のフルタンデム立位には、下肢筋力が関係したと推察する。一方、下肢筋力を評価するFTSSとフルタンデム立位には関係性が認められなかった。散布図を確認すると、本研究の分析対象者は身体機能が低く、FTSSの測定値に床効果が確認された。介護認定高齢者の下肢筋力をFTSSでは十分に捉えられなかったことが原因であると考えられた。

    【結論】 本研究の結果、介護認定高齢者のフルタンデム立位には下肢荷重力が関係することが明らかになった。このことから、介護認定を受けた高齢者は下肢荷重力を評価する必要性が示された。今回は横断研究のため、因果関係には言及できないものの下肢筋力を増強することでフルタンデム立位が延長する可能性が示された。

    【説明と同意、および倫理的配慮】 対象者には、研究の内容と目的を説明し、理解を得たうえで同意を求めた。本研究への参加は自由意志であり、参加を拒否した場合でも不利益にならないことを説明した。本研究は伊藤医院倫理審査委員会の承認(Ito2023001)を得て実施した。

  • O-078 測定・評価②
    富永 章寛, 光武 翼, 坂本 麻衣子
    p. 78-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 毎年、高齢者の約3人に1人が転倒しており、頭部外傷など深刻な結果をもたらしている。そのため、転倒予防を目的とした、歩行評価や姿勢制御機能の評価を行うことが重要であるが、現在用いられている歩行評価は、一方向からの方向転換や、直線路のものが多い。Figure-of-8 Walk Test(F8W)は、一度に直線路と左右両回りの歩行能力の評価が行え、様々な歩行を必要とする日常生活動作に沿った歩行評価である。F8Wは、先行研究から転倒リスクや転倒率に影響すると報告しているが、姿勢制御機能との検証はなされていない。姿勢制御機能の評価は、先行研究よりバランス機能評価尺度であるBalance Evaluation Systems Test(BESTest)により評価が行えると報告している。BESTestは、評価時間の問題から評価項目が短縮した、Brief-BESTestが開発されている。Brief-BESTestは、8つの評価項目があり、この8つの観点からバランス機能を評価している。本研究の目的は、F8Wと姿勢制御機能との関係性を検証し、歩行評価であるF8Wが姿勢制御機能を含めた評価が可能なのか検証することとした。

    【方法】 対象者は、入院患者43名(男性:11名、女性:32名、平均年齢:71.6±14.3、脳血管障害疾患:10名、整形外科疾患:33名)とした。評価項目は、F8Wの所要時間とBrief-BESTest, Mini-Mental State Examination(MMSE)とした。Brief-BESTestは、6つの制御機能(Ⅰ:生体力学制約、Ⅱ:安定限界、Ⅲ:予測的姿勢制御、Ⅳ:反応的姿勢制御、Ⅴ:感覚機能、Ⅵ:歩行安定性)で構成されている。この6つの制御機能を8つの評価項目(B-1からB-8)で評価を行い、それぞれ0から3点で採点する。合計は0から24点であり、点数が高いほどバランス機能が高いことを意味している。除外基準は、MMSE23点未満の者とした。始めに、F8WとBrief-BESTestの各項目との関係を知るために相関係数を算出した。次に、F8WがBrief-BESTestの各項目に、及ぼす影響の程度を検証するため重回帰分析を行った。統計処理は、JMP Pro 17.0.0を用い、有意水準を5%とした。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、対象者の個人情報保護に十分留意し、研究への参加についての文書と口頭による説明を行い、同意書を得た後開始した。また本研究は、佐賀大学倫理委員会の承諾を得ている(承認番号:R4-12)。

    【結果】 F8WとBrief-BESTestの各項目に対し、Pearsonの相関係数を算出した。その結果、生体力学的制約(B-1:r=0.44)、安定限界(B-2:r=0.43)、予測的姿勢制御(B-3:r=0.38, B-4:r=0.53)、反応的姿勢制御(B-5:r=0.41, B-6:r=0.48)、感覚機能(B-7:r=0.12)、歩行安定性(B-8:r=0.60)であった。次に、従属変数をF8Wとし、独立変数をBrief-BESTestの各項目とした重回帰分析を行った所、標準化係数から影響のある項目は、B-7=0.35, B-8=-0.53であった(R2=0.53、全項目VIF=10以下)。

    【考察】 本研究より、中等度の相関関係が認められた項目から判断すると、F8Wは生体力学制約、安定限界、予測的姿勢制御、反応的姿勢制御、歩行安定性と関与することが示された。また、標準化係数から判断すると感覚機能と歩行安定性に影響があることが示された。そのため、F8Wは歩行評価だけでなく、姿勢制御機能を含めた評価が行える歩行評価法であることが示唆された。

  • O-079 測定・評価②
    中田 海聖, 濱崎 寛臣, 前田 徹, 三宮 克彦
    p. 79-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】 下肢骨折等の運動器疾患において荷重量を部分荷重から開始することがある。当院では体重計を使った荷重練習を行った後に、歩行練習へ移行しているが、実際に歩行中の荷重が守れているか確認することはできていない。今回、靴型の下肢荷重計DUPLODEC(株)製そくまる(以下、荷重計)を使用できる機会があり、部分荷重片松葉杖歩行中の荷重量を測定した。今回は3/4部分荷重での片松葉杖歩行を計測し、荷重量を遵守しながらの歩行の特徴を検証することを目的とし、若干の知見を得たので報告する。

    【方法】 既往に神経学的疾患や運動器の変形や疼痛などのない健常成人8名(男性:6名、女性:2名、平均年齢34.1±8.6歳、平均体重63.6±11.0 ㎏)を対象とした。荷重計を利き足(以下、免荷側)に装着し片松葉杖を使用した3/4部分荷重練習・ステップ練習を5分間実施した後、10mの歩行路を2点1点前型交互型で3/4部分荷重片松葉杖歩行を行うように指示した。体幹・下肢のランドマークにマーキングを行い、後方から動画を撮影し、免荷側下肢の立脚期毎に立脚中期の静止画を画像解析ソフトImageJを用いて、前額面上の体幹傾斜角(松葉杖側への傾斜を+、免荷側への傾斜を-で表記)、下肢外転角、松葉杖傾斜角を計測し平均値を算出した。荷重量は免荷側下肢立脚期の最大荷重量とし、計測区間の3/4部分荷重以下の歩数を全歩数で除したものを荷重遵守率とする。今回は荷重遵守率最高値の対象者(以下、対象A)、最低値の対象者(以下、対象B)の歩行時のアライメントを見比べた。

    【結果】 各項目を対象A、対象Bの順に示す。荷重遵守率100%、35.7%、体幹傾斜角6.9°、6.4°下肢外転角16.0°、5.3°、松葉杖傾斜角度6.8°、15.2°であった。

    【考察】 対象Aは下肢外転角が最も大きく身体重心が松葉杖に近く、片松葉杖で荷重を受けることで荷重量を遵守することが可能であった。対象Bは松葉杖傾斜角が最も大きく、体幹傾斜角、下肢外転角が小さいため身体重心が免荷側下肢に近く過荷重となることが多かったと考える。身体重心が松葉杖と免荷側下肢が成す支持基底面内の位置によって免荷側下肢への荷重量が変化することが予測される。柳澤らは、片松葉杖歩行で荷重に影響し得る要素として、体重、杖の側方への距離、歩隔、身長が認められたとしている。今回の検証では先行研究と同様に、下肢外転角、松葉杖傾斜角を調整し松葉杖を把持している上肢で荷重を受け、免荷側下肢の荷重量を遵守した片松葉杖歩行が可能であったと考える。

    【まとめ】 片松葉杖歩行で部分荷重を遵守するには、身体重心を片松葉杖側に移動させる姿勢調整を行うため、正常歩行の姿勢アライメントからは逸脱する。

    【研究の限界、課題】 今回は健常者での計測によるものである。また、サンプル数が少なく統計学的な検証が行えなかった。荷重量を遵守しながら片松葉杖歩行を行うには、歩行様式や筋活動などを検証し、より具体的な指導方法を検討する必要がある。

    【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき、発表に関する説明を行い、同意を得た上で実施した。

  • O-080 測定・評価②
    松尾 侯雅, 野中 裕樹, 藤井 廉, 千手 佑樹, 細川 浩
    p. 80-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 コグニサイズとは、コグニション(認知)とエクササイズ(運動)を組み合わせた造語で、頭で考えるコグニション課題と身体を動かすエクササイズ課題の二重課題を同時に行う運動プログラムである。先行研究において、このコグニサイズは、軽度認知機能障害(MCI)を有する地域在住高齢者の認知機能や身体機能の維持・改善に有用であることが明らかとされている。今回、MCIが疑われた高齢骨折患者に対して、バランス能力および認知機能の向上を目的にコグニサイズを導入したため、その経過を報告する。

    【症例紹介】 症例は80歳代女性で、診断名は第3腰椎圧迫骨折であった。第7病日目の評価にて、疼痛はNRSで2~3と軽度であったものの、Berg Balance Scale(BBS)は29/56点(カットオフ値:45点)、Timed Up and Go test(TUG)は15.3秒(カットオフ値:11秒以上)と、それぞれカットオフ値を下回っていた。認知機能については、禁忌動作の理解や安静度の遵守に困難さを認めるとともに、家族へ入院前の情報を聴取したところ、入院前より作話や同じ内容の話を繰り返し話す場面が見受けられていた。本症例は認知症の診断を受けてはいなかったものの、上述のような事象から我々は、「MCIの存在が日常生活活動に影響を及ぼしているのではないか?」と推測した。そこで、MCIのスクリーニング評価として国際的に広く用いられているJapanese version of Montreal Cognitive Assessment(MoCA-J)による評価を実施した(Fujiwara, 2010)。その結果、15点(カットオフ値:25点)とカットオフ値を下回り、MCIが疑われた(Faga, 2015)。

    【理学療法介入】 一般的な理学療法に、国立長寿医療研究センターが開発したコグニサイズを併用した運動療法を実施した。具体的な実施方法は、①座位で左右交互にステップを8回行い指定した数字で外側にステップをする課題、②座位・立位で20回足踏みをし、指定した数字の倍数の時に手を叩く課題、③しりとりや計算など行いながら歩行をする課題の3課題とした。介入は第15病日目より2週間実施した。

    【結果】 介入前の評価はBBS:32点、TUG:14.7秒、MoCA-J:15点であった。介入1週後はBBS:32→35点、TUG:14.7秒→13.5秒、MoCA-J:15→19点と改善を認め、さらに介入2週後は、BBS:35→39点、TUG:13.5秒→11.8秒、MoCA-J:19→22点と改善を認めた。

    【考察】 バランス能力と認知機能の向上を目的にコグニサイズを導入したところ、“バランス能力の指標であるBBS”と“認知機能の指標であるMoCA-J”ともに改善を認めた。Suzukiらは、MCIを有する地域在住高齢者がコグニサイズを実施することで、脳全体および海馬の萎縮の抑制とともに全般的な認知機能の低下を予防し得ることを報告している(Suzuki, 2013)。本症例は、介入当初こそエクササイズ内容に戸惑いが生じていたが、徐々にその内容の理解が進んだことで、リハビリ以外の時間でもコグニサイズを自主訓練として積極的に実施する様子が見受けられた。本症例の一連の経過について、コグニサイズによる認知的刺激を付加しながらの身体活動の確保が、バランス能力および認知機能の改善に寄与した要因の一つである可能性を示唆した。

  • O-081 測定・評価②
    江頭 晃, 板木 雅俊, 下江 甲作, 新田 博之, 西中川 剛
    p. 81-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 転倒と身体機能との関連は多くの調査で示され、様々な評価の有用性が明らかになっている。臨床では対象者特性に応じた評価が求められ、なかでもデイケア・デイサービスの評価は、時間的制約から有用性や妥当性を考慮した効率的な評価の重要性が増している。本研究では、地域高齢者を対象に複数のアウトカムを設けて、転倒予測に関する評価バッテリーを分析し、転倒予測における評価の有用性を検討した。

    【方法】 デイケア1事業所、デイサービス1事業所にて調査を実施し、2022年6月から2022年12月までの期間に、運動機能評価が可能な80例の利用者を調査対象とした。対象は過去1年間の転倒歴を調査し、転倒歴があった群(転倒群)と転倒歴がなかった群(転倒無し群)に群分けした。評価項目は、問診にて疼痛評価・J-CHS・SARC-Fを調査し、身体・運動機能評価として、握力、膝伸展筋力、HDS-R、TUG、快適歩行速度、努力歩行速度、SPPB、IPSを測定した。IPSの測定はバランス訓練装置(BALANCECORDER BW-6000)を採用し、体組成の測定は体組成分析装置(In-body470)を用いた。統計解析は、転倒の有無と各評価項目との比較をマンホイットニー検定およびカイ二乗検定にて解析し、ROC曲線を用いて有用性を検討した。本研究は、調査対象者に研究の趣旨・研究方法・個人情報の保護等について文書と口頭で説明し、書面での同意を得た。

    【結果】 全対象者の年齢は79.2±8.7歳、BIMは23.0±3.3であった。転倒群は23例(28%)であった。また、TUGは転倒群において15.6±7.3秒、転倒無し群において11.9±8.0秒、6mの快適歩行速度は転倒群で9.0±3.3秒、転倒無し群で6.8±4.0秒、努力歩行速度は転倒群で7.4±2.8秒、転倒無し群で5.4±2.7秒、SPPBは転倒群で8.5±2.7点、転倒無し群で10.3±2.2点、IPSは転倒群で1.0±0.6、転倒無し群で1.3±0.5、膝伸展筋力は転倒群で16.8±8.1 ㎏、転倒無し群で22.3±11.6 ㎏、握力は転倒群で23.3±8.7 ㎏、転倒無し群で28.9±13.0 ㎏, SARC-Fは転倒群で3.8±2.6点、転倒無し群で1.5±2.0点、J-CHSは転倒群で2.0±1.2点、転倒無し群で1.2±1.1点、HDS-Rは転倒群で24.3±5.8点、転倒無し群で26.5±4.0であった。転倒の有無において、快適歩行速度、努力歩行速度、TUG, SPPB, IPS, J-CHSに有意差が認められ、転倒との関連性が示唆された。ROC曲線で検討すると、努力歩行速度(AUC=0.72)、SPPB(AUC=0.69)、TUG(AUC=0.69)に有用性が示唆された。

    【考察】 TUGと歩行速度は、理学療法ガイドラインにおいて高齢者の運動機能を示す指標として推奨されている。これらの指標には、機能状態の評価としての信頼性や妥当性が示され、予測の妥当性が認められている。また、村田らは134名の虚弱高齢者を調査し、TUGと歩行速度・下肢筋力との関連を示している。SPPBは牧迫らが高齢者4,328名を対象に算出方法の修正を試みた研究で、日常生活が自立している高齢者には天井効果を生じやすいが、身体機能低下がみられる者を対象とした場合には適していると報告している。よって、本研究は先行研究を裏付けており、様々な歩行と関連性がある評価をもってしても実際に歩行パフォーマンスを優先して評価することが重要であることが示された。

    【まとめ】 本研究にて地域在住高齢者を対象に、転倒の有無と身体・運動機能評価との関連性を検討した。転倒の有無とTUG、努力歩行速度、SPPBの評価バッテリーに関連性が示唆され、転倒予測における評価バッテリーとして有用性が示唆された。今後は、評価の有用性を高齢者の転倒予防に活用し、予防理学療法に基づき評価効果を検討してく。

一般演題15[ 呼吸・循環・代謝② ]
  • O-082 呼吸・循環・代謝②
    末永 拓也, 釜﨑 大志郎, 宮副 孝茂, 松本 雄次, 髙塚 梨沙, 久保川 成美, 峰松 宏弥, 林 真一郎, 大田尾 浩
    p. 82-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 呼吸サルコペニアは、日常生活動作や生活の質に悪影響を及ぼすことが示されていることから、予防および改善が必要な病態である。我々は、先行研究を基に、呼吸サルコペニアにも栄養状態が関係しているとの仮説を立てた。本研究の目的は、呼吸サルコペニアの診断基準に含まれている吸気筋力(maximal inspiratory pressure:MIP)と簡易栄養状態評価表-短縮版(mini nutritional assessment short form:MNA-SF)の関係を検証することとした。本研究は、COPD患者の呼吸サルコペニアに対する理学療法の一助になると考える。

    【方法】 本研究は、多施設共同の横断研究である。対象は、病状安定期のCOPD患者とした。除外基準は、重篤な併存疾患を有する者、主要測定項目に欠損値がある者とした。栄養状態は、MNA-SFを評価した。呼吸機能は肺活量、努力性肺活量、1秒量、%1秒量、1秒率、MIP、呼気筋力、global initiative for chronic obstructive lung disease(GOLDの病期分類)を評価した。息切れの評価としてmodified medical research council dyspnea scale(mMRC)息切れスケール、身体機能評価として、握力、膝伸展筋力を評価した。統計解析は、各測定項目の関連をPearsonの相関分析で検討した。次に、従属変数をMIP、独立変数をMNA-SFとした回帰分析を行った。model2では、呼吸機能を、model3では人口動態変数を共変量とした重回帰分析を行った。

    【結果】 対象は、COPD患者90名(平均年齢75±9歳、男性84%)であった。対象者のMIPは45.6±21.2 ㎝H2O, MNA-SFは11±2点であった。MIPとr=0.4以上の有意な相関を認めたのは、体重、MEP、握力、膝伸展筋力であった。重回帰分析で共変量を投入してもMIPとMNA-SFの関係性は堅持された(標準化係数β=0.30, p=0.007)。

    【考察】 COPD患者は、肺過膨張に伴い、横隔膜が平低化する。この状態が慢性的に続くことで、横隔膜をはじめとする吸気筋の筋長が短縮し、長さ-張力関係が破綻する。これら一連の機序によってCOPD患者は吸気筋力が低下する。また、COPD患者は気道抵抗の増大や吸気筋の換気効率の低下からエネルギー消費量が増大していることが報告されている。これらのことから、慢性的な横隔膜の平低化に伴う吸気筋力の低下、吸気筋仕事量の増大は、エネルギー消費量の増大を招き、COPD患者の低栄養を招いている一因と推察する。本研究の結果から、呼吸サルコペニアの判定基準に含まれる吸気筋力と栄養状態との関係が明らかとなった。吸気筋力の評価を行い、低栄養にならないよう指導を行うことで、呼吸サルコペニアを予防する理学療法の一助となる可能性が示された。

    【結論】 COPD患者の吸気筋力には栄養状態が関係することが明らかになった。呼吸サルコペニアに陥らないよう、呼吸筋力の評価のみではなく、栄養状態へのアプローチも行う必要性が示唆された。

    【倫理的配慮】 対象者には、本研究の内容を説明し、同意を得たうえで研究への参加を求めた。研究への参加は自由意志であり、対象者にならなくても不利益にならないこと、同意した後でも同意を撤回できることを説明した。本研究は当院の倫理審査員会の承認を得て実施した(承認番号:KOGA2023002)。

  • O-083 呼吸・循環・代謝②
    片岡 高志, 児玉 史弘, 坪内 優太, 岩崎 達也
    p. 83-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 高頻度胸壁振動法(High Frequency Chest Wall Oscillation:HFCWO)は、胸郭に振動を与え、肺・気道内の分泌物を移動させることで、気道クリアランスの獲得を目的としている。ほかにも気道クリアランスの獲得を目的とした手段は、積極的な離床や腹臥位療法、セラピストが実施する呼吸介助による排痰法などが存在する。しかしながら、呼吸介助による排痰法は、手技や技術の違いにより効果に個人差がある。そこで今回、人工呼吸器関連肺炎に罹患した患者に対してHFCWOおよび腹臥位療法を併用した症例を経験したので報告する。

    【症例紹介】 50代男性、BMI:23.7 ㎏/㎝2。クライミング中に5mの高さから転落し受傷。骨盤骨折、左大腿骨転子部骨折と診断される。既往歴なし。受傷前の日常生活動作は全て自立。

    【経過】 当院搬送後、経口挿管管理となり骨盤骨折に対し創外固定術、翌日に左大腿骨転子部骨折に対し、観血的骨接合術が施行された。術直後より酸素化の増悪を認め、気管支内視鏡を用いて粘稠痰が吸引された。入院4日目に無気肺また人工呼吸器関連肺炎と診断された。入院10日目に創外固定術後の骨盤骨折に対し観血的骨接合術が行われ、術後抜管された。翌日の理学療法介入時、喀痰は創部疼痛や粘稠痰により困難であった。酸素マスク(5L/分)装着下で離床した際には、SpO2の低下や修正Borg Scale5程度の呼吸困難感を示し、また理学療法介入時の胸部X-ray・CT上の異常陰影、酸素化の増悪、肺聴診では両肺背側に呼気時の気管支呼吸音化を認めた。

    【理学療法プログラム】 入院7日目より理学療法開始、骨盤創外固定下にて四肢可動域訓練から実施した。入院11日目に離床、腹臥位療法を開始した。入院14日目以降、腹臥位でHFCWO(5分間/日)を実施した。

    【結果】 HFCWOを用いたことで、入院14日目以降の喀痰を容易化することができた。さらには入院18日目の胸部X-ray上の異常陰影は改善を認め、離床時の酸素化の改善や修正Borg Scale0~2の呼吸困難感を示した。また肺聴診による副雑音は認めなかった。

    【考察および結論】 今回、骨盤の創外固定が長期化したことで、人工呼吸器関連肺炎に対し、体位交換を行うことができず、下肺野背側の病変、増悪を引き起こした。腹臥位療法は、粘稠痰や創部疼痛による咳嗽力の低下により、効果はあまり示さなかった。先行研究では、HFCWOは従来行われてきた徒手での呼吸理学療法と同様の治療効果が得られたとされる。また、痰の吸引回数が増加したことや、胸部X-rayの改善を認めた報告もある。ゆえに、粘稠痰に対してHFCWOを併用したことで喀痰が可能になったと考える。HFCWOは手技や技術を問わず行うことが可能である。HFCWOは今後の急性期呼吸理学療法においての治療の選択肢として有用であると考えられる。

    【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき発表に関する内容説明を実施し、同意を得た。

  • O-084 呼吸・循環・代謝②
    島袋 陽菜, 高良 光, 當山 大樹, 比嘉 宣光
    p. 84-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 ARDS診療ガイドライン2021では、ARDS患者に対する腹臥位療法は、重度の低酸素血症に対する治療法の1つとされている。また、腹臥位療法の報告は多数見受けられるが、経口挿管患者における覚醒下腹臥位療法(awake prone positioning:以下、APP)、また短時間の実施に関する報告は少ない。今回、高度側弯症の既往がある慢性Ⅱ型呼吸不全患者が急性呼吸不全を呈し、APPを実施した。長時間のAPPが困難であったため短時間での対応となったが、低酸素血症の改善に有効であった可能性があり、考察を交えて報告する。

    【症例紹介】 症例は60代女性、入院前ADL自立で特に問題はなかった。思春期突発性側弯症のため10代でHarrington rod固定術を受け、半年後にrodを抜去する予定であったが、金銭的な理由から手術を受けられなかった。固定術後は呼吸器症状なく経過していたが、入院約1年前から呼吸困難が出現し、プレートの歪み、左下肢痺れ増悪、呼吸困難を主訴に受診。SpO2 70~75%と低値であったため入院となった。感染症合併も疑われたため、第1病日より抗菌薬開始となった。

    【経過】 第1病日よりNPPV開始され、第4病日に理学療法開始となった。呼吸状態の悪化が予測されたため、第5病日にICU入室。ICU入室時はP/F比244であったが、第12病日にP/F比75と悪化したため、挿管・人工呼吸器管理となった。P/F比改善せず、第16病日に主治医から腹臥位療法の指示があり、腹臥位療法開始となった。なお、本症例は人工呼吸器管理後も鎮静薬は使用しておらず主治医方針でAPPの対応となった。覚醒下であったため、本人からの訴えを参考にポジショニングを行い、短時間(2~5.5時間/day)のAPPを1週間実施した。APP以外の時間帯については、前傾側臥位やヘッドアップを実施した。第20病日にP/F比104、第23病日にP/F比222と改善を認め、APP終了となった。第23病日以降は、端座位や立位など離床を開始した。第34病日に気管切開術施行、第35病日ICU退室となった。その後、人工呼吸器の終日離脱は困難であったが、第83病日より理学療法介入時のみ人工鼻へ変更し、歩行練習を開始した。第124病日に有料老人ホームへ退院となった。

    【考察】 症例報告レベルでは、腹臥位療法開始2時間でP/F比の改善を認めたとの報告はあるが、報告数は限られている。本症例は、短時間のAPPを1週間実施し、P/F比の改善を認めた。そのため短時間の腹臥位療法も有効である可能性が示唆された。なお、有効性の解釈に対する限界点としては、腹臥位療法以外の時間帯に前傾側臥位などのポジショニングを積極的に行ったことや、抗菌薬が症状改善に寄与した可能性も考えられた。

    【結論】 短時間のAPPは、重症呼吸不全患者の酸素化を改善する可能性が示唆された。

  • O-085 呼吸・循環・代謝②
    原口 玲未, 黒岩 剛成, 山元 竜二, 高野 雅弘, 岡元 昌樹
    p. 85-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)とは将来の意思決定の低下に備えて、今後の治療・療養について患者・家族とあらかじめ話し合うプロセスであり、早期からの反復した介入が望ましい。しかし急性期病院では救命に焦点をあてた医療の提供が主となる場合が多い。さらに、重症患者ではACPのタイミングが残されていないことや、理学療法士の参加が困難なことが多い。今回、胃がんに対する外来化学療法中に重症薬剤性間質性肺炎を発症した患者を担当した。急激な状況変化で患者、家族ともに不安を抱えていたため、PT介入後早期よりACPを実施し、自宅退院を実現できた取り組みを報告する。

    【現病歴】 X-1年2月胃がんと診断され、空腸バイパス術施行。4月より化学療法開始。X年11月末に発熱、咳嗽、炎症反応高値にて精査し薬剤性間質性肺炎の診断後、入院となった。

    【症例紹介】 60歳代、男性、妻と子2人の4人暮らし。職業は警備員。

    【初回評価】 X-P、CT:両肺すりガラス様陰影、びまん性に肺底部、胸膜直下優位にすりガラス陰影あり。聴診:両肺Fine crackles、酸素量:リザーバーマスク6L/分より開始したが、第6病日よりネーザルハイフロー(NHF)40L/分90%、初回The Nagasaki University Respiratory ADL questionnaire(NRADL):8/100点、修正MRCスケール:3。

    【理学療法】 第7~18病日、救命救急センターで早期離床チームが介入。血液ガス:pO2:48、pCO2:30、HCO3-:20.9、KL6:779。ベッド上で更衣動作でSpO280%前後の急激な低下あり、ベッド上筋力トレーニングやEMSを実施。本人、家族とのICにてベスト・サポーティブ・ケア(BSC)の方針となった。第19病日、一般病棟転棟後にPT担当し介入開始。入院~退院までの取り組みを4つの場面に分け理学療法士の視点で援助した。

    1. 廃用症候群の予防として病棟での活動量向上を目的に、NHF管理下で安全な移動方法をNsと共有し順次ADL拡大を支援した。そのために、24時間モニタリングや毎日の日記(酸素量や動作時のSpO2数値、歩数など)を患者へ記載するように依頼した。

    2. 早期よりカンファレンスにてステロイドやエンドキサンパルスなどの治療方針や画像・血液検査の変化などを情報共有を繰り返した。また、病状に合わせてリハビリ評価を頻回に行った。評価結果を患者にフィードバッグし多職種にも情報共有したことで、第33病日、NHF離脱し転院の方針から患者の希望である自宅への退院が現実的となり、チームで自宅に向けて支援を開始した。リハビリは酸素量の調整や運動内容を自宅に即した内容に変更した。

    3. 第34病日、NRADL:60/100点、6分間歩行試験(6MWT):酸素吸入:2L/分、歩行距離315m、最低SpO287%、修正Borgスケール6と改善を認めたが、家族より在宅酸素療法(HOT)への抵抗や介護の不安の訴えがあった。そのため第42病日、家族が安心してサポートできるよう、ICを行い、また面会の度情報提供した。

    4. 第44病日、自宅退院。その後実際の生活での問題点、HOTの遠隔モニタリング状況(HOT見守り番web)より運動のアドバイスを行った。

    【最終評価】 修正MRCスケール:0、6MWT;酸素吸入:2L/分(同調モード)、歩行距離405m、最低SpO289%、修正Borgスケール4。

    【考察】 薬剤性間質性肺炎の急性増悪にてACPを考える機会を得た。予後予測が困難である事、時間や人的資源が不足し情報の共有化や体制がまだ不十分なことから、サポートの難しさを実感した。患者や家族と身近に接する療法士は患者の思いのかけらを拾い、意見交換しやすい環境作り、コミュニケーション力が必要と感じた。また療法士のACP参加は急性期病院から自宅退院の実現において有効な支援となり得る。

  • O-086 呼吸・循環・代謝②
    阪口 明
    p. 86-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【研究背景】 肥満は冠動脈・代謝性疾患や腎機能障害・整形外科疾患を合併しやすく死亡リスクを高めることが知られており、嫌気性代謝閾値(以下、AT)レベルの有酸素運動の実践でリスク減少効果が報告されている。当院では閉塞性睡眠時無呼吸・肥満低換気症候群(以下、OSAS・OHS)患者を対象に運動指導教育入院を行っており、教育入院前評価や外来コントロール患者に心肺運動負荷試験(以下、CPX)を実施し、ATレベルの運動指導を実践している。

     しかし、過去にBMI30 ㎏/m2以上に該当し初回の運動指導を経験した患者53名の最高酸素摂取量は、基準値比(以下、%peakvo2)で平均値51.22±12.54%、在宅でATレベルの運動が息切れ等で継続困難であった内21名の%peakvo2は平均値39±6.57%であった。

     以上により、対象患者のAT処方における運動指導介入効果や運動継続に関連する要因の調査が必要と判断した。

    【目的】 教育入院運動指導介入群と外来コントロール群の2群間でATレベルの運動療法の効果を%peakvo2で比較し、%peakvo2と関連因子の検討により肥満層の特性を明確にすること。

    【対象】 2017年1月~2022年12月迄にCPX実施経験と運動指導経験のあるBMI30 ㎏/m2以上のOSAS・OHS患者53名。

    【方法】 教育入院の監視下運動療法では自転車エルゴメーターの有酸素運動を主運動に、基準負荷量はATレベル心拍数で循環動態によりセラピストの漸増方式とした。外来コントロール群は運動指導をパンフレットや自己管理手帳を活用し、非監視下(在宅)運動療法で基準負荷量はATレベル心拍数をスマートウォッチや自覚的運動強度でBorg scale11から13相当の自覚症状に合わせ自己管理方式とした。運動の種類や頻度・時間は患者の生活状況に合わせ統一せず、ウォーキング運動ではAT時心拍数に10拍程度加算をした。

     統計学的解析としては、運動指導の効果検証では対象患者層のADLに必要な運動耐容能のカットオフ値を示した研究がないことから、在宅でATレベルの運動が息切れ等で継続困難であった対象21名の%peakvo2平均値39±6.57%の四分位75パーセンタイル値の%peakvo2 45%をベースラインとし、%peakvo2>45%をアウトカムに教育入院の運動指導介入群と外来コントロール群2群間のアウトカムの比較をχ2適合度検定を用い検討した。

     更に運動耐容能の関連因子では、アウトカムに%peakvo2>45%、要因は年齢、性別、BMI、社会交流の有無、監視下運動指導介入の有無を無作為にstepwise法により投入したロジスティック回帰分析を用い検討した。尚、統計学的有意水準は5%とした。

    【結果】 解析対象は教育入院による運動指導介入群14名(年齢54.0±13.92歳、男性9名、女性5名)、外来コントロール群39名(年齢53.33±12.16歳、男性27名、女性12名)であった。尚、2群間の基本属性に有意差は認めなかった。

     運動指導の効果では、アウトカムを超えた割合は教育入院の監視下運動指導介入群で78%(11/14名)、外来コントロール群で59%(23/39名)であり、χ2適合度検定により監視下運動指導介入群で有意であった(χ2=7.948、P=0.0048)。

     運動耐容能の関連因子は、回帰分析よりアウトカムの%peakvo2>45%は、監視下運動指導介入の有無(P=0.0035、オッズ比6.84、95%信頼区間1.14-41.03)と社会交流の有無(P=0.001、オッズ比34.04、95%信頼区間5.33-217.08)で影響の強さが示唆された。

    【結論】 肥満患者層の運動指導の介入では、監視下でセラピストの漸増方式によるATレベルの運動療法が安全且つ効果的に運動耐容能を向上できる可能性が示唆された。今回対象とした患者層の運動耐容能は監視下運動指導経験の有無と社会交流の有無で影響している可能性が示唆された。

  • O-087 呼吸・循環・代謝②
    猿渡 聡, 古河 琢也, 堀江 淳, 渡邊 尚, 林 真一郎, 阿波 邦彦
    p. 87-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)患者のリハビリテーション効果については長年検討されており、リハビリテーション開始から短期間での効果はエビデンスが確立されているが、長期になると効果が減少するという報告が散見される。そこで本研究は、3年間の呼吸リハビリテーション効果を検証する目的でCOPD患者を前期高齢者と後期高齢者に分け、縦断的にパラメータの変化を検討した。

    【方法】 対象は呼吸リハビリテーションを3年間継続した安定期外来COPD患者62名(平均年齢75.6±6.0歳、男性59名、平均%FEV1.0 61.7±22.2%)で、呼吸リハビリテーション開始時に65歳~74歳であった患者を前期高齢者群、75歳以上であった患者を後期高齢者群とした。測定時期は初期、1年、2年、3年とした。検討項目は呼吸機能(%FVC、%FEV1.0、FEV1.0%)、modified Medical Research Council(以下、mMRC)息切れスケール、身体機能検査として最大呼気口腔内圧(以下、MEP)、最大吸気口腔内圧(以下、MIP)、握力、膝伸展筋力、6分間歩行距離テスト(以下、6MWD)を測定し、ADL評価は長崎大学呼吸疾患ADL質問票(以下、NRADL)、QOL評価はCOPD Assessment Test(以下、CAT)、精神状態の評価はHospital Anxiety and Depression Scale(以下、HADS)不安/うつ、活動範囲の評価はLife-Space Assessment(以下、LSA)を測定した。統計解析方法は、2群間の初期から3年時までの比較を分割プロットデザインによる分散分析で測定時期の主効果と交互作用を分析し、事後検定はボンフェローニ検定を用いて分析した。なお、帰無仮説の棄却域は有意水準5%未満とし、解析にはSPSSver26.0を用いた。

    【結果】 前期高齢者群は29名、後期高齢者群は33名であった。測定時期の主効果が認められた項目は、%FVC(p<0.05)、FEV1.0%(p<0.05)、mMRC(p<0.001)、MEP(p<0.01)、膝伸展筋力(p<0.01)、6MWD(p<0.001)、HADSうつ(p<0.01)、LSA(p<0.05)であった。%FVCは初期から3年後にかけて有意に低下、FEV1.0%は初期から3年後にかけて有意に改善、HADSうつは1年後から3年後にかけて有意に悪化、MEPと6MWDは初期から1年後にかけて有意に改善し1年後から3年後にかけて有意に低下、LSAは初期から1年後にかけて有意に改善し2年後から3年後にかけて有意に低下、mMRCと膝伸展筋力は初期から1年後にかけて有意に改善しその後維持していた。交互作用が認められた項目は握力(p<0.05)であり、前期高齢者群は改善傾向、後期高齢者群は低下傾向を認めた。

    【結論】 COPD患者に対する長期呼吸リハビリテーションは前期高齢者や後期高齢者に関わらず効果的であり、膝伸展筋力やmMRC息切れスケールの改善を長期的に維持させる可能性が示唆された。呼気筋力や全身持久力、活動範囲は初期から1年後の改善は認めるが、その後効果が維持できず低下傾向となる可能性が示唆された。また、FVCや精神状態は長期的に経過するほど悪化する傾向が認められた。一方、握力のみ後期高齢者群で低下傾向を示すことが明らかとなった。後期高齢者の握力低下が著しいことは報告されており、本研究も同様に低下する傾向がみてとれた。よって、握力低下が生じやすことを考慮したプログラム立案が必要である。

    【倫理的配慮・説明と同意】 倫理的配慮はヘルシンキ宣言に基づき、対象患者に不利益とならないよう使用データを匿名化保管し、個人情報保護に努めるとともに、情報の漏洩防止を徹底した。また、本研究への参加は自由意思であり不参加でも不利益にならないことや、一度同意した場合であっても同意を撤回できることを説明し、評価結果の使用について同意を得た。

一般演題16[ 地域リハビリテーション① ]
  • O-088 地域リハビリテーション①
    西田 透
    p. 88-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 長期臥床状態にて廃用が進行し、座位や立位をとれなくなると活動範囲は著しく狭小化し、個人の自由は極めて制限されてしまう。セラピストとして関わる中で多職種と連携し、患者個人の想いを尊重し実現できた事例を報告する。

    【事例紹介】 70歳代男性 診断名:慢性Ⅱ型呼吸不全 既往:肺癌、肺切除歴あり、シェーグレン症候群

     以前はマラソンや登山、海外旅行を趣味とされ自ら庭の木々を剪定し、様々な花を植え、自宅前の道路沿いに紫陽花を植えたり梅の木を400本植樹したりとガーデニングに強い思い入れがあった。

     X-3年COPDにて入院、12月に退院後訪問リハビリ介入開始。

     他、診療・看護・歯科と訪問サービスを導入し、自宅療養中に悪化と寛解を繰り返し運動機能は徐々にレベルダウンされる。

     X-2年入退院を繰り返し、10月BIPAP装着管理のため入院。退院後はHOTにて酸素3L流入しつつNIPネーザルS/Tモードで常時呼吸管理を行う。

     X-1年末、歩行時強い息切れ、疲労を伴うようになり、訪問入浴を導入。翌年以降ベッド上から動かれなくなり、食欲著しく低下し抑うつ症状も見られ、急速にフレイルが進行。主治医からはX年のGWまでもつかどうかとまで言われていた。そして本人から丹精込めて作った庭や紫陽花、梅林を近くで見たいという外の世界への想いが聴き取られるようになった。

    【経過】 屋外散策を実行するにあたり、まず担当ケアマネージャー(以下、CM)に相談した。そして主治医に計画の説明と許可をもらい、担当訪問看護師に内科的側面からの屋外散策の可否を話し合った。また屋外散策用に車椅子の試用を福祉用具業者に依頼し、本人に試乗してもらった。加えて長時間の座位に耐えうるか訪問時間内に耐久性テストを実施した。本人宅にて担当者会議を行い当日の各自の立ち回り、注意点、屋内段差の移送方法を車椅子用いて実演しリハーサルを行った。そしてX+1年5月の暖かな日に決行となった。

    【結果】 屋外散策は本人、家族3名(妻・娘・娘婿)、PT・OT・Ns・CM・福祉用具業者各1名ずつの計9名で実行した。車椅子はリクライニング式でバックレストとレッグレストが連動する軽量化タイプを選択。車椅子への移乗はPTが全介助で行い、ネーザルマスクを外しボンベ式のHOTへ付け替えた。玄関を出て庭の木々や花々を眺め、梅の収穫作業に来ていた知人達と会話を楽しまれ、自宅前道路を散歩しながら紫陽花や梅林の様子を眺めて回った。その間Nsが定期的に本人の状態確認とバイタルチェックを行いながら見守った。自宅ベッドに戻ると、「景色が色々変わっていたが楽しかった。ありがとう」という言葉を頂いた。後日庭の草木の除草・剪定を業者に依頼され、訪問中に起立運動を希望、臥位での自主訓練に熱心に取り組まれるなど運動意欲の向上見られ、年末にかけては夜に好きだったお酒を嗜まれるなど様々な面で意識の変化が見られた。

    【考察】 平成27年3月にまとめられた「高齢者の地域における新たなリハビリテーションの在り方検討会報告書」によると、地域リハビリテーションの課題として「訪問リハビリや通所リハビリなどの居宅サービスが一体的・総合的に提供できていない。また、医療と介護の連携や介護保険の中での各サービス間や、専門職種間の連携が不十分である。」と挙げられている。本症例においては多職種間での連携によって本人の願いを実現でき、様々なプラス効果を生むことが出来たと考え、その重要性を再確認する事例となった。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本発表を行うにあたり、ヘルシンキ宣言に則り本人及び家族に十分に説明を行ったうえで同意を得ている。

  • O-089 地域リハビリテーション①
    岡田 沙綾香
    p. 89-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 訪問リハビリテーション(以下、訪問リハビリ)においては利用者の在宅生活を支えるために生活機能に焦点を当て多職種連携が必要であるとされている。利用者の中には、閉じこもり傾向の方もおり生活が狭小化しているケースも少なくない。閉じこもりをもたらす要因としては、身体的、心理的、社会・環境の3要因が挙げられるといわれている。今回、閉じこもり傾向であった利用者が在宅から施設へ生活環境が変わったことにより訪問リハビリのアプローチ方法の変更や多職種連携を行ったことで他者との交流も増え、デイサービスの利用までに至った症例を経験したので報告する。

    【症例紹介】 頚椎症性脊椎症の80歳代女性。既往歴に両変形性股関節症、頚部・腰部脊柱管狭窄症がある。元々アパートの2階に独居で生活されており、食事の準備や入浴などは近所に住む家族(娘)の支援を受けていた。屋内は歩行器歩行自立レベルであり、ADLはB. I:80点、FIM(運動:66点/認知:33点)。性格は、こだわりが強く家族以外との交流も望まれなかった。外出は通院時のみで閉じこもり傾向にあった。

    【経過】

    第1期(訪問開始):Ⅹ年10月に担当としての訪問リハビリが開始となった。在宅環境は、物が多くスペースの確保が困難で段差も多かった。まずは、生活動線上での限られた範囲での安全な移動の獲得を合意目標とした。しかし、Y年1月に夜間トイレに行こうとした際に転倒し入院となった。この頃から施設の話も出ていたが、本人は在宅生活を強く希望されたため内服管理や入浴介助など娘様の介護負担軽減を目的に訪問看護、訪問介護の導入を行い3月に在宅復帰となった。在宅での動作確認や環境調整など行ったが、住み慣れた環境という事もあり本人のこだわりも強く動作指導を行うもなかなか定着が図れず、ベッドサイドやトイレ周囲での転倒が多くみられていた。その後も転倒を繰り返され4月に再度入院となった。家族の介護負担感の増加により6月に施設入居となった。

    第2期(施設入居後):入居後しばらくは新しい環境や施設スタッフに慣れず、自室に閉じこもることがあった。しかし、入居前より介入していた訪問リハビリは受け入れがよく、本人の想いや要望を聴取することができ、訪問直後に施設スタッフへ報告し早期に解決方法を検討することができた。また、検討した内容をケアマネージャーや福祉用具業者へ情報共有することで改善を図った。生活環境が変わったことで食堂まで歩行することや通所リハビリに行くことなど自室から外に出るきっかけも作れるようになり、それが合意目標となった。

    第3期(活動):自室内は歩行器歩行自立、訓練中は連続10m程度の歩行器歩行まで可能、自室外は車椅子介助で移動している。ADLはB. I:70点、FIM(運動:48点/認知:31点)、転倒はみられていない。現在は、施設の環境やスタッフにも慣れ食事は自室から食堂へ車椅子介助にて移動し他の入居者と一緒に摂取するようになった。Z年1月よりデイサービスの利用も開始となった。

    【考察】 本症例は他者との交流がなく閉じこもり傾向であり、在宅での度重なる転倒や新しい環境への受け入れに時間を要し難渋した。新しい環境へ移行し、訪問リハビリで本人や多職種と関わることにより食堂での食事や通所リハビリに行くなど閉じこもりが改善された。今回、生活環境が在宅から施設へ変更となると一見ネガティブな印象を受けるが、生活環境の変更により外出を視野に入れた目標設定の立案や迅速に多職種連携を図ることができ、閉じこもりの改善が図れたと考えられる。

  • O-090 地域リハビリテーション①
    藤本 龍二, 田中 誠, 嶋村 法人, 松下 洋祐
    p. 90-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 加齢に伴う腎機能低下や生活習慣により高齢者では慢性腎臓病(以下、CKD)Stage3~5のCKD患者の占める割合が増加する。重症化を予防する事は健康寿命を延伸しさらには医療費の減少をもたす。腎臓リハビリテーションは各専門職のチームによる定期的な生活指導や食事指導を含む診療連携が有効であると考えられている。今回CKD分類stage G3に該当する超高齢の訪問リハビリ利用者に対し、訪問リハビリテーションを含む包括的なサポートを行い良好な身体機能を維持している症例を経験したので報告する。

    【症例紹介】 性別:女性 年齢:90歳代

    身長:148 ㎝ 体重:42 ㎏ BMI:19.17

    BI:90/100 FIM:107/126 握力Rt/Lt:6.8 ㎏/13.8 ㎏ 5m歩行:7.2秒 TUG:15.8秒

    Cr:0.93 BUN:15.2 eGFR:42.7

    基礎疾患:CKD 高血圧症 慢性心不全 持続性心房細動 狭心症

    介護保険:要支援2

    生活歴:団地一人暮らし

    趣味:編み物 性格 社交的な性格で友人も多い

    【経過】 2021年から現在に至るまで5回の入院歴あり。入院前よりデイサービスを週2回利用。2回目の退院後、訪問リハビリテーション開始。2022年6月に住宅型有料老人ホーム入所。同時期より訪問診療開始。

    【考察】 CKD悪化に関わる因子にタンパク質過剰摂取や食塩の過剰摂取、高血圧症などがありQOLや生命予後悪化の改善には栄養面での配慮が重要と考えられている。症例は2021年から2023年にかけ5回の入院歴があり入院毎に管理栄養士から栄養指導の機会があった。住宅型有料老人ホーム入所後は食事管理が開始、さらに栄養面でのサポートが強くなっている。加えて入院時リハビリや訪問リハビリ、訪問診療でも栄養管理についての指摘を受け続けた結果、Cr・BUN・eGFRに著名な変化なく腎機能の維持に繋がった。介護保険の区分変更に伴い症例は週3回だった運動機会が区分変更に伴い週4回へ増加。運動機会増加をきっかけにケアマネージャーを通じデイサービススタッフと運動プログラムに対し連携を図れたことは身体機能改善に繋がったと考える(握力・5m歩行・TUG・FIM改善)。入退院の繰り返しや施設入所は環境変化が伴うことによる精神的落ち込みや意欲低下に繋がることがあるが入院時は顔見知りのスタッフ、施設入所時は訪問診療・リハビリスタッフとの関わりが継続していたことで環境変化に対応できていた。精神的落ち込み・意欲低下することなく経過したことは生活動作量の確保に繋がりADL維持の要因になったと考える。

    【まとめ】 超高齢の重複障害を有する症例に対しても適度な運動の継続に加え包括的なサポートを行うことで身体機能及びADLを維持することが可能であると考えられた。

  • O-091 地域リハビリテーション①
    木須 達哉, 松下 武矢, 永田 春輔, 杉永 翔吾, 岩﨑 あかね, 栗原 幸子, 西岡 心大
    p. 91-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 急性期・回復期の入院高齢者には低栄養が多く認められ、低栄養は機能障害や生命予後不良と関連することが先行研究で報告されている。しかし、訪問リハビリテーション(以下、リハ)利用者における低栄養の実態や臨床的アウトカムとの関連についての知見は限られている。これらの実証は、訪問リハにおける栄養評価の重要性を確立するために必要である。本研究は、訪問リハ利用者における低栄養の実態を明らかにすること、低栄養とFunctional Independence Measure(以下、FIM)との関連を検証すること、および入院リスクとの関連を検証することを目的とした。

    【方法】 電子カルテより2019年10月から2022年3月までに当訪問リハ事業所の利用を開始し、Mini Nutritional Assessment -Short Form(以下、MNA-SF)を評価した者を後方視的に調査対象として同定した。訪問リハ開始180日以内に30日以上の休止期間のある者、研究同意が得られなかった者、データ欠測者は除外した。調査項目は対象の年齢、性別、疾患分類、Charlson comorbidity index(以下、CCI)、要介護度、MNA-SF、FIM、週間介入単位数、生活場所、通所リハ・通所介護・訪問栄養指導利用の有無、経管栄養の有無、訪問リハ開始後180日以内の入院の有無、訪問リハ開始後180日時点もしくは180日以内に契約終了・入院した時点でのFIM利得(1点未満か1点以上で2値化)とした。MNA-SFが0~7点を低栄養群、8~11点を低栄養リスク群、12~14点を良好群とし、名義変数はFisherの正確確率検定とχ2検定、量的変数はKruskal-Wallis検定で群間比較した。MNA-SFとFIM利得、および入院の有無との関連を検証するためにロジスティック回帰分析を行った。先行研究を参考に、訪問リハ開始時のFIM、年齢、性別、疾患分類、CCIを共変量として投入し、交絡因子による影響を調整した。有意確率5%未満を有意差ありと判断した。統計解析はEZR version 1.61を用いた。

    【結果】 解析対象は241名(年齢中央値81歳、女性61%、FIM中央値106点)、うち低栄養群20%(47/241名)、低栄養リスク群54%(131/241名)、良好群26%(63/241名)であった。低栄養群は良好群よりもFIMが有意に低値(100点 vs 112点、P=0.011)であり、入院割合は有意に高値(30% vs 6.3%、P=0.003)であった。ロジスティック回帰分析の結果、MNA-SFはFIM利得の独立した説明変数ではなかった(OR=1.020、95%CI=0.907-1.160、P=0.704)が、入院の有無の独立した説明変数であった(OR=0.813、95%CI=0.715-0.925、P=0.002)。

    【考察】 訪問リハ利用者において栄養状態に問題がある者の割合は74%であり、急性期や回復期と同様に多いことが明らかとなった。高齢者は、嚥下機能の低下や社会的、精神的、疾病要因により低栄養に陥りやすい。本研究の対象も高齢者が多く、低栄養者が多くなったと考えられる。低栄養者は訪問リハ開始後180日以内に入院するリスクが高いことが示唆された。低栄養は肺炎・腎不全などの合併症を発症しやすく、入院のリスクを高めることが報告されており、本結果もこの点を支持するものであった。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言および「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従って計画し、当法人研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号:R4-20)。また、本研究はオプトアウト形式を採用し、研究対象者および代理人が拒否する機会を保障した。

  • O-092 地域リハビリテーション①
    田辺 龍太, 村尾 彰悟, 江口 宏, 大久保 智明, 野尻 晋一, 渡邊 進
    p. 92-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 今回、在宅生活を送る若年上位頚髄損傷者の褥瘡の自己管理に対して支援したので報告する。

    【紹介】 30歳代前半、男性。10年以上前にトランポリンから転落し頚髄損傷(C4レベル、フランケル分類B)を受傷。両親は県内在住であるが、別居して一人暮らし。(心身機能)頭頸部筋機能残存、肩屈曲、外転、肘屈曲、伸展が一部可能。(活動)ADL全介助。趣味はパソコンでの絵画、カラオケ、SNS投稿。アタッチメントを口にくわえてパソコンなどを操作する。移乗、移動は移乗用リフトと電動車椅子を使用している。(参加)大学院生であり、リモート授業あるいは通学している。(環境因子)訪問介護を毎日14時間、訪問入浴を週1回、訪問看護を週5回、訪問リハを週1回、重度障害者日常生活用具給付による福祉用具として電動ベッド、エアマットレス、電動車椅子、移乗用リフトを利用している。(個人因子)真面目で頑張り屋の性格。時間を忘れて熱中することができる。

    【説明と同意】 本発表はヘルシンキ宣言に沿い、本人に目的、方法を説明し同意を得た。

    【経過】 訪問看護師より左座骨部の褥瘡の治療が進まないためポジショニングを中心とした褥瘡の自己管理を指導してほしいと相談があり、訪問リハの利用が開始となる。ブレーデンスケールの評価で知覚認知、活動性、可動性、摩擦とずれの項目が低点数であった。問診による生活状況調査、座骨部の圧力を評価したところ、テレビ鑑賞や大学の課題作成、リモート授業、絵画などを毎日、連続3時間以上にわたりベッドを70°背上げした座位姿勢で行っていることが分かった。また、座骨部への圧力は0°で16.3 ㎜Hg、70°で65.5 ㎜Hgとギャッチアップ座位で高い事が分かった(測定機器:パームQ)。以上の評価より、褥瘡の1要因として長時間のギャッチアップ姿勢による左座骨への圧迫が影響していると考え、①テレビ鑑賞などは背上げ角度を60°以下にする ②活動時のギャッチアップ継続時間を2時間以内とするように提案した。

     しかし、真面目で頑張り屋の性格や時間を忘れて熱中できる長所を持っていることで、活動を中断し背上げ角度を適宜変えることに抵抗を感じていた。その結果、生活に大きな変化はみられず、褥瘡は悪化と改善を繰り返した。

     そこで、訪問介護士と訪問看護師の協力を得て、30分ごとの姿勢を日中チェックしてもらい、仰臥位、側臥位、ギャッチアップ座位それぞれの継続時間と評価期間の褥瘡の状態(DESIGN-R)を調査した。毎週の訪問リハ利用時にギャッチアップ座位継続時間と褥瘡の状態を本人へフィードバックする関わりを約3か月間継続した。その結果褥瘡が治癒したため、本人へギャッチアップ座位継続時間が短くなるとDESIGN-Rの点数が改善する傾向をグラフ化して再提示し、再度ギャッチアップ座位継続時間を自己管理するように提案した。

    【結果】 本人はギャッチアップ継続時間の調整を行う必要性について納得し、活動を行う際に臥位で休憩する時間を作る、大学の休み時間にベッドで休む時間を作るなどの工夫を徐々に行うようになった。現在まで褥瘡形成することなく経過している。

    【考察】 本人の福祉用具は重度障害者日常生活用具給付によるものであり、褥瘡の改善に対してマットレスなど環境因子の変更が難しく本人自身が背上げ角度調整、座位時間の調整で座骨部への負担軽減を行う必要があった。

     今回、ギャッチアップ継続時間と褥瘡の状態について、目に見える形で本人にフィードバック出来たことで意識の変化を引き起こすことができ、褥瘡に対する自己管理が可能になった。個人因子へのアプローチに対してデータの活用が有効であった一例である。

  • O-093 地域リハビリテーション①
    羽田野 聖月
    p. 93-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 近年の社会の流れは『健康寿命の延伸』だと言われており、介護予防の必要性が強く唱えられている。介護サービス全般の取り組みとして『自立支援』が着目されているが、当院の通所リハビリを利用している要支援者においては長期に亘って利用している者も多く、自立支援に移行できていない事が現状である。そこで当院通所リハビリを利用している要支援1を対象に、Short Physical Performance Battery(以下、SPPB)と転倒の関連性について検討する事とした。

    【方法】 対象者は当院通所リハビリを利用している要支援1の者21名とした(男性6名、女性15名、平均年齢82±10歳)。選択基準は、HDS-R20点以下、既往に脳血管疾患、心疾患、慢性疼痛、関節疾患がある者を除外し、歩行補助具を用いて歩行可能な者とした。

     評価項目は身体機能:SPPB、バランス機能:開眼片脚立位、FunctionalRearchTest(以下、FRT)転倒の有無:過去1年以内の転倒歴について聴取、転倒不安感尺度:Falls Efficacy Scale(以下、FES)、活動強度:質問紙表を用いて活動量をMetsに置き換えた。

     統計学的手法としては、SPPB9点以上の者とそれ以下の2群間に分け、Mann-WhitneyのU検定、カイ二乗検定を用いて2群の差の検定を行った。SPPBと各測定値の相関関係についてSpearmanの順位相関係数検定を行った。さらに目的変数をSPPB、各測定値を説明変数として重回帰分析(変数減少法)、従属変数をSPPB、各測定値を独立変数としてロジスティック回帰分析(変数減少法)を行った。統計処理はFreeJSTATを用い、有意水準を5%とした。対象者にはヘルシンキ宣言の趣旨に沿い本研究の目的を口頭と書面にて説明し同意を得た。尚、本研究は当院倫理委員会の承認を受けて実施した。

    【結果】 SPPB9点以上とそれ以下の2群間の比較では、有意差はみられなかった(P>0.05)。

     SPPBと開眼片脚立位において正の相関(0.547)、SPPBとFESにおいて負の相関(-0.515)が認められた。

     重回帰分析の結果、転倒恐怖感(偏回帰係数=-0.6350、標準偏回帰係数=-0.5288)、開眼片脚立位(偏回帰係数=0.0446、標準偏回帰係数=0.2906)が有意に採択された(R2=0.6058)。

     ロジスティック回帰分析の結果、SPPBに関して転倒恐怖感(P=0.07742 OR=0.25367)、片脚立位(P=0.05570 OR=1.09793)となった。

    【考察】 本研究ではSPPBとFESで負の相関、SPPBと片脚立位で正の相関が得られた事からSPPBの点数が低い程転倒恐怖感は高く、SPPBの点数が高い程下肢のパフォーマンスが上がる事が示唆された。

     重回帰分析の結果、SPPBに対して転倒恐怖感と開眼片脚立位の影響が大きい事が分かった。またロジスティック回帰分析の結果では、有意差は得られなかったが、片脚立位とSPPBとの間に関連があるという結果が得られた。

     その事から、在宅生活場面での身体活動には歩行やバランス能力といった運動機能だけではなく、転倒恐怖感も関連しており外出に対する自己効力感の低下が示唆される。

    【まとめ】 在宅高齢者において身体機能評価のみならず、転倒恐怖感に対する評価や外出に対する自己効力感の評価を行い指導していく事が必要である。

一般演題17[ 成人中枢神経③ ]
  • O-094 成人中枢神経③
    寺井 一樹, 佐藤 亮
    p. 94-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 複合性局所疼痛症候群(CRPS)の有効な理学療法は確立されておらず、下肢のCRPSでは逃避性跛行が出現することもあり、走行獲得に至る症例は少ない。CRPS患者の治療については、中枢神経系の機能異常に対する鏡療法が有効とされている報告が多くある。一方で、疼痛に対する認知的側面や身体イメージの歪みがある場合は、体性感覚と実動作の不一致の改善を促すことで有効な治療効果を得られるという報告もみられる。今回、初期評価の結果から、鏡療法よりも優先して疼痛に対する認知的側面と身体イメージの歪みに着目し、体性感覚へのアプローチを行い小走りが可能となったCRPS患者を経験したので報告する。

    【症例紹介】 対象は疾患名が左膝関節痛、併存疾患がCRPSと診断された15歳男性。令和X年Y月、左膝関節をブロックに接触。2カ月後、膝痛軽減みられなかったためA院受診しアイシングにて経過観察となる。7カ月後、疼痛増強にて再度A院受診し両松葉杖歩行となる。12カ月後、A病院の紹介にてB病院でCRPSの診断を受けるが、遠方であり殆ど行っていなかった。20カ月後、高校進学の関係で当院受診し理学療法開始となる。

    【評価と経過】 初期評価では、移動は独歩であるが疼痛のため逃避性跛行となっており、本人も自覚していた。左膝関節周囲に自動運動時NRS:6/10、歩行時8/10の疼痛を認めており、下肢周径では左に著明な筋萎縮を認めた。立位に関しては、安静時荷重量は体重43 ㎏に対し右25 ㎏、左18 ㎏であった。身体イメージの歪みには、立位における自身の膝関節の状態をイメージして絵を描いてもらい、実際の角度と比較した。膝関節屈曲角度は実測値では25°、絵では35°であった。本人からは「もっと曲がっていると思った」と発言があり、自身の膝関節屈曲角度を過大にイメージしている結果となった。PCSは5点、PDASは7点であった。しかし本人の「なんか痛いです。」といった漠然とした発言や、無意識下の歩行での著明な逃避性跛行がみられていた。走行は疼痛と恐怖心の影響から不可能であった。理学療法の介入方法は体性感覚中心に異常があった為、村部らの先行研究を参考とし体性感覚の改善を促す事で身体イメージ、疼痛に対する認知の改善に繋げようと考えた。プログラムとしては、患者は両膝関節軽度屈曲した端坐位となり、理学療法士が他動で健側膝関節を屈曲させ角度を設定する。患者は左膝関節の屈曲角度を目視で確認しながら患側膝関節を同じ角度となるように自動で屈曲する。外来通院は頻繁には出来ないとのことだった為、ホームプログラムを指導した。21カ月後には、視覚情報なしでも両膝の屈曲角度の差は減少し、姿勢を端座位から立位へ変更し同様のプログラムを指導した。本人の発言も「左足をついた時に膝下のここが痛い」など、疼痛に関する言語表現は具体的になっていた。23カ月後の最終評価では、左膝関節の角度のズレはほぼ解消し、疼痛も歩行時NRS:1/10となった。初期評価同様に立位時の左膝関節を絵にしてもらうと実測値との差は全くみられなかった。PCSは3点、PDASは4点と改善を認め、小走りも可能となった。

    【考察】 村部らは頭頂連合野は痛みに対応する身体の認知や痛みへの注意に関与していると述べている。本症例は体性感覚と実動作の不一致があり、疼痛に対し意識が強いことが考えられたため、実動作に影響を及ぼしていると考えられた。そのため実動作の中でFBを行い、身体イメージと認知の改善から疼痛改善に至り、小走りが可能になったと考えられる。

    【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言の規定に従い実施し、対象者に個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で同意を得た。

  • O-095 成人中枢神経③
    泉 夏希
    p. 95-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 右橋梗塞により左片麻痺を呈し、運動機能はFugl-Meyer(以下、FMA)、姿勢制御はBESTest(以下、BT)、バランス評価はBergBalanceScale(以下、BBS)、体幹機能はTrunkImpairmentScale(以下、TIS)を用いて問題点を抽出し、介入を行った症例を経験した為、ここに報告する。

    【症例紹介】 80歳代、女性。令和X年11月3日に右橋梗塞発症(橋傍正中部右側)、発症13日後に当院入院。入院時FIM38点(運動19点/91, 認知19/35)。起居・移乗動作は全介助、端座位保持は軽介助。発症日17日後に当院回復期病棟へ入棟、入棟時FIMや介助量は入院時と同様であった。既往歴に両側変形性膝関節症を呈し、Kellegren-Lawrence分類より、左右stage4。両膝関節屈曲120°伸展-20°、右膝の荷重痛を認めた(NRS:2)。表在・固有感覚は中等度鈍麻を認めた。TIS:4/23点であり、動的座位バランス、体幹協調性に減点を認めた。FMAは上肢2/66点、下肢8/34点、下肢MMTは1~2, BT:5/108点と姿勢制御、歩行安定性に顕著に減点を認め、BBS:1/56点。立ち上がりは、体幹・下肢の支持性低下を認め、結果より動的座位バランスと姿勢制御の低下を主要問題点とした。治療は体幹と股関節伸展筋群の筋活動を促し、坐位での麻痺側へ重心移動を図った。短期目標を座位獲得、長期目標を移乗動作の介助量軽減に設定した。

    【説明と同意】 当院の臨床倫理指針の「臨床研究に対する倫理指針」に基づき、対象者へ発表の趣旨を十分に説明し、同意を得た上で実施。

    【経過】 発症21日後に端座位自立し、24日後に移乗動作の中等度介助に至った。中間介入はFIM:38→40/126点(運動19→21/91, 認知19→19/35)、TIS:4→5/23点と向上し、動的座位バランスの改善を認めた。FMAにおいて上肢2→7/66点、下肢8→11/34点、BT:5→6/108点、下肢MMT:MMT1~2→2, BBS:1→8/56点で改善を認めた。病棟トイレ利用を開始していたが、両膝の荷重痛、膝折れを認めていた(NRS:2→6)。以上より、目標を立ち上がり動作の介助量軽減や立位保持獲得に設定し、発症39日後に右膝の支柱付き膝装具を作成。立ち上がりの動作は、麻痺側骨盤の後退や下肢伸展筋群の筋活動低下を認め、中等度介助を要した。治療は、体幹・下肢の残存課題に引き続き介入し、立位での重心移動、体幹の抗重力伸展活動を促した。最終評価はFIM:40→60/126点(運動19→31/91, 認知19→29/35)、TIS:5→6/23点と向上し、体幹協調性に改善を認め、BT:6→7/108点に改善し、予測/反応的姿勢制御の向上あり。FMA:上肢7→8/66点、下肢11→12/34点、下肢MMT:2→2~3へ改善を認めた。立位保持は物的支持にて見守りレベル獲得したが、膝の荷重痛や膝折れは依然として認めていた(NRS:6→6)。

    【考察】 徳田ら(2020)はBranch Atheromatous Disease(以下、BAD)を発症した症例による先行研究にてFMA運動項目(上肢>49点、下肢>25点)において退院時の予後予測に、発症時の運動障害の程度が影響因子となる事を示唆。Verheydenら(2009)は、脳卒中患者に対し背臥位や座位での付加的な体幹活動による姿勢制御の向上を報告している。症例の特徴として、BTの結果より生体力学的制約の項目に低下やTISより神経学的及び力学的側面においても影響があったと考えた。治療を背臥位から体幹への介入、座位・立位の過程の中で麻痺側への重心移動を促した。体幹機能改善により、下肢の負担軽減を図りつつ、立位保持の獲得を目指した。初期時には体幹・股関節伸展筋の筋活動の改善、中間介入時には麻痺側下肢の筋活動改善に伴い、物的支持の中で立位保持獲得に至ったと考えた。

    【理学療法研究としての意義】 一症例から得られた結果であり、BADに対する回復期病棟でFMAと予後予測の関連性を示唆した報告は少なく、今後も検討していきたい。

  • O-096 成人中枢神経③
    藤原 愛作
    p. 96-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 多系統萎縮症(以下、MSA)の理学療法については幾つか報告があり、集中的な理学療法の短期的効果としてSARAおよび歩行速度の改善が得られたとされている。しかし、歩行練習において強度や具体的手法などの報告が少ないのが現状である。

     歩行練習の安全性や量を確保するために、部分免荷式トレッドミル歩行練習が用いられることが多く、歩行速度、歩幅、持久力などの改善が報告されている。そこで、本症例に対して、部分免荷式トレッドミル歩行練習を実施したが、歩様の崩れなどにより継続実施できなかった。

     そこで、類似の効果が期待できる免荷式歩行リフト(POPO:モリトー社製)を用いることで、MSAの症例に対して、強度を高めた歩行練習が行えるかを検討することが本研究の目的である。

    【症例紹介】 本症例は70歳代(女性)、診断名:MSA-C(X-14年)である。主訴は歩行中のふらつき、嚥下障害、既往歴は不安性神経症、中枢性眩暈などであった。画像所見はMRIにて橋、小脳、VSRADでは小脳脚全般に萎縮を認めた。理学療法評価はHDS-R:29点、SARA:8点、粗大筋力:四肢4レベルであった。10m歩行速度は快適歩行速度:16.0秒(34歩)・最速歩行速度は転倒リスクが高く未実施。歩行率は0.34m/秒、6分間歩行:302.3m、FAC:4、FBSは41点であった。

    【方法】 本介入は2週間の短期入院の期間に実施した。介入は、通常の理学療法に加え、免荷式歩行リフトを用いた歩行練習を追加した。歩行速度は快適歩行より筋活動が高まるとの報告(小澤ら2019)より、快適歩行速度より速い速度として、歩幅も大きく歩くように指示をした。その際に、免荷式歩行器をセラピストが前方から引っ張りながら歩行の対称性が崩れないように注意した。歩行距離を60mの歩行路を2周×2セットから開始し漸増的に周回数、セット数を増やし、免荷量は先行研究を参考に10 ㎏(体重の20%免荷)とした。

    【結果】 介入頻度は毎日実施(計:7回)した。最終(介入7回目)では、10m歩行テストにて快適歩行速度:11.4秒(歩数25歩、歩幅0.4m/歩)、6分間歩行テスト:342.3m(休憩なし)となった。また、一回の運動量は60mの歩行路を4周×3~4セットまで増やすことができた。

    【考察】 MSA-Cの症例に免荷式歩行リフトを用いた歩行練習を実施した結果、10m歩行テスト、6分間歩行テストについて改善が得られた。

     本症例は、画像所見により橋、小脳脚全般に萎縮を認めている。そのため、部分免荷式トレッドミル歩行では路面の変化に対して、両下肢の運動企画・修正が上手く行えず、両下肢の律動的運動が破綻した努力性歩行になったと考えた。

     対して、免荷式歩行リフトでの歩行練習は固定床で使用できるため、路面の変化に自身の下肢の運動を合わせる必要がなく、速度を速めても律動的運動が破綻せず歩行練習が継続できたと考える。加えて、免荷式歩行リフトによる免荷と懸垂により、エネルギーコストや転倒リスクが抑えられ、通常より速い歩行速度である高強度の歩行練習が行えたことで、両下肢の筋活動を高めることができ、歩行速度や全身耐久性の向上につながったと考える。

     このことから、MSA-Cの症例において、免荷式歩行リフトを用いた歩行練習が有益である可能性が示唆された。今後、他のMSA-Cの症例に対して、免荷式歩行リフトを用いた歩行練習の有用性を検証していきたい。

  • O-097 成人中枢神経③
    鬼塚 楓, 山口 純平, 早川 亜津子
    p. 97-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 今回、左脳幹部アテローム血栓性脳梗塞を呈し意識レベルの低下と体幹・股関節周囲筋の筋活動低下により姿勢アライメントに崩れが生じ経口摂取獲得に難渋した症例を担当した。先行研究において円滑な摂食・嚥下を行うためには、安定した座位保持や頭頸部および上肢の自由度、体幹・下肢を含めた全身協調運動が必要となると報告がある。そこで、意識レベルの向上・座位保持能力の改善を目指すことで経口摂取の獲得が可能となると考え、回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)で行った工夫と成果について報告する。

    【症例紹介】 85歳女性。身長155.0 ㎝。体重49.3 ㎏。

     入院前ADLは食事自己摂取可能、車椅子移動・排泄・入浴は一部介助レベルであった。

     令和4年8月X日、左脳幹部アテローム血栓性脳梗塞を発症した。既往歴として、アルツハイマー型認知症がある。X+1日より理学療法を開始した。X+5日Covid-19発症し、X+15日までは理学療法は非実施であった。X+15日より回復期リハ病棟転棟し、理学療法を再開した。

    【アプローチ前経過】 初期評価としてはJCSⅡ-30~Ⅲ-100, Brunnstrom Recovery Stage(以下、BRS)右上肢Ⅱ手指Ⅰ下肢Ⅱ、高次脳機能障害が認められた。筋緊張(R/L):ハムストリングスMAS(3/3)。立ち直り反応は頸部・体幹左右ともに陰性で、抗重力肢位での自立保持は困難であり、端座位は全介助レベル。食事場面では食塊を口にため込み嚥下に時間を要し40分で0.2割程度の摂取量であった。藤島摂食状況レベルLv2。本症例は経口での食事摂取量低下により、X+18日より3食経管栄養となった。X+34日より昼食のみ経口摂取再開したが、食事量増加に至らなかった。症例では、筋緊張亢進による両内側ハムストリングスの短縮しており、両骨盤後傾位、両膝関節屈曲位、麻痺側体幹筋の収縮が低下することで、不安定な座位姿勢となり嚥下困難となっていたと考えた。

    【アプローチとその後の経過】 離床時には血圧が低値でX+31日に医師による服薬調整を実施し、離床機会の拡大に繋がった。X+34日より体幹筋賦活を図り、リーチ動作練習を行った。また、股関節周囲筋・体幹筋活動の賦活、足底感覚入力を図り、立位保持練習、荷重練習、起立練習を段階的に行った。X+36日より食事摂取量も徐々に増加し、3食経口摂取となった。食事時間平均40分で5割摂取。X+42日よりリクライニング車椅子にて食事摂取開始。頸部・体幹の立ち直り反応が出現し、抗重力姿勢で頚部・体幹の保持が可能となる。X+56日にはBRS右上肢Ⅲ下肢Ⅲ、嚥下状態は藤島摂食状況レベルLv7となる。リハビリ場面ではスタンダード車椅子に乗車し食事摂取開始。X+70日より実際のADL場面で車椅子座位での食事摂取機会拡大を目的に、食事姿勢やポジショニング、介助方法を作業療法士・言語聴覚士と検討し、病棟スタッフへ共有した。これらの結果、毎食車椅子座位にて食事摂取可能となった。X+100日には食事は車椅子座位にて食事時間平均25分で10割摂取が可能となった。

    【考察】 車椅子座位での経口摂取を目指し、意識レベルの向上、座位保持能力の獲得、座位の耐久性向上を図った。座位保持能力の獲得のため、起立練習、立位保持練習、荷重練習を行なった結果、端座位での抗重力肢位の保持が可能となった。さらに、食事姿勢を検討し、骨盤中間位へ誘導した姿勢により、車椅子座位の安定性向上と上肢の操作性向上へと繋がった。食事姿勢や介助方法、ポジショニングを病棟スタッフへ指導し車椅子座位での食事機会拡大することで、座位耐久性の向上に繋がった。その結果、座位での経口摂取が可能となり、摂取量も安定したと考える。

    【倫理的配慮、説明と同意】 当院の医の倫理審査委員会の承諾を得(R4-22-2号)、患者・家族に書面を持って同意を得る。

  • O-098 成人中枢神経③
    相田 涼太郎
    p. 98-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 筋病理学的に壊死と再生を主体とする免疫介在性壊死性ミオパチー(以下、IMNM)により近位筋を主体に筋力低下を呈した症例を担当する機会を得た。病前の生活と同様にADLの自立を目指し、クレアチニンキナーゼ(以下、CK)の数値を参考に積極的に運動療法を行ったことで自宅復帰を果たしたため、経過を報告する。

    【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に基づき、対象者の個人情報保護には十分留意している。

    【症例紹介】 本症例は50歳代の男性で、上下肢の筋力低下を自覚され、その翌年に嚥下障害が出現したことから検査入院となり、近位筋を主体に筋力低下、3,000~4,000のCK値の上昇を認め、針筋電図で活動性ミオパチーの所見、筋生検の結果から本疾患の診断となった。ステロイド治療に抵抗があり、外来で経過をみていたが、症状の悪化に伴い経口ステロイド療法を開始した。その後CK値の改善が認められ、前院入院から85日目に当院へ転院となりリハビリテーション(以下、リハビリ)が開始となった。本人のDemandは病前の生活に戻ることであり、Needは、屋内の自立歩行の獲得とADL自立、外出や自動車の乗降動作の自立であった。入院時のMMT(右/左)は三角筋2/2、上腕二頭筋3/3、腸腰筋1/1、大腿四頭筋1/1、ハムストリングス・下腿三頭筋3/3、握力10/9(㎏)、FIMは53点(運動項目28点、認知項目25点)、CK値は2,604であった。最終目標にADL自立に伴う自宅復帰、IADLの自立を挙げ理学療法の介入を開始した。

    【経過】 筋繊維の壊死や不活動に伴う筋力の低下を治療課題として、膝関節伸展や股関節内外転のパワーリハビリや起立、スクワット等の筋力増強練習、歩行等の日常生活動作練習を実施し改善を図った。介入25日目に端座位保持、プッシュアップ動作での離殿が可能となり、日中の車椅子駆動や起居動作、ベッドと車椅子間の移乗が自立に至ったが、起立における離殿や伸展相の形成は困難であった。そこで、ニーリングでのスクワット、腕立て伏せや四つ這い移動を導入し、股関節周囲筋や体幹筋の活動をより容易にするよう調整を行った。CK値は2,057であったが、主治医と相談し、ステロイドを服用しつつ本人の状態に合わせて運動療法を継続していく方針となった。介入39日目にCK値は1,306に推移し、起立はプッシュアップから登攀様に行うことで見守り、屋内歩行はT杖見守りで可能となった。リハビリ介入時には個浴練習や屋外を想定した歩行練習を行い、余暇活動として車椅子上で取り組める自主練習を実施した。介入70日目に自宅へ退院となった。最終評価時のMMTは三角筋3/3、上腕二頭筋4/4、上腕三頭筋4/4、腸腰筋3/3、大腿四頭筋4/4、ハムストリングス・下腿三頭筋4/4、握力19.5/21.6(㎏)、10m歩行は7.24秒であった。FIMの運動項目は83点で日中の屋内移動は伝い歩き自立、屋外の移動にはT杖と車椅子を併用した。退院後のCK値は1,500台と高値であるが、ADLの自立度は維持され、家族と旅行等も行えていると本人より聴取された。

    【考察】 本症例は近位筋を中心とした筋力低下に伴い、基本動作やADLの自立度低下が著明であった。自宅復帰に向け、上下肢の筋力改善のみならず、動作に即した筋出力の獲得が課題であった。そこで身体機能に合わせて、環境や方法、難易度を調整し積極的に運動療法を実施したことで課題の解決に伴い、ADLの自立に至った。本症例において、CK値を参考にすることや課題指向的なアプローチを行ったことが目標達成に至った要因であると考える。IMNMにより近位筋を主体とした筋力低下を来す患者に対し、経口ステロイド療法を行いつつ、積極的に運動療法を行うことは、ADLの自立度向上に向けた重要な取り組みであると考える。

一般演題18[ 教育・管理運営① ]
  • O-099 教育・管理運営①
    佐藤 亮
    p. 99-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 理学療法士は医学、看護学、歯科学等と比較し、養成校在学中に災害に関する教育を受ける機会は極めて少ない。今回2地域の理学療法士養成校で、地域理学療法学のシラバス終盤で初めて災害理学療法の講義を取り入れることになり、筆者はその授業を担当する機会を得た。本研究の目的は、大規模災害の被災経験の有無による理学療法専攻学生の災害に関する価値意識の違いを明らかにすることである。

    【方法】 対象は、機縁法によって研究協力の承諾を得た熊本県(以下、熊本)及び大阪府(以下、大阪)内の4年制理学療法士養成校の3年生とした。熊本29名(20.7±0.5歳)は、全員が熊本地震による被災経験があり、大阪93名(20.8±0.5歳)は、全員が大規模災害による被災経験はなかった。評価は、熊本は2022年12月、大阪は2023年1月に、災害理学療法の講義受講前の段階で行い、後述する評価を同じ順番で行った。災害に関する学生の心理的側面の評価として、災害リハビリテーションに関するアンケート調査(6項目・6件法)、一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES)、価値意識の評価として、災害リハビリテーション基本用語テスト(20問:100点)、事例対応問題(1事例:10点)を行った。災害リハビリテーション基本用語テスト及び事例対応問題は、熊本地震、2019年東日本台風、2020年7月豪雨においてJRAT現地災害対策本部運営経験のある筆者を含む3名の理学療法士で作成した。熊本と大阪のアンケート調査結果、GSES得点、基本用語テスト問題得点、事例対応問題得点の比較には、Mann-WhitneyのU検定、基本用語テストの各設問正答数の比較には、カイ二乗検定を用い解析を行った。有意水準は5%とした。

    【結果】 結果を中央値と四分位範囲で示す。アンケート結果は、全項目で有意差を認めなかった。GSES総得点は、熊本7.0(4.5-9.0)点、大阪4.0(2.0-8.0)点で有意差を認めた(p=0.007)。基本用語テスト得点は、熊本15.0(10.0-20.0)点、大阪10.0(10.0-15.0)点で有意差を認めた(p=0.004)。基本用語のうち、JRAT(p<0.001)、エコノミークラス症候群(p=0.002)で有意差を認めた。事例対応問題得点は、熊本2.0(0-5.0)点、大阪1.0(0-2.0)点で有意差を認め(p=0.030)、下位項目のうち考えられる健康被害(p=0.047)、福祉用具に関する対応内容と理由(p=0.007)について有意差を認めた。

    【考察】 東日本大震災を経験した宮城県の人々は、東京都や大阪府の人々と比べて災害自己効力感が高い。熊本は、全員が中学時代に熊本地震で被災し、その内65.5%の学生が避難所生活を経験している。熊本のGSES得点が高かったのは、熊本地震からの生活再建等を通した達成経験が自己効力感の差に繋がったと推察される。また基本用語及び事例対応問題の得点差は、被災経験に加え災害情報量の差が影響したと考えられる。当時の熊本県内では健康被害等の災害情報についてソーシャルメディアを通じて容易に取得できる環境であり、熊本地震では関係するツイートは発生から1週間で、東日本大震災直後の20倍を超えていた。JRATに関しては、初の大規模災害での全国的支援活動を展開した。エコノミークラス症候群に関しては、車中泊の避難者が死亡し、その翌日からマスメディアで繰り返し報道されたことが原因であると思われる。大規模災害の被災経験の有無は、学生の自己効力感や災害リハビリテーションに関する基本用語及び避難所における事例対応に関する知識に影響を与えることが示唆された。今回の授業前の学生の評価結果を含め今後さらに検証を重ね、より効果的な災害理学療法教育方法を開発したい。

    【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、調査に関しては事前に書面および口頭で研究の目的を説明し、理解を得た上で同意を得た。

  • O-100 教育・管理運営①
    河上 淳一, 時任 真幸, 烏山 昌起
    p. 100-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【背景と目的】 理学療法士は動作の専門家である。動作とは、各体節の空間的位置の時間的変化を示す運動学と原因となる運動力学が合わさった運動により達成された結果である。動作の中では、視覚で理解できる運動学が理解し易すく、視覚化できない運動力学の理解が難しい。学校教育では机上で教科書にて運動学や運動力学を学ぶ。実際の計測機器の使用は3次元動作解析器、床反力や筋電図を使用することになるが、運動学と運動力学の詳細データが得られる反面、時間的・経済的・空間的なコストが高い。教育現場で抱える問題としては、全学生が経験できない、限定された計測環境のみしか計測が困難、深部筋の計測に侵襲を伴うなどがあげられる。そこで、我々は、場所を選ばず、簡便な方法で動作を撮影し、その結果から運動力学的データを導き出す方法を共同開発・実践し、教育に活かしている。本報告では、我々が行う教育方法の実践方法を紹介し、同じ悩みを抱える教育者に対して解決方法の可能性を提示することである。

    【解析方法】 動作はスマートフォンで撮影する。撮影されたデータ(mp4形式)はWebサービスのPlaskに取り込むことで、2次元データから3次元データに構築(BVHファイル形式)し、運動学的データを生成する。次に運動学的データを筋骨格シミュレーションモデルであるAnyBody Modeling System ver. 7.4(AnyBody Technology A/S, Aalborg, Denmark)に取り込み、逆動力学解析にて運動力学的データを推定する。運動力学的データには、深部筋を含む筋活動、関節間力・腱張力や各関節のモーメントなども算出される。動画の撮影から全ての解析を終えるまでの時間は概ね10-15分程度である。

    【教育方法】 演者らは授業の一貫として、学生の立ち上がり動作(または投球動作など学生が感心を寄せる動作)などを撮影・解析し、学生に運動学と運動力学的情報を教示している。学生には、複数回動作を変化させ、再解析することで、運動力学的データが変わることを経験させている。更に、運動の変化により、どの筋活動が変わるかなどの推論的な方法で学生に学ぶ機会を提供している。

    【教育の経過と課題】 動作分析の報告は、3次元動作解析や筋電図などが散見される。近年では、Point Cluster Techniqueや2D-3D Registrationによって、詳細な骨動態の観察も報告されている。本方法の精度は2次元データから3次元データを構築しているために、従来の動作解析装置に劣る。しかし、本方法の強みは、様々な動作を簡便に撮影し、場所を選ばず、短時間で解析ができるため、時間的・経済的・空間的なコストが従来の動作解析よりも圧倒的に低いことである。さらに、生体計測と異なり、侵襲を伴わず深部筋の筋活動も推定できる。本報告における教育のモチベーションは、定性的な動作解析データを提示することで、学生自らが経験し、運動による変化を感じながら考えさせることである。本手法を応用し解析の精度を高めていけば、学生の考える力を引き出し、動作の専門家になるための学生教育の一助になると考えている。

    【倫理的配慮】 本報告は教育の実践報告であり個人情報を取り扱っていない。

  • O-101 教育・管理運営①
    松田 莉苑, 臼元 勇次郎
    p. 101-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 理学療法士作業療法士学校養成施設指定規則の改正に伴い、今までの実習の在り方や理学療法学生(学生)に対する指導方法が大きく見直されている。学生の指導に従事する臨床実習指導者(指導者)は、自らが経験してきた臨床実習とは異なる点が多いため、臨床実習に対する考え方・指導方法を見直す必要がある。

     今回は、当院の学生とその指導に従事する指導者に臨床実習指導者評価(指導者評価)を行い、その結果を他の施設・病院(他施設)の結果と比較し、当院の学生が抱える問題の早期発見やより良い臨床実習を送るための材料にすると共に、指導者自身も指導者としての問題点や肯定的側面等を理解し、それらへの対応策を検討することを目的とする。

    【対象】 当院にて臨床実習を行った学生13名(男性:6名、女性7名、平均年齢:20.77±1.01歳)。当院の指導者13名(男性:11名、女性2名、平均年齢:34.69±5.34歳)。

     他施設にて臨床実習を行った学生24名(男性:17名、女性7名、平均年齢:20.21±1.25歳)。他施設の指導者24名(男性:19名、女性5名、平均年齢:29.04±5.96歳)。

    【方法】 当院で臨床実習を行う学生とその指導に従事する指導者に対し、指導者評価を行う。その結果を、同様の方法で指導者評価を行った他施設の結果と比較する。

     実施時期は、対象学生の臨床実習期間の最終週とし、臨床実習に関わらない第三者が主導となり、両者に評価を実施した。実施場所は個室で実施し、評価結果は臨床実習成績が確定するまで対象者は確認できないこととした。

     指導者評価は、16の質問項目で構成され、「実習計画」・「実習内容」・「教育意欲」・「教育態度」・「実習指導技術」に分類される。評価は、「優れている:5点」から「とても改善が必要:1点」までの5段階80点満点となる。

    【統計解析】 指導者評価を当院と他施設の2群間で比較を実施した。正規性の検定はShapiro-Wilk検定を用い、正規性の有無に従い2標本の差の検定(2標本t検定、Welchの修正による2標本t検定、Mann-Whitneyの検定)を実施した。統計解析には、改変Rコマンダー(Ver 4.2.1)を使用し、有意水準は5%とした。

    【倫理的配慮】 厚生労働省の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に従い、全ての対象者に本研究内容・方法を事前に説明し、研究協力への同意を書面により得た。なお、本研究は医療法人術徳会霧島整形外科病院の倫理委員会による承認(承認番号:0036)を得て実施した。

    【結果】 学生の指導者評価の比較の結果、「教育態度」において、当院の学生で12.38点、2施設では13.58点と有意に点数が低い事が示された。(p<0.01)

    【考察・まとめ】 「教育態度」の項目には、「指導者は学生を理解し尊重してくれたか?」、「学生が質問しやすい雰囲気であったか?」「積極的に臨床行為をさせてくれたか?」の質問項目が含まれている。積極的な臨床行為に関しては、感染症蔓延により当初予定していた病棟での実習を変更し、外来のみでの実習に変更となり、臨床行為を実施するためのまとまった時間が確保できなかったことが要因の一つとして考えられる。

     学生の理解を尊重することや質問しやすい雰囲気への対策は、既に開始している。当院では本年度より「実習係」を設置した。実習係は、指導者と学生の間に入り、学生が抱える問題等を相談しやすいように声掛けを行う。また実習開始早期に形成的評価を行い、学生の習熟度を確認していく。その他にも週に1回の臨床実習に関するミーティングを行う等している。今回の研究で明らかとなった当院の臨床実習に関する課題を改善し、学生のより良い臨床実習への導きと後進の育成に活かしていきたい。

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