九州理学療法士学術大会誌
Online ISSN : 2434-3889
九州理学療法士学術大会2023
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一般演題18[ 教育・管理運営① ]
  • O-102 教育・管理運営①
    川田 浩司
    p. 102-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 近年、未曾有の災害が毎年各地で起きている。東日本大震災以降、各地で起きる大規模な災害後の対応に日本災害リハビリテーション支援協会(以下、JRAT)が活動している。佐賀県においては、2019年九州北部豪雨において甚大な被害を受けた。この年、初めて佐賀JRATとして活動を行った。しかし、当時はまだ十分な組織として機能しておらず他県より派遣して来られたRRT(Rapid Response Team)の支援を受けながら、対応した。今後もいつ起きるか分からない災害に向けて自県で対応できるだけの人材や組織について、体制を整えることが必要となった。被災したことを受けその後の佐賀県理学療法士会(以下、当士会)として災害対応の動向について報告する。理学療法士として何ができるかを広く認知してもらうために、災害対応について関わる必要があると考える。

    【活動目的】 2019年佐賀豪雨災害における佐賀JRATの活動を通して多くのことを経験したことにより佐賀に応じた組織体制の構築及び人材育成、多職種との情報交換を行い有事に円滑に活動ができるように、平時より体制を整えることができることを目的に活動を開始した。

    【活動内容】 当士会として以下3つの活動を行っている ①災害対策委員の選出・定期的な会議開催 ②BCPの作成・更新 ③会員安否確認訓練。また、佐賀リハビリテーション3団体協議会(以下、3団体協議会)のなかで主に ④災害リハビリテーション研修を企画運営している。

    【活動経過】

    ①災害対策委員の選出及び会議の開催について、2019年の発災後佐賀県各ブロックより会員を選出し現状の災害対策の把握及び緊急時の体制について協議をしている。

    ②BCPについて、今後発災した際に、県士会業務を復旧できるようにBCPを作成した。大雨や震災のみならず、感染に対応したマニュアルを作成している。幾度かBCPを参考に当士会内で災害対策本部を立ち上げるスイッチを押す準備をした。

    ③有事の際に、会員の安否確認ができる体制を整える準備をしている。年2回程度の訓練メールを会員へ一斉送信を行い、施設PT代表者へ入力を促している。現在4回実施。結果は1回目4%、2回目9%、3回目21%、4回目29%の回答率であった。いずれも、まだ周知不足もあり低値を示している。会員に認識してもらえるような工夫が必要と感じている。

    ④教育として、佐賀県では3団体協議会のなかで災害局を中心に活動を行っている。年に2回ほどの研修を開催している。佐賀県では研修等に参加することで履修ポイントを付与し、所定の手続きを踏み佐賀県災害リハビリテーション支援チーム員(佐賀JRAT)として登録をしている。現在、18人が登録されている。リハ職種だけでなく医師も登録をしている。まだまだ、災害時に十分に対応できる人数とは言えないので今後も定期的な研修開催を行う予定である。

    【まとめ】 2019年佐賀豪雨災害後、佐賀災害リハビリテーション推進協議会として組織体制の不備やJRAT活動における知識・経験不足が課題として挙げられた。災害発生時における、確固たる組織体制構築やJRAT活動の為の人材育成が必要である。また、まだ災害に関わるチームに佐賀JRATの認識が低いため関係性の不備もみられた。DMATやJMAT、DHEATなど他組織との連携強化にも努める必要がある。連携強化に関しては、佐賀災害リハビリテーション推進協議会浅見豊子代表のご尽力もあり2020年6月に各種書類を整備した上で佐賀県と協定締結ができた。そして、「佐賀県地域防災計画 令和2年8月14日修正版」への収載につながった。一歩一歩課題を解決していきながらきたる大災害に向けて体制を整えていきたい。

  • O-103 教育・管理運営①
    安里 幸健, 亀谷 勇, 上地 誠之
    p. 103-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 災害時医療下でのリハビリテーション実施は、「(人的・物的)最小資源で、即時最大効果」と考える。

     沖縄県新型コロナ入院待機ステーションで、リハビリテーション(以下、リハビリ)を立ち上げ運営する経験を得たのでその活動と成果を報告する。

    【活動目的】 沖縄県での新型コロナ第7波は10万人/月を超える新規患者数が発生し、入院待機ステーションにおいても患者数はひっ迫し解熱後もADL低下にて自宅に退所できない患者が増えた。そこで、円滑な自宅退所を目的にリハビリが導入された。

    【活動内容】

    ①発足から実施内容の検討

    *現状把握:要対象者の状況、ケアの状況

    *本部確認:理学療法士へのニーズ、介入目的、目標を話し合い方針決定

    ADL視点で退所可能者の選定、入所継続者の体力・活動面向上→自宅退所

    *優先順位の選定(可能な範囲で「しないこと」も決める)

    ②業務量推察から必要人員を試算し、セラピストを招集

    *招集は広報が重要(内容・報酬・保証などを明確に→県士会など活用し広報)

    *JRATやDMATの活用も考えられる

    ③実践(介入実施→効果の確認→マニュアル化→傾向性の変化を把握→PDCAサイクル)

    *経過に応じ変化する待機ステーションの状況と理学療法士の役割を押さえる

    ④チーム力強化(オリエンテーション、シフト作成、情報共有の仕組み作り)

    【活動経過】

    ・第7波のひっ迫時:自宅にすぐに返せるかの活動能力評価最優先、離床・ADL実践

     効果:リハビリ導入にて24時間以上の長期入所者の自宅退所率向上

    ・第7波以降の患者減少時:バッファー機能を担い入所期間の長期化、リハビリ支援継続

     効果:自宅退所や搬送元への転帰は、一定水準維持

     離床やADL実践を日常に近い形で実践、不穏や認知症予防への取組みも重要視

    【まとめ】 今回、隔離療養を強いられる新型コロナ入院待機ステーションでのリハビリの立ち上げと実践の経験を通し、重要と感じたのは、

    ⅰ)不穏・せん妄対策:不安を和らげる(声掛け、傾聴、歩み寄り、説明など)

    ⅱ)離床:特に排泄をトイレで行うことは「運動面」、「自尊心・モチベーション」の両方で重要。

    ⅲ)日常の再現:環境(オープンスペース)、生活のリズム、コミュニティ

    の3項目を実践することである。

     新型コロナ入院待機ステーションは、隔離療養という特殊な環境であること、また災害医療として通常の医療・介護保険下で実践されるリハビリとは資源環境が十分でないこと。リハビリテーションが必要になる対象者が、高齢者になりやすいことから、上記3項目をいかに工夫し患者さんに提供できるかが、活動性の維持や自宅退所率の水準に影響すると考える。

  • O-104 教育・管理運営①
    狩野 栄樹
    p. 104-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 当院では従来型の臨床実習から診療参加型臨床実習による臨床実習教育へと移行してきた。今回、学生2人に対し実習指導者1名を配置した2対1モデルでの臨床実習教育を経験し、それによって得られた臨床教育者(以下、CE)の役割と今後の課題について報告する。

    【方法】 学生は女性2名、CEは臨床経験13年目であり、2対1モデルの教育期間は8週間であった。教育方法は診療参加型臨床実習の正統的周辺参加と認知的徒弟性に基づき、周辺業務から部分的に診療参加させ、見学-協同参加-実施の段階を踏みながら指導を行った。臨床実習前に患者情報やCEの臨床思考を各週毎にどこまで開示するかを準備した。臨床実習がスタートしてからは、見学−協同参加やディスカッションを通して、学生の個性や運動・認知・社会スキル、各学生の知識量を把握し、徐々に患者と接する機会を増やしていった。運動スキルの協同参加場面では、模倣している学生へ指導しながら、もう一方の学生に見学させ、注意点や修正点がないか確認を促し、それを交代しながら実施した。認知スキルの指導場面では、CEの臨床思考を解説から始めてディスカッションを重ねた。また、学生同士でのディスカションを促し、時にはCEと1対1の場面を設け確認を行った。

     また、当院の診療参加型臨床実習を担当している理学療法士9名に2対1モデルについてアンケート調査を行った。

    【結果】 臨床実習終了時には、ルーブリック評価にて学生2人の成長がみられ、1対1よりも教育のしやすさを実感するとともに、2人の学生の成長を促すための評価や教育方法の難しさを感じた。また、アンケート調査では9名中8名は2対1モデルを実践したくないと回答し、その理由として2人の学生を気にかけ評価しながら診療業務を行うことや学生の管理を行うことの大変さ、教育の方法がわからない、実践したことがないなどの意見が多かった。

    【考察】 2対1モデルでの臨床実習教育では、CEが技術や臨床思考を伝えていく事はもちろんだが、学生を成長させていくファシリテーターとしての役割が重要だと感じた。指導に偏りが出ないように、それぞれの学生に合わせた指導、学生同士での意見交換を作る時間、学生に気づきを与えるようにディスカッションを設ける時間管理といったことが必要だと感じた。また、当院では1学校につき1人のCEが臨床実習教育を担当している。臨床実習教育を受け入れる側の課題として、日々の臨床業務に加えて2人の学生のファシリテーターを行うことは、CEの精神的疲労も増えると考えられるため、2対1モデルの教育方法の周知や検討、指導者の診療業務の負担軽減、実習担当者による学生の進捗状況や指導内容の情報共有などの取り組みが必要だと感じた。

    【まとめ】 2対1モデルでの臨床実習教育を行うにあたり、学生の成長を促す工夫や時間管理といったファシリテーターの役割を担う一方で、日々の臨床業務を行う難しさや大変さを痛感した。それらを解消するために、CEの負担を減らしつつ2対1モデルの臨床実習教育を行なっていくための、施設側の取り組みが必要であると考える。

    【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に基づきプライバシーの侵害がないよう十分に配慮した。

一般演題19[ 日常生活活動① ]
  • O-105 日常生活活動①
    平 和也
    p. 105-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 当院回復期リハビリテーション病棟では、入院前の生活を早期に把握し訓練プログラムに反映させる目的で、入院前の生活が自宅であり、当院から自宅まで車で30分圏内の患者様に入院時訪問を実施している。しかし、様々な理由により入院時訪問を実施できないことが多い。また、算定期限内(入院前後7日以内)に訪問が実施できず、算定期限外に実施することもある。先行研究より、入院時訪問が入院日数の短縮やFIM運動項目の改善に関連していることが報告されているが、算定期限外の訪問が与える影響については不明である。本研究の目的は入院時訪問の有無や時期が退院時のアウトカムにどのような影響を与えるか調査することである。

    【方法】 2016年4月から2020年3月に当院回復期リハビリテーション病棟を退院した脊椎圧迫骨折または大腿骨近位部骨折の患者478名のうち、受傷前の生活が自宅であり、屋内の歩行が自立(歩行補助具の使用は問わず)レベル以上かつ65歳以上でHDS-Rが10点以上の233名を対象に、入院時訪問を算定期限内に実施した群(以下、算定内群:44名 年齢の中央値は85.95歳)と入院時訪問を8日から14日以内に実施した群(以下、算定外群:15名 年齢の中央値は83.8歳)、入院時訪問を実施できなかった群(以下、非実施群:174名 年齢の中央値は84.1歳)の3群に分類した。入院日数、実績指数、FIM運動項目の改善、自宅退院割合を調査し、3群間の比較を行った。統計解析はKruskal-Wallis検定を用いて実施し、事後検定としてMann-Whitney U検定を行い、Bonferroni法で補正した。

    【結果】 算定内群と非実施群においてFIM運動項目の改善に有意差を認めた。算定内群:29.5(24-34.25)点、非実施群24(16-32)点、p<0.05。その他の変数は統計学的有意差を認めなかったが、算定外群は非実施群と比較しすべての変数においてポジティブな傾向を示した。入院日数:算定外群45(37-73)日、非実施群55.5(33-70)日、実績指数:算定外群45(35.7-54.2)、非実施群42.8(29.3-64.9)、FIM運動項目の改善:算定外群26(19-31)点、非実施群24(16-32)点、自宅退院割合:算定外群93.3%、非実施群81.2%。

    【考察】 算定期限内の訪問により、入院前のADLや環境等が早期に確認でき、訓練プログラムに反映させることで、FIM運動項目の改善に繋がったと考えられる。算定期限外の訪問は非実施群と比べ有意差は認めなかったが、すべての変数でポジティブな傾向を示しており、算定の期限に関わらず入院時訪問を行うことは意味があると思われる。本研究結果より、算定期限に関わらず入院時訪問の実施は重要である可能性があり、更なる追加研究が必要である。

  • O-106 日常生活活動①
    船津 雅臣, 髙野 直哉, 芹川 節生
    p. 106-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 回復期リハビリテーション病棟(以下、回リハ病棟)において、患者の約40%に低栄養が認められており、ADLの向上や在宅復帰のためには運動療法のみならず、適切な栄養管理が必要であると知られている。日本慢性期医療協会によると食事摂取率の割合において50%以下の例もあるとの報告がある。山田らは、フレイル患者において朝食、昼食、夕食でのタンパク質摂取量のばらつきがみられ、朝食時にタンパク質摂取が少ない傾向がみられていたと報告している。そこで本研究の目的は回リハ病棟での食事摂取率が入退棟時の身体機能(Short Physical Performance Battery;以下、SPPB)へ及ぼす関連について調べることとした。

    【方法】 2021年9月~2023年1月までに当院回リハ病棟へ入棟され、入退棟時にSPPB評価をした39例(男性14名、女性25名、平均年齢80.25±13.3歳)を対象とし、評価のデータ欠損がある者は除外した。基本情報は年齢、身長、体重、BMI、採血data(T-P値、Alb値)、入棟日までの期間、入棟日、退棟日、必要栄養量(エネルギー量、タンパク質量)とし、診療録より後方視的に調査した。身体機能の指標として入棟時と退棟時のSPPBを算出した。栄養指標として副食の食事摂取率(朝食、昼食、夕食)を診療録より後方視的に調査した。食事摂取率は朝食、昼食、夕食それぞれ3群の副食を0~10割で評価した。また3群の入棟日から2週間の平均値を食事摂取率の平均値として算出した。

     統計学的解析はEZRにて食事摂取率の平均値をそれぞれ3群に対してKruskal-Wallis rank sum検定を行った。基本情報、食事摂取率の平均値、SPPBでSpearmanの順位相関係数またはPearsonの相関係数を求めた。統計学的解析の有意水準は5%とした。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は研究の意向を十分に説明し、研究発表に対して理解及び協力を得た上で、ヘルシンキ宣言に沿って行い、当院の倫理委員会の了承を得た。

    【結果】 副食の各食事摂取率の平均値はそれぞれ朝食7.60割、昼食7.66割、夕食7.95割であり、3群間に著明なばらつきはみられなかった(p値=0.544)。朝食の食事摂取平均と退棟時SPPB(8.12±3.57点)に有意な正の相関を認めた(r=0.379、p値=0.0174)。また年齢と退棟時SPPBに有意な負の相関を認めた(r=-0.481、p値=0.00192)。朝食の食事摂取率の平均値と基本情報(年齢、T-P値、Alb値、体重、BMI、入棟までの期間)には相関を認めなかった。

    【考察】 入棟より2週間での朝食、昼食、夕食での副食の食事摂取率は有意な差はみられなかった。その要因は在宅と異なり、入院では栄養管理・指導など医療スタッフによる支援があるためと考えられる。今回、朝の食事摂取率が高いほど、退棟時のSPPB合計点が有意に高く、朝の食事摂取率が退棟時の身体機能改善や身体機能維持に影響を与えている可能性があると考えられた。これは先行研究と同様に入院時の栄養状態が高いほど退院時のADL能力が高いことが示唆された。術後の侵襲や炎症、消費エネルギー等で代謝が亢進すると、たんぱく質の異化亢進よりたんぱく質の必要量は増加する。今後は体重あたりの必要たんぱく質量を回リハ病棟の特性や疾患の状態等に合わせ、管理栄養士との連携強化も重要である。また年齢と退棟時SPPBで負の相関を認めており、高齢で、食事摂取率が少ない方は身体機能への影響が考えられ、朝食の食事摂取率を増やすことも重要であると考えられる。また今回は入院患者を対象としており、退院後の生活の栄養管理や運動管理等が不十分となる事が考えられ、身体機能維持や向上のために入院中の管理を継続することが必要となることも示唆されたと考えられる。

  • O-107 日常生活活動①
    金子 大空, 池田 侑太, 西野 有希
    p. 107-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期病棟)において、新規疾患の発症や併存疾患の急性増悪が生じることにより機能回復に影響を与えることがある。運動器疾患に対する回復期リハビリ中に、転出での治療を必要とした急性疾患に関しての報告はあるが、骨折や脱臼などの新規運動器疾患での有害事例に関して報告は少ない。今回、運動器疾患を対象に、回復期病棟在籍中に骨折や脱臼を発症し転出した患者の入棟時における特徴を調査し、今後の対策方法に関して検討したため報告する。

    【対象と方法】 令和4年4月から令和5年1月までに当院回復期病棟に入棟した運動器疾患者339名(82.2±10.6歳)を対象とした。これらの中から骨折や脱臼により新規に運動器疾患を発症し転出した群(以下、転出群)と、非転出群の2群に分けた。

     調査項目は年齢、入院から入棟までの日数、入棟時Motor Functional Independence Measure(以下、mFIM)、入棟時Cognitive Functional Independence Measure(以下、cFIM)とした。これらの項目は診療録より後方視的に調査した。

     統計処理は、EZRを用いてMann-Whitney U Testを用いて解析した。

    【結果】 回復期病棟へ入棟後に新規骨折、脱臼で転出した患者は8名(2.4%)であった。その転出群8名のうち新規骨折2名、脱臼6名であった。新規骨折・脱臼の原因としては、基本動作の最中3名、転倒3名、不明2名であった。

     年齢は転出群89.2±6.9歳、非転出群82.0±10.7歳で有意差を認めなかった。入院から入棟までの日数は転出群14.8±9.7日、非転出群7.3±15.9日で有意差を認めた(p<0.05)。mFIM合計点は転出群29.6±11.9点、非転出群33.5±15.9点で有意差を認めなかった。cFIM合計点は転出群27.6±6.75点、非転出群26.9±8.99点で有意差は認めなかった。

    【考察】 今回の結果から、年齢に関して2群間での有意差は認められなかったが、非転出群と比較し転出群は高齢である傾向がみられた。加齢に伴う身体組成の変化は、高齢者の生活機能の障害に深く関わっていることが知られている。加齢に伴う姿勢保持の困難による転倒などでの脱臼が生じたのではないかと考えられる。入院から入棟までの日数に関しては、非転出群と比較し転出群は有意に日数が長い結果となった。これは転出群において病態や全身状態から急性期病棟での管理が必要で、より重症患者である事が入棟期間に差が出たといえる。また、非転出群において治療などによる安静期間が短く、より早期に回復期病棟での積極的なリハビリを受けることができているといえる。そのため、転出群においては重症患者でmFIMも低い傾向があり、より身体機能が低下していた可能性があること、非転出群においては廃用を防止し有害事例を予防することに繋がった可能性があることが考えられる。転出群8名の受傷場所はベッドサイドであり、基本動作能力の評価や病室環境設定を適正化することなどが重要ではないかと考えられた。

    【まとめ】 当院リハ病棟から急性期病院へ転出した運動器疾患患者8名(2.4%)について検討を行った。転出群と比較し非転出群は入院から入棟までの日数は有意に短く、年齢が高い傾向にあった。2群間でのmFIM, cFIMに有意差は認めず、認知機能のみではなく環境の要因も影響することが考えられた。今回の結果を踏まえて、脱臼肢位や転倒対策への動作指導、環境設定、病棟看護師との連携の強化が必要であることが考えられた。

    【倫理的な配慮】 本研究はヘルシンキ宣言に沿って行い、対象者に十分な説明、理解、同意を得た上で実施した。

  • O-108 日常生活活動①
    江上 徹, 藤﨑 芳恵
    p. 108-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 内閣府によると、令和47(2065)年には65歳以上の人口率は38.4%に達して、国民の2.6人に1人の割合となる推計されている。また、要介護者等と同居している主な介護者の年齢について見ると、男性では72.4%、女性では73.8%が60歳以上であり、いわゆる「老老介護」のケースも相当数存在している。今回、自宅退院として老老介護が必要な患者様を担当した。結果、日常生活動作能力の向上は認められなかったが、本人・家族を中心としたチームアプローチにて自宅退院に至ったため、以下に報告する。

    【症例提示】 症例は、尿路感染症後の廃用症候群を呈した90歳代女性で身長159 ㎝・体重67.2 ㎏である。入院前は独居であり、家族は同敷地内に居住する次男夫婦(75歳以上)であった。既往として、左変形性膝関節症(保存的加療)で、腫脹・熱感・疼痛(NRS:10)が認められ、免荷の指示であった。日常生活動作は、全介助レベル(入院時46・退院時46)であった。理学療法評価は、左膝関節屈曲:5°P・伸展:-5°P(P:pain)であった。

    【経過】 入院後、大きな変化なく日常生活動作は、全介助レベルで経過。本人・家族と幾度となく話し合いを行い、意向を尊重し自宅退院の方向性となった。現状の身体機能で自宅生活を送る為のプランニングが必要であった。症例は廃用症候群を呈しており、身体機能・基本動作指導の両者を熟知しているPTが主となり、家族への情報収集(入院前の生活スタイル・介助状態等)を実施。チーム内で昼夜の介護状態・介助方法・家族の介護力・退院後に必要なサービス等を話し合い、①24時間スケジュール(サービス利用時・未利用時)を作成。これを基にチームで役割分担しサービス調整。②声かけ・動作介助方法を専門職と介助者で共有し統一。③各職種で家族への介助指導(移乗・おむつ交換・行為・体位交換)。家族指導は、老老介護予定で、今までは力持ち上げる介助方法であり、専門職・介助者で9回に分けて体の使い方等を直接指導(本人を交えての介助を6回実施)・関節指導(イラストや専門職が介助している動画を使用して3回)実施。④自宅訪問を行い本人・家族が介助しやすいベッド位置の提案・必要福祉用具(車椅子・スライディングボード・ベッドテーブル等)の提案。⑤外部のケアマネジャー・事業所と蜜に連絡・情報交換を行い、退院後に利用するサービス(訪問診療・訪問看護・訪問リハ・通所介護)を検討。継続したリハビリ・サービスと家族へのフォローができるように話し合いを実施し、退院へ至る。退院後、検討していたサービスを利用し自宅生活が継続できている。

    【考察】 今回、廃用症候群を呈した90歳代女性であった。また、老老介護となる家族であり、入院前の環境では更なる廃用を引き起こすリスクが考えられた。そのため、PTが主となり家族への情報収集・チーム内での役割分担・廃用予防のため、本人・家族の生活スタイルに合わせた24時間スケジュール作成・感染予防の為に短時間で複数回に分けての介助指導・環境提案を実施した。今後も老老介護による自宅退院の患者が増えてくると想定される。PTとして身体面の向上だけでなく、本人・家族が住み慣れた環境での生活を送れるようなアプローチ・提案する役割が必要であると考えられる。

    【倫理的配慮・説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:2301)。また、得られたデータは個人情報が特定できないよう十分な配慮をした。

  • O-109 日常生活活動①
    地村 綾, 歌野 文, 髙野 直哉, 芹川 節生
    p. 109-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 本研究の目的は、当院の運動器疾患を呈する患者の自宅退院に関して、在宅退院に関連する因子を明らかにすることである。また当院の回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期)の特徴として、個別性のある目標設定や退院先の環境に合わせたリハビリ提供を行えるように入院時訪問指導の取り組みを強化しており、アウトカム(入退等FIM、在棟日数等)にどのような影響があったのかを調査した。

    【方法・倫理的配慮】 令和4年4月から12月の期間において、当院の回復期病棟に入退院していた228名の患者を対象とした。カルテから疾患名、アウトカム、年齢、家族状況、介護度を調査した。転帰先の因子については、自宅と施設の転帰先を従属変数、説明変数をFIM運動・認知項目、介護者、介護度、性別、年齢としたLogistic回帰分析を行ない有意水準5%で調査した。在棟日数と入棟時運動FIMの関連性については、Spearmanの順位相関係数を使用した。入院時訪問指導については実施群(24名)、非実施群(204名)で群分けし、Mann-Whitney検定を使用し、2群間の差を比較した。欠損値のあるものは除外とした。本研究はヘルシンキ宣言に則り、調査を行った。

    【結果】 Logistic回帰分析にてOdds比は介護者(0.0547)、介護度(1.63)、理解(0.704)であった。(p<0.01)入院時訪問指導の実施群と非実施群での入棟時FIM運動・認知項目の差については、食事(p=0.02)、トイレ(p=0.04)、移乗ベッド(p=0.02)、トイレ(p=0.02)、階段(p=0.04)、表出(p=0.01)に有意差がみられた。しかし入院時訪問指導の有無で自宅退院、施設退院の割合、在棟日数には有意な差は認められなかった。

    【考察】 自宅復帰者の特徴として転帰先と家族構成について岩瀬らの先行研究によると85歳以上の超高齢者の在宅退院に影響する因子として同居家族の有無が抽出された。Giustiらも70歳以上の高齢者を対象とした研究で介助者の有無が転帰先に影響しているとの報告がある。本研究においても同様の結果を受けており、自宅退院患者の家族の同居有無で差がみられた。また3割が夫婦どちらかの介助者であることも結果としてみられた。転帰先と介護度について西村らの先行研究によると介護度が上がるにつれて、自宅退院率の低下を示しており、今回の研究でも同様の結果となった。個人因子の悪化が家族構成や介護保険の利用という社会的因子に影響していると考えられる。

     入院時訪問指導の有無では、運動器疾患において退院時FIM運動、利得に有意差が認められたと報告されている。入院時訪問指導により家屋内状況、食事などの生活習慣をについて情報収集することで、明確な目標を設定し、在宅生活を想定した医療を提供することで、上記項目のADLの改善が見込めたことが示唆された。

     今回、入院時訪問調査の有無での転帰先の割合や在棟日数に有意差は認められなかったが、今後の展望として入院時訪問調査の件数を増加することで、転帰先に必要な運動機能や社会的要因が明らかになるのではないかと考える。また入院時訪問指導実施する上で、御家族から今後の生活状況に対しての不安や介助量についてのコミュニケーションを行うことで御家族とスタッフとの信頼関係を築き、入院から退院までの経過を円滑に運ぶことができるのではないかと考える。

  • O-110 日常生活活動①
    上田 萌, 竹内 泉, 大平 清貴
    p. 110-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 令和2年度診療報酬改定によりリハビリテーション実績指数が引き上げられ、早期のADL獲得がより重要となっている。当院回復期リハビリテーション病棟(以下、回リハ病棟)では様々な併存疾患を抱える後期高齢者の入棟割合が高く、ADL獲得に難渋する場合を多く経験する。そこで退棟時の機能的自立度に影響を与える因子を明らかにしADL改善や予後予測の一助とすることを目的とした。

    【方法】 2018年11月~2019年12月に当院回リハ病棟に入棟した整形疾患患者で死亡例、急性期病院転院例、データ欠損例を除いた67例(男性17例、女性50例)の入棟時の年齢、FIM認知項目、BMI、Alb、簡易栄養状態評価法(Mini Nutritional Assessment:以下、MNA)、骨塩量、骨格筋量、四肢骨格筋量指数(Skeletal Muscle mass Index:以下、SMI)、1日平均単位数、在棟日数を調査し、退棟時のFIM運動項目と調査項目の関連を検討した。調査項目をShapiro-Wilk検定にかけ、結果より正規分布に従うAlb、骨塩量、MNAはPearsonの相関係数を用い、正規分布に従わないその他の調査項目はSpearmanの順位相関係数を用い解析を行った。すべての統計解析にはIBM SPSS Statistics version22を用いた。なお本研究ではデータの扱いに十分配慮しヘルシンキ宣言に基づき実施した。

    【結果】 対象患者の平均年齢は80.8±12.3歳であった。退棟時のFIM運動項目と相関があったのは入院時FIM認知項目(r=0.449、95%信頼区間0.294≦p≦0.6601、p<0.01)、Alb(r=0.284、95%信頼区間0.047≦p≦0.4907、p<0.02)、骨格筋量(r=0.295、95%信頼区間0.059≦p≦0.4998、p<0.015)、SMI(r=0.295、95%信頼区間0.059≦p≦0.4998、p<0.015)、在棟日数(r=-0.349、95%信頼区間-0.544≦p≦-0.119、p<0.01)であった。

    【考察】 入棟時のFIM認知項目やAlb、骨格筋量、SMIと退棟時のFIM運動項目には正の相関があり、認知機能低下や低栄養、サルコペニアの存在はADL獲得に影響を与えることが示された。先行研究では本邦の回リハ病棟では高率に栄養障害を認め、低栄養とサルコペニアはいずれもリハの帰結や身体機能と負の関連があるとされている。また身体機能とADL獲得の関連性についても多く報告されている。本研究では先行研究を支持する形となり、回リハ病棟に入棟する高齢整形疾患患者も影響を受けることが明らかとなった。また退棟時のFIM運動項目と在棟日数には負の相関があったことより、在棟日数を短縮するためには早期ADL改善の重要性が再認された。本研究での入棟者の平均年齢は80.8歳と高齢者が多く、後期高齢者が自立した生活を送るためには回リハ病棟入棟早期より栄養・運動療法双方に介入し認知機能や栄養状態、骨格筋量の維持が必要であると思われた。

    【まとめ】 入棟時の認知機能、栄養状態、サルコペニアの有無が退棟時の機能的自立度に影響を与えており、自立度が高いほど早期に退棟していた。

一般演題20[ 基礎 ]
  • O-111 基礎
    釜﨑 大志郎, 田平 隆行, 末永 拓也, 吉田 禄彦, 下木原 俊, 丸田 道雄, 韓 侊熙, 赤﨑 義彦, 日高 雄磨, 大田尾 浩
    p. 111-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに・目的】 我々は、足指把持力の評価において懸念すべき点を考慮した「立位での足指圧迫力」の評価方法を考案した。これまでに、筋力評価としての妥当性(釜﨑,2020)や転倒リスクを判別する臨床的有用性を報告してきた(釜﨑,2020)。しかし、足指の筋力評価において、どちらがより有用な評価方法なのかは明らかにされていない。そこで本研究の目的は、足指把持力と立位での足指圧迫力のどちらが重心移動能力と関係するのかを検証し、足指筋力のより有用な評価方法を示すこととした。ひいては、重心移動能力の向上を目的とした理学療法に寄与すると考える。

    【方法】 本研究は横断研究である。対象は、某大学のリハビリテーション学部生とした。リクルートは呼びかけおよびチラシの掲示で行った。なお、対象者の中に国内外トップレベルの競技者はいなかった。重心移動能力は、重心動揺計を用いて、A-P軸の最大重心移動距離によって評価した(Fukuyama K, 2013)。立位での足指圧迫力は、足指押力測定器を用いて評価した。踵は浮かさず、足指で床を圧迫するように力を入れることを指示した。なお、測定時の重心移動は許可しているが、機械の特性上垂直方向に足指で力を加えないと測定値は上昇しない構造になっている。また、足指把持力、握力、膝伸展筋力、navicular dropも評価した。統計処理は、各測定項目の相関をPearsonの相関分析で検討した後、重心移動能力を従属変数とした重回帰分析を実施した。model 1は立位での足指圧迫力と足指把持力を独立変数に投入し、model 2では共変量と考えられる変数を投入し交絡を調整した。重回帰分析の必要サンプルサイズは、効果量“large”、αエラー0.05、検出力0.8、独立変数6に設定した結果46名であった。

    【結果】 分析対象者は、必要サンプルサイズを満たす成人67名(19±1歳、男性64%)であった。相関分析の結果、重心移動能力と有意な相関があったのは立位での足指圧迫力のみであった(r=0.36, p=0.003)。次に、握力、膝伸展筋力、性別、年齢で調整した重回帰分析の結果、重心移動能力には立位での足指圧迫力のみが関係した(標準回帰係数:0.42, p=0.005)。

    【考察】 足指把持力は、バランス能力に関係しないと報告されており(Uritani D, 2016, Yamauchi J, 2019)、同様の結果が示された。一方、重心移動能力と立位での足指圧迫力には有意な相関があった。したがって、重心移動能力には足指把持力よりも立位での足指圧迫力の方が寄与しているという我々の仮説が支持された。重回帰分析では、立位での足指圧迫力のみが重心移動能力と有意に関係することが明らかになった(model 2)。この結果は、動員される筋が異なるためであると推察する。足指把持力は外在筋の筋力を反映する(Uritani D, 2016)が、立位での足指圧迫力は内在筋を評価していると考える。つまり、立位での足指圧迫力は、よりバランス能力を捉える内在筋を評価していることから、重心移動能力に関係したと推察する。本研究によって、健康成人の重心移動能力には、足指把持力よりも立位での足指圧迫力が関係し、立位での足指圧迫力を評価する臨床的有用性が示された。ひいては、立位での足指圧迫力を増強することで、重心移動能力を向上させる可能性が示唆された。

    【説明と同意、および倫理的配慮】 対象者には、研究の内容と目的を説明し、理解を得たうえで同意を求めた。本研究への参加は自由意志であり、参加を拒否した場合でも不利益にならないことを説明した。また、対象者は大学生であったため、成績には影響しないことを説明した。本研究は西九州大学倫理審査委員会の承認(21HUR23)を得て実施した。

  • O-112 基礎
    田中 貴士, 浦 大樹, 三次 恭平, 柳田 寧々, 古木 ほたる, 前田 拓哉, 上野 将紀
    p. 112-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 脳が損傷を受けると重篤な機能障害が生じる。近年、損傷を免れた神経回路の再編が、脳損傷後の機能回復を促す重要なプロセスとして報告されてきた。我々は、脳損傷マウスにおける運動機能の回復には、皮質脊髄路の神経発芽による回路再編が重要であり、自発的な走行運動が発芽を効果的に促すことを示してきた。しかし、これまでの研究成果の多くは若齢期の損傷動物の研究に依拠しており、脳損傷患者の多くが高齢者である現状とは乖離がある。本研究では、高齢マウスを用いて、自発的かつ継続的な運動が脳損傷後の神経発芽や運動回復を促すのか検証し、そのメカニズムの解明を目的とした。

    【方法】 本研究は、所属機関の動物実験委員会の承認(承認番号:動22-02、2018-21、2021-4)を得て実施した。

     実験には、C57BL/6Jの雄の若齢マウス5匹(10~15週齢)および高齢マウス65匹(22~25月齢)を用いた。高齢マウスを偽手術群、脳損傷の非運動群、脳損傷の運動群の3群にランダムに振り分け、麻酔下で片側運動野の脳損傷を作製した。運動群の自発的運動は走行ホイール(室町機械)を用いて実施し、各マウスのホイール回転数を記録した(24時間/日、7日/週)。運動は、脳損傷の4週前から開始し、損傷4週後までの計8週間継続した。次に、非損傷側の運動野へ神経標識剤を注入することで、頸髄での皮質脊髄路の神経発芽を組織学的に評価した。さらに、脳損傷から1週毎に麻痺側前肢の運動機能を評価した。統計学的解析として、2群間の検定では正規性および等分散性の検定の後、差の検定を行った。多群間の検定には一元配置分散分析とTukey-Kramer検定、運動機能のスコア比較には二元配置反復測定分散分析とBonferroni検定を実施した。最後に、脳損傷2週後に非損傷側運動野のRNAを抽出し、運動群と非運動群の脳内遺伝子を網羅的に解析・比較した。

    【結果】 高齢マウスでは脳損傷後の皮質脊髄路の神経発芽が生じず、運動機能が回復しない一方、自発的運動が発芽を増大させ(p<0.01)、機能回復を促す(p<0.05)ことが示された。脳内遺伝子の解析の結果、運動群では概日リズムに関連する遺伝子に増加が認められた。さらに、自発的運動の継続が高齢マウスの昼夜の概日リズムを若齢期に類似したパターンに回復させることも明らかになった。

    【考察】 高齢な脳損傷マウスでは、神経回路の再編に必要な皮質脊髄路の発芽がほとんど得られず、機能回復が困難であることが明らかになった。一方、自発的かつ継続的な走行運動が加齢により減少していた概日リズム遺伝子を増加させ、神経発芽や運動機能回復を促進させることが示された。

    【まとめ】 自発的かつ継続的な運動は、加齢で低下する概日リズムや脳損傷後の神経修復力を回復させる効果がある可能性が示された。

  • O-113 基礎
    有竹 洋平
    p. 113-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【緒言】 生活のほとんどをベッド上で生活する入院患者(以下、寝たきり患者)へのリハビリテーション(以下、リハビリ)は、「最期まで人間らしさの保証」の1つとして「著しい関節の拘縮の予防」が重要とされている(大田2002)。関節拘縮の継時変化についてはいくつか報告がなされているが、倫理的問題もありリハビリ未介入での報告は見当たらない。

     今回、関節可動域(以下、ROM)測定の定期評価を行っている症例に、COVID-19による病棟閉鎖でのリハビリ中止期間があり、リハビリ未介入期間のROM変化を捉えたので報告する。

    【対象】 対象は当院療養病棟に入院する日常生活自立度Cランクに該当する意思疎通が困難な患者であり、COVID-19での病棟閉鎖によるリハビリ中止期間があった者とした。

    【方法】 基本情報として、年齢、性別、入院期間、疾患名、月平均取得単位をカルテより調査した。ROM測定は、日整会・リハ医学会による「関節可動域表示ならびに測定法」に則って行った。ROM測定は、終末期ケアに関わりが多く、かつ他の関節拘縮からの影響が少ない、肩関節外転(以下、肩外転)、肘関節伸展(以下、肘伸展)、膝関節伸展(以下、膝伸展)、足関節背屈(以下、足背屈)とした。測定時期はベースライン(以下、BL)および3か月、5か月の3回行った。なお、4か月から5か月までの1か月間がリハビリ中止期間であった。

     統計分析は、3回の測定結果にFriedman検定を行い、有意差のあった項目には多重比較Bonferroni法を行った。また、寝たきり患者のROM測定におけるMDC95を基準として、それ以上の悪化または改善した関節数を算出した。統計学的分析にはSPSSを使用し有意水準は5%とした。また、本研究はヘルシンキ宣言に則り、患者家族の同意を得て行った。

    【結果】 対象関節は9名18関節とした。対象の平均年齢は84.1±9.8歳、女性4名男性5名、入院期間は1.1±1.2年であった。BLから4か月までの月平均取得単位は13.5±3.8単位であり、中止期間は0.6±0.5単位であった。リハビリ内容は、評価期間を通してROM訓練や座位訓練が主であった。入院の原因となった疾患は肺炎が4名であり、脳血管障害の既往は5名に認めた。各ROMの中央値(最大値-最小値)はBL/3か月/5か月で、肩外転65(145-40)/65(145-15)/55(115-20)、肘伸展-35(0--120)/-45(0--110)/-40(0--115)、膝伸展-40(0--100)/-40(0--110)/-60(-5--120)、足背屈-10(15--50)/-10(20--50)/-15(20--50)であった。Friedman検定では、肩外転と膝伸展に有意差があり、多重比較の結果より肩外転はBLと5か月で、膝伸展は3か月と5か月で有意差を認めた。また、ROMのMDC95以上の悪化/改善を認めた関節数はBLから3か月が16関節/14関節、3か月から5か月が25関節/9関節、BLから5か月が30関節/9関節であった。全症例で3か月から5か月でいずれかのROMの悪化を認めた。

    【考察】 COVID-19によるリハビリ中止期間を含むROMの経時変化を追った。3回の測定結果より、3か月と5か月との間で膝伸展のみが有意な悪化を認めた。この要因としては、寝たきり患者の臥床姿勢は膝伸展制限があると常に膝屈曲位の姿勢を取りやすく、また日常のケアのみでは膝伸展運動を行う機会が少ないことが影響したと考える。しかし膝伸展以外でも、3か月から5か月において全症例のいずれかのROMにMDC95以上の悪化があり、長期的な寝たきり患者であってもリハビリ未介入は廃用性のROMの悪化を引き起こす事が示唆された。

     本研究の限界として、3か月から5か月のROM測定はリハビリ介入と中止の期間が混在しており、純粋な廃用として捉える事が出来なかった。また、症例数が少なく具体的なROM変化の要因を示すことはできなかった。

  • O-114 基礎
    高野 吉朗, 下田 武良, 松田 憲亮
    p. 114-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 高齢者は、加齢に伴い骨格筋量が減少し筋力も比例して低下する。しかしながら、筋量減少が認められないにも関わらず、筋力が低下する高齢者も少なくなく、それらは筋実質が脂肪組織に置換されることで、筋力が発揮されないことが先行研究で明らかになっている。したがって、骨格筋の機能評価は、筋厚などの量的評価のみならず、脂肪細胞の増加や結合組織の変化を捉える筋輝度などの質的評価も重要となる。近年、それらを計測する超音波計測が臨床において普及しているが、高齢者における筋力や立ち上がり率であるRate of force development(以下、RFD)に及ぼすかは明らかになっていない。本研究では、高齢者の大腿直筋を超音波診断装置で計測し、骨格筋の質的変化が筋力等と関係があるかを検証した。

    【方法】 対象は地域在住高齢者18名(男性10名、女性9名)、平均年齢64.3±3.1歳であった。除外基準は、下肢に整形外科疾患の既往を有する者、活動性の高い運動を日常的に継続している者とした。骨格筋の機能評価として、大腿直筋の筋厚、筋輝度、筋硬度、羽状角を、超音波診断装置(LOGIQ S8, GE社製)とリニアプローブ(GE社製)を用いて計測した。計測は超音波検査師1名が担当し、事前に信頼性を確保するため級内相関係数にて、ICC≧0.81を確認した。撮影された画像は、画像解析ソフトImage J(N IH)を用いて解析した。筋力評価は、膝伸展筋力、RFD(100・200)および大腿直筋の筋電図を計測した。膝伸展筋力は、Biodex System 4(Biodex社製)を用い、膝伸展等尺性運動の最大トルクを計測した。RFDは膝伸展筋力の出力時をゼロとして、0-100・100-200ms時におけるトルク値を時間で除して算出した。筋電図はEMGマスターKm-104(メディエリアサポート社製)を使用し、膝伸展筋力測定中の大腿直筋の活動電位を計測した。サンプリング周波数は1k㎐とし、最大随意収縮5秒間のうち中央3秒間の積分値を算出した。統計解析は、1)骨格筋機能と筋力(最大トルク・RFD・筋電図)との関係性について、Spearman検定を用いた。2)性差の比較について、Mann-WhitneyのUの検定を用いた。SPSS ver27を用いて有意水準を5%とした。

    【結果】

    1)筋輝度において、膝伸展筋力(相関係数:-0.864)、筋電図(-0.562)、RFD100(-0.506)、RFD200(-0.527)に有意な関係性を認めた。

    2)性差の比較では、女性の筋輝度に有意に高かった(女性:112.4 vs 男性:64.6 a. u. )。男性は膝伸展筋力、筋電図、RFD100, RFD200において有意に高かった。

    【まとめ】 高齢者の筋輝度が筋力と関係性を認めたことで、筋厚の量的変化より質的変化が重要であることが明らかになった。加齢による筋輝度上昇は、選択的に速筋線維が萎縮し、筋細胞間隙部位に脂肪組織や線維組織が蓄積することが原因であることが知られている。今回の結果から、最大筋力や瞬発力を示すRFDで必要な速筋線維の萎縮と非収縮組織である筋輝度に関係が強いと考えられる。性差の比較では、筋輝度が女性に有意に高かった。その他の検査項目では男性が有意に高いため、女性においては骨格筋の量的評価より質的評価がより重要であることが明らかになった。これらから、超音波計測を用いた質的評価は、高齢者の骨格筋機能を捉える上で重要と考えられる。

  • O-115 基礎
    永江 槙一, 戸村 莉帆, 里 勇汰朗, 長谷川 隆史, 中村 雅俊
    p. 115-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 膝蓋下脂肪体(IFP)は膝関節構成体の中で最も疼痛閾値が低いことが報告されており、膝関節術後のAnterior knee painの要因の一つである。また膝関節術後は内側広筋(VM)の選択的筋萎縮が生じることやIFPの線維化、膝蓋骨高位の変化などが生じることも報告されている。超音波エコーを使用することでIFPが筋収縮に伴い、関節内から近位へと移動する様子が観察でき、IFPの線維化に対する予防・治療効果があると考えられている。膝関節の術後リハビリテーションにおいて頻繁に用いられる大腿四頭筋セッティング(QS)における大腿四頭筋の筋厚の変化がIFPの動態変化に及ぼす影響を検証することで膝疾患患者の治療の一助になると考える。そこで本研究の目的はQS時の大腿四頭筋の筋厚とIFPの動態変化の関係を明らかにすることとした。

    【対象および方法】 膝関節に既往のない6例12膝(全例男性)を対象とし、平均年齢は36.7±8.7歳であった。大腿四頭筋筋厚とIFPの動態評価には超音波診断装置を使用した。測定肢位は長坐位、膝関節屈曲20°とし、安静時、最大収縮によるQS時のVM、中間広筋、外側広筋(VL)、大腿直筋の筋厚を測定した。IFPは膝蓋骨遠位1/3、内外側の前後幅とpatellar tendon-tibia angle(PTT角)を測定した。各組織の厚さ、PTT角の測定値は3名の検者の平均値を算出した。統計解析は統計解析ソフトウェア(SPSS Ver. 22)を使用し、Shapiro-Wilk検定にて正規性を確認した。また、条件間の差はWilcoxon符号付順位検定を実施し、測定条件間の差の相関はSpearman順位相関係数を算出した。尚、それぞれの有意水準は5%に設定した。

    【結果】 条件間の差は、QS時にVLでのみ有意に低値、その他の項目は全て高値を示した(p<0.05)。IFP前後幅の平均は内側0.9 ㎜、外側は1.4 ㎜増加した。また、測定値間の相関については、VM差とIFP外側差にのみ有意な正の相関が見られた(p<0.05, ρ=0.81)。

    【考察】 IFPは機能的な変形によりPF関節の緩衝作用や関節軟骨と膝蓋靭帯の摩擦を軽減する作用を担う。本研究ではVM差とIFP外側差に有意な正の相関を認めた。先行研究において、VMの選択的収縮により膝蓋骨の内側移動および傾斜が増加するとの報告や、健常膝ではIFPの動態を受け入れる膝周囲組織、特に外側膝蓋支帯の柔軟性を有しているとの報告もあり、それらがIFP外側の移動量増加の要因になったと考える。今回VM差とIFP外側差に正の相関が見られたことからVMの収縮力がIFPを外側に押し出す量に関係している可能性が示唆された。しかし、本研究では膝蓋骨アライメントや軟部組織の張力などは測定できておらず筋収縮による膝周囲組織への影響は不明確である。

     またIFPの前後幅の変化量に関しては、内外側いずれも先行研究に比べ低値であった可能性があり、本研究ではIFP内側と外側の移動量には相関がなかった。IFPの体積や動態に関しては被験者特性の影響も考えられるため、今後被験者数を増やし検証していきたい。

    【結語】 QS時の筋厚とIFPの動態に関してVM差とIFP外側差に有意な正の相関を認めた。IFPの動態変化には筋機能に加え、膝蓋骨アライメントや膝周囲組織の柔軟性なども影響している可能性が示唆される。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、個人情報に対する倫理的配慮を行うとともに、書面にて発表に対する承認を得た。尚、本研究は発表者が所属する和仁会病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号:230502)。

  • O-116 基礎
    福田 将史, 川田 将之, 竹下 康文, 中島 将武, 宮﨑 宣丞, 宇都 由貴, 松浦 央憲, 下世 大治, 木山 良二
    p. 116-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 荷物の持ち上げ、持ち下げ動作を指すリフティング動作は、腰椎屈曲位で大きな負荷がかかるため、腰痛の原因の1つとして挙げられている(Blafoss, 2020)。安全にリフティング動作を行うためには、腰椎の安定化が不可欠であり、腰背部筋の中でも特に腰部多裂筋が寄与することが報告されている。これまで表面筋電計を用いた報告はあるが、その動的安定化のメカニズムは明らかになっていない。本研究では、腰椎の並進運動を許容した筋骨格モデルを用いて、リフティング動作中の腰部多裂筋による腰椎の動的安定化のメカニズムを分析した。

    【方法】 対象は健常成人男性7名(年齢:22.4±0.9歳、身長:1.72±0.05m、体重:62.6±6.2 ㎏)とした。対象動作は肩関節0°・肘関節90°屈曲位にて10 ㎏の荷物を持った立位姿勢から4秒間で正面の高さ約15 ㎝の台に下ろす動作とした。動作中、膝関節は可能な限り屈曲しないように指示した。床反力計とモーションキャプチャーシステムOptiTrack Flex 13にて得られた情報を筋骨格モデルシミュレーションソフトAnyBody 7.3に入力した。

     本研究では、腰椎の並進運動を許容しない標準の筋骨格モデル(標準モデル)に加え、L4/5の並進運動を許容する筋骨格モデル(並進運動モデル)を作成し、2つのモデルから得られる結果を比較することで、腰椎の動的安定化のメカニズムを分析した。L4/5の並進運動は前後・内外方向へのL4椎体の並進運動と定義し、筋や靭帯、関節包によって制御する設定とした。

     筋骨格モデルシミュレーションにてL4/5の関節反力、左右の腰部多裂筋、最長筋、腸肋筋、腰方形筋の筋張力を算出した。関節反力はL5椎体のローカル座標系における圧縮力を算出した。筋張力はそれぞれL4椎体に付着する筋のみを対象とし、左右の平均値を算出した。圧縮力、筋張力は体重にて正規化した。動作時の胸郭前傾角度が30°、60°、90°の値を比較した。

     3試行の平均値を代表値とし、シャピロ・ウィルク検定の結果に基づいて、2つのモデルから得られた値を対応のあるt検定もしくはウィルコクソンの符号付順位検定にて比較した。有意水準は5%とした。

    【結果】 並進運動モデルは標準モデルと比較し、いずれの肢位でも圧縮力が有意に大きかった(p<0.001)。腰部多裂筋と腸肋筋の張力もいずれの肢位においても並進運動モデルで有意に大きかった(p<0.001)。腰部多裂筋の張力は並進運動モデルで他筋に比べ特に高い値を示し、各肢位で標準モデルの17.8倍、9.3倍、5.9倍であった。

    【考察とまとめ】 並進運動モデルでは標準モデルに比べ、L4/5の圧縮力と腰背部筋の張力が有意に大きい値を示した。特に腰部多裂筋の張力が大きい値を示したことから、並進運動の制御に大きく寄与することが示唆された。多裂筋は矢状面において、腰椎と平行に走行する線維やL4椎体から後下方に走行する線維を有している。体幹が前傾した肢位では、腰椎の関節面が前傾するため、上半身と荷物に作用する重力によって、L4/5に剪断力が生じる。多裂筋は走行を考慮すると、L4/5の圧縮力を高めるとともに、L4椎体を後方に牽引することで、腰椎の動的安定性に寄与すると考えられた。今後、様々なリフティング動作中の腰部多裂筋による腰椎安定化のメカニズムや腰部多裂筋のトレーニング方法について検討を進めていきたい。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は鹿児島大学桜ヶ丘地区疫学研究等倫理委員会の承認を受け(承認番号:220187疫)、ヘルシンキ宣言に基づいて研究を行った。対象者には事前に十分説明を行い、同意を得た。

一般演題21[ 成人中枢神経⑥ ]
  • O-117 成人中枢神経⑥
    竹田 光希, 林田 拓哉, 平原 智雄
    p. 117-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 視神経脊髄炎(以下、NMO)は、重度の視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする中枢神経の炎症疾患であり多彩な症状を呈し、再発と寛解を繰り返すことが特徴である。急性期治療後に麻痺の改善が乏しい場合は、重度の後遺症を残すことが多いと言われている。今回重度対麻痺、感覚障害、排尿障害を呈した抗アクアポリン4抗体陽性NMO患者に対し、機能改善に応じた段階的な理学療法を実施し歩行能力改善がみられた為、報告する。

    【症例紹介】 60歳代女性。排尿困難の自覚後に発熱と両下肢の脱力が出現。徐々に症状が悪化し、重度対麻痺を認め近医へ入院。急性期治療を経て第65病日に当院回復期病棟へ転院。初期評価では、両下肢不全対麻痺や深部感覚重度鈍麻、四肢のしびれ、神経因性膀胱による尿閉を認めた。視覚障害はなし。筋力MMT体幹屈曲2、体幹伸展2、股関節屈曲3、股関節伸展2、股関節外転2、膝関節伸展3、足関節背屈2レベル。筋緊張は腹部、股関節周囲に低緊張を認め下腿三頭筋、大腿四頭筋は亢進していた。また、深部感覚障害により両下肢運動失調を認めた。平行棒内歩行介助レベルであり立脚期は膝のロッキングがみられ、遊脚期は失調を認め足底の接地位置にもバラつきがあり踵打歩行を呈していた。ADLは起居、移乗動作に介助を要しFIMは55点。Berg Balance Scale(以下、BBS)2点、総合障害度がExpanded Disability Status Scale(以下、EDSS)8.5点であった。

    【経過】 介入初期には臥位でのドローイン、ブリッジ運動を行い腹部筋活動の促通や股関節伸展筋の収縮を促し、機能改善に応じて段階的に四つ這い訓練や膝立ち訓練へ移行し運動負荷の調整を行った。運動失調に対してはエルゴメーターを実施した。初期の歩行訓練ではUDフレックスAFOショートタイプを装着し足部の安定化を図り、腹部の低緊張に対しマックスベルトを装着した。排泄に関しては、第123病日に自尿がみられるようになり、姿勢保持や動作遂行中の体幹の安定性向上、下肢の協調性の改善に伴い歩行能力が向上し第174病日に病棟内歩行車歩行自立となった。最終評価(第209病日)では筋力MMT体幹屈曲3、体幹伸展3、股関節屈曲4、股関節外転3、股関節伸展3、膝関節伸展4、足関節背屈4レベルまで改善した。TUGテスト(歩行車)19秒、10m歩行(歩行車)13秒、BBS22点、FIM106点、EDSS6.5点となった。退院時はセーフティーアームウォーカー歩行自立となった。

    【考察】 本症例は、重度対麻痺による自立歩行困難と尿閉である事が大きな課題であった。介入初期より腹部の筋活動の促通を行ったことで腹筋群の筋活動の向上により姿勢制御が改善し、排尿障害においても腹圧が高まり排尿機能の改善に関与したと考える。また、重心や支持基底面を調整しながら段階的に四つ這い訓練や膝立ち訓練にて体幹、殿筋群の運動学習を行ったことで姿勢保持や動作遂行中の体幹の安定性向上がみられた。エルゴメーターは立位姿勢制御や歩行時の身体動揺に対し有用とされており、歩行の筋活動に高い類似性が認められている為、歩行にかかわる神経筋活動様式の再学習となり、一定のペースで律動的な下肢の交互運動が可能となったことで協調性障害の改善が得られ歩行の安定化に繋がったと考える。

    【まとめ】 今回、重度対麻痺を呈するNMO患者に対して長期にわたり段階的に運動負荷を調整し理学療法を行ったことで機能改善やADL能力向上がみられた。また、再発と寛解を繰り返すとされており退院後も在宅生活の中での支援や地域医療機関との連携など包括的な介入が必要である。

    【倫理的配慮】 本発表にあたり、本人に目的や内容、個人情報の取り扱いについて口頭にて説明を行い、同意を得た。

  • O-118 成人中枢神経⑥
    川上 翔三, 佐竹 亮
    p. 118-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 皮質橋網様体路は、同側性に支配する予測的な姿勢制御に関わる神経ネットワークであり、体幹、非麻痺側股関節の伸展活動を保障すると考えられている。体幹、非麻痺側の姿勢制御を担う皮質橋網様体路とPusher現象との関連性を明らかにすることは、Pusher現象の効果的な介入を検討する上で重要である。先行研究において、予測的な姿勢制御に関わる皮質橋網様体路の損傷とPusher現象予後との関連性について報告しているものは少ない。

     本研究では、被殻および視床出血後にPusher現象を呈した者を後方視的に調査し、皮質橋網様体路の損傷の有無とPusher現象予後との関連性について調査することを目的とした。

    【方法】 2017年1月1日~2022年12月31日までに当院回復期病棟に入院した初発の被殻および視床出血患者で、Pusher現象の評価であるSCPの合計点数が1.75≦の患者を対象とした。

     対象の一般情報(年齢、性別、麻痺側、病型、入退院時の下肢のBrunnstrom stage、SCPの点数、FIMの移動項目の得点)を当院カルテ上より後方視的に調査した。

     また、発症2ヶ月後のCT画像を用いて、松果体及び八の字レベルでの皮質橋網様体路損傷の有無、姿勢定位に関連する領域である視床後外側部、島皮質後部への損傷の有無、皮質橋網様体路と姿勢定位関連領域両方の損傷の有無を調査した。先行研究に基づき松果体レベルでの皮質橋網様体路の走行位置は、内包後脚前方50%と仮定。八の字レベルでの皮質橋網様体路の走行位置は、側脳室最前部をA、側脳室最後部をPとし、AP間の距離が0.2~0.5の位置で側脳室外壁と囲む範囲とした。

     対象者を退院時のSCPの点数が1.75≦の者をPusher現象残存群、1.75>の者をPusher現象改善群に群分けし、2群間で比較した。

     統計解析ではt検定、Mann-Whitney’s Utest、Fisherの正確確立検定を行い、有意水準はいずれも5%未満とした。

    【結果】 対象の平均年齢は66.2±10.7歳、男性15名、女性12名、右片麻痺9名、左片麻痺18名。2群の内訳は、Pusher現象残存群9名、Pusher現象改善群18名であった。両群の比較では、年齢、入退院時のSCPの点数、FIM移動項目の点数に有意差を認めた。また、皮質橋網様体路の損傷の有無においては、残存群で9名、改善群では11名が損傷を認め、皮質橋網様体路と姿勢定位関連領域両方の損傷の有無では、残存群で9名、改善群では8名が損傷しており、それぞれで有意差を認めた。

    【考察】 本研究結果において、皮質橋網様体路の損傷の有無に有意差を認め、体幹・非麻痺側への姿勢制御障害が生じることでPusher現象予後に影響すると推察された。皮質橋網様体路は大脳皮質から内包まで皮質脊髄路を近接して走行する為、これらを確認することは重要であると考えられる。また、姿勢定位に関連する視床外側部、島皮質後部はPusher現象の責任病巣に挙げられており、皮質橋網様体路の損傷と合併することでPusher現象が重症化し易いことが挙げられた。

     先行研究において、Pusher現象改善に及ぼす要因として、年齢、USN、感覚障害、認知機能等が挙げられており、皮質橋網様体路及び姿勢定位に関連する領域の損傷を確認することは、Pusher現象予後を予測する因子の一つになる可能性が考えられたが、今後相関分析や多変量解析を進め、さらに関連性を明らかにしていきたい。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:2216)。また、得られたデータは個人情報が特定出来ないよう十分な配慮をした。

  • O-119 成人中枢神経⑥
    西原 志生
    p. 119-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 橋出血によりlatero pulsion、右片麻痺、運動失調、重度感覚障害を呈した症例を担当した。回復期入院中、慢性腎不全と高血圧症に対して内服薬による管理が行われていたが、高血圧の持続や腎機能の低下に伴い神経症状増悪を繰り返し、徐々に身体機能やADL能力低下が進行した。本症例の理学療法において、高血圧症と慢性腎不全のリスク管理に配慮しながら目標設定を再考することで自宅退院が可能となったので報告する。

    【症例紹介】 50歳代の女性。診断名は橋出血。既往歴は慢性腎不全(CGA分類G5A3)、高血圧症。61病日目に回復期へ入院。理学療法評価にてFMA右上肢55点、下肢23点。Scale for the Assessment and Rating of Ataxia(SARA)26点、感覚は右上下肢重度鈍麻。Burk latero pulsion scale(BLS)9点。立位保持、移乗動作は軽介助。Berg Balance Scale(BBS)19点、歩行器歩行中等度介助。FIM77点。自宅は賃貸アパートのため、改修は不可能であった。

    【経過及び結果】 73病日目から152病日目の間に運動失調、感覚障害の増悪を繰り返したが、CT、MRI検査では異常を認めなかった。最も神経症状が増悪した145病日目の血液検査でBUN80.3 ㎎/㎗(入院時59.4)、Cr9.88 ㎎/㎗(入院時7.14)と増悪。理学療法評価にてSARA9.5点から22点、感覚障害の増悪も認め、FIM107点から95点へ低下した。最終時、FMA右上肢60点、下肢33点。SARA10.5点、感覚は右上下肢、表在感覚正常、深部感覚重度鈍麻、BLS0点、BBS45点。立位保持、移乗動作は修正自立。歩行器歩行、伝い歩き自立。FIM104点。神経症状増悪前、屋内は独歩自立、屋外は杖歩行自立を目標としていたが、運動失調と感覚障害の増悪により、この目標は困難と判断した。また、屋内での歩行器歩行は、本症例の意向や家屋環境から困難であった。その為、本人や家族と自宅内の環境調整について話し合い、ベストポジションバーの設置による伝い歩き自立を最終目標とした。

    【考察】 本症例は回復期入院中、運動失調と感覚障害を主とした神経症状増悪を繰り返した。画像検査では脳に新規病変はなく、尿毒症性脳症と診断された。本症例では145病日目、BUNとCrの上昇と並行して感覚障害の増悪を認めた。内科的合併症に対するリスク管理として、理学療法では血圧管理(収縮期血圧160 ㎜Hg以下)、四肢の浮腫、貧血症状、倦怠感などの出現に注意して介入を行った。歩行練習時、血圧管理を行い、歩行距離や歩行速度の強度設定を行った。歩行距離や歩行速度の増加に伴い血圧上昇を認めたが、修正ボルグスケールにて2から3と疲労感を感じることはなかった。そこで、血圧上昇を認めず、疲労感を感じない範囲で積極的に歩行練習を導入した。

     また、増悪する感覚性運動失調に対して麻痺側下肢に弾性包帯を使用した立位、歩行練習を行った。弾性包帯の使用はメカノレセプターや筋紡錘の感受性を高め、感覚フィードバック量を増加させるとされ、運動学習が促進され、身体機能、ADL能力の向上に繋がったと推測する。

     神経症状増悪により、目標設定と治療に難渋した症例であったが、リスク管理と適切な目標設定が入院中の活動量向上に繋がり、自宅退院を可能にしたと考える。

    【倫理的配慮、説明と同意】 対象者に同意を得た上で、当法人の研究倫理審査委員会の承認を得た。

  • O-120 成人中枢神経⑥
    岩﨑 健志, 村上 賢治, 安田 広樹
    p. 120-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 pusher症候群(以下、PS)は片麻痺患者の基本動作を障害し、リハビリテーションを阻害する因子の一つに挙げられる。また廃用症候群は活動量の低下や不動で筋萎縮が生じ効果的な回復を阻害するといわれる。特に麻痺の重症度と基本動作能力が脳卒中例の廃用性筋萎縮に関連する要因として挙げられる。今回在宅復帰希望のPSを有した廃用症候群患者の移乗動作能力に注目し介入したため報告する。

    【症例紹介】 70代男性、体重は61.2 ㎏、身長は170.0 ㎝、BIMは21.18。50代で脳梗塞発症し右片麻痺、失語症を呈しながらもキーパーソンである70代妻と自宅で暮らしていた。自宅では車椅子、L字柵、手すり等を使用してADL動作は概ね自立。PS症状は安静座位時軽度傾いているレベル。20XX年に急性胆嚢炎の手術のため入院、その後自宅退院するも入院中に廃用が進んでおり再入院。再入院後誤嚥性肺炎を繰り返し、ベッド上での生活となった。入院時本人のdemandは自宅復帰であり、家族からは3食離床できれば自宅復帰可能との話があった。入院当初は、座位Scale for contraversive pushing(以下、SCP)で2.75点。Brunnstrom recovery stage(以下、BRS)は上肢Ⅱ、手指Ⅰ、下肢Ⅱ。Gross muscle test(以下、GMT)は、非麻痺側下肢にて屈筋、伸筋共に3。握力は(R/L)0/22 ㎏で右下肢には浮腫がみられ、下腿最大周径は(R/L)29/27 ㎝であった。FIMは35点、移乗項目は1点であった。

    【経過】 介入期間は50日で、週に6日、理学療法として40分/日介入した。介入内容として、PSによる中心軸の変異の修正を目的としたリーチ動作練習を実施した。姿勢鏡を用いた視覚情報の入力と必要に応じてリーチ動作の介助を行うことで非麻痺側への重心移動が可能となった。また、非麻痺側筋力増強目的として起立練習、車椅子自走練習を実施した。非麻痺側筋力低下が著明であったため起立練習は座面の高さを60 ㎝から開始し、最終的には47 ㎝から垂直棒を使用して自力での起立が可能となった。さらに入院中の3食離床と福祉用具選定、家族への動作指導を実施した。

    【結果】 入院59日目の最終評価はBRS変化なし。座位でのSCPが1.75点とPSの改善を認めた。またGMTは非麻痺側屈筋、伸筋共に4、握力は(R/L)0/23 ㎏、下腿最大周径は(R/L)28/29 ㎝と筋肉量と筋出力の向上を認めた。FIMは41点、移乗項目は4点と軽介助レベルでの移乗動作を獲得できたことで自宅退院となった。

    【考察】 PSに対するアプローチとして、鈴木らは「中心軸を本来の中心軸の位置に戻すことが基本であり、そのために身体の両端の感覚、認知を学習させる必要がある。」と報告している。本症例においても鏡を用いたリーチ練習において正中軸の修正がみられ、座位、立位における非麻痺側への重心移動が可能となった。しかし、本症例は廃用症候群による筋力低下、筋萎縮が著明であったため、正中軸の修正や重心移動の改善だけでは移乗動作獲得には不十分であった。起立練習や移乗動作練習を段階的に難易度調整したことと、PSに対する練習を並行して実施したことで成功体験が蓄積され、PSを有しながらも移乗動作を獲得することに繋がったと考える。また、松井らは「垂直棒を用いた歩行訓練や立ち上がり訓練は、pusher現象をブロックする効果が期待できる。」と報告しており、本症例においても自宅退院するにあたり垂直棒を選択したことでPSの出現を緩和し、介助量軽減に繋げることができた要因と考える。本症例のようにPSを有していても筋力向上や環境調整、成功体験の蓄積による移乗動作の獲得で退院後の臥床時間延長によるさらなる廃用を予防でき、活動性向上による2次的障害の予防にも繋がると考える。

  • O-121 成人中枢神経⑥
    松本 海地, 中島 裕太, 田中 康則, 森 義貴, 竹内 睦雄, 三宮 克彦, 木原 薫
    p. 121-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 Pusher現象への介入として歩行練習の介入効果を示した報告があるが、本現象を呈する患者の歩行練習は介助量が大きく、安全に実施することが困難なケースをしばしば経験する。

     今回、姿勢鏡と壁などの垂直指標を活用した立位練習を集中的に行い、Pusher現象が消失に至った右半球損傷の症例を経験した。その治療効果と具体的な介入内容を以下に報告する。

    【症例紹介】 症例は、右被殻出血を発症した50歳台の男性である。保存的治療後、第28病日に当院へ転院した。意識障害はJCS:Ⅰ-3で、失語症の影響により指示理解は不良であったが、従命反応は良好であった。Fugl-Meyer Assessment(FMA)下肢運動項目は8/34点、感覚項目は6/12点であった。高次脳機能障害は、行動性無視検査(BIT)において半側空間無視(USN)を認めた。Scale for Contraversive Pushing(SCP)が2.25/6点、Burke Lateropulsion Scale(BLS)が7/17点であり、Pusher現象は陽性と判定した。歩行能力は、Functional Ambulation Categories(FAC)が0:歩行不能であった。歩行練習では、介助量が多く十分な量の歩行量を安全に実施することが困難であった。そのため、治療方針はPusher現象を軽減させること、到達目標は歩行練習が一人介助で行えることにした。

    【経過】 第31病日に長下肢装具を使用した歩行練習を試みたが、介助量が多く1人介助では安全な実施が困難であったため、立位練習を選択し介入を変更した。具体的な介入方法は、姿勢鏡と壁の垂直指標と長下肢装具を用いて、①自らの姿勢の乱れの確認、②能動的な非麻痺側方向への重心移動、③正中軸を超えた非麻痺側への重心移動、④非麻痺側へのリーチ練習を実施した。これらの立位練習を20分/日、週に5回の頻度で3週間実施した。

     第34病日から、姿勢鏡を使用して姿勢の乱れを自覚し、療法士が誘導しながら非麻痺側への重心移動を繰り返し実施した。練習環境は、壁側を非麻痺側として寄りかかる様に設定した。第44病日には、能動的に非麻痺側への重心移動が、誘導することなく実施出来るようになったことから、輪投げを利用したリーチ練習を開始した。

     第50病日の理学療法評価では、FMA下肢運動項目は16/34点、感覚項目は6/12点であった。SCPが0/6点、BLSが1/17点となり、Pusher現象は消失したと判定した。歩行能力はFACで2:介助歩行レベルとなり一人介助での歩行練習が可能となった。

    【考察】 Pusher現象に対する介入方法は、ロボットアシスト歩行トレーニングや視覚的フィードバックを用いた立位練習などが報告されている。今回、長下肢装具を用いた歩行トレーニングで顕著にPusher現象がみられた症例に対して、視覚的フィードバックを用いた立位練習を集中的に実施した。Pusher現象は右半球損傷例において、①運動障害、②感覚障害、③視野障害もしくはUSNのいずれも伴う場合、回復が遅延しやすいとされている。本症例は、Pusher現象が残存しやすい特徴を有していながら比較的早期にPusher現象が消失した。症例はUSNが陽性であったが、視覚的な情報を認知しやすく、姿勢鏡を使用した視覚フィードバックにより自己の姿勢の乱れを自覚し、垂直位を学習することが可能であった。正中軸を超えて非麻痺側への重心移動を繰り返し実施したことで、身体垂直の認知的な歪みが改善されたことによりPusher現象は消失したと考える。このことから、視覚的フィードバックを用いた立位練習は、Pusher現象の改善に寄与することが示唆された。

    【倫理的配慮】 本報告にあたり、症例の個人情報とプライバシー保護に配慮し、症例報告に対する十分な説明をし、理解を得た上で、口頭及び書面で同意を得た。

  • O-122 成人中枢神経⑥
    藤﨑 拡憲, 福元 隼人, 野中 陽紫, 佐藤 紗香, 松村 忠明
    p. 122-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 当院の回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)では、生活再構築を目標に多職種協働で患者の病棟生活のマネジメントを行い、リハビリテーション提供時間以外の21時間に何を行うかをチームで協議を重ねている。取り組みとして2020年より看護師主導の病棟訓練導入を推奨しているが、調整不足で十分な介入に至っていないケースもある。

     今回、回復期リハ病棟入棟の患者を対象に疾患別で病棟訓練導入による効果の違いがあるのかを検討した。

    【対象・方法】 対象は、2022年4月1日から2023年3月31日までの期間に、当院回復期リハ病棟の1病棟を退院した患者282名。そのうち、当該病棟入棟時FIM運動項目が回復期リハ病棟施設除外基準の76点以上であった患者25名、急変で当該病棟を転院となった患者等32名は対象外とし、225名を研究対象とした。

     研究方法は、対象を、疾患別に運動器疾患117名、脳血管疾患83名、廃用症候群25名に分類し、当院電子カルテ診療録より病棟訓練実施の有無、内容、頻度を調査した。

     統計処理は、病棟訓練実施群、非実施群のFIM利得(運動項目)を算出し、マンホイットニーのU検定を用いて比較した。なお、統計解析は、Statcel2(Excel統計)を用いて有意水準は5%未満で判定した。

     病棟訓練の内容は、カンファレンスにて患者の生活課題の共有、それに対する目標の設定を行い決定している。具体的な介入方法は、理学療法士等と看護師が訓練動作方法の冊子を作成する。病棟訓練は1日20分程度を目安とし看護師が介入を行なっている。現状として、看護師の人員不足や他業務量過多のため十分な介入に至っていないケースもある。

     本研究は、熊本託麻台リハビリテーション病院倫理審査委員会の承認(受付番号2305)を得て実施した。

    【結果】 運動器疾患では、病棟訓練導入群63名(FIM利得30.5±12.3点)、非実施群54名(FIM利得27.6±12.8点)。病棟訓練導入群が非実施群に比べ優位にFIM利得の改善がみられていた(p=0.039)。脳血管疾患でも、病棟訓練導入群48名(FIM利得31.9±13.1点)、非実施群35名(FIM利得20.6±12.9点)、病棟訓練導入群が非実施群に比べ優位にFIM利得の改善がみられていた(p<0.01)。廃用症候群では、病棟訓練導入群12名(FIM利得27.5±12.0点)、非実施群13名(FIM利得20.0±12.2点)、両群にFIM利得の改善の差はみられなかった(p=0.16)。

     具体的な病棟訓練の実施内容としては、歩行訓練、立位訓練が主であり、患者平均で在棟日数の81.1%の頻度で病棟訓練が導入されていた。

    【考察】 脳卒中ガイドライン2021では、回復期脳卒中患者に対して日常生活動作を向上させるために、もしくは在宅復帰率を高めるために多職種連携に基づいた包括的なリハビリテーション診療を行うことが勧められ、回復期において訓練時間を長くすることは妥当であるとも述べられている。動作を運動学習にて定着させるには、生活課題の難易度をチーム間で一定に保ち繰り返し行うことが重要である。今回は、看護師と生活課題を共有し、病棟訓練を導入することで、適切な難易度の運動学習の機会を提供でき、運動器疾患、脳血管疾患患者に関しては、病棟でしているADLを向上させることが出来た。このことは、リハビリ提供時間以外に効率的な運動の場を設定できた結果だと考えられる。しかし、廃用症候群患者に関しては、病棟訓練導入による効果がみられにくく、原因疾患や症状の把握や個別性のある対応、提供時間が足りなかったのではないか等、さらなる検討・改善が必要だと考えられた。

     今後も多職種協働での病棟訓練を推進し、効果的な療養環境が提供できるよう取り組みを進めていく。

一般演題22[ 調査・統計]
  • O-123 調査・統計
    黒木 博和, 園田 睦
    p. 123-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 地域在住高齢者における日常の適度な身体活動は、生活機能の維持・向上や疾病・障害・虚弱の進行を予防する上で重要である。また、要介護状態にある者においても悪化予防や軽減を目指す為に必要である。身体活動を調べる簡便な質問紙調査として活動性の評価にLife Space Assessment(以下、LSA)による生活空間評価が活用されている。我々はLSAの評価を行い、当訪問リハビリテーション事業所利用者(以下、当事業所利用者)では生活空間は自宅内である者が多く、生活空間が狭小化していることを報告した。生活空間狭小化の要因として身体的・心理社会的・家族介護環境要因が挙げられ、心理社会的要因では意欲やソーシャルネットワークが低いという報告がある。そして生活空間の狭小化は抑うつ症状による影響を受ける事から、理学療法を施行する上で阻害因子となる事を経験する。そこで本研究は、在宅要介護高齢者の心理社会的特性においてうつ傾向、ソーシャルサポートと生活空間の関連性を検証することを目的とした。

    【方法】 対象は自宅生活中の当事業所利用者の内、本人・ご家族に調査内容を説明し同意を得られた20名(平均年齢79.3±12.3歳、男性6名、要支援1:3名、要支援2:9名、要介護1:6名、要介護2:2名)とした。調査期間は令和4年10月から11月に実施し、調査内容は活動性を示す生活空間評価にLSA、心理的要因はうつ傾向を尋ねるGeriatric Depression Scale-Short Version-Japanese(以下、GDS)を用いた。社会的要因はソーシャルサポートの評価として村岡らの調査票を用い、5つの質問に対し「はい」に1点、「いいえ」に0点を付け合計得点(得点範囲0~5点)を算出した。統計学的処理は、LSAと各評価の関連性をSpearmanの順位相関係数を用い、有意水準は5%とした。

    【結果】 各評価の平均値はLSA30±12.9点、GDS4.5±3.5点、村岡らの調査票4.85±0.49点であった。LSAとGDSにおいてSpearmanの順位相関係数を算出した結果、中等度の負の相関を示し(r=-0.501、p=0.02)、GDSの点数が高くなるにつれてLSAの点数が低くなった。LSAと村岡らの調査票との間では相関関係は認められなかった(r=-0.327、p=0.159)。

    【考察】 本研究では在宅要介護高齢者のうつ傾向、ソーシャルサポートと生活空間の関連性を検証した。その結果、うつ傾向はLSAに反映されたことから生活空間狭小化との関連性が認められた。このことはうつ傾向の症状として挙げられている身体的不調や不安等から生活意欲の低下を招き行動範囲に影響を及ぼすという先行研究を支持する形となった。一方でLSAと村岡らの調査票の結果との間に相関関係は認められなかった。村岡らの調査票の平均値は4.85点でほぼ満点であり、家族や友人等から生活支援は受けている、または受けられる環境にあると言える。今後は支援内容や支援者の数・頻度等より詳細な調査を行い検討を重ねていく必要がある。以上の事から、生活空間狭小化により身体機能の低下、日常生活動作能力・生活の質の低下を招く悪循環を防ぐ為には身体的側面へのアプローチと同時に心理的側面の観察やアプローチも重要な要素であると考えられる。また、抑うつ状態の予防・改善に身体活動の増加や運動が有効とされており、在宅要介護高齢者に対して理学療法を実施する際に考慮する必要がある。

    【倫理的配慮】 本研究はヘルシンキ宣言を遵守し、対象者には研究の目的を説明し同意を得た。

  • O-124 調査・統計
    迫田 宗作
    p. 124-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【活動目的】 近年、我が国では高齢化が進み、高齢者の転倒数も上昇している。年齢階級別にみると、年齢が高いほど転倒事故の割合が高く、「70歳以上」で10%を超え、「85歳以上」になると、25.3%と4人に1人が転倒している割合となっている。

     当院では2018年12月より「転倒予防対策チーム」の活動が始まり、私もチームの一員として、転倒発生率、転倒傾向の調査、システムや各種書類の改訂作業、会議・病棟ラウンドの実施等を行ってきた。その中で、転倒した際の要因を調査するため、転倒転落の危険性をスクリーニングする「転倒・転落アセスメントシート」(以下、AS)の項目より、ロジスティック回帰分析より検出された11項目に対してどのような活動を行っているのかを報告する。

    【方法】 対象は2018年11月から2022月10月の当院急性期・回復期・地域包括ケア病棟に入院された患者様でASを使用した7,251名。対象者を転倒者・非転倒者の2群に分け、転倒者・非転倒者群を従属変数、転倒・転落アセスメントシートの各43項目を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。

    【結果】 ロジスティック回帰分析では43項目中11項目が検出(オッズ比、95%信頼区間)。「70歳以上」(1.94, 1.37-2.74)「転倒・転落したことがある」(1.88, 1.51-2.34)「筋力低下がある」(1.54, 1.18-2.01)「車椅子・杖・歩行器を使用」(1.24, 1.01-1.53)「移乗に介助が必要」(1.34, 1.08-1.66)「不穏・せん妄がある」(1.71, 1.26-2.32)「睡眠安定剤服用中」(1.31, 1.07-1.60)「向精神薬服用中」(1.37, 1.02-1.85)「ポータブルトイレ・尿器を使用」(1.30, 1.04-1.62)「リハビリ開始時期、訓練中」(1.33, 1.06-1.66)「行動が落ち着かない」(1.37, 1.01-1.86)という結果になった。

    【活動内容】 今回ロジスティック回帰分析にて検出された11項目を参考に、転倒・転落予防対策のテンプレートを作成し、各病棟で転倒予防ラウンドを実施している。テンプレートの内容としては、「転倒歴」「歩行・トイレ動作」「バランス評価(SIDE)」「転倒・転落危険度」「認知症の有無」「せん妄・不穏の有無」「内服薬」などのチェックリストである。この内容をもとに、見当識の確認や環境設定フローチャートを用いたベッドサイド・ベッド柵の設定、センサー類の設置、病棟スタッフへの周知を目的とした環境設定ボードの設置などを、病棟看護師、理学療法士、作業療法士、薬剤師でウォーキングカンファレンスを行い転倒予防に努めている。

    【まとめ・展望】 今回、ASよりロジスティック回帰分析の結果から、「70歳以上である」「転倒・転落したことがある」「足腰の弱り、筋力低下がある」「車椅子・杖・歩行器を使用している」「移乗に介助が必要である」「不穏・せん妄がある」「睡眠安定剤服用中」「向精神薬服用中」「ポータブルトイレ・尿器を使用している」「リハビリ開始時期、訓練中である」「行動に落ち着きがない」の11項目が検出された。この11項目の内容をふまえた転倒予防ラウンドの活動で、今後、転倒率の変化、転倒が多い日時、転倒状況・原因を追っていきたい。リハビリ訓練中の患者様の転倒数も多く、リハビリにより徐々に身体機能の向上を認めるため、転倒予防ラウンドを実施するタイミングについても検討していく必要がある。また、患者様自身にも転倒に対しての知識が必要であり、今後、転倒に関する内容をパンフレット等での配布も検討していきたい。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究のデータ収集、分析にはヘルシンキ宣言に基づいて行い、当院の倫理委員会にて承認されたものである。

  • O-125 調査・統計
    溝内 一也, 杉田 憲彦, 阿南 裕樹, 大平 高正, 古瀬 範之
    p. 125-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 心不全患者は運動耐容能の低下によりADLの制限を生じており、運動耐容能の改善には運動療法等が必要不可欠であるが、長期間の運動療法を要する場合もある。足底板療法(以下、足底板)は変形性膝関節症のガイドライン等での有効性が示されているが、心不全患者への有効性は示されていない。しかし、我々は足底板を挿入することで、歩行時の運動耐容能やADLを改善させた心不全症例を報告した。そこで本研究では、足底板が心不全患者に対して、歩行における運動耐容能を即時的に改善する手段として有効であるか検討した。

    【方法】 対象は2020年1月~2021年12月に心不全で入院し、維持・回復期に心臓リハビリテーションを実施した6分間歩行距離(以下、6MWD)を測定可能な16名(NYHAⅠ-Ⅱ、年齢:78±11.7歳、性別:男性8名、女性8名)とした。靴の不所持、認知症(改訂長谷川式簡易知能評価スケール≦20)、歩行時に疼痛を有する者は除外した。運動耐容能の評価には6MWD、足底板は作成が容易で汎用性の高いパッド貼付型足底板を採用した。6分間歩行試験(以下、6MWT)は、反復により歩行距離が向上する学習効果が報告されていることを考慮して、初回の足底板非挿入(以下、初回)、足底板挿入(以下、挿入時)、最終の足底板非挿入(以下、最終)の順に計3回測定し、試験間は3日以内として比較、検討した。統計学的解析はEZR(ver2.5-1)を使用し、反復測定分散分析と事後検定として多重比較検定(Bonferoni法)にて比較した。有意水準は5%とした。

    【結果】 6MWDは初回:254.9±114m、挿入時:290±106.1m、最終:262.8±111.7mであった。挿入時は初回、最終の非挿入時と比較し、それぞれ有意差を認めた(p<0.05)。非挿入時(初回、最終)間では初回と比較し、最終の方が向上傾向であったが、有意差を認めなかった。

    【考察】 足底板挿入時と初回、最終の非挿入時それぞれに有意差を認めたことから、足底板が即時的に心不全患者の6MWDを向上させることが示された。心不全患者は運動耐容能の低下により、息切れや疲労感が出現し6MWDが低下する。しかし、足底板を挿入することで、足部を中心とした下肢機能の改善に伴い、歩行時の重心移動を円滑化させ、歩行効率を改善させたことが6MWDの向上につながったと考える。

    【まとめ】 足底板は心不全患者の6MWDを改善させたことで、歩行における運動耐容能を即時的に向上させる為の有効な介入手段になる可能性が示唆された。今後は6MWTにおける心拍数やRPE等の変化にも着目し、心不全患者に対する足底板の効果について検討していきたい。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会にて承認を得て(第2007号)、ヘルシンキ宣言に基づき調査研究を行った。また研究の実施に際し、対象者に研究についての十分な説明を行い、同意を得た。

  • O-126 調査・統計
    田中 昭成
    p. 126-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 60歳以上の約30%が不眠を訴えるとされているが、施設入所高齢者では過眠が顕著との報告もある。睡眠は介護の諸問題と関係があるが、要介護高齢者を対象とした睡眠時間に関する調査は少ない。本研究では、施設入所高齢者の睡眠時間の実態を調査し、地域在住一般高齢者(以下、一般高齢者)との比較や疾患と睡眠時間の関係性を明らかにすることを目的とする。

    【方法】 研究デザインは横断研究とし、対象は2019年4月1日から2022年4月30日までに介護老人保健施設に新規入所した70歳以上の108名(女性:77%、年齢:中央値86歳)とした。尚、重度の認知機能障害や失語症、直接睡眠に影響を及ぼす疾患、急性疾患等で安静が必要、欠損値がある者は除外した。方法はパラマウントベッド株式会社製非装着型睡眠計(眠りSCAN)を用いて、入所後1週間の睡眠時間や離床時間を調査した。取得した睡眠時間を短時間睡眠群(6時間未満)、正常睡眠群(6時間以上9時間未満)、長時間睡眠群(9時間以上)に分類し、70歳以上の一般高齢者1,746名(女性:55%(2019年国民健康・栄養調査))と比較した。次に施設入所高齢者を疾患別(脳血管疾患32名、整形外科疾患61名、その他15名)に分類し、睡眠時間を比較した。統計解析にはχ2検定、残差分析を用いた。尚、有意水準は5%未満とした。

    【結果】 施設入所高齢者の睡眠時間は中央値8時間3分、離床時間は中央値8時間57分であった。解析の結果、短時間睡眠群は一般高齢女性で有意に多く、一般高齢男性、施設入所高齢女性で有意に少なかった。正常睡眠群は一般高齢男性で有意に多く、一般高齢女性で有意に少なかった。長時間睡眠群は施設入所高齢男性と女性で有意に多く、一般高齢女性で有意に少なかった(P<0.05、P<0.01)。また疾患別では睡眠時間に有意差は無かった。

    【考察】 睡眠時間に関して、施設入所高齢者を対象とした小暮や周らの研究と類似する結果であった。進藤は日常生活自立度の低下を抑制できる可能性がある離床時間の目標値を報告しており、障害度別に5から7時間としている。当施設では積極的に離床時間を設けており、概ねこの目標値を満たしていた。睡眠時間の比較では、女性は一般的に家庭での役割にかかる時間が長く、睡眠時間が短いとされ、一般高齢者の結果はこれを裏付けるものであった。一方で施設入所高齢女性では短時間睡眠群が少なく、男女ともに長時間睡眠群が多いことが示された。長時間睡眠は、生物学的背景を示すことが難しいとされ、家庭での役割喪失など生活活動の変化が影響していることも一因と推察される。最近では長時間睡眠と認知症との関連が報告されており、施設入所高齢者では長時間睡眠者への介入の必要性が示唆された。疾患別では睡眠時間に有意差が無かったが、脳血管疾患ではうつ症状、整形外科疾患では疼痛、その他にも内服薬、日常生活動作など睡眠時間に影響及ぼす因子は多数報告されている。睡眠時間の長短は疾患特有のものではなく、多数の因子が関係していると考えられ、今後も調査分析を継続したい。

    【倫理的配慮】 本研究は社会医療法人寿量会熊本機能病院臨床研究審査委員会で承認を得た(承認番号JMC360-2208)。本研究は診療録を用いた調査研究であり、文書、口頭による同意取得は行わない。但し、人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針を遵守し、研究の目的、研究の実施についての情報を公開(ホームページへの掲載、施設内に掲示)し、対象者が個人情報を研究に利用されることを拒否出来る機会を保障した。

  • O-127 調査・統計
    歌島 遼太郎, 中原 雅美, 永井 良治
    p. 127-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 外来リハビリテーションの効果を得て早期に終了するためには、自主練習の指導が不可欠であり、その重要性や有効性は多くの先行研究で認められている。一方、自主練習の十分な実施や継続の困難さが指摘されており、指導を遵守し自主練習を行う患者が少ないことも報告されている。運動を継続させる因子を検討した研究では、セルフ・エフィカシー(SE)が重要な因子として挙げられている。運動に関しては、運動セルフ・エフィカシー(運動SE)が挙げられる。また、運動SEは遂行行動の達成、代理的体験、生理的・情動的喚起、言語的説得の4つの主要な運動セルフ・エフィカシー情報源(運動SE情報源)の影響を受けるとしている。本研究では、高齢外来患者における自主練習実施回数と運動SEおよび運動SE情報源の関連を検討することを目的とした。

    【方法】 対象は当院外来患者47名(平均年齢74.6±6.0歳、男性14名、女性33名)とした。選定基準は、65歳以上、疼痛を主訴とする者、当院の主要整形外科疾患(肩疾患、腰部疾患、膝疾患、頸部疾患)とした。

     方法はカルテからの情報収集と聞き取り調査とした。調査項目は、基本属性(年齢、性別、疾患名、同居者数、仕事の有無)に加えて、①自主練習実施回数、②運動SE、③運動SE情報源、④疼痛とした。①自主練習実施回数は、外来にて指導した自主練習の内容を自宅で実施した回数とした。回数は1セットを1回として計算した。対象者が自主練習を正しく実施できるように、対象疾患毎に作成した写真付きの自主練習表を配布した。②運動SEの評価には、岡の運動SE尺度を用いた。この質問紙は「肉体的疲労」、「精神的ストレス」、「時間のなさ」、「非日常的生活」、「悪天候」の5項目から構成されている。5件法による回答で、総得点4点~20点で点数が高いほど、運動SEが高いことを意味する。③運動SE情報源の評価には前場の運動SE情報源尺度(SEES)用いた。20の質問で構成されており、各項目の得点は遂行行動の達成が5~25点、代理的体験が5~25点、生理的・情動的喚起が6~30点、言語的説得が4~20点となっている。5件法による回答で、項目ごとの点数が高いほど、運動SE情報源を多く受けていることを意味する。④疼痛の評価にはVASを用いた。

     統計解析は、基本属性と各評価項目の関係に、対応のないt検定、Mann-Whitney検定、χ2検定を用いた。自主練習実施回数と各評価項目の関連に、Spearmanの順位相関係数を用いた。有意確率は5%とした。

    【結果】 自主練習回数と運動SE得点およびSEES合計得点に有意な正の相関を認めた(運動SE:r=0.29, SEES:r=0.33)。自主練習回数とSEES下位項目の遂行行動の達成と生理的・情動喚起の得点に有意な正の相関を認めた(遂行行動の達成:r=0.30、生理的・情動喚起:r=0.32)。運動SE得点とSEES合計得点およびSEESの各下位項目得点に有意な正の相関を認めた(SEES合計:r=0.71、遂行行動の達成:r=0.63、言語的説得:r=0.44、代理的体験:r=0.59、生理的・情動喚起:r=0.36)。その他は統計学的有意差を認めなかった。

    【結論】 自主練習実施回数と遂行行動の達成、生理的・情動的喚起の間に有意な正の相関を認めた。このことから高齢外来患者では、運動SE情報源4つのうち、遂行行動の達成と生理的・情動的喚起の情報源を強化することで、自主練習実施回数を増加させることができる可能性が示唆された。

  • O-128 調査・統計
    田鍋 拓也, 友成 健太, 大見 昌吾, 平川 陽
    p. 128-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 周術期における理学療法は、術前指導から術後活動範囲の改善、早期退院支援まで重要な役割を担う。術後患者のADL拡大を進める上で、せん妄や早期離床の影響についての報告が認められる。一方で、早期排泄動作の獲得も重要であると考えるが、これらに関する報告や近年着目されている亜症候性せん妄の影響についての報告は少ない。そこで当院の消化器外科術後患者の排泄動作獲得に関連する要因を明らかにする目的で調査を行い、亜症候性せん妄による影響についても認めたので報告する。

    【方法】 対象は認知症なく排泄動作含め移動自立し、当院にて2022年4月から2023年4月まで入院・消化器外科手術・理学療法施行した患者。前向き観察研究。除外として、死亡、術後人工呼吸器・合併症・せん妄陽性(先行研究を基にIntensive Care Delirium Screening Checklist以下、ICDSC:4点以上)、理学療法未介入、データ欠損値、排泄動作が改善しなかった患者。

     調査項目は、年齢、術式、手術時間、術前Geriatric Nutritional Risk Index(以下、GNRI)、術後離床日、術後一日目疼痛Numerical Rating Scale(以下、NRS)、術後一日目亜症候性せん妄の有無(ICDSC1-3:有・0:無)、ドレン操作含めた術後排泄動作自立(トイレ動作・トイレ移乗FIM≧6)日とした。統計学的方法として、排泄自立日数と各変数との関連性についてSpearmanの相関係数を用いた。目的変数を排泄自立日数、説明変数を各変数とし重回帰分析を実施した。統計学的ソフトはR(4. 3. 1)を用い有意水準5%未満、多重共線性(VIF:1.5未満)に配慮した。

    【結果】 対象者は74例(96例中22例除外)。年齢は69.9±12.1歳、術式は開腹40例・腹腔鏡34例、手術時間は214.3±128.7分、GNRIは98.4±13.8、離床日は1.5±0.8日、NRSは6(4-8)、亜症候性せん妄有無は有30例・無44例、排泄自立日は3.4±2.5日であった。排泄自立日と各変数の単変量解析は、GNRI(r=-0.251 p=0.03)、離床日(r=0.453 p<0.001)、NRS(r=0.374 p=0.01)に相関を認めた。重回帰分析では、亜症候性せん妄有無(β=0.26 p=0.02 95%CI:0.21- 2.47)、離床日(β=0.28 p=0.02 95%CI:0.12-1.57)、手術時間(β=0.30 p=0.003 95%CI:0.002-0.010)、術式:開腹・腹腔(β=0.26 p=0.02 95%CI:0.21-2.45)が有意な変数として抽出された(調整済R2=0.27)。

    【考察】 年齢・GNRIにおいて、対象者特性は抽出されなかった。先行研究にて早期離床が早期歩行自立に関連することが報告されているように、早期ADL(排泄)拡大に関連する結果となった。離床阻害要因である術式(侵襲程度)の違いと手術時間による影響を認めたことから、手術(疼痛)による影響が関連することが示唆された。疼痛評価NRSは主観的要素を含むため、抽出されなかったと考えられる。せん妄症状においては様々な報告がされているが、亜症候性せん妄状態が抽出されたことから、せん妄の有無だけでなく、亜症候性せん妄状態も排泄自立日数に関連する新たな知見となり、理学療法実施の必要性が示唆された。

    【倫理的配慮、利益相反】 本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に則った。個人情報および診療録情報は「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守し、十分に配慮し取り扱った。開示すべき利益相反はない。

一般演題23[ 教育・管理運営② ]
  • O-129 教育・管理運営②
    西川 眞里
    p. 129-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【活動目的】 自身のキャリアデザインを考える上で理学療法士という資格を得ていることは、どのような時代においても社会貢献性の高い手段を持っていると考えられる。私は産業保健の分野において、企業を対象とした自身の事業を通じ、従業員のヘルスリテラシーの向上と障害予防、また企業価値の向上を目的として、働く人の健康を管理する役割を担っている。また今回の報告では実際に企業の健康管理に携わったことで感じた理学療法士の可能性について考える。

    【活動内容】 メディワークの事業内容は、専門職による企業のヘルスケアマネジメントのサポートである。

     サポート内容に関しては企業関係者のヒアリングより、その企業の健康課題を抽出し柔軟に対応する。継続的な会社経営に必要となる従業員の健康管理に専門職としての助言をしている。実際の介入は後述の通りである。

    ・健康相談、心理面談

    ・ヘルスケア研修:腰痛や肩こり、女性特有の健康課題、睡眠やストレス、運動習慣などヘルスケア全般において企業のヒアリングから必要なものを提供

    ・健康経営に関するサポート:計画の提案や取組の評価

    ・アンケート調査:企業経営層へフィードバックを目的に従業員の抱えている不調や仕事の生産性等について質問

    ※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

    【活動経過】 専門職が企業のヘルスケアをサポートするといったケースはあまり多くないように感じている。しかし随分と前より経済産業省は働く人の健康課題の解決について対応の必要性を示しており、私は実際に働く人のヘルスケアに関わる中で専門職が介入する必要性を十分に感じている。

     私が産業保健に関心を持ったのは、病院勤務時代より身近な存在である看護師や介護士の不調をよくみていたことである。特に医療や介護の現場には自身の健康を置き去りにして対人支援に従事している人が多くいることを実感していたからである。その当時はPTの立場より集団に対するアプローチや個別相談などを行ない、それに関する評価は良好であったと記憶すると共に、それらを自分で計画しそのマネジメントについて管理職への提案、さらに産業医との連携といった経験が、現在の自身の事業の糧となっていると感じる。

     介入企業からは自身の事業の必要性を感じてもらえており、従業員のヘルスリテラシー向上や健康的な職場の雰囲気づくりと企業の社会的な信用の向上に貢献できている。これは継続したサポートを希望していただいていることからの考察であり、企業との信頼関係の中で示されているものである。それゆえにその根拠を明確にすることは今後の課題である。

     企業介入の実際に関しては、定論のない想像のつかないことから始まることが多い。必要性に関しては継続してはじめて結果が明確になることや、個人的なデータを扱うことによる配慮も多いといった難しい部分もある。そういった点で介入企業が健康経営優良法人認定を取得できていることはひとつの評価すべき結果とも考えられる。

     人生100年時代という言葉も聞き慣れた言葉となったように、近年日本は少子高齢化の影響もあり「就労」においては人生を通して全うすることというイメージも定着してきている。産業保健の分野では働く環境や業種、業態によって具体的なアプローチは異なる。だからこそ、対人支援の専門家であり身体機能の専門家である理学療法士は働く人の健康課題に対し貢献できる職種だと感じている。それと同時に今後必要な能力として医療全般の知識のみならず社会の健康課題に目を向けること、就労を含めた人間の抱える悩み全般に対する理解を深める姿勢がとても重要だと思っている。

  • O-130 教育・管理運営②
    岡本 彬, 西山 彰浩, 土井 篤
    p. 130-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 平成26年度診療報酬改定により、回復期リハビリテーション病棟(以下、回リハ病棟)において入院時訪問指導加算の算定が可能となり、入院早期から退院後に生活する生活環境の把握が重要視されるようになった。しかし、その後コロナ禍による家屋調査自粛と面会制限のために、退院後の生活環境や入院前の活動状況などの情報収集が困難となっていた。そこで当院では、「家屋環境情報シート」を作成し、退院後の生活環境や入院前の活動状況を、入院日に家族から情報収集を行う取り組みを開始した。本研究の目的は、入院時の取り組みに関するセラピストの意識を調査するとともに、入院時の取り組みが退院支援に及ぼす変化について事例を通して報告する。

    【倫理的配慮】 本研究は当院の倫理委員会で承認を得て研究を行った。

    【家屋環境情報シートの運用方法】 入院日にセラピストの管理者が家屋環境情報シートを使用し、家族から家屋周囲の状況、玄関、寝室、トイレ、浴室など退院後に生活をされることが予測される家屋環境の状況や入院前の活動状況について聴取を行った。また家族へ家屋環境・周囲の写真の提供依頼も行った。

    【対象と方法】 対象は2022年4月~12月までに当院回リハ病棟へ入院時に自宅復帰を目標とし、かつ家屋環境情報シートを使用した計39名とし、写真提供の有無と入院から写真提供までの日数を調査した。また、回リハ病棟に所属するセラピスト20名に対し、家屋環境の情報収集の必要性や家屋環境情報シートの運用による退院支援の変化についてGoogleフォームを使用してアンケート調査を行った。

    【結果】 39名中20名の家族より写真提供があり、その提供は入院時から15.8±18.1日で得られた。セラピストのアンケート回答率は80%であり、家屋環境の情報収集の必要性については回答が得られたセラピスト16名全員が必要性を感じ、そのシート運用により14名のスタッフが退院支援に変化があったと回答した。その理由として、「入院早期よりリハゴールを設定しやすい」「介護保険の必要性など多職種と話し合うタイミングが早くなった」「早期より患者と自宅の話がより詳しくできるようになった」などが挙げられた。

    【事例紹介】 80歳代男性。診断名はアテローム血栓性脳梗塞。Brunnstrom recovery StageⅤ。妻と二人暮らしであり、趣味は家庭菜園や旅行など活動的。本人のデマンドは、入院前と同様に家庭菜園や車を運転し外出したい。

    【経過】 入院日に家屋環境情報シートを使用した情報収集と写真の提供依頼を行い、入院後12日目に写真提供があった。それらの情報と本人のデマンドを元に入院2週目に「家庭菜園の作業の再開や車の運転で妻と外出し、入院前と同様に趣味活動を継続して行えるようになる」というリハゴールの元、各職種が具体的なゴール達成項目とその達成時期を明確にした後、屋外活動を見据えたリハプログラムを実施。入院6週目に家屋調査を実施せず自宅退院し、退院後も趣味活動を継続できている。

    【考察】 家屋環境情報シートの運用により、入院時からの情報収集の取り組みと早期から各職種のゴール立案が可能となり、運用開始前よりも自宅退院を想定したリハ提供がしやすくなった。また、コロナ禍での家屋調査の実施を必要最低限に留めつつ、退院後の生活を見据えた退院支援の必要性が検討しやすくなった。今後は間取りや動線の距離なども聴取項目に追加し、より詳細に情報収集を行いたい。

  • O-131 教育・管理運営②
    髙野 直哉, 芹川 節生, 山下 綾
    p. 131-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 現在のVUCA時代に組織に求められるのは、より良い目標を迅速かつ柔軟に設定し、自分で考え行動する“主体性”が強く求められる。組織においては多様な価値観を共有し、それに導くリーダーシップが求められている。一方でワークエンゲージメント(WE)などのメンタルヘルス対策も重要な課題である。看護分野においての研究報告は散見されるが、理学療法部門において報告はほとんどない。本研究は、急性期から生活期にかけたリハビリテーション職種のWE、リーダーシップ(LS)モデルを明らかにし、今後の管理、人材育成、健康経営に生かす。

    【方法】 当院のPT, OT, STを対象にWebアンケートを匿名で実施。アンケート記入は当院倫理委員会承認を受け(R4-10)、個人情報に留意し、アンケートの回答をもって同意したものとした。WEは(UWES-9)、心理的安全性はEdmondosonの7項目、LS因子は高島らの22項目を参考にリッカート尺度にて5段階調査とした。統計処理はEZRを使用し、因子分析はプロマックス回転法を選択し、急性期、回復期、生活期の3群とした。

    【結果】 回答者106名(回答率72.1%)で病期別でWE、心理的安全性において有意差は認めず、職種別においてもWE、心理的安全性に有意差を認めなかった(p>0.05)。WEと心理的安全性(r=0.252、p<0.01)には弱い正の相関を認め、年齢や勤続年数とWE、心理的安全性には相関を認めなかった。上司の行動項目の一つ「あなたはチームリーダーから信頼されていると感じる」とWE(r=0.247、p<0.05)、心理的安全性(r=0.374、p<0.01)に相関を認めた。因子分析の結果、22項目のLSにおいて4因子が抽出され、第1因子は「人間関係を重視して、フォロワーと接する行動」(因子寄与3.359、寄与率15.3%、因子負荷量0.937, Cronbachのα係数0.896、以下、同様)、第2因子「役職や役割とは関係なく、職場の目標達成のために必要な発言・行動を、必要なタイミングでメンバーの誰もが行っている状態」(3.276、14.9%、0.894、0.842)、第3因子「フォロワーの個人的な関心や幸せ度合いに敏感になること」(3.131、14.2%、0.947、0.847)、第4因子「地域のコミュニティに対して積極的に貢献すること」(1.985、9%、0.534、0.806)が抽出された。

    【考察】 心理的安全性・WEは正の相関があり、年齢や経験年数、職種では差はなく、本人が上司から「信頼されていると感じる」ことが心理的安全性やWEを高める要因になり得ると示唆された。また、求めるLSとしてPM型LS、シェアードLS、サーバントLS、トランスフォーメーショナルLSといったものが抽出された。WEが高いスタッフは仕事の満足度やパフォーマンス、組織へのコミットメントの意識が高く、離職などが低い(Shimazu et al. 2012)とされ、シェアードLSはチーム業績に正の影響を及ぼすと報告がある。今回の結果は高島らの報告を支持する結果となった。

    【まとめ】 スタッフとビジョンを共有し、組織や仕事の魅力を伝えることでWEを高め、一人ひとりが役職にとらわれずリーダーシップを発揮し、チーム全体で共有することが重要と思われる。スタッフを信頼し、それを伝え委任することが心理的安全性の向上に寄与すると示唆された。組織に多様な人材が集まり、ダイバーシティ・インクルージョンが求められている昨今、個々の能力や個性が発揮されてこそ、専門性の向上、本来の目的が達成されると思われ、シェアード、サーバント、トランスフォーメーショナルLSなど様々なLSモデルが有効だと思われる。

  • O-132 教育・管理運営②
    前田 智裕, 池田 侑太, 西野 有希
    p. 132-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 腰痛は、身体的のみならず精神的ストレスや労働生産性低下を招く社会全体の愁訴である。ワーク・エンゲージメント(仕事に関する肯定的でポジティブな心理状態)においても、低値を示す報告がある。そこで、当院在職のリハビリテーション従事者における非特異的腰痛とワーク・エンゲージメント及び、関連する概念の関連性について検討することを目的とした。

    【方法】 対象は、当院在職のリハビリテーション従事者154名のうち、有効回答の得られた99名(20~50歳代、男性60名、女性39名)である。除外基準は、特異的腰痛を有する者、産前産後・育児休業中の者とした。方法は、無記名式のアンケート調査を実施した。調査項目は、基本属性(性別、年齢、身長、体重、BMI、職種、経験年数、腰痛の有無)、仕事に関する調査UWES(ワーク・エンゲージメント)、仕事とウェルビーイング(満足度)に関する調査DUWAS(ワーカホリズム)、世界保健機関健康と労働パフォーマンスに関する質問紙短縮版(労働遂行能力)、とした。統計処理は、EZRを使用し、2群間(腰痛群、非腰痛群)の差の検討を行い、有意水準を5%未満とした。また、各項目での合計点に対して、相関関係を検討した。

    【結果】 腰痛有訴者の割合は全体の52.5%(52名、男性29名、女性23名)であった。基本属性において、腰痛群、非腰痛群の2群間に有意差を認めなかった。ワーク・エンゲージメント得点は、腰痛群46.5±17.33点(活力15.4±6.91, 没頭16.4±5.92, 熱意14.5±5.81)、非腰痛群44.1±17.61点(活力14.9±7.13, 没頭14.7±6.13, 熱意14.3±5.35)であり、合計得点において2群間に有意差を認めなかった。没頭の質問において、腰痛群は2.69±1.69点、非腰痛群は1.68±1.53点であり、2群間に有意差を認めた(P<0.05)。ワーカホリズム得点は、腰痛群20.3±5.05点、非腰痛群19.6±4.78点であり、合計得点において2群間に有意差を認めなかったが、脅迫的な働き方の質問において、腰痛群は1.48±0.75点、非腰痛群は1.19±0.45点であり、2群間に有意差を認めた(P<0.05)。ワーク・エンゲージメントとワーカホリズムの間に弱い正の相関を認めた(P<0.05)。労働生産性における絶対的プレゼンティーイズム(疾病就業)損失割合は、腰痛群55.6±20.71%, 非腰痛群51.1±20.56%であった。肉体的または精神的理由で欠勤した日数(終日)において腰痛群は、0.54±1.46日、非腰痛群は0.09±0.35日であり2群間において有意差を認めた。(P<0.05)。

    【考察】 当院のリハビリテーション従事者の実態として、過半数の者が腰痛を自覚しており、腰痛を抱えながら業務に従事しているということが認められた。

     基本属性において、年齢や性別、職種においても有意差が認められなかったことから、非特異的腰痛は、心理・社会的要因の関与が関係していることが考えられた。

     ワーク・エンゲージメントは、没頭、ワーカホリズムは、脅迫的な働き方の質問において腰痛群が高値であり、合計得点においても、弱い正の相関を認めた。両者は、仕事から頭が切り離せない状態や、休日もリラックスできないというネガティブな面で共通していると考えた。本来、ワーク・エンゲージメントとは、仕事に関する肯定的でポジティブな心理状態と定義されているが、必ずしもポジティブな心理状態だけではなく、ネガティブな要素としての心理状態が反映されたと考えた。

     絶対的プレゼンティーイズム損失割合は、腰痛を自覚している者ほど高い傾向にあり、医療従事者は職業特性上、身体的、精神的負担を負いやすい現状があるということが考えられた。また、これらは、欠勤した日数においても関連していることが示唆された。

     よって、メンタルヘルスの向上や腰痛の予防、改善がプレゼンティーイズムを減少させ、労働生産性向上に繋がると考えられる。

  • O-133 教育・管理運営②
    多和田 千秋, 嘉陽 隼人, 饒平名 美千代
    p. 133-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 急性期では、病状により活動制限に伴うADL低下を来しやすい。また、わが国の心臓病患者は、加齢とともに爆発的増加が現実のものとなりつつある。厚生労働省による循環器病対策推進基本計画では、介護が必要となった主な原因の4.5%が心疾患とされ、脳血管疾患を含めた循環器病では20.6%と最多となっており、急性期リハビリテーション(リハ)は非常に重要と言える。当院では、2022年2月よりADL維持向上等体制加算(ADL加算)を導入し、急性期病棟への専従理学療法士配置により、入院早期からADL低下予防などの介入が可能となった。今回、当院におけるADL加算導入効果および、心不全患者介入に対する今後の課題を検討した。

    【方法】 当院急性期病棟に2021年2月から2023年1月に入院した患者を、ADL加算導入前(導入前群)、ADL加算導入後(導入後群)とし、年齢、性別、在院日数、疾患内訳、入院時および退院時Barthel Index(BI)、BI利得、ADL低下率、リハ実施率、リハ開始までの期間、リハ実施期間をそれぞれ診療録より後方視的調査し、2群間比較を行った。BI利得は退院時BI-入院時BIとして算出し、リハ実施の有無(リハ実施群・リハ非実施群)でも比較した。また両群における心不全患者の年齢、性別、リハ実施率、EF、BNP、リハ開始までの期間、リハ実施期間を比較した。死亡例および、心不全例ではEF・BNPのデータ欠損例を除外し、リハ実施率は在院日数3日以内を除外とした。統計処理はEZRを用い、年齢、EF、BNP、ADL低下率を対応のないt-検定、BI利得はMann-WhitneyのU検定を行い、それぞれ有意水準は1%未満とした。

    【結果】 対象者例4,067例のうち導入前群2,079例、導入後群1,988例で、性別、年齢、EF、BNPの患者背景に有意差は認めなかった。在院日数は、導入前群10.25日から導入後群9.4日、心不全患者は導入前群21.03±25.43日、導入後群16.33±17.31日となった。疾患内訳は導入前群、導入後群いずれも不整脈・デバイス植え込み、血管内治療、急性・慢性心不全合わせて約半数を占めた。入院時平均BIは導入前群82.9±31.04点、導入後群77.93±33.3点、退院時平均BIは導入前群85.03±29.66点、導入後群81.79±31.92点と導入後群が低い傾向にあった。BI利得は導入前群のリハ実施群が5.74±20.22点、リハ非実施群0.83±7.1点から、導入後群のリハ実施群は9.64±19点、リハ非実施群は1.48±10.36点となり、リハ非実施群のみ有意差(P<0.01)を認めた。ADL低下率は1.92%から1.1%となり、その疾患内訳では急性・慢性心不全が両群ともに上位で導入前群30%、導入後群27%を占めた。リハ実施率は34.7%から39.1%へ上昇した。心不全患者のリハ実施期間は、導入前群26.18±31.97日から導入後群は16.51±18.35日へ短縮した(P<0.01)。

    【考察】 ADL加算導入により、在院日数短縮、リハ実施率・ADL低下予防に繋がった。しかし心不全患者の再入院率など、今後精査する必要性があると考える。今後の心不全患者の高齢化および増加に対し、より効果的介入を行っていきたい。

    【まとめ】 当院急性期病棟へのADL加算導入の結果、在院日数短縮・リハ実施率増加・ADL低下予防効果を認め、心不全患者の在院日数短縮・ADL能力低下予防における効果も得られた。

  • O-134 教育・管理運営②
    宮原 賢司, 田代 耕一, 古川 慶彦, 堀内 厚希
    p. 134-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】 回復期リハビリテーション病棟では「活動」という視点から適切なリハ診断・回復の予後予測を行い、ゴールを設定することが求められる。しかし、臨床現場で勤務するスタッフはその目標設定に苦慮していることも多い。また、「活動」を評価し点数化した評価指標であるFunctional Independence Measure(以下、FIM)の改善は、より良い退院支援を行う上で重要である。そこで、当院スタッフにおいて、目標設定を行う上でFIMを活用しているか現状を把握する目的にアンケート調査を実施した。その結果をもとに課題分析を行い、その課題に対し研修を実施しその後スタッフにおいてFIMを用いた目標設定状況に変化があるか調査した。

    【方法】 当院スタッフ27名(PT15名OT8名ST4名)を対象にGoogleフォームを使用しWebアンケートを実施した。アンケート内容には基本情報として職種・性別・実務経験年数を、選択式設問に ①担当患者の目標設定に悩むことがあるか、②退院時期が迫った際に改善が必要な問題点に気づいた経験があるか、③FIM利得を意識した介入を行っているか、④総合リハ実施計画書を説明する際、FIMを利用し行っているかを挙げ、「ない・ほとんどない・どちらともいえない・ときにある・ある」の5段階で回答を求めた。

     アンケート実施後、スタッフに対してレーダーチャート(以下、RC)でFIM点数を可視化し、過去の点数と視覚的に比較することで問題点を明確化する研修を行った。その後1カ月間、リハ科内で実施している週3回のケースカンファレンス時に、RCを用いてFIMスコアの再確認と目標設定の検討を行った。その後再度 ①~④の設問でアンケート調査を行い、追加設問に ⑤目標設定を行う上でRCを用いているかを調査した。

    【結果】 回答者は、対象27名中26名(有効回答率:96.3%)、性別は男13人女13人、実務経験年数は1~5年16人、6年以上10人であった。各設問において、「ときにある・ある」の回答率は研修前後で

    ①92.3%→80.8%、②76.9%→92.3%、③53.8%→57.7%、

    ④76.9%→80.8%であった。経験年数別で見ると ①実務1~5年で100%→87.5%、6年以上で80.0%→70.0%、②は実務1~5年で93.4%→100%、6年以上で50.0%→80.0%へ変化した。⑤RCの研修後利用率は実務1~5年で43.6%、実務6年以上で0%であった。

    【考察】 本調査から当院スタッフにおいて、経験年数を問わず目標設定に苦慮している現状が明らかとなり、特に経験年数の浅いスタッフほど、担当患者に対してFIMを考慮した目標設定が行えず苦慮していることが明らかとなった。研修後に ②問題点への気づきが増加したことは、RCを使用していく中、各ADL評価をより的確に実施していく意識が増えたことが一因かと考える。また、研修後RCの利用率に経験年数で差があった。若手スタッフにおいては、FIM点数をRCにより可視化することで、改善すべき活動項目が明確化され、目標設定の判断材料になったことが推測される。一方で経験を重ねたスタッフは、経験則に基づいて予後予測・目標設定を行っていることが考えられ、RC利用率が低い結果であったと考える。

     今回の調査から、RCを用い「活動」に関する能力を可視化することは、実務経験年数が浅いスタッフにおいては担当患者の目標を設定する一助となると考える。今後の課題として、FIMに限らず目標設定に悩む要因や経験年数によるRC利用率の違いを詳細に分析し、ADL評価・目標設定が不十分なスタッフに対しADL評価を問題意識として喚起していくことが挙げられる。

    【倫理的配慮、説明と同意】 無記名式で個人情報が特定されないことをアンケート上明記し、対象者には目的と内容を説明し同意を得た。

一般演題24[ 骨関節・脊髄④ ]
  • O-135 骨関節・脊髄④
    白石 涼, 佐藤 圭祐, 千知岩 伸匡, 尾川 貴洋, 田島 文博
    p. 135-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】 近年、Bioelectrical Impedance Analysis(BIA)を用いて筋肉量や筋質を評価する方法が報告されている。Trunk muscle mass index(TMI)は、体幹部の筋肉量を評価する方法として用いられている。また、Phase Angle(PhA)は筋質を評価する方法であり、体幹部においても有用性が報告されている。高齢者を対象とした研究では、BIAで評価したTMIや体幹部のPhAの低下は大腿骨頚部骨折の発症率増加と関連するとされている。また、大腿骨近位部骨折後はComputed Tomographyで評価したTMIが低下することが報告されている。そのため、大腿骨近位部骨折後は、体幹部の量的及び質的評価が重要であることが示唆される。これまで、BIAを用いて評価したTMIやPhAと歩行自立度との関連を検討し、歩行自立度を予測するための量的及び質的評価の指標を算出した報告はない。そこで、本研究はBIAを用いて評価したTMIやPhAと歩行自立度との関連を検討し、体幹部の量的及び質的評価の指標のカットオフ値を算出することを目的とした。

    【方法】 回復期病院に入院した大腿骨近位部骨折後の患者181名を対象とした後ろ向き観察研究である。退院時の運動Functional Independence Measure(FIM)項目のうち、移動項目の点数によって歩行自立度を自立群(≥6点)と非自立群(≤5点)に分け、比較検討した。体幹部の量的評価は入院時のBIAで測定したTMIを算出し、質的評価は体幹部のPhAを用いた。本研究では、算出したPhAをTrunk muscle quality index(TMQI)と定義した。歩行自立度に対する入院時TMI, TMQIとの関連を調査するためにロジスティック回帰分析を行った。説明変数は年齢、性別の他にモデル1ではTMI、モデル2にはTMQIを含めた。その他の変数は入院時BMI、入院時MMSE-J、入院時FIM合計、リハビリテーション時間とした。さらに、TMI, TMQIによる自立歩行を予測するためのカットオフ値をReceiver Operating Characterristic curve(ROC)曲線を用いて性別毎に算出した。

    【説明と同意】 研究倫理審査会の承認(ID:23-10)を受け、個人情報の取り扱いに配慮し実施された。

    【結果】 平均年齢83.0±7.4歳、男性57名、女性124名、歩行自立群は101名だった。歩行自立群は非自立群に比べ、入院時TMI(男性6.9±0.6 vs 6.1±0.7 ㎏/m2、p<0.001, 女性5.9±0.8 vs 5.1±0.7 ㎏/m2、p<0.001)、TMQI(男性4.6±0.9 vs 3.8±0.8°、p<0.001、女性3.8±0.6 vs 3.0±0.6°、p<0.001)が高かった。ロジスティック回帰分析の結果、入院時TMI(OR:4.35[2.13-8.89]、p<0.001)とTMQI(OR:3.11[1.57-6.15]、p<0.001)は歩行自立度と関連する要因であった。TMI, TMQIによる自立歩行を予測するためのカットオフ値は、TMI男性6.5 ㎏/m2(感度:0.821%、特異度:0.793%、AUC=0.860)、女性5.7 ㎏/m2(感度:0.788%、特異度:0.694%、AUC=0.781)、TMQI男性4.5°(感度:0.893%、特異度:0.621%、AUC=0.776)、女性3.4°(感度:0.712%、特異度:0.750%、AUC=0.804)であった。

    【考察】 本研究の結果、BIAで算出したTMIとTMQIは歩行自立度と関連する要因であった。大腿骨近位部骨折後の患者を対象に、入院時のTMIとTMQIが歩行自立度と関連を認めたことは、BIAで評価した体幹部の量的及び質的評価が歩行自立度に重要であることが示された。さらに、入院時のTMIとTMQIを用いることで退院時の歩行自立度を推定できる可能性が示唆された。

    【結論】 BIAを用いて算出したTMIとTMQIは、退院時の歩行自立度と関連を認め、体幹部の量的及び質的評価としての有用性が示唆された。さらに、退院時の自立歩行を予測するためのカットオフ値はTMI男性6.5 ㎏/m2、女性5.7 ㎏/m2、TMQI男性4.5°、女性3.4°であった。

  • O-136 骨関節・脊髄④
    村上 武士, 中原 雅美
    p. 136-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 右人工股関節置換術後すぐに転倒して創部が離開したため再縫合を行い、7カ月経過後にウォーカー歩行を獲得した症例を担当したので報告する。

    【症例紹介】 年齢:80歳代、性別:女性、診断名:右人工股関節置換術後(前側方進入)、脚長差:右-1.5 ㎝、右足部背屈麻痺:あり、家屋状況:1戸建て住宅、独居(1本杖)、現病歴:X年2月X日にA病院にて右人工股関節置換術を施行。術後6日目に転倒し創部離開。創部処置するもなかなか上皮化せずに術後36日目に手術室で洗浄デブリを行い再縫合となる。術後92日目にリハビリ目的にて療養型の当院へ転院。A病院術後プログラム:術後1週過ぎて部分荷重は痛くない程度で杖もしくは歩行器歩行を開始。3週から4週の時点で痛みなければ1本杖歩行。術後3ヶ月間は杖歩行を行い、術後6カ月で杖を外すことを目標とする。

    【評価】 (入院時⇒退院時)FIM:85点⇒102点、ROM-T:(右)股関節屈曲100°⇒100°、伸展-5°⇒0°、外転5°⇒10°、内転10°⇒10°、足関節背屈(膝屈曲位)0°⇒10°、(膝伸展位)10°⇒0°、大腿周径:膝蓋骨直上10 ㎝(右)32.0 ㎝⇒33.6 ㎝、15 ㎝(右)34.6 ㎝⇒37.8 ㎝、MMT:(右)股関節屈曲3⇒4、伸展4⇒4、外転3-⇒3、内転4-⇒4、膝関節屈曲4⇒4+、伸展4⇒4+、足関節背屈3-⇒3+、底屈4-⇒4、(入院時のみ)HDS-R:27点、MMSE:28点、MOCA-J:22点(退院時のみ)開眼片脚立位時間:右1.04秒、左5.56秒、(1本杖使用:右47.63秒)、身長147.0 ㎝、2step:110 ㎝、TUG:14.22秒(1本杖)、16.37秒(ウォーカー)、SPPB:9点。

    【介入及び経過】 (入院時:術後93日目、入院2日目)車椅子駆動軽介助、U字歩行器歩行見守り(右足部下垂、躓きが見られる)、右足部背屈麻痺、車椅子のブレーキのかけ忘れ等の不注意が時々見られた。問題点:①右足部の可動域制限、筋力低下、②注意力の低下、③右足部の躓き、④移動能力低下、⑤日常生活能力低下。

    プログラム:①徒手療法、②関節可動域運動、③筋力増強運動、④手すり把持での横歩き、⑤車椅子駆動、⑥歩行器歩行、⑦トイレ練習。

    (退院時:術後224日目、入院133日目)車椅子駆動見守り、抵抗器付きウォーカー歩行自立、1本杖歩行見守り、歩行時の躓きは見られない、1本杖歩行見守りにてスラローム、方向転換、横歩き、10 ㎝段差昇降等の応用歩行可能、手すり使用にて20 ㎝の段差昇降可能。

    プログラム:①徒手療法、②関節可動域運動、③筋力増強運動、④1本杖ステップ、⑤20 ㎝台ステップ、⑥1本杖歩行、応用歩行、⑦ウォーカー歩行。

    【考察】 本症例は術後7カ月を経過して右足部の躓きもなくなり抵抗器付きウォーカー歩行自立、1本杖歩行見守りとなりサービス付き高齢者住宅へ退院となった。開眼片脚立位時間、TUG、SPPBの項目は結果を基準値と比較し転倒リスクがあると判断した。2step値は0.75でありロコモ度3で社会参加に支障をきたしている状態に該当する。認知機能面ではMOCA-Jのみが軽度認知症に該当するため、運動機能面と総合すると転倒リスクがあると判断し1本杖歩行は見守りレベルと考える。1本杖歩行の能力は右足部の躓きが見られず10 ㎝の段差を昇降できスラロームなどの応用歩行も行えるが、転倒リスクを考慮して自立した移動手段はウォーカー歩行を選択した。転倒により積極的な理学療法が行えず歩行の獲得が遅れたが、継続した理学療法を行うことで歩行獲得に至った。

    【倫理的配慮、説明と同意】 当法人の倫理委員会の承認を得てから実施している(承認番号:KR162)。

  • O-137 骨関節・脊髄④
    持田 海斗, 高橋 博愛, 樋口 貴彦, 井上 茂徳, 上妻 優矢, 上野 綾香, 大楠 珠未
    p. 137-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 大腿骨近位部骨折(以下、近位部骨折)は高齢者に多い下肢骨折であり、要介護・要支援の原因になることは広く周知されている。近位部骨折後の栄養状態や在宅復帰の要因については多く報告されているが、骨折後の介護度についての報告は散見される程度である。本研究は、受傷前自立レベルであった近位部骨折患者の介護度が悪化する要因を分析・予測することで退院後のサービス利用・調整を円滑にすることの一助となる指標を提示することを目的とした。

    【方法】 対象は平成31年1月から令和4年4月までに当院回復期病棟に入棟し理学療法を実施した近位部骨折患者299名のうち、合併症による退棟なく欠損値のない65歳以上の入棟時介護保険未申請あるいは要支援の106名(BHA31名骨接合術75名)とした。調査項目は年齢、性別、術式、病側、握力、BMI、在院日数、発症から入棟までの日数、回復期入棟日数、入院前ADL、入退棟時の介護度、入退棟時の日常生活活動(Functional Independence Measure以下FIM)、既往歴(骨折)の有無とした。対象症例を退棟時に介護保険未申請あるいは要支援であった78名を維持群、退棟時あるいは退棟後に要介護となった28名を悪化群とし調査項目について2群間比較した。さらに、2群間比較で有意かつ予測因子となりうる評価項目を説明変数としてLogistic回帰分析を行い、選択された評価項目についてROC曲線を用いカットオフ値を算出した。本研究は当院の倫理委員会の承認を得ており、ヘルシンキ宣言に基づき、対象者のプライバシーに十分考慮し実施した。

    【結果】 維持群は悪化群と比較して有意に若年(81.9±7.3 vs 86.8±6.6歳、p=0.0027)かつ、握力(17.4±5.9 vs 13.9±6.1 ㎏f、p=0.001)、入棟時のFIM運動項目(52.6±13.0 vs 41.1±13.3点、p=0.0001)・認知項目(31.2±3.4 vs 25.9±5.8点、p<0.0001)、退棟時のFIM運動項目(81.0±13.7 vs 68.2±17.7点、p<0.0001)・認知項目(33.0±2.7 vs 28.0±5.6点、p<0.0001)が高値、入棟日数(55.0±22.4 vs 74.1±16日、p<0.0001)、在院日数(76.3±27.0 vs 100.9±15.7日、p<0.0001)が短かった。説明変数を年齢、握力、入棟時のFIM運動項目・認知項目とLogistic回帰分析を行ったところ、FIM認知項目(odds:0.786、95%CI:0.705-0.876、p<0.0001)、が選択されROC曲線よりカットオフ値27点以下(曲線下面積:0.801、95%CI:0.706-0.894)、的中率は79.2%であった。

    【考察】 先行研究では高齢骨折患者の認知機能は自宅退院率および術後のADL能力に影響を及ぼすとされている。くわえて本結果より要介護認定を受けていない近位部骨折症例に対して入院時の認知機能が退院時の要介護認定に影響することが示唆され、認知機能は要介護認定を受けていない近位部骨折症例における転帰検討に有効な指標と考えられた。入院時若年かつ筋力および認知機能が維持されている場合、入院前と同様に地域で自立した生活を獲得できると考えられた。一方で悪化群は維持群と比較して有意に入棟日数が長くなっており、ADL能力の改善や家族の支援・サービス利用・調整など転帰調整に難渋している。今回、転帰検討に有効な指標を示したことから今後の近位部骨折症例の早期予測・入棟日数短縮に寄与するものと考えられた。

    【まとめ】 近位部骨折後の介護度が悪化する要因について、入棟時介護保険未申請あるいは要支援を利用している患者を対象に検討した。介護度が悪化する要因の予測として入棟時FIM(認知項目)27点以下の数値が示唆された。

  • O-138 骨関節・脊髄④
    橘 和希
    p. 138-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】 変形性股関節症(Osteoarthritis of the Hip:股OA)に対する人工股関節全置換術(Total hip arthroplasty:以下、THA)での前方侵入法(Direct anterior approach:以下、DAA)は、術後侵襲や術中出血量が他のアプローチ法と比べ少なく患者負担が軽いとされているため、術後早期からの積極的なリハビリテーションが可能となり、早期歩行獲得が可能と言われている。しかし、歩行に必要な運動機能を獲得するのに時間を要する症例も経験する。そこで今回当院におけるDAA術後の早期歩行獲得に影響を及ぼす要因について調査した。

    【方法】 本研究は診療録を後方視的に調査して行った。対象は当院において2020年1月~2022年12月にTHA(DAA)を施行された者のうち、関節リウマチや術後麻痺を呈した症例を除いた31名(男性5名、女性26名、年齢69歳±9.3歳)とした。調査項目は年齢、性別、BMI、手術時間、術中出血量、入院前、退院時の術側股関節可動域(以下、ROM)、日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(以下、JHEQ)、日本整形外科学会股関節機能判定基準(以下、JOAスコア)とした。術後2日以内に病棟内歩行器自立が可能な群(以下、早期歩行獲得群)、3日以降に病棟内歩行器自立を獲得した群(以下、歩行獲得遅延群)に分類し、群間で調査項目について統計学的に比較し分析した。統計はStudentのt検定、Mann-WhitneyのU検定を用い、有意水準は5%未満とした。

    【倫理的配慮】 本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施した。

    【結果】 術前JHEQ(痛みの項目)、術前伸展ROMにおいて有意差を認めた。年齢、性別、BMI、手術時間、術中出血量、JOAスコアにおいてはいずれも有意差を認めなかった。

    【まとめ】 本研究の結果から、早期歩行獲得には術前の疼痛、術前伸展ROMが影響することが示された。DAAは縫工筋と大腿筋膜張筋の筋間を切開し手術を展開するため、術前から股関節伸展可動域制限のある患者は術前股関節伸展制限が無い患者に比べ術後早期の軟部組織伸張性が低下することが考えられ、早期歩行獲得を阻害する要因になるのではと考える。また、THA術後の早期離床には術中出血量が影響すると言われているが、今回の研究では2群間の術中出血量は当院DAAでの術後早期歩行獲得に影響を及ぼす要因とはならないという結果となった。以上のことから、術後の疼痛コントロールや、股関節伸展角度獲得に着目しアプローチを行っていきたい。

  • O-139 骨関節・脊髄④
    薮田 悠世
    p. 139-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 大腿骨転子部骨折の骨折形態の分類としてEvans分類やJensen分類が用いられている。その中でも骨折形態の評価としてはEvans分類が用いられることが多い。今回、身体機能及び転帰先に関する因子を検討するにあたり、より複雑な骨折形態を診断できるJensen分類を使用した。

    【方法】 2017~2019年に当院で骨接合術を施行された大腿骨転子近位部骨折29例29股(男性4例、女性25例、手術時平均年齢86.7歳(±4.9))を対象とした。入院時にJensen分類を用いた分類を行い、Ⅰ~Ⅱを安定型、Ⅲ~Ⅴを不安定型とした。安定型・不安定型の2群に対し術前の栄養状態(GeriatricNutritional Risk Index:以下、GNRI)、術前の中殿筋の横断面積・骨格筋内脂肪量、カットアウトの有無、大腿骨の骨密度、回復期退棟時のFIM利得、転帰先を比較検討した。統計学的手法としてSummaryT検定、MannWhitney検定を用い、有意水準は5%とした。本研究はヘルシンキ宣言に沿い、当院の学術研究に関する方針ならびにプライバシーポリシーを遵守して行った。

    【結果】 対象者の内訳は安定型7例・不安定型22例であり、それぞれの術前の栄養状態、術前の中殿筋の横断面積・骨格筋内脂肪量、大腿骨の骨密度、回復期退棟時のFIM利得、転帰先のいずれも有意差を認めなかった。

    【考察】 術前の栄養状態、中殿筋の横断面積・骨格筋内脂肪量、大腿骨の骨密に統計上差を認めず、カットアウトは1例のみであった。このことから、術後の制服が良好であり、術後の経過で安定型・不安定型における上記の検討項目では差を認めなかったと考える。今後は分類の違いや認知機能、歩行形態、術前のADL(日常生活動作)能力などの他因子も含めた再検討を実施し、大腿骨転子部骨折術後における予後規定因子を明確にしていきたい。

  • O-140 骨関節・脊髄④
    金津 篤志, 常盤 周平
    p. 140-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 大腿骨近位部骨折術後患者は回復期リハビリテーション病棟(以下、回リハ病棟)の対象疾患であり、最大90日まで入棟できる。しかし、急性期病院から回復期病院へ転院し回リハ病棟入棟時に荷重制限が設けられていることも少なくない。荷重制限によりリハビリテーションが遅延しADL向上の阻害することが予測されるが、荷重制限の影響について検討した報告は少ない。そのため、入棟時の荷重制限の有無や荷重制限の期間が退棟時の歩行自立に影響するか検討した。

    【対象と方法】 2021年3月1日~2023年3月31日までに当院回リハ病棟に入棟し退棟した大腿骨近位部骨折術後患者のうち、状態悪化により回リハ病棟から転院・転棟した者、受傷前移動手段が車椅子の者、退棟まで荷重制限が継続した者を除く188例(男性34例、女性154例)とした。対象者を回リハ病棟入棟時の荷重制限の有無により、荷重制限群(32例、平均年齢80.7±12.1歳、平均在棟日数80.5±16.3日、長谷川式簡易知能評価スケール19.8±7.8点)と非制限群(156例、平均年齢83.8±8.0、平均在棟日数74.5±20.2日、長谷川式簡易知能評価スケール19.1±8.2点)の2群に分けた。評価項目は、退院時のFunctional independence measure(以下、FIM)の下位尺度である運動項目:移動(歩行)とし、6点以上の場合を歩行自立とした。さらに制限群において、歩行自立群と非自立群に分けて、全荷重までの日数を比較した。

    【結果】 制限群は非制限群と比較して、歩行自立において有意差は認められなかった(Fisherの正確検定、p=0.335)。また在棟日数についても有意差はなかった(Mann-WhitneyのU検定、p=0.1026)。さらに制限群において歩行自立群13例、歩行非自立群16例で、全荷重までの日数の平均は歩行自立群21.2±10.9日、歩行非自立群42.1±31.4日(Mann-WhitneyのU検定、p=0.0214)であった。

    【考察・まとめ】 回リハ病棟では90日の期限があるが、入棟時の荷重制限が退院時の歩行自立阻害因子とならないことが示唆された。しかし、全荷重許可までの期間が長くなるほど回リハ病棟入棟期間内での歩行自立が難しくなることが示唆された。今後は歩行自立を阻害する因子の追加検討を必要であると考える。

    【倫理的配慮】 個人情報保護に配慮し、患者情報を診療記録から抽出し、すべて匿名化したデータを用いることで対象者に影響がないよう配慮した。

一般演題25[ 骨関節・脊髄⑤ ]
  • O-141 骨関節・脊髄⑤
    勝本 行雄
    p. 141-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 伏在神経膝蓋下枝(以下、IPBSN)は、神経障害を起こしやすい解剖学的特徴をもっている。また、IPBSN由来の疼痛は膝蓋骨部の打撲後や膝関節術後にも発生し、その主な症状は膝前内側部痛や感覚異常などである。しかし、症状と画像所見とが一致しない場合が多く、診断の遅れや見落としされやすいのが現状である。今回、IPBSN由来の疼痛によって歩行障害を呈した症例を経験したため報告する。

    【症例紹介】 症例は20歳代自衛官の男性で、銃剣道の練習中に転倒し、右膝前面痛にて近医を受診、膝蓋骨骨挫傷と診断される。症状は軽快し練習に復帰したが、2か月後、特に誘因なく右膝前内側部痛が出現し、徐々に歩行時痛が増悪した。その後は経過不良にて複数病院を受診するも歩行状態、疼痛の改善はみられず、当院整形外科を受診した。MRIにて、半月板損傷、膝蓋腱炎、滑液包炎は否定されたが、歩行困難な状況であったため入院となり理学療法が開始された。このときすでに疼痛増悪して約半年経過していた。入院時の膝関節可動域(右/左)は屈曲30°/145°、伸展-5°/10°であった。

    【経過】 理学療法開始12日目で、屈曲85°伸展0°まで改善したが、疼痛に変化はみられなかったため、再評価を実施した。疼痛は右膝前内側部にpalmar signで、最終伸展時に同部位へ放散痛を認め(NRS8)、extension lagは10°であった。鵞足のトリガー鑑別テストは縫工筋のみ陽性と判断した。疼痛部位から伏在神経の痛みを疑い、圧痛を確認した。内転筋管に圧痛はなく、内側上顆より近位4~5 ㎝レベルで縫工筋の筋実質、縫工筋前縁と内側広筋間に著明な圧痛と放散痛を認めた。感覚検査では、IPBSNの知覚領域に8/10と軽度感覚鈍麻を認めた。徒手筋力検査では、縫工筋、内側広筋が3であった。理学所見よりIPBSN由来の疼痛と考え、超音波診断装置(以下、エコー)を用いて圧痛部位を観察した。観察は膝軽度屈曲位から自動伸展を行い、その動態を観察した。その結果、縫工筋と内側広筋間の滑走障害が生じており、内側広筋の収縮不全が観察され、同時に疼痛が再現された。また、内側広筋に対して縫工筋を徒手的に短軸滑走させると、縫工筋前縁と内側広筋間の滑走障害が観察された。以上より、膝伸展による両筋間の正常な滑走が制限された結果、筋間に位置するIPBSNは両筋からの圧刺激により疼痛を惹起したと考えられた。さらに、縫工筋持ち上げ操作に自動伸展を組み合わせると即時的に疼痛がNRS2まで軽減することを確認した。よって、縫工筋と内側広筋間の滑走性改善がIPBSN由来の疼痛を軽減するためには必要であると考えられた。両筋間の滑走性向上を目的とした理学療法へ変更後14日で、伸展時痛消失、可動域は屈曲120°伸展10°、extension lag、感覚障害、歩行時痛は消失した。エコー動態では、両筋間の正常な滑走が獲得できていた。また、内側広筋に対して縫工筋前縁を徒手的に短軸操作すると、滑走性は改善していた。入院5週目に退院となり、外来リハビリ(週1回)へ移行した。約3か月後には階段降段、しゃがみこみ、正座まで可能となり理学療法を終了した。

    【考察】 膝最終伸展時の前内側部痛にて歩行障害を呈した症例に対し、理学所見、エコー所見、疼痛減弱操作から縫工筋と内側広筋間の滑走障害がIPBSN由来の疼痛を惹起していたと考えられた。縫工筋の持ち上げ操作に自動伸展運動を組み合わせることで、内側広筋との滑走性が促され、筋間に位置するIPBSNは圧刺激から除圧された結果、疼痛は消失し良好な治療成績につながったと考える。

    【倫理的配慮、説明と同意】 症例に対しては本発表の目的について十分に説明し、書面にて同意を得た。

  • O-142 骨関節・脊髄⑤
    小谷 尚也, 前山 彰, 山本 卓明, 鎌田 聡
    p. 142-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 高位脛骨骨切り術(HTO)は、変形性膝関節症の治療の一つとして多くの手術実績があり、それに対する報告も数多くみられる。また、軟骨欠損に対する再生医療として、自身の軟骨を採取し、それを体外で培養し、欠損部に戻す自家培養軟骨移植術が近年注目されている。自家培養軟骨移植術はその生着率が術後経過を大きく左右するが、HTOにより荷重部位を矯正することで、生着率の向上が期待できる。我々が狩猟しえた限りでは、これらを同時に施行した患者に対するリハビリテーションの報告はなく、今回、HTOと自家培養軟骨移植術を併用した患者に対する理学療法の経験について報告する。

    【症例紹介】 症例は50歳代の女性で、既往歴として今回の術側の半月板切除術を⃝年前に施行された。その後、疼痛の増悪がみられたため2022年⃝月に高位脛骨骨切り術と自家培養軟骨移植術を施行した。術後のプロトコルは以下の通りである。術直後~3週:術側膝ROMは伸展0°~屈曲60°(リハ時以外は伸展位固定)、荷重は15 ㎏まで。術後3週~術後6週:術側膝ROMは伸展0°~屈曲90°、荷重は15 ㎏まで。術後6週~12週:術側膝ROM制限なし、荷重は30 ㎏まで、術後12週~:運動制限なし、全荷重可、中等度のエルゴメーター開始。

     術部の経過は概ね良好で、プロトコルに準じて疼痛自制内でROMや筋力の改善を認めたが、基本動作や歩行など、特に立位での動作の不安定感が著明であった。術後12週で全荷重になった際も、術側下肢への荷重がかけられず、静止立位すら安定しない状態であった。その要因として、足部・足趾の筋力低下(底屈MMT:3/2+)による床把持困難を契機とした前足部への荷重困難と考えた。本症例は術前より、歩行が可能であったにも関わらず車椅子を使用するなど、疼痛や転倒への不安感が非常に強く、骨盤が後傾した後方重心姿勢をとっており、歩容はすり足であった。そのため、下腿三頭筋や足趾屈筋の不使用による筋力低下を引き起こし、さらに不安定性が高まるという悪循環を生じていたと推測される。そこで、まず平行棒内にて不安感を軽減した状態での立位保持、前足部荷重を促していくことから開始した。開始当初は上肢支持を用いながら可能な範囲で前方への重心移動を行い、改善に応じて上肢支持量を漸減し、リーチ動作や上肢課題を追加した。その結果、術後13週時点では足底屈MMT(3/3)で上肢支持なしでの安定した立位保持が可能となり、術後14週時点で病棟内T-cane歩行自立、術後16週時点で足底屈MMT(4/3)で院内T-cane歩行自立となり、術後18週で自宅退院となった。

    【考察】 本症例は、手術部の経過は概ね問題ないにも関わらず、歩行やADL拡大が遷延した。その要因として、前述の通り、不安感からの後方重心に伴う足部機能低下とそれによる安定性低下の悪循環であると考え、不安感を軽減した状態からの立位保持、足部機能改善を図り、良好な結果を得ることができた。元来、本症例は不安感の強い性格であることに加え、症例数の少ない新しい手術を行ったことでより不安感を助長し、身体機能に現れたと思われる。当術式は通常のHTOと比較し免荷期間が長いことで、荷重が許可されてもスムースな導入が困難な一面があると思われるが、手術部位の状態のみならず、精神面や全身の機能を総合的に評価し、治療に反映させることが重要であることを再確認する良い機会となった。

  • O-143 骨関節・脊髄⑤
    渡邉 美幸, 帯刀 雅貴
    p. 143-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 降段動作は日常生活で多用される動作であり、歩行よりも足底への衝撃が大きい動作であるが内側縦アーチと降段動作の衝撃吸収能については研究されていない。本研究では健常者を対象に内側縦アーチの一指標であるNavicular Drop test(以下、NDT)が降段動作時の下段下肢足底への衝撃吸収能にどのように影響しているのかを研究した。

    【方法】 被検者は健常者10名(男性5名女性5名。年齢32.1±6.3)とした。課題動作は18 ㎝台からの降段動作とした。開始肢位は静止立位とし、降段後は止まらず2m以上歩行をしてもらった。計測前に、先に降ろしやすい下肢を決定してから5試行計測した。計測はウォークwayMW-1000(アニマ株式会社)を18 ㎝の台の上に1枚、床面に1枚の計2枚を設置し、サンプリング周波数を100 ㎐として計測した。算出項目は ①両側NDT、②下段下肢の衝撃吸収能、③下段下肢の最大圧力(以下、MaxP)と接地から最大圧力までにかかった時間(以下、MaxT)、④下段下肢接地直前の上段下肢の足圧中心位置(COP)とした。②はLoading rateを参考に算出した。なお、衝撃吸収能は値が小さくなるほど衝撃吸収が良いとされている。衝撃吸収能とMaxPは体重にて正規化した。④は足圧の内縁と後縁の交点を原点とし、COPの座標をCOPxとCOPyとして算出した。COPxは足圧の左右幅、COPyは足圧の前後幅で除して正規化した。

     統計は統計ソフトSPSSにてShapiro-Wilkの正規性の検定を実施し、正規性の確認をした後、Pearsonの積率相関係数を算出した。有意水準は5%とした。

     本研究はヘルシンキ宣言に従い実施した。また被験者には説明を十分におこない同意を得られてから計測をおこなった。

    【結果】 上段下肢NDTは衝撃吸収能(r=-0.86)、MaxT(r=0.79)、COPx(r=-0.79)、COPy(r=0.84)で有意な相関があった。衝撃吸収能は上段下肢NDT以外でMaxT(r=-0.93)、COPx(r=0.86)、COPy(r=-0.80)と有意な相関があった。MaxTは上段下肢NDTと衝撃吸収能以外でCOPx(r=-0.85)、COPy(r=0.69)と有意な相関があった。COPxは上段下肢NDTと衝撃吸収能、MaxT以外でCOPy(r=-0.85)と有意な相関があった。なお、上段下肢NDTの基準値を0.6 ㎝から0.9 ㎝とした場合、0.6 ㎝未満が3名、0.9 ㎝を超えた者は1名であった。

    【考察】 上段下肢NDTが小さくなるほど下段下肢の衝撃吸収能が悪く、COPは外後方へ偏位していることがわかった。また、衝撃吸収能とMaxPには相関がなく、MaxTと相関があったことから、降段動作の衝撃吸収能には下段下肢のMaxTが影響していることがわかった。降段動作では下段下肢への体重の受け渡しが生じるため、重心は前下方へ移動すると同時に下段下肢方向へ移動する必要がある。牧川らによると第1中足趾節関節は内側、第2~第5中足趾節関節は外側のように関節の向いている方向が異なり、進む方向に合わせて中足趾節関節を使い分けているとされる。上段下肢からみて下段下肢は内側にあるため、第1中足趾節関節で回転をする方が理にかなっている。上段下肢NDTが小さいほどCOPは外後方へ偏位していることから、第1中足趾節関節での回転がおこないにくく、降段時のバランス制御が難しくなり、MaxTが小さくなったのではないかと考えた。

    【まとめ】 上段下肢のNDTが小さくなるほどCOPは外後方に偏位し、下段下肢の最大圧力までにかかる時間が小さくなった結果、衝撃吸収能が悪くなることがわかった。

  • O-144 骨関節・脊髄⑤
    橋本 裕司, 辛嶋 良介, 谷 侑汰, 後藤 剛, 川嶌 眞人
    p. 144-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 今回、交通事故により多発骨折を呈した症例を担当した。術後の疼痛が強く理学療法展開に難渋していたため、エコー(以下、US)を用いて動態を評価し、介入部位を限定し運動療法を考慮した結果、膝関節屈曲可動域並びにExtension lagの改善が図れたため以下に報告する。

     本発表はヘルシンキ宣言に基づき、当院の倫理委員会の承認を得て、患者に十分な説明を行い同意が得られた後に実施した。

    【症例紹介】 50歳代男性でバイクによる交通事故により、右下肢多発骨折を受傷した。骨折型は大腿骨骨幹部骨折はAO分類C2で第3骨片を伴う複雑骨折、大腿骨顆上骨折はAO分類B1で関節内に達する骨折、膝蓋骨骨折はAO分類A2で転位のない骨折であった。それらに対して受傷後5日目に観血的骨接合術が行われた。大腿骨は、逆行性に髄内釘を挿入し大腿骨顆部を横止めscrewで固定しており、大腿骨幹部前面の小骨片と後面の第3骨片は遺残した。また、膝蓋骨はCCSにて固定した。後療法は術翌日よりROM練習開始、荷重は4週免荷の後、以降部分荷重を開始であった。交通外傷による多発骨折で術後の理学療法も難渋した症例であった。

    【初期評価】 評価は術後7週目に行った。理学所見は、膝関節可動域は他動-5~85°、自動-30~70であり、屈曲最終域で大腿中央部前面にNRS8/10と強い疼痛を訴えていた。大腿部の疼痛によりROM練習、特に屈曲の可動域拡大に難渋しているため、USを用いて、大腿中央と大腿遠位部を長軸走査による動態評価を行うこととした。

     その結果、疼痛を訴える大腿中央部では小骨片が腹側へ角状に突出しており、その周囲は低輝度が散在、中間広筋内の線維内に高輝度変化がみられ瘢痕形成が示唆された。その状態で、膝関節の屈伸運動を行うと、他動屈曲時には突出した角状部と周囲の低信号領域間で遠位方向へ滑走が阻害されていた。特に中間広筋の深層で大腿骨の間、表層で大腿直筋の間での滑走が生じていなかった。また、自動伸展運動時には同部位で近位方向への滑走が阻害されていた。

     大腿骨遠位部では膝蓋上嚢の癒着や中間広筋の滑走は、中央部と比較し良好であった。

    【理学療法】 第3骨片と中間広筋の間の組織間の滑走を出すために、大腿中央部より中間広筋を把持しLift Upし、多方向へMobilizationを行った。その後、中間広筋と組織間での滑走を促すために、2関節筋である大腿直筋を十分弛緩して遠位方向へは他動的に膝関節を屈曲、近位方向へは自動伸展で滑走を促した。

    【結果】 初期評価より8週間後に再評価を行った。理学所見としては、膝関節の可動域は他動-5~130°、自動-5~110°まで改善し、他動屈曲時の疼痛もNRS2/10と軽減した。

     大腿中央部の走査では、膝関節の屈伸運動時の中間広筋は大腿骨上で滑走し、小骨片を乗り越える様子が確認できた。また、大腿直筋との間での滑走も確認された。

    【考察】 通常は可動域測定やその際の抵抗感、疼痛部位、自・他動運動などの組み合わせにより制限因子を予測するは特定に難渋することがある。本症例は下肢の多発骨折であり、可動域制限を生じる要因や部位は多岐に渡り、可動域の獲得に難渋することが予測された。今回はUSを使用したことにより、可動域制限に影響している部位とその要因を特定できたため、アプローチ方法が明確になった。このことが可動域改善に奏功した一因と考えられた。また、US走査による副次効果として患者と動態の共有が図れたことで、理学療法中や自主練習の意欲向上にも繋がったと感じた。

  • O-145 骨関節・脊髄⑤
    鶴 大輔, 香月 祐哉, 小川 朋子, 三原 絵美, 河野 権祐
    p. 145-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 下肢外傷後にみられる二次性リンパ浮腫による病態や機序はよく知られている一方で、理学療法士による骨折術後にリンパ浮腫を生じた患者に対する運動機能に対する症例報告は少ない。そのため、リンパ浮腫患者に対する、複合的介入(スキンケア、用手的リンパドレナージ、圧迫療法、運動療法)が運動機能と活動量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。

    【経過】 バイク走行中による事故の為、近医へ入院し左脛骨高原骨折と診断された。手術目的に転院したが、左膝から大腿遠位にかけ腫脹が強く水疱形成著明であったため、受傷から2週間後に骨接合術施行された。受傷時認めた巨大血腫および水疱形成部は黒色壊死化したため、術後6日目に局麻下デブリドマン施行。しかし、創部感染(左膝関節液からMRSA検出)したため、術後15日目にインプラント除去・鏡視下膝関節洗浄・デブリドマン施行。その後、創部潰瘍は治癒し骨癒合が得られたが、両下肢リンパ浮腫が残存し加療目的で当院受診し入院となった。

    【倫理上の配慮】 本人に本報告の趣旨と内容を十分に口頭および文書にて説明し、プライバシーに配慮することを伝え、同意を得た。

    【症例紹介】 70代男性。身長170.0 ㎝、体重82.2 ㎏、BMI:28.4 ㎏/m2。診断名は、両下肢リンパ浮腫(Ⅱ期後期-Ⅲ期:国際リンパ学会分類)、既往歴に、左脛骨高原骨折術後、骨接合術後感染・左化膿性膝関節炎、腰部脊柱管狭窄症、高血圧、脂質異常症であった。MMSEは30点。仕事は、家庭教師と塾講師をされている。移動は、ロフストランド杖を使用して自立している。

    【初期理学療法評価】 周径(㎝)(右/左)鼠径47.0/49.9、膝上20 ㎝ 46.5/51.3、膝上10 ㎝ 43.4/52.0、膝35.6/44.8、膝下10 ㎝ 40.5/50.1、足関節32.0/31.0、足背10 ㎝ 27.5/26.9。Short Physical Performance Battery(以下、SPPB):6点、握力(右/左)(㎏):33.8/33.0、30-second chair stand test(以下、CS-30):0回、10m歩行スピード(ロフストランド杖):快適速度12.49秒、最大速度8.26秒、6分間歩行試験(6WMT)(ロフストランド杖):364m。活動量の評価には、3軸加速度計であるオムロン活動量計(Active style Pro HJA-750C:OMRON社製)を使用した。介入日の翌日から4日間の平均をベースとした。平均歩数は3,045歩であった。栄養評価としてGeriatric Nutritional Risk Indexを用い114.8であった。

    【複合的介入内容】 1日に2回のリハビリテーションを実施した。1つは、浮腫治療用の弾性包帯または弾性着衣を着用してコンディショニング運動や筋力増強運動、エアロバイクでの運動療法を実施した。もう1つはリンパ浮腫セラピストによる、スキンケア、用手的リンパドレナージ、多重包帯法による圧迫療法を実施した。

    【最終理学療法評価(介入1ヶ月後)】 体重70.0 ㎏ 周径(㎝)(右/左)鼠径45.7/47.5、膝上20 ㎝ 44.1/45.5、膝上10 ㎝ 39.8/40.0、膝34.4/36.3、膝下10 ㎝ 33.1/36.9、足関節22.9/25.5、足背10 ㎝ 23.2/23.5。SPPB:10点、握力(右/左)(㎏):38.1/36.8、CS–30:13回、10m歩行スピード:快適速度10.56秒、最大速度7.44秒、6WMT(ロフストランド杖):429m。最終評価日を含む4日間の平均歩数は、17,671歩であった。

    【考察】 両下肢リンパ浮腫患者に対する複合的介入は、周径の変化だけでなく運動機能や活動量の向上を認めた。今後の課題として、リンパ浮腫患者の運動機能の特徴を把握し、効果的なリハビリテーションやセルフマネージメント方法を提供できるよう症例数を集積していきたい。

  • O-146 骨関節・脊髄⑤
    森口 晃一, 森寺 邦晃
    p. 146-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 長期化するアキレス腱付着部の疼痛や既往歴由来の股関節症状の残存が心理的にも影響したと考えられる症例に対し、股関節機能も考慮した介入を行ったところ、比較的短期間でアキレス腱付着部の疼痛や心理的影響の改善に至った。その詳細について報告する。

    【症例紹介】 50歳代、女性。診断名は左アキレス腱周囲炎。現病歴は、約5ヵ月前から左アキレス腱付着部に疼痛出現。その後、疼痛増強したため近隣のA医院を受診しインソールを作成。その後も症状が持続したため既往の左股関節唇修復術後の定期診察で受診したB病院で症状を伝え、当院に紹介となる。当院初診時、超音波診断装置(エコー)によりアキレス腱付着部の滑走障害が認められる。

     既往歴は、左股関節唇損傷、乳がん手術、第3中足骨骨折。

    【初期評価】

    1. 疼痛 安静時痛、運動時痛はなく、左アキレス腱付着部内側に圧痛がありNumerical Rating Scale(以下、NRS)で7、歩行時痛はNRSで5であった。起床時の一歩目や持続座位後の一歩目で強い疼痛を有していた(NRSで8)。また、歩行時に左第3趾にも軽度の疼痛(NRSで3)と左股関節に軽度の違和感を有する訴えがあった。

    2. 左足関節機能 関節可動域測定(ROM):他動および自動での可動域は、明らかな制限は認められなかった。しかし、距腿関節内外旋中間位で他動による足関節背屈運動を行うと足部の外転が生じ、股関節の内旋を伴う現象が見られた。

    徒手筋力検査(MMT):前脛骨筋は5、下腿三頭筋は4であった。

    3. 疼痛破局的思考尺度(PCS)

     反芻16点、無力感10点、拡大視12点、合計38点であった。

    4. 歩行 初期接地時、左股関節は内旋位および足部内転位を呈し、立脚中期において体幹が軽度の左傾斜を伴う歩容であった。立脚後期の踵離地では通常生じる足部の回外が見られず足部回内が生じていた。

    5. 股関節機能 ROM(右/左):屈曲110°/110°、伸展10°/0°、内転20°/15°、外転45°/45°、外旋50°/35°、内旋45°/50°

     MMT(右/左):屈曲5/5、伸展4/3+、内転4/4、外転5/3+、内旋5/5、外旋5/4

    6. 運動恐怖 左股関節外旋時に恐怖感あり。Visual Analog Scale(VAS)で51㎜であった。

    【理学療法および経過】 理学療法開始時は、徒手療法を中心にアキレス腱の滑走性と距骨下可動性改善、足関節運動軸の改善を図った。しかし、疼痛の改善が乏しいため、問診ならびに歩行観察の結果から股関節機能評価を実施し、骨盤帯および股関節機能に着目した介入内容に変更した。左腰腸肋筋の過緊張改善、寛骨後傾角度の増加、股関節伸展および外転筋群の選択的収縮力の増加を目的とした運動療法とセルフエクササイズ指導を追加した。結果、歩行時の左第3趾の疼痛は消失し、左アキレス腱付着部の疼痛も軽減した。

    【再評価】

    1. 介入期間・頻度 週に1回程度、合計7回の介入。

    2. 疼痛 歩行時痛は消失、起床時および持続座位後の1歩目はNRSで2以下に改善した。左股関節の違和感はほぼ消失した。

    3. 左足関節機能

    他動背屈時の足部外転および股関節内旋が改善された。

    4. PCS 38点から23点に改善した。

    5. 股関節機能(左) ROM:伸展10°、外旋45°

     MMT:伸展4、外転4、外旋5

    6. 運動恐怖 左股関節外旋時の運動恐怖は軽減し、VASで22㎜となった。

    7. エコー アキレス腱付着部の滑走性の改善が認められた。

    【まとめ】 エコーによる病態把握に加えて、既往歴に関連する股関節機能障害が足関節に及ぼす影響を考慮した介入が、アキレス腱周囲の長期的な疼痛さらに残存する股関節症状の改善に至り、心理的影響にも良好な結果をもたらした。

    【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に沿い、また対象者には発表の目的などを説明し同意を得た上で演題登録を行った。

一般演題26[ 骨関節・脊髄⑥ ]
  • O-147 骨関節・脊髄⑥
    古川 繁
    p. 147-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 当院では2019年7月より脂肪組織由来再生幹細胞注入術を慢性期脊髄損傷患者対象に実施している。治療終了後リハビリテーションを、約1か月を目安として実施している。当院における再生医療治療後のリハビリテーションは、目的として主に機能面評価、ADL能力向上、自主運動指導、自己管理能力向上が挙げられる。今回、慢性期頚髄損傷患者に対し脂肪組織由来再生幹細胞点滴静注治療後に約1か月程度リハビリテーションを行い、退院後の術後12か月まで定期評価を行った結果、継続的な改善を認めたので報告する。

    【症例紹介】 症例は頚髄損傷の診断を受けた63歳男性。術前の損傷レベルはC5、AIS:D。社会資源は通所リハを利用されており、主にストレッチや筋力トレーニングを実施していた。demandはもっと歩けるようになりたい。術前ADLは、起居動作は柵を使用して、肩甲帯を支え介助で行う一部介助レベル。移動は場面に応じて車いすと歩行を併用、自宅内はプラスチック短下肢装具を両下肢に着用して歩行器で移動、屋外は車いすを自己駆動にて移動されていた。階段は手すりを使用して腰部介助レベル。車の運転や仕事で使用していた重機は、受傷後は実施していない。

     今回、手術を受けられた時期は発症より1.5年後、治療やリハビリのために術後1か月程度入院されていた。その際はROM運動、歩行運動、起立運動、自主運動指導を中心にリハビリテーションを行っており、自主運動に関しては、入院中より帰宅後を想定した自主運動をリハビリ時間外でも実施していた。

    【調査方法】 調査期間は手術2週間前から12か月後まで。

     定期評価のタイミングは全部で6回。それぞれ手術2週間前(以下、術前)、手術後1週間(以下、術後)、術後1か月、術後3か月、術後6か月、術後12か月とした。

     評価項目はAIS(ASIA impairment scale)、MAS(Modified Ashworth Scale)、m-FIM、握力とした。

    【結果】 AISは12ヶ月後までD、著変なかった。術前から術後にかけてASIA運動(上肢)は向上、ASIA知覚は低下、m-FIMは不変であった。術後から1か月後の機能面は不変、m-FIMは向上を認めた。1か月から12か月までASIA運動(下肢)・ASIA知覚、m-FIM全て向上した。神経学的レベルは運動、知覚ともに、術後より改善を認めその状態は12か月後まで継続していた。

     ADLに関する経過は、

    術後:ADLは術前と比較して著変なし。

    1ヶ月後:歩行は装具未着用にて160m程度T字杖監視歩行可能。起居自立、階段昇降監視レベル、室内は歩行、屋外は車いす移動レベルで自宅退院。ストレッチを中心に入院中より行っていた自主運動を習慣化するよう指導。

    3ヶ月後:家屋内移動は伝い歩きで可能。

    重機の操縦や車の運転が可能、段差昇降自立、自主運動は継続、通所リハの利用状況は入院前と著変なし。

    6ヶ月後:3ヶ月後と著明な変化なく生活されていた。

    自主運動と通所リハにて運動は行っていた。

    12ヶ月後:熊本豪雨の影響により、通所リハの活用が一時中止となり活動性低下。自主運動は継続。

     なお、退院後~12ヶ月後の評価まで長距離移動は車椅子を使用していた。

    【結論】 脂肪組織由来再生幹細胞注入術後、上下肢の筋力増強、筋緊張低下といった運動機能改善を認めた。運動機能改善に加え、術後リハビリテーションを行うことでADL能力向上を認めた。運動機能改善とADL能力向上による相乗効果で、退院後の活動性向上に継続することが出来た。術後より自主運動指導を含めたリハビリテーションを行うことが、活動レベルの維持・向上の一助となり得ると思われた。

  • O-148 骨関節・脊髄⑥
    持留 魁人, 竹下 康文, 日高 雄生, 下世 大治, 宮﨑 宣丞, 柳田 紘和, 加治 智和, 廣畑 俊和
    p. 148-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 がんは進行とともに様々な部位に転移を生じるが、骨は転移の好発部位である。転移性骨腫瘍に対する治療は脊椎固定術、装具療法、放射線照射が選択されるが、腫瘍浸潤によって脊髄圧排が引き起こされると運動麻痺や膀胱直腸障害によって患者の日常生活に大きな影響を及ぼす。今回、転移性胸椎腫瘍によって脊柱管浸潤をきたした患者に対して後方固定術が施行され、下肢不全麻痺が後遺しているものの残存機能を活かしADLの改善を図った症例を経験したため報告する。

    【症例】 80代女性、身長156 ㎝、体重38.7 ㎏、BMI15.9。自宅内で転倒、救急搬送され、CTにて胸椎に椎体溶解と脊柱管の圧排を伴う腫瘍像を認めた。同日他院にて、T3-8固定術、T5-6椎弓切除術を施行され、発症から1ヶ月後リハビリテーション継続目的で当院へ転院された。

     初期評価時、不全対麻痺状態であり、上肢機能はMMT3レベルで機能は温存され、握力:右15.8 ㎏、左14.4 ㎏、下肢機能はMMT3レベルで膝伸展筋力:右0.143 ㎏f/㎏、左0.128 ㎏f/㎏であった。肛門随意収縮・肛門深部圧ともになく、膀胱直腸障害を認めていた。活動面は移動能力が車椅子移動、排泄関連動作がFIM小項目の排泄コントロールは1点、トイレ動作は1点、移乗:トイレは4点であった。対象者には説明を行い、同意を得た後に実施し、ヘルシンキ宣言に則り倫理的配慮に基づいてデータを取り扱った。

    【理学療法経過】 患者のニーズは排泄関連動作の自立であり、トイレ動作獲得に向けて運動療法は下肢筋力を中心に筋力増強訓練、車椅子駆動練習を実施した。一般的な起立練習ではなく、プッシュアップ動作を意識した起立練習を積極的に行った。4週目以降、徐々に排泄時の知覚も改善を認め、監視にて自室ポータブルトイレでの排泄が可能となった。また、下位更衣・清拭などの動作も徐々に獲得され、移動能力も歩行練習を開始し、歩行器歩行20m程度軽介助レベルとなった。7週目以降では、排泄時ナースコールを使用し、歩行器歩行監視にて病棟内トイレまで移動し、移乗動作やトイレ内動作も監視レベルで実施可能となった。

     9週間目の最終評価時には、上肢機能はMMT3レベル、握力:右15.9 ㎏、左15.3 ㎏と維持が図れ、下肢機能はMMT4レベルで膝伸展筋力:右0.303 ㎏f/㎏、左0.274 ㎏f/㎏と向上し、移動能力が歩行器歩行監視レベルまで改善した。排泄関連動作はFIM小項目の排泄コントロールは5点、トイレ動作は5点、移乗:トイレは5点と改善を認め、施設退院となった。

    【考察】 がんの骨転移による脊髄損傷をきたした症例に対しては、一般的に生命予後の観点から緩和的なリハビリテーションに移行するケースも多い。しかし、本症例では脊髄病変以外は全身状態が比較的安定していることから、機能回復を目的とした集中的なリハビリテーション治療を行い、ADL・QOLの改善を図ることができた。

     また、患者のニーズであった排泄関連動作は監視レベルで行えるようになった。これは膀胱直腸障害の改善がみられる前から、早期に排泄に関連する動作を習得させ、自身のタイミングでポータブルトイレでの排泄をチャレンジできたことが排泄機能をさらに向上させる要因になったと考えられる。

     がんの骨転移、脊髄損傷の患者の生命・身体機能の予後は介入当初に見通しが立たず難渋する症例も少なくない。しかし、予後に限らず早期に目標を定め、患者のニーズに応えた上でADL・QOL改善を目指して残存機能を活かしながら理学療法に取り組むことが重要であると考える。

  • O-149 骨関節・脊髄⑥
    宮平 亮治, 泉 清徳, 矢木 健太郎
    p. 149-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 がんのリハビリテーションガイドラインでは化学療法、放射線療法中・後の血液腫瘍患者に運動療法を実施することは強く勧められている。しかし悪性腫瘍の脊椎転移に伴う脊髄損傷患者は在宅で介助量の多い生活をされている症例を経験することが少なくない。今回予後1年半と診断された硬膜外腫瘍から対麻痺を呈する多発性骨髄腫患者を担当し、本人と妻の思いを踏まえ自宅退院を目指した取り組みを報告する。

    【症例紹介】 診断名:多発性骨髄腫。60代男性。入院前ADL自立で妻と2人暮らし。

    【経過】 入院日5日前より対麻痺症状出現、画像上頚・胸椎、肋骨骨髄腫病変、特にC7からTh7に硬膜外腫瘍を認め上記診断で入院。2病日目Th2・3へ放射線療法(以下、RT)開始。同日理学療法開始。初期時理学療法では改良Frankel分類C-1、Th7領域以下の表在覚中等度鈍麻、下肢深部覚重度鈍麻。14病日目Th7へRT追加後、主治医より本人と家族へ運動麻痺回復は不透明で、生命予後は1年半であると説明。Th2. 3. 7への放射線療法が終了するも運動麻痺の改善みられず起立・移乗動作最大介助レベル。52病日目にVRD療法(以下、VRD)が開始され、本人から車いすでいいから家に帰りたい。妻から軽介助であれば自宅で看てあげたいという希望が聴かれた。そこで目標として自宅退院を目指し起立・移乗動作軽介助から見守りレベルと設定。目標達成のための問題点として下肢筋力低下と深部感覚鈍麻が主にあり、それらに向けてのアプローチを行いつつ、家屋環境調整・介護サービス調整・本人と妻への動作指導を実施。150病日目VRD3クール終了し改良Frankel分類D-1、Th7以下の表在覚軽度鈍麻、下肢深部覚軽度鈍麻、車いす自走自立、起立・移乗動作修正自立となり151病日目に自宅退院。

    【考察】 今回生命予後1年半と限られた予後のなか本人と妻の思いを踏まえ自宅退院を目指すにあたり、起立・移乗動作軽介助から見守りレベルと自宅で妻の負担にならない介助量の目標設定を行った。上記の目標達成に向け下肢筋力増強練習、動作反復を中心に行っていたが、移乗介助量増大になっていた要因として、深部感覚鈍麻から下肢振り出し後の足部接地位置が一定しないことが挙げられた。そこで鏡を使用し視覚フィードバックを用いたステップ練習や床にマーキングを施した移乗練習を実施。また家屋環境調整として自宅内に手すりの設置と車いす自走のため段差解消を行い、退院後の介護サービスでは介護ベッドと車いすのレンタル、訪問リハビリテーションの介入を依頼。また本人と妻へ起立と移乗の介助動作指導と病的骨折予防に向けた動作指導を実施。徐々に下肢筋力と表在・深部感覚の回復がみられるに伴い起立・移乗動作の介助量軽減につながり、本人と妻の希望する自宅退院に至った。

     今回多発性骨髄腫の脊椎病変による不全麻痺の運動麻痺回復程度は不透明であった。そのなかで理学療法介入を行い、起立・移乗動作介助量軽減を達成でき、また妻の協力と家屋改修、介護サービス利用にて自宅退院につながったと考えられる。

    【倫理的配慮、説明と同意】 本報告は対象者に説明を行い同意を得た後に実施し、ヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に則り、個人情報データの匿名処理を行い、個人情報保護に十分に配慮し行った。

  • O-150 骨関節・脊髄⑥
    門前 佑之輔, 生駒 成亨, 白木 信義, 杉安 直樹, 山下 大輔, 見越 賢一, 西中川 剛
    p. 150-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【目的】 近年、中心性頚髄損傷患者において早期からの歩行練習の重要性が示唆されている。しかし、これまで中心性頚髄損傷患者の歩行再建に向けた理学療法は多大な人的資源を必要とする方略が行われてきた。そこで、近年では体重免荷式トレッドミルを使用する事で、より人的資源を必要とせず且つ安全に歩行練習を行えるといった有効性の報告も散見されている。今回、体重免荷式歩行器(Hill ROM社製 Liko Lift:以下、リフト)を導入したプログラムにより、受傷後早期から歩行練習に取り組めADLの改善を認めた症例を担当する機会を得たため報告する。

    【症例紹介】 70代男性(身長169 ㎝、体重73.5 ㎏、BMI:25.7)、仕事中に転倒しブロック塀で前額部を打撲し受傷(X日)、四肢麻痺を認め救急要請。中心性頚髄損傷の診断に対し保存加療にて治療を進めていく事となった。入院前のADLは独歩レベルであり、IADLを含め全て自立していた。介入時当初の所見は、頚部から両肩関節にかけての疼痛とC5領域以下の重度感覚鈍麻、MMT(右/左)にて肘屈筋群4/3、肘伸筋群4/3指関節屈筋群3/1、指外転筋群3/1股屈筋群4/3、膝伸筋群4/3、足背屈筋群3/3長母指伸筋群3/3、足底屈筋群3/3といった筋力低下が認められた。Frankel分類(右/左):D1/D1、Zancolli分類(右/左):T1B/C6A、ASIAは運動項目の上肢総点27点、下肢総点48点、表在触覚93点、痛覚97点となっていた。起居・移乗動作に関しては体幹支持に介助を必要とする状態だった。

    【経過】 リハビリは入院翌日(X+1日)から介入しており、X+2日から車椅子移乗練習を開始し歩行練習はX+3日から開始した。当初は5mの歩行器歩行が可能だったが、膝折れが頻繁に生じ転倒リスクが高く実用性は乏しいものだった。そこで、X+4日からリフトを使用したプログラムを開始し、X+6日には歩行距離が140mまで延長できた。X+8日には膝折れが消失しリフトを使用せず歩行器のみで100mの歩行が監視下にて可能となり、移乗動作も監視で行えるようになった。X+11日頃から回復期病棟への転棟も検討されていたが、300m以上の独歩と12段以上の階段昇降能力を獲得し経過良好となり、X+44日で急性期病棟から自宅退院となった。リフトを使用したのはX+4日からX+7日までの4日間であり、リフトを使用したプログラムの介入単位数は合計12単位であった。

    【考察】 中心性頚髄損傷は、頚髄中心部を損傷する疾患であり、頚髄水平断において上肢の機能を司る伝導路が下肢のものと比較し中心部に位置することから、上肢の麻痺が重篤になり易い傾向にあるが、下肢筋の廃用性筋萎縮等から歩行困難となる例も少なくない。そのため、受傷後早期から離床を図り廃用予防に努める必要があると考えられている。本症例は、当初、セラピストの介助が加わった状態でも歩行の耐久性は5mと非常に短く、膝折れも生じるなど転倒リスクも高く実用性に欠けるものだったが、リフトの使用により介助量の軽減が図れ、安全な歩行練習を受傷後早期から開始できた。更に、リフトの使用により負荷量の調節が定量的に行えたことで、常に一定の質を保ったリハビリを提供できたことも考えられる。その結果、頻回な離床と歩行練習が実施できた事で歩行再建と早期退院に至ったと考察する。今後は歩行時の免荷量を数値化し、負荷量の指標として活用していくことが課題となる。

    【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言に基づき、症例に対して検査前に今回の研究の意義、説明と同意を得た。

  • O-151 骨関節・脊髄⑥
    細木 悠孝, 古川 繁, 吉川 厚重, 古閑 博明
    p. 151-
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/01/11
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    【はじめに】 再生医療における急性期および慢性期頚・脊髄損傷患者についての報告は散見される。また、慢性期頚髄損傷患者に対して、脂肪組織由来再生幹細胞群(以下、ADRCs)点滴静注治療を用いた症例報告はある。しかし、慢性期頚・脊髄損傷に対してADRCs点滴静注治療を用いた、長期的な治療報告について一定数の症例をまとめた報告は管見の限りない。今回、慢性期頚・脊髄損傷に対して、ADRCs点滴静注治療の手術1週間前(以下、術前)、手術1週間後(以下、術後)、術後1ヵ月、術後1年のリハビリテーション評価の経過について報告する。

    【対象】 2019年7月~2021年3月までに入院され、ADRCs点滴静注治療を受けた頚・脊髄損傷患者30名のうち、術前、術後、術後1ヵ月、術後1年の評価が実施できた男性13名(平均年齢57.6歳±11.9歳)を対象とした。発症からの経過は平均37.5ヶ月であった。損傷部位は頚髄損傷8名、胸腰髄損傷5名で、ASIA機能障害尺度(以下、AIS)はA:5名、B~D:8名であった。

    【方法】 腹部より脂肪組織を採取し、セルーションⅣ(cytori社製)にてADRCs溶液5 ㎖を抽出したものを、乳酸リンゲル液250 ㎖に混合し採取当日に静脈より点滴投与した。その後、約1ヶ月間のリハビリテーションを施行した。

     評価項目は、ASIA運動・知覚score、機能的自立度評価法運動項目(以下、m-FIM)についてAIS:AとB~Dに分け、それぞれの評価項目について、術前、術後、術後1ヵ月、術後1年で比較した。評価者は評価方法のレクチャーを受けた者で、術前から術後1年まで同一者が実施した。

    【倫理的配慮】 本研究は熊本リハビリテーション病院倫理委員会(173-210816)の承認を受け、対象者には書面で研究の趣旨を十分に説明し同意を得た上で実施した。また、厚生労働省へ再生医療等の安全性の確保等に関する法律第4条第1項の規定により再生医療等提供計画を提出している。

    【結果】 AIS:A5名の中央値(術前、術後、術後1ヵ月、術後1年)は、ASIA運動〈上肢(50, 50, 50, 50)、下肢(2, 2, 2, 4)〉、ASIA知覚〈表在触覚(76, 76, 76, 79)、ピン痛覚(75, 77, 76, 76)〉、m-FIM(73, 72, 72, 76)であった。AIS:B~D8名の中央値は、ASIA運動〈上肢(36, 39.5, 40, 41.5)、下肢(32.5, 39, 39.5, 41)〉、ASIA知覚〈表在触覚(59, 59, 61.5, 67.5)、ピン痛覚(65, 61.5, 61.5, 79.5)〉、m-FIM(63, 63.5, 63.5, 69)であった。また、AISの変化は2症例認めており、2症例とも不全損傷でCからDへ改善した。その他は変化なしであった。

    【結語】 慢性期頚・脊髄損傷に対するADRCs点滴静注治療は、一定数の症例の結果、ASIA運動・知覚score、m-FIMの長期経過において、数値の上昇を示した。さらに、不全損傷は完全損傷に比べて数値の上昇を示した。今回の結果から、短期的なリハビリだけでなく、術後1ヵ月以降にも継続できるリハ内容の指導の必要性を強く感じた。

    【今後の課題】 症例のサンプル数が少ないため、データの蓄積及びサンプル数を増やしていく。また、評価項目が限定的であったことや、術後1ヵ月以降のリハビリ内容や生活状況の調査が不十分であったため、評価内容の検討及び再構築を行っていく。

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