九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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  • 中馬 啓介, 山下 導人, 牛ノ濱 政喜, 中道 将治, 大迫 信哉, 尾辻 栄太, 小城 琢朗(MD), 早瀬 正寿(MD)
    p. 51
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     腰椎後側方固定術(以下PLF)施行例では、術後に固定隣接椎間への負荷が増大し、椎間板変性や、移植骨骨折などが危惧されている。当院でも少数であるが骨癒合不良の症例が存在する。今回、短期症例であるが、X線像において脊柱アライメントを比較し、若干の知見を得たので報告する。
    【対象症例】
     当院にてPLF(instrumentation使用)を施行し、経過観察可能であった移植骨癒合群(以下、良好群)22例、移植骨骨折群(以下、不良群)5例を対象とした。手術時平均年齢は46.1歳、経過観察期間は22.5ヶ月であった。全員、腰椎椎間板ヘルニアのみで固定部位はL4/5のものに限定した。
    【方法】
     術前、術後(1年後・最終診察時)のX線側面像より、以下の項目を計測し検討した。
    1.隣接椎間(固定椎より1椎上・下)の椎間板高
    2.腰仙角(以下A角)
    3.腰椎前彎角(L1上縁からS1上縁のcobb角)(以下B角)
    4.固定椎前彎角(L4上縁からL5上縁のcobb角)(以下C角)
     全症例で各X線撮影時期における1から3の測定値の経時的変化、良好群と不良群の各時期の測定値、また1・2・3の各々と、4との相関を有意水準5%にて統計学的に検討した。
    【結果】※有意差のあるもののみ記載
    〈良好群と不良群の各時期ごとの比較〉(各時期における測定値に2群間で差があるかを検討)
    ・A角(1年後・最終診察時)に有意差あり
    ・B角(1年後・最終診察時)に有意差あり
    〈相関〉( )内:相関係数
    ・1と4
       不良群:1年後(0.73)・最終診察時の1椎上(0.78)
            最終診察時の1椎下と相関あり(0.63)
    ・2と4
       不良群の最終診察時と有意な相関あり(0.82)
    ・3と4
       最終診察時の良好群(0.71)・不良群(0.81)に有意な相関あり
    【考察】
     隣接椎間板高とC角の相関より、良好群は腰椎全体の可動性が良好でL4/5以外のアライメントが保たれていたと思われる。不良群では1年以降に相関がみられ、今回は固定椎がL4/5限定であるが、少なくとも術前と1年後のアライメントの比較が重要と思われる。またA角とC角の相関より、不良群は骨折したことによりL5/S1への負荷が増強したものと思われる。金村らはB角とC角の平均をそれぞれ47.5、13.3と報告している。今回、術後のC角の平均は良好群12.2、不良群9.7であり、有意差はないが不良群は減少していた。B角は良好群45.1、不良群34.8であった。またB角とC角の相関と、両群間での比較で術後にA角とB角に有意差があったことから、固定椎の良好な前彎角保持が腰椎、また胸椎を含め脊柱全体のアライメントに影響を及ぼすと考えられる。Finnesonらは立位体幹前傾位での重量物挙上時に物体の15倍の負荷がL4/5椎間板にかかると述べており、骨癒合が強固になるまで、重量物挙上を控える、過度な体幹の運動を伴わないADL指導を行うことが重要と思われる。
  • 斉藤 直人, 木藤 伸宏, 永津 義竜, 本山 達夫, 川嶌 眞人
    p. 52
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】腰痛に対する治療法は様々であり、近年では体幹深部機能へアプローチし、脊柱・骨盤の機能改善を行う治療法が注目をあびている。しかし、腰痛は日常生活場面での異常姿勢・動作などから起因することが多く、その原因を追及、考察し効果的なアプローチを同時に行っていくことが重要である。今回、本症例の主訴である腰痛に対し、脊柱・骨盤機能へアプローチし、矢状面での静止立位アライメント改善による疼痛の軽減に至った症例を経験した。本症例における理学療法を行う上での視点、実際について報告する。
    【症例紹介】性別:男性 年齢:24歳 診断名:第5腰椎・第1仙椎間腰椎椎間板ヘルニア 現病歴:1年前より誘引なく腰痛出現。その後、右殿部痛、右下肢痺れ、右下腿外側部痛出現、平成17年2月18日当院受診し、保存治療目的にて入院となる。
    【初期評価】X線・MRI所見:立位矢状面でのFlat腰椎。骨盤前傾減少、第5腰椎・第1仙椎間の髄核の脱出がみられる。疼痛:立位保持約1分程で右上後腸骨棘下部・下腿外側後方部に出現。Visual Analogue Scale(以下VAS)は、7/10。右下腿外側後方部に軽度痺れあり。関節可動域(右/左):股関節屈曲110/105、SLR 55/70。右SLRでは下腿後面に神経症状出現。徒手筋力検査(右/左):腸腰筋4/4+。両側測定時の腰椎後弯、骨盤後傾代償動作がみられる。右左脊柱起立筋腰椎部の筋緊張亢進(右<左)。矢状面での静止立位アライメント:上半身重心前方偏位、腰椎前弯減少、骨盤の前方偏位、骨盤前傾減少(右>左)、股関節伸展位。
    【臨床指標と理学療法アプローチ】本症例は異常姿勢による下位脊柱起立筋のストレスの増加により、右上後腸骨棘下部の疼痛が出現したと考えた。よって、矢状面での静止立位アライメントを臨床指標として、骨盤前後傾中間位・腰椎前弯を改善する為に、股関節周囲、特に、股関節屈曲可動域運動、腸腰筋収縮運動を行った。脊柱・骨盤の安定性を高めることを目的として、腹部深部筋群の収縮運動を行った。
    【結果】理学療法施行8週経過時点で効果判定のための評価を行った。静止立位時の疼痛は軽減した(VAS:4/10)。右下腿外側後方部の疼痛は変化なかった。関節可動域(右/左):SLR 60/75。矢状面における静止立位アライメントは、骨盤前方偏位・前後傾中間位への改善、腰椎前弯増加、股関節伸展は減少した。触診で静止立位時の下位脊柱起立筋の筋緊張は低下していた。
    【まとめ】今回、本症例の疼痛の原因は、立位アライメント異常に要因があると考えアプローチした結果、アライメントの改善がみられ、下位脊柱起立筋の筋緊張は低下し疼痛の軽減を図ることができた。このことより、腰痛に対して、日常の生活場面での異常姿勢から原因を追究し、アプローチしていくことが重要であると考える。
  • 有福 浩二, 足利 雅浩, 池田 章子, 篠原 晶子, 鹿谷 洋志, 矢部 嘉浩(MD), 井口 茂
    p. 53
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院では慢性的に腰・下肢痛のある患者に対して個別的・継続的・チームアプローチを重視した腰痛クリニックを予約制の外来にて行っていることは前回報告した。今回、当院での腰痛クリニックを終了した症例を対象にその効果について検討したので報告する。
    【対象と方法】
    対象は2003年6月から2005年3月の21ヶ月間の受診者165名中、クリニック終了者92名(男性71名、女性21名)で平均年齢41.3歳、受診回数は平均3.8回であった。方法はカルテより診断名、PT評価はMcKenzie法に基づいた障害分類・VAS・FFD・日整会JOAスコアより抜粋したADLスコアとし初診時及び終了時の変化をWilcoxonの符号付順位検定にて検討した。
    【結果】
    診断名は腰部椎間板障害が45名と最も多く、次いで腰部椎間板ヘルニア22名、脊柱管狭窄症10名、その他腰痛症・腰椎分離すべり症・仙腸関節炎は少数であった。
    障害分類では機能障障害37名、椎間板性36名と多く、その他姿勢性・狭窄症状・仙腸関節は少数であった。
    全体の結果はVAS、FFD、ADLスコアいずれも有意に改善していた。
    診断名別では腰部椎間板障害でVAS、FFD、ADLスコアにて有意な改善がみられた。また、腰部椎間板ヘルニア・腰痛症ではVASのみ、脊柱管狭窄症ではVAS、ADLスコアで有意に改善していた。
    障害分類別の比較では、椎間板性でVAS、FFD、ADLスコア、機能障害・姿勢性ではVASのみで有意に改善していた。その他では有意差を認めなかった。障害分類において初診時と最終時で変化があったものは、24例で全体の26.1%であった。
    【考察】
    診断名別・障害分類別でみると椎間板に起因する症例において改善する傾向にあった。この理由として、椎間板は構造的にも他の組織に比べ弾性があり、力学的負荷に対して反応しやすく、臨床的にも症状の変化が早いため、自己コントロールがしやすい傾向にあると考えられる。よって、当クリニックが目標とする生活内での腰痛自己管理が行いやすくモチベーションも高められるのではないかと思われる。また終了時の変化は、障害分類が機能障害や姿勢性へと移行する症例が認められたが、このことは一個人でも症状変化するということが言え、その変化に対する適切な指導の必要性が考えられる。
  • 上島 隆秀, 高杉 紳一郎, 河野 一郎, 禰占 哲郎, 財津 昭憲, 岩本 幸英
    p. 54
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     臨床でよく行われる他動運動は、関節可動域の維持や改善が主な目的である。急性期から慢性維持期にかけて幅広く行われているにもかかわらず、他動運動が脳へ与える影響についてはほとんど調べられていない。我々は、2002年日本理学診療医学会において、ベッドサイド型下肢運動療法装置TEM LX2(以下、TEM LX2)を使用して下肢運動が及ぼす静脈血流動態の影響について報告した1)
     今回、TEM LX2運用について研究を進める中で、他動運動による脳血流変動への影響を調べた。そして、若干の知見を得たので報告する。
    【方法】
     健常成人男性7名を対象とした。全ての対象者において、神経学的異常や関節障害を認めなかった。まず被験者は背臥位で安静とし、経験年数15年の理学療法士が下肢他動運動を実施、安静および他動運動実施中の脳血流変動を、近赤外分光法にて調べた。実施した他動運動は、臨床でよく用いられる股_-_膝_-_足関節同時屈伸運動(以下、3関節運動)、足関節底背屈運動(以下、足関節運動)、下肢伸展挙上運動(以下、SLR運動)の3種類である。比較のために、足関節自動運動による影響も調べた。運動範囲は対象者の最大可動域とした。各運動タスクの方法は次のように規定した。
    ・3関節運動:臨床と同様に屈伸運動を繰り返す
    ・足関節運動:2秒かけて底屈運動、2秒かけて背屈運動及び30秒間の背屈位静止
    ・SLR運動は4秒かけて挙上運動、4秒かけて下降運動及び30秒間の挙上位静止
    ・足関節自動運動:2秒かけて底屈運動、2秒かけて背屈運動及び30秒間の背屈位静止
     測定機器は島津製作所製OMM-2001を使用した。測定は、頭頂葉から側頭葉に存在する体性感覚野と同定される頭蓋表面に16チャンネルの光プローブを装着して酸化ヘモグロビン(oxyHb)、還元ヘモグロビン(deoxyHb)、総ヘモグロビン(totalHb)変動を調べた。脳血流変動の指標として、oxyHbの最大値および最小値から脳血流変動値を算出し、その値について比較検討した。一回の測定時間は、運動タスク実施70秒、その前後に安静20秒を配置する計110秒であった。比較データは、ペンフィールドの図に示される下肢に最も近いと想定される光プローブのデータを採用した。そして、有効なデータ6名分を検討対象とし、統計解析は分散分析にて行った。
     なお、事前に対象者に十分な説明を行い、同意を得た上で測定を実施した。
    【結果】
     他動運動実施により、限局的な部位において、脳血流変動が瞬時に認められた。足関節自動運動と比較して、3関節運動では約118%、足関節運動では約127%、約SLR運動では約111%の脳血流変動が認められた。静止保持では、運動中と比べて脳血流変動がさらに大きく認められた。しかし、いずれも個人差が大きく一般化できる特徴は見出せなかった。なお、統計学的有意差は認められなかった。
    【考察】
     近年注目されている近赤外分光法は、測定範囲が脳表面測定に限られるが、比較的簡便で無侵襲であり今回実施したような運動中の脳血流変動をリアルタイムに捉えることが可能である。脳血流の増加は、神経やグリアなどの細胞の興奮を反映すると考えられており2)、今回の結果から、運動麻痺や意識障害、認知症等による意欲の低下のある患者に対して、他動運動によっても脳機能を賦活する作用が期待できる可能性がある。重度の意識障害に対して、脊髄や末梢神経電気刺激、音楽やボールを使った刺激、腹臥位刺激、光刺激など様々なアプローチが報告されている。一方、他動運動は特別な器具や方法などを用いずに済む利点があると同時に、静脈循環改善効果も期待され、今後再認識する必要があると思われる。他動運動による脳血流変動は個人差が大きいため、さらにデータ数を増やして調べる必要がある。
    【まとめ】
    1)下肢他動運動による脳血流変動の影響について調べた。
    2)他動運動実施により、限局的な脳血流変動が瞬時に認められた。
    3)足関節自動運動に比べ、下肢他動運動による脳血流変動への影響は大きかった。
    4)他動運動は、特別は器具や方法を用いることなく、脳機能を賦活する作用が期待できる。
    【引用文献】
    1)上島隆秀・他:『急性期リハビリテーション用ベッドサイド型下肢運動療法装置』の開発-下肢運動の違いが静脈血流動態に及ぼす影響について-.運動療法と物理療法13(1):42、2002
    2)征矢英昭:骨格筋の収縮は逆に脳神経を刺激するか?.骨格筋と運動(跡見順子・他編)、杏林書院、64-65(2001)
  • PT廣庭 美紀, PT杉野 伸治, PT松尾 礼美, MD貞松 俊弘, PT横山 茂樹
    p. 55
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本研究の目的は股関節周囲筋の柔軟性と矢状面における腰椎アライメントと腰椎可動性との関連性について調査し、股関節周囲筋が腰椎に及ぼす影響を把握することである。
    【対象】
    脊椎疾患の既往がない20代の男女22名(男性9名、女性13名)を対象とした。年齢は24.2±2.1歳、身長162.8±5.9cm、体重53.1±7.3kgであった。
    【方法】
    1. 腰椎椎体間の角度と可動域
    Index社製スパイナルマウスを用いて第1胸椎から第1仙椎までの椎体間の角度を測定した。測定肢位は安静直立位、最大前屈位、最大後屈位とした。直立位と後屈位で肩関節水平外転位、吸気時、前屈位では肩関節水平内転位で呼気時に測定を行った。この際、補助者により骨盤を徒手的に固定した。可動域は直立と前屈の差を前屈可動域、直立と後屈の差を後屈可動域の値として用いた。
    2. 筋柔軟性
    筋柔軟性の測定は大腿四頭筋の指標として臀踵間距離(HBD)、ハムストリングスの指標としてSLR、内転筋の指標として両足底を合わせた状態での最大開排位による大腿骨外側上顆と床との距離、腸腰筋の指標としてThomas testの肢位で大腿骨外側上顆と床との距離を測定した。HBDはOG技研社製GT-30を用いて3kgの負荷をかけて測定した。なおすべての測定は左右1回のみとし、得られた測定値から両側の平均値を算出して代表値とした。
    統計学的処理としてSpearmanの順位相関を用い相関係数を求め、いずれも有意水準を5%未満とした。
    【結果】
    1. 椎体間角度と筋柔軟性
    直立位のTh12-L1間・L1-2間・L2-3間の角度と腸腰筋の柔軟性において負の相関が認められた(r=-0.483 p=0.02・r=-0.501 p=0.02・r=-0.462 p=0.03)。
    2. 腰椎可動性と筋柔軟性
    前屈時のL2-3間・L4-5間の可動域とハムストリングスの柔軟性において正の相関が認められた。(r=0.433 p=0.04・r=0.539 p=0.01)。またL5-S1間の可動域と内転筋の柔軟性においても負の相関が認められた(r=0.560 p=0.01)。後屈時においてL3-4間の可動域と大腿四頭筋の柔軟性において負の相関が認められた(r=0.422 p=0.04)。
    【考察】
     直立位では腸腰筋の柔軟性が大きい場合、腰椎前彎は減少傾向にあり、特に上位腰椎の椎体間角度に関与していた。これは腸腰筋の起始部がTh12からL4に付着するためと考えられる。また前屈時、腰椎可動性とハムストリングスおよび内転筋、後屈時に大腿四頭筋の柔軟性が関与していた。これらの筋はいずれも骨盤に付着する。以上のことから腰椎の静的アライメントには脊柱に付着する筋長の短い腸腰筋が関与し、腰椎可動性は骨盤に付着する筋長の長い筋群が関与する可能性が示唆された。
  • 北川 智子, 山崎 登志也, 元尾 篤, 安田 和弘
    p. 56
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】
    近年、理学療法領域にて運動連鎖を考慮した運動療法が諸家より提唱されている。それによると大腰筋は外乱動揺の主たる制御要素、歩行立脚後期の動的安定要素など臨床的に興味深い報告がなされている。今回、大腰筋・中殿筋の重心動揺制御能に着目し、各々のエクササイズ(以下Ex)が重心動揺にどのように影響するかを検討したので報告する。
    【目的】
    片脚立位動作時における大腰筋・中殿筋の重心動揺制御能を確認し、両者を比較することで機能的差異について明らかにする。
    【対象】
     下肢に既往のない健常成人19名(男性9名・女性10名・平均年齢25.9±3.7歳)であった。
    【方法】
     片脚立位動作時の重心動揺を重心動揺計(アニマ社製)で測定した。測定項目は1)Ex非実施2)大腰筋Ex後、3)中殿筋Ex後とし、各項目をランダムに施行した。測定は30秒を3回実施し、測定間に30秒の休息を入れた。各項目間に5分間以上の休息を入れた。片脚立位動作は目線の高さにある3m前方の一点を注視させ、挙上脚は股・膝関節屈曲90度とし、両上肢は体側に下垂位とした。大腰筋Exは腸骨に手を当て、体幹及び骨盤を中間位に保持した端座位で、股関節屈曲位で3秒間保持・3秒間休息を10回施行した。中殿筋Exは側臥位にて股関節30°外転位で3秒間保持・3秒間休息を10回施行した。各項目間の重心移動距離(総軌跡長・左右軌跡長・前後軌跡長)平均値を算出し比較した。統計処理は対応のある1要因分散分析を用い、有意水準を5%とした。
    【結果】
     総軌跡長は非実施群131.0±33.1mm、大腰筋群123.7±31.1mm、中殿筋群129.5±30.0mmであり、非実施群と大腰筋群間に有意差を認めた。左右軌跡長は非実施群92.7±22.3mm、大腰筋群88.4±22.0mm、中殿筋群89.1±21.2mmであった。前後軌跡長は非実施群75.7±21.7mm、大腰筋群69.7±20.0mm、中殿筋群73.4±19.9mmであり、非実施群と大腰筋群間に有意差を認めた。
    【考察】
     前後方向制御の結果は、大腰筋の股関節後方圧迫力からの大腿骨頭の内方圧縮応力増大・重心位置の正常化・胸腰筋膜機能向上作用から、腹腔内圧上昇や脊柱のアライメント修正機能などが反映されたものと考える。左右方向制御の結果は、片脚立位動作の影響により挙上側と支持側の大腰筋が解剖学的に、筋張力及びベクトルが不均衡な状態となり重心制御能に制約が生じたためと思われる。
     一方、中殿筋は一般に前額面において体平衡を保持すると考えられ、左右軌跡長は有意に減少すると推測したが、減少傾向はあるものの有意差はなかった。これは、大腿骨頭の内方への圧縮応力を高めるには外転筋群と内転筋群の共同作用が重要であることと、明らかな筋力低下のない健常者に関しては中殿筋Exのみでは姿勢制御能に反映されにくかったと推測する。
    今後各々の特性を考慮しExの方法・負荷量・回数等を検討していく必要がある。
  • 山崎 敦, 原 洋也, 久保下 亮
    p. 57
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々は第40回日本理学療法学術大会において,簡便な股関節外旋エクササイズを行わせた後に,静的姿勢制御能力が向上する報告を行った。股関節の深層に位置する股関節外旋筋群が “インナーマッスル”と捉えられていることから,股関節の安定性に寄与することが考えられた。これらの筋群の作用が股関節外旋であることから,拮抗筋である股関節内旋筋群にも同様の作用を有していることも考えられる。そこで今回は,同一条件を基本とした方法にて股関節内旋運動後の重心動揺を計測したので報告する。
    【対象と方法】対象は健常成人22名(男性3名,女性19名)で,平均年齢21.5歳,平均身長159.1cm,平均体重49.9kgであった。重心動揺の測定には,アニマ社製重心動揺計グラビコーダGS-10を使用した(サンプリング周波数20Hz)。壁から1mの距離に重心動揺計を設置し,目線の高さで前方を注視させた状態で非利き足における片脚立位をとらせた。30秒間の重心動揺を測定して,これをエクササイズ前(Ex前)のデータとした。その後,3分間の休息を取り,股関節内旋筋へのエクササイズを椅座位にて行った。エクササイズは,中間位から内旋角度20から30°までの運動を30回行わせた(テンポ:60BPM)。この際, 500gの重垂を滑車にて下垂させ,その末端部を下腿遠位部にベルトで固定し,前額面上での抵抗とした。エクササイズ直後に同条件での重心動揺を測定し,エクササイズ後(Ex後)のデータとした。解析項目は,総軌跡長,外周面積,矩形面積として,対応のあるt検定を用いて検定を行った。
    【結果】総軌跡長はEx前:92.1cm,Ex後:86.8cmで有意に減少していた(p<0.05)。一方,外周面積はEx前:3.4 cm2からEx後:2.9cm2,矩形面積はEx前:9.7 cm2からEx後:8.9cm2と減少はしていたものの,有意差はみられなかった。
    【考察】股関節深層に位置する股関節外旋筋群は,腸腰筋とともに股関節の“インナーマッスル”と称されることがある。筋の作用の面から考えれば,肩甲上腕関節における内・外旋筋群と同様,股関節内旋筋群もその安定性に寄与することが考えられる。今回,総軌跡長に有意な減少がみられたことから,股関節内旋筋群の活性化が静的姿勢制御に寄与することが伺われる。しかし,外周面積・矩形面積には有意な減少がみられなかった。股関節内旋に作用する主な筋として,小殿筋と中殿筋が挙げられる。これらの筋は,股関節内旋に単独で作用するのではなく,むしろ股関節外転筋群として取り扱われることが多い。立位・歩行を日常的に行う我々人間にとって,股関節外転筋群の収縮を促す場面は多い。そのため,股関節内旋筋群としての活性化を求める必要性が,外旋筋群ほどにはないことが示唆される。
  • 体幹挙上法と下肢挙上法で
    南條 真奈美, 野上 英二, 小八重 明美, 押川 達郎, 飛永 浩一朗, 渡邉 哲郎, 井手 睦
    p. 58
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    体幹は四肢へ運動を伝達する中心で、特に脊柱起立筋は体幹安定に重要な役割を持つ。その筋力増強法として、体幹挙上と下肢挙上の2方法が臨床上よく用いられる。今回、どちらの方法がより脊柱を安定させる筋持久力を強化できるかを比較検討した。
    【対象】
    体幹伸展がMMT5で腰痛既往歴のない健常成人男性10名、女性10名を対象とした。平均年齢は25.6±4.0歳であった。
    【方法】
    測定肢位は、腹臥位にて下肢を固定し体幹を挙上させる方法と両下肢を挙上させる方法で評価した。これらはKraus-Weberテストに準じ、各姿勢保持が困難となる時間を計測した。またNicolet社製VikingNT表面筋電計を用い、電極をL1-2棘突起間両外側3cmに貼り、各肢位の安定が得られた後の10秒間の積分筋電図から40m秒あたりの平均筋活動量を算出した。測定は2回行い、再現性を確認した。統計学的検定には各運動の持続時間を比較するためt検定、2方法における筋活動量の関係をみるためPearsonの相関分析を用い、いずれも有意水準は5%とした。
    【結果】
    1) 下肢挙上テスト(83.2±41.5秒)の方が体幹挙上テスト(58.4±16.6秒)より持続時間が有意に長かった(P<0.01)。2)初期筋活動量は下肢挙上テストより体幹挙上テストの方が高い値を示し、体幹挙上テストと下肢挙上テストの筋活動量の間に相関が認められた(P<0.01、r=0.82)。
    【考察】
    腰痛の発生と体幹筋力の間には密接な関係があるといわれている。体幹の支持性が低下すると腰椎への負荷が増大し腰痛の原因と考えられる。そのため特に下部脊柱起立筋の筋持久力は重要であり、より効果的な訓練が求められる。今回、L1-2レベルの脊柱起立筋、つまり下部背筋の持続時間は体幹挙上テストより下肢挙上テストの方が有意に長く、運動開始時の筋活動量は体幹挙上テストの方が下肢挙上テストより有意に高かった。等尺性収縮の運動において、筋活動量が増加することで筋疲労は早く生じるため、下肢挙上テストより体幹挙上テストの方が下部腰椎の脊柱起立筋にかかる負荷は大きく、筋疲労が早かったことが示唆された。また、体幹挙上テストと下肢挙上テストの筋活動量の間に相関が認められたことで各被検者内に同じ変化が認められたことが示唆された。脊柱起立筋は体幹安定筋であり赤筋が多いとされるため、持続時間が長い訓練法が持久力強化には適していると考える。今回の結果より、腰痛と関連が深い脊柱起立筋の持久力の強化法として、体幹を挙上させる方法より下肢を挙上させ行う方法が筋持久力向上には有用であることが示唆された。今後はこのことを考慮した理学療法プログラムを検討し実施していきたい。
  • 上村 幸子, 吉田 みよ子, 奥屋 暢人, 白土 瑞穂, 楢原 貴雄, 平田 友子, 真砂 悟史, 和才 慎二, 渡辺 直子
    p. 59
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】門司労災病院リハビリテーション科(以下当院)では整形外科疾患を中心にクリニカルパス(以下CP)を作成し活用している.今回,使用頻度の高い大腿骨頚部骨折CPについて,実態調査を行い在院日数に及ぼす影響因子を分析したので報告する.
    【対象】平成16年4月から平成17年3月まで大腿骨頚部骨折CPでリハビリが処方された47例中手術施行した44例を対象とした.症例は,男性7名女性37名,平均年齢は82.4±8.6歳(57から101歳),骨折内訳は,内側24例,外側16例,転子部4例であった.術式は人工骨頭18例,IMHS7例,CHS3例,γnail4例,ピンニング3例,その他の骨接合術10例であった.
    【方法】これらの症例に対して,認知症の有無,入院前生活の場所,入院前移動状態,手術から退院までの日数,在院日数,退院時移動状態,転帰を記録より調査した.統計は,在院日数を目的変数,年齢,術式,認知症の有無、入院前生活の場所,入院前移動状態,退院時移動状態,転帰を説明変数として,数量化I類を用いて行った.
    【結果】分析した結果の重相関係数は,0.5913であった.各説明変数のうち偏相関係数の高いものは,入院前移動状態,術式,退院時移動状態で,偏相関係数は0.3748,0.3374,0.4098であり在院日数との影響を及ぼす傾向がみられた。また入院前移動状態杖歩行レベルが車椅子レベルより,術式では人工骨頭が他より、退院時移動状態は車椅子レベルが杖歩行レベルより期間を短縮させる傾向がみられた.他年齢,認知症の有無,入院前生活の場所,転帰は大きな影響はみられなかった.
    【考察】当院では,廃用症候群の予防,早期離床(早期起立・歩行)が重要であると考え,認知症や入院前活動状態を考慮した上で,CPという共通した認識の下でプログラムを実行している.今回の分析から,退院時車椅子レベルの症例は,抜糸後早期に転院となったり入院前車椅子レベルであった症例も含まれているために在院日数は短い傾向にあった.杖歩行レベルの症例は,安定した移動状態の早期獲得が在院日数に影響を及ぼすことが示唆された.また今回分析は行えていないが,早期より他施設や介護保険などの社会的資源の調整・連携行うと同時にCPを患者様・家族への入院,リハビリ計画を含めた説明・教育にさらに活用していくことが必要と考える.今後,更なる検討を行い,病院全体で質の高いサービスを提供していきたいと考える.
  • 虎口 祥子, 鋤田 郁美, 丸山 倫司, 東 貴子, 原口 真由美
    p. 60
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    大腿骨頸部骨折患者の転帰先に関し、実用的な移動能力の獲得がどのように影響しているのかについて調査したので若干の考察を加え、以下に報告する。
    【対象】
    2004年4月から2005年3月に当院を退院した大腿骨頸部骨折術後の患者38名(男性:10名、女性:28名、平均年齢78.5±16.5歳)。受傷前の移動能力は関係なく自宅生活をされ、当院クリニカルパス(以下、パスと略す)を使用していた方とした。
    【方法】
    以下の項目を調査した。
    1.転帰先(自宅退院可能であったか否か)
    2.受傷前と退院時の移動能力の変化
    対象者を自宅退院群、自宅退院不可能群に分け、それぞれの移動能力を、A.変化無し、B.歩行補助具の変更で人的介助量に変化なし、C.歩行補助具は同じか変更で人的介助量が増加の3群に分類し、人数を集計した。
    3.パスからの逸脱の時期
    【結果】
    1.自宅退院できた患者は38名中28名、出来なかった患者は10名(うち施設入所8名、転院2名)であった。
    2.自宅退院群では28名中Aが10名、Bが9名、Cが9名であった。自宅退院不可能群では10名中、Aが3名、Bが1名、Cは6名であった。
    3. 1)パスからの逸脱無し:14名、2)パスからの逸脱あり24名(歩行見守りから自立時:10名、歩行介助から見守り時:9名、歩行開始時:4名、座位開始時:1名)
    【考察】
    今回、歩行の人的介助量の変化という観点から調査を試みた。一般的に大腿骨頸部骨折に関する研究では、歩行の獲得に着目したものが多く、条件によっては、術後3週で歩行を獲得し、3週から4週での自宅退院を目標にしているパスもある。
    今回の結果より、パスからの逸脱は歩行介助から自立に到達する手前で多く、移動における人的介助量の増加が認められた。当院のパスにおいて、術後6週頃は具体的な転帰先を決定する時期であり、人的介助量の増加が、自宅退院の阻害因子となる可能性が示された。また、このことが転帰先にも影響を与えている可能性があると考えられる。今後は、移動能力を向上させることはもちろん、環境設定等により人的介助を解消することが患者・家族の満足度につながるものと思われる。
  • 大場 潤一, 高柳 公司, 平野  真貴子, 野口 浩孝, 大石 賢, 内田 由美子, 有村 圭司
    p. 61
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院は人口40095人の島原市にて一般病棟39床、療養型病棟31床、介護療養型病棟20床をもつ医療機関である。当院リハビリテーション部は回復期から慢性期に架けてのリハビリテーションを展開しており、近年当院における整形疾患患者、特に大腿骨頚部骨折術後患者の入院が増加している。そこで当院における頚部骨折の状況を調査し、若干の考察を加えて報告する。
    【対象・調査項目】
    対象は、当院リハ利用者のうち大腿骨頚部骨折患者で平成14年12月から平成17年4月までに退院した49名(平均年齢79.9±11.6歳)、男性5名(84.0±5.2)歳、女性44名(79.4歳±12.1歳)とした。調査項目は、年齢、性別、体重、受傷日、手術日、当院入院日、退院日、受傷から退院までの期間(以下総入院期間)、当院入院から退院までの期間(以下当院入院期間)、骨折の種類、術式、中枢疾患の有無、在宅復帰の有無、受傷前の移動手段、退院後の移動手段、痴呆性老人の日常生活自立判定基準(以下痴呆判定)とした。移動手段は1.独歩・T-cane、2.歩行器・シルバーカー、3.車椅子に分け日常行う移動手段より評価した。
    【結果・考察】
    骨折の種類は内側骨折27症例(55%)、外側骨折22症例(45%)であった。総入院期間133±72.6日、当院入院期間92.2±64.0日、転院までの期間42.1±18.2であった。退院後在宅復帰できた者33症例(70%)、総入院期間119.9±56.8日・当院入院期間81.1±51.2日、その他の者14症例総入院期間164.3±96.0日・当院入院期間118.2±83.6日であった。転院までの期間は内側骨折48.0±20.0日、外側骨折34.9日±12.6日であり(P<0.01)、外側骨折が早期に転院していた。在宅復帰有群の総入院期間119.9±56.8日、在宅復帰無群の総入院期間164.3±96.0日。在宅復帰有群の当院入院期間81.1±51.2日、在宅復帰無群の当院入院期間118.2±83.6日であり、在宅復帰有群が総入院期間・当院入院期間共に短い傾向にあった。中枢疾患有群の総入院期間189.6±116.3日、中枢疾患無群の総入院期間121.6±55.4日(P<0.05)。中枢疾患有群の当院入院期間143.9±98.9日、中枢疾患無群の当院入院期間81.5±49.7日(P<0.01)であり、中枢疾患があるものは入院が長期化していた。在宅復帰有無別に退院後の移動手段・痴呆判定を比較した結果、退院後の移動手段(P<0.01)・痴呆判定(P<0.01)ともに有意な差がみられ、在宅復帰の問題点として退院時の移動手段・痴呆が考えられた。
    今後、入院期間の短縮、また多くの症例を在宅復帰できるようリハプログラムの見直しを行い、早期より在宅復帰に向けて介入できたらと思う。
  • 尾辻 栄太, 山下 導人, 牛ノ濱 政喜, 中道 将治, 大迫 信哉, 中馬 啓介, 小城 琢朗(MD), 西村 謙一(MD)
    p. 62
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    人工股関節全置換術(以下THA)後の合併症に脱臼がある。脱臼予防としてインピンジメントの回避、軟部組織緊張の保持が重要である。因子として臼蓋カップ、ステム、軟部組織、ADL上の肢位等多くが挙げられる。そこで今回、理学療法を進めるにあたり不可欠である術後のX-P像をもとに脱臼因子を検討することを目的として、以下により脱臼に対する影響を検討した。
    【方法及び対象】
    THAを施行された患者のうち脱臼した症例11例を対象とした。全症例女性で、手術時平均年齢は71.3±8.7歳である。1)脱臼方向により前方群・後方群に分類し、それぞれ臼蓋カップの傾斜角・前開き角を検討した。2)両側大腿骨頭回転中心間距離に対するFemoral Offset(以下FO)の比をFO値とし、その20%以下をS群(平均16.5±2.7%)7例、20%以上をL群(平均22.6±2.7%)4例としそれぞれカップの傾斜角・前開き角、脱臼方向、脱臼動作を検討した。それぞれ有意水準5%にて検討した。使用機種はMetaSUL1例、P.C.A3例、CITATION5例、S-ROM2例であり、進入路は全症例後側方アプローチである。
    【結果】
    1)前方・後方群の分類
    傾斜角:(以下前・後方群の順で記載)49.0±11.0・40.0±6.7有意差なし 前開き角:27.0±12.2・8.0±3.6有意差あり
    2)S・L群の分類
    傾斜角:(以下S・L群の順で記載)48.7±11.2・40.5±7.1有意差なし 前開き角:24.7±14.9・12.3±6.6有意差なし 脱臼方向:前方6例、後方1例・前方1例、後方3例有意差なし 脱臼肢位:明確な肢位3例、その他4例・明確な肢位4例、その他0例
    【考察】
    浅山らはFO延長の利点として外転レバーアーム増加、インピンジメント減少、軟部組織緊張を挙げ、その正常値は20%以上と報告している。前方群では前開き角増大、S群が多く明確な脱臼肢位を認めない症例がみられた。前開き角増大によるカップ後方とネックのインピンジメントが生じ、FO低下により軟部組織緊張の減少・外転モーメント低下が考えられ、カップに対する求心位への安定化の低下により脱臼が生じたと推測される。また、前開き角増大・FO減少は、通常脱臼が生じない肢位での脱臼が推測される。本報告の対象者平均年齢は高齢であり、加齢による骨盤後傾との関与も考えられる。後方群では適切にFOが設置されていたが明確な脱臼動作による症例が多くみられた。前方群と比較して前開き角減少は有意な差がみられたが、Lewinnekらの報告(前開き角5から25°)と比較すると逸脱した症例はなく、いわゆる脱臼肢位により、カップ前方とネックとの強いインピンジメントが生じ、さらに荷重により後方へ外力が加わり脱臼したと推測される。不良肢位は直接脱臼に関与することが考えられ、十分な指導による予防が必要であると考える。
  • CRPSと圧挫傷の互換性
    足立 雅俊
    p. 63
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     Complex Regional Pain Syndrome(以下CRPS)は灼熱痛、浮腫、皮膚色の異常など種々の症状を呈し、原因、治療法は未解明である。今回、下腿圧挫傷後にCRPSを生じ治療が難渋した症例を経験した。そこで、圧挫傷の病態がCRPSに及ぼす影響について検討した。
    【症例紹介】
     60歳男性、土木作業員、H16.11仕事中重機に右下腿を広範囲に踏まれ受傷。右腓骨骨幹部骨折と診断され、当院にて保存的治療となる。
    【リハ経過】
     受傷後2日より理学療法としてシーネ固定下での足趾自動運動を開始した。この免荷時期には安静時痛が受傷時に踏まれた部位と一致し右下腿から足趾にかけて認められ、同部位に痺れ、足部・足関節に強い腫脹・熱感が存在した。受傷後3週より機能的装具装着下に1/3部分荷重(以下PWB)を開始した。腫脹・熱感が強く、皮膚は黒紫色を呈し、異常発汗が認められたため足関節自動運動・交代浴を開始したが、著明な変化は認められなかった。受傷後5週で2/3PWBとなり、受傷後6週より他動運動を開始した。疼痛、痺れは特になく、足部・足関節の腫脹、皮膚色にも大きな変化はなかった。受傷後8週で機能的装具装着下にて全荷重へと徐々に増加し、受傷後10週より機能的装具は除去した。腫脹は軽減してきていたが、足関節の拘縮が著明であった。現在(受傷後5ヶ月)の状態として、右外果下端部に運動時痛が存在し、足部に発赤、足関節の拘縮も残存している。
    【考察】
     本症例は、広範囲の圧挫傷後にCRPSを生じ著明な循環障害、関節拘縮を呈した。
     圧挫傷が呈する症状として、軟部組織の挫滅、血管(毛細血管、細動静脈含む)の損傷が挙げられ、血管の損傷により生じた血流量の低下は、局所的循環障害を引き起こす。また、広範囲の軟部組織の挫滅が炎症の長期化を生じたため、本症例における腫脹の慢性化を呈したのではないかと考えられる。
     外傷後、正常では交感神経反射により血管収縮が起こり治癒と共に元に戻るが、CRPSの場合、この反射が消退せず、交感神経亢進状態となるため血管収縮が持続し、局所的循環障害を生じる。本症例において交代浴の効果があまりなかったことから、このCRPSによる循環障害が圧挫傷による循環障害を修飾し、さらに、腫脹の慢性化が循環障害を助長していたと考えられる。つづいて、循環障害により線維芽細胞の増加、コラーゲンの合成が増加して拘縮を生じ、また、腫脹の存在が可動域を獲得するうえで大きな制限因子となったと考えられる。
     以上のことからCRPSは、圧挫傷の呈する症状を助長すると考えられ、圧挫傷とCRPSの互換性が示唆された。
  • 矢状面での前進機能の分析
    長野 毅, 松崎 哲治
    p. 64
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    歩行における立脚中期の目的として、体幹及び下肢の安定、前進の維持が挙げられる。これまでの立脚中期に関する研究は、体重心の高さや、前額面での股関節外転・膝関節外反モーメントの分析が主で、前進機能について分析している研究はほとんど見当たらない。そこで今回は、立脚中期における前進機能に着目し、歩行レベルの異なる脳卒中片麻痺(CVA)患者の比較を行い、若干の知見を得たので報告する。
    【対象】
    歩行可能なCVA患者を、屋外歩行群8名(A群、平均年齢58.6±13.3歳、左麻痺5名、右麻痺3名)と屋内歩行群8名(B群、平均年齢61.9±15.9歳、左麻痺7名、右麻痺1名)とに分別した。
    【方法】
    計測はアニマ社製3次元動作解析装置LocusMA-6250(カメラ4台)を用い、5m間の自由歩行を裸足・杖なしの条件で行った。計測時間は5秒間、サンプリング周波数は60Hz、マーカーは頭頂・両肩峰・両股関節・両膝裂隙・両外果・両第5中足骨頭の計11箇所に付着した。分析は、前方成分床反力が後方成分に変わる時(0kg)の股関節部前方移動距離(股関節部のマーカーが0.017秒間に前方移動した距離)、股・膝・足関節各関節角度とモーメント(M)及び関節パワー(正のパワー:求心性収縮、負のパワー:遠心性収縮)、体幹前後屈角度、骨盤回旋角度とした。統計学的処理は両群の麻痺側下肢の比較を等分散の検定後に母平均の差の検定を行った。
    【結果】
    膝関節屈曲角度はA群が有意(p<0.05)に大きく、足関節底屈角度はA群が有意(p<0.05)に減少、膝関節伸展MはA群が有意(p<0.01)に増大、足関節パワーに関して負のパワーはA群が有意(p<0.01)に増大、骨盤回旋角度はA群が有意(p<0.01)に増大(前方回旋)していた。
    【考察】
    通常、立脚中期の前進は足関節底屈筋が遠心性収縮し、足関節を中心に背屈しながら体全体が前方へ移動することで得られている。今回、股関節部の前方移動距離に有意差が見られなかったことから、立脚中期での前進は歩行レベルによる差がないことが解った。しかし、その機能には大きな差が見られた。両群とも足関節は底屈Mが発生し、有意差はなかったが、B群は足関節負のパワーが低下していた。このことから、B群はA群に比べ、足関節背屈方向への運動が困難である(4名は底屈方向へ運動)ことが示された。B群は足関節が背屈しにくい為、下腿は足部に対し前方へ倒れていくことが困難となり、床反力ベクトルは膝関節軸の前方へ傾き、膝関節はより伸展方向へ運動することになる。この為、麻痺側骨盤は受動的に後方へ回旋し、非麻痺側骨盤が前方回旋されることで前進しているのではないかと思われた。
  • 真喜屋 賢二, 江口 友紀, 高橋 啓輔, 照屋 聡, 船曳 拓生, 金澤 寿久
    p. 65
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】過去当院研究で屋内歩行自立の諸因子を検討した結果、頸部・体幹・骨盤機能検査(NTP)でstageVレベル以上の因子に歩行自立度との関係性を示唆する所見を得た。今回は当院で判定した屋内歩行自立群(自立群)と屋内歩行に監視を要する群(監視群)の違いをstageIV・Vの動作可能率で比較し、どの動作が歩行自立と関係があるのかを検証する。
    【対象・方法】当院入院・外来で理学療法を継続中の脳卒中片麻痺患者30名を対象とし、歩行や立ち上がりが自立可能の者とした(男性19名、女性11名、平均年齢72±9歳、罹患日数567±45日)。歩行に支障をきたす整形疾患は除き、高次脳機能障害や認知症はそれぞれSIAS・HDS-Rを用いて評価した。方法は、被検者にNTPを実施し、stageIVおよびstageVと判定した群を抽出する。この2群間を主観的に判定された歩行自立・監視群で分け、stageIV群と監視群、stageV群と自立群で各々一致率を求める。自立群と監視群でのstageIV・Vにおける動作可能率を求めて比較する。一致率はstageIVでの監視人数/stageIV×100=(%)、stageVでの自立人数/stageV×100=(%)で求める。上記の主観的な判定の裏づけは、過去当院で報告した歩行自立度の要因と相関の高かった。1)10m最大歩行速度2.45m/min以下,2)6分間歩行距離142m以上,3)健脚立位23.56秒以上,4)timed up & go test 28.65秒により客観性を持たせた。統計学的検定はWelch’s T検定を用いて有意水準5%とした。動作可能率はstage項目動作遂行可能人数/自立・監視群総数×100=(%)で表わした。
    【結果】stageIVと判定された群に監視群が含まれる一致率は75%、stageVと判定された群に自立群が含まれる一致率は85.7%となった。2群間のstageIV・Vの動作可能率を比較すると、stageIVa・b・cにおいて監視群では57%・50%・50%に対して自立群が81%・88%・100%となった。一方stageV-a・b・cでは監視群が21%・14%・7%に対し自立群は56%・38%・38%となった。監視群で多かった不可項目はStageV-cであった。
    【考察】当院で規定している歩行自立群には、NTP stageVの割合が多く、屋内歩行自立にstageV動作可能の必要性が示唆された。NTP項目別で自立群・監視群の動作可能率を比較したところ、監視群に椅子坐位での骨盤挙上動作が不得手である傾向を示した。骨盤挙上動作は体幹と骨盤の分離性を要し、健脚立位バランスに大きく関与すると思われる。自立群と監視群の健脚立位を比較すると、他の評価と比べて著しく優位差が認められたことから、屋内歩行自立に要する動作に体幹・骨盤機能の分離性向上の必要性が示唆された。
  • 光トポグラフィと三次元動作解析装置よる効果判定
    松崎 哲治, 松崎 裕子, 平田 秀則, 三根 隆志
    p. 66
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 我々はこれまで、脳血管障害患者の歩行に対する徒手的治療を行いその効果を光トポグラフィと三次元動作解析装置等を用いて検討し、第40回日本理学療法学術大会で発表した。今回は、脳血管障害患者に対し、徒手的治療と徒手的に行わない監視による治療(以下自主的練習)を上記機器用い比較し若干の知見を得たので報告する。
    【研究手順】 本研究は2症例に対して2つの治療を行い、一治療前後の歩行中脳内変化を、光トポグラフィを用いて比較した。また、同期させ歩行を三次元動作解析装置にて計測した。二つの治療は、A:セラピストによる徒手的治療と、B:自主的練習とした。それらを一症例は、一日目にAを二日目にBを行い、もう一症例は、一日目にBを二日目にAを行った。なお本研究は所属施設の倫理委員会の承認を経て、文章を用いて被検者に説明し同意を得た上で行った。
    【症例紹介】 症例a:51歳の女性で、診断名は脳出血(右視床)。発症13ヶ月。研究時の状態:歩行は杖と装具使用にて院内自立、また日常生活もほぼ自立していた(BI:85点)。症例b:65歳の男性で、診断名は脳出血(左被殻)。発症9ヶ月。研究時の状態:歩行は杖と装具使用にて監視。院内移動は車椅子にて自立、また日常生活も車椅子にてほぼ自立していた(BI:85点)。
    【評価方法】 被検者に10mを自由歩行させ、測定は光トポグラフィ装置ETG-4000(株式会社日立メディコ)を用い、歩行中の酸素化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの変化を、前頭頭頂葉を中心に36チャンネルで記録した。また同時に三次元動作解析装置Kinema Trecer(キッセキコムテック株式会社)を用い、サンプリング周波数30Hzにて4台のデシタルカメラによる撮影を行った。
    【治療】 徒手的治療は各治療場面の中で、徒手的に異常姿勢筋緊張を修正し、より正常な姿勢運動を学習するように行なっていった。なお全ての治療の中で一貫して非麻痺側過剰活動を減弱し、その後麻痺側の選択的活動も含めた姿勢運動の学習を行い、よりオートマティックな歩行を目指した。また、自主的練習は、監視下のもとに、平行棒内での歩行練習や立ち上がり練習を行った。両治療とも40分間行った。
    【結果】 両症例とも、治療前より治療後にかけて、両ヘモグロビンが麻痺側内側感覚運動領域ならびに他の運動領域において減少した。その際の減少率は、両症例とも治療Aのほうが大きかった。また、同期させた動作解析においても治療A後は、重心及び麻痺側足関節のリサージュグラフにおいて円滑な一定の値を描いた。
    【考察】 これらの結果は、両治療とも、歩行を意識せず麻痺側下肢の領域とされる右内側感覚運動領域の賦活も小さくより自律的に行われたと考えられる。そして、より徒手的治療のほうが効果的に自律的に行われたと考えられる。それが動作解析装置の結果に反映されたと考えられる。
  • 動作手順と段差の高さの比較
    須賀 洋一朗, 玉利 誠
    p. 67
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    脳血管障害患者(CVA患者)の階段又は段差の降段動作を指導する際、杖・麻痺側下肢・非麻痺側下肢の順(杖先行型)で指導するのが一般的であるが、担当したCVA患者の中には動作指導を行ったにも関わらず日常生活において麻痺側下肢・杖・非麻痺側下肢の順(下肢先行型)で動作を行う者がいた。そこで今回、動作指導の再考を目的に、動作手順と段差高の違いが麻痺側下肢に及ぼす影響を3次元動作解析装置にて分析し、検討したので報告する。
    【症例】
    右視床出血により左片麻痺を呈した63歳男性。Brunnstrom-stage上下肢5、感覚は表在・深部とも中等度鈍麻、麻痺側に軽度失調症状認めた。階段昇降は杖・手摺り使用にて監視レベルである。
    【方法】
    10cm・20cm高の台上より杖先行型及び下肢先行型の2動作でそれぞれ1回ずつ施行した。計測には3次元動作解析システムLocus MA-6250(アニマ社製・カメラ4台・サンプリング周波数60Hz)を用い、マーカーは計11箇所に設定した。解析は、床反力、下肢モーメント、関節角度をパラメーターとして抽出した。
    【結果】
    関節角度は両動作とも、体幹屈曲・股関節屈曲・膝関節屈曲・足関節底屈位を示す傾向にあった。20cm台では杖先行型の股・足関節角度が減少、膝関節角度は増加した。足先行型では股・足関節角度が増加、膝関節角度は減少した。体幹屈曲角度は両動作とも増加した。麻痺側下肢の床反力鉛直方向(Fz)成分、後方(Fx)成分は、足底接地時に最大値を示した。10cm台では両動作に差異を認めなかった。20cm台では足先行型が両成分とも高値を示し、Fx成分に著明な差を認めた。杖の床反力は、両成分とも麻痺側下肢接地前に最大値を示し、20cm台が高値を示した。関節モーメントは段差及び動作手順に関わらず、股関節伸展・膝関節屈曲・足関節底屈モーメントを示した。20cm台では杖先行型で股関節伸展モーメントが減少し、足先行型では膝関節屈曲モーメントが増加した。
    【考察】
    20cm台の足先行型でFx成分と膝関節屈曲モーメントの増加を認めたことから、段差高に比例し麻痺側下肢への衝撃は増加するものと考えられた。しかし、杖先行型では杖の床反力のみに増加を認め、麻痺側下肢の床反力に著明な変化を示さなかったことから、杖を使用することで下肢への衝撃が上肢に分配され、麻痺側下肢の支持性を補った動作が可能であったと考えられた。また、杖の使用による支持基底面の拡大で、足底接地時の床反力の後方制動が緩和され、重心の前方移動が可能となり股関節屈曲・足関節底屈角度が減少したと考えられた。よって、本症例においては20cm程の段差では杖先行型を指導するほうが妥当と考えられたが、10cm程の段差では1つの動作手順を規定せず、本症例にあった動作手順を柔軟に選択してもよいのではないかと考えられた。
  • 牧野 真也
    p. 68
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当院では今まで、中枢神経疾患患者に対して、ストレッチポールを用いたフォームローラーエクササイズ(以下エクササイズ)を施行し「歩きやすくなった」等、良好な感想を得ることが多かった。今回、このような主観的効果の裏づけを行い、若干の知見を得ることができたので報告する。
    【対象】平成17年4月現在、当院で入院および外来にて、理学療法施行中の中枢神経疾患患者10例(四肢麻痺1例、片麻痺6例、失調症3例)で、基本動作の自立度が、立位・歩行が監視または自立。重心動揺測定とtime up & go test (以下歩行テスト)が可能な者とした。
    【方法】ストレッチポール上に背臥位になり、身体を左右に5分間揺らす。測定手順は、エクササイズ前に重心動揺測定を2回、歩行テストを1回測定し、5分間のエクササイズ終了後、1分30秒後と5分後に重心動揺測定をそれぞれ1回の計2回、歩行テストを7分後に測定した。重心動揺計はアニマ社グラビコーダGS-10を使用し、総軌跡長(以下LNG)と包絡面積(以下Env.Area)を求めた。また、エクササイズ前後に歩行テストを行い、歩行中の身体の感じ方を述べてもらい、発言内容をそのまま記述した。
    【結果】1、重心動揺:LNG値の増加例が6名、減少例が4名、Env.Area値の増加例7名、減少例3名。2、歩行テスト:所要時間が増加例2名、減少例8名。3、主観的変化:エクササイズにより改善例5名、特に変化がなかった例5名。改善例の内容は考察にて記載する。
    【考察とまとめ】1、主観的な改善が得られた症例について:「膝で踏ん張って立っていたのが、自然に立てるようになった感じがする」、「センターの感覚が分かった気がする」という表現については、エクササイズ前は下肢を主に使用した姿勢・動作調節を行っていたものが、エクササイズにより体幹機能を刺激したことで、体幹にも注意が向けられ、下肢に加えて体幹での調節が可能になったのではないか、体幹の正中軸を学習したのではないかと考える。また「足が交わしやすくなった」と訴えた片麻痺例については、エクササイズを行うことでリラクゼーションが得られ、歩行において正常に近いリズムを学習できたのではないかと推測する。2、主観的変化と客観的データとの比較:今回の研究においては、主観的な改善と客観的評価との間に乖離が見られ、主観的な改善が得られても客観的な改善(LNG値、Env.Area値の減少)を確認することができなかった。しかし、健常者でも立位時は重心動揺が常にみられるものであり、値が増加したことで一概にバランスが悪くなったとは言えず、各人に合った効率のよい重心動揺を再学習したとも考えられた。
  • 退院後訪問指導を実施して
    野見山 清美, 松雪 孝広, 原 由希子, 今村 純平, 富松 順子, 古澤 郁恵
    p. 69
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    退院前後のADLにおける介助量の変化
    退院後訪問指導を実施して
    キーワード:家屋調査、退院後訪問指導、ADL
    久留米リハビリテーション病院
    PT 原 由希子 野見山 清美 今村 純平
      OT 松雪 孝広 古澤 郁恵 富松 順子
    【はじめに】
     当院では退院が近づくと、在宅生活を想定した家屋調査を行う。また、退院後には訪問指導を行い、生活状況を確認している。今回、退院前後で介助量が変化した2症例に関し、考察を加えて報告する。
    【症例紹介・考察】
    症例1:72歳、男性、脳出血後遺症(右片麻痺)。入院中、日中のADLは車椅子で自立、夜間の排泄はオムツにて全介助であった。
     退院前家屋調査では、(1)移動:車椅子駆動自立。(2)排泄:日中ポータブルトイレ使用自立(ベッドに介助バーを設置)、夜間オムツ全介助(尿意訴え時は尿器使用介助)。(3)整容:洗面台使用自立(壁を取り壊し通路拡大し、車椅子を近づける)。(4)入浴:通所サービスで施設浴をおこなう。
     退院後訪問指導時は、(1)移動:想定と同様。(2)排泄:ポータブルトイレ使用介助。(3)整容:居間で洗面器を使用して自立、セッティングは介助。(4)入浴:自宅浴全介助。
     相違点が生じた理由を以下に挙げる。排泄は、本人の希望により、ベッドの位置を変更し、ポータブルトイレを置くスペースがなくなっていた。そのため、居室の一角に縦手すりとポータブルトイレを設置するが、訓練時の環境と異なっていたため、一連の排泄動作に介助を要していたと考える。整容は、在宅では洗面台に膝入れスペースがなく、環境が異なっていた。また、入院中は動作が自立していたことで、問題点として認識できず、在宅にあった整容動作訓練が行なえていなかった。入浴は、年末退院のため施設利用ができないことを把握できていなかった。また、自宅でも入浴したいという症例の新たな希望が出てきたことも挙げられる。
    症例2:80歳、女性、脳梗塞後遺症(左片麻痺)。入院中のADLは入浴以外車椅子で自立、一本杖歩行は近監視であった。
     退院前家屋調査では、(1)屋外移動:車椅子駆動介助。(2)屋内移動:一本杖歩行と手すり等での伝い歩き近監視。(3)階段昇降:居住スペースは2階を使用。片手すりで近監視(4)入浴:通所サービスでの施設浴の利用を検討したが、退院直前に本人・家族が在宅での入浴を希望された。しかし、入院中の対応が困難であったため、退院後訪問時に確認することとした(シャワーチェアと滑り止めマットを購入済みであった)。
     退院後訪問指導時は、(1)屋外移動:車椅子使用はなく、介助歩行。(2)屋内移動:一本杖歩行介助(服装はロングスカート)。(3)階段昇降:中等度の介助。(4)入浴:動作確認を行った結果、ヘルパー利用を勧めた。
     相違点が生じた理由を以下に挙げる。屋外移動は本人・家族の希望が歩行であった。屋内移動は畳上での歩行訓練は行っていたが症例の場合はフローリング上での歩行が必要であり、歩行時の安定性に違いがあったのではないかと考える。また、入院中はズボンを着用していたため服装の違いが歩行動作に影響を与えていたことが予想される。階段昇降は上記の要因とともにらせん状階段で段差、踏面が訓練で使用していたものと異なっていたことが挙げられる。さらに手すりの構造上把持しづらいという訴えが聞かれ、動作に影響していたと考える。入浴は退院後訪問指導時までに方法が確立できなかったが、これは本人・家族の希望を把握できていなかったことが考えられる。また入院中から個人浴での訓練を実施していたが、家族指導が不十分であったことと環境の違いから本人の恐怖感が出現し家族の介護負担が増加したため、家族による自宅浴が困難であった。
    【おわりに】
     今回の2症例を通して、退院前後でのADLにおける介助量の違いがみられた。今後の課題としては「在宅生活を想定する上で本人・家族の希望を十分に把握すること」、「入院中からより在宅に合わせた環境設定での訓練を実施すること」、「本人・家族への動作指導を徹底すること」を挙げる。
  • 山之口 真弓, 大嶋 崇
    p. 70
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当通所リハビリテーション(以下、通所リハ)では、実用的な日常生活活動の再獲得へ向け、個々に応じたプログラムを提供しているが、その移行には困難を極めている。そこで平成16年度より、通所リハサービスの一環として、利用者様の在宅での現状を把握するため当院通所リハにて作成した調査表(ADL・APDL調査表、日常生活活動表、ご本人・ご家族アンケート調査表)を用い、自宅への訪問サービスを開始した。
    【症例紹介】60歳、女性、夫と二人暮らし。H15.5.24、脳幹出血(右>左)発症。demand:歩いてトイレに行けるようになりたい。FIM:81/126点(移動:w/cにて全介助、排泄:中等度介助)、grade:(右)上肢8、手指4、下肢7、(左)上肢11、手指11、下肢11。介護度:4、サービス内容:当通所リハ週1回利用。夫に対し依存的。
    【経過】7/8より、自宅でのトイレ動作の獲得を目標に、訓練開始。8月初旬、通所リハ内でのトイレ動作は自立するが、依然として本人より自宅でのトイレ動作困難との訴えあり。8/19調査表を使用し自宅への訪問サービス実施、自宅には趣味として行っていた手芸作品が多数あり。また調査表からは日中臥床傾向が続き、自宅では夫への依存が強く頻尿であるため、夫の介護負担大ということが判明。そこで通所リハ内で自宅に近い環境の下訓練を行い、同時に歩行補助具の選定を行う。9月より当通所リハ週2回利用となる。9/16金属支柱付短下肢装具完成。ネット手芸を導入したことで、自宅での臥床時間が軽減。材料購入のため外出を行うようになる。10/28、2回目訪問実施。夫へトイレ動作の介助方法を指導。その後w/c使用してのトイレ動作自立。留守番が可能となる。2/3ケアマネージャーと共に3回目訪問実施。自宅では移動手段が夫の監視での歩行となり、活動度が向上(FIM:100/126点)。
    【考察】今回、在宅でのADL・APDL状況の確認、生活パターンの把握、ご家族との関係作り、demandの把握を目的に調査表を用い訪問サービスを実施した。その結果、症例の生い立ち・背景、症例・ご家族が抱いているニーズを確認することができ、症例を取り囲む環境の理解が可能となった。それにより症例・ご家族・セラピストが共通の目標を持つことができ、症例の「できる活動」を向上させ、在宅での「している活動」へと結びつけることが出来たと考える。
    調査表を用いての訪問サービスは実生活場面の在宅と、通所リハ内での取り組みとを結びつける架け橋として有効であった。
  • !) クッションの使用による腰痛軽減・ADLが向上した一例 !)
    直江 孝起
    p. 71
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     長期間、車椅子で日常生活を送っている患者の不良姿勢に着目した。不良姿勢での生活は腰痛、車椅子操作未獲得などADL・QOLの向上の妨げる要因となっている。そこで減圧クッション、体幹背部にクッションを使用によるシーティングアプローチを行い、安心・安全で快適な車椅子座位でのADL、QOL向上を目的に行った。
    【方法】
     男性・84歳、診断名:脳梗塞後遺症、障害名:右片麻痺。BRS:U/E:II Finger:II L/E:II。寝返り・起き上がり:軽介助、端座位:近監視・胸腰円背。標準型車椅子での姿勢は矢状面において骨盤後傾、胸腰円背、頭部中間位といった仙骨座位でバックレストにもたれこんだ状態。前額面では正中線上において体幹右側屈となり、右側のアームレストにもたれる状態であり、腰痛の訴えが多い。車椅子駆動は、左上肢でハンドリムを押す際、適切にプッシュすることができない。また、足部で操作する際、骨盤後傾しているために足底接地が不十分である。15m直進の所要時間は約1分13秒、90度方向転換する所要時間は約25秒要し、鋭角に転換できず楕円状に転換する。移乗動作は中等度介助で、前方へ重心移動しようとするが骨盤後傾したままで胸腰円背を助長している。立ち上がり時、体幹伸筋群緊張が高くなり腰痛を助長している。そこで対象に対し、減圧クッション、体幹背部両側部に2本の円筒状のクッションを使用しシーティングを行った。腰痛、移乗動作の介助量、車椅子駆動を評価項目とし経過を追う。
    【結果】
     初期時(から1W):矢状面では坐骨結節上に体重を乗せることができ、胸腰円背は改善した。前額面では体幹は正中線上に保持することが可能となった。1ヵ月後:移乗動作は、中等度介助ではあるが骨盤帯からの前傾姿勢が可能な状態へと近づき、動作もスムーズになる。その際、腰痛はほぼ消失している。車椅子駆動は特に変化はない。3ヵ月後:移乗動作は立ち上がり時、近監視で方向転換時のみ介助を要す。車椅子駆動は直進の所要時間は約1分。方向転換は楕円状であるが、約20秒と若干短縮できた。腰痛は日常生活上、訴えることはなくなった。
    【考察】
     Engstromは人の活動に最適な状態で座るには(1)安定した支持面(2)圧の分散(3)体幹を前傾させる能力(4)姿勢の変化(5)背部のサポート(6)足部の自由度(7)安全・安心をあげている。今回の研究で、移乗動作の向上、車椅子駆動能力の向上、腰痛軽減が見られた。シーティングにより骨盤後傾、胸腰円背、体幹右側屈は改善し、安定性が増した。移乗動作時、体幹を前傾させる能力を獲得したことにより介助量が軽減したと考える。車椅子駆動は、若干体幹前傾姿勢となり、足部での操作が向上したと考える。
    【まとめ】
     クッションは不良姿勢の改善に有効である。不良姿勢を改善することは腰痛の緩和や車椅子駆動・移乗動作などADL・QOLの向上に効果的であったといえる。 
  • -症例を通して-
    片岡 靖雄, 後藤 祥世
    p. 72
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     車椅子生活となった患者にとって、離床時間を延長するためには、安定した座位姿勢をとることが必要である。これまでは円背患者の座位姿勢改善が困難であった。今回、円背患者に対し標準型車椅子(以下、標準型)と身体に合わせ調節可能なモジュラー型車椅子(以下、モジュラー型)を用い、比較検討した。
    【症例】
    81歳  女性
     診断:胆嚢摘出術後廃用症候群
         麻痺認めず
    標準型座位姿勢の問題点
     殿部を後方にひくと、体幹が背もたれに押され前傾が強まる。そのため、前腕をアームレストにおき上体を支えている。
    【方法】
     10×10cmの方眼紙を壁に貼り、標準型とモジュラー型での座位姿勢を前額面・矢状面からデジタルカメラにて撮影し、比較検討する。
      標準型とモジュラー型の変更点
       ・背もたれ角度 90°→105°
       ・背張り調整
       ・アームレスト高さ 18cm→21.5cm
       ・フットレスト高さ 14cm→6cm
       ・座面角度 5°→10°
    【結果】
    標準型とモジュラー型の姿勢の違い
     (1)水平面に対し大転子を通る垂直線より耳垂が前方→後方へ移動
     (2)前額面に対し肩峰を通る垂直線より下顎が下方→上方へ移動
     (3)頸部屈曲角度70°→45°
      膝関節屈曲角度60°→90°
      足関節底屈30°→中間位
    【考察】
     円背とは、「一度生じると進行予防に努める以外に方法はないのが現状である。円背予防としては前かがみ姿勢をできるだけ続けない」とある。しかし、当院で車椅子を使用している円背患者は、前傾姿勢で無理に頭部を持ち上げていることが多くみられた。今回、高齢者に多い円背姿勢に着目し、車椅子座位姿勢の調整を試みた。
     結果(1)は背もたれの調整により、体幹の重心が後方へ移動し、前傾姿勢の改善が得られたと考える。それに伴い結果(2)(3)の様に、頭部の位置が改善し、膝・足関節も基本的座位姿勢に近づき、座位姿勢は安定したと考える。また今回モジュラー型での姿勢調整により、支持面は座面と背もたれ全体へと広がり安定し、頭部もあがった。顔が前方を向き易い状況となったことで、周囲からより多くの刺激が入り易い座位姿勢になったのではないかと考える。
     車椅子を選択する際、本人・介助者が使いやすい車椅子が望ましく、介護保険対応のモジュラー型は両者のニードを満たしていくと考えた。車椅子座位姿勢が改善することで疲労が軽減すると、在宅での離床時間の延長やQOL向上にも繋がってくると考える。今後も様々な情報を収集し、患者・家族へよりよい車椅子が選択できる様努めていきたい。
    【おわりに】
     今回、症例を通して姿勢変化を検討し、車椅子の工夫・調整により、よりよい座位姿勢が得られることがわかった。今後更なる症例を検討していき、姿勢変化が生活にどの様な変化を齎すのか検討していきたいと考える。
  • 花山 友隆, 長野 浩子
    p. 73
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】脳出血により重度の左片麻痺と高次脳機能障害を呈した右前腕切断の既往を持つ症例を担当した。右上肢の義手側は補助手として使用していたが今回の発症により、右上肢に実用手としての機能性を獲得する必要性が生じた。そこで能動義手を作成し、訓練を行った結果、食事動作が獲得できたので報告する。
    【症例紹介】53歳、男性 診断名:脳出血 発症日:平成16年3月8日 既往歴:25年前、農作業中の事故にて右前腕切断(短断端)。装飾用義手を装着し左手で日常生活を行っていた。
    【初回評価および問題点】Br-stage上肢2・手指2・下肢4。感覚は表在・深部共に重度鈍麻。高次脳機能障害は、左半側空間無視、注意障害などを認めた。基本動作・ADLはほとんど全介助であった。Barthel Index(以下BI)10/100点、機能的自立度評価(以下FIM)42/126点。
    義手操作では手先具(回内位45°で固定。ドーランス型の能動フック)の開閉に必要な体幹や肩甲帯の運動が乏しく、力の調節や様々な場所での開閉は困難であった。また右上肢の代償運動も拙劣であり、手先具の角度を調整しても、身体や物品に合わせることが困難であった。操作後は疲労の訴えがあった。
    食事動作は左側の食器を見落とし、食べこぼしあり。汁物は手先具をお碗に合わせられず運搬時にこぼしてしまい、実用的ではなかった。
    【目標】能動義手操作に適応した坐位姿勢や能動義手の力源となる体幹、肩甲帯の協調動作と、右上肢の代償動作、手先具の操作を学習し、食事動作の獲得を目指した。
    【経過および結果】訓練室では右肩甲帯の可動性と左肩甲帯の安定性、体幹の分節的な運動を徒手的に介入しながら義手の操作訓練を行った。つまむ物品の種類や位置、大きさ、高さを変化させながら、手先具の方向性、開閉時の力の調節・タイミングの学習を図った。実際の食事場面でも食器の位置などを考慮し実用的な動作へとつなげていった。また常時、坐位を安定させ、左側への注意を促した。その結果、義手操作時の重心移動、肩甲帯と体幹の協調したリーチ、手先具の操作が疲労の訴えなく可能となった。食事動作ではスプーン操作が円滑に行えるようになり、食器の見落としや食べこぼしがみられなくなった。その他、義手の着脱やセッティングは介助を要するものの、一口量の調整、汁物の摂取、コップを把持、お碗の蓋を開ける、ラップをはがす、タオルで口周囲を拭くなどの動作を獲得できた。B.I40/100点、FIM67/126点。
    【考察】本症例が義手操作を獲得するためには、運動麻痺と高次脳機能障害という問題だけでなく、切断後、長年、補助手として使用していた切断肢に機能性を獲得させる必要があった。今回、脳卒中と切断の両側面からアプローチを行ったことが食事動作の獲得に至ったと考えられる。
  • QOLの向上を目指した取り組みについて
    大橋 光
    p. 74
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当施設では、主に自分らしく穏やかに日々を送れる様に援助することを目標にケアを行っている。
    今回その中に作業療法士として関わる機会を得て、施設内での環境設定や拘縮予防の関節可動域訓練・歩行訓練などの機能訓練と共に、QOLの向上を目的とした選択可能な作業活動を取り入れ実施した。当施設における現状と今後の課題を報告する。
    【目 的】〔陶芸教室〕1)固有感覚刺激、触覚刺激、視覚刺激等の刺激入力 2)手指巧緻性の維持・向上 3)楽しみ・顔馴染みの関係の獲得 4)精神機能面の賦活
    〔音楽クラフ゛〕1)固有感覚刺激、聴覚刺激等の刺激入力 2)見当識・記名力の維持・改善 3)精神機能面の賦活 4)自発性・意欲の維持・向上
    〔手芸クラフ゛〕1)固有感覚刺激、触覚刺激、視覚刺激、聴覚刺激等の刺激入力 2)手指巧緻性の維持・向上 3)精神機能面の賦活 4)自発性・意欲の維持・向上
    〔料理教室〕1)固有感覚刺激、触覚刺激、視覚刺激、嗅覚刺激等の刺激入力 2)精神機能面の賦活 3)自発性・意欲の維持・向上 4)日常生活動作(以下ADLと略す)能力の維持・向上
    【方 法】〔陶芸教室〕毎月第1月曜日1)対象者  意識障害のない両手又は片手が使用できる利用者 2)準備物 粘土、水、手ロクロ、エフ゜ロン、釉薬 3)人数 実施者5から6名、見学者5から6名 4)実施場所 施設内訓練室 5)時間 1時間半から2時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名
    〔音楽クラフ゛〕毎月第2月曜日 1)対象者 意識障害のない利用者 2)準備物 キーホ゛ート゛、歌詞集 3)人数  15から20名(平均年齢86±13から16)4)場所  施設内訓練室 5)時間 1時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名
    〔手芸クラフ゛〕毎週第3月曜日 1)対象者 意識障害のない利用者 2)準備物 テーマに合わせた物品(例)貼り絵、絵手紙等 3)人数10名前後 4)場所 施設内訓練室 5)時間 1時間から2時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名
    〔料理教室〕毎月第4月曜日 1)対象者 意識障害のない利用者 2)準備物 テーマに合わせた材料、包丁、まな板等 3)人数10名前後 4)場所 施設内訓練室 5)時間 1時間から2時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名
    【現 状】〔陶芸〕作品作りをOT・他スタッフの介助下で行う。最終的な修正をOTが行う.その後、素焼き・染色・本焼きを経て作品の完成とする。
    〔音楽クラフ゛〕季節の歌や利用者からのリクエスト曲の歌詞カート゛を作成し、皆で合唱する。また、発声練習や準備体操、日付の確認なども併せて実施する。
    〔手芸クラフ゛〕各月のカレンタ゛ーの作成や書初めなどを実施する。テーマは利用者から提案されたものや介助者から提示する。
    〔料理クラフ゛〕おやつ作成や郷土料理つくりを実施。利用者のできることを行ってもらうように誘導する。
    【まとめ及び今後の課題】各活動共に参加者の固定化が見られてきており、馴染みの関係が築かれつつある。また、利用者とスタッフとの信頼関係の形成も出来てきていると考える。しかし、男性利用者及び不参加者のQOLの向上につながる活動の選定ができておらず、限られたク゛ルーフ゜での活動になっている。それと同時に、利用者の高齢化と重度化が進み実施可能な項目が限定されてきているという現状もあることから、活動の選択も難しくなっている。
    今後の課題として、これらの利用者の参加できる活動の選定を行いQOLの向上に努め、少しでも長く自分らしい生活の維持ができるようにサホ゜ートしていきたいと考える。
  • その実態とAD早期診断への可能性について
    関 一彦, 濱田 正貴, 東窪  幸代, 天神 里美, 鶴田 和仁
    p. 75
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年、Alzheimer病(以下AD)などの早期診断法として、PETやSPECTなどの機能画像診断法の試みなどが報告されている。欧米では、ADがその初期から嗅覚障害が顕著となる点などに注目し、スクリーニング検査として嗅覚検査を行うのが一般的といわれている。一方、我が国でも以前から一部でその検査導入の必要性の訴えはあるが、実施は今なお低い数字であるように思われる。当院は、1995年より他の施設の協力のもと高齢者の嗅覚評価を行い、その傾向を確認し、学会報告などを行ってきた。しかし、オリジナル器具による評価あり、信頼性などの点で問題があった。よって、現在は、標準化された器具の使用によりその信頼性の確保に努めている。今回は、これまでの研究から考えられる実態とAD早期診断への嗅覚評価の可能性、テストケースなどについて報告する。
    【対象】
    AD及び将来的にADへの移行が高いとされるMCI(軽度認知機能障害)の他、物忘れ外来の患者やParkinson病者など。
    【方法】
    以前は、食品と非食品計18品目からなるオリジナル器具により、嗅覚評価を行っていたが、現在はT&Tオルファクトメーターを用いることで、比較的精度の高い評価が可能となった。神経心理検査は、MMSE、WMS-R logical memory(記憶障害の客観的指標)、Everyday Memory Checklist(生活健忘チェック)、ADAS-Jcog、CDR(痴呆の重症度判定)などを行っている。ただ、患者によっては、その全てを行うことは難しい場合があり、MMSEのみで済ますこともある。また、当院の場合、CDRに関しては、その検査の信頼性(精度)などを考慮し原則、医師が担当する。
    【結果】
    嗅覚は、50歳代から低下がはじまり、70歳代で急速に悪化すると言われ、高齢者特有の原因としてはADやParkinson病、頭部外傷などを念頭におく必要があるとされている。これまでの調査結果を総合すると、ADやその可能性の高い患者の場合、ニオイの検知閾値と認知閾値(マッチング)の両方にその低下が確認されることが一つの特徴であることが分った。また、今回のケースなどでもそれが顕著となった。
    【考察】
    本来、他の症状に先がけて確認されやすいというADの嗅覚障害を考えた時、嗅覚評価はその精度さえ確保されれば極めて有効な診断材料となることが予想できる。また、嗅覚と記憶は極めて密接といわれており、その障害は、記憶やADなどの精神状態に影響することは必然的でありかつ軽視できない。よって、ADなどの嗅覚障害の程度や経過、記憶との関係を明らかにすることで、その実態解明の部分への期待や嗅覚評価の必要性つながる可能性が高い。MRIやPET、ほか精度の高いEEGなどに関してもその診断施設が限定されることは言うまでもない。さらに利用可能であってもそれに必要なコストやその事前準備、時間などを含め幾つかの課題が残る。反面、現在導入中の簡易的嗅覚検査は、基準臭に若干の問題を残しはいるが、器具の手軽さや同様の器具による欧米などの実績から見ても極めて有効な診断材料となる可能性が高い。
  • 創作作業の可能性
    中務 欽章
    p. 76
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     認知症高齢者ケアの現場では手工芸、特にその中でも貼り絵、色塗りなどの創作作業をリハビリテーション(以下リハビリ)として実施している。しかし、認知症が進行していくとこのようなリハビリは治療的な「機能改善」というより「機能維持」という少々曖昧で消極的な意味合いで用いられているように感じる。今回私達は認知症高齢者に対しリハビリ(創作作業)を強化することで、一旦低下した脳機能が回復し、その人の生活へどのように影響するかという作業効果の検証を行うことにした。
    【対象・方法】
     対象者は当院入院患者で、MMSは平均12.5点と重度の認知症であるが、簡単な創作作業(紙玉丸め)が遂行可能な男女混合10名。出来上がった紙玉と、それによって作られた絵画作品をテーブル中央に提示し、自分たちの作業が何につながるかを常に確認できる環境の中で作業を行った。期間は3ヶ月間、30分間の作業を毎日(月から金)行う。評価はMMS、独自に作成し認知的側面から見た作業遂行能力評価表、DFDL(認知症高齢者の日常生活機能評価尺度)の3つを継時に実施する。
    【経過】
     MMSの点数が高い対象者達は、作業遂行能力評価表の項目(思考、短期記憶、作業記憶、意欲、集中力、コミュニケーション)のすべてにおいて、高い水準を維持しながら作業を行っていた。ただ作業に従うだけでなく、作業成果を積極的にフィードバックしたり、自ら作業に変化をつけ上手に仕上げようとするなど、作業遂行による成長が見られている。一方、MMSの点数の低い対象者達は作業遂行能力評価表の項目、特に思考、短期記憶、作業記憶の面でつまずきがあり、上手く作業を実施できない状況が続いている。本研究は開始2ケ月で、現在経過を追っている。
    【考察】
     今回、創作作業(紙玉丸め)を、ある一定の作業量を確保し、作業に必要な認知機能を駆使できる目的のある作業(リハビリ)として実施した。しかし、実際は認知機能が十分に駆使できない重度の認知症高齢者にとっては、作業を強化しても効果として引き出せていない状況である。これは意味のある作業として捉えることができず、無目的に手指を動かすことに近い作業では十分な脳の活性化や成長につながらないことが示唆される。逆に効果として現れている症例との関わりで共通しているのは十分なコミュニケーションの交流であった。作業が遂行できるだけではなく、作業を介した積極的なコミュニケーションが可能なことが作業への価値、取り組む気持ち、さらに脳の活性化に大きく影響していると考えられる。
    創作作業が認知症高齢者へ純粋に楽しみや癒しを与えるだけでなく、科学としての有効性を探求していきたい。
  • 川副 巧成, 山内 淳, 松尾 亜弓
    p. 77
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】認知症予防は,老化や低活動状態による認知機能や動作能力の低下を防ぎ,生活機能を維持することが重要であり,その手段として,運動の有効性に関する報告が多い.前回われわれは,要介護高齢者を対象に,運動の方法としてマシントレーニングを中心とした筋力向上トレーニング(以下,トレーニング)を実施し,体力や動作能力への運動の好影響を報告した.そして今回,認知や動作調整などの脳機能には,前頭前野の関与が深いことに着目し,トレーニングが前頭前野機能に影響をおよぼすかどうかについて調査した.
    【対象】対象は,N市在住で,要支援から要介護2までの高齢者26名.年齢は64から84歳(平均年齢75.8±5.9歳)で,平成16年4月から12月まで同市内のデイサービスにて集団体操とマシントレーニング中心とした筋力向上トレーニングプログラムに週1回以上の頻度で参加した高齢者である.評価は,トレーニング開始時と3ヶ月後に,Mini- Mental State (以下,MMS)を用いた認知機能検査とFrontal Assessment Battery (以下,FAB)による前頭前野の機能検査を実施し,トレーニング前後のMMS,FAB得点の経時的変化を検討した.
    【結果】MMSの結果は,初回時が22.9±5.2点,3ヵ月後は24.6±5.1点で,トレーニング前に比べ,3ヵ月後は有意に高値を示した(p<0.01).また,FABの結果は,初回時が10.1±3.0点,3ヵ月後が12.5±3.6点で,MMS同様,トレーニング前に比べ,3ヵ月後は有意に高値を示していた(p<0.01).
    【考察】諸家は,認知症の原因の一つを低活動状態による脳の廃用性とし,脳の廃用性予防には前頭前野の機能低下防止が有効と述べている.そして,Luriaは,前頭前野障害を行動の調整・決定に関わる認知機能や,運動・動作能力の障害と述べている.今回,MMS,FABで捉えられた認知および前頭前野機能は,トレーニング前に比べ3ヵ月後には有意に高値を示した.この要因の一つには,トレーニングマシンを用いた低負荷で単純な動作の反復が,前頭前野へ好影響をおよぼしたと推測できた.また,身体機能のみならず,トレーニングを通した参加者相互の関わりは,対象者の自己認知や自己効力感を促進したと考えられた.すなわち,軽運動の継続と,集団活動を介した精神・心理面への働きかけは,対象者の脳機能に効果的に作用したと推察できた. 以上のことから,筋力向上トレーニングは,前頭前野の機能低下防止に効果的な手段であると考えられた.
  • 前田 一明, 猪鹿倉 忠彦, 新牧 一良, 花田 浩一, 大脇 為俊, 有馬 由紀子
    p. 78
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年pacing障害による転倒リスクが注目されている。今回我々は,脳血管性障害があり軽度の痴呆を有する患者で、行動観察上明らかにpacing障害が疑われ転倒を繰り返している症例に対して、集中的な認知リハの検査・訓練を行ったので、その結果に考察を加え報告をする。
    【対象】86歳の女性、2002年2月慢性硬膜下血腫除去術施行(後遺障害はなし)。その後老健入所にて経過していたが、落ち着きなく動き回り、週3回程度の転倒を繰り返していた。2004年4月当院へ入院し脳血管性痴呆と診断されるが、当院入院後も6ヶ月で16回の前方への転倒を繰り返し、対策を求められていた。
    【検査】(1)机上テストによる注意機能評価1)書字検査2)図形検査3)TMT-A・B4)PASAT(2)ADL 上での行動評価1)50m歩行タイム2)B・I (3)知的評価1)HDS-R2)MMS3)WMS-Rをベースライン(2回の平均値)・訓練開始時・開始後1ヶ月・終了時(2ヶ月)・終了後の1ヶ月と2ヶ月に施行し,経過観察を行った。尚、(2)1)50m歩行タイムは、ADLの中における無意識下でのタイム測定を行った。
    【認知リハ実施方法】(1)トランプ分類(トランプの4種類のマーク別に並べていく。)(2)言語的統制法(自己教示法)50m歩行でリズムを取りながら行う。同時に歩容についても言語的指示を行う。訓練は20日間区切りで1)検者が声を出しリズムを取る。2)対象患者が声に出しリズムを取る。3)声を出さずにリズムを意識してもらいながら行うとし、訓練終了毎にフィードバックを行った。
    【結果】(1)机上テストにおける注意機能評価の結果で、訓練開始1ヶ月後、ベースラインと比べ図形検査が約23秒、書字検査が約7秒延長しており、それ以降もデータは維持されていた。他の検査においては特記すべき変化は見られなかった。(2)ADL上での行動評価の結果、50m歩行タイムが、ベースラインと比べ開始1ヶ月後約11秒延長し、終了2ヶ月後も維持されていた。B・Iは階段が自立し、5点upした。(3)知的評価の結果はHDS-R・MMS共に変化は見られず、軽度痴呆レベルで推移した。(4)転倒回数は訓練開始前6ヶ月間で16回、訓練開始から最終評価時点5ヶ月で3回、以降の6ヶ月で1回と減少が見られた。
    【考察とまとめ】本症例は転倒を頻発し脳血管性痴呆と、pacing障害を認めたケースである。pacing障害に対する認知リハの訓練方法としてはトランプ分類と50m歩行での言語的統制法(自己教示法)を用い、歩行姿勢の声かけやフィードバックを行った。結果、知的評価の変化は見られなかったが、机上テストのpacing 障害検査で若干の改善が見られた。またADL上での行動評価では歩行スピードが緩徐となり性急さが減少、歩容の改善も見られ、転倒回数が大幅に減少した。階段昇降やトランスファーの場面でもゆっくりとした確実な行動が見られ、pacing障害における動作の性急性(転倒リスク増大)に対し、認知リハの有効性が示唆された。
  • 森田 正治, 中原 雅美, 松崎 秀隆, 甲斐 悟, 清水 和代, 宮崎 至恵, 坂口 重樹, 森下 志子, 渡利 一生, 吉本 龍司, 村 ...
    p. 79
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     我が国では、2003年5月1日から健康増進法が施行され、各地で公共空間における禁煙措置が進められている。当学院の最寄り駅周辺でも、福岡市の条例により路上禁煙地区と定められている。当学院学生のマナー厳守は勿論だが、健康・社会的影響を考慮すると当学院においても喫煙対策強化は必要と考える。そこで今回は当学院での喫煙対策の資料として、学生を対象にアンケート調査を実施し考察を加えたので報告する。
    【対象と方法】
     対象は平成16年度当学院第2学年の理学療法および作業療法学科の学生78名、平均年齢23.0±4.9歳である。アンケート調査は、全員を対象としたものと喫煙状況に応じて回答するものを設け、2005年2月に自記式で実施した。アンケート調査の内容は、1)喫煙の有無、2)現在の喫煙理由、3)Fagerstrom Tolerance Questionnaire(以下FTQ)、4)1日の喫煙本数、5)今後喫煙をやめる意志、6)喫煙することをやめたい理由、7)今後喫煙をやめる時期、8)効果的なプログラムへの参加の意志とした。
    【結果】
     喫煙の有無では喫煙者は全体の25.6%であった。現在の喫煙理由は、精神面の安定を図ることを理由にする者が喫煙者の75.0%と多かった。FTQでは喫煙依存度が高度に分類される学生はおらず、1日の喫煙本数も26本以上の者はいなかった。今後喫煙をやめる意志では、喫煙者の85.0%が今後喫煙をやめたいと考えていた。喫煙することをやめたい理由は「健康のため」とする者が最も多く、今後喫煙をやめる時期は「いずれやめたい」と回答する者が88.2%と最も多かった。効果的なプログラムへの参加の意志では、70.6%の「参加したい」と回答していた。
    【考察】
     日本タバコ産業株式会社が実施した2004年「全国たばこ喫煙者率調査」では、20歳代の喫煙率は男性52.2%、女性19.7%と報告されている。今回の当学院の結果には19歳の者が6名(対象者の7.7%)含まれており、単純に比較は出来ないが、当学院の喫煙率(男女計25.6%、男性48.5%、女性8.9%)は一般の若者よりもやや低いものと考える。プロスカの行動変容モデルでは、喫煙を1ヵ月以内にやめたい者が準備期、6ヵ月以内にやめたい者が熟考期、それ以外の者を前熟考期と分類される。今回の結果では喫煙者の多くが前熟考期に該当し、まだ現実的に禁煙しようとは考えていないと推察された。しかし、効果的なプログラムへの参加の意志が高いことから、在学中に喫煙対策を実施する意義は大きいと思われる。また喫煙理由が精神的安定を目的としている者が多いことから、喫煙による健康面への影響を認識させるだけではなく、喫煙に変わる代替策により精神的安定を図るように指導していく必要性が示唆された。
  • 渡利 一生, 中原 雅美, 松崎 秀隆, 森田 正治, 甲斐 悟, 清水 和代, 宮崎 至恵, 坂口 重樹, 森下 志子, 吉本 龍司, 村 ...
    p. 80
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     近年、世界および国内において喫煙対策が強化されてきている。喫煙は学生時代に習慣化することが多く、看護学校における調査では学年が上がるに連れて喫煙率が上昇したとの報告もある。理学療法士および作業療法士の養成校においても20歳前後の学生が多く、喫煙対策は必要と考える。そこで今回は当学院での喫煙対策の資料として、当学院学生を対象に喫煙に関する意識調査を実施し考察を加えたので報告する。
    【対象と方法】
     対象は平成16年度当学院第2学年の理学療法および作業療法学科の学生78名、平均年齢23.0±4.9歳である。アンケート調査は2005年2月に自記式で実施した。アンケート調査の項目は、1)タバコの煙が喫煙者本人の身体へ及ぼす影響をどう思うか?(以下、項目1)、2)タバコの煙が周囲の人の身体へ及ぼす影響をどう思うか?(以下、項目2)、3)タバコのにおいが周囲の人にどのように感じられると思うか?(以下、項目3)、4)「医療従事者を目指す者」という点で喫煙をどう思うか?(以下、項目4)とし、選択肢を「非常に悪い」「悪い」「影響ない」「良い」「非常に良い」とした。検討にあたり、現在喫煙している者(以下、喫煙者)と喫煙していない者(以下、非喫煙者)に分け、独立性の検定を行った。
    【結果】
     項目1、項目2、項目3では、喫煙、非喫煙者ともに「非常に悪い」または「悪い」と回答したものが多かった。ただし、「非常に悪い」と回答した者の割合は、喫煙者に比べて非喫煙者の方が多かった。項目4では「影響ない」と考えている者が非喫煙者(48.3%)よりも、喫煙者(75.0%)の方に多かった。また、「影響ない」と『悪い』(「非常に悪い」「悪い」)の独立性の検定では関連性を認めた(p<0.05)。
    【考察】
     今回の結果から喫煙者、非喫煙者に関わらず、喫煙が健康に悪影響をもたらすことは認識していると考えられた。しかし、「非常に悪い」と「悪い」の割合からみると、喫煙者は非喫煙者よりも認識が甘い、または悪いと認めたくないという心理が働いているのではないかと推察された。またタバコのにおいについても他者を不快にすることは、喫煙者、非喫煙者共通に認識していることから、禁煙及び喫煙マナーを守ることを促す際の意味づけとしやすいものと考えられた。喫煙している医師の方が患者教育に消極的な傾向にあるとの報告もあり、項目4の結果からも同様のことが予測された。
     現在当学院では喫煙対策として、館内禁煙としている。今回の結果を参考に禁煙教室など検討実施していきたいと考えている。また今回は対象者が第2学年のみに限られていたため、今後は当学院学生への全数調査及び縦断調査を実施したいと考えている。
  • 情動知能指数(EQS)を用いて
    村上 茂雄, 森田 正治, 清水 和代, 宮崎 至恵, 坂口 重樹, 中原 雅美, 渡利 一生, 松崎 秀隆, 吉本 龍司, 山口 寿, 高 ...
    p. 81
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、学外実習における情意領域の変化を把握することを目的に、内山ら作成の情動知能指数(Emotional Intelligence Scale、以下EQS)1)を用い検討したので報告する。
    【対象と方法】
     当学院に在籍する理学療法学科、作業療法学科第2学年の学生76名(男性32名、女性44名、平均年齢23.1±4.9歳)を対象として、3週間の学外実習(いわゆる評価実習)前後にEQS測定を行なった。EQSとは合計65項目からなり、自己記入式で情動知能を測定するものである。「自己対応」、「対人対応」、「状況対応」の3つの領域に分かれ、各領域に3つの対応因子、さらに各対応因子に2つ又は3つの下位因子が定義されている。回答方法は、自分に最もよくあてはまると思う番号を選び出すもので、「0:全くあてはまらない」、「1:少しあてはまる」、「2:あてはまる」、「3:よくあてはまる」、「4:非常によくあてはまる」の5件法であり、0点から4点の重みづけがなされ4点はその情動知能に関する性質が高いことを示している。統計学的処理は、Wilcoxonの符号付順位検定を用い、危険率5%未満を有意水準とした。
    【結果】
     領域、対応因子、下位因子すべてにおいて実習後の方が有意に得点が高くなっていた(p<0.01)。
    【考察】
     今回の学外実習により、情意領域の性質が高くなるという変化が生じた。その原因の1つとして、臨床実習は患者に対する実習指導者の基本的態度を模倣学習できる2)という環境の存在が考えられた。しかし、それを裏付ける具体的な要因が、今回の調査では明らかにされなかったため、今後の課題は、他の評価表3-4)やアンケートなどを実施し、検討していく必要があると思われる。そして、他の学外実習でのEQSの前後比較、学内実習と学外実習との比較など、学外実習が情意領域に与える影響についてもさらに検討していく考えである。
    【引用文献】
    1)内山喜久雄、他 :EQSマニュアル.実務教育出版:2003.
    2)原口健三、他:臨床実習における学生の基本的態度の欠如について.第24回理学療法士、作業療法士合同学会誌:191.2002.
    3)原口健三:臨床実習における学生の情意領域評価.リハビリテーション教育研究第5号:56-61、2000.
    4)河元岩男:情意領域の早期教育. リハビリテーション教育研究第3号:57-59、1998.
  • 金澤 寿久, 玉城 沙百合
    p. 82
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院ではクリニカルクラークシップの要素を取り入れた独自の臨床実習指導を実践している。今回、本実習指導と従来の臨床実習に関する意見調査を実施し比較検討したので報告する。
    【対象および方法】
    対象は当リハビリテーション部所属の理学療法士(以下PT)24名(経験年数1年から9年:平均経験年数3.5年)。臨床実習開始前の平成16年2月に従来の患者診療型実習形態についての意見を1)学生が治療を実際に施行する事に対しどう考えるか2)学生への指導を通して疑問に思ったことまた問題点3)その問題点に対する対処方法の3つの設問から得た(A)。そして臨床実習終了した11月に今回の臨床実習指導実践後に、1)今年度の臨床実習指導方法についてどう考えるか2)今回の指導方針下での学生への指導を通して疑問に思ったこと、また問題点3)その問題点に対する対処方法の3つの設問(B)よりアンケート形式にて得た回答から検討した。
    【結果および考察】
    Aの設問1)は、「実際に患者に触れることは臨床実習でしか得られないためこの指導が良いと思われるが、十分に実習指導者(以下SV)が学生のために時間を割き付きっ切りで監視することは不可能であり、リスク管理が不十分である」と各SVが矛盾を抱えている事がわかった。設問2)は「SVが学生の欠点ばかりを見てしまい長所を伸ばすことができていない」、「学生に対しどこのレベルまで求めてよいのかわからない」に意見が別れていた。設問3)は「SVの指導法を統一する」、「学生個々人にあった指導法の提供」などがあげられたが、具体的な対処方法の提示はなかった。Bの設問1)では、「昨年までの実習形態に比べ、より近くでPTのことを知ることができ、何より学生が楽しそうなので良い方法かと思われ、学生個人に負荷を合わせやすく従来の実習に比べ、体験、経験する実習ができる」といった意見が多数を占めた。設問2)では「SVの指導差が目立つため、学生の現時点での評価内容なのか、SVの意見なのかが症例報告の際にわかりにくく学生の現状把握が困難」といった意見が多かった。設問3)は「1日の課題に関してこちらが優先順位をつけてやらせる方が良い」、「入院から在宅までを体験できる実習形態は良いと思う。実習ではあらゆるケースを見せ、また比較をさせ、どういったPT実施や評価が必要なのかについて実際にシュミレーションしながら捉えさせることができる」など、より具体的な対処法の提示が見られていた。今回の結果より、従来の臨床実習指導法を容認しながらも日常臨床業務維持のために学生に付きっ切りでいる事自体困難であるという矛盾を各SVが抱えている事に対し、本臨床実習指導は、学生にかかるストレスが少なく学生の能力に応じた対処が可能であること、日常業務をこなしながら指導できるのではないかと考察された。しかし、各SVの力量による学生への影響性が強いため、SV自身の質的向上が求められ、今後の課題となった。
  • オーバーラップ・エゴグラムの活用
    堤 文生
    p. 83
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】理学療法士・作業療法士の教育において、専門的知識の習得のみでなく、医療人としての人間性・社会性という職業への適正も重要な因子である。医療の臨床場面や教育現場での対人関係を円滑にする方法として、交流分析が活用されている。エゴグラムは自我状態の機能分析をグラフ化したものであり、そのパターンより自己の性格特性や行動パターンの特徴を理解するものである。昨今の教育現場では、学生数の急激な増加に伴い幅広い性格を有する学生への対応が求められている。今回、オーバーラップ・エゴグラムを活用し、他者との相性関係を求めることを目的とした。【エゴグラムとは】交流分析の基本となるもので、人のパーソナリティーの自我状態(親、大人、子供)を、CP(批判的な親)・NP(養育的な親)・A(大人の自我)・FC(自由な子)・AC(順応した子)の5つに分け、この尺度高低(優位、劣位)のパターン分類より性格を解釈する方法である。オーバーラップ・エゴグラムとは、二者間(自分と相手)のエゴグラムを上下反対方向より重ね合わせ、相手との相性関係を求めるものである。【対象及び解析方法】対象は、平成16年・17年に入学した新入生173名(PT:85名、OT:88名、男性96名、女性77名)である。入学初期にTEGを実施し、各学生の性格を分析した。演者は平成二年より自作のソフトを用いTEGを分析しており、今回新たにオーバーラップ・エゴグラム解析用ソフトを作成した。【結果及び結論】本校の特徴として、各学科の教員は入学早期に全入学生の人間性を知ることを基本としている。その一助として、個人的にTEGを活用してきた。今回、オーバーラップ・エゴグラムの存在を知り、早速ソフト化することで問題点を模索してみた。演者のTEGは、CP(10点)、NP(20点)、A(19点)、FC(6点)、AC(3点)というNPとAが特に高い台形型(ボランティア・タイプ)である。このタイプにとって、コミュニケーションの取りにくいパターンとしては、NP・A・FCが低いV字型(イライラタイプ、空想家タイプ、忍の一字タイプ)やU字型(フラストレーションタイプ、爆発タイプ、いじけやすいタイプ)が挙げられる。これらのタイプの出現率は、V字型が10.1%、U字型が4.4%と低い数値ではあるが、オーバーラップ・エゴグラムにおいても重なりの少ないタイプであり、教育場面での相性関係の難しさを感じている。エゴグラムの創始者であるデユセイは、「人間関係を維持するには最低2つの自我状態の重なりが必要である」と述べている。これらの学生との対人関係において、相手に変化を求めるのではなく、TEG上での重なりを増す方向での接し方(学生指導)を検討すべきである。
  • 辻 景子, 中村 亮二, 坂本 拓也 , 後藤 昌史, 福田 啓治, 樋口 富士夫 , 永田 見生
    p. 84
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    腱板断裂術後成績は一般的に良好と考えられているが、以後の社会復帰状況を含め患者側における評価、特に重労働者においては不明な点が多い。今回、重労働者における術後1年時のSF-36v2による健康状態アンケート調査を行ったので報告する。
    【対象と方法】
    2004年4月から2005年3月まで当院にて腱板断裂術後の後療法を施行した症例数は112名であり、1年以上経過観察し得た重労働者28名のうち回答が得られた23名を対象とした。平均年齢56.4歳(40から71歳)、平均罹病期間10.7ヵ月(1から96ヵ月)、 平均断裂面積(縦径X 横径)は13.1cm2(0.5から35cm2)であった。このうち大断裂もしくは広範囲断裂(10cm2以上)は8例であった。アンケート調査はSF-36v2質問紙(スタンダード版:自己記入式)を用い、術後1年における精神的・身体的健康状態を調査した。算出されたスコアリングを国民標準値と比較した。なお重労働者の定義はデスクワーク以外の職種とした。
    【結果】
    全8項目の評価(重労働者標準値vs国民標準値)は、身体機能(49.9、50.0)、日常役割機能:身体(42.7、50.0)、身体の痛み(44.6、50.0)、全体的健康感(49.6、50.0)、活力(51.5、50.0)、社会生活機能(47.0、50.0)、日常役割機能:精神(45.2、50.0)、心の健康(50.8、50.0)であった。国民標準値より高値を示したのは、精神面(活力と心の健康)のみであった。
    【考察】
    今回のアンケート調査により、術後1年において精神的健康状態は問題なかったが、身体的健康状態は必ずしも良好とは言えないことが分かった。このことは腱板断裂術後の筋力回復が十分でないことが要因の1つであると推察した。
  • 力丸 孝臣, 松本 泉
    p. 85
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】疼痛には、関節痛、筋肉痛、神経痛など疾患別において概念化が位置づけられている。臨床の場面で患者が訴える疼痛は一個人で訴える疼痛の場所、程度ともに様々であり、外部から状態を評価することは困難であると考える。そこで今回、一人称表現を用いて、右肩関節に慢性的な疼痛の訴えがある患者に対して認知課題を提示し課題前後で変化が見られたため報告する。
    【症例紹介】氏名:K・T氏、性別:女性、年齢:71歳、既往歴に右人工股関節術後、両側変形性肩関節症、慢性関節リウマチHDS-R30/30、現在は週一回通所リハビリテーションを利用されており、性格は外交的で温厚である。
    【方法】軌跡課題を用い接触課題(曲線)と空間課題(直線)を提示し1週間に一回の頻度で4週間実施した。1・2回目は接触課題を、3・4回目は空間課題を提示した。
    【経過】[接触課題]課題前では肩関節の運動痛を伴い、表情も険しく体幹の側屈等の代償運動も認められ激しい疼痛の訴えが見られ、「痛い!上げても下げても痛い」との発言があった。課題後では代償運動も減少し表情も穏やかとなり、「すぅーと手が上がった感じがした。でも何かよくわからない」との発言があった。VASは6/10から2/10へと変化した。運動範囲には大きな変化は見られなかった。二回目も課題後のほうが疼痛の訴えは減少し、また「痛いというよりも腕の重かね」との発言があった。課題に対する正誤に左右差は認められなかった。[空間課題]右肩関節の運動範囲が拡大し疼痛の訴えも減少した。「とにかく腕が重か!重かねー」と右腕の重みを強く訴えるようになった。左右差は認知課題の正誤数では右上肢の方が正答が多く、左上肢では疼痛の訴えがないにも関わらず正答は少なかった。VASは2/10から1/10へと変化した。
    【考察】今回、慢性的疼痛を訴える患者に対して認知課題を提示し、課題後では痛みから腕の重みの訴えへと変化し、右肩関節の運動範囲が拡大した。これは、認知課題を通して「動かす」という運動に注意を向けたのではなく運動(課題)を通して何かを「感じる・探索する知覚探索」としての運動へと注意の方向性に変化が起きたためではないかと考える。認知運動療法では外部観察ではなく内部観察を主体として患者の病態を把握し道具を用いた課題を行っていく。今回、疼痛(痛み)のように一個人で多様に変化する症状に対して、内部観察を主体とする認知運動療法は患者の様々な訴えに多様に用いることができ、疼痛に対するアプローチとして有効な手段の一つではないかと考える。
  • 小原 瞳, 坂田 亮, 渡 裕一, 松下 兼一
    p. 86
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】当院は回復期リハビリテーション病床、一般病床、特殊疾患病床を有する病院であり、入院患者に対し「ゆとり」のある生活の獲得を目的にサービスを提供している。その実行機関としてレクリエーション委員会が存在する。その中で目標志向的レクリエーションとして「患者演奏」を企画し、特に精神・心理的側面に効果がみられたので、その紹介と若干の知見を報告する。
    【活動内容】季節に見合った催しを年6回行っており、患者自身が中心となって行う患者演奏が毎回プログラムに含まれる。そのため演奏練習を1ヵ月前から開始している。催しを目標に選曲し練習を行うため、目標志向的レクリエーションと位置づけ実施している。
    【対象】当院入院中で疾患等に制限は設けていない。1回の参加人数は5から15名程度である。演奏の場に抵抗感を抱かず、集団・音楽活動を行う事で治療的効果があると思われる患者。その中で、各行事日程と退院日を考慮し、主治医と相談し決定する。各催し物には、学生ボランティア、地元新聞社、家族、地域住民、保育園児も来院し参加する。
    【活動目的】1.患者に対する効果:音楽活動により周囲から自己を承認されている感覚を得て、自尊心の回復、自己と他者との共通性や差異の感覚を通じ自己の認識を持つこと。a、対人関係・対人相互作用への効果b、情緒的な側面への影響c、自己実現の獲得d、介助者への関心2.家族に対しての効果:a、来院頻度の増加b、患者、家族、職員の3者が共有する話題の増加c、新たな患者の側面に対する理解。また、地元新聞社や地域住民の参加により、活動の広報、動機づけも行える。
    【考察】我々は、患者の自立支援のために、身体機能の回復、ADL能力改善を目標に種々のアプローチを行っている。しかし、患者は何を目標に訓練を行っているのか、またその過程で生じる心理的変化を今後のリハに生かすことはできないかと考えてきた。その方法として、患者に合う音楽、文化・習慣に寄りかかる音楽を利用することが有効ではないかと考えた。障害を持ち自尊心も失いつつある患者が、催しで発表するという目標を持ち、音楽活動を行うことで日常生活活動意欲が向上し、他訓練や心理面の賦活、汎化へと繋がる。また、発表により患者が活動・参加レベルの肯定的側面を表現し、それを他患者、コ・メディカル、家族が受け取り情報交換を行い、患者にフィードバックできる。結果、快の感情を伴う活動を提供しているのではないかと考える。
    【今後の課題】一般病院という中で発生する時間・場所的な制約や、訓練効果を明確にするための神経心理学・生理学的指標が重要であると考える。そのための、訓練頻度、課題選択にどう患者が参加していくかが重要である。また、目標志向的レクリエーションの「目標」を患者と共に創り上げ、そこに向かっていく為のコ・メディカルの連携も重要ではないかと考える。
  • 岩永 健児, 圍 直樹, 柴原 健吾, 坂井 綾子, 久永 望, 吉原 泰史, 出田 直子
    p. 87
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】栄養サポートチーム(以下NST)は栄養面から患者さんにアプローチを行い、疾病の治癒促進と合併症・廃用性症候群の予防、改善を図っていく組織である。栄養の重要さは分かっていてもDr、Nrs、栄養士、薬剤師が扱う分野というイメージが強くリハビリ部門が深く関わっていく機会は少ない。そこで今回当院でのNSTにおいてのリハビリの関わり方を紹介する。
    【当院のチーム構成と活動内容】Dr、Nrs、栄養士、薬剤師、臨床検査技師、PT、OT、ST、放射線技師、MSW、医療事務、ヘルパーにより構成される。活動内容は、早期退院、栄養の経口摂取を目標に、週1回の回診とその後行なわれるカンファレンスを行い各個人ごとの栄養やそれに関連することを主治医や担当スタッフに提言する。
    【リハビリの関わり】当然それぞれの専門性を活かし、栄養の経口摂取に必要な能力の評価を行い報告する。また、回診やカンファレンスでの情報を基に経口摂取に必要なアプローチ及び状態に合わせたアプローチを行なっていく。
    【PTの関わり】主に摂食時の座位保持に必要な筋力、可動域、基本動作能力、また覚醒度、活動性に対する評価とアプローチを行なう。食事動作以外でも栄養や状態を詳しく知ることにより、安全で効率的なリハビリを行なえる。
    【OTの関わり】主に摂食動作に必要な上肢の筋力、可動域、巧緻性、自助具や環境に対する評価とアプローチを行なう。さらに、作業活動を通して実用手の使用頻度の増加、また、集団療法により覚醒度、活動性、意欲の向上を図る。
    【STの関わり】リハビリ部門において最もNSTにかかわりが深く、摂食、嚥下、覚醒度、意欲に対する評価とアプローチを行なう。また経口摂取可能かどうかの判断や口腔ケアも行なう。
    【まとめ】NSTと言うとリハビリにはあまり関係がなく、どういう関わり方をしていけばいいのか分からないというイメージを受ける。しかし、リハビリ部門に求められることは栄養(食事)に関することが中心になってはいるが普段行なっている内容と大差ない。また十分な栄養管理がなされることにより、より円滑にリハビリが進むことは間違いない。実際に、NST稼動開始時と比較すると褥瘡患者が12ヶ月で25名から20名に、MRSA患者が14ヶ月で23名から9名に減少している。それぞれが評価した内容を持ち寄り、それぞれの立場から意見を述べ、これまで同様に患者さんに必要なリハビリを行なっていくことがNSTの一員としての役割と思われる。
    【おわりに】当院でNSTが稼動して1年以上経過したが、まだ十分に機能しているとは言い難い。平成17年よりチーム内で褥瘡チーム、摂食嚥下チーム、呼吸器チーム、給食改善チームに再編成されたこともあり、さらに専門性を活かし関わっていきたい。 
  • 長野 裕一, 草野 美幸, 深浦 美里
    p. 88
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    質の高い医療を提供するためには、各職種が情報をより迅速に伝達し、情報共有することが重要である。当院では、大きく分けて「会話」と「書類」により情報交換しているが、上手く機能しているとはいいがたい。そこで今回、情報交換の問題点を探るべく、当院リハビリテーション科(以下、リハ科)職員と医師・看護師・医療ソーシャルワーカー(以下、MSW)・看護助手を対象とし、情報交換に関するアンケート調査を実施し、改善策を検討した。
    【方法】
    選択記載と具体的な内容を自由記載できるアンケートを作成し、H15年9月22日からH15年10月3日の間で調査を実施した。
    【結果】
    有効回答数は、リハ科8名(回答率88.9%)、医師15名(回答率75.0%)、看護師42名(回答率93.3%)、MSW3名(回答率100.0%)、看護助手19名(95.0%)であった。情報交換が円滑に行えているとの回答は、リハ科と医師間は、医師66.7%、リハ科職員87.2%で、リハ科とMSW間は双方とも100.0%であり、良好な関係が築けている。一方、リハ科と看護師間は、リハ科62.7%に対し看護師33.3%と低く、認識の差があった。また、リハ科と看護助手間はリハ科12.6%、看護助手31.6%で、情報交換が十分行えていないことがわかった。有効な情報交換手段は何ですか、との問いに対し、直接会って話す40.5%、電話36.9%、書類10.3%、回診・カンファレンス11.2%であった。どの職種も、書面ではなく「話し合う手段」の重要性を感じているようだ。書類が有効でない理由として、1.具体的な事が解らない、2.目を通す時間がない、3.専門用語が理解できないなどが挙げられた。
    【考察】
    今回の調査で、病棟スタッフ(看護師・看護助手)との情報交換に問題があることが認識できた。各職種とも、話し合う事が大切だと認識しているが、業務多忙のために、話し会う機会を作る意識が希薄だった事も事実であろう。病棟スタッフとの連携を十分行わなければ、質の高いチーム医療は望めず、早急に対応が必要と感じ、次の対策を立案した。1.看護師への情報伝達はリーダーか患者担当に直接伝達する。2.看護助手には、直接担当者に伝え、かつ必要があれば担当看護師にもその内容を伝達する。3.書類は、誰が見ても理解可能な言葉で記載し、その内容は関係職種に口頭でも伝達する。4.リハ運営委員会で、定期的に情報交換方法の確認とリハ関連書類の活用を呼びかける。5.患者の病棟ADLの状況や改善方法を話し合う場を作る。6.各部門の行事にも積極的に参加し、顔見知りになる。これらを十分遂行することで、役割分担や協業する部分を明確にし、チーム医療を実践できればと考える。
    【おわりに】
    病棟スタッフと情報交換が十分行えていないことを痛感した。より充実したリハ医療を提供できるよう、各職種と連携を深め、業務を遂行していきたい。
  • コメディカルからのアンケート調査を通して
    行徳 尚子, 石橋 香, 佐伯 剛, 土屋 恵睦, 大穂 幸子
    p. 89
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回,訪問リハビリテーション(以下,訪問リハと略す)に関与しているコメディカルスタッフとの相互理解と連携をより一層深めるために,アンケート形式で訪問リハの必要性に対する意識調査を行い,その結果,以下の回答を得られたのでここに報告する.

    【対象・調査方法】
     当事業所に所属する看護師(以下,Nsと略す)11名,居宅介護支援専門員(以下,CMと略す)8名,ホームヘルパー(以下,ヘルパーと略す)12名,および訪問リハに関わる他事業所のCM10名に対してアンケート調査を行った.

    【結果】
    1.訪問リハを利用する目的
     全国訪問リハビリテーション研究会による訪問リハの定義に基づいて,7項目を挙げた.その結果,Nsはほぼ全項目,CM・ヘルパーの回答は動作訓練中心であった.
    2.どのような場合に訪問リハを必要だと考えるか
     Nsとヘルパーは『利用者の身体機能の低下を感じた場合』,CMは『通院・通所が困難な場合』,『日常生活活動(以下,ADLと略す)が低下している場合』であった.
    3.訪問リハに期待することは何か
     Nsは精神面および身体機能面など多彩な項目が挙がっていた.CMは『ADLの向上』,『専門的助言』,ヘルパーは『身体機能維持・改善』に最も期待を寄せていた.
    4.訪問リハは予想した事と一致しているか
     Ns・CMは共に、「一致している」が7割.ヘルパーは半数.未回答が3割.
    5.訪問リハを利用したことで目的は達成されたか
     NsとCMは「達成された」が約7割.ヘルパーは1割にも満たず「未回答」は6割.
    6.訪問リハスタッフとの連携はとれているか
     Nsは全員, CMは9割が「連携がとれている」との回答に対しヘルパーは約3割.
    【考察】
     今回のアンケート調査により,各専門職種による意識の相違が理解できた.
     Nsは,情報交換の機会が多いため,訪問リハに対しての理解度は深く,依頼内容も多種多様である.
     CMは訪問リハに対して,専門職としての助言を必要とし期待度を高めていることが感じられる.
     ヘルパーに関しては意見交換の場が極端に少ないことから,訪問リハに対して機能訓練のイメージが強く表れていることが伺える.
     訪問リハを実施していく上で他職種との意識の相違を生じさせないことが大切であり,訪問リハに求められていることは,具体的な役割を明確にし,実践を通じてそれを社会に明らかにしていく作業である.そのためにも,積極的な情報・意見交換・啓蒙活動を積み重ね,相互の理解度を深めていくことが,現在よりもより質の高い地域医療としての生活支援活動を定着させることに繋げていく近道であると考えている.

  • 当院の5年間の傾向をふまえて
    村中 香奈江, 江頭 正樹, 松林 百恵, 水田 美佳, 諸上 大資, 山岡 まこと, 山下 慎一, 坂口 重樹
    p. 90
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    H12年4月から介護保険制度が開始され5年が経ち、当院も訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)サービスを開始して5年が経過した。今回5年間の利用者の傾向と、訪問リハの導入時期による活動性に違いがあるのかを調査し、若干の考察を加え報告する。
    【対象・方法】
    H12年4月からH17年3月の5年間に訪問リハを終了した66名のうち、訪問看護より移行した7名を除く59名とした。内訳は男性24名、女性35名、平均年齢75.3±9.8歳、骨・関節疾患25名、脳血管疾患25名、内科疾患3名、神経筋疾患5名、その他1名である。対象を在宅生活中にADL能力低下をきたし訪問リハを導入した在宅群(28名)と、病院・施設等の退院と同時に訪問リハを導入した退院群(31名)の2群に分け調査を行った。その内容はカルテにより1)要介護度、2)訪問利用期間、3)痴呆性老人の日常生活自立度判定基準(以下、痴呆老人の自立度)、4)訪問リハ終了の理由、5)訪問リハ開始時と終了時の日常生活自立度判定基準(以下、寝たきり度)を調査した。さらに開始時と終了時の寝たきり度の変化を向上、維持、悪化に分別し2群間の比較を行い、その統計処理はカイ2乗検定にて行った。
    【結果・考察】
    今回の調査結果により、1)要介護度では在宅群は要介護3が29%、次いで要介護2、要介護1、要介護4の順であった。退院群は要介護2が39%、次いで要介護3、要介護4・要介護5の順であった。2)訪問利用期間は在宅群が8.5±8.5ヶ月、退院群が6.3±5.1ヶ月と退院群の方が期間は短かった。これは脳血管疾患や骨・関節疾患により入院前とは異なる生活スタイルを余儀なくされるため、退院後に訪問リハを導入し、その生活に適応できる身体機能を獲得するという目的があるからではないかと考える。3)痴呆老人の自立度は、両群ともに正常が最も多く、次いで在宅群は3レベルが多く、退院群は2レベルが多かった。4)訪問リハ終了の理由については、在宅群は入院による終了が多く、退院群は目標達成による終了が多かった。先にも述べたように、退院後に訪問リハを導入する目的には、新たな生活スタイルの獲得や家族への介助方法指導などがあり、目標がはっきりしているということが言えるのではないかと考える。5)寝たきり度の変化は2群間に有意な差はなかった。このことは退院後早期に訪問リハを導入しなくても、十分活動性の向上は図れるということが示唆された結果となった。また、両群ともに悪化が3名ずつということは、訪問リハの役割でもある廃用性の機能低下の防止が図られているのではないかと考える。石川は維持期リハにおいては、廃用症候群の発生頻度・ADL・要介護度・体力・QOL・障害受容と意欲などについての評価が重要としている。今後は、意欲や社会参加頻度なども含めた調査を行っていきたいと考える。
  • 理学療法士病診連携会議を開催して
    関原 康司, 仁田脇 宣男, 脇田 雄也, 三山 奈穂子, 井元 香, 宮川 幸大, 内田 奈々, 石原 靖之, 河島 英夫, 河波 恭弘
    p. 91
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     医療環境の変化によって機能分化が進んだ現在の医療体勢では、リハビリテーション(以下、リハ)は地域の医療機関が連携して展開されており、円滑なリハが実施されるためには密接な連携が重要である。当院は地域の基幹病院として急性期医療を担っており、病診連携会議や合同カンファレンスなどを定期的に開催し、地域の医療機関との連携向上に努めている。平成16年からは職種別での連携の充実を目的に、リハセンター主催による理学療法士病診連携会議(以下、会議)を開催している。今回、リハ部門として連携向上に対する取り組みを報告する。
    【会議概要】
     平成16年の第1回会議は「理学療法士における病診連携」をテーマに開催し、34施設48名の理学療法士が参加した。平成17年に開催した第2回会議では「脳梗塞リハにおける病診連携」をテーマに開催し、36施設67名(理学療法士61名、作業療法士4名、言語聴覚士2名)が参加した。会議の内容は講演とパネルディスカッションの2部構成とし、第1回では基調講演、第2回では学術講演とした。パネルディスカッションでは急性期・回復期・維持期の役割を担う医療機関の理学療法士をパネリストとし、それぞれの立場から病診連携の現状や問題、今後の課題について討議し、参加者との意見交換を行っている。
    【考察および今後の展望】
     会議運営にあたって、より多くの参加者を集うために学術講演を企画に盛り込んだ。また、パネルディスションでは急性期・回復期・維持期それぞれの理学療法士をパネリストに設定したことにより、多くの医療機関からの参加者を得ることができた。栗原は連携の基本として、互いを知り尊重すること、顔の見える関係であること、互いのニーズや問題点を理解し合うこと、目に見えた媒体として地域カンファレンスや交流会を持つことを挙げている。本会議は地域のリハスタッフが直接顔を合わせ、各施設でのリハの状況やニーズ、問題点等の情報を共有する機会となっている。これは各医療機関の相互理解を深め、リハ部門の連携の向上を図る上で有意義な活動と考える。
    今後、作業療法士や言語聴覚士など多職種での連携会議に発展させ、シームレスリハのサービス充実を図りたい。またリハ合同カンファレンスや連携施設との合同研究といった連携への発展を考えている。
  • 田中 智寛, 山田 隆治, 青山 和美, 吉村 尊子, 関本 朱美, 山下 永里
    p. 92
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    日本福祉用具・生活支援用具協会による2002年度の福祉用具産業市場動向調査において、福祉車両の供給率は1993年度と比較して9.53倍と急増しており、福祉車両に対するニーズの高さを示している。しかし、ニーズは高いが、実際に触れる機会の少ない福祉車両について、宇城地域リハビリテーション広域支援センター(以下、支援センター)において、福祉車両展示会を企画・実施したので以下に報告する。
    【目的・開催に向けて】
    この会は支援センターとして初の試みであり、(1)福祉車両に実際に触れ、知識と情報を得る場とする(2)各参加者間の情報交換・交流の場とする等、今後も継続的に行う事を視野に入れた目的設定をした。
    目的を踏まえ、出展車両は市販車とし、第6回西日本国際福祉機器展にて4社に依頼し、3社が展示可能となった。出展車両は、基本的に各社の出展可能な物を依頼し、後方スロープ1台、リフトアップシート3台、リフト仕様2台、両上肢操作仕様2台の計8台の展示となった。
    【開催当日】
    会は3時間行い、各企業より1台5分程度の車両の説明を行った後、自由に見学・質問の時間とした。
    参加者は計98名(内訳は入院・外来患者、当法人在宅系サービス利用者やその家族、他事業所、当法人職員)であった。当法人職員以外の参加者には、外出の回数・車両を取り扱う上での問題点・展示会についての感想等のアンケートを依頼した。
    【アンケート結果】
    アンケート回収は26名(男性6名・女性20名)。結果として、自動車の使用頻度は、「毎日」11名・「1・2回」8名と比較的外出を頻回に行われる方が多かった。車両の取り扱いで困る点は、「乗車や下車時」9名・「車椅子の乗せ降ろし」5名と運転自体より、乗降の際の問題が多く見られた。展示会の感想は「大変良かった」6名・「良かった」13名・「普通」5名だった。
    【考察及びまとめ】
    会全体を通して、参加者の福祉車両への興味が非常に高い事が伺われた。高齢・障害者や介助者にとって外出は、日常生活の中で直面している問題の一つである。しかし、当地域は郡部であり公共の交通も不便なため、外出における選択肢も少ない。そのため、外出する際の問題は直接的に介助者へ掛かり、生活範囲の狭小化につながる。地域住民の生活の幅を広げるために、会を定期的に開催し、情報の提供・共有や問題の共有をしていく必要性があると思われる。
    車両そのものについては、企業により車種に偏りがあり、参加者の関心にばらつきが見られた。また、車両の特性が介助者へ着目したタイプが多く、自操車タイプを目的に来場した方より物足りないという意見も聞かれ、今後の課題としたい。
    今回の展示会を開催して、福祉車両へのニーズの高さ・外出に対する意識の高さを再認識した。今後も支援センターとして、地域住民のニーズを反映させながら、発展的な生活支援の場にしていければと考える。
  • 辛嶋 良介, 木藤 伸宏, 島澤 真一, 菅川 祥枝
    p. 93
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】右変形性膝関節症(以下,右膝OA)の診断を受け、関節鏡による右膝内側半月板切除術を行った症例に対し、当初は右膝関節の機能改善を目的に理学療法を実施した。しかし、歩行時右立脚期に右膝関節外側部の違和感が持続した。そこで骨盤・腰椎の安定性獲得に着目した理学療法を実施した。本症例に対し理学療法を行う上での臨床的指標及びその実際について報告する。
    【症例紹介】年齢:63歳 性別:女性 身長:153cm 体重:50kg BMI:32.7 診断名:右膝OA、右膝内側半月板損傷 Kellgren-Lawrence分類:GradeII
    【理学療法評価】主訴:歩行時右膝関節外側部の違和感、 関節可動域検査:股関節屈曲(右/左)100°/105°伸展5°/10°膝関節屈曲145°/150°伸展-5°/0°徒手筋力検査(右/左):腸腰筋・大殿筋3/3 中殿筋3/4 大腿筋膜張筋4/4 前額面の立位姿勢:上半身重心は左側偏位、右上前腸骨棘・左肩挙上、骨盤右回旋、上部体幹左回旋、両大腿、下腿は外旋位を呈していた。右腸脛靱帯の緊張が高い状態であった。前額面の右片脚立位姿勢:右骨盤後傾・右回旋、上部体幹左回旋していた。右大腿骨・脛骨アライメントは内反位を呈していた。右腸脛靱帯の緊張が高く、上半身重心は右側へ移動できなかった。
    【臨床指標】右片脚立位姿勢を臨床指標として、骨盤・腰椎の安定性獲得を図り、右股関節外転・膝関節内反のモーメントを軽減する事を目的に理学療法を実施した。
    【理学療法アプローチ】1)腸腰筋・中殿筋筋機能改善運動、2)骨盤の中間位保持運動、3)重心側方移動運動を主として治療内容を組み立てた。
    【結果及び考察】本症例の右片脚立位姿勢は右骨盤が後傾、骨盤・腰椎の安定性が低下、そのため上半身重心の右側への移動が困難となっていたと推察した。この姿勢では右股関節外転・右膝関節内反モーメントが増大していると考えられた。また中殿筋による骨盤傾斜の制御は困難となり、右腸脛靱帯を伸張させた状態で骨盤傾斜を制御していると考えられた。このため右腸脛靱帯が常に過緊張状態となり、違和感が出現していると推察した。そこで右片脚立位姿勢の改善を図るため、理学療法を実施した。その結果、骨盤の中間位保持が可能となり、体幹・骨盤の回旋も消失した。この状態は骨盤・腰椎の安定性が改善したと推察できる。また骨盤・腰椎の安定性の向上により、上半身重心が右支持面上への移動が可能になった。さらに殿筋群と腸腰筋による片脚立位時の骨盤アライメントの制御が改善したことで、右股関節外転・膝関節内反モーメントが軽減し、違和感が消失したと推察した。
    【まとめ】右片脚立位姿勢を臨床指標とし、姿勢、動作方略改善を図るための理学療法を実施した。その結果、姿勢、動作方略の改善が得られ、症状が消失した。
  • 今屋 将美, 三宮 克彦, 石井 孝子, 中根 惟武
    p. 94
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】今回、膝伸展機構の損傷の中でもまれである膝蓋腱断裂と前十字靭帯(以下、ACL)断裂に同側リスフラン関節脱臼骨折、対側足関節脱臼骨折を伴った症例を経験したので報告する。
    【症例紹介】21歳男性、早朝飲酒後帰宅した際自宅階段で転落し受傷。救急車にて当院救急外来受診後入院となる。レントゲン、MRIにて、右膝蓋腱断裂およびACL断裂、右リスフラン関節脱臼骨折、左足関節脱臼骨折が確認され観血的治療施行する。右膝関節はワイヤーにて大腿四頭筋腱と脛骨粗面を引き寄せ締結し、膝蓋腱および関節包を可及的に縫合した。右リスフラン関節は脱臼整復し内側楔状骨、舟状骨をスクリューにて固定した。左足関節は腓骨をプレートにて、脛腓間をスクリューにて固定した。右大腿部から足部まで、左下腿部から足部までをシーネにて固定した。
    【術後理学療法と経過】理学療法は術後3日より開始した。術後2週でACL用膝装具に変更し関節可動域運動を開始し、そのときの膝関節屈曲角度は50度であった。術後4週より右膝関節の積極的な筋力トレーニングが許可された。膝蓋骨下方に大腿四頭筋収縮時の疼痛があり、膝伸展運動やSLRは困難であった。術後5週で右足部スクリューおよび左脛腓間スクリューが抜去され両下肢全荷重を開始した。右下肢は大腿四頭筋の筋収縮はごくわずかであったが、膝伸展位では疼痛なく全荷重可能であった。術後6週では右膝関節屈曲角度110度、松葉杖歩行および右SLRが可能となった。その後、徐々に改善し、術後9週で右膝関節伸展筋力MMT3-レベルではあるが、右膝関節屈曲125度、独歩、右下肢免荷による階段昇降が可能となり退院となった。
    【考察】本症例の術後理学療法を行うにあたり、可動域運動では締結したワイヤーの断裂を起こさないよう愛護的に行い、膝蓋骨のモビライゼーションもワイヤーにより下方へ引き下げられていることを考慮しつつ注意深く行った。文献的に膝蓋腱断裂の術後療法は荷重制限を与えることは少ないとされている。本症例の場合、同側足部、対側足関節部の脱臼骨折を合併していた為、術後5週間の荷重制限を余儀なくされ、その間の筋力低下を最小限に抑えることが課題となった。しかし、疼痛が阻害因子となったため、膝蓋腱部へ超音波を使用し、筋収縮を促通する目的で中周波を使用するなど物理療法を積極的に用いた。最終的には独歩可能となったが、今後の課題として大腿四頭筋筋力低下やACL断裂による立脚中期の膝の不安定性や同側足部、対側足関節部の急な痛みなどにより起こる膝折れには十分な注意が必要だと考えられ、退院後の経過もフォローしていく必要がある。
  • 重心側方移動を視点として
    城内 若菜, 木藤 伸宏, 吉用 聖加, 永芳 郁文, 川嶌 眞人
    p. 95
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】全人工膝関節置換術(以下TKA)は、疼痛軽減には有効な治療であるが、姿勢・動作の改善に関する報告は少ない。理学療法としても、手術側の膝関節可動域の改善に焦点が向けられることが多い。日々の臨床の中でTKA施行後、対側膝関節の変形が進行し、対側膝関節に対してもTKA施行となる症例が少なくないと感じでいる。今回、右変形性膝関節症にてTKA適応になり、左膝関節にも内側痛の訴えがあった症例を経験した。術前の姿勢・動作を継続することで、左膝関節に対しての力学的負担は持続し、変形の進行が予測される。そこで、姿勢・動作の変化にて、反対側の疼痛軽減・変形の予防が図れるのではないかと推察し、治療を行った。その結果、片脚立位における重心側方移動に改善が見られ、左側膝関節の疼痛減少が得られた為、ここに報告する。
    【症例紹介】70歳女性、身長142cm、体重47Kg、BMI23.4。X-P所見:Kellgren-Lawrenceの分類にて右膝関節はgrade3、左膝関節はgrade1。
    【術前評価】左膝関節内側にvisual analogue scale(以下VAS) 6/10が常に生じていた。立位姿勢は、右膝関節が20°屈曲・内反、骨盤は後傾・前方偏位し、右側屈・左回旋していた。体幹も左回旋し、上半身重心は左に偏位していた。荷重は左64%:右36%の比率であった。左右の片脚立位で共通して、体幹・骨盤の右回旋が生じていた。それに伴い、右片脚立位では、股関節外旋に対し、下腿内旋・足関節回内が生じていた。左片脚立位では、股関節内旋に対し、下腿外旋・足関節回外が生じていた。体幹・骨盤右回旋による回旋応力を膝関節で修正する運動連鎖が見られた。徒手筋力検査法(以下MMT)では、身体正中位保持に必要とされる左広背筋・右大殿筋に筋力低下が見られた。また、片脚立位時に体幹・骨盤を一塊に傾け、骨盤側方運動は十分に行えていなかった。
    【理学療法アプローチ】(1)両側膝関節周囲筋収縮能の獲得(2)両側膝関節可動域獲得(3)広背筋・大殿筋の筋収縮学習(4)骨盤前後傾中間位保持、身体正中化による広背筋・大殿筋の働きやすい静的姿勢の獲得(5)坐位での骨盤側方運動の獲得(6)立位での骨盤側方移動の獲得。上記を臨床指標とした治療を段階づけて行った。
    【結果及びまとめ】術後2ヶ月の時点で、再評価を行った。左膝関節内側痛はVAS 3/10に軽減した。立位姿勢は、右膝関節が5°屈曲位となり、骨盤前後傾中間位保持、上半身重心の正中化が得られた。左右の片脚立位において、骨盤・体幹の右回旋に改善が得られ、体幹正中位保持が可能となった。しかし、左片脚立位では体幹の正中に対し、骨盤右回旋が生じており、腰椎部への回旋応力が新たに生じていた。MMTでは広背筋機能の左右差は改善したが、大殿筋は右側に低下が見られた。本症例に対する理学療法を進める上でのPTの視点・治療方法の妥当性について、考察を加え報告する。
  • 山下 真知子, 松本 泉, 木庭 啓喜
    p. 96
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院では内側型変形性膝関節症に対し最小侵襲手術(Mimimal Invasive Surgery:以下MIS)にて人工膝単顆関節置換術(Unicompartmental Knee Arthroplasty:以下UKA)(以下:MIS-UKA)を実施している。術後リハはクリティカルパス(以下:パス)を導入し自立歩行獲得を目標に行っている。そこで今回、その短期成績を検討したので報告する。
    【対象】
    対象はH14年7月からH16年9月に当院整形外科にて、MIS-UKAを行いパスを使用した症例でカルテにて追跡調査可能であった22例25膝である。手術時年齢は54から87歳(平均年齢63.5歳)であった。
    【方法】
    入院時カルテより以下の項目を調査した。1.術前・退院時の膝関節可動域の比較、2.T-cane歩行開始日、3.術前・退院時の日本整形外科学会による膝OA治療判定基準(以下:JOAスコア)の比較、4.退院時独歩またはT-cane歩行自立率
    【結果】
    1.術前・退院時の膝関節可動域の比較
    屈曲:130.4±13.8P=0.64伸展:(術前) -10.04±6.2°(術後)-3.4±4.77°P<0.01
    2.T-cane歩行開始日:(a)両側例:両側術後平均15.5±0.7日(b)片側例:平均13日±4.96日3.JOAスコアの比較
    (術前)60.8±17.2 (退院時)82.4±15.7 P=0.0014.退院時独歩またはT-cane歩行自立例:96%
    【考察】
    今回の調査では、退院時の膝関節伸展可動域は術前より改善し、屈曲可動域については、術前の可動域を確保しており術後の可動域の損失は少なかった。
    最小手術侵襲は、術後の疼痛、筋性防御、組織の修復過程における腫脹や水腫を最小限に抑える事が可能であり、術後より積極的なリハビリテーションが可能である。その結果T-cane歩行開始は、当院TKAでは術後21日を目標にしているが、MIS-UKAにおいては全身状態に影響されるバリアンス例はあるものの術後平均13日で安定した状態にてT-cane歩行可能である結果を得た。
    退院時JOAスコアにおいては約20点の向上がみられ、可動域の改善は術前と同程度ながらもほぼ全例において独歩またはT-caneでの自立歩行を獲得し生活範囲は拡大している事が示唆された。
  • 元尾 篤, 安田 和弘
    p. 97
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
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    【緒言】
    膝関節は骨盤帯と足部の中間に位置するためにそれらの影響を直接的に受けやすい。また、体幹はその質量分布から、そのわずかな偏位が下肢の力学的ストレスを増大させると考えられている。近年では下肢関節疾患に対する理学療法において、全身の運動連鎖を考慮した運動療法が諸家により報告されてきている。
    今回、運動連鎖という観点から障害部位と他部位(特に体幹・骨盤帯・股関節)との関連も考慮して、変形性膝関節症の症例に対する評価・治療プログラム立案およびその治療効果を考察したので報告する。
    【症例供覧】
    70歳・女性、身体特性は身長148cm・体重63kg・BMI 28.7であった。診断名は両変形性膝関節症であり、X-P所見では両側の内側関節裂隙の消失を認めた。現病歴として約20年前から両膝関節の歩行時痛(右側・左側の順に出現した)を認めた。現在は左膝関節の歩行時痛と腰痛を認めている。
    機能障害は膝関節・体幹・股関節の可動域制限、膝関節・股関節周囲筋群および体幹筋群の筋力低下および機能不全など全身的に認めた。姿勢観察では両膝関節内反変形に加えて、過度な骨盤前傾と腰椎前弯・股関節内旋・下腿外旋などの身体アライメントを認めた。
    歩行(独歩)では両立脚期でのドゥシャンヌ徴候陽性と左膝関節のlateral thrustなどが観察された。片脚立位動作は両側で保持が不可能であり、立脚側への体幹側屈と立脚側骨盤下制が観察され、左側でより顕著に認めた。坐位での側方リーチ動作は両側ともに不十分であった。諸動作において、足部には特徴的な運動は特に認めなかった。
    【臨床推論およびプログラム立案】
    問題点を膝関節自体の機能障害に加えて、体幹・骨盤帯・股関節などの機能障害および機能不全から連鎖する動作障害と捉えた。特に歩行時の体幹偏位量の増大による下肢への力学的ストレスの増大が膝関節痛出現の一要因であると考えた。
    本症例において下肢への力学的ストレスを軽減する効果は体幹偏位量軽減にあると推論し、運動療法は体幹・股関節に対するものを主とし、併せて膝関節の機能改善を目的とするものを実施した。
    【結果と考察】
    歩行時のドゥシャンヌ徴候の軽減・左膝関節のlateral thrustの減少・歩行時痛の消失・歩行速度向上の変化が得られた。
    上記の結果は下部体幹・骨盤帯・股関節の安定化による体幹の左右方向偏位量の軽減が膝関節への力学的ストレスを軽減させたこと、膝関節に対する運動療法によって膝関節安定性が向上したことが理由と考えられた。今回の結果から下肢関節疾患を評価・治療するに当たり、当該関節のみにとどまらず、全身的に機能障害や能力低下を捉える必要性が確認された。
  • 杉安 直樹, 山下 導人
    p. 98
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】高齢者の転倒の発生率は概ね20%であり、椎体骨折後5年の死亡率は20%、70歳を越えるとその死亡率はさらに増加すると言われている。転倒を引き起こす身体的要因として筋力低下、バランス能力低下、脊柱後弯など多くの要因があるが、その中で脊柱後弯は骨盤、股関節、膝関節のアライメント等に影響し転倒への関連性が高い。今回脊柱変形に影響を及ぼす因子と、転倒に関与すると考えられる因子の関係について調査したので報告する。
    【対象】調査実施期間’04年6から8月、当院通所リハ利用者20名、すべて女性。平均年齢82.4歳、平均身長140.7cm。円背傾向のあるもの10名(円背群)、ないもの10名(対象群)を抽出。
    【方法】耳孔から床への垂線と外果までの距離(dとする)、立位での膝関節屈曲角、Distance from occiput to wall(以下DOW)を測定、転倒回数を聴取、X-P上での円背指標として円背の高さ、強さを計測し、各々の相関を求めた。円背群と対象群について、股関節、膝関節伸筋群の筋力測定をmicro FET2を用い実施し、比較検討した。DOWとは座位での後頭部と壁との距離、円背指標とはX-P上で1)第7頸椎の中心2)第1仙椎上縁の中点3)頂椎の中心の3点を決定。3)より直線1)2)に下ろした垂線(hとする)と1)2)間の距離との交点と、1)との距離を1)2)間の距離で除したものを円背の高さとした。直線1)3)とhのなす角と、直線2)3)とhのなす角の和を円背の強さとした。統計学的検定は危険率5%未満を有意水準とした。
    【結果】転倒回数とd、DOW、円背の強さ、また円背の高さと立位膝屈曲角は有意に相関した(r=0.68から0.87)。円背群と対象群の筋力は大殿筋、ハムストリングス、大腿四頭筋で円背群の方が有意に低下していた。
    【考察】一般に高齢女性に円背が多いといわれており、高度の円背に最も関与しているのは骨粗鬆性脊椎圧迫骨折である。林らは、円背の強い症例ほど膝関節の拘縮が強く、円背の頂点が低いことを示唆しており、Hasday、Lordらは腰椎前弯の消失は、脊柱後弯、荷重線の前方移動を引き起こし体幹バランスが不安定になると述べている。今回の調査で円背の高さが低いと立位膝屈曲角は増大し、円背により荷重線は前方へ偏位し転倒回数は増大する傾向が示された。さらに筋力は円背群が対象群と比較し有意に低下していた。この事から、円背の進行により膝関節は屈曲傾向となり荷重線が前方へ偏位することで、重心復位能力すなわち下肢、骨盤帯筋力の低下している高齢者では転倒傾向が増すと考えられた。また、DOWが大きいと円背は高度となり転倒傾向が増すことが示唆され、DOWはX-Pを必要としない簡便な転倒傾向の予測因子として有用であると考えられる。
  • 白濱 知子, 根地嶋 誠, 横山 茂樹, 有川 康弘, 中村 光宏, 河野 義広, 早野 栄祐
    p. 99
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    大腿四頭筋の筋力増強訓練は、一般的に膝関節疾患でよく行われる。中でも内側広筋(以下VM)を重要視した方法が多く紹介されている。
    今回、抵抗位置の違いが大腿四頭筋の筋活動に与える影響について検証したので報告する。

    【対象と方法】
    対象は、健常男性7名(平均年齢24.9±2.8歳)とした。測定は、CYBEX340での股関節80度屈曲位、膝関節90度屈曲位の端坐位とし、足関節中間位、両上肢はハンドグリップを握り、体幹はベルトで固定した。測定条件は、1)下腿の近位と遠位2つのパッドからなるdual shin padを用いた条件(以下近位抵抗)、2)下腿遠位のみのパッドを用いた条件(以下遠位抵抗)とし、各条件にて膝伸展最大等尺性収縮(以下MVC)および60%MVCを3秒間3回測定した。なお、1)、2)の測定順序は無作為に行い、疲労を考慮して、各測定間に3分間の休息を入れた。
    表面筋電計は、日本電気三栄社製マルチテレメータ511を使用した。電極を右側のVM、外側広筋(以下VL)、大腿直筋(以下RF)の筋腹中央に電極中心間距離20mmで貼付し、表面筋電波形を導出した。解析方法は、キッセイコムテック社製BIMUTAS2を用い、得られた波形から中央の2秒間の積分値を算出し、3回の平均値を求めた。さらに、膝伸展位でのQuadriceps Settingの筋活動を測定、その平均積分値を100%とし、各条件を%IEMGとして正規化した。また、各筋のMVCに対する60%MVCの割合を算出した(以下60%MVC/MVC比)。
    統計学的処理は、各筋にてMVCと60%MVCおよび60%MVC/MVCに関して、近位抵抗と遠位抵抗を比較するために、Wilcoxonの符号付順位検定を用いた。尚、有意水準は5%未満とした。

    【結果および考察】
    %IEMGは、各筋においてMVCおよび60%MVCともに近位、遠位抵抗の間に差は認められなかった。MVCに対する60%の割合(60%MVC/MVC比)は、VM、RFで有意差が認められた(p=.05) 
     近位と遠位では筋活動量自体に差はなかったものの、60%MVC/MVC比ではVMとRFにて近位抵抗が遠位抵抗よりも有意に高かった。言い換えれば、近位抵抗での膝伸展最大等尺性収縮における60%の筋活動の割合がVM、RFでは大きかった。つまり、抵抗量を減じても近位抵抗では、より多くの筋活動量が得られていた。このことから、膝90度屈曲位の等尺性膝伸展運動時において、近位抵抗はVMの筋活動量を相対的に高める可能性があると推察された。
  • 河野 義広, 横山 茂樹, 松坂 誠應, 有川 康弘
    p. 100
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/08/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】足関節の固有感覚は足関節内反捻挫後遺症として機能的不安定性を引き起こす要因にも挙げられている。また足関節固有感覚は年齢とともに低下することも報告されており、転倒の危険因子となりうる。このことから足関節位置覚の測定にあたって、その特性を把握しておくことは重要である。今回、我々は筋収縮の影響を把握することを目的に、足関節位置覚の他動的検査 (以下、他動)と自動的検査(以下、自動)の相違を比較検討したので報告する。
    【方法】対象は、FIの訴えがない健常成人10名の左右20足とした。年齢は21から26歳、平均年齢は23.3±2.0歳、男性6名、女性4名で、身長は165.4±8.1cm、体重は57.8±6.5Kgであった。測定には足関節底屈角度の設定可能な測定器を使用し、端坐位による再現性テストにて測定した。設定角度は、外-内がえし中間位にて、底屈5度から30度において5度ごと6肢位とした。測定手順として測定器の足底台に足を置き、無作為に設定角度まで他動的に動かして10秒間保持した。そして足底台を背底屈0度に戻し、被検者が設定角度と一致したと感じる角度まで、他動および自動的に動かした。この時の足底台の角度について傾斜角度計を用いて計測した。得られた角度から設定角度を引いた値を実測誤差、実測誤差の絶対値を絶対誤差とした。統計学的処理として、実測誤差および絶対誤差について2元配置分散分析および多重比較検定を行った。尚、有意水準が5%以下で有意とした。
    【結果】実測誤差において、他動と自動では交互作用は認められなかったが、底屈位になるほど負の値を示しており、小さく見積もる傾向にあった。また他動では底屈5度と25から30度の間が有意に低下していたが、自動では有意が認められなかった。一方、絶対誤差では他動および自動において有意差は認められなかった。
    【考察】今回の結果から、他動が自動よりも足関節底屈位になるほど実測誤差は低値を示しており、小さく見積もっていた。Robbinsらも、健常者において他動では足関節底屈位になるほど小さく見積もられると報告しており、我々の結果を支持していた。このように他動によって小さく見積もられた要因として、対象が健常者であることから、筋や腱からの固有感覚による求心性情報量の影響が挙げられる。Al-Falaheや西野によると、筋紡錘の特性として筋を他動的に弛緩するとIa線維(一次終末)の発火頻度は減少し、自動的に収縮するとγ-α連関によって錘内筋線維も収縮するため発火頻度は変化しないと言われている。またHuntは腱紡錘が筋線維と直列に存在するため他動的な弛緩によってインパルス発射は減少することを報告している。つまり他動では下腿三頭筋が弛緩することによって筋紡錘や腱紡錘からの情報量低下をもたらし小さく見積もられたと推察される。
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