4, 4’- ジグリシジルオキシジフェニルエーテル(DGDE)の硬化剤として,4, 4’- ジヒドロキシビフェニル(DHBP)と4, 4’- ジアミノスルホン(DDS)の混合物を用いることで,三次元架橋された結晶性の硬化物を得た。硬化剤中のDDS の割合が増えるとともに耐熱性が向上し,DDS を50 wt%とすることでDMA 測定におけるTg が169.0 ℃,Tm が279.7 ℃となった。また結晶性の発現により,熱膨張率の低減と熱伝導率の向上が確認された。
架橋後のフェノール樹脂の構造-物性相関を解明するため,全原子分子動力学シミュレーションを用いた分析を検討した。架橋フェノール樹脂は現実の化学反応を模した疑似架橋反応により構築し,化学構造,分子量,構造因子関数を比較することで得られた構造の妥当性を確認した。得られた架橋樹脂について一軸伸長変形を施し,小ひずみ領域における弾性特性発現メカニズムの解析,大変形領域におけるネットワーク破壊挙動の解析を行った。また,フェノール樹脂中に侵入したメタノール分子のダイナミクス分析を行い,中性子準弾性散乱法より推定されるメタノールの拡散係数および拡散モードの比較検討を行った。
ポリマー材料の力学特性向上を目的として,可逆架橋の導入が盛んに検討されている。可逆架橋を有効に活用するためには,その分子構造だけでなく,ポリマー鎖中の配置制御も重要である。本研究では,水素結合性ジオールの数密度がポリマー鎖に沿って徐々に増加するグラジエント共重合体に対し,末端にジオールが密なブロックを導入することで,グラジエント共重合体の特徴を保持しつつ,力学特性のさらなる向上を目指した。合成されたブロック-グラジエント共重合体は硬質相と軟質相からなる多相構造を形成し,ポリマー鎖両末端に密に含まれるジオールが硬質相に参加することで,半永久的な架橋点として作用した。その結果,室温でゴム状態を発現するとともに,強固なネットワーク構造の存在によって高い靭性と疲労回復性が見られた。短いブロック構造の導入のみにより,力学特性を大幅に改善できることを見出した。
前報21)に続いて,本稿ではイミダゾリウム塩系イオン液体に関する論文を,エポキシ樹脂の硬化機構,および多機能特性を持つエポキシ樹脂硬化剤という観点からレビューした。最も広く受け入れられている硬化機構は,イミダゾリウム塩の脱アルキル化後に生成されるイミダゾール誘導体によるエポキシ樹脂のアニオン重合反応に基づいていて,脱アルキル化の程度は主にアニオン種の性質に依存している。この脱アルキル化に加えて,Nヘテロ環状カルベンの形成がエポキシ樹脂硬化プロセスに関与しているという提案もなされている。イミダゾリウム塩系イオン液体は,強く凝集したCNT の効果的な分散剤にもなり,このイオン液体によって十分に分散された単層CNT は,エポキシ樹脂/CNT 複合材料の導電性パーコレーション閾値を劇的に低下させることが報告されている。地球温暖化防止の一環として,CO2 回収のために検討されているアミン末端イミダゾリウム塩系イオン液体は,エポキシ樹脂の硬化やCNT 表面処理に適用できる可能性がある。
近年,種々の電子デバイスにおいてモジュール製品の小型化,高集積化,高性能化が著しく進展している。それに伴い内部で発生する熱量は増加の一途をたどっており、それらに用いられる部材には高放熱化が求められている。本稿では熱伝導フィラーの1種であるアルミナに着目して形状制御した特殊形状多面体アルミナの開発とそれを用いた高熱伝導シートへの応用について報告する。AlN,BN は高熱伝導フィラーとして積極的に検討されているが,化学的安定性や高充填性に課題があり,また市場が拡大されつつある10 W/mK クラスのシートへの使用はコストな面でも課題となっている。そこでアルミナの高性能化を検討し,特殊形状多面体アルミナを開発した。開発した多面体アルミナを用いてシートへの応用を検討し,放熱シートに要求される一般的な特性を達成した。また熱伝導率は従来の球状アルミナ使用のシートに比べ高くなり10 W/mK を達成した。このことからコストダウンの観点で工業的課題に貢献できることが期待できる。
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