日本橋学館大学紀要
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13 巻
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 阿部 雄一
    原稿種別: 本文
    2014 年 13 巻 p. 3-12
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー
    フランツ・グリルパルツァーの遺作には、『リブッサ』のほかに『ハプスブルク家の兄弟争い』と『トレドのユダヤ女』があり、それらには宗教と信仰、権利=正義(レヒト)、19 世紀のオーストリア社会という共通テーマがある。だが、各作品によって核心が異なる。『ハプスブルク家の兄弟争い』は国家形態と19 世紀におけるオーストリアの生き延びる道を熟慮する歴史劇である。『トレドのユダヤ女』では個人の内面が探求され、自己実現への努力とその挫折が表現される。『リブッサ』の核心は人間とその世界の概略を描くことだが、どのように作品化されているのか、その戦略を探究し、それによって作者の思想を理解することが本稿の目的である。、19 世紀のオーストリア社会という共通テーマがある。だが、各作品によって核心が異なる。『ハプスブルク家の兄弟争い』は国家形態と19 世紀におけるオーストリアの生き延びる道を熟慮する歴史劇である。『トレドのユダヤ女』では個人の内面が探求され、自己実現への努力とその挫折が表現される。『リブッサ』の核心は人間とその世界の概略を描くことだが、どのように作品化されているのか、その戦略を探究し、それによって作者の思想を理解することが本稿の目的である。グリルパルツァーは創世神話のリブッサ伝説を換骨奪胎する。第一幕でリブッサはプリーミスラウスと出会い、天上から境界を越え、人間の世界に入り込む。中間の第二・三・四幕で、人間社会の根本問題であるジェンダーを考察することを通して、母権制から父権制への移行が歴史の始まりであることを作者は示す。移行の契機となったのは、人々がおのれの「権利=正義」(レヒト)を主張するようになり、女性支配の原理「幼子のような信頼」が保てなくなったことである。このような状況の下で、男性が実質的権力を握る有史時代に入るのである。その始まりとして、プリーミスラウスはプラハを建設しようとし、リブッサが祝福を与えることになる。だが本来の霊力を取り戻すことによって、彼女は祝福を与えるのではなく、人間界にこれから連綿と続く悪夢の歴史を予言してしまう。その予言は19 世紀から見れば過去の歴史である。その起点がカール五世の時代であるのは、グリルパルツァーにとって最も重大な歴史の転換点が宗教改革だからである。ルターの闘争によってキリスト教は人々の畏怖すべき慣習とならず、人々から畏怖の念が失われていった。畏怖の念が弱まるにつれ、人は上昇志向に冒され、人間としての幸福をやむことなく追求する。それが人間の運命である。そして、畏怖の念が失われてゆく過程がグリルパルツァーにとっての人間の歴史なのである。最後に人間が「謙虚」を神とし、リブッサの時代に回帰する希望が語られる。それが実現可能か考えるのではなく、信じることが必要だと、作者はさしあたり予言者の口を借りて語っていると思われる。このようにしてグリルパルツァーはリブッサ伝説を、人類の過去を振り返ることによって未来を予測し、先行き暗い人類がいつか最後に到達すべき行く先を示す黙示録に仕立て上げたのである。
  • 宮入 小夜子
    原稿種別: 本文
    2014 年 13 巻 p. 13-35
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー
    本稿は、就任1 年未満の首長を対象に2010年に行った「行政組織の変革に関する調査」と2012年にその後の追調査を実施した柏市の結果を比較し、どのような要因が首長がマニフェストに掲げたビジョンを実現するための行政組織および職員意識の変革に影響を与えるのかについて検討した。その結果、新たに就任した首長が、1年目はビジョンを繰り返し語り、課題を提示することは、個人レベルのビジョン理解・実現行動に影響を与えるが、職場ごとの共感・理解や首長ビジョンの実現に向かう意識や行動に影響を与えるのは、管理職のマネジメント行動が鍵となることが示唆された。また、事業仕分けの対象となった部署の方が首長ビジョンへの共感が低く、自発的な職員意識や行動の改革にはつながりにくいことがうかがえた。行政組織においては、首長ビジョンの実現においても、組織の職制を通し、総合計画等のしくみとの連動により達成されていくものであることが考えられ、管理職層に対する首長のリーダーシップが重要であることが示唆された。
  • 佐々木 由利子
    原稿種別: 本文
    2014 年 13 巻 p. 37-46
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー
    2012年の当大学人間心理学科の初年次教育としての夏期集中グループ体験学習のプログラムのうち筆者の担当した部分について受講生の記入した振り返り用紙によりそれが学生にとってどのようなものであったのか事後検討された。プログラムは前半の1年生と2年生の二人組の対話による交流と後半の創造力グループワークの部分から構成される。受講生は学年別に大きな二重の円になって対面して着席し、3つの回ごとに右に移動して別の学生と組になった。1年生に与えられた話題は「(1)入学後4か月、今感じていること」「(2)大学近くのあるいは遠くの穴場」「(3)今挑戦していること」、2年生には「(1)この大学・心理について教えてあげたいこと」「(2)一年と同じ」「(3)今はまっていること」であった。 後半のセッションは創造力グループワークと銘打ち、メンバーの課題はカラフルな筒型の1オクターブの音階が出せる子供用遊具の使い方を自由に考え話し合うことである。9グループの受講生がポスターに彼らの出したアイディアを描いた。その後メンバーはグループの全員に対して「○○さんは〜してくれた。〜するともっとよい」というメッセージを書いたステッカーカードを交換した。 受講生がセッション後記入した振り返り用紙の質的分析を行った。その結果から分かったのは、前半部分では対話相手から話に対する関心、興味、励ましを示すフィードバックをもらったこと、後半部分のポスターを見てみると描かれたアイディア群は優れていて印象的であったが、他学生からの肯定的なフィードバックに接し多くの受講生が積極的な発言を良いと思ったことか分かった。またプログラム全体への振り返りからは受講生がセッションを楽しめたこと、何人かの上級生はプログラムの進行を助ける積極的な行動を取ったことが分かり、また自分についての理解を深めるメッセージを受け取ったことを喜んでいた。しかしプログラムの進行や目的の不明確さに対する批判もあった。ファシリテーターも進行中受講生の意見を取り入れたことが結果としてプログラムの改善につながったこともあった。
  • 杉木 恒彦
    原稿種別: 本文
    2014 年 13 巻 p. 47-69
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー
    アッサムの女神カーマーキャーは、毎年雨季の頃、生理になると信じられている。この女神の生理の開始と終了に合わせて行われるアンヴァーチー祭は、インドにおけるタントラの伝統の主要な大祭である。2013年のアンブヴァーチー祭は、6月22日から6月26日にかけて開催された。祭りそのものは公式には26日で終わりだが、翌日27日まで祭りの内容の一部は続いていた。南アジア地域におけるタントラの思想・文化研究の一環として、筆者は2013年6月22日から6月27日までアンブヴァーチー祭の第1回現地調査を行った。主たる調査方法は、参与観察(祭りに参加した人々への聞き取りを含む)である。その後、同年9月4日から9月8日まで再び現地を訪れ、祭りの期間に調べることのできなかった要素の補足的な調査を行った。本稿は、自身の今後の調査の礎とすることと、日本ではほとんど知られていないこの大祭の内実を紹介することを目的として、途中経過的ではあるが、調査の際に作成したフィールドノーツのいくつかをまとめ、調査報告とするものである。
  • 鳥越 淳一
    原稿種別: 本文
    2014 年 13 巻 p. 71-80
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー
    本稿は精神力動的心理療法、特に精神分析におけるセラピストの質問介入の機能について考察することを目的としている。考察にあたり、クライエントとの情緒的コミュニケーションを促進する質問介入の例として対象指向質問(Spotnitz 1969)と不飽和質問(Busch 2010)を取り上げた。これらの質問は、話者の意図を明確化するタイプの質問介入とは異なり、セラピーやセラピストに対するクライエントの情緒的抵抗を解決するために企図されているところに大きな特徴があり、クライエントの自由連想を促進するのに有効と考えられる。しかし両者は主に米国で実践されてきたアプローチであるため、日本で使用するためには、文化・言語的差異を踏まえ、日本語臨床に適した形に修正する必要性がある。この差異の考察に関して、本稿では対象指向質問における主体性の取り扱い方に焦点を当てる。それは英語圏では対象指向質問を使う際、主語の"you"を省略することでクライエントの脆弱な自己を守るように配慮されているが、日本語ではこの"you"に相当する主語は通常省略されてしまうためである。筆者は、英語がコミュニケーションの主体である公的自己を重視する言語であるのに対し、日本語は意識の主体である私的自己をより重視する言語であるという仮説に基づき、日本ではクライエントの発言の自由(私的自己の側面)を強く保障することで、クライエントの有する脆弱性を保護できるのではないかという考えを提起する。また、この例として「あなたの仮説はなんですか?」という質問介入を取り上げ、日本の臨床でクライエントが自由連想を安全に行うためには、個人の思考や感情の不可侵性(私的自己の不可侵性)を保証することが重要であるという可能性を論じる。
  • 佐々木 さよ
    原稿種別: 本文
    2014 年 13 巻 p. 108-96
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー
    津島佑子の「三ツ目」は、人間関係が作る心理的距離と身体的空間的距離という観点から読むことができる。それによって明らかにできるのは、親密な空間と距離で結ばれた人間関係の中に潜む恐怖である。「みる」という言葉がもつ多義性を用いて、人や出来事が見えない・わからないという恐怖と、見たい・わかりたいという願望を描いている。その恐怖から絶対的に逃れたいという願望が人ではない存在を作り出し、やがてその存在自体が恐怖そのものとなる。伝承の中に登場する〈一ツ目〉や〈三ツ目〉を用いて、現代の人間にも見ること・わかることへの恐怖と願望が生き続けていることを描いている。また、人と人との区別や空間と空間の区別が曖昧になって、さらに交換可能になっていくという現代的な恐怖を描いている。『逢魔物語』とは「魔」に「逢う」物語を意味しているから、「三ツ目」は『逢魔物語』を代表する一作といえる
  • 西木 政統
    原稿種別: 本文
    2014 年 13 巻 p. 94-81
    発行日: 2014/03/01
    公開日: 2018/02/07
    ジャーナル フリー
    比叡山延暦寺一乗止観院(根本中堂)に最澄自刻と伝わる薬師如来像は、天台宗の中心的尊像として信仰を集め、数多くの模像が造られた点で、日本の薬師造像史上、特異な存在である。その模像は「天台系薬師如来」と呼称されているが、室生寺金堂に伝来する像もその一例とされる。本稿は、史料上の言及を整理することで原像の像容を確認しつつ、本像が改めて天台系薬師と認められること、制作年代が九世紀末から一〇世紀初頭頃に求められることを指摘した。そのうえで、伝来についても再検討を行い、複数の薬師如来像が祀られていた根本中堂の尊像構成を反映し、もともと室生寺金堂に奉納された可能性を提示するに及んだ。以上、本稿はあくまで一作例の再検討にとどまるが、天台系薬師に対する信仰が普及する一様相の解明を企図したものである。
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