ITの急速な普及とともに「共創」という言葉が盛んに叫ばれるようになった。市民と科学者が協調するシチズン・サイエンス(市民科学)もまた、社会を共に創る重要な取組みである。その事例として、世界的にも高く評価されているのは、自然科学における市民科学である。一方、人文科学や社会科学における市民科学はまだ黎明期にあると言える。自然現象ではなく、我々自身が研究対象となる人文・社会科学研究の領域で、市民科学はどのような役割を果たしうるのか。NIRA総研、DIJ、DWIH東京が共催したコンファレンスで、国内外の研究者がシチズン・サイエンスについて、次のような議論を交わした。市民科学は、人文・社会科学研究の発展に、新たな可能性をもたらしうる。市民によるデータ提供にとどまらず、社会的課題の解決に向けて、市民の知識や知恵を生かすことに市民科学の発展性がある。それを引き出すには、市民参加のためのプロトコルの設計、市民科学を支援する大学の関与、データのオーナーシップや個人情報保護の観点を踏まえたデータ提供・管理体制の構築が必要だ。また、昨今の巨大IT企業によるデータプラットフォームは、データを囲い込む敵ではなく、市民とデータを共有するツールと考えるべきであり、ビッグデータの時代は、自分がほしいデータをデザインする時代になる。
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