人びとに受け入れられる社会・経済ビジョンをデッサンするために、4つのテーマを選び、熟考や熟議を経た「世論」の観測を試みた。そこからは、次の3点が指摘できる。第1に、人びとは少子高齢化と人口減少、公的債務の累積などに対する問題意識は十分に持っている。しかし、「話せば分かる」ほど事は単純ではない、というのが第2のポイントである。熟議・熟考に伴い、賛否を明らかにしなかった中間派の人は減少した。常に意見分布がどちらに傾くことを意味しておらず、分極化を招く場合もある。そして第3に、抽象的な原理原則のレベルでの議論は人びとの心に刺さりにくい。抽象的で、個人の生活レベルに引き付けられないテーマを議論する難しさが感じられた。この結果から、政策ビジョンの策定に当たって得られた教訓は何か。まず、政治が人びとに給付減・負担増を求めることを忌避しなければならない謂われはない。少なくとも問題の所在は多くの人びとが理解するし、一見迂遠であってもそれに真正面から取り組むことこそが中長期的な人びとの将来不安を緩和する近道である。ただ、給付減・負担増を求めるときには、応能負担の導入や無駄をなくす努力などを並行すると有効である。最後に、なるべく抽象論を避け、問題と解決策の個別具体的なイメージを人びとに見せることである。
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