キリスト教の土着化をめぐる従来の論議にはジェンダーの視点が欠けている。女性キリスト教徒の入信理由や信仰実践から、それぞれの土地の教会の「土着化」の現実を問い返すのが本稿の目的である。対象としては、筆者が長年のフィールドワークで出会ってきたインドのヒンドゥ・カースト社会に生きるダリットのクリスチャン女性たちと非カースト社会である山岳部族のミゾの教会女性、およびイエ制度が残る日本の教会女性と沖縄の祖先崇拝の社会のクリスチャン女性の中から典型的な層を選んで紹介し、信仰の特徴を比較考察する。教会を含めて父権的、性差別的な文化と共同体規範のなかで、それぞれの女性信徒たちがどのような葛藤によって苦悩し、これらと信仰的に折り合いをつけているのか、あるいはよりラディカルな解放・救済を求めて、いかに自立を達成しているのか。女性たちのスピリチュアリティは各自の信仰生活の内容や性的な自立の位相によって当然異なっているが、本稿では、キリスト教的な特徴として他者に対する友愛的な霊性が感じられる女性たちに焦点をあてて調べている。
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