二十世紀後半以降、現代の宗教文化の多様な展開にともなって、特に英語圏では、「スピリチュアリティ」と総称される諸現象が人々の注目を集めるようになった。これは時に「代替宗教」と呼ばれることもあるが、元来は伝統的宗教特にキリスト教から由来するものであった。したがって今日のスピリチュアリティも、時代特有の現れ方をしてはいるが、底流においては、キリスト教的スピリットの意味連関とつながっている。その点を考えれば、日本語ではあえてこれを翻訳せず、そのまま音写しておいた方がよい。現代宗教文化を考えるにあたって、スピリチュアリティをひとつの作業仮説として設定することは、全体の座標軸を新たに定めるために役立つであろう。この概念は従来の宗教概念とは異なって、多様で流動的な性格をもっているので、それにかかわるもの、あるいは、それを語るものをまきこみ、自らもその中で何らかの立場をとりつつあることを自覚させる。つまり、当事者性をもつことを余儀なくさせるのである。また、既存の宗教集団のはざまにスピリチュアリティを想定することは、かつての啓蒙主義の場合とは異なる新しい意味での宗教批判にも通じるであろう。
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