宗教研究
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特集号: 宗教研究
94 巻, 2 号
特集:宗教と越境
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
論文〔特集:宗教と越境〕
  • 編集委員会
    2020 年 94 巻 2 号 p. 1-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル フリー
  • 李 賢京, 田島 忠篤
    2020 年 94 巻 2 号 p. 3-28
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル フリー

    本稿は、グローバル化する奄美大島の宗教と地域社会のかかわりについて、トランスナショナリズムの視点から考察することを目的とする。奄美を舞台に国際移住したカトリック信者・宗教者を手掛かりに、カトリックという宗教を軸に越境を捉え、出身地と移住過程、移住先とでトランスナショナル宗教的紐帯およびコミュニティが、どのように形成されるのかについて確認する。

    本稿では、具体的な事例として、奄美出身日系ブラジル人一世、日系ブラジル人二世、ブラジル帰国者のシスター、日本人女性と結婚した韓国人、中国人元留学生、ベトナム人司祭およびベトナム人たちを取り上げ、聞き取り調査および現地参与観察を通して検討した。結果として、奄美国際移住者たちは地域コミュニティを維持する人材として包摂されたため、教会を媒介とした出身国と奄美間の宗教的紐帯は見られず、トランスナショナル宗教的コミュニティとしてのディアスポラも確認できなかった。

  • ギリシャにおける「ジプシー」の起源と帰属
    岩谷 彩子
    2020 年 94 巻 2 号 p. 29-56
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル フリー

    本稿では、ギリシャの「ジプシー」の事例より、流動性が高い環境下にある共同体が起源を共有することの難しさと、そこで立ち現れる帰属意識のあり方について検討した。「ジプシー」の起源は、常に非「ジプシー」から与えられるカテゴリーの一部であったため、それを受け入れることは、移動の歴史を異にする多様な内部集団で構成されている彼らの帰属意識と齟齬をきたしてきた。近年では、「ジプシー」のなかでも多数派であるロマが話すロマニ語から、ロマのインド起源説が定着している。本稿では、外部から導入された起源をめぐって、異なる「ジプシー」集団に属する人々の語りに着目しながら、「ジプシー」共同体の境界が更新され続けている動態を明らかにする。とりわけ、時空を超えて共有されるものとして語られる身体感覚のイメージの重要性と、「何であれかまわない」と語られる呼称や起源の可能性について指摘した。

  • サンティアゴ・モデルの拡散
    岡本 亮輔
    2020 年 94 巻 2 号 p. 57-80
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル フリー

    二一世紀以降、サンティアゴ巡礼路には様々な背景を持った世界中からの巡礼者が集まるようになったが、その多くは信仰なき巡礼者である。彼らにとって大聖堂の聖遺物は巡礼の目的にはなり得ず、巡礼過程での交流体験とそれがもたらす気づきや自己変革が重視される。本稿では、こうした状況を伝統宗教の枠組みからの離脱という意味で、信仰の背景化として捉える。そして、サンティアゴ巡礼をモデルとして展開する日本の聖地巡礼にも、信仰を過去のものとし、現在についてはスピリチュアルな語りをするパターンが見出せ、さらに、この種の言説が、伝統信仰の担い手である宗教者によっても紡がれることを確認する。

  • その思想と実践
    何 燕生
    2020 年 94 巻 2 号 p. 81-108
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル フリー

    「人間仏教」は太虚によって提唱された中国仏教復興のための指導理念であり、二〇世紀以来、中国本土はもちろん、海外の中国人社会における仏教の共通の思想である。

    本稿は、太虚およびその弟子の印順の主張を通して、「人間仏教」の思想とは何かについて、具体的に確認するとともに、「人間仏教」という理念の下に行われている台湾の仏光山や慈済会および東南アジアの中国人社会における実践活動を取り上げて考察することを目的とする。

    「人間仏教」の主張は仏教思想の近代的再解釈であり、その理念のもとに行われている活動は、いわゆる「社会参加仏教」に近い要素をもっている。しかし、「近代仏教」およびEngaged Buddhismなどの分析枠で捉えるには限界がある。本稿はそれらについて問題を提起し、中国語圏における歴史的社会的政治的文脈を重視する視点が必要であることを指摘した。

  • マレー半島中部におけるイスラームの「越境する」学術ネットワーク
    黒田 景子
    2020 年 94 巻 2 号 p. 109-135
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル フリー

    マレー半島中部のパタニとクダーは一三~一五世紀頃にマレー半島でもっとも早くイスラーム王権が誕生したと言われる。交易都市としての繁栄は一七世紀を頂点とし、以後は辺境地に凋落する。その代わりパタニは一九世紀の末から東南アジアのイスラーム学習の拠点となった。パタニ出身のイスラーム学者シェイク・ダウドがメッカに留学して、パタニ・マレー語によるイスラームの翻訳書を多数著し、それが弟子によって持ち帰られ伝統的学習塾であるポンドックで教科書となっている。

    ポンドックは現在のタイ=マレーシア国境地域にあたるパタニ、クランタン、クダーに広がっており、その影響は現在の国境の枠で考えるべきではない。ポンドックはメッカ留学のための予備教育の場として機能し「メッカのベランダ」と呼ばれる。ポンドックとメッカ間の知的ネットワークは一九世紀後半から二〇世紀前半にかけて活発になり、一般ムスリムのイスラーム実践をもより深化させた。

  • 地域社会、都市的空間、トランスカルチュラル空間
    佐島 隆
    2020 年 94 巻 2 号 p. 137-164
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/30
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、アレヴィーという人々がトルコ国内の地域社会から都市部へもしくはトルコからドイツへと越境することによって生じるアレヴィーリキ(アレヴィーなるもの、アレヴィー主義)の変化について明らかにし、多文化社会や異なる価値体系の共存する社会の中で変化、調整、適合をしているアレヴィーリキを通して「越境と宗教」について考察することである。

    一九九六―二〇一八年までの臨地調査による観察や資料収集から得たデータを中心にして、トルコのアレヴィーやドイツのアレヴィーのトルコ系移民の動向やアレヴィーリキの変化を明らかにしたい。

    アレヴィーリキは宗教とも文化とも考えられ、明確ではない。伝統的と考えられるアレヴィーリキが、イスラームやキリスト教の卓越する「多文化」社会(トランスカルチュラルな空間)、都市的社会、世俗主義社会などの社会的政治的環境のなかで、調整、適合、変化させ、持続、存続する様態を明らかにする。

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