Tropics
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2 巻, 3 号
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Regular papers
  • 加藤 真, 市野 隆雄, 永光 輝義
    1993 年 2 巻 3 号 p. 129-142
    発行日: 1993年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
    インドネシア,西スマトラ州のさまざまな標高の自然林で,ショウガ科7 種とイワタバコ科2種の送粉について調査した。地表に咲くAchasma macrocheilos の赤い長筒花に,極めて長舌の大型のコシブトハナバチ属の1 種Amegilla elephas が訪花した。このハチは地表近くを極めて速く飛翔し,新熱帯のシタパチで見られるような巡回採餌行動をみせた。このハチはこのショウガ科植物のみに花粉と花蜜を依存しており,またこの植物はほとんどこのハチのみによって送粉されていた。ショウガ科3 種(Zingiber puberulum, Grobba aurantiaca, Amomum aculeatum)とイワタバコ科1 種Cyrtandra pendula の黄色(または白)の長筒花は,見回り採餌をする好樹陰性で中型・長舌のケブカハナバチ亜科のハナバチ(コシブトハナバチ属AmegilJa とモモブトコシブトハナバチ属Elaphropoda) によって送粉されていた。短い筒状花をつけるAmomum uliginosumとCyrtandra aff. grandifolia は巡回採餌をするアオスジコハナバチ属Nomia のハナバチによって送粉されていた。ショウガ科の2 種, Homstedtia aff. conica とPhaeomeria fulgens は,赤い直に包まれた堅固な花序に,極めて伸長した長筒花をつける。これらの花は長いくちばしをもったタイヨウチョウ科の烏,コクモカリドリArachnothera longirostraによって送粉されていた。これら烏媒の花は,ハナバチ媒の花よりも糖度の有意に低い花蜜を有意に多量に生産していた。
    これらの長舌のハナバチ類は舌の長さによって3 つのグルプに分けられ,それらはハナバチ媒の花の3 つの送粉ギルドに対応していた。それぞれのギルド内では舌の長さの形質置換は見られなかった。ハナバチ媒の種の25% は2 種以上のハナバチによって詰花されていたが,それにもかかわらず,ほとんどの植物個体は1 種のハナバチによって訪花されていた。1400mを越える標高では,マルハナバチがケブカハナバチ亜科のハチに置き代わり,長舌ハナバチの群集構造は単純になっていた。
  • Tukirin PARTOMIHARDJO, Edi MIRMANTO, Soedarsono RISWAN, 鈴木 英治
    1993 年 2 巻 3 号 p. 143-156
    発行日: 1993年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
    インドネシアのスンダ海峡にあるクラカタウ諸島の一つのアナククラカタウ島で,砂浜に漂着した果実と種子を調べた。調査は, 1990-1991 年に東風のモンスーンと西風のモンスーンの季節の2 回行った。アナククラカタウは1930年から何回も続いている噴火によって海上に現われた島である。砂浜の裸地部分で海岸線に直交するラインにそって1m ごとに1 m2 の方形区を配置したトランセクトを62本設定し,その中に出現した漂着種子と種子および、実生を調べた。
    2つの季節の総計で38科66種の漂着果実・種子を発見した。そのうち30 種はクラカタウ諸島に成熟個体が見られて,それが呆実や種子を供給している可能性があった。さらに8 種はクラカタウ諸島に幼個体が記録されている種類であった。内陸性の果実や種子も発見されたが,それらの実生はまれであった。トランセクトは溶岩流が海に接している西部以外の砂浜に設定したが,東部の砂州で最も多くの漂着果実と種子が発見された。この海岸は両季節とも海流の流れにおよそ直交する位置に突出していることが,漂着の多い原因と考えられる。また果実・種子が多数漂着していることは,東部の砂州がアナククラカタウ島の中ではもっともよいことの一因を担っている可能性がある。
  • Virat TANPIBAL, 櫻井 克年
    1993 年 2 巻 3 号 p. 157-168
    発行日: 1993年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
    タイ国,パンガ県,タクアパにある鉱山跡地回復試験場で,不毛土壌における化学日肥料および都市ゴミコンポストの施用がS. guianensis var. gianensis のバイオマスに与える影響を評価した。植物の枯死を防ぎ,養分供給容量を高めるために,粘土質の材料を300-- ha-1添加した。
    最高量を施肥した時に得られるバイオマス量は6.15 t ha-1 であったが,コンポスト5.12 t ha-1と化学肥料1.25 t ha-1を投与した時に最適バイオマス量6.15 tha-1が得られた。実験終了時の土壌肥沃度はS. guianensis の栽培によって改善された。
    実験中の降水量,土壌水分(地中15、),土壌温度(地表および地中15、)を測定した。厳しい旱魃や過飽和状態がS.guianensisのバイオマス量を著しく減少させた。茎葉中の粗繊維,粗蛋白質の含有量は家畜の飼料として適当であった。
    Stylosanthes guianensis の栽培はタクアパの農業にとって有望なものであり,水分欠乏を減じ,養分保持能を高めるために粘土質の材料を添加することと組合わせると,自然状態での低い土壌肥沃度を改善するのには,良い方策であると言うことができる。
  • 増田 美砂, Suleiman KUDU
    1993 年 2 巻 3 号 p. 169-181
    発行日: 1993年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
    シアナットButyrospennum paradoxum はインドのモウラナットおよびボルネオ島のテンカワンとならぶ熱帯林の産する重要な油脂原料である。西アフリカのサヴァンナ帯に天然に分布し,住民はその種子に含まれる脂肪を食用および灯火に利用してきた。20世紀に入るとナイジェリア北部の重要な産物として,加工された油脂は地域で消費され,種子はヨーロッパ市場に輸出された。しかし第2 次大戦後その地位は急速に失墜し,経済関係のみならず林業関係の文献からもシアナットは姿を消すにいたった。ところがその要因に関しては,ナイジェリア全域で進行しつつあり,今日深刻な社会問題となっている森林破壊に関連づけた推測がなされているにすぎない。
    本研究では,車中からの観察により,樹木そのものは南部のイパダン近辺から北部に国境を接するニジェールに至るまで広汎に見られることを確認するとともに,かつてザリアとならぶ集荷の中心地であったナイジャナ州ピダ近郊の農村を事例にとり,測量および住民に対するヒアリングを行った。その結果,植林は行われていないものの畑地にはシアナットおよびローカスト・ピーンの2 種が選択的に残されており,収穫は女性のみによってなされ,そこからえられる収入は僅かな額にすぎないが,可処分所得を制限されている村の女性にとっては収穫および村に買い付けに来る仲買人への販売は重要な経済活動のひとつであることがわかった。その反面,村には収穫した種子を加工するものはなく,ヒアリングの対象に選んだ34名からなる一族の中では1 名だけが布場で購入したシア・バターを利用していた。また集落に隣接する樹木作物を優先的に配した区画との比較によると,シアナットの単位面積当たりの本数は畑地の方が多いが,平均断面積は40% にすぎないことから,畑地に配された樹木には火入れや枝葉の刈り取りによるストレスがかかっているものと推察される。
    こうしたことから,少なくともナイジャ州では,生産減少の要因は農民による開墾に伴う樹木の伐採ではなく,特に国内需要の低下および大規模農園開発に求められるべきであることがわかる。また住民は彼ら自身にとって有用な樹木は慣習的に残しているが,今後さらなる市場の縮小と燃料材の不足が生じれば,シアナットが伐採の対象となる可能性も危慎される。国公有林地面積が国土のわずか9.8% にすぎないナイジェリアにおいては,シアナットのように住民の生活と深い係わりをもった樹木を,その産物の市場拡大や価格安定化によって間接的に保護するとともに,私有地における樹木密度の拡大を促す諸施策の導入が望まれる。
Short Communication
  • Robert W. PEMBERTON, 小野 幹雄
    1993 年 2 巻 3 号 p. 183-186
    発行日: 1993年
    公開日: 2009/08/31
    ジャーナル フリー
    小笠原諸島の父島と母島で観察したメジロZosteropsis japonicus によるモモタマナTerminalia catappa の葉柄の花外蜜腺からの吸蜜について報告する。著者らは1991 年と1992年の春に両島でメジロが海岸のモモタマナの木に来て,その葉柄の付け根にある大型の蜜腺から直接に蜜を吸うのを目撃した。メジロは束状に集まる数枚の葉を順次吸ったあと,別の枝に移り,多い場合は200枚ほどの葉を3~4 分で吸うのが観察された。多くの研究で花外蜜腺は,それを持った植物とその蜜を求めるアリとの共生のため,と説明されてきた。植物はこのアリによって,他の害虫による食害を免れるからである。しかし今回の観察ではモモタマナの樹上にはアリはみられず,またその葉に食害の跡も認められなかった。メジロによる吸蜜が単なる盗蜜か,それともアリとモモタマナの間の共生関係の崩壊かさらにメジロによる新たな防衛の成立の可能性について論じる。
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