社会学年報
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47 巻
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特集 「大震災被災地における地域社会の再編」
  • 永井 彰
    2018 年 47 巻 p. 1-
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/11/08
    ジャーナル フリー
  • 高木 竜輔
    2018 年 47 巻 p. 11-
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/11/08
    ジャーナル フリー

     福島第一原発事故から7年が経過し,避難指示の解除も進み,被災者の生活再建がある程度進んでいる.避難指示が解除された地域への住民帰還は進んでいないなか,避難先での住宅の自力再建ならびに復興公営住宅への入居という形で住宅の再建が進んでいる.長期避難・広域避難を前提とした原発避難者の住宅再建にはどのような課題があるのだろうか.

     本稿では2017年に実施した質問紙調査データを用いて,福島県内において建設された原発避難者向けの復興公営住宅入居者の抱える課題をコミュニティ形成という観点から明らかにする.調査の結果,(1)団地内の人間関係はある程度形成されているが,共助の関係までは十分できておらず,コミュニティ形成としては道半ばであること,(2)団地の流動性は比較的高く,団地入居者の高齢化がますます進行していくこと,(3)多くの団地入居者は住民票を避難先に異動することを考えていないこと,などが明らかとなった.これらを踏まえて,団地の高齢化が急速に進むなかでのコミュニティを長期にわたって維持していくことは困難であること.さらに団地入居者が避難元の住民票を持ち続けた上での支援体制の構築が早期に求められること,という二点の課題を示した.

  • ――宮城県南三陸町被災者支援の事例から――
    本間 照雄
    2018 年 47 巻 p. 25-
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/11/08
    ジャーナル フリー

     東日本大震災の避難者は,被災から6年経った今,全国で75,206人.避難先は47都道府県1,052市区町村に広がり,宮城県内では9,795人が避難生活を送っている(平成30年1月16日現在,復興庁).

     東日本大震災は,被災規模が甚大であることだけではなく「避難生活の期間が非常に長い」ことが被災者の困難さを増している.この長期間に渡る避難生活を支えているのが生活支援員である.東日本大震災では,被災者自身も生活支援員となって被災者支援に携わり,日々,応急仮設住宅/災害公営住宅での生活を見守り続けている.

     本稿では,宮城県南三陸町を事例にして,この長期間の避難生活で生じた新たな支援ニーズとしてのコミュニティづくりに関わる生活支援員に注目し,彼らがいかにして養成されたかを被災者支援センターの制度設計から見いだし,当事者性と市民的専門性を持って活動してきたかを報告する.

     また,住民が生活支援員となって被災者支援を担い,その支援者としての仕事を終えた後に地域社会の一員に戻っていく.そうした一連の過程の中で,被災者支援という一時的・臨時的であっても,その関わり方如何により,地域福祉の推進に資する人財に育つことを示したい.

  • 伊藤 亜都子
    2018 年 47 巻 p. 37-
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/11/08
    ジャーナル フリー

     阪神・淡路大震災(1995年1月17日)では,住宅の復興政策は「避難所」→「仮設住宅」→「災害復興公営住宅」への移行を中心とするものであった.しかし,その移行の過程において震災前の地域コミュニティが分断されたことで新たな問題が生じ,同時にこの単線型の支援メニューから外れた人々への支援が不十分になるなどの問題があらわれた.

     本稿では,仮設住宅および災害復興公営住宅における地域コミュニティの状況を紹介し,課題や解決のための取り組みについて示す.特に,災害復興公営住宅における状況については,神戸市灘区にあるHAT神戸・灘の浜団地の事例をとりあげる.まず,1999~2000年に実施したコミュニティ調査の内容を報告し,入居から1~2年が経過した住民へのヒアリング調査をもとに分析を行う.そして,震災から20年以上が経過した現在の災害復興公営住宅が抱える大きな課題として,借り上げ市営住宅への対応と居住者の高齢化,そしてコミュニティ形成のための取り組みについて紹介する.

     現在,神戸市では,高齢者への「見守り活動」を安否確認に限らず地域コミュニティづくりの支援も含めて取り組んでおり,復興公営住宅へのサポートに限らず一般的な取り組みへと広げつつある.

  • 佐久間 政広
    2018 年 47 巻 p. 49-
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/11/08
    ジャーナル フリー
論文
  • ――高度経済成長期以降の機械化の進展を背景として――
    小林 博志
    2018 年 47 巻 p. 57-
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/11/08
    ジャーナル フリー

     本稿では,農協婦人部の機関誌的存在である雑誌『家の光』を通して,農村女性におけるモータリゼーションの展開を考察する.この展開は,1950年代後半から普及が進むテーラーの導入を契機に,稲作の機械化を背景として1970年代中頃から普及が進む軽トラックの導入により促進される.結果として生じる生活圏の広域化が家庭内に交通格差をもたらし,その相対的優位者となった嫁は,減反を背景とする家庭内分業の再編において姑からの干渉を減少させていく.農機具として導入されたテーラーは,生活の移動手段となり,軽トラックは移動手段の枠を超えて,私的空間の形成装置となることで,都市と農村が共有しうる近代家族的価値観を具現化する装置として機能する.これは,人と「モノ」との相互作用による「人並み」という生活水準意識の形成を意味するものである.

  • ――低階層の子どもたちの教育達成――
    眞田 英毅
    2018 年 47 巻 p. 69-
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/11/08
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,学校外教育が出身階層の低い子どもたちの高校進学に与える効果を検証することにある.高校進学段階での教育達成に関する多くの先行研究では,進学校に進学したか否かで学校外教育の効果を測っているが,進学校以外の高校への進学も含めた教育達成は等閑視されている.また多くは,教育における効果はどのサンプルでも一定であるという仮定をおき,観察されない異質性も考慮しておらず,学校外教育の効果を十分に検討しているとはいえない.そこで本稿ではこれらの課題を克服するため,傾向スコアを用いて反実仮想的な状況を作り出し,進学校以外の高校(中堅校・進路多様校)への進学も含めた高校進学における学校外教育の効果を検証した.結果,通塾経験は進路多様校から進学校・中堅校への進学を促進させており,特に中堅校進学では親学歴の不利を埋めていた.また,親学歴が低い男性が家庭教師や通信教育を経験することで,進路多様校より進学校に進学しやすいことが示された.他方,女性では家庭教師経験や通信教育経験は親学歴の不利を埋める効果を確認することはできなかった.これらの結果により,学校外教育を経験することで進学率の高い学校に進学できる可能性が高まると部分的にいえる一方,男女によって学校外教育の効果が異なることや学校外教育の種類によって学力が底上げされる層が異なる可能性も示唆された.

  • ――東日本大震災後の近郊農村における検討――
    望月 美希
    2018 年 47 巻 p. 83-
    発行日: 2018/08/30
    公開日: 2019/11/08
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,東日本大震災後の近郊農村において,地域自治を共同で担っていく基盤とはどのようなものであるかを検討することである.長期的な復興課題に対しては,住民同士の支え合いによる解決が必要であるが,「上からの組織化」による従来のコミュニティ政策の限界も懸念されている.そこで,先行研究で得られた,地域の歴史的背景,外部者との関係性,近隣組織の変容という視点から,「下からの組織化」に至る住民の動向を取り上げる.

     対象とする亘理町吉田東部地区において,共同の基盤であったのは部落会であったが,津波被害による移転者が相次ぎ世帯数が減少し,復興段階の課題への対処が難しい状況であった.そうした状況のなか,外部支援者と地区内外住民の対話から,異質性を持つメンバーによる新たな共同関係が展開し,問題解決に挑んでいる.この共同関係は,震災前は弱い紐帯であった個人間のつながりが表出し,組織化に至っていた.

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