日本の計量社会学の先駆者であった西田春彦が,潜在構造分析の発展に対してどのような貢献をしたのかを論じる.顕在的なものから潜在的なものを探るという西田の関心は,学生時代に抱いた疑問に遡ることができる.それは,質問紙調査に対する労働者の回答を潜在的な態度がそのまま現れたものと考えてよいかという疑問であった.西田はその後,和歌山大学在職中に潜在構造分析と出会い,同僚とともに共同研究を始めた.研究者としての西田の本領は,潜在構造分析の社会学的応用を拡張したことにあった.態度調査データに潜在クラスモデルを適用しながら,この手法を用いる際に考慮しなければならない社会調査方法論上の問題についても考察した.さらに,農業集落のような個人を超えた社会的実在のデータにも潜在クラスモデルや潜在プロフィールモデルを実際に適用してみせた.西田はまた,当時の研究動向を踏まえ,文化比較への展開も考えていたことがうかがえる.西田の研究姿勢から学ぶべきことは,問い・疑問から出発すること,顕在的な姿の背後にある潜在的なものの把握を試みること,手法の理解にあたり実データ分析を重視すること,先行研究とは異なる対象への応用を試みること,である.以上のことを重視しながら潜在構造分析を用いた社会学的研究を発展させるのが,われわれにとっての課題である.
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