社会学年報
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37 巻
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特集「ガヴァナンス論の射程」
  • 長谷川 公一
    2008 年 37 巻 p. 1-4
    発行日: 2008/07/17
    公開日: 2013/12/27
    ジャーナル フリー
  • ―政治学から―
    坪郷 實
    2008 年 37 巻 p. 5-16
    発行日: 2008/07/17
    公開日: 2013/12/27
    ジャーナル フリー
     本稿では,参加ガヴァナンスの視点から,「国民国家を超えるガヴァナンス」について議論をした.参加ガヴァナンスは,「多様な主体による問題解決のための機会を創出する」ものであり,「参加と討議による合意形成」を重視する新たな民主主義の展開である.グローバル・ガヴァナンスは,国際レジームをはじめとする政府間による政策調整システムと,ガヴァナンスの法化と社会化を基礎とする国家横断的な制度やネットワークによる政策調整システムからなる複合的政策調整システムであり,非階層的政策調整を基本とする.他方,「ヨーロッパ・ガヴァナンス」は,超国家機関による階層的政策調整システムと政府間・国家横断的ネットワークによる非階層的政策調整システムの組み合わせによる重層的ガヴァナンスである.EUにおける政策調整は,ヨーロッパ域外を含む国際組織における調整とリンクしており,「拡大された重層的システム」である.さらに,ベァツェルが述べているように,EUに「独特な」超国家機関による「階層的制御の影」が,ヨーロッパ・ガヴァナンスの特徴でもある.重層的ガヴァナンスにおいては,とりわけ民主主義の正統性問題がある.この問題は,「ガヴァナンスがよい政治結果を導いたか」,「政策づくりのプロセスへの多様なアクターの参加拡大」ともかかわるが,実践的には困難が伴う課題である.さらに,重層的ガヴァナンスにおいては,多様なアクター間のコミュニケーションと相互学習プロセスが重視されている.ヨーロッパ・ガヴァナンスは,グローバル・ガヴァナンスの一構成要素であり,その形成プロセスの可能性を示唆するものである.
  • 吉原 直樹
    2008 年 37 巻 p. 17-30
    発行日: 2008/07/17
    公開日: 2013/12/27
    ジャーナル フリー
     近年,新自由主義的なグローバル化の進展とともに,ローカルの次元でいわゆる「閉じられたコミュニティ」への希求が広がっている.本稿ではそうした「閉じられたコミュニティ」に回収されていかない「開かれた都市空間」の可能性を,ジンメル,ジェイコブス,ダール等の都市空間への視座を受け継ぎながら,複数の主体の間で繰り広げられる調整パターンとしてのローカル・ガバナンスの存在形態に即して論じる.併せて,ヘルドのいう社会民主的なグローバル化への道をさぐることにする.
  • 植田 和弘
    2008 年 37 巻 p. 31-41
    発行日: 2008/07/17
    公開日: 2013/12/27
    ジャーナル フリー
     失敗する環境政策の欠陥を克服し,持続可能な発展を実現する環境政策への進化が求められている。そのためには,現代環境問題の新しい特徴と相互依存関係をふまえた重層的環境ガバナンスの構築が課題になっている.環境ガバナンスは環境政策の形成過程における環境NGOなど非政府セクターの役割が認知されてから注目されてきたが,重層性の重要性が認識されるようになったのは,EU出現以降のことである.グローバルな経済活動がグローバル・リージョナル・ローカルな環境問題の基本原因をなしている.個々の地域環境問題は世界経済のグローバリゼーションに起因するがゆえに相互に関連を持つものであるが,同時に地域固有の条件の下で現れるので均質な現象にはならない.このことは,現代において持続可能な発展の実現を阻む構造の存在を示しており,このメカニズムを解明し克服することが求められる.問われるべきは,環境ガバナンスすなわち環境問題に対するどのような政策・制度的対応と民主主義的プロセスが,持続可能な発展を現実化しえるのか,である.グローバル,リージョナル,ナショナル,ローカルといった重層性を伴い,各層間が相互作用を伴って動態化している重層的環境ガバナンスの構造と機能を明らかにし,そこへの移行戦略を構築していかなければならない.
  • 上田 耕介
    2008 年 37 巻 p. 43-45
    発行日: 2008/07/17
    公開日: 2013/12/27
    ジャーナル フリー
  • 牧原 出
    2008 年 37 巻 p. 47-48
    発行日: 2008/07/17
    公開日: 2013/12/27
    ジャーナル フリー
論文
  • ―宮城県蕪栗沼のラムサール条約登録に関する環境社会学的考察―
    武中 桂
    2008 年 37 巻 p. 49-58
    発行日: 2008/07/17
    公開日: 2013/12/27
    ジャーナル フリー
     「環境保全」を目標にひとつの空間に多様な立場から人々が働きかけるとき,その空間に求める役割の違いから対立が生じる場合がある.一方,本稿で事例とする蕪栗沼は,地域住民と自然保護団体が求める役割は異なるが,現在,そこに際だった対立はない.
     かつての蕪栗沼は,草刈り,魚獲り,狩猟の場など,沼の周辺集落の人々の生活の場であった.昭和40年頃を境に,生活における人々と沼との具体的な関係は次第に希薄になったが,沼の周辺水田で耕作する彼らにとって,蕪栗沼は今も「遊水地」として必要である.反面,天然記念物であるマガンの飛来を理由に,自然保護団体は「マガンのねぐら」としての重要性を指摘する.特に1996年,沼の全面掘削の是非をめぐり,地域住民は賛成/保護団体は反対というように,両者間の相違が顕著に現れた.
     だが,2005年に蕪栗沼と周辺水田がラムサール条約に登録されたのを受け,保護団体が沼への人為的介入の必要を考えはじめた.彼らの認識の変化は,「遊水地」として沼を機能させるために人為的介入を求める地域住民の見解と一致する.これを地域住民の側から捉えると,彼らの発言や作業が,結果的に「マガンのねぐら」として沼のあり方を問う保護団体の理念にも応じているということである.このような地域住民の姿勢は,単に生活における必要な行為としてではなく,ラムサール条約登録湿地に対して,そこで自分たちが築いてきた「歴史」を埋め戻す営為であると提示することができる.
  • ―転職に伴う賃金変化構造の時代的変遷―
    林 雄亮
    2008 年 37 巻 p. 59-70
    発行日: 2008/07/17
    公開日: 2013/12/27
    ジャーナル フリー
     労働市場の流動化は世代内移動,とりわけ転職行動の活発化と言い換えることができる.理論的には,転職行動の増加は労働市場の効率化とジョブ・マッチングの向上という意味から肯定的に捉えられてきた.しかし,実際の転職行動には転職後の賃金低下やキャリア形成の阻害となる可能性が存在し,どのような状況下でも個人にとって望ましい結果をもたらすとは限らない.
     そこで本稿では,労働市場の状況によって世代内移動の帰結が変化するプロセスについて,転職行動に伴う賃金低下構造の時代変化から考察する.転職に伴う賃金低下のメカニズムは先行研究の蓄積がなされているが,本稿の目的は時系列分析によって先行研究が問題にしてこなかった長期的トレンドを把握することである.
     分析の結果,以下の知見が得られる.1950年代後半から2005年にかけて流動性の高まりと賃金低下率の上昇が確認できる.賃金低下メカニズムに関する多変量解析を時代別に行った結果,バブル経済期までの時代では企業規模間の下降移動のみが賃金の低下に強い影響を与えていたが,それ以降は,企業規模間の下降移動に加えて,非正規雇用への移動,会社都合による離職,前職勤続年数の長さが統計的有意に賃金の低下に寄与している.したがって,転職に伴う賃金低下構造にみる世代内移動の帰結は,1990年代以降大きく変化したのである.
  • ―カウンセラーを中心に―
    丸山 和昭
    2008 年 37 巻 p. 71-81
    発行日: 2008/07/17
    公開日: 2013/12/27
    ジャーナル フリー
     1990年代以降,日本においては「カウンセリング」が社会に広く普及してきたが,その担い手である「カウンセラー」は多様な資格・専門性によって構成されている.本稿では,このような専門的職業の歴史を扱うにあたって,Andrew Abbottの専門職論へと注目する.具体的には,Abbottの提示した「緩い専門職規定」と,多様な職業集団の相互作用に注目した「専門職の発達理論」,及びAbbott自身によるアメリカにおける心理療法・カウンセリングの勃興に関する歴史記述を検討した.総じて,Abbottの専門職論は,従来の「専門職化」論における関心の中心にあった「一般的職業はどのように専門職となりうるのか」との問いへの新たな回答を用意するものではない一方で,知的職業一般の職域確保の過程についての分析枠組みを提供するものである.このようなAbbottの専門職論における有効性と限界についての考察から,「知的職業の誕生」,「知的職業による新規職域の獲得」,「professionalismの輸入と変容」という,個別の職業に分断されない新たな「専門職化」の視点の重要性を導き出したことが,本研究の最終的な知見である.
  • 金井 雅之
    2008 年 37 巻 p. 83-91
    発行日: 2008/07/17
    公開日: 2013/12/27
    ジャーナル フリー
     どのような社会構造をもつ温泉地でまちづくりへの取組みが盛んであるかを,「橋渡し型」と「結束型」の違いという社会関係資本論の枠組みに依拠しつつ,質問紙調査のデータによって計量的に分析した.
     まちづくりへの取組みを時間の経過とともに進展していく過程として操作化し,質的比較分析によって分析した結果,つぎの2つの知見が得られた.① まちづくりの初発段階において重要なのは結束型社会関係資本である.② まちづくりの完成段階において重要なのは橋渡し型社会関係資本である.
     これは,まちづくりの各段階において必要となる社会関係資本の種類が異なることを意味しており,橋渡し型と結束型との関係が単なる二項対立ではなく,時間の経過の中で複雑に交叉しながら創発的にまちづくり活動を促進している可能性を示唆している.
  • ―山形県東根市若木地区を対象として―
    牧野 友紀
    2008 年 37 巻 p. 93-103
    発行日: 2008/12/21
    公開日: 2013/12/27
    ジャーナル フリー
     本稿の課題は,昭和恐慌期開拓村の形成過程の特質を,入植に携わった指導者の記録を読解することによって明らかにすることである.本稿では,準戦時体制期において再編された村落秩序の理解をめぐって,国家権力の末端に位置する「中堅人物」のあり方に焦点を絞り,その人物の記録と生活史から見た開拓村の形成過程の特質を明らかにしている.再編された村落秩序は,国家の支配秩序にはらむ論理と農民の生活秩序の論理との衝突というモメントを通して実現されている.そうした観点の下で考察した結果,本事例の指導者は,従来の「中堅人物」理解の枠には収まりきらない存在であることが看取された.さらに,従来の農本主義がもちえなかった,国家権力の末端に位置しながら,現実の国策に抗して農民と農村の存在を確保しようと創意工夫する,パターナリズム克服の試みを見て取ることができた.
  • ―岩手県における保健師配置と乳児死亡率の変化に関する統計的分析―
    佐々木 久美子
    2008 年 37 巻 p. 105-116
    発行日: 2008/07/17
    公開日: 2013/12/27
    ジャーナル フリー
     岩手県は広大で山地が多く,高度経済成長期以前の県民の所得水準が低く,農村地域では特にその環境は劣悪なもので都市部との地域間格差があった.このような状況の中,高度経済成長期前の岩手の保健活動は乳児死亡率を低下させることが第一の課題であり,それを実現させるために自治体を初め医療関係者が地道な努力を行った.
     本稿では,地域住民に直接かかわる保健師の活動を焦点として戦後から高度経済成長期までの岩手県内の乳児死亡率の変化と町村保健師の配置状況との関連を分析し,地域における保健師の活用が地域保健を充実させた要因の一つであることを検証した.その結果,保健師の採用時期が早い町村ほど,また,一人あたりの担当人口が少ない町村ほど乳児死亡率の低減が早いことが明らかになり,岩手の地域保健医療における保健師の貢献の可能性を実証した.
研究ノート
  • 武田 篤志
    2008 年 37 巻 p. 117-124
    発行日: 2008/07/17
    公開日: 2013/12/27
    ジャーナル フリー
     1974年に刊行されたアンリ・ルフェーヴルの主著『空間の生産』は,英訳されたのを機に,1990年代以降,都市論や地理学の分野でひろく再評価がすすんでいる.しかし,この書の第Ⅲ部には「空間の建築術(Architectonique spatiale)」⑴と題される章が設けられているにもかかわらず,また,この「建築」が彼の空間論において要諦をなしているにもかかわらず,『空間の生産』における「建築」の意義について積極的な言及はほとんどみられない⑵.本稿は,ルフェーヴルにおける空間論と建築との理論的関連に焦点を当て,この書の建築理論としての可能性を提起することを目的とする.
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