社会学年報
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45 巻
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
特集「「福島」の現在」
  • 加藤 眞義
    2016 年 45 巻 p. 1-3
    発行日: 2016/12/26
    公開日: 2018/09/25
    ジャーナル フリー
  • 福島県南相馬市小高区における一農民の実践
    牧野 友紀
    2016 年 45 巻 p. 5-18
    発行日: 2016/12/26
    公開日: 2018/09/25
    ジャーナル フリー

     本稿の目的は,福島県南相馬市で有機農業の再生に取り組む一人の農民の実践を取り上げ,その生活現実の認識に関して,東日本大震災前と震災後の社会的時間の連続性と差異性に注目して考察を行い,震災後の生活秩序のあり方について検討することである.
     福島の農業を取り囲む厳しい現状のもと,避難生活を強いられている農家は,理不尽な生活現実に直面し続けている.居所への帰還とはいっても,ただ単に地理的な居所に帰りそこで消費生活が営めればよいということではなく,農業生産を基軸とする生活が可能でなければならない.避難以前の日常の取戻しは農民や農家にとって至難の業となっている.それでも浜通りの旧警戒区域において,試行錯誤を繰り返しながら,農の営みを組み立て直そうと避難先から通勤して農業を行う人が実在している.本稿ではそうした農民の生活の一端を考察している.また,農家の生活の確保や展開に資するような社会学的知の検討を行っている.考察を通じて,本稿では福島において「食べる」ための農業の再確立が必要であるとの結論を得た.この「食べる」という言葉には二つの意味が込められている.一つは,生産者や消費者,さらには将来世代が農産物を食べるという意味であり,もう一つは農業者が生活する,暮らしていくという意味である.

  • 新潟県への原発避難の事例から
    松井 克浩
    2016 年 45 巻 p. 19-29
    発行日: 2016/12/26
    公開日: 2018/09/25
    ジャーナル フリー

     本稿では,福島県の隣に位置する新潟県への原発避難の事例を対象として,長期・広域避難とコミュニティとのかかわりについて考察する.避難指示区域からの避難者に対して,間隔を置いて同じ人に数回行った聞き取りをもとに,避難生活の経過と将来の見通し,故郷/福島について,奪われたもの/失ったものの順に,現状とその変化などをたどった.その結果,表面的には生活の安定がうかがわれる一方で,避難者の迷いや不安はむしろ深まっていることが分かった.何が「難民」という言葉に象徴されるような避難者の苦悩をつくりだしているのだろうか.
     若松英輔の議論をふまえると,避難者は「人生の次元」抜きの「生活の次元」を強いられているといえる.すなわち,時間の蓄積をふまえた未来への展望,被害の真の回復までに要する時間,「根っこ」のある生き方,住み慣れた生活空間での承認等々を失い,しかも失っていることさえ周囲から理解されずに日々の生活に追われている.避難者が再び地に足をつけて前に進んでいくためには,「生活の次元」の再建・維持に加えて,時間的・空間的・関係的な「人生の次元」の再生が不可欠である.避難者全体の不可視化と難民化がいっそう進むのか,それとも「人生の次元」の再生がはかられるのか,現在はその岐路にあるといえる.

  • 髙橋 準
    2016 年 45 巻 p. 31-33
    発行日: 2016/12/26
    公開日: 2018/09/25
    ジャーナル フリー
  • 吉野 英岐
    2016 年 45 巻 p. 35-37
    発行日: 2016/12/26
    公開日: 2018/09/25
    ジャーナル フリー
論文
  • 宮城県登米市の地域密着型特別養護老人ホームの事例の検討
    相澤 出
    2016 年 45 巻 p. 39-49
    発行日: 2016/12/26
    公開日: 2018/09/25
    ジャーナル フリー

     地域包括ケアが推進されるなか,特別養護老人ホーム(特養)の看取りへの取り組みが増えている.しかし医師,看護師など医療職の人材不足に悩む医療過疎地域では,特養での看取りが困難な場合がある.宮城県登米市もそうした地域のひとつである.そこで,登米市の地域密着型特養のケアの当事者が,看取りの阻害要因についていかなる認識をもっているかを明らかにするため,聞き取り調査を実施した.聞き取りは,個々の施設ごとの体制や現状,取り組み,看取りの阻害要因として認識している事柄に関するものである.調査から,医療過疎地域や登米市の固有の事情と複合したかたちで,特養の看取りの阻害要因が認識されていたことが明らかになった.今後は看取りのケアを可能にする普遍的な要因の検討に加えて,地域の文脈や個々の特養が置かれた状況を視野に入れたアプローチが,地方における特養の看取りを研究する上で重要となろう.

  • 伊藤 綾香
    2016 年 45 巻 p. 51-61
    発行日: 2016/12/26
    公開日: 2018/09/25
    ジャーナル フリー

     本稿では,コミューンという起源を持つ「わっぱの会」において,対抗文化的手法がいかに変遷し,それが現在の活動にどのような特質を生み出しているのかを明らかにする.
     「わっぱの会」は,障害者入所施設でボランティアを行なった学生が,産業社会化に伴い施設化を進める支配的文化への対抗文化として,街の中でのコミューン建設に着手したことに始まる.そこで経済的問題に直面し,社会福祉法人格の取得という制度化を選ぶが,外面的にそれを受け入れながらも,実際には共同生活での「一つの財布」をもとにした給与体系をつくるなど,独自のありようを模索した.現在の働く場のメンバーは,大小問わず生じるトラブルや衝突を通して「自問自答」しながらより良い働き方を模索し,障害者と「一緒に働く」べきという価値規範を身につけていた.これは必ずしも障害者をめぐる社会的状況に関心のなかったメンバーにも見られた.外面的な制度化の受け入れと独自のあり方の模索は,運動にとっての制度化のジレンマを乗り越えようとする工夫である.「閉じられた」コミューンから「開かれた」働く場への活動様式の移行は,活動に関心の無い人々を受け入れるだけでなく,彼らを,より良い働き方の追求という,変革志向的な活動の担い手として再生産することを可能にしている.こうした,独自の制度の確立という方法での対抗文化の維持は,運動が運動として継続するうえで有用である.

  • 寺田 征也
    2016 年 45 巻 p. 63-73
    発行日: 2016/12/26
    公開日: 2018/09/25
    ジャーナル フリー

     本稿は鶴見俊輔の「限界芸術」論に関する諸論文,「ルソーのコミュニケイション論」([1951]1968),「文化と大衆のこころ」([1956]1996),「芸術の発展」([1960]1991),「限界芸術再説」(1969)の読解を通じて,「限界芸術」を論じる上での鶴見の課題と目的,そして当概念の核心を明らかにすることを目的とする.
     「限界芸術」は概して「芸術」に関する新しい分類法として理解されてきている.しかし本研究では,芸術の分類法だけでなく,デューイやモリスのプラグマティズムに影響を受けながら,日常的な芸術への参加と,それに基づく大衆の能動性,自主性の回復,美的経験の獲得が論じられていた.また60年代後半では,当時の社会運動の状況や後に論じられるようになるアナキズム論と関連しつつ,自らデザイン可能な自由な生活領域の確保と,それに基づく権力への抵抗の可能性が論じられるようになってきていた.鶴見の芸術論はプラグマティズムに影響を受けつつ,後にアナキズム論へと接続していく.

  • 中学生の学力自己評価に着目して
    鳶島 修治
    2016 年 45 巻 p. 75-85
    発行日: 2016/12/26
    公開日: 2018/09/25
    ジャーナル フリー

     本稿では,2006年にベネッセコーポレーションが実施した「学習に関する意識・実態調査」と「学力実態調査」のマッチングデータを用いて,中学2年生の進学期待に対する出身階層の影響が「学力自己評価」という主観的要因によって媒介されているかどうかを検討した.成績自己評価と「がんばればとれると思う成績」という2つの指標に着目して「学力自己評価」を測定し,「出身階層→学力自己評価→進学期待」という媒介メカニズムについて検討した結果,以下の知見が得られた.第1に,ペーパーテストで測定された学力を一定とした上でも,大卒の父親をもつ生徒は成績自己評価が高い傾向がある.第2に,学力と成績自己評価を一定とした上でも,大卒の母親をもつ生徒は「がんばればとれると思う成績」が高い傾向がある.第3に,進学期待に対して成績自己評価や「がんばればとれると思う成績」が(学力とは独立に)影響を与えている.第4に,進学期待に対する出身階層(父親と母親の学歴)の効果の一部が成績自己評価と「がんばればとれると思う成績」という主観的な要因によって媒介されている.この結果から,現代日本において「出身階層→学力自己評価→進学期待」という媒介メカニズムが存在していることが示唆される.ただし,学力に加えて「学力自己評価」による媒介を考慮した上でも,進学期待に対する出身階層(父親と母親の学歴)の(直接)効果は残ることが確認された.

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