カブリダニ科は汎世界的に分布する中気門類のダニである.その研究史を顧みると,ヨーロッパ・北米・オセアニア・日本を中心に,ハダニ類をはじめとする植物加害性ダニ類の天敵としての面から大きな発展をとげてきた.わが国における本科の研究を振り返るとき,大変幸運であったのは,正確な分類学的業績が先行した点である.Ehara(1958)によるイチレツカブリダニ,ケナガカブリダニ,ヤマトカブリダニに関する研究を端緒として,今日に至るまで(Ehara et al., 1994; Ehara and Amano,1998),わが国における各カブリダニ種の明確な位置付けが江原によりなされて来た.他国における本科の生態学的な資料が,しばしば正確な分類学的位置がわからぬまま放置されている現状を見るとき,わが国で出版されてきた分類学的業績の一貫性は特筆に値する.
わが国における本科の研究は,公表言語による制約はあるものの,研究上の他先進的諸国のものと比べ質量ともに決して遜色のないものである.また,その内容は時宜を得た刊行物の中で総説的に扱われ,後進の研究者に利用されてきた(江原・真梶, 1975, 1996; 森・真梶, 1977; 江原, 1993; 森, 1993; 高藤, 1998).本総説では,これらの書物で扱われた内容との重複を出来る限り避け,主として在来性のカブリダニ種に焦点をあて,比較的最近行われた研究の動向と現在の位置付けを概観していきたい.読者は,上記の参考書物に引用された多くの文献のリストを併用して本稿を利用し,わが国での研究史の全容を理解されたい.
なお,在来カブリダニ種のみならず,主要な導入種についても明解な和名が存在する現状を鑑み,本稿ではそれぞれのカブリダニ種を和名で呼ぶこととする.
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