特定の人物の選出が目的にもかかわらず,多くの独裁者は競争的選挙を実施する。しかし選挙は不確実であり,目的達成には操作が必要となる。とはいえ過度な操作は選挙だけでなく体制の正当性を低下させる。つまり独裁者は,操作による目的達成と正当性維持のあいだでジレンマに直面する。本稿はラオスの村長選挙を事例に,ラオス人民革命党が選挙を巧妙に操作することで目的を達成する一方,候補者選出過程に有権者の声を反映させるなど「民主的」選挙の外形を頑なに守り,ジレンマ解消に努めていることを明らかにする。選挙は茶番かもしれないが,党にとっては「民主主義」を演出する重要な舞台であり,体制が「民主主義」の価値を国民と共有しているとの認識を創り出す場となっている。本稿からは,「民主主義」へのコミットメントを示すことが,選挙ジレンマの解消だけでなく,独裁体制の正当化にとっても重要であることが示唆される。
中国の国際開発事業が拡大するなか,多くの中国人研究者がその研究に積極的に取り組むようになり,「独自」の国際開発研究を打ち出している。しかし,彼らによる国際開発研究の中身は十分に解明されていない。それに対して,本稿は,中国における国際開発研究の受容と展開に着目し,国際開発という名を冠した研究・教育機関の設立経緯とその代表的な中国人研究者の研究活動を分析した。その結果,中国における国際開発研究が,欧米の国際開発研究を吸収することから始まり,それに合流したり抵抗したり,さらに差異化を図りながら拡大してきた過程が明らかになった。そこで中国人研究者は自国の国際開発の価値を,「西洋」との差異化と国際的開発目標への接近に求め,実用主義を用いた理念構築と開発効果の実証研究を通して示そうとしているという今日的特徴が形作られた。国際開発研究の脱「欧米中心主義」の考察をする上で,こうした中国の事例は示唆に富む。