本稿では,台湾の半導体設計企業による液晶デジタルテレビ用SoC事業の分析を通じて,後発工業国の企業が,製品の中核機能が高度に集約された「問題解決型コア部品」の供給者として高い市場シェアを確立するにいたった過程を明らかにする。分析にあたっては,台湾のSoCベンダーが,コンポーネント知識のみならず製品レベルの知識までを獲得するにいたった過程に光をあてる。まず,台湾企業が先発SoCベンダーへのキャッチアップを遂げた局面を分析し,コンポーネント知識の5つの獲得経路を示す。また,これらの企業が,顧客が直面する問題の解決と顧客のもつ製品知識の吸収を並行して行うなかから,製品レベルの知識を獲得した経緯を明らかにする。次いで台湾のSoCベンダーが高い市場シェアを確立した局面を分析し,これらの企業への製品知識の持続的流入のメカニズムを示す。最後に議論のまとめを行う。
石油をはじめとする天然資源が民主主義を阻害するという「資源の呪い」に関する研究は,石油と民主主義の間に負の相関関係を見出す「資源の呪い」肯定論に対し,それを真っ向から否定する否定論,そして「呪い」は特定の場合にしか成り立たないとする条件論が修正を迫るという形で展開してきた。最近の研究では,「資源の呪い」には時間的・空間的な限定が付されるようになっており,これは一方で理論の精緻化に結びつくものではあるが,他方で歴史的,あるいは国際的な要因の軽視に繋がる危険性を孕んでいる。植民地支配から脱植民地化に至る期間にまで遡って分析の対象とし,かつ国際関係の影響に注目しつつ研究することで,資源と政治体制の間の因果関係のより的確な理解に近づくことができる可能性がある。