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胸郭全体の拡張差を考慮した指標による検討
足達 大樹, 西口 周, 福谷 直人, 加山 博規, 谷川 貴則, 行武 大毅, 田代 雄斗, 堀田 孝之, 森野 佐芳梨, 山田 実, 青 ...
セッションID: 0251
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
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【はじめに,目的】一般に,加齢による胸郭の可動性の低下は肺活量の低下をもたらすことが知られている。肺活量の低下は運動機能の低下や,息切れ感の増大,呼吸器疾患への罹患に繋がることが明らかとなっているが,本邦では潜在する未診断・未治療の呼吸器疾患患者の増大が問題視されている。そのため,地域においても高齢者の呼吸機能評価を健康診断の一部として実施することが必要と考えられるが,呼吸機能検査として病院で用いられるスパイロメーターは,熟練した検査者の技術を要することから地域での実施は困難である。一方,臨床現場で用いられるメジャーを使った胸郭拡張差評価は,特別な機器・技術を必要とせず,地域において実施可能な検査の一つである。胸郭拡張差は臨床的に腋窩高,剣状突起高,第10肋骨高において測定され,先行研究において肺活量との関連が示されている。しかし,肋骨の動き方は上部と下部で異なり,そのアプローチ方法も様々であることから,各人によって胸郭可動性が低下する場所は異なることが予想される。これらの点を考慮すると,同時に3カ所全体の胸郭拡張差を評価することも,肺活量の評価の一つとして必要であると考えられる。これらのことから本研究の目的は,地域在住高齢者における肺活量と胸郭全体の拡張差との関連を検討することとした。【方法】呼吸器疾患の既往歴を有さない60歳以上の地域在住高齢男性66名(71.4±5.1歳)を対象とした。肺活量は電子スパイロメーター(フクダ電子社製SP-370COPD肺Per)を用いて努力性肺活量(以下FVC)を測定した。胸郭拡張差の測定は安静立位をとり,対象者の腋窩高,剣状突起高,第10肋骨高の3カ所においてメジャーにて測定した。各部位の最大吸気位と最大呼気位の胸郭周径の差を胸郭拡張差とし,測定は各部位で2回ずつ行い,その平均値を解析に用いた。また得られた3カ所の胸郭拡張差を用い,胸郭拡張差Root Mean Square(以下拡張差RMS)を算出した。RMSとは相加相乗平均のことであり,各部位における胸郭拡張差の二乗を合計し,測定部位数で除した後,平方根を算出したものである。この値が高値であることは3カ所全体の胸郭可動性が良好であることを意味する。統計解析はFVCと3カ所における胸郭拡張差,およびFVCと拡張差RMSとの関連をPearsonの相関係数を用いて検討した。統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当該施設の倫理委員会の承認を得て,紙面および口頭にて研究の目的・趣旨を説明し,同意を得られた者を対象者とした。【結果】FVCの平均値は2.9±0.9Lであった。腋窩高・剣状突起高・第10肋骨高での胸郭拡張差とFVCとの間には有意な関連はみられず,拡張差RMSとFVCの間には有意な関連(r=0.262;p=0.03)がみられた。【考察】本研究では肺活量と各部位における胸郭拡張差との間には関連がみられず,肺活量と拡張差RMSとの間に有意な正の相関関係を認めた。すなわち,3カ所全体の胸郭拡張差が低下する高齢者ほど,肺活量が低下していることが示された。若年者や中年期を対象とした先行研究では,腋窩高および剣状突起高での胸郭拡張差と肺活量との間に有意な関連がみられると報告されている。しかし,本研究では先行研究と同様の傾向はみられなかった。この一理由として高齢者においては,若年者と比べて円背や側弯など多様なアライメント変化が生じるため,各人で肺活量に影響を与える胸郭可動性の低下を生じる部位が異なると予想される。そのため,先行研究とは異なる結果になったと考えられる。本研究の結果から,地域に暮らす高齢者は一カ所のみならず,上部胸郭から下部胸郭にわたる胸郭全体の拡張差を同時に評価する必要がある。そして,今回我々が考案した拡張差RMSという指標を用いることで,地域在住高齢者の肺活量を簡便に評価できることが示唆された。今後は縦断的な研究を行うことで,肺活量と拡張差RMSの変化における因果関係を明らかにする必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究によって,地域において簡便に高齢者の呼吸機能低下を評価できることが示された。地域において呼吸機能を評価することは,日本で増加する未診断・未治療の呼吸器疾患患者に対して早期の診断の目安になるとともに,不可逆的な呼吸機能の維持のためにも重要な課題である。そのため,本研究のような簡便な呼吸機能評価法の確立は今後積極的に行われるべきである。
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―2年間の縦断調査による検討―
松村 拓郎, 沖 侑大郎, 藤本 由香里, 塚本 利昭, 高橋 一平, 中路 重之, 石川 朗
セッションID: 0252
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
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【はじめに,目的】横断研究,縦断研究の双方で健常者や呼吸器疾患患者の肺機能と筋肉量の関連が報告されており,筋肉量の減少は加齢による呼吸機能低下を加速させることが明らかとなっている。しかし,この筋肉量の測定は専用の機器が必要であり,臨床現場において必ずしも測定できるわけではない。一方で,簡易に測定可能な握力は全身筋肉量との関係も報告されている。我々は,握力を評価することで,筋肉量と同様に呼吸機能の継時的変化が予測可能となるという仮説を立て,呼吸機能の経年変化と握力,筋肉量それぞれの関係を2年間にわたり縦断的に調査した。【方法】対象は岩木健康増進プロジェクト2009参加者のうち,2010,2011と3年連続での調査が可能であった40歳以上の地域住民363名(平均年齢59.4±9.6歳,男性131名,女性232名)とした。自己記入式調査により,呼吸器疾患の診断を受けている者,既往を持つ者は除外した。呼吸機能は一秒量(以下FEV1),努力性肺活量(以下FVC)を調査し,2年間での平均変化量(⊿FEV1=(2011年のFEV1-2009年のFEV1)/2,⊿FVCも同様)を算出した。全身筋肉量は生体インピーダンス法により測定し,握力は2回測定した最大値を用いた。これら調査項目について2009年の結果をベースラインとし,ベースラインの握力,全身筋肉量と2年間での呼吸機能変化(⊿FEV1,⊿FVC)の関係を調査した。統計解析はすべて男女別に行い,目的変数を⊿FEV1(⊿FVC),説明変数をベースラインの全身筋肉量または握力,調整変数を年齢,身長,喫煙歴,運動習慣,ベースラインのFEV1(FVC)とした重回帰分析により標準偏回帰係数(β),調整済みR
2を算出した。統計ソフトはSPSS Statistics 17.0を使用し,統計学的有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は弘前大学倫理委員会の承認を受けて実施した。対象者には十分な説明を行い,同意を得た。【結果】ベースラインの全身筋肉量は男性:50.1±5.9 kg,女性:35.1±2.8 kg,握力は男性:47.4±8.7 kg,女性:29.2±4.2 kgであった。ベースラインからの変化量は⊿FEV1が男性:113.7±325.8 ml/year,女性:-82.49±286.8 ml/year,⊿FVCが男性:105.8±437.5 ml/year,女性:-142.0±356.8 ml/yearであった。重回帰分析の結果,⊿FEV1を目的変数とすると,年齢,身長,喫煙歴,運動習慣,ベースラインのFEV1で調整しても筋肉量(男性:β=0.314,p<0.001,R
2=0.589,女性:β=0.277,p<0.001,R
2=0.717),握力(男性:β=0.209,p<0.01,R
2=0.552,女性:β=0.202,p<0.001,R
2=0.694)がそれぞれに有意な関連因子として抽出された。同様に⊿FVCを目的変数としても,筋肉量(男性:β=0.351,p<0.001,R
2=0.640,女性:β=0.272,p<0.001,R
2=0.759)と握力(男性:β=0.262,p<0.001,R
2=0.602,女性:β=0.207,p<0.001,R
2=0.741)はそれぞれ有意な関連因子として抽出された。【考察】本研究では男性,女性の双方で筋肉量,握力とその後2年間の呼吸機能変化の関連がみとめられた。このことから,握力は筋肉量と同様に呼吸機能の経年変化の予測に有用であることが示唆された。一方,先行研究および本研究の女性対象者では呼吸機能が経年的に低下していたのに対し,本研究の男性対象者においては経年的な呼吸機能の向上がみとめられた。Rossiら(2011)をはじめとして,十分な筋肉量が加齢による呼吸機能低下を軽減させることは多く報告されているが,肺機能の向上にまで言及したものは見受けられない。本研究では非常に高い筋肉量や握力が呼吸機能の向上につながるという結果を示し,先行研究から発展した新たな可能性を示唆した。しかし,本研究対象者は平均筋肉量,握力において非常に高値を示しており,先行研究よりも若年で,なおかつ3年間継続して健康診断を受診している健康への関心が高い者であることがうかがえる。本研究の結果にはこのような対象者属性の影響が考えられることから,その解釈にはさらなる検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】本研究における2年間の縦断的調査から加齢による呼吸機能変化の予測に握力が有用であることが示された。また,握力,全身筋肉量の向上が肺機能の向上につながる可能性が示唆された。これは,呼吸器疾患患者や術後患者の呼吸機能改善への一助となると考えられる。
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中嶋 仁, 東 大輝, 都留 貴志, 加納 一則
セッションID: 0253
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
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【はじめに】ノルディックウォーキング(NW)は,2本のポールを持ち歩行することで下肢だけでなく上肢にも負荷がかかり,通常歩行より高い運動効果が期待できる。我々はNWを呼吸リハプログラムに導入している。NWにおける上肢への影響を検討した研究では,上腕三頭筋や上腕二頭筋に対するものがほとんどで呼吸補助筋に対する研究はない。今回の研究目的は,NWと各種歩行様式における呼吸補助筋の筋活動の違いを比較検討することである。【対象と方法】被験者は健常男性11名,平均年齢33.4±10.2歳である。歩行様式は,至適速度での通常歩行(通常歩行),通常速歩(速歩),500gの重垂を両手に把持しての歩行(重垂歩行),500gの重垂を両手に把持しての速歩(重垂速歩),至適速度のNW(NW)の5つの歩行とした。重垂500g把持での歩行・速歩は,肘関節90°屈曲位保持で腕を振るように指導した。NWはポールを踵骨付近に突き,推進力を得るAggressive Styleとした。筋活動の測定は表面筋電図(NORAXON社製TELEMYO DTS)を用いた。測定筋は,胸鎖乳突筋,大胸筋,腹直筋上部,僧帽筋上部,僧帽筋中部,僧帽筋下部,広背筋の7筋とし全て右側で測定した。歩行周期を把握するためにビデオ撮影を行い筋電図と同期させた。歩行距離は15mとし,歩行が安定した一歩行周期の全波整流積分値(IEMG)を算出した。そして,速歩,重垂歩行,重垂速歩,NWのIEMGを標準化するために通常歩行のIEMGで徐算した(%IEMG)。また,歩行速度を確認するために15m歩行時間を測定し時速変換した。統計学分析は通常歩行,速歩,重垂歩行,重垂速歩,NWの5つの歩行様式の各筋の平均%IEMGに対して一元配置分散分析を行い,差を認めた項目について多重比較を行った。併せて各歩行様式における歩行速度の違いも同様に検討した。【説明と同意】今回の研究は,当院の倫理委員会の規定に基づいて実施した。本研究の趣旨,内容,中止基準および個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で研究協力の承諾を得た。【結果】胸鎖乳突筋の筋活動において,重垂速歩(169.6±101.1%)とNW(164.1±54.2%)は,通常歩行よりも有意に高かった(P<0.01)。大胸筋の筋活動において,重垂速歩(192.3±116.4%)とNW(319.5±156.0%)は,通常歩行,重垂歩行(137.0±69.5%)よりも有意に高かった(P<0.01)。腹直筋上部の筋活動において,NW(202.4±128.1%)は,通常歩行,重垂歩行(92.0±30.0%),重垂速歩(114.3±29.4%)よりも有意差に高かった(P<0.01)。僧帽筋上部の筋活動において,重垂歩行(222.2±95.0%),重垂速歩(272.2±100.2%),NW(255.7±116.3%)は,通常歩行,速歩(147.1±54.4%)よりも有意に高かった(P<0.01)。僧帽筋中部の筋活動において,NW(308.7±222.7%)は,通常歩行,速歩(125.4%±19.0%),重垂歩行(146.70±50.1%),重垂速歩(186.3±73.0%)よりも有意に高かった(P<0.01)。僧帽筋下部の筋活動において,NW(465.0±459.7%)は,通常歩行,速歩(135.4%±20.5%),重垂歩行(115.3±24.5%),重垂速歩(167.1±39.5%)よりも有意に高かった(P<0.01)。広背筋の筋活動において,NW(489.6±582.0%)は,通常歩行,速歩(251.4%±360.7%),重垂歩行(125.6±78.6%),重垂速歩(194.1±156.4%)よりも有意に高かった(P<0.01)。歩行速度は,通常歩行(5.5±0.3km/h),速歩(7.2±0.8km/h),重垂速歩(7.3±0.6 km/h),重垂歩行(5.8±0.4 km/h),NW(6.2±0.4 km/h)であった。各歩行様式の違いによる歩行速度の差を認めた(P<0.01)。【考察】NWはポールで床面を押し推進力を得るために上肢の積極的な運動が促される。そのため,歩行速度が速歩より遅くても,重垂を把持しなくても呼吸補助筋の筋活動が有意に高まった。上肢筋や呼吸筋,呼吸補助筋を強化することで呼吸苦の軽減や運動耐容能の改善が期待出来ることから,NWが呼吸器疾患患者に適したリハビリプログラムになると考える。【理学療法学研究としての意義】NWの呼吸リハ効果の報告は少ないが,今回の結果が呼吸リハ効果の要因や適応の一考察となることから本研究の意義がある。
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運動器機能による差異
原田 和弘, 島田 裕之, 朴 眩泰, 牧迫 飛雄馬, 土井 剛彦, 李 相侖, 吉田 大輔, 堤本 広大, 阿南 祐也, 李 成喆, 堀田 ...
セッションID: 0254
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
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【はじめに,目的】認知症の予防戦略を構築するためには,認知症や認知機能低下に関連する生活習慣を同定することが重要である。近年は,外出を行うことが,認知機能の維持や認知症の予防に関連していることが示され始めている。外出に注目することの利点として,特別な知識・動機づけや環境が不要なため,高齢者にとって行動変容しやすい生活習慣と考えられる点が挙げられる。また,先行研究の動向を踏まえると,外出は,運動器機能が低下した認知機能に対して,特に重要である可能性がある。しかし,運動器機能が,外出と認知機能との関連性に及ぼす影響は不明である。そこで本研究では,地域在住高齢者の運動器機能の程度によって,外出と認知機能との関連性が異なるかどうかを検証した。【方法】本研究では,2011年8月~2012年2月に,国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターが実施したObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)のデータを解析した。OSHPEは,65歳以上の地域在住高齢者5104名を対象に実施された。本研究では,1)要介護・要支援認定,2)基本的ADLの低下,3)抑うつ・パーキンソン病・脳卒中・アルツハイマー病の既往・現病,および4)解析に用いた変数に欠損のある者を除いた4463名を解析対象者とした。解析に用いた項目は,Mini-Mental State Examination(MMSE),週1回以上の外出の有無,運動器機能の低下有無(基本チェックリストより抜粋),基本属性・疾病状況(性別,年齢,教育歴,高血圧,糖尿病など)であった。MMSEを連続変量とした解析として,週1回以上の外出と運動器機能の低下を独立変数,MMSE得点(0-30点)を従属変数,基本属性・疾病状況を共変量とした二元配置共分散分析を行った。また,カテゴリカルな解析として,対象者を運動器の機能低下の有無で層化した上で,週1回以上の外出を独立変数,MMSE24点以上/未満を従属変数,基本属性・疾病状況の影響を調整変数とした層別ロジスティック回帰分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】OSHPEは,国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で,ヘルシンキ宣言を遵守して実施された。対象者にはOSHPEの主旨・目的を説明し,書面にて同意を得た。【結果】共分散分析の結果,MMSE得点(0-30点)に対する外出と運動器機能の交互作用は有意であった。共分散分析後の多重比較を行ったところ,運動器機能が低下していない高齢者では,週1回以上の外出とMMSE得点との間に,有意な関連性は認められなかった(週1回以上:平均26.3点,週1回未満:平均26.0点)。一方,運動器機能が低下した高齢者では,週1回以上外出している者(平均26.0点)の方が,外出していない者(平均24.4点)よりも,MMSE得点が有意に高かった(p<0.001)。また,層別ロジスティック回帰分析により,運動器機能が低下していない高齢者においては,週1回以上の外出が,MMSEが24点以上であることと有意には関連していなかった(調整オッズ比=1.02,95%信頼区間=0.72-1.46)。しかし,運動器機能が低下した高齢者においては,週1回以上外出していることが,MMSEが24点以上であることと有意に関連していた(調整オッズ比=2.16,95%信頼区間=1.04-4.50)。【考察】本研究により,運動器機能が低下した高齢者において,外出頻度は認知機能と関連していることが明らかとなった。このことは,外出を行うことは,運動器機能が低下した高齢者の認知機能に対して,特に重要であることを示唆している。先行研究では,外出と認知機能との関連性が報告されているものの,高齢者の特性によって,両者の関連性が異なるかどうかは検証されていない。本研究により,両者の関連性は,高齢者の運動器機能の程度によって異なることが確認された。運動器機能が低下した高齢者においてのみ両者の関連性が認められた理由として,運動器機能が低下した高齢者は,身体・社会活動など認知機能の維持向上に役立つ行動を実践する機会が減少するため,外出という強度の低い行動であっても効果的に作用する可能性が考えられる。一方,運動器機能が維持されている高齢者においては,外出よりも,より強度の高い活動(例:身体活動)の方が,認知機能に対して重要であるかもしれない。今後は縦断的検討により,これらの横断的相互関連性がより厳密に解明されることが期待される。【理学療法学研究としての意義】高齢者の自立した生活を維持するためには,認知機能・身体機能の低下を防ぐことが重要である。そのための介入方法を開発することは,理学療法学研究の大きな課題の1つである。外出を促すという介入手法が,一部の高齢者の認知機能向上に効果的である可能性を示した点で,本研究は理学療法研究としての意義があると思われる。
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二次予防事業対象者での検討
高岡 克宜, 鶯 春夫, 田野 聡, 近藤 慶承, 嶋田 悦尚, 小河 忠義, 徳元 義治, 山下 陽輔, 新居 陽介, 澁谷 光敬, 橋本 ...
セッションID: 0255
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
会議録・要旨集
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【はじめに,目的】近年,二次予防事業対象者に対して様々な介護予防事業が各地で展開されている。一般高齢者を対象とした先行研究においては運動を継続することによって運動機能が有意に改善すると報告(宮本ら2005,田口ら2008)しており,我々は高齢者の運動習慣を定着させ心身機能の維持向上や生活空間拡大を図ることが重要であると考えている。しかし,運動習慣と身体機能の関係を検討した報告は散見されるが,運動頻度や運動時間と生活空間の関係を検討した報告は少ない。そこで,本研究では二次予防事業対象者の運動頻度や運動時間の差異が身体機能指標及び生活空間指標にどのような影響を及ぼすかを明らかにすることを目的とする。【方法】対象は平成24年度A県B広域連合の3町における通所型介護予防事業に参加した二次予防事業対象者43名(男性:6名,女性37名,平均年齢75.8±5.6歳)である。方法は,対象者に対して事前に作成した質問紙にて年齢,性別,運動習慣の有無,運動頻度,運動時間,運動内容(重複回答)を調査し,厚生労働省の運動習慣の定義を参考に週2回以上30分以上の運動習慣を持つ群(以下,運動群),運動習慣を持つが運動群に当てはまらない群(以下,低運動群),コントロール群として運動習慣を持たない群(以下,非運動群)の3群に分類した。また,身体機能指標として握力,開眼片脚立ち,長座体前屈,30秒椅子立ち上がりテスト(以下,CS30),Timed up and go test(以下,TUG),5m最速歩行時間(以下,5mMWS)を,生活空間指標としてLife space assessment(以下,LSA)を点数化し,3群間での各身体機能指標及び生活空間指標を比較検討した。統計学的解析には一元配置分散分析を用い有意差を認めた場合は多重比較検定を行った。なお,全ての有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】全ての対象者に本研究の趣旨を書面にて説明し測定及び学会発表等の同意を得た。【結果】対象者を運動習慣別に分類した結果,運動群15名(34.9%),低運動群19名(44.2%),非運動群9名(20.9%)であった。運動頻度は運動群では毎日が7名(46.7%),週4-6日が2名(13.3%),週2-3日が6名(40.0%),低運動群では,毎日が7名(36.8%),週4-6日が3名(15.8%),週2-3日が3名(15.8%),週1日が5名(26.3%),月2-3日が1名(5.3%)であった。運動時間は運動群では2時間以上が1名(6.7%),1-2時間が5名(33.3%),30-60分が9名(60.0%),低運動群では1-2時間が1名(5.3%),30-60分が1名(5.3%),20-30分が3名(15.8%),10-20分が6名(31.6%),10分未満が8名(42.1%)であった。運動内容(重複回答)に関しては運動群で最も多かったのはウォーキングで12名(80.0%),低運動群で最も多かったのは筋力トレーニングで7名(36.8%)であった。また,身体機能指標及び生活空間指標においては低運動群に比べて運動群のTUG,5mMWSは有意に低値を示し(p<0.05),LSAは有意に高値を示した(p<0.05)。しかし,非運動群との間に有意差を認めなかった。【考察】本結果から週2回以上30分以上の運動習慣を持つ二次予防事業対象者は,運動習慣が低い者よりも歩行能力や生活空間が有意に高くなることが示され,運動頻度や運動時間の差異が影響を及ぼしていることが示唆された。また,運動群と低運動群の運動内容にも差が認められており,運動群の8割がウォーキングを行っていたことも影響を及ぼした一要因ではないかと推察された。さらに,総務省による日本人の生活時間における調査(2011)では,一次活動(睡眠や食事等)及び二次活動(仕事や家事等)を除いた三次活動(自由時間)が約6時間を占めているとの報告があることから,生活空間だけでなく生活スタイルの影響も考慮すべきと考えられた。今後は対象者数を増やし検討を行うことや,非運動群の生活スタイルや身体活動量を調査すること等も視野に入れる必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】二次予防事業対象者の身体機能及び生活空間と運動頻度や運動時間の関係を明らかにすることは健康増進及び介護予防分野における運動指導や生活指導等,理学療法士としての役割を明確にするものであり,本研究の理学療法研究における意義は深いと考える。
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藤本 瑛司, 大西 弘展, 鬼塚 北斗, 川内 基裕
セッションID: 0256
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】ノルディックウォーク(以下NW)とはスキートレーニングとして1997年にフィンランドで始まり,2本のノルディックポール(以下NP)を使って歩行運動を補助し,関節や脊椎に負担が少なく運動効果の高い有酸素運動とであるということから,近年では様々な分野から注目されている。当院では理学療法士がNW指導員の資格を取得し,リハビリの一環として活用している。NWの効果の一つとして,姿勢改善効果が挙げられ,臨床においてもその効果を実感している。この効果に関して,一般的にNPの高さは身長×0.68cmで設定され,一本杖よりも高い位置での把持となる。この事により,相対的に姿勢が伸展位を保持しやすくなり,脊柱アライメントへの影響があるのではないかと考える。しかし,NWによる姿勢への影響を調べた文献は散見されていない。そこで今回,NW前後の身長変化を測定することで,NWの姿勢改善に及ぼす影響を検証した。また,これまでに本研究と同様の方法で,健常者30名を対象としたNW施行前後の身長変化を検証し,健常者において身長増加効果があることを報告した。そのため,姿勢不良を呈しやすい脳血管疾患患者様に対してNWを行なうことにより,姿勢改善効果を期待出来るのではないかと考え,当院入院中の脳血管疾患を有する患者様のNW施行前後による身長変化を検討した。【方法】1.対象2013年9月~10月の間に当院に入院されていた脳血管疾患患者10名(平均年齢75歳±5歳,男性5名,女性5名)を対象とした。対象の動作能力として,5分以上のNWを見守り又は自立で可能な者とした。また,整形疾患の既往が無く,指示理解が良好な者を対象とした。2.歩行スタイルNWではポールを垂直に立てるJapanese style(以下Js)と,斜め後方につくEurope style(以下Es)がある。Jsの特徴としては運動強度が低く,支持基底面が前方に安定して位置しているので安定した運動が可能である為,高齢者で用いられることが多い。Esでは運動強度が高くスピードが早くなる為,アスリート等が使用していることが多い。当院ではJsを用いており,本研究においてもJsを用いることとし,NW指導員が対象に対し歩行方法の指導を行った。3.測定方法測定方法として,NW前に裸足にて身長を測定し,その後5分間連続してNWを行う。NW施行期間は5日間とし,6日目は身長測定のみ実施した。また,測定誤差防止の為,6日間連続して同時刻,同測定者で行った。身長計上での姿勢に差異が出ない様,測定者の口頭指示を統一した。4.分析1日目のNW前と6日目の身長を比較した。また,統計処理はウィルコクソンの符号順位検定を用い,p<0.05を有意差ありとした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,本研究の主旨と倫理的配慮について口頭及び,書面にて十分に説明し,同意を得た上で本研究を行った。【結果】1日目のNW前の身長は平均158.64cmであり,6日目の身長は平均159.18cmであった。1日目のNW前と6日目との各対象者の身長変化において有意な増加がみられた。(p<0.05)【考察】NWを行なうことにより,脳血管疾患患者に身長の増加を認めた要因として,NWの特徴である胸を張るという事や,左右対称の動作を行うことで,NPが無い状態においても良姿勢が維持され易くなった可能性が考えられる。また,身体がNPを地面に突く事によって得られる突き上げ作用により,体幹の伸展モーメントを助長させ,身長に変化を起こす可能性が考えられる。先行研究において矢野らはNWを行なうことによりバイオメカニクス的に姿勢が改善する可能性があると述べており,本研究においてもその効果が示唆されたと考えられる。しかし,今回の研究では身体のどこの部位がNW後に影響を与えているかを特定するのが困難であった。今後の展望として,NWによる姿勢改善の部位を特定することや,測定期間・対象者数を増加さることにより,NWによる姿勢改善効果を検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】今回の研究でNWが姿勢改善効果に関与していることが示唆された。今後もNWのエビデンスや可能性を検討し,患者様に合ったより良い移動手段の一つとして普及させていきたい。
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小林 修, 林 悠太, 鈴川 芽久美, 波戸 真之介, 今田 樹志, 秋野 徹, 島田 裕之
セッションID: 0257
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】平成24年の国民生活基礎調査によると,高齢者のいる世帯は全世帯の43.3%を占めている。世帯構造別でみると,高齢夫婦のみの世帯(以後,夫婦世帯)が30.3%で最も多く,次いで独居世帯が23.3%であり,二つを合わせると全体の半数を超える状況にある。赤嶺らは,世帯構成別での日常生活活動能力の違いを調査した結果,世帯間に有意差は認められなかったと報告している。この報告は独居とそれ以外の世帯での比較であるが,独居以外でも夫婦世帯や子供との同居世帯(以後,同居世帯)によって必要とされる生活機能は変わることが考えられる。そこで本研究では,通所介護サービスを利用している高齢者を独居世帯と夫婦世帯,同居世帯の3群に分け,世帯構造とADL,IADLとの関連を調査し,夫婦世帯,独居世帯高齢者に対する効果的なサービス提供へ繋げていくこととした。【方法】対象は,通所介護サービスを利用している高齢者3240名(男性936名,女性2304名,年齢83.0±6.7歳)であり,世帯構成により独居群835名(男性178名,女性657名,年齢82.2±6.7歳),夫婦群489名(男性290名,女性199名,年齢80.0±6.2歳),同居群1916名(男性468名,女性1448名,年齢84.1±6.5歳)に分けた。調査項目は,年齢,性別,要介護度に加えADLの指標としてFunctional Independence Measure(FIM)を測定し,セルフケア,排泄コントロール,移乗,移動,コミュニケーション,社会的認知の大項目にカテゴリー化した。IADLの指標として国立長寿医療研究センターで開発されたNCGG-ADLスケールを使用し13項目の合計点を算出した。世帯構成間の比較について,FIM大項目,NCGG-ADLスケールはKruskal-Wallis検定,年齢は一元配置分散分析,性別,要介護度はχ
2検定を用い,有意差を認めた場合は多重比較検定としてGames-Howell法を用いた。さらに,独居生活へ影響を与える要因を調べるため,多項ロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に沿って本研究の主旨および目的の説明を行い,同意を得た。なお本研究は国立長寿医療研究センター倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。【結果】全ての調査項目において測定値に差があることが認められたため,多重比較検定を行なった。FIM大項目すべてにおいて独居群が夫婦群,同居群に比べ有意に高い点数を示し,セルフケアが独居群38.7±6.0点,夫婦群36.6±7.8点,同居群37.0±7.5点,排泄コントロールが独居群13.3±2.0点,夫婦群12.8±2.6点,同居群12.7±2.6点,移乗が独居群18.4±3.3点,夫婦群17.4±4.2点,同居群17.5±4.0点,移動が独居群11.3±2.8点,夫婦群10.6±3.3点,同居群10.6±3.2点,コミュニケーションが独居群12.8±2.2点,夫婦群12.2±2.7点,同居群12.2±2.7点,社会的認知が独居群18.1±3.9点,夫婦群17.0±4.6点,同居群17.0±4.5点であった。NCGG-ADLスケール合計点は,独居群が8.63±3.95点,夫婦群が6.41±4.45点,同居群が5.40±4.31点となり,独居群が夫婦群,同居群に比べ有意に高く,夫婦群は同居群に比べ有意に高い点数を示した。多項ロジスティック回帰分析は,移乗と移動,コミュニケーションと社会的交流との間に0.8以上の相関係数が認められたため,多重共線性に配慮し,移乗とコミュニケーションは除外した。その結果,独居群を基準とした場合の夫婦群のオッズ比は,IADL合計点が有意であった(オッズ比0.89,95%信頼区間0.86-0.92)。同居群のオッズ比は,排泄コントロール(オッズ比0.92,95%信頼区間0.86-0.98)とIADL合計得点(オッズ比0.84,95%信頼区間0.82-0.86)が有意であった。【考察】独居群は,夫婦群や同居群と比較しすべてのFIM大項目とIADLが有意に高かったことから,独居生活高齢者のADL各項目やIADL評価の重要性が示唆される。IADLに関しては,夫婦群と同居群の間でも有意差があり,夫婦群の方が有意に高かった。これは,同居者がいても夫婦群のように主介護者が高齢であると介護力が低下することから,同居群に比べ高いIADL能力を必要とすることが示唆された。多項ロジスティック回帰分析の結果,独居生活に関連する因子として排泄コントロールとIADLが抽出された。排泄コントロールは,失敗数と介護量の2つの視点で評価されるため,独居生活を支援していくためには,IADLだけでなく排泄失敗の有無や失敗後の後始末についても評価していくことが重要であると考える。今後は,縦断調査により独居生活,夫婦のみの生活継続に関する予測因子を検討していく。【理学療法学研究としての意義】本研究において世帯構造と生活機能との関連が明らかになったことは,高齢者が在宅生活を継続する為の方策を探る上での一助となる。
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盛田 寛明, 神成 一哉
セッションID: 0258
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】在宅パーキンソン病者(以下,在宅PD者)の日常生活におけるやる気や意欲などの心理的要因を改善することにより,身体機能や日常生活活動自立度向上に好影響を与えることが報告されている。Apathyは,日常生活における感情,情動,興味,関心,および目標に対する行動認知の欠如と定義され,動機づけの欠如,つまり,やる気あるいは意欲の欠如を意味する。在宅PD者に対する理学療法においてApathyなどの精神機能の活性化が課題となっているが,在宅PD者を対象とするApathy尺度(以下,Apathy Scale)の報告は少ない。唯一,PedersenらがStarksteinらのApathy Scaleを用いPD者において探索的因子分析により妥当性の検証を行った。しかし,この分析法では,因子負荷量の値が大きくても統計的に有意であるかどうかは不明であり,逆にこの絶対値が小さくても非有意であるかどうかは分からない。さらに,因子負荷量が無視しづらいほど大きいものの解釈困難となる状況が頻出する欠点がある。本研究の目的は,この欠点を補完可能な構造方程式モデリング(以下,SEM)による確証的因子分析を用い,在宅PD者を対象にStarksteinらのApathy Scaleの構成概念妥当性,基準関連妥当性,および信頼性を検証することである。【方法】調査対象者は在宅PD者188名であった。このうち,調査拒否および不正回答を除く122名(男60名,女62名,平均年齢70.9±7.8歳)を分析対象とした。調査方法は,質問紙(無記名,自記式)を用い,郵送法による配布・回収,および研修会会場集合法にて実施した。StarksteinらのApathy Scale日本語版は,岡田らの島根医科大学版を使用した。分析方法は,信頼性を検証するために内的一貫性を用いた。構成概念妥当性はSEMによる確証的因子分析にて検証した。基準関連妥当性はベック抑うつ尺度総得点との相関分析によった。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,青森県立保健大学研究倫理委員会の承認を得た。同倫理委員会の規程に基づき,調査対象となる団体および対象者に対して,研究の趣旨,方法,対象者の募集・選択における任意性の確保,個人情報の保護等について文書で十分な説明を行い,同意・回答し返却されたことをもって研究に同意したものとした。【結果】SEMによる確証的因子分析において,年齢,性,パーキンソン病発症後期間を調整因子とした結果,計14質問項目からなる原Apathy Scaleから,影響指標が0.7未満である5質問項目を削除した11指標1因子構造モデルにおいて高い適合度が得られた。除外された質問項目の内容は,仕事の自己効力感に関する質問が4項目,他人に比しての記憶力に関する質問が1項目であった。この11項目Apathy Scaleにおいて,内的整合性を示すCronbach’s α係数は0.81と高かった。基準関連妥当性については,外的基準としたベック抑うつ尺度総得点と11項目Apathy Scale総得点間に高い相関を認めた(r=0.822,p=0.000)。【考察】構成概念妥当性を検証した結果,StarksteinらのApathy Scaleから11質問項目が抽出され在宅PD者のデータに適合した。さらに,この11項目Apathy Scaleは,内的整合性が高いこと,基準関連妥当性が確保されたことが確認された。また,この尺度は,原尺度に比べ質問項目数が少なく簡便に使用でき,回答者の負担も減少することが予測される。したがって,今回,妥当性・信頼性が確認された11項目Apathy Scaleは,在宅PD者のApathy評価尺度として使用できる可能性がある。【理学療法学研究としての意義】Apathyは,適切な介入および物的環境の適合等により改善できる可能性が示されている。本11質問項目Apathy Scaleで在宅PD者のApathyを測定できれば,効率的かつ効果的な理学療法評価および目標・プログラム設定につながり,日常生活活動自立度や生活の質の向上に資する可能性がある。
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福尾 実人
セッションID: 0259
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】わが国は,諸外国に例をみないスピードで高齢化が進んでいる。このような状況のなか,団塊の世代が75歳以上となる2025年には国民の医療や介護の需要が更に増加することが見込まれている。平成22年度の国民基礎調査結果では,介護が必要となった原因をみると要支援者は第1位が「関節疾患」,第2位が「高齢による衰弱」,第4位が「転倒・骨折」とされている。これらの原因の多くは,在宅での生活活動の量や質の低下,転倒恐怖感による外出制限,加齢に伴う筋萎縮・筋力低下およびバランス能力の低下,主観的健康感による精神面が影響していることが考えられる。2008年に(社)日本整形外科学会は,ロコモティブシンドローム(以下,ロコモ)という概念を提唱した。ロコモは,運動器の障害により要介護のリスクが高い状態になると定義されている。ロコモの診断として,7つのロコモーションチェックがあり,そのなかに「階段を上がるのに手すりが必要である」の項目がある。要介護高齢者では,階段昇降の自立が身体活動量や外出に関係すると報告されている。加えて,階段昇降の自立は,転倒予測にも関連する。本研究の目的は,地域在住高齢者を対象として,階段昇降自立の可否に関する要因を明らかにすることにより未然に要介護状態を予防できる評価方法を検討することである。【方法】対象者は,中枢神経疾患や明らかな整形外科疾患を有さない介護予防教室に参加した地域在住高齢者37名(男性10名,女性27名,年齢74.7±5.6歳)とした。調査項目は,基礎情報として年齢,身体活動量の評価としてBakerらが提唱したLife-Space Assessment(LSA),転倒に対する自己効力感尺度として芳賀により簡便に改変されたFall Efficacy Scale(FES)を使用した。身体機能評価は,握力,等尺性膝伸展筋力,開眼片脚起立時間,Timed Up and Go Test(TUG),連続歩行距離とした。その他は,主観的健康感,転倒恐怖感の有無,転倒経験(過去1年間)の有無を聴取した。分析は,対象者を階段昇降自立と階段昇降に手すりが必要な者を階段昇降非自立に分割した。統計解析は,まず各評価項目の正規性をShapiro-Wilk検定にて確認した。その後,それぞれを群間比較するために,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定,名義尺度はFisherの正確確率検定を用いた。統計学的な有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,県立広島大学研究倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号M11-0050)。対象者には,十分な説明を行った後,書面にて研究参加の同意を得て実施した。【結果】対象者37名中,階段昇降自立は22名,階段昇降非自立は15名であった。群間比較の結果(階段昇降自立/階段昇降非自立),LSA91(79.5-104)/74(62-90)点,FES40(40-40)/40(33-40)点,握力28.6±9.5/23.7±4.9kg,連続歩行距離6(6-6)/6(5-6)点,主観的健康感3(3-4)/3(2-3)点,転倒経験の有無において階段昇降非自立者は有意に低い値を示した。【考察】先行研究においては階段昇降に関連する因子として,下肢筋力やバランス能力が必要となると報告されている。本研究の対象者は,会場まで自立して来た者がほとんどであり,運動機能が高く,Instrumental Activities of Daily Living(IADL)自立レベルと思われる。そのため,階段昇降自立の可否が下肢筋力およびバランス能力に有意差を示さなかったと考えられる。階段昇降動作は,歩行以外にもバスや電車などの公共交通機関を利用,乗り降りをするといった外出に関係している。加えて,階段昇降の低下はFES,転倒経験にも関係する。将来の高齢者における要介護認定の予測因子は,階段昇降ができない,外出頻度および身体活動量,握力,1km連続歩行,主観的健康感が低いことが報告されている。本研究より,地域在住高齢者における階段昇降自立の可否には,身体機能だけでなく,生活空間,自己効力感,連続歩行距離,健康心理面,転倒経験などの要因が関係することが明らかになった。今後は,階段昇降非自立者の要介護を未然に防ぐために身体機能以外の評価方法に着目する必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究から,階段昇降自立の可否は身体機能以外の要因が将来の要介護の危険因子となる可能性が示唆された。今後の超高齢化社会に向けて,早期の介護予防を行える評価方法,プログラム作成の一助となればと考える。
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新井 慎, 塩澤 成弘
セッションID: 0260
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【目的】近年,体重心加速度を計測することによって,歩行能力を評価する方法が多くの研究で行われている。これらの研究では,歩行開始や停止を除いた歩行速度の安定した時期を主な分析対象としている。しかし歩行能力を高齢者の転倒から考えた場合,歩行開始時や停止時などの歩行速度に大きな変化がある時期が想定できる。立ち上がって歩く能力を評価する方法に,Sit-to-Walkがある。先行研究では,歩幅や歩隔,振り出しの時間や重心の軌跡は転倒への恐怖心と関係が認められている。しかしSit-to-Walkを三次元動作解析装置および床反力計という高額な機器を用いて評価をしており,現場での導入は容易ではない。そこで本研究において,臨床応用が比較的容易な携帯型加速度モニタ装置を用いてSit-to-Walkを計測し,解析することで,転倒経験のある高齢者の特徴を示すことを目的とした。【方法】実験参加者は,元気づくり体操参加者56名,介護老人保健施設の入所者およびデイケア利用者の15名の計71名(平均年齢71±9歳)とした。実験参加者に対して,過去1年以内に屋内平地歩行中に起こった転倒の有無をアンケートにて調査し,転倒群15名と非転倒群56名の2群に分けた。Sit-to-Walkは,背もたれにもたれた椅坐位からスタートの合図とともに立ち上がり,あらかじめ前方に引いた3mのラインまで歩く動作とした。その際,携帯型加速度モニタ装置を腰部後面に装着し,動作中の加速度をサンプリング周波数50Hzで計測した。計測されたデータから,開始から1歩目まで,1歩目から2歩目まで,2歩目から3歩目まで,さらに停止の3歩前から停止の2歩前まで,停止の2歩前から停止の1歩前まで,停止の1歩前から停止まで(それぞれ以下,開始1歩目,開始2歩目,開始3歩目,停止3歩前,停止2歩前,停止1歩とする。)に区分した。統計処理は,各区分の鉛直,左右および前後方向の加速度の大きさと転倒の有無について,2要因の分散分析を用いて比較を行った。鉛直,左右および前後方向のピーク値が判別できない転倒群3名,動作遂行の際,6歩に満たない非転倒群7名を除いて分析を行った。さらに交互作用があり,単純主効果があった項目を独立変数,転倒の有無を従属変数とした判別分析(ステップワイズ法)を行った。なお,有意水準は5%未満をもって有意とした。【説明と同意】立命館大学研究倫理委員会の承認のもと,全ての被験者に本研究の目的および内容について十分に説明し,同意を得た上で実施した。【結果】転倒×加速度の2要因の分散分析を行った結果,転倒と停止3歩前,停止2歩前,停止1歩の前後方向の加速度の大きさのみの交互作用が有意であった(
F(2,118)=3.57,
p<.05)。単純主効果は停止3歩前(
F(1,177)=29.69,
p<.01),停止2歩前(
F(1,177)=23.71,
p<.01),停止1歩(
F(1,177)=8.79,
p<.01)とも有意であった。さらに下位検定では,転倒群の停止3歩前と停止1歩,非転倒群の停止3歩前と停止2歩前,停止3歩前と停止1歩,停止2歩前と停止1歩が有意であった(それぞれ
p<.01)。判別分析の結果は,判別率80.3%(ウィルクスのλ=0.71,
p<.01)で転倒群と非転倒群を判別することができ,感度が83.3%,特異度が79.6%であった。選択された変数は停止2歩前で,判別係数は-27.977,定数は3.53932であった。【考察】歩行開始と停止の特性を明らかにした先行研究によると,歩行の停止終期の床反力が大きくなる理由として,慣性力を止める力が必要であると述べられている。本研究においても,停止3歩前,停止2歩前,停止1歩の前後方向の加速度の大きさのみが,転倒と交互作用が認められ,歩行開始よりも慣性力を止める必要がある停止の方が,転倒に関与しているという結果が認められた。さらに非転倒群は,停止の際には1歩毎で慣性力を止めることが可能であるが,転倒群は停止の際には1歩毎で慣性力を止めることができず,慣性力を止めるためには2歩必要であるという特徴が認められ,転倒群と非転倒群を判別する指標として,停止2歩前の加速度が重要であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】歩行速度に大きな変化がある時期の特徴を明らかにすることによって,転倒の予測が可能となり,転倒要因の解明の一助となるのではないかと考えられる。
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加藤 丈博, 竹本 利絵子, 山田 友里江, 尾山 勝正, 小林 孝彰, 光本 貴雅, 大場 俊宏, 矢吹 文香, 斎藤 圭介
セッションID: 0261
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】椎体骨折は骨粗鬆症に起因する骨折で最も頻度が高く,日本人女性の70歳代の有病率は約30%とされている。椎体骨折の原因の殆どは転倒であり,椎体骨折を生じると再転倒しやすく再骨折も多く,転倒をいかに防ぐのかが重要である。一般的に,転倒予測に関する評価尺度としてはTimed Up and Go test(TUG)や片脚立位時間などが用いられ,予測精度や信頼性・妥当性が検証されている。しかし椎体骨折を有する高齢者を対象とした研究は殆どみられない。また椎体骨折既往者は,一般の高齢者と比較して起居移動時や階段昇降時に後方へ転倒することが多く,転倒を回避するための動的バランス,特にステップ動作の低下が要因の一つではないかと考えられている。本研究では,椎体骨折を有する高齢者の再転倒を予防するための基礎的検討として,特にステップ動作課題を用いたパフォーマンスメジャーとして宮本らのTen Step Test(TST),DiteらのFour Square Step Test(FSST)を取り上げ,転倒歴に対する感度と特異度の側面から転倒予測指標としての応用可能性を検討することを目的とした。【方法】対象は,岡山県内一カ所の医療法人における通所リハビリテーション利用者で,椎体骨折の既往を有する者のうち,脳卒中など重篤な身体障害を引き起こす疾患を有さず屋内歩行可能な者30名(年齢84.7±5.6歳,男性8名,女性22名)とした。調査項目は,基本属性・医学的属性,転倒歴,パフォーマンスメジャーで構成した。パフォーマンスメジャーに関してはTSTとFSSTに加え,転倒予測指標として普及している代表的指標としてTUGと片脚立位時間を取り上げた。測定は2回実施し良い方の値を採用した。統計処理に関しては,過去3ヶ月以内の転倒歴から「転倒あり群」「転倒なし群」の2群に分け状態変数とし,4つの指標を検定変数としてそれぞれのReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線から曲線下面積(ROC-AUC),感度,特異度を求めた。さらに診断指標としての有用性を表すために,陽性尤度比と陰性尤度比を算出した。カットオフ値はYouden Indexにより算出した。【倫理的配慮,説明と同意】病院の倫理審査を経ると共に,対象患者よりデータ使用の書面による同意を得て行った。【結果】過去3ヶ月以内の転倒歴を状態変数として得られたROC-AUCは,TUG0.50,左片脚立位0.57,右片脚立位0.56,TST0.61,FSST0.46と統計的に有意であった。感度・特異度は,TUG85.7%・25.0%,左片脚立位85.7%・45.0%,右片脚立位85.7%・45.0%,TST85.7%・55.0%,FSST85.7%・30.0%で,感度は各指標で同程度なのに対し,特異度はステップ動作課題であるTSTが最も高い値を示した。なお陽性尤度比はTUG1.14,左片脚立位1.56,右片脚立位1.56,TST1.90,FSST1.22,陰性尤度比はTUG0.57,左片脚立位0.32,右片脚立位0.32,TST0.26,FSST0.48であった。カットオフ値は,TUG11.7秒,左片脚立位4.6秒,右片脚立位5.0秒,TST14.7秒,FSST11.6秒であった。【考察】本研究において,感度は4つの指標とも85.7%であったが,特異度はTSTで55.0%と他指標よりも高い結果であった。陽性尤度比は高値である程検査が有用とされ,10以上で確定診断に用いられる。本研究で取り上げた指標は1.14から1.90でどの指標も低値を示したが,TSTは他の3指標よりも高値を示した。一方,陰性尤度比はより低値な程検査が有効とされ,TSTは0.26と最も低値を示した。TSTは10cmの台に足を交互に乗せるステップ課題であり,敏捷性の評価を狙いとしているが,その内容は前後方向への重心移動の要素も含んでいると考えられる。椎体骨折既往者には脊柱の変形を伴う場合も多く,後方への転倒リスクが高い。後方への重心移動の要素を含んだTSTは評価指標として椎体骨折の疾患特性を反映していると考えられる。一方,FSSTは十字に並べた棒を前・横・後と順番に跨いで移動するテストで,TSTと同じく後方への重心移動の要素をもつテストであるが,今回は低い結果となった。その理由として,FSSTは前・横・後3方向の重心移動の要素をもつため他のテストに比べて課題の難易度が高いことや,棒を跨ぎながら連続して移動するということで注意・認知面の要素も影響したのではないかと考える。本研究において,椎体骨折の既往を有する高齢者に対する転倒予測指標としてTSTを普及させる程の知見は得られなかったものの,対象数の蓄積や前方視的検討を通じて有用な転倒予測指標となりうる可能性を示唆するものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】一般的な転倒予測指標としてTUGや片脚立位が普及しているが,再転倒が多い椎体骨折既往者において予測精度の高い指標を見いだせたことは,当該疾患の転倒予防方法の確立に大きく道を開く知見と考える。
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佐久間 誠司, 渋谷 誓子, 佐藤 英成, 福島 一雄
セッションID: 0262
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに】ハンセン病施設である当療養所では,現在70名の入所者が居住し,平均年齢は82歳と高齢化している。平成24年度の転倒転落の報告は69件あり,年々進む高齢化に伴い,入所者の転倒予防が重要な課題となっている。今回,①毎年実施している入所者健診で測定した下肢筋力の経時変化を検討した。次に②リハビリと組み合わせて,筋肉の組織再生を促すアミノ酸,βヒドロキシβメチル酪酸(以下HMB)を含む飲料(以下アバンド)を摂取した効果を筋力と栄養面から検討した。【方法】①2010年~2013年の4年間,健診時に測定ができた26名(男性14名,女性12名,平均年齢79.5±8.2歳)を対象とし,OG技研製GT-380を用いて体重支持指数(大腿四頭筋最大筋力を体重で除して百分率で表した数値,以下WBI)を測定した。②第I期(2011年12月~2012年2月)は対象者4名(男性2名,女性2名,平均年齢88.0±4.5歳)であり,第II期(2012年10月~12月)は対象者6名(男性3名,女性3名,平均年齢77.8±7.2歳)であった。方法は,週5日間,アバンド1袋(HMB1.2g含有)を250mlの水に溶解した飲料を栄養科が朝食と共に配食し,午前中にリハビリを実施した。測定項目は,運動効果の指標としてWBIを,栄養状態の指標と,HMB付加による腎臓への負担を確認するため,アルブミン(以下Alb),尿素窒素(以下BUN),クレアチニン(以下Cr)の血液生化学検査を行った。終了時にアンケートを実施した。統計解析は,対応のある二つの平均値の差の検定を用いた。【倫理的配慮】①当所健康安全対策委員会の承認を得た健診項目として実施し,測定を希望した者のみ測定した。②当所倫理委員会の承認を得たあと,対象者に対し文書による説明と同意を得た。【結果】①対象者のWBI平均値は,2010年58%,2011年54%,2012年49%,2013年51%であり,2010年~2012年は毎年有意に低下した(P<0.05)。2013年は向上したが,2012年との比較で有意差はなかった。②I期およびII期対象者計10名のうち4名が中止となり6名が3ヶ月間の研究を完遂できた。WBIの結果は,開始時68%,終了時68%で変化がなかった。腎機能は,Crと年齢から糸球体ろ過量を推定し,CKD重症度分類に当てはめるとG2が7名,G3a(腎機能軽度低下)が2名,G3b(腎機能中等度低下)が1名であった。G3bの1名は,アバンドの摂取により,BUNが22.2mg/dlから24.7mg/dlへ上昇したが,摂取終了により正常値へ戻った。栄養評価指標のAlbは開始前3.8g/dl,終了時3.8g/dlで変化がなかった。【考察】①当療養所入所者のWBIは50%前後で,2010年~2012年は毎年4%減少していた。黄川らの研究によると,WBI 40~60%の評価は「歩くことはできるが日常生活動作が困難で痛みを伴う」レベルであった。文献によると,外側広筋の筋線維数の変化は,25歳をピークとして65歳までのおよそ40年間で25%減少し,80歳までの15年間にさらに25%低下する。当療養所の平均年齢は80歳を超えており,筋力低下を予防することは緊急の課題といえる。そこで,筋力向上の取り組みとして行った研究が②である。②10名の対象者のうち4名が中止となった。理由は体調不良3名(平均年齢89.6歳),辞退1名(74歳)である。90歳前後の超高齢者では,体調が変化しやすく,I期の研究期間が冬季であったため風邪等で体調を崩し中止となった。研究が完遂できた6名のWBIは変化がなかった。これは,症例数が少ないこと,HMBの1日量が1.2gと少ないこと(文献では3g/日を推奨),研究期間が短いことなどが考えられる。しかしHMBは高価であり,高齢者ではアバンド2袋(500ml)の飲水が困難なため,量と期間の拡大はできなかった。しかしWBIの結果を詳しく検討すると,向上2名,低下4名であり,向上した2名はアンケートで「アバンドの摂取によりリハビリにやる気が出た」と回答した。低下した4名は,「やる気は変わらない」と回答した。筋力向上はリハビリに取り組む姿勢との関連性があるのではないかと示唆された。Albは研究前後で変化がなかった。当療養所では食事は栄養科が配食している。基準量はエネルギー1800kcal,タンパク質65gであり,すでに管理された環境では栄養状態の改善に結びつきにくかったと考えられる。腎臓への負担は,腎機能低下の人にとっては影響がでる可能性があることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】当療養所での下肢筋力が毎年低下している現状を明らかにし,他部門と協力して筋力向上の取り組みを行った。今回の検討では,筋力向上の直接的な効果は得られなかったが,リハビリに取り組む姿勢との関連性や,腎臓への負担の可能性を示唆することができた。当研究は国立ハンセン病療養所治療研究として行った。
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南條 恵悟, 長澤 弘, 千葉 公太, 長谷川 和也, 長谷川 光一
セッションID: 0263
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに】高齢者の足部機能に関しては,加齢により低下しバランス機能低下や転倒と密接にかかわる要因であることが報告されている。我々はすでに入院高齢者においても足趾機能が歩行・バランス能力に関連していることを報告した(第32回関東甲信越ブロック理学療法士学会)。臨床場面においては歩行能力などを中心とし,運動能力にあわせた,機能練習が必要である。しかし,過去に足趾機能と歩行・バランス能力の関係を,歩行速度の違いに分けて検討した報告は見当たらない。そこで今回は歩行能力・バランス能力と足趾機能との関連性を,入院高齢者を対象として歩行速度の違いに分けて,検討することを目的とする。【方法】対象は当院入院中の理学療法施行中の患者で,著しい認知機能の低下がなく,運動能力に著しく影響を及ぼす中枢系・運動器疾患の現病・既往を有さず,歩行補助具を用いず50m以上独力で歩行可能な患者110名(平均年齢73.6歳±10.1歳 男性60名 女性50名)を対象とした。疾患の内訳は心大血管疾患39例・呼吸器疾患15例・消化器疾患26例・悪性新生腫瘍疾患10例・腎臓疾患2例・その他18例である。測定項目は歩行・バランス能力の指標として10m最大歩行速度(以下10MWS:sec),Timed Up and GO Test(以下TUGT:sec),Functional reach test(以下FRT:cm),開眼片脚立位保持時間(以下OLS:sec)を計測した。下肢粗大筋力の指標として,徒手筋力計を用いて等尺性膝伸展筋力を計測し,その最大値を体重で除した値をQ-Force(kgf/kg)とした。足趾機能の指標を,座位にて,自作の計測用の台に裸足で足部を位置させ母趾と第2-4趾を分けて徒手筋力計のパッドを5秒間最大圧迫させ,母趾と第2-4趾での圧迫力の和を体重で除した値を足趾圧迫力(以下F-Force:kgf/kg)とした。解析は10MWSの全対象の平均値(10MWS:8.5)を基準とし,平均値より速度が速い群をFast群(年齢70.6±9.5歳 男性43名 女性32名),遅い群をSlow群(年齢78.0±11.0歳 男性17名 女性28名)の2群に分け実施した。2群間での年齢および各計測項目の比較には対応のないt検定を用いた。各群内での歩行・バランス能力の指標とF-Force・Q-Forceの関連性をそれぞれピアソンの相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】本研究は湘南鎌倉総合病院倫理委員会の承認を得ており,対象者には本研究の内容・趣旨を十分に説明し,口頭と書面にて同意を得た。【結果】各群の計測項目の平均値は以下の通りである(Fast群:Slow群)。10MWS・6.7±1.1:11.1±2.2,TUGT・7.7±1.5:12.6±2.8,FRT・35.4±5.4:27.0±4.4,OLS・34.8±32.6:7.8±14.2,Q-Force・0.33±0.11:0.23±0.07,F-Force・0.21±0.09:0.13±0.05であった。Fast群はSlow群に比べ,有意に年齢・FRT・OLS・Q-Force・F-Forceが高く,10MWS・TUGTが速かった。Fast群においては,F-Forceはそれぞれ有意に10MWS(r=-0.47)・TUGT(r=-0.34)と負の,FRT(r=0.31)・OLS(r=0.29)と正の中等度の相関関係がみられた。Q-Forceもそれぞれ有意に10MWS(r=-0.45)・TUGT(r=-0.41)と負の,FRT(r=0.36)・OLS(r=0.41)と正の中等度の相関関係がみられた。Slow群においては,F-Force,Q-Forceともに歩行・バランス能力の各指標と有意な相関関係はみられなかった。【考察】先行研究で報告されている多くの対象の平均歩行速度は10MWSに換算すると6.0sec前後であり,本研究のFast群とほぼ同等と予想される。これらから,地域高齢者に比べ活動量や行動範囲が劣る入院高齢者においても,歩行速度が保たれている対象では,足趾機能の向上が歩行・バランス能力を向上させる要因となる可能性が示唆された。一方,Slow群においては,先行研究にて多く報告されている,足趾機能や等尺性膝伸展筋力と歩行・バランス能力との関係がみられなかった。Slow群はFast群に比べ,各計測結果より全般的な運動能力の低下が予想される。大森らの報告では運動器疾患を有さない高齢患者の等尺性膝伸展筋力値が0.2kgf/kgを下回ると歩行速度の計測が困難であったと報告している。Slow群においては,歩行が成立する筋力閾値と同等,もしくは下回る症例も含まれており,下肢筋力と歩行速度・バランス能力が直線的な相関関係が得られなかったことが予想され,足趾圧迫力との関係に関しても同様な現象がおこっていることが予想される。以上よりSlow群においては,各症例において,筋力低下以外の諸機能の問題点が複雑に関係している可能性が考えられる。【理学療法学研究としての意義】近年,急性期病院における平均在院日数の短縮化がなされるなかで,対象者の運動能力にあわせた身体機能の特徴を明らかにすることにより,より効果的かつ効率のよい理学療法介入につながること考えられる。
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齋藤 孝義, 菅沼 一男, 丸山 仁司
セッションID: 0264
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】転倒は骨折など高齢者の生活機能障害を引き起こす危険因子であり転倒予防対策は緊急の課題であると言える。転倒の要因は多くの報告がなされており,なかでも段差や障害物に「つまずく」状況は高齢者の転倒の原因として最も多いと言われる。高齢者が「つまずく」要因として,加齢に伴う身体諸機能の低下,それに伴う歩行能力の変化があげられる。転倒経験のある高齢者は,足関節の底背屈筋力の低下や,加齢による足関節の可動域の低下により底背屈運動がスムーズに行えなくなることが転倒原因の一つである。転倒のリスクを評価する方法として,様々な転倒評価が用いられるが,足関節の底背屈運動に着目した方法は報告されていない。そこで,転倒のリスクの要因である底背屈運動を取り入れた指標を作成することで「つまずき」による転倒が予測できると考え座位での連続底背屈運動テスト(以下 底背屈運動テスト)を考案した。本研究は底背屈運動テストの測定時間を転倒予測の指標として用いることができるかについて検討することを目的とした。【方法】対象は自立歩行可能な65歳以上の当院外来通院者50名(男性10名・女性40名)年齢78.3±6.8歳,身長153.5±7.6cm,体重55.1±11.6kgとした。過去1年間の転倒経験の有無を聴取し転倒群30名(男性6名・女性24名)と非転倒群20名(男性4名・女性16名)に分類した。転倒群は年齢79.6±6.3歳,身長151.9±7.3cm,体重53.7±11.7kg,非転倒群は年齢76.3±7.3歳,身長156.1±7.9cm,体重57.4±11.8kgであり両群の属性に差は認めなかった。なお,測定に影響を及ぼすと考えられる下肢整形外科疾患ならびに中枢神経疾患などを有する者は除外した。底背屈運動テストの測定は椅子座位で両足を床面に接地させ,膝関節90°,足関節底背屈0°を開始肢位とし上肢は椅子の側面端を把持させた。足部の運動を妨げないように浅く腰掛け,足底面が床面に完全に接地するように高さを調整した。測定は「ようい,はじめ」の合図で可能な限り速く両足の底背屈運動を繰り返し,開始肢位に戻るまでの一連の動作を1回とし10回行うことに要した時間を測定した。反復回数は検者が目視で数え,左右の足が同時に底背屈できなかった場合や開始肢位に戻る際,しっかり足底が床に接地していない場合は回数から除外した。測定は十分に練習させた後に,1分程度の間隔をあけ2回測定した。測定値は1回目の測定値と2回目の測定値の最速値を採用し小数点第1位で四捨五入した。転倒群と非転倒群の測定値の群間比較には対応のないt検定を用い,転倒群と非転倒群を最適分類するためにReceiver Operation Characteristic(以下,ROC)曲線を用いてカットオフ値を求めた。統計ソフトはPASW Statistics18を使用し危険率5%未満をもって有意と判断した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に従い,本研究の概要と目的を十分に説明し,個人情報の保護,研究中止の自由などが記載された説明文を用いて説明し,書面にて同意を得たうえで実施した。なお,本研究は国際医療福祉大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号13-21)。【結果】転倒群と非転倒群の測定値の群間比較は,転倒群14.3±5.3秒,非転倒群9.0±1.2秒であり2群間に差が認められ転倒群で有意に増加した(p<0.05)。また,転倒群,非転倒群の測定値のROC曲線から最も有効な統計学的カットオフ値は10.5秒と判断した。【考察】本研究は底背屈運動テストの測定値を転倒予測の評価指標として用いることができるのかについて検討した。転倒群,非転倒群の群間比較において差が認められ,カットオフ値は10.5秒であった。したがって,10.5秒を境界に転倒の起こる確率が高くなると考えられた。歩行時に足関節の底背屈運動は繰り返し行われる動作であり,この動作の切り返しのタイミングが遅れることにより「つまずき」が生じると考えられる。つまずく回数が多くなれば転倒の危険が多くなると推察されることから,底背屈運動テストは転倒予測の一指標としての応用が期待できると考えた。なお,本法のテストの再現性は良好であることが確認されている。【理学療法学研究としての意義】転倒予測を目的とした研究は,数多く報告されているが,これらの方法は測定に広い場所が必要,高価な機器が必要な場合,複雑な測定課題を提示する等の問題点が考えられる。転倒の原因の一つに底背屈運動がスムーズに行えなくなることが関係している。本研究で用いた底背屈運動テストは測定時に広い場所を必要とせず,特別な機器,難しい測定課題を提示することなく安全・簡便に測定が行えることから訪問リハビリテーションやスペースの取れない場面などでの測定が可能であり「つまずき」による転倒予測をする上で有意義であると考えた。
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―転倒との関連性の検討―
提嶋 浩文, 曽田 武史, 松本 浩実, 射塲 靖弘, 尾崎 まり, 萩野 浩
セッションID: 0265
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】高齢者は転倒すると骨折に至る危険性が高いことが知られている。要介護の約10%は骨折,転倒に起因するものであり,転倒危険因子を調査することは,転倒予防の観点からも重要である。転倒要因は,内的要因,外的要因に区別される。内的要因には筋力やバランスなど身体機能に関するもの,転倒歴などが含まれ,これらに関する先行研究は散見される。一方,外的要因には履物や環境整備等が挙げられる。履物に関する研究において,一般的にスリッパは靴と比較して転倒率が高いとされているが,動作時のスリッパと靴の違いを比較,検討した報告は多くはない。今回の目的は靴とスリッパの違いが歩行に与える影響を3軸加速度計と表面筋電図を使用して分析し,転倒との関係性を検討することである。【方法】対象は整形疾患,中枢疾患の既往のない健常人15名(男8名,女7名,年齢23.8±1.7歳,身長166.2±8.1cm,体重56.5±7.4kg)とした。市販の靴とスリッパを使用し,裸足で着用した。歩行加速度の分析には3軸加速度計MVP-RF8-BC(MicroStone社),歩行時の筋活動の分析には表面筋電図Bagnoli-8 EMG System(Delsys社)を使用した。全被験者に対して14mの自由歩行を練習1回,測定を2回実施し,いずれも2回目のデータを採用した。また前後2mを除く,中間10mの歩行時間も計測した。3軸加速度計はベルトにて第3腰椎棘突起部に設置し,前後,左右,上下3軸の体幹加速度を測定した。得られた加速度信号の波形を無作為に1000個のデータを選択し,Root Mean Square(RMS)にて解析を行い,歩行速度に依存するため,速度の二乗で除した。また,無作為に10歩行周期のデータを選択し,Auto Correlation(AC),Coeffecient of Variance(CV)にて解析を行った。表面筋電図は右側の前脛骨筋,内側腓腹筋を測定筋とし,フットセンサーを踵部に設置し,筋電図と同期させた。得られた筋電図波形から,歩行時の立脚期,遊脚期の筋電位平均を求め,最大随意収縮時の筋電位で(MVC)で除して,最大筋力に対する活動の割合(%MVC)を算出した。統計分析は対応のあるt検定を用い,有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に沿って,被験者には研究の目的および方法を説明し,理解と同意を得た。【結果】歩行速度の平均は靴1.31±0.1m/sec,スリッパ1.25±0.1m/secと有意差が認められた。歩行時の動揺性の指標となるRMSは左右成分で靴0.68±0.13に対してスリッパ0.79±0.17,上下成分で靴1.27±0.26に対してスリッパ1.37±0.27とスリッパが有意に高値となった。歩行の規則性の指標となるACは1歩行周期間の分析では前後成分で靴0.65±0.08に対してスリッパ0.59±0.12とスリッパが有意に低値となった。1歩行周期時間の変動率を示すCVは靴2.52±0.62,スリッパ3.03±0.87とスリッパが有意に高値を呈した。歩行時の立脚相,遊脚相における内側腓腹筋,前脛骨筋の%MVCは両群間に有意差を認めなかった。【考察】スリッパは靴と比較して左右,上下方向のRMSが高値となった。RMSが大きくなると動揺性が大きくなり,不安定な歩容になると報告されている。靴と比較してスリッパは側方の支持性が乏しく,片脚支持期の安定性の低下につながり,体幹加速度の動揺性が増大したことが考えられる。また,スリッパでは前後方向へのACは低値を示し,また1歩行周期時間の変動率を示すCVに関してもスリッパが高値を呈した。スリッパは規則性の低下を示す結果になったと考えられる。高齢者に関してCVは転倒群で有意に高値を呈し,転倒のリスクを推測する評価方法として有効であると報告されている。以上のことから履物の違いは歩行速度や歩行時の安定性,リズムに影響を及ぼすことが示唆された。高齢者の転倒は歩行中に生じやすく,歩行の規則性,安定性の低下は転倒につながることが多く,さらに加齢に伴う身体機能の低下,合併症の存在,バランスを崩した際の代償機構の破綻があるとよりスリッパ着用時の転倒リスクが高くなることが考えられる。しかしながら,本研究は若年成人を対象としており,加齢や運動機能の程度によって履物の違いがどれほど影響するのか,さらに検討する必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】履物の違いが歩行に与える影響を転倒との関連性について検討した。転倒の原因である外的要因に関する転倒リスクを明確にし,転倒予防の啓発につながることが考えられる。
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時任 真幸
セッションID: 0266
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【目的】自己効力感(self efficacy)とは,社会的学習理論あるいは社会的認知理論の中核をなす概念の一つであり,1977年,バンデューラ(Albert Bandura)によって提唱された。これは個人がある状況において必要な行動を効果的に遂行できる可能性の認知を指している。学生の自己効力感が臨床実習によって,どのように変化し,また自己効力感へ影響をおよぼす因子の特徴などを知ることで,臨床実習の成果(学び)や不安・緊張の様子を明らかにすることが本研究の目的である。【方法】本校理学療法学科在校生38名を対象に,成田らの特性的自己効力感尺度(以下GSE)を用い,調査した。調査は実習前の4月,臨床実習I終了後の6月,臨床実習II終了後の8月の計3回実施した。3回の比較を行い,臨床実習成績との関係を調査した。また,8月の最終調査時にGSEとの関連で自己効力感の源泉についても併せて調査した。【倫理的配慮,説明と同意】研究の趣旨を口頭と文書で説明した。質問紙は継続的なため記名式とし,研究の参加・不参加による成績への影響は全くないこと,研究結果を公表することを説明した。回収は回収箱により学生が自由投函できるようにした。また,研究同意書に署名し,質問紙と共に回収することで研究参加の同意とみなした。【結果】GSEの結果は4月が65.63±13.03,6月が67.95±11.87,8月が68.18±12.68となった。一元配置分散分析の結果,主効果が認められた(p=0.0270)。さらに,Bonferroniの方法で多重比較検定を行った結果,4月と6月,4月と8月において5%水準での有意差が認められた。また,臨床実習成績との相関関係は,臨床実習Iでは相関係数r=0.261,危険率p=0.11,臨床実習IIでは相関係数r=0.09,危険率p=0.59といずれも5%水準において相関関係は認められなかった。自己効力感の源泉(情報源)についての影響は「言語的説得」「遂行行動達成」「代理的体験」「情緒的喚起」の順に自己効力感に対する源泉を認めた。【考察】仮説ではGSEの平均値は徐々に高まると考えたが4月と6月,4月と8月には有意差がみられたものの6月と8月の間に有意な差は認められず,一部の仮説のみ支持される結果となった。これは,4月の計測時に臨床実習前の不安要素が大きく自信のなさが自己を過小評価する傾向にあり,自己効力感が低くなっていると考えられる。そのため,6月の臨床実習I終了後には自己効力感源泉の「遂行行動達成」によるGSE向上が考えられる。これに対して臨床実習IIでは,臨床実習Iに対して緊張感は和らぐものの,一人の患者に対し,レポート作成までの時間が短くなる傾向があり,学生はタイムプレッシャーにより達成感は前期の実習よりは減少傾向にあると考えられる。しかしながら,経験値が増すことによって全体の平均値としては上昇傾向にあった。続いて,GSEと臨床実習成績の相関関係について検討した。これについては関連がみられなかった。浅川らの理学療法学科学生と原らの言語聴覚学科学生における先行研究でも関連はみられず,これらのことより臨床実習成績は10週間,8週間という限りある期間の,それぞれ異なる指導者による第三者評価であり,評価判定にはブルーム(Bloom,B.S.)の教育目標の分類学(タキソノトミー)にある認知領域,情意領域および精神運動領域が総合されて加味されるため,学生のGSEは臨床実習成績に反映されにくいのではないかと考えられる。GSEの源泉では,「言語的説得」が最も高く「遂行行動の達成」「代理的体験」「情緒的喚起」と続いている。これは,臨床実習指導者とマンツーマンで行う理学療法養成課程の実習スタイルが大きく影響しているものと考えられる。一人の患者を担当し,ケースレポート作成を行いながら実際の診療(治療)を行う方法で,レポートの出来不出来が実習成績や患者に関わる時間を左右してしまう。このため,診療時間終了後に行われるフィードバックが重要であり,指導者からの「金言」を漏らさずレポートに反映させていく作業に大きな労力を費やすこととなる。養成校の教員がが臨床実習訪問を行う中で,レポートは非常に良くできているものの,患者の状態把握が全くできていない実習場面に遭遇することがある。これは,先ほど述べた「言語的説得のみでは困難に直面した場合,簡単に消失してしまう」典型例といえるだろう。【理学療法学研究としての意義】自己概念が形成される青年期の臨床実習における自己効力感は,彼らが理学療法士として職業観を確立するために大切なことである。そのことに関わる養成校教員や臨床実習指導者は協同して自己効力感を集積できるよう学生支援に努め,現状の患者担当制からクリニカルクラークシップへ移行するための根拠になる資料したい。
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森 彩子, 武田 功, 高見 博文, 松尾 慎, 小幡 太志
セッションID: 0267
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】実習前の教育は臨床実習に向けての準備のみならず,現時点での学力を再確認する上でも非常に重要な要素となる。今回の研究では,本学が行っている「臨床実習前特別講義」と実習判定成績,社会性テストを用いて,その関係性を明らかにするとともに,より効果的な教育の可能性を見いだすことを目的として行った。【方法】対象は本学理学療法学科3年生42名(男性31名,女性11名)とした。調査項目は実習前(6月,8月)に行われた実力テスト結果,臨床実習前特別講義の出席回数,評価実習成績(合否)とした。また,社会性を測定するテストとしてはSocial Intelligence Quotient(以下SQ)を使用した。なおSQの測定は評価実習開始直前に行った。これらの項目について,項目ごとに占める評価実習不合格者の割合を算出し,実習合否に対する各要因の傾向を分析した。また,評価実習合否を含めた5項目に対し,Pearsonの相関分析を行った。なお統計処理は,SPSS21.0を使用して行い,有意水準は0.05とした。【倫理的配慮,説明と同意】実施にあたり,対象者には本研究の趣旨を十分に説明し,同意を得た。また,本研究は宝塚医療大学倫理委員会の承認を受けて実施した(受付番号:1306122)。【結果】1)評価実習合否に対する各要因の検討6月実施実力テストの平均得点率は26.55±10.46%,得点率の分布は,11~20%が11名(うち不合格者1名,以下括弧内同じ),21~30%が20名(5名),31~40%が8名(1名),41~50%が2名(1名),71~80%が1名であった。また8月実施実力テストの平均得点率は35.12±8.25%,得点率の分布は,11~20%が1名,21~30%が11名(4名),31~40%が17名(3名),41~50%が12名(1名),51~60%が1名であった。臨床実習前特別講義では,全15回の講義に対し,出席回数12回が3名(1名,33%),13回が7名(2名,28%),14回が7名(2名,28%),15回が25名(3名,12%)であった。平均出席回数は14.3回であった。SQの平均指数は92.45±13.31,指数の分布は,70未満が1名,70~が7名(2名),80~が11名(1名),90~が13名(2名),100~が9名(2名),110~が1名,120~が1名,130以上が1名(1名)であった。臨床評価実習評定では,C(可)以上であった者が34名,D(不可)または保留が6名,評価実習期間中における中止が2名であった。2)各項目の関係性の検討評価実習合否判定を含めた5項目において,6月実施実力テストの得点率と8月実施実力テストの得点率の間に正の相関(r=.442,p<0.01)が認められ,SQと臨床実習前特別講義出席回数の間に弱い正の相関(r=.347,p<0.05)が認められた。【考察】1)評価実習合否に対する各要因の検討①学力に関する検討6月実施実力テストにおいては,得点率20~30%を中心とした正規分布を示した。それに対し8月は30~40%を中心とした正規分布を示した。一般的に実習が近づくにつれて学生の危機感が増し,加えて8月には定期試験を控えているため,全体的な学習量は増加する。それに伴い学生全体の学力の底上げ効果が出現するが,不合格者は2期において大きな変化はなく,底上げ効果の低さが推察された。②社会性を含めた情意面に関する検討「実習前特別講義」の出席回数13回,14回における不合格者占有率には大きな違いはなかったが,15回の皆出席の学生を見れば,全体の60%を占めているにも関わらず不合格者は13%であった。またSQの数値をみると,当然のことながら高得点者が,実習という特別な環境に耐えうる事を示しているが,各区分における不合格者占有率を見た場合ではばらつきが見られるため,この指数のみでは不合格を予測することが困難であった。2)各項目の関係性の検討6月実施実力テストの得点率と8月実施実力テストの得点率に関しては,評価実習を迎えるための基礎学力の傾向には大きな変化はなかったと考えられる。また,SQと臨床実習前特別講義出席回数の関係では,社会性の高低に起因する道徳的観念が出席率へ直接的な影響を及ぼすと推測した。一方,臨床実習成績と実習前特別講義の出席回数,SQおよび実力テストの得点率の間には相関が認められなかった。臨床実習において学生に求められる要素は非常に多岐にわたる。今回の研究でも,学力面,社会性が臨床実習に複雑に影響することが示された。より詳細な検討を行うことが今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】学内教育および臨床実習教育の相互の関連性を詳細に調査することで,より効果的な学内教育を行う事が出来ると考える。
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―アンケート調査から―
三木屋 良輔, 角田 晃啓, 木内 隆裕, 澤田 優子, 開田 千鶴, 中 正美
セッションID: 0268
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】臨床実習において,学生はスーパーバイザー(以下SV)から様々な指導を受ける。そして課題を出されることも見られるが,期日までに遂行されない,また指導した内容が反映されていないことがある。その時に学生自身の問題として,情意面(態度,意欲)が注目されることが多い。事実,本学において「態度」と「報告・記録」を評価票で確認すると,SVは学生に対して多くの指導を要している。しかし学生から学内での様子や,聞き取りの印象では,情意面だけに問題があると考えられる学生ばかりであると一概にはいえないこともある。そこで本研究では,臨床実習での学生の情意面を問題とする以前に,フィードバック(以下FB)時にSVが学生へ指導する内容が十分に伝わっているかどうかを知るための学生アンケートを実施し,その実態を把握し今後の実習指導方法に活かすことを考えた。【方法】理学療法学科4年生(59名)を対象に臨床総合実習(平成25年8月26日~10月18日)の後にアンケートを実施した。各アンケートは,無記名とし8つの各質問項目への回答と自由記載を併用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,森ノ宮医療大学倫理委員会の認可のもとアンケートを無記名で行い,学生に目的の説明と学生からの同意を得ており倫理上の問題は生じない。【結果】FBを完全,もしくはほぼ理解できた学生は,全体の88.2%を占め,あまり理解できなかった学生は約11.8%であった。FBを理解できた理由として,「SVの説明が理解しやすかったから」が42.4%,「理解できるまでこちらから質問したから」が25.4%,「FB時にメモをとっていたから」が18.6%であった。逆にFBを理解できなかった理由として,「説明が理解しにくい内容だったから」が42.9%,「メモをとっていなかったから」,「メモをとらなくても理解できていたつもりが,後で忘れてしまったから」,「理解できていないのにもかかわらず質問しなかったから」,「FBがあまり行われなかったから」がそれぞれ14.3%であった。また質問しなかった理由として,質問する勇気がなかったという意見がみられた。またFBを意義あるものにするために学生自身がするべきだと思っていることについて自由に記載させた結果,「積極的に質問するべき」と考えているのが34.9%,「FB事前,事後に質問内容などをまとめておくべき」と考えているのが20%,「メモを取るべき」が14%,「何事も自分が最大限努力するべき」,「解剖や生理学などの最低限の知識を持っておくべき」と考えているのがそれぞれ9%だった。最後にFB時にSVに望むこととして,「分からないことに対するヒントが欲しい」が18%と最も多く,次いで「FBの時間を十分にとって欲しい」が15%,「学生が理解しているか確認しながら進めて欲しい」と考えている意見が13%,「質問しやすい環境を整えて欲しい」が10%となった。【考察】臨床実習時にSVが学生を指導するFBは,学生が患者像の理解を進める上で非常に重要であり,さらにSVと学生の親密なコミュニケーションを生み,お互いの性格や知識,思考プロセス,目指す理学療法士像まで幅広く情報交換が行える場である。しかしそこでは,主従関係であるがゆえに,SVから学生への一方通行的な指導になっている懸念があった。今回,FBにおける学生側の理解度が88.2%と非常に高かったことは,決して一方通行的な指導ではなく,SVの根気強い,丁寧な指導が行われていたと考えられる。また同時に学生側の行動として,FB時にメモをとることが重要であることも示唆された。そして,情意面において重要な「積極的な質問」は,34.9%と最も高く,学生自身が特に痛切に必要であると感じていることは,我々教員にとっても大きな収穫であると考える。この点については,今回の調査対象が4年最終の実習であることから,今後3年実習終了時にもアンケートを行い比較検証する余地がある。しかし一方で「FBを理解できた」と回答した学生が88.2%に上ったものの,学生の18%が「分からないことに対するヒントが欲しい」としていることは,SVからのヒントがないと理解が難しいことを示す。学生自身は積極的に質問し努力するべきであることは分かっているが,ここに学生の本根が隠されていると考えられた。これらは今後,実習指導におけるSVや,学内における指導に役立つものと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究により,臨床実習における学生の情意面において,積極的な行動が必要であることを自覚していることが明らかとなったが,SV側はヒントを織り交ぜながら十分に時間をかけて,学生が理解しているのを確認しながら指導することが良いと考えられる。
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小野田 公, 金子 純一朗, 森田 正治, 丸山 仁司
セッションID: 0269
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】携帯電話の普及およびソーシャルネットワーキングサービス(以下SNS)の利用者増加に伴い,インターネットワーク上でのコミュニケーションが増加している。総務省における平成24年版 情報通信白書によるとソーシャルメディアの利用者は,スマートフォン等の普及により急速に増加しつつあり,世界的にSNSサービスを提供しているFacebookの利用者は,既に9億人に達していると報告されている。また,平成23年通信利用動向調査では,スマートフォン,タブレット端末の利用者においてソーシャルメディアの利用率がパソコンや携帯電話に比べて高くなる傾向にあることが報告されている。SNSは,コミュニケーションや情報収集ツールとして非常に有用であるが,最近,倫理観を問われる不適切な行為も散在され,画像および発言内容が報道や事件へと発展している。また,SNSを利用した医療系職員や実習生による個人情報保護的観点や職業倫理観にかける記載が問題となっており,利用に関しての医療系大学生への教育やガイドラインの整備が必要となってきている。本研究では,本学理学療法学科学部生のSNSの利用実態及び情報流出に関する対策についてアンケートを作成し調査した。また,実習中のSNSの利用実態についても調査した。【方法】平成25年,本学理学療法学科に在籍している3年生99名(男性47名21.3±2.1歳,女性52名21.0±1.7歳)を対象に,評価実習終了後アンケート調査を実施した。本調査ではSNSの種類として,総務省の「平成23年通信利用動向調査」を参考にSNS:mixi,Facebook,LINE,マイクロブログ:Twitter,ブログ:Amebaブログ,ソーシャルゲーム:Gree,モバゲーのサービスを挙げた。アンケート調査項目は,(1)SNS利用状況,(2)SNS使用頻度,(3)パスワード管理,(4)公開制限の有無,(5)人物画像掲載の経験,(6)撮影人物への掲載許可の有無,(7)拡散機能知識確認,(8)肖像権,著作権侵害の認識確認,(9)ネット詐欺の知識確認,(10)実習中のSNS利用状況,(11)実習中のSNS使用頻度,(12)実習中のSNS使用内容とした。回答形式は2項選択法,自由記載方式を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】全対象者には研究の趣旨・方法について事前に説明し,同意を得た上で無記名にて調査を行った。個人や実習施設を特定するような設問はなくし,情報管理には十分留意した。なお,本研究は国際医療福祉大学倫理審査委員会の承諾を得ている(承認番号:13-Io-139)。【結果】対象者99名全員が複数種類のSNSを利用していた。使用しているSNSの種類は,mixi8名(3.4%),Facebook50名(21.3%),LINE97名(41.3%),Twitter72名(30.6%),Ameba5名(2.1%),Gree1名(0.4%),モバゲー2名(0.9%)であった。使用頻度は,1日1回が最も多く47名(47.5%),次いで1日5回以上が28名(28.3%),1日3~4回7名(7.1%),1日2回5名(5.1%)であった。パスワード変更の定期的実施者は1名,無断掲載が肖像権侵害となる知識を持っている者は85名,実際に撮影人物の掲載許可をとっている者は24名であった。評価実習中にSNSを活用した学生は,73名(73.7%)であった。実習中に活用したSNS種類は,Facebook16名(12.9%),LINE69名(55.6%),Twitter38名(30.6%),Ameba1名(0.8%)であった。実習中の使用頻度に変化がなかったのは54名(54.5%),増加9名(9.1%),減少36名(36.4%)であった。実習中の使用頻度は,もっとも多く増加したのが1日5回以上で4名(4.0%)であった。実習中のSNSの活用方法では,実習生同士の情報交換・共有や励まし等の記載が多く見られた。また,少数であるが,実習中の自分の気持ちをTwitterへ書き込んでいた。【考察】今回の結果よりほとんどの学生が日常的に複数のSNSを頻回に利用していることがわかり,個人情報流出に関する対策不足が認められた。また,実習中に半数以上の学生がSNSを利用しており,頻度としては半数の学生は変化がなかった。活用方法としては,実習生の情報交換や共有に使われおり,患者様の検査結果を含んでいることが認められた。このことから本学生のSNS利用でのメディアリテラシーや医療系学生としての守秘義務についての教育及び指導の必要性が示唆された。また,医療系総合大学としてのソーシャルメディア利用のガイドラインの整備が急務である。【理学療法学研究としての意義】現在,SNS利用者の増加により医療系学生実習時の医学的情報の画像や記載が問題となっている。そのため実習前のSNS利用についての対策が急務である。今後,本学でも医療系学生のためのガイドラインの作成や指導などについて具体的な対策を講じていきたい。
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―臨床実習指導者と学生の理想像比較―
楠元 正順, 吉村 修, 濱田 輝一, 二宮 省悟, 木下 義博
セッションID: 0270
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】臨床実習において,臨床実習指導者(以下SV)と学生の「SVの理想像」における相違は,指導を進めていく上で,大きな影響を与えることが予測される。実際,両者の認識の違いにより,臨床実習指導が困難な場合がある。今回,SVと臨床実習前の学生に「SVの理想像」についてのアンケート調査を行ったので,ここに報告する。【方法】3実習施設52名の理学療法士と臨床実習前のA大学91名の学生を対象に質問紙法を行った。不適切とみなせる処理として,項目の未記入者は除外し,また回答の信頼性保持の為の社会的望ましさ尺度で不適当と判断されたものは除外した。回答方法は自由回答とし,アンケート記入は無記名とした。質問項目は「SVの理想像」について設定した。得られた回答をキーワードで拾い出し,KJ法を用いてカテゴリーに分類した。その結果,「SVの理想像」について,SVと学生の回答を比較・検討した。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,アンケート対象施設及び学生に対して,口頭および文書にて研究主旨を十分説明し,同意を得て調査を行った。なお,本研究は川﨑病院倫理審査委員会の承認を得た(承認番号2000)。【結果】実習施設へのアンケート回収率は92.3%(47名)そのうち過去に学生指導をしたことがある理学療法士を対象に分析を行った。有効回答は34名。学生へのアンケート回収率は100%(91名),有効回答は84名であった。回答をカテゴリーに分類した結果,学生は「教えてくれる36名」,「アドバイスをくれる19名」,「厳しさがある15名」,「感情に左右されずに対応してくれる15名」,「学生のことを考えてくれる15名」,「意見を聞いてくれる14名」,「間違いを指摘してくれる11名」,「一緒に考えてくれる9名」,「理学療法士の楽しさを伝えてくれる6名」,「自分の理想の理学療法士像となる3名」などであった。SVは「能力に合わせた指導ができる20名」,「理学療法士の楽しさを伝える10名」,「学生の理想の理学療法士像となる9名」,「アドバイスができる8名」,「一緒に考えることができる5名」,「教えることができる4名」,「厳しさがある2名」などであった。【考察】臨床実習前の学生は,1週間程度の見学実習は経験しているが,臨床現場に触れる機会が少ないため,実習に対してのイメージができていない。そのため,実習に対して,多くの不安や恐怖を頂いていることが予想される。今回のアンケート調査から,「SVの理想像」について学生は,指導の厳しさを覚悟していた。しかし一方で,叱られることや気分に左右されることなどの感情的な厳しい態度で対応されたくないと回答しており,学生は厳しさについて,肯定的な面と否定的な面を持つことが分かった。また,教えてくれる指導者を望んでおり,一緒に考えて,アドバイスをくれるといった共同的な立場や,否定をせず,意見を聞いてくれる,考えを受け入れて聞いてくれるといった共感的な立場をとる指導者を求めていることが分かった。そして,学生のことを考えてくれる・向き合ってくれることも望んでおり,依存的,受動的な態度が見受けられた。他方,SVは,適切な指導や学生の能力に応じた指導ができると回答しており,学生の能力レベルに合わせた目標設定と指導を重視していることが分かった。また,理学療法士のやりがいを伝えること,学生が目指す理学療法士の理想像を見せるといった仕事のやりがいや楽しさ,イメージを想起させるなど臨床現場を伝えられることが,「SVの理想像」であると考えていることが分かった。この両者の相違は,それぞれの理想像の違いによって起きていると考えた。学生は教員が主なモデルとなっており,SVは自身の実習時のSV,自分の理学療法士の理想像が影響していると考えた。これらのことより,「SVの理想像」を考える上で,学生は,教えてくれる指導が基になっていること,加えて短期的な課題に対して,どう達成するかを注目する傾向にあることにより,ティーチングの視点になっていると考えられた。SVは,実習を理学療法士への第一歩と捉え,長期的な課題を念頭において指導をするため,潜在能力を引き出すというコーチングの視点になっていることが推察された。今後は,実習後の学生の現状把握を行い,最適な「SVの理想像」を明確にすることによって,よりよい臨床実習指導が行える体制の構築を目指していきたい。【理学療法学研究としての意義】「SVの理想像」に対するSVと学生との差を把握することは,SVと学生の臨床実習に関する認識を埋めることになると考える。そのことは,学生が臨床実習を通しての行動変容の一助となり,よりよい臨床実習指導の確立へ繋がる。
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水池 千尋, 石原 康成, 堀江 翔太, 大谷 豊, 水島 健太郎, 久須美 雄矢, 立原 久義
セッションID: 0271
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】可動域制限を伴う肩関節疾患では,結帯動作が障害され,日常生活動作に支障をきたすことがあるが,その改善に難渋することが多い。肩関節の可動域制限に対するアプローチは徒手療法,物理療法などがあり,近年では機器を用いた運動もセルフエクササイズとして行われている。これまで我々は,機器を用いたディップ運動が肩関節可動域に及ぼす影響について調査し,肩甲上腕関節(glenohumeral joint:以下,GHj)よりも肩甲胸郭関節(scapulothoracic joint:以下,STj)の可動域が拡大すると報告してきた。しかしながら,男女では筋骨格系に違いがあるため,同様の運動を行っても効果に差が生じる可能性が考えられる。そこで,本研究の目的は,機器を用いたディップ運動による肩関節可動域の変化とその性差について検証することとした。【方法】対象は,肩に整形外科的疾患を有さない健常成人20名40肩[男性:11名,女性:9名,平均年齢:33(21-50)歳]とした。運動に使用した機器は,Hogrelディッピングミニ(是吉興業株式会社製)である。運動は,機器のシートに着座した状態で肩のディップ運動を実施した。速さは対象者自身のタイミングとし,回数は40回,負荷は約50N,時間は3分程度であった。運動前後に,肩関節自動挙上角度(以下,挙上角度),第7頸椎棘突起から母指先端までの距離(以下,指椎間距離)を測定した。指椎間距離は結帯動作の指標として用いた。また,上肢下垂位と挙上時における肩甲棘と上腕骨長軸のなす角度(spino-humeral angle:以下,SHA)を測定し,上肢下垂位と挙上時の値の差によって,GHjの可動範囲を評価した。挙上角度とSHAの測定はゴニオメーターを用い,指椎間距離の測定にはメジャーを用いた。統計学的処理は,運動前後の比較には対応のあるt検定,男女間の比較には対応のないt検定を用いた。なお,有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には事前に研究の目的や手順を十分に説明し,口頭にて同意を得た。また,本研究は所属する職場の倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】男女の比較では,運動前のSHAは男性:103.9±12.7°,女性:106.8±12.9°であり,女性が大きかった(p<0.05)。その他の値に差はなかった。すなわち,女性ではGHjの可動範囲が大きかった。運動前後の比較では,挙上角度は男性:運動前158.2±8.5°,後162.3±7.4°,女性:運動前157.5±8.3°,後160.3±7.8°であり,男性は運動後に拡大した(p<0.05)が,女性は差が無かった。すなわち,男性で挙上角度が拡大していた。指椎間距離は男性:運動前150.9.±57.9mm,後137.5±52.7mm,女性:運動前120.8±37.7mm,後111.1±38.0mmであり,男女ともに短縮した(p<0.05)。すなわち,性別によらず結帯動作は改善していた。SHAは男女とも運動前後で差はなかった。すなわち,性別によらずGHjの可動範囲は変わらなかった。【考察】本研究の結果,男女の比較では運動前の挙上角度は差が無く,SHAは女性が大きかった。すなわち,女性の方がGHjの動きが大きく,STjの動きが小さいことが示された。三次元CTを用いた解析から,上肢挙上時に女性では肩甲骨の上方回旋角度が小さいため代償的に肩甲上腕運動での動きが大きくなることが報告されており,本研究もこれを支持する結果となった。次に,運動後に男女とも指椎間距離は短縮し,挙上角度は男性のみ改善がみられた。ディップ運動では僧帽筋上部線維,菱形筋,前鋸筋,上腕三頭筋に強い筋活動がみられたという報告があり,これらの筋の反復収縮と相反神経抑制によって肩甲骨周囲筋の柔軟性の向上が引き起こされたと考えられる。女性の挙上角度は変化が無かったが,120°以上の挙上では肩甲骨の動きに加え,胸椎伸展運動の連動が必要とされる。元々胸郭と肩甲骨の可動性が低く,筋力が小さい女性にとって,本研究の負荷設定では,肩甲骨と胸椎周辺の可動性の改善度が少なかったと推察された。以上から,ディップ運動を実施する際は,男女の特性に適した負荷設定と効果判定を行うことで,より効果的な介入ができる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】男女の筋骨格系の違いによってディップ運動の効果に差が生じることが示唆された。このことから,男女の特性に適した負荷設定を行うことが効果的な介入方法に繋がる可能性を見出したことに意義があると考えられる。
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孫田 岳史, 野中 拓馬, 南谷 晶, 児玉 三彦, 花山 耕三, 正門 由久, 酒井 昭博
セッションID: 0272
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】頭頸部癌患者の頸部リンパ節郭清術の実施において,副神経温存例でも術中操作による神経の牽引,拳上および電気メスによる刺激が誘引となって副神経麻痺を呈するとの報告がある。副神経の運動枝は僧帽筋を支配し,直接的に肩甲上腕関節には関与せず,肩甲胸郭関節に影響を及ぼすことで肩関節の機能低下が生じると考えられるが,肩甲胸郭関節機能の変化についての検討は見られない。そこで今回,この点に着目し,肩関節のみならず肩甲胸郭関節機能の経時的変化について検討することとした。【方法】2011年9月11日より2013年9月30日までに頭頸部癌の診断にて頸部リンパ節郭清術を施行し,副神経を温存し得た症例のうち,術前より理学療法が開始でき,かつ術後6ヶ月以降の評価が可能であった8名11肩(男性7名,年齢65.9±16.9歳)を対象とした。理学療法の内容として,まず術前に術後想定される肩関節機能低下を考慮した訓練プログラム(肩関節・肩甲胸郭関節可動域訓練,筋力強化訓練)を専用のパンフレットを用い指導した。術後,同プログラムに従って退院までは連日訓練を実践。退院後に外来通院での訓練継続ついて症例毎に検討した。評価項目は,肩甲胸郭関節機能として肩甲骨自動挙上可動域(°)および内転移動距離を評価した。肩甲骨内転移動距離はDiVetaらの方法(第3胸椎棘突起から肩峰の後角までの距離を安静時・肩甲骨随意最大内転時に測定し,それぞれ肩甲棘内縁から肩峰後角までの距離で除した値の差)を使用した。肩関節機能は自動屈曲可動域(°)と自動外転可動域(°)を評価した。これらの評価項目を術前,術後(理学療法開始時),術後6ヶ月以降に測定し,それぞれの変化について検討した。統計処理にはSPSS(Ver.21)を使用,分散分析を用いて行い,有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,本学臨床研究審査委員会の承認を得て,当院における臨床研究に関する倫理指針に沿って行った。【結果】術後訓練開始時期は15.5±4.6日であった。肩甲骨挙上可動域は術前,術後および術後6ヶ月以降でそれぞれ15.5±5.2°, 5.0±3.2°, 12.3±4.1°であり,術後低下するが,6ヶ月以降で有意に改善した(p<0.05)。肩甲骨内転移動距離は0.22±0.11,0.15±0.11,0.23±0.08と,6ヶ月以降で増加したが,統計学的に有意差はなかった。肩関節屈曲可動域は157.7±15.4°,124.1±16.9°,135.5±15.6°。外転可動域は164.5±18.0°,109.5±26.0°,125.0±24.3°といずれも術後有意に低下し,6ヶ月以降で改善した(p<0.05)。しかし,術前に比し術後6ヶ月以降でもなお,有意に可動域が低下していた(p<0.05)。退院後に外来通院での理学療法を継続できた症例は3例で,頻度は月1~2回であった。退院後の継続が困難であった症例が5例と多く,その理由については原疾患の継続的加療,再発や転移などに対する加療,さらには肺炎などの合併症といった医学的管理の問題が主体であった。【考察】我々が着目した肩甲胸郭関節機能については,肩甲骨挙上の術後の増悪と6ヶ月以降での改善の経過が明確となった。この知見は,副神経麻痺によって生じた僧帽筋上部線維の筋力低下による肩甲胸郭関節機能を客観的に捉えられたという点で極めて重要である。このことは,筋電図検査を用いた検討による経時的な僧帽筋の機能回復の報告に一致すると考えられ,この時期の理学療法の実施は可動域拡大と筋力強化に寄与し重要と考えられた。さて,肩関節屈曲および外転可動域は術後6ヶ月以降において,いずれもADL上支障のないレベルまで達していたが,術前と比較するとなおも有意に低下し,機能的には十分に回復しないという結果も浮き彫りとなった。このことは,退院後の継続的な理学療法の重要性を示唆した。一方で,肩関節機能の改善より原疾患の治療を主に考えて療養生活を送ることを強いられ,退院後の理学療法継続が容易でない頭頚部癌患者の特性も明らかであった。今後の課題として,医学的管理すなわち“がん治療”と外来通院での理学療法の継続をバランスよく両立させていく工夫や指導の重要性が示唆された。【理学療法研究としての意義】頚部郭清術副神経温存例における肩甲胸郭関節可動域の変化について術前から経時的に示した。肩甲胸郭関節機能は術後一時的に低下するが,入院中の理学療法介入や自主訓練指導により改善することが明らかとなった。しかし,肩関節機能は改善の傾向は示すものの十分とは言い難く,理学療法を如何にして継続していくかという“がん患者”特有の問題点もまた明確となった。
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茂原 亜由美, 柿崎 藤泰, 石田 行知
セッションID: 0273
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】我々は健常成人の胸郭形状の分析から定型的な左右差を有することを見出し,胸郭に直接的に関係する左右同筋の機能差について分析している。広背筋は椎骨部・肋骨部・腸骨部・肩甲骨部の4つの部分の起始を持つと言われているが,このうち肋骨部から起こる線維は下位胸郭に付着しており,胸郭形状の偏位にその機能は依存し,左右の同線維において機能差が生じるものと考える。また,一側の胸郭における上位肋骨と下位肋骨の回旋位の相違の存在により,同側での4つの広背筋線維間でも機能差が生じるものと考えられる。このように広背筋の各線維における筋厚の左右差を,左右の広背筋の機能差を招く一要因として考えている。そこで今回は,広背筋の筋厚の左右差を線維別に調査し,興味ある知見が得られたので報告する。【方法】対象は健常成人男性8名(年齢23.3±2.0歳,身長173.6±3.8cm,体重68.7±4.1kg)とした。広背筋の筋厚は,デジタル超音波診断装置(MyLab25,株式会社日立メディコ,東京)を用いて測定した。測定肢位は腹臥位とし,安静呼気終末の背部超音波画像を静止画像にて記録した。測定部位は,広背筋椎骨部線維(以下椎骨線維)と広背筋肋骨部線維(以下肋骨線維)とした。椎骨線維は,両上後腸骨稜(以下PSIS)を結ぶ線に平行な線上で,第10胸椎棘突起から5cm外側の位置で測定した。肋骨線維は,PSISと腋窩を結ぶ線上で第10肋骨上端を基準に測定した。なお上記測定部位にマーキングをし,プローブの当てる位置を定めた。左右とも各線維3回ずつ測定し,各施行の平均値を算出した。得られた超音波画像は,米国国立衛生研究所の配布している画像処理,解析用のフリーソフトウェアImageJを用いて処理,計測を行った。統計処理は,各線維における筋厚の左右差については対応のあるt検定を実施し,左右差の椎骨線維,肋骨線維間の比較はF検定した後t値を算出した。なお有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に沿い,各対象者に対して本研究内容の趣旨を十分に説明し本人の承諾を得た上で計測を実施した。【結果】椎骨線維筋厚は右3.6±0.4mm,左3.7±0.3mmで有意差はなかった。肋骨線維筋厚は右6.5±1.4mm,左5.5±1.3mmで右が有意に厚かった(p<0.01)。左右での筋厚差は,右椎骨線維が左に対し1.0±0.1倍,右肋骨線維が左に対し1.2±0.1倍で,有意に肋骨線維の左右差が大きかった(p<0.01)。【考察】本研究の結果,広背筋の線維によって筋厚の左右差の有無が異なるということが分かった。椎骨から起こる線維に関してはほぼ左右差がない結果となった。これに対し肋骨から起こる線維は右側の方が厚いことが分かった。これまでにも筋厚と筋力,筋厚と年齢等の関係性に関する研究はあったが,本研究では同一筋において左右差があり,さらに同一筋内においても線維によって左右差の有無が異なるという興味深い結果となった。この要因はいくつか考えられる。まず,広背筋の起始,停止の位置関係,つまり胸郭形状が左右非対称であるということである。胸郭形状に左右差があることで,広背筋の筋長や張力にも左右差が生じている可能性がある。または,肋椎関節の剛性が影響している可能性もある。広背筋肋骨線維付着部は肋骨の外側部であるため,仮に肋椎関節の剛性が低いとすると起始部である肋骨が不安定な状態となり安定した筋収縮が得にくい可能性がある。【理学療法学研究としての意義】臨床上,左側広背筋,右側大殿筋からなる斜走線維の機能低下を有する症例を多く経験する。歩行安定や除痛を図る過程において,左側広背筋の機能再構築は重要であると考える。今後,広背筋腸骨部線維つまり胸腰筋膜の機能特性や,肋椎関節の剛性および筋厚との関係性を調査し胸郭形状が筋機能に及ぼす影響について解明していくことで,理学療法を展開していく上でのより有益な情報を得ることが出来ると考える。
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~異なるインプラントによる比較~
村田 聡, 小野寺 智亮, 梅田 健太郎, 荒木 浩二郎, 菅原 亮太, 瀬戸川 美香, 谷口 達也
セッションID: 0274
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに】鎖骨遠位端骨折術後の肩関節機能を十分に検討した報告は少ない。骨接合に使用されるインプラントには肩鎖関節制動型のClavicle hook plate(以下,hook plate)や肩鎖関節が制動されない鎖骨遠位設置型plate(以下,遠位plate)などが挙げられるが,手術方法については一定の見解が得られていない。今回当院での鎖骨遠位端骨折患者の術後成績をインプラント別で比較調査したので報告する。【方法】対象は2011年12月から2013年5月までに観血的骨接合術を施行された鎖骨遠位端骨折患者9例9肢。平均年齢41.1±18.5歳,男性7例,女性2例。収集項目は,骨折型(Craig分類),使用インプラント,手術方法,理学療法継続期間,肩関節ROMが健側差無しまでに要した期間,術後6週の肩関節ROM(屈曲・外転),疼痛(VAS)。最終評価時の肩関節ROM(屈曲・外転),疼痛(VAS),患者満足度(VAS),Constant score,肩関節JOA score。理学療法終了後の抜釘の有無。統計解析はノンパラメトリック手法,Mann-Whitney U検定で異なる手術方法の2群間比較を行った(P<0.05)。【倫理的配慮,説明と同意】当院倫理委員会の承認を得た後,対象に口頭と文書で説明し同意を得た。【結果】骨折型はCraig分類Type2が4例,Type3が1例,Type4が1例,Type5が3例。手術方法はhook plate群が4例,遠位plate群は5例であった。後療法は全例術翌日から疼痛に応じて肩関節自他動ROMexが開始された。一定期間肩関節屈曲・外転ROMが90°以下に制限された例がhook plate群で3例,遠位plate群で1例存在した。理学療法継続期間はhook plate群15.2週,遠位plate例8.8週で両群間に有意差を認めた。術後6週での肩関節ROMはhook plate群で屈曲146.2°,外転145°,遠位plate群で屈曲155°,外転145°となり,最終評価時の肩関節ROMはhook plate群で屈曲170°,外転171.2°,遠位plate群で屈曲162°,外転151°となり術後6週と最終評価時ともに両群間で有意差は認めなかった。肩関節ROMが健側差無しまでに要した期間はhook plate群13.2週,遠位plate群7週であり遠位plateで有意に短い結果となった。疼痛は術後6週で,hook plate群31.7mm,遠位plate群7.2mm,最終評価ではhook plate群9.7.mm,遠位plate群5.4mmとなり,術後6週のみ遠位plate群が有意に低かった。術後6週での疼痛部位はhook plate群で全例肩関節挙上運動時に肩鎖関節や肩峰周囲に認め,遠位plate群では2例で屈曲時に腋窩や肩関節後面に疼痛を認めた。最終評価時のConstant scoreはhook plate群89.6/100点,遠位plate群88.8/100点,肩関節JOA scoreはhook plate群91.7/100点,遠位plate群91.7/100点となり,両評価ともに有意差は認めなかった。患者満足度はhook plate群86.2/100mm,遠位plate群91/100mmとなり両群共に高値となった。理学療法終了後の抜釘は遠位plate群で1例,hook plate群で全例行われていた。【考察】今回,インプラントの違いによる2群間で肩関節ROM・constant score・肩関節JOA scoreの機能評価に有意差は認めなかったが,術後6週での疼痛には有意差を認めた。hook plate群で認めた肩鎖関節や肩峰周囲の疼痛は,hookの先端が肩関節近傍に達する侵襲の影響や肩峰へ加わる応力が大きい事,肩鎖関節が制動されることによる肩峰下インピンジメントなどの影響が考えられる。しかし,最終評価での疼痛はhook plate群で残存する傾向にはあったが有意差は認めず,hook plate設置により構造的な問題で生じていたと考えられた疼痛が軽減した。村上(2012)によりhook plateのmigrationは56%に,Deepak(2012)により肩峰下erosionは50%と高率に出現したとされている。本研究の対象にもhook plateのmigrationや肩峰下のerosionにより,肩鎖関節の可動性が再構築された可能性が示唆される。実際にhook plate抜去時の所見として,4例中2例にhook plateのmigrationや肩峰下のerosionの所見が確認された。また,体幹伸展に伴う肩甲骨の後傾,胸鎖関節の運動が代償的に働いたことが疼痛軽減の要因として考えられる。理学療法継続期間では遠位plate群で有意に短い結果となったが,これは肩関節ROMの回復に要した期間が遠位plate群で短かった事が要因であると推察された。hook plate群でROMの回復に時間を要した理由は,疼痛が比較的大きかったためROMの改善が遅れたこと,肩鎖関節制動による肩関節ROM改善の遅延が影響していると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究により鎖骨遠位端骨折症例の術後成績と,手術方法別での成績の傾向を示すことが出来たが,今後は症例数を蓄積することが非常に重要である。また,本研究の結果をもとに,整形外科医と密に連携をとることで,手術から後療法までの最良な治療方針の構築の一助になると考える。
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超音波画像診断装置を用いた肘後方の動態観察
風間 裕孝, 湯本 正樹, 阿部 純子, 松平 兼一
セッションID: 0275
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに】外傷性肘疾患の運動療法において好成績を得るには,拘縮要因である関節筋に対するアプローチが以前より認識されている。更に近年,超音波画像診断装置(以下,エコー)を用いた観察によって,肘伸展制限において前方組織は基より後方組織では後方脂肪体が制限因子として報告されている。今回,右肘頭裂離骨折術後症例に対し,エコーを用いて肘後方の動態観察のもと運動療法を実施し,良好な成績を得たので報告する。【方法】症例は14歳,女子である。バスケットボールのジャンプ時に右肘より落下受傷し,同日,右肘頭裂離骨折と診断され,ギプス固定となる。受傷後10日目に骨接合術及び上腕三頭筋の筋腱逢着術施行後,肘60°屈曲位にてギプス固定となる。尚,術中所見では肘頭の裂離骨片と共に上腕三頭筋は一部を除き剥離していた。術後20日目にヒンジ付肘装具処方,30日目より運動療法開始となる。装具許容角度は肘伸展-60°,屈曲105°,術後33日目に肘伸展-30°,屈曲120°となった。初診時理学所見では,肘頭周辺部の腫脹や圧痛はなく,ROMは肘伸展-55°,屈曲90°であった。エコーはSIEMENS社製超音波画像診断装置ACUSON P300を使用し,画面上に肘頭窩,肘頭,上腕三頭筋,後方関節包,後方脂肪体を描出した。エコー観察(術後39日目)は装具を外し,肘屈伸可動範囲である屈曲90°から伸展-45°の自動伸展運動を健側と比較した。上腕三頭筋内側頭(以下,内側頭)の近位滑走と後方関節包及び脂肪体の背側近位移動は著しい制限を認めた。その為,内側頭に対し前方へのスライド操作,引き離し操作と共に内側頭の反復収縮を行ったうえで再度エコー観察したところ,明らかな改善を示した。また,前方組織に対するアプローチも併せて実施した。運動療法は術後3ヵ月まで週1~2回,その後2週に1回程度実施した。術後8週において,骨癒合状態は良好であり装具は除去,他動運動が追加された。【説明と同意】症例には本発表の目的と意義について十分な説明を行い,同意を得た。【結果】伸展最終域での後方動態を定期的にエコーで観察したが,可動域の改善と共により後方関節包及び脂肪体の背側近位移動は改善を示した。4ヵ月後,ROMは肘伸展0°,屈曲145°,JOA score100点で運動療法終了とした。【考察】肘頭裂離骨折の予後は一般的に良好であるが,若干の伸展制限を残す事もある。林らは終末伸展運動における肘後方脂肪体の動態をエコーにて観察し,伸展に伴い機能的な形態変形をしながら後方関節包と共に背側近位移動する事を明らかにし,肘後方インピンジメントを回避するとしている。本症例は開始初期において,内側頭の滑走障害と共に後方関節包及び脂肪体の背側近位移動の明らかな制限を認めた。この制限の残存は伸展運動における後方インピンジメントの惹起に寄与し得るが,当然後方関節包の伸張性低下は屈曲制限にもなる。ゆえに初期において後方関節包及び脂肪体の背側近位移動を改善させた事は,後の可動域改善を円滑にし,他報告と単純比較出来ないものの,良好な可動域が得られたと考えられた。【理学療法学研究としての意義】可及的早期に脂肪体の機能的変形が出来るスペースの確保と共に脂肪体の線維瘢痕化を予防する事は後の運動療法を円滑にし,またエコーによる動態観察を行う事で的確な運動療法に繋がると考えられる。
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牛越 浩司, 西風 宏将, 吉原 大貴, 高田 裕恵
セッションID: 0276
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに】上腕骨骨頭を除去する症例は,悪性腫瘍の切除や疼痛の緩和などを目的に行なわれるが,肩関節機能の再建を断念することを意味しており,その機能的損失は甚大である。今回我々は,上腕骨近位端骨折に対し観血的整復固定術を施行後,感染症から上腕骨頭除去術を余儀なくされた症例に対し,機能的サポーターを使用し,若干の効果を得られたため報告する。【同意】今回の発表については院内倫理委員会の承認,症例の同意を得ている。【症例紹介】症例は80代,女性,元々Parkinsonizm,うつ病にて服薬治療をされており,ADLは自立していたが,全般的に活動量は低下していた。階段中段から落ち,上腕骨近位端骨折(3part)を受傷。外科頚と解剖頚にて骨折しており,骨頭部分は脱臼していた。骨頭は腕神経叢を圧排していたものの,神経叢の損傷は見られなかった。2日後観血的整復固定術(TRYGEN)を施行したが,腕神経叢麻痺を併発していた。【経過】固定手術実施後,この時点でMMT三角筋0,上腕二頭筋2,上腕三頭筋0,手根伸筋0,手指伸筋0,手指屈筋2であった。5週間の入院リハを行なったが,左上肢は肩関節周囲の疼痛が強く,麻痺もあったためリハ中は物を上から抑える程度の使用は出来たものの,ADLへの参加はなく,日中は不使用であった。退院後も自宅では肩関節周囲の疼痛は残存しており,左上肢は愛護的な姿勢を終始とり続け,ほとんど使用していなかった。精神的な落ち込みもあり,リハビリ意欲は低下したままであった。5か月後,感染症により抜釘術および上腕骨骨頭除去術を施行した。骨頭切除後,疼痛は軽減しており,神経症状の改善もみられた。筋力は三角筋1+,上腕二頭筋3,上腕三頭筋1+,手根伸筋2,手指屈筋3であった。しかし,長期間左上肢の疼痛回避,不使用から術後もADL上では不使用を続けていた。そこで,機能的サポーターを利用しての左上肢のADL参加度の向上を目指した。【サポーターの紹介】ダイヤ工業株式会社「High Performance プレミアム ショルダーサポーター」(以下サポーター)を使用。このサポーターは肩甲上腕関節を圧迫し筋の収縮性を向上させ関節の結合力を高めると伴にリフトアップベルトで三角筋,棘上筋のサポートを行なうものである。本来,スポーツ場面で使用されるものであるが,重度の機能障害を有する肩関節に利用した。【結果】13週の入院リハを行なったが,その間上記サポーターを装着してのリハに取り組んだ。サポーターを装着することで疼痛の軽減が得られ,テーブルサンディングや自動介助運動,両手を使用した創作活動を行ない,筋力強化,意欲の賦活に努めた。その結果,筋力は三角筋2+,上腕二頭筋3+,上腕三頭筋3,手根伸筋2,手指屈筋3とわずかながら改善した。肩甲骨面拳上では40°拳上できるようになり,OTの創作活動場面での左上肢使用度が増加した。ADLでは左上肢で物を押さえたりつまんで固定するなどの補助手的な役割で使用する場面がみられるようになり,実際には上着の紐の結着動作や歩行中物品を運んだりなどの左上肢を使おうという意識,意欲が表れてきた。【考察】上腕骨骨頭切除術は深刻な機能的損失をまねく。拳上90°まで可能になったという報告はあるが,本症例のように高齢,神経麻痺,長期不使用による運動器の廃用,精神的な低下を考えると左上肢の使用は絶望的であると思われた。実際本術式を選択した背景には,人工骨頭という選択肢もあったが疼痛や意欲の低下から考えリハビリ的に耐えられないだろうという判断からのものである。このような状況下でサポーターを使用することは,疼痛軽減といった効果もあり容易に患者に受け入れられた。今回紹介したサポーターは,股関節ガードルストーン法後に装着する機能的サポーターと同様に,肩関節の安定性向上に効果があると思われる。
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竹中 裕, 吉井 秀仁, 松橋 彩, 吉岡 大輝
セッションID: 0277
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】日本整形外科学会が推奨する深部静脈血栓症(以下DVT)の予防策として,足関節の底背屈運動(以下カフパンピング)が挙げられる。健常者を対象に下肢静脈をエコーで観察し,静脈血流速度改善に有効なカフパンピングの方法を報告した研究は散見されるが,人工関節周術期患者の術後早期における同様の報告はない。本研究の目的は,人工股関節全置換術(以下THA)患者の術前および術後早期のカフパンピングによる大腿静脈血流速度の変化を調査し,術後早期でも可能かつ効率的な運動を提案することである。【方法】対象は,2013年4月~11月の8ヵ月間に当院で施行されたTHA患者のうち,計測可能であった14症例15関節(男性:女性=5:9,平均年齢58.9±10.7歳)。計測項目は,患側大腿静脈における安静時およびカフパンピング時の10秒間の静脈平均血流速度(cm/sec 以下:平均流速),1分間に実施可能であったカフパンピング回数(以下,運動回数)で,これらを術前,術翌日,術翌々日に計測した。足関節運動項目は自動運動(以下:自動),他動運動(以下:他動),自動介助運動(以下:自動介助),自動運動15回/分(以下:自動15)の4項目である。運動回数の設定について,自動では,術前は60回/分,術後は同条件で行いつつ患者自身が可能であった運動回数をカウントした。他動および自動介助は術前術後とも60回/分で行った。運動は計測前に可動範囲を大きく行うよう指導し,10回試行した上での計測を実施した。測定条件として,肢位は病棟ベッド仰臥位・膝関節軽度屈曲位とした。なお,弾性ストッキングについて,術前は非着用,術後は着用での計測とした。計測する項目順は,計測日毎に乱数表を用いてランダム化した。平均流速は超音波診断装置Viamo
®(東芝メディカルシステムズ社製)リニアプローブ(12MHZ)を用いて行い,パルスドプラ法で計測した。全症例,機器の操作・超音波照射は医師が実施した。統計処理については,統計ソフト「R2.8.1」を用いてノンパラメトリック検定を行い,危険率5%未満を有意水準とした。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき,被験者全員に研究の目的・方法の説明を行い,書面にて同意を得た。【結果】平均流速(cm/sec)は,安静-自動-他動-自動介助-自動15の順に,術前は6.9±2.9-11.4±4.9-8.6±3.1-13.6±6-11.8±5.4,術翌日は7.2±2.2-10.1±4.2-8.2±2.9-10.8±3.1-9.2±3.4,術翌々日は8±3.2-11.3±3.7-9.3±3.1-12.4±3.8-11.2±3.3であった。有意差がみられた項目は,全ての計測日における安静および他動と自動・自動介助・自動15,術前および術翌々日の自動介助と自動・自動15,術翌日の自動介助と自動15の間であった。安静臥位時に比べた平均流速の変化率(%)は,自動-他動-自動介助-自動15の順に,術前165-126-198-171,術翌日141-115-151-129,術翌々日142-118-156-140であった。自動運動回数は,術前51.3±13.1回/分,術翌日32.7±13.8回/分,術翌々日48.2±14.2回/分であった。【考察】術前に比べて術後早期に平均流速改善効果が減少した理由として,全身状態の低下や併発症が原因で,術前と同じ回数での運動が困難であったことが考えられる。一方,術翌日と翌々日には,自動15は自動と比べて平均流速増加率がやや減少するものの有意差が見られなかった。ここから,術後,自動運動回数を十分に行えなくても,ゆっくりでも可動域を大きく運動を行えば一定の効果を得られることが分かった。他動運動は筋ポンプ作用が機能せず,血流改善効果に欠けると報告されているが,本研究の結果においても自動や自動15と比べて同様であった。一方,自動介助運動は,可動域を補完しつつ筋ポンプ作用を発揮することができるため,術後早期でも効果を得られる方法であり,理学療法士によるDVT予防のための運動指導・治療実施の有用性が示唆された。本研究の反省点として,今回設定したカフパンピング方法では,術前に比べ,術後早期に自動運動での平均流速の増加率が芳しくなかったことが挙げられる。理学療法士が治療として関わる時間は限られるため,DVT予防には患者自身が流速改善に有効な自動運動を習得することが重要である。今後の課題として,術後早期から術前の流速改善効果に近づける自動運動でのカフパンピング方法の構築,運動回数の設定が挙げられる。【理学療法学研究としての意義】本研究により,THA術後早期患者のカフパンピングによる平均流速変化の傾向を明らかにすることができた。術後早期から可能な限りDVT予防効果を維持できる運動方法を指導・実践することは,臨床場面において,DVT発生率の減少に結びつくと考える。
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二宮 一成, 池田 崇, 鈴木 浩次, 多門 史仁, 平川 和男
セッションID: 0278
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】近年,「患者主体」の主観的評価が注目され本邦において日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(JHEQ)が作成された。JHEQの特徴は,股関節疾患患者に対してメンタル尺度(JHEQメンタル)を設けて精神状態の評価を可能としたことである。これまでに人工股関節全置換術(THA)前後にShort-Form 36-Item Health Surveyを用いて患者の主観的評価を検討した報告は多くある。しかしTHA術前後患者に対してJHEQの経時的変化を調査した報告は少ない。そこでJHEQの中でも特徴的なJHEQメンタルに注目し,THA前後患者のJHEQメンタルの推移に影響を及ぼす因子を明らかにすることとした。【方法】対象は,平成25年1月から平成25年5月までに本研究の同意が得られ低侵襲人工股関節全置換術(MIS-THA)を予定している片側変形性股関節症女性患者49名49関節(平均年齢61.5±9.1歳,BMI22.5±2.9kg/m
2)とした。評価項目は,術前とMIS-THA後2ヶ月,6ヶ月のJHEQ下位3尺度(疼痛・動作・メンタル),股関節外転筋力(外転筋力),10m歩行時間,UCLA Activity Score(UCLAAS)とした。取り込み基準は,術前,術後2ヶ月,6ヶ月において身体機能評価およびJHEQアンケートに不備なく回答が可能であり,かつ当院のクリティカルパスに準じて理学療法を行い術後5日間で退院となった者とした。外転筋の測定は,ハンドヘルドダイナモメーターを用い,最大等尺性収縮筋力をトルク体重比(Nm/kg)に算出して採用した。10m歩行時間は,出来るだけ速く歩くよう指示し測定を行った。術前後の推移は,術後2ヶ月・6ヶ月の数値から術前の数値を減じた変化量(2M-pre)(6M-pre)を算出し分析を行った。統計解析は,JHEQメンタルの推移を従属変数とし,年齢,BMI,JHEQ疼痛・動作,外転筋力,10m歩行時間,UCLAASの推移を独立変数としてStepwise重回帰分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には研究内容,目的について十分な説明を行い,同意を得られた者に対して実施した。【結果】各評価項目を(術前,術後2ヶ月,術後6ヶ月)の順で示す。外転筋力(0.61±0.17Nm/kg,0.75±0.22Nm/kg,0.89±0.24Nm/kg),10m歩行時間(8.68±2.32秒,8.06±1.85秒,6.99±1.55秒,)UCLAAS(4.5±1.3,4.6±1.1,5.6±0.8,)JHEQ疼痛(8.4±4.8点,22.6±5.1点,23.3±4.8点)JHEQ動作(4.6±4.0点,11.2±5.7点,12.9±6.0点)JHEQメンタル(9.0±5.6点,17.9±6.7点,20.8±5.9点)であった。またStepwise重回帰分析の結果,術後2ヶ月までの推移(2M-pre)におけるJHEQメンタルへの影響因子は,第1にJHEQ疼痛,第2に外転筋力,第3に10m歩行時間,第4にBMI,第5にJHEQ動作が有意な影響因子であった(標準偏回帰係数:JHEQ疼痛0.387,外転筋力0.398,10m歩行時間0.290,BMI0.219,JHEQ動作0.216)。また術後6ヶ月までの推移(6M-pre)においては,第1にUCLAAS,第2にJHEQ疼痛が有意な影響因子であった(標準偏回帰係数:UCLAAS0.519,JHEQ疼痛0.380)。【考察】本研究の結果からTHA後患者の精神状態の変移は,術前から術後2ヶ月は疼痛や外転筋力,10m歩行時間,ADL困難感の改善が影響因子であり術後6ヶ月には生活活動強度を示すUCLAASや疼痛の改善が影響因子であるということが明らかとなった。これまでTHA後患者に対する理学療法は時期に関わらず,筋力や歩行能力の向上を中心とした内容や関節保護を念頭とし積極的な運動は避けるよう制限を強いた指導が主であった。しかし,今回の結果を踏まえると患者の精神状態の移り変わりにより沿う理学療法は,継時的変化によって異なることが考えられる。術後2ヶ月までの時期には術創部の疼痛が筋発揮や歩行,ADLの妨げになり,この結果として精神状態に影響を及ぼすという因果モデルが考えられる。よってこの時期には,創傷治癒を阻害しないようなトレーニングやADL動作指導を行い「疼痛のない日常生活の確立」が重要であると思われる。また先行研究から生活活動強度は,股関節機能よりも社会的要因と関連があると報告されている。このことを踏まえると術後2ヶ月以降には,股関節機能だけでなく仕事や余暇活動に対する参加を促していくことが重要であると思われる。今後の課題として,THA術後において許容できる生活活動強度を明確にしていくことが必要と思われる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,MIS-THA術前後のJHEQの経時的な変化を調査し患者の精神状態の変移に影響する因子を明らかにした。これは患者の精神状態により沿う理学療法を提供するために有用である。
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佐久田 衛, 川越 陽介
セッションID: 0279
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】変形性股関節症患者が抱える疼痛は病期に関わらず存在し,慢性化により身体面のみならず心理面にまで影響を及ぼすと言われている。我々は,人工股関節全置換術(THA)施行後において,痛みに対する悲観的・否定的な感情は術後経過に影響を及ぼす因子の一つではないかと考えている。その悲観的・否定的な感情を表す状態としてPain Catastrophizing(破局的思考)が挙げられる。破局的思考と膝関節疾患を対象にした報告は多くあるが,これまで股関節疾患を対象に破局的思考がどのように影響するか調査した報告はみられない。本研究は,当院で施行しているTHA後の患者を対象に,破局的思考と術後経過との関連性を調査し,術前・後の評価項目としての意義について考察することを目的とした。【方法】平成23年4月から平成25年10月までの間に当院にてTHAを施行した女性17例(46~81歳:平均年齢64.8±10.7歳)を対象とした。全て片側例であり,平均在院日数は74.4±28.9日であった。評価時に質問紙の聴取困難やデータ欠損がある例は除外した。痛みに対する心理面の測定として,破局的思考の尺度として妥当性が示されているPain Catastrophizing Scale(PCS)を使用した。評価項目は,PCS,術後2週での歩行能力と股関節屈曲角度,在院日数とした。PCSは術前1~2日と術後2週に面接方式で聴取した。歩行能力と股関節屈曲角度,在院日数はカルテより後方視的に調査した。歩行能力の基準は,対象が術後2週時点で病棟もしくは院内を自立して移動している手段とし,歩行器や杖などを使用して移動している歩行自立群,車いすで移動している非自立群の2群に分けた。対象全例において術前・後PCSと股関節屈曲角度,年齢,在院日数との関連性をSpearmanの順位相関係数を用いて分析した。また,歩行自立群,非自立群間におけるPCS下位項目の反芻,無力感,拡大視を比較しMann-WhitneyのU検定を用いて分析した。なお,PCS総得点,各項目は全て中央値を採用した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は事前に当院倫理委員会の承認を得ておこなった。対象にはヘルシンキ宣言に則り,研究の要旨および目的,研究への参加の任意性と同意撤回の自由およびプライバシー保護について文書および口頭にて充分な説明を行い,署名による同意を得た。【結果】各因子との相関関係において,在院日数と術前PCS(r=0.551),術後PCS(r=0.499)において高い相関関係が認められた。年齢と術前PCS(r=0.187),術後PCS(r=0.141),股関節屈曲角度と術前PCS(0.357),術後PCS(0.173)では相関は認められなかった。歩行自立度2群間での比較において,術後PCS下位項目の拡大視で非自立群が高くなる傾向が認められた(p=0.064)。【考察】術前・術後PCSと在院日数に相関がみられ,年齢,関節屈曲角度とは関連性がみられなかった。PCSと在院日数の関連において,相関係数をみると術前が高く,術前PCSが在院日数とより強く関連することが推測された。THAが適応される患者は罹患期間が長く,長期的な疼痛が生活動作,夜間睡眠に影響しているといわれている。また,術前から人工関節への不安が強い例では在院日数が長くなることが報告されている。臨床では術前からの疼痛管理を行い,術後経過や病期に応じた予後の説明をできる限り正確に行っていく必要性があると考える。歩行自立度2群間の比較では,非自立群において術後拡大視が高値である傾向がみられ,術後拡大視の残存は歩行能力に影響することが示唆された。拡大視の質問項目は「何かひどいことが起きるのではないかと思う」,「痛みがひどくなるのではないかと怖くなる」などである。術後2週時点で,痛みに対する不安や恐怖を抱えている心理状態が活動制限を招き,早期の歩行獲得に影響したと考えられる。このような患者に対しては,個々の症例に応じて,痛みに対するマネジメントが重要であると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から,PCSとTHA後の在院日数が関連し,下位項目の拡大視は歩行獲得時期に影響することがわかった。PCSはTHA後の歩行獲得時期,在院日数の予測因子の一つとして活用できる可能性が示唆され,THA前後の痛みに対する破局的思考を捉える一評価として有効と考える。今後の課題としては,術後の中・長期的な評価や,術前・後の機能的評価と痛みに対する認知面との関連性などを加味しての検討が必要と考える。
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末田 達也
セッションID: 0280
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】Charnleyが1962年にポリエチレンカップおよびメタルボールの組み合わせによって人工股関節全置換術(以下THAと略す。)を施行して以来,THAには様々なタイプのコンポーネントが用いられてきた。現在までに臼蓋カップ,メタルボールの破損例はいくつか報告されているが,我々が渉猟する限り人工関節ステムの破損の報告は少ない。今回,右THA術後に発生した人工股関節ステム頚部折損の一例を経験したので若干の考察を加え報告する。【方法】症例:54歳 男性 職業:農業,建築業経過:2006年12月当院整形外科にて右THA(Smith&Nephew/SYNERGY)を施行し,臼蓋カップSsp3-54mm,ハイオフセットステム使用し,ヘッドは26mmを使用した。2007年3月左THA(Smith&Nephew/SYNERGY)を同様に施行し,術後経過良好であったが,2012年10月椅子座位から立ち上がり歩行した際に,右股関節よりゴキッと音がし歩行困難となり当院救急搬送となった。2012年11月右THA再置換術施行。2013年9月K-wire抜去。既往歴:両股関節無腐性壊死来院時現症:身長:167cm 体重:67kg。右股関節の運動困難を認めた。X所見:人工骨頭の破損と後外側への脱臼を認めた。術中所見:側方Hardingeアプローチに準じたアプローチで大腿筋膜を切開し,中臀筋から大転子骨膜,外側広筋まで切開し股関節を展開し,大腿骨の近位部,臀筋の大腿骨付着部,後方関節包も切離した。ステムは頸部で破損しており,大腿骨ステムと臼蓋カップには接触を認めライナーに部分的な破損を認めた。アウターカップ,ステム自体には可動性を認めなかった。ステムには良好な骨の進入が認められ抜去は困難であったため,大転子の先端から遠位約8cmで転子部骨切りを行った。【倫理的配慮,説明と同意】今回の発表にあたり,ヘルシンキ宣言に基づき症例に説明し同意を得て行なった。【結果】術後よりギャッジアップ,側臥位可。翌日より理学療法開始,患部外の筋力トレーニング,可動域ex,全荷重開始。右股関節筋力トレーニングと右股関節可動域exは4週後より開始し術後2ヶ月で自宅へ退院し,農業,建築業へ復帰。退院後,右大臀筋部に滑液嚢が生じ,2013年9月K-wire,滑液嚢切除術施行し,翌日より理学療法開始,患部外の筋力トレーニング,可動域ex開始。術中に大転子部の骨吸収像診られ,右股関節筋力トレーニングのみ術後4週より開始,術後2ヶ月で退院となった。関節可動域は,股関節屈曲110°,伸展15°,外転20°,内転0°,MMT股関節周囲5股関節外転のみ4,一本杖にて歩行自立。農業,建築業に復帰。【考察】1970年にBoutinが初めてセラミックTHAを行ったが,現在使用されている大腿骨ステムの材料としてはチタン合金,コバルトクロム合金などの金属製であり,骨新生が金属インプラント表面に起こり,骨とインプラントが強固に固着する作用がある。現在,わが国では年間30万例を超える臨床応用がなされている。われわれの渉猟する範囲ではチタン合金製大腿骨ステム頸部の折損の報告は少ない。破損の原因として活動性の高い若年者,肥満,股関節の外傷,大腿骨ステムと臼蓋カップのインピンジメントなどが挙げられている。本症例は,農業,建築業を行っている活動性の高い54歳男性である。2006年の右THAの際の術中所見に,軽度の前方インピンジメントが確認されており,再置換術時の術中所見にてステムは頸部で破損しており,大腿骨ステムと臼蓋カップには接触を認めライナーに部分的な破損を認めたとあった。酒井らによると,荷重負荷時ステムは近位部から遠位部へ徐々に下方に変位し,ステム全体の著しい沈み込みを認めている。また但野らによると人工股関節ステムの頚部には高い応力集中が生じたと述べている。農作業等の動作は股関節屈曲動作が多く行なわれる。症例の股関節屈曲可動域は120°程とTHA術後としては,過可動域であったと考えられる。日常的な屈曲荷重動作により大腿骨ステムと臼蓋カップは接触し,人工股関節ステムに加わる応力も増大していたのではないかと考えられる。人工股関節ステム頸部は,構造的に断面積が小さいため応力が集中しやすい構造となっており,本症例の股関節屈曲角度は,THA術後としては過可動域であった。そのため,屈曲荷重動作により大腿骨ステムと臼蓋カップは接触し,人工股関節ステムに加わる応力も増大し,今回の人工股関節ステム頸部破損に繋がったのではないかと考えた。【理学療法学研究としての意義】人工股関節ステム頚部折損の症例は少なく,今回のように症例報告を蓄積することは重要である。また,一般的に,THAのリスクとしては脱臼が言われているが活動性の高い若年者の場合THAの破損のリスクもあることを考慮しておく必要があると考えられる。
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初回人工関節全置換術と比較して
中島 卓三, 木下 一雄, 吉田 啓晃, 相羽 宏, 桂田 功一, 樋口 謙次, 中山 恭秀, 安保 雅博
セッションID: 0281
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【目的】人工股関節再置換術(以下Revision)は初回人工関節全置換術(以下Primary)と比較すると,プロトコルの違いにより,入院が長期化することが多く,また先行研究では筋力の術後の回復が乏しいと報告されている。本研究の目的は,PrimaryとRevisionの術側股関節外転筋力(以下 筋力)と疼痛の術前から術後5か月まで経時的変化を調査し,術式による改善の違い,またどの時期に最も改善あるいは停滞がみられるのか調査し,患者指導の一助とすることである。【方法】対象は当大学附属4病院にて2010年1月から2013年6月までに人工股関節置換術を施行し,術前から術後5か月まで評価可能であったPrimary149例,Revision42例とした。術式は全て後方進入で,片側例のみとした。各群の基礎情報として年齢,男女比,BMI,入院期間を抽出し,筋力(Nm/kg)とVASによる疼痛評価の術前,退院時,2か月,5か月の各時期の計測値を,データベースより後方視的に調査した。統計は年齢・BMI・入院期間については2標本t検定,男女比はカイ2乗検定を行い,術式による両群間の差を検定した。また筋力と疼痛の経時的変化については術式と時期の2要因による分割プロットデザインによる分散分析を行い,主効果が認められた項目に関しては多重比較法(Bonferroni)にて検定した。また2標本t検定を用い両群間の各時期についても差を検定した。さらに筋力については改善度の指標として各時期の非術側股関節外転筋力との比を算出した。【倫理的配慮】本研究は,当大学倫理委員会の承認を得て,ヘルシンキ宣言に則り施行した。【結果】PrimaryとRevisionの平均値は年齢63.4±10.6:69.1±8.8歳,男女比36/113:10/32人,BMI23.3±3.9:23.7±3.8,入院期間20.2±6.0:37.8±12.1日,筋力術前0.56±0.26:0.50±0.27,筋力退院0.55±0.25:0.53±0.26,筋力2か月0.73±0.41:0.60±0.27,筋力5か月0.80±0.33:0.67±0.29,疼痛術前59.8±25.6:54.3±29.4,疼痛退院27.3±24.9:26.6±26.4,疼痛2か月20.9±23.0:17.3±15.5,疼痛5か月19.6±24.0:18.8±23.6であった。年齢と入院期間に有意差が認められた。また分散分析の結果,筋力については,術式による主効果,交互作用は認められず,時期による主効果を認めたが,交互作用は認められなかった。各時期間に対する多重比較の結果,術前と2か月,術前と5か月,退院と2か月,退院と5か月で有意差を認め,また両群間の各時期においては2か月,5か月で有意差を認めた。さらに非術側股関節外転筋力比(%)は術前82.1:80.2,退院78.7:85.7,2か月90.3:86.4,5か月95.1:94.3であった。疼痛については,術式による主効果,交互作用は認められず,時期による主効果は認めたが,交互作用は認められなかった。各時期間に対する多重比較の結果,術前と退院,術前と2か月,術前と5か月で有意差を認め,また両群間の各時期についてはいずれも有意差は認められなかった。【考察】筋力の改善については術式による違いはみられなかった。しかし2か月と5か月それぞれで比較するとRevisionは有意に低値であった。Revisionは股関節周囲軟部組織への手術侵襲が複数回に及ぶため,軟部組織の瘢痕化や緊張低下が起こりやすいことや,骨質の菲薄化や骨移植の併用により荷重時期が遅れることにより,Primaryに比べ術後の回復が乏しいと報告されている。今回の結果は先行研究を支持する結果となった。しかし一方で,非術側股関節外転筋力比でみると,いずれの術式も2か月で85%以上,5か月では95%前後の高値を示していることから,2か月から5か月にかけて筋力の改善が緩やかになっており,一概にRevisionの改善が乏しいとは言えないと考える。Revisionの筋力増強運動については骨とコンポーネントの癒合状況や筋・軟部組織の回復状況を医師と密に情報交換を取りながらPrimary以上に慎重に行っていく必要があると考える。またPrimaryは術前と比較すると退院時に低値であり,効果的な退院時指導や外来フォローなど検討が必要である。疼痛の改善についても術式による違いはみられなかった。また各時期それぞれの比較でも違いはみられなかった。またいずれの術式も退院までに飛躍的に疼痛の改善がみられるが,退院時以降は経時的な改善が停滞または緩やかとなっている。疼痛の改善が顕著となる退院時以降は筋力の改善が漸増的にみられるため,今後はその疼痛の原因を明らかにし,個々の対応が重要であると考える。本研究の限界として,今回のRevision例はカップまたはステムいずれかの片側再置換例や両側再置換例などがあり,それは術中操作が様々であることを意味しているため,今後はそれを分割し再考が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】PrimaryとRevisionの筋力,疼痛の術後経過の関連を知ることで,患者指導の一助となり意義があると考える。
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ブレーキ動作からの検討
渡邊 逸平, 南塚 正光
セッションID: 0282
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】当院では人工股関節全置換術(以下THA)が年間95例程度行われている。昨今,手術を受ける患者の中には,日常生活において自動車の運転をされる方も少なくない。しかし,当院のクリニカルパスは術後2週間以内での自宅退院が通常であり,自動車の運転に関しては移乗動作の指導のみを行っているのが現状で,運転再開の基準は曖昧である。THA後の患者は,ハンドル操作や判断能力は術前と大きな変化がないと思われ,術後に影響の出る可能性のあるアクセルからブレーキへの踏み替え動作の反応速度を調査することとした。【方法】竹井機器工業の全身反応測定器を用いた。機器はアクセルに見立てたペダル(以下アクセル)とブレーキに見立てたペダル(以下ブレーキ),赤い光が発光される発光器から成り立っている。乗用車同様の配列で並んだアクセルとブレーキを椅子座位の被験者の足元に設置。ペダルから1mの距離となるように発光器を設置した。テストは,アクセルを踏んでいる状態から開始し,発光器の光に反応してブレーキに踏み替える反応時間を測定するものである(以下ブレーキテスト)。まず参考研究として,特に神経疾患等の既往歴のない健常者76名(年齢34.3±10.7歳,男性16名,女性60名)を測定。その後,THA患者46名(年齢65.3±11.8歳,男性8名,女性38名,術側はみぎ27名,ひだり19名)で測定した。THA患者は特に神経疾患等の既往歴がなく,当院の2週間クリニカルパス適応の患者であって,術前に自動車の運転をしている,と答えた方とした。THA患者においては術前,術後2週の2回の時点で測定。健常者,THA患者いずれもそれぞれ3回測定し,平均値を算出した。算出したデータは対応のあるt検定を用い,比較,検討した。危険率5%未満をもって有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,研究内容,個人情報保護対策,研究への同意と撤回について,紙面と口頭にて研究協力者に十分に説明し,同意を得て実施したものである。【結果】1)健常者は20~30代が0.401±0.063秒,40~50代が0.407±0.070秒と年齢における有意差を認めなかった。2)健常者(0.403±0.065秒)とTHA患者を比較すると,THA術前(0.519±0.256秒),術後2週(0.440±0.114秒)といずれも有意差を認めた。3)THA患者のみぎ側は術前後(術前0.557±0.327秒,術後2週0.454±0.142秒)で有意差がなかった。ひだり側は術前(0.466±0.067秒)に比して術後2週(0.420±0.048)は有意に改善した。4)THA患者のみぎ側・ひだり側の比較では有意差を認めなかった。【考察】ブレーキテストは視覚からの情報を得て,ペダルを踏み替える反応時間を測定したものであるが,今回の健常者は年齢34.3±10.7歳と比較的若く,大きな年齢差がなかったことから年齢による有意差が出なかったと思われる。それに比して,健常者とTHA患者は年齢差が大きく,動作の速度自体に差があったものと思われる。THA患者の検討では,ひだり側は有意差を認めたものの,みぎ側は有意差を認めなかった。ブレーキ動作はみぎ股関節内転,内旋あるいは,外旋の影響を受けると思われるが,これは被験者によってバラつきがあったため,みぎ側は有意差が出なかったと思われる。それに対してひだり股関節は固定側であり,被験者によって動作のバラつきが少ないことから,疼痛や筋出力等の回復の影響を受け易かったのだと考えられる。一方でみぎとひだりを比較すると,有意差は認めなかったことから,ブレーキ動作は股関節の動きが少なく疼痛を誘発することが少ないものと思われる。今回の研究では,術前自動車の運転をしていたTHA患者は,ブレーキ動作に関しては,術前より反応時間が悪化しないことがわかった。これは,THAを受けたからといって,退院後も術前できていた運転ができなくなることはないという可能性が示唆された。今後はブレーキ動作時の関節の動き等を詳細に評価し,動作習慣が反応時間にどのような影響を受けるか調査していきたい。今回は特に既往歴のない被験者での測定であったが,高齢化社会においては高齢のドライバーが多く存在する。自動車の運転は複合的な動作のため,臨床では運転を許可する際は下肢・体幹の要素以外も慎重に見極める必要がある。【理学療法学研究としての意義】臨床の場面では,患者から術後運転してもいいか,という質問を受けることが少なくない。しかし,自動車の運転に関しての文献は少ないのが現状である。本研究は,THA患者の自動車の運転に影響を及ぼす可能性があると思われるアクセルからブレーキへの踏み替えの反応時間を測定したものである。THA患者は,退院後も術前同様に運転ができることを客観的に示す一つのデータとして有用であると考える。
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片山 訓博, 山崎 裕司, 前田 旅人, 市村 瑞也, 池上 司, 和田 美和子, 土居 史明, 竹村 拓人, 太田 幸子, 本久 博一
セッションID: 0283
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに】歩行能力には,多くの因子が関連している。その中でも高齢者の下肢筋力は動作能力を規定する要因であり,膝伸展筋力と歩行能力の関連について多くの研究が報告されている。また,歩行が自立した症例と自立しない症例が混在する筋力区分では,前方へのリーチ距離や最大下肢荷重率が低値をとる症例で歩行が非自立となる可能性が高いことが報告されており,筋力にバランスの要因を加えることの重要性が示唆されている。中枢神経系の障害を有する対象者では,高齢者に比較してバランス障害が重症化しやすく,歩行能力を規定する要因としてバランスの問題がより重要となる可能性がある。本研究では,独歩に必要な筋力を有するパーキンソ病患者を対象として,下肢荷重率を測定し,歩行自立度にバランス能力が与える影響について検討した。【対象および方法】対象は,膝伸展筋の筋力体重比が0.25kgf/kg以上のパーキンソ病患者13名(男性7名,女性6名,平均年齢77.3±6.1歳,平均身長153.0±12.6cm,平均体重50.3±12.0kg)である。これらの対象者について,左右の膝伸展筋力と最大下肢荷重率を測定した。膝伸展筋力の測定には,徒手筋力測定器機(μ-tas F-1,アニマ社製)を使用した。ベッド上端座位においてセンサーパッドを下腿遠位部に固定。更に下腿固定ベルトを下腿下垂位となる長さに調節し,下腿後方の支柱に固定した。測定中は,上肢は両大腿部に置くように指示し,体幹垂直位を保たせた。次に約3秒間の最大等尺性膝伸展運動を左右2回ずつ行わせ,最大値を記録した。尚,各計測間の休息は,30秒以上設けた。最大値(kgf)を,体重(kg)で除した値を体重比とし,左右の平均値を採用した。最大下肢荷重率の測定は,2台の市販体重計を用いた。それぞれの体重計の上に片側下肢をのせた立位姿勢をとらせた。左右の足角は15度とし,両踵部の間隔は10cm開けた。そして,左右下肢にそれぞれ最大限体重を偏位させるよう指示し,5秒間安定した保持が可能であった荷重量(kg)を体重(kg)で除し,その値を最大下肢荷重率(%)とし,左右の平均値を採用した。日常の歩行能力によってfreehandでの歩行自立群(以下,自立群)と歩行器歩行群(以下,非自立群)に分け,筋力体重比値と最大下肢荷重率を比較検討した。統計学的手法は,マンホイットニーのU検定を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には本研究の目的と方法を説明し,同意を得た上で計測を実施した。【結果】自立群が5名,非自立群が8名であった。筋力体重比値は自立群,非自立群の順にそれぞれ0.48±0.15kgf/kg,0.37±0.05kgf/kgであり,両群間に有意差を認めなかった。最大下肢荷重率は自立群,非自立群の順にそれぞれ89.1±10.5%,78.3±7.8%であり,自立群が非自立群より有意に高値であった。【考察】虚弱高齢者における検討では,筋力体重比値が0.4kgf/kgを以上の対象者では,バランスの良し悪しによらず歩行は自立することが報告されている。しかし,筋力の良好な症例の中に重度のバランス障害を有する症例は含まれていなかった。つまり,バランスが強く障害された場合における歩行能力への影響は十分に検討されていない。本研究では,歩行自立の上で筋力的な問題が少ないパーキンソン病患者を対象として,バランス障害が歩行能力に与える影響について検討した。その結果,非自立群の最大荷重率は自立群に比較し有意に低値を示した。虚弱高齢者を対象とした検討では,最大荷重率が80.7%を下回る症例では独歩自立例を認めず,87.6%以上の症例では全例が独歩自立していた。今回の非自立群の平均最大荷重率は78.3%であり,これらの値を下回っていた。以上のことから,筋力が良好であっても,バランスが不良な症例では歩行が非自立となることが最大下肢荷重率のデータから確認できた。筋力に加え,最大下肢荷重率のデータを加えることでパーキンソン病患者の歩行障害の原因分析がより精度よく実施できるものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】最大下肢荷重率によるバランス障害の評価を導入することで,神経筋疾患患者の歩行障害の原因分析をより客観的に行うことができるようになるかもしれない。
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3次救急指定病院における検討
安田 耕平, 和田 朝也, 稲川 博司, 松井 彩乃
セッションID: 0284
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】近年の地球温暖化やヒートアイランド現象によって夏季に多発している熱中症については各省庁によって様々な取り組みがなされている。平成25年には全国で最高気温の記録更新が相次いだことなどによって救急搬送数は過去最多に達し,高齢者の搬送数が全体の47.4%を占めた。三宅らは高齢者の熱中症の特徴は仕事やスポーツ中ではなく,日常生活の中で発症する非労作性が大部分で重症化する症例が多く,中枢神経障害の合併が臨床的に問題になることが多いと報告している。今後も熱中症の患者数は増加が予想されているが,熱中症による中枢神経障害に対してのリハビリテーションに関する報告は少ないのが現状である。本研究の目的は,3次救急指定病院である当院における非労作性の重症熱中症による中枢神経障害の実態を調査し,今後の熱中症患者のリハビリテーションの需要やあり方について検討することである。【方法】対象は2013年7月から9月に当院に救急搬送され,非労作性の熱中症の診断で入院加療を要した18例(男性6例,女性12例,平均年齢71.8±16.1歳)である。基礎情報として年齢,性別,身長,体重,Body Mass Index,入院前の指標として発症場所,入院前の日常生活自立度,入院前のlife space assessment,同居人の有無,エアコンの有無,熱中症の重症度評価として日本救急医学会の熱中症重症度分類,重症熱中症スコア,Acute Physiology and Chronic Health Evaluation score(APACHEIIスコア),中枢神経障害の合併状況として初療時の意識レベルGlasgow Come Scale(GCS),入院時の頭部画像所見,退院時の遷延性意識障害,高次脳障害,嚥下障害,構音障害,運動麻痺,小脳失調の有無,多臓器不全の合併状況として入院時及び退院時の腎臓・肝臓障害と播種性血管内凝固症候群(DIC)の有無,その他にリハビリテーション介入の有無及び開始までの期間と主な介入内容,在院日数,退院時のBarthel lndex及び転帰を電子カルテより後方視的に抽出した。方法は中枢神経障害の合併状況を中心に症例ごとに検討を行い,中枢神経障害合併群と非合併群の数値項目にMann-WhitneyのU検定を用いて,危険率5%として統計学的解析を実施した。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には当院の規定に則り研究の趣旨と内容に関して説明し,同意を得た。【結果】対象者の熱中症重症度分類は全例III度,入院時に中枢神経障害を合併した症例は18例中10例(55.6%)であった。中枢神経障害合併群の初療時GCS平均は5.4±2.2点で,頭部画像所見として脳実質のびまん性異常高信号5例,ラクナ梗塞4例,小脳梗塞1例を認めた。退院時には10例中8例で中枢神経障害が残存し,症状は遷延性意識障害4例,高次脳障害4例,嚥下障害4例,構音障害4例,運動麻痺3例,小脳失調1例であった。中枢神経障害に加えて入院時の腎障害は3例,肝障害は2例,腎肝の重複障害は5例,急性期DICスコア4点以上は6例で認めたが,退院時には全例改善した。リハビリテーションを実施したのは10例中8例,開始までの平均日数は7.4±4.9日,介入内容は全例ADL拡大目的の離床練習,基本動作練習が主であった。自宅退院に至ったのは10例中3例で,残りの7例が転院の運びとなった。中枢神経障害の合併群と非合併群ではそれぞれ年齢(82.7±5.6歳,58.1±14.4歳),重症熱中症スコア(4.9±1.0点,2.4±1.6点),APACHEIIスコア(27.2±7.7点,19.9±3.7点),在院日数(27.8±22.4日,6.5±4.9日)に有意差を認めた。【考察】非労作性の熱中症を対象とした本研究において中枢神経障害の合併例では高齢かつ重症度が高く,様々な後遺症が残存して自宅退院が難しくなる傾向からリハビリテーションの必要性が高いことが示唆された。しかし,急性期には多臓器不全の治療が優先されるなどリハビリテーションの開始が遅れ,ADL拡大目的に介入したが意識障害の遷延や高次脳障害などの影響で効果的な介入が難しくなる傾向にあった。今後は熱中症患者の急性期リハビリテーションが有益になるように症例数を増やし,前向き研究等で介入開始時期や介入方法,また熱中症による中枢神経障害の機能予後等に関しても検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】熱中症は今後増加が予想される中,本研究によって重症熱中症による中枢神経障害の実態を調査することできたので,今後のリハビリテーションに関する前向き研究等の一助になると考える。
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シングルケースデザインによる検討
河合 成文, 徳田 光紀
セッションID: 0285
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】脳脊髄液減少症(cerebrospinal fluid hypovolemia:CSF)は髄液の漏出により脳脊髄液量の減少が起こり,主症状としてめまい,頭痛,頸部痛,耳鳴り,視機能障害,倦怠,易疲労感など様々な症状を呈する難治性の疾患と定義されている。現在,治療法としては輸液による保存療法と硬膜外自家血注入(ブラッドパッチ)が一般的であるが,CSFは医療従事者の間でも十分に認識されているとは言い難く,中には慢性頭痛,頚椎症,頚椎捻挫,うつ病などと診断されている場合も多い。主症状の中でも特にめまいは必発し,日常生活動作能力低下に大きく影響する。めまいの病態として,脳脊髄液量の減少に伴い脳の下垂が見られ,脳神経の牽引により出現すると報告されているものや,外リンパ瘻が原因というものもあるが,MRI所見では異常が見られないことも多く,詳細な発生機序は不明とされている。またCSFに関する先行研究は病態や治療経過を示した報告はあるものの,めまい症状の改善に対して検討した報告は皆無である。一方で,良性発作性頭位めまい症や迷路機能低下などのめまい疾患に対する代表的な非薬物治療は理学療法であり,海外でもランダム化試験などによって平衡機能を改善し症状を緩和させるという前庭リハビリテーション(前庭リハ)の報告が散見される。したがって,本研究の目的は,CSFと診断された1症例に対して,前庭リハを実施し,めまいに与える影響を検討することとした。【方法】対象は2011年にMRI脳槽・脊髄液腔シンチグラムで漏出所見を認め,CSFと診断された30代の男性である。医師と相談のうえ本人希望により保存療法にて理学療法開始となる。主訴としてめまい,集中力低下,頭痛,嘔気,頸部痛,腰背部痛があり,その中でも,めまいの軽減を希望されていた。理学療法内容は週1回の外来の通常リハビリで,筋緊張軽減の為,頸部,両肩,両腰背部,両下肢のリラクセーションを施行していた。研究デザインはシングルケースのABABデザインとし,A期は通常リハビリのみ,B期は通常リハビリと前庭リハを実施した。前庭リハはCawthorne-Cooksey及び北里大学方式を参考に作成し,垂直,水平方向の注視眼球運動,追跡眼球運動,頭部,眼球の共同運動をそれぞれ20回反復×5セット,朝食後,昼食後,夕食後の一日3回実施するように指導した。各期間は2週間で,計8週間の実施期間とした。評価はめまいの程度を11段階のNumerical Rating Scale(NRS)にて1日3回測定し,1日の平均値を算出した。さらに各々の期間の平均値および最低値と最高値を記録した。また,内省報告も記録した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守したうえで,対象者に十分な説明を行い,同意および署名を得た。【結果】1~2週のA期は9.3(8.8~9.5)となり,3~4週のB期では8.2(8.0~8.7)となり,5~6週のA期は9.2(8.9~9.7)となり,7~8週のB期では8.3(8.0~8.7)となった。また,「前庭リハ後は,2時間くらいめまいがとても軽くなって楽だった」,「前庭リハ後,頭痛が軽減し,集中力が1時間持続した」といった内省報告が得られた。A期よりB期の方が低値を示し,B期の最高値はA期の最低値を下回った。【考察】A期よりもB期の方が,めまいの程度は軽減した。めまいの多くは,一側の内耳が障害され,前庭神経核に左右差が生じ回転性めまいや病的眼振などの症状が出現するとされている。生体には一側の内耳機能が障害された際に,健側小脳の活動により左右の前庭神経核機能のバランスを保つための前庭代償が働く。この作用は,視刺激,前庭刺激,深部感覚刺激の反復によって獲得されると報告があり,本研究でも前庭リハを実施したことで,視線,頭頸部に反復動作の刺激が加わり,めまい症状が軽減したと考えられた。対象者の受け入れも良好で,前庭リハ後2時間程度めまいの軽減を認め,集中力を増したとの内省報告や,前庭リハ実施期間の一番きついめまいが,非実施期間の一番軽い時より,低値を示していることから日常生活動作向上に繋がった可能性もある。今回の結果では,持ち越し効果は短いと考えられた。今後,症例数の蓄積に加えて,介入頻度やより効果的な方法を検討していく必要があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】CSFと診断された1症例に対して前庭リハを実施し,めまい症状の軽減を認めたが,いまだその発症機序,病態生理に不明な点が多く,診断方法,治療も十分に確立されているとは言い難い。今後,医療の発展と共に有効なリハビリの方法を明確にしていくことが,本治療を普及させるために必要と考えられる。
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―課題特異的能力と上肢機能の変化―
道下 将矢
セッションID: 0286
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】脳卒中患者や切断後に幻肢を有する患者に対するリハビリテーションの一手段としてメンタルプラクティス(Mental Practice:以下,MP)が挙げられる。MPの戦略には,運動課題に対して自分自身が運動するようにイメージする運動覚イメージ法(Kinesthetic Imagery:以下,KI),鏡を使って運動錯覚を生成するミラーセラピー(Mirror Therapy:以下,MT)に代表される視覚的イメージ法などがある。一般に,課題特異的練習により課題に特異的な効果が得られると同時に関連した動作の改善,すなわち転移効果も期待できるとされている。MPの有効性に関しては,書字課題時の課題遂行時間や心的時間の変化といった課題特異的評価のみで検討された報告が多く,上肢・手指機能への転移効果との関連から検討された報告は少ない。本研究は,MPの課題特異的評価と上肢機能への転移効果の評価による有効性とMPの戦略間の効果の差について検証することを目的とした。【方法】対象は右利きの健常大学生18名(平均年齢21.9±0.5歳)とした。対象者は無作為にKI群,MT群,対照(Control:以下,CON)群に6名ずつ振り分けた。なお,KI群とMT群をまとめてMP群と総称した。練習課題は書字課題とし,非利き手による一~十の漢数字10文字とし,文字の大きさに関する規定は設けず,自由に書字することとした。被験者は机に向かって座り,ペンを把持し「できるだけ早く,正確に書いてください」という指示の後,書字を開始した。介入場所は静かな集中しやすい部屋とした。介入方法は,はじめに3群ともに10分間の書字課題を実施する。続いて,KI群(閉眼にて書字課題のイメージを心的に実施する)とMT群(利き手の鏡映像のみが視覚入力されるミラーボックスを使用し,書字課題を実施する)のみ10分間の練習を実施した。介入期間は各群ともに4週間とし,1週間に3回の頻度にて合計12回実施した。測定は,①課題特異的評価:書字遂行時間測定,Optical Character Recognition評価法による文字の認識率(正確性)の測定,②上肢機能評価:簡易上肢機能検査(以下,STEF)の遂行時間測定,の2項目とし,介入期間前後に実施した。データ解析には,対応のあるt検定を用いてMPの効果判定とMPの戦略間の効果の差について検証した。書字遂行時間変化とSTEF遂行時間変化の関係はPearsonの相関係数を用いて解析した。いずれも有意水準を5%に設定した。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には,事前に本研究の目的と方法を書面および口頭で十分に説明し,参加の同意を得た。なお,本研究は埼玉県立大学倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】MPの有効性に関して,書字遂行時間測定(秒)(MP群:CON群 介入前24.6:23.6,介入後20.1:21.9),文字認識率(%)(MP群:CON群 介入前42.1:44.2,介入後47.1:48.6),STEF所要時間(秒)(MP群:CON群 介入前7.3:7.3,介入後6.5:7.1)のすべての項目でMP群が有意に改善した(p<.05)。戦略間の検討では,書字遂行時間測定(秒)(KI群:MT群 介入前22.1:23.2,介入後21.4:20.8),STEF所要時間(秒)(KI群:MT群 介入前7.2:7.0,介入後6.9:6.4)であり,MT群に有意な短縮を認めた(p<.05)。しかし,文字認識率(%)(KI群:MT群 介入前40.2:44.1,介入後40.8:45.5)は両群間に有意差を認めなかった。【考察】1)MPの有効性について本研究の結果,MPは介入前後の測定において課題特異的評価(書字遂行時間)と上肢機能評価にそれぞれ有意な改善を認めた。さらに,書字遂行時間とSTEF遂行時間に有意な相関を認めたことから,上肢機能への転移効果が生じているものと推測された。このことは,非利き手の書字動作により大脳皮質一次運動野が興奮した結果,巧緻性の改善をもたらしSTEF遂行時間の短縮に波及したことが示唆された。また,MPによる文字認識率の変化に介入前後で有意差を認めなかったのは,本研究の介入期間や頻度,書字課題の選択が不十分だった可能性がある。2)MPの戦略間の効果の差について本研究の結果,KI群と比較してMT群で有意な課題特異的評価,上肢機能評価の改善を認めた。MTの有効性に関しては,鏡像による視覚的フィードバックがリアルな運動イメージ形成を可能にし,非利き手における運動の企画・遂行過程に影響を与えると報告されている。このことから,MT群ではKI群におけるイメージを心的に実施するよりも改善したことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】大脳の半球間抑制の不均衡が生じている脳卒中急性期において,MPによる運動錯覚の誘起が可能であり,MPの中でもMTによる非麻痺側使用による麻痺側への転移効果が期待できるかもしれない。
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窪 浩治, 横井 孝, 田中 誠也, 山本 正彦, 高見 修治
セッションID: 0287
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに】顔面における様々な機能は左右のバランス異常によっても障害されるため,病的共同運動のみならず左右の機能障害の状態を考慮した治療が重要であると考える。今回,左右で病態の異なる両側性顔面神経麻痺を呈した髄膜腫術後患者に対して,各部位の病態に応じた治療を実施した。さらに治療効果をADLに般化させるため,言語聴覚士(ST)との連携を図った。結果,良好な効果が得られたので報告する。【症例紹介】60代女性,X年6月頃より記銘力低下を示し,A院にて広範囲の左側頭葉前頭葉髄膜腫と診断され,同年8月7日B院にて開頭脳腫瘍切除術施行。術後,軽度の右不全麻痺・左顔面神経前頭枝の麻痺を認めた。同年8月30日B院を退院後,9月2日術後後遺症に対するリハ目的で当院外来受診され,9月3日より四肢に対する運動療法を開始した。運動療法開始後,患者が「顔の容貌の不快さや会話・食事の困難さ」を訴え,同年9月18日より顔面に対するリハを開始した。初回評価(9月18日)では,神経学的所見として,Br.Stage:VI-VI-V,重度左末梢性顔面神経(前頭枝)麻痺および軽度右中枢性顔面・舌下神経麻痺を認めた。左末梢性顔面神経麻痺に加え,著明な前頭部の筋緊張亢進を呈したことにより,顔面上部の左右差がより顕著となっていた。顔面神経麻痺の評価は左右で異なった病態の麻痺を認めたため,病前の顔写真を参考に左右それぞれに行った。右側ではSunnybrook法(SFGS):66/100,柳原法(Y法):30/40,House-Brackmann法(HB法):IV,左側ではSFGS:79/100,Y法:32/40,HB法:IVであった。神経心理学的所見として,MMSE:28/30,HDS-R:25/30,RCPM:27/36,FAB:15/18であり,訓練時の課題理解は良好であった。さらに術後後遺症により開口障害(上下顎切歯間距離1.7cm)が認められた。活動制限として義歯の装着困難と右頬部の食物残渣などの摂食時の障害および話し難いといった発話障害を認めた。【倫理的配慮】ヘルシンキ宣言に基づき本研究に関する内容を説明し文書による同意を得た。【経過】術後6週より顔面神経麻痺に対するリハ介入を開始。右口唇部および左前頭部に対してCIセラピーを鏡によるバイオフィードバック,アイシングを併用して行った。右前頭部の筋緊張亢進に対しては電動歯ブラシを用いて約30秒間振動刺激を加え筋緊張の緩和を図った後,視覚的(鏡)・触覚的(徒手)バイオフィードバックを用い,上眼瞼挙筋を主体とした開眼運動を行った。一方,術後拘縮によって生じた開口障害に対して竹井(2000)を参考に,顎関節に対するモビライゼーション等の治療を行った。介入当初,開口時左側(術側)のみ疼痛および関節可動域制限を認めていた。しかし,上下顎切歯間距離3.0cmを超えた時点より,開口時に右側にも痛みを訴えたため,開口運動前に右側頭筋・口腔内壁に対する振動刺激を加えた。その結果,開口時の右側の痛みが消失し,さらなる開口制限の改善が得られた(上下顎切歯間距離3.7cm)。さらにShaping課題として,STの指導のもと発話訓練および咀嚼訓練を実施した。リハ介入より約2ヶ月の時点で,安静時・運動時の非対称性は改善し表情の変化がより明確になった。評価上においても右側ではSFGS:79/100,Y法:36/100,HB法:III,左側ではSFGS:87/100,Y法:36/40,HB法:IIIと改善を示した。活動制限においても,摂食時の障害および発話障害は改善を示した。【考察】各部位の病態に合わせた治療法の選択により,著明な改善が認められた。PTの臨床場面で四肢等に広く用いられてきた振動刺激を顔面筋に応用し,筋緊張緩和効果が得られた。この効果によって開眼時の前頭筋の分離運動を促し上眼瞼挙筋優位の開眼運動を誘導することが可能となった。また,開口運動時に見られた右側顔面の筋緊張亢進による開口制限に対しても振動刺激は有効である可能性が示唆された。さらにSTと連携することで,より適切で効率的な発話・咀嚼に関する顔面筋へのアプローチが可能となり,治療効果のADLへの般化を促進することが可能であった。【理学療法学研究としての意義】顔面神経麻痺はPTのみならずSTの対象疾患であるが,臨床場面で両者がそれぞれの独自性を生かして治療を行ったという報告は検索した範囲ではみられなかった。本報告では,それぞれの専門性(PT:四肢に対する治療法の顔面への応用,ST:活動レベルへの般化を目的とした訓練の実施)を活かした介入により,個々の治療法の有効性が認められ,さらなる多職種連携医療につながると考える。
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新井 龍一
セッションID: 0288
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【目的】脳卒中患者の中で体幹機能が高い患者は,退院時のADLの点数が高い。また機能的予後を予測する因子として体幹機能は重要であるという報告がある。体幹機能を高めるための運動療法としてバランスボールが広く使用されているが,体幹機能の低下した脳卒中患者に対して使用するには,転倒リスクが高く,上手く治療が行えないことも経験する。そこで体幹を効果的に治療する手段としてバランスディスクの運動療法の効果を検討することとした。【方法】対象は当院回復期病棟に2012年12月~2013年6月までに入院した脳卒中患者34名を無作為に非介入群17名とバランスディスク介入群17名に分けた。測定前に座位保持が不可能でバランスディスクを使用できないもの,高次機能障害等により指示が通らないもの,また歩行が自立しているものはあらかじめ除外した。最終的に介入期間中に退院や体調不良などの理由から脱落したものを除いた非介入群7名,介入群13名合計20名を対象として行った。バランスディスクは直径31cmのトータルフィットネスSTT-171シンテックスを使用。介入群には,リハに加えてバランスディスク上端座位にて骨盤の前後左右の運動(前後左右の往復運動で1回)各10×3回を週7日間3ヵ月間行った。介助が必要なものは介助することとし,介助方法は前方または側方から可能な限り代償が出ないよう脊柱のアライメントを良好に保った状態で骨盤の動きを促すように行った。また担当セラピストが休みの時は他のセラピストが介入した。非介入群にはバランスディスクを使用しないこと以外には特に制限を設けないこととした。効果判定として初期評価時,介入後1ヶ月,2ヶ月,3ヶ月のFunctional Balance Scale(以下FBS),片麻痺患者の体幹機能の評価として信頼性・妥当性が高いとされるTrunk Impairment Scale(以下TIS)にて評価を行った。統計処理として性別,麻痺側をFisherの直接確率法にて,年齢,身長,体重,発症期間,BRSをMann-WhitneyのU検定,それぞれ介入初期,1ヶ月後,2ヶ月後,3ヶ月後のFBS,TISをFriedman検定にて,非介入群と介入群の初期と3ヶ月後の比較をKruskal-Wallis検定にて事後検定の多重比較としてScheffeの方法にてそれぞれ検討した。統計解析には統計解析ソフトjstatを用い,危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮】本研究はヘルンシキ宣言に沿って行い当院の倫理委員会から承認を得て,事前に同意を得て行い,研究終了後研究内容の詳細を説明,同意書に署名を得られた者のみデータを採用した。【結果】性別,麻痺側,年齢,身長,体重,発症期間,BRSについて群間比較を行った結果,いずれの項目についても有意な群間差は認められなかった。FBS,TISの点数を以下に示す(中央値,最小-最大)。非介入群FBS,TISは初期11(2-41),12(4-17)1ヶ月後29(6-51),14(6-20)2ヶ月後29(11-51),20(4-21)3ヶ月後38(8-56),20(6-23)となり,介入群は初期5(3-35),7(2-15)1ヶ月後10(4-43),11(2-20)2ヶ月後14(4-50),13(3-21)3ヶ月後16(4-51),14(3-23)となった。FBS,TISにおいて非介入群,介入群ともに初期から3ヶ月にかけてそれぞれ有意な改善がみられた。しかしながら非介入群と介入群とを比較した結果は有意な差は認められなかった。よってバランスディスクを使用した運動療法は今回の研究では効果が得られなかった。【考察】今回,脳卒中片麻痺患者の座位保持が可能であり,歩行が自立していない患者を対象に体幹を効果的に治療する手段としてバランスディスクの運動療法の有効性を検討した。その結果,治療の経過に伴ってFBS,TISともにスコアの改善がみられたが,群間での有意な差はみられなかった。効果が得られなかった原因として,サンプルの偏りが考えられる。BRSでは有意差はみられなかった(p=0.0811)が,非介入群の脱落者が多くなってしまった。またリハ意欲の高い患者が非介入群に集まったように感じた。今後はサンプル数を増やすこと,再度条件設定を検討する必要がある。また実際にバランスディスクを使用すると,自ら骨盤を前後左右に動かすことが難しく,介助にて行うことも多かった。そのため体幹にActiveな筋収縮を適切に促せなかったかもしれない。今回はバランスディスクの効果は得られなかったものの,介入することによって「座位が安定した」という意見が多く聞かれた。今後は条件を練り直し再度検討していきたい。【理学療法学研究としての意義】脳卒中患者に対して体幹をトレーニングすることは多い。体幹の機能を高めることで座位・立位バランス機能の改善,歩行能力の向上が望めると考える。そのため体幹機能を効率よく高める治療方法の検討は臨床意義があると思われる。
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佐久間 香, 大畑 光司, 泉 圭輔, 塩塚 優, 市橋 則明
セッションID: 0289
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに】脳血管障害後片麻痺者(以下,片麻痺者)は,皮質脊髄路からの下行性出力の減少や廃用性の筋萎縮などの原因により目的とした運動を行うことが困難となっている。片麻痺者では単関節の運動を他関節の運動と分離して行うことが出来ず,本来必要でない関節の運動が生じてしまうという異常な共同運動が観察される。異常な共同運動は,歩行や日常生活動作に悪影響すると捉えられることが多いことから,その関係を明らかにすることが重要であると考えられる。共同運動を主動筋の働きに付随して生じるトルクとして捉え,主動筋によって発揮されるトルクをprimary torque(以下,PTo),それに付随して生じるトルクをsecondary torque(以下,STo)として測定し,共同運動を定量化する方法がある。この方法を用いて,これまでに,片麻痺者のPToは健常者よりも小さく,SToが生じないようトルク発揮を行わせるとPToが小さくなりやすいことが報告されている。このことから,随意トルクの低下を補うために共同運動が生じる神経機構を動員してトルク発揮を行っている結果,異常な共同運動が観察されていると推測された。しかし,SToと動作能力との関係は明らかになっていない。【目的】本研究では片麻痺者の共同運動の特徴を調べ,共同運動と動作能力との関係を明らかにすることを目的とした。随意トルクの低下を補うために共同運動を利用していれば,共同運動と動作能力に関係を認めると推測した。【方法】歩行可能な地域在住の片麻痺者13名(発症後期間76.4±72.3月,Brunnstrom Recovery StageIII3名,IV5名,V3名,VI2名,50.8±12.0歳,164.5±7.0cm,59.3±8.5kg)と健常者13名(51.1±9.6歳,169.0±6.3cm,67.6±10.9kg)を対象とした。初めに,股関節伸展トルクを生じずに発揮できる足関節底屈トルク(PTo)と最大等尺性股関節伸展トルク発揮時に付随的に生じた足関節底屈トルク(STo)を測定した。PToとSToの測定には,短下肢装具の継手部分に付属したload cellでトルク測定が可能な装具型底屈トルク測定装置を用いた。対象者に背臥位をとらせ,大腿部の下部に設置した徒手筋力計で股関節伸展トルクも同時に測定した。PTo,STo計測中の腓腹筋とヒラメ筋,前脛骨筋の筋活動も表面筋電図で測定した。次に,片麻痺者において,最大等尺性股関節伸展トルクを変化させ,最大の25%,50%,75%,100%発揮時に生じたSToを測定した。最後に,片麻痺者において,10m歩行速度とtimed up and go(以下,TUG)を測定した。足関節底屈トルクと筋活動における,PToとSToの違いをWilcoxonの符号付順位和検定を用いて調べた。次に,股関節伸展トルクの違いがSToに与える影響をFriedman検定と事後検定で調べた。最後に,従属変数を歩行速度もしくはTUG,独立変数をPToとSToとしたステップワイズ重回帰分析を行った。【倫理的配慮】本学医の倫理委員会の承認を得て行われ,口頭にて説明し,同意が得られた者を対象者とした。【結果】健常者ではSToよりPToが大きく,STo測定時よりPTo測定時で腓腹筋とヒラメ筋の筋活動が大きかったが,片麻痺者では差を認めなかった。また,股関節伸展トルク発揮に伴いSToが増加し,25%より50%,50%より100%でSToが大きかった。ステップワイズ重回帰分析により,TUGに影響する変数としてSToが抽出された。歩行速度に影響する変数は抽出されなかった。【考察】健常者は,足関節底屈筋を動員して共同運動よりも大きな選択的随意トルクを発揮することが可能であった。しかし,片麻痺者では,選択的に足関節底屈筋を動員して共同運動よりも大きな随意トルクを発揮することが困難であった。このことから,共同運動が大きく生じているからではなく,共同運動を生じずに随意トルクの発揮が困難であることが,片麻痺者の共同運動が異常に見える要因の1つと考えられた。SToは股関節伸展トルクの発揮に伴い増加したため,股関節伸展に伴う共同運動の特徴を反映していると考えられた。今回,TUGに影響する変数としてSToが抽出されたことから,動作に必要なトルクを補完するために共同運動を利用している可能性が示唆された。【結論】片麻痺者の共同運動は,動作を阻害するというより,動作を補完している可能性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より,選択的随意トルクの発揮が困難な片麻痺者は,共同運動を用いて動作に必要なトルクを補完している場合があると考えられた。
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Berg Balance ScaleおよびStroke Impairment Assessment Setを用いた因子分析
鶴貝 亮太, 岡 真一郎, 江頭 拓磨, 平田 大勝, 下田 武良, 中尾 佳隆, 森田 義満, 国徳 裕美, 中原 公宏
セッションID: 0290
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【目的】排泄動作は人間の尊厳に関わる動作であり,急性期脳血管障害症例においてもトイレでの排泄を希望される例は多く,トイレ動作は目標の一つとして挙げられる。また,脳血管障害症例のトイレ動作の自立は,自宅復帰の可否に関連をもつ因子の一つであり重要である。先行研究において,在宅脳血管障害症例の排泄動作自立者は,排泄動作とバランス能力および非麻痺側下肢筋力が関係していたと報告されている。また,急性期脳血管障害症例のトイレ動作は,Berg Balance Scale(BBS)と関係があると報告されている。脳血管障害症例におけるトイレ動作の獲得に関連する因子は,バランス能力だけでなく脳血管障害による機能障害の関連も含めて調査する必要があるが,トイレ動作とバランス能力および機能障害における下位項目との関連を示した報告は少ない。本研究の目的は,発症後2週時のFunctional Independent Measure(FIM)のトイレ動作を従属変数,BBSおよびStroke Impairment Assessment Set(SIAS)の下位項目を独立変数とし,トイレ動作獲得に必要な因子を検討することとした。【方法】対象は当院に入院した急性期脳血管症例55名(平均年齢68.2±13.4歳)で,疾患別では脳梗塞37名,脳出血18名であった。評価項目は,発症後2週時のBBS,SIASおよびFIMのトイレ動作とした。SIASの下位項目は,膝口テストおよび手指テストの和を上肢麻痺側運動機能,股関節屈曲テストおよび膝関節伸展テストの和を下肢麻痺側運動機能,上肢および下肢腱反射と上肢および下肢筋緊張の和を筋緊張,上肢および下肢触覚と上肢および下肢位置覚の和を感覚機能,上肢および下肢関節可動域を関節可動域,疼痛,腹筋力および垂直性の和を体幹機能,視空間認知,言語機能,非麻痺側膝伸展筋力および握力の和を非麻痺側機能として算出した。統計学的分析はSPSS.statistics21.0(IBM)を使用し,従属変数をFIMのトイレ動作,独立変数をBBSおよびSIASの下位項目としてステップワイズ重回帰分析を用いてトイレ動作の関連因子を抽出し,有意水準5%未満とした。【倫理的配慮】倫理的配慮として,高木病院の倫理委員会の承認(承認番号77-2)を得た後に実施した。【結果】ステップワイズ重回帰分析の結果,トイレ動作の独立決定因子はBBSの着座(β
1=0.40,p<0.05),SIASの下肢麻痺側運動機能(β
2=0.40,p<0.05),BBSの立位保持(β
3=0.34,p<0.05),SIASの筋緊張(β
4=-0.14,p<0.05)が選択され,調整済みR
2は0.953,B=1.10となった(Y=1.10+0.40x
1+0.40 x
2+0.34 x
3-0.14 x
4)。選択された因子間の多重共線性は認められなかった。【考察】本研究の結果,急性期脳血管障害症例のトイレ動作に関連する因子は,SIASの麻痺側下肢機能と筋緊張,BBSの着座と立位保持であることが示された。トイレ動作は,立位保持,下衣の着脱操作,着座,陰部の清拭,立ち上がりから構成されている。岩田らは,下肢StageIIIの在宅脳卒中片麻痺患者の排泄動作において,健側上下肢筋力と立位での下衣操作能力との間に中等度の相関が認められたと報告している。今回の分析結果では非麻痺側機能が選択されなかったが,在宅脳卒中片麻痺患者では長期の在宅生活から,動作を最適に行うために非麻痺側優位での動作へと適応した結果と推察した。急性期脳血管障害症例のトイレ動作では,麻痺側下肢機能を含めた抗重力伸展活動による立位姿勢保持が下衣の着脱に関与しており,SIASの麻痺側下肢機能とBBSの立位保持の項目がトイレ動作の関連因子として選択されたと推察した。着座の項目に関しては,着座動作は重力による臀部落下とそれに伴う膝関節屈曲を大腿四頭筋,前脛骨筋,傍脊柱筋の働きにて抑えながら行う動作である。立ち上がり動作と比較して下肢筋群の遠心性収縮を必要とするために動作の難易度が高く,トイレ動作の関連因子として選択されたと推察した。【理学療法学研究としての意義】急性期脳血管症例のトイレ動作獲得に関連する因子として,BBSの着座,立位保持,SIASの下肢,筋緊張が選択された。トイレ動作獲得を進めていく上で,治療介入時の指標となる可能性があると考えられた。今後は,回復期や在宅でのBBS・SIASとトイレ動作との関連について検討するとともに,トイレ動作獲得に向けての介入方法も検討していく。
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藤井 靖晃, 田中 直次郎, 高橋 真, 阿南 雅也, 新小田 幸一
セッションID: 0291
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに,目的】回復期リハビリテーション病棟において転倒が起こりやすい時間帯のひとつは午前6~8時であると報告されている。人の生理機能の多くには日内リズムが存在し,高齢者では午前の方が午後よりもROMは有意に狭く,筋力やバランス機能は有意に低いとされている。また,運動療法は,転倒要因のひとつであるバランス能力の低下を改善させ,高齢者の転倒予防に重要とされている。したがって,脳卒中患者の身体機能・バランス能力の日内変動を把握することは,院内転倒を予防する第一歩であり,さらに,起床直後の自主トレーニング(以下,朝トレ)の効果が得られれば,それは転倒予防に有用であると考えられる。そこで,本研究は,脳卒中患者における身体機能・バランス能力の日内変動,朝トレの日内変動への影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は回復期病棟に入院し,屋内歩行が自立している初発の脳卒中患者13人(男性9人,女性4人,年齢69.1±12.7歳,身長160.1±8.7cm,体重54.9±7.7kg,MMSE 23.1±5.6点)であった。なお,重症高血圧症,重度の循環器疾患・関節疾患の共存症を有する者は除外した。方法にはクロスオーバーデザインを用い,朝トレなし(条件A),朝トレあり(条件B)の2条件で身体機能・バランス能力の日内変動を評価した。条件の順序を対象者のカルテIDによって無作為的に決定した。各条件で1日ずつ施行し,条件Aでは6時(以下,起床時),9時(以下,午前),14時(以下,午後)の3つの時間帯で評価した。条件Bでは3つの時間帯の評価に加えて,起床時の評価後に,朝トレ(ストレッチや筋力トレーニング・バランス練習など10~15分の自主トレーニング)を実施し,その直後にも評価した。評価は,10m最大歩行スピード・バランス(FRT・TUG)・ROM(股屈曲・足背屈・足底屈)・筋力(握力・膝伸展)・敏捷性(棒反応時間)を行った。統計学的解析では,全評価項目に対して,時間帯(起床時,午前,午後)・朝トレの有無を要因とした2要因の反復測定分散分析,および多重比較を行った。また,朝トレの即時効果を検証するため,条件Bの起床時と朝トレ後の評価に関して,対応のあるt検定,またはWilcoxonの符号付順位検定を用いた。いずれの検定も有意水準を5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は研究を行った施設の倫理委員会の承認を得て行った。本研究の目的と参加に伴う利益・不利益を対象者に紙面・口頭により説明した上で,紙面による同意を得た。【結果】時間帯による比較では,歩行スピードとTUGは起床時の方が午前と午後よりも,午前の方が午後よりも有意に遅かった。FRTは起床時の方が午後よりも有意に短かった。麻痺側の股屈曲ROMは起床時の方が午前よりも有意に狭く,非麻痺側では起床時の方が午前と午後よりも有意に狭かった。足背屈ROMは起床時の方が午前と午後よりも有意に狭かった。足底屈ROM(両側),筋力(両側の握力・膝伸展),棒反応時間はどの時間帯間でも有意差を認めなかった。起床時と午後間で有意差を認めた項目において,午後に対する起床時の低下率は,歩行スピード8.7%,TUG 10.8%,FRT 7.3%,非麻痺側の股屈曲ROM 3.4%,麻痺側の足背屈ROM 40.8%,非麻痺側の足背屈ROM 28.4%であった。朝トレの有無による比較では,全評価項目で有意差を認めなかった。しかし,非麻痺側の膝伸展筋力と棒反応時間を除き,朝トレ直後の方が起床時よりも有意に改善し,朝トレの即時効果を認めた。【考察】起床時は午後と同程度の筋力を発揮できても,ROM(股屈曲と足背屈)は午後と比較して有意に狭かった。そのため,バランスを保持する有効な支持基底面と歩幅が狭くなり,FRT,TUG,歩行スピードの日内変動に影響を及ぼすものと考えられる。また,歩行自立を判定する際に,FRT,TUG,10m最大歩行スピードの能力を採用することがある。しかし,その際には日内変動を考慮する必要があるため,本研究で示された午後に対する起床時の低下率は,通常では評価が難しい起床時の身体機能・バランス能力を把握するために有用であると考えられる。朝トレのその後午後までの波及効果はないものの,朝トレ直後の即時効果は,日内変動を認めた身体機能・バランス能力を中心とした起床直後の自主トレーニングを習慣付けることにより,脳卒中患者の転倒予防に有効であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,午後の評価から起床時の身体機能・バランス能力を推測することにより,回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中患者の早朝における転倒予防と,歩行の自立判定に活用できる。また,転倒因子のうち,日内変動を認めた身体機能・バランス能力を中心とした自主トレーニングの指導は転倒予防に有効である可能性を示した。
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米持 利枝, 柴 辰典, 永木 健司, 江西 一成
セッションID: 0292
発行日: 2014年
公開日: 2014/05/09
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【はじめに】脳卒中片麻痺患者の自宅復帰にはトイレ動作の獲得が必須条件である。そして,トイレ動作は複合動作であるため獲得が困難な動作の一つでもある。我々は第20・21回愛知県理学療法学術大会,第29回東海北陸理学療法学術大会において,トイレ動作自立には麻痺の重症度,高次脳機能障害,バランス能力などが関連し,なかでも,立位バランス能力の重要性を報告した。今回,麻痺重症度,高次脳機能障害の影響を除外し,実用歩行困難な回復期脳卒中片麻痺患者のトイレ動作自立における立位バランスの能力について検討を行った。【方法】2010年4月~2013年11月までに当院回復期病棟に入院した脳卒中片麻痺患者125名のうち,歩行が自立に至っていない下肢Brunnstrom StageIIIまたはIVに相当する片麻痺患者27名(男性15名/女性12名,平均年齢68±11歳,発症からの期間34±19日,麻痺側右16名/左11名)を対象とした。なお,除外基準は歩行に影響を及ぼす整形外科疾患,指示理解が困難な精神機能障害,排泄が失禁状態である者とした。そして,検査を安定的に行える入院後4~6週目に測定・調査を行った。測定項目は筋力の指標として非麻痺側膝伸展筋力をハンドヘルドダイナモメーターで同一検者が測定した。肢位は膝90°屈曲位,下腿遠位に固定用ベルトでセンサーを装着し,最大努力下での等尺性膝伸展筋力を2回測定した。そのうち最大値を体重で除して(N/kg)検討に用いた。バランス能力の指標はBerg Balance Scale(以下BBS)とした。対象のトイレ動作能力をFIM細項目から自立群(7・6点11名),非自立群(5点以下16名)に分類した。検討項目はトイレ動作自立・非自立群間において非麻痺側膝伸展筋力,BBS総得点,BBS各テスト項目の4点獲得率,さらに4点獲得率で差のあった項目の総得点において比較検討を行った。統計処理はt-検定,χ
2検定を用い,危険率5%未満を有意とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は星城大学研究倫理専門委員会の承認を受け,被験者には研究の趣旨と方法を十分に説明し,書面で同意を得たのち行った。【結果】非麻痺側膝伸展筋力は自立群(38.1±17.4N/kg),非自立群(41.9±10.4N/kg)であり,両群間に有意な差を認めなかった。BBS総得点は自立群(40±8.2点),非自立群(22±11.4点)であり,自立群は有意に高い得点を示し,自立群は良好なバランス能力を有していた。BBS各テスト項目における4点獲得率の対比では,自立群は「閉眼で支えなしで立位保持(以下閉眼立位)」,「立位から座位まで腰を降ろす(以下着座)」,「移乗」,「座位からの立ち上がり(以下起立)」,「支えなしで静止立位保持(以下立位保持)」の5項目では80%以上の獲得率であったのに対し,非自立群は50%以下であり,両群間に有意な差を認めた。また,「両足を揃えた立位の保持(以下閉脚立位)」,「片足立ち」では自立群の獲得率は40%以下であったが,非自立群は5%以下であり両群間に際立った差を認めた。さらに,残る6項目では自立群の獲得率が高い傾向あったものの有意ではなく,「背もたれなしで座位を保持」においても両群ともに全員可能で差がなかった。そして,4点獲得率において差のあった閉眼立位,着座,移乗,起立,立位保持,閉脚立位,片足立ちの7項目(満点28点)の総得点では自立群(24.1±3点),非自立群(12.6±7.6点)であり,自立群は7項目いずれも満点を含んだ何らかの方法で遂行可能であったが,非自立群では7項目いずれかの項目で遂行不可の項目があり,両群間の立位動作能力に有意な差を認めた。【考察】今回の結果から,実用歩行困難かつ下肢Br.SIIIおよびIVの回復期脳卒中片麻痺患者のトイレ動作自立における立位バランス能力の要因として,非麻痺側筋力および座位保持能力はトイレ動作遂行に必要最低限の要因であり,着座,移乗,閉眼立位,起立,立位保持の5項目に相当する立位バランス能力はトイレ動作自立の決定的要因であることが示された。また,狭い支持基底面内での姿勢保持能力もトイレ動作自立に影響することが推察された。一方,トイレ動作非自立群の特徴は,下肢での体重支持を基本とした立位バランス能力が明らかに低いことであると示唆された。したがって,実用歩行困難な回復期脳卒中片麻痺患者のトイレ動作自立における立位バランス能力は下肢での体重支持を基本とした姿勢保持および動的な立位バランス能力の獲得であることが考えられた。【理学療法学研究としての意義】実用歩行困難な回復期脳卒中片麻痺患者の自宅復帰にはトイレ動作の自立が必須条件である。そのため,今回の研究をさらに深めていくことで脳卒中片麻痺患者のトイレ動作獲得に貢献する理学療法内容の効果的手法を提案できる可能性がある。
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