理学療法学Supplement
Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
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口述
  • 橋立 博幸, 大沼 剛, 澤田 圭祐, 原田 和宏
    セッションID: 0301
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】高齢者における不活動は心身機能低下や虚弱を招く原因となるため,生活機能の維持・向上のために日常生活活動(ADL)における活動量の維持・向上が重要視され,活動量の目安の1つとなる離床時間に関連する要因が検討されてきた。とくに屋外活動遂行が困難な地域在住高齢者ではADLにおいて自宅屋外だけでなく自宅屋内の生活空間での活動量を維持・向上するための離床時間の確保が必要であると考えられるが,屋内外の生活空間での活動と離床時間の継時的な変化がどのように関連するかについては十分に明らかとされていない。そこで本研究では,屋内生活空間における身体活動を簡便に評価できる質問紙指標として開発したhome-based life-space assessment(Hb-LSA)を用いて,屋外活動が困難な地域在住高齢者における日中の離床時間と自宅屋内または屋外の生活空間での活動の縦断的変化の関連について検証することを目的とした。【方法】対象は訪問リハビリテーションを利用した地域在住高齢者68人のうち初回調査から6か月後の追跡調査を実施できた27人(平均年齢77.9歳)とした。初回調査および追跡調査時に,日中の離床時間,屋内生活空間(Hb-LSA),屋外生活空間(life-space assessment(LSA)),基本的ADL自立度(functional independence measure(FIM)),基本動作能力(bedside mobility scale(BMS))を調査した。離床時間は平均的な1日の離床する時間を調べ,離床の定義はベッドや布団から離れて臥位以外の姿勢(座位,立位)を保持している状態とした。Hb-LSAにおける屋内生活空間は,基点を寝室のベッドとして規定し,自宅屋内の生活空間をレベル1:ベッド上,レベル2:寝室内,レベル3:自宅住居内,レベル4:自宅居住空間のごく近くの空間(庭やアパートの敷地内),レベル5:自宅屋外(敷地外)の5段階に設定した。実際の調査では,過去1か月間における各生活空間レベルにおける移動の有無,頻度(生活空間レベル1・2(1:1回未満/日,2:1~3回/日,3:4~6回/日,4:日中ほとんど),レベル3~5(1:1回未満/週,2:1~3回/週,3:4~6回/週,4:毎日)),自立度(1:動作介助が必要,1.5:補助具の使用または介助者の見守りが必要,2:補助具の使用および人的介助が不要)を調べ,各生活空間レベルにおける移動の有無,頻度,自立度の得点を積算し,各生活空間レベルの積算値の合計をHb-LSAの代表値とした(得点範囲0-120点)。初回調査と比べて追跡調査において離床時間が維持・増加したか(維持・増加群)低下したか(低下群)によって対象者を2群に分け,各指標を比較した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の実施に際して,対象者または家族介護者に対して口頭と書面にて研究概要を事前に説明し同意を得た。なお,本研究は杏林大学保健学部倫理委員会の承認を得て実施した。【結果】初回調査時における年齢,性別,要介護原因となった主疾患,要介護度,Hb-LSA,LSA,FIM,BMSを群間比較した結果,各指標に有意差は認められなかった。次に,各群において初回調査時と追跡調査時の各指標を比較した結果,維持・増加群(n=18)では離床時間(平均0.9時間/日),Hb-LSA(平均7.8点)が有意に向上したが,低下群(n=9)では離床時間(平均2.6時間/日),HbLSA(平均7.4点)が有意に低下した。各群ともにLSA,FIM,BMSに有意な縦断的変化は認められなかった。さらに,初回調査時と比べた追跡調査時における離床時間の変化量と他の指標の変化量のSpearman順位相関係数を算出した結果,離床時間の変化量は,Hb-LSAの変化量と有意な相関を示したが(rs=0.594,p=0.001),LSAの変化量との相関は認められなかった。また,Hb-LSAの変化量は,LSA,FIM,BMSの変化量と有意な正の中等度の相関を示した。【考察】離床時間の維持・増加群ではHb-LSAが有意に向上したのに対して低下群ではHbLSAの有意な低下が認められ,離床時間の変化量とHb-LSAの変化量との間に有意な正の相関を示したことから,屋内生活空間の活動状況が離床時間と密接に関連すると考えられた。また,離床時間の縦断的な変化量がLSAではなくHbLSAの変化と有意に関連したことから,屋外活動遂行が困難な地域在住高齢者の活動量を高めるためには自宅屋外だけでなく自宅屋内の生活空間における活動の向上に着目することが重要であるとともに,Hb-LSAは屋内生活空間を中心とした活動時間の変化を鋭敏に反映する指標であると推察された。【理学療法学研究としての意義】屋外活動の遂行が困難な地域在住高齢者において,活動時間および活動量の向上を検討する際に屋内生活空間におけるADLを評価し向上を図ることが重要であることを示唆した。
  • ―10m歩行テストからみた歩行の評価と理学療法―
    杉 輝夫, 畑山 聡, 佐藤 広輔
    セッションID: 0302
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】大腿骨近位部骨折後(以下骨折後)の歩行能力については,歩行の補助具の有無や種類,自立度といった質的な変化の報告が多い。その歩行の客観的なデータを測定し報告したものは少ない。骨折後の患者の退院直前の歩行能力を歩行速度・歩幅・歩行率・歩行比を用いて地域に在住する一般の高齢者(以下地域高齢者)と比較することにより,骨折後の歩行の特徴を明確にできると考えられた。また年齢は骨折後の歩行能力の改善に影響を与える因子とされているが,獲得された歩行の年齢による違いは検証されていない。骨折後の歩行の特徴が明確になることで評価に基づいたプログラムの立案だけでなく,前方視的に戦略をもったアプローチが可能になり,理学療法の効果の検証やプログラムの妥当性の検証につながると考えられた。そこで骨折後の患者の退院直前の歩行能力を10m歩行テストで得られたデータを使用して評価し,年齢による差異の検証と,地域高齢者との比較によりその特徴を把握することとした。又,その結果より骨折後の理学療法について検討することとした。【方法】対象者:2010年4月~2013年3月までに大腿骨近位部骨折の診断で当院に入院し理学療法を施行した患者のうち,10m以上の実用的な歩行が獲得でき,かつ10m歩行テストを行っていた75名。脳血管疾患・反対側の骨折の既往がある患者は除外。測定方法:カルテより後方視的に退院直前に測定された自由歩行における10m歩行の所要時間・歩数を調査し,歩行速度・歩幅・歩行率・歩行比を算出。10m歩行の測定回数は1回。地域高齢者の歩行のデータについては古名ら(1995)のデータを利用した。統計学的手法:対象者を64歳以下と80歳以上,65~79歳までは5歳ごとで区切りグループ化。測定項目ごとに年齢による違いを一元配置分散分析を用いて検証。地域高齢者との比較は,データをグラフ化し視覚的に行った。64歳以下の歩行データについて報告が見つからなかったために対象者と地域高齢者との比較は行わなかった。【倫理的配慮,説明と同意】入院時にカルテの情報を学会等で利用されることについて説明し同意を得た。【結果】歩行速度,歩幅,歩行比では年齢による有意差を認め(0.6±0.2m/秒F(4,70)=2.552 p=0.047 CI95%=0.0017-0.49,0.4±0.1m F(4,70)=4.130 p=0.005 CI95%=0.0139-0.22,0.0043±0.0011 F(4,70)=2.709 p=0.037 CI95%=0.00007-0.0023),歩行率では有意差を認めなかった(90.3±18.3歩/秒F(4,70)=0.499 p=0.737)。グラフを用いて地域高齢者と比較すると,男女ともに骨折により歩行速度・歩幅・歩行率が低下していた。しかしいずれの項目も80歳以上の男性では地域高齢者との差が少なかった。また歩行比も低下傾向を示すが,男性で低下が著明で,女性では地域高齢者と差が少なかった。【考察】10m歩行テストの結果を用いて,骨折後の患者の歩行を評価することができた。地域高齢者と比較し,骨折により歩行速度,歩幅,歩行率が低下することが判明した。その低下の仕方には,性別と年齢による違いがある可能性があった。女性では骨折してもすべての項目が地域高齢者と同じような加齢による低下傾向を示した。男性では,79歳以下では女性と同様の傾向を示すが,80歳以上では地域高齢者と同程度の値であった。歩行比では,女性は骨折による低下をほとんど認めず,男性でのみ低下していた。以上のことから,骨折による歩行能力の低下の要因は,歩幅の縮小による影響が大きいと考えられた。女性では,すべての年代で歩幅を延長させることを目標にアプローチすることにより歩行能力の向上が期待できる。男性では,79歳以下と80歳以上で戦略を変更する必要があると考えられた。79歳以下では歩幅の延長と歩行率の向上を目指すことが重要であり,80歳以上ではこれまでの理学療法を継続するだけで地域高齢者と同等の歩行能力が獲得できる可能性があった。つまり,79歳以下の男性と女性では,歩幅の延長に繋がるような立位での筋力増強トレーニングや動作練習が有効で,合わせて歩行率の向上のために早期からの歩行練習を実施することが能力向上につながると考えられた。【理学療法学研究としての意義】10m歩行テストの結果を地域高齢者と比較することにより,骨折後の歩行の特徴を歩行速度だけにとどまらない視点で評価することができた。その特徴には性別と年齢による違いがあり,性別と年齢を考慮して理学療法の方針を立案する必要性が示された。女性と79歳以下の男性においては歩幅の延長と歩行率の向上を目指すことが歩行能力の向上につながると考えられた。80歳以上の男性では,これまでの理学療法を継続することで地域高齢者と同等の能力が獲得できると考えられた。
  • ―新・旧抜管基準の比較から―
    平山 晃介, 辻村 康彦, 片岡 竹弘, 戸部 一隆, 江里 健太, 中川 慎也, 安藤 守秀, 田平 一行
    セッションID: 0303
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】ICUにおける挿管人工呼吸管理患者における抜管の失敗は人工呼吸管理症例の13-19%にみられると報告されており,人工呼吸管理日数,ICU在室日数の延長や,高い死亡率につながることが知られている。このため抜管失敗を防ぐことはICUにおける呼吸管理の重要な課題の一つであると考えられる。抜管失敗の防止のためには以前より系統的な抜管前評価に基づく計画抜管の重要性が指摘されている。当院では以前より理学療法士がICUに常駐し,急性期の呼吸管理に対して積極的なサポートを行っており,抜管の支援も重要な職務の一つとなっている。私たちは今回,抜管前の系統的評価のために新たに抜管前評価表を作成し,それが抜管失敗防止にどのように寄与するかを前向きに検証することとした。【方法】平成24年1月より平成25年6月に当院ICUにて挿管人工呼吸管理を実施し,計画抜管に至った症例41例を検討対象とした。このうち平成24年1月から12月に入室した23例(T1群:年齢67.8±15.8才,男性12例,女性11例)はRASSで評価した覚醒度およびカフリークテストによる上気道評価によって抜管の可否を判断し,平成25年1月から6月までの18例(T2群:年齢65.3±11.7才,男性13例,女性5例)については覚醒度とカフリークテストの基準を厳格化するとともに自発呼吸テストによる呼吸状態,循環動態の評価および咳嗽能力評価を加えた新たな系統的評価表を用いて抜管前評価を実施した。このT1群,T2群間で再挿管率,再挿管に至った理由について比較検討を行った。また抜管成功例,失敗例の間で評価指標にどのような差があったかについても合わせ検討を行った。統計学的解析にはFisher検定およびt検定を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の内容および意義,危険性などについては患者本人または家族に対して文書による説明を行い口頭にて同意を得た。また本研究の内容については当院治験審査委員会の承認を得た。【結果】再挿管率はT1群で26.1%,T2群では11.1%で,T2群で低下の傾向がみられたが差は有意ではなかった。再挿管の理由はT1群では去痰不全4例,胸部の創部離開1例,循環不全が1例であったが,T2群では気道出血1例,反回神経麻痺による誤嚥が1例であった。抜管成功例と失敗例での比較では酸素化,換気パターン,意識レベル,心拍数変動などの指標には有意差を認めなかった。【考察】新たな系統的評価表を抜管前評価に用いたT2群ではT1群と比較して再挿管率に低下の傾向がみられ,系統的評価表の使用が有用であったことが示唆された。T2群ではT1群と比較し去痰不全による抜管失敗がみられず,これは咳嗽能力評価が有効であった可能性が考えられた。また覚醒度評価の厳格化は指示理解を良好にし,排痰などの術後呼吸管理に好影響を与えたものと思われた。抜管成功,失敗例の間で酸素化や換気パターンなどの背景に差を認めなかったのは検討期間を通してこれらの指標についての評価が厳格に行われており,抜管の成否を分ける因子として作用しなかったことを示すものと思われた。【理学療法学としての意義】集中治療室における理学療法士の役割は単なる胸部理学療法の実施のみではなく,病態の評価や呼吸管理のサポートなど多岐にわたる。抜管の失敗はICUでの呼吸管理における最も重大なトラブルの一つであり,その防止に対して理学療法士が行う抜管前評価が寄与し得る可能性を示した本研究はICUでの呼吸管理における理学療法士の役割の重要性を示す上で大きな貢献があるものと思われる。
  • 横山 仁志, 武市 梨絵, 渡邉 陽介, 松嶋 真哉, 堅田 紘頌, 星野 姿子
    セッションID: 0304
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】人工呼吸器装着患者は,人工呼吸器関連肺炎,下側肺障害等の呼吸器合併症,不隠・せん妄の出現,深部静脈血栓症や肺塞栓血栓症,重篤な呼吸・四肢筋力低下等の様々な合併症を併発することが多い。そのため,人工呼吸器離脱や日常生活動作(Activity of daily living:ADL)の再獲得の遅延,ICU滞在期間・入院期間の長期化を生じやすいことが知られている。このような状況の予防・改善のために,近年では入院後間もない時期から原疾患に対する治療に並行し,積極的に早期離床を促進する治療介入の導入が推奨されつつある。しかし,人工呼吸器装着患者の早期離床トレーニングに関して,その効果や安全面,そして臨床場面における実行性の観点から十分な検討がなされているとは言い難く,さらに多角的な検証が必要である。そこで本研究では,人工呼吸器装着患者に対する積極的な早期離床トレーニングを導入した前後の時期で振り分け,患者情報,離床開始時の下肢筋力や移動能力の差異について比較検討し,早期離床トレーニングの有用性を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は人工呼吸器装着下で離床トレーニングを実施した症例のうち,意識・精神機能が安定(Richmond agitation-sedation scale=0)し,筋力評価が十分に実施可能であり,病前ADLが自立していた症例とした。なお,中枢神経疾患・運動器疾患を有する症例,測定に同意の得られない症例は除外した。そして,対象者は当院ICUにおいて人工呼吸器装着患者に対する積極的な早期離床トレーニングの導入を開始した2010年以降の症例をA群,それ以前の症例をB群に分類した。これらの車椅子乗車(離床開始)時点の下肢筋力,移動能力を評価し,対象の基本属性,離床開始日,多臓器不全の有無,全身臓器の状態を反映するSequential organ failure assessment(SOFA)scoreと酸素化能力を反映するPaO2/FIO2(P/F)ratio,そして人工呼吸器装着期間,入院期間等の患者情報を後方視的に調査した。下肢筋力はアニマ社製μ-TasMF01を用い,膝関節90度位での左右の等尺性膝伸展筋力(kgf)を測定し,その平均を体重(kg)で除した値を用いた(kgf/kg)。また,同機器における健常平均値に対する比率である対健常比(%)も算出した。移動能力は,離床開始後1週時点での移動能力をFunctional Independent Measure(移動)を用い,4(最小介助)以上を歩行可と判断し,調査した。得られた結果から,両群間の差異をMann-WhitneyのU検定,χ2検定を用い,危険率5%を有意水準として比較検討した。すべての結果は中央値[四分位範囲]で表記した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則り,当院生命倫理委員会の承認を得て実施し,すべてのデータは厳密に管理を行った(承認番号:2314号)。【結果】積極的な早期離床トレーニングを導入したA群(10例)の離床開始日は,入院後5.5[3.5-7.0]日とB群(10例)の入院後23.0[17.0-36.8]日に比較し,有意に低値を認めた(p<0.05)。その時点における多臓器不全の有無,P/Fratioには有意差を認めないものの,SOFA scoreはA群において高い傾向を認めた(5.5[3.5-5.5]vs3.5[3.0-4.8],p<0.1)。次に,離床開始時における下肢筋力(対健常比)は,A群では0.34[0.30-0.47]kgf/kg(59.7[47.9-68.6]%)に対し,B群では0.20[0.15-0.27]kgf/kg(34.7[27.5-36.7]%)と両群間に有意差を認めた(p<0.05)。そして,離床開始1週時におけるA群の歩行可能例は,6例(60%)と高い割合であったが,B群では1例(10%)のみにとどまっていた(χ2=5.5,p<0.05)。最後に,人工呼吸器装着期間についてはA群,B群の順に5.0[5.0-10.3]日,30.0[22.0-39.0]日,同様に入院期間は27.5[20.5-35.5]日,88.5[77.5-158.3]日といずれもA群において有意に低値を認めた(p<0.05)。【考察】積極的な早期離床トレーニング導入前後の差異から,その有用性について検討した結果,早期離床トレーニングを導入した場合には,他方に比較して下肢筋力や歩行可能例の割合は高値を示し,介入開始時の筋力や移動能力の顕著な低下を予防する可能性が示唆された。また,それらに伴って人工呼吸器装着・入院期間は短縮され,人工呼吸器からの離脱や早期退院にも早期離床トレーニングが寄与していることが明らかとなった。よって,積極的な早期離床トレーニングは,人工呼吸器装着患者にとって必須の治療介入であることが示唆された。加えて,重症で入院間もない全身状態の不安定な時期から離床トレーニングが開始されていた点より,その実施には,理学療法士における病態理解やリスク管理する能力の必要性が高いことが認識された。【理学療法学研究としての意義】人工呼吸器装着患者における早期離床トレーニングの有用性を,介入開始時点の筋力や移動能力の低下予防,人工呼吸器装着・入院期間の短縮の面から明らかにした検討である。
  • 藤田 恭久, 橋崎 孝賢, 上西 啓裕, 川副 友, 中野 美幸, 佐々木 裕介, 幸田 剣, 米満 尚史, 田島 文博, 加藤 正哉
    セッションID: 0305
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】Intensive Care Unit(ICU)においての医学管理は,安静臥床を強いられことが多く,廃用症候群による機能低下を招く。特に長期間の人工呼吸器や鎮静管理は死亡率の増加,ICU滞在日数が延長する。近年ICUリハビリテーション(リハ)での早期離床は,安全かつ有効であることが報告されており,ICU入室・在院・人工呼吸器管理期間の短縮,退院時の身体機能向上に繋がるEarly mobilization(EM)が推奨されている。しかし,明確なリハ内容や介入時期などの基準はなく施設間で異なっているのが現状である。当院ICUリハは,当初より積極的に離床を行っているが,介入時期や内容についての基準は確立されていなかった。そこで今回,ICUリハについて救急・リハ科医師,看護師,リハスタッフで再検討を行い,先行研究のEMに基づき早期介入の方針と,より早い段階での離床プロトコールを作成した。当院独自のEM導入と早期介入がICU入室・在院・人工呼吸器管理期間,ADLへの影響と早期介入における有害事象の有無を検討することを目的とした。【方法】対象は2013年1月から2013年8月にICU入室し,人工呼吸器管理された救急患者の内,18歳以上で入院2週間前のBarthel Index(BI)が70以上とした。これらを人工呼吸器管理後48時間以内にEMを開始した群(A群)と,48時間以上でEMを開始した群(B群)に分けてコホート研究を行った。除外基準は急性の神経筋疾患,頭蓋内圧亢進状態,四肢欠損,病的骨折,脊椎不安定症,心臓血管疾患の術後,ICUでのリハ介入期間が1日未満,経過中急に状態が悪化した患者とした。EMのプロトコールは,Richmond Sedation and Agitation Scale(RASS)にあわせてLevel 1~4に段階分けし両群とも施行した。Level1はベッド上で呼吸リハ・拘縮予防を行う。Level2はRASS-4~-3で端座位を1日20分2回行い,看護師がギャッジ座位を行う。Level3はRASS-2~+1で立位を1日20分2回行い,看護師がギャッジ座位または車いす座位を行う。Level4はRASS0で立位での足ふみ・歩行を行い,看護師が車いす座位,患者が可能であれば上下肢の拳上運動を行う。看護師は1日1回拘縮予防と四肢運動を全Levelで行う。EM介入時のLevel分けは,ICU医師が呼吸・循環動態,鎮静管理の状態を加味して決定した。介入中に設定した中止基準を満たせばリハを中止した。EMの介入は,日中の鎮静を中断し日内リズムを確立した上で,1日2回,ICUを退室するまで行い,退室後もリハを継続した。評価項目は重症度スコアのAcute physiology and chronic health evaluation(APACHE)IIスコアとSequential organ failure assessment(SOFA)スコア,鎮静管理のRASS,ICU入室・在院・人工呼吸器管理期間,ICU入室・転室・転帰時のBIとFIMとした。BIとFIMの転室,転帰時に関しては,入室時からの変化(⊿)で算出し,各評価項目において両群間で比較検討を行った。統計処理は,Mann-Whitney-U検定で解析し有意水準5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院の倫理審査委員会での承諾を得て,対象者または家族に研究内容や危険性を口頭と書面で十分説明し,研究参加に関して自由意志で文書により事前に同意を得た。【結果】対象はA群12例,B群11例,平均年齢67±12.5歳vs. 66±17.1歳(A群vs. B群)で有意差なく,介入までの平均日数1.2±0.8日vs. 3.5±0.9日(P<0.01)に有意差を認めた。ICU入室時の重症度はAPACHE IIスコア26.3±6.3点vs. 25.4±6.1点,SOFAスコア9.0±3.0点vs. 8.7±2.7点で有意差は認めなかった。またその他の,入室時のFIMとBI,転室転帰時⊿BI,RASS,人工呼吸器管理期間5.9±2.4日vs. 6.9±3.5日,ICU入室期間8.8±3.8日vs. 9.1±7.0日,在院期間28.3±10.4日vs. 28.2±13.5日にも有意差を認めなかった。⊿FIM転室時18.8±16.3 vs. 8±7.7に対し,⊿FIM転帰時70.9±40.0 vs. 42.4±37.4(P<0.05)のみ有意差を認めた。EM介入中に急変や中止基準を満たす事例はなかった。【考察】本研究はICUにおける急性期リハの内容を明確にし,発症数日からEM介入を試み,人工呼吸器管理下においても端座位や立位を行うプロトコールを導入した。当院独自のEM開始基準は,症例の重症度で有意差がないことや介入中に急変を認めなかったことから,48時間以内でも可能であることが示唆された。先行研究ではコントロール群(7.4日)とEM群(1.5日)の比較で,ICU入室・在院日数・人工呼吸器管理期間の短縮,ADL改善などにEM効果を認めた。それに対し本研究は,両群ともEMを実施し,早期介入日の違いで⊿FIMに有意差を認めた。そのため当院独自のEMと早期介入は,より転帰時の機能改善やADL向上に繋がる可能性がある。【理学療法学研究としての意義】ICUリハは,患者の状態にあわせてEMを安全かつ円滑に進めるために,ICU専従セラピストの配属や医師,看護師など多職種と連携を取れる包括的なシステムを構築する必要がある。
  • 松井 裕人, 長谷川 哲也, 岡本 賢太郎
    セッションID: 0306
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】当院は2013年4月より救命救急センターとして指定されており,今後,救急患者の受け入れが増加し,理学療法士が対象とする患者像は高齢化・重症化してくることが予想される。このような背景より,救命救急センターにて人工呼吸器管理を要した呼吸器疾患患者の転帰や,その要因を調査することは重要ある。本研究は当院救命救急センターにおける,人工呼吸器装着患者に対しての理学療法の現状と,患者特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】2012年1月から2013年8月までで,呼吸器疾患により救命救急センターに入室し,人工呼吸器管理となった患者を対象とし,後方視的に調査した。調査項目は基礎情報として性別,年齢,入院前の移動能力,臨床所見として人工呼吸器装着期間中のPaO2/FiO2(以下P/F)最低値,アルブミン最低値,カテコラミン使用の有無とした。また経過として人工呼吸器装着日数,救命救急センター在室日数,在院日数,退院時の移動能力,転帰,人工呼吸器装着下での理学療法実施の有無と人工呼吸器装着から理学療法開始までの日数(以下,PT介入までの期間)とした。人工呼吸器装着下での理学療法を実施した群(以下装着群),人工呼吸器離脱後に理学療法を実施した群(以下抜管群)の2群に分け,年齢,P/F最低値,アルブミン最低値,人工呼吸器装着日数,救命救急センター在室日数,在院日数,PT介入までの期間をMann-WhitneyのU検定を使用し,比較・検討した。また退院時の移動能力において入院時の移動能力と比較した時の低下の有無,カテコラミン使用の有無とともにχ2検定を使用し,比較・検討した。統計学上の有意水準は5%とした。また演算にはJSTAT for windowsを使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究である。【結果】対象患者は48例であった。年齢は74.6±9.4(平均±標準偏差)歳,男性35例,女性13例であった。各調査項目について中央値±標準偏差で示す。P/F最低値101.4±75.3,アルブミン最低値1.9±0.4g/dl,人工呼吸器装着日数6.5±21.9日,救命救急センター在室日数8.0±7.9日,在院日数24.5±0.4日であった。カテコラミンを使用した患者は29例,未使用患者は19例であった。入院前移動能力は屋外歩行27例,屋内歩行12例,介助歩行5例,車いす移動3例,ベッド上が1例であった。退院時の移動能力として屋外歩行5例,屋内歩行15例,介助歩行3例,車いす移動9例,ベッド上16例であった。移動能力低下のあった患者は36例であった。転帰先は自宅退院26例,転院5例,施設入所2例,死亡15例であった。理学療法処方があった患者は42例,未処方例は6例で,全例死亡であった。装着群は26例,抜管群は16例であった。PT介入までの期間は4.0±3.0日であった。装着群と抜管群の比較・検討について結果を示す(装着群vs抜管群)。年齢(74.0±8.2vs79.0±6.9歳:p<0.05),P/F最低値(70.9±58.4vs175.9±76.7:p<0.01),アルブミン最低値(1.8±0.4vs2.1±0.5g/dl:p<0.05),人工呼吸器装着日数(11.5±27.3vs3.5±3.0日:p<0.01),救命救急センター在室日数(11.0±9.0vs3.5±3.0日:p<0.05),在院日数(39.5±48.0vs27.0±26.5日:p=0.24),PT介入までの期間は(3.0±2.8vs6.0±2.8日:p<0.01)であった。カテコラミンの有無について,装着群でカテコラミン使用例は18例,抜管群では7例であり,カテコラミンの有無において有意差は認めなかった(p=0.10)。歩行能力低下の有無について,装着群で19例,抜管群で12例であり有意差は認めなかった(p=0.89)。【考察】本研究の対象患者は平均74.6歳と高齢であり,P/F最低値,アルブミン最低値などから重症例が多いと考えられる。また入院前に歩行が可能な患者は44例に対し,退院時には23例と減少した。本研究の患者特徴として,高齢であることに加えて,人工呼吸器装着という侵襲的な処置,臥床期間の長期化から,退院ができた患者であっても移動能力の低下をきたしていることが考えられる。結果より装着群の特徴として,抜管群と比べて重症例であることが伺えた。しかし,在院日数や移動能力の低下において,装着群と抜管群との間に有意差を認めなかった。またPT介入までの期間では,両群に有意差を認めており,装着群が3日後,抜管群は6日後より介入していた。このことから,早期から理学療法介入を行うことで,入院前移動能力の獲得,在院日数の短縮に寄与できたと考えられる。また抜管群においても,より早期から理学療法を実施することで移動能力の維持を図ることや,在院日数の短縮が図れることが考えられるため今後の課題としたい。【理学療法学研究としての意義】人工呼吸器装着患者における,早期理学療法介入の有用性が示唆された。
  • 柳澤 幸夫, 中村 武司, 松尾 善美
    セッションID: 0307
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】平成22年4月30日に厚生労働省医政局より「痰の吸引」の医療行為が認められた。この吸引行為(以下,吸引)の認可によって,理学療法士は痰喀出練習を実施する際に喀痰吸引が認められたことから,対象者に対する呼吸ケアがより包括的にアプローチすることができることになり,さらなる積極的な介入が期待されるようになった。しかし,現場では吸引に対して不安を感じている理学療法士も少なくなく,認可されてから3年となるが,実際にどの程度,吸引を実施しているのか,また実施しない理由などについての報告は少ない。したがって,本研究では理学療法士にアンケートを行い,臨床現場における吸引の現状および吸引と関連要因との関係を明らかにすることを目的とした。本研究は,大同生命厚生事業団の助成を受けた研究の一部として実施した。【方法】対象は徳島県理学療法士会に所属し,病院,施設登録の理学療法士715名を対象とした。アンケート調査期間は,平成25年3月1日からの2週間とし,同意を得た上で無記名にて記入後郵送にて回収した。調査内容は,対象者の属性,経験年数,吸引の有無,吸引をしていない理由,吸引ができれば良かった場面の有無,今後の吸引技術習得の希望の有無,日本理学療法士協会の吸引プロトコルおよび日本呼吸療法医学会の気管吸引ガイドラインの認知度,3学会合同呼吸療法認定士資格の有無,BLS受講の有無とした。統計解析は,SPSS17.0Jを用いて,各回答に対して単純集計を行い,さらに吸引実施の有無と経験年数(5年未満と5年以上の2群),吸引プロトコルや気管吸引ガイドラインの認知度,3学会合同呼吸療法認定士資格の有無,BLS受講の有無との各関連をχ2検定を用いて検討した。なお,危険率5%未満を有意差判定の基準とした。【説明と同意】本研究の開始にあたり,当院倫理審査委員会の承認を得た(承認番号1302)。また,研究概要を紙面にて説明し,同意を得た上で返信を依頼した。【結果】715名中,540名から回答を得た(回収率75.5%)。経験年数は,5年未満42.6%,10年未満75.1%であった。吸引の実施は,経験有は115名(21.3%)で425名(78.7%)が経験無であった。吸引をしていない理由では,看護師に依頼342名(81.6%),吸引に関する専門的知識がない196名(46.8%),所属施設での吸引の制限108名(25.1%),吸引が必要な対象者がいない88名(21.0%),緊急時対応に不安86名(20.5%),リスク管理に自信がない74名(17.7%),家族やヘルパーに依頼37名(8.8%)であった。吸引ができれば良かった場面の有無は,202名(49.1%)が有であった。現在,吸引が非実施の方での今後の吸引技術習得の希望の有無は,365名(87.5%)が有であった。吸引実施の有無との各関連では,経験年数は有意差を認めず(p=0.594),吸引プロトコル(p<0.05)や気管吸引ガイドラインの認知度(p<0.01),3学会合同呼吸療法認定士資格の有無は有意差を認めた(p<0.01)。BLS受講の有無とは有意差を認めなかった(p=0.506)。【考察】本調査から,吸引の実施状況は認可されてから3年が経過しているが,実施経験は21.3%と低い結果であった。これは徳島県のみを対象としているため,本県の傾向がでているともいえるが,他県やさらに大規模での調査と比較が必要である。吸引をしていない理由には,専門的な知識不足やリスク管理に自信がないこと,緊急時対応に不安があることなどが挙げられており,これらの課題に関しては吸引に関する専門研修などで解決可能な部分と考えられた。他には所属施設によって吸引を制限しており,上記の課題を解決することや所属施設内での吸引マニュアル作成などの取り組みが必要である。また,吸引の経験がない方にも,これまでに吸引が必要な場面が多くあったことや吸引技術の習得を希望する方が多いことから,臨床現場では吸引に関する教育的な支援対策が急務であることが明らかとなった。吸引の実施に関しては吸引プロトコルや気管吸引ガイドラインの認知度をさらに向上させることや各学術団体の呼吸器系の専門的資格の取得を促すことは吸引に関心を持ち,安全な技術習得にむけての動機付けになるのではないかと考えられた。今後,吸引に関する技術講習は,所属施設内で研修を受けることが望ましいが,実際には設備や消耗品などが必要であり,施設の規模によっては研修が実施できない施設も多くあることから,地域規模で各施設が連携し,吸引に関する専門的研修会を継続的に開催することが必要である。【理学療法学研究としての意義】本調査によって,臨床現場では吸引の実施率は低く,課題も多くあることから,解決に向けた地域規模での研修会開催などの支援が必要であることが明らかとなった。
  • メタ分析による算出
    中園 哲治, 安藤 雅峻, 上出 直人
    セッションID: 0308
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】チェアスタンドテスト(CST)は,高齢者の膝関節周囲筋筋力(Stephen,et al.2002)を反映した運動機能テストである。加えて,高齢者における日常生活活動(ADL)障害(Fang,et al.2013),転倒(Tiedemann,et al.2008)の発生などを予測しうることも示されている。しかし,高齢者を対象としたCSTの明確な基準値は存在しないため,CSTの結果の解釈を困難にしていると言える。そこで,本研究ではメタ分析にて地域在住日本人高齢者におけるCSTの基準値を算出した。【方法】1996年1月から2013年9月の間に出版された,CSTに関してのデータを報告している査読のある研究論文を対象とした。対象とする論文の検索には電子データベースのPubmed,Embase,CINAHL,医学中央雑誌を用いた。加えて,関連する学術雑誌からマニュアルでの検索も行った。検索語には,「sit to stand」,「CS-5」,「CS-10」,「CS-30」,「chair stand」,「chair rising」,「立ち上がりテスト」と「elderly」,「高齢者」,「aged」,「older people」を適宜組み合わせて使用した。メタ分析に用いる論文の採用基準は,Kamideら(2011,2012)による先行研究を参考に以下の通りとした。(i)日本語もしくは英語で書かれた論文,(ii)60歳以上の地域在住日本人高齢者を対象とした論文,(iii)生活機能が良好な高齢者を対象とした論文,(iv)虚弱高齢者や明らかな疾患を有する高齢者を対象に含まない論文。これらの基準は,研究間のデータのばらつきを最小化するために設けた。なお,論文の選別は3名の研究者で行った。上記の採用基準を満たす論文から,論文情報(タイトル,著者,出典),対象者属性(生活機能,年齢,身長,体重,性別),測定条件,対象者数,CSTの平均値と標準偏差をそれぞれ抽出した。ただし,CSTにはCS-5,CS-10,CS-30の3種類の測定条件があり,各測定条件の測定結果をそのまま抽出した。また,一つの研究から複数のデータが報告されている場合,個々のデータとしてそれぞれ抽出した。統計解析として,CS-5,CS-10,CS-30の基準値と95%信頼区間(95%CI)を変量効果モデルでそれぞれ計算した。さらに,年齢と性別の影響をメタ回帰分析で計算した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヒトまたは動物を対象としていないため本項目は該当しない。【結果】CS-10は採用基準に該当する論文が見つからず算出できなかった。CS-5の採用基準に該当したものは7論文(21データ)であった。対象者数は合計6050名(男性494名,女性1659名,未記載3897名;平均年齢69.0~80.7歳)であった。変量効果モデルの結果からCS-5の基準値は8.5(95%CI:7.9~9.1)秒と算出された。さらに,メタ回帰分析の結果から,CS-5と年齢および性別に関しては,いずれも関連が認められなかった。CS-30の採用基準に該当したものが3論文(14データ)であった。対象者数は合計661名(男性209名,女性317名,未記載135名;平均年齢62.6~83.2歳)であった。変量効果モデルの結果からCS-30の基準値は,17.3(95%CI:15.7~18.9)回と算出された。さらに,メタ回帰分析の結果より,CS-30と年齢にのみ有意な負の関連が認められた(p<0.001)。【考察】本研究では,地域在住で自立した生活を送る日本人高齢者におけるCS-5,CS-30の基準値をメタ分析により算出した。60歳以上のCSTの基準値に関しては,CS-30にのみ年齢に伴い回数が低下することがわかった。先行研究でも,CS-30は年齢に伴って回数が低下することが示されている(Jones,et al.1999)。本研究の結果は,年齢によるCS-30への影響を裏づける結果になったと考えられた。本研究の結果から,CS-5に対してCS-30では,CS-5よりも12回程度立ち上がり回数を多く行う可能性があり,立ち上がり回数が増えることで,CS-30では,年齢が影響してくると考えられた。したがって,CS-30を用いる場合には年齢による影響を考慮して評価する必要があると考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究で算出した基準値は,少なくともADL自立以上の生活機能を有する地域在住日本人高齢者に,CSTを行う際の評価基準として有益な指標となると考える。
  • 畠山 浩太郎, 植田 拓也, 前田 悠紀人, 柴 喜崇
    セッションID: 0309
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】我が国では世界でも類を見ない速度で少子化及び高齢化が進み,平成22年に高齢化率23.1%という超高齢化社会に突入した。今後さらに平均寿命は伸長すると予測され,健康寿命の延伸を図らなければ,医療費や社会保障負担の増大は避けられない。先行研究では,高齢者の身体機能を維持するために運動習慣の存在(Carolee 2003)や運動実施頻度の程度(田口2008)が重要であるとされている。厚生労働省では「運動習慣がある者」を,「少なくとも週2回以上,1回につき30分以上の運動を1年間以上続けている者」と定義しているが,近年,国民の健康に対する意識が高まり,運動習慣のある者の割合は増加している。こうした社会的背景において,今回,地域の自主参加型運動グループを対象に,こうした運動に参加しなくなる者の特徴を調べることを目的に研究を行った。【方法】対象は,神奈川県相模原市R公園のラジオ体操会会員に対する平成23年度の調査への参加者のうち,体力測定とアンケートの全項目に対する有効回答を得られた91名(平均年齢71.8±5.68歳,男性47名,女性44名)とした。本研究では,対象を,その後少なくとも2年連続で本調査への参加が無かった群及びその他の群との2群に分け,前者を非継続群,後者を継続群とした。平成23年度ベースライン調査時の,ラジオ体操を含む定期的な運動の継続期間及び実施頻度,開眼片脚立位時間,握力,立位体前屈,Timed Up and Go test(以下TUG),5m最大歩行速度,5m快適歩行速度,等尺性膝伸展筋力,高次の手段的日常生活活動の指標として老健式活動能力指標(Tokyo Metropolitan Institute of Gerontology,以下TMIG)及びFrenchay Activities Index(以下FAI)を,転倒に関する自己効力感として国際版転倒自己効力感尺度(the Falls Efficacy Scale-International,以下FES-I),そして生活の質(Quality of Life,以下QOL)を表す精神的健康度としてWHO-5精神的健康状態表(以下WHO5)を調査し,各項目における群間比較を行った。2群間の比較には,マンホイットニーのU検定または対応の無いt検定を行い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】参加者には,書面及び口頭にて,本研究の内容について十分に説明し,自署にて研究参加への同意を得た。本研究は共同研究者所属機関の倫理委員会の承認を得て行った。【結果】非継続群23名(平均年齢71.0±6.73歳,男性12名,女性11名)の運動継続年数1年以上の者22名(96%),継続群68名(平均年齢72.0±5.31歳,男性35名,女性33名)の継続年数1年以上の者が59名(87%)であった。2群間で年齢,性別,運動継続年数,運動実施頻度において有意差はなく,運動実施頻度は,いずれの群においても週4日以上の者が87%を占めていた。両群の比較において,非継続群は継続群よりも,TUG(p=0.0097),5m快適歩行速度(p=0.0125),膝伸展筋力(p=0.0353)の値が有意に低かったが,そのほかの項目については有意差が見られなかった(n.s.)。【考察】非継続群,継続群,ともに運動の実施頻度,継続年数において,厚生労働省の定義による「運動習慣がある」といえた。運動習慣がありながら,定期的な運動に参加しなくなる者は,Lawtonによる高齢者の能力に関する7段階論では高位にあたる,手段的自立などの項目には差が見られなかったが,より低位の機能的な項目が,運動を継続していた群よりも有意に低値を示しており,動的バランスや下肢機能といった,移動能力に直接関わる項目が低下していた。先行研究では,運動定着群では運動時間や近所へ外出する頻度が多い(牧迫2008),転倒,外出頻度,運動習慣においてTUGと有意な関係が認められた(島田2006),外出には実用的な歩行機能が必要である(鈴川2010),というように,運動習慣や歩行機能と外出についての関連が示されている。ラジオ体操会への参加には外出を伴うため,非継続群は,移動能力の低下が外出頻度の低下を招きラジオ体操会への参加をしなくなったと考えることができる。健康日本21における,身体活動や運度に対する意識や態度についての評価では,身体活動や運動に意欲的な者は増えたが,実際にはできていないとされている。今回の調査におけるラジオ体操会の非継続群においても,運動に対して意欲的でも,移動能力といった身体機能面の低下が,これまで高頻度で長年続けてきた運動に参加しなくなるという事態を招く可能性があることを示唆しているといえる。【理学療法学研究としての意義】超高齢化社会の我が国において,運動習慣を有する者に運動の非継続者の特徴についての知見を提供する点において意義があり,疾病予防,健康増進,介護予防の分野で専門職として活躍するための一助になるといえる。
  • 60歳代,70歳代を中心にした検証
    丸谷 康平, 藤田 博曉, 新井 智之, 細井 俊希, 旭 竜馬, 森田 泰裕, 荻原 健一, 蓮田 有莉, 石橋 英明
    セッションID: 0310
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】高齢化が進む我が国において現在の中高年者の加齢的変化の特徴を把握し,今後の健康増進ならびに介護予防に活かすことが重要であると考える。身体機能は加齢とともに低下すると報告され,近年ではサルコペニアの概念のもと,除脂肪体重や筋肉量といった体組成における加齢的変化についての報告も多くみられるようになった。しかし本邦において体組成ならびに運動機能の加齢的変化に対する報告は少なく,性別の違いによる報告も少ない。今回,地域在住中高年者に対して体組成ならびに運動機能の年代別の推移を横断的に調査し,性別の違いも含めた加齢的変化を検証した。【方法】対象は埼玉県伊奈町に在住し,住民票から性別・年齢分布が均等になるように無作為に選ばれた要支援・要介護および身体障害に該当しない60~70歳代の中高年者163名(男性;82名,女性;81名)である。測定項目は身長,体重,Body Mass Index(BMI)に加え,タニタ社製マルチ周波数体組成計MC-190を用いて,体脂肪率や除脂肪体重ならびに筋肉量,推定骨量の測定を行なった。運動機能の測定は,握力,開眼片足立ち時間(片脚立ち),Functional reach test(FRT),5回立ち上がり時間(5回起立),最大歩行速度,2ステップテスト,等尺性膝伸展筋力(膝伸展力),足趾把持力の測定を行なった。握力,膝伸展筋力ならびに足趾把持力は,左右それぞれ2回ずつ測定し,その最大値を左右で平均した値を採用した。片脚立ちは,左右どちらかのうちの最大値を採用した。2ステップテストについては村永らの方法で測定し,身長で除した値を2ステップ値として採用した。統計・解析において,まず対象者を年齢ごとに65歳未満,65-69歳,70-74歳,75歳以上の4群に群分けした。その後,対象者全体および性別ごとに一元配置分散分析およびTukeyの多重比較検定を行なった。統計ソフトはPASW ver.18.0を用い,有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,埼玉医科大学保健医療学部の倫理委員会の承認を得て行なわれた。また,本研究の説明は文書ならびに口頭にて行ない,文書による同意を得ている。【結果】全対象者の各年齢群における人数分布は,65歳未満28名,65-69歳39名,70-74歳51名,75歳以上45名であった。多重比較検定の結果,体組成についてはいずれの項目においても有意差を認めず,運動機能では片脚立ちにおいて70歳代以降の2群にて65歳未満および65-69歳の群よりも有意な低下がみられた。さらにFRT,最大歩行速度,2ステップ値においては65歳未満と75歳以上の群に有意差がみられ,加齢とともに低下する傾向にあった。男性における多重比較検定の結果,体組成では体脂肪率にて65歳未満と70-74歳,65-69歳と70-74歳の群において有意差がみられ,加齢に伴い増加がみられた。運動機能では,片脚立ち,2ステップ値ならびに足趾把持力に有意差がみられ,70歳代より低下し始め,75歳以上で著明に低下する傾向であった。女性における体組成の推移は,身長,除脂肪体重,筋肉量において65歳未満と70歳代以降の群において有意差がみられ,加齢に伴い低下する傾向にあった。また推定骨量も年代ごとに低下する傾向にあった。運動機能は,握力では65歳未満と70-74歳ならびに75歳以上の間に有意差がみられ,加齢に伴い低下していた。またFRT,足趾把持力では,75歳以上は65歳未満よりも有意に低下していた。【考察】対象者全体を通して体組成と運動機能の推移をみた場合では,体組成の変化はみられず運動機能のみに変化がみられた。性別ごとの結果では,男女ともに加齢に伴い体組成および運動機能に変化がみられた。しかし性別により体組成の変化は異なり,男性では体脂肪率の増加がみられ,女性では身長,除脂肪体重,筋肉量ならびに推定骨量の低下がみられた。運動機能においては,男性では片脚立ちや2ステップ値,足趾把持力の低下を示し,女性では握力,FRT,足趾把持力の低下を示した。これは男性では皮下脂肪および内臓脂肪等の増加が要因となり,立位バランス能力ならびに下肢筋力を低下させると考えた。女性については,骨粗鬆症が要因となり身長および除脂肪体重,推定骨量ならびに筋肉量の低下を招いたと考えられ,それに付随してバランス能力や歩行能力などの運動機能の低下を示すと考えられた。【理学療法学研究としての意義】高齢化が進む我が国において健康寿命の延伸が期待されている。地域在住中高年者の加齢的な体組成および運動機能変化の特徴を把握することにより,介護予防等における健康増進を図る際の基礎資料になると考えられる。
  • 朴 眩泰, 島田 裕之, 牧迫 飛雄馬, 吉田 大輔, 李 相侖, 土井 剛彦, 阿南 祐也, 堤本 広大, 原田 和弘, 李 成喆, 堀田 ...
    セッションID: 0311
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】要介護状態を予防するためには身体機能の低下を防ぎ,生活行動の自立を促すことが必要であり,今後の後期高齢者数の増加に伴う要介護状態の危険性が高い高齢者の増加を考慮すると,効果的な介護予防対策を明らかにすることが緊要の課題である。本研究では,運動器機能低下抑制に必要な日常行動を提案するために,種々の機能低下を有する地域在住虚弱高齢者を対象に,3軸加速度センサー付き体動計および位置情報システム(GPS)により日常行動の実態を把握し,それらの質・パターン・頻度・距離・軌跡などの日常行動特性と運動器の健康状態との関連性を検証した。【方法】分析には,2011年8月~2012年2月に,国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターが実施したObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)のデータの一部を用いた。OSHPEは,65歳以上の地域在住高齢者5104名を対象に実施した。その内,Friedらの基準により虚弱高齢者を特定し,うつ・変形性膝関節症・脳卒中・アルツハイマー病の既往・現病,および,解析に用いた変数に欠損のある者を除いた上で,1ヶ月間,体動計およびGPSを装着させ,日中(6時-18時)のデータが14日以上・1日10時間以上ある301名を解析対象者とした。解析に用いた項目は,独自にアルゴリズムを工夫した行動解析プログラムによる体動計・GPSのデータ(身体活動量・質・パターンと総移動および歩行(>5.4km/h)の軌跡および頻度)とDXA法による骨密度(腰椎2-4,大腿骨),超音波法による踵骨の音速(Speed of Sound),調節変数として基本属性(性別,年齢,教育歴,喫煙,飲酒,疾病暦など)であった。行動と骨粗鬆症との関連性を調べるために,解析対象者を身体行動の組み合わせにより四分位にわけ,骨粗鬆症・骨減少症との関連性を,基本属性・疾病状況の影響を調整変数とした共分散分析と多項ロジスティック回帰分析と一般線形モデルによる解析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】OSHPEは,国立長寿医療研究センターの倫理・利益相反委員会の承認を得た上で,2008年に制定されたヘルシンキ宣言に従って実施された。【結果】一般線形回帰モデルの結果,日常行動(特に活動の量,質,屋外歩行頻度)は,有意な指数関数的な関連性があり(r=0.3,0.4,0.3,p<0.05),多変量調整共分散分析モデルおよび多重比較により,男女ともに歩数が6000歩/日かつ中強度活動10分/日かつ屋外歩行頻度2-3回/日以下の者は,大腿頸部の骨量が有意に低い傾向であった。更に,多項ロジスティック回帰分析により,交絡要因の影響を調整したオッズ比はそれぞれ日常活動の量1.5-1.7,質2.0-2.7,屋外歩行頻度1.4-1.9であった。【考察】本研究の特徴は,高齢者の外出行動を従来の主観的方法ではなく,GPSおよび体動計によって,客観的かつ正確に調べたことである。本研究により,身体機能が低下した虚弱高齢者において,機能低下抑制に必要な骨健康を継続するためには日常行動,特に身体活動の量・質(>6000歩・>10分)と屋外歩行頻度(>2-3回)を維持することが関連していると考えられる。このことは,外出歩行を行うことは,骨折の危険性の高い,虚弱高齢者の下肢骨量において,特に重要であることを示唆している。先行研究では,健常高齢者において良好な骨健康のためには7000歩かつ15分の中強度の活動閾値が報告されているが,機能低下した虚弱高齢者では,そのような閾値と異なるかどうかが本研究で検証された。本研究により,そのような関連性は,高齢者の運動器の機能程度によって異なることが確認された。本研究で示された横断的相互関連性が,今後,介入研究によって,厳密に解明されることが期待される。【理学療法学研究としての意義】虚弱高齢者の要介護,骨折を予防するために,身体活動・骨量の低下を防ぐことが重要なことである。そのための効果的な評価システムおよび介入方策を開発することは,理学療法学研究の大きな課題の1つである。機能低下の虚弱高齢者において,個人の行動特性による生活活動改善介入の可能性を示した点で,本研究は理学療法研究としての意義があると思われる。
  • 仲 貴子, 柴田 愛, 石井 香織, 岡 浩一朗, 原田 和弘
    セッションID: 0312
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】本研究の目的は,地域在住高齢者における足部痛と,Disabling Foot Pain(足部痛に関連する活動制限と参加制約。以下,DFP)の存在率(Prevalence)と人口統計学的指標における関連要因を明らかにすることであった。【方法】本研究は,松戸地域高齢者コホート研究の一部として実施した。松戸市は千葉県東葛地域に位置する人口約48万人の都市で,この松戸地域高齢者コホート研究は松戸市に居住する65~84歳の住民から層化無作為抽出した3,000人を対象とし,足部障害(足部異常・足部痛・足部機能障害)と生活機能・身体活動を調査する縦断的コホート研究である。第1次調査として郵送アンケート調査を実施した。アンケート調査の内容は,人口統計学的指標(性・年齢等),腰痛・膝痛・足部痛(想起期間1ヶ月間において1日以上持続する疼痛)の有無と重症度,足部の自覚症状(皮膚の色調不良,異常感覚,関節可動域制限,足・爪白癬,肥厚爪・巻爪,等14項目の自覚症状の有無),足部痛による能力障害指標(日本語版Manchester Foot Pain and Disability Index;以下MFPDI-J)を含むものであった。なお,統計処理はSPSS21.0J(IBM社)を使用しDFPの有無にかかわる関連要因を調べるため多重ロジスティック回帰分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】研究対象者には郵送質問票と同封の説明文書で本研究の詳細と参加に関する説明をし,調査票への回答・返送を求めた。なお,調査票に同綴の研究参加同意書への署名をもって協力の意志を確認できた者のみを有効回答とした。また,松戸地域高齢者コホート研究の第1次調査(郵送調査)全体は,千葉県立保健医療大学研究倫理審査委員会の承認(承認番号:24593491)を受けて実施した。【結果】1,250人から回答を得た(有効回答率42%)。回答者の性別内訳は,男性677人,女性573人,平均年齢は74.0±5.3歳であった。腰痛を有する者は590人(47.2%),膝部痛を有するものは484人(38.2%)であったのに対して,足部痛を有するものは253人(20.2%)であった。足部痛の重症度別内訳は,重度痛(日常生活そのものに支障をきたす程度の痛みあるいは痛み以外のことが考えられない程度の痛み)のある者が8人(0.6%),中等度痛(日常生活の一部に支障をきたす程度の痛み)のある者が4.6%(58人),軽度痛(日常生活には支障とならない程度の痛み)のある者が15.9%(187人)であった。足部の自覚症状については,肥厚爪・巻爪41.5%,足白癬・爪白癬32.5%,胼胝・鶏眼29.0%,外反母趾19.2%が多かった。DFP(MFPDI-Jの設問1~17で1点以上の者)は,19.6%(245人)に存在した。DFPの有無を従属変数,性別,年齢,婚姻歴,教育歴,同居家族の有無,腰痛の有無,膝痛の有無を独立変数として多重ロジスティック回帰分析を行った結果,女性,前期高齢者,離別・死別者,独居者,膝痛のある者がそうでないものに比べてDFPを持ちやすいことがわかった(r=.47~.77)。【考察】高齢者の生活機能低下の関連要因としては運動器の疼痛性疾患の関与がよく知られている。欧米諸国では2000年にGarrowらが開発したMFPDIを用いて,足部痛やDFPに関する疫学調査が多く行われているが,我が国では高齢者の足部痛ならびにDFPの疫学を計画的に調査した報告はほとんどない。今回,地域在住高齢者コホートを対象とした足部痛・足部の自覚症状・DFPの実態を調査し,欧米で行われた同様の調査における足部痛の存在率(約24%),DFP存在率(約9%)に比べて,本邦では足部痛の存在率は低いにも関わらずDFP存在率は約2倍に上ることが明らかとなった。今後,この縦断調査を継続し,足部痛ならびに足部痛による能力障害発生の関連要因を精査し,足部痛を起点とする要介護発生の実態を明らかにするとともにその予防策を解明したい。を行われた同様の調査に比べて,本邦の高齢者の足部障害存在率が高いことが明らかとなった。今後,この縦断調査を継続し,足部痛ならびに足部痛による能力障害発生の関連要因を精査し,足部痛を起点とする要介護発生の実態を明らかにするとともにその予防策を解明したい。【理学療法学研究としての意義】本研究は,地域在住高齢者に存在する足部痛とDFPの実態を調べた我が国初の疫学調査であり,運動器痛による高齢者の生活機能低下を予防する効果的な理学療法的介入手法を確立するうえで極めて重要な基礎資料を提供するものである。
  • 内藤 幾愛, 斉藤 秀之, 柳 久子, 田中 直樹, 金森 毅繁, 長澤 俊郎, 小関 迪
    セッションID: 0313
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】公益財団法人日本医療機能評価機構の医療事故情報収集等事業において,2007年年報で初めて「リハビリテーションに関連した医療事故」を取り上げ,19事例が報告された。2011年には竹内が1施設の42件のアクシデントについて報告した。今日までの報告は,内容の分類項目が統一されておらず,インシデントの影響度も明記されていないものが大多数である。鮎澤は,リスクマネジメントは科学的であり,事故の現状や傾向をデータとして把握し,エビデンスに基づいた再発防止策の策定を提唱している。当院リハビリテーション部においても,多種多様なインシデントが発生しているが,過去のインシデントから系統的な対策を講じるまでに至ってない。そこで,本研究の目的は,理学療法士による重大事故の予防の一助とするため,インシデント報告書の内容を分析して,影響度分類と内容の傾向を明らかにすることとした。【方法】資料は,リハビリテーション部の日報と連結不可能匿名化された入院部門の理学療法士によるインシデント報告書を用いた。対象は,2008年4月1日から2013年3月31日の期間に発生したインシデントとした。当院は,介護老人保健施設と健康増進施設を併設しており,リハビリテーション部の職員は病院の入院部門と外来部門,介護老人保健施設,健康増進施設にそれぞれ配属され,毎年6月と12月に人事異動を行うローテートシステムをとっている。日報から,各ローテート期間の入院部門における理学療法士の配属人数と診療件数を抽出し,5年間の累計人数から理学療法士の各経験年数の割合を算出した。報告書からは,経験年数,発生内容,発生日時,発生場所を抽出して,記述統計を行った。全てのインシデント報告書の内容について国立大学付属病院医療安全管理協議会の定める影響度分類を用いて分類を行い,患者に何らかの傷害を与えたとされるレベル2以上を対象として,内容の分類を行った。分類項目は,リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドラインに明記されている“リハビリテーション中に起こりうるアクシデント”11項目に,「その他」を追加した全12項目とした。また,1事例に対する複数の報告を1件とみなし,発生件数をもとめた。さらに,レベル2以上のインシデント件数を延べ理学療法診療件数で除し,インシデント発生率を算出した。【倫理的配慮】本研究は筑波大学医の倫理委員会にて承認を得ている(第730号)。【結果】入院部門の理学療法士数は,5年間の平均で76.3±9.9人であった。経験年数別の割合は,1年目26.0%,2年目22.9%,3年目15.7%,4年目8.3%,5年目8.4%,6年目以上18.7%であった。総報告件数は182件であり,発生件数は172件であった。総報告件数182件における影響度分類の結果は,レベル0が24件,レベル1が52件,レベル2が61件,レベル3aが44件,レベル3bが1件であった。レベル2以上の報告には,重複報告は認めなかった。内容分類別の件数は,第1位が「転倒・転落・打撲・その他の外傷」66件,第2位が「接続チューブのはずれ」14件,第3位が「誤嚥・悪心・嘔吐」12件であった。「転倒・転落・打撲・その他の外傷」の内訳は,転倒・転落が42件,皮膚損傷が19件であった。転倒・転落の発生状況は,歩行練習中が42.9%,次いで移乗動作中14.3%であり,発生場所は病棟とリハビリテーション室ともに40.5%であった。皮膚損傷の発生状況は,移乗動作が73.7%であり,発生場所は病棟が78.9%を占めた。また,5年間の延べ理学療法診療件数は,436,682件であり,レベル2以上のインシデント発生率は0.02%であった。【考察】医療事故情報等事業では,2009年1月から2013年3月の入院患者における理学療法士による報告は88件あり,レベル2以上は68件であった。そのうち,「転倒・転落・打撲・その他の外傷」は52件で第1位であり,今回の結果もこれを支持する結果であった。当院のリハビリテーション部では,病棟での移乗動作に伴う転倒・転落や皮膚損傷の発生リスクが高いことが推察され,予防のためにも臨床教育として十分に配慮が必要であると考えられる。また,理学療法の実施に伴うインシデント発生率は,理学療法の安全管理に関する研究を行う上で,1つの指標となり得るのではないかと考える。本研究の限界は,1施設のデータであることと,個人がインシデント報告を怠っている可能性である。【理学療法学研究としての意義】理学療法士によるインシデントの内容や発生状況を明らかにすることは,重大事故の発生予防や技能教育内容を構築する一助となり,理学療法の安全性を向上させるためには重要と考える。
  • 内容,影響度,経験年数に着目して
    竹内 伸行, 山本 由子, 三浦 麻里恵
    セッションID: 0314
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】理学療法中に生じるアクシデントの内容は多岐にわたる。発生要因も複雑であるが,その一つに業務経験がある。我々はアクシデントの発生頻度と理学療法士の経験年数の関連性を報告した(2011)が,アクシデントのレベルや内容の違いを含めた詳細は未検討であった。本研究は,H総合病院理学療法部門(以下,当院)で生じたアクシデント事例を分析し,経験年数とアクシデントレベルの関連性および発生件数の関連性を明らかにすると共に,内容の違いによるアクシデントレベル,経験年数の差を明らかにすることを目的に行った。【方法】2006年9月から2013年6月の82か月間に当院で生じたアクシデント事例57件を対象とし,提出されたアクシデントレポートを後方視的に分析した。予備検討で類似内容毎に分類した結果,転倒および転落(以下,転倒等),他物への接触(以下,接触等),カテーテルの接続部外れや抜去(以下,抜去等),その他の4群に分けられた。その他の事例は,運動療法中の踵骨骨折と尿バッグ損傷による着衣汚損の2例であった。全例のアクシデントレベルを国立大学附属病院医療安全管理協議会の影響度分類(以下,影響度)で評価した。さらに関与した理学療法士の経験年数を抽出した。影響度分類は8段階の指標で,レベル0は「エラーなどがみられたが患者に実施されなかった」,レベル1は「患者の実害なし」,レベル2は「処置や治療は行わなかった」,レベル3aは「簡単な処置や治療を要した」,レベル3bは「濃厚な処置や治療を要した」,レベル4aは「傷害や後遺症が残ったが機能障害は伴わなかった」,レベル4bは「傷害や後遺症が残り機能障害が伴った」,レベル5は「死亡」である。この分類は順序尺度のためレベル0を0,1を1,2を2,3aを3,3bを4,4aを5,4bを6,5を7とスコア化して処理した。全例の経験年数と影響度および発生件数の関連性をスピアマン順位相関係数(rs)にて検討した。その他以外の3群に対して,内容の違いによる影響度および経験年数の差をKruskal-Wallis検定と多重比較検定(Steel-Dwass法)で検討した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮】本研究はH総合病院倫理委員会の承認を得て実施した。また全事例は関与した理学療法士や患者が特定できないように連結不可能匿名化して処理した。【結果】アクシデントの内容は,転倒等が28件49.2%,接触等が17件29.8%,抜去等が10件17.5%,その他が2件3.5%であった。関与した理学療法士の平均経験年数は全体が3.6±2.4年,転倒等が4.0±2.3年,接触等が3.3±2.1年,抜去等が2.6±2.3年であった。影響度は,転倒等はレベル1が16件57.1%,レベル2が11件39.3%,レベル3bが1件3.6%,接触等はレベル2が2件11.8%,レベル3aが15件88.2%,抜去等はレベル3aが10件100%,その他はレベル2が1件50%,レベル3bが1件50%であった。全体の経験年数と発生件数の間に強い負の相関(rs=-0.91)を認め,経験年数と影響度との間には弱い負の相関(rs=-0.24)を認めた。Kruskal-Wallis検定の結果,その他を除いた3群間に経験年数の差は認めなかった。一方,影響度は群間差(p<0.01)を認め,多重比較検定の結果,転倒等に対して接触等と抜去等の影響度が有意に高値を示した(共にp<0.01)。【考察】経験が長いほどアクシデント発生頻度は減少することが示されたが,我々の報告(2011),内藤ら(2013)の報告を支持する結果であった。また,アクシデント内容の違いによる経験年数の差はないこと,加えて,経験年数と影響度の関連性は弱いことが示唆された。一方,内容の違いにより影響度の差を認め,転倒等に比して接触等および抜去等の影響度が有意に高値であった。転倒等の96.4%がレベル2以下だったのに対し,接触等の88.2%,抜去等の100%がレベル3aであった。要因として,1)点滴針等の抜去は出血を伴い処置や治療を要するレベルが多いが,転倒等は幅広いレベルが生じている,2)接触等はアクシデントの基準が曖昧で,処置や治療が不要な事例はレポート提出されていない可能性がある,3)転倒は「意図せずに足底以外が床面に接触した場合」のような定義が認識されており,アクシデントレベルが低くてもレポートが提出されやすい,などが考えられた。これらは理学療法で生じた事例を蓄積,分析する上で重要な知見であると思われた。また,本研究で用いた影響度分類は,理学療法のアクシデントレベルを適切に分類できない可能性があるため,理学療法に適した新たな分類尺度の必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】理学療法の安全に関する報告は他職種に比べ非常に少ない。本研究は,理学療法のリスク管理上,重要な知見であると考えられた。また本研究結果から理学療法に適したアクシデントレベルの分類の必要性が示唆された。
  • 桑島 泰輔, 根本 敬
    セッションID: 0315
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】当院は2012年10月に日本の病院で4番目にJoint Commission International(以下JCI)を取得することが出来た。これはアメリカの病院機能評価のJoint Commissionの世界版であり,ここ数年で各国の主要な病院が取得するようになってきており,本邦でもそのような動きが出てきている。評価項目は大きく分けると,患者安全(IPSG),や施設管理(FMS),感染予防(PCI),患者家族教育(PFE)など14カテゴリーに分かれ,また小項目は1000以上になり,実際に病院を視察した審査員の評価により8割以上の項目を実施していないと認証されない厳しい基準である。また更新は3年毎となる。JCI取得に当たり,当リハビリテーション科においても感染予防や施設管理を中心に大きな改編を実施した。今回取得後約一年を経過した当科におして,JCI取得前後で変化した点を分析した。【方法】当科職員に対してアンケート調査を実施した。アンケートの質問は以下の通りであり,それぞれJCI取得前後での変化点があるかどうかを5段階評価で回答してもらった。質問の内容は①JCIの取得は良かったか②病院の変化③リハビリテーション科の変化④勤務状況の変化について聞き,次に審査項目の14カテゴリーの中で当科に関わりの強かったカテゴリーの⑤IPSG⑥PCI⑦PFE⑧FMS⑨診療の手順(AOP)⑩診療の質(QPS)についての質問をした。また,JCIの審査項目に関わる事として,リハビリテーションの実施状況や,医療安全の報告から客観的に分析できるデータを抽出し,院内の感染発生率,転倒・転落率等をチェックし,JCIによって変化した点を調査した。【倫理的配慮,説明と同意】本調査にあたっては,個人が特定できない調査システムや使用目的を記し,調査目的を理解した上で,協力を求め,研究倫理には十分配慮した。【結果】アンケート対象は当科職員47名(男性27名 女性20名)であった。アンケートの結果はまず75%のスタッフがJCIを取得して良かったと回答し,リハビリテーション科の変化に関しては,73%が良くなったと回答していた。反面,勤務状況が改善されたと回答した割合は10%と低かった。カテゴリー別の質問に関しては,感染予防(手洗いの徹底,感染患者の識別等)が改善されたと回答したスタッフが87%と最も多く,次に患者安全(患者確認・口頭指示の処理の仕方・転倒転落予防等)と施設管理(整理・整頓や防災面)の項目がともに75%のスタッフが改善されたと回答していた。また患者家族教育(退院時リハビリ指導等)に関して改善されたと答えたのは59%,診療の手順(カルテ記載の仕方等)が良くなったと答えたのは55%,診療の質の変化に関して良くなったと答えたのは47%であった。【考察】今回JCI取得後のスタッフの意識調査を実施した。多くのスタッフからJCI取得に関しては良かったとの評価を得ることが出来た。カテゴリー別では,最も回答の良かった感染予防に関しては感染予防委員会からJCI所得後は取得以前に比べ,院内の感染発生率が1.4%低くなっているという報告があり,客観的なデータが出ている。また良くなったとの回答があまり高くはなかった患者教育ではあったが,関連事項として,JCI認証前に比べ退院時リハビリ指導の取得率が1.6倍に増加していた。これは認証前にはなかったルールやマニュアルを作成する事により,業務改善の効果が得られたものと考える。反面,勤務状況が良くなったとの回答が低かった。JCIでは,清掃業務や器機管理の面で日々実践しなければならない。それにより診療以外の仕事量が増加したのも事実であり,今後改善が求められるところである。またJCIは3年毎の更新が必要で,更新時は審査が厳しくなっていくと言われている。そのためJCIで決められたことを日々継続的に実践していくようにスタッフ教育も重要になっていく。【理学療法学研究としての意義】JCI取得にあたっては,リハビリテーション科の器機管理や理学療法の業務マニュアルにおいて大きな変更を迫られる。そこで取得するメリットを提示することは重要であろう。本研究ではJCI取得のメリットをスタッフの認識の変化を中心に提示できた。
  • 山野 薫, 奥 壽郎, 秋山 純和
    セッションID: 0316
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】本邦の理学療法士(PT)の年齢構成は,若年層が多い「富士山型」となっている。「富士山型」の裾野に位置する若年層のPTから,「呼吸器,循環器,泌尿器等に不全を持った対象者も多く,理学療法を実施する際にリスクマネジメント(RM)に対して不安がある」といった声を聞く。また,PT数の増加は経験年数に伴うRMに対する意識の個人差も発生する。本研究では,「理学療法を実施する上での不安」と「職場の規則やシステムの不安」についての調査を行い,その回答から理学療法業務におけるリスクマネジメントとそれに関する不安について整理したので報告する。【方法】対象は,(社)日本理学療法士協会会員で,兵庫県・長崎県・大分県で開催された各研修会に参加した50名・34名・70名の合計154名(男性105名,女性49名,平均年齢30.3±8.2歳)とした。自記式の質問紙法とし,調査項目は(1)勤務先の設置母体と規模,(2)理学療法部門の構成,(3)理学療法を実施する上での不安,(4)職場の規則やシステムの不安とした。(3),および(4)の回答は,複数の選択肢の中から重要と判断した順に3位までを選択させた。分析は,山田らの先行研究をもとに,対象全体を便宜上経験年数10年目未満(若年群)と10年目以上(経験群)に分類し,F検定,t検定,χ2検定を行い,両群を比較検討した。なお,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮】研究は,個人情報保護法を遵守した。対象者には,口頭と書面にて研究の趣旨を説明し同意を得た。参加は個人の自由であることを説明した。さらに,兵庫県士会,長崎県士会,大分県士会に研究実施の了承を得た。【結果】若年群は104名(平均年齢:26.1±4.9歳,勤務先平均PT人数:13.0±10.8人)で,勤務先は病院84%,診療所9%,介護老人保健施設4%,その他3%の順であった。経験群は50名(平均年齢:39.0±6.6歳,勤務先平均PT人数:10.4±15.1人)で,勤務先は病院64%,介護老人保健施設16%,診療所10%,その他10%の順であった。理学療法を実施する上の不安で,若年群の第1位は「自分の評価や治療に自信がない」41名(39.4%),第2位は「経験のない疾患の担当」14名(29.8%),第3位は「患者の急変」13名(12.5%)の順であった。一方,経験群の第1位は「経験のない疾患の担当」14名(28.0%),第2位は「患者の急変」14名(26.0%),第3位は「バイタルサインの見落とし」6名(12.0%)の順で,「不安なし」も3名(2.9%)いた。特に,「自分の評価や治療に自信がない」,「患者の急変」を各第1位に選択した者とそれ以外の順位にした者を両群で比較したところ,各有意差を認めた(p<0.01,p<0.05)。一方,職場の規則やシステムにおける不安で,若年群の第1位は「緊急時の組織の一員としての動き」35名(33.7%),第2位「臨床検査結果や心電図などの利用」8名(20.2%),第3位は「部門における中止基準の未設定」15名(14.4%)の順であった。一方,経験群の第1位は「臨床検査結果や心電図の利用」14名(28.0%),第2位は「緊急時の組織の一員としての動き」13名(26.0%),第3位は「部門における中止基準の未設定」6名(12.0%)の順で,「不安なし」も6名(12.0%)いた。【考察】まず,両群の平均年齢の有意差を認めたが,勤務先の分散と勤務先平均PT人数には有意差を認めなかったことから,比較検討に値する分類と考えられた。第一に,理学療法を実施する上での不安は,若年群は経験群に比較して,PTとしての知識や技術的な部分に不安を示していることが分かった。一方,職場の規則やシステムにおける不安では,各選択肢について第1位に選んだ者とそれ以外の順位にした者の間に有意差が認めなかったことから,職場の組織的な課題よりもPT個人としての知識や技術的領域に関心が高いことが窺えた。また,経験群においても「経験のない疾患の担当」や「患者の急変」を不安要素に挙げたことは,理学療法の対象領域の拡大により,RMがより複雑多岐になっているものと推察された。PT個人の評価や治療技術の不安は,1対1の治療形態の多いPT業務の特徴が考えられる。第二に,職場の規則やシステムの不安については,両群ともに「緊急時の組織の一員としての動き」と「臨床検査結果や心電図の利用」が上位に挙がっており,いずれも部門のリーダーを中心とした管理運営システムの見直しや整備,また他部門との調整が必要であり,その周知が望まれる。【理学療法学研究としての意義】理学療法のRMは,PTの技量を向上させる個人の努力と安定した職場システムの両者によって提供される。本研究によって,理学療法における個人と組織が持つ不安の整理でき,今後増加する若年層PTの卒後教育の手掛かりとすることができる。
  • 一般社団法人愛知県理学療法士会会員の実態調査
    寺本 圭佑, 壹岐 英正, 山下 陸視, 籾山 康平, 青木 麻莉, 西山 知佐
    セッションID: 0317
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年新規学卒者の離職率が高いことが社会問題となっており,大卒者においては入社後3年目以内に30%以上が退職していると厚生労働省の調査によって報告されている。理学療法士も急速な増加に伴い,各施設において経験年数が浅く,そして若い理学療法士が大半を占めている現状がある。今後もこのような傾向は続くことが予想され,理学療法士にとってやりがいがあり,働きやすい職場環境を整えていく必要性が増してきている。今回一般社団法人愛知県理学療法士会白書委員会が,会員の処遇などの現状を把握するために調査を行った。その中で理学療法士にとって魅力ある職場の条件について若干の知見を得たため報告する。【方法】調査対象は平成24年8月1日現在,一般社団法人愛知県理学療法士会に入会している理学療法士4239名とし,インターネットによるアンケート調査を行った。回答は単一選択および多肢選択を用い無記名式で行った。調査項目は,対象の属性として性別や年齢,経験年数等,魅力ある職場の条件として退職の有無や退職理由などとした。また分析には単純集計およびクロス集計を行った。【倫理的配慮,説明と同意】対象者にはアンケート開始時に今回の調査の趣旨と対象者に不利益を与えない旨を記載した画面を掲示し,回答があったものは同意があったものとみなした。【結果】回答数は512名で回収率は12.1%であった。年齢の内訳は,20歳代50%,30歳代29%と若い世代の回答を多く得た。魅力ある職場の条件については,「職場の人間関係が良い」が最多であり,続いて「魅力のある上司がいる」,「将来性がある」,「労働条件が良い」という結果になった。性別によるクロス集計では男性,女性ともに,「職場の人間関係が良い」が最多であった。男性では,「魅力のある上司がいる」,「将来性がある」と続き,女性では,「有給休暇がとりやすい」,「出産,育児に理解がある」が上位に入るという結果になった。【考察】魅力ある職場の条件として全般的に職場の雰囲気や働きやすさを重視していると考えられる。男性は将来性,教育面など,女性は有給休暇や出産,育児に関する項目に多く回答を得た。これは退職理由の結果において,男性では仕事の質の向上ややりがいの問題が,女性では人間関係の問題が多かったが出産や育児に関しては少ない傾向がみられたことからも裏付けられる。また自由記載の意見において,産休中は施設基準を満たせないことに対する対策を求める記載もあった。魅力ある職場に向けて各職場や制度に対する対応も必要である。魅力ある職場を目指すには,専門職である理学療法士として仕事に対する向上心ややりがいを求める一方,女性にとって育児休暇や有給休暇の取得など,職場や制度の対応が大きく影響してくるのでないかと思われる。【理学療法学研究としての意義】理学療法士にとって魅力ある職場とは,第一に人間関係が良いことが挙げられ,男性では仕事の質向上ややりがいが,女性では育児,出産に対して不安や心配の少ない職場であることがわかった。今回の結果は,若年者が多い職場の管理運営を行う上で,離職率の減少および働きやすい場を作るために有用である。
  • 下谷 聡
    セッションID: 0318
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】一般的に変形性膝関節症(以下,膝OA)患者では,大腿四頭筋筋力が低下するとされており,谷口ら(2012)は膝OA患者では内側広筋,大腿直筋の筋量が低下することを指摘している。過去に我々は,健常前期高齢者の下肢骨格筋量(以下,LMV)と等速性膝関節伸展筋力(以下,膝伸展筋力)との間に相関があると報告した。また,福永ら(2000)は,中高年者の大腿四頭筋筋量(以下,QMV)と膝伸展筋力に強い相関があると報告した。しかしながら,膝OA患者を対象としたLMV,QMVと膝伸展筋力との関係について言及された報告は,我々の渉猟しうる限りない。そこで今回我々は,膝OA患者のLMV,QMVと膝伸展筋力との関係について検討したので報告する。【方法】対象は膝OA患者の女性29名49肢(Kellgren-Lawrence分類Grade1:1名1肢,Grade2:9名13肢,Grade3:16名19肢,Grade4:11名16肢)とした。LMVはTANITA社製体組成計BC-118Eを用いて8電極BIA法で得られたデータをもとに算出した。QMVの算出には,まず超音波法にて大腿四頭筋筋厚を測定した。大腿四頭筋筋厚は,安静背臥位にて大転子から膝関節裂隙までの距離を大腿長として,遠位50%の大腿直上を測定した。測定で得られた大腿四頭筋筋厚と大腿長をMiyataniら(2002)の推定式:[π×(筋厚/2)2×大腿長]×0.7839+610.948に代入してQMVを算出した。膝伸展筋力の測定は,Cybex Normを用いて60deg/secのピークトルクを評価値とした。統計学的処理は,体重当たりのLMV(以下,LMV/BW)と体重当たりの膝伸展筋力,体重当たりのQMV(以下,QMV/BW)と体重当たりの膝伸展筋力それぞれの関係について,Pearsonの積率相関係数を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には実験に先立ち,ヘルシンキ宣言の基本原則および追加原則を鑑み被検者に対して本研究の目的および実験への参加に伴う危険性についての十分な説明を行い,実験参加の同意を得た。【結果】LMVは6.6±0.7kg,LMV/BWは11.6±1.1kg/kg,QMVは785.8±65.7 cm3,QMV/BWは13.8±1.5 cm3/kgであった。膝伸展筋力は63.2±14.6Nm,体重当たりの膝伸展筋力は111.7±30.6Nm/kgであった。LMV/BWと体重当たりの膝伸展筋力(r=0.42),QMV/BWと体重当たりの膝伸展筋力(r=0.54)の間にはともに有意な中等度の正の相関を認めた(p<0.01)。【考察】今回,LMVの測定に用いたインピーダンス法は,身体の電気抵抗値から体組成を推定する方法である。インピーダンス法は,簡便に測定可能だが,室温,測定の時間帯,飲食や睡眠前後といった条件による日内変動や,身長,体重,体脂肪や脱水状態といった日間変動,また年齢により算出に用いられる推定式が決まっており,条件が多岐にわたる。このため,他者との比較や経時的な比較を行う際には条件設定に十分に配慮する必要がある。過去に我々は,膝OA患者においてGradeの進行とインピーダンス法で求めたLMVは正の相関を示し,Gradeの進行と膝伸展筋力は負の相関を示すと報告した。また栗生田ら(2002)は,Gradeが進行するにつれBMIが高くなると報告した。膝OA患者を対象とするインピーダンス法では,Gradeが進行するにつれ体重が増加する傾向があり,それに伴った下肢筋量の増加によりLMVが過大評価される恐れがある。このため,今回はLMVの実測値ではなく,膝OA患者の体重あたりのLMVを求め,体重による影響を可能な限り除外した。しかしながら,LMVは,下肢全体の筋量の評価となる点には注意が必要である。一方,QMV測定は,大腿四頭筋個別の評価を可能とする方法である。これまでMRI法やCT法など多くの報告がされているが,いずれの方法も侵襲的であり,場所が限定され,非常に高価という問題が挙げられる。これに対して,今回用いた超音波法は,技術の習得が必要ではあるが,比較的安価で非侵襲的であり,測定機器の移動が可能であるため場所を選ばず,即時的にQMVの評価が可能である。ここで,今回の結果を見てみると,QMV/BWと体重当たりの膝伸展筋力との間には,LMV/BWと体重当たりの膝伸展筋力との関係と比較してより高い相関を示した。したがって,インピーダンス法で求めたLMV/BWと比較して,超音波法で求めたQMV/BWを用いることで膝OA患者における筋量と膝伸展筋力の関係をより詳細に検討することが可能になると考えた。【理学療法学研究としての意義】今回の検討から,膝OA患者に対するインピーダンス法を用いたLMVの評価と比較して,超音波法を用いたQMVの評価により,膝伸展筋力との関係を詳細に検討できることが示唆され,理学療法研究として意義があると考えた。
  • 瓜谷 大輔, 福本 貴彦, 福西 優, 明道 知己
    セッションID: 0319
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】変形性膝関節症(以下,膝OA)患者の歩行を観察すると,歩行時に足趾が十分に接地しておらず,機能していない症例がみられることがある。膝OA患者の足趾握力低下についてはいくつか報告があるが,両者の関係については明らかではない。そこで本研究の目的は膝OAと足趾握力との関係を検証することとした。【方法】対象は膝OA患者78名(OA群,男性12名,女性66名,平均年齢73.5±7.3歳)および健康な地域在住者67名(対照群,男性13名,女性54名,平均年齢72.5±5.5歳)とした。OA群はKellgren-Lawrence分類でgrade 2が8名,grade 3が32名,grade 4が38名であった。対照群は膝に著明な変形や痛みを有せず,独歩で外出が可能な者とした。測定項目はBMI,足趾握力,等尺性膝伸展筋力(以下,膝伸展筋力)とした。足趾握力は足趾筋力測定器(TKK3365,竹井機器工業)を,膝伸展筋力はハンドヘルドダイナモメータ(μTASF-1,アニマ)を用いて測定した。各筋力は2回測定し,その平均値を採用した。OA群は患側のデータ,対照群は利き足をボールを蹴る側として同定し,非利き足側のデータを使用した。得られたデータは対応のないt検定で2群間を比較した。また各群を従属変数とし(対照群=0,OA群=1),年齢,性別(男性=0,女性=1),BMI,足趾握力,膝伸展筋力を独立変数として,多重ロジスティック回帰分析を尤度比検定による変数増加法を用いて行った。統計解析にはIBM SPSS Statistics 20を使用した。有意水準は5%未満とした。なお本研究はJSPS科研費25870971の助成を受けて実施した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は某大学研究倫理委員会の承認を得て実施した。被験者には事前に研究に関する説明を行い,署名による同意を得た。【結果】対照群に対してOA群は,BMI(対照群;21.7±2.6,OA群;25.5±3.5)が有意に高値で(p<0.01),足趾握力(同11.6±5.2kg,7.4±4.2kg)と膝伸展筋力(同26.8±7.5kg,15.3±6.9kg)が有意に低値であった(各p<0.01)。多重ロジスティック回帰分析では,性別(オッズ比0.04,95%信頼区間0.01-0.31,p<0.01),BMI(同1.98,1.49-2.63,p<0.01)と膝伸展筋力(同0.71,0.63-0.80,p<0.01)が選択された。判別的中率は90.9%であった。【考察】本研究の結果,OA群では対照群と比較して足趾握力が有意に低下していた。今回の結果から因果関係は明らかにできないが,足趾握力が低下し足趾の接地や蹴りだしが十分に行えなくなることで,膝への機械的なストレスが増強し退行変性を促している可能性が考えられた。一方,膝OAに伴う痛みや可動域制限などによって活動量が減少し,足趾握力の筋力低下が生じている可能性も考えられた。またOA群は対照群よりも有意に過体重で,膝伸展筋力の有意な低下が認められ,多重ロジスティック回帰分析の結果からは性別,BMI,膝伸展筋力がOAに影響を与える要因として選択された。この結果は,従来報告されている知見と一致するものであった。足趾握力についてもOA群で有意に低下していたが,本研究では膝OAと有意な関連要因としては選択されなかった。その理由としてOA群内での重症度の偏りや膝OA発症からの経過の影響が考えられた。OA群は78名中71名が全人工膝関節置換術目的の入院患者で,重症度の内訳はgrade 4が48.7%であったのに対し,grade 2は10.3%であったことから,重症例が多かったと考えられる。さらに手術目的であった対象者は発症から長期間経過していることも予測され,その間の活動性の低下や痛みの増強による膝伸展筋力低下が著明であったため,今回の結果に影響している可能性があると考えた。またBMIについても活動性の低下による体重の増加が影響している可能性があると考えた。一方,対照群は自治体主催の健康関連イベントに来場した者であったため,普段から健康への意識が高く,日常的に活動量の多い者が含まれていた可能性がある。ゆえに膝伸展筋力が高値で,体重が適性に維持されておりBMIが低値を示していたのではないかと考えた。そしてこの両群の特徴の違いが,BMIと膝伸展筋力が結果により強く影響する原因となったのではないかと考えた。【理学療法学研究としての意義】本研究は膝OAへの影響要因を明らかにし,膝OA患者の予後予測や新たな理学療法プログラムの確立,発症予防に関する研究へと発展させるための最初のステップとして実施した研究である。足趾機能の低下は膝への機械的ストレスを変化させると考えられるため,今後は対象者のバリエーションを増やしつつ,足趾握力と重症度,アライメント,痛み,能力障害との関係の解明を縦断研究,介入研究も通じて調査していく予定である。
  • 小山 優美子, 建内 宏重, 齊田 高介, 季 翔, 梅垣 雄心, 西村 里穂, 小林 政史, 市橋 則明
    セッションID: 0320
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】変形性膝関節症(以下,膝OA)は退行性に生じる膝関節軟骨の変性であり,主たる症状として関節の変形や可動域制限を来す。先行研究にて膝OA患者の矢状面,前額面における膝関節運動の変化については数多く報告されているが,水平面上の運動を観察した研究は少ない。正常な構造を持つ膝関節では,大腿骨の形状や靭帯の緊張などの解剖学的特徴によって,screw home movement(以下,SHM)と言われる脛骨の外旋が膝伸展運動に伴い起こるとされている。一方で,臨床においては膝OA患者のSHMは関節の変形や,関節周囲組織の変性,疼痛などによって健常者とは異なる様相を示すと考えられている。しかし,膝OA患者の生体運動にてこのSHMを観察した研究は少なく,また実際の患者で観察された膝回旋運動の変化と,それに関連する因子を明らかにした報告はない。そこで本研究の目的は,膝OA患者を対象に自動膝関節伸展運動時の膝回旋運動を分析し,伸展運動に伴う膝関節外旋変位量と関連する因子を検討することとした。【方法】対象は地域在住の内側型変形性膝関節症患者18名(男性3名,女性15名,平均年齢66.3±7.9歳)とし,両側膝OAの場合はより症状の強い方を測定下肢とした。動作課題は,端座位での膝関節自動伸展運動とし,メトロノームを使用し角速度を45°/secに規定して3回の動作を行った。動作解析には三次元動作解析装置VICON NEXUS(VICON社製)を使用し,Andriacchiらが考案したPoint Cluster法に基づき測定下肢に21箇所の反射マーカーを貼付した。全対象者で運動可能であった膝関節屈曲70~10°における膝関節外旋角度の変位量を各試行で算出し,3試行の平均値を統計解析に用いた。動作分析に加え,日常生活活動中の膝関節痛の程度をVisual Analog Scale(以下,VAS)を用いて聴取し,X線画像情報をもとにKellgren-Lawrence分類による重症度及びfemorotibial angle(以下,FTA)を収集した。さらに,他動膝関節屈曲及び伸展可動域を同一の検者によってゴニオメータで測り,最大等尺性膝伸展筋力をIso-force GT330(オージー技研社製)を用いて計測し,それぞれ解析に用いた。統計解析にはまず膝OAの重症度と膝関節の外旋変位量の関連を検討するため,重症度を要因とし外旋変位量を従属変数とする一元配置分散分析を行った。さらに,外旋角度変位量と関連する因子の特定のため,膝関節伸展筋力,膝屈曲可動域,膝伸展可動域,年齢,VAS,FTAを独立変数とし,外旋角度変位量を従属変数とする重回帰分析(ステップワイズ法)を行った。有意水準は5%とした。【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,所属施設の倫理委員会の承認を得た上で,対象者には測定に際して研究の主旨について十分な説明を行った。【結果】全対象者における膝関節外旋変位量は4.0±4.4°であった。重症度による外旋変位量の相違は認められなかった。重回帰分析の結果,外旋変位量と年齢にのみ有意な因果関係が見られた(標準偏回帰係数β=0.541,p<0.05)。【考察】膝OA患者においては,年齢が高い程,自動膝伸展運動時の膝関節外旋変位量は大きい結果となった。過去の報告においても,加齢による筋や靭帯の張力の低下によって関節運動が変化することが言われており,本研究でも加齢による膝関節周囲組織の変性がSHMの変化に関与していることが考えられた。一方で,SHMの変化は関節拘縮や筋力低下といった膝OAの病態とは関連せずに独立して生じる現象であると考えられた。しかし,関節変形の程度とは関連がないものの,健常者を対象として同様の動作を行った先行研究と比較すると,本研究で観察された外旋変位量は少ないものであり,膝OAに由来する関節の構造の変化もまた,SHMに影響を与えている可能性がある。また,本研究では非荷重位での動作にて観察を行ったため,膝関節回旋運動は近位関節あるいは遠位関節からの運動連鎖の影響を受けない。荷重位においては加齢や関節の変形だけでなく,他関節の運動連鎖の影響がSHMを変化させる可能性があるため,今後膝OA患者の荷重位におけるSHMも評価する必要があると考えられた。【理学療法研究としての意義】本研究結果より,膝OA患者において非荷重位での膝関節伸展運動時の膝関節回旋可動域は,加齢による影響を受けることが明らかとなった。これは膝OA患者の関節可動域制限の評価,治療を行う上で臨床上有用な知見となり得る。
  • 小栢 進也, 岩田 晃, 樋口 由美, 淵岡 聡
    セッションID: 0321
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】変形性膝関節症の機能障害は骨棘の形成や関節液の貯留などによって生じると考えらえている。本邦の疫学調査より高齢者の約半数は変形性膝関節症を有すると報告されており,日常生活が自立していても変形性膝関節症を発症している高齢者は多い。これまでの研究では変形性膝関節症と診断されている患者が対象とされてきた。しかし,疾病予防という観点からは早期症状の原因を調べる必要がある。そこで,本実験では日常生活が自立している地域在住高齢者を対象として,膝の疼痛や膝関節機能に関連する要素を身体機能および超音波画像評価から検討した。【方法】対象は60歳以上の地域在住女性77名(年齢73.2±5.9歳)とした。日常生活に介助が必要な方および人工膝関節置換術後の方は除外した。過去10年以内に3か月以上続く膝の痛みを経験した者を痛みありとした。膝関節機能評価はWestern Ontario and McMaster Universities Arthritis Index(WOMAC)を用いた。WOMACは0~96点で評価する質問式評価尺度であり点数が高いほど状態が悪化していることを表す。超音波診断装置(Logiq Book XP)による撮像画像から膝関節の骨棘,膝蓋上嚢,外側広筋・中間広筋を撮像した。骨棘の測定は膝伸展位で内側裂隙,関節上嚢の測定は膝30°屈曲位にて膝蓋骨上縁,外側広筋及び中間広筋の筋厚測定は膝伸展位で上前腸骨棘と膝蓋骨上縁を結んだ線の遠位60%の位置から3cm外側部に超音波プローブをそれぞれあてて背臥位にて撮像した。超音波の画像解析にはImage Jを用い,超音波測定に関与せずかつ被験者の情報を得ていない検者が担当し,大腿骨骨棘の大きさ,膝蓋上嚢の厚さ,中間広筋・外側広筋の筋厚を測定した。身体機能の測定は膝伸展筋力,5m歩行時間,Timed up and go testを計測した。骨棘と膝蓋上嚢肥厚の影響を検討するため,骨棘なし・膝蓋上嚢肥厚なし(ノーマル群),骨棘あり・膝蓋上嚢肥厚なし(骨棘群),骨棘なし・膝蓋上嚢肥厚あり(膝蓋上嚢肥厚群),骨棘あり・膝蓋上嚢肥厚あり(骨棘・膝蓋上嚢肥厚群)の4群に分類し,一元配置分散分析および多重比較,ボンフェローニ補正カイ二乗検定を用いて比較した。【倫理的配慮,説明と同意】被験者には研究の内容を説明し,同意の下で実施した。なお,本研究は本学の研究倫理委員会で承認されている。【結果】ノーマル群24名,骨棘群11名,上嚢肥厚群20名,骨棘・上嚢肥厚群22名に分類された。痛みを有する者はノーマル群1/24名(4%),骨棘群1/11名(9%),膝蓋上嚢肥厚群3/20名(15%),骨棘・膝蓋上嚢肥厚群13/22名(59%)であり,骨棘・膝蓋上嚢肥厚群が他3群よりも有意に痛みを有する割合が高かった。また,WOMAC点数はノーマル群0.6±2.8点,骨棘群3.4±8.7点,膝蓋上嚢肥厚群1.4±4.2点,骨棘・膝蓋上嚢肥厚群8.9±12.9点で,骨棘・膝蓋上嚢肥厚群がノーマル群および膝蓋上嚢肥厚群よりも有意に高い点数であった。外側広筋・中間広筋の筋厚,膝伸展筋力,5m歩行時間,Timed up and go testには有意差を認めなかった。【考察】骨棘と膝蓋上嚢肥厚の両方を有している者に疼痛の発生および膝関節機能の低下が認められた。これまで骨棘や水腫が関節内構造体を圧迫して疼痛や機能障害を発生させると考えられてきたが,本研究のように機能障害が軽度の高齢者では,骨棘や関節水腫の貯留の両方が見られる場合に疼痛や機能障害が発生しやすいことがわかった。膝関節周囲の組織変形や炎症など複数の要素が関連して,疼痛や機能障害を発生させている可能性が高いと考えらえる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は早期の変形性膝関節症の臨床症状をとらえた研究であり,膝の疼痛や機能障害のメカニズムを解明する情報となりうる。
  • 変形性膝関節症患者を対象とした検討
    天尾 辰也, 古沢 俊祐, 橋川 拓史, 篠原 裕治, 寺門 淳, 大鳥 精司
    セッションID: 0322
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年QOLの重要性が認識されているが,疼痛はQOLを低下させる大きな要因となりうる。嶋津らが疼痛を定量的に評価する方法として開発した知覚・痛覚定量分析装置Pain Vision PS-2100(ニプロ株式会社)は,新しい疼痛評価として期待されている。我々は本学会において,下肢症状を有する腰部疾患患者39名に対して,疾患特異的QOL評価であるRDQと疼痛評価との関連性を報告した。その結果,RDQとPain Visionにより算出された痛み度には有意な相関を認めた。また,RDQとNumeric Rating Scale(以下NRS)にも有意な相関を認めた。これらの結果から,下肢痛を有する腰部疾患患者に対してPain Visionが有用であると考察した。腰部疾患由来の下肢症状は侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛が混在する例が多いのに対して,変形性膝関節症などの関節由来の疼痛は純粋な侵害受容性疼痛に分類される。そこで今回は,膝関節痛を有する変形性膝関節症患者を対象に,Pain Visionの有用性に関して調査した。【方法】変形性膝関節症患者37名(男性11名,女性26名,平均年齢60.7±13.8)とした。症状持続期間は16.1±35.2カ月であった。Kellgren-Lawrenceの分類(以下K-L)はgradeIが12名,gradeIIが15名,gradeIIIが7名,gradeIVが3名であった。それらの患者に対し,変形性膝関節症の疾患特異的QOL評価であるJapanese Knee Osteoarthritis Measure(以下JKOM),Pain Visionにより算出した痛み度,NRS,Range Of Motion(以下ROM)を調査した。Pain Visionの測定は,はじめに電極を前腕内側に装着し,最小感知電流値を測定した。次いで,対象者が感じている疼痛と電気刺激の平衡を感知した値から,痛み対応電流値を得た。これらの値から(痛み対応電流-最小感知電流)/最小感知電流×100の式に当てはめ痛み度を算出した。解析は,JKOMと各測定項目の関係をPearsonの相関係数にて検討した。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者に同意を得た上で測定した。【結果】それぞれの測定結果はJKOM 24.1±13.7点,NRS 4.1±2.5,痛み度193.1±179.9,ROMは屈曲140.3±8.9,伸展-2.9±4.0であった。JKOMとの相関係数はNRS(r=0.64),屈曲ROM(r=-0.62),伸展ROM(r=-0.45)でありそれぞれ有意な相関(p<0.01)を認めた。またJKOMとK-Lの相関係数はr=0.38であり有意な相関(p<0.05)を認めた。JKOMと痛み度の相関係数はr=-0.13であり相関は認めなかった。【考察】我々は本学会において,下肢症状を有する腰部疾患患者において疾患特異的QOL評価と痛み度の関連性を報告した。今回の変形性膝関節症患者を対象とした調査結果では,疾患特異的QOL評価であるJKOMと痛み度は相関を認めなかった。一方,JKOMと相関を認めた項目はNRS,屈曲ROM,伸展ROM,K-Lであった。Pain VisionはAβ線維とAδ線維を刺激すると言われている。変形性膝関節症のような関節原性の運動器の痛みは,障害組織の侵害受容器が機械的な刺激や炎症性発痛物質などに刺激をされて疼痛を生じる。また,器質的変化による軟骨下骨や半月板などに由来する疼痛は一次痛と二次痛を含んでいるのに対し,筋や靭帯,関節包などの軟部組織由来の疼痛はほとんどが二次痛である。この二次痛を受容するのはポリモーダル受容器であり,刺激伝達線維は主にC線維である。二次痛は局在が不明瞭であることや鈍い疼痛を感じる事を特徴としている。これらの事から,関節原性の疼痛は二次痛の関与が大きく,Aδ線維を刺激するPain Visionでは実際の疼痛を再現できなかった可能性が示唆された。よって,Pain Visionによる疼痛評価は関節原性の侵害受容性疼痛に対しての有用性は低いが,神経障害性疼痛に対してはQOLを反映した評価として有用な疼痛評価であると考えられる。本研究結果から,疼痛を正確に評価するためには,疼痛が神経障害性疼痛であるか,侵害受容性疼痛であるかによって,Pain Visionの適応を判断する必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】疼痛を正確にとらえる事は,治療の効果判定を行うために極めて重要な評価である。Pain Visionの有用性を検討する事は,効果的な理学療法プログラムを進めるための一助となると考えられる。
  • ~腱板修復術後早期の安全な可動域拡大にむけて~
    為沢 一弘, 小野 志操, 増田 一太, 伊藤 太祐, 立花 友里, 斎藤 太介, 一志 有香, 鈴木 千愛
    セッションID: 0323
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】腱板修復術後の症例では,疼痛の残存や再断裂が問題となることが多い。その要因として肩甲上腕関節(以下,GHJ)における拘縮や肩峰下インピンジメントがある。腱板修復術後のリハビリテーションにおいて,肩峰下インピンジメントに配慮した可動域練習を行うことは拘縮予防という観点から重要である。Sohierは肩関節の挙上角度が80°から120°で大結節が肩峰下を通過すると報告し,この範囲で肩峰下インピンジメントが生じやすいと述べている。術後早期の可動域練習において,大結節が肩峰下を通過する際に修復腱板に対する負荷が高まる可能性がある。しかしながら,大結節が肩峰下を通過する際のGHJにおける上肢挙上角度については不明な点が多い。腱板修復術後のリハビリテーションプロトコールは各施設によって異なっており,GHJの屈曲角度や外転角度の設定に統一した見解は得られていない。今回,臨床における他動可動域練習を想定し,用徒手的に肩甲骨を固定した状態でGHJの屈曲運動時と外転運動時に大結節が肩峰下を通過する上肢挙上角度を調べ,それぞれの角度に差があるかを検討した。【対象と方法】対象は,肩関節に整形外科疾患の既往がない健常人10名20肩(男性6名,女性4名)平均年齢22.5±6.5歳とした。対象の選定基準として,年齢は腱板断裂の可能性が低いとされる40歳未満とし,上肢挙上角度が160°以上可能であることと,Howkins testおよびNeer testが陰性であることとした。方法は,用徒手的に肩甲骨を固定した状態として,他動的に上肢を屈曲および外転させた。超音波画像診断装置を用いて,大結節が肩峰下を通過した時点での上肢挙上角度を計測した。上肢挙上角度の計測にはゴニオメーターを用い,超音波画像診断装置はEsaote社製MyLab25を用いた。超音波画像の描出方法は,プローブを短軸走査として大結節の上関節面と中関節面の移行部を確認し,大結節が肩峰の前方角の直下に来る位置に肩関節回旋角度を設定した。次に肩峰前方角と大結節の上関節面および中関節面の移行部を結ぶ線上にプローブを長軸走査とし,その延長線上で屈曲運動と外転運動をそれぞれ行った。屈曲と外転の運動を被験者1人につき3回ずつ順番をランダマイズして行い,各平均値を上肢屈曲角度および上肢外転角度の測定値とした。統計学的検定はWilcoxon符合順位和検定を行い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究を行うに際して,ヘルシンキ条約に基づき,被験者に対して研究の趣旨と意義を十分に説明した上で同意を得た。【結果】大結節が肩峰下を通過する上肢屈曲角度は68.2±4.5°であり,上肢外転角度は57.1±4.9°であった。Wilcoxon符号順位和検定による比較では,両群間に有意差が見られ,上肢屈曲角度が上肢外転角度に対して有意に大きかった(P<0.0001)。【考察】肩関節運動時の大結節が肩峰下を通過する方向についてSohierは,屈曲方向のAnterior passと外転方向のPostero-lateral passが存在すると報告している。また,肩峰下を通過する角度をrotational glideとして,上肢挙上80°から120°の範囲で大結節が肩峰下を通過するとし,一般に肩関節運動時の基礎的なデータとして参考とされている。本研究の結果はSohierの報告と比較して,屈曲角度,外転角度ともに低値となった。これは肩甲骨を用徒手的に固定したことでGHJでの肩関節角度を反映しているためと考えられた。本研究の結果から,大結節が肩峰下を通過する際の上肢挙上角度は屈曲角度が外転角度と比較して大きいことがわかった。これは矢状面における解剖学的な肩峰の位置が上腕骨頭の位置よりも後方にあることが要因として考えられる。今回の研究を通して,腱板修復術後の症例に対して,GHJでの他動運動を行う際に,屈曲は65°から70°,外転は55°から60°で修復腱板への負荷が高まる可能性が考えられた。また,術後早期の可動域練習はAnterior passを利用することで,より安全に行えると考えられる。【理学療法学研究としての意義】GHJにおける肩峰下インピンジメントについて,本研究における健常人の値は参考値として有用であり,今後腱板断裂症例と比較を行うことで,可動域練習時の術後リハビリテーションプロトコールに反映できるものと考える。
  • 石島 孝樹, 村木 孝行, 関口 雄介, 石川 博明, 森瀬 修平, 出江 紳一
    セッションID: 0324
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】腱板断裂患者における動作時痛の原因のひとつに肩峰下インピンジメントがある。肩峰下インピンジメントの誘発因子として,上肢挙上時における肩甲骨の上方回旋角度の減少が挙げられる。肩甲骨の上方回旋では,肩甲骨周囲筋の協調した活動が重要であり,これらの筋活動に不均衡が生じると上方回旋が阻害されると考えられている。そのため,腱板断裂患者では肩甲骨周囲筋に対する治療が重要視されている。しかし,肩峰下インピンジメント徴候を有する腱板断裂患者において肩甲骨周囲筋の活動がどのような問題を有しているのか明らかでなく,治療の指針となる具体的な知見も欠如している。そこで本研究では,肩峰下インピンジメント徴候陽性の腱板断裂患者を対象として,上肢挙上時における肩甲骨周囲筋の活動特性を明らかにすることを目的とした。【方法】成人女性20名[腱板断裂患者8名(67±10.4歳),健常者12名(68±11.7歳)]を対象とした。腱板断裂患者は障害側,健常者は利き手側を対象側とした。腱板断裂患者の取り込み基準は1)棘上筋の不全断裂を有する,2)肩峰下インピンジメント徴候が陽性,3)自動上肢挙上可動域が120°以上とした。筋活動の計測機器は,無線筋電計マルチテレメータシステム(日本光電社製)を用いた。被験筋は,僧帽筋上部・僧帽筋下部・前鋸筋とした。測定肢位は端座位とし,測定位置は肩甲骨面上での挙上角度(30°,60°,90°,120°)とした。測定は検者が上肢を測定位置まで誘導し,等尺性収縮にて5秒間保持した。各施行後に休憩を取り計3回実施した。筋電図信号の処理は1000Hzにてデジタル変換後に,バンドパスフィルター(10-350Hz)にてフィルター処理を行い全波整流した。平滑化には,二乗平均平方根[(root mean square:RMS)(時定数100msec)]を用いて整流平滑化した。筋電図データは,一回の施行である5秒間のうち3秒間を解析対象とした。解析区間の筋電図データは平均振幅を用いた。筋電図の正規化は上肢挙上15°での測定値を基準として,測定角度4か所それぞれのデータを除して百分率(%)に変換した。統計処理は二元配置分散分析を実施し,事後検定としてTukey法による多重比較を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た。なお本研究は筆者が所属する施設に設置されている倫理委員会の承認を得ている。【結果】僧帽筋上部と前鋸筋の活動では,測定角度全てで有意差はみられなかった。僧帽筋下部の活動は,健常者が60°から筋活動の上昇が緩やかになったのに対して,腱板断裂患者は測定角度が高くなるに伴い筋活動が上昇し120°位で有意差を認めた(p<0.01)。【考察】肩峰下インピンジメント症候群単独の患者において,僧帽筋上部と僧帽筋下部の活動が亢進し,前鋸筋の活動は低下すると報告されている(Ludewig,2000)。それに対して,本研究の対象である肩峰下インピンジメント徴候陽性の腱板断裂患者は,僧帽筋下部の活動亢進は共通してみられたが,僧帽筋上部の亢進と前鋸筋の活動低下はみられず異なる筋活動を示していた。Reddyら(2000)は肩峰下インピンジメント症候群単独の患者において三角筋や腱板筋群の筋活動が低下していると報告している。それに加え,腱板断裂患者では除痛された状態でも上肢挙上筋力が低下することが知られており(Itoi,1997),肩峰下インピンジメント徴候陽性の腱板断裂患者は肩峰下インピンジメント症候群単独の患者よりも肩甲上腕関節の機能低下が大きいと考えられる。したがって,上肢挙上時における肩甲骨周囲筋の活動の違いは,肩甲上腕関節の機能低下を肩甲骨運動で代償するために起きている可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】肩峰下インピンジメント症候群において報告されている,肩甲骨の上方回旋を促す前鋸筋の筋力トレーニングが,肩峰下インピンジメント徴候陽性の腱板断裂患者に対して効果的であるのか検討する必要がある。
  • 橋本 昌美, 渡邊 裕之, 津村 一美, 嘉治 一樹, 高橋 美沙, 見目 智紀, 高平 尚伸
    セッションID: 0325
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】棘上筋の機能低下は肩関節周囲筋の過活動を引き起こし,上腕骨の上方偏位を生じさせた結果,肩峰下インピンジメントや腱板損傷等の肩関節障害をきたす(Weiner et al,1970)。そこで,棘上筋を強化することにより,肩関節運動時の肩関節周囲筋と棘上筋の筋活動の不均衡を改善させ,上腕骨頭を適切な位置に保つことで肩関節障害予防につながると考えられている(筒井,1992)。現在,棘上筋トレーニングとしてKellyら(1996)の提唱したFull Can Training(肩関節外旋位での肩甲骨面挙上運動)が広く知られている。しかし,長期間にわたるFull Can Trainingの実施前後での肩関節周囲筋の筋活動を捉えた報告はなく,Full Can Trainingが肩関節周囲筋の筋活動に及ぼす影響についても不明である。そこで本研究は,Full Can Trainingが肩甲骨面挙上時の肩関節周囲筋の筋活動に及ぼす影響について検証した。【方法】対象は,肩関節疾患の既往のない成人男性16名とし,鎖骨骨折既往のある1肩を除外した31肩とした。研究プロトコールは,対象者に対してトレーニング介入前にベースライン値として肩関節周囲筋筋活動を測定し,その後週5回のFull Can Trainingを6週間実施した。トレーニング期間中は,検者によりトレーニング方法の確認(週2回)を毎週実施した。6週間のトレーニング終了後に再度肩関節周囲筋筋活動を測定した。肩関節周囲筋筋活動計測には,表面筋電図計(PH-2501/8EMGアイソレータ,DKH社)を使用し,被験筋として棘下筋,僧帽筋上部線維,三角筋前部・中部・後部線維の筋活動をトレーニング前後に計測した。なお,事前に各筋の最大髄意収縮(Maximum Voluntary Contraction:MVC)時の筋活動を計測した。肩関節周囲筋の筋活動は,各筋のMVC時の筋活動で除した値(%MVC)で算出され,2回の平均値を肩関節周囲筋筋活動として採用した。対象者は座位姿勢とし,肩甲骨面挙上30°の位置で手関節に2kgの負荷に設定したセラバンドを装着した肢位,および手関節への徒手抵抗による最大筋力発揮時の筋活動を測定した。なお,これらの施行動作は肩関節内旋および外旋位の2条件にて行った。棘上筋トレーニングは,Full Can Trainingとして,対象者を立位にて肩関節外旋位での肩甲骨面挙上0~30°の反復運動を両肩同時に行った。抵抗にはイエローセラバンド(#DAB-1,D&M)を使用し,肩甲骨面挙上30°の位置で2kg負荷となるように長さを調整して手関節に装着した。1回の反復運動を2秒で行うよう指示した。対象者は,反復運動20回を1セットとし,1日に3セット(セット間のインターバルは1分)を実施し,棘上筋トレーニングは6週間実施した。肩関節周囲筋の筋活動(%MVC)をトレーニング前後の2条件間でWilcoxonの符号付順位和検定を用いて比較し,有意水準は5%未満とした。統計学的解析には統計ソフトSPSS11.0J for Windowsを使用した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学研究倫理審査委員会の承認を得た(承認番号2012-014)。なお,本研究実施に際し,対象者に研究内容に関して説明し,書面にて同意を得た。【結果】Full Can Trainingによって,セラバンド2kg負荷時(内旋位:介入前11.95±6.29%,介入後9.09±4.01%,外旋位:介入前12.77±7.39%,介入後9.60±3.84%)および最大筋力発揮時の肩関節内旋位の肢位(介入前67.93±30.38%,介入後55.06±25.28%)において僧帽筋上部線維の筋活動が有意に減少した(p<0.05)。また,セラバンド2kg負荷時(内旋位:介入前10.86±4.36%,介入後9.01±2.54%,外旋位:介入前11.08±5.04%,介入後9.02±2.65%)の棘下筋の筋活動が有意に減少した(p<0.05)。なお,三角筋前部・中部線維には,トレーニングによる有意な変化は認められなかった。三角筋後部線維は最大筋力発揮時(内旋位:介入前57.40±18.12%,介入後71.10±25.75%,外旋位:介入前71.74±19.46%,介入後91.03±27.89%)の筋活動は有意に増大した(p<0.05)。【考察】本研究の結果から,Full Can Trainingによって僧帽筋上部線維の筋活動が有意に抑制されたことが明らかになった。これは,Full Can Trainingが,肩関節外転運動の代償運動である肩甲骨挙上と上方回旋運動の主動作筋である僧帽筋上部線維の過活動を抑制したと考えられる。また,棘下筋の筋活動が減少したことから,Full Can Trainingによって棘上筋の選択的なトレーニングが行われ,棘上筋に対する補完機能を有する棘下筋への抑制が見られたものと考えられた。【理学療法学研究としての意義】腱板損傷等に用いられるFull Can Trainingは,僧帽筋上部線維と棘下筋の筋活動を有意に抑制させ,肩関節周囲筋群と棘上筋の筋活動に対する不均衡を改善させる可能性が示唆された。
  • 僧帽筋での検討
    伊藤 俊一, 世古 俊明, 田中 智理, 久保田 健太, 富永 尋美, 田中 昌史, 信太 雅洋, 小俣 純一
    セッションID: 0326
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】筋ストレッチングは,疼痛改善や関節可動域改善のための治療法の一つとして臨床で多用されている。その実施に関しては,静的ストレッチング(static stretching:以下,SS)と動的ストレッチング(dynamic stretching:以下,DS)が一般的である。SSは,目的とする筋群を反動動作なしにゆっくりと伸張を数秒から数十秒間保持する方法であり,SSは筋や腱の損傷の危険性が低く安全に実施することが可能とされている。近年では,近赤外線分光法(Nuclear Information and Resource Service:以下,NIRS)を用いた動物実験での筋血液動態の検討結果として,DSではSSに比べて筋収縮による血液循環の改善が認められるとされているが,ヒトにおける詳細な検討はない。また,ヒトを対象とした研究では,ストレッチング前後の関節可動域やパフォーマンスの比較は多数みられるが,血液変化での検討はほとんどない。本研究の目的は,ストレッチング法の違いがヒトでの筋血液量に与える影響を検討することである。【方法】対象は健常成人女性20人(21.7±0.7歳)とし,内科および整形外科的疾患を原因とする肩こりを有し薬物を使用している者や通院している者は除外した。また,対象のBMIは22.4±0.8であった。方法は,各被験者の利き手側を対象として,僧帽筋上部線維に対して頚部側屈他動的伸展によるSSとDSを24時間以上の間隔を空けてそれぞれ施行した。SSはストレッチ持続時間を30秒間×3セットとし,セット間は10秒間の安静とした。DSは5秒間の筋収縮後25秒間の安静を1セットとして3セット施行した。また,各ストレッチングの施行順序は無作為とした。筋血液量の変化は,ストレッチング介入前後での酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb),脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb)をDyna Sence社製NIRSを用いて測定した。NIRSのデータの測定間隔は1秒とし,僧帽筋上部線維(第7頸椎棘突起と肩峰を結ぶ線上で,第7棘突起から3横指外側)に筋線維の走行と平行にプローブを貼付した。さらに,頚部側屈角度は酒井医療社製REVOによりストレッチング施行側の最大側屈角度を測定した。関節可動域の測定方法は,日本整形外科学会の測定方法に準じた。筋硬度の測定箇所は,イリスコ社製筋硬度計PEK-1を用いてNIRSのプローブ貼付部位と同一箇所とした。被験者は,いずれの条件下でも15分以上安静を保った後に測定を開始した。頚部側屈角度と筋硬度の測定は椅座位とし,筋ストレッチング実施前と実施後の2回の測定を行った。統計的解析には,Mann WhitneyのU検定とWilcoxonの順位和検定を用い,関節可動域および筋硬度には対応のあるt-検定を有意水準は5%未満として検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,福島県立医科大学会津医療センター倫理委員会の承認を得て,全対象者に書面により本研究の趣旨を説明し,同意書を得て実施した(承認番号24-21)。【結果】Oxy-Hb変化量(安静時値とストレッチング後の値との差)は,DSではSSと比較して有意な増加を認めた(p<0.01)。しかし,deoxy-Hbの変化および頚部側屈可動域,筋硬度には有意な差を認めなかった。【考察】NIRSの測定値に影響を与える因子として,被検者の皮下脂肪圧が挙げられている。先行研究では,BMI20-24の被験者では皮下脂肪厚が影響されないとされており,本研究の対象はすべてBMI20-24の範囲内であったことから,測定値に皮下脂肪厚の影響はないと考えられた。また,光岡らによるNIRSを用いた運動前後の筋内酸素動態の検討結果では,動脈血内においてはoxy-Hb量・deoxy-Hb量は両者ともに変化するが,静脈血内においてはoxy-Hb量は変化するがdeoxy-Hb量は変化しない,あるいは減少傾向を示すと報告されている。今回の結果,DSでは随意的な筋活動により,筋の収縮-弛緩による静脈還流を高めるミルキング作用が働き,DSではSSに比べ有意にoxy-Hb量を増加させた理由と考えられた。しかし,本研究により頚部側屈可動域,筋硬度には有意な差を示さなかったことは,今回の対象を健常成人女性としたためと考えられ,肩こりや頚部痛を有する対象者で再検討する必要がある。またさらに,本研究の対象者は20歳代の成人女性だけであるため,今後高齢者での加齢変化や性差の影響なども検討していく必要があると考える。【理学療法学研究としての意義】従来から,疼痛の原因の一つとして筋の血行障害が挙げられている。これまでのヒトを対象としたストレッチングの検討結果は,ストレッチング施行前後の可動域,筋出力,パフォーマンスでの比較であり,筋血液動態での検討は少ない。本研究結果は,今後臨床において血行障害改善のためのストレッチングの選択や適応を検討するに際に有用になると考えられる。
  • 腱板による骨頭の押さえ込み作用について
    熊田 仁
    セッションID: 0327
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】肩関節の機能障害に対する運動療法の目的は,関節可動域の拡大や筋力増強,日常生活動作(Actibity of dialy living:以下ADLと略す)の改善を目的に行われる。しかし,その方法論については画一的なものはなく,腱板機能の機能的筋収縮の改善に適したトレーニングは確立されていない。特に腱板のDepressorとしての強化方法について明言されたものは見当たらない。本研究の目的は,肩峰下でのImpingementの予防に必要な烏口肩峰アーチ下の拡大に,腱板機能がどのように関与しているかを検証することである。【方法】健常成人男性10名を対象とした。肩関節10°屈曲・外転,内外旋0°,肘関節伸展位,手関節掌屈位の肢位(基本肢位)とし,上肢押し出し動作(長軸方向への押し出し)時の烏口肩峰靭帯(Coraco-acromial ligament:以下CALと略す)と上腕骨頭との間隙の距離と動作前後の棘上筋の筋厚を超音波測定器(FUJIFILM社製FAZONE C8 8MHzのプローブ,リニアスキャン)を用いて測定した。測定条件は,下垂位・0Nm(基本肢位の状態)・5Nm(5Nmの強さで押し出す)・10Nm(10Nmの強さで押し出す)の4条件で測定した。また,押し出し動作の適性強度についても検証した。統計処理は,一元配置分散分析(反復検定)を用いて検討し,多重比較にはBonferroni法を用いた。統計学的有意判定基準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】研究の実施にあたり,ヘルシンキ宣言に基づき実施計画書を作成し,所属研究倫理委員会の承認を得た。また,被験者に対し十分なインフォームド・コンセントを実施し,実験参加の同意を得た。【結果】①CAL下の間隙距離の変化量においては,下垂・0Nm・5Nm・10Nmと負荷量が増加するに従いCAL下の間隙距離の変化量は増加を示し,下垂と5Nm間,下垂と10Nm間,および0Nmと5Nm間で有意差が認められた(p<0.05)。②課題動作強度による棘上筋の筋厚の変化については,起始部の0Nmと5Nm間の検定で有意差を認め,5Nm強度での押し出し動作で棘上筋起始部の筋厚が減少する結果となった(p<0.05)。しかし,より負荷量の多い10Nmでは,起始部・中央部ともに有意な変化は示さなかった。【考察】棘上筋の機能としては,外転運動の初期外転力(Starting Muscle)としての働きと,骨頭の上方移動を抑制する支点形成力(Depressor)としての働きがある。肩関節挙上時には,この支点形成力が重要であり,この働きにより骨頭のスムーズなCAL下への入り込みが行なわれる。しかし,多くの肩関節機能障害例では,このCAL下への骨頭の入り込みが行なわれず,肩峰下と上腕骨大結節が衝突し,腱板組織や滑液包を挟み込むいわゆるImpingement現象が認められる。このImpingmentの原因については,肩関節回旋筋腱板の機能低下や,疼痛・肩関節拘縮に伴う骨頭の上方偏移が原因であるとされ様々な運動療法が思案されている。しかしこのImpingmentを直接予防するための運動療法は明確には提示されていない。一般的に肩関節挙上には,肩甲骨の上方回旋は肩関節角度が30°以上で大きくなり,30°以下の角度では肩甲骨の上方回旋はあまり認められないとされている。しかし,肩甲上腕関節の単独運動では22°の外転運動で約1cmの骨頭上方移動を生じ,関節包内での「転がり」運動だけでは肩峰と上腕骨頭の衝突が生じ,肩峰下滑液包(SAB)等が挟まれる事になる。この現象を防いでいるのが腱板のDepressorとしての働きである骨頭の下方への「すべり」運動の誘導である。今回の研究では,この棘上筋のDepressorとしての働きに焦点を当て,Depressorとして上腕骨頭を下方に滑らせる際の棘上筋の筋活動とCAL下の間隙を測定した。今回実施した押し出し動作では,5Nm程度の強度で押し出し動作を行なうと,CAL下と上腕骨骨頭との距離は有意に増加する結果となった。この結果より押し出し動作では,CAL下の間隙の拡大が誘導され,そのkey muscleとしての棘上筋の働きが重要であることが示唆された。また,押し出し動作時の強度においては,5Nm程度の軽い負荷での運動が有用であることが分かった。このような結果を踏まえると,臨症上では,柔らかい直径5~10cm程度のボールを肘関節伸展位で床に軽く押し付けるような運動がCAL間隙を広げ,impingement回避を目的とした腱板機能の強化が行えるのではないかと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究は肩回旋筋腱板のDepressorとしての機能を超音波測定器を用いて評価・検討し,腱板機能不全に対する新しい運動療法の提案を行うものである。
  • ~三次元加速度センサを用いた歩行解析~
    西村 幸子, 梅津 美奈子, 菊池 佑至, 喜古 勇, 佃 岳, 堀井 亮太, 和田 義明, 三宅 美博, 河野 大器
    セッションID: 0328
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,リハビリテーションにおいてロボット技術の導入が進んでいる。本田技術研究所装着型歩行補助装置「歩行アシスト」は,対象者の腰部から大腿部に装着し,歩行リズムの相互適応現象を利用して,股関節屈曲伸展運動をアシストするトルクを発生し,歩行運動を支援する装置である。この歩行アシストから得られる情報は股関節の角度変化と歩行速度のみであり,臨床においての歩行評価はセラピストの目視による主観的評価と,装着者の「歩きやすい」という自覚に頼らざるを得ない。様々な疾患で歩行アシストの適合性や有用性などを検証していくにあたり,定量的かつ容易な評価が必要であると考える。そこで今回,脳卒中片麻痺患者での歩行アシストによる歩容変化を,三次元加速度センサを用いて検討した。【方法】対象はプラスチック製短下肢装具とT字杖を使用し歩行自立している脳卒中片麻痺患者男性2名(60~68歳,BRS:IV)とした。測定は直線約30mの歩行路を自由歩行速度にて実施した。歩行アシストは股関節屈曲伸展と左右それぞれアシスト量を設定することができる。対象者に最適なアシスト量を検討する為,様々な設定で歩行計測を行った。次に単純装着とアシストモードで測定し,アシスト量は様々な設定で比較検証した。歩行評価は,フットセンサと三次元加速度センサを用いて歩行中の空間的な変位と左右の立脚期・遊脚期の区別を行なう腰軌道計測システムを使用した。腰軌道は全額面後方より観察した場合を示し,上下左右に各方向において腰軌道パターンの特異性を定量的に示す為の特微量を次のよう定義した。上下方向では荷重応答期の上下差をLRdif(cm),踵接地~立脚中期の腰の上方移動の左右非対称性をVUsym,立脚中期~遊脚初期の腰の下方移動の左右非対称性をVDsym,左右方向では振幅をHA(cm),振幅の左右非対称性をHsymとし,また1歩行周期時間の変動係数を算出し比較した。解析対象は歩き始めの3歩行周期と終わりの4歩行周期を過度期とし,それらを除外した範囲内で連続した10歩行周期分の変動係数が最小となる範囲とした。統計学的解析はMann-WhitneyのU検定を用い有意水準を5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき,対象者には研究の趣旨を文書と口頭にて説明を行い書面にて同意を得た。また,当院倫理委員会の承認を得て行われた。【結果】様々なアシスト量で歩行した結果,検討した2例では股関節屈曲伸展アシスト3Nmを左右同量に設定した時がセラピスト評価で歩容の改善を認め,自覚的にも最適であった。また,単純装着のみでも歩容変化を認めた。腰軌道の検討においても,腰の上方移動の左右非対称性VUsymは歩行アシスト使用前(0.37±0.18)と比し,アシスト3Nm(0.19±0.16)では有意に低値を示した。また,左右方向の振幅HAは単純装着で2.4cm,アシスト3Nmは4.7cm有意に狭くなった。歩行アシスト使用後の持続効果については,1歩行周期が1.86秒から1.69秒に短縮されたが,その他の項目では改善がみられなかった。【考察】脳卒中片麻痺患者では,麻痺側遊脚期の代償活動を軽減させる為,麻痺側アシスト量を増やした方が歩容改善が期待できると予測したが,今回の2例では股関節屈曲伸展ともに左右同量加えた時が最適であった。左右のアシスト量が異なると歩行リズムが乱れてしまい,即時には対応困難であったのではないかと考える。しかし,麻痺側アシストが有効例は存在すると思われる。今回の測定に用いた三次元加速度センサから得られる腰軌道は,健常者では上下左右の各方向への変位はほぼ対称となる。結果より,腰の上方移動の左右非対称性VUsymは歩行アシスト装着,またアシストを加えることでより左右対称に近づいた。歩行アシスト装置は腰フレームと大腿フレームで身体に固定されることにより,骨盤の回旋や側方移動,股関節外転などが制限される。これは脳卒中片麻痺患者の代償歩行を制限することになり,このような結果が得られたと思われる。さらに屈曲アシストにより,遊脚前期の推進力が向上し,腰の上方移動の減少から左右対称に近づいたと考える。効果の持続は明らかでなく,学習効果については,歩行アシスト使用下での練習方法の検討が必要であると思われる。また今回の検討は2症例と少なく,今後は症例数を増やして検証が必要と思われた。【理学療法学研究としての意義】理学療法の一手段としてロボット技術の発展は期待されている。今回の検証により,脳卒中片麻痺患者への歩行アシスト使用中による歩容改善効果が示唆された。
  • 丸田 佳克, 田中 直次郎, 橋本 陽平, 山岡 まこと, 松下 信郎, 藤井 靖晃, 福江 亮, 岡本 隆嗣, 平田 崇
    セッションID: 0329
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】本田技術研究所が開発したHonda歩行アシスト(以下,歩行アシスト)は装着型歩行補助装置で,股関節屈伸のアシストトルクを発生させる機能を持つ。この装置を健常者へ用いた研究はあるが,脳卒中片麻痺患者(以下,CVA患者)に使用した報告は少ない。今回CVA患者を対象に,その即時効果を歩行パラメータとエネルギー効率の観点から検証した。【方法】対象は,2013年1月~2013年10月に当院に入院した初発のCVA患者12名(男性6名・女性6名,右片麻痺8名・左片麻痺4名),下肢BRS3~6(中央値5),入院時FIM運動項目44.8±13.4,年齢65.3±7.5歳,身長160.2±8.0cm,体重61.9±15.2kg,BMI24.0±5.4であった。方法は3分間歩行を2条件で行うAB方式のクロスオーバーデザインとした。条件Aは歩行アシストを装着し,アシスト力のない状態での歩行(通常歩行)とし,条件Bはアシスト力のある状態での歩行(アシスト歩行)とした。対象者は入院時IDにより奇数はAB群,偶数はBA群とした。対象者にアシストの有無を伝えず盲検化し,各条件とも3分間歩行を同一日に休憩をとり1回ずつ実施した。歩行は「できるだけ多く歩いて下さい」と指示した。1周30mの歩行路の一部にウォークWay(アニマ社製シート式下肢加重計MW-1000)を設置し歩幅・遊脚時間・立脚時間を測定した。実験中は医用テレメータ(日本光電社製WEP-5204)を装着し,安静時・運動時心拍を測定した。安静時心拍は3分以上の安静時間をとり,心拍数が定常化した10秒間の心拍を測定した。運動時心拍は3分間歩行のうち,2分50秒から3分の心拍を記録した。安静時・運動時心拍数は,記録した心電図波形のR-R間隔の平均値から算出した。比較項目は,患者基本情報及び条件A,条件Bでの歩行速度・心拍数・PCI・平均歩幅(麻痺側と非麻痺側歩幅の平均値)・麻痺側歩幅・非麻痺側歩幅・歩行比・空間対称性・時間対称性とした。統計学的検討は対応のないt検定,対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした。なお,空間的・時間的対称性は,1.0に近いほど歩幅が対称であることを示す指標で,次のように算出した。空間対象性は非麻痺側歩幅を麻痺側歩幅で除した。時間的対称性は,(麻痺側遊脚時間/麻痺側立脚時間)を,(非麻痺側遊脚時間/非麻痺側立脚時間)で除した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を得て行い,対象者に本研究の趣旨を十分に説明した上で同意を得た。【結果】歩行速度は両条件で有意差を認めなかったが,心拍数増加量(運動時-安静時)は通常歩行46.6bpm,アシスト歩行41.3bpmと有意に減少し(p<0.05),PCIはアシスト歩行時に0.86bts/mから0.76bts/mと有意に減少した(p<0.05)。平均歩幅は通常歩行52.3cm,アシスト歩行53.9cm(p<0.05),歩行比は通常歩行0.0051m/steps/min,アシスト歩行0.0054m/steps/min(p<0.01)と,それぞれアシスト歩行で有意に増加した。また,アシスト歩行時のみ,麻痺側歩幅53.4cmから55.5cmと有意に増加した(p<0.05)。非麻痺側は51.1cmから52.6cmと増加傾向であったが,有意差はなかった。空間的対称性,時間的対称性は両条件で有意差を認めなかった。【考察】藤井らは同様のプロトコールを健常者に実施し,歩行アシストの使用により歩行時の心拍数のみ有意に減少したと報告している。今回はCVA患者を対象に実施し,心拍数のみでなくPCI,平均歩幅とも有意に改善したことから,歩行アシストはCVA患者でも即時的に歩行の効率化を図る効果があると言える。歩行アシストは歩行比を一定量増大させる制御により効率のよい歩行を誘導し,時空間的な歩行パターンを装着者が学習することに主眼がおかれている。CVA患者でもアシスト歩行時に平均歩幅と歩行比が増加しており,この制御手法が歩行パラメータの改善と効率化に寄与したと思われる。ただ,歩幅を麻痺側と非麻痺側で比べると,麻痺側と非麻痺側で効果に差があったことから,CVA患者ではアシスト力を左右同じように加えてもその影響には差がある可能性がある。一般的にCVA患者は歩行の効率が悪く,耐久性が低下しており,歩行練習時は患者の意識づけや理学療法士の介助で歩容の変更を維持することは容易ではない。今回の結果は,運動負荷を抑制しつつ効率のよい歩行をロボットにより反復して再学習できる可能性を示唆しており,CVA患者に対する歩行アシストは理学療法の一助となる可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】CVA患者に対する歩行アシストは即時的に歩行を効率化し,歩行パラメータを改善した。CVA患者に対する歩行アシストは,効率の良い歩行を再学習することを促せる可能性があり,理学療法の一助となる可能性がある。
  • 上野 有希子, 江口 清, 門根 秀樹, 有安 諒平, 久保田 茂希, 入江 駿, 河本 浩明, 中田 由夫, 松下 明, 坂根 正孝, 山 ...
    セッションID: 0330
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,歩行能力の改善を目的とした下肢の反復運動の補助に,ロボット技術が導入されつつある。ロボットスーツHybrid Assistive Limb福祉用(CYBERDINE社製,以下HAL)は,筋活動を含む動作情報を各種センサーより感知しながらヒトが意図する動作を補助する装着型ロボットとして開発され,製品化された。すでに下肢用HALを用いた,歩行能力改善を目的としたリハビリテーションへの試用が始まっている。HALを用いた歩行プログラムの先行研究では,脊髄損傷,外傷性脳損傷,脳血管障害,筋疾患等を対象とした32例において,10 m歩行テストによる歩行速度,歩数,歩行率が有意な改善を認めたとの報告(Kubotaら,2013)や,脳血管疾患患者16例において,重症度の高い患者により高い有効性を認めたという報告(Kawamotoら,2013)がある。しかし,歩行中の歩容変化に対する詳細な検討の報告はなく,これらを調べることで,HALによる歩行改善効果の解明が期待される。今回,脳卒中により右半身麻痺を呈した女性1例に対し,歩容改善を目的としたHALを用いた歩行プログラムを実施した。本研究では,プログラム前後にどのような歩容改善が得られたかを検討した。【方法】対象は脳出血発症後8ヵ月の右半身麻痺(Brunnstrom stage上肢・手指:III,下肢:IV)を呈した50歳女性である。日常生活は概ね自立し,歩行状態は杖とAFOを使用し屋外歩行可能であった(Functional Ambulation Categories:5)。運動習慣は,本プログラム参加以前より,週3日1回40分のリハビリを継続していた。本研究では,HALを装着した状態での歩行プログラムを,週に2回(1回あたり準備・休憩を含めて90分),8週間(全16回)行った。プログラムでは必要に応じ,免荷式歩行器などの補助具を併用した。評価項目は,三次元動作解析システム(英VICON社製MX,T40Sカメラ16台)を用いて,歩行速度(m/sec),歩幅比(右/左),立脚・遊脚時間比(右/左),両脚支持時間(sec)を算出した。また,重心動揺計(ANIMA社製,TWIN GRAVICORDER GP-6000)を用いて,静止開眼・閉眼立位時の総軌跡長,外周面積,左右荷重比を測定した。さらに,3 m timed up and go test(sec,以下TUG),Berg balance scale(以下BBS),6分間歩行(m)を測定した。それぞれプログラム開始前(0週目)と終了後(8週目)に,HAL未装着の状態で測定した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は筑波大学附属病院倫理委員会の承認を得て,内閣府最先端研究開発支援プログラムの支援により行われた。対象者には事前に医師による診察と本臨床試験の内容を説明し,同意を得て実施した。【結果】歩行速度はプログラム前0.32 m/secからプログラム後0.40 m/secへと改善を認めた。歩幅比は1.62から1.39,立脚時間比は1.31から1.08,遊脚時間比は1.98から1.15へと改善を認めた。両脚支持時間は右前が0.40 secから0.23 sec,左前が0.53 secから0.43 secへと短縮した。重心動揺計による総軌跡長・外周面積は著明な変化は認めなかったが,左右荷重比は開眼時0.51から0.78,閉眼時が0.44から0.67へと改善した。TUGは24.03 secから23.00 secと短縮し,BBSはプログラム前後とも53点で変化なく,6分間歩行距離は128.5 mから148.7 mに延長した。【考察】本症例では先行研究(Kubotaら,2013,Kawamotoら,2013)と同様に,歩行速度の改善を認めた。歩容の比較では,歩幅比,立脚時間比,遊脚時間比ともに,左右比が1に近づく改善がみられた。このことより,歩行中の歩容における左右対称性が向上したと考えられる。静止立位時の左右荷重比も,開眼・閉眼時ともに1に近づく改善を認め,患肢である右脚支持の割合が増加した。この右脚の支持性向上が,左右対称性向上につながったと推察される。また,左右ともに両脚支持時間が短縮したことも,同様の機序によるものと考えられた。プログラム後の歩行における左右対称性の向上から,左脚への依存軽減と右脚の利用促進が得られ,その結果,左脚の負担減少と歩行効率が改善し,両脚支持時間短縮と歩行速度改善効果が得られたと考えられた。本症例はプログラム前より比較的高いバランス機能を有しており,バランスの評価指標である総軌跡長,外周面積,TUG,BBSにおける変化は少なかった。しかし,歩行速度・歩行効率が改善したことにより,6分間歩行距離延長にも効果が認められた。【理学療法学研究としての意義】HALを用いた歩行プログラムで得られた歩行改善の要因をより詳細に評価していくことで,HALにおける治療効果の特性と,その機序が明らかとなる。今後HALを臨床応用する際に,より患者のニーズに即した治療の提案が可能となることが期待される。本症例から得られた結果を基に,より症例数を増やして歩容評価を進めていくことが,今後の課題である。
  • 対照群と比較した変化の違いについて
    越後谷 和貴, 武田 超, 須藤 恵理子
    セッションID: 0331
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】ロボットスーツHAL(Hybrid assistive limb)は歩行支援を目的に使用され,神経疾患を中心にその効果が報告されている。脳卒中では維持期における症例報告が多く,使用の頻度や期間も異なっており,一定の見解を得ていない。本研究の目的は,回復期脳卒中患者にHALを連続で使用し,対照群と比較した際の歩行能力の変化の違いを検証することである。【方法】対象は回復期病棟に入院し,重篤な高次脳機能障害を有さず,入院時に10m以上の歩行が可能で,入院から1か月後でも歩行は非自立であり,HALの使用に理解が得られた脳卒中片麻痺患者10名(男性7名・女性3名,平均年齢69.2歳,FIM77.2点)である。HALの運用は入院から約1か月後に始め,1日1回,2週間内に合計10回,連続で使用した。1回の所要時間は約60分で脱装着に15-20分,起立・歩行練習に30-40分を充てた。なおHAL使用期間以外は通常の理学療法を提供した。HAL使用前後の歩行能力を比較するため,10m最大歩行速度(以下,10MWS:m/min),歩幅(cm),歩行率(step/min)を,入院時,HAL使用前(1ヵ月後),HAL終了から2週間後(2ヵ月後)の各時期に測定した。次に過去5年間の回復期脳卒中患者の中から,年齢,身長,罹病期間,発症回数,入院時と1か月後にHAL群と同等の歩行速度を有するなどの臨床像が類似した16名を対照群として選出した(男性8名・女性8名,年齢67.7歳,FIM78.8点)。入院時の身体機能に差がないことを検証するため,下肢のBrunnstrome recovery stage,感覚障害の有無,CYBEXによる両側の等速性膝関節伸展筋力(%BW)をMann-WhitenyのU検定およびχ2検定で比較した。そして各時期の歩行能力を二元配置分散分析で比較し,最後に退院時の歩行自立度およびFIMを比較した。【倫理的配慮】対象者には書面で十分な説明を行い,同意書を得てHALを使用した。使用中は理学療法士が常に傍に着き,事故のないように配慮した。【結果】身体機能に関し,Brunnstrome recovery stageがIV以下の者は対照群14名,HAL群7名,V以上の者は対照群2名,HAL群3名,感覚障害を有する者は対照群14名,HAL群10名,膝関節伸展筋力は非麻痺側で対照群114.1±29.5%BW,HAL群102.1±41.0%BW,麻痺側で対照群30.2±23.2%BW,HAL群29.9±24.5%BWと,いずれも有意な差はなかった。二元配置分散分析の結果,10MWS,歩幅,歩行率で交互作用を認め,10MWSでF値7.36,p値0.004,歩幅でF値4.75,p値0.018,歩行率でF値3.59,p値0.046となった。入院時,1ヵ月後,2ヵ月後の順に,10MWSは対照群12.3±4.1→21.4±8.7→26.4±9.6m/min,HAL群17.5±12.0→24.5±15.5→44.5±20.8 m/min,歩幅は対照群23.3±5.4→29.6±7.5→32.7±7.0cm,HAL群26.7±8.0→32.2±10.3→43.1±11.5cm,歩行率は対照群52.3±12.1→70.2±15.7→80.0±19.4step/min,HAL群60.7±27.1→71.4±26.7→99.8±23.5sstep/minとなり,入院時および1ヵ月後で有意な差はなかった。しかし,2ヵ月後の10MWS,歩幅,歩行率はHAL群で有意に高い値を示した(いずれもp<0.05)。退院時の歩行自立度は,対照群で15名が歩行自立,HAL群で9名が歩行自立,FIMは対照群113.4±8.1点,HAL群113.5±6.7点といずれも有意な差はなかった。【考察】入院時の身体機能および1ヵ月後の歩行能力に違いはなかったが,2ヶ月後では対照群に比べHAL群は歩行速度,歩幅,歩行率が有意な改善を示した。歩行速度の向上には歩幅と歩行率の改善が寄与するとされ,HALの使用は一側下肢の支持性を高め,対側下肢の歩幅を延長させる効果と,重心移動を円滑に行わせ,麻痺側下肢の振り出しを支援して歩行率を高める効果をもたらし,歩行が習熟した結果,歩行速度も向上したと推察される。一方で退院時の歩行自立度とFIMの得点に差がなかったことから,HALの使用が歩行自立度やADL到達度にまで直接影響を及ぼすものではないことが明らかになった。【理学療法学研究としての意義】ロボットスーツHALは,入院から一定期間内に連続して使用することにより,回復期脳卒中患者の歩行能力の改善を促進する有益なツールと成り得る。
  • ~エビデンス確立に向けた探索的研究~
    吉川 憲一, 水上 昌文, 佐野 歩, 古関 一則, 小貫 葉子, 前沢 孝之, 海藤 正陽, 坂上 由香, 浅川 育世, 岩本 浩二, 永 ...
    セッションID: 0332
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに,目的】近年,動作支援ロボットを用いた歩行練習が注目され始めており,効果が期待されている。CYBERDYNE株式会社で開発されたロボットスーツHAL福祉用(以下HAL)は筋電位,足底荷重分布,関節角度情報を基に,アクチュエータによって関節トルクをアシストする装着型の動作支援機器である。HALを脳卒中片麻痺者に適用した研究は,慢性期に関してはその有効性を示唆するものが散見されるが,回復期における効果を証明したものはない。本研究はHALのリハビリテーション機器としてのエビデンス確立のための探索的研究と位置づけ,回復期の脳卒中片麻痺患者に対する歩行練習の効果を検討することを目的とした。【方法】対象者の適用基準は,脳出血又は脳梗塞の初回発症であり,介助歩行が可能である者とした。除外基準は,指示理解が困難な意識障害,重度の高次脳機能障害,重度の下肢関節拘縮,その他理学療法の実施に高いリスクを有する者とした。2013年3月~10月に上記の基準を満たした7例に対して介入を実施した。性別は全て男性,年齢は45~74歳,平均64±8.8歳,発症から介入開始の日数は25~78日,平均47.7±15.5日,右片麻痺が2例,左片麻痺が5例であった。HALでの歩行練習は,通常の理学療法3単位に加え,週4回,4週間実施し,介入者は通常の診療担当者(担当PT)と別にした。1回の練習は,休憩を除く積算歩行時間の総計を最大30分以内とし,快適歩行速度にて実施した。疲労の訴えや理学療法中止基準に基づく所見を認めた場合は終了とした。練習毎にHALのアシストトルクの大きさ等を最適値に調整した。更に,歩行補助具は免荷機能付歩行器(Cyberdyne,ALL IN ONE)を主に転倒防止目的で使用した。評価項目は,2分間歩行テスト(2MT),10m最大歩行テスト(10mT),Fugl-Meyer評価法の下肢スコア合計(F-M),左右対称比とした。2MTは,快適歩行速度で実施し,歩行距離を計測した。10mTでは歩行率,歩幅も算出した。これらは介入期間の直前及び直後に,担当PTが実施した。左右対称比は,快適歩行時に矢状面から撮影した動画(25fps)より1歩行周期を100%とする左右単脚支持率を算出し,左右の大きい値を分母とする比を求めた。尚,左右対称比は撮影が可能で,介入時から接触介助歩行が可能であった4例とした。また,介入期間内に通常の理学療法診療内で認められた身体機能や歩容変化の記述的評価を実施した。介入の効果は各指標の基本統計量および記述的評価により検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は本学倫理委員会の承認を得,対象者は院内ポスター掲示にて公募し,研究の説明の後に書面にて同意を得た後に実施した。【結果】各評価指標の介入前後での比較では,2MTは介入前が35.9±21.7m,介入後が63.6±20.6mと全例で著増し,10mTの最大歩行速度は23.6±37.3m/分から37.3±14.7 m/分と同様に全例で著増を認めた。歩行率は70.4±26.5歩/分から84.2±20.2歩/分と1例を除いて改善を認めた。歩幅は0.3±0.1mから0.4±0.1m,F-Mは19.0±6.2点から21.7±4.4点と1例を除いて改善を認めた。歩行中の左右対称性の比は0.57±0.08から0.73±0.11と1例を除いて改善を認めた。担当PTの記述的評価では,6例が麻痺側下肢の支持性改善を,4例が左右対称性の改善を,3例が遊脚動作の改善を,2例は麻痺側への認知が改善(注意障害に対する効果)を認めたとの結果を得た。【考察】介入前後で,各項目で一定の改善を認めた。先行研究では,慢性期脳卒中患者に対するHALでの歩行練習による歩行速度の改善が報告されている。更に,脊髄損傷不全麻痺者を対象にした先行研究では,HALでの歩行練習が結果として適切な左右の重心移動練習となっていた可能性があることを報告している。左右対称比や記述的評価の結果は,脳卒中患者でもHALでの練習が左右対称性の改善効果を有する可能性を示した。身体機能の変化が著しい回復期において,適切な重心移動を獲得し,歩行パターンの正常化を図れる可能性があるという点は,HALでの歩行練習の大きな利点となり得る。今回は探索的研究として対照群を設けずに実施したため,HALによる直接の効果は明らかではないが,10mTにて4週間で平均63%の改善率が得られた事,有害事象を認めなかった事,歩容の改善が得られた事を確認出来た点は,今後の比較対照試験に進む上での大きな一歩であったと考える。【理学療法学研究としての意義】HALの理学療法機器としての有効性の検証は,HALのような新技術の普及に向けて必須であり,今回得られた示唆は,新たな理学療法体系を切り開くための第一歩である。
ポスター
  • ―筋電図反応時間による検討―
    高橋 優基, 藤原 聡, 伊藤 正憲, 嘉戸 直樹, 鈴木 俊明
    セッションID: 0333
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【目的】我々は先行研究において,1500msを基本間隔とした周期的な聴覚刺激の刺激系列の最後の刺激間隔を,刺激のリズムが変わったと気づけない1425ms(1500msを5%短縮)または1575ms(5%延長)に変化させても,筋電図反応時間(EMG-RT:electromyographic reaction time)は遅延しないことを明らかにした。一方で,明らかにリズムが変わったと気づく1200ms(20%短縮)または1800ms(20%延長)に変化させると,EMG-RTは有意に遅延した。このことから,基本間隔の前後数10msには予測の範疇に収まるある程度の時間の幅が存在し,周期的なリズムの予測機構が機能することで円滑な反応運動は維持されると考察した。本研究では,1500msを基本間隔とし,その5%から20%の範囲で刺激間隔が変化する刺激系列がリズムの予測に基づく反応運動に及ぼす影響についてEMG-RTを用いて検討した。【方法】対象は利き足が右の健常者13名(男性10名,女性3名,平均年齢28.4±7.3歳)とした。実験機器はテレメトリー筋電計MQ8(キッセイコムテック株式会社)を使用した。聴覚刺激はSoundTrigger2Plus(キッセイコムテック株式会社)で設定した。聴覚刺激の刺激条件は刺激周波数を900Hzとし,刺激強度は対象者が明瞭に聴き取れる適切な大きさに設定した。聴覚刺激の刺激回数は連続10回とした。対象者は端座位で聴覚刺激を合図にできるだけ素早く右足関節を背屈する反応課題を実施し,右前脛骨筋より筋電図を記録した。条件設定は1500msの間隔の周期的な聴覚刺激を呈示するものを条件1,1500msの5%である75msの範囲の1463~1537msで刺激間隔をランダムに変化させるものを条件2,1500msの20%である300msの範囲の1350~1650msで刺激間隔をランダムに変化させるものを条件3とした。各条件は10試行ずつ,合計30試行をランダムに実施した。統計処理は反復測定一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を用い,各条件における1~10回目のEMG-RTの変化を検討した。有意水準は5%に設定した。【説明と同意】対象者には本研究の目的と方法について書面と口頭で説明し,同意を得た。本研究は関西医療大学倫理委員会の承認(承認番号:13-27)を得て実施した。【結果】条件1および2のEMG-RTは,1回目と比べて2回目以降,2回目と比べて3回目以降で有意に短縮した(p<0.01)。条件3のEMG-RTは,1回目と比べて2回目以降(p<0.01),2回目と比べて3回目(p<0.05)で有意に短縮し,3回目と比べて7回目以降で有意に遅延した(p<0.01)。【考察】藤原らは,1回目の刺激が予告信号の役割を果たし上位中枢の動員による運動の準備状態が誘発されたことで,2回目と3回目のEMG-RTが短縮すると報告している。いずれの条件においても,次の刺激に対する中枢での運動の準備状態が高まっていたため,2回目と3回目のEMG-RTが短縮したと考えた。条件2では,1500msの5%である75msの範囲で刺激間隔が変化したが,4回目以降のEMG-RTは一定間隔で呈示した条件1と同様の変化を示した。藤原らは,周期的な刺激に対する反応課題に関して,4回目以降は予測に基づく反応が可能になると報告している。また,我々は,周期的なリズムの予測に関して,基本間隔の前後数10msに予測の範疇に収まるある程度の時間の幅が存在することを明らかにした。75msの範囲で刺激間隔が変化したが,4回目以降も基本間隔の前後数10msにある程度の時間の幅をもって予測し,リズムに対する予測機構が機能していたため,円滑な反応運動を維持できたと考えた。条件3では,1500msの20%である300msの範囲で刺激間隔が変化した。Thautは,基本間隔の20%の変化はリズムが変わったことに気づくと報告している。4~6回目では刺激間隔の変化に気づいたことで予測が乱され,7回目以降は予測が成り立たず反応が遅れたと考えた。【理学療法学研究としての意義】1500ms間隔であれば,75ms以内で刺激間隔が変化しても一定間隔で呈示した場合と同じように運動の周期性は維持され,円滑な反応運動を遂行できる。一方で,20%まで刺激間隔が変化するとリズムを予測できず,反応運動において運動の周期性を乱す要因となる。今後は,刺激間隔がどの程度まで変化すると反応運動に影響を及ぼすか詳細な検討が必要である。
  • 1秒間隔の運動による検討
    伊藤 正憲, 嘉戸 直樹, 鈴木 俊明
    セッションID: 0334
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】リズミカルな運動を促すために聴覚刺激のような外的刺激をペーシングとして用いることがある。外的刺激のペーシングの効果を検討する方法のひとつに同期タッピングの継続パラダイムがある。このパラダイムは外的刺激のリズムに指タッピングを同期し,その後に外的刺激がなくなってもタッピングをそのままのリズムで維持する課題である。この課題ではペーシング相と継続相の運動能力が比較されるが,一方で本来有しているリズミカルな運動の能力と継続相の運動能力を比較することも重要である。また,外的刺激のペーシングをきっかけに運動のリズムをとる際には,刺激と運動を同期させたり,刺激に対して運動を裏打ちさせたりすることができる。本研究は外的刺激がない状況でおこなう自己ペースタッピング,同期および裏打ちタッピングの継続パラダイムを用いてリズミカルな運動の能力を比較し,外的刺激によるペーシングが運動リズムに及ぼす影響について検討した。【方法】対象は右ききの健常者18名(女性10名,男性8名,平均年齢23.9歳)とした。きき手はエディンバラきき手テストを用いて判定した。被験者は3つの課題を実施した。課題1は自己ペースタッピングであり,外的刺激がない状況で15回の連続的なタッピングをおこなった。課題2は同期タッピングの継続パラダイムであり,15回の周期的な聴覚刺激に同期してタッピングをおこない(ペーシング相),その後に聴覚刺激がない状況で同じペースで15回のタッピングを継続した(継続相)。課題3は裏打ちタッピングの継続パラダイムであり,15回の周期的な聴覚刺激のそれぞれの中間時点に同期してタッピングをおこない(ペーシング相),その後に聴覚刺激がない状況で同じペースで15回のタッピングを継続した(継続相)。課題2,3で用いた聴覚刺激は,刺激強度65dB,刺激周波数750Hz,持続時間25msとした。2つの連続する刺激の開始時点の時間間隔(IOI:inter-onset interval)は1000msとし,自己ペースタッピングで指示する時間間隔も1000msとした。聴覚刺激の入力はViking Quest(Nicolet),聴覚刺激とタッピングの記録はVitalRecorder2(KISSEICOMTEC)を使用した。分析するパラメータは,連続するタッピングの開始時点の時間間隔(ITI:inter-tap interval)の平均値および変動係数とした。課題2と3のペーシング相の比較には対応のあるt検定を用いた。課題1と課題2,3の継続相の比較には反復測定一元配置分散分析とBonferroni法による多重比較を用いた。有意水準は5%に設定し,統計学的な有意差を判定した。【倫理的配慮】研究の目的と方法,個人が特定できないよう配慮したうえで研究成果を公表することを説明した。本研究は本学の倫理委員会の承認を受けて実施した。【結果】課題1のITI系列は半数以上の被験者が1000msより長くなっていた。課題2,3のペーシング相のITI系列は1000msに近接していた。継続相では課題2で1名,課題3で1名が1000msより長いインターバルに外れていた。ペーシング相のITIの平均値は課題2が996.3±3.7ms,課題3が997.3±4.4ms,変動係数は課題2が3.1±0.9%,課題3が3.0±1.3%であり,課題2と3の間に有意差を認めなかった。課題1と課題2,3の継続相のITIの平均値は課題1が1137.0±202.9ms,課題2が1000.7±51.7ms,課題3が1022.8±77.8msであり,課題1と比較して課題2,3が有意に小さくなり1000msにより近づいた。またITIの変動係数は課題1が4.0±1.2%,課題2が3.4±0.9%,課題3が4.0±1.7%であり,課題間に有意差を認めなかった。【考察】同期タッピングはまさに予測に基づき,裏打ちタッピングは反応的要素を含むという相違があるが,ペーシング相では聴覚刺激と同じ周期のリズムを刻むことが優先され運動がなされたと考える。テンポは1分間に60から150回の範囲の刺激で感じるとされている。またMiyakeは注意資源に依存しないオートマチックな運動が1800msより短いIOIの場合に可能であるとしている。1000ms間隔の刺激はテンポを感じやすく,同期および裏打ちタッピングのいずれにおいてもペーシングによりオートマチックな周期運動がなされ,その後のリズミカルな運動の継続も容易であったのであろう。【理学療法学研究としての意義】1秒間隔のペーシングは,1秒で繰り返される運動リズムの正確性を向上させるのに役立つであろう。
  • ―異なる目標発揮筋力による検討―
    滝本 幸治, 竹林 秀晃, 宮本 謙三, 宅間 豊, 井上 佳和, 宮本 祥子, 岡部 孝生, 奥田 教宏, 椛 秀人
    セッションID: 0335
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに】随意運動におけるタイミングと力は動作協応の主要なパラメータであり,両パラメータを同時に評価するため先行研究では手指タッピング課題が用いられてきた。手指タッピング課題による知見として,Inuiら(1998, 2005)は若年者を対象とした検討でタイミング制御よりも力制御の方が難しく,目標発揮筋力が低いほど力発揮の変動が大きくなることを報告している。また,これらの制御能力は加齢とともに低下する(Sasakiら,2011)。一方で,我々の対象者の多くは高齢者が多く,加えて歩行能力の向上に寄与する機会が多い。手指タッピングによる知見は,普段より繰り返し歩行という周期運動を行っている下肢にも該当するのか,確認しておく必要があると思われる。以上のことから,今回は足タッピング課題を用いて加齢の要因に注目し,異なる力発揮がタイミングと力制御に及ぼす影響について検討したので報告する。【方法】対象は健常若年者8名(若年群:平均20.9±0.6歳),健常高齢者6名(高齢群:平均69.2±4.5歳)とし,Chapmanの利き足テストにより全対象者で利き足(測定肢)は右であった。対象者は,股・膝関節90°屈曲位,足関節底屈・背屈中間位の椅子坐位で,利き足の前足部直下に設置された筋力測定装置(フロンティアメディック社製)上に右足部を置いた。対象者は実験に先立ち,同肢位にて足関節底屈の等尺性最大随意収縮力(MVC)を測定した。運動課題は,MVCより算出した5%・10%・20%MVCを目標発揮筋力とした周期的な等尺性足底屈力発揮(以下,足タッピング)である。対象者は,電子メトロノーム(SEIKO社製)により与えられるテンポ音(テンポ間隔500ms)に同期するとともに,目前に設置されたPCモニターに表示される目標筋出力ライン(各%MVCのライン)と自身の筋出力値を視覚的に確認しながら足タッピングを実施した。各%MVCにつき60回の足タッピングを3セット行い,3セット目の50回(11~60回目)の足タッピングを解析対象とした。なお,筋力測定装置により得られたデータはAD変換し,サンプリング周波数1kHzでPCに取り込んだ。データ解析には,力量解析ソフト(エミールソフト開発社製)を用いて各足タッピングの筋出力ピーク値を検出し,2つの連続する筋出力ピーク値より求めたタッピング間隔とテンポ間隔(500ms)との絶対誤差(タッピング間隔誤差),またタッピング間隔の変動係数(CV)を求めた。また,各%MVCと筋出力ピーク値との絶対誤差(筋出力誤差),筋出力ピーク値のCVを求め検討指標とした。統計学的分析として,加齢や異なる目標発揮筋力が足タッピングのタイミングや力制御の正確さに及ぼす影響を検討するため,各検討指標について2(若年群,高齢群)×3(5%・10%・20%MVC)の二元配置分散分析およびBonferroni法による多重比較検定を実施した。いずれも有意水準は5%未満とした。【説明と同意】すべての対象者に,実験に先立ち本研究の目的と方法を紙面にて説明し,同意を得た上で測定を行った。また,実験プロトコルは学内倫理委員会の承認を得た。【結果】タッピング間隔誤差について,年齢要因にのみ主効果を認めた(高齢群>若年群,p<0.01)。タッピング間隔の変動(CV)は,年齢要因にのみ主効果を認め(高齢群>若年群,p<0.01),目標発揮筋力が大きくなるほどその差が縮小する傾向であった。筋出力誤差については,主効果を認めなかった。筋出力ピーク値の変動(CV)は,年齢要因にのみ主効果を認めた(高齢群>若年群,p<0.01)。いずれの検討指標も目標発揮筋力の主効果は認められず,また交互作用も認めなかった。【考察】Brodal(2004)は,加齢に伴う黒質線条体の組織学的変化が皮質-基底核ループの機能不全を惹起し,正確なタイミングや安定した力発揮を低下させると説明している。今回も,高齢群の誤差や変動が大きかったことの背景にはこのような要因が考えられる。また,タッピング間隔の変動について目標発揮筋力が大きくなるほど群間差が縮小傾向にあったが,Tracyら(2007)は若年者では高い強度の力発揮を求められるほど力発揮の安定性が低下すると報告しており,これを示唆する結果となっている。一方で,筋出力誤差では加齢による影響が検出されなかった。これと類似した知見として,我々は第48回本学術大会において足タッピングでは若年者の筋出力誤差が大きくなることを報告した。今回は主効果こそ得られなかったものの,加齢に伴う足タッピングの特性を指し示す結果となった。【理学療法学研究としての意義】加齢の影響を踏まえ,周期的な運動課題条件下で異なる力発揮を求めたときのタイミングや力制御の特性を知ることは,歩行をはじめとした下肢周期運動の機能向上を目的とした介入条件設定の根拠になる。
  • ~リーチング動作における検討~
    内堀 昭宜, 彼末 一之
    セッションID: 0336
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】日常生活における動作では,目的となる対象物に対して常に視線を固定していることは少なく,次の動作のために視線を移動させている。つまり,動作が完結する際には,予測(=イメージ)された動作を行っている。それでは,人はイメージした動作を,どの程度正確に実行できているのだろうか。動作に求められる要因として,目標とする場所に対して動作を遂行することができる正確性(正確度:accuracy)と,その動作を繰り返し遂行することができる再現性(精度:precision)が挙げられる。そこで本研究では,目標地点に対する動作をイメージした上で,視覚情報を遮断し,リーチング動作をおこない,動作の正確性および再現性を明らかにすることとした。【方法】被験者は上肢に運動器疾患のない右利きの健常成人10名とした。目標地点の設定は,椅子座位姿勢でターゲットを体幹部より前方に徐々に離していき,身体を動かさず,手をのばすだけでターゲットに届くと思われる距離を申告させ,その距離を測定した。この際,被験者には実際の動作をおこなわせず,イメージでの最長距離とした。本実験では,イメージにおける最長距離の80%をターゲット距離とした。また,ターゲットの高さは,水平器(KDSオートライン:ムラテックKDS株式会社製)を用いて,各被験者の椅子座位姿勢における胸骨上部の高さと一致させた。ターゲットの位置は,被験者の前額面に垂直な線から左右45°に設定した。リーチング課題は,閉眼状態とし,右手掌面を右大腿部に置いた状態から,左右それぞれのターゲットに対して30回ずつ,計60回の試行をランダムに実施した。課題条件として,各試行後に結果を確認せず,閉眼状態を維持したままスタートポジションに右手を戻すフィードバックなし(No Feedback)条件(N条件)と,結果を確認してからスタートポジションに戻すフィードバックあり(Feedback)条件(F条件)の2条件とした。各被験者はN条件から実施した後,F条件を実施した。N・F条件ともに,各試行開始前にターゲット位置を確認させ,被験者が確認できたと判断してから実施した。リーチング動作は,3次元動作解析装置(Motion Analysis社製)を用いてターゲット位置の座標,リーチング到達地点の座標を解析した。リーチング到達地点の座標は右手示指の内側・外側につけた2つのマーカーの座標を算出し,その平均値とした。また,本実験では,各被験者においてターゲット距離が異なるため,リーチング到達地点からターゲットまでの距離を算出し,ターゲット距離で除す値(正規化距離:%)を算出した。統計学的処理には,統計ソフトウェアSPSS statistics 21(日本IBM社製)を用い,各条件の差の検出を対応のあるt検定(Bonferroni補正)を用いておこなった。【倫理的配慮,説明と同意】すべての被験者に対し,口頭にて本研究の主旨を十分に説明し同意を得た。【結果】各試行における正確性は,F条件:8.2±2.9%,N条件12.3±3.3%であり,F条件で有意に低値を示した(P<0.01)。また再現性は,F条件:2.9±1.0%,N条件:3.3±0.6%であり,各条件間で有意な差は認められなかった。【考察】ターゲットの位置を動作の直前まで目視し,確認していたにもかかわらず,イメージした動作を実行することはできなかった。これはF条件・N条件の間に有意差が認められなかったことから,動作結果のフィードバックの有無にも影響されなかった。これらのことから,イメージされた動作は実行の段階で,一定の動作のばらつきを生じさせる可能性が示唆された。日常生活において頻繁に繰り返されているリーチング動作ではあるが,正確さを意識して行うことは少なく,正確な動作を意識的に行うことがイメージ動作との一致につながると考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は身体運動に関する基礎研究として,イメージ動作と実行される動作の間に生じる不一致を明らかにしたことは,理学療法研究としても非常に意義深いと考える。今後は簡便に実施することができる動作能力検査の指標として活用できる可能性がある。
  • 赤口 諒, 大住 倫弘, 今井 亮太, 平川 善之, 森岡 周
    セッションID: 0337
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】情動は主観的疼痛強度に影響を与える(Ploghaus, 2001)。強い不安状態にあるほど主観的疼痛強度は高値を示し,主に帯状回,島皮質,海馬が関与すると報告されている(Ploghaus, 2001)。また,前帯状回と島皮質は疼痛関連領域の中でも主要な領域であり(Apkarian, 1991),急性痛のみならず慢性痛やアロディニアにも関与している(仙波,2009)。一方,前帯状回および島皮質は疼痛だけでなくあらゆる情動経験に関与すると言われており,妬み経験では前帯状回(Takahashi, 2009),嫌悪経験では島皮質(Singer, 2007)の活動が高くなると報告されている。つまり,嫌悪および妬みは疼痛関連領域と同じ領域で強い活動を示す。そこで,本研究では嫌悪・妬みという否定的情動経験が主観的疼痛強度に及ぼす影響を明らかにする。【方法】対象は健常大学生28名とした。本実験に入る前にHospital Anxiety and Depression(以下:HADS)を用いて,不安・抑うつの評価を行った。情動経験をさせるための嫌悪および妬みのシナリオを被験者本人が主人公となるように男女別に作成した(スライド枚数約130枚,所要時間約7分)。なお,これらは予備実験の段階で目的とした情動が喚起することを実証済みである。疼痛刺激には痛覚計(ユニークメディカル社製,UDH-105)を用いた。刺激部位は前腕の内側(舟状骨より9cm)とした。実験中の疼痛に対する慣れを防ぐため,実験前に47℃,48℃,49℃の熱刺激を5秒間ランダムに10試行(60秒のインターバル)行った。疼痛評価はVisual Analog Scale(以下:VAS)と疼痛閾値を測定した。また,各シナリオの目的とした情動喚起が起こっているかを調べる目的で,VASを用いて情動評価を行った。実験手順は①熱刺激(疼痛評価),②シナリオ課題(情動評価),③熱刺激(疼痛評価),④シナリオ課題(情動評価),⑤熱刺激(疼痛評価)とした。ただし,嫌悪および妬み経験の順番は被験者によりランダムに設定した。統計解析は,疼痛評価(VAS・閾値)とHADS,情動評価(VAS)とHADSの相関関係にはピアソンの相関係数を用いた。また,情動評価の結果が平均以上のものを強く情動喚起した者(情動換気群)とし,その情動評価とHADSの相関関係をピアソンの相関係数を用いて処理した。さらに,課題前と嫌悪課題後と妬み課題後の疼痛評価の比較には一元配散分析および多重比較試験(Tukey)を用いて統計処理した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】実験はヘルシンキ宣言を遵守し行い,被験者には本研究の趣旨を説明し参加の承諾を得た。【結果】疼痛評価とHADSの関係は,疼痛評価(VAS)と不安のみに有意な正の相関関係を認め(r=0.61,p<0.05),それ以外は有意な相関関係を示さなかった。情動評価VASとHADSの有意な相関は認めなかった。しかし,情動換気群においての情動評価(VAS)とHADSの相関関係では,嫌悪と不安において正の相関を認め(r=0.49,p<0.05),妬みと抑うつにおいて正の相関を認めた(r=0.56,p<0.05)。疼痛評価では,VASにおいて課題前に比べ嫌悪課題後および妬み課題後に有意な増加を認めた(p<0.05)。しかし,疼痛閾値では有意差を認めなかった。【考察】疼痛評価とHADSの関係性において,不安のみ疼痛と正の有意な相関が認められた。先行研究において,不安,恐怖を感じやすい者ほど疼痛を強く感じるという報告があることから(Ochsner, 2006),本研究ではそれを支持する結果となった。一方,抑うつ患者は主観的疼痛強度が高まるといわれているにも関わらず(Kobayashi, 2013),抑うつと疼痛の間に有意な相関が認められなかった。これは対象が健常大学生であり,HADSの点数が高値ではなかったためと考えられる。しかしながら,情動換気群の結果より,嫌悪と不安,妬みと抑うつにおいて正の相関があることから,大学生であっても嫌悪・妬みを強く感じた者の中では,不安傾向にある者ほど嫌悪を感じやすく,抑うつ傾向にある者ほど妬みを感じやすいことが明らかになった。さらに,課題前後の疼痛の比較においてVASで有意な増加を認めたことから,嫌悪および妬みの情動経験は主観的疼痛強度を増強させることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】理学療法における疼痛評価は感覚的側面のものが一般化されているが,術後に不安がみられる者ほどCRPSになりやすいと報告されている(Dilek, 2010)。今回,嫌悪や妬みなどの否定的情動が不安・抑うつに関与することが示唆された。ゆえにHADSなどの痛みの情動的側面の評価も行い,否定的情動に影響を及ぼす個人・環境因子を分析することが必要であろう。さらに心理的アプローチを加えることで,否定的情動による主観的疼痛強度の増強を最小限に抑え,疼痛の慢性化を未然に防ぐ可能性を本実験で示すこととなった。
  • 岩坂 憂児, 大友 伸太郎
    セッションID: 0338
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】観察学習は他者の運動を観察することで学習が図られるものであり,学習心理学の分野で研究されてきた。近年では運動観察学習による学習の効果の神経基盤について研究が進められている。Rizzolattiら(1988)はサルのF5領域(人における補足運動野)からミラーニューロンを発見し,これが観察学習の神経基盤である可能性を示唆した。Fadigaら(1995)はポジトロン断層法(PET)を用いた研究で人にも存在することを示唆している。したがって運動観察学習では,ミラーニューロンが活動することで,脳内で観察した運動を自動的にリハーサルし,これが技術の向上に関わっていると考えられる。Erteltら(2007)はこの運動観察を脳血管障害患者に対して介入として導入し,麻痺側の上肢機能が有意に改善したこと,また運動に関する脳領域の賦活を報告し,運動観察がリハビリテーションに有効であることを述べているが,長時間・長期間の介入を実施する必要があり,より運動観察の効果を高めることが今後のリハビリテーション導入には必要であると考えられる。運動観察学習の効果を向上させるための方法として,Maedaら(2000)は観察する動画と実際の上肢の位置が同一であるほうが効果を向上させることができることを示唆している。また,運動観察によって脳内で自動的に運動のリハーサルが起こるならば,実運動と同様に難易度を徐々に高めていく方法が有用であることが考えられる。そこで本研究は,運動観察学習における提示動画の速度変化が学習に及ぼす影響を検討するために実施した。【方法】対象者は専門学校・短期大学に在籍する学生33名とした。課題は手掌でのボール回転課題とし,30秒間可能な限り早く右手で時計回しに回転するように指示した。課題は2回実施し,回転数を測定値として採用した。その後,3分30秒の動画を視聴してもらい,同じ課題を実施した。対象者を視聴する動画ごとにランダムに3群に振り分けた。視聴する動画について3種類作成(再生速度が変化しない動画:通常観察群,再生速度が徐々に上がっていく動画:介入観察群,再生速度がランダムに提示される群:ランダム観察群)し,学生をランダムに割り当てた。統計処理にはRを利用し,二元配置の分散分析を用いた。多重比較検定にはBonferroni法を採用した。有意水準は0.05以下とした。【倫理的配慮,説明と同意】被験者に対して本研究の目的及び介入における効果と身体にかかる影響を文章および口頭にて説明して同意を得た。【結果】介入前後の回転数は通常観察群は30.9±10.5回から33.1±8.4回,介入観察群は35.4±10.2回から40.9±9.6回,ランダム群は30.1±8.1回から32.5±8.6回へそれぞれ変化した。分析の結果,介入前後と群間における主効果は有意差を認めたが,相互作用には有意差は認められなかった。主効果を確認したため,多重比較検定を行なったところ,介入観察群と通常観察群,ランダム観察群の視聴後における回転数に有意差が認められた。【考察】本研究は観察する動画の速度が学習効果に影響を及ぼすかを見たものである。動作観察中の脳活動は実運動と共有している部分が多く,運動観察学習の効果も実運動と似たような傾向を示す可能性が考えられる。したがって簡単な運動の観察から徐々に難易度の高い運動の観察へ変化させたほうが学習効果を高める可能性が示唆される。過去の研究では熟練した運動を観察しているときはミラーニューロンシステムと考えられる部位の活動がより賦活かされることを示している。そのため,観察学習を実施する際に単に同じ動画を観察させるよりも速度を徐々に速めるような画像を提示したほうが学習の定着が高い可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】近年,運動観察に関する効果が検討されている。本研究は運動観察を理学療法に導入し,より高い運動学習効果を保証するための新しい視点を示していると考えられる。
  • 上野 友愛, 木山 良二, 大渡 昭彦, 前田 哲男
    セッションID: 0339
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】これまでの歩行分析で用いられるモデルでは,足部は構造が複雑であり,セグメント間の動きが小さいため,1つの剛体として取り扱われてきた。ヒトの足部は地面に接する唯一部位であり,足部の運動は,足関節を介して脛骨のアライメントを変化させ,下肢全体に波及することが指摘されている。そのため,歩行中の足部の運動を知ることは,歩行における下肢の病態変化を分析するための基礎的な情報として重要である。近年では,歩行中の足部の運動や,機能に関する報告がなされており,一定速度における直線の歩行を分析対象としている。しかし,日常生活では様々な地形に対応するために,速度や方向を変えたり,段差を越えたり,坂道を歩行したりすることが必要である。方向転換動作は動的安定性を保つ中で新しい方向へ進む体の並進や回旋を必要とする歩行の難しい要素であり,足部の制御が必要になると考えられる。しかし,方向転換時の足部の動きを分析した論文は少ない。また,下肢のアライメントには性差が存在することが指摘されている。足部に関する性差を研究した論文は,主に形態学的な側面からの研究であり,歩行中の足部アライメントの性差に関する報告は少ない。よって,本研究の目的は方向転換における足部の運動,およびその性差を明確にすることである。【方法】対象は鹿児島大学に在籍している整形外科的,神経学的疾患の既往のない健常男性15名,および女性15名とした。測定には,赤外線カメラ7台で構成される三次元動作解析装置,床反力計を使用した。対象動作は直線歩行,左右への30°,60°の方向転換動作の5条件とした。すべての動作は右下肢にて床反力計を踏み方向転換を行い,快適歩行にて測定を行った。足部や足関節の運動学を分析するためにHeidelberg Foot Modelを使用し,直径9mmの反射マーカーを被検者の右側の大腿骨外側上顆,大腿骨内側上顆,外果,内果,踵骨,踵骨外側,踵骨内側,舟状骨,第1中足骨底,第5中足骨底,第1中足骨頭,第2中足骨頭,第5中足骨頭,母趾の合計14箇所に貼付し歩行中の足部,足関節の角度を算出した。今回は距腿関節背屈角,距骨下関節回旋角,内側縦アーチ角,外側縦アーチ角,前足部-中足部回旋角,母趾伸展角,COP,足角を算出した。なお,今回用いたモデルの再現性について検討した結果,級内相関係数ICC(1,5)は0.83-0.91(P<0.001)と有意に高い値を示した。データは立脚相の値を時間正規化して算出し,グラフはそれぞれのデータ全員分のデータを加算平均して算出した。COPは立脚相の0%,50%,100%の値をもとに,踵接地からの側方への移動距離を算出して100%の値を比較検討した。足角は立脚中期の進行方向に平行な線と踵骨と第2中足骨頭を結んだ線から成る角度を算出した。統計学的検定には,歩行条件と性差を要因とした反復測定の二元配置分散分析を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,鹿児島大学医学部疫学・臨床研究等に関する倫理委員会の承認を受けた研究である(第199号)。なお,対象者には事前に研究の目的,内容について口頭にて説明を行い,書面にて研究参加への同意を得た。【結果】直線歩行と比較すると,左の方向転換では,距骨下関節と前足部-中足部回旋角の回外,それに伴う内側縦アーチの低下,外側縦アーチの拳上がみられ,右への方向転換では,反対に距骨下関節と前足部-中足部回旋角の回内,それに伴う内側縦アーチ角の拳上,外側縦アーチ角の低下が認められた。歩行速度は方向転換時に遅くなる傾向がみられたが,直線歩行と性差においては平均的だった。距腿関節角,母趾伸展角において性別と歩行条件とに有意な差を認めた。歩行条件においては内側縦アーチ角の最小値以外のすべてに有意な差を認めた。【考察】距腿関節角,母趾伸展角は,女性で関節角度が大きくなり,左への方向転換でより性差がみられた。距腿関節角は,方向転換によって重心の動きが変化するため純粋な底背屈だけでは対応できず,距骨下関節や前足部の動きを利用して方向転換を行っており,足角,関節弛緩性のために,女性の背屈角度が大きくなったと考えられる。母趾伸展角も同様に足角,靭帯弛緩性の影響により,女性の伸展角度が大きくなったと考えられる。また,歩行速度の減少に伴って母趾伸展角が減少するといわれているため,歩行速度による影響も考えられた。【理学療法学研究としての意義】足部の動きはわずかであるが機能障害が生じると他関節への影響が生じることが予想される。今後は足部の動きによって他関節へどのような影響があるかを調査することによってより良い理学療法が提供されるのではないかと考えられる。
  • 野瀬 晃志, 山本 将揮, 伊藤 紀代香, 坂本 考優, 岡本 愛, 福屋 あゆみ, 野坂 沙綾, 法所 遼汰, 谷埜 予士次, 鈴木 俊明
    セッションID: 0340
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】歩行動作において,立脚相の準備段階の筋活動(以下,pre-activation)を記録することにより,踵接地後に荷重するための準備として主にどのような筋が必要なのかを知ることができる。そして我々はその活動が,ヒトの立位姿勢や歩行の調節に必要とされる体性感覚の影響によってどのように変化するのかを検討することで,歩行動作を分析するための基礎資料にしたいと考えている。本研究では,足底の感覚を刺激することによって立脚相の準備段階である下肢筋のpre-activationに及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】本研究の対象は,下肢に運動器疾患の既往がない健常男性10名(20.53±3.6歳)とした。本実験に入る前に,対象者には事前に以下のような感覚検査を行った。まず,人工芝のプレートで足底を2分間擦るように触圧覚刺激を加え(触圧覚刺激),次いで同部位に氷塊による30分間の冷却刺激を各々行った後に,10点法による触覚検査(踵・足底外側・母趾球)を実施した。本実験では足底への感覚刺激直後に歩行を実施する必要があったため,今回の感覚刺激がどのような結果をもたらすのかを事前に検討した。本実験では,対象者に前述した触圧覚刺激,冷却刺激を行った直後にトレッドミル上を6km/hの速度で歩行させた。なお,手順は通常歩行を測定した後,触圧覚刺激後,冷却刺激後の順で歩行を行い,通常歩行のときを10としたと足底感覚をVASでも評価した。歩行中には下肢筋より筋電図と矢状面の下肢関節角度を測定した。筋電図はテレメトリー型筋電計MQ8(キッセイコムテック社)を用いて,内側広筋斜頭,大腿直筋,大殿筋,外側ハムストリングス,内側ハムストリングス,前脛骨筋,腓腹筋内側頭から記録し,対象者の足底に貼付したフットスイッチからの同期信号をもとに踵接地前100msのRoot Mean Square(以後RMS)を算出し,これを本研究でのpre-activationとした。また下肢関節角度は,対象者の上前腸骨棘,大転子,膝関節外側裂隙,外果,第5中足骨頭の計5ヶ所にマーカーを貼付し,側方に設置したデジタルカメラで歩行動作を撮影した(60Hz)後,動作解析システム(Frame DIAS IV,DKH)を用いて股・膝・足関節の矢状面角度を算出した。通常歩行のときと比較して,触圧覚刺激,冷却刺激時のpre-activation,下肢関節角度を比較した。統計学的検討としてはDunnett検定を用い,その際の有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には実験の目的および概要,結果の公表の有無と形式,個人情報の取り扱いについて説明し,同意を得た。なお,本研究は関西医療大学倫理委員会の承認のもとで実施した。【結果】触圧覚刺激後の足底感覚は10点法において,踵部で7.1±4.1点,足底外側で7.6±5.4点,母趾球で6.2±4.2点と感覚低下を認めた。またVASも8.7±2.0cmと通常歩行時と比較して低下した。次いで冷却刺激後の足底感覚は10点法において踵部で1.1±4.9点,足底外側で2.1±3.9点,母趾球で2.1±2.0点であった。またVASでも3.5±1.9cmと低下を認めた。pre-activationについて,触圧覚刺激後にはいずれの筋においても有意な変化を認めなかったが,冷却刺激後の前脛骨筋のRMSが有意に減少した。その他の筋には有意差を認めなかった。また,冷却刺激後においてpre-activationと同時期の足関節底屈角度は有意に増大したが,その他には有意な変化を認めなかった。【考察】トレッドミル歩行ではあるが,今回,冷却刺激後の踵接地前100msの前脛骨筋の筋活動に有意な減少と,足関節底屈角度の増大を認めた。これは足底の触覚鈍麻により足底を床面に平行に接地することで接地面を増大させ,その後の立脚相の準備を行うことが考えられた。また統計学的に有意な差を認めなかったが,腓腹筋内側頭のRMSは増大する傾向にあり,立脚相での足底接地に備えて筋活動が早期から生じることも考えられた。触圧覚刺激によってはpre-activation,下肢関節角度に変化が認められなかったが,これは冷却刺激と比較して足底触覚鈍麻の程度が低かったことが考えられた。【理学療法学研究としての意義】本研究より臨床場面において足底感覚鈍麻を認める患者に対して,前脛骨筋,下腿三頭筋の筋活動変化が足底感覚低下の影響で変化していることも考慮して評価する必要性を理解できた。
  • 稲生 侑汰, 工藤 慎太郎, 下村 咲喜, 冨田 恭輔, 松下 智美
    セッションID: 0341
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】歩行のPre Swing(以下PSw)において推進力を得るためにtoe rockerが作用する。Perryらによればtoe rockerとはTerminal Stance(以下TSt)に足趾が伸展することで足関節底屈筋群,足底腱膜及び足の内在筋の筋張力が高まり,PSwでそれらの筋のelastic recoilによって歩行の推進力を得る機能と報告している。そのため,TStで良好な筋張力を得ることやtoe rockerを起こすためには足関節底屈筋群や足底腱膜及び足部内在筋で足関節,足部を安定させる必要がある。また,青木らによれば糖尿病性神経障害患者で足趾に感覚異常がある場合toe rockerが欠如し,遊脚期に移行すると報告されている。そのため,足趾に感覚異常がある場合は立脚後期で歩行の推進力を得られない。そこで,関節安定性と関連を持つ固有感覚の1つとしてForce Sense(以下FS)に注目した。FSが低下していると足関節捻挫後の症例で足関節不安定性が高いと報告されている(Arnold,2006)。一方,関節位置覚も関節安定性に関与するが,先行研究によればFSは関節位置覚より関節安定性に寄与すると報告されている(Docherty.2004,2006)。今回,FSと歩行においての立脚後期の関係性を明らかにするため,歩行中に足趾が地面をpush offする運動と類似した母趾圧迫をFSの運動課題とした。本研究の目的は立脚後期の力学的パラメータとFSの関係性を明らかにし,FSがtoe rockerにどのように影響するかを証明することである。【方法】対象は健常成人男女40名66肢(男性;52肢,女性;14肢,年齢22.0±3.6歳,身長167.9±7.7cm,体重64.7±11.1 kg)とした。母趾圧迫力の計測には,床反力計(アニマ)を用いた。床反力計上に母趾のみを置けるように自作した測定装置を固定し,3秒間の圧迫における垂直分力を計測した。その際,測定肢位は椅子坐位で,椅子に大腿と骨盤・体幹を固定した状態で実施した。垂直分力から力積を算出し,体重で除した百分率を最大母趾圧迫力とした。最大母趾圧迫力とその値の50%値を目標値とし,対象者の主観でその値を目指して圧迫した際の誤差値を求め,最大母趾圧迫力で正規化し,FSとした。歩行中の運動力学的因子の分析には足圧分布測定器Win-podを用いて計測した。記録周波数は300Hzとし,裸足での歩行を1回計測した。なお,歩行率を113bpmにメトロノームで一定にし,十分な練習後に計測を行った。得られたデータから足底に加わった力を算出し,TSt,PSwの力積を算出した。また,TStにおけるMTP関節最大背屈角度(MTP角度)を算出した。MTP角度の計測は,記録周波数300Hzのデジタルビデオカメラ1台を用いて,側方から撮影し,Image-J(NIH)にて計測した。最大母趾圧迫力,FS,TSt・PSwの力積,MTP角度の5パラメータに関して解析を行った。統計学的手法にはSpearman順位相関分析を用いた。なお,統計解析にはSPSS ver.18を用いて,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,すべての対象者に研究内容に関する説明を行い,紙面上にて同意を得てから実施した。【結果】各項目の中央値はFSで12.7%(4.7-17.9),最大母趾圧力で18.7%(15.9-23.2),MTP角度で56°(51-60.7),TStの力積で143.4%(114.6-164.3),PSwの力積で86.5%(77.2-101.0)であった。FSは最大母趾圧迫力(r=-0.174,p>0.05),MTP角度(r=-0.034,p>0.05),TStの力積(r=-0.054,p>0.05),PSwの力積(r=-0.146,p>0.05)のすべてで有意な相関関係は示さなかった。しかし,TStの力積とPSwの力積では有意な相関関係が示された(r=0.394,p<0.01)。【考察】われわれは,先行研究において,母趾圧迫力と歩行時の立脚後期のパラメータの関係を検討し,母趾圧迫力と歩行の関係性は低いと結論付けている。歩行時のtoe rockerは足趾の伸展によるelastic recoilが力源となる。つまり,足趾背屈による足の内在筋の伸張により,反発力が生じるために,toe rockerが生じると言える。しかし,足の内在筋の筋力が関与しないと考えられたため,その筋緊張を調整している固有受容器が強く影響するのではないかと仮説を立てた。そこで,今回はFSに注目した。しかし,結果からFSとtoe rockerは関係性がなかった。一方,TStの力積とPSwの力積には関係があった。toe rockerは歩行のPSwで起きてることからtoe rockerはTStに依存していることが示唆された。これらのことからtoe rockerは母趾圧迫力,FSに影響されず,TStが寄与している可能性がある。今後は,toe rockerとTStの関係性を深く検討していく。【理学療法学研究としての意義】toe rockerとFSの関係性はなかった。結果からPSwとTStの力積が関係した。従ってPSwはTStに依存している可能性が示唆された。これによりtoe rockerを作り出すためにはTStが重要である。
  • 今泉 史生, 金井 章, 蒲原 元, 木下 由紀子, 四ノ宮 祐介, 村澤 実香, 河合 理江子, 上原 卓也, 江﨑 雅彰
    セッションID: 0342
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】足関節背屈可動性は,スポーツ場面において基本的な動作である踏み込み動作に欠かせない運動機能である。足関節背屈可動性の低下は,下腿の前方傾斜が妨げられるため,踏み込み時に何らかの代償動作が生じることが考えられ,パフォーマンスの低下やスポーツ外傷・障害につながることが予想される。スポーツ外傷・障害後のリハビリテーションの方法の一つとして,フォワードランジ(以下,FL)が用いられている。FLはスポーツ場面において,投げる・打つ・止まるなどの基礎となる動作であり,良いパフォーマンスを発揮するためにFLは必要不可欠な動作であると言える。しかし,FLにおいて足関節背屈可動域が動作中の下肢関節へ及ぼす影響は明らかではない。そこで,本研究は,FLにおける足関節背屈可動域が身体に及ぼす生体力学的影響について検討した。【方法】対象は,下肢運動機能に問題が無く,週1回以上レクリエーションレベル以上のスポーツを行っている健常者40名80肢(男性15名,女性25名,平均年齢17.6±3.1歳,平均身長162.9±8.4cm,平均体重57.3±8.7kg)とした。足関節背屈可動域は,Bennellらの方法に準じてリーチ計測器CK-101(酒井医療株式会社製)を用いて母趾壁距離を各3回計測し最大値を採用した。FLの計測は,踏み込み側の膝関節最大屈曲角度は90度と規定し,動作中の膝関節角度は電子角度計Data Link(バイオメトリクス社製)を用いて被験者にフィードバックした。頚部・体幹は中間位,両手は腰部,歩隔は身長の1割,足部は第二中足骨と前額面が垂直となるように規定した。ステップ幅は棘果長とし,速度はメトロノームを用いて2秒で前進,2秒で後退,踏み出し時の接地は踵部からとした。各被検者は測定前に充分練習した後,計測対象下肢を前方に踏み出すFLを連続して15回行い,7・8・9・10・11回目を解析対象とした。動作の計測には,三次元動作解析装置VICON-MX(VICONMOTION SYSTEMS社製)および床反力計OR6-7(AMTI社製)を用い,足関節最大背屈時の関節角度,関節モーメント,重心位置,足圧中心(以下,COP),床反力矢状面角度(矢状面での垂線に対する角度を表す),下腿傾斜角度(前額面における垂線に対する内側への傾斜)を算出した。統計解析は,各算出項目を予測する因子として,母趾壁距離がどの程度関与しているか確認するために,関節角度,重心位置,COP,床反力矢状面角度を従属変数とし,その他の項目を独立変数として変数減少法によるステップワイズ重回帰分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の実施にあたり被検者へは十分な説明をし,同意を得た上で行った。尚,本研究は,豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認されている。【結果】母趾壁距離が抽出された従属変数は,床反力矢状面角度,足関節背屈角度,股関節内転角度であった。得られた回帰式(R≧0.6)は,床反力矢状面角度(度)=0.015×重心前後移動距離(mm)+0.299×母趾壁距離(cm)-0.211×膝関節屈曲モーメント(Nm/kg)-12.794,足関節背屈角度(度)=33.304×体重比床反力(N/kg)+0.393×足関節内反角度(度)+0.555×母趾壁距離(cm)+1.418,股関節内転角度(度)=0.591×下腿内側傾斜角度(度)-0.430×足尖内側の向き(度)+0.278×股関節屈曲モーメント(Nm/kg)-0.504×母趾壁距離(cm)+1.780であった。【考察】FLにおける前方への踏み込み動作において,母趾壁距離の大きいことが,床反力矢状面角度の後方傾斜減少,足関節背屈角度を増加させる要因となっていた。これは,足関節背屈角度が大きいと下腿の前方傾斜が可能となり,前脚に体重を垂直方向へ荷重しやすくなったことが考えられた。また,母趾壁距離と股関節内転角度との間には負の関係が認められた。これは,足関節背屈角度の低下により下腿の前方傾斜が妨げられるため,股関節内転角度を増加させて前方へ踏み込むような代償動作となっていることが原因である考えられた。この肢位は,一般的にknee-inと呼ばれており,スポーツ動作においては外傷・障害につながることが報告されているため,正常な足関節背屈可動域の確保は重要である。【理学療法学研究としての意義】FLにおける足関節背屈可動域が身体に及ぼす生体力学的影響を明らかにすることにより,スポーツ外傷・障害予防における足関節背屈可動域の重要性が示唆された。
  • 竹下 美都, 山田 拓実, 富安 萌葉
    セッションID: 0343
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】近年,動的バランス能力の評価指標としてFunctional Reach Test(以下:FR)が多く用いられ,転倒予測に有用とされている。これまでFRにおける姿勢制御戦略や足趾機能の関連,筋活動について研究がなされている。前方重心移動課題であるFRにおいて,足関節と足趾機能の影響は大きいと考えられる。しかし,足趾について把持筋力や圧迫力とリーチ距離との関連を示している文献はあるが,足関節と中足指節関節(以下:MP関節)の関節モーメント,関節パワーなどのバイオメカニクス的解析を行っている研究は少ない。そこで本研究では足部に着目し,三次元動作解析装置を用い,関節角度,関節モーメント,関節パワー,筋電図を計測した。特に足部マルチセグメントモデルを使用し,床反力計にはMP関節より前後を分けて乗ることでFRにおける足趾機能の指標を測定した。①通常FR(以下:通常),②足趾非接地(伸展位)でのFR(以下:足趾非接地)の条件での動作を比較検討することを目的とした。【方法】対象は健常成人男女3名で行った。被験者の体表面上にマーカーを貼付し,VICON社製三次元動作解析装置,Kisler社製フォースプレート4枚を用いて計測した。被験者はMP関節を境にプレートに乗った状態で,①通常FR,②足趾非接地FRで計測を行った。得られたデータをバイオメカニクスソフトウエアSoftware for Interactive Musculoskeletal Modeling(以下:SIMM)に取り込み,関節角度,関節モーメント,関節パワーの算出と筋張力を推定した。下肢の筋活動には,日本光電社製多チャンネルテレメーターシステムWeb7000を用い前脛骨筋,腓腹筋外側頭(以下:GS),ヒラメ筋(以下:SL)の筋電図を測定した。予め最大随意等尺性収縮(以下MVC)を測定した。各測定項目から動作を分析し検討した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則った研究であり,被験者には研究の意義・目的について十分に説明し同意を得た後に実施した。【結果】FRを1相:上肢拳上,2相:前方リーチ,3相:リーチ保持,4相:上肢拳上位に戻る の4相に分けた。(通常条件)2~3相で足関節は5°~10°背屈,足趾は5°~7°屈曲していた。2~3相で足関節には24~43N・mの底屈モーメント,MP関節には4.2~8.0N・mの屈曲モーメントが生じていた。足関節パワーは200~300Wで底屈筋群の遠心性収縮を示し,MP関節パワーは15~30Wで足趾屈筋の求心性収縮を示していた。足関節底屈筋群の筋活動は3相で最大となり,GSで75~80%MVC,SLで40~50%MVCを示していた。最大重心移動時の3相では,1相で計測された床反力のおよそ半分である100~130Nの荷重が足趾にかかっていた。(非接地条件)2~3相での足関節背屈角度にはほとんど違いがなかった。2~3相で足関節には10~27N・mの底屈モーメントが生じ,通常条件に比べ減少していた。足関節パワーは100Wで底屈筋群の遠心性収縮を示していた。足趾は25°~30°伸展位となり,0.015N・mの伸展モーメントが生じていた。足関節底屈筋群の活動は3相で最大となり%MVCに大きな違いは見られなかった。手指のリーチ距離は通常条件に比べ3~9cm減少していた。【考察】静止立位の前後方向へのバランスは足関節背屈筋群と底屈筋群によって制御される。今回,GSとSLの遠心性収縮により姿勢制御が行われていることから,動的立位バランスであるFRにおいても足関節底屈筋群の活動が影響していると考えられる。一方,3相では足底全体への荷重量の半分が足趾にかかっている。これに対し,足趾は屈曲し床面を把持することで姿勢制御を行っている。よって,足部において足関節だけでなく足趾での姿勢制御戦略も使われているといえる。非接地条件では足趾で床面を把持することが出来ないため,足関節背屈角度と底屈モーメントを増大させることで姿勢制御すると予想された。しかし実際には足関節角度は変わらず底屈モーメントは減少した。筋電図でも,2つの条件で足関節底屈筋群の筋活動にほとんど差が見られなかった。これは,足趾の働きを足関節戦略で代償するのではなく,前方リーチ距離を短縮し重心移動の範囲を狭めることでバランスを保持したためと考えられる。よって,リーチ距離には足趾屈曲による姿勢制御が大きく関与していることが示唆された。【理学療法研究としての意義】本研究の結果から,FRのような前方重心移動において足趾機能が大きく関与していることがわかった。動的バランス能力を向上させる方法の1つとして,足趾機能にアプローチすることが有用であると考えられる。
  • 岩本 義隆, 服部 宏香, 波之平 晃一郎, 阿南 雅也, 新小田 幸一
    セッションID: 0344
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】超高齢社会となった日本において,高齢者の転倒予防は最重要課題の1つである。人の姿勢制御には前庭系に加え運動系と感覚系が関与し,中でも運動系の足趾運動機能と感覚系の足底感覚の協調は重要である。これらは加齢により低下し,動的バランスに影響を及ぼすとされている。先行研究の中には足部冷却の方法で足趾把持筋力と足底感覚を低下させて,動的バランスへの影響を調べたものもあるが,動的バランスには複数の要因が関与するが,それらの特定や程度は判定はなされていない。そこで本研究は,足趾把持筋力のみの低下がもたらす動的バランスへの影響を明らかにし,高齢者の転倒予防の一助とすることを目的として行った。【方法】被験者は,足趾への運動負荷によって増悪する既往および現病歴のない健常若年男性8人(21.9±0.1歳)であった。急激な牽引による前方外乱を動的バランス課題とし,被験者には2基の床反力計上で静止立位をとり,外乱が加わっても下肢を踏み出さずバランスを維持するよう指示した。また,予測的姿勢制御を防ぐためにイヤホンで音楽を聞かせ,暗幕で外乱装置とその操作者を遮閉した。反復試行による牽引力の予測を防ぐために,重量の異なる重りを無作為に使用して牽引力を変化させ,解析では体重の5%の重りを使用した試行のデータを用いた。外乱が加わった時刻は,腰部に巻いたベルトに貼付したテープスイッチ(東京センサ社製LS-023)からの電気的信号でその他のデータと時間同期させた。課題は,座位で動的バランスの前に体重の5%の重りを負荷したタオルギャザーを10分間行う条件(以下,足趾把持筋力低下条件)と,行わない条件(以下,通常条件)の2条件で行った。動作中の各解剖学的標点計10点に貼付したマーカの3次元空間座標を,CCDカメラ4台からなる3次元動作解析システムKinema Tracer(キッセイコムテック社製)にて収録し,身体重心(center of mass:以下,COM)座標および各関節角度を算出した。さらに,床反力計(Advanced Mechanical Technology社製)2基を用いて,動作中の床反力を記録し,足圧中心(center of pressure:以下,COP)座標を算出した。被験者の形態的特徴を考慮すべき変数に対しては,身長もしくは体重にて正規化を行った。統計学的解析にはSPSS Ver.14.0 J for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿った研究であり,研究の実施に先立ち,本研究を実施した機関の倫理委員会の承認を得た。また,被験者に対して研究の意義,目的について十分に説明し,口頭および文書による同意を得た後に実施した。【結果】COM変位収束時間,COM総軌跡長,COM前方最大変位量のCOM制御に関する変数は2条件間で有意な差を認めなかった。COP前方最大変位量,床反力鉛直成分最大値,床反力後方成分最大値は通常条件と比較して,足趾把持力低下条件で有意に低値を示した(p<0.05)。また,下肢関節(股関節,膝関節,足関節)角度変化量は通常条件と比較して,足趾把持力低下条件で有意に低値を示した(p<0.05)。【考察】COPはCOMを支持基底面内に留めるためにCOMに先回りして動くことが知られている。結果より,足趾把持筋力が低下した場合に前方および下方の床反力を高めることが困難となり,COPによるCOM制御能力が低下したことが推察される。しかし,COM制御は2条件間で有意差がなく,足趾把持筋力低下条件では,下肢関節角度変化を減じた応答を行ったものと思われる。人は動揺に対して,下肢の拮抗筋が協調して収縮し,動揺の大きさや速度に応じて適切な姿勢制御を行っているとされる。しかし,高齢者では協同収縮系に破綻を生じ下肢関節の自由度を減じるような姿勢制御が行われるとされており,足趾把持筋力が低下すると,有意に下肢関節角度変化が低下し,同様の姿勢制御を行っていたと推察される。今回の被験者には転倒者は存在しなかったが,股関節戦略を超える動揺には踏み出し戦略を用いて支持基底面を創生する必要がある。このような条件下での応答は,足趾把持筋力,協同収縮系以外にも様々な身体機能が低下する高齢者にとって非常に困難となり,転倒リスクが大きくなることが示唆される。【理学療法学研究としての意義】足趾把持筋力の低下は,床面への荷重を増したCOP移動によるCOM制御困難とし,関節の自由度を減じる代償動作が生じ,身体機能の低下した高齢者では転倒リスクを高める可能性を示した。これにより,足趾把持筋力トレーニングによる足趾把持筋力向上が転倒と転倒後の外傷の予防につなげる手がかりとして示された。
  • 山口 賢一郎
    セッションID: 0345
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】本邦における平成24年人口動態統計において,肺炎は死亡原因の第3位と報告され,死亡総数に占める割合も9.9%と,非常に高い数値を示している。また,肺炎を罹患する95%を65歳以上が占めているとの報告もあることから,肺炎は在宅復帰後の活動性の低下に大きく関与する疾患の一つであると言える。理学療法分野においても,入院加療を要した肺炎症例や肺炎罹患後の日常生活動作(Activity of Daily Living:以下,ADL)能力低下症例に対し,病院・施設,または在宅にて関わる機会は多く,二次的な身体能力低下の改善に難渋する場面に多く遭遇する。その中で,肺炎症例における当院での取り組みとして「肺炎標準プログラム」があり,理学療法士間での介入の差をなくし,画一的に質の高いサービスを提供するための離床に向けた段階的プログラムの提示を行っている。本研究では,この肺炎標準プログラムに則って介入が行われた症例に対し,在宅復帰要因・病前ADL能力別の離床の特徴を明らかにし,より効果的な理学療法介入の一助とすることを目的とした。【方法】対象は,平成24年5月1日から平成25年9月15日までの間に当院内科病棟に入院加療を要し,離床・ADL向上を目的に理学療法介入があった市中肺炎症例93例(男性59例,年齢81.9±8.8歳)とした。離床までの経過を調査する目的から,入院前ADLが常時臥床状態である症例は除外した。臨床データは,診療録より後方視的に収集し,測定項目は,基本情報(年齢,性別,身長,体重,Body Mass Index:以下,BMI),Barthel Index(以下,BI)によるADL評価,Pneumonia Severity Index(以下,PSI)による肺炎の重症度(合併症の有無を含む),経過期間(安静臥床期間,離床期間(入院から離床獲得までの期間),ADL獲得期間(入院から病前ADLを再獲得するまでの期間),在院日数)とした。離床の定義は,Mundyらによる先行研究より「入院から連続して20分以上の車椅子乗車が可能となるまでの期間」とした。また,理学療法介入は,主治医が定める安静度・中止基準に準じて行われ,肺炎標準プログラムにより離床のプロトコールは統一が図られた。分析は,在宅復帰要因に関して,在宅からの入院となった症例のみを抽出して在宅復帰群と非在宅復帰群との群間比較を行った。また,病前ADL能力別の離床に関する検証に関しては,全対象を病前ADL能力に準じて,A群(車椅子座位),B群(トイレ動作自立),C群(屋内移動自立),D群(屋外を含む全ADL自立)の4つに群分けを行い,さらにそれぞれの群を病前ADL獲得群と非獲得群に分け,群間比較を行った。統計には,統計ソフトR2.8.1を使用し,2群間での群間比較(対応のないT検定,Mann-WhitneyのU検定,χ2独立性の検定)を実施した。いずれも有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,研究計画や個人情報の取り扱いを含む倫理的配慮に関して,ヘルシンキ宣言に則った当院倫理委員会の承認を得て実施された。【結果】在宅復帰群と非在宅復帰群との比較では,年齢(80.2±8.2歳vs 88.3±6.4歳),退院時BI(70.0±32.2(中央値82.5)vs 21.5±33.8(中央値21.5)),認知症の合併率(28.0% vs 70.0%)において有意差が見られた(いずれもp<0.05)。また,病前ADL能力別のADL再獲得に関する検証では,B群とC群のADL獲得群・非獲得群の比較において,離床期間(B群:11.1±6.1日(中央値8.5日)vs 11.3±5.7日(中央値13日),C群:10.9±9.2日(中央値8日)vs 25.0±10.8日(中央値22日)に有意差が見られた(いずれもp<0.05)。【考察】本研究では,在宅復帰要因として年齢,退院時BI,認知症の合併において関連性が高い項目であることが示された。肺炎症例においては,入院を機に在宅生活の維持が困難となり,転帰先が変更となる症例を多く経験することから,上記の項目により在宅復帰困難症例を早期からスクリーニングし,介入を進めていくことの重要性が示唆された。しかし一方では,在宅支援には病前ADLが獲得できているにも関わらず,精神・認知機能の低下や被介護者を取り巻く環境に大きく左右される側面もあるため,家庭環境を含めたより詳細な検証が必要であると考えた。また,病前ADL能力別に見た離床の特徴として,早期離床とADL能力の再獲得には一部の群で関係性が示されたことから,今後はより症例数を増やし,離床やADL獲得までのカットオフ値の算出や病前ADL能力別に肺炎標準プログラムを細分化していくことが課題である。【理学療法学研究としての意義】肺炎症例に対する在宅復帰要因やADL再獲得に至る経過を検証することは,経過が遷延化することが予想される症例を早期からスクリーニングすることに寄与し,より必要性の高い症例に対して効果的な理学療法介入を実現する上で重要である。
  • 筒井 宏益, 藤田 美紀男, 葛城 裕, 山下 大翔, 野原 慎二, 瀬戸口 敬介, 吉岡 優一, 渡辺 充伸, 内賀嶋 英明
    セッションID: 0346
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】肺炎は,平成24年の死因順位別にみると心疾患に続き第3位で,日本呼吸器学会では「2007年成人市中肺炎のガイドライン」が作成され,迅速に病態を把握し治療する試みがされている。その中で,一般療法として適正な抗菌化学療法に安静,栄養,呼吸管理等の全身管理が記載されているが,リハビリテーションに関する直接的な項目はない。今回,市中肺炎患者における,理学療法介入によるADL改善と帰結に影響する要因を検討し,効果的な理学療法プロトコール作成の一助となることを目的とした。【方法】対象は,2011年9月1日から2012年3月31日までに当院で市中肺炎と診断され,入院加療した218例中,理学療法介入し除外基準を満たした124例(男性64例,女性60例)平均年齢79.8±8.7とした。除外基準は,①死亡例②病前の日常生活自立度判定基準がCランクの症例③天井効果により,FIM利得が正確な指標とはならないとされている入院時FIMが108~126点の症例とした。入退院時のFIM利得にて,アウトカム到達群(14点以上)と非到達群(14点未満)の2群に分類し,後方視的に年齢,性別,BMI,ALB,CRP及びWBC,リハ介入時期(入院より理学療法開始までの期間),離床期間(車いす等で20分座位保持可能までの期間),入院時FIM,退院時FIM,1日平均単位数,PSI(市中肺炎重症度スコア),抗菌薬の投与期間,在院日数,総入院費用を調査した。アウトカムのFIM利得の設定根拠として,平成22年度日本リハビリテーショ病院施設協会の疾患別全国平均点数を参考とした。在宅復帰の定義は,介護老人保健施設を除く介護施設や自宅への復帰とする。解析は,2群間はマンホイットニーU検定,カイ2乗検定を用いてアウトカム到達群,非到達群と各項目の関連性について検討した。それに加えて,関連のみられた項目より在宅復帰を従属変数とするロジステック解析分析を行い,オッズ比(OR),95%信頼区間(CI)を算定した。いずれも有意水準は5%とした。【倫理的配慮,説明と同意】データーの収集,解析にあたり匿名化,個人情報保護,研究成果の公表等に厚生労働省の疫学研究に関する倫理指針(平成19年8月16日全部改正)に従って対応した。【結果】アウトカム到達群と非到達群の比較では,年齢(76.7±6.1歳,83.2±6.4歳),ALB(3.4±0.4,2.5±0.3),介入時期(2.5±4.2日,4.2±8.2日),離床開始期間(4.2±3.8日,11.7±4.6日),1日平均単位数(5.15±2.2,2.4±1.2),退院時FIM(84.6±12.4,65.8±6.4),CRP平均値(0.7±0.5,2.45±1.71),重症度(98.4±23.6,86.3±7.7)で有意差がみられた(以上到達群,非到達群)。在宅復帰については,退院時FIM(OR:2.725,CI 1.372~5.516),年齢(OR 1.075,CI 1.012~1.114)離床期間(OR 3.784,CI 1.878~8.325),PSI(OR 2.325,CI 1.115~5.448)との関連がみられた(いずれもP<0.05)【考察】入江は,市中肺炎患者には理学療法士自ら介入目的を定め,可及的かつ適切な負荷の理学療法が肺炎患者に提供できなければならないと述べている。当院の理学療法プログラムとしては,リスク管理下での早期からの適切なポジショニングを含めた呼吸管理,モビライゼーション,運動療法(レジスタンストレーニング,持久力トレーニング),ADL練習などを実施している。今回の調査で,退院時の帰結には社会的背景などの多面的な側面が影響するが,年齢や全身状態,重症度を考慮した理学療法介入で,一定時間の座位保持を早期に獲得できることが,ADL改善に結びつき,在宅復帰につながる可能性が示唆された。さらに,全身状態安定していれば,充実したリハビリテーション提供もADL獲得には効果的である。CRP値は全身状態を反映し,理学療法進行・中止の指標となるため,高値を示す場合は離床時期や運動負荷量を検討する必要がある。また,適切な抗菌化学療法との併用は,理学療法の効果を高め,ADL改善にも有効であると思われる。市中肺炎のリハビリテーションにおいては,多職種での包括的な取り組みや連携が必要である。今後は,多施設間共同研究も視野に入れ,ガイドラインに記載されるような市中肺炎の理学療法プロトコール確立を目指していきたい。【理学療法学研究としての意義】市中肺炎患者の理学療法介入における,ADL改善と帰結に影響する要因を検討することで,在宅復帰に向けて治療プログラムの正確なアウトカムが設定でき,効果的な理学療法の提供が可能になると思われる。
  • 阿南 裕樹, 俵 祐一, 千住 秀明
    セッションID: 0347
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】2011年に日本呼吸器学会より医療・介護関連肺炎(NHCAP)という新しい疾患概念が提唱され,ガイドラインに沿った診療が開始されている。当院でも人口の高齢化,近隣の医療・介護施設の増加にともないNHCAPの患者受け入れが増加している。我々はこれまでにNHCAP患者のデータベースを作成し,患者の特徴,入院長期化の要因の検討を行い,嚥下機能の低下により入院中に食事形態を変更した患者が入院長期化する傾向を明らかにした。嚥下機能低下による入院長期化予防対策立案のため,本研究では入院中に嚥下機能低下したNHCAP患者の特徴について検討を行った。【方法】対象2012年4月から同12月までに当院で入院加療および理学療法介入を行った75歳以上のNHCAP患者94名のうち入院前に経口食事摂取を行っていた65名(男性28名,女性37名,年齢88.1±6.7歳)である。方法患者背景,臨床経過をカルテより後方視的に調査した。評価項目は,年齢,性別,入院前の生活自立度,基礎疾患の有無,認知症の有無,食事中のむせの有無,入院時検査所見,理学療法介入までの日数,入院後初回座位実施までの日数,転帰とした。生活自立度はパフォーマンスステータス(PS)にて評価した(グレード1:歩行および軽作業が可能,グレード2:歩行および身辺動作が可能,グレード3:身辺動作の一部が可能,グレード4:体動困難および寝たきり)。退院時に食事の経口摂取が可能であった患者を食事形態維持群(維持群),経口摂取が困難と判断され食事形態を変更した群を食事形態変更群(変更群)とし,2群間で評価項目を比較した。各群の比較には対応のないt検定および,カイ二乗検定を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の内容は,当院倫理委員会の承認を得て実施した。ヘルシンキ宣言に基づき,個人情報の保護を厳守した。【結果】維持群は46名(男性18名),年齢88.1±7.5歳,変更群は19名(男性10名)で年齢88.0±4.6歳であった。年齢に有意差は認めなかった。入院前の生活自立度は維持群,低下群でそれぞれPSグレード1:(4名,0名),グレード2:(3名,0名),グレード3:(8名,2名),グレード4:(31名,17名)であった。基礎疾患に関しては,脳血管疾患の既往がある患者は維持群で28.2%,変更群で47.3%であった。認知症の有病率は維持群で84.8%,変更群で78.9%,入院前より食事中のむせが認められていた患者は維持群で43.5%,変更群で57.9%であった。入院時検査所見は,維持群と変更群でそれぞれ発熱:(37.6±0.9℃, 37.1±1.0℃),CRP値:(8.0±7.1mg/dl,7.4±7.4mg/dl),Alb値:(3.1±0.5g/dl,2.8±0.6g/dl)であり,各項目に有意差を認めなかった。入院後,理学療法介入までに要した日数は維持群で2.2±1.9日,変更群で2.3±3.0日,初回坐位実施までの日数は維持群で4.6±6.1日,変更群で8.0±12.4日であり,それぞれ両群間に有意差は認めなかった。3日以内に坐位実施できた患者の割合は維持群で56.5%,変更群で21.0%であった。【考察】本研究により,変更群で入院前の生活自立度が低い患者,既往に脳血管疾患をもつ患者,食事の際のむせを指摘されていた患者の割合が高かった。これらの背景を持つ患者は入院中に嚥下機能低下をきたす可能性が高く,早期からの機能低下予防対策が必要だと考えられる。両群間で理学療法介入までの日数,坐位実施までの日数に差は認めなかったが,変更群の多くが坐位実施までに4日以上かかっていた。臥床状態が嚥下機能低下に及ぼす影響については過去に報告があり,早期から坐位を実施できたことが嚥下機能低下の予防につながった可能性が示唆される。只,NHCAP患者はその背景が多彩であるため,嚥下機能低下の原因も様々であると予測される。今後,NHCAP患者への理学療法介入にあったては早期離床に加え,個々の患者に対する嚥下機能評価に基づいた機能維持・改善のためのアプローチを取り入れていくことが必要だと考える。例えば,脳血管疾患患者に対する呼吸筋トレーニングが嚥下機能の改善をもたらしたとの研究報告もあり,今後NHCAP患者に対する応用が期待できる【理学療法学研究としての意義】高齢肺炎患者は今後も増加すると考えられるが,本研究は肺炎治療に対する早期からの理学療法のエビデンス構築の一助になると思われる。また,今後のNHCAP患者に対する理学療法の課題を提示した。
  • 筋萎縮性側索硬化症の症例報告
    関塚 修久
    セッションID: 0348
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】摂食・嚥下訓練には食物を使用する直接訓練と食物を使用しない間接訓練がある。理学療法士が臨床において摂食・嚥下障害患者に対してアプローチするのは主に間接訓練であることが多い。摂食・嚥下障害に対して頚椎の可動性など咽頭圧に関与する要素に対して治療介入する場面は多いが喉頭蓋と解剖学的に連続性がある舌骨の挙上が関与する前頸部への介入に関する報告は少ない。今回,筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)患者に対して14ヶ月の介入期間中,前頸部に対して徒手的介入と電気治療を行い反復唾液嚥下テスト(以下RSST)を指標として継続的に嚥下機能を評価したのでここに報告する。【方法】対象は筋萎縮性側索硬化症,74歳男性。平成20年に発症し人工呼吸器管理。楽しみ程度の嚥下を希望されている。平成24年8月から週2回の訪問リハビリを開始。開始1年後より徐々にALS症状進行してきた。現在,端座位は監視で可能。ADLは更衣部分介助でその他は全介助。なお,介入前は前頸部に対するアプローチは行っていなかった。実施期間は14ヶ月,実施回数計62回であった。口腔ケア・呼吸理学療法にて排痰を行った後,イトーEMS-360伊藤超短波株式会社製にてEMSモード45~50mAで10分間の治療を行った。その後,下顎先端後面の顎二腹筋付着部に対して検者の2,3指で緊張の緩みを感じるまで約1~2分程度の圧迫を行った。同様に顎下腺,耳下腺に対しても同様の徒手的アプローチを行った。一連のアプローチ後RSSTを測定した。RSSTの可能回数を正常範囲とされる3回以上と2回以下の2通りに分け,①それぞれの遂行回数と総実施回数に対する割合(遂行率)と介入後の持続効果の指標として実施期間である14ヶ月をそれぞれ前・後期7ヶ月毎に分け,②RSST3回遂行可能率を前・後期ごとに抽出した【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づき被検者に研究内容や目的について説明を行い,同意を得てから行った。訪問時,本人の意向での拒否や痰が多い場合は手技そのものを行わなかった。【結果】14ヶ月間,実施回数計62回の結果,RSST2回遂行回数は34回,RSST3回遂行回数は28回でありRSST2回遂行率56%,RSST3回遂行率44%であった。また,3回遂行可能率は前期25%,後期で54%であった。【考察】進行性疾患であるALSは嚥下機能も球麻痺症状を呈し誤嚥のリスクが多いとされる。今回人工呼吸器管理ではあるが嚥下の希望があり楽しみ程度の嚥下は行えていた症例に対して徒手的介入と物理療法でアプローチした結果,正常範囲であるRSST3回遂行可能率が44%であった。また,後期に3回遂行可能回数が多いことからアプローチの効果も徐々に出現してきたとも考えられる。咀嚼筋は赤筋が多く疲労しにくい特性はあるが,収縮しない状態が続くと伸張性の低下のリスクもある。介入前は前頸部へのアプローチを行っていなかったことを考慮すると廃用性の収縮不全があり,14ヶ月間の前頸部へのアプローチにより舌骨挙上に有利な環境が整えられたとも考えられる。【理学療法学研究としての意義】高齢化社会が加速する現在,摂食・嚥下障害に対して様々な職種が関与している時代になった。今後,訪問リハビリでも理学療法士が摂食・嚥下障害者を担当するケースが増加してくることも考えられる。その一方で摂食・嚥下障害の要因は多様性を呈しており,その改善方法も多様であり個人差がありエビデンスが確立しにくい分野であることも日々感じている。今回のように理学療法士の専門性でもある徒手的・物理療法的にアプローチし改善する例も今後考えられるのではないだろうか。今後は誤嚥性肺炎の予防も含めた各職種の包括的なアプローチの中で専門職として摂食・嚥下障害患者に介入していくことが肝用と考える。
  • 摂食条件間での嚥下活動の解析
    内田 学, 加藤 宗規, 桜澤 朋美
    セッションID: 0349
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】脊髄小脳変性症(以下,SCD)は常染色体優性遺伝の異常と捉えられ,進行性の小脳失調に加えて痙性麻痺やジストニアなどの他系統変性を示す。構音,嚥下障害の頻度は高く誤嚥性肺炎,窒息をきたす事が多く生命予後に大きな影響を与える。有病率は10万人あたり約18人程度と報告されており治療方針が未解明である事から現在でも増加傾向を示す神経難病の一つである。SCD患者は舌,四肢,体幹に運動失調を認め,主要な障害として振戦,測定異常などの機能障害を有している。このように,運動器官として姿勢に影響を与える状態で箸や皿などの操作を行うことは円滑な食事自己摂取を抑制する大きな因子となっている。また,嚥下機能としての制限にもつながっており多くの患者が誤嚥性肺炎を発症させているものと考えられる。本研究では食事摂取時の姿勢の影響と上肢操作の因子が嚥下関連筋の作用に与える影響について検討する事を目的とする。【方法】対象は,脊髄小脳変性症患者12名(男性5名,女性7名)でありICARSは9点から35点で,全員が舌,上下肢,体幹に運動失調を有していながらも現在でも食事を自己摂取する者とした。平均年齢53.2±5.8歳,平均身長164.1±4.4cm,平均体重54.8±3.5kgであった。測定は,受動的食事と能動的食事の2条件を測定した。受動的食事は,1随意的に安定性のある正中位を保持した姿勢,2正中位から体幹失調により逸脱した不良姿勢,3ヘッドレストにて支持した座位姿勢の3条件とした。能動的食事は1クッションなどで正中位を保持させた座位姿勢と,2体幹と上肢に失調を認める不安定座位の2条件とした。全ての条件で嚥下時の筋活動を表面筋電図にて記録し積分値を算出し,20嚥下の平均値をその条件での測定値とした。被検筋は,嚥下の作用を最も反映すると言われている顎二腹筋,胸骨舌骨筋とした。また,頭頸部の姿勢保持筋の作用として胸鎖乳突筋も測定した。嚥下活動は摂取する量により変動するため,試料は増粘剤にて粘性を増した水分5ccに統制した。受動的食事は介助にて摂食させ,能動的食事は自己摂食とした。【倫理的配慮,説明と同意】研究に際して東京医療学院大学倫理審査委員会の承認を得ており(13-07H),対象者に対しては書面にて研究の趣旨などの説明を行い,同意を得た者に対して測定を実施した。【結果】嚥下時筋活動の積分値として,受動的食事では,正中位,不良姿勢,ヘッドレスト支持の順に顎二腹筋で0.36±0.09mV,0.22±0.06mV,0.34±0.04mV,胸骨舌骨筋で0.07±0.02mV,0.03±0.01mV,0.06±0.03mV1,胸鎖乳突筋で0.24±0.07mV,0.52±0.13mV,0.18±0.03mVであり,全ての群間で不良姿勢での筋積分値は有意な差を認めた(p<0.05)。能動的食事では正中位座位,不安定座位の順に顎二腹筋で0.29±0.11mV,0.12±0.03mV,胸骨舌骨筋で0.14±0.06mV,0.07±0.02mV,胸鎖乳骨筋で0.22±0.05mV,0.55±0.19mVであり,不良姿勢は全ての群間で差を認めた(p<0.05)。【考察】SCDにおける嚥下機能は,上肢の操作性と頭頸部の安定性や姿勢の影響により変容する事が示唆された。SCDの摂食動作に多く見られる頸部の過屈曲姿勢は,上肢や体幹の不安定性を補わせる為の代償手段である。運動失調を背景とした機能異常は食事場面において上肢での円滑な箸やスプーンの操作を困難にし,頸部を過剰に屈曲させる事でスプーンや皿に口腔を近づけるという手段で摂食を遂行する。この過屈曲姿勢は,本来嚥下機能として関与しなければならない顎二腹筋や胸骨舌骨筋の活動が姿勢を保持する為の固定筋として作用する運動に変化しているものと推察される。この顎二腹筋と胸骨舌骨筋の姿勢代償作用は結果的に嚥下機能としての活動を抑制していることになるものと考えられた。受動的に摂食を行う際にも安定性のある姿勢での摂食が嚥下活動には有利であると考えられ,不安定な姿勢では嚥下関連筋が姿勢保持筋として作用するため嚥下としては機能障害が発生する傾向が示された。【理学療法学研究としての意義】SCDの運動失調に対する直接的な嚥下機能改善のための理学療法は,即時的な効果が得られにくく,進行性であるがゆえに誤嚥に対する介入も積極的には行われていない現状である。今回の結果は,SCDの誤嚥発生に関するメカニズムとして若干の見解が得られた。環境設定を考慮する事でも誤嚥を抑制できる可能性が考えられる。我々,理学療法士が運動の特性として把握する運動失調や姿勢調節障害などの視点を食事場面に向けるだけでも誤嚥発生率を抑制できる可能性があり,今後,継続的に研究を進めていく事が必要であるものと考えられた。
  • 古田 哲朗, 貫井 幸恵, 高木 秀明, 我妻 裕美, 森田 昌男
    セッションID: 0350
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/05/09
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    【はじめに,目的】在宅で非侵襲的人工呼吸器(以下NPPV)を使用している人数は,年々増加しているが,理学療法士(以下PT)がNPPV導入に関わるかは施設によって異なる。当院でも,数年前から,呼吸に問題を抱えている重症心身障害児・者や神経筋疾患患者に対して,在宅でのNPPV導入が行われ,PTも関わることもあったが,関わりにばらつきがあり,導入後の管理も十分にされていなかった。そこで,医師,看護師,PTでチームを編制し,在宅でのNPPV導入とその後の管理を当院で実施していく取り組みが2013年度から開始された。その中で,NPPV導入の際にPTという職種が関わる意義は大きいと感じてきた。今回,これらの取り組みでのPTの役割や介入意義をまとめるとともに,NPPV導入が行われた症例の特徴や,どのような効果がみられたかを調べ,今後の課題をまとめることを本研究の目的とした。【方法】方法1)NPPV導入時の,取り組みの流れやPTの役割を,2012年度以前と2013年度以降とでまとめ,在宅導入率(導入を試みた全症例中,実際に在宅で使用された割合)を比較した。方法2)対象を,2013年度以降に在宅NPPV導入目的で入院した重症心身障害児・者や神経筋疾患患者6名(平均年齢21.5歳/男性3名,女性3名)とした。まず,NPPV導入前の睡眠時のSpO2,tcPCO2,脈拍数などのバイタルサイン(以下,バイタル)を経皮酸素・二酸化炭素モニター(TOSCA®)にてデータ抽出した結果をまとめた。次いで,NPPV導入前後の睡眠時バイタルの平均値,最低値,最高値などをそれぞれ比較した。また,NPPV導入の目的や使用方法についてもまとめた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の実施にあたり,対象者またはご家族に十分な説明を行い,同意を得た。データをまとめる際には,シリアル番号で管理し,個人が特定できないように行った。【結果】結果1)2012年度以前はPTの役割が主に「マスクフィッティング」のみだったのに対し,チームが編制された2013年度以降は,「マスクフィッティング」に加え,「呼吸状態の評価」,「バイタルデータや呼吸器データの抽出,分析」,「呼吸器設定の検討」と,役割の幅も増え,入院中に医師,看護師と定期的に話し合う機会も設けられた。在宅導入率も,2012年度以前が80%だったのに対し,2013年度以降は100%となった。結果2)NPPV導入前の睡眠時バイタルの結果は,低酸素血症(以下,低O2)のみみられた症例が1名,低O2と高二酸化炭素血症(以下,高CO2)のどちらもみられた症例が3名,問題がみられなかった症例が2名であった。導入前後での比較では,低O2の改善がみられた症例が4名,高CO2の改善がみられた症例が1名であった。NPPV導入の目的や使用方法については,睡眠時に低O2や高CO2がみられた症例は,その改善を目的に睡眠時に常時使用し,睡眠時バイタルに問題がない症例は,リハビリテーション目的(肺の伸展,換気促通,肺炎予防)で,夜間または日中の2~3時間程度の使用となった。【考察】導入率においては,2013年度以降は100%と,全症例に導入できる結果となった。チーム体制が整い,各職種の役割が明確になると共に,計画的に取り組めるようになったこと,PTの呼吸状態の評価が呼吸器設定に反映されるようになったこと,話し合う機会が定期的に作られたことで,評価結果の共有や相談が密に行われたことなどが要因であると考える。バイタルの結果については,高CO2が改善したのは1名にとどまった。これは,十分な換気を促せるまでの呼吸器設定に至らなかったことが原因と思われる。どの症例も初めてのNPPV導入であり,はじめから高い圧で換気することで不快感につながることへの懸念やリーク量を抑えるため,慎重な圧設定になってしまったことが考えられた。導入時は,まずは継続的に使用できることを最優先に考えるが,主目的が低O2や高CO2の改善の場合は特に,入院中や導入後のフォローの中でどこまで最適呼吸器設定を追求していけるかが課題である。リハビリテーション目的での導入の効果については,呼吸器感染症での入院回数の減少などが指標になるため,長期的に調べていく必要があると考えた。【理学療法学研究としての意義】NPPV導入において,チームで関わることが重要であり,また,呼吸状態の評価をする機会が多いPTという職種が関わっていく意義は高いと考える。今回は症例数が少なかったため,統計的な効果検証はできなかったが,今後もNPPV使用者が増えていくことが予想される中,今後もデータを収集し,長期的な効果についても継続して調べていくとともに,PTが関わる意義を深めていきたい。
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