地球上のすべての生命が海洋に誕生したことは,今や周知のとおりである.そしてまた,生体内に最初の骨を作った生命も海洋生物である.海洋生物が手にした骨形成機構は,生命の形を留めるのに有効であるだけではなく,群生構造物として地球環境を左右する造礁サンゴのような生物への進化を導いた.また獲得した骨形成機構を,個体の中で巧みに骨格や歯など様々な骨に分化させて,やがて生命としての形の維持と行動における柔軟性を併せ持つ脊椎動物の誕生に至った.生命が生活環境の変化に呼応して進化する中で,体の様々な部位に骨を形成することができるのも,骨を作る細胞が未分化の状態で体中に分布していることに起因する.このことは生命が環境の変化に呼応して骨を形成する仕組みを獲得し,進化の階段を上り詰めてヒトにまで進化した証である.しかしこの骨形成機構には時々不具合が生じる.それは元来形成されない部位で骨が形成されてしまう,異所性石灰化という現象である.最近になって,培養細胞において紫外線がこの現象を誘導することが示された.したがってこの現象がヒトの皮膚でも起っている可能性が考えられる.本稿では無脊椎動物から脊椎動物への進化における骨形成機構の獲得を通して紫外線により生じる細胞のカルシウム蓄積現象について考察を行い,最後にこの現象に対する抑制手段として海洋深層水利用の可能性を書き添える.
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