海洋深層水研究
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2 巻, 1 号
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  • 稲葉 栄生, 勝間田 高明, 安田 訓啓
    2001 年 2 巻 1 号 p. 1-8
    発行日: 2001/07/20
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    駿河湾口東部において15ヶ月間の長期に亘る係留式ADCP観測により取得した資料の最下層である300m層の流動および水温の解析を行って, それらの変動の実状を調べた.その結果, 流入と流出の最大値は57cm/secと40cm/secで, 全期間の平均流は1cm/sec以下の極めて小さい値である.水温の最大値と最小値は12.7℃ と7.0℃ で, 変動幅は5.7℃ に及ぶ.これらを高知県室戸岬沖の320m層の観測値と較べると, 同湾は最大値で2.9℃ 高く, 最小値で1.1℃ 低く, 変動幅は4.0℃ も大きい.流動は短周期では半日および1日の潮汐, 中周期では18日と37日が卓越し, 長周期は微弱である.水温は短周期では半日および1日の潮汐, 中周期では25日が卓越する.同湾の300m層の流動および水温は内部潮汐の影響による潮汐周期と黒潮変動の影響による中周期変動, さらに水温には季節変動も加わって時間変動が激しい.従って, 同湾300m層海洋深層水は必ずしも低温安定性に富むとは言えない.
  • 平山 伸, 大久保 精二, 宮坂 政司, 天野 秀臣, 熊谷 嘉人, 下條 信弘, 柳田 晃良, 岡見 吉郎
    2001 年 2 巻 1 号 p. 9-14
    発行日: 2001/07/20
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    富栄養化海水の有効利用の一環として, 不稔性アオサ属植物 (Ulva) からの有価物生産を狙いに, アオサ属植物の培養生産設備と有効成分について検討を行った.試作した培養装置により, 実海域でアオサ属植物の増殖速度は20g/m2・dと高い値を示した.また, アオサ属植物の有効利用法の開発のため, アオサ属植物に含まれるD-システノール酸の精製標品を用いて生理活性を評価したところ, 活性酸素抑制効果と共に, 中性脂肪 (トリグリセリド) 抑制効果が認められた.上記結果から, D-システノール酸は活性酸素や中性脂肪等の成人病初期原因物質に対し, 抑制効果が存在することが認められ, 健康食品や医薬品原料等として利用が期待される.
  • 高木 邦明, 稲村 達海, 宮田 崇, 和田 卓, 五十嵐 保正, 萩原 快次, 祐田 泰延
    2001 年 2 巻 1 号 p. 15-21
    発行日: 2001/07/20
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    海洋深層水は現在多くの分野で活用が進められているが, 医療分野においてはアトピー性皮膚炎の海水浴療法の改善法として治療に用いられている.アトピー性皮膚炎は多種類の免疫系細胞がその発症に関与している.患者は血液中の抗体 (IgE) の濃度や炎症に関わる細胞種の違いから, IgE値の高いTh 2 (液性免疫) 優性型とIgE低値のTh 1 (細胞性免疫) 優性型に分類されている.本論文では海水中のマクロファージ活性化物質を解析し, その有力な1因子としてエンドトキシンを同定したので報告する.
    海水中のマクロファージ活性化物質は本研究で表層より深層水の中に多く存在していることが明らかとなった.治療例から, 患部の免疫担当細胞がエンドトキシンにより活性化され, Th 2優性型からTh 1優性型にThバランスが変化することにより, Th 2優性型のアトピー性皮膚炎患者においては症状の改善がみられ, Th 1優性型の患者においては悪化すると推定される.
  • 三森 智裕, 中島 敏光
    2001 年 2 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2001/07/20
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    近年海洋深層水は水産業, 冷房などの冷熱利用, また淡水などの製品開発に利用されている.汲み上げられた深層水を無駄なく使い切ると言う観点からも, また深層水利用施設の低コスト化という観点からも, 深層水の多段利用システムは重要である.本研究では多段利用システムの構築の際に必要であると思われる, 深層水利用システムの持っ熱エネルギーと栄養塩の供給能力を, 高知県, 富山県, 沖縄県の施設をモデルとして算出した.
  • 板東 晃功, 松本 吉倫, 大塚 耕司
    2001 年 2 巻 1 号 p. 29-38
    発行日: 2001/07/20
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    海洋深層水を洋上で取水する場合, 洋上型施設と取水管の接合部に働く荷重の推定が課題となる.本研究では大口径かっ下端フリーのような取水管の特徴を考慮した動的挙動解析法を開発し模型実験により本手法の妥当性を検討した.
    揺れ止まりからの移動距離によって瞬時瞬時の流体力を推定することの出来る双子渦モデルを提案し, 実験値と比較した結果精度良く推定できることがわかった.
    管内流の影響は, 管内流体の運動量の変化, 管内摩擦, 管内圧の減少, 取水口における反力の要素によって表すことができる.本解析法は正弦振動する取水管の運動を精度良く推定でき, 非正弦振動にも適用できることがわかった.
  • 黒山 順二, 筒井 浩之, 三森 智裕, 安川 岳志, 豊田 孝義, 中島 敏光
    2001 年 2 巻 1 号 p. 39-47
    発行日: 2001/07/20
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    静岡県は, 駿河湾における海洋深層水の有効利用事業として2000年8月に取水管の敷設を行い, 焼津沖の石花海 (せのうみ) 海盆における深度397mおよび深度687mに海洋深層水取水口を設置した.海洋科学技術センターは当事業計画の効率的な推進に資するため, 取水管工事着工以前の1999年11月8日から約3ヵ月間, 焼津沖の深層水取水予定海域において, 流動特性を把握する調査を実施した.
    調査結果として, 多層深度で得られた流速等の解析から, 半日周期および1日周期の潮汐変動の他に, 数日~10日程度の周期的な流動変動が存在し, これらの変動が数百メートルの深部にまで及ぶことが分かった.また, 各流速成分の鉛直分布から, 約250m以浅の表層では南西向きの流れが, それ以深では北向きの弱い逆流が存在し, さらに絶対流速に対する時間平均値および標準偏差の鉛直分布から, 700mを超す深部でも予想以上に大きな周期的流動変動が存在することが示唆された.
  • 乃万 俊文, 明田 定満, 奈倉 昇
    2001 年 2 巻 1 号 p. 49-55
    発行日: 2001/07/20
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    表層の密度小の海水を何らかの方法で深層に押し込んだ場合, 押し込まれた表層水は深層の密度大の海水と混ざり合って表層水より密度大深層水より密度小の混合水塊となる.この水塊は連続成層のある場合, その密度に応じた密度の位置 (水深) のところまで上昇する.このように深層水そのものではないが表層水と混ざった深層海水が上昇することになる.海洋における密度構造 (連続成層) の存在を利用することによって栄養塩に富む深層水を連続成層中のある位置まで上昇させることができる.押し込むためのエネルギーとして波浪を利用し平均水位の上昇を図り, 位置のエネルギーでもって表層水を深層部に押込み噴出させ得られた混合水塊をその密度に応じた位置まで上昇させることによる深層水湧昇について検討する.
  • 藤田 大介
    2001 年 2 巻 1 号 p. 57-64
    発行日: 2001/07/20
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    北海道南西岸の磯焼け地帯の転石を2基の屋外水槽 (小型巻貝区と対照区) に入れ, 11℃ に加温した富山湾深層水 (取水水深321m) を流して植生変化を調べた. 当初, サンゴモが広く覆い, 小点状のイソイワタケとマクサなどの匍匐体だけが認められた. 小型巻貝区では摂餌により珪藻が除去され, 転石の下面, サンゴモの藻体間や突起間および貝殻から計16種の海藻が生えた. ダルスは全長30cm, ホソメコンブは160cmまで成長, 成熟し, マクサも5cmまで伸びた. イソイワタケがその被覆面積を広げ, 被度約10%に達した石もあった. 一方, 対照区では珪藻が著しく繁茂し, 海藻は殆ど伸びず, サンゴモは半年後も生きていたが, 7ヵ月目に小型巻貝を入れると珪藻が除去され, イソイワタケやマクサが成長を始めた. 本試験と既報の表層海水 (自然水温) を用いた試験により, この磯焼け地帯の海藻植生回復には栄養塩と中程度の撹乱 (小型巻貝の摂餌) が必要と考えられる.
  • 森岡 泰三, 堀田 和夫
    2001 年 2 巻 1 号 p. 65-71
    発行日: 2001/07/20
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    海洋深層水を用いたハタハタの親魚養成が可能かどうかを明らかにし, 養成技術の向上を図るため1999年6~12月に1歳魚の産卵試験, 使用飼料の違いが成長成熟に及ぼす影響および生殖腺の発達過程調査を水温約5℃ で行った.産卵試験では生残率84%で雌の43%が天然よりも2ヶ月早期に産卵した.餌料試験では配合飼料を用いたA群が生餌を用いたB群よりも成熟率が高かった.生殖腺調査では成熟開始が8月であり平均全長15.5cmの雌13.8cmの雄が成熟したと推定された.海洋深層水を用いた親魚養成は可能である.産卵期が早いことは早期に種苗生産を行うことで天然よりも大型の稚魚を放流できることを意味する.成熟率を高めるには餌料を考慮し8月に成熟が始まるように成長を促進させる必要があると考えられた.
  • 池谷 透, 中谷 誠治, 深堀 芳雄, 西岡 純, 武田 重信, 川延 京子, 高橋 正征
    2001 年 2 巻 1 号 p. 73-86
    発行日: 2001/07/20
    公開日: 2011/07/01
    ジャーナル フリー
    沖縄本島の南方沖合で取水した表層水と海洋深層水をメソコスム内で混合して太陽光下で培養し, 主要栄養塩類, クロロフィルa (Chla), ミクロ植物プランクトン相の変化を調べた.実験は1999年9月と10月の2回実施し, 実験1では培養開始時に800mの深層水を13および27% (体積比) で表層水と混合し, 実験2では400mの深層水を0.6および1.2%ずつ毎日添加した.両実験では, 硝酸塩濃度で0.15μM日-1以上の深層水添加によって, クロロフィルa 濃度が5~7日間の誘導期の後に硝酸塩添加量に比例した比増加速度で増加し10~12日間で最大に達した.その結果, クロロフィルα は硝酸塩1モルあたり1.4g増加した.また, 培養開始時には15%程度であった粒径2μm以上のクロロフィルa 画分が70%以上に増加し, ナノ・ミクロ植物プランクトンの選択的な増殖促進が示唆された.原水の表層水中に極めて少数存在した珪藻類の一部の種の急速な増加が確認された.植物プランクトンの増殖刺激までの誘導期を考えると, 実験を行った亜熱帯海域で有用水産物にっながるミクロ植物プランクトンの生産性の向上には, この期間, 少なくとも硝酸塩濃度で0.1μM日-1程度を保っような海洋深層水の施肥濃度の維持が必要になる.
  • 大川 五郎, 青木 一永, 望月 秀雄, 堀 哲郎, 久富 浩介, 中野 秀雄
    2001 年 2 巻 1 号 p. 87-93
    発行日: 2001/07/20
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    駿河湾は, 水深2, 500m越える深海部を有し, 水質の異なる多層の水塊 (4タイプ5層) からなる海洋構造を持っている.本工事は焼津港地先から黒潮系と亜寒帯系の2種類の海洋深層水及び表層水を各々2, 000t/日取水する取水管の敷設を行うもので, 複数種類の海洋深層水を取水する施設は全国で初めてであり, また, 深度687m及び管長7, 273mも国内で最深かっ最長となっている.それぞれの海水の特色や異なった生物の生態を同一地点で研究可能となっている.水深600m以深で, 平面的に折れ点のある施工は我が国で初めてであったが, 制御に必要な要素を把握し十分な事前検討を実施し, 無事線形制御に成功した.ここでは, 深層水取水管の構造形式及びその敷設方法にっいて述べる.
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