海洋深層水研究
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5 巻, 1 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 矢田 修一, 榎本 恵一
    2004 年 5 巻 1 号 p. 1-6
    発行日: 2004/10/29
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    「室戸海洋深層水」の清浄性と安定性を, 海水中の懸濁粒子数を測定することにより検証した. 2000年1月~12月にわたって深層水及び表層水を高知県海洋深層水研究所において毎月採水し, 粒子アナライザーを用いて試料海水中の懸濁粒子数とその粒径を測定した.深層水は, 同研究所の取水設備を用い, 室戸岬沖水深320mから汲み上げられたものを使用した.解析の結果, 深層水中の粒径1~50μmの懸濁粒子数は, 334~844個/ml (年平均値549個/ml) であり, そのうち粒径10~50μmの粒子数は, 10~28個/ml (年平均値19.4個/ml) と極めて少なかった. また, 深層水中の懸濁粒子数の季節的な変動は認められなかった.それに対して, 対照とした表層水中の粒径1~50μmの懸濁粒子数は, 1445~7289個/ml (年平均値4416個/ml) と深層水中の粒子数の約8倍に達し, 春から夏に増加し, 冬に減少する明らかな季節変動を示した.これらの結果より, 「室戸海洋深層水」は表層水に比べて清浄であり, しかもその清浄性は年間を通じて安定していることが明らかとなり, 濾過工程の必要な深層水の産業利用での有用性が示された.
  • 佐見 学, 杉山 洋, 上神 久典, 中尾 みか, 加藤 麗奈, 上東 治彦
    2004 年 5 巻 1 号 p. 7-14
    発行日: 2004/10/29
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    高知県室戸市では水深320mの海中から海洋深層水 (DSW) を取水している.DSWはその清浄性および多くのミネラルを含むことから, 様々な発酵食品に応用されている.今回, 清酒発酵に与えるDSWの影響を調べることを目的として, 小スケールでの清酒発酵試験 (1-2L) を行った.従来からDSWを発酵中に添加することにより, 清酒の香気成分すなわちイソアミルアルコール, カプロン酸エチルおよびカプリル酸エチルの生成を亢進することが知られている.この現象のメカニズムを探る目的で, DSWを添加して発酵させた場合の酵母の遺伝子発現をcDNAマイクロアレイを用いて解析した.その結果, DSWの添加により高級アルコールおよび脂肪酸の代謝・生合成に関連する遺伝子の発現上昇が認められた.これらの発現上昇が清酒の香気成分の生成量を増加させたものと推察された.また, DSWを添加した清酒の小仕込を行い, 官能検査を実施したところ, NaClやDSWの主要ミネラルを添加した場合に比べて総合評価が有意に高いことが明らかとなった.さらに興味深いことに, NaClを単独添加した場合, ストレスに関連する遺伝子の発現が上昇することが見出された.一方, DSWを添加した場合, このストレス関連遺伝子の発現上昇は抑えられた・以上の結果からDSWを清酒醸造に応用することの重要性が示されたものと思われる.
  • 迯目 英正, 吉原 進
    2004 年 5 巻 1 号 p. 15-30
    発行日: 2004/10/29
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    海洋深層水を活用した民間主導の地域振興プロジェクトを可能ならしめるため, 取水コスト低減に関し以下を検討した
    先ず, 既往取水施設の諸元を整理し, その設計・施工・コスト関連の研究動向をまとめた.次に, 取水規模別に事業費と取水コストを算出し, そのスケールメリットを踏まえた上で, 消費地近くの中・小規模取水施設の全国展開と, 目的を特化した大規模取水の必要性を確認した.更に, 取水形式別に工事費縮減の課題を整理した上で技術開発の方向を考察し, 陸上型取水方式の工事費の縮減の個別課題を検討した.最後に, これら取水工事費の低減を考慮した事業化モデルを提案した.
    海洋深層水事業は利用目的に応じた規模・段階整備・取水方式を選択することで, 地域振興や環境保全など外部経済に貢献した上で, 民間事業として採算性を確保することが可能である.
  • 井関 和夫, 大村 寿明
    2004 年 5 巻 1 号 p. 31-41
    発行日: 2004/10/29
    公開日: 2012/02/17
    ジャーナル フリー
    海洋深層水による海域肥沃化試験が行われる相模湾において, 自動昇降CTD, 流速計および抵抗板を取り付けた漂流ブイシステムの現場海域試験を実施し,(1) 自動昇降CTDの作動状態と (2) 漂流ブイの流れの追従性を評価した.その結果, 波高1~1.5m以上の荒天時にはCTDの昇降に不安定さが認められたが, これ以下の波高では正常に作動し, また, ブイによる流れの追従性も概ね良好であった.併せて, 今後, 漂流ブイシステムの改良すべき点を検討した.
  • 康 峪梅, 川本 純, 金田 幸, 有留 究, 櫻井 克年
    2004 年 5 巻 1 号 p. 43-52
    発行日: 2004/10/29
    公開日: 2010/06/28
    ジャーナル フリー
    海洋深層水は新しい機能性資源として注目を集めている.今では, 水産物の養殖, 食品製造, 化粧品開発, 医療・健康や農業など様々な分野で利用されるようになり, 多くの成果が報告されている.しかし, その機能メカニズムは必ずしも十分に解明されていない.その原因の一つは微量元素を含む海洋深層水の基礎的性質の解明が欠如していることである.それゆえ, 本研究では生体中で過酸化を防止し, 免疫能力を高める微量元素セレンを取り上げ, 室戸海洋深層水のセレン特性にっいて検討を行なった.
    室戸海洋深層水の全セレン含量 (2.3±0.19nM) は表層水 (1.6±0.31nM) や河川水 (1.0-1.3nM) に比べて顕著に高いことが判った.溶存形態別にみると, 表層水や河川水でセレン酸イオンの割合 (>50%) が高いのに対して, 深層水ではセレン酸イオン, 亜セレン酸イオンと有機態セレンの割合がほぼ同レベルであった.表層水や河川水と比較して, 深層水の亜セレン酸イオンと有機態セレンの割合が高かった.海洋表層では亜セレン酸イオンが生物に選択的に吸収されるとの報告があり, そのために深層水で亜セレン酸イオン濃度が相対的に高くなっているのではないかと考えられる.また, 有機態セレンは分解されずに深層に沈降してくる生物遺体などに由来するものと推察される.1年間の変動を調べたところ, 深層水の全セレン濃度の変動 (変動係数, 8.6%) は表層水 (19.7%) より小さく, 比較的安定であった.
    深層水のセレンを粒径別にみると, 溶存態セレンが最も多く (64%), 続いて粒径>0.45μm (24%) と0.22-0.45μmの懸濁態 (12%) の順となり, 懸濁態の割合がかなり高いことが分かった.また, 粒径が大きくなるにつれて有機態画分のセレン含量が高くなるのに対し, セレン酸と亜セレン酸イオン含量はほとんど変化が認められなかった.これは深層水のpHが7.8と高いために, 無機態セレンが粒子に吸着されることなく, 溶存態で存在するためと考えられた.懸濁態の内訳は生物破片に含まれるセレンが55%, 無機粒子に含まれるセレンが45%を占め, いずれも細かい粒子に多く含まれていた.また, 溶存有機態セレンの約70%が遊離アミノ酸あるいはペプチドに含まれることが明らかになった.
    以上の結果より, 室戸海洋深層水のセレン特性は表層水や河川水と大きく異なることが明らかとなった.しかし, 他の海域の深層水と比較すると, セレンの濃度と形態は同様な傾向を示した.
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