北海道南西岸の磯焼け地帯で採集した転石 (無節サンゴモが被覆) やエゾイシゴロモ (無節サンゴモの1種, 岩から剥がした藻体) を屋外水槽各1基 (コシダカガンガラ10個体を入れた小型巻貝区と入れない対照区) に入れ, 11℃ に加温した富山湾深層水 (取水水深321m) をかけ流して植生変化を調べる2実験を行った. 最初の実験では予め転石やエゾイシゴロモ (水深3mから採集) の表面にホソメコンブの遊走子を播種してその生育状況を観察した. 小型巻貝区では, 転石の裏側, 無節サンゴモの間隙・突起間あるいは小型海藻の基部にホソメコンブが繁茂したのに対して, エゾイシゴロモは表面が貝に嘗め尽くされてホソメコンブは全く生えなかった.対照区では転石, エゾイシゴロモともにホソメコンブが生えたが, 付着珪藻の繁茂が著しいために生育密度は低かった. 2回目の実験では, 深所 (水深7m, 岩盤と砂地との境界) の転石におけるコンブ等発芽体の有無を確かめるために, コンブ遊走子の播種を行わずに小型巻貝区と対照区の実験区を設けて観察した.その結果, 小型巻貝区ではホソメコンブに加え, ワカメやスジメが出現したが, 対照区でもホソメコンブが若干出現した.前報も含めた一連の実験により転石や貝殻の表面で合計22種に及ぶ海藻の生育が確認されたことから, 北海道南西岸の磯焼け地帯には広くコンブなどの潜在的植生 (成長が抑制された発芽体) が存在し, これらの海藻は成長に必要な栄養塩や付着珪藻を除去する植食動物が存在すれば繁茂できると考えられる.コンブ遊走子の供給はコンブ群落の回復の機会を増やすことになるが, 小型海藻の茂みがコンブの避難領域となることから考えると, 安定した群落の維持を図るためには複数種からなる群落の構築を検討すべきである.
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