電気泳動
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67 巻, 1 号
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第61回日本電気泳動学会学会賞(児玉賞)受賞者論文
論文種目:総合論文
  • 長塩 亮, 朽津 有紀
    2023 年 67 巻 1 号 p. 1-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    肺がんは難治性がんの代表であり,本邦での肺がんの死亡者数は男女ともに第1位である.早期の肺がんは症状に乏しく,早期診断に有用なマーカーもないため,初診時には既に進行がんである場合がある.肺がん患者の予後の改善には,早期診断により根治的治療に結び付ける必要があり,それを可能とするための新たな診断マーカーの獲得は喫緊の課題である.組織診断や血清診断に有用な抗体の獲得を目指し,がん組織や培養細胞を直接マウスの腹腔に免疫するという特徴的なランダム免疫法により,2000クローンを超える単クローン性抗体産生ハイブリドーマを樹立してきた.このランダム免疫法は合成ペプチドなどの精製抗原を用いた従来の抗体作製法では獲得することの出来ない疾患特異的な翻訳後修飾を受けたタンパク質を認識する抗体の獲得が可能である.この手法を用いて作製した抗体群について,肺がん症例を用いた診断マーカーとしての有用性を評価した.

第23回日本電気泳動学会奨励賞(服部賞)受賞者論文
論文種目:総合論文
  • 野口 玲
    2023 年 67 巻 1 号 p. 5-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    がんゲノム医療では患者毎のゲノム変化に対して治療薬を選択するが数パーセントしか治療薬に結び付くゲノム変化を同定できない.ゲノム変化に加えて,がんの特性を直接的に反映し,分子標的薬などの治療標的であるプロテオームを用いることが有用である.治療標的を同定するために,我々は2つのアプローチでプロテオーム研究を行っている.サンプル特異的プロテオームデータベース作成ソフトウェア“OncoProGx”の開発と網羅的キナーゼ活性解析である.OncoProGxは公共データベースでは同定できないサンプル特有な変化である変異ペプチド・融合タンパク質・新規転写産物を同定でき,網羅的キナーゼ活性解析は,約100種類のチロシンキナーゼの活性を微量検体で測定し,ゲノムでは予測できない治療標的キナーゼを探索することが可能である.この2つのアプローチは共にがんの治療標的やバイオマーカーの同定が可能で,臨床に役立つツールである.

第73回日本電気泳動学会総会:一般口演【1】がんと電気泳動
論文種目:総説
  • 刈谷 龍昇, 岡田 誠治
    2023 年 67 巻 1 号 p. 13-17
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    確度の高い抗がん剤の非臨床試験を行うためには,ヒトがん患者の病態を忠実に再現した動物モデルが必要である.臨床の腫瘍組織は高い不均一性(Heterogeneity)と間質細胞や間質組織から構成される腫瘍微小環境構築能を構築する.この高いheterogeneityや腫瘍微小環境はがん細胞の浸潤,悪性化,転移の誘導に重要な役割を果たし,抗がん剤に対する治療抵抗性にも影響を与える.がん患者由来腫瘍組織を免疫不全マウスに移植した患者腫瘍移植(Patient derived xenograft; PDX)モデルは,高いheterogeneityと腫瘍微小環境形成能を再現できることから,がん患者の病態を忠実に反映したモデルとしてがん研究に利活用されている.本総説ではPDXモデルの特徴や長所と短所,樹立に用いられる免疫不全マウスやPDX由来腫瘍細胞株について概説する.

論文種目:一般論文
  • 朽津 有紀, 西原 奈菜枝, 小寺 義男, 田村 慶介, 今井 基貴, 長塩 亮
    2023 年 67 巻 1 号 p. 19-22
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー
    電子付録

    本邦における肺がんの中で腺がんは最も多い組織型であり,初期症状が少なく,無症状のまま進行している場合が多い.現在,臨床で使用されている肺腺がんの血清診断マーカーは,小さな腫瘍では検出限界以下となるため,早期がんの発見は困難である.本研究では肺腺がんの新たな診断マーカーの獲得を目的として,肺腺がん細胞で高発現している膜タンパク質の網羅的な同定を試みた.組織型の異なる3種の肺がん細胞(腺がん由来A549細胞,扁平上皮がん由来RERF-LC-AI細胞,小細胞がん由来N231細胞)に対し,細胞表面タンパク質単離キットを用いて膜タンパク質を回収した.その後,質量分析装置(LC-MS)を用いたショットガン解析によりタンパク質の同定を行った.その結果,肺腺がん細胞で高発現していたcontactin-1に着目し,肺がん組織を用いた免疫染色により,肺腺がんの診断マーカーとしての有用性を評価した.

  • 藤井 一恭, 野口 玲, 吉松 有紀, 近藤 格, 金蔵 拓郎
    2023 年 67 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤は皮膚T細胞リンパ腫の有効な治療法であるが,単剤では獲得耐性が必発であり,適切な併用療法の開発が求められている.我々は皮膚T細胞リンパ腫の細胞株のキノーム解析により,少数のキナーゼ活性がHDAC阻害剤の刺激により共通して亢進することを明らかにした.同定された分子群の中で,臨床使用可能な薬剤が存在するプロゲステロン受容体に着目して,HDAC阻害剤の併用療法のターゲットとなりうるか検討した.プロゲステロン受容体拮抗薬であるmifepristoneを用いて,romidepsinによる抗腫瘍効果の増強効果についてin vitroで検討したところ,mifepristoneはromidepsinによる細胞増殖抑制効果やアポトーシス誘導効果を増強させた.プロゲステロン受容体はHDAC阻害剤の併用療法のターゲットとなりうる.

第73回日本電気泳動学会総会:一般口演【2】電気泳動全般
論文種目:総合論文
  • 深澤 悠仁, 相馬 渉, 松本 昂大, 二井 信行
    2023 年 67 巻 1 号 p. 29-32
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    cell-free DNA(cfDNA)は,血漿や尿などの複雑組成の体液に含まれるDNAであり,リキッドバイオプシーの主要な興味の対象である.しかし,特に検査において検出対象となるcfDNAは断片化が著しいことが多く,現在のDNA抽出法の主流である固相抽出法では特に短鎖のDNAの収率が低いことが問題であった.そこで,我々は,アガロースゲルで泳動路を区画可能なオープン流体電気泳動デバイスを開発し,ひとつの泳動路に異種のゲルの区画を簡便に混在させられるようにした.各電解液の区画間の拡散を抑止することで,短時間の除タンパク処理後の血漿から結核菌由来の100~200 bp範囲のDNA断片を過渡的等速電気泳動(tITP)で確実に分離できることを示した.さらに,陰イオン交換基修飾ビーズによる簡便な予備吸着処理を加えることで,10 ml程度の尿から45 bpの短鎖DNAを選択的に分離し,PCRによる検出感度の向上に寄与した.

  • 山本 佐知雄, 矢野 祥子, 鈴木 茂生, 木下 充弘
    2023 年 67 巻 1 号 p. 33-36
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    タンパク質におけるリン酸化・脱リン酸化は,シグナル伝達,転写および翻訳調節,代謝などの調節に重要な役割を果たす。このタンパク質のリン酸化を網羅的に解明するリン酸化プロテオミクスにおいては質量分析装置 (MS)あるいはLC-MSなどを用いた網羅的な解析が実施されている。しかしながら試料溶液中に存在する非リン酸化ペプチドによりリン酸化ペプチドのイオン化が抑制され,MSによるリン酸化ペプチドの感度低下が問題となることが多い。この問題を解決するために,リン酸化化合物を特異的に濃縮するための様々な方法が開発されている。この中で1,3-bis[bis(pyridin-2-ylmethyl)amino]propan-2-ol (Phos-tag)は,このリン酸基を特異的に認識する化合物であり,SDS-PAGEなどでリン酸化タンパク質の特異的検出に利用されている。我々はこのPhos-tagを含有したアクリルアミドゲルをマイクロチップの流路の一部にピンポイントで作製する技術を開発し,リン酸化ペプチドのマイクロチップ流路中での特異的濃縮法とリン酸化化合物のオンライン濃縮・蛍光標識化法を開発した。

  • 島崎 洋次, 中尾 香琳, 福家 麗
    2023 年 67 巻 1 号 p. 37-42
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    非変性条件の2次元電気泳動法と亜鉛染色法により,マウス肝臓の水溶性タンパク質を分離・検出した.pI 5.5/M r 120,000に分離されたスポットがエステラーゼ活性をもつことが,活性染色法と分光蛍光光度法によりわかった.また,このスポットを抗カルボキシルエステラーゼ(ES)抗体や抗トランスフェリン(TF)抗体を結合したプロテインA担体へ電気泳動法により溶出・転写したところ,このスポットのタンパク質はESとTFの複合体であった.この複合体の生理的役割を調べるため,ES単体とESとTFの混合物(ES-TF)にFe2+を加え,エステラーゼ活性の変化を調べた.その結果,ES単体のエステラーゼ活性はFe2+により阻害され,ES-TFではその活性阻害が解除された.以上,本方法によりESとTFの複合体を分離・溶出でき,また,この複合体はFe2+によるエステラーゼ活性の阻害抑制に関与すると考えられる.

論文種目:一般論文
  • 大石 正道, 内野 澪旺, 石 嘉儀
    2023 年 67 巻 1 号 p. 43-46
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/06/30
    ジャーナル フリー

    長年,アレルゲンの解析手法としてSDS-PAGEとWestern blottingが用いられてきた.この場合,タンパク質をできるだけ可溶化するために,SDSなどの変性剤を高濃度で添加することが多い.筆者らはこの手法を用いて,甲殻類アレルゲンの種特異的反応性の違いを検出した.ところが,別の患者血清では,この方法ではバンドが全く検出されなかった.そこでこの患者血清をdot blottingで調べたところ,生では強く反応したが,80°Cで15分加熱すると反応が失われた.そこで,生の試料をdot blotしたPVDF膜を0.1%SDSを含む電気泳動バッファー中で1時間インキュベートしたところ反応性は弱まったが,完全には反応が消失していなかった.そこで,0.1%SDSを含むSDS抽出液を用いてSDS-PAGEを行ったところ,トロポミオシンのバンドが弱く反応した.甲殻類アレルゲンのSDS変性を低下させることで,SDS-PAGEでアレルゲンが検出可能であることが明らかになった.

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