高尿酸血症には肥満, 高血圧に次いで高率に甲状腺機能低下症が合併することが知られている. その機序として,腎からの尿酸排泄の低下が指摘されているが, 他の組織におけるプリン体代謝の変動については未だ十分検討されていない. そこで我々は甲状腺機能低下症にミオパチーを合併した症例において, 部分的阻血下前腕運動試験を行い, 運動による筋プリン体代謝の変動を検討した. 本症例では運動負荷により血清アンモニア, イノシン, ヒポキサンチン値の著しい高反応が認められ, 筋プリン体の異化が亢進していることが判明した.本症例では, 甲状腺ホルモン製剤投与後ミオパチーは軽快し, 運動時の血清イノシン, ヒポキサンチン, アンモニア値の過大上昇反応も著明に改善した. 従って甲状腺機能低下性ミオパチーにおける運動筋プリン体の異化充進は甲状腺ホルモンの不足に基づく可逆的な変化であると考えられた. また, 治療前には低反応を示していた運動時の血清乳酸値の上昇反応は, 甲状腺機能低下症治療後に正常化した. このことから, 甲状腺ホルモン欠乏に起因して可逆的にグリコーゲン分解系および解糖系によるATP産生が低下し, 骨格筋がエネルギー危機に陥ったことが示唆された. 以上の結果, 甲状腺機能低下により運動筋においてプリン体異化亢進がおこることが証明された.
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