Lesch-Nyhan症候群(LN症)はhypoxanthineguanine phosphoribosyltransferase(HPRT)の先天的な欠損により起こり, 欧米や日本を中心とした精力的なHPRT遺伝子(HPRT1)変異解析の研究から, LN症に関わる遺伝子変異はHPRT1座に位置する多彩な点突然変異が多数(80%以上)を占めることが明らかとなっている.一方,ゲノムレベルでの大きな欠失や挿入変異は20%以下と考えられているが, 未だ詳細に解析されていない. 我々は先にLongPCR 法を含めた新たな解析方法によって, 日本人LN症患者2例にHPRT1上のプロモーター領域からイントロン1にわたる2,969bpが欠落した同一の欠失変異を同定し報告した. しかし, 2例の患者の血縁関係はゲノムレベルで明らかにされてはいなかった. 今回, この同一変異が起源を同じくするものであるか, あるいは別々に起きたものであるかを明らかにするために, 変異HPRT1と同じく母系遺伝様式を示すミトコンドリア遺伝子(mtDNA)に着目して, mtDNA多型を解析した. その結果,両家系には異なるmtDNA多型を示し, 2例の日本人患者にみられた同一の欠失変異は起源の異なる変異であることが証明できた. ほぼ同時期に全く同一の欠失変異が欧州でも報告されており, Alu配列に関連した2,969bpの欠失変異はHPRT1座の変異のホットスポットに起こった突然変異であることが強く示唆された.
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