妊娠中毒症, 妊娠高血圧症候群(Pregnancy-induced hypeliension, PIH)における血清尿酸上昇の意義を明らかにするために,当院を受診した妊娠中毒症,PIH症例において血清尿酸と各種臨床パラメーターの関連について検討した.対象は当院母子センター産婦人科に妊娠中毒症PIHとして登録され,臨床データが得られた妊娠中毒症93例(このうちPIHは45例)の女性で,妊娠中毒症症例は32.8±5.4歳,分娩週数は34.8±4.4週,出生時体重は2031±920gである.一方,PIH症例は32.7±55歳,分娩週数は33.4±4.5週,出生時体重は1730±795gである.妊娠中毒症における各パラメーター間の関連では,単変量分析において出生時体重と関連した因子は,分娩週数が強い正の相関関係を示した(r=0.872,p<0.0001)以外には,腎機能{BUN(r=-0.427,p=0.0001),Cr(r=-0.324,p=0.0043)},尿酸(r=-0.311,p=0.0072),LDH(=-0.506,p<0.0001),Hb(r=-0.305,p=0.006),血圧{SBP(r=-0.450,p<0.0001),DBP(r=-0.340,p=0.0007)}であり全て負の相関関係を示した.また,尿酸が関連していた因子については,正の相関関係を示したのが腎機能{BUN(r=0577,p<0,0001),Cr(r=0.627,p<0.0001)},LDH(r=0.388,p=0.0006)であり,負の相関関係を示したのが血小板数(r=-0,245,p=0.0363),分娩週数(r=-0.244,p=0.0368),出生時体重(r=-0.311,p=0.0072)であった.妊娠中毒症において出生時体重と尿酸,LDHは共に有意な負の相関関係を示していたが,尿酸よりLDHの方が出生時体重との強い相関関係が認められた.同様にPIHにおいて出生時体重と尿酸,LDHの関連では,出生時体重とLDHにおいて有意な相関関係(r=-0.493, p=0.0006 )を認めたが,出生時体重と尿酸には有意な関連は認められなかった.尿酸とLDHは,共に出生時体重に関連していることが考えられ,妊娠中毒症では有意な相関関係が認められ(r=0.388,p=0.0006),PIHでは相関傾向が認められた(r=0.295,p=0.0539).単変量分析において出生時体重に相関関係がみられた腎機能,尿酸,LDH,Hb,血圧の中で何が最も寄与しているのかを重回帰分析で検討すると,妊娠中毒症,PIH共にLDHだけが有意な負の関連を示していた(各々p=0.0078,p=0.0064).妊娠中毒症,PIHにおけるLDH上昇は,単なる肝障害を表しているというよりは,これらの病態でみられる内皮細胞障害を反映していると考える方が妥当であると思われた.また何らかの共通の液性因子が内皮細胞障害を介して,妊娠中毒症,PIHにおけるLDH上昇と尿酸上昇を引き起こしている可能性が考えられた.
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