欧米では文化芸術が成長産業の1つとみなされており、日本でも「未来投資戦略2017」の中で文化芸術資源を活用した経済活性化が取り上げられ、文化芸術の経済価値の推計が開始された。本稿では、「ユネスコ文化統計のための枠組み」を紹介し、それを基礎にした日本の文化GDP推計の基本的考え方を説明する。そしてより包括的な文化のサテライト勘定を構築するなど、文化GDP推計の今後の課題についても述べる。
現代美術分野の作家活動の実態について調査することで、活動継続及びキャリア形成過程における、女性の美術作家の離脱の確率の高さについて検討した。調査の結果、「芸術に奉仕」する(Abbing,2002=2007)者がキャリアを積むことのできる淘汰的な状況を明らかにした。さらに、若手から中堅のキャリア移行には時間制限が存在し、女性の美術作家にはキャリア継続の二重の壁が生じることを指摘した。
文化的景観の「保存と活用」には地域における継承の仕組みが不可欠となる。継承の仕組みは地域住民の景観価値の共有と意識の共有が重要となる。この論文では住民が一体感を持ちやすい「祭り」に注目し、宮津市溝尻地区の「葵祭」と西予市狩浜地区の「秋祭り」を事例に取り上げる。そして、祭りが地域住民の意識の共有に与える影響と文化的景観の価値の共有にどのような意義があるのかを考察する。
伝統工芸産業は、一般には縮小傾向といわれている。しかし、統計データを精査した結果、2010年以降、出荷額や輸出額が上昇に転じている分野がある事が分かった。その一つが刃物である。なぜ、衰退傾向が一般的な中で、再び上昇に転じた伝統工芸産業があるのだろうか。
本稿は、量的・質的調査から刃物産業の実態、再生へと転じた要因を考察した。その結果、新しいプレイヤーの参入による産地の工芸エコシステムと後継者育成の進化、政府の輸出促進政策や知的財産政策の影響が明らかとなった。
本研究では、文化施設として再利用された石川県の金沢市民芸術村と、アートのまちとして再生された大阪市の北加賀屋クリエティブ・ビレッジを対象に、形成経緯および建物の特性を整理することで、それらの施設特性を比較した。これらの比較を通じて、文化施設の再生において異なるアプローチとモデルが存在し、それぞれのコンテキストに合わせた適切な戦略が必要であることが示唆される。
2019年、山口県が文化施設「秋吉台国際芸術村」の廃止を検討していることを発表した。しかしながらそれは頓挫し、結論が出ないまま現在も運営を続けている。廃止をめぐる議論が進展しない要因を検証するにあたり、施設の設置目的と設計コンセプトに着眼した。また、県の声明、知事の発言、廃止反対の意見、設立経緯や事業内容を検証した。その結果、施設の設置目的と設計コンセプトが人々に正しく提示されていないことが分かり、それにより施設の実態に対する様々な解釈の齟齬が発生していることを確認した。
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