行動経済学
Online ISSN : 2185-3568
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13 巻
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第2回行動経済学会学生論文コンテスト優秀賞受賞論文
  • 茂木 啓司, 野澤 知世, 鈴木 巧, 中村 年希
    2020 年13 巻 p. 1-15
    発行日: 2020年
    公開日: 2019/12/02
    ジャーナル フリー

    本論の目的は,奨学金が過剰に受給される原因を明らかにするとともに,それを解消するための施策について検討することである.高校生と大学生を対象に,奨学金の借入が必要な状況を想定した仮想的質問を含む質問紙調査を行ったところ,奨学金を借りる選択をした被験者のうち約42%は将来の破産リスクを過小に評価していた.さらに,奨学金申請フォーマットについて,毎年の借入金額を選択するもの,および選択肢を部分的に記入式にしたものの方が,実際の申請フォーマットよりも被験者の借入金額が有意に小さくなった.以上より,奨学金の過剰受給を解消するため,利用者に対して「延滞のリスクを強調すること」および「申請書類のフォーマットを変更すること」が有効であるといえる.

  • 平野 寿将, 竹内 貴聖
    2020 年13 巻 p. 16-28
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/03/05
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は多くの国で採用されているリニエンシー制度がどの程度カルテルを防ぐ効果があるかを解明することである.そのために同質財ベルトラン競争でカルテルを分析したHinloopen and Soetevent (2005)に倣い,カルテルを行ったことを報告すると課徴金が減免される場合と褒賞金を与える場合とを比較した経済実験をz-Treeを用いて行った.その結果,平均入札価格,カルテルの形成率,再形成率という3つの指標を比較すると,褒賞金を与えるほうがよりカルテルを抑止できるということが判明した.

第3回行動経済学会学生論文コンテスト優秀賞受賞論文要旨
  • 安藤 希
    2020 年13 巻 p. 29
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー

    本研究は,投資家に対する教育が投資家の行動バイアスに与える因果効果を,ランダム化比較試験(RCT)の手法で実証的に検討するものである.既存研究においては,IQや認知反射能力,あるいはEQといった先天的な資質が投資家の投資行動の決定要因として注目されてきた.しかし投資行動の後天的な変化については十分に検証されていない.そこで本研究では,投資家の行動バイアスの一種である「損失先送り効果」(Disposition Effect)を分析の対象として,「教育」が投資行動に与える影響を推定する.分析の特徴としては,模擬市場を用いる点に加え,「投資家の異質性に応じて教育の処置効果が異なる」可能性を明示的に取り扱った推定を行っている点が挙げられる.実験の結果,第一に,投資家の属性を考慮しない平均的な教育の処置効果は認められなかった.第二に,投資家個人の属性を条件付けした推定から,認知反射能力が高い場合,または数学能力が高い場合において,教育による行動バイアスの是正がより強く観察された.以上の結果は,個人属性に応じて,投資行動に与える教育の因果効果が変化することを示唆している.

  • 森 峻人
    2020 年13 巻 p. 30
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー

    本稿は,異時点間の報酬に対する時間割引率とその関連変数の心理的背景要因の検証を目的とする.時間割引率と心理学上の各種構成概念との関係性を検証した研究は数多くあるが,結果に一貫性がなく,サンプルサイズも限られた研究が多かった.そこで本稿では,大規模なシングルソースデータベースを用いて,サンプルサイズが十分大きく,比較的偏りのないデータで解析を行うとともに,独自実施のアンケート結果を含めた簡易的レビュー・メタ分析を実施して,より頑健な結果を導き出すための実証研究を行った.心理学上の構成概念について測定する質問紙としてはBIG5・BIS/BAS(行動抑制系/行動賦活系)・DOSPERT(領域固有性リスク受容指標)・SCS(セルフコントロール尺度)・BIS-11(バラット衝動性尺度)・EPI&SSS(アイゼンク性格検査&刺激希求性尺度)・EC(エフォートフルコントロール尺度)を利用した.結論として,時間割引率は,衝動性(特に,非計画性に関する衝動性)やリスクのある選択肢を選ぶ頻度との関係性が認められた一方,セルフコントロールやBIG5の各パーソナリティとは関係性は認められなかった.また,双曲割引・マグニチュード効果・符号効果は,BASとの関係性が比較的強いということが明らかになった.

  • 室田 誠, 齋藤 祐也
    2020 年13 巻 p. 31
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー

    罰則があるからといって,誰もが罰則の対象となる行為を慎むとは限らない.罰則があることへのこうした反応の違いは,他の行動様式と関係があるかもしれない.本論文では,罰則があることへの反応の違いと,保険加入行動との関係について,実証分析を行った.具体的に,罰則があることへの反応の違いとして用いた指標は,自動車の後席シートベルト着用率である.2008年の道路交通法改正により,後席シートベルトの着用が義務化された.ただし,実際の運用では,違反した場合に罰則が科されるのは高速道路のみであり,一般道の場合,口頭注意にとどまる.そこで,都道府県別の後席シートベルト着用率のデータを用いて,高速道路での着用率と一般道での着用率の差を,「罰則の有無による行動の違い」の指標とすることとした.法改正によってある行為に対して罰則が設けられることは,対象となる行為の背景に潜むリスクを周知する機会とも考えられる.したがって,法改正の影響に敏感に反応する人は,リスクへの感応度が高く,保険にも手厚く加入する可能性がある.分析結果では,2008年に着用が義務化されて以降,高速道路での着用率と一般道での着用率の差が大きい場合ほど,任意自動車保険に手厚く入る傾向があること,さらに,地震保険加入率も高くなることを確認した.このことは,「罰則の対象となった行為には,違反した場合に大きな危険にさらされる恐れがある」と敏感に感じ取る場合ほど,リスク回避的傾向にあり,保険に手厚く加入するようになることを示唆していると考えられる.

論文
  • 大竹 文雄, 加藤 大貴, 重岡 伶奈, 吉内 一浩, 樋田 紫子, 黒澤 彩子, 福田 隆浩
    2020 年13 巻 p. 32-52
    発行日: 2020/08/25
    公開日: 2020/08/25
    ジャーナル フリー

    本論文では,骨髄バンク登録者のうち移植患者との適合通知を受け取った人へのアンケート調査と大阪大学の一般の人へのアンケート調査を用いて,骨髄バンク登録者,幹細胞提供者と一般の人との特性の違いの有無を検証した.主な結果は,つぎの通りである.第一に,骨髄バンクに登録する人や幹細胞を提供する人は一般の人と比べると,利他的で,時間割引率が低く,リスク許容度が高い.第二に,定期的献血者や臓器提供の意思表示者は幹細胞提供確率が高い.第三に,有給ドナー休暇や有給休暇が取りやすい環境で,幹細胞提供確率が高い.第四に,同調性が高い人は骨髄バンクに登録する可能性が高いが,幹細胞提供の依頼があった際に提供をしない傾向にある.第五に,登録者と提供者の時間割引率と現在バイアスは阪大サンプルと比較して低いが,現在バイアスを含む時間割引率が高い人が幹細胞を提供する確率が高い.

  • Hirofumi Kurokawa, Tomoharu Mori, Fumio Ohtake
    2020 年13 巻 p. 53-70
    発行日: 2020/10/06
    公開日: 2020/10/03
    ジャーナル フリー

    Income tax is considered equivalent to consumption tax in the public finance literature and there exits tax rates whose effective tax burdens are equivalent; 20% income tax and 25% consumption tax for example. However, it is not obvious whether people think in that way. We use a choice experiment to test the equivalence between income and consumption taxes. Subjects were asked to choose a preferred tax among 20% income tax and 25% consumption tax, 20% income tax and 22% consumption tax, and 20% income tax and 20% consumption tax under a given set of income and consumption parameters. We find that (1) when effective tax burdens are equivalent, subjects prefer income tax to consumption tax, (2) when the nominal consumption tax rate is higher than the nominal income tax rate, they prefer income tax, despite heavier tax burden, and (3) when nominal tax rates are identical, they prefer consumption tax. These findings imply that the subjects do not think theoretically equivalent taxes are equivalent because the subjects miscalculate the consumption tax burden. Moreover, our result shows that only one-third of the subjects appear to choose a tax regime based on accurately calculated tax burdens.

  • 大竹 文雄, 坂田 桐子, 松尾 佑太
    2020 年13 巻 p. 71-93
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2020/11/25
    ジャーナル フリー

    本論文では,豪雨災害時に早期避難を促すナッジメッセージの効果検証を行った.広島県民を対象にしたアンケート調査をもとに,仮想的に災害が発生した状況で,行動経済学的なメッセージが住民の避難意思に対して与える影響について分析する.また,メッセージの効果の異質性に関しても分析を行った.さらに,8ヶ月後に行った追跡調査によって,長期的な意識や行動変容についても検証した.その結果,社会規範と避難行動の外部性を損失表現あるいは利得表現で伝えるメッセージが直後の避難意思形成に効果的であることを明らかにした.一方,追跡調査の結果によれば,避難行動の外部性を利得表現で示したメッセージが長期的な避難意識や避難準備行動につながっていた.

  • 福冨 雅夫, 安藤 悠人, 三谷 羊平
    2020 年13 巻 p. 94-104
    発行日: 2020/11/25
    公開日: 2020/11/25
    ジャーナル フリー

    高齢化のさらなる進行が世界各国で続く中,高齢者の経済的意思決定をより良く理解することが重要となっている.時間選好は経済活動や医療健康行動をはじめとする様々な意思決定に影響を与えうるが,高齢者の時間割引率や時間非整合性は十分に検証されていない.本論文では,高齢者を対象として,時間選好に関する経済選択を含むフィールド実験を実施し,高齢者の時間選好と個人属性の関係を考察する.実験結果より,割引の程度は高齢層における年齢に関して逆U字型の形状をとる傾向にあること,高齢者は現在時点から遠い将来になるにつれて近視眼的になるという将来バイアスと整合的な傾向にあることが明らかになった.また,この時間非整合性の一種である将来バイアスと整合的な選択は,健康状態の悪い後期高齢者にてより多く観察された.

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