熱傷
Online ISSN : 2435-1571
Print ISSN : 0285-113X
49 巻, 2 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
総説
  • 松村 一, 池田 弘人, 上田 敬博, 小川 令, 櫻井 裕之, 副島 一孝, 佐々木 淳一
    2023 年 49 巻 2 号 p. 51-59
    発行日: 2023/06/15
    公開日: 2023/06/15
    ジャーナル 認証あり

     ネキソブリッド® (治験記号:KMW-1) は熱傷創の壊死組織を除去する新規の化学的壊死組織除去剤である. 本剤は受傷後早期に熱傷創に塗布することで壊死組織を選択的に, 低侵襲かつ早期に除去可能なため, 外科手術に代わる治療選択肢として期待されている.
     国内外での深達性Ⅱ度またはⅢ度熱傷患者を対象とした臨床試験により, ネキソブリッド®の有効性および安全性が示されている. 外科手術に匹敵する高い壊死組織除去効果を有するとともに, 自家移植および出血量を標準治療よりも減少させるため, 患者の身体的な負担が軽減することも期待される. その他, 海外では外科手術では高度な手技を求められる手部や顔面の熱傷創に対する有用性も報告されている. 低侵襲かつ壊死組織選択的なデブリードマンが可能なネキソブリッド®は, これまでの熱傷治療戦略を大きく変える可能性がある.
     ネキソブリッド®による壊死組織除去では, 疼痛管理や塗布前後の浸漬など塗布以外の処置も適切に行う必要がある. 本稿では本剤の適正な使い方のみならず, 国内外での使用経験に基づいた, 使用時における特に留意すべき点や使い方のコツ, テクニックについて述べる. デブリードマンの新たな治療選択肢として, 本剤の適正な使用に十分留意し, 今後の熱傷治療に役立てたい.

原著
  • 金子 貴芳, 岸邊 美幸, 島田 賢一
    2023 年 49 巻 2 号 p. 60-66
    発行日: 2023/06/15
    公開日: 2023/06/15
    ジャーナル 認証あり

     2012年1月から2021年12月までの過去10年間に金沢医科大学病院形成外科を受診した未就学乳幼児 (0~6歳) について調査を行った. 対象症例119例に対して, 電子カルテを用いて, 性別, 受傷時年齢, 受傷原因, 受傷時期, 熱傷面積, 深達度, 受傷部位, 入院の有無, 手術の有無について後方視的に検討した. さらに日本熱傷学会熱傷入院患者レジストリー (以下, 熱傷レジストリー) と比較検討を行った.
     熱傷レジストリーと同様に, 性別は男児が多く (58.0%) , 受傷時年齢は3歳以下に多くみられた. 男女ともに1歳が最多であり, 0歳から1歳までで全体の半数以上を占めた. 受傷原因は, 月齢の浅い乳児では養育者の過失によるものが大部分を占めた. 成長に伴う行動範囲の拡大によって熱傷の受傷状況は変化した. 児の発達と生活環境に影響され, 各成長段階において特徴がみられた. 熱傷面積では5%未満が95例 (78.9%) と大半を占めた. 特に1%未満が34例 (28.6%) と小範囲の症例が多かった. 深達度はSDBが87例 (73.1%) と最も多かった. 受傷部位別では, 手部, 手指が30部 (20.9%) と最も多く, 上腕, 前腕が28部 (19.6%) と上肢が圧倒的に多数を占めた. 受傷後入院となったのは13例 (10.9%) であり, 入院症例の受傷面積の平均は9.9%, burn indexは4.69であった. 手術となった症例はなかった.
     熱傷レジストリーや過去の報告と比較して同様の結果であったが, 乳幼児の熱傷は発生予測が可能であり, 諸家が報告しているように養育者への啓発が重要と考える.

症例
  • 菅谷 一樹, 鈴木 光子, 全田 吏栄, 鈴木 剛, 岩渕 雅洋, 小野寺 誠, 伊関 憲
    2023 年 49 巻 2 号 p. 67-71
    発行日: 2023/06/15
    公開日: 2023/06/15
    ジャーナル 認証あり

     家族と積極的治療の合意形成にいたらず, 本人の治療希望に添えない転帰を辿ることとなった熱傷の症例を経験した. 症例は86歳の男性, 火炎熱傷により搬送された. 来院時, 意識レベルは清明で, 顔面と両上下肢に%total body surface area 16, prognostic burn index 97の熱傷を認めた. 入院時, 本人や家族は積極的治療を希望された. 第2病日に原因不明の心肺停止に陥ったが蘇生され, 以後は本人との意思疎通は取れなくなった. 医学的に救命は可能と判断するが, 機能予後が望めない旨を家族に病状説明したところ, 介護に対する経済的問題から積極的治療を拒否された. 家族に対する説得は叶わず, 第12病日にbest supportive careの方針とした. その後, 手術介入は一切行わず, 緩やかに治療強度を縮小していく方針で家族と合意し, 第44病日に死亡した. 近年公開された熱傷診療ガイドライン (改訂第3版) に「リエゾン」の項目が盛り込まれ, 臨床現場での活用が期待される一方で, 院内の多職種・多機関による臨床倫理の熟考が必要と考えられた.

  • 遠藤 淑恵, 吉牟田 浩一郎, 伊達 直人, 松尾 優美, 天願 翔太, 石井 美里, 宗 雅
    2023 年 49 巻 2 号 p. 72-80
    発行日: 2023/06/15
    公開日: 2023/06/15
    ジャーナル 認証あり

     MEEK植皮片カッター®は2020年に本邦で使用が開始され, 当院では2020年9月から2021年12月の期間に5名の患者 (男性3名, 女性2名, 年齢64.0±17.0歳, 熱傷面積18.8±16.1%TBSA) にMEEK植皮を行った. 自験例ではメッシュ植皮にくらべ生着率の向上や上皮化の早期化などの結果は得られなかったが, 植皮片が不生着に見えても予想以上に保存的に上皮化する印象を受けた.
     MEEK植皮はメッシュ植皮にくらべ上皮化が早く手術時間が短く皮膚拡張に優れているなど肯定的な報告が多く, MEEK植皮が上皮化に有利な機序に関して考察した. MEEK植皮は植皮片から周囲へ上皮が進展するため上皮細胞と創面との境界線 (界面) が拡大し上皮化にいたる. 上皮化までの間, 先進部の細胞密度が上昇せず細胞接触抑制による細胞増殖停止作用が少なく, 上皮化完了まで細胞増殖し続けるため上皮化に有利と推測された.

  • 土居 未歩, 中川 浩志, 川浪 和子, 石野 憲太郎
    2023 年 49 巻 2 号 p. 81-87
    発行日: 2023/06/15
    公開日: 2023/06/15
    ジャーナル 認証あり

     フェノールは芳香族化合物に分類され, 弱酸ではあるが腐食性が強く, 接触部位の蛋白変性を引き起こす. 広範囲暴露の場合, 経皮的吸収により心室性不整脈や中枢神経症状などが出現する場合がある.
     症例は20代, 男性. 仕事中にフェノール容器の破損により90%フェノールを浴び受傷し, 当院へ救急搬送された. 受傷時より急速に意識障害が出現し, 来院後すぐに洗浄を行ったが中枢神経症状の増悪を認めたため鎮静のうえ気管挿管となり, ICU入室となった. 入院後中枢神経症状はすみやかに改善し, 創部は保存的加療で上皮化が得られ, 後遺症を残すことなく退院となった. フェノールは比較的短時間で体内に吸収され, 受傷面積が少ない場合でも中毒症状を起こす症例が報告されている. フェノールによる化学損傷ではただちに流水での洗浄を行う. ポリエチレングリコールまたは無水エタノールでの清拭 (実際は消毒用エタノールで代用されることが多い) も有効であり, 流水では15分間での洗浄で有意にフェノールの吸収を減少させたとの報告があり, 施行することが望ましいと考える.

  • 吉武 彰子, 大島 純弥, 井上 貴昭, 渋谷 陽一郎, 佐々木 薫, 関堂 充
    2023 年 49 巻 2 号 p. 88-93
    発行日: 2023/06/15
    公開日: 2023/06/15
    ジャーナル 認証あり

     2022年9月1日に保険適用となったRECELL®とMEEKTMシステムを併用した治療を試みたため, 有効性や注意点などを報告する. 症例は47歳, 男性. アルミ炉の炎が作業服に着火して受傷した. 両上肢・両下肢・背部の70%TBSAを認めた. 植皮の感染脱落を生じた左上肢に対して (4%TBSA) , 受傷81日目にMEEKTMシステムとRECELL®の併用による手術を行ったところ, すみやかな上皮化が得られた. 今回われわれが行ったMEEKTMシステムとRECELL®の併用では, 過去のMEEKTMシステム単独の報告と比較してさらに上皮化までの期間を短縮できる可能性がある. MEEKTMシステムはメッシュ植皮にくらべ上皮化が早いとされているものの, 一定の期間を要する. また拡張率を上げるほど, その期間は延長する. RECELL®を併用することでその上皮化までの期間を短縮できる可能性が示唆された.

  • 畔 熱行, 鈴木 健司, 尾崎 裕次郎, 松浪 周平, 齊藤 福樹, 中森 靖, 日原 正勝, 覚道 奈津子
    2023 年 49 巻 2 号 p. 94-101
    発行日: 2023/06/15
    公開日: 2023/06/15
    ジャーナル 認証あり

     MEEK法による分層植皮を行った熱傷患者の治療を経験した. 症例1は広範囲熱傷であり, 3回のメッシュ状分層植皮と頸部への皮膚移植を行った. その後, 全身状態が悪化し, 採皮部が限られるなか施行した4回目の手術にてMEEKの機器を借用する機会があり, MEEK法による皮膚移植を行った. 肩部をのぞき植皮片は生着し上皮化治癒した. 症例2は人工真皮を用いたwound bed preparationを行ったのちにMEEK法による皮膚移植とメッシュ状分層植皮を行い, すべて生着し上皮化治癒した. MEEK法による皮膚移植はメッシュ状分層植皮より確実に拡張ができた. MEEK法は手技に習熟が必要だが, 必要な採皮量が予測しやすく, 広範囲の熱傷などの採皮部が限られる症例においては有用であると考えられる.

地方会抄録
feedback
Top