熱傷
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49 巻, 3 号
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原著
  • 平尾 太祐, 日原 正勝, 光井 俊人, 藤田 真亜子, 姫島 知樹, 覚道 奈津子
    2023 年 49 巻 3 号 p. 111-116
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
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     【目的】小児熱傷は日常的に遭遇頻度の高い疾患である. なかでも特に乳幼児の熱傷の割合は高い. 今回われわれは, 関西医科大学附属病院を受診した過去11年間の乳幼児熱傷患者について検討したので報告する.
     【方法】2011年1月から2021年12月までの11年間に関西医科大学附属病院を受診した乳幼児の新鮮熱傷患者184症例について, 症例数の推移, 性別, 受傷年齢, 初診時診療科, 入院/外来種別, 受傷部位, 受傷面積, 受傷深達度, 受傷原因と原因種別の検討を行った.
     【結果】全期間を通して, 熱傷患者は緩やかに減少していたが, 乳幼児患者が占める割合は約20%とほぼ変化はなかった. 性差はほぼなく, 生後6ヵ月から1歳児の受傷が多かった. 初診時対応は形成外科が多く, 外来通院で診療を行った患者が多かった. 受傷部位は背臀部をのぞいて, 頭部顔面, 胸腹部, 上肢, 下肢, 手指と多部位に及び, ほぼ差はなかった. 受傷面積は5%TBSA以下が約80%を占め, 深達度はSDBが最も多かった. 受傷原因は加熱性液体が多く, なかでも熱湯汁類が約70%を占めた. 熱湯汁類の詳細原因としては, 検討期間を前後半で分けて考えた際, 症例数として電気ケトルによる受傷が増加していた.
     【考察】乳幼児新鮮熱傷症例は減少傾向であった. 受傷原因として, 熱湯汁類が3分の2を占め, 特に電気ケトルによる熱湯が増加している反面, 他の原因での熱湯はおおむね減少していた. 電気ケトルを保有する家庭が近年増加していることが理由の一つと考えられ, その危険性について乳幼児をもつ家庭, 医療機関や企業やマスコミにおいて, 情報を共有し対策を行う必要があると考えられる.

  • 森田 尚樹
    2023 年 49 巻 3 号 p. 117-128
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル 認証あり

     Negative pressure wound therapy (以下NPWT) は, 1997年にArgenta LCら1)によりvacuum-assisted closureとしてその有効性が報告された. 本邦では2010年4月より保険収載され, 骨や腱の露出している症例や浮腫性肉芽, 植皮を前提とした創面に良好な移植床の形成, すなわちwound bed preparation (以下WBP) 目的に利用されてきた. DDBより深達度の深い熱傷では植皮術を前提に治療が進められることが多いが, さまざまな理由により焼痂をデブリードマン後, 良好な移植床を認めない症例も少なくない. また, 保険収載されていないものの, 植皮固定法としてのNPWTの利点も多く, 熱傷に対し非常に有用なデバイスであることが伺える. 今回当院で熱傷症例に対しNPWTを施行した症例を検証し, その有用性を報告する.
     対象は29症例で以下の4群に分け比較検証した.
     1. WBPと植皮固定ともにNPWTを使用したWBP+Graft群 (7例)
     2. NPWTによるWBP後に従来法で植皮固定したWBP+従来法群 (9例)
     3. NPWTによるWBPのみ施行後, 保存的に上皮化を認めたWBP 保存群 (4例)
     4. 良好な移植床を認め, 植皮固定のみにNPWTを施行したGraft群 (9例)
     NPWTによるWBPを施行した理由は, 浮腫性肉芽8例, 腱・骨の露出が12例であった.
     NPWTによる植皮固定症例 (WBP+Graft群, Graft群) の平均生着率は95.6%で, うち12例は全生着であった.
     移植床として適さない創面へのNPWT施行による良好なWBPや, 植皮固定法としても良好な結果が期待できることはすでに多くの報告がある. また, 植皮固定時も早期リハビリテーションが可能で, 高齢者の術後QOLの改善が期待できる. 今後, 高齢者人口の増加にともない増加が危惧される高齢者熱傷患者に対し有用な治療法の選択肢の一つとなりうる.

  • 落合 剛二, 海田 賢彦, 相澤 陽太, 田中 佑也, 吉川 慧, 山口 芳裕
    2023 年 49 巻 3 号 p. 129-132
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
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     【背景】熱傷は侵襲性カンジダ症が発症するリスクが高い特異的な病態とされているが, そのリスク因子について検討した報告は多くはない.
     本論文では, 重症熱傷患者におけるカンジダ血症のリスク因子を明らかにすることを目的とした.
     【方法】2008年から14年間に当院に入院した重症熱傷 (軽症熱傷症例, 気道熱傷単独例, 来院時心肺停止例, 受傷後1週間以内の死亡例, 電撃症をのぞく) を対象とし後方視的に検討した. 重症熱傷患者の定義は, Ⅱ度熱傷面積が30%以上もしくはⅢ度熱傷面積が10%以上とした. カンジダ血症の定義は, 3日間広域抗菌薬を投与しても38.5度以上の発熱が続いた場合に施行した血液培養で1セット以上カンジダ属が検出されたものとした.
     【結果】対象患者は72人. その中央値は年齢52歳, 総熱傷面積38%, Ⅲ度熱傷面積38%, 気道熱傷合併例は25例 (35%), 死亡率は21%であった. カンジダ血症の合併は27例 (38%) であり, カンジダ血症群と非カンジダ血症群の2群間における単変量解析では, 総熱傷面積はカンジダ血症群のほうが有意に広く, また死亡率は37%と有意に高かった. 一方, 性別, 年齢, Ⅱ度熱傷面積, Ⅲ度熱傷面積, 気道熱傷合併の有無, 人工呼吸器管理の有無, ICU滞日数については有意な差を認めなかった. カンジダ血症の有無を目的変数とし, 年齢, 総熱傷面積, 気道熱傷の有無を説明変数としロジスティック回帰分析施行したところ, 総熱傷面積が独立してカンジダ血症の合併に影響を及ぼしていた. カンジダ血症の発症に関して総熱傷面積のカットオフ値を50とすると, 感度が63%, 特異度が80%であった.
     【結論】総熱傷面積は独立してカンジダ血症の合併に影響を与え, 50%をこえる熱傷患者の治療においては, カンジダ血症の発症を念頭に入れ治療にあたる必要がある.

症例
  • 小西 浩之, 金村 剛宗, 片平 次郎, 弦切 純也
    2023 年 49 巻 3 号 p. 133-137
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
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     塩化ベンザルコニウム (Benzalkonium chloride:以下BZK) は, Covid-19感染症の拡大により市民生活に身近になった. 今回, 自殺企図目的でBZKを皮下注射した症例を経験したので報告する.
     症例は50歳, 女性. 自殺企図目的に10%BZKを左手背部と肘窩部に皮下注射した. 来院時, 左手背部は発赤, 左肘窩部は硬結のみであり, 冷却とステロイド軟膏の外用を行った. しかしながら, 両創部ともさらに発赤と腫脹が拡大したため, 第10病日に切開したところ凝固壊死した脂肪組織が広く存在しており, デブリードマンと局所陰圧閉鎖療法を行った. 第29病日, 左手背創部の一部は縫合し, 残存した皮膚欠損部は人工真皮を貼付し, 局所陰圧閉鎖療法で固定し, その後, 瘢痕治癒した. 左肘窩部創部は縫合ができた.
     化学物質を皮下注射した場合, 皮膚所見に乏しくとも積極的な切開とデブリードマンが必要である.

  • 對馬 佑樹, 三上 誠, 飯田 圭一郎, 和田 尚子, 齋藤 百合子, 漆舘 聡志
    2023 年 49 巻 3 号 p. 138-143
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル 認証あり

     【背景】本邦におけるサウナ熱傷の症例集積研究の報告は, われわれが渉猟しえた限りはない. われわれが経験したサウナ熱傷の臨床的特徴について報告する.
     【対象】2012年から2021年までの10年間で, 当科を受診した熱傷患者346例のうち, サウナ熱傷患者5例を対象とした. 年齢, 性別, 受傷から初診までの日数, 受傷機転, 受傷部位, 受傷原因, 熱傷面積, 初診時の熱傷深度, 手術の有無, 入院期間, 転帰について調査した.
     【結果】対象者の年齢は64~76歳 (平均71±4歳) であり, 5例すべてが意識消失に伴う受傷であった. 死亡した1例以外は経時的に熱傷深度が深達化し, 手術を要した.
     【考察】サウナ浴中は脱水と脳血流量の減少により意識消失をきたしやすい. サウナ熱傷にはcontact burnとhot air sauna burns (HASBs) があり, 手術を要する可能性が高い. そのため, サウナ利用者への注意喚起と適切な補水の励行を推奨すべきである.

  • 川口 玄, 柳澤 大輔, 横山 俊一郎, 杠 俊介
    2023 年 49 巻 3 号 p. 144-149
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル 認証あり

     症例は34歳, 男性. 変電所での作業中に高圧の銅線に接触し, 3,0000Vの電流が体内を流れ, 背部と両大腿にⅢ度熱傷を生じた. 熱傷受傷面積は6%で, 背部に3%, 右大腿に1%, 左大腿に1.5%のⅢ度熱傷を認めた. 手指には0.5%の浅達性Ⅱ度熱傷を認めた. 造影CTでは腹腔内臓器に損傷を認めなかった. 受傷翌日よりベッドサイドで背部と両大腿の筋体を含めた壊死組織の除去を行った. 造影CT・MRIにて受傷部の明らかな損傷範囲の拡大を認めないことから, 受傷後21日目に背部と両大腿のⅢ度熱傷にデブリードマンと人工真皮の貼付を施行した. その後, 局所陰圧閉鎖療法を行い, 52日目に分層植皮術を施行した. 73日目に創閉鎖が完了し退院となった. 電撃傷による熱傷は通常の熱傷と異なり体内に電流が流れるため, 組織損傷の波及範囲を見極めるのに画像診断を組み入れながら時間をかけ, 確実なタイミングと方法で創閉鎖することが重要である.

  • 古木 遥, 竹内 一博, 小林 昇平, 川瀬 麻依子, 鳥居 祐希, 井川 祐一, 小室 明人
    2023 年 49 巻 3 号 p. 150-154
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
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     バックドラフト現象とは, 気密性の高い空間で不完全燃焼によって可燃性のガスが充満した状態で空間が開放されると, 急激に新鮮な空気が入り込み, 可燃性ガスが爆燃する現象である. 今回, こたつ火災でのバックドラフトで受傷したと考えられたまれな熱傷例を経験したため報告する. 症例は89歳, 女性. 自宅でこたつから煙が出ていることに気付きこたつ布団を捲った際, 炎が噴出し, 顔面, 両手に爆風にあおられたような熱傷を受傷した. 消防隊は現場検証で非常に激しい火災であったことを確認し, バックドラフト現象と結論付けた. 幸い自験例では保存的加療にて受傷後3週間で上皮化したが, バックドラフトでは爆発的な火炎により熱傷が重篤化しやすく非常に危険である. バックドラフトの前兆として, こたつ布団からの濃い煙の噴出や天板が高温になることが考えられる. こたつ火災でもバックドラフトが生じることを認識し, 前兆に留意すべきことを啓発する必要がある.

看護
  • 阿部 晴日, 村中 沙織, 宮越 生美, 牧野 夏子, 髙橋 香菜美, 庭山 香織
    2023 年 49 巻 3 号 p. 155-163
    発行日: 2023/09/15
    公開日: 2023/09/15
    ジャーナル 認証あり

     本研究の目的は, 形成外科における熱傷の看護援助に関する看護師の困難について明らかにすることである. A病院形成外科病棟に勤務し, 熱傷患者の看護援助の経験を1年以上有する看護師9名を対象にフォーカス・グループインタビュー (以下FGI) を行った. FGIの内容は, 形成外科における熱傷患者の看護援助に関する看護師の困難で構成した. FGIの記録から困難に関連した内容を抽出して要約したところ, 熱傷看護における困難は101コードあった. そこから類似性と相違性に基づいて27のサブカテゴリー, 【鎮痛・鎮静管理下で行う熱傷創処置のむずかしさ】【重症熱傷受傷患者の移行ケアに対する不安】【熱傷創を抱えたセルフケア支援のむずかしさ】【ボディイメージの受容過程を援助するむずかしさ】【受傷過程に応じたメンタルヘルスケアのむずかしさ】【患者を取り巻く環境を考慮した退院支援のむずかしさ】【受傷にかかわった家族への介入のむずかしさ】の7カテゴリーが生成された.
     困難を抱いた背景には, 多様な専門的知識を必要とするケアが求められること, 複雑な背景要因 (患者の精神状態, 家族との関係性, など) や患者の個別性を考慮した退院支援介入が求められる, などが考えられた. 困難を解決するためには, 熱傷看護の経験知 (たとえば, 困難事例に対する事例検討, 外来との連携を通して退院後の患者状態を知る機会を設けるなど) を増やすこと, 多職種連携を強化すること, 各領域の専門家やリソースナースを活用すること, などが有用と考えられた.

地方会抄録
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