生態心理学研究
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14 巻, 1 号
生態心理学研究
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
研究論文
  • 井上 拓也
    2022 年 14 巻 1 号 p. 3-30
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル フリー

     本稿では,生態学的に言語を位置付けるために,まず生態学的言語論における各論者による言語の位置付けとそれらの課題点について確認する.次に,生態学的実在論の立場を踏まえ,アフォーダンス知覚における「現勢化」と「知覚化」の二つの段階を区別しつつ,後者の段階でアフォーダンスを知覚可能なものとする「シグニファイア」として言語を定義する.その上で,生態学的な言語観を継承する意味論としての「生態学的意味論」を提案する.最後に,生態学的な観点から,言語によって表現される抽象概念に関する議論や,言語の創造性についての議論も可能になることを示す.

特集1
  • 西尾 千尋, 青山 慶, 山﨑 寛恵
    2022 年 14 巻 1 号 p. 33
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル フリー
  • 西尾 千尋
    2022 年 14 巻 1 号 p. 35-50
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル フリー

     近年,乳児の歩行の発達は,運動学的な観点からだけではなく,言語発達や社会的相互行為との関連に焦点を当てて研究されている.Adolph は,運動発達と行動の変化の関係について,新しい運動スキルを獲得することが,様々な心理的領域にまたがる発達的変化につながるという,発達のカスケードとして捉える見方を示した.本研究では,歩行を中心とした乳児の移動の運動発達研究を行ってきた Adolph の研究を概観し,研究のキーワードである,柔軟性と経験,変動性,日常の環境の観点から検討を行った.それらを踏まえ,移動の発達を生態学的な観点から研究することが,発達研究のこれからの展開にもたらす意義について考察した.

  • 山本 尚樹
    2022 年 14 巻 1 号 p. 51-86
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル フリー

     古典発達研究やThelen のダイナミック・システムズ・アプローチ,生態心理学に基づく国内の観察研究を検討し,発達を身体とその環境を包摂した系における行為の時系列的な変化として捉えるという観点を提示した.この観点を踏まえ,ろくろ挽きにより大型の一点物の作品をつくる木工作家,N の一名を対象に,2 つの作品の制作していくプロセスを縦断的に観察した.特に,ろくろ挽きの主要な道具に着目して分析を行った.結果,N は探索的に作品の形状を決めていくことが示された.また,制作プロセスのなかで,ハメという固定具の入れ替えや加工,鉋の持ち手を変えるなど,工房内での道具の設えの変化が観察された.ハメの入れ替えや加工は1 つの作品を作る間にも何度か生じていたが,ろくろの下の穴の部分に板を渡すなどの設えは2 つの作品制作プロセスを通して持続していた.これらの結果を踏まえて改めて理論的な考察を行い,発達には身体的なものだけではなく道具の設えのなどの環境の変化も含まれうること,作家-道具系として技術の発達を捉えるなどの理論的観点が示された.

  • 宮里 暁美, 山﨑 寛恵
    2022 年 14 巻 1 号 p. 87-94
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル フリー

     お茶の水女子大学附属幼稚園副園長,文京区立お茶の水女子大学こども園園長を歴任し,保育者として長年子どもたちの成長を見続けてきた宮里暁美氏にインタビューを行った.乳幼児の日々のエピソードから,モノやモノ同士の可能性,習慣がつくられる過程や現前するそれへの気づきなど,掘り下げるべき生態学的問題を見出すことができる.インタビューは2021 年4 月,新年度開始直後のこども園で行われ,西尾千尋氏が同席した.

  • 大崎 晴地, 青山 慶
    2022 年 14 巻 1 号 p. 95-108
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル フリー

     心と身体,発達のリハビリテーション,精神病理学の領野にかかわりながら作品制作,研究活動を展開しているアーティストの大崎晴地氏にインタビューを行った.4 層のシートが媒質を包み込むようレイアウトされている氏の作品「エアトンネル」で起きることから,出会いと気配,遮蔽とフィクションなど今後の生態心理学における発達研究への示唆を得た.なお2021 年11 月「エアトンネル」の体験ワークショップ開催後,茨城県取手市のスタジオにてエアトンネルの実体験後に行われた.

特集2
日本生態心理学会第9回大会 予稿
  • 野澤 光, 山﨑 寛恵, 西尾 千尋
    2022 年 14 巻 1 号 p. 145-148
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル フリー

     本シンポジウムは,子どもの生活する住環境で生起するレイアウト変更過程から,環境の機能的に単位を記述する最新の実証研究を紹介するとともに,それらのレイアウト研究に,考古学の記述手法を導入する可能性を議論する.企画者の野澤は,狩猟採集民の住環境のレイアウトからヒトの行動パターンを復元したBinford(1983)の記述手法が,Reed(1996)の基本アフォーダンスという発想を補完するものであることを解説するとともに,その視点が現代の住環境を記述する際にも有効であることを示す.山﨑は,約一年間の保育室内の縦断的な静止画記録から,室内のモノの動き方のパターンを分類し,動的でありつつも同じ場所がそこに存在していることを報告する。西尾は,乳児を養育する家庭における,物の配置替えに焦点を当てる.特に,乳児による物の運搬や遊びの後に行われる,養育者の収集と片付けの場面に尺目し,どのような相互的な活動の流れの中で,片付けが起きるのかを検討する.

  • 伊藤 精英, 丸尾 海月, 沢田 護
    2022 年 14 巻 1 号 p. 149-156
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル フリー

     本研究は可聴域外の空気振動が無自覚的な生体活動に対する影響を明らかにすることを目的と した.予備実験では,可聴域上限以上の空気振動(超音波)を含む自然環境音を聴取している際の人の耳周辺の血流量を解析した.その結果,超音波付加時には血流量の速度に変化が認められ,超音波が生体活動へ影響することが示唆された.そこで,次の実験では,心拍変動解析及び皮膚表面温度解析結果を超音波付加の有無で比較した.その結果,超音波が可聴音に重畳すると,皮膚表面温度が上昇すること,自律神経系の均衡の指標とされる値の変動パターンに特徴的な傾向が現れることが認められた.これらを元に,自然界に存在する空気振動を知覚することが自覚的及び無自覚的な行為調整に果たす役割について議論する.

  • 鈴木 ほのか, 伊藤 精英
    2022 年 14 巻 1 号 p. 157-165
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル フリー

     本研究では,飼育下におけるヨツユビリクガメの段差を降りる行為に着目し,カメの段差を降りる行為がどのように調整されているのかを視覚情報とカメの行為の関係から明らかにすることを目的とし,研究を行なっている.本稿ではこれまでの予備的な実験結果を報告する.実験では実験個体に対し,段差の高さを変化させる実験と段差下の床の光学的肌理のパターンを変化させる実験の二つを行なった.その結果実験個体は,床の光学的肌理のパターンを用いて段差を降りる行為を調整していることが示された.さらに段差の高さが高くなると降りるまでの時間や降り方,降りる場所が変化することから,これらの情報も段差のアフォーダンス知覚の指標として用いることができると考えている.

  • 野澤 光, 沢田 護, 工藤 和俊
    2022 年 14 巻 1 号 p. 167-172
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル フリー

     本稿では,氷上コースを走行する,熟練ドライバーと初級ドライバー2 名の眼球運動と頭部運動を,アイトラッカーにより検証した.2 名の眼球運動を,周波数スペクトラム,平均相互情報量,再帰定量化解析によって評価した結果,熟達者の水平面の眼球運動は,初級者と比較して,より多く低周波数成分を含んでおり,およそ1~1.5 秒周期の自己相関を示す,周期的な運動パターンを示していた.また,カーブ走行時の2 名の頭部運動を検討した結果,熟達者は,およそ3.9~4.2秒周期で頭部を左右に切りかえす運動パターンを示していた.これらの結果は熟達者が,ハンドル操作 - 頭部旋回 - 眼球運動という複数の運動を組みわせることによって,知覚に再帰的な時間構造を埋め込んでいたことを示している.こうした熟達者の知覚の再帰性は,氷上コースでの外乱や不確実性に適応するための,制御方略である可能性がある.本稿の結果は,熟達ドライバーの知覚が,結果として系全体を安定させる,能動的で再帰的な振る舞いの中に埋め込まれて実現していたことを示唆している.

  • 板垣 寧々, 谷貝 祐介, 古山 宣洋
    2022 年 14 巻 1 号 p. 173-181
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,ヴァイオリン奏者が共演者と身体動作を調整する過程と,自己あるいは共演者に対する評価の関連を探索的に検討することである.2 者で同パートを演奏した際のリード関係を, グレンジャー因果性分析を用いて定量化し,奏者による実験時の自己の演奏/相手の演奏に対する満足度,相手の演奏の好ましさ,好きな演奏と相手の演奏の類似度に関する回答結果と関連づけて考察した.その結果,奏者による自己の演奏に対する満足度の評価は奏者によって異なるが,相手の演奏に対する満足度は概ね高く評価することが明らかになった.また,相手の演奏の好ましさは,奏者自身が好きな演奏と類似しているかどうかより,合わせてくれたといった経験によって評価が分かれる可能性が示唆された.さらに,リード関係の構築過程はペア毎に異なるが,自己/他者の演奏に対する評価(特に満足度)に応じて各奏者が調整を行なっていることによる可能性が示唆された.

  • 園田 正世, 工藤 和俊, 野澤 光, 金子 龍太郎
    2022 年 14 巻 1 号 p. 183-187
    発行日: 2022/05/01
    公開日: 2022/06/27
    ジャーナル フリー

     ヒトの乳児は出生後すぐには自ら移動できないため,しばらくは養育者による移動に委ね,身体の発達とともに能動的で探索的な移動に変化していく.抱くことは移動を可能にするだけでなく,授乳やあやし,コミュニケーションの基底的手段である.本研究では,家庭内での抱きの生起と継続の様相を明らかにし,成長発達と日常生活のなかで抱きの意味を検討するために,出産から独立歩行までの発達が著しい生後1年間(各月1回24 時間連続)の2組の抱き時間を計測した.新生児期から計測をスタートし,A 参加者は7 時間29 分, B 参加者6 時間48 分だったが,A 参加者は12 ヶ月後に3 時間56 分まで減少し,B 参加者は7 時間33 分に増加した.抱きは移動やあやしのための行為から,家事と平行するためのおんぶや授乳中心に変化し,子の受動的な移動が減少する様子がみられた.

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