南太平洋島諸国では,今日でも伝統的カヌーが幅広く用いられており,これを沿岸漁業開発に利用しようという動きがある。本研究は伝統的カヌーの近代的漁業への適応性について評価することを目的とする。本論は特に,野外調査とカヌーの構造的特徴について述べる。調査は,1985年,北部パプアニューギニアで行った。合計87隻のカヌーを記録し,その内6ヶ村,8隻のカヌーについて船型測定を行った。これに基づき船体線図,一般配置図を作製し主要目,載荷量等を分析した。調査地域のカヌーは2型式に分類される。つまり,片舷にアウトリガーを持つものと,主船体単独のものである。当地域では前者が一般的で,後者はセピック川流域にのみ見られた。細部構造については地域的変異が非常に大きい。カヌーは,平面形が大きく自重が小さいが,載荷量はわずか200kg程度と小さい。主船体の深さ,乾舷も一般に小さい。伝統的構造の中では特に,アウトリガー,ブーム,主船体の結合部が弱点である。観察された廃棄カヌーは,大半この部分の破損によるものであった。アウトリガーと主船体間の距離の大きさが,斜め波中でさらにこの弱点を悪化させる可能性がある。今回の調査で観察されたカヌーは,載荷量も小さく近代的沿岸漁業には不向きであり,利用は限られたものになろう。船齢は短く,一隻の建造にかかる低コストも大きな利点とは言えないかも知れない。
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