昭和45年9月7日から10月末まで, 約7週間にわたって, 社命により単身西ヨーロッパ各地の主要地図出版社と小売店を訪れ, 一般の地図を様々なアングルから視察する機会をえた.
地図出版社では, スイス, ベルンのKummerly & Freyの編集・製図部門に足かけ2週間通うことを許され, そのあと西ドイツ, シュトゥトガルトのMairs Geographischer VerlagとブラウンシュバイクのBollmann-Bildkarten Verlag, さらにロンドンのGeographiaとエジンバラのJohn Bartholomew & Sonなど各社の編集責任者または社長をたずね, 歓談したり, 施設を見学することができた. また地図部門をもつ一般出版社としてはミラノのFratelli FabbriとミュンヘンのBerg Verlag Rudolf Rotherを訪れた。このほか, 地図専門の取次店であるミュンヘンのZumsteinと, 充実した地図専門小売店としてはウィーンのFreytag-Berndt, ミラノのTouring Club Italiano, それにパリのTaride (以上3社は地図出版部門もある) をかい間見た。またロンドンで訪れたマンモス書店Foylesの地図売場も専門店並みのスケールであった.
以上, 各所で一般地図や道路をテーマにした地図を数えきれぬほど見て回ったが, 今回の旅では, それよりも, もっと多くの民間の地図を一堂で見るチャンスがあった. それは, フランクフルト=アム=マインで毎年秋に開かれる「フランクフルト書籍見本市」の一角, スタンド番号4001から4241までに設けれた「地図」コーナーであった. 西欧の各国を始め, 世界各国の出版社からここへ出品されたものは, 前年一年間に作製された各社自慢の最新地図だけあって, 新しいシリーズものや, 意表をつくような漸新な編集意図の地図などが並び, さすがに見ごたえがあった.
もともと地図についてはしろうとである私が, これら出版社及び専門小売店を探る手がかりとしたものはE. Imhof: Gelande und Karteとフランクフルト書籍見本市1969年版ガイドブックの2書と, 大手洋書取次店の地図専門スタッフのアドバイスによるものであるが, もちろん, 西ヨーロッパ各社発行の地図を見くらべて実際に判断したことはいうまでもない.
余談ながら, 渡欧に先だって, 日本国際地図学会の地図用語専門部会で作製した未刊の「地図用語」集の写しを借りることができた. 日本語から逆にたどった独, 英2か国語の専門用語リストが, 実地におおいに役だったのはもちろんであるが, スクライブの部門と製版の部門で, なお漏れているものがあるように思えた. 本書が刊行されれば, 今後海外へ行く地図関係者にとって, また参考文献を読むうえで, 大きな役割を果たすに違いない. その意味で, 一日も早い刊行が待たれるしだいである.
抄録全体を表示