保健医療科学
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66 巻, 5 号
地域の情報アクセシビリティ向上を目指して―「意思疎通が困難な人々」への支援―
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
特集
  • 「意思疎通が困難な人々」への支援
    橘 とも子
    原稿種別: 巻頭言
    2017 年 66 巻 5 号 p. 471
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/28
    ジャーナル オープンアクセス
  • 橘 とも子
    原稿種別: 論壇
    2017 年 66 巻 5 号 p. 473-483
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/28
    ジャーナル オープンアクセス
    全ての国民が,障害の有無に拘わらず,「相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会において,誰でも必要とする情報に簡単にたどり着け,利用できる」ための情報基盤整備における課題を抽出し,情報アクセシビリティ向上に向けた提言を行うことを目的とした.厚生労働科学研究費補助金(障害者政策総合研究事業(身体・知的等障害分野))「意思疎通が困難な者に対する情報保障の効果的な支援手法に関する研究(研究代表者:橘とも子)」において開催した,シンポジウム「意思疎通支援の架け橋づくり.多様なコミュニケーション障がいへの支援手法を探る.」における発言から,地域の情報アクセシビリティ向上に向けて抽出しえた課題は,「『当事者主体』への意識変革や多様な障害支援方法の,医療従事者・保健福祉介護サービス提供者を含む地域住民への普及啓発の必要性」「当事者目線の調査・情報の必要性」「情報サイト構築等による先駆的取組みの自治体相互における共有促進」「妥当で効率的・効果的な『機器』『人』『ソフト』の一元的支援体制の構築促進」等であった.
     著者らは近年,障害保健福祉政策の推進を見据えて,「障害保健福祉施策を外傷予後の観点で再評価」するための研究に取り組んできた.近年の,地域における障害者の保健・医療・福祉・介護を取り巻く政策動向を鑑みると,地域共生社会における情報アクセシビリティ向上には,「エビデンスに基づく障害保健福祉施策の推進」が不可欠であり,障害者基本法の「情報の利用におけるバリアフリー化」には今後,「主体的健康づくりに必要な情報コンテンツの充実」を加えるべきと思われた.その実現に向け,本稿では,臨床効果情報における障害者データベースの構築を提案した.
  • 村山 太郎
    原稿種別: 解説
    2017 年 66 巻 5 号 p. 484-490
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/28
    ジャーナル オープンアクセス

    意思疎通が困難な者にかかる福祉的支援については,平成25年 4 月に施行された「障害者総合支援法」において,それまでの意思疎通支援に関する課題を解消する観点から,市町村と都道府県の役割分担について整理がなされるとともに,意思疎通支援者の養成が自治体の必須事業とされるなど,意思疎通支援事業の充実強化が図られ,国による福祉的支援の取り組みが進められている.

  • 中島 孝
    原稿種別: 総説
    2017 年 66 巻 5 号 p. 491-496
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/28
    ジャーナル オープンアクセス

    神経・筋疾患には,筋萎縮性側索硬化症,脊髄性筋萎縮症,球脊髄性筋萎縮症,シャルコー・マリー・トゥース病,遠位型ミオパチー,筋ジストロフィー,先天性ミオパチーなどがあり,疾患ごと,個人ごとの症状の差があるものの,四肢の筋萎縮,嚥下や発声構音器官の障害,呼吸筋の萎縮がおきるため,重度のコミュニケーション障害を引き起こす.これらの疾患は治療法がないため,栄養,呼吸管理などの全身症状をコントロールし,身体機能などの適したリハビリプログラムを通して,コミュニケーションと社会・心理サポートを行い患者自身の主観的評価(Patient reported outcome)を高めることが必要である.介助者を伴うコミュニケーション支援では透明文字盤,口文字法などがつかわれており,制度的な支援が必要である.介助者を伴わないコミュニケーション支援としては,さまざまなメカニカルスイッチ,視線入力装置など患者コミュニケーションデバイスがあるが,進行した病態では徐々に使用できなくなるため, 筋萎縮など障害が高度になり,随意的な運動ができなくなっても意思伝達のために使用可能な機器の新規開発が必要である.サイバニクス技術により開発されたサイバニックシステム「HAL」は,サイバニックインタフェース/サイバニックデバイスにより構成されるが,この技術を駆使することで,生体電位信号を高感度で検出し意思伝達を可能とするサイバニックインタフェースとして「CyinTM(サイン)」が実用開発された. 15例のALSなど神経・筋疾患の重症例に対して, 試験機器AI02を使い臨床試験を行い性能と有用性を検証した(JMACCTID: JMA-IIA00280).この装置は障害者総合支援法の補装具費支給制度「重度障害者用意思伝達装置」の生体現象方式として普及が可能である.

  • 水島 洋
    原稿種別: 総説
    2017 年 66 巻 5 号 p. 497-501
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/28
    ジャーナル オープンアクセス

    近年の情報通信技術の急速な進歩により,多くの障碍者にとって生活の質の向上がみられている.意思疎通のできない患者さんは何も考えていない植物状態と思われてきたが,コミュニケーション法を得ることで健常者と変わらないことが分かった場合もある.これらの技術は障碍者のために開発されたものよりは,他の技術の転用の場合が多く,またある障害のための支援機器が他の障害にも使えることもある.そのため,どのような技術が利用可能かの把握が重要となる.国内外における障碍者に利用可能な意思疎通支援技術についてまとめ,課題や展望に関して報告する.

  • 佐藤 洋子
    原稿種別: 総説
    2017 年 66 巻 5 号 p. 502-511
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/28
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:障害者総合支援法の理念となる障害者基本計画では障害者の意思表示やコミュニケーションを支援し情報アクセシビリティを向上することが示されている.コミュニケーションに障害をもつ人が,その人の残存能力に応じて意思を伝える方法をAAC(Augmentative and Alternative Communication;拡大代替コミュニケーション)といい,情報アクセシビリティが整備された環境づくりを進めるために障害種別ごとのAAC手法の体系的な分類が求められている.本稿では学術論文を中心に障害種別ごとに求められる支援手法に関する文献レビューを報告する.

    方法:学術論文の検索は国内医学文献データベース医中誌ウェブ等を用い,AAC関連検索語による検索式を用いて検索した.得られた文献からタイトル・要約・本文内容に基づき適切な文献を選択し,対象障害ごとのAACを抽出した.対象障害は視覚障害,聴覚障害,盲ろう,発達障害(自閉症を含む),知的障害,高次脳機能障害(失語症),ALSなど総合支援法の対象となっている難病,その他とした.

    結果:最終的に98件の文献が得られた.視覚障害( 7 件,7.1%)では視覚機能の補強,聴覚情報および触覚情報への変換という観点から,聴覚障害( 7 件,7.1%)では聴覚機能の補強,視覚情報および触覚情報への変換という観点からAACを分類した.発達障害(10件,10.2%),知的障害( 7 件,7.1%),高次脳機能障害(11件,11.2%)についてはそれぞれにおける意思疎通の困難さの特徴に応じ,視覚情報や聴覚情報への変換,およびそれらの併用という観点で分類した.重度身体障害を引き起こす難病(46件,46.9%)におけるAACでは運動機能の補強という観点,および症状の進行に応じた分類を行った.

    考察:障害種別ごとに必要とされるAAC分類を行ったところ,障害種別を超えたAACの応用の可能性が明らかとなった.本来,AACは障害の名称によって分類されるものではなく,意思疎通が困難な原因やその程度に合わせて提供されることが望ましく,情報アクセシビリティの向上や環境づくりを目指すうえでは,今後はこのような観点からAACアプローチに関する研究が進むことが期待される.

  • 立石 雅子
    原稿種別: 総説
    2017 年 66 巻 5 号 p. 512-522
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/28
    ジャーナル オープンアクセス

    失語症は言語障害の 1 つで,脳血管障害などによって大脳が障害され,聞く,話す,読む,書くという言語様式が障害された状態をいう.症状はさまざまあり,重症度やタイプによって現れる症状は異なる.失語症になると,それまで他者とのコミュニケーションに支障のなかった人が,突然,それができなくなるという状況に陥る.

    これまでに行われたさまざまな調査から,失語症のある人は言語機能に障害を負うだけでなくさまざまな問題に直面することが明らかにされている.失語症の人の復職率は8%と極めて低く,発症前に生計を支えていた年代の場合,復職の問題,生活の問題が生じることになる.また失語症は外から障害の存在がわかりにくいという特徴を持ち,家族以外とのコミュニケーションが難しい場合も多く,それを避けようとして引きこもりなどが生じる場合もある.

    このように失語症のある人が置かれている状況は厳しいものがあるにもかかわらず,これまで失語症に焦点を当てた施策はほとんど行われてこなかった.平成18年に施行された障害者自立支援法は平成25年からは障害者総合支援法となり,障害者への支援・サービスはこれに基づき実施されている.法律施行後 3 年を目途とした見直しの項目として「手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚,言語機能,音声機能その他の障害のための意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援の在り方」がとりあげられた.厚労省は意思疎通支援者養成に関する実態調査を行った.これを受けて,各地で統一して用いることのできる意思疎通支援者養成のカリキュラムを作成した.これに基づき,平成28年度にはテキストを作成し,平成29年度には支援者養成を行う指導者のための研修を開始することになった.平成30年度からの地域生活支援事業の実施主体は都道府県であり,都道府県によって温度差があること,支援者養成を担うことになる都道府県言語聴覚士会と自治体との緊密な連携の構築が必要であること,必要な支援を明確にするためにも当事者である失語症のある人を,地域でのコミュニケーションの場にどのように参加可能とするか,など課題はあるが,意思疎通支援の側面で失語症に焦点があてられたこの機会を逃すことなく意思疎通支援者養成ならびに派遣事業を進めることが重要である.

  • 渡辺 哲也
    原稿種別: 総説
    2017 年 66 巻 5 号 p. 523-531
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/28
    ジャーナル オープンアクセス

    視覚障害者の意思疎通を支援する人的支援サービスである代読・代筆,点訳・音訳サービスに関する調査,及び携帯電話・スマートフォン・タブレット・パソコンを対象としたICT機器の利用状況調査を行った.その結果をもとに,サービスや機器の利用に地域間差が見られるかどうかを調べたところ,人的支援サービスとICT機器の利用の両方において利用率については地域間差は見られなかった.しかしながら人的支援サービスについてはサービス利用上の課題に対する自由意見から,点訳・音訳サービスの依頼先が少ない地域があるという意見も少数ながら得た.ICT機器の利用については,スマートフォン・タブレットの講習会が三大都市圏に集中している点に地域間差が見られた.

  • 当事者研究の視点から
    熊谷 晋一郎
    原稿種別: 総説
    2017 年 66 巻 5 号 p. 532-544
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/28
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:自閉スペクトラム症の概念は純粋なインペアメントではなくディスアビリティを記述しているために,社会的排除の個人化を通じて有病率が大きく影響するだけでなく,医療モデルに基づく社会適応が支援の目標とされる状況が続いている.社会モデルに基づく自閉スペクトラム症者に対する支援を実現するために,本研究では,コミュニケーション障害を個人のインペアメントではなく,情報保障の不十分と読み替え,個々人に固有のインペアメントの探求と,インペアメント理解を踏まえたうえでの情報保障の探求の 2 点を目的とする.

    方法:2008年以降,自閉スペクトラム症の診断を持つ綾屋とともに,本人固有のインペアメントを探究する当事者研究を継続的に行ってきた.研究では,綾屋の主観的経験の中に立ち現れる,通状況的なパターンの抽出と,1回性のエピソードの物語的統合の 2 つに取り組み,後者に関しては2011年以降,綾屋と類似した経験をもつ当事者との研究を継続して行った.また,2012年以降は,当事者研究で提案されたインペアメントに関する仮説を検証する実験も並行して行った.

    結果:情報保障に関連したインペアメントには,音声や文字といった記号表現や,事物の認識におけるパターン化の粒度が,定型発達者よりも細かいという点が重要だとわかった.情報保障の具体例としては,音声の伝達場面ではパソコンや手話の使用,残響の生じない部屋,同時発話のないコミュニケーション様式,短い面談時間と面談での筆記用具の持ち込みなど,文字の伝達においてはコミックサンズというフォントの使用,文字の大きさや行間の調整,光沢のない紙の使用,文字の背景色を薄茶色にするなど,そして全般的に同期的マルチモーダルな情報提示が有効であった.また事物の認識に関しては,音声言語と日本語対応手話の同期的マルチリンガル情報提示や,事後的な「意味づけ介助」が有効だった.

    結論:自閉スペクトラム症と診断される人々のインペアメントは異種混淆的なので,一人一人に合った情報保障の在り方も多様性がある.したがって,本研究の方法を参考にし,個別の対象者と当事者研究を行うことが望ましい.

論文
  • 中山 佳美, 森 満
    2017 年 66 巻 5 号 p. 545-552
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/11/28
    ジャーナル オープンアクセス

    目的:この研究の目的は,断面調査によって,日本の18~23ヶ月児の低年齢小児う蝕(ECC)と関連する要因を調査することである.

    方法:研究対象者は,18~23ヶ月児の2,771人であった.質問調査は,保護者が回答した.調査項目は,性別,出生児体重,家庭内での喫煙者,妊娠中の母親の喫煙,夜間授乳,間食習慣,食具の共用,社会経済状況などであった.う蝕経験歯数(dmft)は,1歳6ヶ月児歯科健康診査から入手した.分析は,ロジスティック回帰分析を用いた.

    結果:一人経験う蝕経験歯数(dmft index)は0.11本で,う蝕有病者率は3.2%であった.夜間授乳の習慣のある児は668人(24.1%)であった.環境たばこ煙(ETS)にさらされている児は1,704人(61.5%)であった.多変量解析の結果,う蝕と関連のあった要因は,家庭内喫煙者の存在,喫煙者人数,夜間授乳,授乳期間が18ヶ月以上,夕食後の甘い飲み物やおやつの飲食,出生時体重が4000g以上であった.

    結論:この研究は,夜間授乳,長期間の授乳,家族からの環境たばこ煙,出生時体重が高体重,間食習慣がう蝕と関連性があることを示している.今回の結果は,東胆振地域の市の歯科保健指導や受動喫煙対策に役立てられるだろう.

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